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<図1>
  • -残容量算出装置及びプログラム 図1
  • -残容量算出装置及びプログラム 図2
  • -残容量算出装置及びプログラム 図3
  • -残容量算出装置及びプログラム 図4
  • -残容量算出装置及びプログラム 図5
  • -残容量算出装置及びプログラム 図6
  • -残容量算出装置及びプログラム 図7
  • -残容量算出装置及びプログラム 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083972
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】残容量算出装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/385 20190101AFI20240617BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20240617BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20240617BHJP
   G01R 31/3828 20190101ALI20240617BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240617BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240617BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/382
G01R31/3828
G01R31/392
H01M10/48 P
H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198097
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】内山 正規
(72)【発明者】
【氏名】久保 俊一
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA01
2G216BA02
2G216BA03
2G216BA21
2G216BA41
2G216BA61
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503EA05
5G503FA06
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF41
(57)【要約】
【課題】蓄電池の残容量の算出精度を向上できる残容量算出装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】BMU30は、組電池20を構成する単電池21の充電時及び放電時において単電池21の残容量を逐次算出する。BMU30は、単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて、開回路電圧と単電池21の残容量との相関関係により単電池21の基準残容量を算出するとともに、その基準残容量を含む所定区間を、第1容量区間として算出し、現時点よりも前の開回路電圧の検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの単電池21の充放電による電流容量の変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間を算出し、開回路電圧の検出タイミングにおいて、第1容量区間と第2容量区間との重複区間を含む区間を、実際の残容量を含む第3容量区間として算出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池(21)の充電時及び放電時において当該蓄電池の残容量を算出する残容量算出装置(30)であって、
前記蓄電池の開回路電圧の検出タイミングにおいて、前記開回路電圧と前記蓄電池の残容量との相関関係により前記蓄電池の基準残容量を算出するとともに、その基準残容量を含む所定区間を、第1容量区間として算出する第1区間算出部と、
現時点よりも前の前記検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の変化分である容量変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間を算出する第2区間算出部と、
前記検出タイミングにおいて、前記第1容量区間と前記第2容量区間との重複区間を含む区間を、実際の残容量を含む第3容量区間として算出する第3区間算出部と、
を備える、残容量算出装置。
【請求項2】
前記第1区間算出部は、前記検出タイミングにおいて、前記相関関係として規定した複数の相関関係を用い、当該相関関係ごとに、前記開回路電圧に対応する複数の前記基準残容量を算出するとともに、それら各基準残容量を含む区間を前記第1容量区間として算出する、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項3】
前記第2区間算出部は、現時点よりも前に前記第3区間算出部により算出された前記第3容量区間を前記過去容量区間とし、その第3容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、前記第3容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による前記容量変化分をそれぞれ加算して、前記第2容量区間を算出する、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項4】
前記第3区間算出部は、前記第3容量区間の算出において、前記第1容量区間の最大残容量と前記第2容量区間の最大残容量との間の前記残容量を前記第3容量区間の最大残容量とするとともに、前記第1容量区間の最小残容量と前記第2容量区間の最小残容量との間の前記残容量を前記第3容量区間の最小残容量とする、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項5】
前記第3区間算出部は、前記第1容量区間と前記第2容量区間との重複区間を、前記第3容量区間とする、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項6】
前記第2区間算出部は、前記過去容量区間の最小残容量に対して、前記電流容量の検出誤差分を減補正した前記容量変化分を加算し、前記過去容量区間の最大残容量に対して、前記電流容量の検出誤差分を増補正した前記容量変化分を加算して、前記第2容量区間を算出する、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項7】
前記蓄電池が満充電状態であることを判定する満充電判定部と、
前記満充電状態であると判定された場合に、前回の前記検出タイミングで算出された前記第3容量区間と、その第3容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の変化分とに基づいて、前記蓄電池の満充電容量区間を算出し、その満充電容量区間から満充電容量を算出する満充電容量算出部と、を備える、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項8】
前記蓄電池の満充電時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の積算値を容量積算値として算出する積算値算出部と、
前記検出タイミングにおいて、前記第3区間算出部により算出された前記第3容量区間と、前記積算値算出部により算出された前記容量積算値とに基づいて、前記蓄電池の満充電容量区間を算出し、その満充電容量区間から満充電容量を算出する満充電容量算出部と、を備える、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項9】
前記第3区間算出部により算出された前記第3容量区間の幅と、前記満充電容量算出部により算出された前記満充電容量区間の幅と、前記満充電容量区間の最大容量値又は最小容量値と、前記第3容量区間の算出時における前記第3容量区間及び前記第1容量区間の差と、前記第3容量区間の算出時における前記第3容量区間及び前記第2容量区間の差との少なくともいずれかを判定パラメータとし、その判定パラメータに基づいて、前記満充電容量算出部により算出された前記満充電容量の信頼性を判定する信頼性判定部と、
前記信頼性判定部により信頼性ありと判定されたことを条件に、前記満充電容量算出部による前記満充電容量の算出を許可する許可部と、を備える請求項7又は8に記載の残容量算出装置。
【請求項10】
前記第3容量区間の算出が行われない期間が所定時間以上継続しているか否かを判定する期間判定部と、
前記第3容量区間の算出が行われない期間が所定時間以上継続していると判定された場合、前記第3容量区間をリセットするリセット部を備える、請求項1に記載の残容量算出装置。
【請求項11】
蓄電池(21)の充電時及び放電時において当該蓄電池の残容量を算出する処理をコンピュータ(30)に実行させるプログラムであって、
前記蓄電池の開回路電圧の検出タイミングにおいて、前記開回路電圧と前記蓄電池の残容量との相関関係により前記蓄電池の基準残容量を算出するとともに、その基準残容量を含む所定区間を、第1容量区間として算出する第1区間算出ステップと、
現時点よりも前の前記検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の変化分である容量変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間を算出する第2区間算出ステップと、
前記検出タイミングにおいて、前記第1容量区間と前記第2容量区間との重複区間を含む区間を、実際の残容量を含む第3容量区間として算出する第3区間算出ステップと、
を前記コンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残容量算出装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電池の残容量を算出するものが知られている。例えば、特許文献1には、SOC(State Of Charge)と開回路電圧(Open Circuit Voltage)との相関関係を示すSOC-OCVマップを用いて蓄電池のSOCを算出する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-266221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電池の残容量を高精度に算出することが難しいことがある。例えば、蓄電池の開回路電圧と残容量との相関関係におけるプラトー領域では、残容量の変化に伴う開回路電圧の変化が小さいため、開回路電圧から残容量を高精度に算出することが難しい。また、例えば、蓄電池の充放電電流を積算して残容量を算出する場合、電流積算期間が長期化すると積算誤差が蓄積されるため、電流積算値から残容量を高精度に算出することが難しい。
【0005】
本発明は、蓄電池の残容量の算出精度を向上できる残容量算出装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、蓄電池(21)の充電時及び放電時において当該蓄電池の残容量を算出する残容量算出装置(30)であって、
前記蓄電池の開回路電圧の検出タイミングにおいて、前記開回路電圧と前記蓄電池の残容量との相関関係により前記蓄電池の基準残容量を算出するとともに、その基準残容量を含む所定区間を、第1容量区間として算出する第1区間算出部と、
現時点よりも前の前記検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の変化分である容量変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間を算出する第2区間算出部と、
前記検出タイミングにおいて、前記第1容量区間と前記第2容量区間との重複区間を含む区間を、実際の残容量を含む第3容量区間として算出する第3区間算出部と、
を備える。
【0007】
蓄電池の開回路電圧の検出タイミングにおいて、蓄電池の開回路電圧と残容量との相関関係により当該蓄電池の基準残容量が算出されるとともに、その基準残容量を含む所定区間として第1容量区間が算出される。また、現時点よりも前の蓄電池の開回路電圧の検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの蓄電池の充放電による電流容量の変化分である容量変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間が算出される。この場合、蓄電池の開回路電圧の検出条件及び蓄電池の充放電条件により生じる残容量のばらつきを考慮して第1容量区間を算出したり、電流容量の積算値の積算誤差を考慮して第2容量区間を算出したりするとともに、各容量区間の重複区間を含む区間を第3容量区間として算出することにより、蓄電池の実際の残容量を含む第3容量区間の範囲を絞り込むことが可能となる。第3容量区間の範囲が絞り込まれることにより、蓄電池の残容量の算出精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る電池システムの概略構成を示す図。
図2】第1容量区間の設定方法を示す図。
図3】第2容量区間の設定方法を示す図。
図4】第3容量区間の設定方法を示す図。
図5】BMUが行う制御の手順を示すフローチャート。
図6】満充電容量を算出する制御の一例を示す図。
図7】第2実施形態に係るBMUが行う制御の手順を示すフローチャート。
図8】満充電容量を算出する制御の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る残容量算出装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両に搭載される電池システムについて具体的な構成を説明する。
【0010】
図1は、本実施形態における電池システムの概略構成を示す図である。電池システムは、車両の走行動力源である回転電機10と、複数の単電池21からなる組電池20と、組電池20の状態を監視するBMU(Battery Management Unit)30とを備えている。
【0011】
組電池20は、回転電機10の電源として用いられるものであり、回転電機10に接続されている。詳しくは、回転電機10は各相の電流を制御するインバータを有している。組電池20は、複数の単電池21の直列接続体として構成されている。直列接続された各単電池21の最も正極側の端子から延びる正極側電源線11が、インバータの正極側に接続され、直列接続された各単電池21の最も負極側の端子から延びる負極側電源線12が、インバータの負極側に接続されている。これにより、組電池20と回転電機10との間の通電が可能になっている。各単電池21は、充放電可能な蓄電池であり、具体的には、リチウムイオン蓄電池である。
【0012】
BMU30は、CPUや各種メモリを備えるマイクロコンピュータから構成される。BMU30は、電圧検出部31と、電流検出部32と、算出部33とを備えている。電圧検出部31は、ワイヤーハーネス等の配線を介して各単電池21の両端に接続され、各単電池21の端子電圧を検出する。本実施形態では、電圧検出部31は、車両の走行開始時又は車両の外部充電時において、単電池21に負荷がかかっておらず、単電池21が無通電状態である場合の両端子間の電圧である開回路電圧を検出する。例えば、電圧検出部31は、車両の走行開始時において、イグニッションスイッチがオン操作され、単電池21の通電が開始される前のタイミングで単電池21の開回路電圧を検出する。また、電圧検出部31は、車両の外部充電時において、車両の外部に備えられた外部充電器による組電池20への通電が開始される前のタイミングで単電池21の開回路電圧を検出する。
【0013】
電流検出部32は、所定時間ごとに組電池20の充放電電流を検出する。図1では、電流検出部32は、負極側電源線12上に設けられた電流センサ13の検出信号を取得し、その検出信号に基づいて組電池20の充放電電流を検出する。電圧検出部31の検出値及び電流検出部32の検出値は、算出部33に入力される。
【0014】
算出部33は、組電池20を構成する各単電池21の充電時及び放電時において各単電池21の残容量を逐次算出する。本実施形態では、算出部33は、単電池21の残容量として、電流容量[Ah]を算出する。なお、算出部33は、単電池21の残容量として、電流容量[Ah]に代えて、電力容量[Wh]を算出してもよいし、SOC[%]を算出してもよい。
【0015】
ところで、単電池21の残容量を高精度に算出することが難しいことがある。詳しくは、開回路電圧と残容量との相関関係に、残容量の広い範囲で開回路電圧が安定しているプラトー領域が生じることがある。プラトー領域では、残容量の変化に伴う開回路電圧の変化が小さいため、開回路電圧から残容量を高精度に算出することが難しいことがある。また、単電池21の充放電電流を積算して残容量を算出する場合、電流積算期間が長期化すると積算誤差が蓄積されるため、電流積算値から残容量を高精度に算出することが難しいことがある。本実施形態では、単電池21としてリチウムイオン蓄電池が用いられている。リチウムイオン蓄電池では、その正極活物質にはリン酸鉄リチウムが使用され、その負極活物質には黒鉛が使用されることがある。この場合、単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係におけるプラトー領域の存在が顕著となり、単電池21の残容量を高精度に算出することが難しくなることが懸念される。
【0016】
この点に鑑みて、本実施形態では、算出部33は、組電池20を構成する各単電池21の残容量が取り得る容量区間を算出するとともに、その容量区間の範囲を絞り込むことにより、残容量の算出精度の向上を図ることとしている。以下では、単電池21の容量区間の算出手法について説明する。
【0017】
算出部33は、単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて、単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係として予め規定した複数の相関関係を用い、当該相関関係ごとに、単電池21の開回路電圧に対応する複数の基準残容量を算出するとともに、それら各基準残容量を含む区間を第1容量区間Aとして算出する。本実施形態では、図2に示すように、算出部33は、充電中における単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係を示す充電特性M1と、放電中における単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係を示す放電特性M2とを定めておき、充電特性M1及び放電特性M2を用いて基準残容量を算出する。算出部33は、充電特性M1における単電池21の開回路電圧の検出値Vrに対応する基準残容量を、第1容量区間Aの最小残容量A_minとするとともに、放電特性M2における単電池21の開回路電圧の検出値Vrに対応する基準残容量を、第1容量区間Aの最大残容量A_maxとする。この場合、算出部33は、最大残容量A_max及び最小残容量A_minにより定められる区間を、第1容量区間Aとして算出する。なお、算出部33は、単電池21の開回路電圧の検出値Vrとして、電圧検出部31の検出値に基づいて算出した値を用いるとよい。
【0018】
単電池21の充電特性M1及び放電特性M2は、例えば工場出荷前において以下のように計測された開回路電圧に基づいて予め規定され、BMU30が備える記憶部に記憶されている。放電特性M2を規定する開回路電圧は、単電池21に対して所定容量の放電が行われる毎に、その放電を停止してから所定の休止時間を経て計測される。放電特性M2を規定する開回路電圧の計測は、単電池21の開回路電圧が上限電圧以上である満充電状態から、単電池21の開回路電圧が下限電圧を下回るまで繰り返し行われる。充電特性M1を規定する開回路電圧は、単電池21に対して所定容量の充電が行われる毎に、その充電を停止してから所定の休止時間を経て計測される。充電特性M1を規定する開回路電圧の計測は、単電池21の開回路電圧が下限電圧を下回った状態から、単電池21の満充電状態まで繰り返し行われる。なお、ノイズ低減の観点から、単電池21の充放電は低電流で行われるとよい。
【0019】
算出部33は、現時点よりも前の開回路電圧の検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの単電池21の充放電による電流容量の変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間Bを算出する。図3に、前回の開回路電圧の検出タイミングにおいて算出した第1容量区間Aが過去容量区間として用いられ、第2容量区間Bが算出される場合の一例を示す。算出部33は、前回の第1容量区間Aの最大残容量A_maxに対して、その第1容量区間Aの算出時からの電流容量の積算値ISを加算して、第2容量区間Bの最大残容量B_maxを算出する。算出部33は、前回の第1容量区間Aの最小残容量A_minに対して、その第1容量区間Aの算出時からの電流容量の積算値ISを加算して、第2容量区間Bの最小残容量B_minを算出する。なお、本実施形態では、電流容量の積算値ISが正値の場合、各残容量A_max,A_minは充電側にシフトし、電流容量の積算値ISが負値の場合、各残容量A_max,A_minは放電側にシフトする。
【0020】
算出部33は、単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて、今回の第1容量区間Aと今回の第2容量区間Bとに基づいて、第3容量区間Cを算出する。ここで、算出部33は、第3容量区間Cの算出において、第1容量区間Aの最大残容量A_maxと第2容量区間Bの最大残容量B_maxとの間の残容量を第3容量区間Cの最大残容量C_maxとするとともに、第1容量区間Aの最小残容量A_minと第2容量区間Bの最小残容量B_minとの間の残容量を第3容量区間Cの最小残容量C_minとするとよい。また、算出部33は、第1容量区間Aと第2容量区間Bとの重複区間を、第3容量区間Cとしてもよい。この場合、例えば図4では、算出部33は、第2容量区間Bの最大残容量B_maxを第3容量区間Cの最大残容量C_maxとして算出し、第1容量区間Aの最小残容量A_minを第3容量区間Cの最小残容量C_minとして算出する。
【0021】
先の図3では、算出部33は、前回の第1容量区間Aを用いて第2容量区間Bを算出する一例を説明したが、前回の第1容量区間Aに代えて、過去容量区間として前回の第3容量区間Cを用いてもよい。この場合、算出部33は、前回の開回路電圧の検出タイミングにおいて算出した第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、その第3容量区間Cの算出時からの電流容量の積算値ISをそれぞれ加算して、今回の第2容量区間Bの最大残容量B_max及び最小残容量B_minを算出する。
【0022】
上述した各区間A,B,Cが算出されることにより、異なる手法で算出された第1容量区間A及び第2容量区間Bを用いて第3容量区間Cの範囲を絞り込むことが可能となる。
【0023】
算出部33は、単電池21の第3容量区間Cを用いて満充電容量を算出する。本実施形態では、算出部33は、単電池21が満充電状態であるか否かを判定し、その単電池21が満充電状態であると判定した場合、満充電容量を算出する。例えば、外部充電器により組電池20の充電が行われている状況では、算出部33は、単電池21の端子電圧が満充電電圧値に到達したと判定した場合に、その単電池21が満充電状態であると判定する。また、例えば、回転電機10の回生発電により組電池20の充電が行われ、単電池21が満充電状態となる状況では、算出部33は、単電池21の開回路電圧が検出されたタイミングにおいて、単電池21の開回路電圧が満充電電圧値以上であると判定した場合に、その単電池21が満充電状態であると判定する。
【0024】
算出部33は、単電池21が満充電状態であると判定した場合、前回の第3容量区間Cと、その第3容量区間Cの算出時からの単電池21の充放電による電流容量の変化分とに基づいて、単電池21の満充電容量区間を算出し、その満充電容量区間を用いて満充電容量を算出する。具体的には、算出部33は、前回の第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、その第3容量区間Cの算出時からの単電池21の充放電による電流容量の積算値ISを加算して、満充電容量区間の最大値及び最小値を算出し、それら最大値及び最小値により定まる区間を満充電容量区間とする。算出部33は、満充電容量区間内の容量を、単電池21の満充電容量として算出する。例えば、算出部33は、満充電容量区間の最大値又はその最大値を所定値だけ放電側にシフトさせた値や、満充電区間の最小値又はその最小値を所定値だけ充電側にシフトさせた値、満充電区間の最大値及び最小値の相加平均値又は重み付け平均値を、単電池21の満充電容量として算出する。
【0025】
図5に、上述した第1,第2,第3容量区間A,B,C及び満充電容量の算出手法を、組電池20の劣化状態を示すSOHの算出に適用した制御の手順を示す。この制御は、BMU30により所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0026】
ステップS10では、第3容量区間Cのリセット条件に該当するか否かを判定する。本実施形態では、第3容量区間Cの算出が行われない期間が所定時間(例えば、数10時間又は数日)以上継続しているか否かを判定する。第3容量区間Cの算出が行われない状況としては、車両が放置されており、イグニッションスイッチが長時間オフのままになっている状況が考えられる。また、何らかの不具合により前回の第3容量区間Cの算出時からの経過時間を計測できないと判定した場合に、第3容量区間Cのリセット条件に該当すると判定してもよい。ステップS10において肯定判定した場合、ステップS11に進む。ステップS11では、第3容量区間Cを所定の初期区間にリセットする。例えば、第3容量区間Cの初期区間として、現時点よりも前の開回路電圧の検出タイミングに算出された第1容量区間Aを用いてもよい。ステップS11の処理の後、ステップS12に進む。一方、ステップS10において否定判定した場合、ステップS11の処理を行わずに、ステップS12に進む。なお、ステップS10の処理が「期間判定部」に相当し、ステップS11の処理が「リセット部」に相当する。
【0027】
ステップS12では、単電池21の開回路電圧が検出可能であるか否かを判定する。本実施形態では、車両の走行開始時又は車両の外部充電時における単電池21の通電開始前において単電池21の開回路電圧が検出可能であると判定し、それ以外の場合において単電池21の開回路電圧が検出不可能であると判定する。ステップS12において否定判定した場合、ステップS19に進む。
【0028】
ステップS19では、前回の開回路電圧の検出タイミングからの単電池21の充放電による電流容量を積算して積算値ISを算出する。単電池21の充放電による電流容量は、電流センサ13の検出値に基づいて算出したものを用いるとよい。ステップS19の処理の後、ステップS20に進む。
【0029】
一方、ステップS12において肯定判定した場合、ステップS13に進む。ステップS13では、単電池21の開回路電圧を検出する。例えば、単電池21が無通電状態となってから所定時間経過した後の単電池21の端子電圧を開回路電圧とみなしたり、通電状態の単電池21の端子電圧から開回路電圧を推定したりして、単電池21の開回路電圧を検出するとよい。単電池21の端子電圧としては、電圧検出部31の検出値を用いるとよい。
【0030】
ステップS14では、第1容量区間Aを算出する。本実施形態では、充電中における単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係を示す充電特性M1と、放電中における単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係を示す放電特性M2とを用いて、検出した単電池21の開回路電圧から第1容量区間Aの最大残容量A_max及び最小残容量A_minを算出する。なお、第1容量区間Aを算出する場合に、開回路電圧と残容量との相関関係を2つ用いることに限らない。例えば、単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係を1つ用いて、第1容量区間Aを算出することも可能である。この場合、開回路電圧の検出誤差分を予め定めておき、検出した開回路電圧に対して検出誤差分を減補正及び増補正することにより、開回路電圧の補正値を2つ算出し、それら2つの補正値から第1容量区間Aの最大残容量A_max及び最小残容量A_minを算出すればよい。また、例えば、単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係を3つ以上用いて、第1容量区間Aを算出してもよい。なお、ステップS14の処理が「第1区間算出部」に相当する。
【0031】
ステップS15では、第2容量区間Bを算出する。本実施形態では、前回の開回路電圧の検出タイミングにおける第3容量区間Cの最大残容量及び最小残容量に対して、当該第3容量区間Cの算出時からの単電池21の充放電による電流容量の積算値ISをそれぞれ加算して、第2容量区間Bを算出する。ステップS15の処理において、電流容量の積算値ISは、ステップS19の処理により算出した値を用いるとよい。本実施形態では、ステップS15,S19の処理が「第2区間算出部」に相当する。
【0032】
ステップS16では、第3容量区間Cの算出を行うか否かを判定する。例えば、所定範囲より広い範囲の第1容量区間Aが算出されていると判定した場合、第3容量区間Cの範囲を絞り込むことが難しいと判定し、第3容量区間Cの算出を行わないと判定する。また、例えば、前回の開回路電圧の検出タイミングから所定時間以内である場合、前回の第3容量区間Cからの変化が小さいと判定し、今回の第3容量区間Cの算出を行わないと判定する。上述した場合以外において、第3容量区間Cの算出を行うと判定する。ステップS16において肯定判定した場合、ステップS17に進む。
【0033】
ステップS17では、第3容量区間Cを算出する。本実施形態では、ステップS14,S15の処理により算出した第1容量区間Aと第2容量区間Bとの重複区間を、第3容量区間Cとして算出する。なお、ステップS17の処理が「第3区間算出部」に相当する。
【0034】
なお、上述した各区間A~CやステップS19の処理で算出した電流容量の積算値ISを、BMU30が備えるバックアップ用のメモリに記憶するとよい。これにより、イグニッションスイッチのオフ後も各区間A~Cや電流容量の積算値ISが保存され、複数回のトリップに亘って第3容量区間Cが算出可能になる。
【0035】
ステップS18では、単電池21の充放電による電流容量の積算値ISを0にリセットし、ステップS20に進む。なお、ステップS16において否定判定した場合、ステップS17,S18の処理を行わずに、ステップS20に進む。
【0036】
ステップS20では、単電池21が満充電状態であるか否かを判定する。ステップS20において肯定判定した場合、ステップS21に進む。一方、ステップS20において否定判定した場合、ステップS24に進む。なお、ステップS20の処理が「満充電判定部」に相当する。
【0037】
ステップS21では、満充電容量の信頼性があるか否かを判定する。本実施形態では、単電池21の第3容量区間Cを用いて満充電容量区間を算出し、その満充電容量区間内の容量を満充電容量として算出する。この場合、第3容量区間Cの幅が狭いほど満充電容量の算出精度が高く、満充電容量の信頼性が高いと考えられる。そこで、第3容量区間Cの幅を満充電容量の信頼性を判定する判定パラメータとし、その判定パラメータに基づいて、満充電容量の信頼性を判定する。具体的には、第3容量区間Cの幅が所定幅以下である場合、満充電容量の算出精度が確保されると判定し、満充電容量の信頼性があると判定する。この場合、ステップS22に進む。一方、第3容量区間Cの幅が所定幅より広い場合、満充電容量の算出精度が確保されないと判定し、満充電容量の信頼性がないと判定する。この場合、ステップS24に進む。なお、ステップS21の処理が「信頼性判定部」に相当する。
【0038】
ステップS22では、単電池21の満充電容量区間FCCを算出する。ここでは、第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、その第3容量区間Cの算出時からの単電池21の充放電による電流容量の積算値ISを加算して、満充電容量区間FCCの最大値及び最小値を算出し、それら最大値及び最小値により定まる区間を満充電容量区間FCCとする。電流容量の積算値ISは、ステップS19の処理により算出した値を用いるとよい。ステップS23では、満充電容量区間FCC内の容量を、単電池21の満充電容量として算出する。なお、ステップS22,S23の処理が「満充電容量算出部」に相当する。
【0039】
ステップS24では、組電池20を構成する各単電池21の満充電容量の算出が完了した否かを判定する。各単電池21の満充電容量が算出されている場合、ステップS25に進む。一方、組電池20を構成する各単電池21のうち満充電容量が算出されていない単電池が存在する場合、本制御を終了する。
【0040】
ステップS25では、組電池20のSOHを算出する。組電池20のSOH[%]は、(現在の組電池20の満充電容量/組電池20の基準満充電容量)×100で表される。組電池20の基準満充電容量は、組電池20として放電可能な容量を示し、例えば組電池20の設計時又は車両試験時に規定された容量である。現在の組電池20の満充電容量は、例えば、組電池20を構成する単電池21のうち最小の満充電容量と、組電池20の直列数と、規定電圧との積である。規定電圧は、組電池20を放電するときの平均電圧であるとよく、車両の設計時に規定されるとよい。なお、各単電池21の残容量のばらつきや組電池20の劣化を考慮して、現在の組電池20の満充電容量を補正してもよい。
【0041】
ステップS26では、算出した組電池20のSOHを他の機器へ通知する。この場合、例えば、車両のインスツルメントパネルや車両のカーナビに組電池20のSOHを表示させたり、車両の外部のサーバやスマートフォン等のモバイル端末に組電池20のSOHを通知させたりすることが考えられる。
【0042】
図6に、第3容量区間C及び満充電容量区間FCCが算出される制御の一例を示す。図6において、(a),(b),(c)の順に組電池20の放電及び開回路電圧の検出が行われ、(d)において、(c)の状態から満充電状態まで組電池20の充電が行われる。
【0043】
図6(a)では、単電池21の第3容量区間Cとして初期区間が設定されている。この場合では、例えば単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係におけるプラトー領域よりも第3容量区間Cの幅が広く、残容量の算出精度が低いことが懸念される。図6(b)では、異なる手法により算出された第1容量区間A及び第2容量区間Bの重複区間として、第3容量区間Cが算出される。これにより、第3容量区間Cの範囲を的確に絞り込むことができ、図6において(a)に比べて(b)の第3容量区間Cの範囲が絞り込まれている。
【0044】
本実施形態では、前回の単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおける第3容量区間Cを用いて、今回の第2容量区間Bが算出されるとともに、今回の第1,第2容量区間A,Bに基づいて、今回の第3容量区間Cが算出される。これにより、前回の第3容量区間Cが今回の第3容量区間Cの算出に引き継がれるため、今回の第3容量区間Cの範囲を的確に絞り込むことができる。そのため、図6において(b)に比べて(c)の第3容量区間Cの範囲が絞り込まれている。そして、図6(c)における第3容量区間Cの幅が所定幅以下となり、満充電容量の信頼性があると判定される。これにより、満充電容量区間FCCの算出が許可される。
【0045】
図6(d)では、図6(c)における第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、その第3容量区間Cの算出時からの単電池21の充電による電流容量の積算値ISが加算され、満充電容量区間FCCが算出される。この場合、満充電容量区間FCCの範囲が絞り込まれており、満充電容量の算出精度を向上することができる。
【0046】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0047】
単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて、単電池21の開回路電圧と残容量との相関関係により単電池21の基準残容量が算出されるとともに、その基準残容量を含む所定区間として第1容量区間Aが算出される。また、現時点よりも前の単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの単電池21の充放電による電流容量の変化分である容量変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間Bが算出される。この場合、単電池21の開回路電圧の検出条件及び単電池21の充放電条件により生じる残容量のばらつきを考慮して第1容量区間Aを算出したり、電流容量の積算値ISの積算誤差を考慮して第2容量区間Bを算出したりするとともに、各容量区間A,Bの重複区間を含む区間を第3容量区間Cとして算出することにより、単電池21の実際の残容量を含む第3容量区間Cの範囲を絞り込むことが可能となる。第3容量区間Cの範囲が絞り込まれることにより、単電池21の残容量の算出精度を向上することができる。
【0048】
開回路電圧と残容量との複数の相関関係を用いて第1容量区間Aを算出することで、実際の単電池21での充放電特性にばらつきがあることを想定しつつ、第1容量区間Aを適正に算出することができる。上記以外に、単電池21の劣化度合の異なる複数の相関関係を用いてもよい。又は、単電池21において許容公差の範囲内で定められた複数の相関関係を用いてもよい。
【0049】
第3容量区間Cの幅が満充電容量の信頼性を判定する判定パラメータとして用いられ、その判定パラメータに基づいて満充電容量の信頼性判定が行われる。満充電容量の信頼性があると判定された場合に、満充電容量の算出が許可される。これにより、満充電容量の算出精度が高い状況において単電池21の満充電容量を算出できる。
【0050】
第3容量区間Cの算出が行われない期間が長時間継続している場合では、既に算出された第3容量区間Cの信頼性が低下していると考えられる。そこで、本実施形態によれば、第3容量区間Cの算出が行われない期間が所定時間以上継続していると判定された場合、第3容量区間Cが所定の初期区間にリセットされる。これにより、信頼性の低い第3容量区間Cを用いて第2容量区間Bの算出が行われることを抑制することができる。
【0051】
<第1実施形態の変形例>
上記第1実施形態は以下の様に変更して実施してもよい。
【0052】
・算出部33は、過去容量区間(例えば、前回の第3容量区間C)の最小残容量に対して、電流容量の検出誤差分を減補正した電流容量の積算値ISを加算するとともに、過去容量区間の最大残容量に対して、電流容量の検出誤差分を増補正した電流容量の積算値ISを加算して、第2容量区間Bを算出してもよい。具体的には、先の図5のステップS19において、電流容量の検出誤差分を減補正した場合の電流容量の積算値IS1と、電流容量の検出誤差分を増補正した電流容量の積算値IS2とを算出するとよい。例えば、検出誤差分を減補正した積算値IS1は、下式(A)のように算出され、検出誤差分を増補正した積算値IS2は、下式(B)のように算出されるとよい。なお、電流容量の検出誤差分を予め定めておくとよい。
【0053】
IS1(今回値)=IS1(前回値)+(電流容量-検出誤差分) (数式A)
IS2(今回値)=IS2(前回値)+(電流容量+検出誤差分) (数式B)
この場合、ステップS15において、積算値IS1を、過去容量区間の最小残容量に対して加算し、積算値IS2を、過去容量区間の最大残容量に対して加算して第2容量区間Bを算出するとよい。
【0054】
上記構成によれば、過去容量区間の最小残容量が、電流容量の検出誤差分を加味して少なめに加算される。一方で、過去容量区間の最大残容量が、電流容量の検出誤差分を加味して多めに加算される。これにより、電流容量の検出値にセンサ誤差等が含まれることを考慮しつつ、第2容量区間Bを適正に算出することができる。
【0055】
なお、ステップS22において、検出誤差分を減補正した積算値IS1を第3容量区間Cの最小残容量C_minに対して加算し、検出誤差を増補正した積算値IS2を第3容量区間Cの最大残容量C_maxに対して加算して、満充電容量区間FCCを算出してもよい。
【0056】
・算出部33は、単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて第2容量区間Bを算出することに代えて、先の図5のステップS19の処理において第2容量区間Bを都度更新することとしてもよい。この場合、ステップS15の処理は行わなくてもよい。なお、ステップS19の処理で算出した電流容量の積算値ISは、満充電容量区間FCCの算出に用いるとよい。
【0057】
・先の図5のステップS17の処理において、第3容量区間Cの最小残容量C_minを下式(C)のように算出し、第3容量区間Cの最大残容量C_maxを下式(D)のように算出してもよい。
【0058】
C_min=(α×A_min+β×B_min)/(α+β) (数式C)
C_max=(γ×A_max+ε×B_max)/(γ+ε) (数式D)
ここで、α,β,γ,εは重み付け係数である。各係数α,β,γ,εを、固定値(具体的には、α=β=γ=ε=1)に設定したり、単電池21の残容量に応じて可変設定したりするとよい。例えば、単電池21の残容量(具体的には、各残容量A_min,A_max,B_min,B_max)が低い場合には、単電池21の残容量が高い場合に比べて、第1容量区間Aの係数α,γに対する第2容量区間Bの係数β,εの割合(言い換えると、係数比β/α,ε/γ)を大きく設定するとよい。この場合、第1容量区間Aに比べて第2容量区間Bが反映され、第3容量区間Cが算出される。また、BMU30は組電池20の温度を検出し、組電池20の温度に応じて各係数α,β,γ,εを可変設定してもよい。
【0059】
・先の図5のステップS21の処理において、第3容量区間Cの幅以外を判定パラメータとしてもよい。例えば、第3容量区間Cの算出時における第3容量区間C及び第2容量区間Bの差を判定パラメータとし、その判定パラメータに基づいて、満充電容量の信頼性があるか否かを判定してもよい。この場合、例えば、下式(E),(F),(G)が成り立つ場合、満充電容量の信頼性があると判定してもよい。
【0060】
C_min-B_min≧所定量 (数式E)
B_max-C_max≧所定量 (数式F)
(C_min-B_min)+(B_max-C_max)≧所定量 (数式G)
ここで、各式(E),(F),(G)の左辺は、第2容量区間Bに対して第3容量区間Cの範囲がどの程度限定されたかを示す限定度合である。限定度合が所定量以上である場合、満充電容量の算出精度が確保されると判定し、満充電容量の信頼性があると判定する。一方、限定度合が所定量未満である場合、満充電容量の算出精度が確保されないと判定し、満充電容量の信頼性がないと判定する。限定度合として、第2容量区間Bに代えて、第1容量区間Aに対して第3容量区間Cがどの程度限定されたかを示す値を算出してもよい。また、各式(E),(F),(G)の左辺の積算値を算出し、その積算値が所定量以上であるか否かに基づいて満充電容量の信頼性があるか否かを判定してもよい。
【0061】
また、例えば、満充電容量区間の幅と、満充電容量区間の最大容量値と、満充電容量区間の最小容量値との少なくともいずれかを判定パラメータとし、その判定パラメータに基づいて、満充電容量の信頼性があるか否かを判定してもよい。この場合、ステップS20の処理の後、ステップS21の処理に先立ち、ステップS22の処理を行うとよい。具体的には、満充電容量区間の幅が所定幅以下である場合、満充電容量の信頼性があると判定し、満充電容量区間の幅が所定幅より広い場合、満充電容量の信頼性がないと判定する。満充電容量区間の最大容量値が第1所定値以下である場合、満充電容量の信頼性があると判定し、満充電容量区間の最大容量値が第1所定値より大きい場合、満充電容量の信頼性がないと判定する。満充電容量の最小容量値が第2所定値以上である場合、満充電容量の信頼性があると判定し、満充電容量区間の最小容量値が第2所定値より小さい場合、満充電容量の信頼性がないと判定する。なお、第1所定値は、第2所定値よりも大きい値である。
【0062】
・先の図5において、ステップS10,S11,S16の処理を行わなくてもよい。
【0063】
・先の図5において、ステップS25,S26の処理に代えて、その他の処理を行ってもよい。例えば、ステップS24において肯定判定した場合、組電池20のSOCを算出してもよい。組電池20のSOC[%]は、(現在の組電池20の残容量/現在の組電池20の満充電容量)×100で表される。現在の組電池20の満充電容量として、ステップS23の処理で算出した各単電池21の満充電容量を用いるとよい。現在の組電池20の残容量を、ステップS17の処理で算出した各単電池21の第3容量区間Cに基づいて算出するとよい。また、ステップS24~S26の処理を行わなくてもよい。
【0064】
・先の図5のステップS17の処理の後において、第3容量区間Cを用いて各単電池21の残容量を算出する処理を行ってもよい。この場合、例えば、算出部33は、第3容量区間Cの最大残容量C_max又は最大残容量C_maxを所定値だけ放電側にシフトさせた値や、第3容量区間Cの最小残容量C_min又は最小残容量C_minを所定値だけ充電側にシフトさせた値、第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minの相加平均値又は重み付け平均値を、単電池21の残容量として算出すればよい。また、先の図5のステップS17の処理の後において、第3容量区間Cを用いて、組電池20から入出力が可能な最大電力(つまり、Win,Wout)を設定してもよい。第3容量区間Cを用いて各単電池21の残容量の算出や組電池20から入出力可能な最大電力の設定を行う場合、ステップS20~S26の処理を行わなくてもよい。
【0065】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、先の第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、単電池21が満充電状態であると判定されたタイミングに代えて、単電池21の開回路電圧の検出タイミングにおいて満充電容量が算出される。
【0066】
図7に、満充電容量を算出する制御の手順を示す。この制御は、BMU30により所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、図7において、先の図5に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0067】
ステップS30では、単電池21が満充電状態であるか否かを判定する。本実施形態では、外部充電器により組電池20の充電が行われている状況を想定し、単電池21の端子電圧が満充電電圧値に到達したと判定した場合に、その単電池21が満充電状態であると判定する。ステップS30において否定判定した場合、ステップS31に進む。ステップS32において肯定判定した場合、ステップS32に進む。
【0068】
ステップS31では、単電池21が満充電状態であると判定されたタイミングからの単電池21の充放電による電流容量を積算して積算値ISを算出する。単電池21の充放電による電流容量は、電流センサ13の検出値に基づいて算出したものを用いるとよい。ステップS32では、ステップS31の処理において算出した電流容量の積算値ISを0にリセットする。ステップS31,S32の処理の後、ステップS12に進む。
【0069】
ステップS12~S17,S19の処理は、第1実施形態と同様である。ステップS17の処理の後、ステップS22に進む。ステップS22,S23の処理は、第1実施形態と同様である。なお、図7では、ステップS16の処理を省略している。本実施形態において、ステップS31の処理が「積算値算出部」に相当し、ステップS22,S23の処理が「満充電容量算出部」に相当する。
【0070】
ステップS23の処理の後、ステップS33に進む。ステップS33では、ステップS19の処理において算出した電流容量の積算値ISを0にリセットする。なお、ステップS19の処理において算出される電流容量の積算値ISは、前回の開回路電圧の検出タイミングからの単電池21の充放電による電流容量の積算値ISである。ステップS33の処理の後、本制御を終了する。
【0071】
図8に、第3容量区間C及び満充電容量区間FCCが算出される一例を示す。図8において、(a),(b),(c)の順に組電池20の放電及び開回路電圧の検出が行われる。
【0072】
図8(a)では、単電池21が満充電状態である場合の第3容量区間Cが設定されている。単電池21が満充電状態である場合の第3容量区間Cは、予め設定された初回設定区間であればよい。
【0073】
図8(b),(c)では、今回の第1容量区間A及び第2容量区間Bを用いて第3容量区間Cの更新が行われるとともに、その第3容量区間Cを用いて満充電容量区間FCCが算出される。
【0074】
図8(b)において、第2容量区間Bの算出では、設定区間である第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、図8(a)のタイミングから(b)のタイミングまでの期間における単電池21の充放電による電流容量の積算値ISAが加算される。また、満充電容量区間FCCの算出では、図8(b)のタイミングにおける第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、図8(a)のタイミングから(b)のタイミングまでの期間における単電池21の充放電による電流容量の積算値ISAが加算される。
【0075】
図8(c)において、第2容量区間Bの算出では、図8(b)における第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、図8(b)のタイミングから(c)のタイミングまでの期間における単電池21の充放電による電流容量の積算値ISBが加算される。ここで、電流容量の積算値ISBとして、先の図7のステップS19の処理において算出されたものが用いられるとよい。満充電容量区間FCCの算出では、図8(c)における第3容量区間Cの最大残容量C_max及び最小残容量C_minに対して、図8(a)のタイミングから(c)のタイミングまでの期間における単電池21の充放電による電流容量の積算値ISA+ISBが加算される。ここで、電流容量の積算値ISA+ISBとして、先の図7のステップS31の処理において算出されたものが用いられるとよい。
【0076】
上記構成によれば、単電池21の開回路電圧が検出された各タイミングで単電池21の満充電容量の算出を行うことができる。
【0077】
なお、図7のステップS33の処理の後において、第1実施形態と同様に、組電池20のSOH、SOCを算出する処理を行ってもよい。また、図7のステップS17の処理の後において、第1実施形態と同様に、第3容量区間Cを用いて各単電池21の残容量の算出や組電池20から入出力可能な最大電力の設定を行ってもよい。
【0078】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0079】
・算出部33は、満充電容量に代えて、第3容量区間Cを用いて単電池21のSOHを算出してもよい。この場合、先の図5のステップS23の処理において、満充電容量区間FCC内の容量を単電池21の満充電容量として算出するとともに、その満充電容量を単電池21の基準満充電容量で除算して、単電池21のSOHを算出すればよい。単電池21の基準満充電容量は、単電池21の設計時又は車両試験時に規定された容量である。
【0080】
・上記実施形態では、電池システムを車両用の電池システムとして説明したが、飛行体や船舶等、車両以外の移動体の電池システムであってもよい。また、移動体以外の電池システム、すなわち定置式の電池システムであってもよい。具体的には、住宅や店舗、公共設備等の建物に付随して設けられる電池システムに適用することが可能である。
【0081】
・本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の車両制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0082】
・以下、上述した各実施形態から抽出される特徴的な構成を記載する。
[構成1]
蓄電池(21)の充電時及び放電時において当該蓄電池の残容量を算出する残容量算出装置(30)であって、
前記蓄電池の開回路電圧の検出タイミングにおいて、前記開回路電圧と前記蓄電池の残容量との相関関係により前記蓄電池の基準残容量を算出するとともに、その基準残容量を含む所定区間を、第1容量区間として算出する第1区間算出部と、
現時点よりも前の前記検出タイミングにおいて算出した過去容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、当該過去容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の変化分である容量変化分をそれぞれ加算して、第2容量区間を算出する第2区間算出部と、
前記検出タイミングにおいて、前記第1容量区間と前記第2容量区間との重複区間を含む区間を、実際の残容量を含む第3容量区間として算出する第3区間算出部と、
を備える、残容量算出装置。
[構成2]
前記第1区間算出部は、前記検出タイミングにおいて、前記相関関係として規定した複数の相関関係を用い、当該相関関係ごとに、前記開回路電圧に対応する複数の前記基準残容量を算出するとともに、それら各基準残容量を含む区間を前記第1容量区間として算出する、構成1に記載の残容量算出装置。
[構成3]
前記第2区間算出部は、現時点よりも前に前記第3区間算出部により算出された前記第3容量区間を前記過去容量区間とし、その第3容量区間の最大残容量及び最小残容量に対して、前記第3容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による前記容量変化分をそれぞれ加算して、前記第2容量区間を算出する、構成1又は2に記載の残容量算出装置。
[構成4]
前記第3区間算出部は、前記第3容量区間の算出において、前記第1容量区間の最大残容量と前記第2容量区間の最大残容量との間の前記残容量を前記第3容量区間の最大残容量とするとともに、前記第1容量区間の最小残容量と前記第2容量区間の最小残容量との間の前記残容量を前記第3容量区間の最小残容量とする、構成1~3のいずれか1つに記載の蓄電容量算出装置。
[構成5]
前記第3区間算出部は、前記第1容量区間と前記第2容量区間との重複区間を、前記第3容量区間とする、構成1~3のいずれか1つに記載の蓄電容量算出装置。
[構成6]
前記第2区間算出部は、前記過去容量区間の最小残容量に対して、前記電流容量の検出誤差分を減補正した前記容量変化分を加算し、前記過去容量区間の最大残容量に対して、前記電流容量の検出誤差分を増補正した前記容量変化分を加算して、前記第2容量区間を算出する、構成1~5のいずれか1つに記載の残容量算出装置。
[構成7]
前記蓄電池が満充電状態であることを判定する満充電判定部と、
前記満充電状態であると判定された場合に、前回の前記検出タイミングで算出された前記第3容量区間と、その第3容量区間の算出時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の変化分とに基づいて、前記蓄電池の満充電容量区間を算出し、その満充電容量区間から満充電容量を算出する満充電容量算出部と、を備える、構成1~6のいずれか1つに記載の残容量算出装置。
[構成8]
前記蓄電池の満充電時からの前記蓄電池の充放電による電流容量の積算値を容量積算値として算出する積算値算出部と、
前記検出タイミングにおいて、前記第3区間算出部により算出された前記第3容量区間と、前記積算値算出部により算出された前記容量積算値とに基づいて、前記蓄電池の満充電容量区間を算出し、その満充電容量区間から満充電容量を算出する満充電容量算出部と、を備える、構成1~6のいずれか1つに記載の残容量算出装置。
[構成9]
前記第3区間算出部により算出された前記第3容量区間の幅と、前記満充電容量算出部により算出された前記満充電容量区間の幅と、前記満充電容量区間の最大容量値又は最小容量値と、前記第3容量区間の算出時における前記第3容量区間及び前記第1容量区間の差と、前記第3容量区間の算出時における前記第3容量区間及び前記第2容量区間の差との少なくともいずれかを判定パラメータとし、その判定パラメータに基づいて、前記満充電容量算出部により算出された前記満充電容量の信頼性を判定する信頼性判定部と、
前記信頼性判定部により信頼性ありと判定されたことを条件に、前記満充電容量算出部による前記満充電容量の算出を許可する許可部と、を備える請求項7又は8に記載の残容量算出装置。
[構成10]
前記第3容量区間の算出が行われない期間が所定時間以上継続しているか否かを判定する期間判定部と、
前記第3容量区間の算出が行われない期間が所定時間以上継続していると判定された場合、前記第3容量区間をリセットするリセット部を備える、構成1~9のいずれか1つに記載の残容量算出装置。
【符号の説明】
【0083】
21…単電池、30…BMU。
図1
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図8