(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084197
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】メタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20240618BHJP
D01F 6/80 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
D01F6/60 371
D01F6/80 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198336
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小宮 直也
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB11
4L035BB13
4L035BB15
4L035BB80
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE07
4L035EE20
4L035MG04
(57)【要約】
【課題】染料や顔料で着色されていない、或いは非常に薄い色相に着色されている場合であっても優れた耐光堅牢度を示すメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得る。
【解決手段】サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した際の、下記式(1)に示すピーク面積比を1.8以上としたメタ型全芳香族ポリアミドから繊維を製造する。
ピーク面積比:A/B≧1.8 (1)
A:リテンションタイム5分未満のピーク面積
B:リテンションタイム5分以上のピーク面積
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミドを主成分とし、該メタ型全芳香族ポリアミドを、下記に示すサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した際の、下記式(1)に示すピーク面積比が1.8以上であることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
ピーク面積比:A/B≧1.8 (1)
A:リテンションタイム5分未満のピーク面積
B:リテンションタイム5分以上のピーク面積
(サイズ排除クロマトグラフィーの測定方法)
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(Agilent technologies製PL gel MIXED-C)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【請求項2】
ISO 2469に準拠し、下記条件で測定したカラーがL:80~100、a:-10~10 b:-10~20であり、且つISO105 B02に準拠して測定した耐光堅牢度が3級以上である請求項1に記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維。
(カラー測定条件)
表色系:ハンター
正反射光方式:SCI
光源:D65
【請求項3】
メタ型芳香族ジカルボン酸成分とメタ型芳香族ジアミン成分とを重合させるに際し、下記式(2)に示す、メタ型芳香族ジカルボン酸成分における酸末端と、メタ型芳香族ジアミン成分におけるアミン末端とのモノマー比率を0.998以上とし、且つメタ型芳香族ジカルボン酸成分とメタ型芳香族ジアミン成分とを反応させるために、両者を接触、混合させる際の速度が下記式(3)を満足するメタ型全芳香族ポリアミドを用いることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
モノマー比率:C/D≧0.998 (2)
C:酸末端モノマーの物質量(mol)
D:アミン末端モノマーの物質量(mol)
混合速度(質量%/分):(E/(E+F)× 100)/T≧4.0 (3)
E:酸末端モノマーの質量(g)
F:アミン末端モノマーの質量(g)
T:モノマー添加総時間(分)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐光堅牢度を有するメタ型全芳香族ポリアミド繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とから製造される全芳香族ポリアミドが耐熱性及び難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの全芳香族ポリアミドはアミド系極性溶媒に可溶であり、全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸等の方法により繊維となし得ることもよく知られている。
【0003】
これら全芳香族ポリアミドのうち、ポリメタフェニレンイソフタルアミドで代表されるメタ型全芳香族ポリアミド(以後「メタアラミド」と称することがある)の繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品等の産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣等の防災安全衣料用途等に用いられている。最近では、産業用途のみならず、寝具、衣料、インテリア等の審美性や意匠性の観点が求められる分野への用途が、急速に広がりつつある。
【0004】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、日光に曝露されることで、繊維の色相が変化し易いため、耐光堅牢度の改善が求められている。そこで、耐光堅牢度を改善するため、耐光剤として、無機粒子や紫外線吸収(遮蔽)剤を繊維に添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
しかし、そのような機能剤は高価であり、また機能剤を繊維に含有させる特殊な設備が必要であるという問題があった。さらに、これまで報告されている先行技術文献においては、染料や顔料で着色された状態での繊維の評価であり、このような着色された繊維は、色相の変化が視認されにくいため、耐光堅牢度が良好であると判断されてしまいがちであった。
【0006】
そのため、染料や顔料で着色されていない、或いは非常に薄い色相に着色されている場合は、色相の変化が著しいという問題があった。そのため、染料や顔料で着色されていない、或いは薄い色相に着色されている繊維であっても、特殊な機能剤を用いずに耐光堅牢度を改善する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-77538号公報
【特許文献2】特開2019-39097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、染料や顔料で着色されていない、或いは非常に薄い色相に着色されている場合であっても優れた耐光堅牢度を示すメタ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行い、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を、下記に示すサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した際の、リテンションタイム5分を境としたピーク面積比を1.8以上に制御するとき、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、
1.メタ型全芳香族ポリアミドを主成分とし、該メタ型全芳香族ポリアミドを、下記に示すサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した際の、下記式(1)に示すピーク面積比が1.8以上であることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維、
ピーク面積比:A/B≧1.8 (1)
A:リテンションタイム5分未満のピーク面積
B:リテンションタイム5分以上のピーク面積
(サイズ排除クロマトグラフィーの測定方法)
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(Agilent technologies製PL gel MIXED-C)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた、
2.ISO 2469に準拠し、下記条件で測定したカラーがL:80~100、a:-10~10 b:-10~20であり、且つISO105 B02に準拠して測定した耐光堅牢度が3級以上である請求項1に記載のメタ型全芳香族ポリアミド繊維、
(カラー測定条件)
表色系:ハンター
正反射光方式:SCI
光源:D65
及び、
3.メタ型芳香族ジカルボン酸成分とメタ型芳香族ジアミン成分とを重合させるに際し、下記式(2)に示す、メタ型芳香族ジカルボン酸成分における酸末端と、メタ型芳香族ジアミン成分におけるアミン末端とのモノマー比率を0.998以上とし、且つメタ型芳香族ジカルボン酸成分とメタ型芳香族ジアミン成分とを反応させるために、両者を接触、混合させる際の速度が下記式(3)を満足するメタ型全芳香族ポリアミドを用いることを特徴とするメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
モノマー比率:C/D≧0.998 (2)
C:酸末端モノマーの物質量(mol)
D:アミン末端モノマーの物質量(mol)
混合速度(質量%/分):(E/(E+F)× 100)/T≧4.0 (3)
E:酸末端モノマーの質量(g)
F:アミン末端モノマーの質量(g)
T:モノマー添加総時間(分)
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、染料や顔料で着色されていない、或いは非常に薄い色相に着色されている場合であっても優れた耐光堅牢度を示すメタ型全芳香族ポリアミド繊維が得られるので、該繊維を用いた布帛を製造すれば、耐光変色が起こり難い布帛を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0013】
<メタ型全芳香族ポリアミド>
[メタ型全芳香族ポリアミドの構成]
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の主成分であるメタ型全芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とから構成されるものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0014】
本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。メタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドとしては、メタフェニレンイソフタルアミド単位が、全繰り返し単位の90モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0015】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
前記メタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフエニルスルホンなど、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルキル基などの置換基を有する誘導体、例えば2,4-トルイレンジアミン、2,6-トルイレンジアミン、2,4-ジアミノクロルベンゼン、2,6-ジアミノクロルベンゼンなどを例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを70モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0016】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイドなどのイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1~3のアルコキシ基などの置換基を有する誘導体、例えば、3-クロルイソフタル酸クロライド、3-メトキシイソフタル酸クロライドなどを例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドのみ、または、イソフタル酸クロライドを70モル%以上含有する前記の混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0017】
(共重合成分)
前記のメタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分以外で使用しうる共重合成分としては、例えば、芳香族ジアミンとして、パラフェニレンジアミン、2,5-ジアミノクロルベンゼン、2,5-ジアミノブロムベンゼン、アミノアニシジンなどのベンゼン誘導体、1,5-ナフチレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタンなどが挙げられる。一方、芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0018】
これらの共重合成分の共重合比は、あまりに多くなりすぎるとメタ型全芳香族ポリアミドの特性が低下しやすいため、ポリアミドの全酸成分を基準として20モル%以下とすることが好ましい。特に、好適なメタ型全芳香族ポリアミドは、前記した通り、全繰返し単位の90モル%以上がメタフェニレンイソフタルアミド単位であるポリアミドであり、なかでもポリメタフェニレンイソフタルアミドが特に好ましい。
かかるメタ型全芳香族ポリアミドの重合度としては、30℃の98%濃硫酸を溶媒として測定した固有粘度(IV)として、1.3~3.0の範囲が適当である。
【0019】
〔モノマー比率〕
本発明においては、上記メタ型芳香族ジカルボン酸成分とメタ型芳香族ジアミン成分とを重合させるに際し、下記式(2)に示す、メタ型芳香族ジカルボン酸成分における酸末端と、メタ型芳香族ジアミン成分におけるアミン末端とのモノマー比率を0.998以上とすることが必要である。モノマー比率は0.999以上が好ましく、1.000以上がより好ましい。
該モノマー比率が0.998未満の場合はアミン末端の低分子量が増えるため、耐光堅牢度が低下する。
モノマー比率:C/D≧0.998 (2)
C:酸末端モノマーの物質量(mol)
D:アミン末端モノマーの物質量(mol)
【0020】
〔モノマー混合速度〕
また、本発明においては、上記メタ型芳香族ジカルボン酸成分と上記メタ型芳香族ジアミン成分とを重合させるために、両者を接触、混合させる際の速度が下記式(3)を満足することが必要である。
混合速度(質量%/分):(E/(E+F)× 100)/T≧4.0 (3)
E:酸末端モノマーの質量(g)
F:アミン末端モノマーの質量(g)
T:モノマー混合総時間(分)
上記混合速度は、5.0質量%/分以上が好ましく、6.0質量%/分以上がより好ましい。該混合速度が4.0質量%/分未満の場合、低分子量体が増えるため、耐光堅牢度が低下する。
【0021】
〔分子量分布〕
かくして得られたメタ型全芳香族ポリアミドは、下記に示すサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した際の、下記式(1)に示すピーク面積比が1.8以上であることが肝要である。
ピーク面積比:A/B≧1.8 (1)
A:リテンションタイム5分未満のピーク面積
B:リテンションタイム5分以上のピーク面積
【0022】
(サイズ排除クロマトグラフィーの測定方法)
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(Agilent technologies製PL gel MIXED-C)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
上記ピーク面積比が1.8未満の場合は、その後に成形した繊維の耐光堅牢度は低下し、光変色し易くなる。
【0023】
<メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、前記の製造方法によって得られたメタ型全芳香族ポリアミドを用いて、該メタ型全芳香族ポリアミドの紡糸液(ポリマードープ)を作成し、紡糸・凝固工程、湿熱延伸工程、弛緩熱処理工程を経て製造される。
【0024】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解し、さらに、珪酸アルミニウムを添加して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0025】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10~30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0026】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、前記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させ、繊維状物を得る。
【0027】
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が100~30,000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、10~90℃の範囲が適当である。
【0028】
本発明で使用する繊維を得るための凝固浴は、実質的にアミド系溶媒と水との2成分からなる水溶液で構成される。しかしながら、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等の無機塩類がポリマー溶液中から抽出されてくるため、実際には、凝固液にはこれらの塩類が少量含まれる。この凝固浴組成におけるアミド系溶媒としては、メタ型全芳香族ポリアミドを溶解し、水と良好に混和するものであれば特に限定されるものではないが、特に、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等を好適に用いることができる。
【0029】
アミド系溶媒と水との最適な混合比は、重合体溶液の条件によっても若干変化するが、一般的に、アミド系溶媒の割合が水溶液全体に対して40質量%~60質量%の範囲であることが好ましい。この範囲を下回る条件では、凝固繊維中に非常に大きなボイドが生じやすくなり、その後の糸切れの原因となりやすくなる。一方で、この範囲を上回る条件では、凝固が進まず、繊維の融着が起こりやすくなる。
【0030】
凝固浴の温度は、凝固液組成と密接な関係があるが、一般的には、生成繊維中にフィンガーとよばれる粗大な気泡上の空孔をできにくくする目的で、高温にする方が好ましい。しかしながら、凝固液濃度が比較的高い場合には、あまり高温にすると繊維の融着が激しくなる。このため、凝固浴の好適な温度範囲は20~70℃であり、より好ましくは25~60℃である。
【0031】
なお、凝固浴中での繊維状物(糸条体)の浸漬時間は、1.5~30秒の範囲とすることが好ましい。浸漬時間が1.5秒未満の場合には、繊維状物の形成が不十分となり断糸が発生する。一方で、浸漬時間が30秒を超える場合には、生産性が低くなるため好ましくない。
【0032】
[可塑延伸工程]
可塑延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維状物(糸条体)からなる繊維束を、沸水中や高温水蒸気中などの湿熱下で、一段延伸する。
【0033】
可塑延伸工程における延伸倍率は、2.0~4.5倍であり、好ましくは2.2~4.0倍の範囲である。湿熱一段延伸を実施することで、得られる繊維を高強度とすることができる。湿熱延伸工程における湿熱一段延伸の倍率が2.0倍未満の場合には、延伸が不十分となることから、高強度を発揮することができない。一方で、湿熱一段延伸の倍率が4.5倍を超える場合には、延伸が過剰であるため、均一な性能を発揮することができなくなる。
湿熱延伸時の温度は、通常、50~100℃、好ましくは80~100℃である。
【0034】
[熱延伸工程]
熱延伸工程においては、湿熱延伸工程により一段延伸がなされた繊維に対して、熱延伸処理を実施する。
熱処理の際の延伸倍率は、1.2~2.0倍の範囲であり、1.5~1.8倍の範囲とすることがさらに好ましい。1.3倍未満で熱延伸処理を行った場合には、優れた強度を発現することができない。一方で、2.0倍を超える熱延伸処理を実施した場合には、単糸切れが発生し、物性や品質の低下を招く。熱延伸時の温度は、通常、280~350℃、好ましくは300~340℃である。
【0035】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔繊維カラー〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維のカラーは、L:80~100、a:-10~10、b:-10~20であることが好ましい。さらに好ましくは、L:85~100、a:-8~8 b:-8~18、最も好ましくはL:80~100、a:-5~5 b:-5~15である。
【0036】
〔繊維耐光堅牢度〕
本発明のメタ型全芳香族ポリアミド繊維の耐光堅牢度は、3等級以上であることが好ましい。より好ましくは4等級以上である。
【実施例0037】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
尚、実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0038】
(1)サイズ排除クロマトグラフィーの測定方法
サイズ排除クロマトグラフィー用カラム(Agilent technologies製PL gel MIXED-C)を装着した高速液体クロマトグラフィー装置((株)島津製作所製Prominence(登録商標))にて分析をおこない、展開溶媒にはジメチルホルムアミド(塩化リチウムを0.01モル%含有)を用いて測定した。なお、標準分子量サンプルとしてはシグマアルドリッチ製ポリスチレンセット(ピークトップ分子量Mp=400~2000000)を用いた。
【0039】
(2)繊維カラー
ISO 2469に準拠して、分光色彩計SD7000(日本電色工業製)を用いて測定した。
(測定条件)
表色系:ハンター
正反射光方式:SCI
光源:D65
【0040】
(3)耐光堅牢度
ISO105 B02に準拠して、ブルースケールが標準退色になった時に、同時に照射していた試験片をブルースケールと並べて判定を行った。
【0041】
<実施例1>
乾燥窒素雰囲気下の反応容器に、水分率が100ppm以下のN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)100gを秤量し、このDMAc中にメタフェニレンジアミン(以下MPDと略す)11.61gを溶解させ、-5℃に冷却した。この冷却したDMAc溶液に、さらにイソフタル酸クロライド粉末(以下IPCと略す)21.75gを攪拌しながら10分で添加し、重合反応を行った。この時のモノマー比率は、0.998であり、モノマー混合速度は、6.5質量%/分であった。
【0042】
次に、30wt%の水酸化カルシウム/DMAcスラリー溶液21.17gを秤量し、重合溶液に対してゆっくり加え、中和反応を実施した。水酸化カルシウムの投入が完了した後、さらに30分間攪拌して、透明なポリマードープを得た。
得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、1.9であった。
【0043】
続いて、このポリマードープを、孔径0.07mm、孔数100のノズルより押し出し、速度5.0m/分で水/DMAc=45/55(質量%)の浴中に押し出し、凝固を行い、3.7倍で可塑延伸した後、水洗した。その後、330℃の熱板上で1.2倍の熱延伸処理を実施した。得られた繊維の各種物性を測定した結果を表1に示す。
【0044】
<実施例2>
実施例1において、モノマー混合速度を65.2質量%/分とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、2.2であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表1に示す。
【0045】
<実施例3>
実施例1において、モノマー混合速度を4.3質量%/分とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、1.8であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表1に示す。
【0046】
<実施例4>
実施例1において、IPC21.79gを用いて、モノマー比率を1.000とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、2.5であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表1に示す。
【0047】
<実施例5>
実施例1において、IPC21.84gを用いて、モノマー比率を1.002とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、3.6であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
<比較例1>
実施例1において、IPC21.71gを用いて、モノマー比率を0.996とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、0.7であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表2に示す。耐光堅牢度が1等級で目標とする耐光堅牢度が得られなかった。
【0050】
<比較例2>
実施例1において、モノマー混合速度を3.3質量%/分とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、1.2であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表2に示す。耐光堅牢度が2等級で目標とする耐光堅牢度が得られなかった。
【0051】
<比較例3>
実施例1において、IPC21.84gを使用して、モノマー比率を1.002とし、モノマー混合速度を3.3質量%/分とした以外は、実施例1と同様に実施した。得られたポリマードープからポリメタフェニレンイソフタルアミドを単離して、サイズ排除クロマトグラフィーによる、分子量分布のピーク面積比を算出したところ、1.6であった。
得られた繊維の各種物性を測定した結果を表2に示す。耐光堅牢度が2等級で目標とする耐光堅牢度が得られなかった。
比較例1~3で得られた繊維の各種物性を測定した結果を表2に示す。
【0052】
本発明によれば、染料や顔料で着色されていない、或いは非常に薄い色相に着色されている場合であっても優れた耐光堅牢度を示すメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができるので、本発明の産業上の利用可能性は高く、その工業的価値は極めて大きい。