(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084166
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】異種金属接合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
B23K20/12 360
B23K20/12 310
B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198279
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】596091956
【氏名又は名称】冨士端子工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100109472
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 直之
(72)【発明者】
【氏名】長岡 亨
(72)【発明者】
【氏名】三輪 哲司
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167AA29
4E167BG12
4E167BG13
4E167BG15
4E167BG22
4E167DC01
(57)【要約】
【課題】第1金属部材の両側に第2金属部材を配置して接合する異種金属接合材の製造方法において、生産性を向上し、酸化による接合不良の発生を防止する。
【解決手段】第1金属部材10の両側にそれぞれ所定の隙間13A,13Bを隔てた状態で第2金属部材20A,20Bを配置し、上記両隙間13A,13Bの上側に充填材30を配置し、外径寸法が上記両隙間13A,13Bの間隔よりも大きい回転工具40を上記充填材30の上から押し付けて上記両隙間13A,13Bに上記充填材30を充填し、上記第1金属部材10と上記両第2金属部材20A,20Bを接合する。回転工具40を1回押し付ければ両接合部が同時に接合されるため、接合工程を2回する従来技術に比べて生産性が飛躍的に向上する。1回の接合工程で2つの接合部を同時に接合することから、従来のように1回目の接合のときに他方の接合部が酸化せず、接合不良の発生が防止される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部材の両側にそれぞれ所定の隙間を隔てた状態で第2金属部材を配置し、
上記両隙間の上側に充填材を配置し、
外径寸法が上記両隙間同士の間隔よりも大きい回転工具を上記充填材の上から押し付けて上記両隙間に上記充填材を充填することにより、上記第1金属部材と上記両第2金属部材を接合する
ことを特徴とする異種金属接合材の製造方法。
【請求項2】
上記回転工具を押し付ける際、上記回転工具の先端面が降下する下限は、上記第1金属部材の上面のレベルである
請求項1記載の異種金属接合材の製造方法。
【請求項3】
上記回転工具の回転軸は、上記第1金属部材の幅の中央に上記回転軸が位置するか、または上記第1金属部材の幅の中央が上記回転工具の回転前進側に存在するよう配置されている
請求項1または2記載の異種金属接合材の製造方法。
【請求項4】
上記回転工具の回転軸は、先端側が前進方向に位置するよう傾斜する前進角を設けることができ、上記前進角が0°以上3°以下である
請求項1または2記載の異種金属接合材の製造方法。
【請求項5】
上記回転工具の先端面は、凹面状である
請求項1または2記載の異種金属接合材の製造方法。
【請求項6】
上記回転工具の先端面は、回転中心に突起が設けられている
請求項1または2記載の異種金属接合材の製造方法。
【請求項7】
上記回転工具の先端面は、上記回転工具が回転したときに上記充填材を回転中心側に移動させることができる渦巻条が形成されている
請求項1または2記載の異種金属接合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種類が異なる金属板を並べて接合する異種金属接合材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの金属板を接合する技術のひとつとして摩擦攪拌接合が知られている。摩擦攪拌接合によって異種金属(たとえばA材とB材)を接合することも行われている。近年は、B材の両側にA材を配置し、両側のA材とそのあいだのB材とを接合することも検討されている。このような摩擦攪拌接合に関連する先行技術文献として、出願人は下記の特許文献1および2を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-136544号公報
【特許文献2】特許第5195098号公報
【0004】
上記特許文献1は、摩擦攪拌接合方法に関するものであり、以下の記載がある。
[要約]
[課題]第1の部材と第2の部材との突き合わせ部を摩擦攪拌接合する場合に、欠陥を抑制する摩擦攪拌接合方法を提供する。
[解決手段]第1の部材10と第2の部材20とを突き合わせ、次に、突き合わせ部の上面側、丸棒の肉盛り材30を接触させて回転させて、肉盛りビード35を接合する。肉盛りビード35は従来の凸部に相当する。次に、突き合わせ部に回転工具50の中心ピンを挿入し、摩擦攪拌接合を行う。これによれば、肉盛りビード35が凸部に相当し、突き合わせ部の隙間を補填するので、良好に接合でき、欠陥の発生を抑制できる。
[0015]
この状態で、まず、突き合わせ部の上面に、上方から、肉盛り材30を接触させた状態で押し付けながら回転させ、更に回転させながら、突き合わせ部に沿って相対的に移動させる。肉盛り材30は丸棒であり、その材質は板10,20と同様なアルミ合金材である。これによって、肉盛り材30の移動に伴って突き合わせ部の上面に肉盛りビード35が接合される。
[0023]
次に、
図4~
図6に示すように、肉盛りビード35に対してその上方から回転工具50の中心ピン51を挿入し、部材10,20を摩擦攪拌接合する。摩擦攪拌接合時、回転工具50の中心ピン51の上部に設けられている大径部の底面53は肉盛りビード35に接触する。
【0005】
上記特許文献2は、伝熱板の製造方法に関するものであり、以下の記載がある。
[0034]
(溶接接合工程)
次に、
図5の(a)及び
図6に示すように、突合部V1,V2に沿って溶接を行って、ベース部材2と蓋板10とを接合する。本実施形態では、突合部V1,V2に離間溝U1,U2が形成されているため、例えばTIG溶接又はMIG溶接などの肉盛溶接を行って離間溝U1,U2にそれぞれ溶接金属T1,T2を充填する。また、本実施形態の溶接接合工程では、ベース部材2の長手方向全長に亘って肉盛溶接を行っている。溶接接合工程では、溶接金属T1,T2がベース部材2の表面3よりも突出するように形成すると、摩擦攪拌の際の金属不足を補うことができるため好ましい。
[0036]
(流入攪拌工程)
次に、
図5の(b)に示すように、蓋板10の上面11上で、凹溝8の長手方向に沿って流入攪拌用回転ツール25を用いて摩擦攪拌接合を行い、空隙部P1,P2に摩擦熱によって塑性化された塑性流動材Qを流入させる。
[0038]
流入攪拌用回転ツール25は、ツール本体26の底面27が、蓋板10の上面11よりも低くなるように押し込まれる。その押込み量(長さ)は、ツール本体26が押し退ける蓋板10の金属の体積が、熱媒体用管16の周囲の一方の空隙部P1(P2)に充填される塑性流動化されたアルミニウム合金材料の体積、および塑性化領域W1(W2)の幅方向両側に発生するバリの体積との和と同等になるような長さとなっている。そして、流動化された塑性流動材Qは、流入攪拌用回転ツール25のツール本体26の底面27の押込み力によって、空隙部P1(P2)へと押し出されて流入される。前記の摩擦攪拌接合は、凹溝8の幅方向両側でそれぞれ施されて、熱媒体用管16の上側に位置する一対の空隙部P1,P2に塑性流動材Qが流入される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、異種金属(たとえばA材とB材)の接合において、B材の両側にA材を配置して両側のA材とその間のB材とを接合する場合、A材とB材の接合部が、B材の両側に存在することになる。これを摩擦攪拌接合によって接合する場合、B材の両側にあるA材とB材の接合部に沿って、それぞれ回転工具を挿入して走査させなければならない。摩擦攪拌接合装置は、通常一本の回転工具を挿入して走査させるように設計されていることから、上記のケースでは、B材の両側にあるA材とB材の接合部に沿わせて2回、回転工具を挿入して走査させる加工を行わなければならない。このように2回の加工を行うということは、単純に生産性が2分の1以下になることであり、生産性の向上が課題となる。また、A材に挟まれて配置されるB材の幅寸法が小さくなると、一方の接合部を加工しているときに、他方の接合部が加熱により酸化してしまい、酸化した側の接合がうまくいかず、接合不良が生じやすいという問題が生じる。
【0007】
上記特許文献1には、第1の部材10と第2の部材20とを突き合わせ、突き合わせ部の上面側に肉盛り材30による肉盛りビード35を形成し、さらに回転工具50の中心ピンを挿入することで、肉盛りビード35で突き合わせ部の隙間を補填しながら摩擦攪拌接合を行うことが開示されている。しかしながら、上記特許文献1の技術により、上述したB材の両側にA材を配置して両側のA材とその間のB材とを接合しようとすると、肉盛りビード35の形成と回転工具50による摩擦攪拌接合を、B材の両側にある接合部に沿わせて2回、行う必要がある。このため、生産性は悪く、一方の接合部を加工しているときに他方が酸化して接合不良が生じやすいという問題は解決しない。
【0008】
上記特許文献2には、突合部V1,V2に沿って溶接を行って離間溝U1,U2に溶接金属T1,T2を充填したのち流入攪拌用回転ツール25で摩擦攪拌接合を行うことが開示されている。しかしながら、上記特許文献2の技術でも、摩擦攪拌接合は、凹溝8の幅方向両側でそれぞれ施すのであり、生産性は悪く、一方の接合部を加工しているときに他方が酸化して接合不良が生じやすいという問題は解決しない。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされたものである。
第1金属部材の両側に第2金属部材を配置して接合する異種金属接合材の製造方法において、生産性を向上し、酸化による接合不良の発生を防止する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の異種金属接合材の製造方法は、上記目的を達成するため、下記の構成を採用した。
第1金属部材の両側にそれぞれ所定の隙間を隔てた状態で第2金属部材を配置し、
上記両隙間の上側に充填材を配置し、
外径寸法が上記両隙間同士の間隔よりも大きい回転工具を上記充填材の上から押し付けて上記両隙間に上記充填材を充填することにより、上記第1金属部材と上記両第2金属部材を接合する。
【0011】
請求項2記載の異種金属接合材の製造方法は、請求項1記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具を押し付ける際、上記回転工具の先端面が降下する下限は、上記第1金属部材の上面のレベルである。
【0012】
請求項3記載の異種金属接合材の製造方法は、請求項1または2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具の回転軸は、上記第1金属部材の幅の中央に上記回転軸が位置するか、または上記第1金属部材の幅の中央が上記回転工具の回転前進側に存在するよう配置されている。
【0013】
請求項4記載の異種金属接合材の製造方法は、請求項1または2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具の回転軸は、先端側が前進方向に位置するよう傾斜する前進角を設けることができ、上記前進角が0°以上3°以下である。
【0014】
請求項5記載の異種金属接合材の製造方法は、請求項1または2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具の先端面は、凹面状である。
【0015】
請求項6記載の異種金属接合材の製造方法は、請求項1または2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具の先端面は、回転中心に突起が設けられている。
【0016】
請求項7記載の異種金属接合材の製造方法は、請求項1または2記載の構成に加え、下記の構成を採用した。
上記回転工具の先端面は、上記回転工具が回転したときに上記充填材を回転中心側に移動させることができる渦巻条が形成されている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の異種金属接合材の製造方法は、まず、第1金属部材の両側にそれぞれ所定の隙間を隔てた状態で第2金属部材を配置する。ついで、上記両隙間の上側に充填材を配置する。つぎに、外径寸法が上記両隙間同士の間隔よりも大きい回転工具を上記充填材の上から押し付けて上記両隙間に上記充填材を充填することにより、上記第1金属部材と上記両第2金属部材を接合する。このように、第1金属部材の両側に第2金属部材を配置して接合する異種金属接合材の製造方法において、第1金属部材の両側にそれぞれ存在する接合部に対し、回転工具を1回押し付ければ両接合部が同時に接合される。このため、接合工程を2回する従来技術に比べて生産性が飛躍的に向上する。また、1回の接合工程で2つの接合部を同時に接合することから、従来のように1回目の接合のときに他方の接合部が酸化することがなく、酸化による接合不良の発生が防止される。
【0018】
請求項2記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具を押し付ける際、上記回転工具の先端面が降下する下限は、上記第1金属部材の上面のレベルである。このようにすることにより、第2金属部材を構成する第2金属の流動が防止され、接合部の周辺における第1金属と第2金属が混じり合うことが防止できる。このため、混合粒が欠陥となるのを防ぎ、機械的強度や耐酸化性、耐薬品性等の低下を防止できる。
【0019】
請求項3記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具の回転軸は、上記第1金属部材の幅の中央に上記回転軸が位置するか、または上記第1金属部材の幅の中央が上記回転工具の回転前進側に存在するよう配置されている。上記第1金属部材の幅の中央に上記回転軸を位置させることにより、両接合部に対して均等に回転工具を押し付けて接合することができる。また、上記第1金属部材の幅の中央を上記回転工具の回転前進側に存在するよう配置することにより、両接合部が充填材の組成流動における下流側に位置することになるため、両接合部の隙間に対する充填材の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0020】
請求項4記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具の回転軸は、先端側が前進方向に位置するよう傾斜する前進角を設けることができ、上記前進角が0°以上3°以下である。特に、上記前進角が0°とした場合は、上記第1金属部材の幅の中央に上記回転軸を位置させることにより、両接合部に対して均等に回転工具を押し付けて接合することができる。また、上記前進角が0°を超えて3°以下とした場合は、上記第1金属部材の幅の中央を上記回転工具の回転前進側に存在するよう配置することにより、両接合部が充填材の組成流動における下流側に位置することになり、両接合部の隙間に対する充填材の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0021】
請求項5記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具の先端面は、凹面状である。このようにすることにより、組成流動した充填材が上記凹面状の中に保持されながら押し付けられるため、充填材が周囲に飛散するのを防止し、両接合部の隙間に対する充填材の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0022】
請求項6記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具の先端面は、回転中心に突起が設けられている。このようにすることにより、回転工具の横ブレを防止し、両接合部に対して均等に回転工具を押し付けて接合することができる。
【0023】
請求項7記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具の先端面は、上記回転工具が回転したときに上記充填材を回転中心側に移動させることができる渦巻条が形成されている。このようにすることにより、組成流動した充填材が回転中心側に移動されながら押し付けられるため、充填材が周囲に飛散するのを防止し、両接合部の隙間に対する充填材の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明が適用された異種金属接合材の製造方法の第1実施形態を説明する斜視図である。
【
図2】上記第1実施形態を説明する図であり(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【
図3】第2実施形態を説明する平面図であり、(A)は第1例、(B)は第2例である。
【
図5】回転工具の変形例を示す縦断面図であり、(A)は第1例、(B)は第2例である。
【
図6】回転工具の変形例を示す図であり、(A-1)は第3例の縦断面図、(A-2)は上記第3例を下から見た図である。(B-1)は第4例の縦断面図、(B-2)は上記第4例を下から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0026】
◆第1実施形態
図1および
図2は、本発明が適用された異種金属接合材の製造方法の第1実施形態を説明する図である。
図1は斜視図、
図2(A)は平面図、
図2(B)は正面図、
図2(C)は側面図である。
【0027】
本実施形態では、第1金属部材10の両側に第2金属部材20A,20Bを配置して接合することにより異種金属接合材を製造する。
【0028】
まず、第1金属部材10の両側にそれぞれ所定の隙間13A,13Bを隔てた状態で第2金属部材20A,20Bを配置する。
【0029】
この例では、上記第1金属部材10は、一定幅で帯状の板材が用いられている。上記第1金属部材10は、たとえば幅寸法が数mm~数10mm程度で厚み数mm程度の帯状の板材を用いることができる。上記第1金属部材10および第2金属部材20A,20Bは、上面が平面な加工台50上に載置することができる。
【0030】
また、この例では、上記第2金属部材20A,20Bはそれぞれ、長手方向と幅方向を有する長方形である。長手方向の寸法は、上記第1金属部材10と等しくなるよう設定することができる。幅方向の寸法は、両第2金属部材20A,20Bが等しくなるよう設定することもできるし、一方が他方より幅広となるよう設定することもできる。
【0031】
上記第1金属部材10と上記第2金属部材20A,20Bの厚みは、実質的に等しくなるよう設定することができる。これにより、後述する回転工具40による加工の際に、上記充填材30が上記隙間13A,13Bに十分充填され、上記第1金属部材10や上記第2金属部材20A,20Bの欠損や流動による欠陥の発生も防止される。
【0032】
上記第1金属部材10の両側にそれぞれ第2金属部材20A,20Bを配置したときに、上記第1金属部材10と両第2金属部材20A,20Bとのあいだに所定の隙間13A,13Bを隔てる。上記両隙間13A,13Bの間隙寸法は、両隙間13A,13Bが等しくなるよう設定するのが好ましいが、一方が他方より幅広となるよう設定することもできる。上記両隙間13A,13Bの間隙寸法が、長手方向において実質的に等しくなるよう、上記第1金属部材10の両側に上記第2金属部材20A,20Bを配置するのが好ましい。上記隙間13A,13Bの間隙寸法は、上記第1金属部材10と上記第2金属部材20A,20Bの厚み寸法よりも小さくなるよう設定することができる。上記間隙寸法が上記厚み寸法以上になると、間隔が広すぎて接合不良が生じるおそれがある。
【0033】
上記第1金属部材10と上記第2金属部材20A,20Bでは、たとえば、上記第1の金属部材10のほうが上記第2金属部材20A,20Bよりも硬度が高い材料とすることができる。また、上記第1の金属部材10のほうが上記第2金属部材20A,20Bよりも融点が高い材料とすることができる。
【0034】
たとえば本発明によって得られる異種金属接合材が電気用の導電材として利用される場合は、上記第1金属部材10として銅やその合金、上記第2金属部材20A,20Bとしてアルミニウムやその合金を用いることができる。
【0035】
ついで、上記両隙間13A,13Bの上側に充填材30を配置する。
【0036】
上記充填材30は、上記両隙間13A,13Bの上側にそれぞれ配置する。図示した例では、1つの充填材30が上記両隙間13A,13Bの両方を覆うようにしている。図示した例に限らず、上記両隙間13A,13Bにそれぞれ対応するよう2つの充填材30を使用してそれぞれの隙間13A,13Bを覆うように配置することもできる。
【0037】
上記充填材30は、上記第2金属部材20A,20Bと同等の材料を用いることができる。上記第2金属部材20A,20Bがアルミニウムやその合金であれば、それと同等のアルミニウムやその合金により形成された上記充填材30を用いることができる。
【0038】
上記充填材30の厚み寸法は、たとえば、上記第1金属部材10の厚み寸法と同等程度に設定することができる。具体的には、第1金属部材10の厚みが数mm程度であれば、上記充填材30の厚みも数mm程度である。この程度に設定してあれば、後述する回転工具40による加工の際に、上記充填材30が上記隙間13A,13Bに十分充填されて良好な接続状態が得られる。
【0039】
つぎに、外径寸法が上記両隙間13A,13B同士の間隔よりも大きい回転工具40を上記充填材30の上から押し付けて上記両隙間13A,13Bに上記充填材30を充填する。これにより、上記第1金属部材10と上記両第2金属部材20A,20Bが接合される。
【0040】
上記回転工具40は、たとえば工具鋼の焼入材等から形成することができる。上記回転工具40を、回転軸Aを軸にして回転させながら(図示の矢印R)、先端面(図示の下面)を上記充填材30の上から押し付けるように下降させ(図示の矢印D)、その状態で上記両隙間13A,13Bの長手方向に移動させる(図示の矢印F)。これにより、上記充填材30に塑性流動を生じ、塑性流動した上記充填材30が上記両隙間13A,13Bに充填される。その結果、上記第1金属部材10と上記両第2金属部材20A,20Bが接合される。図示した例では、上記回転工具40の先端面は平面である。
【0041】
上記回転工具40の回転数は、たとえば500~3000rpm程度に設定することができる。また、回転工具40を長手方向に移動させる速度は、50~500mm/min程度に設定することができる。
【0042】
上記回転工具40を押し付ける際、上記回転工具40の先端面が降下する下限は、上記第1金属部材10の上面のレベルである。このようにすることにより、加工の際に、上記充填材30が上記隙間13A,13Bに十分充填され、上記第1金属部材10や上記第2金属部材20A,20Bの欠損や流動による欠陥の発生も防止される。
【0043】
図示した例では、上記回転工具40の回転軸Aは、上記第1金属部材10の幅の中央に上記回転軸Aが位置している。このようにすることにより、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。
【0044】
上記回転工具40の回転軸Aは、先端側が前進方向に位置するよう傾斜する前進角を設けることができる。図示した例では、上記前進角は0°である。つまり、第1金属部材10、第2金属部材20A,20Bおよび充填材30に対して回転軸Aが垂直である。このように、上記前進角を0°とした場合は、上記第1金属部材10の幅の中央に上記回転軸Aを位置させることにより、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。言い換えると、上記第1金属部材10の幅の中央に上記回転軸Aを位置させる場合は、上記前進角を0°とするのが好ましい。
【0045】
上記第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0046】
上記第1実施形態では、まず、第1金属部材10の両側にそれぞれ所定の隙間13A,13Bを隔てた状態で第2金属部材20A,20Bを配置する。ついで、上記両隙間13A,13Bの上側に充填材30を配置する。つぎに、外径寸法が上記両隙間13A,13B同士の間隔よりも大きい回転工具40を上記充填材30の上から押し付けて上記両隙間13A,13Bに上記充填材30を充填することにより、上記第1金属部材10と上記両第2金属部材20A,20Bを接合する。このように、第1金属部材10の両側に第2金属部材20A,20Bを配置して接合する異種金属接合材の製造方法において、第1金属部材10の両側にそれぞれ存在する接合部に対し、回転工具40を1回押し付ければ両接合部が同時に接合される。このため、接合工程を2回する従来技術に比べて生産性が飛躍的に向上する。また、1回の接合工程で2つの接合部を同時に接合することから、従来のように1回目の接合のときに他方の接合部が酸化することがなく、酸化による接合不良の発生が防止される。
【0047】
上記第1実施形態では、上記回転工具40を押し付ける際、上記回転工具40の先端面が降下する下限は、上記第1金属部材10の上面のレベルである。このようにすることにより、第2金属部材20A,20Bを構成する第2金属の流動が防止され、接合部の周辺における第1金属と第2金属が混じり合うことが防止できる。このため、混合粒が欠陥となるのを防ぎ、機械的強度や耐酸化性、耐薬品性等の低下を防止できる。
【0048】
上記第1実施形態では、上記回転工具40の回転軸Aは、上記第1金属部材10の幅の中央に上記回転軸Aが位置している。上記第1金属部材10の幅の中央に上記回転軸Aを位置させることにより、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。
【0049】
上記第1実施形態では、上記回転工具40の回転軸Aは、先端側が前進方向に位置するよう傾斜する前進角を設けることができ、上記前進角が0°である。特に、上記第1金属部材10の幅の中央に上記回転軸Aを位置させるときに、上記前進角を0°とするのが好ましい。このようにすることにより、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。
【0050】
◆第2実施形態
図3は、第2実施形態を説明する平面図である。
【0051】
第2実施形態では、上記回転工具40の回転軸Aが、上記第1金属部材10の幅の中央が上記回転工具40の回転前進側に存在するよう配置されている。
【0052】
図3(A)は第1例であり、上記回転工具40の回転軸Aが、一方の隙間13Bよりもさらに外側に位置することにより、上記第1金属部材10の幅の中央が上記回転工具40の回転前進側に存在するよう配置されている。
【0053】
図3(B)は第1例であり、上記回転工具40の回転軸Aが、一方の隙間13Bよりも内側に位置しており、その状態で、上記第1金属部材10の幅の中央が上記回転工具40の回転前進側に存在するよう配置されている。
【0054】
第2実施形態では、上記第1金属部材10の幅の中央が上記回転工具40の回転前進側に存在するよう配置されている。上記第1金属部材10の幅の中央を上記回転工具40の回転前進側に存在するよう配置することにより、両接合部が充填材30の組成流動における下流側に位置することになるため、両接合部の隙間に対する充填材30の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0055】
◆第3実施形態
図4は、第3実施形態を説明する側面図である。
【0056】
第3実施形態では、上記回転工具40の回転軸Aは、先端側が前進方向(図示の矢印F)に位置するよう傾斜する前進角αを設けており、上記前進角αが0°を超え、3°以下である。上記前進角αは、上記回転工具40の先端側が前進方向(図示の矢印F)の前方にあり、根元側がその後方になるよう、回転軸Aを傾斜させた角度である。
【0057】
特に、
図3に示したように、上記第1金属部材10の幅の中央を上記回転工具40の回転前進側に存在するよう上記回転軸Aを配置させたとき、上述した0°を超え、3°以下の前進角αを設けることが好ましい。このようにすることにより、両接合部の隙間に対する充填材30の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0058】
請求項4記載の異種金属接合材の製造方法は、上記回転工具40の回転軸Aは、先端側が前進方向(図示の矢印F)に位置するよう傾斜する前進角αを設けている。上記前進角αが0°を超え、3°以下である。この場合は、上記第1金属部材10の幅の中央を上記回転工具40の回転前進側に存在するよう配置することにより、両接合部が充填材30の組成流動における下流側に位置することになり、両接合部の隙間に対する充填材30の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0059】
◆回転工具の変形例
図5および
図6は、上記回転工具40の変形例を示す。これらを上述した第1~第3実施形態に適用することができる。
【0060】
図5(A)は第1例を示す縦断面図である。この例では、上記回転工具40の先端面は、凹面状である。このようにすることにより、組成流動した充填材30が上記凹面状の中に保持されながら押し付けられるため、充填材30が周囲に飛散するのを防止し、両接合部の隙間に対する充填材30の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。
【0061】
図5(B)は第2例を示す縦断面図である。この例では、上記回転工具40の先端面は、回転中心に突起41が設けられている。このようにすることにより、回転工具40の横ブレを防止し、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。
【0062】
図6(A-1)は第3例を示す縦断面図、
図6(A-2)は先端面を下から見た図である。この例では、上記回転工具40の先端面は、上記回転工具40が回転したときに上記充填材30を回転中心側に移動させることができる渦巻条として渦巻凹条45が形成されている。図示した例では、先端面の中央に突起41も形成されている。このようにすることにより、組成流動した充填材30が回転中心側に移動されながら押し付けられるため、充填材30が周囲に飛散するのを防止し、両接合部の隙間13A,13Bに対する充填材30の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。また、回転工具40の横ブレを防止し、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。
【0063】
図6(B-1)は第4例を示す縦断面図、
図6(B-2)は先端面を下から見た図である。この例では、上記回転工具40の先端面は、上記回転工具40が回転したときに上記充填材30を回転中心側に移動させることができる渦巻条として渦巻突条43が形成されている。図示した例では、先端面の中央に突起41も形成されている。このようにすることにより、組成流動した充填材30が回転中心側に移動されながら押し付けられるため、充填材30が周囲に飛散するのを防止し、両接合部の隙間13A,13Bに対する充填材30の充填が十分に行われて良好な接合状態を得られる。また、回転工具40の横ブレを防止し、両接合部に対して均等に回転工具40を押し付けて接合することができる。
【0064】
〔他の変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
【符号の説明】
【0065】
10:第1金属部材
13A:隙間
13B:隙間
20A:第2金属部材
20B:第2金属部材
30:充填材
40:回転工具
41:突起
43:渦巻突条
45:渦巻凹条
50:加工台