(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084015
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】医療用ゴム製品
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20240617BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20240617BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240617BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20240617BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C08J7/00 305
C08J7/00 CEQ
C08L23/22
C08K5/3492
C08L23/06
C09K3/10 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198168
(22)【出願日】2022-12-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】紀田 擁軍
(72)【発明者】
【氏名】野尻 和紀
(72)【発明者】
【氏名】田島 啓
(72)【発明者】
【氏名】柴田 祐介
【テーマコード(参考)】
4F073
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
4F073BA07
4F073BA12
4F073BB03
4F073BB05
4F073CA42
4H017AA03
4H017AB07
4H017AD06
4H017AE04
4J002BB032
4J002BB181
4J002EU186
4J002FD010
4J002FD140
4J002FD146
4J002FD200
4J002GB01
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】ガンマ線滅菌後も非溶出特性が維持され、かつ、医療用品の製造工程でトラブルの少ない医療用ゴム製品の滅菌方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の医療用ゴム製品は、弾性体で形成され、ガンマ線或いは電子線(ベータ線)を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記弾性体の表面部位を、FT-IRを用いて、ATR法により測定したとき、得られる赤外吸収スペクトルにおける波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積Asと、波数1470cm-1付近の赤外吸収ピークの面積Bsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100≦6であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体で形成され、ガンマ線或いは電子線(ベータ線)を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記弾性体の表面部位を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定したとき、得られる赤外吸収スペクトルにおける波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積をAsとし、波数1470cm-1付近の赤外吸収ピークの面積をBsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100≦6であることを特徴とする医療用ゴム製品。
【請求項2】
前記医療用ゴム製品の中心部から切り出して、露出した内部の赤外吸収スペクトルを測定したとき、前記内部は、波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積をAiとし、波数1470cm-1付近のピーク面積をBiとし、Si=(Ai/Bi)×100としたとき、P=(Ss/Si)×100≦150である請求項1に記載の医療用ゴム製品。
【請求項3】
前記弾性体は、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと、(c)架橋剤としてトリアジン誘導体とを含有するゴム組成物の硬化物である請求項1に記載の医療用ゴム製品。
【請求項4】
前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体ゴムよりなる群から選択される少なくとも1種である請求項3に記載の医療用ゴム製品。
【請求項5】
前記ゴム組成物は、さらに(b)ポリエチレンを含有する請求項3に記載の医療用ゴム製品。
【請求項6】
(b)前記ポリエチレンは、結晶化度が70%以下のポリエチレンを含有する請求項5に記載の医療用ゴム製品。
【請求項7】
(b)前記ポリエチレンの含有量は、(a)基材ポリマー100質量部に対して、3質量部以上、30質量部以下である請求項5に記載の医療用ゴム製品。
【請求項8】
前記弾性体は、J1S-A硬さが30度~70度、JIS K6262に準拠して、70℃、22時間、25%の条件で測定した圧縮永久ひずみが20%以下である請求項1に記載の医療用ゴム製品。
【請求項9】
医療用ゴム製品は、バイアル瓶のゴム栓、シリンジ用のキャップ、プランジャストッパー、または、真空採血管用ゴム栓である請求項1~8のいずれか一項に記載の医療用ゴム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ゴム製品に関するものであり、より詳細には、滅菌された医療用ゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンジ、バイアル瓶などの開口部を密封する医療用ゴム栓には、非溶出性、高清浄性、耐薬品性、耐針刺性、自己密封性、高摺動性など多くの項目が必須とされている。医療用ゴム栓に要求される品質特性は、その用途上、第17改正日本薬局方の輸液用ゴム栓試験に準拠すべきである。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハロゲン化ブチルゴム100重量部当り超高分子量ポリエチレン微粉末を5~25重量部配合したハロゲン化ブチルゴムを、亜鉛化合物の不存在下に、2-置換-4,6-ジチオール-s-トリアジン誘導体の少なくとも1種又は有機過酸化物を用いて加硫してなることを特徴とする医薬品容器用ゴム栓が開示されている。
【0004】
医療用ゴム製品(シリンジ用ガスケットやバイアル栓など)を滅菌保証した状態で納入するレディトウユース(RTU:READY TO USE)の要求が高まっている。滅菌保証方法として、高圧蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、ガンマ線滅菌がある。ガンマ線滅菌は、医療用ゴム製品を包装したまま滅菌できるので、包装を開封せずに納入できるメリットがある。EOG滅菌は、環境問題もあり、ガンマ線滅菌へ切り替わる傾向がある。
【0005】
ガンマ線滅菌は、吸収線量の設定と実測値で滅菌保証している。複数個の医療用ゴム製品を包装袋へ袋詰めして、ガンマ線滅菌する場合、包装袋内で医療用ゴム製品の偏りが生じる場合がある。そのため、包装袋に所定の照射線量でガンマ線を照射しても、包装袋内でガンマ線の吸収線量のバラツキが生じて、ガンマ線の吸収線量が低くなるものと、ガンマ線の吸収線量が高くなるものが生じる。しかしながら、医療用ゴム製品のそれぞれについて滅菌できる最低吸収線量を確保する必要があり、包装袋には、最低吸収線量以上のガンマ線を照射する必要がある。そのため、包装袋の中には、ガンマ線滅菌時に過剰のガンマ線を吸収する医療用ゴム製品が生じる。
【0006】
特許文献2には、イソブチレン共重合体を主成分とし、密度が0.95以下である、ゴム組成物であって放射線処理が容易な医療用ゴム栓又は医療用ゴム製品に用いるゴム組成物又はその架橋体が開示されている。
【0007】
特許文献3には、医薬品容器の栓を始めとするエラストマー製の部品(1)を包装する方法であって、空気を実質上通さない材質の1次袋(10)の中に部品(1)を詰めるステップと、前記1次袋(10)の中に、少なくとも80%が窒素の雰囲気を適用するステップとを含み、前記1次袋(10)を2次袋(20)の中に入れ、前記1次袋(10)と前記2次袋(20)との間を真空状態にすることを特徴とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-179690号公報
【特許文献2】特開2002-301133号公報
【特許文献3】特表2017-531604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
医療用ゴム製品にガンマ線を照射して滅菌すると、医療用ゴム製品を構成するポリマーの切断と架橋が同時に起こる。過剰のガンマ線を吸収すると、医療用ゴム製品を構成するポリマー主鎖の切断が促進されて、低分子成分が生成する。そのため、ガンマ線滅菌後の医療用ゴム製品の溶出性能が悪化する。また、切断した低分子成分がゴム製品表面にブリードアウトし、医療用ゴム製品同士が密着することによって、医療用品の製造工程で用いられるバーツフィーダ詰まりのトラブルが発生する。
【0010】
過剰のガンマ線を吸収することに備えて、医療用ゴム製品に酸化防止剤を配合することも考えられるが、酸化防止剤の添加は、溶出特性の低下、薬剤への悪影響が懸念される。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ガンマ線滅菌後も非溶出特性が維持された医療用ゴム製品の滅菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の医療用ゴム製品は、弾性体で形成され、ガンマ線或は電子線を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記弾性体の表面部位を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定したとき、得られる赤外吸収スペクトルにおける波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積をAsとし、波数1470cm-1付近の赤外吸収ピークの面積をBsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100≦6であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガンマ線滅菌後も非溶出特性が維持され、医療用品の製造工程でトラブルの少ない医療用ゴム製品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の医療用ゴム製品の包装態様の一例を模式的に示す説明図。
【
図2】本発明の医療用ゴム製品の包装態様の別の一例を模式的に示す説明図。
【
図3】本発明の医療用ゴム製品のFT-IR測定結果チャート。
【
図4】比較例の医療用ゴム製品のFT-IR測定結果チャート。
【
図5】本発明の医療用ゴム製品の粘着試験方法を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の医療用ゴム製品は、弾性体で形成され、ガンマ線或は電子線を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記弾性体の表面部位を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定したとき、得られる赤外吸収スペクトルにおける波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積をAsとし、波数1470cm-1付近の赤外吸収ピークの面積をBsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100≦6であることを特徴とする。
【0016】
本発明の医療用ゴム製品は、ガンマ線或は電子線を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記医療用ゴム製品を構成する弾性体の表面部位を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定することにより、赤外吸収スペクトル(縦軸;吸光度、横軸:波数)が得られる。
【0017】
医療用ゴム製品の表面部位は、ゴム製品の表面から、測定装置に載置可能な厚み(例えば、0.5mm~2.0mm)にカミソリで切り出し、測定サンプルを作製する。測定サンプルを測定装置に置き、表面部分の外径1mm領域に光を照射して測定する。
【0018】
前記赤外吸収スペクトルには、波数1650cm-1付近に吸光度の吸収ピークを有する赤外吸収ピークAが現れる。この赤外吸収ピークは、弾性体を構成するポリマーの酸化物に帰属されるカルボニル基(C=O伸縮振動)グループ(ケトン,アルデヒド,カルボン酸,エステル等)に該当する。なお、波数1650cm-1付近とは、1650cm-1±100cm-1の波数領域を意味することが好ましく、1650cm-1±50cm-1の波数領域を意味することがより好ましい。
【0019】
前記赤外吸収スペクトルにおける波数1470cm-1付近に吸光度の吸収ピークを有する赤外吸収ピークBが現れる。赤外吸収ピークBは、弾性体を構成するポリマー主鎖の-CH2-のはさみ振動(面内変角振動)に帰属される。なお、波数1470cm-1付近とは、1470cm-1±50cm-1の波数領域を意味することが好ましく、1470cm-1±20cm-1の波数領域を意味することがより好ましい。
【0020】
本発明の医療用ゴム製品を構成する弾性体の表面部位は、前記赤外吸収ピークAの面積をAsとし、赤外吸収ピークBの面積をBsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100で計算されるSs値が6以下であることが好ましく、5.5以下であることが好ましく、5.0以下であることが好ましい。前記Ss値が6以下であれば、医療用ゴム製品の弾性体を構成するポリマーの劣化が抑制され、非溶出特性に優れる。また、医療用ゴム製品の製造加工中に弾性体の表面部位が酸化されるので、前記Ssは、3.0超となることが一般的であり、3.5以上となることがより一般的である。
【0021】
前記医療用ゴム製品を中心部から切り出して、露出した内部をフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定することにより、赤外吸収スペクトル(縦軸;吸光度、横軸:波数)が得られる。
【0022】
具体的には、医療用ゴム製品の平面図における中心を通るように、縦方向に切断する。得られた断面の中心部から、測定装置に載置可能な厚み(例えば、0.5mm~2.0mm)にカミソリで切り出し測定サンプルとする。測定サンプルを測定装置に置き、表面部分(断面の中心部)の外径1mm領域に光を照射して測定する。
【0023】
前記赤外吸収スペクトルには、波数1650cm-1付近に吸光度の吸収ピークを有する赤外吸収ピークAが現れる。この赤外吸収ピークは、弾性体を構成するポリマーの酸化物に帰属される。なお、波数1650cm-1付近とは、1650cm-1±100cm-1の波数領域を意味することが好ましく、1650cm-1±50cm-1の波数領域を意味することがより好ましい。
【0024】
前記赤外吸収スペクトルにおける波数1470cm-1付近に吸光度の吸収ピークを有する赤外吸収ピークBが現れる。赤外吸収ピークBは、弾性体を構成するポリマー主鎖の-CH2-のはさみ振動(面内変角振動)に帰属される。なお、波数1470cm-1付近とは、1470cm-1±50cm-1の波数領域を意味することが好ましく、1470cm-1±20cm-1の波数領域を意味することがより好ましい。
【0025】
本発明の医療用ゴム製品を構成する弾性体の内部は、前記赤外吸収ピークAの面積をAiとし、赤外吸収ピークBの面積をBiとし、Si=(Ai/Bi)×100としたときに、P=(Ss/Si)×100が、150以下であることが好ましく、140以下であることが好ましく、130以下であることが好ましい。前記P(=Ss/Si)は、医療用ゴム製品の内部と表面部位との劣化の度合いを指標するものである。前記Pが150以下であれば、表面部位の劣化が小さく、非溶出特性と非粘着性が良好になる。前記Pの下限は特に限定されない。
【0026】
[医療用ゴム製品]
本発明の医療用ゴム製品は、弾性体から形成される。前記弾性体は、主鎖にメチレン鎖(-CH2-)を有するポリマーを含有するものであれば、特に限定されず、ゴム成分からなる弾性体であることが好ましい。
【0027】
前記弾性体は、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと、(c)架橋剤としてトリアジン誘導体とを含有する医療用ゴム組成物の硬化物であることが好ましく、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと、(b)ポリエチレンと、(c)架橋剤としてトリアジン誘導体とを含有する医療用ゴム組成物の硬化物であることがより好ましい。以下、本発明の医療用ゴム組成物が含有する原料について説明する。
【0028】
まず、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーについて説明する。ハロゲン化ブチルゴムとしては、例えば、塩素化ブチルゴム、および、臭素化ブチルゴム、イソブチレンとp-メチルスチレンの共重合体ゴムの臭素化物(臭素化イソブチレンパラメチレンスチレン共重合体ゴム)などが挙げられる。
【0029】
前記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムが好ましい。前記塩素化ブチルゴムまたは臭素化ブチルゴムは、例えば、ブチルゴム中のイソプレン構造部分、具体的には二重結合および/または二重結合に隣接する炭素原子に塩素または臭素を付加または置換反応させたものである。なお、ブチルゴムは、イソブチレンと少量のイソプレンとを重合して得られる共重合体である。
【0030】
ハロゲン化ブチルゴム中のハロゲン含有率は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましく、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
前記塩素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のCHLOROBUTYL1066〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:1.26%、ムーニー粘度:38ML1+8(125℃)、比重:0.92〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL CB1240等の少なくとも1種が挙げられる。
【0032】
前記臭素化ブチルゴムの具体例としては、例えば日本ブチル社製のBROMOBUTYL2255〔安定剤:NS、ハロゲン含量率:2.0%、ムーニー粘度:46ML1+8(125℃)、比重:0.93〕;LANXESS社製のLANXESS X_BUTYL BBX2等の少なくとも1種が挙げられる。
【0033】
前記(a)基材ポリマーは、ハロゲン化ブチルゴム以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、例えば、ブチル系ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムなどのニトリル系ゴム、水素化ニトリル系ゴム、ノルボルネンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、アクリルゴム、エチレン・アクリレートゴム、フッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、フォスファンゼンゴムまたは1,2-ポリブタジエン等が挙げられる。これらは1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてよい。
【0034】
他のゴム成分を使用する場合、(a)基材ポリマー中のハロゲン化ブチルゴムの含有率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。また、(a)基材ポリマーがハロゲン化ブチルゴムのみからなることも好ましい態様である。
【0035】
本発明の医療用ゴム組成物は、(b)ポリエチレンを含有することが好ましい。ポリエチレンは、(a)基材ポリマーよりも、ガンマ線を吸収しやすく、ガンマ線照射による(a)基材ポリマーの鎖の切断を防ぐ効果がある。また、結晶化度の低いポリエチレンは、枝鎖を持ち、ガンマ線照射によっても主鎖が切断されずに、架橋が進むと考えられる。その結果、医療用ゴム組成物の溶出性能が向上すると考えられる。
【0036】
このような観点から、本発明で使用する(b)ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)あるいは、低密度ポリエチレン(LDPE)を挙げることができる。高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)は、それぞれ単独で使用してもよいし、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)とを併用してもよい。
【0037】
高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)とを併用する場合、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)との質量比(HDPE/LDPE)は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1.0以上がさらに好ましく、5.0以下が好ましく、4.0以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましい。高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)との質量比(HDPE/LDPE)が、前記範囲内であれば、ガンマ線照射時のラジカル吸収効果及びゴムの適正な硬さを確保することができるからである。
【0038】
(b)前記ポリエチレンは、結晶化度が70%以下のポリエチレンを含有することが好ましい。
【0039】
高密度ポリエチレン(HDPE)の結晶化度は、60%~80%であることが好ましく、60%~75%であることがより好ましく、60%~70%であることがさらに好ましい。低密度ポリエチレン(LDPE)の結晶化度は30%~50%であることが好ましく、30%~45%であることがより好ましく、30%~40%であることがさらに好ましい。ポリエチレンの結晶化度が前記範囲内であれば、ガンマ線照射で発生したラジカルを有効に吸収し、ポリマー主鎖の切断を防ぐこととなるからである。
【0040】
(b)ポリエチレンの結晶化度は、以下の式により決定される。
結晶化度(%)=(測定融解熱量(J/g)/完全結晶体融解熱量(J/g))×100
完全結晶体融解熱量(J/g)は、293J/g(文献値)であり、100%結晶時のポリエチレンの融解熱量である。ポリエチレンの融解熱量の測定方法については、後述する。
【0041】
(b)前記ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレンが好ましい。高密度ポリエチレンの密度(g/cm3)は、0.930~0.960が好ましく、0.930~0.950がより好ましい。低密度ポリエチレンの密度(g/cm3)は、特に限定されないが、0.910~0.925が好ましく、0.910~0.920がより好ましい。
【0042】
(b)前記ポリエチレンとしては、微粉末状のものを使用することが好ましい。前記微粉末状のポリエチレンの体積平均粒子径は、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、200μm以下が好ましく、160μm以下がより好ましく、120μm以下がさらに好ましい。微粉末状のポリエチレンの粒子径が、前記範囲内であると、ポリマー内に均一に混入及び分散がしやすくなるからである。
【0043】
(b)前記ポリエチレンの配合量は、(a)基材ポリマー100質量部に対して、3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。(b)ポリエチレンの配合量が前記範囲内であれば、ガンマ線照射時に発生したラジカルを有効に吸収し、ポリマー主鎖の切断を防止できるからである。
【0044】
本発明の医療用ゴム組成物は、(c)架橋剤として、トリアジン誘導体を含有することが好ましい。
【0045】
前記トリアジン誘導体は、ハロゲン化ブチルゴムに対して、架橋剤として作用する。前記トリアジン誘導体としては、例えば一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】
[式中、Rは、-SH、-OR
1、-SR
2、-NHR
3または―NR
4R
5(R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5は、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基またはシクロアルキル基を示す。R
4およびR
5は、同一であっても異なっていてもよい。)である。M
1およびM
2は、H、Na、Li、K、1/2Mg、1/2Ba、1/2Ca、脂肪族1級アミン、2級アミンもしくは3級アミン、第4級アンモニウム塩またはホスホニウム塩である。M
1およびM
2は、同一または異なってもよい。]
【0046】
一般式(1)において、アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、1,1-ジメチルプロピル基、オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、またはドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、または2-ペンテニル基等の炭素数1~12のアルケニル基が挙げられる。アリール基としては、単環式または縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられ、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基またはアセナフチレニル基等の炭素数6~14のアリール基等が挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、2,2-ジフェニルエチル基、3-フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、5-フェニルペンチル基、2-ビフェニリルメチル基、3-ビフェニリルメチル基または4-ビフェニリルメチル基等の炭素数7~19のアラルキル基が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えばトリル基、キシル基またはオクチルフェニル基等の炭素数7~19のアルキルアリール基が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基またはシクロノニル基等の炭素数3~9のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0047】
一般式(1)で表されるトリアジン誘導体の具体例としては、例えば2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-メチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-(n-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-オクチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-プロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジアリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジメチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(iso-ブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジプロピルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジ(2-エチルヘキシル)アミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ジオレイルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-ラウリルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンもしくは2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、またはこれらのナトリウム塩もしくはジナトリウム塩が挙げられる。
【0048】
これらのなかでも、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-ジアルキルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、2-アニリノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが好ましく、入手の容易さから2-ジブチルアミノ-4,6-ジメルカプト-s-トリアジンが特に好ましい。
【0049】
また、トリアジン誘導体としては、例えば、6-[ビス(2-エチルへキシル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジイソブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール・モノナトリウム、6-アニリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール等の1種または2種以上が挙げられる。
【0050】
本発明において、トリアジン誘導体としては1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本発明の医療用ゴム組成物中の(c)前記トリアジン誘導体の含有量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、2.0質量部以下であることが好ましく、1.4質量部以下であることがより好ましく、1.2質量部以下であることがさらに好ましい。(c)前記トリアジン誘導体の含有量が、前記範囲内であれば、良好なゴム物性(硬度、引張、Cset)と溶出性能と加工性(ヤケの少ない)の良いゴムを得ることができるからである。
【0052】
本発明の医療用ゴム組成物は、加硫促進剤を含まないことが好ましい。最終製品のゴム製品中に加硫促進剤が残存して、シリンジやバイアル瓶中の薬液へ溶出する場合があるからである。前記加硫促進剤としては、例えば、グアニジン系促進剤(例:ジフェニルグアニジン)、チウラム系促進剤(例:テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド)、ジチオカルバミン酸塩系促進剤(例:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛)、チアゾール系促進剤(例:2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド)、スルフェンアミド系促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド)が挙げられる。
【0053】
本発明の医療用ゴム組成物は、ハイドロタルサイトを含有してもよい。ハイドロタルサイトは、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時にスコーチ防止剤として、また、医療用ゴム製品の圧縮永久ひずみが大きくなるのを防止するためにも機能する。さらにハイドロタルサイトは受酸剤として、ハロゲン化ブチルゴムの架橋時に発生する塩素系ガスや臭素系ガスを吸収して、これらのガスによる架橋阻害等の発生を防止するためにも機能する。なお、酸化マグネシウムも受酸剤として機能しうる。
【0054】
ハイドロタルサイトとしては、例えば、Mg4.5Al2(OH)13CO3・3.5H2O、Mg4.5Al2(OH)13CO3、Mg4Al2(OH)12CO3・3.5H2O、Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O、Mg5Al2(OH)14CO3・4H2O、Mg3Al2(OH)10CO3・1.7H2O等のMg-Al系ハイドロタルサイト等の1種または2種以上が挙げられる。
【0055】
ハイドロタルサイトの具体例としては例えば協和化学工業社製のDHT-4A(登録商標)-2等が挙げられる。
【0056】
本発明の医療用ゴム組成物において、ハイドロタルサイトを受酸剤として用いる場合、MgOとセットで用いることが好ましい。この場合、ハイドロタルサイトの配合量は、受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)の総量で考えることが好ましい。受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)としての含有量総量は、(a)基材ポリマー成分100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。受酸剤(ハイドロタルサイトとMgO)の含有量総量が、前記範囲内であれば、金型等への錆発生を抑制し、原料自体が白点異物となる不具合を減らすことができるからである。
【0057】
本発明の医療用ゴム組成物は、共架橋剤を含有してもよい。前記共架橋剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物であることが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレート化合物は、二官能以上の(メタ)アクリレート系化合物であることがより好ましく、三官能以上の(メタ)アクリレート系化合物であることがさらに好ましく、八官能以下の(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましく、六官能以下の(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。二官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、アクリロイル基および/またはメタクリロイル基を少なくとも2個有する化合物を挙げることができる。なお、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味する。
【0058】
二官能以上の(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。共架橋剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明の医療用ゴム組成物には、(d)充填剤を配合してもよい。(d)前記充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、タルクなどの無機充填剤が挙げられる。前記充填剤としては、クレーまたはタルクがさらに好ましい。前記充填剤は、医療用ゴム製品のゴム硬さを調整するために機能するとともに、増量材として医療用ゴム製品の生産コストを低減させるためにも機能する。
【0060】
前記クレーとしては、焼成クレーやカオリンクレーを挙げることができる。前記クレーの具体例としては、例えばHOFFMANN MINERAL(ホフマンミネラル)社製のSILLITIN(登録商標)Z、ENGELHARD(エンゲルハード)社製のSATINTONE(登録商標)W、土屋カオリン工業社製のNNカオリンクレー、イメリス スペシャリティーズ ジャパン社製のPoleStar200Rなどが挙げられる。
【0061】
前記タルクの具体例としては、例えば竹原化学工業社製のハイトロンA、日本タルク社製のMICRO ACE(登録商標)K-1、イメリス・スペシャリティーズ・ジャパン社製のミストロン(登録商標)ベーパー等が挙げられる。
【0062】
本発明の医療用ゴム組成物には、さらに、酸化チタンやカーボンブラックなどの着色剤、加工助剤、架橋活性剤としてのポリエチレングリコール、可塑剤(例えば、パラフィンオイル)等を適宜の割合で配合してもよい。
【0063】
本発明の医療用ゴム組成物は、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと、(b)ポリエチレンと、(c)架橋剤としてトリアジン誘導体と、その他必要に応じて加える配合材料とを混練することにより得られる。混練は、例えば、オープンロール、密閉式ニーダーなどを用いて行うことができる。混練物は、リボン状、シート状、ペレット状などに成形することが好ましく、シート状に成形することがより好ましい。
【0064】
リボン状、シート状、ペレット状の混練物をプレス成型することにより、所望の形状の医療用ゴム製品が得られる。プレス時に医療用ゴム組成物の架橋反応が進行する。成形温度は、例えば、130℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。成形時間は、2分間以上が好ましく、3分間以上がより好ましく、60分間以下が好ましく、30分間以下がより好ましい。成形圧力は、0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましく、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0065】
プレス成型後の成形品から、不要部分を切除、除去して所定の形状にする。得られた成形品を、洗浄、乾燥、および、包装して、医療用ゴム製品が製造される。
【0066】
本発明の医療用ゴム製品を構成する弾性体のJ1S-A硬度は、30以上が好ましく、35以上がより好ましく、40以上がさらに好ましく、70以下が好ましく、65以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。前記弾性体のJIS-A硬度が、前記範囲内であれば、ゴム栓に要求するシール性能及び針刺し抗力等の製品性能は両立ができるからである。
【0067】
本発明の医療用ゴム製品を構成する弾性体は、JIS K6262に準拠して70℃、22時間、25%の条件で測定した圧縮永久ひずみが、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。前記弾性体の圧縮永久歪みが前記範囲内であれば、ゴム栓に要求するシール性能及び針刺した後、抜針時に素早く針孔が塞がれ、液漏れが発生しないからである。
【0068】
[滅菌方法]
本発明の医療用ゴム製品は、放射線照射により滅菌されることが好ましく、ガンマ線または電子線照射により滅菌されることがより好ましい。前記滅菌方法は、医療用ゴム製品が複数個収容されている医療用ゴム製品の包装体に放射線を照射することが好ましい。
【0069】
滅菌処理に使用する放射線としては、α線(ヘリウムの原子核)、β線(電子線)及びγ線(ガンマ線)が挙げられる。β線(電子線)は、その線量率が極めて高いので(γ線の数万倍)、滅菌処理時間は短いが、粒子線である為に透過力が小さい。一方、ガンマ線は、透過力は大きいが、線量率が電子線に較べて小さいので、処理時間が長くなる。本発明では、医療用ゴム製品が複数個収容されている医療用ゴム製品の包装体を滅菌処理する観点から、ガンマ線を用いて滅菌処理することが好ましい。
【0070】
ガンマ線としては、例えば、コバルト60やセシウム137などから放射されるガンマ線を挙げることができ、コバルト60から放射されるガンマ線が好適である。
【0071】
ガンマ線照射は、医療用ゴム製品のガンマ線の吸収線量が実際の滅菌バリデーション手順で確立される。通常の医療機器では15kGyを最小吸収線量として運用している場合は多い。包装体内の全ての医療用ゴム製品のガンマ線の吸収線量が15kGy以上となるようにするためのガンマ線の照射線量は、包装体内の医療用ゴム製品の個数及び入り方等によって変動することになるが、一般的には15kGyの1.4倍以上、2.0倍以下の範囲の線量で照射される。同様に、20kGyを最小吸収線量とする場合には、20kGyの1.4倍以上、2.0倍以下の範囲の線量で照射され、25kGyを最小吸収線量とする場合には、25kGyの1.4倍以上、2.0倍以下の範囲の線量で照射される。なお、ガンマ線の吸収線量は、被照射体に、線量測定計を取り付けることにより確認することができる。
【0072】
ガンマ線照射前の医療用ゴム製品を収容する包装体は、酸素濃度が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。包装体中の酸素濃度を5%以下とすることにより、ガンマ線照射による医療用ゴム製品の劣化を抑制することができるからである。
【0073】
包装体中の酸素濃度を5%以下にする方法としては、包装体中の空気を不活性ガスで置換する方法、包装体に脱酸素剤を収容する方法を挙げることができる。
【0074】
前記不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス、或いは、窒素ガスなどを挙げることができる。
【0075】
前記脱酸素剤としては、鉄系の脱酸素剤エージレス(市販品)などを挙げることができる。
【0076】
医療用ゴム製品を収容する包装体としては、ガンマ線を照射することができるものであれば、特に限定されない。包装体としては、袋、箱などの形状を挙げることができる。包装袋としては、例えば、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂フィルムまたはアルミニウムから形成された包装袋を挙げることができる。包装袋は、密閉できるものが好ましい。包装箱としては、特に限定されないが、紙箱、段ボール箱などを挙げることができる。
【0077】
前記包装体としては、通気性を有する包装体と、非通気性(ガス密封性)を有する包装体とを挙げることができ、これらを組み合わせて使用することも好ましい。
【0078】
医療用ゴム製品のガンマ線照射は、例えば、複数個の医療用ゴム製品が収容されている1次包装体(例えば、包装袋)が、さらに複数個収容されている包装体(例えば、ダンボール箱)に対して行ってもよい。
【0079】
図1は、ガンマ線照射する包装態様の一例を模式的に示す説明図である。
図1に示した態様では、複数個の医療用ゴム製品1が収容されている1次包装体3が、さらに2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7に収容されている。1次包装体3としては、通気性を有するものが好ましく、2次帯電防止包装体5および3次帯電防止包装体7は、ガスを密封できるものが好ましい。2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7は、それぞれヒートシール9により密封されることが好ましい。脱酸素剤11を使用する場合は、1次包装体3と2次包装体5との間に脱酸素剤11を配置して、脱酸素剤11が医療用ゴム製品1に直接接しないようにすることが好ましい。脱酸素剤11を2次包装体5に配置することにより、2次包装体5および1次包装体3内の酸素濃度5%以下にすることができる。複数個の前記3次帯電防止包装体7を4次包装体(例えば、段ボール箱)に収容して、ガンマ線照射を行うことができる。
【0080】
図2は、ガンマ線照射する包装態様の別の一例を模式的に示す説明図である。
図2に示した態様では、複数個の医療用ゴム製品1が収容されている1次包装体3が、さらに2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7に収容されている。2次帯電防止包装体5と3次帯電防止包装体7は、それぞれヒートシール9により密封されることが好ましい。1次包装体3としては、通気性を有するものが好ましく、2次帯電防止包装体5および3次帯電防止包装体7は、ガスを密封できるものが好ましい。1次包装体3が収容された2次包装体5内には、不活性ガスが充填されている。不活性ガスを充填することにより、2次包装体5および1次包装体3内の酸素濃度5%以下にすることができる。複数個の前記3次帯電防止包装体7を4次包装体(例えば、段ボール箱)に収容して、ガンマ線照射を行うことができる。
【0081】
なお、ガンマ線照射に際しては、複数個の医療用ゴム製品が収容されている包装体は、例えば、アルミ合金製の収納容器に収納された状態で、ガンマ線を照射することが好ましい。
【0082】
本発明の滅菌された医療用ゴム製品は、バイオバーデン測定試験での生菌数(cfu:colony forming unit:培養すると出現する集落数)が、0であることが好ましい。
【0083】
本発明の医療用ゴム製品としては、例えば、液剤、粉末製剤、凍結乾燥製剤等の各種薬剤用の容器(例えば、バイアル瓶)のゴム栓やシール部材、真空採血管用ゴム栓、プレフィルドシリンジ用のプランジャストッパー、あるいはノズルキャップなどの摺動もしくはシール部品等が挙げられる。
【実施例0084】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0085】
[医療用ゴム組成物の調製]
表1に示した各成分のうち架橋成分(トリアジン系架橋剤)以外の成分を配合して10L加圧式密閉ニーダーを用いて充填率75%で混練し、室温で熟成後、架橋成分を加えてオープンロールで混練してゴム組成物を調製した。
【0086】
【表1】
使用した配合材料の詳細は以下の通りである。
塩素化ブチル化ゴム:エクソンモービル社製1066(塩素含有率:1.26wt%)
ポリエチレン:三井化学(株)製のミペロンXM-220(結晶化度69%)
トリアジン誘導体:三協化成社製ジスネットDB
タルク:イメリススペシャリティーズ社製ミストロンベーパー
ハイドロタルサイト:協和化学工業社製アルカマイザー1
酸化マグネシウム:協和化学工業社製マグサラット150s
カーボンブラック:三菱ケミカル社製ダイアブラックG
酸化チタン:チタン工業社製KR-380
オイル:出光興産社製PW380
【0087】
[医療用ゴム栓の製造]
前記ゴム組成物をシート状に成形し、上型と下型で挟んで180℃で6分間、真空プレス成形して、フランジ径:19.0mm、全高:13.0mm、脚部径7.20mm、
フランジ穿刺部の厚み:2.5mmの凍結乾燥注射剤のバイアル用のゴム栓を上記シート1枚の上に複数個、連続形成した。次いで上記シートの両面にシリコーン系潤滑コート剤を塗布したのち外観検査、打ち抜き、洗浄、滅菌、乾燥の各工程を経てゴム栓を製造した。製造したゴム栓を溶出物試験及び粘着試験に使用した。ガンマ線による滅菌処理条件については、表2に示した。
【0088】
【0089】
[評価方法]
(1)フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)測定
滅菌処理を施した医療用ゴム栓の天面から、測定装置に載置可能な厚み(約1.0mm)にカミソリで切り出し、測定サンプルを作製した。医療用ゴム栓を、平面視における中心を通るように縦方向に切断し、得られた断面の中心部から、測定装置に載置可能な厚み(例えば、0.5mm~2.0mm)にカミソリで切り出し、測定サンプルとした。測定サンプルを測定装置に置き、表面部分の外径1mm領域に光を照射して測定を行った。
【0090】
FT-IR測定は、Perkin Elmer社製:Frontier GeATRユニットMIRAcleを用い、波数分解能4cm-1、積算回数16回で行った。
【0091】
図3は、滅菌処理No.1を実施した医療用ゴム製品の表面部位のFT-IRチャートである。
図4は、滅菌処理No.7を実施した医療用ゴム製品の表面部位のFT-IRチャートである。
【0092】
得られた赤外吸収スペクトルには、波数1650cm-1付近に吸光度の吸収ピークを有する赤外吸収ピークAと波数1470cm-1付近に吸光度の吸収ピークを有する赤外吸収ピークBが現れる。赤外吸収ピークAについては、1750cm-1~1590cm-1でベースラインを引き、その面積(As)を算出した。赤外吸収ピークBについて、1510cm-1~1408cm-1でベースラインを引き、その面積(Bs)を算出した。医療用ゴム栓の内部についても同様に、赤外吸収ピークAの面積(Ai)と赤外吸収ピークBの面積(Bi)を算出した。
【0093】
(2)ポリエチレンの融解熱量の測定
ポリエチレンの融解熱量は、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)の1次昇温試験から取得する。
DSC測定条件:20℃~200℃、昇温速度10℃/min
【0094】
(3)溶出物試験
測定サンプル:医療用ゴム栓をポリエチレン袋に入れた状態で(
図1および
図2に示す包装形態)、表2に記載の包装体内部の環境および吸収線量でガンマ線を照射して、ガンマ線照射後のゴム栓とした。
測定サンプルについて、第17改正日本薬局方「7.03輸液用ゴム栓試験法」所載の「溶出物試験」を実施した。適合条件は、以下の通りとした。
試験液の性状:無色澄明
UV透過率:層長10mmで、波長430nmおよび波長650nmの透過率が99.0%以上
紫外吸収スペクトル:波長220nm~350nmにおける吸光度が0.20以下
pH:試験液および空試験液の差が1.0以下
亜鉛:試料溶液の吸光度が、標準溶液の吸光度以下
過マンガン酸カリウム還元物質:2.0mL/100mL以下(薬局方の規格)
蒸発残留物:2.0mg以下
いずれかの項目を満足しない場合には、「不適合」とし、すべての項目を満足した場合には「適合」と評価した。
【0095】
(4)TOC試験
(3)の溶出物試験を行った溶出液について、全有機体炭素値TOC(NPOC:酸性下通気処理法)を測定した。
測定分析装置:島津全有機体炭素計TOC-LCPH(燃焼酸化方式)
測定分析条件:燃焼管温度680度、高感度触媒使用、
キャリアガス:高純度空気150mL/min、
注入量150μL、
酸添加濃度1%、
通気処理時間60sec
【0096】
ガンマ線照射前後の溶出特性について評価した。ガンマ線照射前のTOCを100%として、ガンマ線照射後のTOCを相対指数で評価した。数字が大きくなるほど、ガンマ線照射前に比べて溶出性能が悪化していることを意味する。
評価基準
〇:125%以下(照射前と同等)
△:125%超、150%以下(照射前よりやや悪化)
×:150%超(照射前より悪化の程度が大きい)
【0097】
(4)バイオバーデン測定試験
バイオバーデン測定方法は、超音波回収法および培地浸漬法の併用法を適用した。
操作手順
a:試料をそれぞれ10mLのPTS回収液(1%ペプトン、0.1%Tween80、0.85%食塩水)が分注されたφ18mm×180mmの試験官管に移した。
b:超音波処理を15分間実施した。
c:それぞれの回収液をミリフレックスメンブランフィルタ(MF)で吸引ろ過した。
d:ろ過後のミリフレックスメンブランフィルタ(MF)をSCDA(固形ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地)平板培地に貼付した。
e:超音波処理後の試料を深型シャーレに移し、0.002%塩化トリフェニルテトラゾリウムを含むSCDA培地で浸漬した。
f:30℃~35℃で7日間養生した。
g:7日間養生後の培地を観察し、超音波回収法の生菌数と培地浸漬法の生菌数の合計を生菌数(cfu)とした。生菌数(cfu)は、各試料について5個の試料の平均値である。
【0098】
(5)粘着試験
島津製作所の卓上試験機EZ-SXを用いて、以下のように行った。
図5のようにサンプル13を下側の固定治具15に固定し、上側の金属プローブ17をサンプル13の上に押し付け、設定した圧力に到達後10秒間保持した。その後、金属プローブ17を上に上昇させ、金属プローブ17とサンプル13間に発生した密着力のピーク値をタック値とした。測定は、各サンプルについて5回行って、得られた結果のうち、最大値と最小値を除いた3つの測定値の平均値を算出した。ガンマ線照射前のサンプルの密着力を100として、ガンマ線照射後のサンプルの密着力を指数化した。指数が小さいほど、低粘着性であり良好である。
測定条件:
押し付け速度:0.5mm/s
押し付け荷重:1000g重
押し付け保持時間:10秒
引き上げ速度:10mm/s
最終引き上げ距離:3mm
プローブの直径:10mm
評価基準:
〇:120%以下(照射前と同等)
△:120%超、150%以下(照射前よりやや悪化)
×:150%超(照射前より悪化大)
【0099】
溶出物試験、TOC試験、粘着試験の結果を表2に併せて示した。
【0100】
READY TO USEの適否については、以下のように判断した。
溶出物試験結果が適合である、TOC試験結果が△以上の評価結果である、かつ、粘着試験結果が△以上である、生菌数(cfu)がゼロである場合には、READY TO USEに適合していると判断し、いずれか一つの評価結果を満足しない場合は、不適合とした。
【0101】
表2の結果より、弾性体で形成され、ガンマ線或いは電子線(ベータ線)を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記弾性体の表面部位を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定したとき、得られる赤外吸収スペクトルにおける波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積をAsとし、波数1470cm-1付近の赤外吸収ピークの面積をBsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100≦6である医療用ゴム製品は、非溶出特性が維持され、医療用品の製造工程でトラブルの少ない。
本発明の好ましい態様(1)は、弾性体で形成され、ガンマ線或いは電子線(ベータ線)を照射して滅菌された医療用ゴム製品であって、前記弾性体の表面部位を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用いて、全反射測定法(ATR法)により測定したとき、得られる赤外吸収スペクトルにおける波数1650cm-1付近の赤外線吸収ピークの面積をAsとし、波数1470cm-1付近の赤外吸収ピークの面積をBsとしたとき、Ss=(As/Bs)×100≦6であることを特徴とする医療用ゴム製品である。
本発明の好ましい態様(3)は、前記弾性体は、(a)ハロゲン化ブチルゴムを含有する基材ポリマーと、(c)架橋剤としてトリアジン誘導体とを含有するゴム組成物の硬化物である態様(1)または(2)に記載の医療用ゴム製品である。
本発明の好ましい態様(4)は、前記ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体ゴムよりなる群から選択される少なくとも1種である態様(3)に記載の医療用ゴム製品である。
本発明の好ましい態様(7)は、(b)前記ポリエチレンの含有量は、(a)基材ポリマー100質量部に対して、3質量部以上、30質量部以下である態様(5)または(6)に記載の医療用ゴム製品である。
本発明の好ましい態様(8)は、前記弾性体は、J1S-A硬さが30度~70度、JIS K6262に準拠して、70℃、22時間、25%の条件で測定した圧縮永久ひずみが20%以下である態様(1)~(7)のいずれか一項に記載の医療用ゴム製品である。
本発明の好ましい態様(9)は、医療用ゴム製品は、バイアル瓶のゴム栓、シリンジ用のキャップ、プランジャストッパー、または、真空採血管用ゴム栓である態様(1)~(8)のいずれか一項に記載の医療用ゴム製品である。