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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084070
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240617BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240617BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240617BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240617BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 652J
H01L29/78 655F
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 655D
H01L29/78 658H
H01L29/78 652T
H01L29/91 C
H01L29/91 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198249
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝維
(57)【要約】
【解決手段】トランジスタ部とダイオード部とを備える半導体装置であって、前記ダイオード部は、半導体基板に設けられた複数のトレンチ部と、前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のアノード領域と、前記アノード領域の上方において前記半導体基板のおもて面に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型の第2コンタクト領域と、前記第2コンタクト領域の下方に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のキャリアストップ領域と、を有し、前記キャリアストップ領域は、トレンチ延伸方向において離散的に設けられている半導体装置を提供する。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタ部とダイオード部とを備える半導体装置であって、
前記ダイオード部は、
半導体基板に設けられた複数のトレンチ部と、
前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のアノード領域と、
前記アノード領域の上方において前記半導体基板のおもて面に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型の第2コンタクト領域と、
前記第2コンタクト領域の下方に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のキャリアストップ領域と、
を有し、
前記キャリアストップ領域は、トレンチ延伸方向において離散的に設けられている
半導体装置。
【請求項2】
前記キャリアストップ領域の下端は、前記アノード領域の下端よりも前記半導体基板のおもて面側に位置する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記キャリアストップ領域のピークドーピング濃度は、前記アノード領域の深さ方向中央よりも前記半導体基板のおもて面側に位置する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記キャリアストップ領域の上端は、前記第2コンタクト領域の下端と接している
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2コンタクト領域は、トレンチ延伸方向において離散的に設けられており、
前記キャリアストップ領域は、前記第2コンタクト領域の下方に設けられている
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
トレンチ延伸方向において、前記キャリアストップ領域のピッチは、0.4μm以上、前記第2コンタクト領域のピッチ以下である
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
トレンチ配列方向において、前記キャリアストップ領域の幅は、前記第2コンタクト領域の幅よりも大きい
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から離間して設けられている
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第2コンタクト領域および前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から隣接するトレンチ部の側壁まで延伸して設けられている
請求項5に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第2コンタクト領域は、トレンチ延伸方向に延伸して設けられており、
延伸した前記第2コンタクト領域の下方において、前記キャリアストップ領域は離散的に設けられている
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項11】
トレンチ配列方向において、前記キャリアストップ領域の幅は、前記第2コンタクト領域の幅よりも大きい
請求項10に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から離間して設けられている
請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第2コンタクト領域および前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から隣接するトレンチ部の側壁まで延伸して設けられている
請求項10に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記キャリアストップ領域のドーピング濃度は、1E16cm-3以上、1E18cm-3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記第2コンタクト領域のドーピング濃度は、1E18cm-3以上、1E20cm-3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記トランジスタ部は、前記ダイオード部に隣接する境界領域を有し、
前記境界領域は、
前記第2コンタクト領域と、
前記キャリアストップ領域と、
を有する
請求項1から15のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記トランジスタ部は、
前記ドリフト領域と、
前記ドリフト領域の上方に設けられた、前記アノード領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のベース領域と、
を有し、
前記境界領域には、前記アノード領域が設けられている
請求項16に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記半導体基板のおもて面の上方に設けられた層間絶縁膜をさらに備え、
前記層間絶縁膜は、前記第2コンタクト領域の上方に設けられたコンタクトホールを有し、トレンチ配列方向において、前記第2コンタクト領域の幅は、前記コンタクトホールの幅以上である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項19】
トレンチ配列方向において、前記キャリアストップ領域の幅は、前記コンタクトホールの幅よりも大きい
請求項18に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記半導体基板には、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域が設けられていない
請求項1に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同一の半導体基板にIGBT領域とダイオード領域とが設けられた半導体装置が記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2013-26534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
同一の半導体基板にIGBT領域とFWD領域とが設けられた半導体装置において、ダイオードの逆回復損失を低減した半導体装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、トランジスタ部とダイオード部とを備える半導体装置であって、前記ダイオード部は、半導体基板に設けられた複数のトレンチ部と、前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のアノード領域と、前記アノード領域の上方において前記半導体基板のおもて面に設けられ、前記アノード領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型の第2コンタクト領域と、前記第2コンタクト領域の下方に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のキャリアストップ領域と、を有し、前記キャリアストップ領域は、トレンチ延伸方向において離散的に設けられている半導体装置を提供する。
【0005】
前記キャリアストップ領域の下端は、前記アノード領域の下端よりも前記半導体基板のおもて面側に位置してよい。
【0006】
前記キャリアストップ領域のピークドーピング濃度は、前記アノード領域の深さ方向中央よりも前記半導体基板のおもて面側に位置してよい。
【0007】
前記キャリアストップ領域の上端は、前記第2コンタクト領域の下端と接してよい。
【0008】
前記第2コンタクト領域は、トレンチ延伸方向において離散的に設けられてよく、前記キャリアストップ領域は、前記第2コンタクト領域の下方に設けられてよい。
【0009】
トレンチ延伸方向において、前記キャリアストップ領域のピッチは、0.4μm以上、前記第2コンタクト領域のピッチ以下であってよい。
【0010】
トレンチ配列方向において、前記キャリアストップ領域の幅は、前記第2コンタクト領域の幅よりも大きくてよい。
【0011】
前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から離間して設けられてよい。
【0012】
前記第2コンタクト領域および前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から隣接するトレンチ部の側壁まで延伸して設けられてよい。
【0013】
前記第2コンタクト領域は、トレンチ延伸方向に延伸して設けられよく、延伸した前記第2コンタクト領域の下方において、前記キャリアストップ領域は離散的に設けられてよい。
【0014】
トレンチ配列方向において、前記キャリアストップ領域の幅は、前記第2コンタクト領域の幅よりも大きくてよい。
【0015】
前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から離間して設けられてよい。
【0016】
前記第2コンタクト領域および前記キャリアストップ領域は、トレンチ配列方向において、トレンチ部の側壁から隣接するトレンチ部の側壁まで延伸して設けられてよい。
【0017】
前記キャリアストップ領域のドーピング濃度は、1E16cm-3以上、1E18cm-3以下であってよい。
【0018】
前記第2コンタクト領域のドーピング濃度は、1E18cm-3以上、1E20cm-3以下であってよい。
【0019】
前記トランジスタ部は、前記ダイオード部に隣接する境界領域を有してよく、前記境界領域は、前記第2コンタクト領域と、前記キャリアストップ領域と、を有してよい。
【0020】
前記トランジスタ部は、前記ドリフト領域と、前記ドリフト領域の上方に設けられた、前記アノード領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のベース領域と、を有してよく、前記境界領域には、前記アノード領域が設けられてよい。
【0021】
前記半導体基板のおもて面の上方に設けられた層間絶縁膜をさらに備えてよく、前記層間絶縁膜は、前記第2コンタクト領域の上方に設けられたコンタクトホールを有してよく、トレンチ配列方向において、前記第2コンタクト領域の幅は、前記コンタクトホールの幅以上であってよい。
【0022】
トレンチ配列方向において、前記キャリアストップ領域の幅は、前記コンタクトホールの幅よりも大きくてよい。
【0023】
前記半導体基板には、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域が設けられていなくてよい。
【0024】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】実施例1に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
図1B図1Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図1C図1Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。
図2A】実施例2に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
図2B図2Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図2C図2Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。
図3A】実施例3に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
図3B図3Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図3C図3Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。
図4A】実施例4に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。
図4B図4Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。
図4C図4Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。
図5図1Cにおけるc-c'ドーピング濃度分布の一例を示す図である。
図6】キャリアストップ領域のピークドーピング濃度と逆回復損失Errとの間の関係の一例を示す図である。
図7】キャリアストップ領域のピークドーピング濃度とダイオード部の順方向電圧Vfとの一例を示す図である。
図8】逆回復損失Errとダイオード部の順方向電圧Vfとの間の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面をおもて面、他方の面を裏面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0028】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板のおもて面と平行な面をXY面とし、半導体基板の深さ方向をZ軸とする。なお、本明細書において、Z軸方向に半導体基板を視た場合について上面視と称する。
【0029】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0030】
本明細書では、NまたはPを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、NやPに付す+および-は、それぞれ、それが付されていない層や領域よりも高ドーピング濃度および低ドーピング濃度であることを意味し、++は+よりも高ドーピング濃度、--は-よりも低ドーピング濃度であることを意味する。
【0031】
本明細書においてドーピング濃度とは、ドナーまたはアクセプタ化したドーパントの濃度を指す。したがって、その単位は、/cmである。本明細書において、ドナーおよびアクセプタの濃度差(すなわちネットドーピング濃度)をドーピング濃度とする場合がある。この場合、ドーピング濃度はSR法で測定できる。また、ドナーおよびアクセプタの化学濃度をドーピング濃度としてもよい。この場合、ドーピング濃度はSIMS法で測定できる。特に限定していなければ、ドーピング濃度として、上記のいずれを用いてもよい。特に限定していなければ、ドーピング領域におけるドーピング濃度分布のピーク値を、当該ドーピング領域におけるドーピング濃度としてよい。
【0032】
また、本明細書においてドーズ量とは、イオン注入を行う際に、ウェハに注入される単位面積あたりのイオンの個数をいう。したがって、その単位は、/cmである。なお、半導体領域のドーズ量は、その半導体領域の深さ方向にわたってドーピング濃度を積分した積分濃度とすることができる。その積分濃度の単位は、/cmである。したがって、ドーズ量と積分濃度とを同じものとして扱ってよい。積分濃度は、半値幅までの積分値としてもよく、他の半導体領域のスペクトルと重なる場合には、他の半導体領域の影響を除いて導出してよい。
【0033】
よって、本明細書では、ドーピング濃度の高低をドーズ量の高低として読み替えることができる。即ち、一の領域のドーピング濃度が他の領域のドーピング濃度よりも高い場合、当該一の領域のドーズ量が他の領域のドーズ量よりも高いものと理解することができる。
【0034】
図1Aは、実施例1に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。半導体装置100は、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80とを有する半導体基板を備える。例えば、半導体装置100は、逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)である。
【0035】
なお、本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板のおもて面側から見ることを意味している。本例では、上面視でトランジスタ部70およびダイオード部80の配列方向をX軸、半導体基板のおもて面においてX軸と垂直な方向をY軸、半導体基板のおもて面と垂直な方向をZ軸と称する。
【0036】
トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0037】
トランジスタ部70は、半導体基板の裏面側に設けられたコレクタ領域22を半導体基板のおもて面に投影した領域である。本例のコレクタ領域22は、一例としてP+型である。トランジスタ部70は、IGBT等のトランジスタを含む。
【0038】
トランジスタ部70は、半導体基板のおもて面側に、N型のエミッタ領域12、P型のベース領域14、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲートトレンチ部40が周期的に配置されている。
【0039】
ダイオード部80は、半導体基板の裏面側に設けられたカソード領域82を半導体基板のおもて面に投影した領域である。本例のカソード領域82は、一例としてN+型である。ダイオード部80は、半導体基板のおもて面においてトランジスタ部70と隣接して設けられた還流ダイオード(FWD:Free Wheel Diode)等のダイオードを含む。半導体基板の裏面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。
【0040】
半導体基板は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板は、シリコン基板である。
【0041】
本例の半導体装置100は、半導体基板のおもて面側に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、エミッタ領域12、ベース領域14、第1コンタクト領域15、ウェル領域17、アノード領域84、および第2コンタクト領域85を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。
【0042】
また、本例の半導体装置100は、半導体基板のおもて面の上方に設けられたゲート金属層50およびエミッタ電極52を備える。エミッタ電極52およびゲート金属層50と、半導体基板のおもて面との間には層間絶縁膜が設けられているが、図1Aでは省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54、55および56が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられている。図1Aにおいては、それぞれのコンタクトホールが破線で示されている。
【0043】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、エミッタ領域12、ベース領域14、第1コンタクト領域15、ウェル領域17、アノード領域84、および第2コンタクト領域85の上方に設けられている。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板のおもて面におけるエミッタ領域12、ベース領域14、第1コンタクト領域15、アノード領域84、および第2コンタクト領域85と電気的に接続する。
【0044】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で形成される。エミッタ電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、またはアルミニウムを主成分とする合金(例えば、アルミニウム-シリコン合金、アルミニウム-シリコン-銅合金等)で形成されてよい。ゲート金属層50の少なくとも一部の領域は、アルミニウム、またはアルミニウムを主成分とする合金(例えば、アルミニウム‐シリコン合金、アルミニウム-シリコン-銅合金等)で形成されてよい。
【0045】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、互いに分離して設けられている。
【0046】
コンタクトホール55は、トランジスタ部70のゲートトレンチ部40内のゲート導電部とゲート金属層50とを接続する。コンタクトホール55の内部には、バリアメタルを介して、タングステン等で形成されたプラグが設けられてもよい。
【0047】
コンタクトホール56は、トランジスタ部70およびダイオード部80に設けられたダミートレンチ部30内のダミー導電部とエミッタ電極52とを接続する。コンタクトホール56の内部には、バリアメタルを介して、タングステン等で形成されたプラグが設けられてもよい。
【0048】
ゲートトレンチ部40は、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のゲートトレンチ部40は、半導体基板のおもて面に平行であって配列方向と垂直な延伸方向(本例ではY軸方向)に沿って延伸する2つの延伸部分41と、2つの延伸部分41を接続する接続部分43とを有してよい。
【0049】
接続部分43は、少なくとも一部が曲線状に形成されることが好ましい。ゲートトレンチ部40の2つの延伸部分41の端部を接続することで、延伸部分41の端部における電界集中を緩和できる。ゲートトレンチ部40の接続部分43において、ゲート金属層50がゲート導電部と接続されてよい。
【0050】
ダミートレンチ部30は、その内部に設けられたダミー導電部がエミッタ電極52と電気的に接続されたトレンチ部である。ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、予め定められた配列方向(本例ではX軸方向)に沿って予め定められた間隔で配列される。本例のダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同様に、半導体基板のおもて面においてU字形状を有してよい。即ち、ダミートレンチ部30は、延伸方向に沿って延伸する2つの延伸部分31と、2つの延伸部分31を接続する接続部分33とを有してよい。
【0051】
本例のトランジスタ部70は、1つのゲートトレンチ部40と2つのダミートレンチ部30を繰り返し配列させた構造を有する。即ち、本例のトランジスタ部70は、1:1の比率でゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30を有している。例えば、トランジスタ部70では、配列方向において、延伸部分31と延伸部分41とが交互に配列されている。
【0052】
但し、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の比率は本例に限定されない。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の比率は、1:2であってもよく、2:3であってもよい。あるいは、トランジスタ部70においてダミートレンチ部30を設けず、全てゲートトレンチ部40としたいわゆるフルゲート構造であってもよい。
【0053】
ウェル領域17は、後述するドリフト領域18よりも半導体基板のおもて面側に設けられている。ウェル領域17は、半導体装置100のエッジ側に設けられているウェル領域の一例である。ウェル領域17は、一例としてP++型である。ウェル領域17は、ゲート金属層50が設けられた側の活性領域の端部から、予め定められた範囲に設けられている。
【0054】
ウェル領域17の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の、ゲート金属層50側の一部の領域は、ウェル領域17に設けられている。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の延伸方向の端の底は、ウェル領域17に覆われていてよい。
【0055】
コンタクトホール54は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12および第1コンタクト領域15の各領域の上方に設けられている。コンタクトホール54は、ダイオード部80において、アノード領域84および第2コンタクト領域85の上方にも設けられている。いずれのコンタクトホール54も、Y軸方向両端に設けられたウェル領域17の上方には設けられていない。このように、層間絶縁膜には、1または複数のコンタクトホール54が設けられている。本例のコンタクトホール54は、延伸方向に延伸して設けられてよい。
【0056】
メサ部71およびメサ部81は、半導体基板のおもて面と平行な面内において、トレンチ部に隣接して設けられたメサ部である。メサ部とは、隣り合う2つのトレンチ部に挟まれた半導体基板の部分であって、半導体基板のおもて面から、各トレンチ部の最も深い底部の深さまでの部分であってよい。各トレンチ部の延伸部分を1つのトレンチ部としてよい。即ち、2つの延伸部分に挟まれる領域をメサ部としてよい。
【0057】
メサ部71は、トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30またはゲートトレンチ部40の少なくとも1つに隣接して設けられている。メサ部71は、半導体基板のおもて面において、ウェル領域17と、エミッタ領域12と、ベース領域14と、第1コンタクト領域15とを有する。メサ部81は、ダイオード部80において、ダミートレンチ部30に隣接して設けられている。メサ部81は、半導体基板のおもて面において、ウェル領域17と、アノード領域84と、第2コンタクト領域85とを有する。
【0058】
ベース領域14は、トランジスタ部70において、半導体基板のおもて面側に設けられた領域である。アノード領域84は、ダイオード部80において、半導体基板のおもて面側に設けられた領域である。本例のベース領域14およびアノード領域84は、一例としてP-型である。本例のアノード領域84のドーピング濃度は、ベース領域14のドーピング濃度よりも低い。本例では、アノード領域84のドーピング濃度を低くすることにより、逆回復時の正孔注入を抑制することができる。
【0059】
エミッタ領域12は、ドリフト領域18と同じ導電型で、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い領域である。本例のエミッタ領域12は、一例としてN+型である。エミッタ領域12のドーパントの一例はヒ素(As)である。エミッタ領域12は、メサ部71のおもて面において、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、X軸方向に延伸して設けられてよい。
【0060】
また、エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。本例のエミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接している。エミッタ領域12は、メサ部81には設けられていない。
【0061】
第1コンタクト領域15は、ベース領域14と同じ導電型で、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い領域である。本例の第1コンタクト領域15は、一例としてP+型である。本例の第1コンタクト領域15は、メサ部71のおもて面に設けられている。第1コンタクト領域15は、メサ部71を挟んだ2本のトレンチ部の一方から他方まで、X軸方向に延伸して設けられている。
【0062】
第2コンタクト領域85は、アノード領域84と同じ導電型で、アノード領域84よりもドーピング濃度の高い領域である。本例の第2コンタクト領域85は、一例としてP+型である。本例の第2コンタクト領域85は、メサ部81のおもて面に設けられている。メサ部81に第2コンタクト領域85を設けることにより、アノード領域84のドーピング濃度が低いことを補い、オーミック接合を確保することができる。
【0063】
第2コンタクト領域85は、第1コンタクト領域15と同じプロセスで形成されてよい。図1Aにおいて、第2コンタクト領域85は、X軸方向において、第1コンタクト領域15と対応する位置に配列されているが、これに限定されない。第2コンタクト領域85が第1コンタクト領域15と異なるプロセスで形成される場合、第2コンタクト領域85は、第1コンタクト領域15の位置とは独立した位置に配列されてよい。
【0064】
本例の第2コンタクト領域85は、Y軸方向において離散的に設けられている。また、第2コンタクト領域85は、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から離間して設けられている。メサ部81のおもて面において、第2コンタクト領域85が設けられていない領域には、アノード領域84が露出している。つまり、本例の第2コンタクト領域85は、上面視で、アノード領域84に囲まれている。
【0065】
本例では、メサ部71のおもて面において、エミッタ領域12および第1コンタクト領域15が、Y軸方向において交互に設けられている。これに対し、メサ部81のおもて面には、ドーピング濃度の高い第2コンタクト領域85が離散的に設けられ、ドーピング濃度の低いアノード領域84が設けられている。このように、メサ部81における正孔の総量を低減することにより、逆回復時の正孔注入を抑制することができる。
【0066】
本例のトランジスタ部70は、ダイオード部80に隣接する境界領域90を有する。境界領域90はトランジスタ部70の一部であるが、トランジスタ部70の他の領域とは異なるおもて面構造を有する。本明細書では、境界領域90の構成の中で、トランジスタ部70の他の領域と異なる構成を主に説明し、共通する構成については説明を省略する。
【0067】
本例の境界領域90のメサ部71のおもて面には、第2コンタクト領域85が離散的に設けられ、第2コンタクト領域85が設けられていない領域には、アノード領域84が設けられている。また、境界領域90のメサ部71には、エミッタ領域12および第1コンタクト領域15は設けられていない。つまり、本例の境界領域90は、ダイオード部80と同様のおもて面構造を有し、これにより、逆回復時の正孔注入を抑制することができる。
【0068】
図1Bは、図1Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。図1Cは、図1Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。a-a'断面は、第1コンタクト領域15および第2コンタクト領域85を通過するXZ面である。b-b'断面は、メサ部81のコンタクトホール54に沿ったYZ面である。
【0069】
本例の半導体装置100は、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上方に設けられている。
【0070】
ドリフト領域18は、半導体基板10に設けられた領域である。本例のドリフト領域18は、一例としてN-型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が形成されずに残存した領域であってよい。即ち、ドリフト領域18のドーピング濃度は半導体基板10のドーピング濃度であってよい。
【0071】
バッファ領域20は、ドリフト領域18の下方に設けられた領域である。本例のバッファ領域20は、ドリフト領域18と同じ導電型であり、一例としてN型である。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層がコレクタ領域22およびカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0072】
コレクタ領域22は、トランジスタ部70においてバッファ領域20の下方に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。カソード領域82は、ダイオード部80においてバッファ領域20の下方に設けられた、ドリフト領域18と同じ導電型の領域である。コレクタ領域22とカソード領域82との境界は、トランジスタ部70とダイオード部80との境界である。
【0073】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に設けられており、コレクタ領域22とカソード領域82との両方に接している。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で、または導電材料を積層して形成される。
【0074】
ベース領域14は、境界領域90以外の領域のメサ部71においてドリフト領域18の上方に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例のベース領域14は、一例としてP-型である。ベース領域14は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ベース領域14は、ダミートレンチ部30に接して設けられてよい。
【0075】
アノード領域84は、境界領域90のメサ部71およびダイオード部80のメサ部81においてドリフト領域18の上方に設けられた、ドリフト領域18と異なる導電型の領域である。本例のアノード領域84は、一例としてP-型である。アノード領域84のドーピング濃度は、ベース領域14のドーピング濃度よりも低い。アノード領域84は、ダミートレンチ部30に接して設けられている。
【0076】
エミッタ領域12は、ベース領域14と半導体基板10のおもて面21との間に設けられている。本例のエミッタ領域12は、境界領域90以外の領域のメサ部71に設けられており、境界領域90のメサ部71およびメサ部81には設けられていない。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。
【0077】
ダイオード部80が導通すると、カソード領域82からアノード領域84に電子電流が流れる。電子電流がアノード領域84に到達すると電導度変調が起き、アノード領域84から正孔電流が流れる。また、カソード領域82から拡散した電子電流により、トランジスタ部70の第1コンタクト領域15からも正孔注入が促進され、半導体基板10の正孔密度が上昇する。これにより、ダイオード部80のターンオフ時に正孔が消滅するまでの時間が長くなるので、逆回復ピーク電流が大きくなり、逆回復損失が増大する。
【0078】
このような正孔電流を抑制する技術として、半導体基板のおもて面側に、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域を設ける技術が知られている。ライフタイムキラーは、一例として、半導体基板全体に注入する電子線や所定の深さに注入されたヘリウム、電子線又はプロトン等であり、ライフタイム制御領域は、ライフタイムキラー注入によって半導体基板の内部に形成された結晶欠陥である。ライフタイム制御領域は、ダイオード部の導通時に発生する電子と正孔との再結合消滅を促進し、逆回復損失を低減する。
【0079】
本例では、半導体基板10のおもて面21側にライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域が設けられていない。本例では、境界領域90のメサ部71およびメサ部81において、ドーピング濃度の高い第2コンタクト領域85を離散的に設け、アノード領域84のドーピング濃度をベース領域14のドーピング濃度よりも低くすることにより、ライフタイム制御領域が設けられていなくても、逆回復時の正孔注入を抑制することができる。
【0080】
コンタクトホール54は、層間絶縁膜38をZ軸方向に貫通して設けられ、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続する。コンタクトホール54の内部には、チタンまたはチタン化合物等で形成されたバリアメタルが設けられてよい。さらにコンタクトホール54の内部には、タングステン等で形成されたプラグがバリアメタルを介して設けられてもよい。またコンタクトホール54は、半導体基板10のおもて面21に凹部を設けた、トレンチコンタクト構造であってよい。
【0081】
第2コンタクト領域85は、コンタクトホール54の下方に設けられている。例えば、第2コンタクト領域85は、コンタクトホール54の下端からボロン(B)等のドーパントをイオン注入することにより形成される。X軸方向において、第2コンタクト領域85の幅は、コンタクトホール54の下端の幅以上であってよい。本例の第2コンタクト領域85のドーピング濃度は、1E18cm-3以上、1E20cm-3以下である。なお、Eは10のべき乗を意味し、例えば1E16cm-3は1×1016cm-3を意味する。
【0082】
本例の第2コンタクト領域85は、X軸方向において、トレンチ部の側壁から離間して設けられている。Y軸方向において、第2コンタクト領域85のピッチ、すなわち、第2コンタクト領域85のY軸方向中心から、隣接する第2コンタクト領域85のY軸方向中心までの距離は、0.4μm以上である。Z軸方向において、第2コンタクト領域85の厚さ、すなわち、半導体基板10のおもて面21から第2コンタクト領域85の下端までの距離は、0.1μm以上、0.3μm以下である。
【0083】
第2コンタクト領域85の下方には、キャリアストップ領域87が設けられている。キャリアストップ領域87は、ドリフト領域18と同じ導電型であり、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高い領域である。本例のキャリアストップ領域87は、一例としてN+型である。
【0084】
例えば、キャリアストップ領域87は、コンタクトホール54の下端からヒ素(As)等のドーパントをイオン注入することにより形成される。キャリアストップ領域87のドーピング濃度は、1E16cm-3以上、1E18cm-3以下である。キャリアストップ領域87を設けることにより、逆回復時に第2コンタクト領域85からの正孔注入を抑制することができる。
【0085】
本例のキャリアストップ領域87は、Y軸方向において離散的に設けられている。このため、本例のキャリアストップ領域87の下方のアノード領域84も、第2コンタクト領域85と電気的に接続されている。隣接するキャリアストップ領域87の間に間隔を設けることにより、ダイオード部80の順方向電圧Vfの過剰な増加を抑制し、電流の流れを促進する。図1Cに示すように、Y軸方向において、隣接するキャリアストップ領域87の間の距離Dyは、0.4μm以上である。距離Dyを確保することにより、コンタクトホール54の下端からイオン注入されたドーパントがさらに拡散し、隣接するキャリアストップ領域87が接続され、電流の経路を遮断することを防止する。
【0086】
図1Cに示すように、Y軸方向において、キャリアストップ領域87のピッチPy、すなわち、キャリアストップ領域87のY軸方向中心から隣接するキャリアストップ領域87のY軸方向中心までの距離は、0.4μm以上、第2コンタクト領域85のピッチ以下である。本例では、キャリアストップ領域87および第2コンタクト領域85は、Y軸方向において同じピッチで周期的に配列されている。
【0087】
図1Bに示すように、本例のキャリアストップ領域87は、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から離間して設けられている。本例では、X軸方向において、キャリアストップ領域87の幅は、第2コンタクト領域85の幅よりも大きい。X軸方向において、キャリアストップ領域87の幅は、コンタクトホール54の幅よりも大きい。また、Y軸方向において、キャリアストップ領域87の幅は、第2コンタクト領域85の幅よりも大きい。これにより、逆回復時に、第2コンタクト領域85からの正孔注入を、より確実に抑制することができる。
【0088】
キャリアストップ領域87の上端は、X軸方向において、半導体基板10のおもて面21から0.1μm以上、0.3μm以下の範囲にあってよい。本例のキャリアストップ領域87の上端は、第2コンタクト領域85の下端と接している。これにより、逆回復時に、第2コンタクト領域85からの正孔が第2コンタクト領域85とキャリアストップ領域87との間を通り抜けて半導体基板10に注入されることを抑制する。キャリアストップ領域87の下端は、アノード領域84の下端よりも半導体基板10のおもて面21側にあってよい。つまり、キャリアストップ領域87の下端は、アノード領域84で覆われていてよい。
【0089】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられた領域である。本例の蓄積領域16はドリフト領域18と同じ導電型であり、一例としてN+型である。2段以上の蓄積領域16が、ドリフト領域18に設けられてもよい。蓄積領域16は、アノード領域84の下方、すなわち境界領域90およびダイオード部80には設けられなくてよい。
【0090】
また、蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。蓄積領域16は、ダミートレンチ部30に接してもよいし、接しなくてもよい。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、トランジスタ部70のオン電圧を低減することができる。
【0091】
1つ以上のゲートトレンチ部40および1つ以上のダミートレンチ部30が、半導体基板10のおもて面21に設けられている。各トレンチ部は、半導体基板10のおもて面21からドリフト領域18まで、深さ方向(Z軸方向)に延伸して設けられている。エミッタ領域12、ベース領域14、第1コンタクト領域15、蓄積領域16およびアノード領域84の少なくともいずれかが設けられた領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0092】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられている。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられている。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面21において層間絶縁膜38により覆われている。
【0093】
ゲート導電部44は、半導体基板10の深さ方向において、ゲート絶縁膜42を挟んでメサ部71側で隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部44に所定の電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0094】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面21側に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられている。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられている。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミートレンチ部30は、半導体基板10のおもて面21において層間絶縁膜38により覆われている。
【0095】
層間絶縁膜38は、半導体基板10のおもて面21に設けられている。層間絶縁膜38の上方には、エミッタ電極52が設けられている。層間絶縁膜38には、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続するための1または複数のコンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール55およびコンタクトホール56も同様に、層間絶縁膜38を貫通して設けられてよい。
【0096】
図2Aは、実施例2に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。図2Bは、図2Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。図2Cは、図2Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。本例では、第2コンタクト領域85の構成において、上述した実施例1に係る半導体装置100と相違する。ここでは、実施例1との相違点を中心に説明し、共通する事項については説明を省略する。
【0097】
本例の第2コンタクト領域85は、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から隣接するダミートレンチ部30の側壁まで延伸して設けられている。つまり、上面視で、メサ部81には、Y軸方向において、第2コンタクト領域85およびアノード領域84が交互に設けられている。上面視で、メサ部81において、本例の第2コンタクト領域85のアノード領域84に対する面積比は、実施例1よりも大きい。
【0098】
本例では、キャリアストップ領域87も、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から隣接するダミートレンチ部30の側壁まで延伸して設けられている。但し、キャリアストップ領域87のY軸方向における配列は、実施例1と同様である。図2Cに示すように、キャリアストップ領域87はピッチPyで周期的に配列され、隣接するキャリアストップ領域87の間に距離Dyが確保されている。このため、本例のキャリアストップ領域87の下方のアノード領域84も、第2コンタクト領域85と電気的に接続されている。
【0099】
このように、キャリアストップ領域87を設けることによって、逆回復時の正孔注入抑制効果が得られるので、本例では、第2コンタクト領域85の面積を増やすことができる。
【0100】
図3Aは、実施例3に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。図3Bは、図3Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。図3Cは、図3Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。本例では、第2コンタクト領域85の構成において、上述した実施例1に係る半導体装置100と相違する。ここでは、実施例1との相違点を中心に説明し、共通する事項については説明を省略する。
【0101】
本例の第2コンタクト領域85は、Y軸方向に延伸して設けられている。第2コンタクト領域85は、コンタクトホール54に沿って設けられてよい。つまり、上面視で、メサ部81では、アノード領域84がダミートレンチ部30に沿ってY軸方向に延伸し、第2コンタクト領域85がアノード領域84に挟まれてY軸方向に延伸している。上面視で、メサ部81において、本例の第2コンタクト領域85のアノード領域84に対する面積比は、実施例1よりも大きい。
【0102】
本例のキャリアストップ領域87は、Y軸方向に延伸した第2コンタクト領域85の下方において、離散的に設けられている。図3Cに示すように、キャリアストップ領域87はピッチPyで周期的に配列され、隣接するキャリアストップ領域87の間に距離Dyが確保されている。
【0103】
X軸方向において、本例のキャリアストップ領域87の幅は、第2コンタクト領域85の幅よりも大きい。キャリアストップ領域87は、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から離間して設けられている。
【0104】
このように、キャリアストップ領域87を設けることによって、逆回復時の正孔注入抑制効果が得られるので、本例では、第2コンタクト領域85の面積を増やすことができる。
【0105】
図4Aは、実施例4に係る半導体装置100の上面図の一例を示す。図4Bは、図4Aにおけるa-a'断面の一例を示す図である。図4Cは、図4Aにおけるb-b'断面の一例を示す図である。本例では、第2コンタクト領域85の構成において、上述した実施例1に係る半導体装置100と相違する。ここでは、実施例1との相違点を中心に説明し、共通する事項については説明を省略する。
【0106】
本例の第2コンタクト領域85は、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から隣接するダミートレンチ部30の側壁まで延伸して設けられている。つまり、上面視で、メサ部81のおもて面には第2コンタクト領域85のみが設けられており、アノード領域84は露出していない。上面視で、メサ部81において、本例の第2コンタクト領域85のアノード領域84に対する面積比は、実施例1よりも大きい。
【0107】
本例では、キャリアストップ領域87も、X軸方向において、ダミートレンチ部30の側壁から隣接するダミートレンチ部30の側壁まで延伸して設けられている。但し、キャリアストップ領域87のY軸方向における配列は、実施例1と同様である。図2Cに示すように、キャリアストップ領域87はピッチPyで周期的に配列され、隣接するキャリアストップ領域87の間に距離Dyが確保されている。
【0108】
このように、キャリアストップ領域87を設けることによって、逆回復時の正孔注入抑制効果が得られるので、本例では、第2コンタクト領域85の面積を増やすことができる。
【0109】
図5は、図1Cにおけるc-c'断面のドーピング濃度分布の一例を示す図である。c-c'断面は、実施例1の半導体装置100のメサ部81において、第2コンタクト領域85、キャリアストップ領域87、アノード領域84およびドリフト領域18を通過するXZ面である。ここでは実施例1のドーピング濃度分布を一例として示すが、実施例2、実施例3および実施例4のドーピング濃度分布も、これと同様である。
【0110】
図5において、横軸は、半導体基板10のおもて面21を基準としたZ軸方向位置[μm]、すなわち半導体基板10のおもて面21からの深さを示し、縦軸は、ドーピング濃度[cm-3]を示す。ドーピング濃度分布は、半導体基板10のおもて面21から-Z軸方向に向かって順に、第2コンタクト領域85、キャリアストップ領域87、アノード領域84およびドリフト領域18のピークドーピング濃度を含む。
【0111】
本例の第2コンタクト領域85のドーピング濃度は、1E18cm-3以上、1E20cm-3以下であり、キャリアストップ領域87のドーピング濃度は、1E16cm-3以上、1E18cm-3以下である。図5に示すキャリアストップ領域87のドーピング濃度分布において、+Z軸方向の谷はキャリアストップ領域87の上端、-Z軸方向の谷はキャリアストップ領域87の下端におけるドーピング濃度である。本例のキャリアストップ領域87の上端は、キャリアストップ領域87と第2コンタクト領域85との間の境界である。キャリアストップ領域87の上端におけるドーピング濃度は、アノード領域84のピークドーピング濃度よりも高い。
【0112】
Z軸方向において、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度は、半導体基板10のおもて面21から0.3μm以上、0.7μm以下の距離に位置する。キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度の位置と、第2コンタクト領域85の下端との間の距離は、0.1μm以上、0.4μm以下である。
【0113】
本例のキャリアストップ領域87のピークドーピング濃度は、アノード領域84の深さ方向中央よりも半導体基板10のおもて面21側に位置する。ここで、アノード領域84の深さ方向中央とは、半導体基板10のおもて面21からアノード領域84の下端までの深さ(Z軸方向距離)の2分の1の深さに位置する任意の点をいう。
【0114】
図6は、キャリアストップ領域のピークドーピング濃度と逆回復損失Errとの間の関係の一例を示す図である。図6において、横軸はキャリアストップ領域87のピークドーピング濃度[cm-3]を示し、縦軸は逆回復損失Err[mJ]を示す。図6は、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さ(Z軸方向における半導体基板10のおもて面21からの距離)を変化させた半導体装置100の、ピークドーピング濃度と逆回復損失Errとダイオード部の順方向電圧Vfとの間の関係をそれぞれ示す。ここでいう半導体装置100は、上述した実施例1、実施例2および実施例3に係る半導体装置100のいずれであってもよい。
【0115】
プロットが四角、三角および白丸のグラフは、それぞれ、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さが0.3μm、0.5μm、および0.7μmである半導体装置100の逆回復損失Errを示す。図6に示すように、ピークドーピング濃度が上昇すると逆回復損失Errの低減効果が見られ、ピークドーピング濃度の位置が深い程その効果は大きかった。
【0116】
図7は、キャリアストップ領域のピークドーピング濃度とダイオード部の順方向電圧Vfとの一例を示す図である。図7において、横軸はキャリアストップ領域87のピークドーピング濃度[cm-3]を示し、縦軸はダイオード部80の順方向電圧Vf[V]を示す。図7は、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さを変化させた半導体装置100の、ピークドーピング濃度とダイオード部80の順方向電圧Vfとの間の関係をそれぞれ示す。キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さの設定は、図6と同様である。
【0117】
図7に示すように、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さが0.5μmおよび0.7μmである半導体装置100では、ピークドーピング濃度が上昇するとダイオード部80の順方向電圧Vfが上昇した。一方、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さが0.3μmの半導体装置100では、ピークドーピング濃度が上昇するとダイオード部80の順方向電圧Vfが検出されなかった。つまり、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度の位置が浅い場合、ピークドーピング濃度が上昇すると、ダイオード部80の順方向電圧Vfが許容値を超えて電流が流れなくなり、ダイオード部80がダイオードとして動作しなくなる。
【0118】
図8は、逆回復損失Errとダイオード部の順方向電圧Vfとの間の関係の一例を示す図である。図8において、横軸はダイオード部の順方向電圧Vf[V]を示し、縦軸は逆回復損失Err[mJ]を示す。図8は、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度の深さを変化させた半導体装置100、およびキャリアストップ領域が設けられていない比較例に係る半導体装置の、逆回復損失Errとダイオード部の順方向電圧Vfとの間の関係をそれぞれ示す。半導体装置100におけるキャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さの設定は、図6と同様である。比較例に係る半導体装置は、キャリアストップ領域が設けられていない点を除き半導体装置100と同様の構成を有する。
【0119】
図8に示すように、逆回復損失Errとダイオード部の順方向電圧Vfは、トレードオフの関係にある。キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さが0.5μmおよび0.7μmである半導体装置100では、逆回復損失Errが低減するとダイオード部80の順方向電圧Vfが上昇した。つまり、図6および図7を併せて参照すると、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度が上昇すると、逆回復損失Errが低減する一方でダイオード部80の順方向電圧Vfが上昇するため、順方向電圧Vfの上昇を許容範囲に抑制する必要がある。
【0120】
一方、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度深さが0.3μmの半導体装置100では、逆回復損失Errを低減するとダイオード部80の順方向電圧Vfが検出されなくなり、黒丸でプロットされた比較例に係る半導体装置以上の逆回復損失Errの低減効果は見られなかった。
【0121】
このように、実施例に係る半導体装置100によれば、キャリアストップ領域87のピークドーピング濃度およびその深さを上述した範囲で適宜設定することにより、逆回復時の正孔注入を抑制することができる。
【0122】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0123】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0124】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、30・・・ダミートレンチ部、31・・・延伸部分、33・・・接続部分、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・延伸部分、43・・・接続部分、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、50・・・ゲート金属層、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、55・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、70・・・トランジスタ部、71・・・メサ部、80・・・ダイオード部、81・・・メサ部、82・・・カソード領域、84・・・アノード領域、85・・・第2コンタクト領域、90・・・境界領域、100・・・半導体装置
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8