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特開2024-84162超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材
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  • 特開-超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084162
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 5/04 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
C22C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198275
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】514115065
【氏名又は名称】株式会社C&A
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(72)【発明者】
【氏名】村上 力輝斗
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 圭
(72)【発明者】
【氏名】吉川 彰
(72)【発明者】
【氏名】山口 大聡
(72)【発明者】
【氏名】糸井 椎香
(72)【発明者】
【氏名】庄子 育宏
(57)【要約】
【課題】耐食性および機械的特性に優れた超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を提供することを目的とする。
【解決手段】超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材であって、周期律表第6族の金属およびRuを含み、前記周期律表第6族の金属が、MoおよびWを含み、前記合金が、HCP相を含む超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を、内壁材として、例えば、反応容器または配管等に用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材であって、周期律表第6族の金属およびRuを含むことを特徴とする超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項2】
周期律表第6族の金属、Ruおよび不可避的不純物を構成材料として含む請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項3】
前記周期律表第6族の金属が、MoおよびWを含む請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項4】
前記合金が、HCP相を含む請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項5】
前記合金が、σ相を含む請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項6】
容器材料である請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項7】
管材である請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
【請求項8】
超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を含む製品であって、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が請求項1記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材である製品。
【請求項9】
超臨界流体または亜臨界流体の接触面に、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が設けられている請求項8記載の製品。
【請求項10】
反応容器である請求項8記載の製品。
【請求項11】
配管である請求項8記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れた超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来ステンレス等は汎用的な材料として種々の分野に用いられている。近年においては不働態被膜などを形成して、耐食性を改善するなどの検討がなされている。また、耐食性に優れた金属材料の開発も進められており、例えば、Ti等の耐食性に優れた金属を用いた合金などが開発されている(例えば、特許文献1等を参照)。
また、超臨界液体を用いた技術では、有害物質の分解や特定物質の抽出へ応用されているほか、将来的に地熱発電への応用も期待されており、例えば、超臨界水に対する耐食性に優れた部材などの開発が進められてきた。(例えば、非特許文献1等を参照)
【0003】
しかしながら、いずれの材料も汎用性に乏しく、また、耐食性においてもまだまだ満足のいくものではなかった。例えば、ステンレスに不働態被膜を形成するにしても、工程が煩雑になり、形成手法も容易ではなく、満足のいくものではなかった。また、合金についても、形成手法が容易ではなく、加工性、意図しない結晶相の発生による機械特性の劣化などの問題があった。その他にも、例えば、ステンレス系、Ni基超合金、Ti基合金、貴金属などの様々な材料系に対する超臨界水に対する耐食性が調査されてきたが、耐食性に課題がある、もしくは貴金属では優れた耐食性を有する反面、機械的特性の劣化などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7175477号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大江ら,「塩酸を含有する超臨界水および亜臨界水酸化環境下における貴金属およびTi-IrO2-Ta2O5の腐食試験」,材料と環境,56,367-372(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐食性および機械的特性に優れた超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材であって、周期律表第6族の金属およびRuを含む超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が、耐食性に優れ、容易に形成することができるものであり、機械的特性にも優れている事を知見し、さらに、検討を重ね、周期律表第6族の金属およびRuからなる合金において、特に優れた物性を発揮できる事等種々知見し、このような超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が上記した従来の問題を一挙に解決できるものである事を見出した。
また本発明者らは上記知見を得た後、更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材であって、周期律表第6族の金属およびRuを含むことを特徴とする超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[2] 周期律表第6族の金属、Ruおよび不可避的不純物を構成材料として含む前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[3] 前記周期律表第6族の金属が、MoおよびWを含む前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[4] 前記合金が、HCP相を含む前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[5] 前記合金が、σ相を含む前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[6] 容器材料である前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[7] 管材である前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材。
[8] 超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を含む製品であって、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が前記[1]記載の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材である製品。
[9] 超臨界流体または亜臨界流体の接触面に、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が設けられている前記[8]記載の製品。
[10] 反応容器である前記[8]記載の製品。
[11] 配管である前記[8]記載の製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材は耐食性および機械的特性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における超臨界水に対する超臨界水耐久試験結果(年間腐食速度)を示す図である。
図2】実施例における超臨界水に対する超臨界水耐久試験結果(重量減少量)の結果を示す図である。
図3】実施例における機械的特性試験の結果を示す図である。
図4】実施例における硬さ試験の結果を示す図である。
図5】実施例における硬さ試験の結果を示す図である。
図6】本発明における反応容器の内壁材として適用した場合の好適な態様を模式的に示す図である。
図7】本発明における配管の内壁材として適用した場合の好適な態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材は、超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材であって、周期律表第6族の金属およびRuを含むことを特徴とする。本発明においては、期律表第6族の金属、Ruおよび不可避的不純物を構成材料として含むのが好ましい。この好ましい範囲によれば、より耐食性を向上させることができる。また、前記周期律表第6族の金属が、MoおよびWを含むのが好ましい。これら好ましい範囲によれば、より機械的特性を向上させることができる。前記金属が、Ruを50重量%以上含むのがより好ましく、このような好ましい範囲によれば、耐食性および機械的特性をより向上させることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記合金が、HCP相を含むのが好ましい。HCP相を含ませることにより、機械加工性をより向上させることができる。また、前記合金が、σ相を含むのが好ましい。本明細書において、「σ相」および「HCP相」は25℃、1気圧における結晶相のことを言う。なお、本発明においては、前記合金が、σ相を含むものであるが、その含有割合は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、通常、50体積%以下である。また、本発明においては、前記合金が、σ相以外の結晶相を含んでいてもよく、主成分が、σ相以外の結晶相であってもよい。
【0013】
前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材はそのままで、または、公知の成形加工手段を用いて、反応容器および配管としてそれぞれ耐食性が求められる用途に好適に適用することができる。また、超臨界流体または亜臨界流体の接触面に、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が設けられているのが好ましい。前記超臨界流体または前記亜臨界流体は、気体と液体とが共存できる限界の温度、圧力(臨界点)を超えた状態にある特有な流体であり、通常の気体や液体とは異なる性質を示す。前記超臨界流体または前記亜臨界流体としては、例えば、水、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、窒素、アルコール溶媒、炭化水素溶媒、ハロゲン溶媒、エーテル溶媒などが挙げられる。前記アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-ブタノールなどが挙げられる。前記炭化水素溶媒としては、例えば、エタン、プロパン、2,3-ジメチルブタン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。前記ハロゲン溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロトリフロロメタンなどが挙げられる。前記エーテル溶媒としては、例えば、ジメチルエーテルなどが挙げられる。なお、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を容器材料として適用する場合には内壁材に適用するのが好ましい。また、配管も同様に前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を内壁材に用いるのが好ましい。なお、前記配管は、例えば、ケーシング管、ストレーナ管、ラインパイプ、高温で酸性の井戸での使用のための油井管などに好適に用いることができる。
【0014】
前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を反応容器の内壁材に適用した場合の例を図6に示す。図6の反応容器1は、超臨界流体または亜臨界流体接触面2側の内壁3に、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が、内壁材3aとして、基材となる内壁材3b上に被覆されている。被覆手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の製膜手段であってよい。このように構成されることにより、超臨界流体または亜臨界流体を用いた処理が良好に行われ、長期的にも使用することが可能となる。
【0015】
前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を配管の内壁材に適用した場合の例を図7に示す。図7の配管11は、超臨界流体または亜臨界流体接触面12側の内壁13に、前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材が、内壁材13aとして、基材となる内壁材13b上に被覆されている。被覆手段は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知の製膜手段であってよい。このように構成されることにより、超臨界流体または亜臨界流体を用いた供給が良好に行われ、長期的にも使用することが可能となる。
【0016】
前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材は、例えば、σ相を含む場合には、MoおよびWを含む周期律表第6族の金属およびRuを含む合金を合成し、冷却熱処理することによりσ相を含む前記超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を容易に形成するのが好ましい。前記冷却熱処理手段は公知の手段であってよく、金属元素の種類やσ相の形成条件によって冷却条件および熱処理条件などを適宜設定して前記冷却熱処理手段に付すことが好ましい。
【実施例0017】
(実施例1)
1.Mo-W-Ru合金の作製
化学組成(wt%)を11.89(Mo)-37.99(W)-50.12(Ru)とし、マイクロ引き下げ法(μPD法)により超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材を作製した。作製した超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材の結晶相を評価したところσ相が含まれていることを確認した。また、作製した超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材の耐食性を評価した。
【0018】
(試験例1)超臨界水に対する腐食試験
実施例1と同様に作製したMo-W-Ru合金を試験片とし、超臨界水に対する腐食試験を実施した。μ-PD法により作製したφ2.0 x 50mmの線材3本を用い、超臨界水に長時間暴露した際の形状と重量減少を計測した。試験容器には、φ15 x 60mmの円筒形耐圧容器を用いた。試験条件は、400℃,30MPaとし、1,3,5,8,12,17,22,28hの時点でサンプルを取り出して重量と形状を計測した。超臨界水に対する耐食性試験の結果を図1および図2に示す。本試験の結果、作製した合金線材では、試験後の線材表面は金属光沢を維持しており、試験前からの変化は見られなかった。また、合計28hの超臨界水に対する暴露によって重量が有意に変化しなかったことが明らかとなった。得られた年間腐食速度は、最大で28h暴露後の0.00023mm/yであり、優位な損耗は見られない事から、超臨界水に対する極めて高い耐食性を有する事が分かった。
【0019】
(試験例2)機械的特性試験
実施例1と同様に作製した線材をφ0.8 x 50mmに切断して試験片とし、室温引張試験を実施した。結果を図3に示す。なお、伸びひずみは標線位置の試験前後の変化量から算出した。当該合金は、通常の地熱発電のケーシング材としても用いられる一般構造用圧延鋼材の引っ張り強さ~450MPaと同等以上の強度と延性(引張強度523MPa、破断伸び76%)とを有することが分かった。
【0020】
(試験例3)硬さ試験
実施例1と同様に作製したMo-W-Ru合金をSUS316基材上に溶射したサンプルを試験片とし、ISO 14577-1「計装化押込み硬さおよび材料パラメータ 第一部:試験方法」に準拠し、計装化押込み硬さ評価試験を実施した。試験片断片のSEM写真を図4に示す。また、硬さ評価試験結果を図5に示す。なお、換算ビッカース硬さおよび押込み弾性率を評価した。得られた換算ビッカース硬さは、基材のSUS316では250程度であるのに対し、Mo-W-Ru合金では840程度の硬さを有していた。
【0021】
また、実施例1の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材のMo、RuおよびWの各組成割合並びに加熱温度を調整して各結晶相の機械的加工性を評価した。その結果、σ相の他に、さらに、HPC相を含むと機械的加工性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材は、耐食性に優れた反応容器および配管等として種々の製品に用いられる。
【符号の説明】
【0023】
1 反応容器
2 超臨界流体または亜臨界流体接触面
3 内壁
3a 内壁材(超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材)
3b 内壁材(基材)
11 配管
12 超臨界流体または亜臨界流体接触面
13 内壁
13a 内壁材(超臨界流体または亜臨界流体用耐食部材)
13b 内壁材(基材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7