(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084198
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】アクリロニトリル系繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/38 20060101AFI20240618BHJP
D01F 6/18 20060101ALI20240618BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
D01F6/38
D01F6/18 E
D01F9/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198337
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藻寄 貴也
【テーマコード(参考)】
4L035
4L037
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB02
4L035BB05
4L035BB11
4L035BB21
4L035BB66
4L035BB72
4L035BB80
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC02
4L035HH10
4L037CS02
4L037CS03
4L037FA01
4L037PA53
(57)【要約】
【課題】緻密性に優れ、毛羽が少ない高品位なアクリロニトリル系繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】アクリロニトリル系繊維の製造に際し、下記A~Cに記載の要件をすべて満足させる。
A:紡糸に際し、少なくともアクリロニトリル系重合体と有機溶剤からなり、アクリロニトリル系重合体濃度が31~50質量%である紡糸原液を用いる。
B:紡糸原液を、下記式(1)から算出される紡糸下限温度a℃以上、且つ160℃以下の温度下で紡糸口金より吐出する。
a=3×b-30 (1)
ここで、bは紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度(質量%)を表す。
C:紡糸口金より吐出した繊維を冷却し、その際の冷却温度が、紡糸原液のゲル化温度より低い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~Cに記載の要件をすべて満足することを特徴とするアクリロニトリル系繊維の製造方法。
A:紡糸に際し、少なくともアクリロニトリル系重合体と有機溶剤からなり、アクリロニトリル系重合体濃度が31~50質量%である紡糸原液を用いる。
B:紡糸原液を、下記式(1)から算出される紡糸下限温度a℃以上、且つ160℃以下の温度下で紡糸口金より吐出する。
a=3×b-30 (1)
ここで、bは紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度(質量%)を表す。
C:紡糸口金より吐出した繊維を冷却し、その際の冷却温度が、紡糸原液のゲル化温度より低い。
【請求項2】
紡糸原液のゲル化温度が20℃以上かつ140℃以下である請求項1記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法。
【請求項3】
有機溶剤としてジメチルスルホキシドを用いる請求項1又は2記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法。
【請求項4】
アクリロニトリル系重合体の還元粘度が0.8以上かつ2.5以下である請求項1又は2記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の製造方法により得られるアクリロニトリル系繊維を焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル系繊維の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、緻密性に優れ、毛羽が少ない高品位なアクリロニトリル系繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル系繊維は、一般的に乾式紡糸法、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法により生産される。いずれの紡糸方法でも、原料のアクリロニトリル系重合体を溶剤に溶解した紡糸原液を使用することが一般的である。
【0003】
これらの紡糸方法では、繊維構造を形成するために紡糸原液の主成分である溶剤を除去する必要があるが、この際に凝固液の浸透に伴う相分離が進行し、溶剤濃度に応じたポリマー希薄相が形成され、密度の低い繊維構造を形成する。特に凝固液の浸透が遅い繊維中心部の相分離は大きく進行し、ポリマー希薄層が大きくなる傾向がある。
【0004】
従って、この相分離を制御することにより、緻密な繊維構造を形成することがポリマー溶液を紡糸原液とした紡糸法における重要な技術となっている。そのため、紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体の濃度は、従来のいずれの紡糸方法においても30重量%未満とされており、この濃度の低さが生産性低下の主要因となっている(例えば特許文献1)。
【0005】
これらの課題を解決するためには溶剤を使用しない溶融紡糸法が有効であるが、一般的にアクリロニトリル系重合体の融点は自己反応温度以上であり、安定した溶融体が得られないという課題があった。
【0006】
これらの課題解決を目的として、これまでにいくつかの技術が開示されている。例えば、アクリロニトリル系重合体の共重合成分としてメチルアクリレートを所定量含有させることにより、アクリロニトリル系重合体の融点を下げて溶融紡糸を可能とする技術(特許文献2)や、重合方法を改良してアクリロニトリル系重合体中の共重合成分の分布を制御することにより、アクリロニトリル系重合体の耐熱性を向上し、溶融紡糸を可能とする技術(特許文献3)が提案されている。
【0007】
これらの技術はアクリロニトリル系重合体の融点を降下させるもしくは耐熱性を向上させることにより、アクリロニトリル系重合体の溶融を可能とし、糸状に賦形することを実現させている。これにより、溶剤を使用しないことから生産性が高く、凝固液浸透による相分離も伴わない、緻密性に優れたアクリロニトリル系繊維が得られる。
【0008】
しかしながら、これらの技術においてもアクリロニトリル系重合体の溶融時に自己反応の進行を止めることは困難であり、得られるアクリル系繊維の品質が低下する、さらに、アクリル系繊維に種々の特性を付与することができる共重合成分を使用することができないといった問題がある。また、可塑剤としてアクリロニトリル系重合体に水が添加されているが、水の沸点を超えた状態で溶融体を吐出するため、水の揮発に伴い繊維内部に欠陥を生むといった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-229577号公報
【特許文献2】特開平1-111010号公報
【特許文献3】国際公開第2017/084853号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、有機溶剤とアクリロニトリル系重合体からなる紡糸原液を、ゲル化が起こる程度に紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度を高め、加熱により流動開始した紡糸原液を紡糸口金から吐出した後、冷却して迅速にゲル化を進行させることにより相分離の進行を抑制し、以って、緻密性に優れ、毛羽が少ない高品位なアクリロニトリル系繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、アクリロニトリル系重合体からなる紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度を高め、該紡糸原液を紡糸口金から吐出した後、冷却するとき、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明によれば、
1.下記A~Cに記載の要件をすべて満足することを特徴とするアクリロニトリル系繊維の製造方法、
A:紡糸に際し、少なくともアクリロニトリル系重合体と有機溶剤からなり、アクリロニトリル系重合体濃度が31~50質量%である紡糸原液を用いる。
B:紡糸原液を、下記式(1)から算出される紡糸下限温度a℃以上、且つ160℃以下の温度下で紡糸口金より吐出する、
a=3×b-30 (1)
ここで、bは紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度(質量%)を表す、
C:紡糸口金より吐出した繊維を冷却し、その際の冷却温度が、紡糸原液のゲル化温度より低い、
2.紡糸原液のゲル化温度が20℃以上かつ140℃以下である上記1記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法、
3.有機溶剤としてジメチルスルホキシドを用いる上記1又は2記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法、
4.アクリロニトリル系重合体の還元粘度が0.8以上かつ2.5以下である上記1又は2記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法、
及び、
5.上記1記載の製造方法により得られるアクリロニトリル系繊維を焼成することを特徴とする炭素繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、緻密性に優れ、毛羽が少ない高品位なアクリロニトリル系繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細を説明する。
本発明は、アクリロニトリル系重合体溶液を紡糸原液として使用し、紡糸に際して紡糸原液を吐出した後に冷却することにより生じるゲル化を利用することに特徴がある。
【0015】
即ち、従来の凝固液の浸透による相分離を利用した湿式紡糸や乾湿式紡糸法では、凝固条件を適正化して高度に相分離挙動を制御したとしても、紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度に応じたポリマー希薄相の形成が生じ、さらに相分離が進行することによりポリマー希薄相のサイズは大きくなる。特に繊維中心部における相分離が最も進行するため、繊維外周部に対して中心部の方がポリマー希薄層のサイズが大きくなる傾向がある。
【0016】
このポリマー希薄相は延伸処理や加熱処理により小さくすることができるが、これらの処理には限度があり、ポリマー希薄層のサイズが大きいほど繊維中に欠陥を残すこととなる。また、従来の溶剤を揮発させることによる凝固を利用した乾式紡糸法では、溶剤は繊維外周からのみ除かれるため、同様に繊維中心部の相分離が大きく進行することになる。
【0017】
一方で、本発明においては紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度が高く、かつ温度差によるゲル化を利用するため、3次元網目構造を保持したアクリロニトリル系重合体の膨潤体として形状が固定されるので、ポリマー希薄相のサイズは極めて小さく、かつ繊維内外差が生じにくい。
【0018】
従って、本発明による紡糸法によれば、口金から吐出された紡糸原液が冷却されて透明なゲルが得られ、その後アクリロニトリル系重合体の貧溶媒である水などに接触したとしても、相分離が進行することなく透明な状態を維持する。これにより、アクリロニトリル系繊維の単糸繊度を大きくするために吐出時の単糸径を大きくした場合でも相分離が進行せず、繊維中心部まで緻密な構造を有する。つまり、従来の紡糸方法と比較して単糸繊度の大きなアクリロニトリル系繊維を高品位に生産することが可能となる。さらに、紡糸原液が高濃度であることから、繊維を緻密化するために必要な延伸倍率が小さいという特徴も有する。
【0019】
〔アクリロニトリル系重合体〕
本発明において使用するアクリロニトリル系重合体を得るための重合方法は、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法など公知の重合法を用いることができる。生産性の観点から懸濁重合法が好ましい。懸濁重合を選択する場合、ラジカル重合、イオン重合など公知のアクリロニトリル重合法を選択できるが、生産性の観点からラジカル重合が好ましい。
【0020】
この場合、アクリロニトリルをモノマー主成分とする重合反応において分子量が十分に成長することができる公知の分散剤を用いることができる。例えば、水、トルエンを用いることができる。経済性の観点から水が好ましい。ラジカル重合に用いる重合開始剤や触媒は特に限定されず、例えばアゾ系化合物、有機過酸化物、又は過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのナトリウム塩あるいはアンモニウム塩等のレドックス触媒が挙げられる。レドックス開始剤を使用する場合は、レドックス反応を効率良く進行させるために、触媒やpH調整剤を適宜加えることができる。アクリロニトリル系重合体の還元粘度を調整する目的で、レドックス開始剤の添加量を調整することができる。
【0021】
上記アクリロニトリル系重合体はアクリロニトリルを主成分とし、公知のアクリロニトリルと共重合可能な単量体を共重合させることができる。主成分であるアクリロニトリルの質量比率は好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。公知のアクリロニトリルと共重合可能な単量体としては、例えば、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリルアミド、イタコン酸、ビニルスルホン酸、スチレンなどを選択でき、1種または複数を選択することができる。
【0022】
アクリロニトリル系重合体の還元粘度は0.8以上かつ2.5以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.0以上かつ2.5以下である。還元粘度が0.8未満ではアクリル系重合体の耐熱性が低く、得られるアクリロニトリル系繊維の品質が低下する場合がある。一方、還元粘度が2.5を越える場合は、紡糸原液の粘度が高くなり過ぎて紡糸が困難となる場合がある。還元粘度が1.0以上であれば得られるアクリロニトリル系繊維のタフネスが十分に高い。
【0023】
〔紡糸原液〕
本発明における紡糸原液はアクリロニトリル系重合体と溶剤を主成分とする、紡糸工程に供する重合体溶液を言い、これに、種々の改善を図る目的で公知の添加剤を用いることができる。
【0024】
溶剤は公知のアクリロニトリル系重合体が可溶な有機溶剤を使用することができる。例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどを選択できる。アクリロニトリル系重合体に対する溶解性の高さの観点からジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが好ましく、紡糸原液吐出時の溶剤に由来した蒸気発生による断糸や糸内部の欠陥抑制の観点から沸点が比較的高いジメチルスルホキシドがさらに好ましい。
【0025】
紡糸原液におけるアクリロニトリル系重合体の濃度は、31~50質量%であることが必要であり、33~50質量%であることがより好ましく、35~50質量%であることがさらに好ましい。アクリロニトリル系重合体の濃度が31質量%未満の場合、溶剤比率が高いためにゲル化が進行せず相分離が大きく進行し、繊維中の緻密性が損なわれる。一方、アクリロニトリル系重合体の濃度が50質量%を越える場合、紡糸原液の流動性を得るために紡糸原液の温度を上げる必要があり、アクリロニトリル系重合体の熱劣化が進行するので、得られるアクリロニトリル系繊維の品質が低下する。33質量%以上であれば繊維間の融着が生じにくく、アクリロニトリル系重合体の濃度が35質量%以上であれば繊維内部の緻密性が極めて高いアクリロニトリル系繊維が得られる。
【0026】
紡糸原液はアクリロニトリル系重合体を溶剤と加熱混合し溶解することで得られる。加熱混合方法は公知の方法を用いることができ、経済性と品質の観点から一軸押出機、二軸押出機などの一般的な押し出し機を用いることが望ましい。この際に、アクリロニトリル系重合体と溶剤は事前に混合してから押し出し機に投入してもよいし、アクリロニトリル系重合体を先に投入し、サイドフィーダーから溶剤を投入もよい。同様に添加剤を投入することもできる。
【0027】
加熱温度はアクリロニトリル系重合体に対する溶剤量の比率やアクリロニトリル系重合体の還元粘度、滞留時間等を考慮して選択することができ、80℃以上160℃以下が好ましい。80℃以下では均一に溶解する時間が不足し、160℃以上ではアクリロニトリル系重合体が熱劣化するため好ましくない。
【0028】
紡糸原液の熱的安定性と気泡抑制の観点から、溶剤と混合溶解する前にアクリロニトリル系重合体を乾燥しておくことが望ましい。溶剤と混合する前のアクリロニトリル共重合体中の水分率は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。同様の理由で溶剤中の水分率も1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0029】
紡糸原液の粘度や耐熱性、紡糸時の曳糸性や延伸性、アクリル系繊維の熱特性等を制御する目的で還元粘度や共重合成分、共重合比の異なるアクリロニトリル系重合体を2種以上混合しても良い。混合する方法として、アクリロニトリル系重合体を混合してから溶解装置に投入してもよいし、それぞれのアクリロニトリル系重合体が溶剤に溶解されたものを混合してもよい。
【0030】
紡糸原液のゲル化温度は20℃以上かつ140℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは30℃以上かつ120℃以下である。ゲル化温度が20℃未満ではゲル化させることが困難となり冷却液中で相分離が進行しやすくなる。ゲル化温度が140℃を越える場合は吐出温度上限である160℃以下で曳糸性良好な紡糸原液が得られない。ゲル化温度が30℃以上であれば十分に相分離を抑制した冷却糸を得ることができ、ゲル化温度が120℃以下であれば曳糸性に優れた紡糸原液となる。
【0031】
紡糸原液のゲル化温度を調整するために、紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度やアクリロニトリル系重合体の還元粘度を調整することができる。アクリロニトリル系重合体濃度を高くする、あるいはアクリロニトリル系重合体の還元粘度を高くする、または両方を高くすることでゲル化温度を高くすることができる。
【0032】
具体的には、アクリロニトリル系重合体の還元粘度が1.2以上かつ1.8未満の場合、アクリロニトリル系重合体濃度を31質量%以上かつ50質量%以下とし、アクリロニトリル系重合体の還元粘度が0.8以上かつ1.2未満の場合は、アクリロニトリル系重合体濃度を40質量%以上かつ60質量%以下とし、アクリロニトリル系重合体の還元粘度が1.8以上かつ2.5未満の場合は20質量%以下かつ40質量%未満とすることでゲル化温度を20℃以上かつ140℃以下とすることができる。
【0033】
〔紡糸〕
上記紡糸原液はフィルター濾材に通してゲル状異物や非溶解成分を濾別し、紡糸工程に供する。生産性および得られるアクリロニトリル系繊維の性能の観点から、紡糸原液は高度に脱泡または消泡され、気泡を有していないことが好ましい。脱泡または消泡は加圧または減圧により促進することができる。
【0034】
本発明においては、紡糸原液を空中に吐出して冷却することで糸条とする。紡糸原液を吐出する際の温度は、紡糸原液に含まれるアクリロニトリル系重合体の濃度に応じて適切な範囲を選択することが肝要である。アクリロニトリル系重合体濃度が31~50質量%の範囲では、下記の式(1)から算出される紡糸下限温度a℃以上、且つ160℃以下の温度下で紡糸口金より吐出する必要がある。
a=3×b-30 (1)
ここで、bは紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度(質量%)を表す。
【0035】
吐出する際の温度がa未満の場合、紡糸原液の粘度が高くなり紡糸することが困難となり、一方、吐出する際の温度が160℃を越える場合はアクリロニトリル系重合体が熱劣化し、安定して紡糸することが困難となる。
【0036】
冷却方法はポリエステルなどの溶融紡糸法にて公知の空冷もしくは冷却液への浸漬などの手法が採用できる。この際に、曳糸性を高める目的で吐出直後の雰囲気を保温してもよい。単糸間の融着抑制の観点から空気中に吐出した糸条がガイドやローラーに接触する前に冷却液に浸水させてもよい。冷却液に浸漬させる場合は紡糸口金から吐出した糸条を空気中で冷却しなくてもよい。冷却温度はゲル化を十分に進行させるためにゲル化温度より低いことが必要であり、ゲル化温度より10℃以上低いことが好ましい。
【0037】
経済性の観点から冷却液を使用する場合は水洗を同時に行うことが好ましく、冷却液は紡糸原液の溶剤と水の混合物とすることが好ましい。冷却液の溶剤濃度は80質量%以下とすることが好ましい。80質量%以上の場合、単糸間の融着が生じたり、糸形状の変形が生じる。
【0038】
紡糸原液を押し出すための紡糸口金は、好ましくは1,00~100,000の範囲の紡糸孔を備える。紡糸孔の孔径は、好ましくは0.02~0.5mmである。孔径が0.5mm以下であることで吐出された糸同士の接着が起こりにくいので、均質性に優れたアクリロニトリル系繊維束を得やすく好ましい。孔径が0.02mm以上であることで、紡糸糸切れの発生を抑制することができ紡糸安定性を維持しやすく好ましい。
【0039】
紡糸原液を紡糸口金から吐出するときの線速度と、吐出された紡糸原液が最初に接触する駆動源を持ったローラーの速度の比で表される紡糸ドラフトは得られる繊維の繊度や強度、伸度等に応じて適宜調整することができる。
【0040】
得られた糸条は、水洗とオイリングを経て乾燥工程に供される。水洗は溶剤を除去する目的で行われ、公知の方法で行うことができる。オイリングは糸束の収束性を付与する目的で行われ、公知のオイルを使用して公知の方法で行うことができる。オイリングの前に糸条を浴中延伸してもよい。この場合は30℃以上かつ98℃以下の温度に調整された単一または複数の浴中で行うことが好ましい。その時の延伸倍率は1.1倍以上かつ5倍以下とすることが好ましく、1.1倍以上かつ4倍以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
乾燥は、水洗およびオイリング後の糸条の内外に保有されている水を糸条から除去し、糸条を構成するポリマーであるアクリロニトリル系重合体を軟化させ、糸条を構成する各単糸の内部のボイドを減らし、各単糸の緻密性を向上する目的で行われ、公知の方法で行うことができる。
【0042】
次にさらなる延伸を施してもよい。延伸は、乾熱式や加圧蒸気式など公知の方法を使用することができる。その時の延伸倍率は品位を保つ観点から1.1倍以上かつ7倍以下とすることが好ましく、1.1倍以上かつ6倍以下とすることがさらに好ましい。延伸工程の後、糸条は熱処理工程に供してもよい。この熱処理はアクリロニトリル系繊維の結晶配向性を制御し、糸内部の緊張部を緩和する目的で行われ、公知の方法で行うことができる。
【実施例0043】
以下、実施例および比較例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。また、実施例中の各物性は以下の方法により測定した。
【0044】
(1)還元粘度
アクリロニトリル系重合体が濃度0.5g/100mLとなるようにジメチルホルムアミドに溶解させて検体液を得た。溶解させるときにアクリロニトリル系重合体が変性しないように加熱温度は60℃以下とした。粘度計としてウベローデ粘度計を用い、検体液を仕込んでから35℃に調整した湯浴中で30分保持した後、標線間の落下時間を1/100秒の精度で3回測定し、その平均値をt(秒)とした。同様に、アクリロニトリル系重合体を溶解していないジメチルホルムアミドについても測定し、t0(秒)とした。以下の式をもとに還元粘度を算出した。
還元粘度=(t-t0)/t0
【0045】
(2)紡糸原液前駆体の作製
プラネタリーミキサーの攪拌槽に窒素を導通し、温度を-10℃として攪拌を開始した。ジメチルスルホキシド10kg投入し、凝固により粉体状になるまで1時間攪拌した。続いて、アクリロニトリル系重合体を各実施例に記載した濃度となるように計量し、攪拌槽に投入してさらに1時間攪拌し、紡糸原液前駆体である混合粉体を得た。
得られた混合粉体は常温ではジメチルスルホキシドが融解し、アクリロニトリル系重合体が膨潤することでハンドリング性が低下するため、0℃で保持した。
【0046】
(3)ゲル化温度
フィルター通過後の紡糸原液を採取して測定サンプルとした。動的粘弾性測定装置として回転式レオメーターARES(TAインスツルメント社製)を使用し、ジオメトリーはステンレス製のボブ・カップ(共軸二重円筒)型で、シリンダー内径25.0mm、プランジャー外径27.0mm、ボブの高さ32.0mmのものを使用した。
測定に際して溶剤の揮発等による測定サンプルの変質を予防する観点から、流動する程度まで予備加熱した試料をカップに装填し、ボブを既定の深さに挿入した後にカップの空きスペースに流動パラフィンを流し込むことで、測定サンプルを外気から密閉した。
【0047】
測定周波数は6.28rad/秒とし、歪み量は最小トルクを0.004Nmとして自動制御とした。測定温度は、初期温度を紡糸原液の流動性が確認できる温度以上とし、冷却速度2℃/分にて冷却させた。測定サンプルの冷却過程における動的粘弾性測定を行い、得られた貯蔵弾性率と損失弾性率の比から得られる損失正弦(tanδ)が1となる温度をゲル化温度とした。
【0048】
(4)毛羽量(300m当たりの毛羽数)
繊維束を走行させ、目視にて毛羽数(単糸切れ)を数えた。この時、走行速度は1m/秒とし、サンプル長は300mとした。
尚、毛羽量を10個/300m以下とすることで、炭素繊維前駆体繊維を焼成する際にローラーへの巻き付き量が低下し、品位に優れた炭素繊維が得られるため好ましい。
【0049】
〔実施例1〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が45質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
二軸押し出しは混練部を155℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ104℃であった。
【0050】
次に二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸原液を155℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条はローラーを使用して巻き取り、ゲル状冷却糸を得た。従って、この際の冷却温度は30℃であった。この時、紡糸ドラフトは8.8とし、ゲル状冷却糸に失透は確認されなかった。
【0051】
冷却糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で2.0倍に延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率2.0倍に延伸を行った。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維を得た。得られたアクリロニトリル繊維の毛羽量を測定したところ8個/300mであった。
【0052】
〔実施例2〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が38質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0053】
二軸押し出しは混練部を125℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ71℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸原液を125℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条はローラーを使用して巻き取ることができた。単糸間の融着を抑制する目的で、吐出された糸条をローラーで巻き取る前に温度20℃の冷却液に導入してゲル状冷却糸を得た。従って、この際の冷却温度は20℃であった。この時、紡糸ドラフトは5.9とし、ゲル状冷却糸に失透は確認されなかった。
【0054】
ゲル状冷却糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で2.5倍に延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率2.0倍に延伸を行った。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維を得た。得られたアクリロニトリル繊維の毛羽量を測定したところ1個/300mであった。
【0055】
〔実施例3〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が38質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0056】
二軸押し出しは混練部を125℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ71℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸原液を125℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条はローラーを使用して巻き取ることができた。単糸間の融着を抑制する目的で、吐出された糸条をローラーで巻き取る前に温度20℃の冷却液に導入してゲル状冷却糸を得た。従って、この際の冷却温度は20℃であった。この時、紡糸ドラフトは9.8とし、ゲル状冷却糸に失透は確認されなかった。
【0057】
ゲル状冷却糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で2.5倍に延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率2.0倍に延伸を行った。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維を得た。得られたアクリロニトリル繊維の毛羽量を測定したところ1個/300mであった。
【0058】
〔実施例4〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が34質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0059】
二軸押し出しは混練部を85℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ31℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸原液を85℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条はローラーを使用して巻き取ることができた。単糸間の融着を抑制する目的で、吐出された糸条をローラーで巻き取る前に温度20℃の冷却液に導入してゲル状冷却糸を得た。従って、この際の冷却温度は20℃であった。この時、紡糸ドラフトは4.4とし、ゲル状冷却糸に失透は確認されなかった。
【0060】
ゲル状冷却糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で2.5倍に延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率2.4倍に延伸を行った。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維を得た。得られたアクリロニトリル系繊維の毛羽量を測定したところ0個/300mであった。
【0061】
〔実施例5〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.43のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が37質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0062】
二軸押し出しは混練部を110℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ50℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸原液を110℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条はローラーを使用して巻き取ることが困難であったが、吐出された糸条をローラーで巻き取る前に温度20℃の冷却液に導入することでゲル状冷却糸を得た。従って、この際の冷却温度は20℃であった。この時、紡糸ドラフトは4.8とし、ゲル状冷却糸に失透は確認されなかった。
【0063】
ゲル状冷却糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で2.5倍に延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率2.4倍に延伸を行った。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維を得た。得られたアクリロニトリル繊維の毛羽量を測定したところ1個/300mであった。
【0064】
〔比較例1〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が30質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0065】
二軸押し出しは混練部を80℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ18℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリル系繊維を得た。紡糸原液を60℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条をローラーを使用して巻き取ったところ、融着が生じて巻き取ることができなかった。吐出された糸条をローラーで巻き取る前に温度20℃の冷却液に導入し紡糸ドラフトを3.4として冷却糸を得たが、冷却によるゲル化が進行せず、冷却液中にて相分離が進行した結果、冷却糸は失透していた。従って、この際の冷却温度は20℃であった。
【0066】
〔比較例2〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が30質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0067】
二軸押し出しは混練部を80℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ18℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行うことでアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸原液を60℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、吐出された糸条をローラーで巻き取る前に温度5℃の冷却液に導入し紡糸ドラフトを3.4として冷却糸を得たが、冷却によるゲル化が進行せず、冷却液中にて相分離が進行した結果、冷却糸は失透していた。従って、この際の冷却温度は5℃であった。
【0068】
〔比較例3〕
攪拌翼と温水ジャケットと窒素導通管を備えた150Lの反応槽に、ジメチルスルホキシドを78kg、アクリロニトリルを22kg、イタコン酸を0.22kg仕込み、均一になるように攪拌混合し、60℃まで昇温させた。60℃に到達後、アゾビスイソブチロニトリルを0.09kg、オクチルメルカプタンを0.02kg投入し、反応を開始した。
【0069】
反応開始後4時間までは反応温度が60℃となるように温度制御を行った。その後、10℃/時間の速度で2時間昇温した。続いて、6時間を反応温度が80℃となるように温度制御を行った。得られたドープを減圧することで、未反応のアクリロニトリルを留去させた。続いて、ドープにアンモニアガスを吹込み、均一になるように攪拌混合させ紡糸原液を得た。
【0070】
紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体濃度を測定したところ20質量%であった。紡糸原液中のアクリロニトリル系重合体の還元粘度を測定したところ、1.67であった。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ、ゲル化温度が確認される前に紡糸原液が凍結したためゲル化温度は観測されなかった。従って、紡糸に際してゲル化を目的とした冷却は行わなかった。
【0071】
紡糸原液を目開き3μmのフィルターに通過させ、35℃に調整し、直径0.15mmの口金を用いて、一旦空気中に吐出し、3mmの空間を通過させた後、濃度35質量%、浴温度3℃のジメチルスルホキシド水溶液に導入して乾湿式法により凝固糸を得た。この時、紡糸ドラフトは1.3とした。凝固糸は水洗により脱溶剤し、熱水中で3.0倍に延伸し、シリコーン油剤を付与し、段階的に温度を上げた加熱ローラーを用いて乾燥を行った。続いて、加圧水蒸気中で延伸倍率4.0倍に延伸を行った。続いて、熱セットローラーを用いて熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維を得た。得られたアクリル繊維の毛羽量を測定したところ45個/300mであった。得られたアクリロニトリル系繊維は緻密性が低いため延伸処理により毛羽が多量に発生しており、品位が低いものであった。
【0072】
〔比較例4〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1質量%共重合した還元粘度1.67のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が38質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0073】
二軸押し出しは混練部を125℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ71℃であった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を試みた。紡糸原液を80℃とし、目開き10μmのフィルターに通過させ、孔径0.15mmの口金を用いて空気中に吐出した。この際、糸条が走行する空気の温度は30℃とし、得られた糸条をローラーを使用して巻き取ったところ、断糸が生じ巻き取ることができなかった。従って、この際の冷却温度は30℃であった。この時、紡糸ドラフトは4.9とした。
【0074】
〔比較例5〕
アクリロニトリル系重合体としてアクリロニトリルにイタコン酸1wt%共重合した還元粘度1.43のものを用い、アクリロニトリル系重合体濃度が50質量%となるように紡糸原液前駆体である混合粉体を作製した。窒素を導通し、-10℃に冷却した定量フィーダーの貯槽に混合粉体を投入し、二軸押し出し機に定量フィードした。
【0075】
二軸押し出しは混練部を150℃に加熱し混合粉体を連続的に加熱混合溶解させ均一な紡糸原液を作製した。この際、ダイス手前の部分より減圧することで紡糸原液が含む気泡を除外した。紡糸原液のゲル化温度を測定したところ紡糸原液の流動性が確認されず、測定することができなかった。二軸押し出し機より供給された紡糸原液を連続的に紡糸を行おうとしたが、紡糸原液が熱劣化により変質し、実施することができなかった。
上記実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0076】
本発明によれば、緻密性に優れ、毛羽が少ない高品位なアクリロニトリル系繊維の製造方法を提供することができるので、産業上の利用可能性は高く、その工業的価値は極めて大きい。