(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083949
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】有害物質の処理材及び処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240617BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20240617BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240617BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C09K3/00 S
B01J20/04 B ZAB
C02F1/28 L
C02F1/28 B
C02F11/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198060
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】592048970
【氏名又は名称】日鉄セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大石 徹
【テーマコード(参考)】
4D059
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D059AA09
4D059BK02
4D059CC04
4D059DA03
4D059DA08
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4D059DA17
4D059DB08
4D624AA04
4D624AB11
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4D624BA11
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4D624BB01
4G066AA16B
4G066AA17B
4G066AA30B
4G066AB06B
4G066AB07B
4G066CA32
4G066CA46
4G066DA08
4G066DA15
4G066DA20
(57)【要約】
【課題】フッ素及び鉛、カドミウム、ヒ素等の有害物質を除去するための処理剤を提供すること、及びこの処理剤を用いた廃水、汚泥、汚染土壌等の処理方法を提供する。
【解決手段】酸化マグネシウム類、及びグルコン酸又はグルコン酸塩から選ばれるグルコン酸類を必須成分として含む処理材であって、酸化マグネシウム類、活性珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム及びグルコン酸類の含量の合計を100wt%としたとき、酸化マグネシウム類の含量が25~99wt%であり、活性珪酸カルシウムの含量が0~74.5wt%であり、硫酸アルミニウムの含量が0~30wt%であり、及びグルコン酸類の含量が0.5~35wt%であることを特徴とする有害物質の処理材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム類、及びグルコン酸又はグルコン酸塩から選ばれるグルコン酸類を必須成分として含む処理材であって、酸化マグネシウム類、活性珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム及びグルコン酸類の含量の合計を100wt%としたとき、酸化マグネシウム類の含量が25~99wt%であり、活性珪酸カルシウムの含量が0~74.5wt%であり、硫酸アルミニウムの含量が0~30wt%であり、及びグルコン酸類の含量が0.5~35wt%であることを特徴とするフッ素、鉛、カドミウム及びヒ素から選ばれる少なくとも1種を有害化合物として含む有害物質の処理材。
【請求項2】
酸化マグネシウム類が、軽焼マグネシア粉末、焼成ドロマイト粉末、部分焼成ドロマイト粉末から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の有害物質の処理材。
【請求項3】
グルコン酸類が、グルコン酸ナトリウム又はグルコン酸カリウムである請求項1に記載の有害物質の処理材。
【請求項4】
活性珪酸カルシウムが、トバモライト、ゾノトライト、及びカルシウム珪酸塩水和物から選ばれる1種又は2種以上を含有するものである請求項1に記載の有害物質処理材。
【請求項5】
有害化合物がフッ素である請求項1に記載の有害物質の処理材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の有害物質の処理材を、フッ素、鉛、カドミウム及びヒ素から選ばれる少なくとも1種の有害化合物を含有する廃水若しくは汚泥、又は汚染土壌に添加、混合してこの有害化合物の吸着、沈殿、固化又は不溶化を行うことを特徴とする有害物質の処理方法。
【請求項7】
有害化合物を含有する廃水若しくは汚泥、又は汚染土壌に、前記有害物質の処理材と共に、pH調整剤を添加・混合することを特徴とする請求項6に記載の有害物質の処理方法。
【請求項8】
有害化合物がフッ素である請求項6に記載の有害物質の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工場、鉱山、廃棄物処理設備、土木工事現場等で発生する有害物質含有廃水、汚泥、焼却灰又は汚染土壌を安全に処理して排出するため、又は埋め立て等に使用するために、フッ素、鉛、カドミウム及びヒ素等の有害化合物を安定化させ、これを不溶化処理するための材料と、この材料を使用する有害化合物の処理方法に関するものである。
【0002】
化学工場、鉱山、製錬所、製鉄所、焼却処分場等では、製品の製造工程、製錬工程、表面処理工程、鍍金工程、焼却工程等から、種々の有害物質を含む廃棄物が発生し、そのうち高濃度の成分を含むものについてはリサイクル工程により回収され、資源として原料に戻されているが、含有濃度の低いものやそもそも不純物として含有されていたものについては、廃棄物として処理されている。
【0003】
廃水中に含まれる有害物質については、一般に廃水処理工程で、アルカリ薬剤、酸化剤等の添加により水中にフロックとして析出させ、凝集材を添加した後シックナー等を使用して濃縮沈殿し、更にフィルタープレス等によって脱水して、汚泥として埋め立て等で廃棄処分されている。
【0004】
汚泥や焼却灰を埋め立て等で廃棄処分する場合は、周囲の汚染を防ぐため、有害物質が固定化されて安定化して溶け出さないことが必要であると同時に、処分時の施工性を維持するために、ある程度の施工強度を有することも必要である。また、土木工事現場で発生する余剰土壌についても、それを廃棄又は再利用するためには、有害物質の不溶化が望まれることが多い。
【0005】
トンネル工事や土壌の掘削を伴う道路や鉄道の建設工事では、大量の余剰土壌が発生するが、この土壌を廃棄又は埋立等に使用する場合は溶出有害物質の量を一定以下にする必要がある。膨大な量の余剰土壌を処理するためには、多量の処理材が必要となるだけでなく、処理装置も大型となるが、余剰土壌を現場で処理できる移動可能な処理装置でも処理ができることも望まれる。
【0006】
フッ素化合物は、金属や半導体、ガラス等の表面処理剤として使用されているが、フッ素は有害なため水質の規制値として環境基準(0.8mg/L以下)及び排水基準(8mg/L)が規定されている。フッ素廃水はカルシウム化合物によりフッ化カルシウムを固定化する方法が知られているが、フッ化カルシウムは微量ながら水に溶解するため、フッ素濃度が十分には低下せず、吸着や凝集等の後処理が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-334526号公報
【特許文献2】特開2007-136424号公報
【特許文献3】特開2005-342578号公報
【特許文献4】特開2012-240017号公報
【特許文献5】特開2015-81270号公報
【特許文献6】特開2013-119068号公報
【特許文献7】特許第6749126号公報
【0008】
特許文献1は、700~1000℃で焼成され、粉末度4000cm2/g以上に調整した酸化マグネシウムを、汚染土壌等に添加・混合することにより、汚染土壌等を固化して、汚染物質の不溶化することを開示する。ここで対象とする汚染物質には、鉛、ヒ素等の重金属の他、シアンやフッ素が含まれ、その実施例ではフッ素含有土壌を酸化マグネシウムで処理するとフッ素の溶出量が0.08mg/L未満に減少することが示されている。
【0009】
特許文献2は、フッ素イオンを含有するpH4.0以下の排水に、水酸化マグネシウムを700~1000℃で焼成して得られかつBET表面積40~200cm2/gを有する酸化マグネシウムを添加し、10~25℃の温度で処理し、凝集剤を加えて固液分離することによりフッ素イオンを除去する方法を開示する。そして、除去機構については、排水に酸化マグネシウムを添加すると水和反応により水酸化マグネシウムが生成し、この反応時にフッ素イオンを吸着除去されると推測している。更に、この酸化マグネシウムは水酸化マグネシウムを700~1000℃で焼成して得られたものであることが重要であるとしている。なお、凝集剤は固液分離のために使用され、フッ素イオンを吸着除去に直接関与するものではないと理解される。
【0010】
特許文献3は、BET比表面積が10m2/g以上、粒度が10μm~10mmに調製された酸化マグネシウム系フッ素吸着剤を開示する。このフッ素吸着剤は、合成水酸化マグネシウム、合成塩基性炭酸マグネシウム、合成マグネサイト、天然ブルーサイト、又は天然マグネサイトを350~1000℃で焼成して得られるとしているが、具体的には合成塩基性炭酸マグネシウム粉末、天然ブルーサイト粗粉体又は合成水酸化マグネシウム粉末を500~900℃程度の温度で焼成したものを開示するだけである。
【0011】
特許文献4は、活性多孔質珪酸カルシウム粒に、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等のマグネシウム化合物を担持した有害物質処理材を開示する。この処理剤は、水中の砒素や鉛等の重金属の他、リン酸、フッ素などを効率的に除去できるとしているが、有効成分は多孔質珪酸カルシウム粒と酸化マグネシウム等の反応物であると考えられる。
【0012】
上記のように酸化マグネシウムがフッ素の除去に有用であることは知られているが、フッ素除去の詳細なメカニズムは不明で、酸化マグネシウムの粒径、比表面積等が関係するするする文献もあるが、それだけで定まるものでもない。
【0013】
特許文献2が開示するように、水酸化マグネシウムを焼成して得られた酸化マグネシウムがフッ素の除去に有効であることは正しいとしても、炭酸マグネシウム鉱物を焼成して得られる酸化マグネシウムは、それより性能が大きく劣るものとなり、使用しにくいものとなっていた。水酸化マグネシウムは、海水からのにがり等から合成されるため、マグネサイト等の天然に得られる鉱物に比べれば高価であり、炭酸マグネシウム鉱物を焼成して得られる酸化マグネシウムの使用が可能となれば極めて有利である。
【0014】
特許文献5は、鉄、マンガン又はアルミニウムの水溶性酸性金属塩と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水難溶性塩基性化合物と、水を含む材料を粉体混合して得られる有害物質処理薬剤を開示する。ここで、水溶性酸性金属塩は硫酸アルミニウムであることができ、有害物質としては、砒素、鉛、カドミウム、6価クロム、セレン、水銀、フッ素、ホウ素、ニッケル、銅、亜鉛、アンチモン又はバリウムのイオンであることができるとしている。そして、水難溶性塩基性化合物は、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸塩ガラス、製鉄スラグ、セメント等であることができるとしているが、この技術は、水存在下での粉体混合の際に、特別な化学反応を生じさせる必要があり、その調製が難しい。
【0015】
特許文献6は、非晶質カルシウムアルミネート、硫酸アルミニウム、酸化カルシウム及び多糖類を含む建設工事廃液処理材に関し、建設工事で発生するセメントや泥を含む廃水を処理することを目的とする。硫酸アルミニウム及び多糖類は、汚濁物の沈殿を生起させ、清澄化を促進するとしている。非晶質カルシウムアルミネートの例としては、ある種のクリンカーを例示し、多糖類の例としては、ヘミセルロースとアルギン酸類を例示するだけである。また、フッ素等の有害化合物の除去は教えない。
【0016】
特許文献7は、セメント類、硫酸アルミニウム及びグルコン酸類を含む処理材を開示するが、グルコン酸類を配合する目的はエトリンガイトと生成を防止し、アルミニウムの消費量を防止し、強固な固化を防止するためであるとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、廃水、汚泥、焼却灰又は土壌中のフッ素化合物、鉛化合物、カドミウム化合物及びヒ素化合物等の有害化合物を不溶化するための処理材を提供すること、この処理材を使用した有害物質の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、酸化マグネシウム類、及びグルコン酸又はグルコン酸塩から選ばれるグルコン酸類を含む必須成分とする処理材であって、酸化マグネシウム類、活性珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム及びグルコン酸類の含量の合計を100wt%としたとき、酸化マグネシウム類の含量が25~99wt%であり、活性珪酸カルシウムの含量が0~74.5wt%であり、硫酸アルミニウムの含量が0~30wt%であり、及びグルコン酸類の含量が0.5~35wt%であることを特徴とするフッ素、鉛、カドミウム及びヒ素から選ばれる少なくとも1種を有害化合物として含む有害物質の処理材である。
【0019】
そして、この有害物質の処理材中の、酸化マグネシウム類の含量が25~99wt%であり、グルコン酸類の含量が0.5~35wt%であることがよい。
【0020】
酸化マグネシウム類としては、軽焼マグネシア、焼成ドロマイト又は部分焼成ドロマイトが適する。グルコン酸類としては、グルコン酸カリウム塩又はグルコン酸ナトリウム塩が適する。
【0021】
また、本発明は、上記の有害物質の処理材を、フッ素、鉛、カドミウム及びヒ素から選ばれる少なくとも1種の有害化合物を含有する廃水若しくは汚泥、又は汚染土壌に添加、混合してこの有害化合物の吸着、沈殿又は不溶化を行うことを特徴とする有害物質の処理方法である。
【0022】
更に、本発明は、有害化合物を含有する廃水若しくは汚泥、又は汚染土壌に、前記有害物質の処理材と共に、pH調整剤を添加・混合することを特徴とする上記の不溶化方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有害物質の処理材及びこれを使用する処理方法によれば、簡易な手段で廃水、汚泥、焼却灰及び土壌中の有害物質を不溶化処理することができる。この不溶化処理した廃棄物は、雨水等に濡れても有害化合物を再溶出しないか、大きく低下させるので、安全に埋め立て等で廃棄処分することができる。また、土木工事で大量に排出される土壌については、地盤のかさ上げ、地盤改良等の他の土木工事の材料等としても有効利用できる。有害化合物の中でも不溶化が困難とされているフッ素化合物に対し、処理能力が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の有害物質の処理材で処理される有害化合物を含有する有害物質としては、主として化学工場、鉱山、製錬所、製鉄所、鍍金工場、焼却処分場等の製品の製造工程、製錬工程、表面処理工程、鍍金工程、焼却工程、処分工程等で排出される廃水、汚泥、焼却灰又は汚染土壌等である。汚染土壌としては、トンネル工事や掘削工事で排出される余剰土壌も好ましく挙げられる。
【0025】
本発明の処理材は、有害物質として少なくともフッ素を含む廃水、汚泥又は土壌(以下、廃水等ともいう。)の処理に適する。また、フッ素以外に鉛、カドミウム又はヒ素等の重金属に対しても有効であるので、フッ素を含まない有害物質に対しても使用することができる。また、フッ素、鉛、カドミウム及びヒ素等の有害化合物は、水溶性又は難溶性の化合物として存在する場合に適する。ここで、フッ素、鉛、カドミウム、ヒ素等というときは、これらの化合物を含む。上記重金属としては、上記の他、水銀、クロム、セレン等がある。また、上記廃水、汚泥又は土壌の他、有害物質を含むものとしては、焼却灰等がある。
【0026】
国内には火山や温泉や各種鉱山が多くあり、一般にその付近の土壌は上記有害物質のいずれか一つ以上で汚染されていることが多く、トンネル工事や道路工事等土木工事現場では大量に汚染土壌が発生することが多い。本発明の有害物質の処理材は、これらの効率的な処理を可能とする。
【0027】
本発明の処理材は、酸化マグネシウム類及びグルコン酸類を必須の成分として含む混合物である。
【0028】
処理材の原料として使用する酸化マグネシウム類には、特に制限はないが、排煙脱硫用又は肥料用に使用される一般的な軽焼マグネシアであれば、入手が容易である。また、酸性廃水の中和用に使用される一般的な焼成ドロマイトであれば、入手が容易である。好ましくは、マグネサイトやドロマイト等のマグネシウム鉱物から得られる酸化マグネシウム又はこれを含むものである。これらのマグネシウム鉱物は炭酸カルシウム等のカルシウム化合物を不純物又は鉱物を構成する一成分として含むが、これらの鉱物を焼成等により酸化マグネシウムを含む酸化物とすると、酸化カルシウムが副生し、これがフッ素と反応してフッ素の除去を妨害することがあるが、本発明の処理材は、この妨害を抑制することができる。
酸化マグネシウムは塩基性材料であるため、処理される有害物質を塩基性とし、有害化合物を固定化する作用を有すると考えられる。そして、酸化マグネシウムは水酸化カルシウム等の高塩基性材料に比べて、取扱いや保存が容易であるという利点がある。本発明で使用する酸化マグネシウム類は、粉砕して粉末としたものであることがよく、粉末の粒径は90%通過割合となる篩径が100~500メッシュとなる範囲であり、好ましくは200~400メッシュ(目開き0.077~0.034mm)の範囲である。
【0029】
処理材の原料として使用する活性珪酸カルシウムは、トバモライト、ゾノトライト、及びカルシウム珪酸塩水和物(CSHゲル)から選ばれる一種又は二種以上を主成分(50wt%以上、好ましくは70%以上)として含有する粉末状のものであることが好ましい。活性珪酸カルシウムは、粒径が0.01~5mm、好ましくは0.05~3mm、より好ましくは0.1~2mmであることがよい。粒径が小さいと処理材の施工時に発塵する恐れが増大し、大きいと他の資材(原料)との十分な混合性が悪化する。上記粒径は、平均粒径(メディアン径)であるが、全体の90重量%以上が上記範囲内にあることがより好ましい。
【0030】
硫酸アルミニウムには制限はないが、無水物(Al2(SO4)3)又は水和物(Al2(SO4)3・16H2O)が適する。硫酸アルミニウムは、凝集作用を有し、不溶化又は固定化された有害物質を凝集又は凝固させて、これらの溶出を防止する作用を有すると考えられる。
【0031】
グルコン酸類には制限はないが、グルコン酸又はグルコン酸のアルカリ金属塩が適する。工業用のグルコン酸ナトリウム等が入手の容易性と効果の点で適する。グルコン酸及びグルコン酸塩は粉末として配合可能で、水溶性であるものがよい。グルコン酸類の効果は、有害物質の除去効果を高めるだけでなく、グルコン酸類が酸化マグネシウム類中に不純物として含まれる水溶性のカルシウム分をキレート化してフッ化カルシウムの生成を抑止するためと推測される。したがって、グルコン酸類としては、グルコン酸カルシウム及びグルコン酸マグネシウムは望ましくないと言える。
【0032】
処理材中のこれらの含有量は、酸化マグネシウム類、活性珪酸カルシウム、硫酸アルミニウムとグルコン酸類の合計量を100wt%としたとき、酸化マグネシウム類が25~99wt%であり、活性珪酸カルシウムが0~74.5wt%であり、硫酸アルミニウムが0~30wt%であり、及びグルコン酸類の含量が0.5~35wt%である。好ましくは、酸化マグネシウム類が35~99wt%であり、活性珪酸カルシウムが0~50wt%であり、硫酸アルミニウムが0~25wt%であり、及びグルコン酸類の含量が1~30wt%である。
【0033】
グルコン酸類の含量が少ないと、有害物質の不溶化処理能力が低下する恐れがあり、多いとCOD等の汚染物濃度が増加する。
【0034】
必要により、処理材にはpH調整剤や増量材、比重調整剤等の添加剤を配合してもよい。ここで、増量材のような不活性成分や上記調整剤等の成分は上記含有量の計算には含めない。
【0035】
本発明の有害物質の処理材は、上記配合成分を所定割合に混合して、処理材とする。混合方法には制限はなく、粉末度は平均粒径(Md50)として、1~1000μmの範囲が好ましい。処理すべき有害物質が土壌等の固体である場合は、作業性の点から比較的大きめの粒径であることがよく、廃水や汚泥等である場合は、溶解性や分散性から比較的小さめの粒径であることがよい。
【0036】
本発明の処理材を使用して、廃水、汚泥、焼却灰又は土壌等の被処理材(廃棄物、土壌等ともいう。)を処理する場合、処理材の配合量は、被処理材に対し、0.1~50wt%、好ましくは1~20wt%である。なお、被処理材が多量の水分を含む廃水や汚泥である場合は、比較的少量の使用でよい。また、廃棄物、土壌等が水分又は湿分を含まない場合は、処理材中のグルコン酸類及び硫酸アルミニウムが溶解し、酸化マグネシウム類が水和反応するに必要な量以上の水を添加することがよい。地中から掘り出した土壌は、通常含まれる湿分で十分なことが多い。
【0037】
被処理材と処理材との混合は、廃水、汚泥のような液体の場合は撹拌混合が一般的であり、焼却灰又は土壌等のような固体の場合は全体が均一になるような混合装置を使用し、数分間以上混合又は混練することでよい。
【0038】
このようにして得られる不溶化処理後の廃棄物、土壌等は、本発明の処理材に含有されている酸化マグネシウム類による上記のような化学反応や凝集作用が生じ、更にグルコン酸類による水溶性カルシウム分の不活化作用が生じて、水不溶性の反応物質を形成し、その時に廃棄物、土壌等に含まれる有害物質イオンを吸着・共沈して、不溶化を達成するものと考えられる。すなわち、酸化マグネシウム類の水和作用による塩基性化で生じる水酸化金属による吸着作用と、廃棄物、土壌等の中で混合した時に生じる化学反応による有害物質イオンの吸着・共沈作用による2段階で安定化される。更に、グルコン酸類は、酸化マグネシウム類中に副成分として含まれる酸化カルシウム分が水和反応により放出するカルシウムイオンを不活化するので、有害物質中のフッ素イオンがカルシウムイオンと結合して、微量ながら水に溶解するフッ化カルシウムとして沈殿することを防ぎ、不溶化処理後の廃棄物、土壌等からのフッ素の再溶出を防止するか、大幅に減少させる。活性珪酸カルシウム、硫酸アルミニウムは、上記水酸化金属による吸着作用と、これらを廃棄物、土壌等の中で混合した時に生じる化学反応による有害物質イオンの吸着・共沈作用を促進して、安定化作用を向上させる。
【0039】
廃水等に本発明の処理材を使用する場合、酸化マグネシウム類は水分に触れて水酸化マグネシウムとなるため、廃水等が酸性物質を含まないか、少量である場合は、全体をアルカリ性として、重金属イオンを水酸化物として沈殿させる。この際、水中のフッ素イオンを、水酸化マグネシウム又はこれから生じる不溶性のマグネシウム化合物がこれを吸着して、再溶出するフッ素イオンを顕著に減少させると考えられる。
【0040】
フッ素含有廃水としては、フッ素イオンを含む廃水だけでなく、河川水や地下水等であってもよい。フッ素含有汚泥としては、廃水処理で発生する汚泥や、泥地や湿地の汚泥がある。フッ素含有土壌としては、フッ素化合物を含む土壌があり、土壌が水分を十分に含まない場合は、これに本発明の処理材を混合した後、水分を加えて水酸化物を生成させて全体をアルカリ性とすることがよい。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例により説明する。
【0042】
実施例1
酸化マグネシウム類として、軽焼マグネシアa(丸紅プラックス株式会社製、MgO:91.6%、CaO:2.4%、SiO2:1.9%、Fe2O3:0.5%、Al2O3:0.1%、粒度:325メッシュ通過率97.0%)、又は焼成ドロマイトb(日鉄鉱業株式会社製、軽焼ドロマイト、MgO:32.8%、CaO:65.7%、SiO2:0.9%、Fe2O3:0.2%、Al2O3:0.2%、粒度:200メッシュ通過率79.1%)を使用した。
活性珪酸カルシウムcとして、軽量気泡コンクリート板(クリオン株式会社製、SiO2:49.5%、CaO:35.3%、SO3:6.0%、Al2O3:4.4%、Fe2O3:2.6%、MgO:0.8%、SiO2/CaO比=1.4)を乾燥、粉砕して粒径1.2mm以下、0.1mm以上に調整して得た珪酸カルシウム粒を使用した。
硫酸アルミニウムdとして、硫酸アルミニウム無水物(大明化学工業株式会社製、粉末硫酸アルミニウム無水物、SO3:75.6%、Al2O3:18.5%、Fe2O3:2.1%、SiO2:1.6%、MgO:0.4%、CaO:0.2%)を使用した。
グルコン酸類eとして、グルコン酸ソーダ(粉末;扶桑化学工業株式会社製、グルコン酸ソーダM98%工業用途品)を使用した。上記の原料a~eを表1に示す配合比(wt%)で混合して、処理材1~6を作成した。
【0043】
【0044】
比較例1
実施例1で使用したと同じ軽焼マグネシアa、軽焼ドロマイトb、活性珪酸カルシウムc、又は硫酸アルミニウムdを原料として使用して、表2に示す配合比(wt%)で混合して、処理材7~10とした。
【0045】
【0046】
実施例2
フッ素含有廃水として、フッ素含有岩石の浸出水(フッ素濃度211.7mg/L)を使用した。この廃水30mL中に、処理材1を3.1g添加し、25℃で15分間攪拌し静置した。24時間後、溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のフッ素濃度を公定法により測定した。結果を表3に示す。
【0047】
実施例3
実施例2で使用した廃水を使用し、この廃水30mL中に、処理材2を3.1g添加し、実施例2と同様に攪拌、静置してろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0048】
比較例2
実施例2で使用した廃水を使用し、この廃水30mL中に、処理材7を3.1g添加し、実施例2と同様に攪拌、静置してろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0049】
【0050】
実施例4
フッ素含有廃水として、フッ素含有岩石の浸出水(フッ素濃度10.6mg/L)を使用した。この廃水100mL中に、処理材3を0.3g添加して、25℃で15分間攪拌し静置した。8時間後、溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のフッ素濃度を公定法により測定した。結果を表4に示す。
【0051】
比較例3
実施例4で使用した廃水を使用し、この廃水100mL中に、処理材7を0.3g添加し、実施例4と同様に攪拌、静置してろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0052】
【0053】
実施例5
実施例2で使用した廃水を使用し、この廃水30mL中に、処理材4~6をそれぞれ3.1gづつ添加し、実施例2と同様に攪拌、静置してろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0054】
比較例4
実施例2で使用した廃水を使用し、この廃水30mL中に、処理材8~10を3.1gづつ添加し、実施例2と同様に攪拌、静置してろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表5に示す。
【0055】
【0056】
実施例6
フッ素、鉛、カドミウム及びヒ素を含有する汚染土壌の浸出水(フッ素濃度10.6mg/L、鉛濃度0.145mg/L、カドミウム濃度0.135mg/L、ヒ素濃度0.097mg/L)を使用した。この廃水400mL中に、処理材6を0.1~1.0g添加して、25℃で24時間振とう後、溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中の濃度を公定法により測定した。結果を表6に示す。
【0057】
【0058】
実施例7
フッ素含有廃水として、フッ素を含有する汚染土壌の浸出水(フッ素濃度0.98mg/L)を使用した。この廃水1000mL中に、処理材2を0.2~0.5g添加して、25℃で24時間振とう後、溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のフッ素濃度を公定法により測定した。結果を表7に示す。
【0059】
【0060】
比較例5
実施例7で使用した廃水を使用し、この廃水1000mL中に、処理材7を0.2~0.5g添加し、実施例7と同様に振とうしてろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表8に示す。
【表8】
【0061】
実施例8
フッ素、ヒ素及び水銀を含有する汚染土壌の浸出水(フッ素濃度2.1mg/L、ヒ素濃度1.7mg/L、水銀濃度0.37mg/L)を使用した。この廃水1000mL中に、処理材3を0.2~1.5g添加して、25℃で24時間振とう後、溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中の濃度を公定法により測定した。結果を表9に示す。
【0062】
【0063】
実施例9
酸化マグネシウム類として、焼成ドロマイト(田政砿業株式会社製軽焼ドロマイト、MgO:31.78%、CaO:62.40%、SiO2:0.22%、Fe2O3:0.03%、P:0.034%、S:0.024%、CO2:1.63%、粒度:0~5mm)を粉砕して粒径1.2mm以下、0.1mm以上に調整して使用した。グルコン酸類として、実施例1で使用したと同じグルコン酸ソーダを使用した。上記の原料を表10に示す配合比(wt%)で混合して、処理材11~13を作成した。フッ素含有廃水として、フッ素含有岩石の浸出水(フッ素濃度211.7mg/L)を使用した。この廃水30mL中に、処理材11から13を各3.1gづつ添加し、25℃で15分間攪拌し静置した。24時間後、溶液を5Aのろ紙でろ過し、ろ液中のフッ素濃度をパックテストにより測定した。結果を表10に示す。
【0064】
比較例6
実施例9で使用したと同じ酸化マグネシウム類を用いて、表10に示す処理材14とした。実施例9で使用した廃水を使用し、この廃水30mL中に、処理材14を3.1g添加し、実施例9と同様に攪拌、静置してろ液中のフッ素濃度を測定した。結果を表10に示す。
【0065】