(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083982
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置及び前処理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/95 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
G01N21/95 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198110
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】512012735
【氏名又は名称】株式会社エスピーテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 孝充
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】仲主 喜代志
(72)【発明者】
【氏名】菊池 徹
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA71
2G051AB07
2G051BA02
2G051BB01
2G051CA03
2G051CA04
2G051CB01
2G051DA08
(57)【要約】
【課題】円環状基板を矯正焼鈍する前に、事前の準備工程を設けたり、検査中に搬送手段を止めたりすることなく、連続して検査が可能であり、異なる角度から照射される複数の光源を設けたり、補正処理をしたりすることなく、圧延した金属板から打ち抜かれた円環状基板の欠陥を効率良く且つ正確に検出できる円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置及び前処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】搬送される円環状基板の圧延目を一定方向に揃えるように円環状基板の圧延目を調整する調整部と、円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査部と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、第2のラインカメラと、を有し、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査部と、検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング装置と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矯正焼鈍する前の円環状基板の表面に存在する欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置であって、
搬送される前記円環状基板の圧延目を検出するとともに、検出された圧延目を一定方向に揃えるように前記円環状基板の圧延目を調整する調整部と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板を搬送する検査コンベアと、前記円環状基板に対して上方から光を照射する第1の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第1のラインカメラと、を有し、前記第1のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査部と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を吸着して搬送する基板保持装置と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第2のラインカメラと、を有し、前記第2のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査部と、
検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング装置と、を備える、
円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項2】
前記基板保持装置は、平面視で前記第2のラインカメラと重なる位置に配置されて前記円環状基板の上面中央側を吸引する吸引装置と、搬送方向に沿って延設されて前記円環状基板の上面の外周両端を支持するように配置された左右一対の吸着搬送ベルトと、を有する、
請求項1に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項3】
前記調整部は、
前記円環状基板の圧延目を検出するための照明装置と、前記光が照射された前記円環状基板の光照射面を撮影するエリアカメラと、搬送方向に沿って左右に並べて配置されて互いの搬送速度を異ならせて搬送するように互いに独立して駆動される第1の角度振りコンベア部及び第2の角度振りコンベア部と、を有し、
前記円環状基板の圧延目と直交する方向に現れる光芒を前記エリアカメラで撮影するとともに、搬送方向に対して前記光芒の軸線がなす角度を検出し、前記角度を基に、前記第1の角度振りコンベア部及び前記第2の角度振りコンベア部の各搬送速度を調整して前記円環状基板を搬送しながら水平に回転させることにより、前記角度を前記円環状基板の搬送方向に対して所定の範囲内に揃える、
請求項1に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項4】
前記調整部の上流に設けられ、圧延金属板から前記円環状基板を打ち抜く打抜装置を備える
請求項1に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項5】
前記打抜装置の前に、前記圧延金属板に不導体膜を形成する膜形成装置を有する、
請求項4に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項6】
前記圧延金属板に形成される前記不導体膜は、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムから選択された1種又は2種以上の化合物を80重量%以上含有する、
請求項5に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項7】
前記圧延金属板に形成される前記不導体膜は、0.1g/m2以上3g/m2未満とした、
請求項5又は6に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項8】
前記スタッキング装置は、前記調整部によって圧延目が揃えられた前記円環状基板の表面と裏面を反転させる反転装置を有し、上面が表面の前記円環状基板と上面が裏面の前記円環状基板とを交互に積み重ねる、
請求項1に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【請求項9】
矯正焼鈍する前の円環状基板の表面に存在する欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法であって、
搬送される前記円環状基板の圧延目を検出するとともに、検出された圧延目を一定方向に揃えるように前記円環状基板の圧延目を調整する調整工程と、
圧延目が一定方向に揃えられた状態で搬送される前記円環状基板に対して、第1の照明装置によって前記円環状基板に対して上方から光を照射し、第1のラインカメラによって撮像された前記円環状基板の光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査工程と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を吸着して搬送する基板保持装置と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第2のラインカメラと、を有し、前記第2のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査工程と、
検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング工程と、を備える、
円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項10】
前記第2の欠陥検査工程は、平面視で前記第2のラインカメラと重なる位置に配置された吸引装置によって前記円環状基板の上面中央側を吸引し、搬送方向に沿って延設された左右一対の吸着搬送ベルトによって前記円環状基板の上面の外周両端を支持することにより、圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を保持して搬送する、
請求項9に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項11】
前記調整工程は、圧延目を検出するための照明装置によって前記円環状基板に対して光を照射し、エリアカメラによって撮像された前記円環状基板の光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の圧延目と直交する方向に現れる光芒の軸線が搬送方向に対してなす角度を検出し、搬送方向に沿って左右に並べて配置されて互いの搬送速度を異ならせて搬送するように互いに独立して駆動される第1の角度振りコンベア部及び第2の角度振りコンベア部の各搬送速度を、前記角度を基に調整して前記円環状基板を搬送しながら水平に回転させることにより、前記角度を前記円環状基板の搬送方向に対して所定の範囲内に揃える、
請求項9に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項12】
前記調整工程の前に、圧延金属板から前記円環状基板を打ち抜く打抜工程、をさらに備える
請求項9に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項13】
前記打抜工程の前に、前記圧延金属板に不導体膜を形成する膜形成工程を設けた、
請求項12に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項14】
前記膜形成工程は、前記圧延金属板に形成される前記不導体膜に、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムから選択された1種又は2種以上の化合物を80重量%以上含有した、
請求項13に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項15】
前記膜形成工程は、前記圧延金属板に形成される前記不導体膜を、0.1g/m2以上3g/m2未満とした
請求項13又は14に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【請求項16】
前記スタッキング工程は、前記調整工程によって圧延目が揃えられた前記円環状基板の表面と裏面を交互に反転することにより、上面が表面の前記円環状基板と上面が裏面の前記円環状基板とを交互に積み重ねる、
請求項9に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延した金属板から打ち抜いた円環状基板を矯正焼鈍する前に、基板表面に存在する疵等の欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置及び前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置等の情報記憶装置に用いられるディスク基板は、一般に、アルミニウムによって製造されている。ディスク基板の製造では、アルミニウム合金を圧延し、圧延されたアルミニウム板を円環状に打抜いてディスクブランク(以下、アルミニウム基板とも言う)とし、ディスクブランクを加圧焼鈍して平面化し、研削による鏡面加工を行ってグラウンド・サブストレート基板を形成する。その後、このグラウンド・サブストレート基板の表面に、ニッケル-リンめっきを施し、研磨による鏡面加工を行った後、その上から磁性膜をスパッタリングにより成膜することが行われている。
【0003】
その際、アルミニウム基板の表面に疵や錆び等の欠陥があると、矯正焼鈍後の研磨作業によっても除去することができず、不良品となることがある。また、アルミニウム基板の表面の埃等の異物が原因で加圧焼鈍した際に押込み疵を作ることもある。
【0004】
現在、資源枯渇の観点から、様々なもののリサイクルが進み、多量に消費されている金属のリサイクルも以前から行われていることから、アルミニウム基板からアルミニウム基板へ効率的な再利用を図るには、不良のアルミニウム基板を出荷前に確実に選別して排除することが重要である。そこで、アルミニウム基板を矯正焼鈍する前に、アルミニウム基板の表面の疵や異物からなる欠陥の有無を検査することがある。
【0005】
このアルミニウム基板の表面の検査では一般に、光学的な検査装置が用いられており、検査装置に搬送されてきたディスク基板の表面を照明装置で照明し、アルミニウム基板の表面の画像を撮像装置によって取り込み、欠陥の有無の判定を行っている。
【0006】
しかし、検査装置に搬送されてくるアルミニウム基板の表面には、アルミニウム合金を圧延した際の「圧延目」と称される筋状の微小凹凸が一方向に沿って形成されており、照明光の反射に影響を与えている。この圧延目は、検査装置で搬送される際に、必ずしも一定方向に揃っていないため、圧延目の方向によっては照明光が散乱反射されてコントラストが確保できず、アルミニウム基板の表面の欠陥を正確に確認できないという問題がある。
【0007】
このような問題に対して、例えば、特許文献1では、圧延後の金属条材を打ち抜いた磁気ディスク用ブランク材の矯正焼鈍を行う前に、ブランク載置台回転によって各ブランク材の面の圧延目が一定方向で揃うように回転操作し、圧延目が揃った状態で一枚ずつ積み重ねることを特徴とする積層ブランクを矯正焼鈍する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、ターンテーブルの回転による缶蓋の圧延方向の変化にともなって、缶蓋のカール部に塗布したコンパウンドのショルダー側境界部を照明する照明方向を変更して被測定部分の輝度を均一化して撮影する缶蓋のコンパウンド塗膜位置検査方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-148119号公報
【特許文献2】特開昭63-151803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、事前にブランクの圧延目を揃えた状態で積層する工程を設けることで、圧延目を揃えた状態でアルミニウム基板の矯正焼鈍できるものであるが、アルミニウム基板の検査の直前に圧延目を揃える手段を配置することで検査の不具合を解消し得ることについては記載されておらず、示唆もされていない。また、特許文献1では、矯正焼鈍前の検査がされないため、積層したアルミニウム基板同士の間に挟まった異物によって、矯正焼鈍した際にアルミニウム基板の表面に押し込み疵が発生し、歩留りが悪化する場合がある。
【0011】
また、特許文献2では、高精度な検査を行うためには、照明装置による照射方向を適宜変更するために照明装置を動かしたり、照明装置の数を増やしたりする必要があり、高精度検査を行うためには困難を伴なう。
【0012】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、円環状基板を矯正焼鈍する前に、事前の準備工程を設けたり、検査中に搬送手段を止めたりすることなく、連続して検査が可能であり、異なる角度から照射される複数の光源を設けたり、補正処理をしたりすることなく、圧延した金属板から打ち抜かれた円環状基板の欠陥を効率良く且つ正確に検出できる円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置及び前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置に係る[1]の構成により達成される。
[1] 矯正焼鈍する前の円環状基板の表面に存在する欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置であって、
搬送される前記円環状基板の圧延目を検出するとともに、検出された圧延目を一定方向に揃えるように前記円環状基板の圧延目を調整する調整部と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板を搬送する検査コンベアと、前記円環状基板に対して上方から光を照射する第1の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第1のラインカメラと、を有し、前記第1のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査部と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を吸着して搬送する基板保持装置と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第2のラインカメラと、を有し、前記第2のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査部と、
検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング装置と、を備える、
円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
【0014】
本発明の上記目的は、円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 矯正焼鈍する前の円環状基板の表面に存在する欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法であって、
搬送される前記円環状基板の圧延目を検出するとともに、検出された圧延目を一定方向に揃えるように前記円環状基板の圧延目を調整する調整工程と、
圧延目が一定方向に揃えられた状態で搬送される前記円環状基板に対して、第1の照明装置によって前記円環状基板に対して上方から光を照射し、第1のラインカメラによって撮像された前記円環状基板の光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査工程と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を吸着して搬送する基板保持装置と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第2のラインカメラと、を有し、前記第2のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査工程と、
検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング工程と、を備える、
円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置及び前処理方法によれば、圧延目の揃っていない円環状基板に対しても、搬送手段を止めることなく、連続して検査が可能であり、異なる角度から照射される複数の光源を設けたり、補正処理をしたりすることなく、圧延金属板から打ち抜かれた円環状基板の欠陥を効率良く且つ正確に検出することができる。また、表面と裏面に異物がないことを確認した円環状基板を矯正焼鈍用に積層することができるため、矯正焼鈍によって円環状基板の表面に押込み疵が発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の円環状基板の検査装置の構成を示した概略図である。
【
図2】位相調整装置と、表面検査装置と、裏面検査装置と、を示す概略図である。
【
図3】(a)は、金属製基板の表面に現れる光芒を示す模式図であり、(b)は金属製基板の搬送方向と光芒とがなす角度αを示す模式図である。
【
図6】(A)は、吸着コンベアの作動態様を示した概略図であり、(B)は、吸着コンベアを示した底面図である。
【
図8】(A)及び(B)は、スタッキング装置を示したモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置と、円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法について、図面を参照して説明する。また、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の円環状基板の検査装置は、搬送方向の上流側より順に、膜形成装置10と、打抜装置20と、位相調整装置40と、表面検査装置60と、裏面検査装置70と、搬出装置80と、スタッキング装置100と、を備えている。以下、各装置について詳説するが、本発明の検査装置では、HDD用ディスク基板の製造過程における、圧延されたアルミニウム板から打ち抜かれた円環状のアルミニウム基板を検査の対象としている。したがって、本実施例では、このアルミニウム基板を金属製基板Wとして示している。
また、膜形成装置10、打抜装置20、位相調整装置40、表面検査装置60、裏面検査装置70と、搬出装置80と、スタッキング装置100と、は、演算処理装置110と有線又は無線で接続されており、各装置での制御が実行される。なお、各装置には、それぞれ図示しない制御部が別途設けられても良い。
【0019】
(膜形成装置10)
膜形成装置10では、金属製基板Wの材料となるアルミニウム板の表面の酸化皮膜を除去するとともに、不溶解性残差からなる不導体膜を形成する膜形成工程が行われる。以下、アルミニウム板という場合には、純アルミニウム板もアルミニウム合金板も含む。
【0020】
膜形成工程では、アルミニウム板を所定のエッチング液で洗浄することにより、アルミニウム板の表面の酸化皮膜を溶解除去するとともに、酸化皮膜に代わり、アルミニウム板の表面に不溶解性残差からなる薄い皮膜である不導体膜を形成する。この不導体膜によって、金属製基板Wの矯正焼鈍時に金属製基板W同士が接合、密着することを防止できる。
【0021】
不導体膜は、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムから選択された1種又は2種以上の化合物を80重量%以上含有することが好ましい。
不導体膜の形成も兼用するエッチング液としては、特に水酸化ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。
【0022】
また、不導体膜を形成する不溶解性残渣量は、0.1g/m2以上、3.0g/m2未満が好ましい。不溶解性残渣量が0.1g/m2未満であると、金属製基板Wを矯正焼鈍した際に、積層した金属製基板W同士の剥離を十分に促すことができない。一方で、不溶解性残渣量が3.0g/m2以上であると、不導体膜そのものが砥石の目詰まりの原因となり、矯正焼鈍後の研削が難しくなる。
【0023】
(打抜装置20)
打抜装置20では、膜形成装置10による膜形成工程の次工程として、不図示のプレス装置によって、不導体膜が形成されたアルミニウム板から円環状の金属製基板Wを打ち抜く打抜工程が行われる。
【0024】
打抜工程によって、表面と裏面とに不導体膜が形成された金属製基板Wを製造できる。打抜工程で製造された金属製基板Wは、不図示の搬送コンベアによって1枚ずつ位相調整装置40へと搬送される。
【0025】
(位相調整装置40)
位相調整装置40は、位相検出部41と、位相合わせ部(位相調整コンベア)42と、を有している。位相調整装置40では、打抜装置20による打抜工程の次工程として、位相検出部41により搬送された金属製基板Wの圧延目Waからなる位相を検出し、位相合わせ部42により金属製基板Wの位相を一定方向に揃える位相調整工程(調整工程)が行われる。
【0026】
位相検出部41は、まず、打抜装置20から搬送されてくる金属製基板Wを第1搬送コンベア46で受け取り、金属製基板Wの上方に配置した位相検出用の照明装置であるリング照明47から光を照射する。金属製基板Wの表面には、圧延に由来する筋状の微小凹凸、即ち圧延目Waが形成されており、金属製基板Wの表面に光を照射すると、
図3(a)に示すように、圧延目Waと直交する光芒15が現れ、この光芒15を位相検出用の撮像装置として用いるエリアカメラであるCCDカメラ48で撮影する。
【0027】
そして、
図3(b)に示すように、演算処理装置110は、光芒15の軸線C1と、金属製基板Wの搬送方向の軸線C2とがなす角度αを求める。
【0028】
位相合わせ部42は、第1搬送コンベア46の下流側であって、搬送経路の幅方向両側に設けられ、かつ、互いの搬送速度を異ならせて搬送するように互いに独立して駆動される第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52を備える。
図4は位相合わせ部42を示す上面図であり、
図5はその側面図である。
【0029】
第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52はそれぞれ、筐体50に取り付けられたサーボモータ(駆動モータ)51a,52aと、筐体50内に配置され、サーボモータ51a,52aからの動力を駆動プーリ53aに伝達する、ベルトプーリなどの動力伝達部58と、駆動プーリ53a及び複数の従動プーリ53bに巻き掛けられ、断面円形の複数本(本実施形態では、2本)のコンベアベルト54,55と、を備える。
【0030】
また、第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52には、搬送される金属製基板Wの外周面と対向する筐体50の部分に、金属製基板Wの外周面を案内するように、搬送方向に沿って延びる案内面を有する樹脂製のガイド部材56が設けられる。
【0031】
これにより、第1の角度振りコンベア部51の搬送速度はサーボモータ51aの回転数により、第2の角度振りコンベア部52の搬送速度はサーボモータ52aの回転数により、それぞれ調整される。また、第1の角度振りコンベア部51と第2の角度振りコンベア部52は、互いの搬送速度を異ならせることで、金属製基板Wは、ガイド部材56の案内面に案内されながら、位相合わせ部42を約0.5秒で高速搬送される間に、水平な状態で回転する。
【0032】
即ち、第1の角度振りコンベア部51の搬送速度を第2の角度振りコンベア部52の搬送速度よりも早くすると、金属製基板Wは
図4にて時計回りに回転し、その逆に第2の角度振りコンベア部52の搬送速度を第1の角度振りコンベア部51の搬送速度よりも早くすると、金属製基板Wは
図4にて反時計回りに回転する。従って、位相検出部41で検出した光芒15の軸線C1と金属製基板Wの搬送方向の軸線C2とがなす角度αに応じて、第1の角度振りコンベア部51と第2の角度振りコンベア部52との搬送速度の差を調整することにより、金属製基板Wの角度αを所定の範囲内に収めることができる。
【0033】
さらに、第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52は、断面円形のコンベアベルト54,55によって金属製基板Wとの接触面積を減らす一方、2本のコンベアベルト54,55を用いることで金属製基板Wの荷重を分散することができる。これにより、位相調整の際にコンベアベルト54,55が金属製基板Wと摺接した場合であっても金属製基板Wを損傷することなく、高速で搬送することができる。
【0034】
打抜装置20から搬送されてくる金属製基板Wの圧延目Waは、金属製基板Wごとに様々な方向を向いて、角度αも様々な値となるが、位相合わせ部42によって、全ての金属製基板Wの圧延目Waが実質的に搬送方向に揃ったものとなる。なお、本実施形態では、位相合わせ部42による角度αの分解能は±2°で、補正精度は、±5°以内としている。
【0035】
また、位相合わせ部42は、第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52の上流側及び下流側に、上流側透過センサ57A及び下流側透過センサ57Bをそれぞれ備える。
そして、下流側透過センサ57Bによって金属製基板Wの排出が検出される前に、上流側透過センサ57Aによって金属製基板Wの搬入が検出された場合に、表面検査装置60は、上流側透過センサ57Aによって検出された金属製基板Wを再検査対象として、検査を行わず、或いは、検査結果を正しい検査として扱わずに、後工程へ送る。
【0036】
なお、本実施例では、位相検出部41による角度αの検出は、金属製基板Wが第1搬送コンベア46上にある時に実行されるが、金属製基板Wが位相合わせ部42の第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52の上にある時に実行しても良い。この場合、第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52の上流側で位相検出部41による角度αの検出をした後に、第1の角度振りコンベア部51及び第2の角度振りコンベア部52の搬送速度の調整が開始される。
【0037】
(表面検査装置60)
表面検査装置60は、位相合わせ部42の次工程にて、金属製基板Wの表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査工程が行われる。検査方法としては、
図2に示すように、検査コンベア63で搬送される金属製基板Wに対し、検査コンベア63の上方に配置された第1の照明装置64で金属製基板の表面に光を照射し、第1の照明装置64の上方に配置された第1の撮像装置65であるCCDラインカメラを用いて金属製基板Wの表面を撮影し、画像解析して欠陥の有無を調べる。
【0038】
第1の照明装置64には、第1の撮像装置65が撮影する金属製基板Wの幅方向全域を照明できるようにライン型照明が使用されている。第1の撮像装置65には、CCDラインカメラが用いられているので、CCDアレイの1ライン分の隙間があれば観察が可能であり、撮像結果をスキャン合成することで安定した検査が可能となる。
【0039】
また、第1の撮像装置65により撮像される金属製基板Wは、位相合わせ部42により金属製基板Wの圧延目Waの方向が揃えられているため、全ての金属製基板Wにおいて、カメラの映像に乱反射や、暗視野状態が起こることがなくなり、高精度なライン検査が可能となる。
【0040】
(裏面検査装置70)
裏面検査装置70は、第1欠陥検査工程の次工程にて、金属製基板Wの裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査工程が行われる。検査方法としては、
図2に示すように、吸着コンベア71により金属製基板Wの上面を吸い上げた状態で、吸着コンベア71の下方に配置された第2の照明装置72で金属製基板Wの裏面に光を照射し、第2の撮像装置73であるCCDラインカメラを用いて金属製基板Wの裏面を撮影し、画像解析して欠陥の有無を調べる。
【0041】
第2の照明装置72には、第2の撮像装置73が撮影する金属製基板Wの幅方向全域を照明できるようにライン型照明が使用されている。第2の撮像装置73には、CCDラインカメラが用いられているので、CCDアレイの1ライン分の隙間があれば観察が可能であり、撮像結果をスキャン合成することで安定した検査が可能となる。
【0042】
吸着コンベア71は、下方が開放された直方体状の筐体74と、筐体74の下面側で長手方向に沿って延設された左右一対の吸着搬送ベルト75,75と、筐体74上部の搬送上流側に配置された吸引装置76と、を備えている。
【0043】
吸着コンベア71は、検査コンベア63の搬送終端側で吸引装置76によって吸着搬送ベルト75に吸着させた金属製基板Wを、第2搬送コンベア81の始端側まで搬送することができる。このとき、金属製基板Wは、上面側が吸着搬送ベルト75に支持されて下方側が開放された状態となる。このため、
図2に示すように、検査コンベア63と、第2搬送コンベア81との間に形成される隙間の下方側に配置された第2の撮像装置73によって金属製基板Wの下面側を撮影できる。
【0044】
ここで、
図6に基づき、吸着コンベア71について具体的に説明する。
図6(A)は、吸着コンベアの作動態様を示したモデル図であり、
図6(B)は、吸着コンベアの要部底面図である。
【0045】
吸着搬送ベルト75,75は、
図6(A)及び
図6(B)に示すように、筐体74の長手方向に沿って複数並べて配置された従動プーリ77と、不図示のモータ等により駆動する駆動プーリ78とによって掛け回されている。吸着搬送ベルト75は、筐体74下面の搬送経路の幅方向の両側に一対配置されることにより、金属製基板W上面の両外縁側を支持できる。これにより、一対の吸着搬送ベルト75の間である、筐体74下面の長手方向中央側は開口部が形成される。
【0046】
吸着搬送ベルト75は、
図6(B)に示すように、断面円形に形成されることによって金属製基板Wとの接触面積を減らす一方、2本のコンベアベルト75A,75Bを用いることで金属製基板Wの荷重を分散することができる。これにより、金属製基板Wを搬送する際にコンベアベルト75A,75Bが金属製基板Wと摺接した場合であっても金属製基板Wを損傷することなく、高速で搬送することができる。
【0047】
吸引装置76は、左右一対の吸着搬送ベルト75、75の間であって、側面視で検査コンベア63の搬送終端側に寄せた位置に配置されている。
【0048】
上記構成の吸着コンベア71によれば、まず、検査コンベア63の搬送終端側まで搬送されてきた金属製基板Wを、吸引装置76によって吸い上げ、金属製基板Wの上面両端側を吸着搬送ベルト75,75によって支持する。次に、吸引装置76によって吸着搬送ベルト75,75側に支持された金属製基板Wを、吸着搬送ベルト75,75によって搬送下流側の第2搬送コンベア81側に搬送する。次に、吸着搬送ベルト75,75によって第2搬送コンベア81の始端側まで搬送された金属製基板Wは、吸引装置76までの距離が離れることにより吸引装置76から受ける吸引力が弱くなるため、自重によって第2搬送コンベア81へと自由落下する。
以上により、吸着コンベア71は、吸引装置76によって吸着搬送ベルト75に吸着させた金属製基板Wを搬送することができる。
【0049】
なお、金属製基板Wの表面と裏面とに形成される圧延目Waは、金属製基板Wの表裏面で実質的に同じ方向に形成されている。このため、表面検査装置60の検査コンベア63から裏面検査装置70の吸着コンベア71が受け取った金属製基板Wは、位相合わせ部42により位相が揃った状態が維持されている。すなわち、吸着コンベア71は、裏面の圧延目Waが揃った状態の金属製基板Wを搬送することができる。
【0050】
第1の撮像装置65及び第2の撮像装置73により撮像される金属製基板Wは、位相合わせ部42により金属製基板Wの圧延目Waの方向が揃えられているため、全ての金属製基板Wにおいて、カメラの映像に乱反射や、暗視野状態が起こることがなくなり、高精度なライン検査が可能となる。
【0051】
上記により、金属製基板Wの表面と裏面の欠陥検査が完了する。なお、表面検査装置60と、裏面検査装置70とは、検査対象の金属製基板Wが位相調整装置40による位相調整工程の後であれば、順番が逆に配置された構成であっても良い。
【0052】
(搬出装置80)
搬出装置80は、第2次欠陥検査工程の次工程にて、検査した金属製基板Wを振り分けて搬出する搬出工程が行われる。搬出装置80は、
図2及び
図7に示されるように、吸着コンベア71の搬送終端側で吸着搬送された金属製基板Wを受け取る第2搬送コンベア81と、第2搬送コンベア81から受け取った金属製基板Wを検査結果に応じて3箇所に振り分ける振分コンベア82と、振分コンベア82から検査が完了した金属製基板Wを搬出する3つの搬出コンベア83,84,85と、を備える。
【0053】
振分コンベア82は、第2搬送コンベア81の下流側に配置され、搬送基端側を軸に左右方向に揺動作動可能に軸支されている。
【0054】
振分コンベア82の搬送下流側には、検査済みの金属製基板Wの受け渡し先として、欠陥が発見されなかった金属製基板W1を搬出する第1搬出コンベア83と、欠陥が発見された金属製基板W2を搬出する第2搬出コンベア84と、検査工程に不具合があった前記金属製基板W3を搬出する第3搬出コンベア85と、が平面視で放射状に配置されている。
【0055】
上述したように、表面検査装置60及び裏面検査装置70は、金属製基板Wが、欠陥が発見されなかった金属製基板W1と、欠陥が発見された金属製基板W2と、正常な検査ができていなかったり、目視検査が必要であったりすることにより再検査の必要がある金属製基板W3と、の何れであるかを、判定する。このため、振分コンベア82は、検査結果に応じて左右揺動作動することにより金属製基板W1,W2,W3の搬出先を振り分ける。
【0056】
(スタッキング装置100)
スタッキング装置100は、搬出工程の次工程にて、金属製基板W1を積み重ねて積層体を作成するスタッキング工程が行われる。スタッキング装置100は、第1搬出コンベア83から受け取った金属製基板W1を半回転させて上面を表面Hから裏面Tに反転させることができる反転装置90と、反転装置90の搬送下流側で金属製基板W1を積み重ねた積層体にして回収する良品回収装置86と、を備える。
【0057】
反転装置90は、
図8に示されるように、第1搬出コンベア83から受け取った金属製基板W1を良品回収装置86まで搬送するスタッキングコンベア92と、スタッキングコンベア92で受け取る金属製基板W1を半回転させて表面Hから裏面Tに反転させることができるエアブロー装置91と、を有する。
【0058】
スタッキングコンベア92は、平面視で第1搬出コンベア83の搬送終端側から良品回収装置86に向けて延設されている。また、スタッキングコンベア92は、その基端側が側面視で第1搬出コンベア83の搬送終端側の下方側に配置されている。これにより、スタッキングコンベア92は、
図7及び
図8(A)に示されるように、第1搬出コンベア83の搬送終端側から受け取った金属製基板W1を良品回収装置86に向けて搬送することができる。
【0059】
エアブロー装置91は、第1搬出コンベア83の搬送終端側の上方位置に配置され、第1搬出コンベア83の搬送終端側に搬送された金属製基板W1の上面に向けてエアーを供給可能に構成されている。
【0060】
エアブロー装置91は、
図8(B)に示されるように、少なくとも金属製基板W1の前側半部が第1搬出コンベア83の搬送終端側より搬送方向に突出した場合に、金属製基板W1の上面前側にエアーを供給することによって、スタッキングコンベア92に向けて落下する金属製基板W1を前転方向に半回転させることができる。エアブロー装置91によるエアー供給のタイミングは、スタッキングコンベア92上で金属製基板W1が半回転できればよく、上記には限られない。
【0061】
上記により、スタッキング装置100は、エアブロー装置91によるエアー供給の有無によって、第1搬出コンベア83からスタッキングコンベア92に搬送される金属製基板W1が、表面Hが上向きになるか、裏面Tが上向きになるかを制御できる。
【0062】
良品回収装置86は、所定角度毎に金属製基板W1の中心孔が挿通される上下方向の支持軸86aが配置される円盤状のターンテーブル86bと、中心軸を軸にターンテーブルを回転駆動させる不図示のモータと、支持軸86aに積層された金属製基板Wの高さを検出する不図示のセンサと、を有する。図示する例では、ターンテーブル86bには、支持軸86aが中央の回転軸を中心に90°毎に配置され、モータによって、90°毎に回転作動する。
【0063】
上記により、スタッキング装置100は、反転装置90によって、表面Hが上向きの金属製基板W1と、裏面Tが上向きの金属製基板W1と、を交互に良品回収装置86に搬送することにより、金属製基板W1の表面Hと裏面Tとを交互に変えながら積層した積層体を作成することができる。
【0064】
ここで、プレス成形された金属製基板W1は、アルミニウム板をプレスするポンチ側である表面Hの中心側から、アルミニウム板を支持するダイス側である裏面Tの周縁側に向けて若干湾曲する湾曲面が形成されている。これに対し、スタッキング装置100によって作成された、表面Hと裏面Tとを交互に変えて重ねた積層体を矯正焼鈍することによって、金属製基板W1の表面Hと裏面Tとで反対方向に発生した残留応力が互いに打ち消されるため、平坦度が向上する。
【0065】
ちなみに、搬送装置80によって振り分けられた、欠陥が発見された金属製基板W2と、再検査の必要がある金属製基板W3とは、スタッキング装置100を介さず、欠陥品回収装置87と、再検査品回収装置88と、で回収される。欠陥品回収装置87は、第2搬出コンベア84の搬送端側に設けられ、再検査品回収装置88は、第3搬出コンベア85の搬送端側に設けられている。
【0066】
欠陥品回収装置87と、再検査品回収装置88とは、両端側に金属製基板W2,W3の中心孔が挿通される上下方向の支持軸が配置された長手状の板状部材からなるターンテーブルと、中心軸を軸にターンテーブルを回転駆動させる不図示のモータと、支持軸に積層された金属製基板Wの高さを検出する不図示のセンサと、を有する。図示する例では、ターンテーブルには、モータによって180°毎に回転作動する。
【0067】
上記により、各回収装置86,87,88は、支持軸に金属製基板Wの中心を挿通させることにより、金属製基板Wを積層した積層体を作成する。ターンテーブル上で積層した金属製基板Wが所定高さに到達したことが検出された場合、隣接する支持軸が各搬出コンベアの搬送終端側に配置されるようにターンテーブルを回転作動する。すなわち、作業者は、各搬出コンベア83,84,85から搬出される金属製基板W1,W2,W3を、各回収装置86,87,88によって所定枚数を積層させた状態にしてから効率良く搬出できる。
【0068】
本実施形態の前処理装置によれば、金属板を圧延して打ち抜くことにより成形したディスク基板の表面の欠陥の有無を高精度で検査し、欠陥の発見されなかったディスク基板のみを矯正焼鈍に備えてスタッキングすることができる。そして、上記の表面検査装置60及び裏面検査装置70による両検査に合格したディスク基板は、常法に従い、矯正焼鈍、研削加工することでグラインド・サブストレート基板として、さらに、ジンケート処理、無電解ニッケル-リンめっきを施し、研磨加工され、その上から磁性膜をスパッタリングにより成膜する。
【0069】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変更、改良などが可能である。
例えば、本実施形態の位相調整コンベアは、表面検査システムでの適用に限らず、円環状の金属製基板を搬送させながら回転させる機構が必要ないずれのシステムにも適用可能である。
【0070】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 矯正焼鈍する前の円環状基板の表面に存在する欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置であって、
搬送される前記円環状基板の圧延目を検出するとともに、検出された圧延目を一定方向に揃えるように前記円環状基板の圧延目を調整する調整部と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板を搬送する検査コンベアと、前記円環状基板に対して上方から光を照射する第1の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第1のラインカメラと、を有し、前記第1のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査部と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を吸着して搬送する基板保持装置と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第2のラインカメラと、を有し、前記第2のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査部と、
検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング装置と、を備える、
円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、圧延目の揃っていない円環状基板に対しても、搬送手段を止めることなく、連続して検査が可能であり、複数の光源や補正処理を必要とすることなく、圧延金属板から打ち抜かれた各円環状基板の表面と裏面の欠陥を正確且つ素早く検出することができる。また、検査した円環状基板を矯正焼鈍用にそのまま積み重ねるため、円環状基板同士の間に埃が入ることも防止できる。
【0071】
(2) 前記基板保持装置は、平面視で前記第2のラインカメラと重なる位置に配置されて前記円環状基板の上面中央側を吸引する吸引装置と、搬送方向に沿って延設されて前記円環状基板の上面の外周両端を支持するように配置された左右一対の吸着搬送ベルトと、を有する、
(1)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、基板保持装置が円環状基板の上面を保持して搬送している最中に円環状基板の裏面を撮影できるため、円環状基板をひっくり返すことなく効率良く検査を行うことができる。
【0072】
(3) 前記調整部は、
前記円環状基板の圧延目を検出するための照明装置と、前記光が照射された前記円環状基板の光照射面を撮影するエリアカメラと、搬送方向に沿って左右に並べて配置されて互いの搬送速度を異ならせて搬送するように互いに独立して駆動される第1の角度振りコンベア部及び第2の角度振りコンベア部と、を有し、
前記円環状基板の圧延目と直交する方向に現れる光芒を前記エリアカメラで撮影するとともに、搬送方向に対して前記光芒の軸線がなす角度を検出し、前記角度を基に、前記第1の角度振りコンベア部及び前記第2の角度振りコンベア部の各搬送速度を調整して前記円環状基板を搬送しながら水平に回転させることにより、前記角度を前記円環状基板の搬送方向に対して所定の範囲内に揃える、
(1)又は(2)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、圧延目を揃えた状態の円環状基板を第1の欠陥検査部に送ることができるため、円環状基板の欠陥検査を正確に行うことができる。
【0073】
(4) 前記調整部の上流に設けられ、圧延金属板から前記円環状基板を打ち抜く打抜装置を備える、
(1)~(3)の何れか1項に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、圧延金属板を打抜くことによる円環状基板を製造と、円環状基板の表面と裏面との欠陥の検査と、検査後の円環状基板のスタッキングとを、一貫して行うことができるため、作業効率が高くなる。
【0074】
(5) 前記打抜装置の前に、前記圧延金属板に不導体膜を形成する膜形成装置を有する、
(4)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、複数の円環状基板を積層して矯正焼鈍した場合に、隣接する円環状基板同士が密着することを防止し、積層した円環状基板の剥離性を保つことができる。
【0075】
(6) 前記圧延金属板に形成される前記不導体膜は、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムから選択された1種又は2種以上の化合物を80重量%以上含有する、
(5)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、比較的安価な材料でコストを押さえながら、隣接する円環状基板同士が密着することを防止し、積層した円環状基板の剥離性を保つことができる。
【0076】
(7) 前記圧延金属板に形成される前記不導体膜は、0.1g/m2以上3g/m2未満とした、
(5)又は(6)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、圧延金属板の表面の酸化皮膜の除去と、圧延金属板の表面への適度な厚さの不導体膜の形成と、を両立できる。
【0077】
(8) 前記スタッキング装置は、前記調整部によって圧延目が揃えられた前記円環状基板の表面と裏面を反転させる反転装置を有し、上面が表面の前記円環状基板と上面が裏面の前記円環状基板とを交互に積み重ねる、
(1)~(7)の何れか1項に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理装置。
本構成によれば、円環状基板の表面と裏面とを交互に裏返しながら積み重ねた積層体を矯正焼鈍することにより、円環状基板をより平坦にすることができる。
【0078】
(9) 矯正焼鈍する前の円環状基板の表面に存在する欠陥を検査する円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法であって、
搬送される前記円環状基板の圧延目を検出するとともに、検出された圧延目を一定方向に揃えるように前記円環状基板の圧延目を調整する調整工程と、
圧延目が一定方向に揃えられた状態で搬送される前記円環状基板に対して、第1の照明装置によって前記円環状基板に対して上方から光を照射し、第1のラインカメラによって撮像された前記円環状基板の光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の表面の欠陥を検査する第1の欠陥検査工程と、
圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を吸着して搬送する基板保持装置と、前記基板保持装置によって上面側が保持される前記円環状基板に対して下方から光を照射する第2の照明装置と、前記円環状基板の光照射面を撮影する第2のラインカメラと、を有し、前記第2のラインカメラによって撮像された前記光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の裏面の欠陥を検査する第2の欠陥検査工程と、
検査が完了した前記円環状基板を積み重ねるスタッキング工程と、を備える、
円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、圧延目の揃っていない円環状基板に対しても、搬送手段を止めることなく、連続して検査が可能であり、複数の光源や補正処理を必要とすることなく、圧延金属板から打ち抜かれた各円環状基板の表面と裏面の欠陥を正確且つ素早く検出することができる。また、検査した円環状基板を矯正焼鈍用にそのまま積み重ねるため、円環状基板同士の間に埃が入ることも防止できる。
【0079】
(10) 前記第2の欠陥検査工程は、平面視で前記第2のラインカメラと重なる位置に配置された吸引装置によって前記円環状基板の上面中央側を吸引し、搬送方向に沿って延設された左右一対の吸着搬送ベルトによって前記円環状基板の上面の外周両端を支持することにより、圧延目が一定方向に揃えられた前記円環状基板の上面側を保持して搬送する、
(9)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、基板保持装置が円環状基板の上面を保持して搬送している最中に円環状基板の裏面を撮影できるため、円環状基板をひっくり返すことなく効率良く検査を行うことができる。
【0080】
(11) 前記調整工程は、圧延目を検出するための照明装置によって前記円環状基板に対して光を照射し、エリアカメラによって撮像された前記円環状基板の光照射面の画像を用いて、前記円環状基板の圧延目と直交する方向に現れる光芒の軸線が搬送方向に対してなす角度を検出し、搬送方向に沿って左右に並べて配置されて互いの搬送速度を異ならせて搬送するように互いに独立して駆動される第1の角度振りコンベア部及び第2の角度振りコンベア部の各搬送速度を、前記角度を基に調整して前記円環状基板を搬送しながら水平に回転させることにより、前記角度を前記円環状基板の搬送方向に対して所定の範囲内に揃える、
(9)又は(10)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、圧延目を揃えた状態の円環状基板を検査できるため、円環状基板の欠陥検査を正確に行うことができる。
【0081】
(12) 前記調整工程の前に、圧延金属板から前記円環状基板を打ち抜く打抜工程、をさらに備える
(9)~(11)の何れか1項に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、圧延金属板を打抜くことによる円環状基板を製造と、円環状基板の表面と裏面との欠陥の検査と、検査後の円環状基板のスタッキングとを、一貫して行うことができるため、作業効率が高くなる。
【0082】
(13) 前記打抜工程の前に、前記圧延金属板に不導体膜を形成する膜形成工程を設けた、
(12)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、複数の円環状基板を積層して矯正焼鈍した場合に、隣接する円環状基板同士が密着することを防止し、積層した円環状基板の剥離性を保つことができる。
【0083】
(14) 前記膜形成工程は、前記圧延金属板に形成される前記不導体膜に、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムから選択された1種又は2種以上の化合物を80重量%以上含有した、
(13)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、比較的安価な材料でコストを押さえながら、隣接する円環状基板同士が密着することを防止し、積層した円環状基板の剥離性を保つことができる。
【0084】
(15) 前記膜形成工程は、前記圧延金属板に形成される前記不導体膜を、0.1g/m2以上3g/m2未満とした
(13)又は(14)に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、圧延金属板の表面の酸化皮膜の除去と、圧延金属板の表面への適度な厚さの不導体膜の形成と、を両立できる。
【0085】
(16) 前記スタッキング工程は、前記調整工程によって圧延目が揃えられた前記円環状基板の表面と裏面を交互に反転することにより、上面が表面の前記円環状基板と上面が裏面の前記円環状基板とを交互に積み重ねる、
(9)~(15)の何れか1項に記載の円環状基板の矯正焼鈍の前処理方法。
本構成によれば、円環状基板の表面と裏面とを交互に裏返しながら積み重ねた積層体を矯正焼鈍することにより、円環状基板をより平坦にすることができる。
【符号の説明】
【0086】
2 積層体
10 膜形成装置
15 光芒
20 打抜装置
40 位相調整装置(調整部)
47 リング照明(圧延目を検出するための照明装置)
48 CCDカメラ(エリアカメラ)
51 第1の角度振りコンベア部
52 第2の角度振りコンベア部
60 表面検査装置(第1の欠陥検査部)
63 検査コンベア
64 第1の照明装置
65 第1の撮像装置(第1のラインカメラ)
70 裏面検査装置(第2の欠陥検査部)
71 吸着コンベア(基板保持装置)
72 第2の照明装置
73 第2の撮像装置(第2のラインカメラ)
75 吸着搬送ベルト
76 吸引装置
80 搬出装置(搬出機構)
83 第1搬出コンベア(第1搬出部)
84 第2搬出コンベア(第2搬出部)
85 第3搬出コンベア(第3搬出部)
90 反転装置(反転機構)
100 スタッキング装置
W 金属製基板(円環状基板)
Wa 圧延目