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  • 特開-化合物、被膜、容器材料および管材 図1
  • 特開-化合物、被膜、容器材料および管材 図2
  • 特開-化合物、被膜、容器材料および管材 図3
  • 特開-化合物、被膜、容器材料および管材 図4
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  • 特開-化合物、被膜、容器材料および管材 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084161
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】化合物、被膜、容器材料および管材
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/04 20060101AFI20240618BHJP
   C23C 4/16 20160101ALI20240618BHJP
   C23C 4/08 20160101ALI20240618BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C22C5/04
C23C4/16
C23C4/08
C22C30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198274
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】514115065
【氏名又は名称】株式会社C&A
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(72)【発明者】
【氏名】村上 力輝斗
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】山口 大聡
(72)【発明者】
【氏名】糸井 椎香
(72)【発明者】
【氏名】庄子 育宏
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA01
4K031AB02
4K031AB08
4K031AB09
4K031CB31
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れた化合物、被膜、容器材料および管材を提供する。
【解決手段】MoおよびRuを含む3種以上の金属元素を合成し、冷却熱処理することによりσ相を含む化合物を形成し、得られた化合物を被膜、容器材料、または、管材として耐食性が求められる製品に用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三種以上の金属を含み、かつ、一種以上の結晶相を含む化合物であって、前記結晶相がσ相を含むことを特徴とする化合物。
【請求項2】
前記金属が周期律表第6族の金属を含む請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記金属がMoを含む請求項1記載の化合物。
【請求項4】
前記金属がMoおよびRuを含む請求項1記載の化合物。
【請求項5】
前記金属がMo、RuおよびWを含む請求項1記載の化合物。
【請求項6】
前記結晶相が、さらに、HCP相を含む請求項1記載の化合物。
【請求項7】
化合物を含む被膜であって、前記化合物が請求項1記載の化合物である被膜。
【請求項8】
化合物を含む容器材料であって、前記化合物が請求項1記載の化合物である容器材料。
【請求項9】
内壁側に前記化合物を含む請求項8記載の容器材料。
【請求項10】
化合物を含む管材であって、前記化合物が請求項1記載の化合物である管材。
【請求項11】
内管側に前記化合物を含む請求項10記載の管材。
【請求項12】
MoおよびRuを含む3種以上の金属元素を合成し、冷却熱処理することによりσ相を含む化合物を形成することを特徴とする、化合物の製造方法。
【請求項13】
化合物、被膜、容器材料、または、管材を含む製品であって、前記化合物が請求項1記載の化合物であり、前記被膜が請求項7に記載の被膜であり、前記容器材料が請求項8記載の容器材料であり、前記管材が請求項10記載の管材である製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れた化合物、被膜、容器材料および管材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来ステンレス等は汎用的な材料として種々の分野に用いられている。近年においては不働態被膜などを形成して、耐食性を改善するなどの検討がなされている。また、耐食性に優れた金属材料の開発も進められており、例えば、Ti等の耐食性に優れた金属を用いた合金などが開発されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【0003】
しかしながら、いずれの材料も汎用性に乏しく、また、耐食性においてもまだまだ満足のいくものではなかった。例えば、ステンレスに不働態被膜を形成するにしても、工程が煩雑になり、形成手法も容易ではなく、満足のいくものではなかった。また、合金についても、形成手法が容易ではなく、加工性、意図しない結晶相の発生による機械特性の劣化などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7175477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐食性および機械的特性に優れた化合物、被膜、容器材料および管材を提供することを目的とする。また、本発明は、前記化合物を工業的有利に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、三種以上の金属を含み、かつ、一種以上の結晶相を含む化合物であって、前記結晶相がσ相を含む化合物が、耐食性に優れ、容易に形成することができるものであり、機械的特性にも優れている事を知見し、さらに、検討を重ね、三元系の金属からなる合金において、特に優れた物性を発揮できる事等種々知見し、このような化合物が上記した従来の問題を一挙に解決できるものである事を見出した。
また本発明者らは上記知見を得た後、更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 三種以上の金属を含み、かつ、一種以上の結晶相を含む化合物であって、前記結晶相がσ相を含むことを特徴とする化合物。
[2] 前記金属が周期律表第6族の金属を含む前記[1]に記載の化合物。
[3] 前記金属がMoを含む前記[1]記載の化合物。
[4] 前記金属がMoおよびRuを含む前記[1]記載の化合物。
[5] 前記金属がMo、RuおよびWを含む前記[1]記載の化合物。
[6] 前記結晶相が、さらに、HCP相を含む前記[1]記載の化合物。
[7] 化合物を含む被膜であって、前記化合物が前記[1]記載の化合物である被膜。
[8] 化合物を含む容器材料であって、前記化合物が前記[1]記載の化合物である容器材料。
[9] 内壁側に前記化合物を含む前記[8]記載の容器材料。
[10] 化合物を含む管材であって、前記化合物が前記[1]記載の化合物である管材。
[11] 内管側に前記化合物を含む前記[10]記載の管材。
[12] MoおよびRuを含む3種以上の金属元素を合成し、冷却熱処理することによりσ相を含む化合物を形成することを特徴とする、化合物の製造方法。
[13] 化合物、被膜、容器材料、または、管材を含む製品であって、前記化合物が前記[1]記載の化合物であり、前記被膜が前記[7]に記載の被膜であり、前記容器材料が前記[8]記載の容器材料であり、前記管材が前記[10]記載の管材である製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物、被膜、容器材料および管材は耐食性および機械的特性に優れている。また、本発明の製造方法によれば、前記化合物を工業的有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例における耐食性試験の結果を示す図である。
図2】実施例における機械的特性試験の結果を示す図である。
図3】実施例における硬さ試験の結果を示す図である。
図4】実施例における硬さ試験の結果を示す図である。
図5】本発明における反応容器の内壁材として適用した場合の好適な態様を模式的に示す図である。
図6】本発明における配管の内壁材として適用した場合の好適な態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の化合物は、三種以上の金属を含み、かつ、一種以上の結晶相を含む化合物であって、前記結晶相がσ相を含むことを特徴とする。本明細書において、「σ相」および「HCP相」は25℃、1気圧における結晶相のことを言う。本発明においては、前記金属が周期律表第6族の金属を含むのが好ましい。前記金属がMoを含むのが好ましい。これら好ましい範囲によれば、より機械的特性を向上させることができる。また、本発明においては、前記金属がMoおよびRuを含むのが好ましい。この好ましい範囲によれば、より耐食性を向上させることができる。前記金属が、Ruを50重量%以上含むのがより好ましく、このような好ましい範囲によれば、耐食性および機械的特性をより向上させることができる。また、本発明においては、前記結晶相がHCP相を含むのが好ましい。HCP相を含ませることにより、機械加工性をより向上させることができる。なお、本発明においては、前記結晶相が、σ相を含むものであるが、その含有割合は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、通常、50wt%以下である。また、本発明においては、前記結晶相が、σ相以外の結晶相を含んでいてもよく、主成分が、σ相以外の結晶相であってもよい。
【0011】
前記化合物は、三種以上の金属を含み、かつ、一種以上の結晶相を含む化合物であって、前記結晶相がσ相を含むものであれば、特に限定されず、合金であってもよいし、金属化合物であってもよい。不可避的不純物がさらに含まれていてもよい。前記金属化合物としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物などが挙げられるが、本発明においては前記化合物が合金であるのが好ましい。前記化合物はそのままで、または、公知の成形加工手段を用いて、被膜、容器材料および管材としてそれぞれ耐食性が求められる用途に好適に適用することができる。なお、前記化合物を容器材料として適用する場合には内壁材に適用するのが好ましい。また、管材も同様に前記化合物を内壁材に用いるのが好ましい。なお、前記管材は、例えば、ケーシング管、ストレーナ管、ラインパイプ、高温で酸性の井戸での使用のための油井管などに好適に用いることができる。
【0012】
前記化合物を反応容器の内壁材に適用した場合の例を図5に示す。図5の反応容器1は、化合物接触面2側の内壁3に、前記化合物が、内壁材3aとして、基材となる内壁材3b上に被覆されている。被覆手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の製膜手段であってよい。このように構成されることにより、化合物を用いた処理が良好に行われ、長期的にも使用することが可能となる。
【0013】
前記化合物を配管の内壁材に適用した場合の例を図6に示す。図6の配管11は、化合物接触面12側の内壁13に、前記化合物が、内壁材13aとして、基材となる内壁材13b上に被覆されている。被覆手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の製膜手段であってよい。このように構成されることにより、化合物を用いた供給が良好に行われ、長期的にも使用することが可能となる。
【0014】
前記化合物は、例えば、MoおよびRuを含む3種以上の金属元素を合成し、冷却熱処理することによりσ相を含む前記化合物を容易に形成することができる。前記冷却熱処理手段は公知の手段であってよく、金属元素の種類やσ相の形成条件によって冷却条件および熱処理条件などを適宜設定して前記冷却熱処理手段に付すことが好ましい。
【実施例0015】
(実施例1)
1.Mo-W-Ru合金の作製
化学組成(wt%)を11.89(Mo)-37.99(W)-50.12(Ru)とし、マイクロ引き下げ法(μPD法)により化合物を作製した。作製した化合物の結晶相を評価したところσ相が含まれていることを確認した。また、作製した化合物の耐食性を評価した。
【0016】
(試験例1)耐食性評価
<硫酸腐食試験>
作製したMo-W-Ru系新合金についてJIS G 0591 : 2000「ステンレス鋼の硫酸腐食試験方法」に準じて腐食試験を実施した。95wt%濃硫酸、約330℃、24h、全液相の条件でサンプルを暴露し、重量変化により腐食減量および損耗度を評価した。本試験の比較対象として市販品SUS304を選定した。
【0017】
a.試験片は以下とした。
(1)試験片は全体表面積が10~30cmとなるよう供試材から切削してとり、一方向凝固結晶育成方向または圧延方向に直角の断面積は試験片表面積の1/2を超えないことを原則とした。
(2)試験片の表面はJIS R 6251 : 2006、JIS R 6252 : 2006またはJIS R 6253 : 2006の規定による400番まで研磨した。
【0018】
b.試験方法は以下とした。
(1)試験前の試験片の清浄と重量測定:
試験片をアルコールで洗浄し、乾燥させた後、1mgの桁まで重量を測定した。
(2)試験装置:
試験装置は充分な冷却面積をもつ立形の逆流コンデンサ付きすり合わせビーカー(容量1L)と、試験中試験液を沸騰状態に維持する加熱装置を使用し、試験片は適当なガラスホルダにより液深の中位に保持した。
(3)試験溶液:
95wt%硫酸溶液はJIS K 8951 : 2006に規定される硫酸を用いる。試験溶液の量は、試験片の表面積1cm当たり25~30mlとした。
(4)試験時間:
浸漬時間は沸騰開始時刻からヒーター電源を切った時刻までとし、沸騰連続24時間の試験を行った。
(5)腐食減量および損耗度:
浸漬後の試験片は、室温にて30%硝酸で洗浄後、水洗いおよび水中にて5分間の超音波洗浄し、水洗乾燥後にその重量を測定した。腐食減量は単位面積および単位時間当たりの減量値g/m・hで算出し、損耗度は腐食減量値と比重を用いて年当たりの損耗量mm/yで算出した。
【0019】
本試験結果を図1に示す。図1により、実施例1の化合物が耐食性に優れている事が分かる。
【0020】
(試験例2)機械的特性試験
実施例1と同様に作製した線材をφ0.8 x 50mmに切断して試験片とし、室温引張試験を実施した。結果を図2に示す。なお、伸びひずみは標線位置の試験前後の変化量から算出した。当該合金は、通常の地熱発電のケーシング材としても用いられる一般構造用圧延鋼材の引っ張り強さ~450MPaと同等以上の強度と延性(引張強度523MPa、破断伸び76%)とを有することが分かった。
【0021】
(試験例3)硬さ試験
実施例1と同様に作製したMo-W-Ru合金をSUS316基材上に溶射したサンプルを試験片とし、ISO 14577-1「計装化押込み硬さおよび材料パラメータ 第一部:試験方法」に準拠し、計装化押込み硬さ評価試験を実施した。試験片断片のSEM写真を図3に示す。また、硬さ評価試験結果を図4に示す。なお、換算ビッカース硬さおよび押込み弾性率を評価した。得られた換算ビッカース硬さは、基材のSUS316では250程度であるのに対し、Mo-W-Ru合金では840程度の硬さを有していた。
【0022】
また、実施例1の化合物のMo、RuおよびWの各組成割合並びに加熱温度を調整して各結晶相の機械的加工性を評価した。その結果、σ相の他に、さらに、HPC相を含むと機械的加工性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の化合物は、耐食性に優れた被膜、容器材料および管材等として種々の製品に用いられる。
【符号の説明】
【0024】
1 反応容器
2 化合物
3 内壁
3a 内壁材(化合物)
3b 内壁材(基材)
11 配管
12 化合物接触面
13 内壁
13a 内壁材(化合物)
13b 内壁材(基材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6