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  • 特開-眼鏡フレーム及びその製造方法 図1
  • 特開-眼鏡フレーム及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084150
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】眼鏡フレーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/18 20060101AFI20240617BHJP
   G02C 5/00 20060101ALI20240617BHJP
   C08L 1/12 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
B29C45/18
G02C5/00
C08L1/12
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209726
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2022198269
(32)【優先日】2022-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599109847
【氏名又は名称】有限会社 内田プラスチック
(74)【代理人】
【識別番号】100149560
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】内田 栄時
【テーマコード(参考)】
2H006
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
2H006AA03
4F206AA01
4F206AH80
4F206JA07
4F206JF01
4F206JF11
4F206JL02
4F206JQ90
4J002AB012
4J002AB021
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】酢酸セルロース中にナノセルロースを極めて均一に分散させることによって物理的物性を大幅に向上させ、高い強度と靭性及び弾力性を備えた酢酸セルロース製の眼鏡フレームを提供する。
【解決手段】眼鏡フレーム10は、フロント部11、一対のサイド部16A、16B、及びこれらのフロント部11とサイド部16A、16Bとを開閉可能に接合する蝶番(ヒンジ)20で構成されている。眼鏡フレーム10は、これらの部材の少なくとも一部が酢酸セルロースとナノセルロースとを含む素材からなり、両者を2段階で混合することによってナノセルロースが酢酸セルロース中に均一に分散している。酢酸セルロースに対するナノセルロースの配合量は、酢酸セルロースに対する重量比で0.1重量%から20重量%までの範囲内である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡フレームの一部又は全部が酢酸セルロース中にナノセルロースが分散した素材からなる眼鏡フレームの製造方法であって、
前記酢酸セルロースに前記ナノセルロースを混合する第一の混合工程と、
該第一の混合工程で得られた第一の混合物に、さらに追加の酢酸セルロースを混合する第二の混合工程と、
該第二の混合工程で得られた第二混合物を成形して眼鏡フレームの一部又は全部を成形する成形工程と、
を有することを特徴とする眼鏡フレームの製造方法。
【請求項2】
前記第一の混合工程は、前記酢酸セルロースに前記ナノセルロースの溶液を加えて攪拌する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載された眼鏡フレームの製造方法。
【請求項3】
前記第二の混合工程は、前記第一の混合物と前記追加の酢酸セルロースとを射出成型機又は押出成形機のホッパーに直接投入することにより実施されることを特徴とする、請求項1に記載された眼鏡フレームの製造方法。
【請求項4】
眼鏡フレームの一部又は全部が酢酸セルロース中にナノセルロースが分散した素材からなる眼鏡フレームであって、
前記素材の製造工程は、前記酢酸セルロースに前記ナノセルロースを混合する第一の混合工程と、該第一の混合工程で得られた第一の混合物にさらに酢酸セルロースを混合する第二の混合工程とを有することを特徴とする、眼鏡フレーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノセルロースで強化された酢酸セルロース製の眼鏡フレーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡、サングラス、老眼鏡等に用いられる眼鏡フレームは、プラスチック製と金属製に大別される。本明細書においては、「プラスチック」を「合成樹脂」又は単に「樹脂」ともいう。プラスチック製フレームにはセルロイド製と、いわゆる「アセテート」製がある。
【0003】
セルロイド(celluloid)は、ニトロセルロース(硝化綿)と可塑剤となる樟脳を主原料とする合成樹脂である。ニトロセルロースは、炭水化物(多糖類)であるセルロース(celluloid)を硝酸で処理することによって生成する。これに対して、「アセテート」は酢酸セルロース(アセチルセルロース)であり、やはりセルロースを主原料とする合成樹脂である。これらの合成樹脂を素材として用いたプラスチック製フレームの製造に用いられる主な方法として、射出成形法と、削り出し成形法がある。
【0004】
射出成形法は、金型の中に溶けた樹脂を流し込み、冷やして固化させてから取り出す生産方法で、主として安価な大量生産に向いている。削り出し成形法は、樹脂の板の塊をドリルなどで決められた形状に削り出して形を作る生産方法で、高級眼鏡等に使用されている。現在では、セルロイド製フレームの用途は高級眼鏡用に限定され、一般的なプラスチック製眼鏡フレームの素材としては、主にアセテート、すなわち酢酸セルロース(アセチルセルロース)が使用されている。
【0005】
この酢酸セルロース製フレームの眼鏡、サングラス、老眼鏡等の問題点として、フレームに曲げ力が加わると、酢酸セルロースが柔らかいために形状維持の安定性が悪く、フレームが変形してしまう。また、より大きな力を入れて曲げるとフレームが折れてしまう恐れもある。このような事態を防ぐために、酢酸セルロースに添加物を混入させて強化し、剛性と弾性を向上させるための技術が開発されている。このような技術開発を進める中で、本発明者は、酢酸セルロースを強化させる添加物として、ナノセルロースが有効であることを知見した。
【0006】
ナノセルロース(Nanocellulose)は、セルロースをナノメートル(nm)レベルまで微細に解きほぐしたものであり、長さ及び太さがナノメートルレベルの、微細な繊維状物質である。ナノセルロースには、セルロースナノクリスタル(CNC)、セルロースナノファイバー(CNF)等がある。本発明者は、ナノセルロースを合成樹脂に混ぜると曲げ弾性や耐熱温度が向上することを見出した。具体的には、合成樹脂としての酢酸セルロースにナノセルロースを添加すると、曲げ弾性が大きくなり、耐熱温度が高くなることが分かった。
【0007】
酢酸セルロース中にナノセルロースを均等に添加し配合したものは、曲げても変形せずにバネのように固く跳ねて元の形状に戻る。また、大きく曲げても折れにくいという特徴を有する。これにより、強度が高く安全で、薄く軽量な眼鏡、サングラス、老眼鏡等を製造することが可能になる。酢酸セルロース製の眼鏡フレームに関する従来技術として、添加物によって抗菌性や強度を向上させた眼鏡フレームについての技術がある(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05-053084号公報
【特許文献2】特開2020-059850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらの先行文献には、酢酸セルロース中にナノセルロースを添加して高強度にするための具体的で詳細な技術内容は記載されていない。上述したナノセルロースの添加による効果は、酢酸セルロース中にナノセルロースを非常に均一に分散させた状態にしないと表れず、ナノセルロースが樹脂中でまだらになった状態では強度が向上しない。ナノセルロースは上述の如く微細な繊維状物質であり、酢酸セルロース中に均質に分散させるのは容易でない。このため、ナノセルロースによる強度向上の効果が顕著に表れた酢酸セルロース製の眼鏡フレームは、実際には得られていないのが現状であった。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、酢酸セルロース中にナノセルロースを極めて均一に分散させることによって物理的物性を大幅に向上させ、高い強度と靭性及び弾力性を備えた酢酸セルロース製の眼鏡フレームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の第一の観点に係る眼鏡フレームの製造方法は、
眼鏡フレームの一部又は全部が酢酸セルロース中にナノセルロースが分散した素材からなる眼鏡フレームの製造方法であって、
前記酢酸セルロースに前記ナノセルロースを混合する第一の混合工程と、
該第一の混合工程で得られた第一の混合物に、さらに酢酸セルロースを混合する第二の混合工程と、
該第二の混合工程で得られた第二混合物を成形して眼鏡フレームの一部又は全部を成形する成形工程と、
を有することを特徴とする。
【0012】
前記第一の混合工程は、前記酢酸セルロースに前記ナノセルロースの溶液を加えて攪拌する工程であることが好ましい。
【0013】
前記第二の混合工程は、前記第一の混合物と前記酢酸セルロースとを射出成型機又は押出成形機のホッパーに直接投入することにより実施されることが好ましい。
【0014】
また、上記の目的を達成するために、本発明の第二の観点に係る眼鏡フレームは、眼鏡フレームの一部又は全部が酢酸セルロース中にナノセルロースが分散した素材からなる眼鏡フレームであって、
前記素材の製造工程は、前記酢酸セルロースに前記ナノセルロースを混合する第一の混合工程と、該第一の混合工程で得られた第一の混合物にさらに酢酸セルロースを混合する第二の混合工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る眼鏡フレームは、酢酸セルロース中にナノセルロースを極めて均一に分散させることによって物理的物性を大幅に向上させた酢酸セルロースの素材で構成されている。これによって、曲げ弾性や折れ強度が飛躍的に向上し、かつ高強度で薄型軽量である眼鏡フレームを得ることができる。このようにナノセルロースを極めて均一に分散させるためには、酢酸セルロースとナノセルロースを混合する工程を二段階に分けて行う必要がある。
【0016】
すなわち、酢酸セルロース中にナノセルロースが所定の重量比で分散した素材の製造においては、最初から酢酸セルロースの全量をナノセルロースと混合せず、まず酢酸セルロースの一部をナノセルロースと混合する。この第一の混合工程でナノセルロースと混合する酢酸セルロースの量は、眼鏡フレーム用素材における酢酸セルロースの全量に対して、1重量%から80重量%の範囲内であることが好ましく、5重量%から50重量%の範囲内であることがより好ましく、10重量%から30重量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0017】
また、眼鏡フレームの製造方法は、酢酸セルロースとナノセルロースを熱や摩擦で溶融状態にした後で分散するまで十分に練り、型に流し込んで冷やして形を取り出すことを特徴とする方法であってもよい。さらに、眼鏡フレームの製造方法は、酢酸セルロースとナノセルロース原料を、熱で気化する溶剤アセトンに溶かして分散するまで十分に練り、熱雰囲気中で溶剤を気化させて固めることを特徴とする方法であってもよい。
【0018】
また、眼鏡フレームの製造方法は、酢酸セルロースとナノセルロースを溶剤に溶かして分散するまで十分に練り、凝固液中に押し出して、溶剤を除去し、凝固させることで固めることを特徴とする眼鏡フレームの製造方法であってもよい。
【0019】
また、眼鏡フレームは、少なくとも一部が酢酸セルロースとナノセルロースとを含む素材からなり、
前記ナノセルロースは前記酢酸セルロース中に分散しており、
前記酢酸セルロースに対する前記ナノセルロースの配合量は、前記酢酸セルロースに対する重量比で0.1重量%から20重量%までの範囲内であることを特徴とする眼鏡フレームであってもよい。
【0020】
ここで、上記の眼鏡フレームは、眼鏡フレームを構成する各部品を組み立てて作製されるものであり、各部品の全てが酢酸セルロースとナノセルロースとを含む素材からなることが好ましい。ナノセルロースは酢酸セルロース中に分散しており、酢酸セルロースに対するナノセルロースの配合量は、酢酸セルロースに対する重量比で0.1重量%から20重量%までの範囲内であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施の形態に係る眼鏡フレームの構造を示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係る眼鏡フレームの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る眼鏡フレーム及びその製造方法を実施するための形態(本明細書では、単に「本実施の形態」と略称する)について、以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
まず、本実施の形態に係る眼鏡フレームの構造について、図1を参照して説明する。図1は本実施の形態に係る眼鏡フレームの構造を示す斜視図である。
【0024】
図1に示されるように、本実施の形態に係る眼鏡フレーム10は、フロント部11、一対のサイド部16A、16B、及びこれらのフロント部11とサイド部16A、16Bとを開閉可能に接合する蝶番(ヒンジ)20で構成されている。フロント部11は、フロントフレーム12と、フロントフレーム12の両端に設けられる智(よろい)15を備えている。サイド部16A、16Bは、テンプル17A、17B及びモダン18A、18Bから構成されている。
【0025】
フロントフレーム12は、左右のレンズ枠部12a、それらを連結するブリッジ部13、及び左右の鼻パッド部14を有している。一般の眼鏡フレームにおいては、これらのレンズ枠部12a、ブリッジ部13、鼻パッド部14がそれぞれ別個の部品として作製され、接着やネジ止め等によって結合されてフロントフレーム13を形成している。これに対し、本実施の形態に係る眼鏡フレーム10においては、これらの各部を備えたフロントフレーム12が一体に形成されている。
【0026】
眼鏡フレームの主要な素材には、酢酸セルロース(アセチルセルロース)が用いられる。酢酸セルロースとしては、分子量が10,000から160,000 の範囲内、重合度が50から450の範囲内であるものを用いるのが好ましい。
【0027】
酢酸セルロースに添加して分散させるナノセルロースは、そのサイズ、すなわち長さ及び太さがナノメートル(nm)レベルの微細な繊維状物質である。ナノセルロースの長さとしては5nmから10,000nm、太さは1nmから100nmの範囲内であることが好ましい。ナノセルロースの長さは10nmから1,000nmの範囲内、太さは10nmから50nmの範囲内であることがより好ましく、長さが50nmから500nmの範囲内、太さは10nmから50nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0028】
酢酸セルロースに添加するナノセルロースの配合量は、酢酸セルロースに対する重量比で0.5重量%から20重量%までの範囲内であることが好ましい。ナノセルロースの配合量が酢酸セルロースに対する重量比で0.5重量%未満であると、酢酸セルロースの物理的物性を向上させる効果を十分に得ることができない。一方、ナノセルロースの配合量が重量比で20重量%を超えると、配合された全てのナノセルロースを酢酸セルロース中に十分に均一に分散させることが困難になる。
【0029】
さらに、ナノセルロースの配合量は、酢酸セルロースに対する重量比で1重量%から3重量%までの範囲内であることが、より好ましい。ナノセルロースの配合量を酢酸セルロースに対する重量比で1重量%以上とすることにより、酢酸セルロースの強度、靭性及び弾力性を向上させる効果を十分に得ることができる。また、ナノセルロースの配合量を3重量%以下とすることにより、ナノセルロースを酢酸セルロース中に十分に均一に分散させることが容易になる。
【0030】
ナノセルロースを配合した酢酸セルロースを溶かす温度は、140℃から230℃までの範囲が最適である。230℃を超えると、セルロースの分解が始まるため、強度を向上させる効果を十分に得ることができない。また、射出成形機や押出成形機の金型温度は、40℃から120℃までの範囲が最適である。これ以下の温度では、母材の酢酸セルロースが硬くなり、成形ができない。さらに、製造される商品の厚みは、眼鏡フレームとしての用途を考慮すると、0.2mmから20mmまでの範囲であることが好適である。
【0031】
次に、本実施の形態に係る眼鏡フレームの製造方法について、図2を参照して説明する。図2は、本実施の形態に係る眼鏡フレームの製造方法を示すフローチャートである。
【0032】
図2に示されるように、眼鏡フレームの製造が開始されると(ステップS10)、まず所定の濃度になるようにナノセルロースを液体(溶媒)に溶かす工程が実施される(ステップS11)。次に、このナノセルロース溶液が微粉末状の酢酸セルロースに添加され、混練される。得られた混練物を乾燥した後、加熱して溶かしながら攪拌するスクリューを用いて溶融混練を行い、高濃度のナノセルロースと酢酸セルロースが均質に混ざった米粒状のペレットを作製する(ステップS12)。
【0033】
この高濃度ナノセルロースペレットと通常の酢酸セルロースとをさらに溶融混練して、所定量のナノセルロースが配合された眼鏡フレーム用ペレットが作製される(ステップS13)。作製された眼鏡フレーム用ペレットを射出成形機に供給して、所定のキャビティ形状を有する金型を用いて射出成形することによって、眼鏡フレームの各部品が製造される(ステップS14)。
【0034】
また、他の製造工程として、ステップS13で作製された眼鏡フレーム用ペレットを押出成形機で押出成形して、あるいは、型枠の中でブロック状に凝固させて、板状のブロック又はシートが作製される(ステップS15)。この板状のブロック又はシートを切削加工して所定の形状とすることによって、眼鏡フレームの各部品が製造される(ステップS16)。そして、これらの両方の工程で得られた眼鏡フレームの各部品が組み立てられることによって(ステップS17)、眼鏡フレーム製品となる(ステップS20)。このようにして、本実施の形態に係る眼鏡フレームの製造が行われる。
【0035】
図2のフローチャートでは、眼鏡フレームを構成する全ての部材をナノセルロースが配合された酢酸セルロース材料で形成する場合について説明している。本実施の形態に係る眼鏡フレームはこれに限られるものではなく、眼鏡フレームを構成する部材の一部のみをナノセルロースが配合された酢酸セルロース材料で形成してもよい。例えば、特に優れた曲げ弾性や折れ強度が要求される部材のみをナノセルロース配合酢酸セルロース材料で作製し、他の部材は金属などで代替しても良い。
【実施例0036】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0037】
上記本実施の形態に記載した製造方法に基づいて実施例1から3までに係る眼鏡フレームを作製し、その物性値を測定して特性を評価した。また、実施例との比較のために、比較例として3種類の眼鏡フレームを作製し、同様にして物性値を測定して特性を評価した。実施例及び比較例の各物性値は下記の方法によって測定した。
【0038】
[1]曲げ弾性
眼鏡フレームの曲げ弾性を、日本工業規格JIS K 7171(ISO 178)の「曲げ試験」に規定される測定方法に従って測定し、「曲げ弾性率」を算出した。
【0039】
[2]耐熱温度
ナノセルロースを配合した酢酸セルロースの耐熱温度を、日本工業規格JIS S 2029(2002)の「プラスチック製食器類 7.4:耐熱性試験」に規定される試験方法に準じて測定した。
【0040】
[実施例1]
酢酸セルロースに、酢酸セルロースに対する重量比で1.5重量%のナノセルロースを添加した材料を用いて、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。射出成形用のペレット材料の製造には、ナノセルロースを酢酸セルロース中に均一に分散させるため、ナノセルロースに対して酢酸セルロースを2段階で混合する方法を用いた。
【0041】
まず、アセトンを溶媒として、ナノセルロースの溶液を作製した。ナノセルロースとしては、木材パルプのセルロースをバイオテクノロジーにより生化学的に分解し解繊して形成されたセルロースナノファイバー(CNF)を用いた。使用したセルロースナノファイバーの長さは50nmから500nmの範囲内であり、太さは10nmから50nmの範囲内であった。
【0042】
次に、上記のナノセルロース溶液を、溶媒の重量を除いた実測値でナノセルロース15gを含む量で、酢酸セルロースのペレット100gと混合して攪拌し、その後加熱混練機(ルーダー)に投入して180℃の温度で3分間混練した。得られた混練物を常温まで放冷して取出し、粉砕機で細かく粉砕・成形して、混合物のペレットを得た。すなわち、ルーダー加工によって、混合物のペレットを作製した。なお、混練物をペレットに成形するためには、押出成形機を用いることもできる。
【0043】
この混合物のペレット115gに、さらに酢酸セルロースのペレットを900g追加して射出成形機のホッパーに投入し、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。射出成形機の金型温度は90℃に設定した。射出成形に用いる金型には、眼鏡フレームを構成する各部品に対応したキャビティが形成されている。これらの金型のキャビティは、射出成形される眼鏡フレームの各部品の厚さが約2mmになるように形成されている。射出成形機の加熱温度(シリンダー温度)は180℃に設定し、射出圧力2,000MPaで射出成形を行った。
【0044】
こうして射出成形法によって製造した眼鏡フレーム部品を組み立てて、眼鏡フレームを作製した。このようにして得られた眼鏡フレームの曲げ弾性は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームと比較して、40%向上した。また、耐熱温度は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームについての70℃から、80℃まで向上した。
【0045】
[実施例2]
酢酸セルロースに、ナノセルロースを酢酸セルロースに対する重量比で3重量%添加した材料を用いて、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。具体的には、眼鏡フレームを成形する前の均一分散工程として、酢酸セルロースのペレット100gとナノセルロース30gを加熱混練機(ルーダー)に投入して、180℃で3分間混練した。その後、混練物を常温まで放冷して取出し、粉砕機で細かく粉砕し成形して、混合物のペレットを得た。ナノセルロースは、実施例1と同じセルロースナノファイバーを使用した。なお、混練物をペレットに成形するためには、押出成形機を用いてもよい。
【0046】
この混合物のペレット130gに、さらに酢酸セルロースのペレットを900g追加して射出成形機のホッパーに投入し、射出成形法によって眼鏡フレームを構成する各部の部品を作製した。射出成形機の金型温度は90℃に設定した。射出成形機の金型には、眼鏡フレームを構成する各部品に対応したキャビティが形成されており、射出成形される眼鏡フレームの各部品の厚さが約2mmになるように形成されている。射出成形機の加熱温度(シリンダー温度)を180℃に設定して、射出圧力2,000MPaで射出成形を行った。
【0047】
こうして射出成形法によって製造した眼鏡フレーム部品を組み立てて、眼鏡フレームを作製した。このようにして得られた眼鏡フレームの曲げ弾性は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームと比較して、80%向上した。また、耐熱温度は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームの場合の70℃から、90℃まで向上した。
【0048】
[実施例3]
酢酸セルロースに、ナノセルロースを酢酸セルロースに対する重量比で3重量%添加した材料を用いて、削り出し法によって眼鏡フレームを作製した。具体的には、眼鏡フレームを成形する前の均一分散工程として、酢酸セルロースの粉末100gとナノセルロース15gを加熱混練機(ルーダー)に投入して、180℃で3分間混練した。ナノセルロースは、実施例1と同じセルロースナノファイバーを使用した。その後、混練物を常温まで放冷して取出し、押出成形機で細かく成形して、混合物のペレットを得た。なお、混練物をペレットに成形するためには、粉砕機を用いてもよい。
【0049】
この混合物のペレット130gに、さらに酢酸セルロースのペレットを900g追加して押出成形機に投入し、押出成形によって板状のシートを作製した。押出成形機の温度は180℃に設定した。得られたシートを、切断機によって、長さ80mm、幅200mm、厚さ20mmの長方形のシート材に切削した。このシート材を、マニシングセンターを用いて所定の形状にくり抜いて、眼鏡フレームを構成する各部の部品を製造した。
【0050】
このようにして製造した眼鏡フレーム部品を組み立てて作製した眼鏡フレームの曲げ弾性は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームと比較して、80%向上した。また、耐熱温度は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームの70℃から、90℃まで向上した。
【0051】
このような物理的特性を有する本発明の実施例1から3までに係る酢酸セルロース製の眼鏡フレームと比較するために、比較例1から比較例3までの酢酸セルロース製の眼鏡フレームを作製して、その特性を評価した。
【0052】
[比較例1]
酢酸セルロースに、重量比で0.05重量%のナノセルロースを添加した材料を用いて、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。材料の製造及び射出成形体の作製の手順は、実施例1及び2と同様である。このようにして作製した眼鏡フレームの曲げ弾性は、酢酸セルロースのみのフレームと比較して、ほとんど変化がなかった。また、耐熱温度についても、酢酸セルロースのみの眼鏡フレームの70℃からの向上は認められなかった。
【0053】
この比較例1の眼鏡フレームでは、酢酸セルロースに対するナノセルロースの配合量が不足していたために、酢酸セルロースの物理的物性を向上させる効果が得られなかったと考えられる。すなわち、ナノセルロースが酢酸セルロース中に分散した材料からなる眼鏡フレームにおいて、物理的特性を向上させるためには、ナノセルロースの配合量が重量比で0.05重量%では足りないことが分かった。ナノセルロースの配合量は、少なくとも重量比で0.05重量%を超えている必要があり、0.1重量%以上であることが好ましく、さらには、1重量%以上であることがより好ましい。
【0054】
[比較例2]
酢酸セルロースに、重量比で25重量%のナノセルロースを添加した材料を用いて、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。具体的な製造の手順は、実施例1及び2と同様である。このようにして製造した眼鏡フレームの曲げ弾性は、酢酸セルロースに重量比で3重量%のナノセルロースを添加したフレームとほぼ同等であった。また、耐熱温度についても、酢酸セルロースに重量比で3重量%のナノセルロースを添加した眼鏡フレームとほぼ同等であった。すなわち、ナノセルロースの配合量を大幅に増やしているにも関わらず、それに見合うだけの物理的物性の向上は得られなかった。
【0055】
この比較例2の眼鏡フレームではナノセルロースの配合量が多過ぎたため、飽和してしまった分以上のナノセルロースは酢酸セルロース中に均一に分散されないことから、適切な量を超えてナノセルロースの配合量を増やしてもそれに見合う物理的物性の向上が得られなかったものと考えられる。このように、ナノセルロースの配合量を酢酸セルロースに対する重量比で25重量%まで増やしても物理的特性の向上には効果がなく、かえって均一な分散を妨げる恐れもあることから、好ましくない。したがって、適切なナノセルロースの配合量は重量比で25重量%未満であり、20重量%以下であることが好ましく、さらには3重量%以下であることがより好ましい。
【0056】
[比較例3]
酢酸セルロースに、ナノセルロースを酢酸セルロースに対する重量比で3重量%添加した材料を用いて、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。具体的には、酢酸セルロースのペレット1,000gとナノセルロース30gの混合物を射出成形機のホッパーに直接投入し、射出成形法によって眼鏡フレームを作製した。射出成形機の金型温度は90℃に設定し、射出成形機の加熱温度(シリンダー温度)は180℃に設定して、射出圧力2,000MPaで射出成形を行った。射出成形用の金型には、上記実施例1及び2と同じ金型を使用した。
【0057】
このようにして製造した眼鏡フレームの曲げ弾性は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームとほぼ同等であった。また、耐熱温度は、酢酸セルロースのみからなる眼鏡フレームの場合の70℃からほとんど変化しなかった。すなわち、ナノセルロースを添加したことによる物理的特性の向上は得られなかった。
【0058】
この比較例3においては、最初から所定の配合比で酢酸セルロースとナノセルロースを混合している。すなわち、実施例1から実施例3に示されるような、酢酸セルロースにナノセルロースを多く配合し十分に分散した混合物をまず作製して、この混合物と酢酸セルロースとをさらに混合する2段階による混合を行っていない。そのため、ナノセルロースが酢酸セルロース中に均一に分散せず、よってそのような素材で作製された眼鏡フレームでは、優れた物理的物性を得ることができなかったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る眼鏡フレームは、力を加えても変形せずに元の形状に戻り、より強い力を加えても破損することがないので、安全であり、幼児からお年寄りまで安心して使用できる眼鏡用のフレームとして、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 眼鏡フレーム
11 フロント部
12 フロントフレーム
12a レンズ枠部
13 ブリッジ部
14 鼻パッド部
15 智(よろい)
16A、16B サイド部
17A、17B テンプル
18A、18B モダン
20 蝶番(ヒンジ)

図1
図2