(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083913
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1213 20160101AFI20240617BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20240617BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240617BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20240617BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20240617BHJP
【FI】
H01M8/1213
H01M8/1226
H01M4/86 M
H01M8/124
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197997
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】和田 智也
(72)【発明者】
【氏名】李 新宇
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H126AA02
5H126AA15
5H126BB06
5H126GG02
5H126GG11
5H126JJ03
(57)【要約】
【課題】 カソードの剥離を抑制しつつ、内部抵抗を抑制することができる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 固体酸化物型燃料電池は、厚み方向の貫通孔を有する金属基板と、前記金属基板上に設けられたアノードと、前記アノード上に設けられ、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、前記電解質層上に設けられたカソードと、を備え、前記アノードおよび前記電解質層は、前記貫通孔の方向に向かって凸に湾曲する湾曲部を有し、前記カソードは、前記電解質層側の表面に、前記湾曲部に向かって突出する突出部を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の貫通孔を有する金属基板と、
前記金属基板上に設けられたアノードと、
前記アノード上に設けられ、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、
前記電解質層上に設けられたカソードと、を備え、
前記アノードおよび前記電解質層は、前記貫通孔の方向に向かって凸に湾曲する湾曲部を有し、
前記カソードは、前記電解質層側の表面に、前記湾曲部に向かって突出する突出部を有する、固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記電解質層における前記湾曲部の深さは、1μm以上、300μm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記電解質層における前記湾曲部の長さは、0.1mm以上、6mm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記電解質層の前記湾曲部において、長さに対する深さの比は、1/2000以上、1/20以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記電解質層の前記湾曲部の底における曲率半径は、0.1mm以上、1000mm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記金属基板の面内方向における前記貫通孔の径は、0.1mm以上、6mm以下である、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
前記金属基板において、前記貫通孔は複数設けられており、
複数の前記貫通孔の各中心間の距離は、複数の前記貫通孔の径の1.2倍以上、5倍以下である、請求項6に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項8】
前記金属基板と前記アノードとの間に、前記金属基板上に設けられて金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられ金属成分とセラミックス成分とが混合された混合層とが設けられている、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項9】
前記電解質層と前記カソードとの間に、酸化物イオン伝導性を有し、前記電解質層と前記カソードとの反応を抑制する中間層を備える、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項10】
前記アノードは、電極骨格に担持された触媒を備える、請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項11】
アノードと、前記アノード上に設けられ、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、を備える積層体を準備する工程と、
厚み方向の貫通孔を有する金属基板に前記積層体を密着させる工程と、
前記電解質層の前記金属基板とは反対側にカソードを形成する工程と、を含む固体酸化物型燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体酸化物型燃料電池は、カーボンニュートラルの実現可能性の追求から、低炭素型かつ高発電効率な分散型定設置電源として注目を集めている。固体酸化物型燃料電池は、酸化物イオンが反応する空気極(カソード)と、水素分子と酸化物イオンが反応する燃料極(アノード)と、両極の反応を分け隔て、かつ酸化物イオンを伝導させる固体電解質層と、を含んで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体酸化物型燃料電池の発電性能は、セルの内部抵抗に大きく依存する。内部抵抗は、酸化物イオンの伝導に由来するオーム抵抗、カソードおよびアノードで生じる化学反応に由来する反応抵抗、そして気相分子の移動に由来する拡散抵抗など、様々な抵抗成分で構成されている。一般的には、これらの内部抵抗成分を抑えることで発電性能が向上することが知られており、抵抗抑制のための研究開発が盛んに行われている。
【0005】
固体酸化物型燃料電池は、例えば、700℃以上の高温運転を特徴とする。そのため、昇降温の繰り返しで、各機能層間で熱膨張率の違いにより、界面剥がれが生じるおそれがある。そのため、熱サイクルに強い、界面間の密着性を向上した固体酸化物型燃料電池が求められる。例えば、特許文献1では、カソードを覆うように接着層を設けることで、カソードの剥離を抑制している。
【0006】
しかしながら、特許文献1の手法では、密着性が向上するものの、カソードを覆う密着層の存在が、ガス拡散抵抗の増加を引き起こす。このことから、カソードの機能性の向上には、カソードへの空気流入を阻害する層を設けずに、カソードの剥離および内部抵抗の抑制を達成することが求められる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、カソードの剥離を抑制しつつ、内部抵抗を抑制することができる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池は、厚み方向の貫通孔を有する金属基板と、前記金属基板上に設けられたアノードと、前記アノード上に設けられ、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、前記電解質層上に設けられたカソードと、を備え、前記アノードおよび前記電解質層は、前記貫通孔の方向に向かって凸に湾曲する湾曲部を有し、前記カソードは、前記電解質層側の表面に、前記湾曲部に向かって突出する突出部を有する。
【0009】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記電解質層における前記湾曲部の深さは、1μm以上、300μm以下であってもよい。
【0010】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記電解質層における前記湾曲部の長さは、0.1mm以上、6mm以下であってもよい。
【0011】
上記固体酸化物型燃料電池の前記電解質層の前記湾曲部において、長さに対する深さの比は、1/2000以上、1/20以下であってもよい。
【0012】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記電解質層の前記湾曲部の底における曲率半径は、0.1mm以上、1000mm以下であってもよい。
【0013】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記金属基板の面内方向における前記貫通孔の径は、0.1mm以上、6mm以下であってもよい。
【0014】
上記固体酸化物型燃料電池の前記金属基板において、前記貫通孔は複数設けられており、複数の前記貫通孔の各中心間の距離は、複数の前記貫通孔の径の1.2倍以上、5倍以下であってもよい。
【0015】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記金属基板と前記アノードとの間に、前記金属基板上に設けられて金属を主成分とする多孔質状の多孔質金属層と、前記多孔質金属層上に設けられ金属成分とセラミックス成分とが混合された混合層とが設けられていてもよい。
【0016】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記電解質層と前記カソードとの間に、酸化物イオン伝導性を有し、前記電解質層と前記カソードとの反応を抑制する中間層を備えていてもよい。
【0017】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記アノードは、電極骨格に担持された触媒を備えていてもよい。
【0018】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法は、アノードと、前記アノード上に設けられ、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を含む電解質層と、を備える積層体を準備する工程と、厚み方向の貫通孔を有する金属基板に前記積層体を密着させる工程と、前記電解質層の前記金属基板とは反対側にカソードを形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、カソードの剥離を抑制しつつ、ガス拡散抵抗を抑制することができる固体酸化物型燃料電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
【
図2】多孔質金属層、混合層、およびアノードの材料の詳細を例示する拡大断面図である。
【
図4】(a)および(b)は貫通孔を説明するための図である。
【
図5】各貫通孔上における各層の形状を例示する図である。
【
図6】貫通孔上における湾曲部の各サイズについて説明するための図である。
【
図8】燃料電池の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0022】
図1は、固体酸化物型の燃料電池100の積層構造を例示する模式的断面図である。
図1で例示するように、燃料電池100は、一例として、金属基板5上に、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40、中間層50、およびカソード60がこの順に積層された構造を有する。複数の燃料電池100を積層させて、燃料電池スタックを構成してもよい。
【0023】
電解質層40は、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を主成分とする固体酸化物電解質層であり、ガス不透過性を有する緻密層である。電解質層40は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウム(ScYSZ)、YSZ(イットリア安定化酸化ジルコニウム)、Gd(ガドリニウム)がCeO2にドープされたGDC(Gdドープセリア)などを主成分とすることが好ましい。ScYSZを用いる場合、Y2O3+Sc2O3の濃度は6mol%~15mol%の間で酸化物イオン伝導性が最も高く、この組成の材料を用いることが望ましい。また、電解質層40の厚みは、20μm以下であることが好ましく、より望ましいのは10μm以下である。電解質は薄いほど良いが、両側のガスが漏れないように製造するためには、1μm以上の厚みが望ましい。
【0024】
カソード60は、カソードとしての電極活性を有する電極であり、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有する。例えば、カソード60は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料を主成分とする。当該セラミックス材料として、例えば、LaCoO3系材料、LaMnO3系材料、LaFeO3系材料などを用いることができる。例えば、LaCoO3系材料として、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)などを用いることができる。LSCは、Sr(ストロンチウム)がドープされたLaCoO3である。
【0025】
中間層50は、電解質層40とカソード60との反応を防止する成分を主成分とする反応防止層である。中間層50の構成材料は、電解質層40の構成材料と異なっている。中間層50は、酸化物イオン伝導性を有しているが、カソードとしての電極活性を有していない。例えば、中間層50は、セリア(CeO2)に添加物が添加された構造を有している。添加物は、特に限定されるものではない。例えば、中間層50は、GDC(例えば、Ce0.8Gd0.2O2-x)などを主成分とする。一例として、電解質層40がScYSZを含有し、カソード60がLSCを含有する場合には、中間層50は、以下の反応を防止する。
Sr+ZrO2→SrZrO3
La+ZrO3→La2Zr2O7
【0026】
図2は、多孔質金属層10、混合層20、およびアノード30の材料の詳細を例示する拡大断面図である。
【0027】
多孔質金属層10は、ガス透過性を有するとともに、混合層20、アノード30、および電解質層40を支持可能な部材である。多孔質金属層10は、複数の空隙を有する金属多孔体であり、例えば、Fe-Cr合金の多孔体などである。
【0028】
アノード30は、アノードとしての電極活性を有する電極であり、セラミックス材料の多孔体(電極骨格)を有する。多孔体には、金属成分が含まれていない。この構成では、高温還元雰囲気での焼成時に、金属成分の粗大化によるアノードの空隙率の低下が抑制される。また、多孔質金属層10の金属成分との合金化が抑制され、触媒機能低下が抑制される。
【0029】
アノード30の多孔体は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有している。アノード30の多孔体は、電子伝導性セラミックス31を含有している。電子伝導性セラミックス31として、例えば、組成式がABO3で表されるペロブスカイト型酸化物であって、AサイトがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BサイトがTi、Crから選ばれる少なくとも1種であるペロブスカイト型酸化物を用いることができる。AサイトとBサイトのモル比は、B≧Aであってもよい。具体的には、電子伝導性セラミックス31として、LaCrO3系材料、SrTiO3系材料などを用いることができる。
【0030】
また、アノード30の多孔体は、酸化物イオン伝導性セラミックス32を含有している。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、ScYSZなどである。例えば、スカンジア(Sc
2O
3)が5mol%~16mol%で、イットリア(Y
2O
3)が1mol%~3mol%の組成範囲を有するScYSZを用いることが好ましい。スカンジアとイットリアの添加量が合わせて6mol%~15mol%となるScYSZがさらに好ましい。この組成範囲で、酸化物イオン伝導性が最も高くなるからである。なお、酸化物イオン伝導性セラミックス32は、例えば、酸化物イオンの輸率が99%以上の材料である。酸化物イオン伝導性セラミックス32として、GDCなどを用いてもよい。
図2の例では、酸化物イオン伝導性セラミックス32として、電解質層40に含まれる固体酸化物と同じ固体酸化物を用いている。
【0031】
図2で例示するように、アノード30において、例えば、電子伝導性セラミックス31と酸化物イオン伝導性セラミックス32とが多孔体を形成している。この多孔体によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の多孔体の表面には、アノード触媒が担持されている。したがって、空間的に連続して形成されている多孔体において、複数のアノード触媒が空間的に分散して配置されている。アノード触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス33と、触媒金属34とが、多孔体の表面に担持されていることが好ましい。酸化物イオン伝導性セラミックス33として、例えば、YがドープされたBaCe
1-xZr
xO
3(BCZY、x=0~1)、YがドープされたSrCe
1-xZr
xO
3(SCZY、x=0~1)、SrがドープされたLaScO
3(LSS)、GDCなどを用いることができる。触媒金属34として、Niなどを用いることができる。酸化物イオン伝導性セラミックス33は、酸化物イオン伝導性セラミックス32と同じ組成を有していてもよいが、異なる組成を有していてもよい。なお、触媒金属34として機能する金属は、未発電時には化合物の形態をとっていてもよい。例えば、Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、アノード触媒として機能する金属の形態をとるようになる。例えば、アノード触媒のD50%粒径は、10nm以上、1μm以下である。
【0032】
なお、燃料電池100は例えば600℃~900℃の高温で発電するため、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子が小さすぎると発電温度で当該セラミックス粒子が焼結し、ガスを流すための空隙が少なくおそれがある。そこで、断面において、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径に下限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径は、0.5μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。なお、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子とは、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32のことである。
【0033】
一方、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子が大きすぎると、比表面積が低下し、電極反応に寄与する三相界面が減少し、発電特性が低下するおそれがある。そこで、断面において、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径に上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の多孔体を構成するセラミックス粒子のD50%径は、3μm以下であることが好ましく、2.5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることがさらに好ましい。
【0034】
アノード30が薄すぎると、電極反応に寄与する三相界面が少なくなり、発電特性が低下するおそれがある。そこで、アノード30の厚みに、下限を設けることが好ましい。たとえば、アノード30の厚みは、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
一方、アノード30が厚すぎると、発電反応に利用されるガスがより長い距離を拡散しなければならない。このガス拡散抵抗を抑えるために、アノード30の厚みに、上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30の厚みは、15μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
アノード30の厚みは、例えば、異なる10点の厚みの平均値を算出することによって得ることができる。
【0037】
アノード30全体における空隙率が低すぎると、燃料ガスが十分に反応せず、発電性能が低下するおそれがある。そこで、アノード30の断面の全体における空隙率に下限を設けることが好ましい。例えば、アノード30全体における空隙率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
一方、アノード30全体における空隙率が高すぎると、層間の密着性が低下し、はがれるおそれがある。そこで、アノード30全体における空隙率に上限を設けることが好ましい。例えば、アノード30全体における空隙率は、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
アノード30全体の空隙率は、断面写真において、アノード30の全体に対する、各空孔の合計面積の比率を算出することによって得ることができる。
【0040】
アノード30において、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32の代わりに、イオン電子混合伝導性セラミックスを用いてもよい。
【0041】
混合層20は、金属材料21とセラミックス材料22とを含有する。混合層20において、金属材料21とセラミックス材料22とがランダムに混合されている。したがって、金属材料21の層とセラミックス材料22の層とが積層されたような構造が形成されているわけではない。混合層20においても、複数の空隙が形成されている。金属材料21は、金属であれば特に限定されるものではない。
図2の例では、金属材料21として、多孔質金属層10と同じ金属材料が用いられている。セラミックス材料22として、電子伝導性セラミックス31、酸化物イオン伝導性セラミックス32などを用いることができる。例えば、セラミックス材料22として、ScYSZ、GDC、SrTiO
3系材料、LaCrO
3系材料などを用いることができる。SrTiO
3系材料およびLaCrO
3系材料は高い電子伝導性を有するため、混合層20におけるオーム抵抗を小さくすることができる。なお、電子伝導性セラミックス31および酸化物イオン伝導性セラミックス32の代わりに、イオン電子混合性伝導性セラミックを用いてもよい。
【0042】
図2で例示するように、混合層20において、例えば、金属材料21とセラミックス材料22とが多孔体を形成している。この多孔体によって、複数の空隙が形成される。空隙部分の多孔体の表面には、複数の改質触媒が担持されている。改質触媒として、複合触媒を用いることが好ましい。例えば、複合触媒として、酸化物イオン伝導性セラミックス23と、触媒金属24とが、多孔体の表面に担持されている。したがって、金属材料21およびセラミックス材料22によって空間的に連続して形成されている多孔体において、複数の酸化物イオン伝導性セラミックス23および触媒金属24が空間的に分散して配置されている。改質触媒は、炭化水素ガスを水素ガスに改質することができるものであれば特に限定されるものではない。触媒金属24と酸化物イオン伝導性セラミックス23との組み合わせとして、例えば、NiとGDCとの組み合わせ、NiとYSZとの組み合わせ、NiとSDC(サマリアドープドセリア)との組み合わせなどを用いることができる。Niは、NiO(酸化ニッケル)の形態をとっていてもよい。これらの化合物は、発電時には、アノード30に供給される還元性の燃料ガスによって還元され、改質触媒として機能する金属の形態をとるようになる。酸化物イオン伝導性セラミックス23は、酸化物イオン伝導性セラミックス33と同じ材料とすることが好ましい。触媒金属24は、触媒金属34と同じ材料とすることが好ましい。
【0043】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。カソード60には、空気などの、酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。カソード60においては、酸素と、外部電気回路から供給される電子とが反応して酸化物イオンになる。酸化物イオンは、電解質層40を伝導してアノード30側に移動する。
【0044】
一方、金属基板5には、炭化水素ガス、水蒸気などを含有する燃料ガスが供給される。燃料ガスは、多孔質金属層10の空隙を介して混合層20に到達する。燃料ガスは、混合層20の触媒金属24の触媒作用により、水素ガスを含む改質ガスに改質される。改質反応は、例えば、下記式で表すことができる。
2CH4 + 2H2O → CO + 6H2 + CO2
【0045】
改質ガスは、混合層20の空隙を介してアノード30に到達する。アノード30に到達した水素は、アノード30において電子を放出するとともに、カソード60側から電解質層40を伝導してくる酸化物イオンと反応して水(H2O)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード60に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0046】
以上の発電反応において、触媒金属24は、改質反応の触媒として機能する。触媒金属34は、水素と酸化物イオンとの反応における触媒として機能する。電子伝導性セラミックス31は、水素と酸化物イオンとの反応によって得られる電子の伝導を担う。酸化物イオン伝導性セラミックス32は、電解質層40からアノード30に到達した酸化物イオンの伝導を担う。
【0047】
このように、本実施形態に係る燃料電池100では、燃料ガスの改質と発電とが燃料電池100の内部で行なわれている。
【0048】
燃料電池100の発電性能は、セルの内部抵抗に大きく依存する。内部抵抗は、酸化物イオンの伝導に由来するオーム抵抗、アノード30およびカソード60で生じる化学反応に由来する反応抵抗、そして気相分子の移動に由来する拡散抵抗など、様々な抵抗成分で構成されている。一般的には、これらの内部抵抗成分を抑えることで発電性能が向上することが知られており、抵抗抑制のための研究開発が盛んに行われている。
【0049】
燃料電池100は、例えば、700℃以上の高温運転を特徴とする。そのため、昇降温の繰り返しで、各機能層間で熱膨張率の違いにより、界面剥がれが生じるおそれがある。そのため、熱サイクルに強い、界面間の密着性を向上させることが求められる。例えば、カソード60を覆うように密着層を設けることで、カソード60の剥離を抑制することが考えられる。しかしながら、この手法では、密着性が向上するものの、カソード60を覆う密着層の存在が、ガス拡散抵抗の増加を引き起こす。このことから、カソード60の機能性の向上には、カソード60への空気流入を阻害する層を設けずに、反応抵抗および剥離の抑制を達成することが求められる。
【0050】
そこで、本実施形態に係る燃料電池100は、カソード60の剥離を抑制しつつ、ガス拡散抵抗を抑制することができる構成を有している。以下、カソード60の剥離を抑制しつつ、ガス拡散抵抗を抑制することができる構成について説明する。
【0051】
図3は、金属基板5の斜視図である。金属基板5の材料は、例えば、SUS430、SUS304、Crofer22などである。金属基板5の厚みは、例えば、0.1mm以上1mm以下である。
図3で例示するように、金属基板5は、厚み方向に貫通する1または複数の貫通孔51を有している。貫通孔51は、空隙になっていて気体以外の物質が存在していないことが好ましいが、他の部材が部分的に延在してきていてもよい。貫通孔51が備わっていることで、燃料ガスの通気性が向上する。ただし、貫通孔51が小さすぎると、金属基板5が十分な通気性を実現しないおそれがある。そこで、本実施形態においては、貫通孔51のサイズに下限を設ける。具体的には、金属基板5の面内方向において、貫通孔51の径を0.1mm以上とする。一方、貫通孔51が大きすぎると、多孔質金属層10を形成するためのペーストが貫通孔51内に入り込んで十分な通気性が得られないおそれがある。そこで、本実施形態においては、貫通孔51のサイズに上限を設ける。具体的には、貫通孔51の径を6mm以下とする。
【0052】
例えば、貫通孔51は、
図4(a)で例示するように、金属基板5に対する平面視で円形状を有している。金属基板5に対する平面視において、当該円形状は、0.1mm以上、6mm以下の直径を最大長さLとして有している。
図4(b)で例示するように、貫通孔51は、金属基板5に対する平面視で矩形状などの他の形状を有していてもよい。この場合には、貫通孔51は、0.1mm以上、6mm以下の対角線を最大長さLとして有している。これらのように、貫通孔51の径とは、金属基板5に対する平面視において、最大長さのことを意味する。
【0053】
良好な通気性を得る観点から、貫通孔51の径は、0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。また、多孔質金属層10を形成するためのペーストが貫通孔51内に入り込むことを抑制する観点から、貫通孔51の径は、6mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがより好ましい。
【0054】
金属基板5に複数の貫通孔51が設けられている場合には、各貫通孔51の径の平均値が、0.1mm以上であり、1mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、6mm以下であり、4mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
【0055】
金属基板5の面内において、貫通孔51同士の距離(ピッチP)が短いと、金属基板5の強度が低下し、燃料電池スタックを組み立てる際に割れるおそれがある。そこで、貫通孔51同士のピッチPに下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、ピッチPとは、所定の貫通孔51に着目した場合に、当該所定の貫通孔51の中心Oと、隣りの貫通孔51の中心Oとの距離を意味する。ピッチPは、当該所定の貫通孔51の径の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。なお、貫通孔51の中心とは、最大長さの中心のことを意味する。
【0056】
金属基板5に3以上の貫通孔51が設けられている場合には、隣り合う貫通孔51同士の中心間距離(ピッチP)の平均値は、各貫通孔51の径の1.2倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることがさらに好ましい。
【0057】
金属基板5の面内において、ピッチPが長いと十分な通気性が得られないおそれがある。そこで、ピッチPに上限を設けることが好ましい。例えば、ピッチPは、当該所定の貫通孔51の径の5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。
【0058】
金属基板5に3以上の貫通孔51が設けられている場合には、隣り合う貫通孔51同士の中心間距離(ピッチP)の平均値は、各貫通孔51の径の5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3倍以下であることがさらに好ましい。
【0059】
図5は、各貫通孔51上における各層の形状を例示する図である。
図5で例示するように、各貫通孔51に対して積層方向で対応する各領域において、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40、および中間層50は、貫通孔51の方向に向かって凸になるように湾曲する湾曲部を有している。すなわち、燃料電池100に対する平面視において、各貫通孔51の領域において、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40、および中間層50は、貫通孔51に対して凸になるような湾曲部を有している。
【0060】
カソード60は、電解質層40側の表面に、上記湾曲部に向かって突出する突出部61を有している。カソード60は、層の全体が湾曲することによって突出部61を有していてもよいが、層の一部が電解質層40側に突出することによって突出部61を有していてもよい。したがって、カソード60の電解質層40とは反対側の面は、凹んでいてもよいが、平坦になっていてもよい。
【0061】
この構成によれば、多孔質金属層10と混合層20との接触界面、混合層20とアノード30との接触界面、アノード30と電解質層40との接触界面、電解質層40と中間層50との接触界面、および中間層50とカソード60との接触界面が大きくなる。それにより、密着層でカソード60を覆わなくてもカソード60を密着させることができる。それにより、ガス拡散抵抗を抑制しつつ、カソード60の剥離を抑制することができる。また、カソード60が中間層50に対して接触する面積が大きくなるため、カソード反応面積が増加し、カソード反応抵抗を抑制することができる。以上のことから、本実施形態によれば、カソード60の剥離を抑制しつつ、内部抵抗を抑制することができる。
【0062】
多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40、および中間層50の湾曲部の形状は、特に限定されるものではない。例えば、湾曲部の形状は、半球状、略半球状、円錐状、略円錐状、矩形錘状などであってもよい。
【0063】
図6は、貫通孔51上における湾曲部の各サイズについて説明するための図である。各サイズを測定するためには、燃料電池100を樹脂に埋め、各層の積層断面を出せる程度まで研磨を行う。その後、研磨面に対してCP(Cross section polisher)加工を行うことで、きれいな断面を出すことができる。その後、断面をSEM-EDS観察を行うことで、各サイズを測定することができる。また、酸によりカソード60を溶解させて除去した後、レーザ顕微鏡により、電解質層40または中間層50の表面に対して測定を行うことで、湾曲部の三次元形状を測定することができる。以下の説明における各寸法は、電解質層40の湾曲部において、貫通孔51とは反対側の表面形状における寸法である。
【0064】
(寸法a)
寸法aは、電解質層40の湾曲部の深さであって、底41と平坦面42との垂直距離(燃料電池100の各層の積層方向の深さ)である。寸法aは、CP加工した断面に対してSEM(走査型電子顕微鏡)で観察を行い、数カ所の写真を撮り、電解質層40の表面側における湾曲部の底41と平坦面42との垂直距離を20カ所で測定した場合の平均値とすることができる。
【0065】
寸法aが大きいと、多孔質金属層10の金属基板5側が貫通孔51から突出することになる。そこで、寸法aに上限を設けることが好ましい。例えば、寸法aは、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0066】
一方、寸法aが小さいと、カソード60の密着性が低下するおそれがある。そこで、寸法aに下限を設けることが好ましい。例えば、寸法aは、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0067】
(寸法b)
寸法bは、電解質層40の湾曲部の長さであって、積層方向に垂直な方向(各層が延びる方向)における湾曲部の長さである。多孔質金属層10からカソード60までの各層における接触界面を最大とするためには、寸法bが貫通孔51の径と一致することが好ましい。したがって、寸法bは、0.1mm以上、6mm以下の範囲に収まることが好ましい。
【0068】
なお、寸法bの開始点は、CP加工した断面に対してSEM(走査型電子顕微鏡)で観察を行い、電解質層40の表面側における電解質面の、積層方向に垂直な方向(各層が延びる方向)において変曲点となっている箇所と定義することができる。
【0069】
(a/b比)
a/b比の値が高いほど、電解質層40の湾曲部となる部分にカソード材料がより多く充填される。本実施形態においては、a/b比は、1/2000以上であることが好ましく、1/1000以上であることがより好ましく、1/500以上でありことがさらに好ましい。
【0070】
一方、a/b比の値が高過ぎるとカソード60が中間層50上に印刷されないおそれがある。そこで、a/b比に上限を設けることが好ましい。例えば、a/b比は、1/20以下であることが好ましく、1/30以下であることがより好ましく、1/40以下であることがさらに好ましい。
【0071】
(寸法c)
図7は、寸法cについて説明するための図である。寸法cは、電解質層40の湾曲部の底41における曲率半径である。寸法cは、酸によりカソード60を溶解させて除去した後、電解質層40または中間層50の表面に対してレーザ顕微鏡により数カ所の三次元形状測定を行い、電解質層40の表面側における湾曲構造の底41と、底41を中心として左右にb/4の箇所2点の、合計3点を用いて測定された曲率半径である。この曲率半径を20カ所で測定した場合の平均値を寸法cと定義することができる。
【0072】
寸法cが小さいと、湾曲部の底41に割れが発生するおそれがある。そこで、寸法cに下限を設けることが好ましい。例えば、寸法cは、0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることがさらに好ましい。
【0073】
一方、寸法cが大きいと、密着性向上の効果が現れなくなるおそれがある。そこで、寸法cに上限を設けることが好ましい。例えば、寸法cは1000mm以下であることが好ましく、800mm以下であることがより好ましく、600mm以下であることがさらに好ましい。
【0074】
以下、燃料電池100の製造方法について説明する。
図8は、燃料電池100の製造方法のフローを例示する図である。
【0075】
(金属基板の作製工程)
金属基板5を用意し、機械加工で貫通孔を一定間隔で形成する。例えば、金属基板5として、厚み0.2mm~1mmのステンレス板(例えば、SUS430など)などを用い、機械加工で0.1mm以上5mm以下の貫通孔を一定間隔で形成する。
【0076】
(多孔質金属層用材料の作製工程)
多孔質金属層用材料として、金属粉末(例えば、粒径が10μm~100μm)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、消失材(有機物)、バインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。多孔質金属層用材料は、多孔質金属層10を形成するための材料として用いる。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と金属粉末との体積比は、例えば1:1~20:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。多孔質金属層用材料の金属粉末には、Niを含ませないことが好ましい。
【0077】
(混合層用材料の作製工程)
混合層用材料として、セラミックス材料22の原料であるセラミックス材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、金属材料21の原料である小粒径の金属材料粉末(例えば、粒径が1μm~10μm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と、セラミックス材料粉末および金属材料粉末と、の体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。セラミックス材料粉末は、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末とを含んでいてもよい。この場合、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とすることが好ましい。また、電子伝導性材料の代わりに電解質材料ScYSZ、GDCなどを用いても界面のはがれが無く、セルの作製が可能である。ただし、オーム抵抗を小さくする観点から、電子伝導性材料と金属粉末とを混合することが好ましい。
【0078】
(アノード用材料の作製工程)
アノード用材料として、電極骨格を構成するセラミックス材料粉末、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。電極骨格を構成するセラミックス材料粉末として、電子伝導性セラミックス31の原料である電子伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、酸化物イオン伝導性セラミックス32の原料である酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)などを用いてもよい。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と電子伝導性材料粉末との体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とする。
【0079】
(電解質層用材料の作製工程)
電解質層用材料として、酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、ScYSZ、YSZ、GDCなどであって、粒径が10nm~1000nm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比は、例えば6:4~3:4の範囲とする。
【0080】
(焼成工程)
まず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、多孔質金属層用材料を塗工することで、多孔質金属グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、混合層用材料を塗工することで、混合層グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、アノード用材料を塗工することで、アノードグリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、電解質層用材料を塗工することで、電解質層グリーンシートを作製する。例えば、多孔質金属グリーンシートを複数枚、混合層グリーンシートを1枚、アノードグリーンシートを1枚、電解質層グリーンシートを1枚、順に積層し、所定の大きさにカットする。その後、酸素分圧が10-20atm以下の還元雰囲気において1100℃~1300℃程度の温度範囲で焼成する。それにより、多孔質金属層10、混合層20、アノード30の電極骨格、電解質層40を備えるハーフセルを得ることができる。これらの多孔質金属層10、混合層20、アノード30の電極骨格、および電解質層40は、焼結体である。炉内に流す還元ガスは、H2(水素)を不燃ガス(Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)、N2(窒素)など)で希釈したガスであってもよく、H2が100%のガスであってもよい。安全を考慮して、爆発限界までの上限を設けることが好ましい。例えば、H2とArの混合ガスの場合には、H2の濃度は4体積%以下であることが好ましい。
【0081】
(金属基板への密着工程)
ハーフセルを機械加工後の金属基板5の上に載せて、ホットプレス機を用いて荷重をかけ、不活性ガス雰囲気、あるいは、還元雰囲気にて焼成を行う。荷重は、例えば、10t以上20t以下である。焼成することによって、多孔質金属層10および金属基板5の材料が互いに拡散する。それにより、多孔質金属層10を金属基板5に密着させることができる。
【0082】
(アノード含浸工程)
次に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34の原料を、アノード30の電極骨格内に含浸させる。例えば、還元雰囲気で所定の温度で焼成するとGdドープセリアあるいはSc,YドープジルコニアとNiが生成するように、Zr、Y、Sc、Ce、Gd、Niの各硝酸塩または塩化物を水またはアルコール類(エタノール、2-プロパノール、メタノールなど)に溶かし、ハーフセルを含浸、乾燥させ、熱処理を必要回数繰り返す。
【0083】
(中間層形成工程)
中間層50に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックス(GDC、SDCなど)を、例えばPVD(物理気相成長)、PLD(パルスレーザアブレーション成膜)により電解質層40上に成膜することで、中間層50を成膜する。
【0084】
(カソード用材料の作製工程)
カソード用材料として、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:LaSrCoO3)等の導電性セラミックス粉末を溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と、LSC粉末との体積比は、例えば6:4~1:4の範囲とする。
【0085】
(カソードの形成工程)
中間層上に、スクリーン印刷によって、作製したカソード用材料を印刷する。その後、窒素などの中性雰囲気において1000℃で焼成する。以上の工程により、酸化物系燃料電池が完成する。
【0086】
本実施形態に係る製造方法によれば、多孔質金属層用材料、混合層用材料、アノード用材料、および電解質材料が積層された金属基板5に対して加重をかけて焼成することで、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、および電解質層40が貫通孔51に対して凸に湾曲するように湾曲部を形成することができる。当該湾曲部上に中間層50を形成することで、中間層50にも、貫通孔51に対して凸に湾曲するように湾曲部を形成することができる。当該湾曲部上にカソード60を形成することで、カソード60に、貫通孔51に向かって突出する突出部61を形成することができる。この構成によれば、多孔質金属層10と混合層20との接触界面、混合層20とアノード30との接触界面、アノード30と電解質層40との接触界面、電解質層40と中間層50との接触界面、および中間層50とカソード60との接触界面が大きくなる。それにより、密着層でカソード60を覆わなくてもカソード60を密着させることができる。それにより、ガス拡散抵抗を抑制しつつ、カソード60の剥離を抑制することができる。また、カソード60が中間層50に対して接触する面積が大きくなるため、カソード反応面積が増加し、カソード反応抵抗を抑制することができる。以上のことから、カソード60の剥離を抑制しつつ、内部抵抗を抑制することができる。
【0087】
また、金属基板5に0.1mm以上6mm以下の貫通孔51を形成することから、十分な通気性が得られる。また、金属基板5上に、多孔質状の多孔質金属層10が設けられていることから、ガスの透過性を実現しつつ、金属基板5と混合層20との密着性が向上する。さらに、多孔質金属層10とアノード30との間に、金属成分およびセラミックス成分の両方を備える混合層20が設けられていることから、多孔質金属層10とアノード30との密着性が向上する。したがって、金属基板5とアノード30との密着性が向上する。以上のように、本実施形態に係る燃料電池100は、金属基板5とアノード30との密着性と、金属基板5の通気性とを両立することができる。
【0088】
また、アノード30の焼成後に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34を含浸させるため、焼成時に触媒が他の部材と反応することなどが防止される。
【実施例0089】
上記実施形態に係る製造方法に従って、燃料電池100を作製した。
【0090】
(実施例1)
機械加工で金属板に直径4mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で形成した。その後、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40を備えるハーフセルを、金属基板5の上に載せて、荷重をかけて焼結した。金属基板5を密着させたハーフセルのアノード30の電極骨格内に、酸化物イオン伝導性セラミックス33および触媒金属34の原料を含浸させた。その後、電解質層の上に、中間層として、GDCをPVD法で成膜した。中間層の上に、カソード用のLSCのペーストを印刷し、N2雰囲気において1000℃で焼成した。
【0091】
積層方向に沿った断面を観察し、金属基板の各貫通孔に対応する箇所において電解質層の湾曲部の深さ(寸法a)を調べたところ、平均値は26μmであった。当該湾曲部の長さ(寸法b)を調べたところ、平均値は4mmであった。a/b比は、0.0065であった。また、湾曲部の底における曲率半径(寸法c)を調べたところ、平均値は169mmであった。発電評価を行い、インピーダンス測定で分離したカソードにおける反応抵抗は、0.45Ω・cm2であった。また、カソードの、中間層からの剥離は発生しなかった。
【0092】
(実施例2)
機械加工で金属基板に直径4mmの貫通孔を7mmピッチで形成した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0093】
積層方向に沿った断面を観察し、金属基板の各貫通孔に対応する箇所においてカソードの湾曲部の深さ(寸法a)を調べたところ、平均値は27μmであった。当該湾曲部の長さ(寸法b)を調べたところ、平均値は4mmであった。a/b比は、0.0068であった。また、湾曲部の底における曲率半径(寸法c)を調べたところ、平均曲率半径は166mmであった。発電評価を行い、インピーダンス測定で分離したカソードにおける反応抵抗は、0.39Ω・cm2であった。また、カソードの、中間層からの剥離は発生しなかった。これは、実施例1と比べて、貫通孔が増加し、湾曲構造を有する箇所が増え、中間層とカソードの接触界面が増加したため、結果的にカソードの反応抵抗が減少したからであると考えられる。
【0094】
(実施例3)
レーザ加工で金属基板に直径0.1mmの貫通孔を0.25mmピッチで形成した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0095】
積層方向に沿った断面を観察し、金属基板の各貫通孔に対応する箇所においてカソードの湾曲部の深さ(寸法a)を調べたところ、平均値は0.29μmであった。当該湾曲部の長さ(寸法b)を調べたところ、平均値は0.1mmであった。a/b比は、0.0029であった。また、湾曲部の底における曲率半径(寸法c)を調べたところ、平均値は433mmであった。発電評価を行い、インピーダンス測定で分離したカソードにおける反応抵抗は、0.50Ω・cm2であった。また、カソードの、中間層からの剥がれは発生しなかった。これは、実施例1と比較して、金属基板の貫通孔の直径が非常に小さいため、ガス拡散が律速となり、カソードの反応抵抗が増加したからであると考えられる。
【0096】
(実施例4)
機械加工で金属基板に直径6mmの貫通孔を10mmピッチで形成した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0097】
積層方向に沿った断面を観察し、金属基板の各貫通孔に対応する箇所においてカソードの湾曲部の深さ(寸法a)を調べたところ、平均値は74μmであった。当該湾曲部の長さ(寸法b)を調べたところ、平均値は6mmであった。a/b比は、0.012であった。また、湾曲部の底における曲率半径(寸法c)を調べたところ、平均曲率半径は51mmであった。発電評価を行い、インピーダンス測定で分離したカソードにおける反応抵抗は、0.33Ω・cm2であった。また、カソードの、中間層からの剥がれは発生しなかった。これは、実施例1と比べて、貫通孔の径が大きくなり、より湾曲したことで寸法aが増加し、中間層とカソードの接触界面が増加したため、結果的にカソードの反応抵抗が減少したからであると考えられる。
【0098】
(比較例)
機械加工で金属板に直径4mmの貫通孔を10mmピッチ(中心間距離)で形成した。その後、多孔質金属層10、混合層20、アノード30、電解質層40を備えるハーフセルを、金属基板5の上に載せて、荷重をかけないで焼結した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0099】
積層方向に沿った断面を観察したところ、多孔質金属層から中間層まで、湾曲構造は存在しなかった。また、カソードの焼成後にカソードが中間層から剥離したため、発電評価を行うことができなかった。これは、実施例1と比較して、中間層とカソードの接触界面が少なく、焼結時の熱膨張で発生する界面応力を緩和できなかったためと考えられる。
【0100】
実施例1~4および比較例の結果を表1に示す。以上の結果から、比較例と比較して、実施例1~4では中間層とカソードの剥離が抑制された。これは、金属基板に貫通孔を設けて荷重をかけることで、貫通孔上のセル全体に、湾曲部が形成され、カソードが電解質層側に対して突出する突出部を有すようになり、結果的に中間層とカソードの接触界面が増加し、密着性が向上したからであると考えられる。また、同様に、実施例1~4ではカソードの反応抵抗を低くできていることがわかる。これも、中間層とカソードの接触界面が増加したからであると考えられる。
【表1】
【0101】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。