(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083936
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】帯電防止樹脂板
(51)【国際特許分類】
F28F 13/16 20060101AFI20240617BHJP
F28F 21/06 20060101ALI20240617BHJP
F28F 21/04 20060101ALI20240617BHJP
F24F 1/0076 20190101ALI20240617BHJP
F25B 39/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
F28F13/16
F28F21/06
F28F21/04
F24F1/0076
F25B39/00 S
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198037
(22)【出願日】2022-12-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和 3年12月23日より刊行物にて公開 〔刊行物等〕 令和 3年12月23日よりウェブサイトにて公開
(71)【出願人】
【識別番号】510228581
【氏名又は名称】株式会社サンライズコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100207251
【弁理士】
【氏名又は名称】矢島 弘文
(72)【発明者】
【氏名】河村 信之
【テーマコード(参考)】
3L051
【Fターム(参考)】
3L051BC10
(57)【要約】
【課題】負の帯電効果の大きい帯電防止樹脂板を提供。
【解決手段】空調機の吸気部における熱交換器の前方に吸気部の壁面に接して設置することで、熱交換効率を上げるための帯電防止樹脂板であって、主材料がABS樹脂の合成樹脂であって、合成樹脂の添加材が、主材料に対して8~10質量%のモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体であり、表面には、表裏にかけて円形または多角形、またはこれらの組み合わせの形状の貫通孔を複数個有し、外周枠には、各辺に、別の個体と上下左右に連結可能とするための連結部を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機の吸気部における熱交換器の前方に前記吸気部の壁面に接して設置することで、熱交換効率を上げるための帯電防止樹脂板であって、
前記帯電防止樹脂板は、
主材料がABS樹脂の合成樹脂であって、前記ABS樹脂の添加材が、前記主材料に対して8~10質量%のモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体である、板状の合成樹脂板であり、
前記帯電防止樹脂板の表面には、前記帯電防止樹脂板の表裏にかけて円形または多角形、またはこれらの組み合わせの形状の貫通孔を複数個有し、
前記帯電防止樹脂板の外周枠には、各辺に、前記帯電防止樹脂板の別の個体と上下左右に連結可能とするための連結部を有する、
ことを特徴とする帯電防止樹脂板。
【請求項2】
請求項1に記載の帯電防止樹脂板であって、さらに、
前記モンモリロナイト鉱物が純度98%以上であることを特徴とする帯電防止樹脂板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周辺物の帯電を防止する樹脂板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、空調機の吸気部における熱交換器の前方に設置して吸気する空気(樹脂板の周辺の空気)の正の帯電を防止する帯電防止樹脂板として、板状であって厚さ方向に貫通する通気穴を有し、モンモリロナイト系粘土鉱物の未焼成粉体を溶解させたポリエチレン又はポリプロピレンの熱可塑性樹脂からなる網状樹脂成形体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
空調機は、一般に空調機内部のファン駆動などの影響で筐体や内部部品が正に帯電しやすい。すると、吸気部のグリル部から吸気された空気は、グリル部や集塵フィルタに接触することよって正に帯電する。正に帯電した空気は、その後通過する流路や熱交換器のフィンなどの正に帯電した壁面との間で斥力が生じ、本来の理想的な流れ状態にならずに、熱交換の効率が低下するのである。
帯電防止樹脂板とは、負に帯電した帯電防止樹脂板を吸気部に配置することで、正に帯電した空気の帯電を中和させて、その後の流路等における本来の理想的な流れ状態を取り戻す、すなわち整流化を可能として、熱交換の効率の低下を防止するというものである。
しかし、特許文献1による帯電防止樹脂板は、負の帯電量が低くグリル部や集塵フィルタによって正に帯電した空気の負の電位化(中和)が十分なされないため、その結果、吸入空気を整流化する効果が十分得られず、熱交換効率を十分向上させ得ないという間題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこれら問題点に鑑み、帯電防止樹脂板の主材料である樹脂材およびその添加材に、負の帯電効果の非常に大きい材料を用いることで、グリル部や集塵フィルタによって正に帯電した空気の負の電位化(中和)が十分行われ、吸入空気を整流化する効果を十分得て、その結果、熱交換効率を十分向上させることが可能な帯電防止樹脂板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明による帯電防止樹脂板は、空調機の吸気部における熱交換器の前方に吸気部の壁面に接して設置することで、熱交換効率を上げるための帯電防止樹脂板であって、帯電防止樹脂板は、主材料がABS樹脂の合成樹脂であって、合成樹脂の添加材が、主材料に対して8~10質量%のモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体である、板状の合成樹脂板であり、帯電防止樹脂板の表面には、帯電防止樹脂板の表裏にかけて円形または多角形、またはこれらの組み合わせの形状の貫通孔を複数個有し、帯電防止樹脂板の外周枠には、各辺に、帯電防止樹脂板の別の個体と上下左右に連結可能とするための連結部を有する、ことを特徴とする。
第2の発明による帯電防止樹脂板は、第1の発明の帯電防止樹脂板であって、さらに、当該モンモリロナイト鉱物が98%以上の純度であることを特徴とする帯電防止樹脂板。
【発明の効果】
【0006】
本発明の帯電防止樹脂板は、主材料がABS樹脂の合成樹脂であって、当該主材料は、ポリエチレンやポリプロピレンと比較して、モンモリロナイト鉱物と混ざりやすい特性を有する。すると、モンモリロナイト鉱物が均等に分布され、モンモリロナイト鉱物の分子の合成樹脂内の位置的な偏りが少なくなる。これにより、樹脂板形成の際に、樹脂材の添加材であるモンモリロナイト鉱物の分子レベルでの陽イオン交換性をより高め、モンモリロナイト鉱物の負の帯電効果が向上する。そのため、主材料のABS樹脂の負に帯電しやすい特性との相乗効果により、主材料がポリエチレンやポリプロピレンである場合と比較して、樹脂板の負の帯電性がより向上する。よって、グリル部や集塵フィルタによって正に帯電した空気の負の電位化(中和)が十分行われ、吸入空気を整流化する効果を十分得て、その結果、熱交換効率を十分向上させることが可能な帯電防止樹脂板を提供できるという効果を奏する。
本発明の帯電防止樹脂板であって、当該モンモリロナイト鉱物が98%以上の純度であるものは、純度の低いものがモンモリロナイト鉱物以外の不純物を多く含むのに対して、不純物が微少であるため不純物による影響を殆ど受けない。そのため、帯電防止樹脂板の分子レベルでの陽イオン交換性をより高め樹脂板の負の帯電性がより向上する。よって、グリル部や集塵フィルタによって正に帯電した空気の負の電位化(中和)が十分行われ、吸入空気を整流化する効果を十分得て、その結果、熱交換効率を十分向上させることが可能な帯電防止樹脂板を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施例における帯電防止樹脂板を含む吸気部の構造を示す断面概略図である。
【
図2】第1の実施例における帯電防止樹脂板の一例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は底面図、である。である。
【
図3】第1の実施例における帯電防止樹脂板の一例を示す斜視図である。
【
図4】第1の実施例における比較実験を表した散布図であって、本実施例(高純度品と低純度品)と従来技術(従来品)の帯電防止樹脂板の各モンモリロナイト含有量に対する表面電位を表している。
【
図5】第1の実施例における比較実験を表したグラフであって、本実施例の高純度品と低純度品とについて、各線形部分を直線で表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明による帯電防止樹脂板の実施例を説明する。
本発明において、空調機とは、取り込んだ空気を熱交換器を利用して熱交換することで、最終的にある空間に冷風または/かつ温風を排出し当該ある空間の空気の温度を調整する機能を有する機器のことと定義する。よって、セントラル方式や個別方式などの方式の違い、または、業務用や家庭用など用途の違いには依存しないものとする。
吸気部とは、空調機が空気取り組み口(グリル形状になっていることが多いため、以降「グリル部」と呼ぶ)から空気を取り込み、熱交換器により熱交換する際の、グリル部から熱交換器までの部分のことと定義する。
純度とは、ベントナイト鉱物の原材料であるベントナイト中に含まれる主成分としてのベントナイト鉱物の含有率(質量%)のことと定義する。
【実施例0009】
図1から
図3を用いて、本実施例に係る帯電防止樹脂板13について説明する。
図1は、帯電防止樹脂板13を含む吸気部1の構造を示す断面概略図である。すなわち、帯電防止樹脂板13を、空調機の吸気部1における熱交換器14の前に設置した場合の、吸気部1全体の構造を示す断面模式図である。
図2は、帯電防止樹脂板13の広い面積部分の一方を正面とした場合の、正面図(a)、右側面図(b)、底面図(c)である。
図3は、帯電防止樹脂板13を正面に対して右斜めから見た場合の斜視図である。
ここで、
図2(a)と
図3の帯電防止樹脂板13の上辺、左辺については符号を示していないが、上辺は右辺、左辺は下辺の符号と同様である。
また、貫通孔131については、
図2(a)と
図3の帯電防止樹脂板13において、四角形(ひし形)の1つの貫通孔のみを示しているが、その他の四角形(ひし形)と三角形の孔形状のものは全て貫通孔である。
【0010】
[本実施例における帯電防止樹脂板の説明]
本実施例は、例としてエアコンディショナ―の室内機における吸気部1に本発明の帯電防止樹脂板13を利用した場合の実施例である。
吸気部1は、
図1に示すように、室内の空気を取り込むためのグリル部11、取り込んだ空気から塵や微粒子等を除去するための集塵フィルタ12、正に帯電した空気の負の電位化(中和)を行い吸入空気を整流化するための本発明の帯電防止樹脂板13、当該帯電防止樹脂板13を通過した空気を熱交換するための熱交換器14、からなる。
帯電防止樹脂板13は、熱交換器14より前に吸気部の壁面15に接して設置する。
帯電防止樹脂板13は、主材料をABS樹脂とし、添加材をモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体とし、
図2、
図3に示すように板状の形状として射出成型により成型した合成樹脂板である。
ここで実際の添加材はベントナイトであって、その成分としては、主成分としてのモンモリロナイト鉱物以外に、不純物として、石英,長石,方解石(カルサイト),ゼオライト等を含む。純度が高ければ、これらの不純物の含まれる割合が低いことになる。
主材料をABS樹脂としたのは、後述するように、ポリエチレンやポリプロピレンと比較して、モンモリロナイト鉱物と混ざりやすい特性を有するので、成型後(完成後)の帯電防止樹脂板13としてより大きい負の帯電効果が望めるためである。
当該合成樹脂板の表面には、表裏にかけて四角形(ひし形)と三角形の組み合わせの多角形の貫通孔131が複数個有する。
貫通孔131は、正に帯電した空気を貫通孔131に通すことで負に帯電した帯電防止樹脂板13による空気の帯電の中和を実行すると同時に、熱交換器14へ空気を送るための孔である。
当該合成樹脂板の外周枠132には連結部である凸部133と凹部134が形成され、別の個体の本発明の合成樹脂板と上下左右に連結して当該帯電防止樹脂板13の大きさを調整することが可能となっている。
【0011】
[本実施例における帯電防止樹脂板と従来技術との比較評価]
形状・大きさとしては、本実施例、従来技術(従来品)共に、上下方向の幅200mm、左右方向の長さ250mm、厚さ2.3mmの
図2、
図3に示す形状の合成樹脂板(各一枚)を用いた。
合成樹脂板は、本実施例として、ABS樹脂に対して4~12質量%のモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体を混ぜて成型したものである。モンモリロナイト鉱物の純度により、当該純度が98%の高純度品と、当該純度が75%の低純度品を用意した。なお、モンモリロナイト鉱物の4~12質量%とは、高純度品・低純度品共に、ABS樹脂に対する実際に含まれるモンモリロナイト鉱物の質量%を示している。
比較対象の従来品は市販品であり、ポリエチレンに5質量%のモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体を混ぜて成型したものである。
使用した表面電位の測定器は、本実施例、従来技術共に、アズワン製 表面電位測定器 YC-102である。
比較評価結果を表1に示す。
表1の横方向は、測定位置を変えての測定結果(各10か所の測定)、資料A~資料Cは、本実施例の帯電防止樹脂板13の個体モンモリロナイト鉱物の含有量(質量%)による相違を示している。
なお表1には、今回比較評価を行った結果ではないが、従来技術の資料として特許文献1に示された、ポリエチレンに10質量%のモンモリロナイト鉱物の未焼成粉体を混ぜて成型したものの評価結果を従来品の試料:特許文献1として示している。
図4には、表1の結果を散布図で示した図が示されている。
図4からモンモリロナイト鉱物の含有量に関わらず全体的に本実施例が従来技術と比較して表面電位の絶対値(平均値)が大きくなっており、本実施例が優位性を有することが判る。
また表1から、特にモンモリロナイト鉱物の含有量が10質量%において、平均値で、従来品(特許文献1)-261Vに対して低純度品でもー309Vと約1.2倍の表面電位、高純度品ではー450と約1.7倍の表面電位が達成され、本実施例が大きな優位性を有することが判る。
ここで特許文献1の測定器は本実施例の測定器とは異なるため、特にモンモリロナイト鉱物の含有量が10質量%の場合において、従来品と本実施例とで測定条件が同一でなく正確な比較にならない可能性がある。しかし万が一、本実施例の測定器が特許文献1の測定器よりも絶対値として高めに測定されるものであったとしても、特許文献1の記載から従来品は5質量%を超えたところにおいては表面電位に飽和状態が生じていると推考される。すると、従来品について2~5質量%で本実施例の近似線(後述する
図5)と並行直線で表面電位が変化していても10質量%の値(本実施例の測定器で測定したと仮定した値)としては、表1や
図4で示された値よりも大きくは変わらないと考えられる。
よって上述の通り、10質量%において、従来品と比較して本実施例が大きな優位性を有することが判る。
【0012】
【0013】
[本実施例における帯電防止樹脂板の空調機消費電力に関する評価]
表2は夏場、表3は冬場において、ある空調機に対して、第1の実施例における高純度品でかつモンモリロナイト含有量8質量%品のものを使用した場合と、使用しない場合についての、消費電力と消費電力低減効果を示した表である。
夏場は帯電防止樹脂板を設置しない場合と比較して24.4%、冬場は30.1%の消費電力低減効果があり、本発明の帯電防止樹脂板により空調機の熱交換器における熱交換効率を十分向上させていることが判る。
【0014】
【0015】
[本発明による帯電防止樹脂板の条件限定について]
なお本実施例では、エアコンディショナ―の室内機における吸気部についての例としている。しかし本発明は、取り込んだ空気を熱交換器を利用して熱交換する部分(吸気部)が含まれる空調機の吸気部に使用されるものであるため、本発明においては、空調機としてはエアコンディショナ―に限定されるものではなく、吸気部としても、室内機の吸気部に限定されるものでもない。
また本実施例では、吸気部に集塵フィルタを含む例とている。しかし本発明においては、前述のように、取り込んだ空気を熱交換器を利用して熱交換する部分(吸気部)が含まれる空調機の吸気部に使用されるものであるため、エアコンディショナ―の室外機のように集塵フィルタの無い吸気部に使用するものであってもよい。
また本実施例では、合成樹脂板の添加材を、主材料に対して8質量%としている。しかし本発明は、合成樹脂板の添加材として主材料に対し8~10質量%であれば大きい負の帯電効果を有するので、主材料に対して8質量%超から10質量%以下であってもよい。
合成樹脂板の添加材が、主材料に対して8~10質量%である必要性は、8質量%未満の場合にはモンモリロナイト鉱物の負電荷帯電の効果が弱まる。また、10質量パーセントを超えると、合成樹脂板が脆くなり、歩留まりが悪くなる割には、モンモリロナイト鉱物の負電荷帯電の効果が頭打ちになるからである。
本件に関しては、
図5を参照すれば明確である。
図5は、本実施例の高純度品についての評価を行った結果のうち、線形部分を直線で表した図である。
各4~10質量%が線形で変化しているのに対し12質量%が頭打ちになっていることを示している。
また本実施例では、貫通孔は四角形と三角形の組み合わせの多角形の形状としている。しかし本発明においては、貫通孔の形状は多角形の形状の組み合わせについてはどのようなものであってもよく、また、円形であったり、円形と多角形の組み合わせの形状であってもよい。
貫通孔の面積については、
図2に示す様に、貫通していない部分の総面積よりも貫通孔の総面積の方が大きくすることが、吸気の圧力損失を小さく抑えるために望ましい。貫通孔の総面積が合成樹脂板の総面積の70%程度となるとなおよい。
また本実施例では、合成樹脂板の外周枠には連結部である凸部と凹部が形成され、別の個体の本発明の合成樹脂板と上下左右に連結可能としている。しかし、本発明においては、凸部と凹部による連結方法には限定されず、どのような連結方法であってもよい。
また本実施例の比較評価では、合成樹脂板の大きさとしては、上下方向の幅200mm、左右方向の長さ250mm、厚さ2.3mmのものを用いた。しかし本発明における合成樹脂板は単体同士が連結可能であるため、必要最低限の大きさであれば、合成樹脂板の大きさとしての幅や長さは限定されるものではない。また厚さは2~3mm程度であればよい。
【0016】
[本発明による帯電防止樹脂板の他への応用について]
本発明においては、合成樹脂板の主材料をABS樹脂としている。しかし、合成樹脂板の主材料として、ABS樹脂同様に大きい負の帯電効果を有するポリカーボネイト、または、ポリ塩化ビニル、のいずれかであってもよい。ポリカーボネイトおよびポリ塩化ビニルも非結晶性樹脂である。よって後述するように、ABS樹脂同様、モンモリロナイト鉱物と混ざりやすく、結晶性樹脂のポリエチレンやポリプロピレンと比較して、樹脂板の負の帯電性の向上が期待できるためである。
また、当該帯電防止樹脂板は、熱交換器を利用する他の機器、例えば冷蔵庫の熱交換器に応用しても良い。
また、当該帯電防止樹脂板は正に帯電した空気ばかりではなく、正に帯電した他の周辺物の帯電を除去する機能があるため、エンジンルーム内に置いて静電気除去による性能アップを図るものとしてもよい。
さらには、ベッド周りで正に帯電しやすい布団やまくら、人体の皮膚、髪の毛に対して、当該帯電防止樹脂板を設置することで静電気を除去し、健康効果が得られるものとしてもよい。
また、当該帯電防止樹脂板により、正に帯電した微細なホコリを吸着するものとしても良い。
【0017】
[帯電防止樹脂板の効果について]
このような第1の実施例により、主材料がABS樹脂の合成樹脂であって、当該主材料は非結晶性樹脂であるため、結晶性樹脂のポリエチレンやポリプロピレンと比較して、モンモリロナイト鉱物と混ざりやすい特性を有する。すると、モンモリロナイト鉱物が均等に分布され、モンモリロナイト鉱物の分子の合成樹脂内の位置的な偏りが少なくなる。これにより、樹脂板形成の際に、樹脂材の添加材であるモンモリロナイト鉱物の分子レベルでの陽イオン交換性をより高め、モンモリロナイト鉱物の負の帯電効果が向上する。そのため、主材料のABS樹脂の負に帯電しやすい特性との相乗効果により、主材料がポリエチレンやポリプロピレンである場合と比較して、合成樹脂板の負の帯電性がより向上する。よって、グリル部や集塵フィルタによって正に帯電した空気の負の電位化(中和)が十分行われ、吸入空気を整流化する効果を十分得て、その結果、熱交換効率を十分向上させることが可能な帯電防止樹脂板を提供できる。
本効果は、
図4により、モンモリロナイト鉱物の含有量に関わらず全体的に本実施例が従来品と比較して表面電位の絶対値(平均値)が大きくなっていること、および、表1により、10質量%モンモリロナイト鉱物含有量において、平均値で、従来品-261Vに対して低純度品でもー309Vと約1.2倍の表面電位、高純度品ではー450と約1.7倍の表面電位が達成されていることから明確である。
ここで従来品の純度は不明であるが、本実施例において低純度・高純度共に、従来品よりも負の帯電量が向上していることから、主材料の相違によって負の帯電効果が向上していることは明確である。
モンモリロナイト鉱物の分子の合成樹脂内の位置的な偏り、少なくとも、測定値のばらつきが本実施例において小さくなっているのは、10質量%モンモリロナイト鉱物含有量において測定値の標準偏差が、従来品で164.4、本実施例の高純度品で71.8、低純度品で43.8となっていることから明確である。また、従来品の様にモンモリロナイト鉱物の分子の合成樹脂内の位置的な偏りを有することが推測されるが、実測値としては表面電位のばらつきに表れていない場合であっても、この様な位置的な偏りの存在により(すなわち樹脂板全体が均一な品質でないと)、樹脂板を通過する正に帯電した空気に対しては、結果的に、通過する空気全体としての負の電位化(中和)の効果が薄れるということは明確である。
万が一、従来品の特許文献1で使用した測定器の方がばらつきが大きく出るものであったとしても、測定結果として特許文献1と本実施例との標準偏差の値の差があまりにも大きく表れているので、測定条件を同一としても本実施例の方が測定値のばらつきが小さくなるのは明確である。
非結晶性樹脂であるABS樹脂が、ポリエチレン等の結晶性樹脂よりもモンモリロナイト鉱物と混ざりやすい理由は以下による。
結晶性の物質は一般に、当該物質を溶解して例えば染料などの添加物を添加した時、当該物質が固まる際においては添加物が分子レベルで当該物質の結晶部分に入り込み難く、添加物が当該物質に均一に分布し難いという性質があることが知られている。すなわち、結晶性樹脂を溶解して添加物としてのモンモリロナイト鉱物を添加し、その後凝固させる際、添加物が分子レベルで結晶性樹脂に均一に分布し難い。逆に非結晶性樹脂であれば、結晶性樹脂と比較して、添加物としてのモンモリロナイト鉱物は分子レベルで均一に分布しやすいと言えるためである。
【0018】
このような第1の実施例により、高純度品、すなわち、樹脂材の添加材であるモンモリロナイト鉱物が98%の純度のものは、純度の低いものがモンモリロナイト鉱物以外の不純物を多く含むのに対して、不純物が微少であるため不純物による影響を殆ど受けない。そのため、帯電防止樹脂板の分子レベルでの陽イオン交換性をより高め樹脂板の負の帯電性がより向上する。よって、グリル部や集塵フィルタによって正に帯電した空気の負の電位化(中和)が十分行われ、吸入空気を整流化する効果を十分得て、その結果、熱交換効率を十分向上させることが可能な帯電防止樹脂板を提供できる。
本効果は、
図4により、モンモリロナイト鉱物の含有量に関わらず全体的に高純度品が低純度品と比較して表面電位の絶対値(平均値)が大きくなっていること、および、表1により、10質量%モンモリロナイト鉱物含有量において、平均値で、従来品-261Vに対して低純度品でー309Vと約1.2倍の表面電位となり、高純度品ではー450と約1.7倍の表面電位が達成されていることから明確である。
なお、モンモリロナイト鉱物を樹脂材の添加材とした場合に樹脂板の負の帯電性が向上する理由は以下の通りである。
第一に、モンモリロナイト鉱物は粘土鉱物であって、粘土は結晶の形態が二次元に広がるシート構造をとるので、この特性により樹脂中に当該鉱物粒子を分散させることで樹脂の付加価値を向上させ得ることが一般的に知られており、その一つとして帯電性の向上という特性の変化が生じたものと考えられる。
また第二に、モンモリロナイト鉱物は粘土鉱物であって、多くの粘土鉱物は陽イオン交換性が一般的に見られ、特にモンモリロナイト鉱物は粘土鉱物の中でも陽イオン交換容量が大きい(モンモリロナイト鉱物の陽イオン交換性は結晶格子内の同型置換による電荷の不足によるとされている)。よって樹脂板形成の際のモンモリロナイト鉱物の陽イオン交換性により、樹脂の帯電性向上という特性の変化が生じたものと考えられる。
【0019】
このような第1の実施例により、帯電防止樹脂板を吸気部の壁面に接して設置することで、帯電防止樹脂板と直接接している当該壁面の正の静電気を、帯電防止樹脂板の負の帯電により帯電防止樹脂板の周辺に集結させる作用が働く。すると、吸気部のグリル部から帯電防止樹脂板より手前位置において、グリル部や壁面による空気の正の帯電化を抑制することが可能となる。また、吸気部の帯電防止樹脂板より先の壁面の正の帯電化を抑えることで空気と壁面との反発(正に帯電したもの同士の反発)を抑制することが可能となる。その結果、空気の流れをスムーズにして熱効率が上がる、という効果が期待できる。
従来品においても吸気部の壁面に接して設定した場合、上記と同様の効果が期待できるが、本実施例の場合、従来品と比較してモンモリロナイト鉱物の位置による偏りが少なく、かつ、負の帯電量が大きいので、従来品よりも壁面との接地面で正の静電気を集結させる作用がより強く働き、結果として従来品よりも熱効率の向上が期待できる。
【0020】
このような第1の実施例により、合成樹脂板の外周枠には連結部である凸部と凹部が形成されており、別の個体の本発明の合成樹脂板と上下左右に連結して当該帯電防止樹脂板の大きさを調整することが可能な帯電防止樹脂板を提供できる。
本効果は、必要最低限の大きさの帯電防止樹脂板を設定しておけば、大きいサイズの空調機には当該帯電防止樹脂板を複数連結して使用すればよく、また、細かいサイズ調整は合成樹脂板を切断して調整可能であるため、調整が容易である。さらに、予め大きめのサイズの合成樹脂を用意して切断して使用するより廃棄ロスを低減できるため有用である。
【0021】
このような第1の実施例により、主材料に非結晶性樹脂であるABS樹脂をしようしているため、結晶性樹脂のポリエチレンやポリプロピレンと比較して合成樹脂板の成形収縮率が小さい。よって、寸法精度の高い帯電防止樹脂板を提供できる。
以上のように本発明による帯電防止樹脂板は、空調機の吸気部における熱交換器の前に設置することで、当該帯電防止樹脂板の非常に大きい負の帯電効果により、吸気部の正に帯電した空気の帯電の中和が十分行われる。よって、その後の流路等における吸入空気を整流化する効果を十分得て、空気の整流化が可能となり、熱交換効率を十分向上させ消費電力を抑えた空調機を提供できるという点で有用である。