(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083964
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】リン酸トリブチルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/09 20060101AFI20240617BHJP
B01F 23/45 20220101ALI20240617BHJP
B01F 25/314 20220101ALI20240617BHJP
【FI】
C07F9/09 Z
B01F23/45
B01F25/314
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198087
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】521518574
【氏名又は名称】株式会社altFlow
(71)【出願人】
【識別番号】521540793
【氏名又は名称】株式会社中化学日本総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】永木 愛一郎
(72)【発明者】
【氏名】玉木 孝
【テーマコード(参考)】
4G035
4H050
【Fターム(参考)】
4G035AB37
4G035AC22
4G035AE13
4H050AA02
4H050BA92
4H050BB12
4H050BC10
4H050BC18
4H050BC31
4H050BD80
4H050BE10
(57)【要約】
【課題】リン酸トリブチルを、効率よくフロー合成にて連続生産する方法を提供すること。
【解決手段】塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液と、ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液と、をマイクロミキサーに導入して混合する混合工程を含むことを特徴とするリン酸トリブチルの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液と、
ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液と、をマイクロミキサーに導入して混合する混合工程を含むことを特徴とするリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項2】
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度が、1mL/分以上10mL/分以下である、請求項1に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項3】
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度が、1mL/分以上10mL/分以下である、請求項1に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項4】
前記ブチルアルコールの濃度が、前記塩化ホスホリルの濃度の1モル当量以上5モル当量以下である、請求項1に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項5】
前記混合工程が、0℃以上で行われる、請求項1に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項6】
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液、並びに、前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の送液に、ダイアフラムポンプを使用する、請求項1に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項7】
前記混合工程で得られた溶液に水酸化ナトリウムを添加する添加工程を含む、請求項1に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【請求項8】
前記添加工程で得られた溶液を蒸留する蒸留工程を含む、請求項7に記載のリン酸トリブチルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸トリブチルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フロー合成技術が、その高い生産性、安全性、再現性などから非常に注目を集めている。特に、マイクロメートルオーダーの空間で化学反応を行えるマイクロリアクターを用いた場合、その高い混合効率により、バッチでは実現不可能な選択的反応が可能であり、化学量論に忠実に反応を進行させることも可能である(例えば、非特許文献1及び2参照)。また、高い除熱性を利用した高度な温度制御により、副反応を抑えることなども可能である。更に、連続的に反応溶液を送液することで高い再現性を保ちながら安定的な生産を行うことが可能である。
【0003】
リン酸エステルは、生体分子を構成する化合物として基礎化学的に重要な化合物である。さらに、触媒や難燃剤などとしても利用されるため、工業的にも重要な化合物である。リン酸トリエステルであるリン酸トリブチルは、溶剤、可塑剤、抽出剤などとして使用されることから、有用なリン酸エステルの1つである。
バッチ反応系における、一般的なリン酸トリエステルの合成方法としては、塩化ホスホリルとアルコールの反応が挙げられる(例えば、非特許文献3参照)。この反応では、反応の進行に伴い塩酸が生じるため、それをトラップするためにトリエチルアミンなどの塩基が添加される。その際に生じるアミンの塩酸塩は有機溶媒に溶けにくく、固体が析出するために不均一の反応系となる。不均一の反応系では、固体の析出による閉塞を生じるため、フロー合成技術にこの反応系を適応することは非常に困難であった。
【0004】
したがって、フロー合成にてリン酸トリブチルを効率よく連続生産する方法は、未だ提供されておらず、その速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chimia 2002 56:636
【非特許文献2】Tetrahedron 2002 58:4735-4757
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc. 1933 55:424-425
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、フロー合成にてリン酸トリブチルを効率よく連続生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液と、ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液と、をマイクロミキサーに導入して混合する混合工程を含むことを特徴とするリン酸トリブチルの製造方法により、フロー合成にてリン酸トリブチルを効率よく連続生産する方法が提供できることを知見した。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下のとおりである。即ち、
<1> 塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液と、ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液と、をマイクロミキサーに導入して混合する混合工程を含むことを特徴とするリン酸トリブチルの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、フロー合成にてリン酸トリブチルを効率よく連続生産する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の製造方法の一例に用いるフローマイクロリアクターの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の製造方法の一例に用いるフローマイクロリアクターの概略図である。
【
図3A】
図3Aは、塩化ホスホリルとアルコールを用いたリン酸トリエステルの合成におけるTEAの溶解性を示した写真である。
【
図3B】
図3Bは、塩化ホスホリルとアルコールを用いたリン酸トリエステルの合成におけるTBAの溶解性を示した写真である。
【
図4】
図4は、参考例2で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図5】
図5は、参考例3で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図6】
図6は、参考例4で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図7】
図7は、参考例4における収率を示すグラフである。
【
図8】
図8は、参考例5で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図9】
図9は、実施例1で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図10】
図10は、精製例1における1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図11】
図11は、精製例3における1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図12】
図12は、精製例4における1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図14】
図14は、参考例7で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図15】
図15は、参考例7における収率を示すグラフである。
【
図16】
図16は、参考例8で使用したマイクロリアクターシステムの概略図である。
【
図17】
図17は、参考例8における収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(リン酸トリブチルの製造方法)
前記リン酸トリブチルの製造方法は、混合工程を含み、さらに、その他の工程を含むことができる。
【0012】
<混合工程>
前記反応工程は、塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液と、ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液と、をマイクロミキサーに導入して混合する工程である。
【0013】
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液は、前記塩化ホスホリルを含む、ジクロロメタン溶液である。
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液は、前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、及びN,N-ジメチルアミノピリジンを含む、ジクロロメタン溶液である。
【0014】
-塩化ホスホリル-
前記塩化ホスホリルは、トリクロロリン酸、リン酸トリクロリド、又はオキシ塩化リンとも表記する。
前記塩化ホスホリルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法により合成したものでも、市販品でもよい。
【0015】
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液における、前記塩化ホスホリルの濃度の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、0.1M以上が好ましく、0.2M以上がより好ましい。
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液における、前記塩化ホスホリルの濃度の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、10M以下が好ましく、5M以下がより好ましく、1M以下がさらに好ましい。
【0016】
-ブチルアルコール-
前記ブチルアルコールは、ブタノールとも表記する。
前記ブチルアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、n-ブチルアルコール(1-ブタノール)、イソブチルアルコール(2-メチル-1-プロパノール)、sec-ブチルアルコール(2-ブタノール)、tert-ブチルアルコール(2-メチル-2-プロパノール)などが挙げられる。
これらの中でも、n-ブチルアルコール(1-ブタノール)が好ましい。
前記ブチルアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法により合成したものでも、市販品でもよい。
【0017】
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液における、前記ブチルアルコールの濃度の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、0.1M以上が好ましく、0.2M以上がより好ましく、0.3M以上がさらに好ましく、0.6M以上が特に好ましい。
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液における、前記ブチルアルコールの濃度の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、30M以下が好ましく、15M以下がより好ましく、10M以下がさらに好ましく、5M以下がよりさらに好ましく、3M以下が特に好ましく、1M以下が最も好ましい。
【0018】
前記塩化ホスホリルに対する前記ブチルアルコールの量の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、1モル当量以上が好ましく、2モル当量以上がより好ましく、3モル当量以上がさらに好ましい。
前記塩化ホスホリルに対する前記ブチルアルコールの量の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、10モル当量以下が好ましく、5モル当量以下がより好ましく、4モル当量以下がさらに好ましい。
【0019】
-トリブチルアミン-
前記トリブチルアミンは、TBAとも表記する。
前記トリブチルアミンは、前記ブチルアルコールを活性化するアミンである。
前記トリブチルアミンは、前記塩化ホスホリルと前記ブチルアルコールを混合するときの、塩酸のトラップ剤として使用することができる。
前記トリブチルアミンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法により合成したものでも、市販品でもよい。
【0020】
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液における、前記トリブチルアミンの濃度の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、0.1M以上が好ましく、0.2M以上がより好ましく、0.3M以上がさらに好ましく、0.6M以上が特に好ましい。
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液における、前記トリブチルアミンの濃度の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、30M以下が好ましく、15M以下がより好ましく、10M以下がさらに好ましく、5M以下がよりさらに好ましく、3M以下が特に好ましく、1M以下が最も好ましい。
【0021】
前記塩化ホスホリルに対する前記トリブチルアミンの量の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、1モル当量以上が好ましく、2モル当量以上がより好ましく、3モル当量以上がさらに好ましい。
前記塩化ホスホリルに対する前記トリブチルアミンの量の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、10モル当量以下が好ましく、5モル当量以下がより好ましく、4モル当量以下がさらに好ましい。
【0022】
-N,N-ジメチルアミノピリジン-
前記N,N-ジメチルアミノピリジンは、4-ジメチルアミノピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、又はDMAPとも表記する。
前記N,N-ジメチルアミノピリジンは、前記塩化ホスホリルを活性化する塩基である。
前記N,N-ジメチルアミノピリジンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法により合成したものでも、市販品でもよい。
【0023】
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液における、前記N,N-ジメチルアミノピリジンの濃度の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、0.1M以上が好ましく、0.2M以上がより好ましく、0.3M以上がさらに好ましく、0.6M以上が特に好ましい。
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液における、前記N,N-ジメチルアミノピリジンの濃度の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、30M以下が好ましく、15M以下がより好ましく、10M以下がさらに好ましく、5M以下がよりさらに好ましく、3M以下が特に好ましく、1M以下が最も好ましい。
【0024】
前記塩化ホスホリルに対する前記N,N-ジメチルアミノピリジンの量の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、1モル当量以上が好ましく、2モル当量以上がより好ましく、3モル当量以上がさらに好ましい。
前記塩化ホスホリルに対する前記N,N-ジメチルアミノピリジンの量の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、10モル当量以下が好ましく、5モル当量以下がより好ましく、4モル当量以下がさらに好ましい。
【0025】
-ジクロロメタン-
前記ジクロロメタンは、塩化メチレン、DCM、又はMDCとも表記する。
前記ジクロロメタンは、前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液の溶媒、及び/又は前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、前記N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の溶媒として使用することができる。
前記ジクロロメタンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の方法により合成したものでも、市販品でもよい。
【0026】
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液の溶媒における、前記ジクロロメタンの割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、100%が特に好ましい。
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の溶媒における、前記ジクロロメタンの割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましく、100%が特に好ましい。
【0027】
前記混合工程において、さらに、ピリジニウム塩のカウンターイオンを生じる化合物を混合することができるが、ピリジニウム塩のカウンターイオンを生じる化合物を混合しないことが好ましい。
前記ピリジニウム塩のカウンターイオンを生じる化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、テトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、テトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)などが挙げられる。これらの中でも、テトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)、又はテトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)が好ましい。
【0028】
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度(流量)の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、0.25mL/分以上が好ましく、1mL/分以上がより好ましく、2mL/分以上がさらに好ましく、4mL/分以上が特に好ましい。
前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度(流量)の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、10mL/分以下が好ましく、5mL/分以下がより好ましい。
【0029】
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度(流量)の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、0.25mL/分以上が好ましく、1mL/分以上がより好ましく、2mL/分以上がさらに好ましく、4mL/分以上が特に好ましい。
前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度(流量)の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、10mL/分以下が好ましく、5mL/分以下がより好ましい。
【0030】
前記混合工程を実施する温度の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、-20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましい。
前記混合工程を実施する温度の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30℃以下が好ましく、25℃以下がより好ましい。
【0031】
前記混合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、マイクロミキサーによる混合が好ましい。
【0032】
-マイクロミキサー-
前記マイクロミキサーとしては、マイクロリアクター(以下、「フローマイクロリアクター」又は「フロー反応器」と称することがある)における混合手段である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、下記のマイクロリアクターにおける、基板型のマイクロミキサー、又は管継手型のマイクロミキサーであってもよい。
【0033】
-マイクロリアクター-
前記マイクロリアクターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、混合手段と、流通路とを備え、更に必要に応じてその他の手段を備えるマイクロリアクターなどが挙げられる。
前記混合手段と前記流通路とは、一体型であってもよいし、別体型であってもよい。
【0034】
前記混合手段は、2種以上の液体を混合可能な手段である。
前記流通路は、液体を流通可能な管である。前記流通路は、少なくとも1つの前記混合手段と接続される。
【0035】
前記フローマイクロリアクターを用いることで、安定性の低い化合物について、生成から次の反応までの滞留時間を短時間にし、副反応を抑制することができる。
また、前記フローマイクロリアクターは、冷却効率が優れるため、発熱反応における発熱による副反応を抑制することができる。
【0036】
--一体型のフローマイクロリアクター--
前記一体型のフローマイクロリアクターの前記混合手段及び前記流通路としては、基板型のマイクロミキサーなどが挙げられる。
【0037】
前記基板型のマイクロミキサーは、内部又は表面に通路が形成された基板からなり、マイクロチャンネルと称される場合がある。
前記基板型のマイクロミキサーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、国際公開第96/30113号パンフレットに記載される混合のための微細な流路を有するミキサー;文献「“マイクロリアクターズ”三章、W.Ehrfeld、V.Hessel、H.Lowe著、Wiley-VCH社刊」に記載されるミキサーなどが挙げられる。
【0038】
前記基板型のマイクロミキサーは、前記混合手段及び前記流通路が、複数の液体を混合可能な微小な流路により構成されている。
【0039】
前記基板型のマイクロミキサーには、前記流路以外に、前記流路に連通し、前記流路に複数の液体を導入する導入路が形成されていることが好ましい。即ち、前記導入路の数に応じて、前記流路の上流側が分岐した構成が好ましい。
【0040】
前記導入路の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、混合を所望する複数の液体を別々の導入路から導入し、流路で合流させて混合することが好ましい。なお、1つの液体を予め流路に仕込んでおき、それ以外の液体を導入路により導入する構成としてもよい。
【0041】
--別体型のフローマイクロリアクター--
前記別体型のフローマイクロリアクターは、混合手段と、流通路とが接続してなる。
【0042】
前記混合手段としては、2種以上の液体を混合可能な限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、管継手型のマイクロミキサーなどが挙げられる。
【0043】
前記管継手型のマイクロミキサーは、内部に形成された流路を備え、必要に応じて前記内部に形成された流路と、前記流通路とを接続する接続部材を備える。前記接続部材における接続方式としては、特に制限はなく、公知の接続方式の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ねじ込み式、ユニオン式、突合わせ溶接式、差込み溶接式、ソケット溶接式、フランジ式、食込み式、フレア式、メカニカル式などが挙げられる。
【0044】
前記管継手型のマイクロミキサーの内部には、前記流路以外に、前記流路に連通し、前記流路に複数の液体を導入する導入路が形成されていることが好ましい。即ち、前記導入路の数に応じて、前記流路の上流側が分岐された構成が好ましい。前記導入路の数が2つである場合には、前記管継手型のマイクロミキサーとして、例えば、T字型やY字型を用いることができ、前記導入路の数が3つである場合には、例えば、十字型を用いることができる。なお、1つの液体を予め流路に仕込んでおき、それ以外の液体を導入路により導入する構成としてもよい。
【0045】
前記管継手型のマイクロミキサーの材質としては、特に制限はなく、耐熱性、耐圧性、耐溶剤性、及び加工容易性などの要求に応じて、適宜選択することができ、例えば、ステンレス鋼、チタン、銅、ニッケル、アルミニウム、シリコン、及びテフロン(登録商標)、PFA(パーフルオロアルコキシ樹脂)などのフッ素樹脂、TFAA(トリフルオロアセトアミド)などが挙げられる。
【0046】
前記管継手型のマイクロミキサーとしては、市販品を利用することができ、例えば、アズビル株式会社製YM-1型ミキサー、YM-2型ミキサー;島津GLC社製ミキシングティー及びティー(T字コネクタ);東レエンジニアリング開発品マイクロ・ハイ・ミキサー;スウェージロック社製ユニオンティー、株式会社三幸精機工業製T字型マイクロミキサーなどが挙げられる。
【0047】
前記混合手段内での2以上の原料物質の混合方式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、層流による混合、乱流による混合などが挙げられる。中でも、より効率的に反応制御や除熱を行える点で、層流による混合(静的混合)が好ましい。
【0048】
なお、前記混合手段内の流路は微小であるため、混合手段に導入された複数の液体同士はおのずと層流支配の流れとなりやすく、流れに直交する方向に拡散して混合される。層流による混合において、さらに、流路内に分岐点及び合流点を設けることで、流れる液体の層流断面を分割するような構成とし、混合速度を高める構成としてもよい。
また、前記混合手段の流路において、乱流による混合(動的混合)を行う場合には、流量や流路の形状(接液部分の3次元形状や流路の屈曲などの形状、壁面の粗さ、など)を調整することによって、層流から乱流へと変化させることができる。前記乱流による混合は、前記層流による混合と比べて、混合効率がよく混合速度が速いという利点を有する。
【0049】
ここで、前記混合手段内の前記流路の内径が小さい方が、分子の拡散距離を短くできるので、混合に要する時間を短縮させて混合効率を向上させることができる。さらに、前記流路の内径が小さい方が、体積に対する表面積の比が大きくなり、例えば、反応熱の除熱などの、液体の温度制御を容易に行うことができる。
一方で、前記流路の内径が小さ過ぎると、液体を流す時の圧力損失が増加するとともに、送液に使用するポンプとして特別な高耐圧のものが必要となるため、製造コストが高くなることがある。また、送液流量が制限されることにより、前記マイクロミキサーの構造も制限されることがある。
【0050】
前記混合手段内の前記流路の平均内径(マイクロミキサーの平均内径)の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、より迅速に混合でき、より効率的に反応熱を除熱でき、送液時の圧力損失を低減する点から、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、250μm以上がさらに好ましく、500μm以上がよりさらに好ましく、1000μm以上が特に好ましく、1300μm以上が最も好ましい。
【0051】
前記混合手段内の前記流路の平均内径(前記マイクロミキサーの平均内径)の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2.5mm以下がさらに好ましい。
【0052】
前記平均内径が50μm未満であると、圧力損失が増大することがある。前記平均内径が4mmを超えると、単位体積当たりの表面積が小さくなり、その結果、迅速な混合や反応熱の除熱が困難になることがある。
【0053】
前記流路の断面積としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、100μm2以上16mm2以下が好ましく、1,000μm2以上4.0mm2以下がより好ましく、10,000μm2以上2.1mm2以下がさらに好ましく、190,000μm2以上1mm2以下が特に好ましい。
【0054】
前記流路の断面形状としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円形、矩形、半円形、三角形などが挙げられる。
【0055】
前記流通路は、少なくとも1つの前記混合手段と接続され、液体を流通可能な管であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、その内径、外径、長さ、材質などの構成は、所望する反応に応じて適宜選択することができる。
【0056】
前記流通路は、例えば、原料物質を混合手段に供給する際に使用される。
また、前記流通路は、例えば、前記混合手段によって混合された2種以上の物質の反応生成物を、次の混合手段に供給する際に使用される。なお、この際、前記流通路内では反応が継続して起きていてもよい。
【0057】
前記流通路としては、市販品を利用することができ、例えば、GL Sciences社製のステンレスチューブ(外径1/16インチ(1.58mm)、内径250μm、500μm及び1,000μmから選択可能、チューブ長さは使用者により調整可能)などが挙げられる。
【0058】
前記流通路の材質としては、特に制限はなく、前記混合手段の材質として例示したものを、好適に利用することができる。
【0059】
前記混合手段の上流に連結される前記流通路の平均内径(チューブ予冷ユニット:クーリングラインの平均内径)の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、送液時の圧力損失を低減する点から、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、250μm以上がさらに好ましく、500μm以上がよりさらに好ましく、1000μm以上が特に好ましく、2000μm以上が最も好ましい。
【0060】
前記混合手段の上流に連結される前記流通路の平均内径(チューブ予冷ユニット:クーリングラインの平均内径)の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2.5mm以下がさらに好ましい。
【0061】
前記混合手段の下流に連結される前記流通路の平均内径(マイクロチューブリアクターの平均内径)の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、送液時の圧力損失を低減する点から、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、250μm以上がさらに好ましく、500μm以上がよりさらに好ましく、1000μm以上が特に好ましい。
【0062】
前記混合手段の下流に連結される前記流通路の平均内径(マイクロチューブリアクターの平均内径)の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2.5mm以下がさらに好ましい。
【0063】
反応液が流通する流通路における前記反応液の滞留時間の下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.01秒間以上が好ましく、0.1秒間以上がより好ましい。
【0064】
反応液が流通する流通路における前記反応液の滞留時間の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10秒間以下が好ましく、5秒間以下がより好ましく、2秒間以下がさらに好ましく、1秒間以下が特に好ましく、0.5秒間以下が最も好ましい。
【0065】
前記滞留時間は、前記マイクロチューブリアクターの長さと平均内径を調節することにより、上記範囲とすることができる。
【0066】
前記混合手段の上流に連結される前記流通路の長さの下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40cm以上が好ましく、60cm以上がより好ましく、80cm以上がさらに好ましく、100cm以上が特に好ましい。
【0067】
前記混合手段の上流に連結される前記流通路の長さの上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、300cm以下が好ましく、280cm以下がより好ましく、250cm以下がさらに好ましく、230cm以下が特に好ましい。
【0068】
前記混合手段の下流に連結される前記流通路の長さの下限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5cm以上が好ましく、10cm以上がより好ましく、15cm以上がさらに好ましく、20cm以上が特に好ましく、50cm以上が最も好ましい。
【0069】
前記混合手段の下流に連結される前記流通路の長さの上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、300cm以下が好ましく、280cm以下がより好ましく、250cm以下がさらに好ましく、230cm以下が特に好ましい。
【0070】
--その他の手段--
前記その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、送液手段、温度調節手段、滞留時間調節手段などが挙げられる。
【0071】
前記送液手段としては、各種原料物質を、前記フローマイクロリアクターの前記流通路に供給できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポンプなどが挙げられる。
【0072】
前記ポンプとしては、特に制限はなく、工業的に使用されうるものから適宜選択することができるが、送液時に脈動を生じないものが好ましく、例えば、プランジャーポンプ、ギアーポンプ、ロータリーポンプ、ダイアフラムポンプなどが挙げられる。
これらの中でも、リン酸トリブチルを効率よく連続生産する点から、ダイアフラムポンプが好ましい。
【0073】
前記温度調節手段としては、前記フローマイクロリアクターの前記混合手段、及び前記流路の温度を調節できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0074】
前記滞留時間調節手段としては、前記フローマイクロリアクターの流通路における滞留時間を調節できる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラスカラムなどが挙げられる。
前記ガラスカラムの平均内径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1cm以上10cm以下が好ましく、1cm以上5cm以下がより好ましく、1cm以上3cm以下がさらに好ましい。
前記ガラスカラムの長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1cm以上500cm以下が好ましく、10cm以上100cm以下がより好ましく、20cm以上50cm以下がさらに好ましい。
【0075】
前記ガラスカラムを設置する場所としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記フローマイクロリアクターの最下流が好ましい。
【0076】
前記リン酸トリブチルの製造方法における、リン酸トリブチルの収率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上がよりさらに好ましく、85%以上が特に好ましく、90%以上が最も好ましい。
前記収率は、以下のとおり、GC分析、又はHPLC分析により決定する。
【0077】
(GC分析)
Restek Rtx-5カラム(長さ15m、内径0.25mm、膜厚0.25um)を搭載したSHIMAZU GC-2010を使用して実施し、化合物はFIDによって検出する。
収率については、内部標準溶液を分析して作成した検量線を用いて定量後、下記の式1で算出する。
【数1】
C
PO(OR)3はリン酸エステルの濃度(モル数)、C
ISは内部標準の濃度(モル数)、A
PO(OR)3はクロマトグラムにおけるリン酸エステルのピーク面積、A
ISはクロマトグラムにおける内部標準のピーク面積、aは検量線の傾き、bは検量線の切片である。
【0078】
(HPLC分析)
YMC TA12S05-2546WTカラムを搭載したSHIMAZU LC-10ADを使用し、移動相としてアセトニトリル/水=9/1(v/v)を1.0mL/分で送液して実施し、化合物はUV(検出波長220nm)によって検出する。
収率については、内部標準溶液を分析して作成した検量線を用いて定量後、上記の式1で算出する。
【0079】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、添加工程、蒸留工程などが挙げられる。
【0080】
-添加工程-
前記添加工程は、前記混合工程で得られた溶液に水酸化ナトリウムを添加する工程である。
前記水酸化ナトリウムの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、リン酸トリブチルの加水分解を抑制し、効率よくリン酸トリブチルを精製する点から、0.1M以上0.8M以下が好ましく、0.1M以上0.5M以下がより好ましく、0.1M以上0.3M以下がさらに好ましく、0.1M以上0.2M以下が特に好ましい。
【0081】
-蒸留工程-
前記蒸留工程は、前記添加工程で得られた溶液を蒸留する工程である。
前記蒸留としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、効率よくリン酸トリブチルを精製する点から、減圧蒸留が好ましい。
【0082】
(リン酸トリブチル)
前記リン酸トリブチルは、上述のリン酸トリブチルの製造方法により製造される。
【0083】
ここで、前記リン酸トリブチルの製造方法に好適に使用されるフローマイクロリアクター及びそれを用いたリン酸トリブチルの製造方法の一例を図を用いて説明する。
【0084】
図1は、フローマイクロリアクターの一例を示す模式図である。
図1に示すフローマイクロリアクターは、1つの混合手段と、3つの流通路とを備える。
流通路P1は、混合手段M1に接続されている。
流通路P2は、混合手段M1に接続されている。
流通路R1は、混合手段M1に接続されている。流通路R1は、反応部でもある。
【0085】
流通路P1から混合手段M1に、前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液が供給される。流通路P2から混合手段M1に、前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液が供給される。そうすると、混合手段M1において、前記塩化ホスホリル、前記ブチルアルコール、前記トリブチルアミン、及び前記N,N-ジメチルアミノピリジンが混合され、リン酸トリブチルを生成する。
【0086】
図2は、フローマイクロリアクターの一例を示す模式図である。
図2に示すフローマイクロリアクターは、2つの混合手段と、5つの流通路とを備える。
流通路P1は、混合手段M1に接続されている。
流通路P2は、混合手段M1に接続されている。
流通路P3は、混合手段M2に接続されている。
流通路R1は、混合手段M1、及び混合手段M2に接続されている。流通路R1は、反応部でもある。
流通路R2は、混合手段M2に接続されている。流通路R2は、反応部でもある。
【0087】
流通路P1から混合手段M1に、前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液が供給される。流通路P2から混合手段M1に、前記N,N-ジメチルアミノピリジン及びジクロロメタンを含む溶液が供給される。そうすると、混合手段M1において、前記塩化ホスホリル、及び前記N,N-ジメチルアミノピリジンが混合され、流通路R1を流れ、混合手段M2に導入される。混合手段M2において、前記液は、流通路P3から供給された前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、及びジクロロメタンを含む溶液と混合され、リン酸トリブチルを生成する。
【実施例0088】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
(参考例1 塩酸トラップ剤の検討)
バッチ反応系において、フェネチルアルコール(3.9g、富士フイルム和光純薬)、塩酸のトラップ剤としてTEA(3.4g、富士フイルム和光純薬)、N,N-ジメチルアミノピリジン(1.3g、富士フイルム和光純薬)をジクロロメタン(32mL、富士フイルム和光純薬)に溶解し、ジクロロメタン(10mL、富士フイルム和光純薬)に溶解した塩化ホスホリル(1.7g、富士フイルム和光純薬)を添加し、スターラーチップを入れて撹拌したところ、多量の白色固体が析出した(
図3A)。これは、TEAの塩酸塩の有機溶媒に対する溶解性が乏しいことが原因であると予想される。
次に、上記反応系において、塩酸のトラップ剤として、TEAに代えて、より長いアルキルを有するトリブチルアミン(TBA)(5.8g、富士フイルム和光純薬)を使用したところ、固体の析出は見られなかった(
図3B)。これは、TBAが長いアルキル鎖を有するために塩酸塩の溶解性が向上したためであると考えられる。
つまり、塩化ホスホリルとアルコールを用いたリン酸トリエステルの合成において、TEAではなくTBAを用いることで均一系とすることに成功し、フロー合成に適応することが可能となった。
【0090】
(参考例2 塩基の検討)
図4に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、及びP2:GL Sciences社)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0091】
前記フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置き、0.5Mの塩化ホスホリル(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:0.25mL/分)及び3.3モル当量のフェネチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と3.3モル当量の塩基(TBA(富士フイルム和光純薬)、ジアザビシクロウンデセン(DBU、富士フイルム和光純薬)、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP、富士フイルム和光純薬)、又はイミダゾール(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン溶液(流速:0.25mL/分)を、SGEガスタイトシリンジを使用してシリンジポンプ(PHD ULTRA、Harvard社)により、M1(平均内径:250μm)に導入した。得られた溶液をR1(平均内径:1000μm、長さ:100cm、tR1=94.2秒間)に通した。
なお、HPLCにおけるUV検出を可能にするため、アルコールとして、ベンゼン環を有する脂肪族アルコールであるフェネチルアルコールを使用した。
定常状態に達した後、R1から排出される生成物溶液を30秒間収集し、アセトニトリルで40倍に希釈した後、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定した。結果を表1に示した。
【0092】
-HPLC分析-
YMC TA12S05-2546WTカラムを搭載したSHIMAZU LC-10Aを使用し、移動相としてアセトニトリル/水=9/1(v/v)を1.0mL/分で送液して実施し、化合物はUV(検出波長220nm)によって検出した。
収率については、内部標準としてメシチレンを含むリン酸トリ2-フェニルエチルの標準溶液(3検体:リン酸トリ2-フェニルエチルを約142mg、約85mg、約28mgを別々に測り取り、各々にメシチレンを約7mgを加えた後、アセトニトリルに溶解)を分析して作成した検量線を用いて、リン酸トリ2-フェニルエチルを定量後、下記の式1で算出した。
【数2】
C
PO(OR)3はリン酸エステルの濃度(モル数)、C
ISは内部標準の濃度(モル数)、A
PO(OR)3はクロマトグラムにおけるリン酸エステルのピーク面積、A
ISはクロマトグラムにおける内部標準のピーク面積、aは検量線の傾き、bは検量線の切片である。
【0093】
【表1】
表1に示したとおり、DMAPを塩基として用いた場合に最も高い収率となることが分かった。DMAPやピリジンは酸クロリドなどとピリジニウム塩を形成することで活性種となることが知られている。今回の系でも同様にDMAPとホスホリルクロリドとがピリジニウム塩を形成することで活性化したため、DMAPのみが高い収率を与えたと考えられる。
【0094】
(参考例3 溶媒の検討)
図5に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1、M2:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1、R2:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、P2及びP3:GL Sciences社)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0095】
前記フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置き、0.2Mのジフェニルホスホリルクロリド(富士フイルム和光純薬)を含む溶液(流速:2.0mL/分)及び1モル当量のDMAP(富士フイルム和光純薬)を含む溶液(流速:2.0mL/分)を、SGEガスタイトシリンジを使用してシリンジポンプ(PHD ULTRA、Harvard社)により、M1(平均内径:250μm)に導入し、混合物をR1(平均内径:1000μm、長さ:25cm、t
R1=2.9秒間)に通した。
得られた溶液をM2(φ=250μm)に導入し、さらに、1モル当量のn-ブチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と1モル当量のTBAを含む溶液(流速:2,0mL/分)を導入し、混合物をR2(平均内径:1000μm、長さ:200cm、t
R2=9.4秒間)に通した。
なお、反応をより詳細に議論するために、よりシンプルな反応系であるモノエステル化(ジフェニルホスホリルクロリドとブタノールの反応)を検討した。フローシステムに関しては、ホスホリルクロリドをDMAPで活性化してからアルコールと反応させたほうが適していると考え、
図5に示した、2つのT字型マイクロミキサーを使用した3液混合型のフローシステムを使用した。
前記3液の溶媒として、ジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)、アセトン(富士フイルム和光純薬)、アセトニトリル(富士フイルム和光純薬)、酢酸エチル(富士フイルム和光純薬)、又はテトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬)を使用した。
定常状態に達した後、R2から排出される生成物溶液を30秒間収集し、水に添加し、参考例2と同様にして、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定した。結果を表2に示した。表2の*は、ピリジニウム塩が析出して閉塞したことを示す。
【0096】
【0097】
表2に示したとおり、溶媒として、ジクロロメタンを使用した場合のモノエステル化は、滞留時間が5秒の時点で定量的(収率98%超)に進行していることが確認された。一方、溶媒として、アセトンとアセトニトリルを使用した場合は、91%の収率に留まることが確認された。また、溶媒として、酢酸エチルとテトラヒドロフランを使用した場合は、TBAを用いてもなおチューブリアクタR1にて固体が析出したため、検討を断念した。
以上の結果から、溶媒としてジクロロメタンを使用した場合に最も反応が速く、定量的にモノエステル化が進行することが確認された。
【0098】
(参考例4 反応完結時間の検討)
図6に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1、M2:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1、R2:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、P2及びP3:GL Sciences社)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0099】
前記フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置き、0.2Mの塩化ホスホリル(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)及び1モル当量のDMAP(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)を、SGEガスタイトシリンジを使用してシリンジポンプ(PHD ULTRA、Harvard社)により、M1(平均内径:250μm)に導入し、混合物をR1(平均内径:1000μm、長さ:50cm、t
R1=2.9秒間)に通した。
得られた溶液をM2(φ=250μm)に導入し、さらに、3モル当量のフェネチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と3モル当量のTBAを含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:2.0mL/分)を導入し、混合物をR2(平均内径:1000μm、長さ:50cm、t
R2=2.4秒間)に通した。
定常状態に達した後、R2から排出される生成物溶液を120秒間フラスコに収集し、室温にて追加攪拌(0分間、10分間、20分間、30分間、又は60分間)を行った後、参考例2と同様にして、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定した。結果を
図7に示した。
【0100】
図7に示したとおり、10分間から60分間の追加攪拌で反応が定量的に進行することが確認された。このことから滞留時間を10分程度とることによって、トリエステル化反応をフロー系にて完結させることが可能であることが明らかとなった。
【0101】
(参考例5 ガラスカラムを用いた検討)
通常マイクロフロー合成で使用する1/16’’や1/8’’のSUS製チューブを用いた場合、10分程度の滞留時間を設けるには流路を非常に長くとる必要があり(1/16’’のSUS製チューブ(外径1/16’’、内径1mm)の場合、流速10mL/分で127m必要であり、1/8’’のSUS製チューブ(外径1/8’’、内径2.17mm)の場合、流速10mL/分で27m必要である)、圧力損失などの観点から優れた選択肢とは言えない。そこで、平均内径2cm、長さ30cmのガラスカラムを使用して滞留時間を10分程度としたフロー系におけるリン酸トリエステルの合成を行った。
【0102】
図8に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1、M2:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1、R2:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、P2及びP3:GL Sciences社)、ガラスカラム(株式会社山善)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0103】
前記フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置き、0.2Mの塩化ホスホリル(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)及び1モル当量のDMAP(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)を、SGEガスタイトシリンジを使用してシリンジポンプ(PHD ULTRA、Harvard社)により、M1(平均内径:250μm)に導入し、混合物をR1(平均内径:1000μm、長さ:50cm、tR1=2.9秒間)に通した。
得られた溶液をM2(φ=250μm)に導入し、さらに、3モル当量のフェネチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と3モル当量のTBAを含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:2.0mL/分)を導入し、混合物をR2(平均内径:1000μm、長さ:10cm、tR2=0.47秒間)に通し、さらに、ガラスカラム(平均内径2cm、30cm)に通した。
定常状態に達した後、ガラスカラムから排出される生成物溶液を30秒間収集し、参考例2と同様にして、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定したところ、90%以上となり、十分に反応が進行していることが確認された。
【0104】
(参考例6 2液混合系の検討)
参考例3から5では、2つのT字型マイクロミキサーを使用してDMAPによる活性化とアルコールとの反応を段階的に行う3液混合型のフローシステムを使用した。一方、長時間の連続運転を想定する場合はダイアフラムポンプを使用することになるが、必要になるポンプ数は少ないほうが好ましい。そこで、DMAP、フェネチルアルコール及びTBAを同一溶液に入れ、2液混合のよりシンプルな系で合成した以外は、参考例5と同様に合成し、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定したところ、参考例5の3液混合系とほとんど収率が変化しないことが確認された。
【0105】
(実施例1)
図9に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、及びP2:GL Sciences社)、ガラスカラム(株式会社山善)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0106】
前記フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置き、0.2Mの塩化ホスホリル(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)及び3モル当量のブチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と3モル当量のTBA(富士フイルム和光純薬)と1モル当量のDMAP(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン溶液(流速:4.0mL/分)を、ダイアフラムポンプ(タクミナ、Smooth Flow TPL)により、M1(平均内径:250μm)に導入した。得られた溶液をR1(平均内径:1000μm、長さ:10cm、tR1=0.59秒間)に通し、さらに、ガラスカラム(内径2cm、30cm)に通した。
1時間の送液の実証に成功した。
定常状態に達した後、ガラスカラムから排出される生成物溶液を30秒間収集し、内部標準を使用したGCにより分析して、生成物の収率を決定したところ、定量的(収率98%超)に反応が進行していることが確認された。
【0107】
-GC分析-
Restek Rtx-5カラムを搭載したSHIMAZU GC-2010を使用して実施し、化合物はFIDによって検出した。
収率については、内部標準としてドデカンを含むリン酸トリブチルの標準溶液(3検体:リン酸トリブチルを約94mg、約54mg、約20mgを別々に測り取り、各々にドデカン約35mgを加えた後、酢酸エチルに溶解)を分析して作成した検量線を用いて、リン酸トリブチルを定量後、下記の式1で算出した。
【数3】
C
PO(OR)3はリン酸エステルの濃度(モル数)、C
ISは内部標準の濃度(モル数)、A
PO(OR)3はクロマトグラムにおけるリン酸エステルのピーク面積、A
ISはクロマトグラムにおける内部標準のピーク面積、aは検量線の傾き、bは検量線の切片である。
【0108】
(精製例1)
リン酸トリブチルの精製方法に関して、分液操作よる精製と蒸留による単離の検討を行った。フロー合成後の反応溶液中に存在する化合物は、目的物(リン酸トリブチル)以外では主に、未反応のアルコール、TBA、DMAP、リン酸化合物(PO(OH)(OR
1)(OR
2)、R
1,2=H又はBu)などが考えられる。
塩基であるTBAやDMAPは、酸性水溶液を用いた分液操作によって除去できる可能性が高い。そこで、参考例4の反応後のジクロロメタン溶液(R2から排出される生成物溶液)に対して、希塩酸(1M 塩酸(富士フイルム和光純薬)水溶液)を用いて洗浄処理を行ったところ、
図10に示したとおり、1H-NMRスペクトルにてDMAPのピークの消失が確認された。しかし、TBAは除去できていなかった。
図10において、1段目はフェネチルアルコールのみのサンプルであり、2段目は反応後のジクロロメタン溶液について水で洗浄処理したサンプルであり、3段目は反応後のジクロロメタン溶液について塩酸で洗浄処理したサンプルであり、4段目はカラム生成したリン酸トリブチルである。また、6.6ppm付近にみられるピークがDMAP由来のピークであり、1.0、1.4、1.8、及び3.0ppm付近にみられるピーク群がTBAは由来のピークである。
そこで、一度ジクロロメタンを留去した後、酢酸エチルに溶解させてから再度希塩酸による洗浄操作を行ったところ、TBA由来のピークの消失が確認された。つまり、ジクロロメタンから酢酸エチルに溶媒置換を行った後に希塩酸で洗浄処理することによって塩基性化合物を十分に除去することが可能であることが明らかとなった。しかし、ブタノールの除去は分液操作では困難であるため、蒸留による単離精製が必要であると考えられる。
【0109】
-1H-NMR解析-
溶液の一部(数mL程度)を取り出し、溶媒を留去した後、重クロロホルムに溶解して、Varian MERCURY plus-400を使用して1H-NMRスペクトルを測定した。
【0110】
(精製例2)
参考例4の反応後のジクロロメタン溶液(R2から排出される生成物溶液)について、ジクロロメタンを留去した後に減圧蒸留による精製を行った。その結果、得られた化合物はTBAの他にリン酸トリブチルではなくブタノールであった。このことから、減圧蒸留における加熱によってリン酸トリブチルの加水分解が進行していることが示唆された。
【0111】
(精製例3)
実施例1の反応後のジクロロメタン溶液(ガラスカラムから排出される生成物溶液)の1H-NMRスペクトルを確認したところ、
図11に示したとおり、TBA由来のピークが高磁場側にシフトしていることが明らかとなった。これは反応中に生じる塩酸とTBAが効率よく塩を形成して有機相に存在していたことを示唆し、蒸留操作においてブタノールへと加水分解された原因が塩酸である可能性が高いと考えられた。そこで、反応後のジクロロメタン溶液に対して1M希塩酸で洗浄処理を行った後、さらに0.2M水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬)水溶液を用いた洗浄処理を複数回行ったところ、1H-NMRスペクトルにてTBA由来のピークが徐々に高磁場側にシフトしていき、本来のTBAのピークと一致した(特に、希塩酸で洗浄後にみられる3ppm付近のピークが最終的に2.4ppmまで高磁場シフトし、ピークが小さく(ブロードに)なった)。その後、ジクロロメタンを留去し蒸留操作を行ったところ、問題なくリン酸トリブチルが単離できた。
図11において、1段目はTBAのみのサンプルであり、2段目は反応後のジクロロメタン溶液について希塩酸で洗浄処理したサンプルであり、3段目から7段目は0.2M NaOH水溶液で洗浄処理したサンプルである。3段目から7段目において、0.2M NaOH水溶液で洗浄処理を複数回行うことでスペクトルが変化することが示された。
以上の結果から、反応後のジクロロメタン溶液中には塩酸が多量に存在するため、水酸化ナトリウム水溶液などの塩基性水溶液で塩酸を除去する必要があることが明らかとなった。
【0112】
(精製例4)
実施例1の反応後のジクロロメタン溶液(ガラスカラムから排出される生成物溶液)に対して、0.2M水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬)水溶液による洗浄を行った後、減圧蒸留による単離を行った。減圧蒸留後のサンプルについての1H-NMRスペクトルを
図12に示した。
前記減圧蒸留は、
図13に示した、ガラス製のフラスコ、ト字管、リービッヒ冷却器、及びオイルバスを含む装置を使用して行った。また、ト字管の分岐部分には温度計をセットし、気体の温度を計測した。減圧にはロータリーポンプを使用し、1kPa程度の減圧度で蒸留を行った。なお、真空度はピラニ真空計で計測した。
その結果、9.7gのリン酸トリブチルを82%の収率で得ることに成功した。なお、1kPa程度の減圧下でTBAはオイルバス温度90℃、気体温度50℃で、リン酸トリブチルはオイルバス温度160~180℃、気体温度90~100℃で得られた。
【0113】
(参考例7 高濃度での検討)
図14に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1、M2:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1、R2:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、P2及びP3:GL Sciences社)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0114】
前記フローマイクロリアクターシステムを0℃の槽に置き、0.8Mの塩化ホスホリル(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)及び1モル当量のDMAP(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:4.0mL/分)を、SGEガスタイトシリンジを使用してシリンジポンプ(PHD ULTRA、Harvard社)により、M1(平均内径:250μm)に導入し、混合物をR1(平均内径:1000μm、長さ:50cm、t
R1=2.9秒間)に通した。
得られた溶液をM2(φ=250μm)に導入し、さらに、3モル当量のフェネチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と3モル当量のTBA(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン溶液(富士フイルム和光純薬)(流速:2.0mL/分)を導入し、混合物をR2(平均内径:1000μm、長さ:50cm、t
R2=2.4秒間)に通した。
定常状態に達した後、R2から排出される生成物溶液を120秒間フラスコに収集し、室温にて追加攪拌(0分間、10分間、20分間、30分間、又は60分間)を行った後、参考例2と同様にして、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定した。結果を
図15に示した。
【0115】
図15に示したとおり、30分間の追加攪拌での収率は80%であった。
フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置いた場合は、反応熱によりフロー合成後の溶液の温度は約35℃程度であった。
【0116】
(参考例8 ピリジニウム塩のカウンターイオンの効果に関する検討)
図16に示した、SUS製T字型マイクロミキサー(M1、M2:株式会社三幸精機工業)、SUS製マイクロチューブリアクター(R1、R2:GL Sciences社)、100cmの予冷ユニット(P1、P2及びP3:GL Sciences社)から構成されるフローマイクロリアクターシステムを使用した。
【0117】
前記フローマイクロリアクターシステムを20℃の槽に置き、0.2Mのジフェニルホスホリルクロリド(富士フイルム和光純薬)を含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:F1:2mL/分又は4mL/分)及び1モル当量のDMAP(富士フイルム和光純薬)及び1モル当量のTBAXを含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:F2:2mL/分又は4mL/分)を、SGEガスタイトシリンジを使用してシリンジポンプ(PHD ULTRA、Harvard社)により、M1(平均内径:250μm)に導入し、混合物をR1(平均内径:1000μm、長さ:25cm、t
R1=2.9秒間又は1.5秒間)に通した。
得られた溶液をM2(φ=250μm)に導入し、さらに、1モル当量のn-ブチルアルコール(富士フイルム和光純薬)と1モル当量のTBAを含むジクロロメタン(富士フイルム和光純薬)溶液(流速:F3:1mL/分又は2mL/分)を導入し、混合物をR2(平均内径:1000μm、長さ:50cm、t
R2=4.7秒間又は2.4秒間)に通した。
前記TBAXとして、テトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI、シグマアルドリッチ)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB、シグマアルドリッチ)又はテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF、シグマアルドリッチ)を使用した。
定常状態に達した後、R2から排出される生成物溶液を30秒間収集し、水に添加し、参考例2と同様にして、内部標準を使用したHPLCにより分析して、生成物の収率を決定した。結果を
図17に示した。
【0118】
図17に示したとおり、カウンターアニオンがI
-やBr
-の場合、収率が少し低下した。カウンターアニオンがF
-の場合、リン酸エステルの二量化体(R
2PO-O-POR
2)が多く見られ、目的物の収率はかなり低下した。TBAXとして、何も添加しない場合が最も良い収率であった。
なお、定量的に反応が進行してしまうと違いが評価できない可能性があるため、参考例8では、R2の長さを50cmにして評価した。
【0119】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液と、ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液と、をマイクロミキサーに導入して混合する混合工程を含むことを特徴とするリン酸トリブチルの製造方法である。
<2> 前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度が、1mL/分以上10mL/分以下である、前記<1>に記載のリン酸トリブチルの製造方法である。
<3> 前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の導入速度が、1mL/分以上10mL/分以下である、前記<1>又は<2>のいずれかに記載のリン酸トリブチルの製造方法である。
<4> 前記ブチルアルコールの濃度が、前記塩化ホスホリルの濃度の1モル当量以上5モル当量以下である、前記<1>から<3>のいずれかに記載のリン酸トリブチルの製造方法である。
<5> 前記混合工程が、0℃以上で行われる、前記<1>から<4>のいずれかに記載のリン酸トリブチルの製造方法である。
<6> 前記塩化ホスホリル及びジクロロメタンを含む溶液、並びに、前記ブチルアルコール、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノピリジン、及びジクロロメタンを含む溶液の送液に、ダイアフラムポンプを使用する、前記<1>から<5>のいずれかに記載のリン酸トリブチルの製造方法である。
<7> 前記混合工程で得られた溶液に水酸化ナトリウムを添加する添加工程を含む、前記<1>から<6>のいずれかに記載のリン酸トリブチルの製造方法である。
<8> 前記添加工程で得られた溶液を蒸留する蒸留工程を含む、前記<7>に記載のリン酸トリブチルの製造方法である。