(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008402
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】車輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/04 20060101AFI20240112BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240112BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20240112BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20240112BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20240112BHJP
B60K 17/14 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
B60K17/04 H
F16H57/04 J
F16H1/28
B60K7/00
B60B35/18 B
B60B35/18 A
B60K17/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110248
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】長崎 央雅
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】ラオ― フランツ
【テーマコード(参考)】
3D039
3D042
3D235
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3D039AA05
3D039AA29
3D039AB24
3D039AC24
3D039AC25
3D042AA07
3D042AA09
3D042AB09
3D042BE01
3D235AA17
3D235BB22
3D235BB46
3D235CC12
3D235GA02
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3D235GB03
3D235GB36
3D235HH05
3J027FB01
3J027GB06
3J027GC03
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3J027GC26
3J027GD04
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3J027GE27
3J027GE30
3J063AA16
3J063AA17
3J063AB15
3J063AC01
3J063BB02
(57)【要約】
【課題】出力部材とホイール部材のインロー嵌合部でのフレッティング摩耗を抑制することのできる技術を提供すること。
【解決手段】車輪を駆動する車輪駆動装置であって、出力部材42と、出力部材42に連結されるホイール部材44と、を備え、出力部材42及びホイール部材44は、外周インロー面と内周インロー面とがインロー嵌合するインロー嵌合部66を備え、インロー嵌合部66にはフレッティング防止剤68が塗布され、出力部材42とホイール部材44との間にはフレッティング防止剤68の漏れを阻止するシール部材70が配置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動する車輪駆動装置であって、
出力部材と、
前記出力部材に連結されるホイール部材と、を備え、
前記出力部材及び前記ホイール部材は、外周インロー面と内周インロー面とがインロー嵌合するインロー嵌合部を備え、
前記インロー嵌合部にはフレッティング防止剤が塗布され、
前記出力部材と前記ホイール部材との間には前記フレッティング防止剤の漏れを阻止するシール部材が配置される車輪駆動装置。
【請求項2】
前記シール部材は、前記出力部材及び前記ホイール部材それぞれに設けられる対の径方向対向部間に配置され、
前記対の径方向対向部間には、前記インロー嵌合部と軸方向に隣接する径方向隙間が設けられる請求項1に記載の車輪駆動装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記径方向隙間の軸方向途中位置に設けられる請求項2に記載の車輪駆動装置。
【請求項4】
前記インロー嵌合部の軸方向寸法は、前記インロー嵌合部の軸方向寸法と前記径方向隙間の軸方向寸法との合計寸法の半分以下の大きさである請求項2または3に記載の車輪駆動装置。
【請求項5】
前記出力部材及び前記ホイール部材の少なくとも一方には前記シール部材を収納する凹部が設けられる請求項1または2に記載の車輪駆動装置。
【請求項6】
前記ホイール部材及び前記出力部材のうちの一方は前記外周インロー面を有する内側部材であり、
前記凹部は、前記内側部材の外周面に設けられる請求項5に記載の車輪駆動装置。
【請求項7】
前記出力部材及び前記ホイール部材のそれぞれは、互いに軸方向に当接する軸方向当接部を備え、
前記軸方向当接部は、前記インロー嵌合部に対して前記シール部材とは軸方向反対側に配置される請求項1または2に記載の車輪駆動装置。
【請求項8】
前記ホイール部材及び前記出力部材のうちの一方は前記外周インロー面を有する内側部材であり、他方は前記内周インロー面を有する外側部材であり、
前記外側部材には、前記内側部材が軸方向に挿入されている挿入孔が設けられ、
前記外側部材の内周面及び前記内側部材の外周面の一方には前記シール部材が装着され、
前記外側部材の内周面及び前記内側部材の外周面の他方には、前記挿入孔に対する前記内側部材の挿入時に前記シール部材の摩擦抵抗を軽減するための逃げ凹部が設けられる請求項1または2に記載の車輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、出力部材と、出力部材に連結されるホイール部材とを備える車輪駆動装置を開示する。出力部材及びホイール部材は、外周インロー面と内周インロー面とがインロー嵌合するインロー嵌合部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出力部材とホイール部材のインロー嵌合部ではフレッティング摩耗が生じ易くなる。本願発明者は、インロー嵌合部でのフレッティング摩耗を抑制するための新たなアイデアを見出した。
【0005】
本開示の目的の1つは、出力部材とホイール部材のインロー嵌合部でのフレッティング摩耗を抑制することのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の車輪駆動装置は、車輪を駆動する車輪駆動装置であって、出力部材と、前記出力部材に連結されるホイール部材と、を備え、前記出力部材及び前記ホイール部材は、それらのうちの一方に設けられる外周インロー面と他方に設けられる内周インロー面とがインロー嵌合するインロー嵌合部を備え、前記インロー嵌合部にはフレッティング防止剤が塗布され、前記出力部材と前記ホイール部材との間には前記フレッティング防止剤の漏れを阻止するシール部材が配置される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、出力部材とホイール部材のインロー嵌合部でのフレッティング摩耗を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の動力伝達装置を示す側面断面図である。
【
図2】第1実施形態の減速機を示す側面断面図である。
【
図4】
図3の外側部材の挿入孔に対して内側部材を挿入している途中状態を示す図である。
【
図5】第2実施形態の動力伝達装置を
図3と同じ視点から見た図である。
【
図6】
図5の外側部材の挿入孔に対して内側部材を挿入している途中状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0010】
(第1実施形態)
図1を参照する。車輪駆動装置10は、搬送台車等の車体12に取り付けられ、車輪20の駆動に用いられる。搬送台車は、例えば、AGV(Automatic Guided Vehicle)、AMR(Autonomous Mobile Robot)等である。なお、本開示の車輪駆動装置10の用途は、搬送台車に限定されるものではなく、各種車両に適用可能であり、例えば、フォークリフトや自走式のサービスロボットにも適用可能である。
【0011】
車輪駆動装置10は、駆動源16と、駆動源16の出力軸16aから入力回転が入力される減速機18と、減速機18の出力部材42から出力回転が出力される車輪20と、を備える。駆動源16は、例えば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。この他に、車輪駆動装置10は、車体12に取り付けられ、駆動源16及び減速機18のそれぞれを支持する取付部材21を備える。以下、出力部材42の回転中心線CL1に沿った方向を軸方向、その回転中心線を円中心とする半径方向及び円周方向を単に径方向、周方向ともいう。
【0012】
図2を参照する。減速機18は、駆動源16の出力軸16aから入力回転が入力される入力軸22と、入力軸22から伝達される入力回転を減速して出力回転に変換する減速機構24と、減速機構24を収容するケーシング26と、ケーシング26の径方向内側に配置されるキャリヤ28A、28Bと、を備える。
【0013】
本実施形態の減速機18は偏心揺動型減速機である。この減速機18の入力軸22は少なくとも一つ(ここでは二つ)の偏心体30を有するクランク軸である。複数の偏心体30の偏心位相は互いにずれている。入力軸22と偏心体30は別体及び一体のいずれでもよい。
【0014】
偏心揺動型減速機18の減速機構24は、偏心体30により揺動する外歯歯車32と、外歯歯車32と噛み合う内歯歯車34とを備える。外歯歯車32は複数の偏心体30のそれぞれに対応して個別に設けられ、偏心体軸受36を介して偏心体30に相対回転自在に支持される。本実施形態の内歯歯車34は、ケーシング26と一体化される内歯歯車本体34aと、内歯歯車本体34aの内周部に設けられ内歯を構成する外ピン34bとを備える。
【0015】
キャリヤ28A、28Bは、減速機構24の軸方向片側に配置される。本実施形態のキャリヤ28A、28Bは、軸方向一側に配置される第1キャリヤ28Aと、軸方向他側に配置される第2キャリヤ28Bとを含んでいる。キャリヤ28A、28Bはピン等の接続部材29を介して接続される。キャリヤ28A、28Bは、入力軸受38を介して入力軸22を支持している。ケーシング26とキャリヤ28A、28Bとの間には主軸受40が配置される。
【0016】
以上の減速機18は、減速機構24から出力回転が伝達され、その出力回転を出力する出力部材42を備える。本実施形態の出力部材42は全体として筒状をなす。本実施形態の出力部材42はケーシング26であるが、これに替えてキャリヤ28A、28Bとしてもよい。出力部材42の詳細は後述する。
【0017】
車輪20は、出力部材42から出力される出力回転により回転することで走行面を走行する。走行面は、例えば、建物の床面、レール等である。車輪20は、出力部材42に連結されるホイール部材44と、ホイール部材44の外周部に取り付けられる接地部材46とを備える。ホイール部材44は全体として筒状をなす。ホイール部材44の詳細は後述する。接地部材46は車輪20の走行時に走行面に接地する。本実施形態の接地部材46はタイヤである。接地部材46の具体例は特に限定されず、この他にも、オムニホイール用ローラー、メカナムホイール用ローラー等でもよい。
【0018】
以上の車輪駆動装置10の動作を説明する。駆動源16から減速機18の入力軸22に入力回転が入力されると減速機構24が作動する。減速機構24が作動すると、減速機構24から入力回転に対して減速された出力回転が出力部材42に伝達される。出力部材42に出力回転が伝達されると、出力部材42とともに車輪20が回転し、走行面上を車輪20が走行する。
【0019】
本実施形態のように偏心揺動型減速機18を用いた場合、入力軸22(クランク軸)が回転すると、その偏心体30によって、外歯歯車32の中心が出力部材42の回転中心線CL1周りを回転するように外歯歯車32が揺動する。外歯歯車32が揺動すると、外歯歯車32と内歯歯車34の噛合位置が周方向に変化する。これに伴い、入力軸22が一回転する毎に、外歯歯車32と内歯歯車34の歯数差分だけ外歯歯車32及び内歯歯車34の一方(ここでは内歯歯車34)が自転する。この自転成分は出力回転として出力部材42に伝達される。
【0020】
図3を参照する。以降の図ではハッチングを省略する。出力部材42及びホイール部材44のうちの一方は内側部材50となり、他方は外側部材52となる。本実施形態において内側部材50は出力部材42であり、外側部材52はホイール部材44である。内側部材50は、少なくとも一部が外側部材52の径方向内側に配置される。
【0021】
外側部材52の内周面には内側部材50が軸方向一側(ここでは反モータ側)に向けて挿入されている挿入孔54が設けられる。挿入孔54は軸方向他側(ここではモータ側)に向けて開放する開口部54aを備える。
【0022】
内側部材50及び外側部材52のそれぞれは、軸方向に当接する軸方向当接部56A、56Bを備える。内側部材50は第1軸方向当接部56Aを備え、外側部材52は、第1軸方向当接部56Aと軸方向に当接する第2軸方向当接部56Bを備える。本実施形態において、第1軸方向当接部56Aは、内側部材50の外周面において径方向外側に突き出る第1突出部58Aの側面部に設けられる。また、第2軸方向当接部56Bは、外側部材52の内周面において径方向内側に突き出る第2突出部58Bの側面部に設けられる。
【0023】
出力部材42とホイール部材44は連結部材60により連結される。本実施形態の出力部材42とホイール部材44は、互いの軸方向当接部56A、56Bにおいて連結部材60により連結される。本実施形態の連結部材60はボルトであるが、その他にもリベット、ピン等でもよい。連結部材60は、周方向に間を空けて複数配置される。内側部材50及び外側部材52は連結部材60を挿通するための挿通孔61を備える。本実施形態において、内側部材50の挿通孔61は雌ネジ孔であり、外側部材52の挿通孔61は無ネジ孔である。連結部材60は、内側部材50及び外側部材52の挿通孔61に軸方向に挿通され、各軸方向当接部56A、56Bを当接させた状態で内側部材50及び外側部材52を連結する。
【0024】
内側部材50及び外側部材52は、外周インロー面62と内周インロー面64とがインロー嵌合するインロー嵌合部66を備える。外周インロー面62は内側部材50(ここでは出力部材42)の外周面に設けられ、内周インロー面64は外側部材52(ここではホイール部材44)の内周面に設けられる。ホイール部材44は、インロー嵌合部66において出力部材42とホイール部材44がインロー嵌合した状態で連結される。
【0025】
インロー嵌合部66にはフレッティング防止剤68が塗布される。外周インロー面62と内周インロー面64とにフレッティング防止剤68が塗布されるともいえる。
図3ではフレッティング防止剤68の塗布箇所にハッチングを付す。フレッティング防止剤68は、外周インロー面62と内周インロー面64との接触によるフレッティング摩耗を防止する機能を持つ。フレッティング防止剤68の具体例は特に限定されず、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤の他に、ワックス、オイル、脂肪酸等の液状潤滑剤を用いてもよい。フレッティング防止剤68として固体潤滑剤を用いる場合、フレッティング防止剤68として、粉末状の固体潤滑剤とグリース又はオイル等の潤滑油との混合物を用いてもよい。
【0026】
内側部材50と外側部材52との間には、フレッティング防止剤68の外部空間への漏れを阻止するシール部材70が配置される。シール部材70は、例えば、Oリング、リップシール等の接触型シールであり、ここではOリングである。本実施形態のシール部材70はゴム等の弾性体によって構成される。このシール部材70は、弾性変形を伴い内側部材50と外側部材52との間に配置される。シール部材70は、インロー嵌合部66に対して軸方向片側に配置され、その軸方向片側へのフレッティング防止剤68の漏れを阻止する。
【0027】
内側部材50及び外側部材52のそれぞれは、径方向に対向する対の径方向対向部72を備える。インロー嵌合部66は対の径方向対向部72に設けられる。シール部材70は、対の径方向対向部72間に配置される。本実施形態において、内側部材50の径方向対向部72は、外側部材52の内周面と径方向に対向する軸方向範囲において、最も外径の大きい最外径部73に設けられる。外側部材52の径方向対向部72は、その最外径部73の径方向対向部72と径方向に重なる位置に設けられる。
【0028】
内側部材50及び外側部材52の少なくとも一方には、シール部材70を収納する凹部76が設けられる。凹部76は環状に連続する溝部として設けられる。これにより、内側部材50及び外側部材52の一方の凹部76にシール部材70を収納することで、その一方にシール部材70を装着できる。本実施形態の凹部76は内側部材50(ここでは出力部材42)の外周面に設けられ、内側部材50にシール部材70を装着できる。これにより、車輪駆動装置10の組立時に、外側部材52の凹部76にシール部材70を収納するより、シール部材70が外れ難くなり、良好な作業性を得ることができる。
【0029】
対の径方向対向部72間には、インロー嵌合部66と軸方向に隣接する径方向隙間74が設けられる。径方向隙間74の一部はシール部材70により塞がれる。径方向隙間74は、対の径方向対向部72の端部間に設けられ軸方向に向かって開く開口端部74aを備える。径方向隙間74は、内側部材50及び外側部材52にシール部材70を収納するための凹部76を設ける場合、その凹部76を除いた箇所に設けられる。対の径方向対向部72間に径方向隙間74を設けることで、対の径方向対向部72において、径方向隙間74の軸方向寸法L2の分だけフレッティング摩耗の原因となるインロー嵌合部66の軸方向寸法L1を短くできる。ひいては、対の径方向対向部72間に径方向隙間74が設けられない場合と比べ、フレッティング摩耗を抑制できるようになる。
【0030】
径方向隙間74における対の径方向対向部72間の間隔は、インロー嵌合部66における対の径方向対向部72間の間隔よりも広くなる。径方向隙間74の径方向寸法R74は、シール部材70の厚み寸法R70よりも小さくなる。ここでの厚み寸法R70とは、シール部材70の外径寸法から内径寸法を減算した径方向寸法をいう。
【0031】
シール部材70は、径方向隙間74の軸方向途中位置に設けられる。シール部材70は、径方向隙間74の開口端部74aには設けられないともいえる。これにより、シール部材70の配置位置が径方向隙間74の開口端部74aとなるよりも、シール部材70に対してインロー嵌合部66とは軸方向反対側に径方向隙間74を広げることができる。ひいては、径方向隙間74よりも小さい寸法の異物しか外部空間からシール部材70まで届き難くなり、大寸法の異物との接触からシール部材70を保護できる。
【0032】
出力部材42及びホイール部材44の軸方向当接部56A、56Bは、インロー嵌合部66に対してシール部材70とは軸方向反対側に配置される。この条件は、第1軸方向当接部56A及び第2軸方向当接部56Bの少なくとも一方(本実施形態では両方)が満たしていればよい。これにより、互いに当接する軸方向当接部56A、56Bによって、インロー嵌合部66に対してシール部材70とは軸方向反対側へのフレッティング防止剤68の漏れを阻止できる。ひいては、このようなフレッティング防止剤68の漏れを阻止するための他のシール部材を省略できる。また、連結部材60としてボルトを採用することで、ボルトの締付力により各軸方向当接部56A、56Bを互いに密着させることができる。ひいては、互いに当接する軸方向当接部56A、56Bによって、フレッティング防止剤68の漏れを効果的に抑制できる。
【0033】
以上の車輪駆動装置10の効果を説明する。
【0034】
出力部材42及びホイール部材44のインロー嵌合部66にはフレッティング防止剤68が塗布されている。これにより、インロー嵌合部66でのフレッティング摩耗を抑制できる。ひいては、車輪駆動装置10の耐久性の向上を図ることができる。
【0035】
出力部材42とホイール部材44との間には、フレッティング防止剤68の漏れを阻止するシール部材70が配置される。これにより、外部空間78へのフレッティング防止剤68の飛散を抑制できる。ひいては、フレッティング防止剤68がインロー嵌合部66に塗布された状態を長期に亘り維持でき、フレッティング防止剤68によるフレッティング摩耗の抑制効果を長期に亘り発揮できる。また、シール部材70により、外部空間78からインロー嵌合部66への異物の侵入を抑制できる。
【0036】
次に、車輪駆動装置10の他の特徴を説明する。出力部材42とホイール部材44との間では径方向荷重が伝達される。この径方向荷重を伝達する機能をインロー嵌合部66において専ら発揮する場合、インロー嵌合部66での面圧を低下させるため、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1は長くするほど好ましい。これに対して、本実施形態において、出力部材42とホイール部材44の間で径方向荷重を伝達する機能は、インロー嵌合部66ではなく、複数の連結部材60によって専ら発揮される。また、本実施形態におけるインロー嵌合部66は、出力部材42とホイール部材44の径方向での位置決めに専ら用いられる。
【0037】
このような位置決めの機能を発揮するうえで、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1は短くともよい。むしろ、フレッティング摩耗の対策としては、その原因となるインロー嵌合部66の軸方向寸法L1が短くなるほど好ましい。また、この他にも、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1が短くなるほど、外側部材52の挿入孔54に対する内側部材50の挿入時に摩擦抵抗が生じ難くなる。
【0038】
このような観点から、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1は、好ましくは、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1と径方向隙間74の軸方向寸法L2との合計寸法(=L1+L2)の半分以下の大きさにするとよい。この下限値は特に限定されないものの、例えば、4mm以上を下限値としてもよく、好ましくは5mm以上を下限値としてもよい。これにより、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1を合計寸法(=L1+L2)の半分超の大きさにする場合よりも、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1を短くできる。ひいては、このような場合よりもフレッティング摩耗の発生を抑制できる。また、このような場合よりも、外側部材52の挿入孔54に対する内側部材50の挿入時の作業性を良好にすることができる。なお、インロー嵌合部66の軸方向寸法L1は、その合計寸法(=L1+L2)の半分超の大きさとしてもよい。
【0039】
前述の通り、シール部材70は、内側部材50の外周面に装着される。これを実現するうえで、本実施形態では、内側部材50の外周面に設けられる凹部76にシール部材70を収納している。このシール部材70を装着するための具体例は特に限定されず、締まり嵌め、接着等でもよい。
【0040】
図3、
図4を参照する。挿入孔54に対する内側部材50の挿入時、内側部材50は、挿入孔54の開口部54aを通過したうえで、外側部材52の第2軸方向当接部56Bに第1軸方向当接部56Aが当接するまで移動させられる。
【0041】
ここで、外側部材52の内周面には、挿入孔54に対する内側部材50の挿入時にシール部材70の摩擦抵抗を軽減するための逃げ凹部80が設けられる。逃げ凹部80は、外側部材52の内周面に設ける場合、外側部材52の内周面に対するシール部材70の接触箇所82と挿入孔54の開口部54aとの間に設けられる。本実施形態では、外側部材52の径方向対向部72と挿入孔54の開口部54aとの間に設けられる。逃げ凹部80は、外側部材52の内周面においてシール部材70の接触箇所82よりも径方向外側に凹むことで設けられる。逃げ凹部80の内径R80aは、内側部材50に装着されたシール部材70との接触を回避できる大きさに設定されてもよい。逃げ凹部80の軸方向寸法L80は、例えば、シール部材70の軸方向寸法L70よりも大きくなる。
【0042】
これにより、外側部材52の内周面に逃げ凹部80を設けない場合と比べ、シール部材70の摩擦抵抗を軽減することができる。ひいては、外側部材52の挿入孔54に内側部材50を挿入し易くなり、良好な作業性を得ることができる。
【0043】
(第2実施形態)
図5、
図6を参照する。本実施形態のシール部材70は、内側部材50の外周面に替えて、外側部材52の内周面に装着される。これを実現するうえで、外側部材52の内周面にはシール部材70を収容する凹部76が設けられる。
【0044】
逃げ凹部80は、外側部材52の内周面に替えて、内側部材50の外周面に設けられる。逃げ凹部80は、内側部材50の外周面に設ける場合、内側部材50の外周面に対するシール部材70の接触箇所82とインロー嵌合部66との間に設けられる。逃げ凹部80は、内側部材50の外周面においてシール部材70の接触箇所82よりも径方向内側に凹むことで設けられる。逃げ凹部80の外径R80bは、外側部材52に装着されたシール部材70との接触を回避できる大きさに設定されてもよい。逃げ凹部80の軸方向寸法L80は、例えば、シール部材70の軸方向寸法L70よりも大きくなる。
【0045】
これにより、内側部材50の外周面に逃げ凹部80を設けない場合と比べ、第1実施形態と同様、シール部材70の摩擦抵抗を軽減することができる。このような効果との関係では、外側部材52の内周面及び内側部材50の外周面のうちの一方にシール部材70が装着され、それらの他方に逃げ凹部80が設けられていればよい。
【0046】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。
【0047】
減速機18の具体例は特に限定されず、各種減速機構を適用可能であり、偏心揺動型減速機の他に、例えば、撓み噛合い型減速機、単純遊星歯車型減速機、トラクションドライブ等でもよい。偏心揺動型減速機の種類は特に限定されない。この一例として、実施形態では、出力部材42の回転中心線上にクランク軸(入力軸22)が配置されるセンタークランク型を説明した。この他にも、出力部材42の回転中心線から径方向にオフセットした位置に複数のクランク軸が配置される振り分け型でもよい。撓み噛合い型減速機の種類は特に限定されず、例えば、二つの内歯歯車を備える筒型の他に、一つの内歯歯車を備えるカップ型、シルクハット型等のいずれでもよい。
【0048】
出力部材42及びホイール部材44のうちの一方が外周インロー面62を有する内側部材50となり、他方が内周インロー面64を有する外側部材52となればよい。これを実現するうえで、実施形態とは異なり、ホイール部材44が内側部材50となり、出力部材42が外側部材52となってもよい。
【0049】
対の径方向対向部72間にはインロー嵌合部66と軸方向に隣接する径方向隙間74が設けられていなくともよい。インロー嵌合部66の軸方向範囲は、シール部材70と径方向に重なる範囲に隣接していてもよいともいえる。
【0050】
シール部材70は、径方向隙間74の開口端部74aに設けられていてもよい。
【0051】
凹部76は、出力部材42及びホイール部材44の少なくとも一方に設けられていればよい。凹部76は、実施形態とは異なり、外側部材52の内周面及び内側部材50の外周面の両方に設けてもよい。また、出力部材42及びホイール部材44のいずれもシール部材70を収納する凹部76がなくともよい。
【0052】
シール部材70は、インロー嵌合部66に対して軸方向両側に個別に配置されてもよい。シール部材70は、実施形態とは異なり、インロー嵌合部66に対して軸方向当接部56A、56B側にのみ配置されてもよい。出力部材42及びホイール部材44のそれぞれは軸方向当接部56A、56Bを備えていなくともよい。
【0053】
内側部材50及び外側部材52のいずれにも逃げ凹部80が設けられていなくともよい。
【0054】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造、数値には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができるものも当然に含まれる。
【0055】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、実施形態に対して他の実施形態の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形形態に対して実施形態及び他の変形形態の任意の説明事項を組み合わせてもよい。
【0056】
実施形態において単数部材により構成された構成要素は複数部材で構成されてもよい。
同様に、実施形態において複数部材により構成された構成要素は単数部材で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0057】
10…車輪駆動装置、20…車輪、42…出力部材、44…ホイール部材、50…内側部材、52…外側部材、54…挿入孔、56A、56B…軸方向当接部、62…外周インロー面、64…内周インロー面、66…インロー嵌合部、68…フレッティング防止剤、70…シール部材、72…径方向対向部、74…径方向隙間、76…凹部、80…逃げ凹部。