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特開2024-83976ブラケット支持用アンカーボルト及びブラケット支持構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083976
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】ブラケット支持用アンカーボルト及びブラケット支持構造
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/02 20060101AFI20240617BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20240617BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
E01D19/02
F16B35/00 T
F16B5/02 U
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198101
(22)【出願日】2022-12-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)株式会社三和鉄工が、令和4年5月10日にサンコー株式会社に濱中重信及び尾山則行が発明したアンカーボルト及びブラケット支持構造を販売した。 (2)株式会社三和鉄工が、令和4年8月1日に橋梁と基礎 2022年8月号161頁にて、濱中重信及び尾山則行が発明したアンカーボルト及びブラケット支持構造について公開した。 (3)株式会社三和鉄工が、令和4年8月4日にサンワPCアンカーボルト カタログにて、濱中重信及び尾山則行が発明したアンカーボルト及びブラケット支持構造について公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】505174828
【氏名又は名称】株式会社三和鉄工
(74)【代理人】
【識別番号】100144749
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正英
(74)【代理人】
【識別番号】100076369
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正治
(72)【発明者】
【氏名】濱中 重信
(72)【発明者】
【氏名】尾山 則行
【テーマコード(参考)】
2D059
3J001
【Fターム(参考)】
2D059AA01
2D059AA03
2D059GG30
2D059GG40
2D059GG55
3J001FA18
3J001GA07
3J001GB01
3J001GC02
3J001HA02
3J001HA07
3J001JA10
3J001KA21
3J001KB04
(57)【要約】
【課題】 従来のアンカーボルトに比べて細径でありながら同等の強度を備えたアンカーボルトと、当該アンカーボルトを用いたブラケット支持構造を提供する。
【解決手段】 本発明のアンカーボルトは埋設部と突出部を備え、埋設部に異形部が形成され、突出部に螺合部が形成されたものである。本発明のブラケット支持構造は、ブラケットとブラケットを支持するアンカーボルトを備え、アンカーボルトが本発明のアンカーボルトであり、構造物にアンカーボルトを挿入するための挿入孔が設けられ、挿入孔に充填剤が充填され、挿入孔内の充填剤にアンカーボルトの埋設部が埋設され、アンカーボルトの突出部にブラケットが支持され、アンカーボルトの螺合部に止め具が螺合されたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーボルトにおいて、
構造物に埋設される埋設部と、当該埋設部が当該構造物に埋設された状態で当該構造物外に突出する突出部を備え、
前記埋設部に異形部が形成され、
前記突出部に螺合部が形成された、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項2】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
埋設部の異形部の頂部を含む直径と突出部の螺合部の頂部を含む直径が等しい又は略等しい、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項3】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
突出部の芯部分が埋設部の芯部分よりも太い、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項4】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
異形部は、一端から他端までが連続する同じ又は略同じ高さの螺旋状の突条を備えた、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項5】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
突出部の引張強度が埋設部の引張強度よりも高く、JISZ2241 2号試験片に則る引張試験を行った場合に、突出部よりも先に埋設部が破断する、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項6】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
母材として、JISG3109を満足する鋼棒が用いられた、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項7】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
母材として、JISG3109 SBPD930/1080を満足する鋼棒が用いられた、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項8】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
異形部が螺旋状の異形ネジである、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項9】
構造物に設置するブラケットの支持構造において、
ブラケットと、当該ブラケットを支持するアンカーボルトを備え、
前記アンカーボルトが、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のアンカーボルトであり、
前記構造物に前記アンカーボルトを挿入するための挿入孔が設けられ、
前記挿入孔に充填剤が充填され、
前記挿入孔内の充填剤に前記アンカーボルトの埋設部が埋設され、
前記アンカーボルトの突出部に前記ブラケットが支持され、
前記アンカーボルトの螺合部に止め具が螺合された、
ことを特徴とするブラケット支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物に設置するブラケットを支持するアンカーボルトと、当該アンカーボルトを用いたブラケットの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
日本各地における高速道路を含む道路橋は、昭和30年代を皮切りに数多く増設されている。橋梁は経年劣化するものであり、その寿命は一般的に50年と言われている。全国約72万の橋梁のうち51万橋が市町村道にあり、10年後には、建設後50年を経過する橋梁の割合が52%に増加するとされている(国土交通省発表の「老朽化対策の取組み」より)。
【0003】
橋梁が劣化する原因としては、(1)交通量の増加やトラックの大型化による疲労損傷、(2)コンクリート中に浸透した塩化物イオンによる鋼材の腐食(いわゆる塩害)等が挙げられる。塩害は、海砂の使用のほか、融雪剤や海からの塩分飛来等が要因として考えられている。
【0004】
これらの要因により劣化した橋梁は、期待される本来の強度が維持できない可能性があることに加え、我が国が地震国であることから、橋梁の補強工事の早急な実施が求められている。
【0005】
平成8年度の道路橋示方書以前の基準に則した設計及び建設がなされた橋梁は、現在の耐震基準に準拠することが求められており、この要求を満たすため、補強工事に際して落橋防止システムが使用されることがある。
【0006】
落橋防止システムは、落橋防止ケーブル(チェーン)と下部橋台部もしくは橋台部にある桁端部に設置する変位制御装置であり、橋桁の落下や極端なズレを防止することができる。
【0007】
落橋防止ケーブルを用いる場合、橋脚等の構造物にブラケットが設置され、そのブラケットが設置台座として使用される。ブラケットの設置の際には既設構造物を削孔し、形成された挿入孔にアンカーボルトを挿入して接着系の充填剤で埋め固めることが行われる(特許文献1)。
【0008】
この際に使用されるアンカーボルトとしては、たとえば、JISG3112 鉄筋コンクリート用棒鋼 SD345、SD390、SD490種類の呼び名D41やD51サイズのアンカーボルト等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-212916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
構造物に挿入孔を設ける際に埋設済み鉄筋を削ると強度低下を引き起こすおそれがあるため、削孔は埋設済み鉄筋を避けて行う必要がある。ところが、既設構造物が過密配筋の場合、埋設済み鉄筋を避けるのが難しく、誤って削ってしまうことがある。
【0011】
削孔箇所が埋設済み鉄筋に干渉する位置であった場合には、削孔をやり直す必要があるが、削孔を繰り返すと構造物自体の強度低下を招くおそれがある。また、削孔箇所の変更はブラケットの設計変更を伴うことから、作業効率の低下要因や工期短縮の弊害となる。
【0012】
また、アンカーボルトとして、前記D41やD51のように径が太く、重量のあるアンカーボルトを用いる場合、(1)作業性が上がりにくい、(2)削孔径が小さくできず、埋設済み鉄筋を避けて削孔するのが困難である等の問題もある。
【0013】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、従来のアンカーボルトに比べて細径でありながら同等の強度を備えたアンカーボルトと、当該アンカーボルトを用いたブラケット支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[アンカーボルト]
本発明のアンカーボルトは、構造物に埋設される埋設部と、埋設部が当該構造物に埋設された状態で構造物外に突出する突出部を備え、埋設部に異形部が形成され、突出部に螺合部が形成されたものである。
【0015】
[ブラケット支持構造]
本発明のブラケット支持構造は、落橋防止具を設置するブラケットの支持構造であって、ブラケットとブラケットを支持するアンカーボルトを備え、アンカーボルトが本発明のアンカーボルトであり、構造物にアンカーボルトを挿入するための挿入孔が設けられ、挿入孔に充填剤が充填され、挿入孔内の充填剤にアンカーボルトの埋設部が埋設され、アンカーボルトの突出部にブラケットが支持され、アンカーボルトの螺合部に止め具が螺合されたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、削孔径が小さくて済むため、過密配筋の構造物への削孔時に既設配筋を傷つけるリスクを低減できるほか、削孔のやり直しやこれに伴うブラケットの再設計の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ブラケット支持用アンカーボルトの一例を示す図。
図2】ブラケット支持用アンカーボルトで橋脚にブラケットを取り付けた場合の一例を示す説明図。
図3】コンクリート付着強さについての試験結果を示すグラフ。
図4】(a)~(d)はブラケット支持用アンカーボルトの施工手順の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
本発明のアンカーボルト10の一例を、図面を参照して説明する。本発明のアンカーボルト10は、各種用途で用いることができるが、ここでは、アンカーボルト10が、落橋防止具(図示しない)を設置するブラケット20(図2)の支持に用いるブラケット支持用アンカーボルト10の場合を一例とする。
【0019】
この実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10は長尺の鋼棒である。一例としては、700mm~1500mm程度とすることができる。ただし、この長さは一例であり、ブラケット支持用アンカーボルト10の長さはこの範囲に限定されるものではない。
【0020】
一例として図1に示すブラケット支持用アンカーボルト10は、構造物X(図2)に埋設される埋設部11と、埋設部11が構造物Xに埋設された状態で構造物X外に突出する突出部12を備えている。埋設部11にはコンクリートとの付着強度を持たせるための異形部13が設けられている。
【0021】
この実施形態の異形部13は、不連続の突状が所定間隔で形成されたリブ状ではなく、螺旋状としてある。異形部13を螺旋状とする(異形ネジとする)ことで、リブ状とする場合よりもコンクリートとの付着面積が大きくなり、付着力の面でリブ状よりも優位性がある。
【0022】
また、螺旋状の異形部13はJISG3109の認証範囲内で節高さを変えることができるため、使用者の要望や用途に応じて柔軟に対応できるというメリットがある。節高さの下限値及び上限値は母材の直径によって異なる。母材ごとの節高さの下限値と上限値を表1に示す。
【表1】
【0023】
前記突出部12はブラケット20を支持する部分であり、その外周には止め具15を螺合する螺合部14として、雄ネジが形成されている。この実施形態の螺合部14はいわゆるメートルネジ(ミリネジ)であり、転造により形成されている。螺合部14にナット等の止め具15を締結することで、ブラケット20を突出部12の所定位置に固定することができる。
【0024】
この実施形態では、螺合部14の長さを、二以上の止め具15を螺合できる長さとしてある。たとえば、図2に示すように、止め具15としてナットを二つ螺合することで、緩み止め効果が働き、ブラケット20の不用意な脱落や位置ずれを防止することができる。
【0025】
この実施形態の螺合部14はいわゆるメートル細目ネジであり、ナットとの嵌め合いが並目ネジに比べて多い。並目ネジと細目ネジのピッチと山数の比較を表2に示す。
【表2】
【0026】
止め具15には、たとえば、8割1種ナットや8割3種ナット等を用いることができる。8割1種ナットの場合、嵌め合い山数が多くなるほど、雄ネジと雌ネジは強固になる。止め具15としてナットを二つ用いる場合、8割1種ナットと3種ナットを組み合わせることで、緩み止め効果が強くなる。
【0027】
ここで示したナットの組合せは一例であり、ナットの組合せはこれ以外であっても良い。場合によっては、ナットは一つでもよい。また、止め具15には、ナット以外のものを用いることもできる。
【0028】
図1に示すように、この実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10は、異形部13と螺合部14の間に、異形部13も螺合部14もない無ネジ部16が設けられている。無ネジ部16は省略することもできる。無ネジ部16を省略する場合、異形部13と螺合部14は隙間なく形成される。
【0029】
この実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10にはいくつかの特徴がある。その特徴の一つは、図1に示すように、埋設部11の異形部13の頂部13aを含む直径(外径)W1と突出部12の螺合部14の頂部14aを含む直径(外径)W2が等しく又は略等しくなるようにしてある点である。
【0030】
ここでいう「略等しく」というのは、完全に等しくはないものの、埋設部11と突出部12の太さに差をつけずに転造により異形部13及び螺合部14を形成した結果、両者の外形に若干の誤差(0.1~2.0mm程度)が生じた場合を含む趣旨である。
【0031】
この実施形態では、埋設部11に形成された異形部13の深さを突出部12に形成される螺合部14の溝の深さよりも深くしてあるため、埋設部11と突出部12の外径(直径)を等しく又は略等しくした場合には、埋設部11の芯部分(異形部13よりも内側の異形部13が形成されていない軸の部分)11aの太さW3よりも、突出部12の芯部分(螺合部14よりも内側の螺合部14が形成されていない軸の部分)12aの太さW4の方が太くなり、突出部12の強度を埋設部11よりも高く維持することができる。
【0032】
別の観点で言えば、本実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10について、JISZ2241 2号試験片に則って引張試験を行った場合には、螺合部14が形成された突出部12ではなく、異形部13が形成された埋設部11側が先に破断することになる。
【0033】
本実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10の他の特徴として、異形部13が母材の外周に連続して形成されている点がある。ここでいう「連続して」とは、異形部13を形成する突条13bが、途切れることなく一連につながっていることを意味する。換言すれば、突条が一端から他端まで途切れることなく一連であることを意味する。
【0034】
異形部13には図示しない継ぎ手部材が取り付けられることがあるが、突条が螺旋状に連続している場合、突状が途切れている場合(非連続の場合)に比べて継ぎ手部材との接触面積を大きくすることができるため、締付け強度が高く、継ぎ手部材の脱落リスクを低減することができる。
【0035】
なお、ブラケット支持用アンカーボルト10は、直径の異なる複数種類(この実施形態では、呼び名D22、D25、D32、D36の四種類)の母材から形成されたものを用意しておき、顧客ニーズに応じて最適なものを提供できるようにしておくのが好ましい。
【0036】
本発明のブラケット支持用アンカーボルト10は、高強度であることにより従来品からのサイズダウンを可能としたものであり、合金鋼を用いて製造することができる。合金鋼としては、たとえば、クロムとモリブデンが添加され、高い焼き入れ性や加工性を持ち、靭性に優れるJISG4107 SNB7材を用いることができる。SNB7は高温用合金鋼ボルト材の一種である。
【0037】
JIS規格で定められたSNB7の化学成分及び前記鉄筋コンクリート用棒鋼三種(SD345、SD390及びSD490)の化学成分の比較を表3に示す。
【表3】
【0038】
本発明のブラケット支持用アンカーボルト10は、たとえば、次の手順で製造することができる。
(1)はじめに、材料の加工性を高めるため、用意した材料に低温焼きなまし処理を行う。低温焼きなまし処理を行った材料は靭性に富み、加工性に優れる。
(2)低温焼きなまし処理後の材料を用いて引抜加工を行い、転造を行う直前の引抜材(母材)を得る。
(3)得られた母材に対して、焼き入れ及び焼き戻し処理を行う。この処理によって、ロックウェル硬さ(HRC)36~38程度の母材を得る。
(4)得られた母材に対して、転造により埋設部11の表面に異形部13を、突出部12の表面に螺合部14を形成する。
【0039】
ここで説明した製造方法は一例であり、本発明のブラケット支持用アンカーボルト10は、これ以外の方法で製造することもできる。
【0040】
なお、この実施形態では、母材としてJISG3109を満足する鋼棒、より具体的には、JISG3109 PC鋼棒 異形鋼棒B種1号(SBPD930/1080)のJIS認証品を使用し、突出部12にメートル細目ネジを転造により形成することで、ブラケット支持用アンカーボルト10を製造した。この母材を用いて製造されたブラケット支持用アンカーボルト10は、機械的性質として耐力930MPa以上を備えている。
【0041】
母材として、JISG3109 PC鋼棒 異形鋼棒B種1号(SBPD930/1080)のJIS認証品を用いる場合、母材自体に異形部が備わっているため、その部分を異形部13として利用することができる。
【0042】
本件出願人は、本実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10(説明の便宜上、ここでは「本実施品」という)の引張試験を実施した。表4に本実施品の強度の実測値を、表5に従来の鉄筋コンクリート用鋼棒(JISG3112 SD345、SD390、SD490)の強度を示す。
【表4】
【表5】
【0043】
表4及び表5の枠内の数値は、公称断面積(mm)×耐力値(N/mm)で算出された値(kN)であり、鋼棒の有する強度と考えることができる。
【0044】
表4及び表5から本実施品が、従来の鉄筋コンクリート用鋼棒(説明の便宜上、ここでは「従来鋼棒」という)よりも強度に優れることがわかる。具体的には、本実施品のD22の強度は419kNであり、従来鋼棒のうち、SD345及びSD390のD25、D32、D35並びにSD490のD25、D32をカバーできることがわかる。
【0045】
同様に、本実施品のD25の強度は564kNであり、D22でカバーできる範囲に加え、SD345及びSD390のD41並びにSD490のD35をカバーできることがわかる。
【0046】
同様に、本実施品のD32の強度は841kNであり、D22及びD25でカバーできる範囲に加え、SD345及びSD390のD51並びにSD490のD41をカバーできることがわかる。
【0047】
同様に、本実施品のD36の強度は1135kNであり、D22、D25及びD32でカバーできる範囲に加え、SD490のD51をカバーできることがわかる。
【0048】
このように、本実施品によれば従来鋼棒からのサイズダウンが可能であるため、ブラケット支持用アンカーボルト10の細径化、細径化に伴う削孔径の小径化、削孔径の小径化に伴う既設鉄筋の欠損リスクの低減、削孔作業のやり直し及びブラケット20の再設計に伴う作業時間の長期化といった弊害を解消することができる。
【0049】
本件出願人は、前記引張試験に加え、本実施品とコンクリートとの付着強さについて、第三者機関に検証を依頼した。試験方法は、建材試験センタ発行のJSTMC2101(1999)「引張試験による鉄筋とコンクリートの付着強さ試験方法」によることとした。本試験の結果を表6に、そのグラフを図3に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6において、「鉄筋のすべり」とはコンクリートが破壊しなかったことを意味する。試験時のコンクリートの圧縮強度は29.7N/mm(規定は30.0±3N/mm)であった。判定基準は、すべり量が0.002Dの場合の付着応力度は3N/mm以上とし、最大付着応力度は8N/mm以上とした。
【0052】
この試験結果からわかる通り、いずれの供試体も十分に付着強さを具備していることから、本実施品の異形ネジは、実用上もコンクリートに対して有効であると考えられる。
【0053】
削孔面積については、どの程度の径で孔加工するかを特定できないため、単純に呼び径サイズの断面積から算出した。算出した削孔面積の減少率及び削孔径の減少率を表7~9に示す。
【0054】
表7はSD345から変更した場合の削孔面積の減少率及び削孔径の減少率を示すもの、表8はSD390から変更した場合の削孔面積の減少率及び削孔径の減少率を示すもの、表9はSD490から変更した場合の削孔面積の減少率及び削孔径の減少率を示すもののである。
【表7】
【表8】
【表9】
【0055】
表7に示すとおり、SD345から変更した場合、削孔面積は従来鉄筋D25と比べて15.6%減、従来鉄筋D32と比べて37.5%減、従来鉄筋D35と比べて47.7%減となる。
【0056】
また、表7に示すとおり、SD345から変更した場合、削孔径は従来鉄筋D25と比べて8.1%減、従来鉄筋D32と比べて20.9%減、従来鉄筋D35と比べて27.7%減となる。
【0057】
表8に示すとおり、SD390から変更した場合、削孔面積は従来鉄筋D32と比べて37.5%減、従来鉄筋D35と比べて47.7%減、従来鉄筋D41と比べて51.2%減となる。
【0058】
また、表8に示すとおり、SD390から変更した場合、削孔径は従来鉄筋D32と比べて20.9%減、従来鉄筋D35と比べて27.7%減、従来鉄筋D41と比べて30.2%減となる。
【0059】
表9に示すとおり、SD490から変更した場合、削孔面積は従来鉄筋D35と比べて38.0%減、従来鉄筋D41と比べて28.0%減、従来鉄筋D51と比べて41.9%減となる。
【0060】
また、表9に示すとおり、SD490から変更した場合、削孔径は従来鉄筋D35と比べて21.3%減、従来鉄筋D41と比べて15.1%減、従来鉄筋D51と比べて23.8%減となる。
【0061】
いずれの場合も、本実施品を用いることによって削孔面積(削孔径)を小さくできることが確認できた。切削面積や削孔径を小さくできることで構造物Xへのダメージを最小限に抑えることができる。加えて、削孔径を小さくできることで、本実施品挿入後の充填剤Yの充填量を減らすことができ、施工性の向上というメリットも得られる。
【0062】
また、前述のとおり、削孔径の小径化により、既設鉄筋の欠損リスクの低減や削孔作業のやり直し、ブラケット20の再設計に伴う作業時間の長期化といった弊害を解消することができる。
【0063】
次に、本発明のブラケット支持用アンカーボルト10を用いて、構造物Xにブラケット20を設置する際の施工手順の一例について説明する。
(1)図4(a)のように、構造物Xの所定位置に所定数削孔を行う。
(2)削孔後、図4(b)のように各挿入孔X1を清掃し、接着系の充填剤Yを注入する。
(3)接着系の充填剤の充填後、図4(c)のように、ブラケット支持用アンカーボルト10の異形部13を充填剤Yが充填された挿入孔X1内に挿入し(埋め込み)、充填剤Yを養生して硬化させる。
(4)前記(1)~(3)の工程を繰り返し、必要数のブラケット支持用アンカーボルト10を構造物Xに埋め込む。
(5)必要数のブラケット支持用アンカーボルト10を構造物Xに埋め込んだのち、図4(d)のように、ブラケット支持用アンカーボルト10の突出部12にブラケット20をセットしてナット15で締結し、ブラケット20を構造物Xに固定する。
【0064】
本発明のブラケット支持用アンカーボルト10を用いて設置されたブラケット20は、構造物Xに設けられた挿入孔X1にブラケット支持用アンカーボルト10の埋設部11が挿入され、そのブラケット支持用アンカーボルト10の突出部12にブラケット20が支持され、ブラケット20の外側に突出した突出部12の螺合部14に止め具15が螺合された支持構造を備える。
【0065】
本実施形態のブラケット支持用アンカーボルト10を用いてブラケット20を設置する場合、削孔径が小さくて済むため、過密配筋の構造物Xへの削孔時に既設配筋を傷つけるリスクを低減できるほか、削孔のやり直しやこれに伴うブラケット20の再設計の問題を解消することができる。
【0066】
前記実施形態の構成は一例であり、本発明のブラケット支持用アンカーボルト及びブラケット支持構造は、本実施形態の構成に限定されるものではない。本発明のブラケット支持用アンカーボルト及びブラケット支持構造は、所期の目的を達成できる範囲で、適宜構成の入れ替え、追加、省略等の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のアンカーボルトは各種用途に用いることができ、たとえば、前記実施形態のようなブラケット支持用アンカーボルトとして、各種構造物へのブラケット20の設置に用いることができる、特に、いわゆる「あと施工アンカー工法」によって橋脚等のコンクリート構造物にブラケット20を設置する際に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
10 アンカーボルト(ブラケット支持用アンカーボルト)
11 埋設部
11a (埋設部の)芯部分
12 突出部
12a (突出部の)芯部分
13 異形部
13a (異形部の)頂部
13b 突条
14 螺合部
14a (螺合部の)頂部
15 止め具
16 無ネジ部
20 ブラケット
W1 設部(異形部)の直径
W2 突出部(螺合部)の直径
W3 埋設部の芯部分の太さ
W4 突出部の芯部分の太さ
X 構造物
X1 挿入孔
Y 充填剤
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーボルトにおいて、
JISG3109を満足する一本の中実の鋼棒からなる母材を備え、
前記母材に、構造物に埋設される埋設部と、当該埋設部が当該構造物に埋設された状態で当該構造物外に突出する突出部が設けられ、
前記埋設部に、転造により形成された異形部が設けられ、
前記突出部に、転造により形成された螺合部が設けられた、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項2】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
D22の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32及びD35の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32及びD35の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25及びD32の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項3】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
D25の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32、D35及びD41の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32、D35及びD41の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25、D32、D35の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項4】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
D32の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25、D32、D35及びD41の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項5】
請求項1記載のアンカーボルトにおいて、
D36の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンカーボルトにおいて、
埋設部の異形部の頂部を含む直径と突出部の螺合部の頂部を含む直径が等しい又は略等しい、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンカーボルトにおいて、
突出部の芯部分が埋設部の芯部分よりも太い、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンカーボルトにおいて、
異形部は、一端から他端までが連続する同じ又は略同じ高さの螺旋状の突条を備えた、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンカーボルトにおいて、
突出部の引張強度が埋設部の引張強度よりも高く、JISZ2241 2号試験片に則る引張試験を行った場合に、突出部よりも先に埋設部が破断する、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンカーボルトにおいて、
JISG3109を満足する一本の鋼棒からなる母材として、JISG3109 SBPD930/1080を満足する鋼棒が用いられた、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項11】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のアンカーボルトにおいて、
異形部が螺旋状の異形ネジである、
ことを特徴とするアンカーボルト。
【請求項12】
構造物に設置するブラケットの支持構造において、
ブラケットと、当該ブラケットを支持するアンカーボルトを備え、
前記アンカーボルトが、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のアンカーボルトであり、
前記構造物に前記アンカーボルトを挿入するための挿入孔が設けられ、
前記挿入孔に充填剤が充填され、
前記挿入孔内の充填剤に前記アンカーボルトの埋設部が埋設され、
前記アンカーボルトの突出部に前記ブラケットが支持され、
前記アンカーボルトの螺合部に止め具が螺合された、
ことを特徴とするブラケット支持構造。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-17
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
落橋防止具を設置するブラケットの支持に用いるブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
JISG3109を満足する一本の中実の鋼棒からなる母材を備え、
前記母材に、構造物に埋設される埋設部と、当該埋設部が当該構造物に埋設された状態で当該構造物外に突出し、前記ブラケットを支持する突出部が設けられ、
前記埋設部に、転造により形成された異形部が設けられ、
前記突出部に、転造により形成された螺合部が設けられた、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項2】
請求項1記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
D22の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32及びD35の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32及びD35の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25及びD32の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項3】
請求項1記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
D25の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32、D35及びD41の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32、D35及びD41の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25、D32、D35の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項4】
請求項1記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
D32の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25、D32、D35及びD41の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項5】
請求項1記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
D36の場合の引張強度が、JIS G3112 SD345のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、JIS G3112 SD390のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度、並びに、JIS G3112 SD490のD25、D32、D35、D41及びD51の場合の引張強度よりも高い、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
埋設部の異形部の頂部を含む直径と突出部の螺合部の頂部を含む直径が等しい又は略等しい、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
突出部の芯部分が埋設部の芯部分よりも太い、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
異形部は、一端から他端までが連続する同じ又は略同じ高さの螺旋状の突条を備えた、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
突出部の引張強度が埋設部の引張強度よりも高く、JISZ2241 2号試験片に則る引張試験を行った場合に、突出部よりも先に埋設部が破断する、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項10】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
JISG3109を満足する一本の鋼棒からなる母材として、JISG3109 SBPD930/1080を満足する鋼棒が用いられた、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項11】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトにおいて、
異形部が螺旋状の異形ネジである、
ことを特徴とするブラケット支持用アンカーボルト。
【請求項12】
構造物に設置するブラケットの支持構造において、
ブラケットと、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のブラケット支持用アンカーボルトを備え
前記構造物に前記ブラケット支持用アンカーボルトを挿入するための挿入孔が設けられ、
前記挿入孔に充填剤が充填され、
前記挿入孔内の充填剤に前記ブラケット支持用アンカーボルトの埋設部が埋設され、
前記ブラケット支持用アンカーボルトの突出部に前記ブラケットが支持され、
前記ブラケット支持用アンカーボルトの螺合部に止め具が螺合された、
ことを特徴とするブラケット支持構造。