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特開2024-84132タックコート又はプライムコートの構築方法及びタックコート用又はプライムコート用の材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084132
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】タックコート又はプライムコートの構築方法及びタックコート用又はプライムコート用の材料
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/18 20060101AFI20240617BHJP
   C08L 95/00 20060101ALI20240617BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
E01C7/18
C08L95/00
C08L91/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203960
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2022198247
(32)【優先日】2022-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000233653
【氏名又は名称】ニチレキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003074
【氏名又は名称】弁理士法人須磨特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小滝 康陽
(72)【発明者】
【氏名】上野 導
(72)【発明者】
【氏名】平岡 富雄
【テーマコード(参考)】
2D051
4J002
【Fターム(参考)】
2D051AE01
2D051AG01
2D051AG03
2D051AG04
2D051AG15
2D051AG18
2D051EA01
2D051EA06
2D051EB06
4J002AE052
4J002AG001
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】べたつきが抑制されたタックコート又はプライムコートの構築方法、及び、べたつきが抑制されたタックコート又はプライムコートを構築するための材料を提供すること課題とする。
【解決手段】舗装工事におけるタックコート又はプライムコートの構築方法であって、(1)脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を施工面に散布する工程と、(2)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を前記施工面に散布する工程と、を含み、前記工程(1)及び(2)を、この順で又は同時に行うことを特徴とする方法、並びに、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を含む第1の剤と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を含む第2の剤と、を含む2剤型のタックコート用又はプライムコート用の材料を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
舗装工事におけるタックコート又はプライムコートの構築方法であって、
(1)脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を施工面に散布する工程と、
(2)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を前記施工面に散布する工程と、
を含み、前記工程(1)及び(2)を、この順で又は同時に行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アスファルト乳剤における前記脂肪酸及び/又は前記樹脂酸の含有量が、前記アスファルト乳剤の蒸発残留分の5質量%超であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アスファルト乳剤における前記脂肪酸及び/又は前記樹脂酸の含有量が、前記アスファルト乳剤の蒸発残留分の30質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記脂肪酸及び/又は樹脂酸が、炭素数5~30の脂肪酸及び/又は樹脂酸であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水溶液に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物が、カルシウム及び/又はマグネシウムの塩及び/又は酸化物であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アスファルト乳剤と前記水溶液を、前記アスファルト乳剤中に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸の価数をA、モル数をmol、前記水溶液中に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物から生じるアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの価数をB、モル数をmolとしたとき、(B×mol)/(A×mol)の値が1.0以上となるように散布することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記施工面がアスファルトコンクリート面、コンクリート面、粒状路盤、又は安定処理路盤であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記安定処理路盤が瀝青安定処理路盤、セメント・アスファルト乳剤安定処理路盤、セメント安定処理路盤、又は石灰安定処理路盤であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(1)脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を含む第1の剤と、
(2)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を含む第2の剤と、
を含む2剤型のタックコート用又はプライムコート用の材料。
【請求項10】
前記アスファルト乳剤における前記脂肪酸及び/又は前記樹脂酸の含有量が、前記アスファルト乳剤の蒸発残留分の5質量%超であることを特徴とする請求項9に記載の材料。
【請求項11】
前記アスファルト乳剤における前記脂肪酸及び/又は前記樹脂酸の含有量が、前記アスファルト乳剤の蒸発残留分の30質量%以下であることを特徴とする請求項10に記載の材料。
【請求項12】
前記脂肪酸及び/又は樹脂酸が、炭素数5~30の脂肪酸及び/又は樹脂酸であることを特徴とする請求項11に記載の材料。
【請求項13】
前記水溶液に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物が、カルシウム及び/又はマグネシウムの塩及び/又は酸化物であることを特徴とする請求項12に記載の材料。
【請求項14】
前記アスファルト乳剤と前記水溶液が、前記アスファルト乳剤中に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸の価数をA、モル数をmol、前記水溶液中に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物から生じるアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの価数をB、モル数をmolとしたとき、(B×mol)/(A×mol)の値が1.0以上となるように散布されるように使用されることを特徴とする請求項13に記載の材料。
【請求項15】
アスファルトコンクリート面、コンクリート面、粒状路盤、又は安定処理路盤に用いられることを特徴とする請求項9乃至14のいずれか一項に記載の材料。
【請求項16】
前記安定処理路盤が瀝青安定処理路盤、セメント・アスファルト乳剤安定処理路盤、セメント安定処理路盤、又は石灰安定処理路盤であることを特徴とする請求項15に記載の材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舗装工事におけるタックコート又はプライムコートの構築方法、及び、タックコート用又はプライムコート用の材料に関する。
【背景技術】
【0002】
舗装工事においては、新たに舗設されるアスファルト混合物層との付着を良くすることを主たる目的の一つとして、その下層の基層、中間層、路盤や瀝青安定処理路盤等の安定処理路盤の施工面の表面にカットバックアスファルト、アスファルト乳剤、ストレートアスファルトなどの瀝青材料が散布されることがある。このような瀝青材料を含んでなるコーティングは、主に施工面の種類に応じて、タックコート又はプライムコートと呼ばれている。
【0003】
タックコートとは、瀝青材料或いはセメントなどを用いて構築された下層と、その上に新たに舗設されるアスファルト混合物層との接着性を高めることを主たる目的として構築されるコーティングであり、典型的には、瀝青安定処理路盤、中間層、基層等の施工面の表面に施される。タックコート用の瀝青材料としては、一般にアスファルト乳剤が用いられ、特に、カチオン系アスファルト乳剤が使用されることが多い。タックコートに用いられるカチオン系アスファルト乳剤としては、ストレートアスファルトを原料としたPK-4と呼ばれるアスファルト乳剤が知られている。また、アスファルト乳剤にゴムを添加して層間接着力を高めたPKR-Tと呼ばれるゴム入りアスファルト乳剤が知られている。
【0004】
これらのアスファルト乳剤を瀝青安定処理路盤、中間層、基層等の施工面に散布すると、アスファルト乳剤が分解して水分が蒸発することで施工面の表面にはアスファルト被膜が形成される。アスファルト被膜は、施工面とその上に舗設されるアスファルト混合物層との接着性を向上させる働きを担う。その一方、アスファルト被膜にはべたつきがあるため、アスファルト乳剤を散布した施工面の上を運搬車や施工機械が通過すると、アスファルト被膜がそれらの車輪に付着し、アスファルト被膜が剥離してしまうという問題があった。アスファルト被膜が施工面から剥離してしまうと、施工面とその上に舗設されるアスファルト混合物層との接着性が損なわれる恐れがあるほか、車輪にアスファルト被膜が付着した状態で運搬車や施工機械が周辺を走行することで、周辺道路が汚れてしまうという問題もあった。
【0005】
以上の問題を解決するため、例えば、特許文献1には、アスファルト乳剤に表面析出剤を含有せしめ、水分が蒸発したアスファルト乳剤の表面に表面析出剤を粉状に析出させることで、施工機械のタイヤや作業員の靴底へのアスファルトの付着を抑制する方法が開示されている。表面析出剤を析出させるためには、アスファルト乳剤中の水分が十分に蒸発するまでの養生時間を確保することが必要であるが、施工現場において、十分な養生時間を確保することは必ずしも容易ではない。例えば、補修工事おいて、冬期の夜間に実施されなければならないオーバーレイ時などには十分な養生時間を確保することは難しい。
【0006】
また、アスファルト乳剤に樹脂を添加することにより、アスファルト被膜のべたつきを抑制したPKM-Tと呼ばれるアスファルト乳剤が知られ、タックコート用のアスファルト乳剤として用いられている。PKM-Tによれば、一定程度、アスファルト被膜の付着が抑制されるものの、それでもなお真夏の猛暑期においてはべたつきが顕在化し、特にアスファルトフィニッシャ等の接地圧が大きい施工機械の車輪への付着は避けられなかった。樹脂の添加量をPKM-Tより更に増やすことによりべたつきを抑制することも考えられるが、この場合には、溶液の粘度が増大しすぎ、乳剤化することが困難となるという問題があった。
【0007】
一方、瀝青安定処理路盤を除く路盤上にアスファルト乳剤などの瀝青材料を散布して構築されるコーティングをプライムコートという。プライムコートは、路盤を仕上げた後、アスファルト混合物が舗設されるまでの間に路盤を保護すること、水の浸透を遮断し、舗装体の安定性を高めること、路盤とその上に舗設されるアスファルト混合物層とをなじみやすくすること等を目的として、典型的には、粒状路盤、セメント・アスファルト乳剤安定処理路盤、セメント安定処理路盤、石灰安定処理路盤等の施工面の表面に施される。
【0008】
プライムコート用の瀝青材料としては、タックコートと同様に一般にアスファルト乳剤が用いられ、特に、カチオン系アスファルト乳剤が使用されることが多い。プライムコートに用いられるカチオン系アスファルト乳剤としては、ストレートアスファルトを原料としたPK-3と呼ばれるアスファルト乳剤が広く用いられている。
【0009】
これらのアスファルト乳剤を粒状路盤等の施工面に散布すると、アスファルト乳剤が路盤に浸透し、その部分が安定化される。また、アスファルト乳剤が分解して水分が蒸発することで路盤材の表面にアスファルト被膜が形成され、路盤と、その上に舗設されるアスファルト混合物層とが馴染みやすくなるという効果が得られる。しかし、プライムコートに使用される瀝青材料は瀝青を多分に含んでいるため、これを散布して形成されるアスファルト被膜には、やはりべたつきがある。プライムコート用のアスファルト乳剤を散布した路盤の上を運搬車や施工機械が通過すると、アスファルト被膜がそれらの車輪に付着し、アスファルト被膜が剥離してしまうというタックコートと同様の問題がプライムコートにも存在する。
【0010】
この課題を解決するため、路盤への浸透性を高めた高浸透性のアスファルト乳剤が知られており、PK-Pと呼ばれている。PK-Pは路盤への浸透性に優れるため、路盤表面に残存するアスファルト分が少なく、その分、べたつきが抑制される。しかしながら、運搬車や施工機械の車輪への付着性には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-328504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上説明したとおり、本発明者らが知る限りにおいて、夏期、好ましくは真夏の猛暑期においてもべたつかないタックコート用のアスファルト乳剤は知られていない。本発明は、ある一側面において、このような従来技術の課題を解決するために為されたものであり、べたつきが抑制されたタックコートの構築方法、及び、べたつきが抑制されたタックコートを構築するためのタックコート用材料を提供すること課題とする。また、本発明は、他の一側面において、高い浸透性を有し、好適にはべたつきが抑制されたプライムコート用材料、及び、これを用いたプライムコートの構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決しようと鋭意研究努力を重ねる過程において、アスファルト乳剤中にアスファルトと親和性を有し、また、他の成分と反応して固化する性質を有する成分を含有せしめ、施工面に散布したアスファルト乳剤に当該他の成分を接触させれば、タックコート又はプライムコートを構成するアスファルト被膜を固化させることができ、そのべたつきを抑制できるのではないかと着想した。しかしながら、タックコート又はプライムコートとして用いられるアスファルト乳剤中に含まれる成分は、アスファルト乳剤の分散性をできる限り損なわず、共に分散される成分でなければならず、また、アスファルト被膜を固化させるための成分であるため、アスファルトとも親和性を有する成分でなければならないという制約があった。そこで、本発明者らは更なる鋭意研究努力を重ねた結果、脂肪酸及び樹脂酸はアスファルト乳剤中に分散できること、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を接触させれば、速やかにべたつきが抑制されたコーティング層が得られること、更には、当該コーティング層は、施工面と、その上に舗設されるアスファルト混合物層との接着性に優れ、タックコートとして極めて有用であることを見出した。加えて、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有する上記アスファルト乳剤は、路盤への浸透性にも優れるので、プライムコート用のアスファルト乳剤としても好適に用いられ得ることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、ある一態様において、舗装工事におけるタックコート又はプライムコートの構築方法であって、
(1)脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を施工面に散布する工程と、
(2)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を前記施工面に散布する工程と、
を含み、前記工程(1)及び(2)を、この順で又は同時に行うことを特徴とする方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0015】
また、本発明は、ある一態様において、
(1)脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を含む第1の剤と、
(2)アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を含む第2の剤と、
を含む2剤型のタックコート用又はプライムコート用の材料を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、べたつきが抑制されたタックコート又はプライムコートを速やかに構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】アスファルト乳剤の蒸発残留分中のトール油脂肪酸の含有量と、試験輪へのアスファルト被膜の付着率の関係を示す図である。
図2】蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコート(実施例)と、市販のタイヤ付着抑制型のタックコート用アスファルト乳剤(PKM-T)を用いて形成されたタックコート(対照)の耐べたつき性を評価した結果を示す図である。
図3】アスファルト乳剤の蒸発残留分中のトール油脂肪酸の含有量と、せん断接着強度の関係を示す図である。
図4】蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤と、市販のタックコート用アスファルト乳剤(PK-3)及び高浸透性アスファルト乳剤(PK-P)の浸透性を評価した結果を示す図である。
図5】蒸発残留分あたり16質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤、及び、市販のタックコート用アスファルト乳剤(PK-3)を、路上再生路盤材料(CAE混合物)からなる下地供試体とアスファルト混合物からなる上地供試体の間に適用して得られた供試体について、せん断接着強度を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<タックコート又はプライムコートの構築方法>
本発明の一側面に係るタックコート又はプライムコートの構築方法は、上述したとおり、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を施工面に散布する工程と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を前記施工面に散布する工程とを含む、方法である。以下、各工程について順次説明する。
【0019】
<工程(1):脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を施工面に散布する工程>
脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を施工面に散布する工程である。
【0020】
「アスファルト乳剤」とは、アスファルトを、乳化剤を含む水中に分散させた液状の組成物である。本発明に用いられるアスファルト乳剤に特段の制限はなく、含まれるアスファルトの種類にも特段の制限はない。アスファルト乳剤に含まれ得るアスファルトとしては、例えば、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、セミブローンアスファルト、天然アスファルト、溶剤脱瀝アスファルト、及び、これらのアスファルトに適宜の改質成分が混合された改質アスファルトなどが含まれる。改質アスファルトに含まれる改質成分の種類に特段の制限はないが、例えば、スチレン・ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレンブロック共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエンランダム共重合体(SBR)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、ポリスチレン・ポリエチレンブチレンブロック共重合体(SEBS)、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR);C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂などの石油樹脂;テルペンモノマーを重合させてなるポリテルペン樹脂、テルペンモノマーとフェノール類を重合させてなるテルペン-フェノール樹脂などのテルペン樹脂;芳香族系炭化水素、脂肪族系炭化水素などのオイルなどが挙げられる。改質アスファルトに含まれる改質成分は、1種類であっても良いし、2種類以上の改質成分の混合物であっても良い。
【0021】
アスファルト乳剤に含まれる「乳化剤」は、アスファルトを水中に分散させることができるものであれば、その種類に特段の制限はなく、アニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、両性乳化剤、又はノニオン系乳化剤のいずれであっても良い。アニオン系乳化剤は、例えば、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジアリルエーテルスルホン酸塩などの高級アルコールの硫酸塩;ジアルキルスルホコハク酸塩などの高級アルコールのコハク酸塩;高級アルコールのリン酸塩;アルキルアリルエーテル硫酸エステルなどの高級アルコールの硫酸エステルなどであり得る。カチオン系乳化剤は、例えば、ココナットアミン酢酸塩、ステアリルアミン酢酸塩などのアルキルアミン塩;塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウムなどの第四級アンモニウム塩などであり得る。両性乳化剤は、例えば、酢酸ベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン、アミドスルホベタイン、イミダゾリウムベタインなどのベタイン類であり得る。ノニオン系乳化剤は、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンアルキルエーテル;ソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどであり得る。乳化剤は、1種又は2種以上を混合して使用することができる。以上のとおり、本発明に係るタックコートの構築方法に用いられるアスファルト乳剤は、カチオン系アスファルト乳剤、アニオン系アスファルト乳剤、ノニオン系アスファルト乳剤のいずれであっても良いが、施工面への接着性という観点からは、カチオン系アスファルト乳剤が特に好適に用いられ得る。
【0022】
本発明の一側面に係るタックコート又はプライムコートの構築方法に用いられるアスファルト乳剤は、アスファルト及び乳化剤に加え、さらに脂肪酸及び/又は樹脂酸を含んでいる。後述するとおり、脂肪酸及び樹脂酸はアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物と接触するとけん化反応により固化する性質を有する。本発明者らが見出した知見によれば、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を接触させると、施工面上に形成されるアスファルト被膜のべたつきが顕著に抑制される。
【0023】
「脂肪酸」とは、炭素原子が鎖状に連結した炭化水素鎖の少なくとも一端にカルボキシル基(-COOH)を有する化合物を意味する。脂肪酸は直鎖状(直鎖脂肪酸)であっても分岐状(分岐脂肪酸)であっても良い。また、脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であっても良い。脂肪酸の炭素数に、特段の制限はないが、アスファルト乳剤との親和性及びべたつき抑制の観点からは、好ましくは炭素数5~30の脂肪酸、より好ましくは炭素数10~30の脂肪酸、さらに好ましくは炭素数10~25の脂肪酸が好適に用いられ得る。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を表す場合、その下限値及び上限値を含む数値範囲を意味する。
【0024】
アスファルト乳剤に含まれ得る脂肪酸の具体例としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、カプロレイン酸、ラウロレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。アスファルト乳剤に含まれる脂肪酸は、1種類であっても良いし、2種類以上の脂肪酸の混合物であっても良い。
【0025】
なお、脂肪酸エステルは、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液と接触すると、加水分解して脂肪酸を形成することが知られている。したがって、ある一実施態様においては、脂肪酸は脂肪酸エステルとして上記アスファルト乳剤に含まれていても良い。
【0026】
脂肪酸の供給源に特段の制限はなく、天然由来のものであっても、化学合成により得られたものであってもよい。天然由来の脂肪酸は、例えば、植物由来の脂肪酸であり得、特に非食用の植物由来の脂肪酸であることが好ましい。植物由来の脂肪酸に特段の制限はないが、例えば、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ひまわり油脂肪酸、とうもろこし油脂肪酸、ごま油脂肪酸、なたね油脂肪酸、こめ油脂肪酸、米糠油脂肪酸、落花生油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸、パーム油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、トール油脂肪酸、綿実油脂肪酸、桐油脂肪酸などが好適であり、特に、トール油脂肪酸が好適に用いられ得る。
【0027】
「樹脂酸」とは、天然樹脂から得られる有機酸を意味し、脂肪酸と同様、その分子中にカルボキシル基(-COOH)を含んでいる。樹脂酸として、典型的には、トール油などの松脂から得られる有機酸が用いられる。このような樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸及びその異性体が挙げられ、より具体的には、アビエチン酸、ピマル酸、イソピマル酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、デヒドロアビエチン酸等が挙げられる。樹脂酸の供給源に特段の制限はなく、トール油などの松脂から得られる天然由来のものであっても、化学合成により得られたものであっても良い。樹脂酸の炭素数に特段の制限はないが、アスファルト乳剤との親和性及びべたつき抑制の観点からは、好ましくは炭素数5~30の樹脂酸、より好ましくは炭素数10~30の樹脂酸、さらに好ましくは炭素数10~25の樹脂酸が好適に用いられ得る。アスファルト乳剤に含まれる樹脂酸は、1種類であっても良いし、2種類以上の樹脂酸の混合物であっても良い。なお、樹脂酸が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液と接触し、加水分解して樹脂酸を形成するエステル体として含まれていても良いことは、脂肪酸について述べたと同様である。
【0028】
アスファルト乳剤における脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量に特段の制限はないが、例えば、アスファルト乳剤の蒸発残留分中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は1質量%以上50質量%以下であり得る。べたつき抑制という観点からは、アスファルト乳剤の蒸発残留分中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は5質量%超であることが好ましく、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。後述する実験例に示すとおり、アスファルト乳剤における脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量が、アスファルト乳剤の蒸発残留分の10質量%以上である場合には、真夏の猛暑期に相当する路面温度に達した場合であっても、べたつきが顕著に抑制されたタックコート又はプライムコートを構築することができる。一方、施工面と、その上に舗設されるアスファルト混合物層との接着性という観点からは、アスファルト乳剤の蒸発残留分中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、よりさらに好ましくは20質量%以下である。以上を総合すると、べたつきの抑制及び接着性の両立という観点からは、アスファルト乳剤の蒸発残留分中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は5質量%超30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上20質量%以下である。なお、本明細書において、「脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量」という場合、脂肪酸及び樹脂酸の含有量の合計値を意味する。
【0029】
アスファルト乳剤における脂肪酸及び樹脂酸の含有量の比率に特段の制限はなく、アスファルト乳剤における脂肪酸(a1)及び樹脂酸(a2)の含有量の質量比(a1:a2)は、100:0~0:100であり得る。構築されるタックコートにおける柔軟性及び硬さの両立という観点からは、上記質量比(a1:a2)は99:1~70:30の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、98:2~75:20、さらに好ましくは97:3~80:20、よりさらに好ましくは95:5~85:15の範囲内であり得る。
【0030】
一方、アスファルト乳剤におけるアスファルトの含有量、乳化剤の含有量、及び、水分の含有量に特段の制限はない。アスファルトの含有量は、例えば、アスファルト乳剤の蒸発残留分の1~99質量%、5~90質量%、10~80質量%、20~70質量%、又は30~60質量%であり得る。乳化剤の含有量は、例えば、アスファルト乳剤の蒸発残留分の0.01~10.0質量%、0.05~5.0質量%、又は0.1~3.0質量%であり得る。一方、水分の含有量は、例えば、アスファルト乳剤の総質量の20~60質量%、30~70質量%、又は40~60質量%であり得る。換言すれば、本発明に用いられ得るアスファルト乳剤における蒸発残留分の含有量は、例えば、40~80質量%、30~70質量%、40~60質量%であり得るということになる。
【0031】
また、ある好適な一態様において、本発明の一側面に係るタックコート又はプライムコートの構築方法に用いられるアスファルト乳剤は、以上説明した各種成分に加え、必要に応じて、通常、アスファルト乳剤に含まれる他の添加成分を含んでいても良い。他の添加成分は、例えば、熱可塑性樹脂及び/又はゴムなどの改質成分であり得る。熱可塑性樹脂及び/又はゴム等の改質成分を添加することにより、施工面と、その上に舗設されるアスファルト混合物層との接着性がさらに高く、また、べたつきがさらに抑制されたタックコート又はプライムコートが得られ得る。
【0032】
アスファルト乳剤に含まれ得る熱可塑性樹脂の種類に特段の制限はないが、例えば、スチレン・ブタジエンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレンブロック共重合体(SIS)などのスチレン系樹脂、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)などのエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、そのいずれか1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。一方、アスファルト乳剤に含まれ得るゴムの種類に特段の制限はないが、例えば、天然ゴム、ガタバーチャ、環化ゴム、スチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンゴム、ポリイソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、塩素系ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、EPTゴム、アルフィンゴム、スチレン・ブタジエンブロック重合ゴム、スチレン・イソプレンブロック重合ゴムなどが挙げられる。これらのゴムは、そのいずれか1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0033】
アスファルト乳剤に含まれ得る熱可塑性樹脂及び/又はゴム等の改質成分の含有量に特段の制限はないが、例えば、アスファルト乳剤の蒸発残留分あたり、1~90質量%、5~80質量%、10~70質量%、20~60質量%、30~50質量%であり得る。アスファルト乳剤における改質成分の含有量は、求められるタックコート又はプライムコートの特性に応じて適宜設定され得る。
【0034】
本工程においては、以上説明したアスファルト乳剤が施工面に散布される。アスファルト乳剤が散布される施工面に特段の制限はないが、例えば、アスファルト混合物面(アスファルトコンクリート面)、コンクリート面、粒状路盤、又は安定処理路盤であり得、安定処理路盤は瀝青安定処理路盤、セメント・アスファルト乳剤安定処理路盤、セメント安定処理路盤、石灰安定処理路盤等であり得る。これらの施工面にタックコート又はプライムコートを構築することにより、その上に舗設されるアスファルト混合物層との親和性を高め、及び/又は構築される舗装体の安定性を高めることができる。なお、前述したとおり、アスファルト混合物面(アスファルトコンクリート面)、コンクリート面、瀝青安定処理路盤に施工されるコーティング層をタックコートといい、粒状路盤又は安定処理路盤(瀝青安定処理路盤を除く)に施工されるコーティング層をプライムコートという。
【0035】
アスファルト乳剤を施工面に散布する具体的な方法に特段の制限はなく、例えば、ディストリビュータやスプレイヤを用いて行うことができる。ちなみに、ディストリビュータとは、アスファルト乳剤を入れるタンクを有し、車両後部のスプレーバーから施工面にアスファルト乳剤を散布する機械である。一方、スプレイヤは、手持ちノズルからアスファルト乳剤を散布する機械であり、アスファルト乳剤の圧送に動力を用いるエンジンスプレイヤと、手動ポンプを用いるハンドスプレイヤの双方が含まれる。
【0036】
アスファルト乳剤の散布量に特段の制限はないが、例えば、1m当たり0.1~1リットル、より好ましくは1m当たり0.2~0.8リットル、さらに好ましくは1m当たり0.2~0.6リットル、よりさらに好ましくは1m当たり0.3~0.5リットルであり得る。
【0037】
<工程(2):アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を施工面に散布する工程>
施工面にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を散布し、上記工程(1)において施工面に散布されるアスファルト乳剤に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸と接触させる工程である。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物と脂肪酸及び/又は樹脂酸とが接触すると、両者はけん化反応により固化し、これに伴い施工面に散布されたアスファルト乳剤の固化が促進され、もって、アスファルト被膜のべたつきが抑制されるものと考えられる。
【0038】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物は、脂肪酸及び/又は樹脂酸とけん化反応し得るものである限りにおいてどのようなものであっても良いが、例えば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩化物塩、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水酸化物塩、硝酸塩、及び酸化物であり得る。アルカリ金属及びアルカリ土類金属の種類に特段の制限はないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムであり得、タックコートのべたつきの抑制という観点からは、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムであることが好ましく、マグネシウム及び/又はカルシウムであることがより好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。本発明の一側面に係るタックコートまたはプライムコートの構築方法に用いられ得るアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物のより具体的な例を示すのであれば、例えば、消石灰(水酸化カルシウム)、生石灰(酸化カルシウム)、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0039】
脂肪酸及び/又は樹脂酸とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物とのけん化反応は、アルカリ性の水溶液中において、より速やかに進行する。したがって、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する上記水溶液は、アルカリ性の水溶液であることが好ましい。ここでアルカリ性の水溶液とはpHが7.0を超える水溶液を意味するが、好適には、pHが7.5以上、より好適にはpHが8.0以上の水溶液が用いられ得る。なお、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を水に溶解すると、多くの場合、その水溶液はアルカリ性であるので、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を水に溶解することで、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有するアルカリ性の水溶液を調製することができる。例えば、カルシウムの塩化物である塩化カルシウムの水溶液は、一般に、pH8~11程度のアルカリ性であることが知られている。
【0040】
一方、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液は、さらに塩基性のpH調整剤を含んでいても良い。塩基性のpH調整剤は、水溶液のpHをアルカリ性にできるものである限りにおいてどのようなものであっても良く、無機物であっても、有機物であっても良い。
【0041】
また、同様の理由により、上記工程(2)においては、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する前記水溶液は、アスファルト乳剤の中和当量以上散布されることが好ましく、好ましくは中和当量の1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上、よりさらに好ましくは2.0以上散布されることが好ましい。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する前記水溶液をアスファルト乳剤の中和当量以上散布することにより、両者が接触した後の混合物のpHがアルカリ性となる。これにより、より速やかに且つ効果的にべたつき抑制効果が得られ得る。なお、アスファルト乳剤の中和当量に相当する上記水溶液の量は、当業者であれば、適宜の手法を用いて決定することができる。例えば、アスファルト乳剤と上記水溶液の組成に基づき化学量論的に計算しても良いし、アスファルト乳剤を用いて中和滴定を行っても良い。
【0042】
また、アスファルト乳剤中に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物とのけん化反応は、脂肪酸及び/又は樹脂酸に含まれるカルボキシル基とアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物から生成するアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンとの中和反応が関与している。したがって、上記工程(1)及び(2)においては、上記アスファルト乳剤と上記水溶液を、アスファルト乳剤中に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸の価数をA、モル数をmol、上記水溶液中に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物から生じるアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの価数をB、モル数をmolとしたとき、(B×mol)/(A×mol)の値が1.0以上となるように散布することが好ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上、よりさらに好ましくは2.5以上となるように散布することが好ましい。なお、ここで脂肪酸及び/又は樹脂酸の価数という場合、脂肪酸及び/又は樹脂酸の1分子当たりに含まれるカルボキシル基の個数を意味する。
【0043】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を施工面に散布する具体的な方法に特段の制限はないが、例えば、ディストリビュータやスプレイヤを用いて行うことができる。ディストリビュータやスプレイヤについては既に説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0044】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液の散布量に特段の制限はないが、例えば、1m当たり0.01~0.5リットル、より好ましくは1m当たり0.01~0.5リットル、さらに好ましくは1m当たり0.01~0.3リットル、よりさらに好ましくは1m当たり0.01~0.1リットルであり得る。
【0045】
上記工程(2)は上記工程(1)の後に行っても良いし、上記工程(1)と同時に行っても良い。上記工程(2)と上記工程(1)を同時に行う場合には、施工時間が短縮されるので大変便利であるし、アスファルト乳剤を散布した施工面上を改めて施工機械が通過して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を散布する必要がなくなるので、アスファルト被膜が剥離するリスクを低減することができるという利点もある。なお、上記工程(2)を上記工程(1)と同時に行う場合には、アスファルト乳剤の散布と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液の散布を、同じ施工機械(例えば、ディストリビュータ又はスプレヤ)を用いて行っても良いことは言うまでもない。
【0046】
上記工程(1)及び上記工程(2)により、施工面にはべたつきが抑制されたタックコート又はプライムコートが構築される。当該タックコート又はプライムコートはべたつきが抑制されているものの、その上に高温の加熱アスファルト混合物が舗設されると、この熱により軟化して、これにより施工面と上層とを接着し得る。これにより、本発明の一側面に係るタックコート又はプライムコートの構築方法により構築されたタックコート又はプライムコートを含む舗装体は、優れた安定性を発揮し得る。
【0047】
なお、ある一態様において、本発明の一側面に係るタックコート又はプライムコートの構築方法に用いられる脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有する上記アスファルト乳剤をプライムコートとして粒状路盤又は瀝青安定処理路盤を除く安定処理路盤に適用する場合には、上記工程(2)は省略してもよい。後述する実験例に示されるとおり、本発明の一側面に係るタックコート又はプライムコートの構築方法に用いられる脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤は優れた浸透性を示すので、上記工程(2)により、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を散布しなくても、べたつきが抑制されたプライムコートが得られ得る。
【0048】
<タックコート用又はプライムコート用の材料>
一方、本発明の一側面に係るタックコート用又はプライムコート用の材料は、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を含む第1の剤と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液を含む第2の剤とを含む2剤型の材料である。第1の剤に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤、及び、第2の剤に含まれるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物を含有する水溶液については、タックコート又はプライムコートの構築方法についての説明において既に述べたとおりであるので簡潔のため説明を省略する。
【0049】
以下、実験例に基づき本発明をより詳細に説明する。なお、これらの実験例は、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0050】
<実験例1:耐べたつき性の評価>
アスファルト混合物層の表面にトール油脂肪酸を含むアスファルト乳剤と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物として塩化カルシウムを含む水溶液を散布し、構築されたタックコートの耐べたつき性を評価した。
【0051】
具体的には、蒸発残留分に0質量%、5質量%、10質量%、15質量%又は20質量%のトール油脂肪酸(組成:オレイン酸50%、リノール酸40%、アビエチン酸10%)を含む浸透用カチオン性アスファルト乳剤(蒸発残留分50%)を密粒度アスファルト混合物(13)で作製された下地供試体に0.4L/mの散布量で散布し、その後直ちに、塩化カルシウム二水和物を50質量%含む水溶液を、散布されたトール油脂肪酸と塩化カルシウム二水和物の質量比が1:0.78となるように散布した。ここで、トール油脂肪酸に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸の平均分子量は約285、塩化カルシウム二水和物の分子量は約147であるので、散布されたトール油脂肪酸と塩化カルシウム二水和物の比率は、モル比で1:1.5に相当する。また、トール油脂肪酸に含まれる脂肪酸(オレイン酸、リノール酸)及び樹脂酸(アビエチン酸)はいずれも一価のカルボン酸であり、塩化カルシウム二水和物から生じるカルシウムイオンは二価の金属イオンであるので、散布された前記アスファルト乳剤に含まれる脂肪酸及び/又は樹脂酸の価数をA、モル数をmol、散布された前記水溶液中に含まれる塩化カルシウム二水和物から生じるカルシウムイオンの価数をB、モル数をmolとすると、(B×mol)/(A×mol)の値は約3.0である。以上の散布量で、塩化カルシウムを含む水溶液を散布した後、直ちに70℃の試験室内に供試体を移し、6時間以上養生した。その後、当該供試体をホイールトラッキング試験機に設置して、表-1に示す条件で試験を行った。試験は、猛暑期のべたつき性を評価するため、70℃の条件で行った。また、載荷荷重及びその載荷時間はアスファルトフィニッシャを想定した条件とした。具体的には、アスファルトフィニッシャ荷重相当である1.04MPaを10分間載荷し、試験輪に付着したアスファルト被膜の面積率(%)(以下、「試験輪へのアスファルト被膜の付着率」ということもある。)を目視にて評価した。試験条件を表1に、試験結果を図1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
図1に示すとおり、アスファルト乳剤の蒸発残留分におけるトール油脂肪酸の含有量が0%である場合には、アスファルトフィニッシャ荷重相当の荷重(1.04MPa)を10分間載荷したときの試験輪へのアスファルト被膜の付着率は100%であり、試験輪の全面にアスファルト被膜の付着が見られた。この結果は、トール油脂肪酸を含有しないアスファルト乳剤から形成されるコーティング層は顕著なべたつき性を有することを示している。これに対して、トール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤から形成されるコーティング層については、トール油脂肪酸の含有量が増加するに従って、試験輪へのアスファルト被膜の付着率が顕著に低下した。トール油脂肪酸の含有量が蒸発残留あたり5質量%の場合には、試験輪へのアスファルト被膜の付着が顕著に見られるものの、トール油脂肪酸の含有量が蒸発残留分あたり10質量%の場合には試験輪へのアスファルト被膜の付着率がわずか13%まで低下し、トール油脂肪酸の含有量が蒸発残留分あたり15質量%以上の場合には、試験輪へのアスファルト被膜の付着は観察されなかった(付着率:0%)。以上の結果から、耐べたつき性という観点からは、アスファルト乳剤中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は、アスファルト乳剤の蒸発残留分の5質量%超であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは10質量%超、よりさらに好ましくは15質量%以上であると判断される。
【0054】
<実験例2:市販のタックコート用アスファルト乳剤との耐べたつき性の比較>
次に、トール油脂肪酸を含むアスファルト乳剤と、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩及び/又は酸化物として塩化カルシウムを含む水溶液を散布して構築されたタックコートの耐べたつき性を、市販のタックコート用アスファルト乳剤を用いて構築されたタックコートを比較対象として評価した。具体的には、トール油脂肪酸の配合量を蒸発残留分あたり15質量%に固定し、養生温度及び試験温度を20℃、30℃、40℃、45℃、50℃、60℃、及び70℃としたこと以外は、実験例1に示したのと同様の手順にて、供試体を作製し、供試体のべたつき性を評価した。また、比較対象として、トール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤に代えて、市販のタイヤ付着抑制型のタックコート用アスファルト乳剤であるPKM-T(製品名「ファームゾール」、ニチレキ株式会社製)を用いて構築したタックコートを有する供試体を用いた以外は、以上に示したのと同様の手順にて、PKM-Tを用いて構築したタックコートを有する供試体のべたつき性を評価した。試験条件を表2に、試験結果を図2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
図2に示すとおり、市販のタイヤ付着抑制型のタックコート用アスファルト乳剤であるPKM-Tを用いて形成されたタックコートを有する供試体に、アスファルトフィニッシャ相当の荷重である1.04MPaを載荷した場合、比較的低温の20℃~40℃の試験温度においては、試験輪へのアスファルト被膜の付着は観察されなかった。しかしながら、試験温度が45℃に達すると、試験輪へのアスファルト被膜の付着が顕著に確認され、付着率は50%であった。そして、試験温度が50℃まで高まると試験輪へのアスファルト被膜の付着率は100%となり、試験輪の全面にアスファルト被膜の付着が見られ、60℃、70℃でも同様であった。この結果は、市販のタイヤ付着抑制型のタックコート用アスファルト乳剤であるPKM-Tを用いた場合であっても、45℃を超える高温時においてはべたつき性が現れ、アスファルトフィニッシャ相当の荷重である1.04MPaを載荷した場合には、試験輪へのアスファルト被膜の付着が避けがたいことを示している。これに対して、蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体にアスファルトフィニッシャ相当の荷重である1.04MPaを載荷した場合においては、試験温度が70℃まで高まっても試験輪へのアスファルト被膜の付着は観察されなかった。以上の結果は、脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤によれば、高温時においてPKM-Tを遥かに上回る耐べたつき性を示すタックコートが得られることを示している。
【0057】
<実験例3:成膜性の評価>
次にタックコートの成膜性を評価した。具体的には、蒸発残留分に0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、又は50質量%のトール油脂肪酸(組成:オレイン酸50%、リノール酸40%、アビエチン酸10%)を含む浸透用カチオン性アスファルト乳剤(蒸発残留分50%)を密粒度アスファルト混合物(13)から作製された下地供試体に環境温度20℃の条件で0.4L/mの散布量で散布し、その後直ちに、塩化カルシウム二水和物を50質量%含む水溶液を、散布されたトール油脂肪酸と塩化カルシウム二水和物の質量比が1:0.78となるように散布した。塩化カルシウム二水和物を含む水溶液の散布から1時間が経過した後、タックコートの成膜性を評価した。成膜性の評価は目視にて行い、供試体の全面にアスファルト被膜の形成が確認されたものを「〇」、アスファルト被膜の形成が確認されなかったものを「×」と評価した。試験条件を表3に、試験結果を表4に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示すとおり、アスファルト乳剤の蒸発残留分中のトール油脂肪酸の含有量が40質量%以上となると、タックコートの成膜性が若干損なわれる結果となった(表4において成膜性「×」)。一方、トール油脂肪酸の含有量が蒸発残留分あたり0質量%~30質量%のアスファルト乳剤は優れた成膜性を示し、トール油脂肪酸の含有量が蒸発残留分あたり0質量%~20質量%のアスファルト乳剤は特に優れた成膜性を示した(表4において成膜性「〇」)。以上の結果から、タックコートの成膜性という観点からは、アスファルト乳剤中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は、アスファルト乳剤の蒸発残留分の40質量%未満であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下であると判断される。
【0061】
<実験例4:タックコートのせん断接着強度の評価>
平成31年版 舗装調査・試験法便覧(公益社団法人 日本道路協会)「C008 コンクリート床版防水層と舗装間のせん断試験方法」に準拠し、タックコートのせん断接着強度を評価した。
【0062】
具体的には、蒸発残留分に0質量%、10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、又は50質量%のトール油脂肪酸(組成:オレイン酸50%、リノール酸40%、アビエチン酸10%)を含む浸透用カチオン性アスファルト乳剤(蒸発残留分50%)を密粒度アスファルト混合物(13)から作製された下地供試体に0.4L/mの散布量で散布し、その後直ちに塩化カルシウム二水和物を50質量%含む水溶液を、散布されたトール油脂肪酸と塩化カルシウム二水和物の質量比が1:0.78となるように散布した。塩化カルシウム二水和物を含む水溶液の散布から1時間が経過した後、下地供試体の上に密粒度アスファルト混合物(13)から作製された上地供試体を舗設し、24時間後に10cm×10cmにカッティングを行い、せん断試験用の供試体を得た。得られた供試体のせん断接着強度は万能材料試験機(Instron)を用いて、せん断速度1mm/分の条件で測定した。せん断接着強度の測定とともに、供試体の破壊形態を目視で評価した。試験条件を表5に、試験結果を図3に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
図2に示すとおり、トール油脂肪酸の含有量が0%であるアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体のせん断接着強度は0.52MPaであり、その破壊形態は界面破壊であった。この結果は、タックコート層が剥離又は破壊することにより供試体が破壊したことを示している。これに対して、蒸発残留分あたり10質量%又は20質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体のせん断接着強度は、それぞれ1.11MPa及び1.02MPaであり、驚くべきことに、トール油脂肪酸を使用しない場合と比較して、せん断接着強度が2倍以上増加した。また、蒸発残留分あたり10質量%又は20質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体の破壊形態は凝集破壊であり、タックコートが剥離する前に、上層又は下層のアスファルト混合物層の破壊が観察された。この結果は、蒸発残留分あたり10質量%~20質量%の脂肪酸及び/又は樹脂酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートはアスファルト混合物層の層間接着力を上回る非常に強い層間接着力を有することを示している。
【0065】
一方、蒸発残留分あたり30質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体において、そのせん断接着強度は0.58MPaであり、トール油脂肪酸を含有しないアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体と同程度のせん断接着強度を示すにとどまった。アスファルト乳剤中のトール油脂肪酸の含有量をさらに増加させたところ、蒸発残留分あたり40質量%又は50質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体のせん断接着強度は、それぞれ0.35MPa及び0.28MPaであり、そのせん断接着強度は、トール油脂肪酸を含有しないアスファルト乳剤を用いて形成されたタックコートを有する供試体のせん断接着強度を下回った。
【0066】
以上の結果から、層間接着性という観点からは、アスファルト乳剤中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は、アスファルト乳剤の蒸発残留分の30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上20質量%以下であると判断される。
【0067】
<実験例5:浸透性の評価>
日本アスファルト乳剤協会規格 平成23年2月1日改訂(一般社団法人日本アスファルト乳剤協会)の「6.7 浸透性試験方法」に準拠した試験方法で、トール油脂肪酸を含むアスファルト乳剤の浸透性を評価した。
【0068】
具体的には、まず、標準砂(山口県下関市豊浦町産の標準砂;含水比5%)1000gをマーシャルモールド(内径101.6mmの円筒形モールド)に詰め、その片面を50回ランマ―で突き固め、供試体を作製した。作成した供試体の表面に、散布量が16.2gとなるよう噴霧器を用いて試料を速やかに噴霧した。噴霧終了から試料が標準砂に浸透し、表面の試料がなくなるまでの時間を計測し、浸透時間とした。また、試料が浸透した深さを計測し、浸透深さとした。なお、試験温度は23℃とした。
【0069】
被験試料としては、蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸(組成:オレイン酸50%、リノール酸40%、アビエチン酸10%)を含有する浸透用カチオン性アスファルト乳剤(蒸発残留分50%)、及び、比較対照として、プライムコートに用いられる標準的なアスファルト乳剤(PK-3)(商品名:カチオゾールCPE-3、ニチレキ株式会社製)及び高浸透性アスファルト乳剤(PK-P)(商品名:ペネコートE、ニチレキ株式会社製)を用いた。試験結果を図4に示す。
【0070】
図4に示されるとおり、プライムコートに用いられる標準的なアスファルト乳剤(PK-3)の浸透時間は638秒、浸透深さは3mmであるのに対して、蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤(図4において「実施例」)の浸透時間は僅か2秒、浸透深さは19mmであり、PK-3と比較して遥かに優れた浸透性を示した。しかも、蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤の浸透性は、従来用いられてきた高浸透性アスファルト乳剤(PK-P)の浸透時間(8秒)及び浸透深さ(12mm)と比較しても優れるものであった。この結果は、蒸発残留分あたり15質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤は、高浸透性アスファルト乳剤としてプライムコートに非常に好適に用いられ得ることを示している。また、この結果から、プライムコートとして用いられる場合の浸透性という観点からは、アスファルト乳剤中の脂肪酸及び/又は樹脂酸の含有量は、アスファルト乳剤の蒸発残留分の10質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましく、14質量%以上であることがよりさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましいと判断される。
【0071】
<実験例6:路上再生路盤とアスファルト混合物の接着性評価>
トール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤による路上再生路盤とアスファルト混合物との接着力を、平成31年版 舗装調査・試験法便覧(公益社団法人 日本道路協会)「C008 コンクリート床版防水層と舗装間のせん断試験方法」に準拠して評価した。
【0072】
具体的には、砕石に対し、セメント2.5質量%、アスファルト乳剤5%を混合し、7日間以上養生して調製されたセメント・アスファルト乳剤安定処理(CAE)混合物から作製された下地供試体を用い、該下地供試体に、蒸発残留分に16質量%のトール油脂肪酸(組成:オレイン酸50%、リノール酸40%、アビエチン酸10%)を含む浸透用カチオン性アスファルト乳剤(蒸発残留分50%)を0.4、0.6、0.8、1.0、又は1.2kg/mの散布量で散布し、その後直ちに塩化カルシウム二水和物を50質量%含む水溶液を、散布されたトール油脂肪酸と塩化カルシウム二水和物の質量比が1:0.78となるように散布した。塩化カルシウム二水和物を含む水溶液の散布から1時間が経過した後、下地供試体の上に密粒度アスファルト混合物(13)から作製された上地供試体を舗設し、24時間後に10cm×10cmにカッティングを行い、せん断試験用の供試体を得た。また、比較対照として、蒸発残留分に16質量%のトール油脂肪酸(組成:オレイン酸50%、リノール酸40%、アビエチン酸10%)を含む浸透用カチオン性アスファルト乳剤(蒸発残留分50%)の代わりにプライムコートに用いられる標準的なアスファルト乳剤(PK-3)(商品名:カチオゾールCPE-3、ニチレキ株式会社製)を用い、塩化カルシウム二水和物を50質量%含む水溶液を散布しない以外は上記と同様の手順にて、せん断試験用の供試体を得た。得られた供試体のせん断接着強度は万能材料試験機(Instron)を用いて、せん断速度1mm/分の条件で測定した。せん断接着強度の測定とともに、供試体の破壊形態を目視で評価した。試験条件を表6に、試験結果を図5に示す。
【0073】
【表6】
【0074】
図5に示されるとおり、プライムコートに用いられる標準的なアスファルト乳剤(PK-3)を用いて作製された供試体のせん断接着強度は0.2~0.3MPaであったのに対し、蒸発残留分あたり16質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤を用いて作製された供試体(図5において「実施例」)のせん断接着強度は0.5~0.6MPaに達し、PK-3と比較して遥かに優れたせん断接着強度を示した。この結果は、蒸発残留分あたり16質量%のトール油脂肪酸を含有するアスファルト乳剤は、路上再生路盤層とアスファルト混合物層との接着性に優れることを示しており、路上再生路盤に散布されるアスファルト乳剤として好適に用いられ得ることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したとおり、本発明によれば、べたつきが抑制されたタックコート又はプライムコートを速やかに構築することができ、タックコート又はプライムコートの剥離を顕著に軽減することができる。これにより施工面とその上に舗設されるアスファルト混合物層との接着性が損なわれないばかりか、アスファルト被膜が車輪に付着した施工機械が走行することによる周辺道路の汚染を軽減することができる。得られる舗装体の安定性及び作業者の負担軽減の双方に資する本発明の産業上の利用可能性は大きい。
図1
図2
図3
図4
図5