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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083903
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】電動車のドライブシャフト
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/223 20110101AFI20240617BHJP
【FI】
F16D3/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197984
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 輝明
(72)【発明者】
【氏名】船橋 雅司
(57)【要約】      (修正有)
【課題】車両の制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを提供すること。
【解決手段】駆動力源としての回転機が電動モータおよび発電機として択一的に機能し、駆動力源と駆動車輪との間にドライブシャフトを介在させて動力伝達可能に構成された電動車のドライブシャフトにおいて、ドライブシャフトは、その一端に固定式等速自在継手31が装着され、他端に摺動式等速自在継手が装着されており、固定式等速自在継手31には、ボール34とトラック溝37、39との当接位置におけるトラック溝37、39間にくさび角が形成され、固定式等速自在継手31の作動角が0°の状態で、くさび角が外側継手部材32の開口側に向かって開いているトラック溝37、39の対と、奥側に向かって開いているトラック溝37、39の対とが周方向に交互に形成されていることを特徴とする。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源としての回転機が電動モータおよび発電機として択一的に機能し、前記駆動力源と駆動車輪との間にドライブシャフトを介在させて動力伝達可能に構成された電動車のドライブシャフトにおいて、
前記ドライブシャフトは、その一端に固定式等速自在継手が装着され、駆動車輪にトルク伝達可能に連結され、他端に摺動式等速自在継手が装着されており、
前記固定式等速自在継手は、球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝とこれに対応する前記内側継手部材のトラック溝との間に配置されトルクを伝達する複数のボールと、このボールを収容するポケットを有し、前記外側継手部材の球状内周面と前記内側継手部材の球状外周面にそれぞれ摺接する球状外周面と球状内周面を有する保持器を備え、
前記トラック溝の対と前記ボールとの当接位置におけるトラック溝間にくさび角が形成され、
前記固定式等速自在継手の作動角が0°の状態で、前記くさび角が前記外側継手部材の開口側に向かって開いているトラック溝の対と、奥側に向かって開いているトラック溝の対とが周方向に交互に形成されていることを特徴とする電動車のドライブシャフト。
【請求項2】
前記固定式等速自在継手は交差トラック溝形式であって、前記外側継手部材のトラック溝は、ボール軌道中心線が継手中心(O)を曲率中心とする円弧状部分を有し、前記ボール軌道中心線と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成されており、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線と鏡像対称に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動車のドライブシャフト。
【請求項3】
前記固定式等速自在継手の外側継手部材のトラック溝は、前記奥側に位置する第1のトラック溝部(7a)と、前記開口側に位置する第2のトラック溝部(7b)とからなり、前記第1のトラック溝部(7a)は、継手中心(O)を曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線(Xa)を有し、少なくともボール軌道中心線(Xa)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記第1のトラック溝部(7a)で互いに反対方向に形成されており、前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)を前記平面(M)上に投影したとき、ボール軌道中心線(Xb)が直線状部分を有し、かつこの直線状部分は開口側に行くにつれて前記継手の軸線(N-N)に接近するように傾斜して形成されており、前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の端部(A)が前記継手中心(O)より開口側に位置し、この端部(A)に前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)が接続されたものであって、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線(X)と鏡像対称に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の電動車のドライブシャフト。
【請求項4】
前記固定式等速自在継手は対向トラック溝形式であって、前記外側継手部材は、第1の外側トラック溝と第2の外側トラック溝をそれぞれ複数有し、前記内側継手部材は、第1の内側トラック溝と第2の内側トラック溝をそれぞれ複数有し、
前記第1の外側トラック溝と前記第1の内側トラック溝とが互いにトラック溝の第1の対を形成し、
前記第1の外側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oo1)をもつ円弧状部分を有し、前記第1の内側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oi1)をもつ円弧状部分を有し、前記曲率中心(Oo1)、(Oi1)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされ、
前記第2の外側トラック溝と前記第2の内側トラック溝とが互いにトラック溝の第2の対を形成し、
前記第2の外側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oo2)をもつ円弧状部分を有し、前記第2の内側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oi2)をもつ円弧状部分を有し、前記曲率中心(Oo2)、(Oi2)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされ、
前記曲率中心(Oo1)、(Oo2)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされると共に、前記曲率中心(Oi1)、(Oi2)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされ、
前記トラック溝の第1の対と第2の対は、前記外側継手部材の周方向に交互に配置され、
作動角0°の状態で、前記第1の対を形成する第1の外側トラック溝と前記第1の内側トラック溝との間の前記くさび角が前記開口側に向かって開いており、
作動角0°の状態で、前記第2の対を形成する第2の外側トラック溝と前記第2の内側トラック溝との間のくさび角が前記奥側に向かって開いていることを特徴とする請求項1に記載の電動車のドライブシャフト。
【請求項5】
前記ボールの個数を8個以上としたことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電動車のドライブシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車のドライブシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
電動車の動力伝達装置においても、駆動力源である電動モータと駆動車輪との間にドライブシャフトを介在させて動力伝達可能に構成したものがある。昨今、HV(ハイブリット車)やEV(電気自動車)の普及に伴い、走行時の燃費向上(電費向上)といった省エネに加えて、制動時のエネルギーを回収し、再度、車両の駆動に用いることで、更なる省エネが可能になるシステムが普及し始めている。
【0003】
駆動力源としての回転機は、電動モータおよび発電機として択一的に機能する。制動時に動力は車輪側から発生し、通常の走行時の動力とは逆方向にドライブシャフトを介して発電機に伝達され、発電機を作動させてエネルギーを回収することになる(例えば、特許文献1)。
【0004】
ドライブシャフトには、アウトボード側の一端に固定式等速自在継手が装着され、駆動車輪にトルク伝達可能に連結され、インボード側の他端に摺動式等速自在継手が装着される。固定式等速自在継手は大きな作動角を取れるが軸方向に変位しない。一方、摺動式等速自在継手は最大作動角が比較的小さいが、作動角を取りつつ軸方向変位が可能である。
【0005】
固定式等速自在継手および摺動式等速自在継手は、いずれも、外側継手部材、内側継手部材および両部材間に介在するトルク伝達要素などを主な構成とする。固定式等速自在継手としては、例えば、オフセットトラックを備えたツェッパ型等速自在継手が知られており、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型等速自在継手やトリポード型等速自在継手が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-72603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電動車のドライブシャフトにおいては、通常走行時と制動時では、ドライブシャフトの回転方向は同じであるが、動力伝達経路、具体的には、継手の構成部材である外側継手部材、トルク伝達要素(ボール、ローラ)、内側継手部材との間の動力伝達経路が次のように異なる。
〔通常走行時〕
インボード側の摺動式等速自在継手の外側継手部材⇒トルク伝達要素⇒内側継手部材⇒シャフト⇒アウトボード側の固定式等速自在継手の内側継手部材⇒トルク伝達要素⇒外側継手部材から車輪へと動力が伝達される。
〔制動時〕
車輪からアウトボード側の固定式等速自在継手の外側継手部材⇒トルク伝達要素⇒内側継手部材⇒シャフト⇒インボード側の摺動式等速自在継手の内側継手部材⇒トルク伝達要素⇒外側継手部材へと動力が伝達される。
【0008】
特に、車輪側に取り付けられるアウトボード側の固定式等速自在継手は、車両の操舵に合わせて大きな作動角を取るため、エネルギー損失が大きくなる。特許文献1に示す電気自動車(EV)や、ハイブリット車(HV)では、制動時のエネルギーを積極的に回収するため、車両の全走行に対する制動時(回生時)の割合が高くなるため、従来着目していなかった車両の制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニット(発電機)に伝達することが可能な電動車のドライブシャフトを提供することに着目した。
【0009】
そこで、アウトボード側の固定式等速自在継手の通常走行時と制動時の挙動の検討に着手した。通常走行時と制動時の両走行において、具体的にアウトボード側に適用されるツェッパ型等速自在継手の動きに注目すると、通常走行時と制動時では、共に回転方向は変わらないが、動力伝達経路、具体的には、継手の構成部材である外側継手部材、トルク伝達要素(ボール)、内側継手部材との間の動力伝達経路が異なるため、等速自在継手内部の挙動に違いが発生する。1回転中に外側継手部材のトラック溝と内側継手部材のトラック溝からボールに作用するくさび作用が、通常走行時のアウトボード側では内側継手部材から駆動する(以下、内輪駆動ともいう)のに対して、制動時のアウトボード側では外側継手部材から駆動することになり(以下、外輪駆動ともいう)、外側継手部材、内側継手部材のトラック溝の接触方向が逆となるため、正反対の特性となることが判明した。
【0010】
ツェッパ型等速自在継手では、基本的に常用角度域であれば、ボールは継手の開口側方向に保持器を押しているが、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向の違いによりボールの動きとくさび角の状態が変動するため、継手の内部力により保持器の姿勢が変わり、保持器の位置が不安定になる。その結果、制動時の動力損失が通常走行時の動力損失より大きくなり、回生エネルギーの回収効率が悪くなるという問題を見出した。アウトボード側の固定式等速自在継手の通常走行時と制動時の挙動の詳細については後述する。
【0011】
上記のような問題に鑑み、本発明は、車両の制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々検討した結果、電動車のドライブシャフトとして、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向が変わっても、周方向に隣り合うボールで方向が異なるくさび作用が発生し、かつ保持器に作用するくさびによる力が相殺されて、保持器の位置が安定する継手の適用を試みるという着想に至った。この着想を基に、駆動方向が変わっても、内部力の変化が小さく回生エネルギーの回収効率が高いアウトボード側の固定式等速自在継手の挙動を検証したことにより、本発明に至った。
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、駆動力源としての回転機が電動モータおよび発電機として択一的に機能し、前記駆動力源と駆動車輪との間にドライブシャフトを介在させて動力伝達可能に構成された電動車のドライブシャフトにおいて、前記ドライブシャフトは、その一端に固定式等速自在継手が装着され、駆動車輪にトルク伝達可能に連結され、他端に摺動式等速自在継手が装着されており、前記固定式等速自在継手は、球状内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する外側継手部材と、球状外周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝とこれに対応する前記内側継手部材のトラック溝との間に配置されトルクを伝達する複数のボールと、このボールを収容するポケットを有し、前記外側継手部材の球状内周面と前記内側継手部材の球状外周面にそれぞれ摺接する球状外周面と球状内周面を有する保持器を備え、前記トラック溝の対と前記ボールとの当接位置におけるトラック溝間にくさび角が形成され、前記固定式等速自在継手の作動角が0°の状態で、前記くさび角が前記外側継手部材の開口側に向かって開いているトラック溝の対と、奥側に向かって開いているトラック溝の対とが周方向に交互に形成されていることを特徴とする。上記構成により、車両の制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを実現することができる。
【0014】
具体的には、上記の固定式等速自在継手は交差トラック溝形式であって、前記外側継手部材のトラック溝は、ボール軌道中心線が継手中心(O)を曲率中心とする円弧状部分を有し、前記ボール軌道中心線と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記トラック溝で互いに反対方向に形成されており、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線と鏡像対称に形成されていることを特徴とする。これにより、車両の通常走行時の高効率化と共に、制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを実現することができる。
【0015】
上記の固定式等速自在継手の外側継手部材のトラック溝は、前記奥側に位置する第1のトラック溝部(7a)と、前記開口側に位置する第2のトラック溝部(7b)とからなり、前記第1のトラック溝部(7a)は、継手中心(O)を曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線(Xa)を有し、少なくともボール軌道中心線(Xa)と継手中心(O)を含む平面(M)が継手の軸線(N-N)に対して傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合う前記第1のトラック溝部(7a)で互いに反対方向に形成されており、前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)を前記平面(M)上に投影したとき、ボール軌道中心線(Xb)が直線状部分を有し、かつこの直線状部分は開口側に行くにつれて前記継手の軸線(N-N)に接近するように傾斜して形成されており、前記第1のトラック溝部(7a)のボール軌道中心線(Xa)の端部(A)が前記継手中心(O)より開口側に位置し、この端部(A)に前記第2のトラック溝部(7b)のボール軌道中心線(Xb)が接続されたものであって、前記内側継手部材のトラック溝のボール軌道中心線(Y)は、作動角0°の状態で継手中心(O)を含み継手の軸線(N-N)に直交する平面(P)を基準として、前記外側継手部材の対となるトラック溝のボール軌道中心線(X)と鏡像対称に形成されていることを特徴とする。これにより、車両の通常走行時の高効率化、高作動角化と共に、制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを実現することができる。
【0016】
上記の固定式等速自在継手は対向トラック溝形式であって、前記外側継手部材は、第1の外側トラック溝と第2の外側トラック溝をそれぞれ複数有し、前記内側継手部材は、第1の内側トラック溝と第2の内側トラック溝をそれぞれ複数有し、前記第1の外側トラック溝と前記第1の内側トラック溝とが互いにトラック溝の第1の対を形成し、前記第1の外側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oo1)をもつ円弧状部分を有し、前記第1の内側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oi1)をもつ円弧状部分を有し、前記曲率中心(Oo1)、(Oi1)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされ、前記第2の外側トラック溝と前記第2の内側トラック溝とが互いにトラック溝の第2の対を形成し、前記第2の外側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oo2)をもつ円弧状部分を有し、前記第2の内側トラック溝は、ボール軌道中心線が曲率中心(Oi2)をもつ円弧状部分を有し、前記曲率中心(Oo2)、(Oi2)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされ、前記曲率中心(Oo1)、(Oo2)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされると共に、前記曲率中心(Oi1)、(Oi2)は継手中心(O)に対して軸方向反対側に等量オフセットされ、前記トラック溝の第1の対と第2の対は、前記外側継手部材の周方向に交互に配置され、作動角0°の状態で、前記第1の対を形成する第1の外側トラック溝と前記第1の内側トラック溝との間の前記くさび角が前記開口側に向かって開いており、作動角0°の状態で、前記第2の対を形成する第2の外側トラック溝と前記第2の内側トラック溝との間のくさび角が前記奥側に向かって開いていることを特徴とする。これにより、車両の通常走行時の高効率化、高作動角化と共に、制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを実現することができる。
【0017】
上記のボールの個数を8個以上としたことにより、軽量コンパクトで、車両の制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、制動時のエネルギーをできる限りロスなく、回生エネルギーユニットに伝達可能な電動車のドライブシャフトを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の第1の実施形態に係る電動車のドライブシャフトを適用した電気自動車の概要平面図である。
図2】この発明の第1の実施形態に係る電動車のドライブシャフトの部分縦断面図である。
図3】本実施形態のドライブシャフトの一端に装着された固定式等速自在継手を示し、(A)図は、固定式等速自在継手の部分縦断面図で、(B)図は、(A)図の固定式等速自在継手の右側面図である。
図4図3の固定式等速自在継手の外側継手部材を示し、(A)図は外側継手部材の部分縦断面図で、(B)図は外側継手部材の右側面図である。
図5図3の固定式等速自在継手の内側継手部材を示し、(B)図は内側継手部材の外周面を示す図で、(A)図は、内側継手部材の左側面図で、(C)図は内側継手部材の右側面図である。
図6】上記の外側継手部材のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図である。
図7】上記の内側継手部材のトラック溝の詳細を示す縦断面図である。
図8】継手が最大作動角を取った状態を示す概要図である。
図9図3の固定式等速自在継手が常用角を取ったときのくさび角の状態を示すグラフである。
図10】本発明の第2の実施形態に係る電動車のドライブシャフトの部分縦断面図である。
図11】本実施形態のドライブシャフトの一端に装着された固定式等速自在継手を示し、(A)図は、固定式等速自在継手の部分縦断面図で、(B)図は、(A)図の固定式等速自在継手の右側面図である。
図12図11の固定式等速自在継手を示し、(A)図は、第1の対のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図で、(B)図は、第2の対のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図である。
図13】検討対象の固定式等速自在継手が一端に装着されたドライブシャフトの部分縦断面図である。
図14】(A)図は、検討対象の固定式等速自在継手の部分縦断面図で、(B)図は、(A)図のC-C線における横断面図である。
図15図14の検討対象の固定式等速自在継手が常用角を取ったときのくさび角の状態を示すグラフである。
図16図15の作動角を取ったときに、ボールが外側継手部材のトラック溝と内側継手部材トラック溝とに挟まれた状態を示す図で、内輪駆動の場合である。
図17図15の作動角を取ったときに、ボールが外側継手部材のトラック溝と内側継手部材トラック溝とに挟まれた状態を示す図で、外輪駆動の場合である。
図18図16図17のくさび角の状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態に係る電動車のドライブシャフトを適用した電気自動車の概要を図1に基づいて説明する。図1は電気自動車の概略平面図である。電気自動車100は、駆動力源として単一の回転機102を備え、バッテリー103からインバータ等のパワーコントロールユニット(PCU)104を経て所定の電力が回転機102に供給されるようになっている。回転機102は、電動モータおよび発電機として機能するもので、所謂モータジェネレータであり、走行時に回生制御されて発電機として機能することにより回生ブレーキ力を発生する。
【0021】
電気駆動ユニット101は、駆動力源として用いられる回転機102とトランスアクスル105とを備えている。電気駆動ユニット101は、車両前側部分に配置されて左右の前輪106fを回転駆動して走行する前輪駆動車両である。なお、電気駆動ユニット101を、電気自動車100の後側部分に配置して、左右の後輪106rを回転駆動して走行する後輪駆動車両を構成することもできる。
【0022】
ここで、本明細書および特許請求の範囲における電動車について定義する。電動車とは、電気エネルギーを車の動力の全て又は一部として使って走行する全ての自動車を指す。具体的には、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV、PHV)、ハイブリッド車(HEV、HV)、燃料電池車(FCEV、FCV)を含む概念のものである。
【0023】
トランクアクスル105は、デファレンシャル装置107と、回転機102の出力軸(図示省略)とデファレンシャル装置107との間で動力伝達する減速機構108とを備えている。デファレンシャル装置107は、左右一対のドライブシャフト109を介して駆動車輪である左右の前輪106fに動力伝達する。ドライブシャフト109が本実施形態の電動車のドライブシャフトである。詳細は後述する。
【0024】
電気自動車100の前輪106fおよび後輪106rには、常用ブレーキとして用いられるホイールブレーキ111が取り付けられている。ホイールブレーキ111は、油圧によって摩擦係合させられる油圧ブレーキで、走行時にホイールブレーキ制御回路110から供給されるブレーキ油圧に応じた制動力を発生する。ホイールブレーキ制御回路110は、ブレーキ制御装置112から供給される指令信号に従って油圧制御弁等が制御されることにより、ブレーキ要求量に応じた所定の制動力を発生するブレーキ油圧をホイールブレーキ111に供給する。ブレーキ要求量は、例えば、運転者によって足踏み操作される図示しないブレーキペダルの足踏み操作力である。なお、ホイールブレーキ111は、電動ブレーキで構成することもできる。
【0025】
本実施形態に係る電動車のドライブシャフトを部分縦断面図である図2に基づいて説明する。ドライブシャフト109は、中間シャフト115のアウトボード側の一端に固定式等速自在継手1が装着され、インボード側の他端に摺動式等速自在継手15が装着されている。アウトボード側の固定式等速自在継手1は、前輪106fの車輪用軸受のハブ輪(図示省略)に動力伝達可能に連結され、インボード側の摺動式等速自在継手15はデファレンシャル装置107に動力伝達可能に連結されている。固定式等速自在継手1の外周面と中間シャフト115の外周面との間、および摺動式トリポード型等速自在継手15の外周面と中間シャフト115の外周面との間に、それぞれ蛇腹状ブーツ16a、16bがブーツバンド18a、18b、18c、18dにより締付け固定されている。継手内部には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。蛇腹状ブーツ16a、16bにより、継手内部のグリースの漏洩や外部からの異物の侵入が防止される。
【0026】
本実施形態の電動車のドライブシャフトの特徴的な構成である固定式等速自在継手1を説明する前に摺動式等速自在継手15の概要を図2に基づいて説明する。摺動式等速自在継手15は、外側継手部材22、内側継手部材としてのトリポード部材23と、トルク伝達要素としてのローラ24とを備える、所謂、トリポード型等速自在継手である。外側継手部材22は、一端が開口したカップ部22aを有し、内周面に軸方向に延びる3つの直線状トラック溝25が周方向等間隔に形成され、各トラック溝25の両側には、円周方向に対向して配置され、それぞれ軸方向に延びる部分円筒状のローラ案内面26が形成されている。外側継手部材22の内部には、トリポード部材23とローラ24が収容されている。
【0027】
トリポード部材23は、半径方向に突出した3本の脚軸27を有する。ローラ24は、脚軸27の円筒形外周面27aに複数の針状ころ28を介して外篏され、脚軸27に回転自在に支持されている。脚軸27の円筒形外周面27aは針状ころ28の内側軌道面を構成し、ローラ24の円筒形内周面24aは針状ころ28の外側軌道面を構成している。ローラ24は球状外周面24bを有し、部分円筒状のローラ案内面26上を転動する。トリポード部材23の軸心には、中間シャフト115が挿入されるスプライン穴が設けられている。外側継手部材22はステム部22bを一体に有し、ステム部22bのインボード側端部の外周には、デファレンシャルギヤのスプライン穴に挿入されるスプライン22eが設けられている。
【0028】
本実施形態では、摺動式等速自在継手15として、トリポード型等速自在継手を例示したが、これに限られず、外側継手部材と、内側継手部材と、外側継手部材と内側継手部材の軸方向に延びる複数の直線状トラック溝の間でトルクを伝達する複数のボールと、ボールを保持する保持器とを備えたダブルオフセット型等速自在継手を適用することもできる。また、トラック溝が交差したクロスグルーブ型等速自在継手も適用することができる。
【0029】
次に、本実施形態の電動車のドライブシャフトの特徴的な構成である固定式等速自在継手1について説明する。固定式等速自在継手1は、要約すると、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向が変わっても、周方向に隣り合うボールで方向が異なるくさび作用が発生し、かつ保持器に作用するくさびによる力が相殺されて、保持器の位置が安定する。このため、駆動方向が変わっても、内部力の変化が小さく回生エネルギーの回収効率が高い挙動を有する。
【0030】
固定式等速自在継手1を図3図9に基づいて具体的に説明する。図3は本実施形態の電動車のドライブシャフトの一端に装着された固定式等速自在継手を示し、図3(A)は、固定式等速自在継手の部分縦断面図で、図3(B)は、図3(A)の固定式等速自在継手の右側面図である。図4は、図3の固定式等速自在継手の外側継手部材を示し、図4(A)は外側継手部材の部分縦断面図で、図4(B)は外側継手部材の右側面図である。図5は、図3の固定式等速自在継手の内側継手部材を示し、図5(B)は内側継手部材の外周面を示す図で、図5(A)は内側継手部材の左側面図で、図5(C)は内側継手部材の右側面図である。図6は上記の外側継手部材のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図である。図7は上記の内側継手部材のトラック溝の詳細を示す縦断面図である。図8は継手が最大作動角を取った状態を示す概要図である。図9は、図3の固定式等速自在継手が常用角を取ったときのくさび角の状態を示すグラフである。
【0031】
固定式等速自在継手1は、外側継手部材2、内側継手部材3、ボール4および保持器5を主な構成とする。図3(B)、図4および図5に示すように、外側継手部材2および内側継手部材3のそれぞれ8本のトラック溝7、9は、継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜すると共にその傾斜方向が周方向に隣り合うトラック溝7A、7Bおよび9A、9Bで互いに反対方向に形成されている。そして、外側継手部材2および内側継手部材3の対となるトラック溝7A、9Aおよび7B、9Bの各交差部に8個のボール4が配置されている。トラック溝7、9の詳細は後述する。
【0032】
継手の縦断面を図3(A)に示す。軸方向に延びるトラック溝の傾斜状態や湾曲状態などの形態、形状を的確に示すために、本明細書では、ボール軌道中心線という用語を用いて説明する。ここで、ボール軌道中心線とは、トラック溝に配置されたボールがトラック溝に沿って移動するときのボールの中心が描く軌跡を意味する。したがって、トラック溝の傾斜状態は、ボール軌道中心線の傾斜状態と同じであり、また、トラック溝の円弧状、あるいは直線状の状態は、ボール軌道中心線の円弧状、あるいは直線状の状態と同じである。
【0033】
図3(A)に示すように、外側継手部材2のトラック溝7はボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなり、第1のトラック溝部7aのボール軌道中心線Xaに第2のトラック溝部7bのボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。なお、外側継手部材2のトラック溝7は、継手中心Oを曲率中心とするボール軌道中心線Xaからなる円弧状部分のみとしてもよい。一方、内側継手部材3のトラック溝9はボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなり、第1のトラック溝部9aのボール軌道中心線Yaに第2のトラック溝部9bのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。なお、内側継手部材3のトラック溝9は、継手中心Oを曲率中心とするボール軌道中心線Yaからなる円弧状部分のみとしてもよい。
【0034】
第1のトラック溝部7a、9aのボール軌道中心線Xa、Yaの各曲率中心を、継手の軸線N-N上の継手中心Oに配置したことにより、トラック溝深さを均一にすることができ、かつ加工を容易にすることができる。トラック溝7、9の横断面形状は、楕円形状やゴシックアーチ形状に形成されており、トラック溝7、9とボール4は、接触角(30°~45°程度)をもって接触する、所謂、アンギュラコンタクトとなっている。したがって、ボール4は、トラック溝7、9の溝底より少し離れたトラック溝7、9の側面側で接触している。
【0035】
図4に基づき、外側継手部材2のトラック溝7が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。外側継手部材2のトラック溝7は、その傾斜方向の違いから、トラック溝7A、7Bの符号を付す。図4(A)に示すように、トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mは、継手の軸線N-Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝7Aに周方向に隣り合うトラック溝7Bは、図示は省略するが、トラック溝7Bのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝7Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。トラック溝7A、7B(および後述する9A、9B)は角度γだけ傾斜しているが、概ね軸方向に延びている。本明細書および特許請求の範囲における軸方向に延びるトラック溝とは、上記のように角度γ傾斜したものも含む概念である。
【0036】
ここで、トラック溝の符号について補足する。外側継手部材2のトラック溝全体を指す場合は符号7を付し、その第1のトラック溝部に符号7a、第2のトラック溝部に符号7bを付す。さらに、傾斜方向の違うトラック溝を区別する場合には符号7A、7Bを付し、それぞれの第1のトラック溝部に符号7Aa、7Ba、第2のトラック溝部に符号7Ab、7Bbを付す。後述する内側継手部材3のトラック溝についても、同様の要領で符号を付している。
【0037】
次に、図5に基づき、内側継手部材3のトラック溝9が継手の軸線N-Nに対して周方向に傾斜している状態を詳細に説明する。内側継手部材3のトラック溝9は、その傾斜方向の違いから、トラック溝9A、9Bの符号を付す。図5(B)に示すように、トラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qは、継手の軸線N-Nに対して角度γだけ傾斜している。そして、トラック溝9Aに周方向に隣り合うトラック溝9Bは、図示は省略するが、トラック溝9Bのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qが、継手の軸線N-Nに対して、トラック溝9Aの傾斜方向とは反対方向に角度γだけ傾斜している。傾斜角γは、等速自在継手1の作動性および内側継手部材3のトラック溝の最も接近した側の球面幅Fを考慮し、4°~12°にすることが好ましい。内側継手部材3のトラック溝9のボール軌道中心線Yは、作動角0°の状態で継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pを基準として、外側継手部材2の対となるトラック溝7のボール軌道中心線Xと鏡像対称に形成されている。
【0038】
図6に基づいて、外側継手部材2の縦断面より見たトラック溝の詳細を説明する。図6の部分縦断面は、前述した図4(A)のトラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面Mで見た断面図である。したがって、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。図6には、外側継手部材2のトラック溝7Aが示されているが、トラック溝7Bは、傾斜方向がトラック溝7Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝7Aと同じであるので、説明は省略する。
【0039】
外側継手部材2の球状内周面6にはトラック溝7Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝7Aはボール軌道中心線Xを有し、トラック溝7Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7Aaと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abとからなる。そして、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて、第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Aが第1のトラック溝部7Aaと第2のトラック溝7Abとの接続点である。端部Aは継手中心Oよりも開口側に位置するので、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの開口側の端部Aにおいて接線として接続される第2のトラック溝部7Abの直線状のボール軌道中心線Xbは、開口側に行くにつれて継手の軸線N-N〔図3(A)参照〕に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0040】
図6に示すように、端部Aと継手中心Oとを結ぶ直線をLとする。トラック溝7Aのボール軌道中心線Xと継手中心Oを含む平面M〔図4(A)参照〕上に投影された継手の軸線N'-N'は継手の軸線N-Nに対しγだけ傾斜し、軸線N'-N'の継手中心Oにおける垂線Kと直線Lとがなす角度をβ'とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面P上にある。したがって、直線Lが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ'×cosγの関係になる。
【0041】
同様に、図7に基づいて、内側継手部材3の縦断面よりトラック溝の詳細を説明する。図7の縦断面は、前述した図5(B)のトラック溝9Aのボール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Qで見た断面図である。したがって、図6と同様に、厳密には、継手の軸線N-Nを含む平面における縦断面図ではなく、角度γだけ傾斜した断面を示している。図7には、内側継手部材3のトラック溝9Aが示されているが、トラック溝9Bは、傾斜方向がトラック溝9Aとは反対方向であるだけで、その他の構成はトラック溝9Aと同じであるので、説明は省略する。
【0042】
内側継手部材3の球状外周面8にはトラック溝9Aが軸方向に沿って形成されている。トラック溝9Aはボール軌道中心線Yを有し、トラック溝9Aは、継手中心Oを曲率中心(軸方向のオフセットがない)とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9Aaと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9Abとからなる。そして、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて、第2のトラック溝部9Abのボール軌道中心線Ybが接線として滑らかに接続されている。すなわち、端部Bが第1のトラック溝部9Aaと第2のトラック溝9Abとの接続点である。端部Bは継手中心Oよりも奥側に位置するので、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの奥側の端部Bにおいて接線として接続される第2のトラック溝部9Abの直線状のボール軌道中心線Ybは、奥側に行くにつれて継手の軸線N-N〔図3(A)参照〕に接近するように形成されている。これにより、最大作動角時の有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。
【0043】
図7に示すように、端部Bと継手中心Oとを結ぶ直線をRとする。トラック溝9Aのボ
ール軌道中心線Yと継手中心Oを含む平面Q〔図5(B)参照)上に投影された継手の軸
線N'-N'は継手の軸線N-Nに対しγだけ傾斜し、軸線N'-N'の継手中心Oにおける垂線Kと直線Rとがなす角度をβ'とする。上記の垂線Kは作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面P上にある。したがって、直線Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βは、sinβ=sinβ'×cosγの関係になる。
【0044】
次に、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βについて説明する。作動角θを取ったとき、外側継手部材2および内側継手部材3の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対して、ボール4がθ/2だけ移動する。使用頻度が多い作動角の1/2より角度βを決め、使用頻度が多い作動角の範囲においてボール4が接触するトラック溝の範囲を決める。ここで、使用頻度が多い作動角について定義する。まず、継手の常用角とは、水平で平坦な路面上で1名乗車時の自動車において、ステアリングを直進状態にした時にフロント用ドライブシャフトの固定式等速自在継手に生じる作動角をいう。常用角は、通常、2°~15°の間で車種ごとの設計条件に応じて選択・決定される。
【0045】
そして、使用頻度の多い作動角とは、上記の自動車が、例えば、交差点の右折・左折時などに生じる高作動角ではなく、連続走行する曲線道路などで固定式等速自在継手に生じる作動角をいい、これも車種ごとの設計条件に応じて決定される。使用頻度の多い作動角は最大20°を目処とする。これにより、直線L、Rが作動角0°の状態の継手中心Oを含み継手の軸線N-Nに直交する平面Pに対してなす角度βを3°~10°と設定する。ただし、角度βは3°~10°に限定されるものではなく、車種の設計条件に応じて適宜設定することができる。角度βを3°~10°に設定することで種々の車種に汎用することができる。
【0046】
上記の角度βにより、図6において、第1のトラック溝部7Aaのボール軌道中心線Xaの端部Aは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も開口側に移動したときのボールの中心位置となる。同様に、内側継手部材3では、図7において、第1のトラック溝部9Aaのボール軌道中心線Yaの端部Bは、使用頻度が多い作動角時に軸方向に沿って最も奥側に移動したときのボールの中心位置となる。このように設定されているので、使用頻度が多い作動角の範囲では、ボール4は、外側継手部材2および内側継手部材3の第1のトラック溝部7Aa、9Aaと、傾斜方向が反対の7Ba、9Ba(図4図5参照)に位置するので、保持器5の周方向に隣り合うポケット部5aにボール4から相反する方向の力が作用し、保持器5は継手中心Oの位置で安定する〔図3(A)参照〕。このため、保持器5の球状外周面12と外側継手部材2の球状内周面6との接触力、および保持器5の球状内周面13と内側継手部材3の球状外周面8との接触力が抑制され、高負荷時や高速回転時に継手が円滑に作動し、トルク損失や発熱が抑えられ、耐久性が向上する。
【0047】
固定式等速自在継手1の全体的な説明は以上のとおりである。固定式等速自在継手1は、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向が変わっても、周方向に隣り合うボールで方向が異なるくさび作用が発生し、かつ保持器に作用するくさびによる力が相殺されて、保持器の位置が安定する。このため、駆動方向が変わっても、内部力の変化が小さく回生エネルギーの回収効率が高い挙動を有する。この挙動の詳細を補足するために、本発明の開発過程の知見を図13図18に基づいて説明する。図13は、ツェッパ型固定式等速自在継手が一端に装着された検討対象のドライブシャフトの部分縦断面図である。図14(A)は、ツェッパ型固定式等速自在継手の部分縦断面図で、図14(B)は、図14(A)のC-C線における横断面図である。図15(A)は作動角を取ったツェッパ型固定式等速自在継手の縦断面図で、図15(B)は、図15(A)のツェッパ型固定式等速自在継手の右側面図である。図16は、図15の作動角を取ったときに、ボール64が外側継手部材62のトラック溝67と内側継手部材63のトラック溝69とに挟まれた状態(交差状態)を示す図で、内輪駆動の場合である。図17は、図15の作動角を取ったときに、ボール64が外側継手部材62のトラック溝67と内側継手部材63のトラック溝69とに挟まれた状態(交差状態)を示す図で、外輪駆動の場合である。図18は、図16図17のくさび角の状態を示したグラフである。
【0048】
図13に示すように、検討対象のドライブシャフトは、アウトボード側の一端にツェッパ型固定式等速自在継手61が装着され、インボード側の他端には、本実施形態と同様、摺動式等速自在継手15としてトリポード型等速自在継手が装着されている。摺動式等速自在継手15については本実施形態と同じであるので、同一の部位に同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
図13図14に示すように、ドライブシャフト169のアウトボード側の一端に装着されたツェッパ型固定式等速自在継手61は、外側継手部材62、内側継手部材63、ボール64および保持器65を主な構成とする。外側継手部材62の球状内周面66には軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝67が形成され、軸方向に離間する開口側と奥側を有する。内側継手部材63の球状外周面68には軸方向に延びる8本の円弧状のトラック溝69が形成されている。外側継手部材62のトラック溝67とこれに対応する内側継手部材63のトラック溝69との間にトルクを伝達する8個のボール64が1個ずつ組み込まれている。保持器65は、このボール64を収容するポケット65aを有し、外側継手部材62の球状内周面66と内側継手部材63の球状外周面68にそれぞれ摺接する球状外周面72と球状内周面73を有する。
【0050】
外側継手部材62の球状内周面66と内側継手部材63の球状外周面68の曲率中心は、いずれも、継手の中心Oに形成されている。これに対して、外側継手部材62のトラック溝67の曲率中心Ooと、内側継手部材63のトラック溝69の曲率中心Oiは、継手の中心Oに対して軸方向反対側に等距離f1オフセットされている。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材62と内側継手部材63の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール64が常に案内され、二軸間で等速に回転トルクが伝達される。
【0051】
前述したように、通常走行時と制動時では、ドライブシャフトの回転方向は同じであるが、動力伝達経路、具体的には、図13に示す継手の構成部材である外側継手部材22、62、トルク伝達要素(ローラ24、ボール64)、内側継手部材23、63との間の動力伝達経路が次のように異なる。
〔通常走行時〕
デファレンシャル装置107(図1参照)に連結されたインボード側の摺動式等速自在継手15の外側継手部材22⇒トルク伝達要素(ローラ24)⇒内側継手部材23⇒シャフト175⇒アウトボード側の固定式等速自在継手61の内側継手部材63⇒トルク伝達要素(ボール64)⇒外側継手部材62から車輪106f(図1参照)へと動力が伝達される。
〔制動時〕
車輪106fからアウトボード側の固定式等速自在継手61の外側継手部材62⇒トルク伝達要素(ボール64)⇒内側継手部材63⇒シャフト175⇒インボード側の摺動式等速自在継手15の内側継手部材23⇒トルク伝達要素(ローラ24)⇒外側継手部材22からデファレンシャル装置107へと動力が伝達される。
【0052】
検討対象のツェッパ型固定式等速自在継手61が常用角を取ったときのトラック溝67、69のくさび角の状態を図15図18に基づいて説明する。図18は、縦軸がくさび角を示し、横軸がトラック溝(ボール)の位相を示す。図中、実線が内輪駆動の場合を示し、破線が外輪駆動の場合を示す。図14(B)に位相に対応してボール64に符号を付している。位相0°のボールに64(0°)の符号を付し、位相45°のボールに64(45°)を示し、順次、64(90°)~64(315°)の符号を付している。同様に、図15(B)にもボールに64(0°)~64(315°)の符号を付している。図15(A)に示すように、ツェッパ型固定式等速自在継手61が作動角を取ると、図16図17に示すように、ボール64が外側継手部材62のトラック溝67と内側継手部材63のトラック溝69とに挟まれる状態(交差状態)が回転位相で異なるため、くさび角が変動する。
【0053】
図16図17では、ボール64(0°)~ボール64(315°)の各ボール64、ポケット65a、トラック溝67、69を位相に対応させて展開して図示している。ポケット65aおよび内側継手部材63のトラック溝69は実線で図示し、外側継手部材62のトラック溝67は破線で図示している。内側継手部材63のトラック溝69のトルク負荷面を太線実線で示している。外側継手部材62の径方向外側の矢印は回転方向を示し、内側継手部材63の径方向内側の矢印はトルク方向を示す。展開図の矢印Dαはくさび角の開く向きを示す。図16は内輪駆動の場合を示し、図17は外輪駆動の場合を示す。
【0054】
基本的に常用角度域であれば、図15(A)に示すように、ツェッパ型固定式等速自在継手61のボール64は、外側継手部材62のトラック溝67と内側継手部材63のトラック溝69に挟まれたくさび角αによって、外側継手部材62の開口側に向かって保持器65を押しているが、図16の内輪駆動又は図17の外輪駆動の駆動方向により交差状態が回転位相で異なるため、くさび角が変動することで、図18に示す状態となる。なお、図15(A)では、くさび角αを便宜上、トラック溝67、69の溝底で挟まれた状態で図示している。内輪駆動と外輪駆動の違いは、回転方向は同じで入力トルクの方向が異なるところである。そのため、外側継手部材62および内側継手部材63のトラック溝67、69とボール64が接触する位置(図16図17のトラック負荷面)が入れ替わる。図18に示すように、内輪駆動では、ボール64が奥側に移動する位相(0°~180°)において、くさび角が小さくなるが、外輪駆動では、逆にくさび角が大きくなる。このように、ツェッパ型固定式等速自在継手61では、駆動方向によりボールの動きとくさび角の状態が異なってくるため、継手の内部力により保持器65の姿勢が変わり、保持器65の位置が不安定になる。その結果、制動時の動力損失が通常走行時の動力損失より大きくなり、回生エネルギーの回収効率が悪くなるという事象を見出した。
【0055】
動力損失の主な発生原因は、継手が作動角を取った場合、ボール64と外側継手部材62および内側継手部材63のトラック溝67、69との接触部の移動量に差が生じ、外側継手部材62のトラック溝67側で大きく滑りが発生し、エネルギー損失が増加するためである。さらに、保持器65の姿勢が変わり、位置が不安定になり、保持器65が二等分平面から外れることで、外側継手部材62側から見た保持器65の見かけ角度が増加する一方、内側継手部材63側から見た保持器65の見かけ角度が減少することにより、外側継手部材62のトラック溝67と内側継手部材63のトラック溝69のボール接触点軌跡の移動量の差が、二等分平面に位置する場合より増加するためである。
【0056】
ツェッパ型固定式等速自在継手61を検討対象とする開発過程における知見を種々検討した結果、電動車のドライブシャフトとして、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向が変わっても、周方向に隣り合うボールで方向が異なるくさび作用が発生し、かつ保持器に作用するくさびによる力が相殺されて、保持器の位置が安定する継手の適用を試みるという着想に至った。この着想を基に、駆動方向が変わっても、内部力の変化が小さく回生エネルギーの回収効率が高いアウトボード側の固定式等速自在継手の挙動を検証したことにより、本実施形態に至った。
【0057】
検討対象のツェッパ型固定式等速自在継手61の上述した挙動に対して、本実施形態に係る電動車のドライブシャフトのアウトボード側の一端に装着される固定式等速自在継手1が常用角を取ったときのトラック溝7、9のくさび角の状態を図9に基づいて説明する。前述した図18と同様に、図9は、縦軸がくさび角を示し、横軸がトラック溝7、9(ボール4)の位相を示す。図中、実線が内輪駆動の場合を示し、破線が外輪駆動の場合を示す。各ボールには、図3(B)に示す符号4(0°)~4(315°)を付している。また、図3(B)および図9のプラストラック溝に7A、9A、マイナストラック溝に7B、9Bの符号を付す。プラストラック溝7A、9Aはくさび角が開口側に向かって開いており(+の値)、反対に、マイナストラック溝7B、9Bはくさび角が奥側に向かって開いている(-の値)。このため、くさび角が外側継手部材の開口側に向かって開いているトラック溝7A、9Aの対と、奥側に向かって開いているトラック溝7B、9Bの対とが周方向に交互に形成されている。ここで、くさび角とは、トラック溝の対とボールとの当接位置におけるトラック溝間に形成されるくさびがなす角度を意味する。
【0058】
交差トラック溝形式の固定式等速自在継手1においても、基本的なくさび角の変動は、前述した検討対象のツェッパ型固定式等速自在継手61と同様であるが、周方向に隣り合うトラック溝7A、7B、9A、9Bが周方向に反対方向に傾斜しているため、上記のようにトラック溝7A、9Aの対のくさび角とトラック溝7B、9Bの対のくさび角が開く方向が異なる。
【0059】
図9に示すように、内輪駆動の場合、ボール4(0°)、ボール4(90°)、ボール4(180°)およびボール4(270°)のくさび角は+の値であり、ボール4(45°)、ボール4(135°)、ボール4(225°)およびボール4(315°)のくさび角は-の値である。一方、外輪駆動の場合、ボール4(0°)、ボール4(90°)、ボール4(180°)およびボール4(270°)のくさび角は-の値であり、ボール4(45°)、ボール4(135°)、ボール4(225°)およびボール4(315°)のくさび角は+の値である。このように、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向が変わっても、保持器5のポケット5aには、周方向に隣り合うボール4で方向が異なるくさび角が発生し、かつ、保持器5に作用するくさびによる力は、相殺されて、保持器5の位置が安定する。このため、駆動方向が変わっても、内部力の変化が小さくなり、回生エネルギーの回収効率が高くなる。
【0060】
本実施形態の電動車のドライブシャフトに装着された固定式等速自在継手1においては、保持器5のポケット部5aとボール4との嵌め合いを締まり嵌めからすきま嵌めにまたがる範囲となるポケットすきま設定にしてもよい。この場合、前記すきまは-30~40μm程度に設定することが好ましい。すきま設定にすることにより、保持器5のポケット部5aに保持されたボール4をスムーズに作動させることができ、更なるトルク損失の低減を図ることができる。
【0061】
固定式等速自在継手1が最大作動角を取った状態を図8に示す。外側継手部材2のトラック溝7Aは、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7Abが開口側に形成されている。コンパクト設計の中で、この第2のトラック溝部7Abの存在により、最大作動角時における有効トラック長さを確保すると共にくさび角が過大になるのを抑制することができる。そのため、図示のように、最大作動角θmaxを50°程度の高角にしても、必要十分な入口チャンファ10を設けた状態でボール4がトラック溝7Abと接触状態を確保することができ、かつ、くさび角が大きくならないように抑えることができる。
【0062】
固定式等速自在継手1では、外側継手部材2のトラック溝7が継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Xaを有する第1のトラック溝部7aと、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bとからなるものを示したが、外側継手部材2のトラック溝7は、ボール軌道中心線Xaが継手中心Oを曲率中心とする円弧状部分を有し、直線状のボール軌道中心線Xbを有する第2のトラック溝部7bを省略して構成してもよい。また、内側継手部材3のトラック溝9が継手中心Oを曲率中心とする円弧状のボール軌道中心線Yaを有する第1のトラック溝部9aと、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bとからなるものを示したが、内側継手部材3のトラック溝9は、ボール軌道中心線Yaが継手中心Oを曲率中心とする円弧状部分を有し、直線状のボール軌道中心線Ybを有する第2のトラック溝部9bを省略して構成してもよい。
【0063】
本発明の第2の実施形態に係る電動車のドライブシャフトを図10図12に基づいて説明する。図10は、本発明の第2の実施形態に係る電動車のドライブシャフトの部分縦断面図である。図11は、本実施形態のドライブシャフトの一端に装着された固定式等速自在継手を示し、図11(A)は、図11(B)のD-N-D線における固定式等速自在継手の部分縦断面図で、図11(B)は、図11(A)の右側面図である。図12は、図11の固定式等速自在継手を示し、図12(A)は、第1の対のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図で、図12(B)は、第2の対のトラック溝の詳細を示す部分縦断面図である。
【0064】
図10に示すように、第2の実施形態に係る電動車のドライブシャフト139は、アウトボード側の一端に対向トラック溝形式の固定式等速自在継手31が装着され、インボード側の他端には、第1の実施形態と同様、摺動式等速自在継手15としてトリポード型等速自在継手が装着されている。摺動式等速自在継手15については第1の実施形態と同じであるので、同一の部位に同じ符号を付して説明を省略する。
【0065】
図10図11に示すように、ドライブシャフト139のアウトボード側の一端に装着された固定式等速自在継手31は、外側継手部材32、内側継手部材33、ボール34および保持器35を主な構成とする。外側継手部材32は、第1の外側トラック溝371と第2の外側トラック溝372をそれぞれ4本ずつ有している。内側継手部材33は、第1の内側トラック溝391と第2の内側トラック溝392をそれぞれ4本ずつ有している。第1の外側トラック溝371と第1の内側トラック溝391とがトラック溝の第1の対を形成している。また、第2の外側トラック溝372と第2の内側トラック溝392とがトラック溝の第2の対を形成している。
【0066】
図12(A)に示すように、第1の外側トラック溝371は、ボール軌道中心線X1を有する。ボール軌道中心線X1は、継手の軸線N-N上のOo1を曲率中心とする円弧状部分と、継手の軸線N-Nから半径方向に外側に位置するOo11を曲率中心とする円弧状部分とからなる。曲率中心Oo11は、継手の軸線N-Nから半径方向に外れ、外側継手部材32の外径面よりさらに外側に位置する。2つの円弧状部分は、継手中心Oより開口側の軸方向位置にあるc点で滑らかに接続されている。Oo11を曲率中心とする円弧状部分は、Oo1を曲率中心とする円弧状部分に対して反対方向に湾曲している。
【0067】
第1の内側トラック溝391は、ボール軌道中心線Y1を有する。ボール軌道中心線Y1は、継手の軸線N-N上のOi1を曲率中心とする円弧状部分と、継手の軸線N-Nから半径方向に外側に位置するOi11を曲率中心とする円弧状部分とからなる。曲率中心Oi11は、継手の軸線N-Nから半径方向に外れ、外側継手部材32の外径面よりさらに外側に位置する。2つの円弧状部分は、継手中心Oより奥側の軸方向位置にあるd点で滑らかに接続されている。Oi11を曲率中心とする円弧状部分は、Oi1を曲率中心とする円弧状部分に対して反対方向に湾曲している。
【0068】
第1の外側トラック溝371のボール軌道中心線X1の曲率中心Oo1は、継手中心Oより開口側に位置し、第1の内側トラック溝391のボール軌道中心線Y1の曲率中心Oi1は、継手中心Oより奥側に位置し、2つの曲率中心Oo1、Oi1は、継手中心Oに対して軸方向反対側に等量オフセットされているので、第1の外側トラック溝371と第1の内側トラック溝391とのくさび角は開口側に向かって開いている。
【0069】
図12(B)に示すように、第2の外側トラック溝372は、ボール軌道中心線X2を有する。ボール軌道中心線X2は、継手の軸線N-N上のOo2を曲率中心とする円弧状部分と、継手の軸線N-Nから半径方向に外れて位置するOo21を曲率中心とする円弧状部分と、Oo22を曲率中心とする円弧状部分とからなる。曲率中心Oo21は、継手の軸線N-Nから半径方向に外れ、外側継手部材32の外径面よりさらに外側に位置し、曲率中心Oo22は、継手の軸線N-Nから半径方向に外れているが、外側継手部材32の外径面より内側に位置する。3つの円弧状部分は、継手の軸方向範囲のe点、f点で滑らかに接続されている。Oo21を曲率中心とする円弧状部分は、Oo2を曲率中心とする円弧状部分に対して反対方向に湾曲している。
【0070】
第2の内側トラック溝392は、ボール軌道中心線Y2を有する。ボール軌道中心線Y2は、継手の軸線N-N上のOi2を曲率中心とする円弧状部分と、継手の軸線N-Nから半径方向に外れて位置するOi21を曲率中心とする円弧状部分と、Oi22を曲率中心とする円弧状部分とからなる。曲率中心Oi21は、継手の軸線N-Nから半径方向に外れ、外側継手部材32の外径面よりさらに外側に位置し、曲率中心Oi22は、継手の軸線N-Nから半径方向に外れているが、外側継手部材32の外径面より内側に位置する。3つの円弧状部分は、継手の軸方向範囲のg点、h点で滑らかに接続されている。Oi21を曲率中心とする円弧状部分は、Oi2を曲率中心とする円弧状部分に対して反対方向に湾曲している。
【0071】
第2の外側トラック溝392のボール軌道中心線X2の曲率中心Oo2は、継手中心Oより奥側に位置し、第2の内側トラック溝392のボール軌道中心線Y2の曲率中心Oi2は、継手中心Oより開口側に位置し、2つの曲率中心Oo2、Oi2は、継手中心Oに対して軸方向反対側に等量オフセットされているので、第2の外側トラック溝372と第2の内側トラック溝392とのくさび角は奥側に向かって開いている。
【0072】
本実施形態に係る電動車のドライブシャフトのアウトボード側の一端に装着された対向トラック溝形式の固定式等速自在継手31においても、継手の作動角が0°の状態で、くさび角が外側継手部材32の開口側に向かって開いている第1のトラック溝371、391の対と、奥側に向かって開いている第2のトラック溝372、392の対とが周方向に交互に形成されている。このため、第1の実施形態に係る電動車のドライブシャフトのアウトボード側の一端に装着された交差トラック溝形式の固定式等速自在継手1と同様に、内輪駆動又は外輪駆動の駆動方向が変わっても、保持器35のポケット35aには、周方向に隣り合うボール34で方向が異なるくさび角が発生し、かつ、保持器35に作用するくさびによる力は、相殺されて、保持器35の位置が安定する。このため、駆動方向が変わっても、内部力の変化が小さくなり、回生エネルギーの回収効率が高くなる。その他、くさび角の変動や挙動について第1の実施形態において前述した内容は、本実施形態でも同様であるので、準用する。
【0073】
以上説明した実施形態では、固定式等速自在継手のボールの個数が8個のものを例示したが、ボールの個数は8個以上、例えば、10個あるいは、それ以上の個数も適宜実施することができる。
【0074】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0075】
1、31 固定式等速自在継手
2、32 外側継手部材
3、33 内側継手部材
4、34 ボール
5、35 保持器
5a、35a スプライン
6、36 球状内周面
7、37 トラック溝
7a 第1のトラック溝部
7b 第2のトラック溝部
8、38 球状外周面
9、39 トラック溝
9a 第1のトラック溝部
9b 第2のトラック溝部
12、42 球状外周面
13、43 球状内周面
M ボール軌道中心線を含む平面
N 継手の軸線
O 継手中心
Oo1 曲率中心
Oi1 曲率中心
Oo2 曲率中心
Oi2 曲率中心
X ボール軌道中心線
Y ボール軌道中心線
γ 傾斜角
図1
図2
図3
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