(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084184
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240618BHJP
G01C 21/36 20060101ALI20240618BHJP
B60K 17/02 20060101ALI20240618BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20240618BHJP
B60K 17/12 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B60L15/20 S
B60L15/20 K
G01C21/36
B60K17/02 F
B60K17/04 N
B60K17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198317
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真和
(72)【発明者】
【氏名】井上 喜博
【テーマコード(参考)】
2F129
3D039
3D042
5H125
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129DD13
2F129DD15
2F129DD21
2F129DD48
2F129DD49
2F129EE02
2F129EE43
2F129EE52
2F129EE59
2F129EE62
2F129EE78
2F129EE79
2F129EE81
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2F129FF02
2F129FF19
2F129FF20
2F129HH12
3D039AA02
3D039AA03
3D039AB02
3D039AC04
3D039AC21
3D039AD23
3D042AA05
3D042AB01
3D042BE01
5H125AA01
5H125BA04
5H125BE05
5H125CA02
5H125CA10
5H125CA18
5H125EE09
5H125EE51
5H125EE52
5H125EE55
(57)【要約】
【課題】二つのモータを搭載した電動車両で電費とドライブフィーリングとを高める。
【解決手段】二つのモータ3A,3Bを含む駆動源部3と、複数のシフトモードを選択的に切り替え可能に構成された減速部10と、を備えた電動車両1の制御装置1Aである。制御装置1Aは、現在のシフトモードを選択するシフトモード選択部21と、最適経路を選定する最適経路選択部31と、最適経路上の各地点の推定車速を予測する車速予測部32と、最適経路上の各地点の推定駆動輪トルクを予測する駆動輪トルク予測部33と、最適経路上の各地点の最良シフトモードを予測する最良シフトモード予測部34と、電動車両1が次に到達する地点における最良シフトモードと現在のシフトモードとが異なる場合、モータ3A,3Bの回転数及び駆動トルクを予め制御する予備動作部22Aと、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両の駆動力を発生するための第一モータと第二モータとを含む駆動源部と、複数のシフトモードを選択的に切り替え可能に構成されており、前記駆動源部の回転速度を前記シフトモードに応じて減速して前記電動車両の駆動輪へ伝達する減速部と、を備えた電動車両の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記電動車両の車速と前記駆動輪の駆動輪トルクとの実測値に基づき、前記複数のシフトモードの何れか一つを現在のシフトモードとして選択するシフトモード選択部と、
地図情報に基づいて、或る出発地から或る目的地へ到達するための走行経路として抽出された複数の候補のうちから最適経路を選定する最適経路選択部と、
前記最適経路上に存在する複数地点のそれぞれにおける推定車速を予測する車速予測部と、
前記最適経路上の前記複数地点のそれぞれにおける推定駆動輪トルクを予測する駆動輪トルク予測部と、
前記推定車速と前記推定駆動輪トルクとに基づき、前記最適経路上の前記複数地点のそれぞれにおいて前記第一モータ及び前記第二モータの少なくとも一方のモータ効率が最良となる最良シフトモードを予測する最良シフトモード予測部と、
前記電動車両が前記最適経路を走行中に、前記電動車両の現在位置からみて前記複数地点のうち次に到達する地点における前記最良シフトモードと前記現在のシフトモードとが異なる場合に、前記次に到達する地点に到達する前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を予め制御する予備動作部と、を備えた
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記減速部は、
前記第一モータに結合した第一入力軸と、
前記第一入力軸と同軸上に配置され、前記第二モータに結合した第二入力軸と、
前記第一入力軸上に設けられ前記第一モータにより駆動される第一駆動ギアと、
前記第二入力軸上に設けられ前記第二モータにより駆動される第二駆動ギアと、
前記駆動輪と同軸上に配置された出力軸と、
前記出力軸上に設けられた出力ギアと、
前記第一入力軸及び前記第二入力軸と前記出力軸との間に配置された中間軸と、
前記中間軸上に対し相対的回転可能に設けられ、前記第一駆動ギアと噛合する第一減速ギアと、
前記中間軸上に設けられ、前記第二駆動ギアと噛合する第二減速ギアと、
前記中間軸上に設けられ、前記出力ギアと噛合する第三減速ギアと、
前記第一入力軸と前記第二入力軸とを切断又は接続する第一クラッチと、
前記中間軸に対して前記第一減速ギアが相対的に回転するように切断、又は、前記中間軸に前記第一減速ギアを結合するように接続する第二クラッチと、を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記予備動作部は、前記第一モータ及び前記第二モータの少なくとも一方の回転数及び駆動トルクの少なく一方を増加又は減少させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記予備動作部は、前記最適経路を走行中の前記電動車両の現在位置からみて前記次に到達する地点よりも所定時間前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記予備動作部は、前記最適経路を走行中の前記電動車両の現在位置からみて前記次に到達する地点よりも所定距離前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記最適経路選択部は、前記複数の候補のうち最も電費の良い走行経路を前記最適経路として選択する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、駆動源として二つのモータを搭載した電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行用の駆動源として電動モータ(単に「モータ」と称する)を搭載したで電動車両がある。電動車両には、第一モータと第二モータとの二つのモータを搭載したものがある。例えば特許文献1には、二つのモータの出力を出力軸に伝達する動力伝達装置が開示されている。この動力伝達装置では、発車時や低速走行時に用いる第一モータと高速走行時に用いる第二モータとで減速比の異なる減速機構に切り替えることで、低速から高速まで十分な駆動トルクを得ることができるとされている。
【0003】
また、電動車両の動力伝達装置の制御装置として、電動車両の運動性能および電費を向上させるべく、モード切換線図を用いて変速機を制御する技術が知られている(例えば下記特許文献2)。この技術では、モード切換線図を参照して、アクセル開度や、車速,モータの温度,路面の勾配に基づく走行状況に適したモードに変速機を切り替えることで、電動車両の運動性能および電費が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-158592号公報
【特許文献2】特開2020-48271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、二つのモータを搭載した電動車両の動力伝達装置においてモード切換線図を用いた変速制御を実行する場合、二つのモータの掛け替えが行われることがある。ここで、「掛け替え」とは、二つのモータの駆動トルクや回転数を制御することであり、二つのモータの回転同期等が含まれる。例えば、特許文献2において第一モータを駆動する第一モードから第二モードを駆動する第二モードへ切り替える場合、第一モータ及び第二モータの掛け替え制御を実施した後に変速制御が実行される。
【0006】
しかし、特許文献1,2に開示されるような従来の技術では、掛け替え制御に要する時間が考慮されていなかったため、掛け替え制御に起因するタイムラグによって変速制御を実行するタイミングがモータ効率の最良ポイントから外れてしまうことが考えられる。したがって、モータ効率の最良ポイントから外れてしまうことより、電費が悪化するとともに、変速の円滑性が不十分となりドライブフィーリングに影響を与えるおそれがある。
よって、二つのモータを搭載した電動車両における従来の変速制御では、電費とドライブフィーリングとを高めるうえで、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
【0008】
(1)本適用例に係る電動車両の制御装置は、電動車両の駆動力を発生するための第一モータと第二モータとを含む駆動源部と、複数のシフトモードを選択的に切り替え可能に構成されており、前記駆動源部の回転速度を前記シフトモードに応じて減速して前記電動車両の駆動輪へ伝達する減速部と、を備えた電動車両の制御装置であって、前記制御装置は、前記電動車両の車速と前記駆動輪の駆動輪トルクとの実測値に基づき、前記複数のシフトモードの何れか一つを現在のシフトモードとして選択するシフトモード選択部と、地図情報に基づいて、或る出発地から或る目的地へ到達するための走行経路として抽出された複数の候補のうちから最適経路を選定する最適経路選択部と、前記最適経路上に存在する複数地点のそれぞれにおける推定車速を予測する車速予測部と、前記最適経路上の前記複数地点のそれぞれにおける推定駆動輪トルクを予測する駆動輪トルク予測部と、前記推定車速と前記推定駆動輪トルクとに基づき、前記最適経路上の前記複数地点のそれぞれにおいて前記第一モータ及び前記第二モータの少なくとも一方のモータ効率が最良となる最良シフトモードを予測する最良シフトモード予測部と、前記電動車両が前記最適経路を走行中に、前記電動車両の現在位置からみて前記複数地点のうち次に到達する地点における前記最良シフトモードと前記現在のシフトモードとが異なる場合に、前記次に到達する地点に到達する前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を予め制御する予備動作部と、を備えている。
【0009】
本件の電動車両の制御装置は、予備動作部を備えているので、最適経路を走行中の車両の現在位置からみて次に到達する地点における最良シフトモードと現在のシフトモードとが異なる場合に、次に到達する地点に到達する前に、第一モータ及び第二モータの回転数及び駆動トルクの少なくとも一方を予め制御することができる。これにより、最良シフトモードに切り替えるべき地点に到達する前に予め、第一モータ及び第二モータの掛け替え制御を終わらせておくことができる。そのため、最良シフトモードに切り替えるべき地点に到達したタイミングで、速やかにシフトモード切り替え制御(変速制御)を実施することができる。その結果、モータ効率の最良ポイントでシフトモード切り替え制御が実行される。また、予定されたタイミングで円滑に変速制御が実行される。よって、電動車両の電費とドライブフィーリングとを高めることができる。
【0010】
(2)本適用例に係る電動車両の制御装置において前記減速部は、前記第一モータに結合した第一入力軸と、前記第一入力軸と同軸上に配置され、前記第二モータに結合した第二入力軸と、前記第一入力軸上に設けられ前記第一モータにより駆動される第一駆動ギアと、前記第二入力軸上に設けられ前記第二モータにより駆動される第二駆動ギアと、前記駆動輪と同軸上に配置された出力軸と、前記出力軸上に設けられた出力ギアと、前記第一入力軸及び前記第二入力軸と前記出力軸との間に配置された中間軸と、前記中間軸上に対し相対的回転可能に設けられ、前記第一駆動ギアと噛合する第一減速ギアと、前記中間軸上に設けられ、前記第二駆動ギアと噛合する第二減速ギアと、前記中間軸上に設けられ、前記出力ギアと噛合する第三減速ギアと、前記第一入力軸と前記第二入力軸とを切断又は接続する第一クラッチと、前記中間軸に対して前記第一減速ギアが相対的に回転するように切断、又は、前記中間軸に前記第一減速ギアを結合するように接続する第二クラッチと、を備えてもよい。
上記のように構成された減速部は、第一モータ及び第二モータの二つのモータと、第一クラッチと第二クラッチとの組み合わせによる四つのシフトモードを選択的に切り替え可能である。これにより、第一モータ及び第二モータのそれぞれのモータ効率の良いポイントを使いやすくなり、電動車両の電費をより高めることができる。
【0011】
(3)本件の車両の制御装置において前記予備動作部は、前記第一モータ及び前記第二モータの少なくとも一方の回転数及び駆動トルクの少なく一方を増加又は減少させてもよい。この場合、第一モータ及び第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方の増加又は減少によりモータの掛け替えが実施される。
【0012】
(4)本件の車両の制御装置において前記予備動作部は、前記最適経路を走行中の前記電動車両の現在位置からみて前記次に到達する地点よりも所定時間前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御してもよい。
(5)本件の車両の制御装置において前記予備動作部は、前記最適経路を走行中の前記電動車両の現在位置からみて前記次に到達する地点よりも所定距離前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御してもよい。
これにより、最良シフトモードに変速すべき地点に到達する前に、モータの掛け替え制御を実施できる。
(6)本件の車両の制御装置において前記最適経路選択部は、前記複数の候補のうち最も電費の良い走行経路を前記最適経路として選択してもよい。これにより、電動車両の電費をより高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本件によれば、二つのモータを搭載した電動車両において電費とドライブフィーリングとを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の電動車両とその制御装置とであって、その構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1の電動車両における駆動ユニットのスケルトン図である。
【
図3】
図2の減速部におけるシフトモードを説明するグラフである。
【
図5】走行経路上の複数地点に関する説明図である。
【
図6】シフトモード切り替え制御に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図7】予備動作及びシフトモード切り替え制御のタイミングチャートである。
【
図8】予備動作及びシフトモード切り替え制御のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、本件の実施形態について説明する。以下の実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせられる。
【0016】
[1.構成]
図1は、本実施形態に係る電動車両1(
図1中破線で示す)とその制御装置1Aの構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、電動車両1には、駆動ユニット2(
図1中破線で示す)として、走行用の駆動源をなす第一モータ3A及び第二モータ3Bの二つの電動モータ(駆動源部)が搭載されている。第一モータ3A及び第二モータ3Bを区別しない場合は単に「モータ3」と称する。
電動車両1には、モータ3のみを駆動源として搭載した電気自動車や、モータ3とともに図示しないエンジンを駆動源として搭載するハイブリッド型の車両が含まれる。電動車両1の車種は特に限定されないが、車種の一例として電動トラックが挙げられる。
【0017】
モータ3は、図示しないバッテリに蓄えられた電力で駆動される電動機及び電力を発生する発電機の双方として機能する。モータ3が駆動源(電動機)として機能する力行時には駆動輪を回転駆動するための駆動トルクを発生させ、発電機として機能する回生時には駆動輪の回転力で発電するための回生トルクを発生させる。
本実施形態の第一モータ3A及び第二モータ3Bは同一のトルク特性を有しているものを例に挙げるが、これに限らず第一モータ3A及び第二モータ3Bでトルク特性が異なっていてもよい。
【0018】
駆動ユニット2には、上記のモータ3のほか、減速部10が含まれている。
減速部10は、第一モータ3A及び第二モータ3Bの回転速度を減速して電動車両1の駆動輪へ伝達する機構である。詳しくは後述するように、減速部10は、モータ3に駆動される駆動ギアと、駆動ギアに噛合し駆動ギアの回転速度を減速する複数の減速ギアと、減速ギアに噛合し電動車両1の駆動輪に動力を伝達する出力ギアとにより、複数のシフトモードを選択的に切り替え可能な自動変速機構として構成されている。
ここで、「シフトモード」とは、減速部10においてモータ3の回転速度を減速するための減速比を切り替えるための変速モードである。減速部10は、モータ3の回転速度をシフトモードに応じて減速して電動車両1の駆動輪(後述の
図2中符号13)へ伝達する。
【0019】
また、
図1の電動車両1には、電動車両1における各種制御を実施する制御装置1A(
図1中破線で示す)として、VCU20と経路選定装置30とが設けられている。制御装置1AをなすVCU20と経路選定装置30とには、車速センサ5と、駆動輪トルクセンサ6と、ナビゲーション装置7と、無線通信装置8と接続されている。
VCU20は、電動車両1に搭載された各種装置を統括制御するための電子制御装置である。VCU20は、通信ラインを介して電動車両1に搭載された各種装置に接続されている。
VCU20内には、機能的要素として、減速部10のシフトモードを選択するためのシフトモード選択部21や、モータ3の駆動トルクや回転数(回転速度)を制御するモータ制御部22が含まれている。モータ制御部22には、シフトモードの切り替え制御(変速制御)を実施する前に予め所定の予備動作を実施する予備動作部22Aが含まれている。
【0020】
経路選定装置30は、電動車両1の走行経路の選定機能を実施する電子制御装置(ECU;Electronic Control Unitの略称)である。この経路選定装置30は、経路選定装置30内のメモリ装置に記憶されたソフトウェアプログラムを実行することにより、電動車両1の経路選定機能を実現する。「経路選定機能」とは、或る出発地から或る目的地までの最適な走行経路(最適経路)を事前に選定する機能である。
経路選定装置30内には、経路選定機能に関する機能要素として、最適経路選択部31と、車速予測部32と、駆動輪トルク予測部33と、最良シフトモード予測部34とが設けられている。
【0021】
VCU20及び経路選定装置30は、例えばマイクロプロセッサやROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。
図1では、VCU20及び経路選定装置30が別体の電子デバイスとして構成された場合を例に挙げたが、一体の電子デバイスで構成されていてもよい。また、VCU20及び経路選定装置30内の機能要素21,22及び31~34は、VCU20及び経路選定装置30の機能を便宜的に分類して示したものであり、VCU20及び経路選定装置30のハードウェア資源を用いて実施されるソフトウェアとして設けられている。
【0022】
車速センサ5は、電動車両1の車速を検出して、検出した結果を車速の実測値として制御装置1Aへ供給する。駆動輪トルクセンサ6は、駆動輪(後述
図2中符号13)の駆動輪トルクを検出して、検出した結果を駆動輪トルクの実測値として制御装置1Aへ供給する。
【0023】
ナビゲーション装置7は、電動車両1の測位情報と地図情報とに基づいて、電動車両1の走行経路を案内する電子制御装置である。ナビゲーション装置7は、図示しない測位アンテナ(いわゆるGPSアンテナ)に接続され、図示しない測位衛星から送信された測位情報を取得可能である。ナビゲーション装置7には、乗員(ユーザ)の操作により車両の出発地及び目的地の入力を受け付ける入力機構や、マップ画面を表示するディスプレイ装置、及び、案内音声を出力する音声出力機構が設けられている。
【0024】
無線通信装置8は、車両の外部のネットワークNを介して他の通信装置4と無線通信を行うための電子制御装置である。ネットワークNを介して無線を受信する無線通信装置8の具体例として、移動体通信装置、路車間通信装置、車車間通信装置などが挙げられる。
ナビゲーション装置7及び無線通信装置8のそれぞれは、例えばマイクロプロセッサやROM、RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成されている。
【0025】
次に、
図2を参照して電動車両1における駆動ユニット2の構成例を説明する。
図2において模式的に示す駆動ユニット2には、減速部10が搭載される。
図2に示す減速部10には、第一入力軸11A及び第二入力軸11Bと、中間軸16と、出力軸14とが設けられている。第一入力軸11Aに第一モータ3Aが結合されており、第二入力軸11Bに第二モータ3Bが結合されている。第一入力軸11A及び第二入力軸11Bと、中間軸16と、出力軸14とは、互いに平行に配置されている。
【0026】
第一入力軸11A及び第二入力軸11Bは、第一モータ3A及び第二モータ3Bの駆動力を直接受ける主軸である。第一入力軸11Aは、第一モータ3Aのモータ軸(図示省略)と同軸上に配置されている。第二入力軸11Bは、第二モータ3Bのモータ軸(図示省略)と同軸上に配置されている。第一入力軸11Aと第二入力軸11Bとは同軸上に配置されている。
出力軸14は、両端に左右一対の駆動輪13が設けられた車軸であり、駆動力を左右の駆動輪13に分配するための差動装置18が設けられている。
中間軸16は、第一入力軸11A及び第二入力軸11Bと出力軸14との間に配置されている。
【0027】
第一入力軸11A上には第一モータ3Aに駆動される第一駆動ギア12Aが設けられており、第二入力軸11B上には第二モータ3Bに駆動される第二駆動ギア12Bが設けられている。第一入力軸11Aと第二入力軸11Bとの間に第一クラッチ19Aが配置されている。第一クラッチ19Aにより第一入力軸11Aと第二入力軸11Bとが切断及び接続される。第一クラッチ19Aとしては、ドッグクラッチやシンクロメッシュタイプなど任意のクラッチが採用される。
【0028】
出力軸14には、差動装置18に結合した出力ギア15が設けられている。
中間軸16には、
図2中左から右へ向かって、第一駆動ギア12Aと噛合する第一減速ギア17A,第二駆動ギア12Bと噛合する第二減速ギア17B,出力ギア15と噛合する第三減速ギア17Cがこの順に配置されている。
第二駆動ギア12Bと第二減速ギア17Bとの噛合による減速比は、第一駆動ギア12Aと第一減速ギア17Aとの噛合による減速比よりも小さく設定されている。この場合、第一駆動ギア12Aと第一減速ギア17Aとが低速ギア段用動力伝達経路をなし、第二駆動ギア12Bと第二減速ギア17Bとが高速ギア段用動力伝達経路をなす。
【0029】
中間軸16には、第一減速ギア17Aと第二減速ギア17Bとの間に第二クラッチ19Bが介装されている。この第二クラッチ19Bの切断及び接続により、第一減速ギア17Aは中間軸16に結合(
図2中の第二クラッチ19Bを挟んで左右の中間軸16を結合)又は中間軸16を空転(
図2中の第二クラッチ19Bを挟んで左右の中間軸16の結合を解除)する。すなわち、第一減速ギア17Aは、第二クラッチ19Bが切断した状態で中間軸16(
図2中右側の中間軸16)に対して相対的に回転(空転)し、第二クラッチ19Bが接続した状態で中間軸16(
図2中右側の中間軸16)に対して結合する。そのため、出力軸14に対する第一モータ3Aの駆動力伝達は、第二クラッチ19Bの切断及び接続(断接)に応じて切断及び接続される。第二クラッチ19Bとしては、ドッグクラッチやシンクロメッシュタイプなど任意のクラッチが採用される。
一方、第二モータ3Bは出力軸14に直結されており、出力軸14に対する第二モータ3Bの駆動力伝達はクラッチで切断されない。したがって、第二モータ3Bが駆動していない状態では、第二駆動ギア12Bと第二減速ギア17Bとは出力軸14に連れ回りする。
【0030】
上記のように構成された駆動ユニット2の減速部10は、第一モータ3A及び第二モータ3Bの駆動オンオフと、第一クラッチ19A及び第二クラッチ19Bのオンオフ(切断又は接続)とにより、複数のシフトモードを選択的に切り替え可能である。具体的には、第一モータ3A及び第二モータ3Bの二つのモータの駆動オンオフと、低速ギア段と高速ギア段との二速のギア段との組み合わせにより、
図3に示す4つのシフトモードを選択的に切り替え可能である。
図3に示すように、第一モードは、第一モータ3Aを用いた「1モータ低速ギア段」である。第二モードは、第二モータ3Bを用いた「1モータ高速ギア段」である。第三モードは、第一モータ3A及び第二モータ3Bを用いた「2モータ低速ギア段」であり、第四モードは、第一モータ3A及び第二モータ3Bを用いた「2モータ高速ギア段」である。
【0031】
第一モードでは、第二モータ3Bが非駆動で第一モータ3Aが駆動し、第一クラッチ19Aが切断され、且つ、第二クラッチ19Bが接続されている。この場合、第一モータ3Aと、第一駆動ギア12Aと、第一減速ギア17Aと、第三減速ギア17Cと、出力ギア15との組み合わせにより1モータ低速ギア段が構成される。
第二モードでは、第一モータ3Aが非駆動で第二モータ3Bが駆動し、第一クラッチ19A及び第二クラッチ19Bがともに切断されている。この場合、第二モータ3Bと、第二駆動ギア12Bと、第二減速ギア17Bと、第三減速ギア17Cと、出力ギア15との組み合わせにより1モータ高速ギア段が構成される。
【0032】
第三モードでは、第一モータ3A及び第二モータ3Bが駆動し、第一クラッチ19Aが切断され、且つ、第二クラッチ19Bが接続されている。この場合、第一モータ3Aの駆動トルクを第一駆動ギア12Aと第一減速ギア17Aとを介して、かつ、第二モータ3Bの駆動トルクを第二駆動ギア12Bと第二減速ギア17Bとを介して、中間軸16に伝えることにより、その組み合わせで第三減速ギア17Cと、出力ギア15とから出力されることにより、2モータ低速ギア段が構成される。
第四モードでは第一モータ3A及び第二モータ3Bが駆動し、第一クラッチ19Aが接続され、且つ、第二クラッチ19Bが切断されている。この場合、第一モータ3A及び第二モータ3Bの駆動トルクの組み合わせにより、第二駆動ギア12Bと、第二減速ギア17Bと、第三減速ギア17Cと、出力ギア15を介して、出力されることにより2モータ高速ギア段が構成される。
【0033】
第一駆動ギア12Aと第一減速ギア17Aとによる低速用動力伝達経路を用いる第一モード及び第三モードは、低速ギア段(低速用シフトモード)である。第二駆動ギア12Bと第二減速ギア17Bとによる高速用動力伝達経路を用いる第二モード及び第四モードは、高速ギア段(高速用シフトモード)である。
また、一つのモータ(第一モータ3A又は第二モータ3B)で駆動する第一モード及び第二モードは低トルク用シフトモードであり、二つのモータ(第一モータ3A及び第二モータ3B)で駆動する第三モード及び第四モードは高トルク用シフトモードであるとも言える。
【0034】
[2.制御]
上記のよう構成された制御装置1Aにおける制御について説明する。
まず、
図1に示すVCU20内のシフトモード選択部21とモータ制御部22による制御について説明する。
シフトモード選択部21は、電動車両1(
図2参照)の現在の車速と駆動輪トルクとの実測値に基づき、減速部10のシフトモードの選択制御を実施する。具体的には、シフトモード選択部21は、車速センサ5により検出された車速の実測値と、駆動輪トルクセンサ6により検出された駆動輪トルクの実測値とに基づき、所定のシフトマップを参照して、現在の走行状況に適したシフトモードを選択する。
【0035】
シフトモード選択部21においてシフトモード選択制御に用いるシフトマップは、車速と駆動輪トルクとに基づき、
図3に示す四つのシフトモードのうち、現在の走行状況に適したシフトモードを決定するためのマップである。シフトマップは、例えばVCU20内の記憶装置(図示省略)に予め記憶されている。
図4はシフトマップの一例を示す模式図である。
図4に示すシフトマップ40は、横軸が車速を示し縦軸が駆動輪トルクを示す。シフトマップ40では、第一モータ3A又は第二モータ3Bの最大出力線41の内側の領域に、第一モード(図中「SM1」)と第二モード(図中「SM2」)と第三モード(図中「SM3」)と第四モード(図中「SM4」)とのそれぞれの領域を区画する複数の切替線42,43,44及び45が設定されている。
【0036】
シフトマップ40では、車速と駆動輪トルクとをパラメータとする運転点(図示省略)の位置により、第一モード~第四モードの何れか一つが選択される。例えば、マップ40上で第一モード内の運転点が切替線42を横切って第二モードの領域に移動した場合、シフトモードは第一モードから第二モードへ切り替えられる。
このシフトマップ40は、第一モータ3A及び第二モータ3Bのそれぞれのモータ効率の良い作動ポイントを使用して走行できるように、第一モード~第四モードの分布が設定されている。なお、モータ効率は、入力電力に対する機械出力の比を百分率で表したものであり、モータ3の特性により予め決められている。
なお、
図4では図示省略したが、周知のように切替線42,43,44及び45の間にヒステリシスが設定されてよい。
【0037】
図1に示すVCU20内のモータ制御部22は、モータ3の駆動トルクや回転数の制御(モータ制御)を実施する要素である。
本適用例に係るモータ制御部22には、シフトモードを切り替える前に予備動作を実施する予備動作部22Aが含まれている。「予備動作」とは、具体的に言えばシフトモードの切り替え制御の際に必要となるモータ3の掛け替え制御である。
【0038】
「掛け替え」とは、第一モータ3A及び第二モータ3Bの駆動トルクや回転数を増加及び/又は減少制御することであり、第一モータ3A及び第二モータ3Bの回転同期等が含まれる。
予備動作部22Aの予備動作を実施することで、第一モータ3A及び第二モータ3Bの駆動トルクや回転数は、シフトモードの切り替え可能な状態に設定される。そのため、予備動作の終了後であれば、速やかにシフトモードの切り替え制御を開始可能である。反対に、予備動作の前はシフトモードの切り替え制御を開始できない。
【0039】
次に、
図1に示す経路選定装置30内の最適経路選択部31と、車速予測部32と、駆動輪トルク予測部33と、最良シフトモード予測部34について説明する。
本実施形態の電動車両1は、経路選定装置30により或る出発地から或る目的地へ至る複数の走行経路のうち最適の走行経路(最適経路)を出発前に選定し、選定した最適経路を走行するものである。
【0040】
最適経路選択部31は、電動車両1の走行に関連する地図情報に基づき、出発地から目的地までの走行経路(ルート)の候補を複数抽出するとともに、複数の走行経路のうち最適な走行経路を最適経路として選択する。最適経路選択部31では、例えば走行距離,走行時間,エネルギー消費量の少なさ,電費などの指標に基づき、最適経路を選択できる。地図情報に基づき複数の走行経路を候補として抽出する方法は、周知の技術を利用すればよく、特に限定されない。最適経路を選択するための指標は、地図情報や、車速予測部32、駆動輪トルク予測部33及び最良シフトモード予測部34で得た予測値から取得できる。
【0041】
地図情報は、電動車両1が走行可能な道路の配置、形状、車線、標高などを示す地図の情報(経路情報)である。この地図情報には、経路情報だけでなく、地図上の道路における制限速度、勾配、信号機の配置、並びに、道路及び道路周囲の状況に関する付加的情報が含まれてよい。付加的情報の例としては、路面状況、渋滞発生状況、冠水発生状況、交通事故発生状況、工事状況、そのほか各種イベント発生状況などに関する情報(オンタイム情報)が挙げられる。
地図情報は、例えばナビゲーション装置7内の記憶装置(図示省略)に記憶されたものを用いることができるが、これに限られない。地図情報は、ナビゲーション装置7外部に保存されたものであってもよい。具体的には、地図情報として、経路選定装置30内の記憶装置に保存されたものや、記憶媒体やネットワークN上の任意のコンピュータなどから取得したものなど、が挙げられる。
【0042】
最適経路選択部31で用いる出発地及び目的地は、例えばナビゲーション装置7から取得する。地図情報の別の例として、経路選定装置30内の記憶装置に保存されたものや、記憶媒体やネットワークN上の任意のコンピュータなどから取得したものが挙げられる。
出発地及び目的地の別の例として、ナビゲーション装置7以外の機器(例えば経路選定装置30や図示しない情報端末装置など)から入力されたものが挙げられる。出発地及び目的地は、乗員により入力されたものに限らず、予め決められたものでもよい。
【0043】
電動車両1が荷物の集荷や配送を行う物流用のトラック車両である場合、出発地となる場所の具体例としては、輸送会社の営業所や倉庫の場所,取引先会社の所在地,現在地などが挙げられる。
また、目的地となる場所の具体例としては、荷物の配送先倉庫の場所,待機場所,指定駐車場,パーキングエリアなどが挙げられる。
【0044】
車速予測部32、駆動輪トルク予測部33及び最良シフトモード予測部34のそれぞれは、複数の走行経路それぞれにおいて経路上に存在する複数地点における推定車速,推定駆動輪トルク,最良シフトモードを予測する要素である。
ここで、走行経路上の複数地点について
図5を参照して説明する。
図5は、或る出発地Aから或る目的地Bへ至る走行経路50と、走行経路50上に存在する複数地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Zとを説明する模式図である。
【0045】
図5において、複数地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Zは、電動車両1が走行経路50を走行した際の通過地点である。例えば、複数地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Zは、電動車両1が走行経路50を走行した際の所定時間間隔(例えば1秒間隔)毎に設定される。別の例として、複数地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Zは、電動車両1が走行経路50を走行した際の所定距離間隔(例えば10m間隔)毎に設定される。複数地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Zは、一定隔に設定されてもよし、不規則な間隔に設定されてもよい。
【0046】
車速予測部32、駆動輪トルク予測部33及び最良シフトモード予測部34のそれぞれは、各地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z点における推定車速,推定駆動輪トルク,最良シフトモードを予測する。これにより、経路選定装置30は、走行経路50について各地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z毎の推定車速,推定駆動輪トルク,最良シフトモードのそれぞれの予測値が設定された走行パターンを得ることができる。すなわち、経路選定装置30内の記憶装置には、各走行経路50について各地点51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z毎の推定車速,推定駆動輪トルク,最良シフトモードのそれぞれの予測値が記憶される(
図5では、地点51Aにのみ予測値を示し、他を省略する)。この走行パターンより、最適経路選択部31で最適経路を選択する際の指標が得らえる。
【0047】
図1に示す車速予測部32では、複数の走行経路のそれぞれについて各地点(
図5中符号51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z)における推定車速の予測値を算出する。そのため、複数の走行経路のうちの一つである最適経路上の各地点における推定車速が得られる。
車速予測部32において推定車速を算出する方法としては、例えば、走行経路を走行した場合の平均車速を推定(算出)し、平均車速に基づき、経路上の各地点の推定車速を予測(算出)する方法が挙げられる。平均車速及び各地点の推定車速を算出する方法は公知の技術を利用すればよく、特に限定されない。一例として、平均車速及び各地点の推定車速は、過去の走行履歴データからの推定値であってもよいし、リアルタイムデータから推定される推定値であってもよい。走行時間及び走行速度の情報は、地図情報に含まれる制限速度、勾配、信号機の配置、並びに、道路及び道路周囲の状況に関する付加的情報を加味して算出されてもよい。
【0048】
車速予測部32において推定車速を算出する方法の別の例として、その経路を走行した場合の速度変化情報である速度プロファイルを算出する方法(速度と位置または時間との対応関係、あるいはその対応関係を表すグラフや表や数式)が挙げられる。
平均車速を用いる方法を採用した場合、演算プロセスが簡易化されるため、演算負荷の低減に寄与する。演算負荷の低減により、例えば車載ECUでの演算処理が可能になる。そのため、車外の演算処理装置との通信が不要となり通信コスト低減にも寄与する。
一方、速度プロファイルを算出する方法を採用した場合、平均車速情報を用いる場合に比べて、予測値の算出精度を向上させることができる。
【0049】
駆動輪トルク予測部33は、複数の走行経路のそれぞれについて各地点(
図5中符号51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z)における推定駆動輪トルクの予測値を算出する。そのため、複数の走行経路のうちの一つである最適経路上の各地点における推定駆動輪トルクが得られる。
更に、走行経路上の各地点における推定駆動輪トルクから、各地点におけるモータ3の駆動トルクや回転数の予測値を算出することができる。
【0050】
推定駆動輪トルクは、公知の算出方法を用いて算出することができる。駆動輪トルク予測部33は、例えば、走行経路の走行時間及び走行速度と、地図情報に含まれる勾配、信号機の配置等の付加的情報とに基づき、且つ、走行抵抗を考慮して走行エネルギー量を算出する。なお、走行抵抗は、走行時の空気抵抗変動、及び加速抵抗変動、及び勾配抵抗変動、車輪の転がり抵抗からなっている。なお、各走行経路を走行した際の走行速度(例えば平均速度)は前述した車速予測部32で得られる。また、各走行経路の走行距離は地図情報から得られる。走行速度と走行距離とから、各走行経路の走行時間が得られる。
【0051】
最良シフトモード予測部34は、複数の走行経路のそれぞれについて各地点(
図5中符号51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z)における最良シフトモードの予測値を算出する。そのため、複数の走行経路のうちの一つである最適経路上の各地点における最良シフトモードが得られる。最良シフトモードとは、第一モードから第四モードのうち、走行経路上の各地点を通過する際に、第一モータ3A及び第二モータ3Bのモータ効率が最良となるシフトモードである。
最良シフトモード予測部34は、車速予測部32において算出された推定車速と、駆動輪トルク予測部33において算出された推定駆動輪トルクとに基づき、最良シフトモードの予測値を算出することができる。最良シフトモードは、地図情報に含まれる制限速度、勾配、信号機の配置、並びに、道路及び道路周囲の状況に関する付加的情報を加味して算出されてもよい。
【0052】
上述した予備動作部22Aは、最適経路選択部31で選択された最適経路(
図5中符号50)を走行中に電動車両1が最適経路上の各地点(
図5中符号51A,51B,51C・・・51X,51Y,51Z)で、最良シフトモード予測部34により予測された最良シフトモードへ切り替え制御を実施するものと想定して、各地点を通過する前に所定の予備動作を実施する。各地点を通過するタイミングでは、予備動作(モータ3の回転数や駆動トルクの制御)が終了しているため、モータの掛け替えを行わずに速やかに予測された最良シフトモードへ切り替えることができる。
【0053】
図6は、最適経路(
図5中符号50)を走行中の電動車両1で実行されるシフトモード切り替え制御に関する処理手順の一例を示すフローチャートである。本フローチャートは、電動車両1が最適経路の出発地から出発するときに起動する。
ステップS1において、VCU20は、予備動作フラグをオンに設定する。予備動作フラグは、予備動作部22Aによる所定の予備動作の実行オンオフを切り替えるフラグである。予備動作フラグは、例えば、乗員による所定のボタン操作等により設定される。
【0054】
ステップS2において、VCU20は、電動車両1の現在位置からみて次に到達する地点において予測された最良シフトモードと、現在のシフトモード(図中「現シフトモード」)とを比較する。すなわち、VCU20は、最適経路上における電動車両1の現在位置を常時モニタしており、現在位置からみて次に到達する地点を特定できる。現在位置からみて次に到達する地点は、例えば現在位置からみて所定時間(例えば1秒)経過後に到達する地点である。別の例として、現在位置からみて次に到達する地点は、例えば現在位置からみて電動車両1の進行方向へ所定距離(例えば10m)離隔した位置である。
【0055】
次に到達する地点の最良シフトモードと現在のシフトモードとが異なる場合(ステップS2のNo)、ステップS3において、予備動作部22A(VCU20)は、次に到達する地点で予測された最良シフトモードと現在のシフトモードとに基づき予備動作を実施する。
具体的には、予備動作部22Aは、次に到達する地点で予測された最良シフトモードと現在のシフトモードとに基づき、第一モータ3A及び第二モータ3Bの掛け替え制御、すなわち回転数及び/又はトルクを増加又は減少制御を実施する。この予備動作において制御対象となるモータ3や制御の具体的な内容は、切り替え前後のシフトモードの組み合わせに応じて異なる。
【0056】
予備動作の実施後、電動車両1の現在位置と次に到達する地点とが一致したとき、すなわち、電動車両1が次に到達する地点に到達した時点で、VCU20は、この地点におけるモータ3の駆動トルク及び回転数の予測値がモータ3の駆動トルク及び回転数の実測値に一致しているか否か判断する(ステップS4)。
【0057】
実測値と予測値とが一致している場合(ステップS4のYes)、ステップS5において、VCU20は、走行状況に合わせてシフトモード切り替え制御(図中「変速制御」)を実施する。ステップS5の変速制御は、例えば現在のシフトモードを最良シフトモード予測部34で予測された最良シフトモードへ切り替える制御である。
実測値と予測値とが一致していない場合(ステップS4のNo)、モータ制御部22(VCU20)は、ステップS6において、モータ3の駆動トルク及び回転数の実測値が予測値に一致するようにモータ3の駆動トルク及び回転数を微調整する。そして、実測値と予測値とが一致したら(ステップS4のYes)、VCU20は、シフトモード切り替え制御を実施する(ステップS5)。
【0058】
ステップS7において、VCU20は、電動車両1の現在位置に基づき電動車両1が最適経路の目的地に到着したか否か判断する。電動車両1が最適経路の目的地に到着していない場合(ステップS7のNo)、VCU20は、ステップS2以下の処理を繰り返す。電動車両1が最適経路の目的地に到達したとき(ステップS7のYes)、VCU20は、ステップS8において予備動作フラグをオフに設定して、処理を終了する。
【0059】
一方、次に到達する地点で予測された最良シフトモードと、現在のシフトモードとが一致している場合(ステップS2のYes)、現在のシフトモードを維持する(ステップS9)。そして、VCU20は、電動車両1が最適経路の目的地に到着していない場合(ステップS7のNo)ステップS2以下の処理を繰り返して、電動車両1が最適経路の目的地に到達したとき(ステップS7のYes)、予備動作フラグをオフに設定して(ステップS8)、処理を終了する。
【0060】
次に、
図7及び
図8を参照して、予備動作部22A(VCU20)による予備動作の具体的な制御例を説明する。
図7及び
図8は、予備動作とその後のシフトモード切り替え制御のタイミングチャートである。
図7は第一モードから第二モードへ切り替える場合のタイミングチャートの一例であり、
図8は第二モードから第三モードへ切り替える場合のタイミングチャートの一例である。
【0061】
図7及び
図8において、(a)は出力軸14における駆動輪トルク、(b)は第一モータ3A及び第二モータ3Bの駆動トルク、(c)は第一モータ3A及び第二モータ3Bの回転数、(d)は第二クラッチ19Bの切断及び接続(オンオフ)を示すグラフである。
図7及び
図8において(a)~(d)に示す各グラフの横軸は時間である。
図7及び
図8の(a),(b),(c)において一点鎖線は第一モータ3Aを示し、破線は第二モータ3Bを示す。
図7及び
図8の(a)において実線は第一モータ3Aによる駆動輪トルクと第二モータ3Bによる駆動輪トルクとを合成したものである。また、
図7及び
図8において、時点t1は、予備動作が開始するタイミングであり、「次に到達する地点」に対し所定時間前の時点である。時点t2は、時点t1に対する「次に到達する地点」を通過するタイミング、すなわち、シフトモード切り替え指示タイミングであり、予備動作が終了するタイミングでもある。時点t3は、シフトモード切り替え制御が終了するタイミングである。
【0062】
図7を参照して第一モードから第二モードへ切り替える場合について説明する。
図7において、時点t1で予備動作が開始する。これにより、第一モータ3Aのモータ駆動トルクが予測値PAまで減少制御されるとともに、第二モータ3Bのモータ駆動トルクが予測値PBまで増加制御される。時点t1から時点t2までの期間TPが、予備動作の行われる期間である。
【0063】
時点t2において、第一モータ3Aのモータ駆動トルクが予測値PA,第二モータ3Bのモータ駆動トルクが予測値PBに一致すると、シフトモード切り替え指示が出力される。すなわち、第二クラッチ19Bがオン(接続)からオフ(切断)に切り替えられ、第二クラッチ19Bが切断された後、第一モータ3Aの回転数が低減する。そして、時点t3において第一モードから第二モードへ切り替える制御が完了する。なお、第一モード及び第二モードにおいて第一クラッチ19Aはオフ(切断)に設定されている。
【0064】
図8を参照して第二モードから第三モードへ切り替える場合について説明する。
図8において時点t1で予備動作が開始する。これにより、第二モータ3Bの回転数が予測値PCまで増加制御されるとともに、第二モータ3Bのモータ駆動トルクが増減制御される。
時点t2において、第二モータ3Bの回転数を予測値PCに一致すると、シフトモード切り替え指示が出力される。すなわち、第二クラッチ19Bがオフ(切断)からオン(接続)に切り替えられ、第二クラッチ19Bが接続された後、第一モータ3Aの駆動トルクが低減され、且つ、第二モータ3Bの駆動トルクが増加制御される。そして、時点t3においてシフトモードの切り替えが完了する。なお、第一クラッチ19Aは第一モードの時点からオフ(切断)に設定されている。
【0065】
予備動作を実施しない従来技術では、
図7及び
図8における時点t2のタイミングでモータの掛け替え制御が開始される。そのため、モータの掛け替えに要する期間TP分だけ時点t2よりも遅れたタイミングでシフトモード切り替え制御が開始する。
これに対して、本件の電動車両1の制御装置1Aでは、
図7及び
図8に示すように、時点t1で予備動作を開始することで、時点t2で第一モータ3A及び第二モータ3Bの掛け替えが終了している。そのため、時点t2のタイミングで速やかにシフトモード切り替え制御を開始することができる。
【0066】
[3.作用効果]
以上説明した本実施形態は以下のような作用効果を奏する。
(1)本件の電動車両1の制御装置1Aは、予備動作部22Aを備えているので、最適経路を走行中の電動車両1の現在位置からみて次に到達する地点における最良シフトモードと現在のシフトモードとが異なる場合に、次に到達する地点に到達する前(
図7及び
図8の時点t1)に、第一モータ3A及び第二モータ3Bの回転数及び駆動トルクの少なく一方を予め制御することができる。これにより、最良シフトモードに切り替えるべき地点に到達する前に予め、第一モータ3A及び第二モータ3Bの掛け替え制御を終わらせておくことができる。そのため、最良シフトモードに切り替えるべき地点に到達したときに、速やかにシフトモードの切り替えを実施することができる。その結果、モータ効率の最良ポイントでシフトモード切り替え制御が実行される。また、予定されたタイミングで円滑にシフトモード切り替え制御が実行さえる。よって、電動車両1の電費とドライブフィーリングとを高めることができる。
【0067】
(2)本件の電動車両1では、減速部10が、
図2に示すように、第一入力軸11Aと、第二入力軸11Bと、中間軸16と、出力軸14と、第一駆動ギア12Aと、第二駆動ギア12Bと、第一減速ギア17Aと、第二減速ギア17Bと、第三減速ギア17Cと、出力ギア15と、第一クラッチ19Aと第二クラッチ19Bとを含んでいる。上記のように構成された減速部10は、第一モータ3A及び第二モータ3Bの二つのモータと第一クラッチ19A及び第二クラッチ19Bの接続又は切断との組み合わせにより、四つのシフトモードを選択的に切り替え可能である。これにより、第一モータ3A及び第二モータ3Bのそれぞれのモータ効率の良いポイントを使いやすくなり、電費をより高めることができる。
【0068】
(3)本件の電動車両1の制御装置1Aにおいて予備動作部22Aは、第一モータ3A及び第二モータ3Bの少なくとも一方の回転数及び駆動トルクの少なく一方を増加又は減少させる。これにより、第一モータ3A及び第二モータ3Bの掛け替えが行われる。
(4)本件の電動車両1の制御装置1Aにおいて予備動作部22Aでは、最適経路を走行中の電動車両1の現在位置からみて次に到達する地点よりも所定時間前に、第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御する。
これにより、最良シフトモードに変速すべき地点に到達するよりも所定時間前に、第一モータ3A及び第二モータ3Bの掛け替えが行われる。
(5)または、本件の電動車両1の制御装置1Aにおいて予備動作部22Aでは、最適経路を走行中の電動車両1の現在位置からみて次に到達する地点よりも所定距離前に、第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御する。
これにより、最良シフトモードに変速すべき地点に到達するよりも所定距離前に、第一モータ3A及び第二モータ3Bの掛け替えが行われる。
【0069】
(6)本件の電動車両1の制御装置1Aにおいて最適経路選択部31は、複数の走行経路のうち最も電費の良い走行経路を最適経路として選択する。これにより、電動車両1の電費をより高めることができる。
[4.その他]
【0070】
上述した実施形態では、四つのシフトモードに切り替え可能な減速部10を例に挙げたが、シフトモードの数はこれに限定されず、二以上の複数のシフトモードであってもよい。
モータ3の数は、二つに限らず二以上の複数のモータ3が電動車両1に搭載されていてもよい。
予備動作部22Aにおいて、予備動作は全てのシフトモード切り替えパターンにおいて実施されてもよいし、一部のシフトモード切り替えパターンだけで実施されてもよい。
【0071】
[5.付記]
上記の変形例を含む実施形態に関し、以下の付記を開示する。
(付記1)
電動車両の駆動力を発生するための第一モータと第二モータとを含む駆動源部と、複数のシフトモードを選択的に切り替え可能に構成されており、前記駆動源部の回転速度を前記シフトモードに応じて減速して前記電動車両の駆動輪へ伝達する減速部と、を備えた電動車両の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記電動車両の車速と前記駆動輪の駆動輪トルクとの実測値に基づき、前記複数のシフトモードの何れか一つを現在のシフトモードとして選択するシフトモード選択部と、
地図情報に基づいて、或る出発地から或る目的地へ到達するための走行経路として抽出された複数の候補のうちから最適経路を選定する最適経路選択部と、
前記最適経路上に存在する複数地点のそれぞれにおける推定車速を予測する車速予測部と、
前記最適経路上の前記複数地点のそれぞれにおける推定駆動輪トルクを予測する駆動輪トルク予測部と、
前記推定車速と前記推定駆動輪トルクとに基づき、前記最適経路上の前記複数地点のそれぞれにおいて前記第一モータ及び前記第二モータの少なくとも一方のモータ効率が最良となる最良シフトモードを予測する最良シフトモード予測部と、
前記電動車両が前記最適経路を走行中に、前記電動車両の現在位置からみて前記複数地点のうち次に到達する地点における前記最良シフトモードと前記現在のシフトモードとが異なる場合に、前記次に到達する地点に到達する前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を予め制御する予備動作部と、を備えた
ことを特徴とする電動車両の制御装置。
(付記2)
前記減速部は、
前記第一モータに結合した第一入力軸と、
前記第一入力軸と同軸上に配置され、前記第二モータに結合した第二入力軸と、
前記第一入力軸上に設けられ前記第一モータにより駆動される第一駆動ギアと、
前記第二入力軸上に設けられ前記第二モータにより駆動される第二駆動ギアと、
前記駆動輪と同軸上に配置された出力軸と、
前記出力軸上に設けられた出力ギアと、
前記第一入力軸及び前記第二入力軸と前記出力軸との間に配置された中間軸と、
前記中間軸上に対し相対的回転可能に設けられ、前記第一駆動ギアと噛合する第一減速ギアと、
前記中間軸上に設けられ、前記第二駆動ギアと噛合する第二減速ギアと、
前記中間軸上に設けられ、前記出力ギアと噛合する第三減速ギアと、
前記第一入力軸と前記第二入力軸とを切断又は接続する第一クラッチと、
前記中間軸に対して前記第一減速ギアが相対的に回転するように切断、又は、前記中間軸に前記第一減速ギアを結合するように接続する第二クラッチと、を備えた
ことを特徴とする付記1に記載の電動車両の制御装置。
(付記3)
前記予備動作部は、前記第一モータ及び前記第二モータの少なくとも一方の回転数及び駆動トルクの少なく一方を増加又は減少させる
ことを特徴とする付記1又は2に記載の電動車両の制御装置。
(付記4)
前記予備動作部は、前記最適経路を走行中の前記電動車両の現在位置からみて前記次に到達する地点よりも所定時間前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御する
ことを特徴とする付記1~3の何れか一つに記載の電動車両の制御装置。
(付記5)
前記予備動作部は、前記最適経路を走行中の前記電動車両の現在位置からみて前記次に到達する地点よりも所定距離前に、前記第一モータ及び前記第二モータの回転数及び駆動トルクの少なく一方を制御する
ことを特徴とする付記1~4の何れか一つに記載の電動車両の制御装置。
(付記6)
前記最適経路選択部は、前記複数の候補のうち最も電費の良い走行経路を前記最適経路として選択する
ことを特徴とする付記1~5の何れか一つに記載の電動車両の制御装置。
【符号の説明】
【0072】
1 電動車両
1A 制御装置
2 駆動ユニット
3 モータ
3A 第一モータ
3B 第二モータ
4 他の通信装置
5 車速センサ
6 駆動輪トルクセンサ
7 ナビゲーション装置
8 無線通信装置
10 減速部
11A 第一入力軸
11B 第二入力軸
12A 第一駆動ギア
12B 第二駆動ギア
13 駆動輪
14 出力軸
15 出力ギア
16 中間軸
17A 第一減速ギア
17B 第二減速ギア
17C 第三減速ギア
18 差動装置
19A 第一クラッチ
19B 第二クラッチ
20 VCU
21 シフトモード選択部
22 モータ制御部
22A 予備動作部
30 経路選定装置
31 最適経路選択部
32 車速予測部
33 駆動輪トルク予測部
34 最良シフトモード予測部
40 シフトマップ
N ネットワーク