(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008418
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】自動車車体設計方法、装置及びプログラム、並びに自動車車体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/15 20200101AFI20240112BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240112BHJP
B62D 65/00 20060101ALI20240112BHJP
G06F 111/04 20200101ALN20240112BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20240112BHJP
【FI】
G06F30/15
G06F30/23
B62D65/00 Q
G06F111:04
G06F111:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110277
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】揚場 遼
【テーマコード(参考)】
3D114
5B146
【Fターム(参考)】
3D114AA16
3D114BA01
5B146AA05
5B146DC04
5B146DC05
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146EA18
(57)【要約】
【課題】自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計する自動車車体設計方法、装置及びプログラム、並びに自動車車体の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る自動車車体設計方法は、ホワイトボディ構造100を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、ホワイトボディ構造100の制振性を向上させた自動車車体を設計するものであって、ホワイトボディ構造100の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ステップS1と、選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ステップS3と、を含むものである。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計するために、コンピュータが以下の各ステップを実行する自動車車体設計方法であって、
前記ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ステップと、
該選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ステップと、を含み、
前記車体部品選定ステップは、
前記ホワイトボディ構造の振動特性に関する目的関数と、前記ホワイトボディ構造の重量及び前記各車体部品の板厚に関する制約条件と、前記ホワイトボディ構造に与える振動に関する振動入力条件と、を感度解析条件として設定する感度解析条件設定工程と、
該設定された感度解析条件の下で前記感度解析を行い、前記ホワイトボディ構造の振動特性に対する前記各車体部品の感度を求める感度解析工程と、
前記各車体部品について求めた感度に基づいて、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する板状部品貼付対象車体部品選定工程と、を有し、
前記板状部品最適化解析ステップは、
前記車体部品選定ステップにおいて選定された前記車体部品の表面に沿う二次元空間を、前記最適化解析の対象とする設計空間として設定する設計空間設定工程と、
該設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する板状部品モデル生成工程と、
該生成した板状部品モデルを、前記車体部品選定ステップにおいて選定された車体部品に結合する結合処理工程と、
前記感度解析条件として設定された前記目的関数及び前記振動入力条件と、前記ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を前記最適化解析を行うための最適化解析条件として設定する最適化解析条件設定工程と、
該設定された最適化解析条件の下で前記板状部品モデルの最適な形状を求める前記最適化解析を行う最適化解析工程と、を有することを特徴とする自動車車体設計方法。
【請求項2】
前記感度解析条件設定工程において、
所定の周波数帯における加速度、イナータンス、又は等価放射パワーのいずれかの周波数応答値を最小化する目的関数と、
前記各車体部品の板厚を元の前記各車体部品の板厚以上とする制約条件と、
前記ホワイトボディ構造に対して1又は2以上の部位に所定の振動を入力する振動入力条件と、を設定することを特徴とする請求項1記載の自動車車体設計方法。
【請求項3】
自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計する自動車車体設計装置であって、
前記ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ユニットと、
該選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ユニットと、を備え、
前記車体部品選定ユニットは、
前記ホワイトボディ構造の振動特性に関する目的関数と、前記ホワイトボディ構造の重量及び前記各車体部品の板厚に関する制約条件と、前記ホワイトボディ構造に与える振動に関する振動入力条件と、を感度解析条件として設定する感度解析条件設定部と、
該設定された感度解析条件の下で前記感度解析を行い、前記ホワイトボディ構造の振動特性に対する前記各車体部品の感度を求める感度解析部と、
前記各車体部品について求めた感度に基づいて、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する板状部品貼付対象車体部品選定部と、を有し、
前記板状部品最適化解析ユニットは、
前記車体部品選定ユニットにおいて選定された前記車体部品の表面に沿う二次元空間を、前記最適化解析の対象とする設計空間として設定する設計空間設定部と、
該設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する板状部品モデル生成部と、
該生成した板状部品モデルを、前記車体部品選定ユニットにおいて選定された車体部品に結合する結合処理部と、
前記感度解析条件として設定された前記目的関数及び前記振動入力条件と、前記ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を前記最適化解析を行うための最適化解析条件として設定する最適化解析条件設定部と、
該設定された最適化解析条件の下で前記板状部品モデルの最適な形状を求める前記最適化解析を行う最適化解析部と、を有することを特徴とする自動車車体設計装置。
【請求項4】
自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計する自動車車体設計プログラムであって、
コンピュータを、前記ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ユニットと、
該選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ユニットと、をして実行させる機能を備え、さらに、
前記車体部品選定ユニットを、
前記ホワイトボディ構造の振動特性に関する目的関数と、前記ホワイトボディ構造の重量及び前記各車体部品の板厚に関する制約条件と、前記ホワイトボディ構造に与える振動に関する振動入力条件と、を感度解析条件として設定する感度解析条件設定部と、
該設定された感度解析条件の下で前記感度解析を行い、前記ホワイトボディ構造の振動特性に対する前記各車体部品の感度を求める感度解析部と、
前記各車体部品について求めた感度に基づいて、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する板状部品貼付対象車体部品選定部と、して機能させ、
前記板状部品最適化解析ユニットを、
前記車体部品選定ユニットにおいて選定された前記車体部品の表面に沿う二次元空間を、前記最適化解析の対象とする設計空間として設定する設計空間設定部と、
該設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する板状部品モデル生成部と、
該生成した板状部品モデルを、前記車体部品選定ユニットにおいて選定された車体部品に結合する結合処理部と、
前記感度解析条件として設定された前記目的関数及び前記振動入力条件と、前記ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を前記最適化解析を行うための最適化解析条件として設定する最適化解析条件設定部と、
該設定された最適化解析条件の下で前記板状部品モデルの最適な形状を求める前記最適化解析を行う最適化解析部と、して機能させることを特徴とする自動車車体設計プログラム。
【請求項5】
自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を製造する自動車車体の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の自動車車体設計方法を用いて、前記ホワイトボディ構造において選定された前記車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適な形状を求め、
該求めた前記板状部品モデルの最適な形状に基づいて、前記選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状と貼り付ける位置を決定し、
該決定した板状部品の形状に基づいて該板状部品を製造し、
前記決定した前記板状部品の位置を用いて、前記製造した板状部品を前記ホワイトボディ構造における前記選定された車体部品に貼り付ける、ことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い制振性を有する自動車の車体を設計する自動車車体設計方法、装置及びプログラム、並びに自動車車体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、制振性に優れた自動車車体の効率的な設計手法の開発がこれまで以上に求められている。この大きな要因の一つとして、電気自動車の普及拡大が挙げられる。電気自動車は従来のガソリン車等に搭載されていた内燃機関による振動及び騒音発生がないため、その他の振動源による振動や騒音に対する乗員の感度が高まるためである。また、電気自動車は大容量バッテリーを搭載する必要があるため、電気自動車の車体骨格構造は、バッテリーの保護構造と相まって、従来のガソリン車等の車体骨格構造とは大きく異なるケースがある。このようなケースにおいては、電気自動車における振動伝達経路が従来のガソリン車等とは異なり、自動車車体の制振構造に関する従来の経験則が通用しない。
【0003】
従来より、高性能な自動車車体を効率的に設計する技術として、例えば特許文献1には、コンピュータを用いて車体部品の最適な形状を求める最適化解析が適用されている。当該技術は、最適化の対象とする車体部品の設計空間や拘束条件及び荷重条件を設定し、自動車車体の剛性や重量等の車体性能に関する目的条件を満たすように設計空間上の不要な部位を削除することで、車体部品の最適形状を求める方法である。
また、特許文献2には、自動車のパネル部品の振動騒音を低減するための骨格部品の最適な板厚を求める方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5585672号公報
【特許文献2】特許第6769536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている方法によれば、設定した複数の入力荷重に対し、ひずみエネルギーの最小化、発生応力の最小化、衝突吸収エネルギーの最大化等の目的関数を達成する車体部品の最適な3次元形状を求めることができる。
【0006】
そこで、自動車車体のホワイトボディ構造全体の制振性の向上を図るために、特許文献1に記載の最適化解析技術を、振動・音響分野に関する周波数応答の最適化に適用し、制振性を向上させる車体部品の最適形状を求めることが考えられる。しかし、これを試行した結果、車体部品の最適形状は3次元的にまばらに散在する形状となり、実際のホワイトボディ構造に対して有用な形状が得られなかった。そのため、たとえ最適化解析技術により最適な3次元形状を求めたとしても、求めた最適形状からプレス成形等により製造可能な部品形状を求めることができなかった。
【0007】
また、特許文献2に開示されている方法によれば、自動車車体として構成される車体部品の板厚分布を音響性能に関して最適化することが可能である。しかしながら、当該方法は車体部品における板厚分布の再構成を前提とするため、制振性は向上するものの、例えば車体剛性が低下してしまう等、他の車体性能を維持しつつ制振性を向上させることが困難な場合があった。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、剛性等の制振性以外の車体性能を維持しつつ、ホワイトボディ構造の制振性を向上した自動車車体を設計する自動車車体設計方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。さらに、本発明は、剛性等の制振性以外の車体性能を維持しつつ、ホワイトボディ構造の制振性を向上した自動車車体を製造する自動車車体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、上記課題を解決するため、元の自動車車体の剛性等の車体性能を維持しつつ制振性を向上させることができる自動車車体を設計する方法を鋭意検討した。その結果、ホワイトボディ構造全体の制振性の向上に効果的な車体部品を選定し、選定した車体部品の形状及び板厚は変更せずに板状部品を貼り付けて車体部品の質量分布を調整することを着想した。
そして、選定した車体部品に貼り付ける板状部品に関しては、ホワイトボディ構造の制振性及び軽量化の観点から、トポロジー最適化により振動特性に影響しない部分をそぎ落とすことにより、板状部品の最適な形状を求めることとした。
このように、制振性の向上に効果的な車体部品の選定と、選定した車体部品に貼り付ける板状部品の最適な形状を求めることにより、剛性等の車体性能を維持しつつ、ホワイトボディ構造全体の制振性を向上させることに想到した。
【0010】
さらに、トポロジー最適化等の最適化解析により残存する板状部品の形状が、実際の板状部品として製造しやすい形状とする手法についても鋭意検討した。
その結果、選定した車体部品の表面に沿う二次元空間を設計空間として設定し、シェル要素からなる板状部品モデルを生成して車体部品に結合し、板状部品モデルの最適形状を求めるトポロジー最適化を行うこととした。これにより、トポロジー最適化によって残存する板状部品モデルの最適形状が、実際の板状部品として製造しやすい形状となるという知見が得られた。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0012】
(1)本発明に係る自動車車体設計方法は、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計するために、コンピュータが以下の各ステップを実行するものであって、
前記ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ステップと、
該選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ステップと、を含み、
前記車体部品選定ステップは、
前記ホワイトボディ構造の振動特性に関する目的関数と、前記ホワイトボディ構造の重量及び前記各車体部品の板厚に関する制約条件と、前記ホワイトボディ構造に与える振動に関する振動入力条件と、を感度解析条件として設定する感度解析条件設定工程と、
該設定された感度解析条件の下で前記感度解析を行い、前記ホワイトボディ構造の振動特性に対する前記各車体部品の感度を求める感度解析工程と、
前記各車体部品について求めた感度に基づいて、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する板状部品貼付対象車体部品選定工程と、を有し、
前記板状部品最適化解析ステップは、
前記車体部品選定ステップにおいて選定された前記車体部品の表面に沿う二次元空間を、前記最適化解析の対象とする設計空間として設定する設計空間設定工程と、
該設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する板状部品モデル生成工程と、
該生成した板状部品モデルを、前記車体部品選定ステップにおいて選定された車体部品に結合する結合処理工程と、
前記感度解析条件として設定された前記目的関数及び前記振動入力条件と、前記ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を前記最適化解析を行うための最適化解析条件として設定する最適化解析条件設定工程と、
該設定された最適化解析条件の下で前記板状部品モデルの最適な形状を求める前記最適化解析を行う最適化解析工程と、を有することを特徴とするものである。
【0013】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記感度解析条件設定工程において、
所定の周波数帯における加速度、イナータンス、又は等価放射パワーのいずれかの周波数応答値を最小化する目的関数と、
前記各車体部品の板厚を元の前記各車体部品の板厚以上とする制約条件と、
前記ホワイトボディ構造に対して1又は2以上の部位に所定の振動を入力する振動入力条件と、を設定することを特徴とするものである。
【0014】
(3)本発明に係る自動車車体設計装置は、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計するものであって、
前記ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ユニットと、
該選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ユニットと、を備え、
前記車体部品選定ユニットは、
前記ホワイトボディ構造の振動特性に関する目的関数と、前記ホワイトボディ構造の重量及び前記各車体部品の板厚に関する制約条件と、前記ホワイトボディ構造に与える振動に関する振動入力条件と、を感度解析条件として設定する感度解析条件設定部と、
該設定された感度解析条件の下で前記感度解析を行い、前記ホワイトボディ構造の振動特性に対する前記各車体部品の感度を求める感度解析部と、
前記各車体部品について求めた感度に基づいて、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する板状部品貼付対象車体部品選定部と、を有し、
前記板状部品最適化解析ユニットは、
前記車体部品選定ユニットにおいて選定された前記車体部品の表面に沿う二次元空間を、前記最適化解析の対象とする設計空間として設定する設計空間設定部と、
該設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する板状部品モデル生成部と、
該生成した板状部品モデルを、前記車体部品選定ユニットにおいて選定された車体部品に結合する結合処理部と、
前記感度解析条件として設定された前記目的関数及び前記振動入力条件と、前記ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を前記最適化解析を行うための最適化解析条件として設定する最適化解析条件設定部と、
該設定された最適化解析条件の下で前記板状部品モデルの最適な形状を求める前記最適化解析を行う最適化解析部と、を有することを特徴とするものである。
【0015】
(4)本発明に係る自動車車体設計プログラムは、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計するものであって、
コンピュータを、前記ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性に対する前記車体部品の感度解析を行い、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する車体部品選定ユニットと、
該選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行う板状部品最適化解析ユニットと、をして実行させる機能を備え、さらに、
前記車体部品選定ユニットを、
前記ホワイトボディ構造の振動特性に関する目的関数と、前記ホワイトボディ構造の重量及び前記各車体部品の板厚に関する制約条件と、前記ホワイトボディ構造に与える振動に関する振動入力条件と、を感度解析条件として設定する感度解析条件設定部と、
該設定された感度解析条件の下で前記感度解析を行い、前記ホワイトボディ構造の振動特性に対する前記各車体部品の感度を求める感度解析部と、
前記各車体部品について求めた感度に基づいて、前記板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する板状部品貼付対象車体部品選定部と、して機能させ、
前記板状部品最適化解析ユニットを、
前記車体部品選定ユニットにおいて選定された前記車体部品の表面に沿う二次元空間を、前記最適化解析の対象とする設計空間として設定する設計空間設定部と、
該設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する板状部品モデル生成部と、
該生成した板状部品モデルを、前記車体部品選定ユニットにおいて選定された車体部品に結合する結合処理部と、
前記感度解析条件として設定された前記目的関数及び前記振動入力条件と、前記ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を前記最適化解析を行うための最適化解析条件として設定する最適化解析条件設定部と、
該設定された最適化解析条件の下で前記板状部品モデルの最適な形状を求める前記最適化解析を行う最適化解析部と、して機能させることを特徴とするものである。
【0016】
(5)本発明に係る自動車車体の製造方法は、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を製造するものであって、
上記(1)又は(2)に記載の自動車車体設計方法を用いて、前記ホワイトボディ構造において選定された前記車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適な形状を求め、
該求めた前記板状部品モデルの最適な形状に基づいて、前記選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状と貼り付ける位置を決定し、
該決定した板状部品の形状に基づいて該板状部品を製造し、
前記決定した前記板状部品の位置を用いて、前記製造した板状部品を前記ホワイトボディ構造における前記選定された車体部品に貼り付ける、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、板状部品を貼り付ける車体部品を適切に選定し、かつ、最適化解析により板状部品モデルの最適形状を求めることにより、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計することができる。
また、本発明によれば、選定された車体部品の表面に沿う二次元空間を設計空間として設定し、板状部品モデルの最適形状を求める最適化解析を行うことにより、実際の板状部品としてプレス成形等により製造しやすい形状を得ることができる。
さらに、本発明によれば、剛性等の制振性以外の車体性能を維持しつつ、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施の形態1に係る自動車車体設計装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本実施の形態1において解析対象とした自動車車体のホワイトボディ構造を示す図である。
【
図3】本実施の形態1において、ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性を求める部位の具体例を示す図である((a)ルーフパネル、(b)ルーフセンターRF及びフロアクロスメンバー)。
【
図4】本実施の形態1において、ホワイトボディ構造の制振性の評価に用いる振動特性の一例として求めた、ルーフセンターRFのイナータンスの周波数応答性である。
【
図5】本実施の形態1、実施例2及び実施例6において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率と、板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す図である((a)感度解析結果、(b)選定された車体部品)。
【
図6】本実施の形態1及び実施の形態2、並びに、実施例2及び実施例6において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す図である。
【
図7】本実施の形態1に係る自動車車体設計方法の処理の流れを示すフロー図である。
【
図8】実施例1において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率と、該板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す図である((a)感度解析結果、(b)選定された車体部品)。
【
図9】実施例1において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す図である。
【
図10】実施例3において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率と、該板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す図である((a)感度解析結果、(b)選定された車体部品)。
【
図11】実施例3において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す図である。
【
図12】実施例4において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率と、該板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す図である((a)感度解析結果、(b)選定された車体部品)。
【
図13】実施例4において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す図である。
【
図14】実施例5において、感度解析により求めた車体部品の要素ごとの板厚変化率と、該板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す図である((a)感度解析結果、(b)選定された車体部品)。
【
図15】実施例5において、感度解析の結果基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す図である。
【
図16】実施例6において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態1及び実施の形態2について説明するに先立ち、本発明で対象とする自動車車体のホワイトボディ構造について説明する。なお、本願の図面において、X方向、Y方向及びZ方向は、それぞれ、車体前後方向、車体幅方向及び車体上下方向を示す。
【0020】
<ホワイトボディ構造>
自動車車体のホワイトボディ構造100は、一例として
図2に示すように、車体骨格部品やパネル部品等の車体部品で構成されたものである。車体骨格部品としては、センターピラー101、ルーフセンターRF103、フロアクロスメンバー105、リアサイドシル107、等が例示できる。また、パネル部品としては、ルーフパネル109、ドアパネル111、等が例示できる。
【0021】
本発明は、後述するように、ホワイトボディ構造100の振動特性に対する車体部品の感度解析と、車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求める最適化解析と、を行うものである。そのため、ホワイトボディ構造100を構成する車体部品は、シェル要素及び/又はソリッド要素でモデル化されているものとする。そして、ホワイトボディ構造100を構成する車体部品の要素情報や材料特性等は、後述するホワイトボディ構造モデルファイル21(
図1)に保存されているものとする。
【0022】
[実施の形態1]
<自動車車体設計装置>
本発明の実施の形態1に係る自動車車体設計装置は、自動車車体のホワイトボディ構造100を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、ホワイトボディ構造100の制振性を向上させた自動車車体を設計するものである。そして、自動車車体設計装置1は、一例として
図1に示すように、PC(パーソナルコンピュータ)等によって構成され、表示装置3と、入力装置5と、記憶装置7と、作業用データメモリ9と、演算処理部11と、を備えている。表示装置3、入力装置5、記憶装置7及び作業用データメモリ9は、演算処理部11に接続され、演算処理部11からの指令によってそれぞれの機能が実行される。
以下、自動車車体設計装置1の各構成について説明する。
【0023】
表示装置3は、解析結果の表示等に用いられ、液晶モニター等で構成される。
入力装置5は、ホワイトボディ構造モデルファイル21の表示指示や操作者の条件入力等に用いられ、キーボードやマウス等で構成される。
記憶装置7は、ホワイトボディ構造モデルファイル21等の各種ファイルの記憶等に用いられ、ハードディスク等で構成される。
作業用データメモリ9は、演算処理部11で使用するデータの一時保存や演算に用いられ、RAM(Random Accress Memory)等で構成される。
【0024】
演算処理部11は、
図1に示すように、車体部品選定ユニット13と、板状部品最適化解析ユニット15と、を有し、PC等のCPU(中央演算処理装置)によって構成される。これらの各ユニットは、CPUが所定のプログラムを実行することによって機能する。
演算処理部11における上記の各ユニットの機能を以下に説明する。
【0025】
≪車体部品選定ユニット≫
車体部品選定ユニット13は、ホワイトボディ構造100の制振性の評価に用いる振動特性に対する各車体部品の感度解析を行い、板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定するものである。そして、車体部品選定ユニット13は、
図1に示すように、感度解析条件設定部13aと、感度解析部13bと、板状部品貼付対象車体部品選定部13cと、を有する。
【0026】
(感度解析条件設定部)
感度解析条件設定部13aは、ホワイトボディ構造100の制振性の評価に用いる振動特性に対する車体部品の感度解析における感度解析条件を設定するものである。そして、感度解析条件設定部13aは、感度解析条件として、ホワイトボディ構造100の振動特性に関する目的関数と、ホワイトボディ構造100の重量及び各車体部品の板厚に関する制約条件と、を設定する。さらに、感度解析条件設定部13aは、感度解析条件として、ホワイトボディ構造100に与える振動に関する振動入力条件を設定する。
【0027】
目的関数は、ホワイトボディ構造100の制振性の評価に用いる振動特性に応じて設定するものである。振動特性としては、ホワイトボディ構造100の所定の部位における所定の周波数帯の加速度、イナータンス、又は、等価放射パワー、等の周波数応答値がある。
【0028】
イナータンスとは、物体に入力する力と、それによって発生する加速度の比をとったものであり、振動伝達関数とも呼ばれる。イナータンスIは、以下の式(1)により算出することができる。
【数1】
ここで、aは振動特性の評価部位における加速度振幅、Fはホワイトボディ構造に入力した振動の荷重振幅、である。
【0029】
等価放射パワーとは、構造物が発する音のレベルを簡易的に表現する指標であり、構造物の振動速度の面直成分が音響空間にエネルギーを与える、という考えに基づいている。等価放射パワーERPは、以下の式(2)により算出することができ、単位時間あたりの音響放射エネルギーを表す。
【数2】
ここで、lfは損失係数、cは音速、ρは媒質密度、vは速度の面直成分、∫dsは対象面の面積、である。
【0030】
図3に、振動特性を評価する部位の例を示す。
図3(a)は、振動特性として等価放射パワーを評価するルーフパネル109を示している図である。
図3(b)は、振動特性としてイナータンスを評価するルーフセンターRF103と、フロアクロスメンバー105を示している図である。
【0031】
図4に、振動特性の一例として、ルーフセンターRF103の中央部における鉛直方向のイナータンスの周波数応答を示す。
【0032】
本実施の形態1では、ホワイトボディ構造100におけるルーフセンターRF103の中央部の95Hz~115Hzの周波数帯における鉛直方向のイナータンスの最小化、を目的関数として設定する。
【0033】
なお、振動特性を評価するホワイトボディ構造100における部位は、操作者の指示により適宜設定する。
【0034】
制約条件は、ホワイトボディ構造100の振動特性に対する車体部品の感度解析を行う上で課す制約である。
本実施の形態1において、感度解析条件設定部13aは、ホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件として、ホワイトボディ構造100の総重量を所定の重量以下を設定し、各車体部品の板厚に関する制約条件として、各車体部品の元の板厚以上を設定する。
【0035】
振動入力条件は、ホワイトボディ構造100の振動特性に対する各車体部品の感度解析において、ホワイトボディ構造100に与える振動に関する条件である。
振動に関する条件としては、振幅(振動の大きさ)、周波数(振動数)及び振動を与える部位を設定する。
振動を与える部位の例として、例えば
図2中に△印で示すフロントサブフレーム113やサスタワー115が挙げられる。
【0036】
感度解析条件設定部13aは、ホワイトボディ構造100に対して1箇所又は2箇所以上の部位に所定の振動を与える振動入力条件を設定する。
1箇所の部位に所定の振動を与える態様としては、例えば、フロントサブフレーム113又はサスタワー115のいずれか一つに所定の振動を与える振動入力条件を設定する。
2か所の部位に所定の振動を与える態様としては、例えば、フロントサブフレーム113とサスタワー115の双方、あるいはこれらの部位に加えて他の部位を振動を与える部位に所定の振動を与える振動入力条件を設定する。
【0037】
複数の部位に振動を与える場合、これらの部位に対しては振幅及び周波数が同一の振動を与えるものであってもよいし、少なくとも振幅又は周波数が異なる振動を与えるものであってもよい。
【0038】
(感度解析部)
感度解析部13bは、感度解析条件設定部13aにより設定された感度解析条件の下で感度解析を行い、ホワイトボディ構造100の振動特性に対する各車体部品の感度を求めるものである。
【0039】
本実施の形態1では、感度解析部13bによる感度解析としては、各車体部品の板厚最適化解析を行う。そして、各車体部品の感度として、元の板厚t0を基準としたときの最適な板厚tの変化した割合である板厚変化率(=(t-t0)×100/t0[%])を算出する。
【0040】
もっとも、感度解析部13bは、感度として、例えば、最適な板厚tと元の板厚t0との差(=t-t0)や、最適な板厚tと元の板厚t0との比(=t/t0)を算出してもよい。
【0041】
また、感度解析部13bは、車体部品全体の最適な板厚を求める板厚最適化解析、又は、車体部品のモデル化に用いられたシェル要素ごとに最適な板厚を求める板厚最適化解析、のいずれであってもよい。
【0042】
図5(a)に、
図2に示したホワイトボディ構造100の各車体部品の感度を求める感度解析を行った結果の一例を示す。
図5(a)に示す結果は、感度解析条件として、ルーフセンターRF103の中央部のイナータンスの最小化とする目的関数と、ホワイトボディ構造100の重量の増加を5kg以内及び車体部品の板厚を元の板厚以上とする制約条件を与えたものである。さらに、感度解析条件として、フロントサブフレーム113に所定の振動を与える振動入力条件を与えたものである。
【0043】
図5(a)に示すように、ルーフセンターRF103、ルーフレール117と、ホイールハウス119等の車体部品における板厚変化率が大きいことから、これらの車体部品のホワイトボディ構造100の振動特性に対する感度が高いことが分かる。
【0044】
(板状部品貼付対象車体部品選定部)
板状部品貼付対象車体部品選定部13cは、感度解析部13bにより各車体部品について求められた感度に基づいて、板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定するものである。
【0045】
感度解析部13bにより車体部品ごとに感度を求める板厚最適化解析を行った場合、板状部品貼付対象車体部品選定部13cは、感度が予め設定した所定の値よりも大きい車体部品を選定する。
一方、感度解析部13bにより車体部品のシェル要素ごとに感度を求める板厚最適化解析を行った場合、まず、各車体部品に含まれるシェル要素のうち、感度が所定の値以上のシェル要素の割合を算出する。そして、算出したシェル要素の割合が大きい車体部品を選定すればよい。
【0046】
図5(b)に、車体部品ごとの板厚変化率が5%以上と大きく、板状部品を貼り付ける対象として選定されたルーフセンターRF103、ルーフレール117と、ホイールハウス119等を示す。
【0047】
≪板状部品最適化解析ユニット≫
板状部品最適化解析ユニット15は、車体部品選定ユニット13により選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行うものである。そして、板状部品最適化解析ユニット15は、
図1に示すように、設計空間設定部15aと、板状部品モデル生成部15bと、結合処理部15cと、材料特性設定部15dと、最適化解析条件設定部15eと、最適化解析部15fと、を有する。
【0048】
(設計空間設定部)
設計空間設定部15aは、車体部品選定ユニット13により選定された車体部品の表面に沿う二次元空間を、最適化解析の対象とする設計空間として設定するものである。
【0049】
(板状部品モデル生成部)
板状部品モデル生成部15bは、設計空間設定部15aにより設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成するものである。
【0050】
(結合処理部)
結合処理部15cは、板状部品モデル生成部15bにより生成された板状部品モデルを、車体部品選定ユニット13により選定された車体部品に結合するものである。
【0051】
板状部品モデルと車体部品との結合は、例えば、板状部品モデルの節点と車体部品の節点とを要素(剛体要素、弾性体要素、又は弾塑性体要素)で結合(剛体結合、又は弾性体結合)するものとすればよい。
【0052】
(材料特性設定部)
材料特性設定部15dは、板状部品モデルに材料特性を設定するものである。
設定する材料特性は、実際の車体部品に貼り付ける板状部品の材料の種類(鋼板等)に応じて設定すればよい。
材料特性設定部15dにより板状部品モデルに設定する材料特性は、実際の車体部品に貼り付ける板状部品の材料の種類(鋼板等)に応じて設定すればよい。また、板状部品モデルに設定する板厚は、実際に適用する材料の板厚とすればよい。板厚の値に関しては特に制限はないが、板材と見做せる範囲(0.5mm~10mm程度)が好ましい。
なお、結合処理部15cによる板状部品モデルの材料特性の設定は、結合処理部15cにより板状部品モデルを車体部品に結合する前、又は、結合した後、のいずれであってもよい。
【0053】
(最適化解析条件設定部)
最適化解析条件設定部15eは、感度解析条件設定部13aにより感度解析条件として設定された目的関数及び振動入力条件と、ホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件と、を最適化解析条件として設定するものである。
【0054】
最適化解析条件設定部15eは、ホワイトボディ構造100の所定の部位における所定の周波数帯の加速度、イナータンス、又は等価放射パワーのいずれかの周波数応答値の最小化とする目的関数を設定することができる。
さらに、最適化解析条件設定部15eは、ホワイトボディ構造100に対して1又は2以上の部位に所定の振動を入力する振動入力条件を設定することができる。
【0055】
本実施の形態1において、最適化解析条件設定部15eは、所定の周波数帯におけるルーフセンターRF103の中央部のイナータンスを最小化する目的関数と、ホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件と、を設定する。さらに、本実施の形態1において、最適化解析条件設定部15eは、ホワイトボディ構造100に対してフロントサブフレーム113に所定の振動を入力する振動入力条件を設定する。
【0056】
(最適化解析部)
最適化解析部15fは、最適化解析条件設定部15eにより設定された最適化解析条件の下で板状部品モデルの最適形状を求める最適化解析を行うものである。
【0057】
最適化解析部15fによる最適化解析には、例えば、シェル要素のトポロジー最適化を適用するとよい。密度法を用いたトポロジー最適化においては、板状部品モデルのシェル要素の密度を設計変数として最適化の解析処理を行い、シェル要素が残存及び消去することにより、板状部品モデルの最適形状が求められる。さらに、最適化の解析処理において残存したシェル要素の位置から、板状部品モデルの最適な位置を求めることができる。
【0058】
なお、密度法を用いたトポロジー最適化において中間的な密度が多い場合、最適化パラメータとしてペナルティ係数を与えて離散化することが好ましい。この場合、ペナルティ係数の値は適宜設定することができる。
【0059】
最適化解析部15fは、上記のとおりトポロジー最適化を行うものに限定されるものではなく、他の計算方式による最適化解析であってもよい。また、最適化解析部15fは、例えば市販されている有限要素法を用いた解析ソフトを使用することもできる。
【0060】
図6に、最適化解析部15fにより最適化解析を行って求められた板状部品モデルの最適形状の一例を示す。
図6に示すように、ルーフセンターRF103に貼り付ける板状部品モデルの最適形状121と、ルーフレール117に貼り付ける板状部品モデルの最適形状123と、ホイールハウス119に貼り付ける板状部品モデルの最適形状125が得られた。
【0061】
<自動車車体設計方法>
本実施の形態1に係る自動車車体設計方法は、自動車車体のホワイトボディ構造100を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、ホワイトボディ構造100の制振性を向上させた自動車車体を設計するためのものである。そして、本実施の形態1に係る自動車車体設計方法は、コンピュータが
図7に示す各ステップを実行するものであり、車体部品選定ステップS1と、板状部品最適化解析ステップS3と、を含む。
【0062】
≪車体部品選定ステップ≫
車体部品選定ステップS1は、ホワイトボディ構造100の制振性の評価に用いる振動特性に対する車体部品の感度解析を行い、板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定するステップである。そして、車体部品選定ステップS1は、
図7に示すように、感度解析条件設定工程S1aと、感度解析工程S1bと、板状部品貼付対象車体部品選定工程S1cと、を有する。
本実施の形態1において、車体部品選定ステップS1は、自動車車体設計装置1の車体部品選定ユニット13が実行する。
【0063】
(感度解析条件設定工程)
感度解析条件設定工程S1aは、ホワイトボディ構造100の制振性の評価に用いる振動特性に対する車体部品の感度解析における感度解析条件を設定する工程である。そして、感度解析条件として、ホワイトボディ構造100の振動特性に関する目的関数と、ホワイトボディ構造100の重量及び各車体部品の板厚に関する制約条件と、ホワイトボディ構造100に与える振動に関する振動入力条件と、設定する。
【0064】
本実施の形態1において、感度解析条件設定工程S1aは、自動車車体設計装置1の感度解析条件設定部13aが実行する。
【0065】
感度解析条件設定工程S1aにおいては、ホワイトボディ構造100の所定の部位における所定の周波数帯の加速度、イナータンス、又は等価放射パワーのいずれかの周波数応答値の最小化とする目的関数を設定することができる。ここで、イナータンスは前掲した式(1)により算出することができ、等価放射パワーは前掲した式(2)により算出することができる。
【0066】
感度解析条件設定工程S1aにおいては、ホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件として、ホワイトボディ構造100の総重量を所定の重量以下を設定し、各車体部品の板厚に関する制約条件として、各車体部品の元の板厚以上を設定することができる。
【0067】
さらに、感度解析条件設定工程S1aにおいては、ホワイトボディ構造100に対して1又は2以上の部位に所定の振動を入力する振動入力条件を設定することができる。
【0068】
1箇所の部位に所定の振動を与える態様としては、例えば
図2中に△印で示すように、フロントサブフレーム113又はサスタワー115のいずれか一つに所定の振動を与える振動入力条件を設定する。
2か所の部位に所定の振動を与える態様としては、例えば
図2において、フロントサブフレーム113とサスタワー115の双方、あるいはこれらの部位に加えて他の部位を振動を与える部位とし、これら複数の部位に所定の振動を与える振動入力条件を設定する。
【0069】
複数の部位に振動を与える場合、これらの部位に対しては振幅及び周波数が同一の振動を与えるものであってもよいし、少なくとも振幅又は周波数が異なる振動を与えるものであってもよい。
【0070】
(感度解析工程)
感度解析工程S1bは、感度解析条件設定工程S1aにおいて設定された感度解析条件の下で感度解析を行い、ホワイトボディ構造100の振動特性に対する各車体部品の感度を求める工程である。
本実施の形態1において、感度解析工程S1bは、自動車車体設計装置1の感度解析部13bが実行する。
【0071】
感度解析工程S1bにおける感度解析には、各車体部品の板厚最適化解析を適用することができる。この場合、各車体部品の感度として、元の板厚t0を基準としたときの最適な板厚tの変化した割合である板厚変化率(=(t-t0)×100/t0[%])を算出するとよい。もっとも、例えば、最適な板厚tと元の板厚t0との差(=t-t0)や、最適な板厚tと元の板厚t0との比(=t/t0)を感度として算出してもよい。
【0072】
また、感度解析工程S1bにおける感度解析には、車体部品全体の最適な板厚を求める板厚最適化解析、又は、車体部品のモデル化に用いられたシェル要素ごとに最適な板厚を求める板厚最適化解析、のいずれであってもよい。
【0073】
(板状部品貼付対象車体部品選定工程)
板状部品貼付対象車体部品選定工程S1cは、感度解析工程S1bにおいて各車体部品について求めた感度に基づいて、板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定する工程である。
本実施の形態1において、板状部品貼付対象車体部品選定工程S1cは、自動車車体設計装置1の板状部品貼付対象車体部品選定部13cが実行する。
【0074】
感度解析工程S1bにおいて車体部品ごとに感度を求める板厚最適化解析を行った場合、板状部品貼付対象車体部品選定工程S1cにおいては、感度が予め設定した所定の値よりも大きい車体部品を選定する。
一方、感度解析工程S1bにおいて車体部品のシェル要素ごとに感度を求める板厚最適化解析を行った場合、まず、各車体部品に含まれるシェル要素のうち、感度が所定の値以上のシェル要素の割合を算出する。そして、算出したシェル要素の割合が大きい車体部品を選定すればよい。
【0075】
≪板状部品最適化解析ステップ≫
板状部品最適化解析ステップS3は、車体部品選定ステップS1において選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状についての最適化解析を行うステップである。そして、板状部品最適化解析ステップS3は、
図7に示すように、設計空間設定工程S3aと、板状部品モデル生成工程S3bと、結合処理工程S3cと、材料特性設定工程S3dと、最適化解析条件設定工程S3eと、最適化解析工程S3fと、を有する。
本実施の形態1において、板状部品最適化解析ステップS3は、自動車車体設計装置1の板状部品最適化解析ユニット15が実行する。
【0076】
(設計空間設定工程)
設計空間設定工程S3aは、車体部品選定ステップS1において選定された車体部品の表面に沿う二次元空間を、最適化解析の対象とする設計空間として設定する工程である。
本実施の形態1において、設計空間設定工程S3aは、自動車車体設計装置1の設計空間設定部15aが実行する。
【0077】
(板状部品モデル生成工程)
板状部品モデル生成工程S3bは、設計空間設定工程S3aにおいて設定された設計空間に、シェル要素でモデル化されて最適化の解析処理を行う板状部品モデルを生成する工程である。
本実施の形態1において、板状部品モデル生成工程S3bは、自動車車体設計装置1の板状部品モデル生成部15bが実行する。
【0078】
(結合処理工程)
結合処理工程S3cは、板状部品モデル生成工程S3bにおいて生成された板状部品モデルを、車体部品選定ステップS1において選定された車体部品に結合する工程である。
本実施の形態1において、結合処理工程S3cは、自動車車体設計装置1の結合処理部15cが実行する。
【0079】
結合処理工程S3cにおいて、板状部品モデルと車体部品との結合は、例えば、板状部品モデルの節点と車体部品の節点とを要素(剛体要素、弾性体要素、又は弾塑性体要素)で結合(剛体結合、又は弾性体結合)するものとすればよい。
【0080】
(材料特性設定工程)
材料特性設定工程S3dは、板状部品モデルに材料特性を設定する工程である。
本実施の形態1において、材料特性設定工程S3dは、自動車車体設計装置1の材料特性設定部15dが実行する。
材料特性設定工程S3dにおいて設定する材料特性は、実際の車体部品に貼り付ける板状部品の材料の種類(鋼板等)に応じて設定すればよい。また、板状部品モデルに設定する板厚は、実際に適用する材料の板厚とすればよい。板厚の値に関しては特に制限はないが、板材と見做せる範囲(0.5mm~10mm程度)が好ましい。
なお、材料特性設定工程S3dにおける板状部品モデルへの材料特性の設定は、結合処理工程S3cにおいて板状部品モデルを車体部品に結合する前、又は、結合した後、のいずれであってもよい。
【0081】
(最適化解析条件設定工程)
最適化解析条件設定工程S3eは、感度解析条件設定工程S11において感度解析条件として設定された目的関数及び振動入力条件と、ホワイトボディ構造の重量に関する制約条件と、を最適化解析条件として設定する工程である。
本実施の形態1において、最適化解析条件設定工程S3eは、自動車車体設計装置1の最適化解析条件設定部15eが実行する。
【0082】
最適化解析条件設定工程S3eにおいては、ホワイトボディ構造100の所定の部位における所定の周波数帯の加速度、イナータンス、又は等価放射パワーのいずれかの周波数応答値の最小化とする目的関数を設定することができる。
さらに、最適化解析条件設定工程S3eにおいては、ホワイトボディ構造100に対して1又は2以上の部位に所定の振動を入力する振動入力条件を設定することができる。
【0083】
なお、最適化解析条件として設定される目的関数及び振動入力条件は、感度解析条件設定工程で設定された目的関数及び振動入力条件と同一のものとする。
これに対し、最適化解析条件として設定されるホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件は、感度解析条件設定工程で制約条件の一つとして設定されたホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件と同一とすると良い。
また、ホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件とは、板状部品を貼り付けることによる重量増加を所定の値以下とする制約である。そのため、ホワイトボディ構造100の重量に関する制約条件とは、板状部品モデルの重量に関する制約条件と同義である。
【0084】
(最適化解析工程)
最適化解析工程S3fは、最適化解析条件設定工程S3eにおいて設定された最適化解析条件の下で板状部品モデルの最適形状を求める最適化解析を行う工程である。
本実施の形態1において、最適化解析工程S3fは、自動車車体設計装置1の最適化解析部15fが実行する。
【0085】
最適化解析工程S3fにおける最適化解析には、例えば、トポロジー最適化を適用することができる。密度法を用いたトポロジー最適化においては、板状部品モデルのシェル要素の密度を設計変数として最適化の解析処理を行い、シェル要素が残存及び消去することにより、板状部品モデルの最適形状が求められる。さらに、最適化の解析処理において残存した板状部品モデルのシェル要素の位置から、板状部品モデルの最適な位置を求めることができる。
【0086】
なお、密度法を用いたトポロジー最適化において中間的な密度が多い場合、最適化パラメータとしてペナルティ係数を与えて離散化することが好ましい。この場合、ペナルティ係数の値は適宜設定することができる。
【0087】
最適化解析工程S3fは、上記のとおりトポロジー最適化を行うものに限定されるものではなく、他の計算方式による最適化解析であってもよい。また、最適化解析工程S3fでは、例えば市販されている有限要素法を用いた解析ソフトを使用することもできる。
【0088】
<自動車車体設計プログラム>
上記の本実施の形態1についての説明は荷重伝達構造最適化解析装置及び方法についてのものであった。もっとも、本実施の形態1は、コンピュータによって構成された自動車車体設計装置1(
図1)の演算処理部11における各ユニットを機能させる自動車車体設計プログラムとして構成することができる。
【0089】
本実施の形態1に係る自動車車体設計プログラムは、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計するものである。そして、本実施の形態1に係る自動車車体設計プログラムは、コンピュータを、
図1に示す演算処理部11のように、車体部品選定ユニット13と、板状部品最適化解析ユニット15と、して機能させるものである。
【0090】
ここで、本実施の形態1に係る自動車車体設計プログラムは、コンピュータを車体部品選定ユニット13として機能させるため、車体部品選定ユニット13が有する各部を機能させる。車体部品選定ユニット13は、前述した
図1に示すように、感度解析条件設定部13aと、感度解析部13bと、板状部品貼付対象車体部品選定部13cと、を有する。
【0091】
さらに、本実施の形態1に係る自動車車体設計プログラムは、コンピュータを板状部品最適化解析ユニット15として機能させるため、板状部品最適化解析ユニット15が有する各部を機能させる。板状部品最適化解析ユニット15は、前述した
図1に示すように、設計空間設定部15aと、板状部品モデル生成部15bと、結合処理部15cと、材料特性設定部15dと、最適化解析条件設定部15eと、最適化解析部15fと、を有する。
【0092】
以上、本実施の形態1に係る自動車車体設計装置、方法及びプログラムによれば、板状部品を貼り付ける車体部品を適切に選定し、かつ、板状部品の最適形状を求めることにより、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計することができる。
さらに、本実施の形態1によれば、選定された車体部品の表面に沿う二次元空間を設計空間として設定し、シェル要素でモデル化した板状部品モデルの最適形状を求めることにより、実際の板状部品としてプレス成形等により製造しやすい形状を得ることができる。
本実施の形態1に係る自動車車体設計装置、方法及びプログラムによる制振性の向上の効果は、後述する実施例において検証する。
【0093】
なお、本実施の形態1に係る自動車車体設計装置、方法及びプログラムは、車体部品に板状部品を貼り付けて車体部品の質量分布を変更することにより、自動車車体のホワイトボディ構造の制振性を向上させるものである。ただし、自動車車体の制振性に関わる振動特性は、車体部品の質量分布の他にも、剛性も影響する。そのため、板状部品モデルの最適形状を求める最適化解析としてトポロジー最適化を適用する場合、シェル要素でモデル化された板状部品モデルの材料特性として、実際の板状部品に用いる材料(例えば、鋼板等)のヤング率をそのまま与えることが考えられる。
【0094】
また、トポロジー最適化によって残存する板状部品モデルの形状は、車体部品の剛性の影響を受けやすい。すなわち、板状部品モデルを車体部品に結合してトポロジー最適化を行うと、車体部品における稜線部等といった剛性向上の効果を得やすい部分に板状部品モデルがポーラス状に残存しやすい場合があることが判明した。そして、このようなポーラス状に残存した板状部品モデルの最適形状は、実際に板状部品を製造するのが困難な形状であると考えられる。
【0095】
このような板状部品モデルの最適形状が得られる場合、板状部品モデルに設定する材料特性は、実際に使用する材料のヤング率以外の材料特性はそのまま設定し、ヤング率は極小値を設定することが好ましい。これにより、板状部品モデルによる剛性の影響を排除して、主に車体部品の面状部位にまとまって残存した最適形状が得られ、板状部品の製造が容易な形状が得られる。
【0096】
[実施の形態2]
前述した実施の形態1に係る自動車車体設計方法は、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、前記ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計するものであった。
【0097】
もっとも、本発明は、自動車車体のホワイトボディ構造を構成する車体部品の表面に板状部品を貼り付けて、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を製造する自動車車体の製造方法として構成することができる。
【0098】
すなわち、本実施の形態2に自動車車体の製造方法は、まず、前述した実施の形態1に係る自動車車体設計方法を用いて、ホワイトボディ構造において選定された前記車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適な形状を求める。
次に、求めた板状部品モデルの最適な形状に基づいて、選定された車体部品に貼り付ける板状部品の形状と貼り付ける位置を決定する。
続いて、決定した板状部品の形状に基づいて板状部品を製造する。
そして、決定した板状部品の位置を用いて、製造した板状部品をホワイトボディ構造における選定された車体部品に貼り付ける。
【0099】
例として、前述した実施の形態1に係る自動車車体設計方法を用いて、板状部品モデルの最適な形状として
図6に示す最適形状121、123及び125が求められた場合について、本実施の形態2に係る自動車車体の製造方法を説明する。
【0100】
実施の形態1に係る自動車車体設計方法では、板状部品を貼り付け対象とする車体部品としてルーフセンターRF103、ルーフレール117及びホイールハウス119が選定されている。そこで、まずは、板状部品モデルの最適形状121、123及び125に基づいて、ルーフセンターRF103、ルーフレール117及びホイールハウス119のそれぞれに貼り付ける各板状部品の形状と貼り付ける位置を決定する。
【0101】
ここで、板状部品モデルの最適形状121、123及び125は、実施の形態1に係る自動車車体設計方法の最適化解析工程S3fでのシェル要素のトポロジー最適化においてシェル要素が残存及び消去することにより求められたものである。そのため、板状部品を貼り付ける位置は、最適化解析において残存した板状部品モデルの位置から決定することができる。
【0102】
次に、最適形状121、123及び125に基づいて決定した各板状部品の形状に従って、各板状部品を設計・製造する。板状部品の板厚及び材料の種類は、材料特性設定工程S3dにおいて各板状部品モデルに設定した板厚及び材料の種類とする。板状部品はプレス加工により製造するので、板状部品モデルの最適形状121、123及び125の形状に基づいて、プレス加工で製作可能な形状に設計する。例えば、板状部品のブランク加工性を考慮して、板状部品モデルの重量を維持しつつ輪郭の凹凸を平滑化する。また、板状部品モデルがある範囲領域に散在する場合には、重量と重心位置が同等となる一つの板状部品に置き換える。
【0103】
続いて、最適形状121、123及び125に基づいて決定した各板状部品の位置を用いて、選定された車体部品であるルーフセンターRF103、ルーフレール117及びホイールハウス119のそれぞれに製造した板状部品を貼り付ける。板状部品の車体部品への貼り付けは、抵抗スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接等の溶接でも、工業用接着剤を用いた接着、あるいはスポット溶接と接着を組み合わせたウェルドボンド工法でもよい。
【0104】
板状部品を貼り付ける態様としては、以下のものが挙げられる。
まず、選定された各車体部品に貼り付ける板状部品の位置として、ホワイトボディ構造100における3次元座標の位置データを求める。
次に、求めた3次元座標の位置データを組み立てデータに変換する。組み立てデータとは、自動車の車体の製造工程の組み立てロボットで用いる形式のデータであり、変換した組み立てデータをNCユニットに読み込ませる。
そして、変換した組み立てデータを読み込んだNCユニットを用いて、ホワイトボディ構造100において選定された各車体部品に板状部品を貼り付ける部品組みを行う。
【0105】
また、本発明に係る自動車車体の製造方法は、既に製造された自動車車体に対してホワイトボディ構造の制振性を向上させる改造を行うものであってもよい。この場合、まず、求めた板状部品モデルの最適形状121、123及び125の位置をディスプレイ装置に表示する。そして、表示された板状部品モデルの最適形状121、123及び125の位置に対応する自動車車体上(ルーフセンターRF103、ルーフレール117及びホイールハウス119)の位置にスポットガン等により板状部品を貼り付けてもよい。
【0106】
このように、本実施の形態2に係る自動車車体の製造方法によれば、剛性等の制振性以外の車体性能を維持しつつ、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を製造することができる。
【実施例0107】
本発明に係る自動車車体設計方法、装置及びプログラムの効果を検証する解析を行ったので、以下、これについて説明する。
【0108】
解析では、まず、ステップAとして、前述した実施の形態1と同様に
図2に示す自動車車体のホワイトボディ構造100を解析対象とし、制振性に関する振動特性に対する各車体部品の感度を求める感度解析を行った。さらに、感度解析により求めた感度に基づいて、板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定した。
【0109】
次に、ステップBとして、ステップAで選定した車体部品に貼り付ける板状部品の最適形状を求める最適化解析を行った。
【0110】
さらに、ステップCとして、ステップBで求めた最適形状の板状部品モデルをステップAで選定した車体部品に貼り付けたホワイトボディ構造の振動特性を発明例として求めた。そして、最適形状の板状部品モデルを貼り付けない元のホワイトボディ構造の振動特性を比較例として求め、発明例に係るホワイトボディ構造の制振性を評価した。
【0111】
解析では、表1、表2に示すように、感度解析条件、感度解析方法及び板状部品の材質を変更した実施例1~実施例6について、感度解析、車体部品の選定及び板状部品の最適化解析を行い、これらの制振性の向上効果を比較検討した。
【0112】
【0113】
まず、実施例1~実施例6のそれぞれについて、ステップAとして板状部品を貼り付ける対象とする車体部品を選定し、ステップBとして板状部品モデルの最適形状を求めた。
【0114】
実施例1は、感度解析条件として、フロアクロスメンバー105の115Hz~135Hzの周波数帯におけるイナータンスを最小化する目的関数と、ホワイトボディ構造100の重量増加を5kg以下及び元の車体部品の板厚以上とする制約条件を設定した。なお、イナータンスの算出には、前掲した式(1)を用いた。
【0115】
また、感度解析及び最適化解析における振動入力条件として、フロントサブフレーム113を振動を与える部位とした。
実施例1の感度解析では、車体部品ごとの板厚最適化解析を行い、感度として各車体部品ごとの板厚変化率を求めた。
さらに、実施例1の板状部品モデルの最適化解析では、表3に示す鋼板の材料特性を板状部品モデルに設定した。
【0116】
【0117】
図8に、実施例1において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率のコンター図と、該板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す。
実施例1においては、
図8に示すように、ホイールハウス119及び燃料タンク127等の板厚変化率が8%以上と大きいため、板状部品を貼り付ける対象の車体部品として選定した。
【0118】
図9に、実施例1において求められた板状部品モデルの最適形状を示す。
図9において、濃いグレーで表示されている部位が板状部品モデルの最適形状である。
図9に示すように、ホイールハウス119に貼り付ける板状部品モデルの最適形状129や燃料タンク127に貼り付ける板状部品モデルの最適形状131等が得られた。
【0119】
実施例2は、前述した実施の形態1と同様、振動入力条件として、フロントサブフレーム113を振動を与える部位とし、目的関数としてルーフセンターRF103の中央部の95Hz~115Hzの周波数帯におけるイナータンスの最小化、を設定したものである。イナータンスの算出には、前掲した式(1)を用いた。
【0120】
また、実施例2では、感度解析において、車体部品ごとの板厚最適化解析を行い、感度として車体部品ごとの板厚変化率を求めた。
さらに、実施例2では、板状部品モデルの最適化解析において、板状部品モデルに、前掲した表3に示す鋼板の材料特性を設定した。
【0121】
前述した
図5に、実施例2において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率のコンター図と、該板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定された車体部品と、を示す。
実施例2においては、ルーフセンターRF103、ルーフレール117及びホイールハウス119等の板厚変化率が5%以上と大きいため、板状部品を貼り付ける対象の車体部品として選定した。
【0122】
前述した
図6に、実施例2において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す。
図6において、濃いグレーで表示されている部位が板状部品モデルの最適形状である。
図6に示すように、ルーフセンターRF103に貼り付ける板状部品の最適形状121と、ルーフレール117に貼り付ける板状部品モデルの最適形状123、ホイールハウス119に貼り付ける板状部品モデルの最適形状125等が得られた。
【0123】
実施例3は、振動入力条件として、フロントサブフレーム113を振動を与える部位とし、目的関数として、ルーフパネル109の110Hz~130Hzの周波数帯における等価放射パワー(ERP)の最小化、を設定したものである。等価放射パワーERPの算出には、前掲した式(2)を用いた。
【0124】
また、実施例3では、感度解析において、車体部品ごとの板厚最適化解析を行い、感度として各車体部品ごとの板厚変化率を求めた。
さらに、実施例3では、板状部品モデルの最適化解析において、板状部品モデルに、前掲した表3に示す鋼板の材料特性を設定した。
【0125】
図10に、実施例3において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率のコンター図と、板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定した車体部品を示す。
実施例3においては、ドアパネル111、ラジエーターサポート133等の板厚変化率が5%以上と大きいため、板状部品を貼り付ける対象の車体部品として選定した。
【0126】
図11に、実施例3において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す。
図11において、濃いグレーで表示されている部位が板状部品モデルの最適形状である。
図11に示すように、ドアパネル111に貼り付ける板状部品モデルの最適形状135、ラジエーターサポート133に貼り付ける板状部品モデルの最適形状135が得られた。
【0127】
実施例4は、振動入力条件として、フロントサブフレーム113及びサスタワー115を振動を与える部位とし、目的関数として、ルーフセンターRF103の中央部の95Hz~115Hzの周波数帯におけるイナータンスの最小化、を設定したものである。イナータンスの算出には、前掲した式(1)を用いた。
【0128】
また、実施例4では、感度解析において、車体部品ごとの板厚最適化解析を行い、感度として各車体部品ごとの板厚変化率を求めた。
さらに、実施例4では、板状部品モデルの最適化解析において、板状部品モデルに、前掲した表3に示す鋼板の材料特性を設定した。
【0129】
図12に、実施例4において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率のコンター図と、板状部品に貼り付ける対象として選定した車体部品を示す。
実施例4においては、ルーフセンターRF103、ラジエーターサポート133等の板厚変化率が8%以上と大きいため、板状部品を貼り付ける対象の車体部品として選定した。
【0130】
図13に、実施例4において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す。
図13において、濃いグレーで表示されている部位が板状部品モデルの最適形状である。
図13に示すように、ルーフセンターRF103に貼り付ける板状部品モデルの最適形状139、ラジエーターサポート133に貼り付ける板状部品モデルの最適形状141が得られた。
【0131】
実施例5は、振動入力条件として、フロントサブフレーム113を振動を与える部位とし、目的関数として、ルーフセンターRF103の中央部の95Hz~115Hzの周波数帯におけるイナータンスの最小化、を設定したものである。イナータンスの算出には、前掲した式(1)を用いた。
【0132】
また、実施例5では、感度解析において、車体部品の要素ごとの板厚最適化解析を行い、感度として車体部品の要素ごとの板厚変化率を求めた。
さらに、実施例5では、板状部品モデルの最適化解析において、板状部品モデルに前掲した表3に示す鋼板の材料特性を設定した。
【0133】
図14に、実施例5において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率のコンター図と、板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定した車体部品を示す。
実施例5においては、ルーフセンターRF103等の板厚変化率が8%以上と大きいため、これらを板状部品を貼り付ける対象の車体部品として選定した。
【0134】
図15に、実施例5において、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す。
図15において、濃いグレーで表示されている部位が板状部品モデルの最適形状である。
図15に示す結果から、ルーフセンターRF103に貼り付ける板状部品モデルの最適形状143等が得られた。
【0135】
実施例6は、振動入力条件として、フロントサブフレーム113を振動を与える部位とし、目的関数として、ルーフセンターRF103の中央部の95Hz~115Hzの周波数帯におけるイナータンスの最小化、を設定したものである。イナータンスの算出には、前掲した式(1)を用いた。
また、実施例6では、感度解析において、車体部品ごとの板厚最適化解析を行い、感度として車体部品ごとの板厚変化率を求めた。
さらに、実施例6では、板状部品モデルの最適化解析において、板状部品モデルに、前掲した表3に示す鉛板の材料特性を設定した。
【0136】
前掲した
図5に、実施例6において、感度解析により求めた車体部品ごとの板厚変化率のコンター図と、板厚変化率に基づいて板状部品を貼り付ける対象として選定した車体部品を示す。
実施例6における感度解析条件は、実施例2と同様であるため、板状部品を貼り付ける対象の車体部品としてルーフセンターRF103、ルーフレール117及びホイールハウス119等を選定した。
【0137】
図16に、実施例6おいて、感度解析の結果に基づいて選定された車体部品に貼り付ける板状部品モデルの最適形状を求めた結果を示す。
図16において、濃いグレーで表示されている部位が板状部品モデルの最適形状である。
図16に示すように、ルーフセンターRF103に貼り付ける板状部品モデルの最適形状121、ルーフレール117に貼り付ける板状部品モデルの最適形状123、ホイールハウス119に貼り付ける板状部品モデルの最適形状125が得られた。
【0138】
続いて、ステップCとして、実施例1~実施例6において求めた最適形状の板状部品モデルを各車体部品に貼り付けたホワイトボディ構造100の振動特性の評価値を算出した。さらに、板状部品モデルを貼り付ける前の元のホワイトボディ構造100についても同様に振動特性の評価値を算出した。そして、最適形状の板状部品モデルを貼り付けることによるホワイトボディ構造の制振性向上を検討した。
【0139】
制振性向上の評価においては、元のホワイトボディ構造の振動特性値を基準とし、最適形状の板状部品を貼り付けたホワイトボディ構造の振動特性の評価値の低減率を算出した。
【0140】
なお、実施例1~実施例6のそれぞれにおける振動特性の評価値は、前述した感度解析条件の目的条件として設定した振動特性と同一とした。
さらに、振動特性評価値の算出において、ホワイトボディ構造100に与える振動入力条件は、実施例1~実施例6それぞれの感度解析条件として与えた振動入力条件と同様とした。
【0141】
表4に、実施例1~実施例6で求めた最適形状の板状部品を貼り付けたホワイトボディ構造の振動特性評価値(発明例)と、元もホワイトボディ構造の振動特性の評価値(比較例)、及び、振動特性の評価値の低減率を示す。
【0142】
【0143】
実施例1~実施例6のいずれにおいても、最適形状の板状部品を車体部品に貼り付けることにより、振動特性の評価値が大幅に低減(43%~90%)していることが分かる。
このことから、本発明に係る自動車車体設計方法によれば、ホワイトボディ構造の制振性を向上させた自動車車体を設計できることが示された。