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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083911
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/12 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
H05B6/12 303
H05B6/12 325
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197995
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】吉田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】錦織 信晴
【テーマコード(参考)】
3K151
【Fターム(参考)】
3K151AA21
3K151CA46
3K151CA49
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の加熱コイルを用いる場合に、周波数差によるノイズの発生を防ぎつつ、複数の加熱コイルそれぞれの火力を所望の大きさに調整する。
【解決手段】被加熱物を誘導加熱する加熱コイル1と、加熱コイル1に電力を供給するインバータ回路21と、交流電流を検出する電流検出部と、制御機器3とを備え、制御機器3が、インバータ回路21を構成するスイッチング素子SWのデューティ比を制御するインバータ制御部322と、検出信号を受け付ける信号受付部323と、インバータ制御部322から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する検出信号が信号受付部323に入力された入力タイミングの遅れを位相遅れとして測定する位相測定部324と、位相測定部324により測定された位相遅れに基づいて、インバータ回路21のハードスイッチング状態を検知するハードスイッチング検知部325とを備えるようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、
前記加熱コイルに電力を供給するインバータ回路と、
前記インバータ回路から出力された交流電流を検出する電流検出部と、
前記インバータ回路を制御する制御機器とを備え、
前記制御機器が、
前記インバータ回路を構成するスイッチング素子のデューティ比を制御するインバータ制御部と、
前記電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、
前記インバータ制御部から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する前記検出信号が前記信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相遅れとして測定する位相測定部と、
前記位相測定部により測定された前記位相遅れに基づいて、前記インバータ回路のハードスイッチング状態を検知するハードスイッチング検知部とを備える、誘導加熱装置。
【請求項2】
前記ハードスイッチング検知部により前記インバータ回路がハードスイッチング状態であることが検知された場合に、前記インバータ制御部が、そのインバータ回路に対応する前記加熱コイルの駆動周波数を上げるように構成されている、請求項1記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記ハードスイッチング検知部により前記インバータ回路がハードスイッチング状態であることが検知されて、前記インバータ制御部が、そのインバータ回路に対応する前記加熱コイルの駆動周波数を上げた後、
前記インバータ制御部が、前記スイッチング素子のデューティ比を上げるように構成されている、請求項2記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記加熱コイルが複数設けられており、前記インバータ回路がそれぞれの前記加熱コイルに対応して設けられている構成において、
前記インバータ制御部が、前記複数の加熱コイルに同じ駆動周波数の電力を供給するとともに、一方の前記加熱コイルに対応する前記インバータ回路の前記スイッチング素子のデューティ比を固定しつつ、他方の前記加熱コイルに対応する前記インバータ回路の前記スイッチング素子のデューティ比を可変制御する、請求項1記載の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加熱物を誘導加熱する誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の誘導加熱装置としては、特許文献1に示すように、例えば調理用鍋などの被加熱物を加熱するIH調理器等に用いられており、複数の被加熱物を同時に誘導加熱できるようにするべく、複数の加熱コイルを備えたものがある。
【0003】
複数の加熱コイルを同時に用いる場合、図11に示すように、それぞれの被加熱物の共振カーブが異なることから、各被加熱物の火力を調整した結果、各加熱コイルの駆動周波数がとある周波数差(例えば10kHz前後)になると、その周波数差によるノイズが発生する。
【0004】
かかるノイズが発生した場合、火力を調整して周波数差を変えればノイズを解消することはできるが、この場合は、所望の火力を得ることができなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-103674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明者は、本願発明の開発にあたり、以下の構成を中間的に考えた。
例えば、2つの加熱コイルを用いる場合、まずは一方の加熱コイルの駆動周波数を、目標出力の得られている他方の加熱コイルの駆動周波数に合わせ、そこから、双方の加熱コイルの駆動周波数を維持しつつ、一方の加熱コイルに対応するインバータ回路のスイッチング素子のデューティ比を変更することで目標出力を得る。
【0007】
このような構成であれば、双方の加熱コイルの駆動周波数を一致させつつ、一方の加熱コイルに対応するスイッチング素子のデューティ比を変更することで目標出力を得ているので、周波数差によるノイズの発生を防ぎつつ、双方の加熱コイルそれぞれの火力を所望の大きさに調整することが可能となる。
【0008】
ところが、単にこの構成を採用した場合、デューティ比を下げていくと、スイッチング素子のオン・オフを切り替える短時間に大電流が流れる所謂ハードスイッチングと称される現象が生じ、これにより装置の故障を招来するという新たな課題が生じる。
【0009】
しかも、ハードスイッチングは、デューティ比や駆動周波数や共振回路の回路構成などによって発生条件が変わるので、その時々に応じてハードスイッチングを検知できるようにすることが必要となる。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題を一挙に解決すべくなされたものであり、複数の加熱コイルを用いる場合に、周波数差によるノイズの発生を防ぎつつ、複数の加熱コイルそれぞれの火力を所望の大きさに調整することができ、なおかつ、ハードスイッチングを未然に防げるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る誘導加熱装置は、被加熱物を誘導加熱する加熱コイルと、前記加熱コイルに電力を供給するインバータ回路と、前記インバータ回路から出力された交流電流を検出する電流検出部と、前記インバータ回路を制御する制御機器とを備え、前記制御機器が、前記インバータ回路を構成するスイッチング素子のデューティ比を制御するインバータ制御部と、前記電流検出部が出力する検出信号を受け付ける信号受付部と、前記インバータ制御部から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する前記検出信号が前記信号受付部に入力された入力タイミングの遅れを位相遅れとして測定する位相測定部と、前記位相測定部により測定された前記位相遅れに基づいて、前記インバータ回路のハードスイッチング状態を検知するハードスイッチング検知部とを備えることを特徴とするものである。
なお、ここでいう「ハードスイッチング状態」とは、ハードスイッチングが発生している状態に限らず、ハードスイッチングが発生する恐れのある状態、すなわちハードスイッチングが発生する手前の状態をも含む概念である。
【0012】
このように構成された誘導加熱装置によれば、スイッチング素子のデューティ比を制御するので、複数の加熱コイルを用いる場合に、周波数差によるノイズの発生を防ぎつつ、複数の加熱コイルそれぞれの火力を所望の大きさに調整することができる。
そのうえ、測定される位相遅れがデューティ比、駆動周波数、及び共振回路の回路構成などに応じて変動するので、この位相遅れに基づいてインバータ回路のハードスイッチング状態を検知することで、その時々に応じてハードスイッチングを未然に防ぐことが可能となる。
しかも、位相遅れに基づいてハードスイッチング状態を検知するので、ハードスイッチング状態を検知するための専用の機器を必要とせず、実装されている既存の機器を用いて上述した機能を実現することができる。
【0013】
前記ハードスイッチング検知部により前記インバータ回路がハードスイッチング状態であることが検知された場合に、前記インバータ制御部が、そのインバータ回路に対応する前記加熱コイルの駆動周波数を上げるように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、ハードスイッチング状態を自動的に回避すること可能となる。
【0014】
前記ハードスイッチング検知部により前記インバータ回路がハードスイッチング状態であることが検知されて、前記インバータ制御部が、そのインバータ回路に対応する前記加熱コイルの駆動周波数を上げた後、前記インバータ制御部が、前記スイッチング素子のデューティ比を上げるように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、インバータ回路のハードスイッチング状態を回避しつつ、加熱コイルの火力を所望の大きさに調整することができる。
【0015】
前記加熱コイルが複数設けられており、前記インバータ回路がそれぞれの前記加熱コイルに対応して設けられている構成において、前記インバータ制御部が、複数の前記加熱コイルに同じ駆動周波数の電力を供給するとともに、一方の前記加熱コイルに対応する前記インバータ回路の前記スイッチング素子のデューティ比を固定しつつ、他方の前記加熱コイルに対応する前記インバータ回路の前記スイッチング素子のデューティ比を可変制御することが好ましい。
このような構成であれば、複数の加熱コイルの駆動周波数の差により生じる騒音を抑えつつ、それらの加熱コイルの火力を所望の大きさに調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成した本発明によれば、複数の加熱コイルを用いる場合に、周波数差によるノイズの発生を防ぎつつ、複数の加熱コイルそれぞれの火力を所望の大きさに調整することができ、なおかつ、ハードスイッチングを未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態における誘導加熱装置の全体構成を示す模式図。
図2】同実施形態における制御部の制御態様を説明する参考図。
図3】同実施形態における位相測定部の動作を説明する参考図。
図4】デューティ比とハードスイッチングとの関係を説明するためのグラフ。
図5】駆動周波数とハードスイッチングとの関係を説明するためのグラフ。
図6】同実施形態のハードスイッチング検知部の動作を説明するためのグラフ。
図7】同実施形態の制御機器の動作を説明するためのフローチャート。
図8】同実施形態のハードスイッチング検知部の動作を説明するためのグラフ。
図9】第2実施形態における誘導加熱装置の全体構成を示す模式図。
図10】第2実施形態における制御機器の動作を説明するためのフローチャート。
図11】共振カーブとノイズとの関係を説明するための参考図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<<第1実施形態>>
以下、本発明に係る誘導加熱装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本実施形態に係る誘導加熱装置100は、例えばIH調理器等に用いられるものであり、調理用鍋などの被加熱物を誘導加熱するものである。
【0020】
具体的に誘導加熱装置100は、図1に示すように、被加熱物を誘導加熱する加熱コイル1と、加熱コイル1に電力を供給するインバータ装置2と、インバータ装置2を制御する制御機器3とを備えている。
【0021】
さらに誘導加熱装置100は、同図1に示すように、加熱コイル1に直列接続された共振コンデンサなどからなる共振回路4と、インバータ装置2に供給される電流を検出する第1電流検出部I1と、商用電源からインバータ装置2に供給される電圧を検出する電圧検出部Vと、インバータ装置2から共振回路4に出力される電流を検出する第2電流検出部I2とを備えている。
【0022】
加熱コイル1は、調理用鍋などが載置されるトッププレート(不図示)の下に設けられ、当該トッププレートを介して調理用鍋を誘導加熱するものである。
【0023】
インバータ装置2は、加熱コイル1それぞれに対応して設けられており、具体的には、加熱コイル1に高周波電流を供給するインバータ回路21と、インバータ回路21を駆動する駆動回路22とから構成されている。
【0024】
インバータ回路21は、商用電源から供給される電圧を高周波に変換して、加熱コイル1に高周波電流を供給するものであり、ここでは、スイッチング素子SWを用いたハーフブリッジ方式のものである。ただし、インバータ回路21の具体的な構成は、例えばフルブリッジ方式のものなど、適宜変更して構わない。
【0025】
駆動回路22は、インバータ回路21を構成するスイッチング素子SWを動作させるものであり、後述する制御機器3からの制御信号に基づいてスイッチング素子SWのオン・オフを切り替えるものである。
【0026】
制御機器3は、被加熱物を所望の火力により加熱するようにインバータ装置2を制御するものである。
【0027】
本実施形態の制御機器3は、図1に示すように、ユーザにより操作される操作部31と、操作部31からの出力を受け付けてインバータ装置2を制御する制御部32とを備えている。
【0028】
操作部31は、ユーザにより操作されるコントローラであり、ユーザが設定した加熱コイルの火力に対応する電力(すなわち、出力)を目標電力として制御部32に出力する電力指令部311としての機能を発揮するものである。
【0029】
制御部32は、上述した第1電流検出部I1及び電圧検出部Vにより検出される検出電流及び検出電圧に基づいて、実際の電力(すなわち、実際の出力)である実電力を算出する電力算出部321と、この実電力が目標電力(すなわち、目標出力)に近づくようにインバータ装置2を制御するインバータ制御部322としての機能を発揮するものである。
【0030】
より具体的に説明すると、インバータ制御部322は、インバータ装置2から加熱コイル1に供給される電力の周波数である駆動周波数を制御するとともに、インバータ装置2を構成するスイッチング素子SWのオン・オフを制御するものである。
【0031】
つまり、このインバータ制御部322は、インバータ装置2に対して、駆動周波数を示す制御信号を出力するとともに、スイッチング素子SWを制御するオン・オフ信号を制御信号として出力する。
【0032】
ここでのインバータ制御部322は、駆動周波数を制御するとともに、スイッチング素子SWのオン・オフのデューティ比をも制御するものであり、言い換えれば、駆動周波数を変更することにより、実際の出力を目標出力に近づける第1制御態様と、スイッチング素子SWのデューティ比を変更することにより、実際の出力を目標出力に近づける第2制御態様とに切り替わる。
【0033】
第1制御態様は、図2の上段に示すように、スイッチング素子SWを固定デューティ比でオン・オフしつつ、駆動周波数を変更する制御である。
【0034】
本実施形態の第1制御態様は、オンデューティ比を50%に固定したPFM(パルス周波数変調)制御である。ただし、固定デューティ比は50%に限らず、例えばハイサイドを60%、ローサイドを40%にするなど、ハイサイドとローサイドとが補間関係であれば適宜変更しても良いし、具体的な制御態様は、PFM制御に限らずPWM(パルス幅変調)制御などであっても良い。
【0035】
第2制御態様は、図2の下段に示すように、駆動周波数を固定しつつ、スイッチング素子SWを可変デューティ比でオン・オフする制御である。
【0036】
本実施形態の第2制御態様は、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比と、ローサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比とを異ならせる(非対称な)制御であり、実電力が目標電力と一致するように、例えばハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を下げていく。ただし、実電力が目標電力と一致するように、ローサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を上げても良い。
【0037】
なお、かかる第2制御態様において、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比が、例えばこの実施形態では30%を下回ると、スイッチング素子SWの故障につながる恐れがある。なお、スイッチング素子SWの故障を招来し得るオンデューティ比の下限値は30%に限らず、装置構成に応じて変動する値である。
【0038】
そこで、本実施形態では、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を30%以上50%未満に変更可能にしてあり、これによりローサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比は100%からハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を差し引いたものとなるようにしてある。
【0039】
そして、インバータ制御部322は、所定の規則に従って、或いは、操作部31からの制御信号に基づいて、第1制御態様又は第2制御態様に切り替わりながら、実電力を目標電力に一致させるようにインバータ装置2を制御する。
【0040】
ところで、上述した第2制御態様において、デューティ比を下げていくと、スイッチング素子SWのオン・オフを切り替える短時間に大電流が流れる所謂ハードスイッチングと称される現象が生じ、これにより装置の故障を招来する懸念がある。
【0041】
そこで、本実施形態の制御機器3は、図1に示すように、信号受付部323、位相測定部324、及び、ハードスイッチング検知部325としての機能をさらに備えている。
【0042】
信号受付部323は、インバータ装置2から加熱コイル1に出力された電流を上述した第2電流検出部I2が検知した場合に、その第2電流検出部I2が出力する検出信号を受け付ける。
【0043】
この検出信号は、検出した電流の大きさを示すものであり、本実施形態の信号受付部323は、第2電流検出部I2により検出された電流の大きさが電圧に変換されたものを検出信号として逐次受け付ける。
【0044】
位相測定部324は、インバータ制御部322から制御信号が出力された出力タイミングに対する、その制御信号に対応する検出信号が信号受付部323に入力された入力タイミングの遅れを位相遅れとして測定する。
【0045】
なお、ここでいう制御信号に対応する検出信号とは、その制御信号によりスイッチング素子SWが動作して、これによりインバータ装置2から電流が出力され、その電流が第2電流検出部I2で検出されることで出力される検出信号である。
【0046】
より具体的に説明すると、位相測定部324は、インバータ制御部322からインバータ装置2に出力される制御信号として、スイッチング素子SWをオン・オフさせるオン・オフ信号を監視するとともに、例えばオン信号が出力されたタイミングを上述した出力タイミングとして取得する。
【0047】
一方、位相測定部324は、信号受付部323に逐次入力される検出信号の示す電流の大きさを監視するとともに、その電流の変動が例えばゼロクロス点(ゼロ地点)など所定の電流値を通過するタイミングを上述した入力タイミングとして取得する。
【0048】
そして、位相測定部324は、図3に示すように、オン信号が出力された出力タイミングと、そのオン信号に対応して電流の変動が例えばゼロクロス点を通過する入力タイミングとを比較して、これらの出力タイミング及び入力タイミングの時間差又は時間のズレの割合を位相遅れとして測定する。
【0049】
ここで、上述したハードスイッチングは、図4に示すように、デューティ比が低いほど発生する可能性が高くなる。これは、デューティ比が低いほど、スイッチング素子SWのオン・オフがアンバランスになり、その結果、インバータ回路21にエネルギーが残っている状態で強制的にスイッチング素子SWのオン・オフが切り替えられてしまうからである。
【0050】
また、図5に示すように、ハードスイッチングは、駆動周波数が低いほど発生する可能性が高くなる。これは、駆動周波数が低いほど、共振状態に近づくからである。
【0051】
ここで、上述した位相遅れは、デューティ比、駆動周波数、及び共振回路4の回路構成から理論的に算出可能であり、具体的には、デューティ比が大きいほど、また、駆動周波数が大きいほど、位相遅れも大きくなる。
【0052】
なお、位相遅れの理論的に算出する算出式としては、例えば以下のものを挙げることができる。
DCP[%]=k×Arctan((ωLcoil-1/ωCap)/Rcoil)×Duty・・・式(1)
ここで、DCPは算出される位相遅れの値、kは所定の係数、ωは2π×F、Fは駆動周波数、Dutyはスイッチング素子SWのデューティ比、Rcoilは共振回路4の抵抗値、Lcoilは共振回路4のリアクタンス値、Capは共振回路4のキャパシタ容量である。
【0053】
ここで、上述したようにスイッチング素子SWのデューティ比を低くするほどハードスイッチングが発生しやすくなることから、式(1)に鑑みれば、位相遅れが小さくなるほど、ハードスイッチングが発生する或いは発生し得る状態(以下、ハードスイッチング状態ともいう)に近づくことになる。なお、ここでいう「ハードスイッチング状態」とは、ハードスイッチングが発生している状態に限らず、ハードスイッチングが発生する恐れのある状態、すなわちハードスイッチングが発生する手前の状態をも含む概念である。
【0054】
そこで、ハードスイッチング検知部325は、図6に示すように、位相測定部324により測定された位相遅れと閾値とを比較して、インバータ回路21のハードスイッチング状態を検知する。
【0055】
より具体的に説明すると、図7に示すように、ハードスイッチング検知部325は、位相遅れと閾値とを比較して(S1)、位相遅れが閾値以上であれば、インバータ回路21が正常状態であると判断し、位相遅れと閾値との比較を繰り返す。
一方、(S1)において、位相遅れが閾値を下回った場合、ハードスイッチング検知部325は、インバータ回路21がハードスイッチング状態であると判断する(S2)。
【0056】
ハードスイッチング状態であることが検知されると、インバータ制御部322が、ハードスイッチング状態であると判断されたインバータ回路21に対応する加熱コイルの駆動周波数を上げる(S3)。これにより、図8に示すように、ハードスイッチング状態を回避する方向に向かう。
【0057】
一方、S3において駆動周波数を上げることにより、火力が低下することになるので、その低下分を補うべく、インバータ制御部322が、図8に示すように、S3において駆動周波数を上げた後、スイッチング素子SWのデューティ比を上げる(S4)。
【0058】
その後、S1の位相遅れと閾値との比較に戻り、上述した動作が繰り返される。
【0059】
このように構成した誘導加熱装置によれば、測定される位相遅れがデューティ比、駆動周波数、及び共振回路の回路構成などに応じて変動するので、この位相遅れに基づいてインバータ回路21のハードスイッチング状態を検知することで、その時々に応じてハードスイッチングを未然に防ぐことが可能となる。
しかも、位相遅れに基づいてハードスイッチング状態を検知するので、ハードスイッチング状態を検知するための専用の機器を必要とせず、実装されている既存の機器を用いて上述した機能を実現することができる。
【0060】
また、インバータ回路21がハードスイッチング状態であることが検知された場合に、インバータ制御部322が、加熱コイルの駆動周波数を上げるので、ハードスイッチング状態を自動的に回避することが可能となる。
【0061】
さらに、インバータ制御部322が、加熱コイルの駆動周波数を上げた後、スイッチング素子SWのデューティ比を上げるので、インバータ回路21のハードスイッチング状態を回避しつつ、加熱コイルの火力を所望の大きさに調整することができる。
【0062】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0063】
例えば、前記実施形態では、スイッチング素子SWを制御するためのオン信号が出力されたタイミングを出力タイミングとして説明したが、出力タイミングはこれに限らず、例えばオフ信号が出力されたタイミングとしても良い。
【0064】
また、前記実施形態では、検出信号の示す電流値がゼロクロス点(ゼロ地点)を通過するタイミングを入力タイミングとして説明したが、入力タイミングはこれに限らず、例えば電流値が最大値又は最小値になるタイミングとしても良い。
【0065】
<<第2実施形態>>
次に、本発明に係る誘導加熱装置の第2実施形態について説明する。
【0066】
前記第1実施形態では、1つの加熱コイルに着目してハードスイッチング状態を回避することを説明したが、第2実施形態では、図9に示すように、加熱コイル1A、1Bが複数設けられており、インバータ装置2A、2Bがそれぞれの加熱コイル1A、1Bに対応して設けられている。
【0067】
以下では、第2実施形態における制御機器3の動作について、図10を参照しながら説明する。
【0068】
インバータ制御部322は、まず第1制御態様を取り、第1加熱コイル1Aに供給する電力の駆動周波数と、第2加熱コイル1Bに供給する電力の駆動周波数とを一致させ(S’1)、その後、第1加熱コイル1A及び第2加熱コイル1Bの一方の出力が目標出力と一致するまで駆動周波数を下げ続ける(S’2)。
【0069】
このように駆動周波数を下げ続けることにより、基本的には、第1加熱コイル1Aと第2加熱コイル1Bとのうち、まずは目標火力の小さい方の加熱コイルの実出力が、目標出力に一致することになる。ただし、目標火力の差が小さく、用いられる鍋等の被加熱物の大きさや材質によっては、目標火力の大きい方の加熱コイルの実出力の方が、先に目標出力に一致する場合も有り得る。
【0070】
以下では、第1加熱コイル1A及び第2加熱コイル1Bのうち、実出力が先に目標出力に一致する方を高周波数側コイルと称し、もう一方を低周波数側コイルと称する。
【0071】
インバータ制御部322は、高周波数側コイルの実出力と目標出力とを比較しながら、高周波数側コイルの実出力が目標出力に一致するまで、第1加熱コイル1Aの駆動周波数と、第2加熱コイル1Bの駆動周波数とを、同期させながら低下させていく(S’2、S’3)。
【0072】
ただし、第1加熱コイル1Aの駆動周波数と、第2加熱コイル1Bの駆動周波数とは、必ずしも同期されている必要はなく、ややズレを伴いながら低下させても良い。ただし、このズレは、ノイズを発生させる周波数差であってはならず、少なくともノイズを発生させる周波数差よりも小さいズレである必要がある。
【0073】
なお、実際のところは、第1加熱コイル1Aと第2加熱コイル1Bのどちらが高周波数側コイルであるかは分かっておらず、S5においては、第1加熱コイル1Aの実出力と目標出力とを比較するとともに、第2加熱コイル1Bの実出力と目標出力とを比較することになる。そして、先に目標出力に到達した方が高周波数側コイルであると分かる。
【0074】
これにより、高周波数側コイルの駆動周波数と低周波数側コイルの駆動周波数とが等しくなるとともに、高周波数側コイルの実出力が目標出力に一致する(S’3においてYesとなった場合)。
【0075】
続いて、インバータ制御部322が、高周波数側の実出力が目標出力に一致した後、低周波数側コイルの実出力が目標出力に一致するまで、第1加熱コイルの駆動周波数と第2加熱コイル駆動周波数との双方をさらに下げ続けるように構成されている(S’4、S’5)。
【0076】
以上に述べた過渡状態における制御態様により、高周波数側コイルの駆動周波数と低周波数側コイルの駆動周波数とが等しくなるとともに(以下、この駆動周波数を第1駆動周波数という)、低周波数側コイルの実出力が目標出力に一致する(S’5においてYesとなった場合)。
【0077】
この結果、高周波数側コイルの火力は、所望の火力よりも大きくなるので、火力を落とすための制御が必要となる。
【0078】
そこで、インバータ制御部322は、高周波数側コイルに対応するインバータ装置2の制御を第1制御態様とは異なる第2制御態様に切り替える。
【0079】
具体的にこの第2制御態様では、インバータ制御部322が、高周波数側コイルに供給されている実際の電力である実電力と、目標の火力に対応する目標電力とを比較するとともに、実電力が目標電力と一致するように、言い換えれば、高周波数側コイルの出力と目標出力とが一致するように、ハイサイドのスイッチング素子SWのオンデューティ比を下げていく。
【0080】
そして、この第2制御態様において、前記第1実施形態と同様、制御機器3が図7のフローに従って動作して、ハードスイッチング検知部325が、位相測定部324により測定された位相遅れに基づいて、インバータ回路21のハードスイッチング状態を検知する。
【0081】
かかる構成により、複数の加熱コイル1A、1Bの駆動周波数の差により生じる騒音を抑えつつ、それらの加熱コイルの火力を所望の大きさに調整することができる。
【0082】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
100・・・誘導加熱装置
1 ・・・加熱コイル
2 ・・・インバータ装置
21 ・・・インバータ回路
SW ・・・スイッチング素子
3 ・・・制御機器
31 ・・・操作部
32 ・・・制御部
321・・・電力算出部
322・・・インバータ制御部
323・・・信号受付部
324・・・位相測定部
325・・・ハードスイッチング検知部
4 ・・・共振回路
図1
図2
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図11