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  • 特開-ポリエステルフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084203
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198344
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩見 篤史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA46
4F071AA81
4F071AA84
4F071AA86
4F071AA88
4F071AB21
4F071AE12
4F071AF13Y
4F071AF53Y
4F071AF54Y
4F071AF62Y
4F071AG12
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB08
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】動的耐屈曲性と静的耐屈曲性を両立するポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】下記算出方法から得られた活性化エネルギーEaが450kJ/mol以上800kJ/mol以下であって、面配向係数が0.120以上0.164未満であるポリエステルフィルム。
[算出方法]
動的粘弾性測定から得られた各測定周波数k(0.1Hz、0.5Hz、1.0Hz、2.0Hz、5.0Hz、10Hz)における損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比からtanδピーク温度Tを算出し、横軸を1/T、縦軸をLn(k)とするアレニウスプロットから線形近似を取り、その傾き[-Ea/R]からEaを算出し、長手方向、幅方向の両方向の平均値を活性化エネルギーEaとする。
T:tanδピーク温度[K]
k:測定周波数[Hz]
Ln:自然対数
R:気体定数 8.314[J・K-1・mol-1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記算出方法により得られた活性化エネルギーEaが450kJ/mol以上800kJ/mol以下であって、面配向係数が0.120以上0.164未満であるポリエステルフィルム。
[算出方法]
動的粘弾性測定から得られた各測定周波数k(0.1Hz、0.5Hz、1.0Hz、2.0Hz、5.0Hz、10Hz)における損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比からtanδピーク温度Tを算出し、横軸を1/T、縦軸をLn(k)とするアレニウスプロットから線形近似を取り、その傾き[-Ea/R]からEaを算出し、長手方向、幅方向の両方向の平均値を活性化エネルギーEaとする。
T:tanδピーク温度[K]
k:測定周波数[Hz]
Ln:自然対数
R:気体定数 8.314[J・K-1・mol-1]
【請求項2】
ネットワーク延伸比λnetが1.4以上である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
フーリエ変換赤外分光法による1386cm-1のピーク強度が0.6以上、0.75以下である請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
絡み合い点間密度Nが4×1026(m-3)以上12×1026(m-3)以下である請求項1または3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
保護用フィルムとして使用される請求項1または3に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
有機エレクトロルミネッセンス表示装置用保護フィルムとして用いられる請求項1または3に記載のポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode)と呼ばれる(OLEDと省略されることもある)自発光体を用いた画像表示装置(以下、「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」という。)の実用化が進んでいる。この有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、従来の液晶表示装置と比較して、自発光体を用いているため、視認性、応答速度の点で優れているだけでなく、バックライトのような補助照明装置を要しないため、表示装置としての薄膜化、フレキシブル化が可能となっている。このため、折り畳みや巻き取ること、繰り返し折り曲げが可能なフレキシブルディスプレイの開発が加速しており、表示装置表面の傷付きを防止するカバーフィルムや、OLED表示装置の内部に搭載されるOLEDの保護を目的としたOLEDサポートフィルム(バックプレートフィルムと呼ばれることもある)についても耐屈曲性が求められている。
【0003】
例えば、フレキシブルディスプレイ向けに、ポリエステルフィルムを含む可撓性を有する透明樹脂フィルムの少なくとも一方の面に反射防止層が設けられた反射防止フィルムが提案されている(特許文献1)。更に、特定の曲げ特性に着目した有機エレクトロルミネッセンス表示装置用ポリエステルが提案されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-75869号公報
【特許文献2】特開2018-124367号公報
【特許文献3】国際公開第2021/182191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の画像表示装置向けに使用されるフィルムは、基材となるフィルムは耐屈曲性が考慮されておらず、フレキシブルディスプレイ用への適用は困難であった。また、耐屈曲性には繰り返し折り曲げ試験による動的耐屈曲性と、折り曲げた状態で一定時間静置して、その後にどの程度折り目が付いているか、といった静的耐屈曲性があるが、特許文献2、3については、静的耐屈曲性を発現するために特定の曲げ特性に着目しているものの、動的耐屈曲性までは考慮されておらず、静的耐屈曲性と動的耐屈曲性を両立できていないものであった。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記した動的耐屈曲性と静的耐屈曲性を両立するポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリエステルフィルムは、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(1)下記算出方法から得られた活性化エネルギーEaが450kJ/mol以上800kJ/mol以下であって、面配向係数が0.120以上0.164未満であるポリエステルフィルム。
[算出方法]
動的粘弾性測定から得られた各測定周波数k(0.1Hz、0.5Hz、1.0Hz、2.0Hz、5.0Hz、10Hz)における損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比からtanδピーク温度Tを算出し、横軸を1/T、縦軸をLn(k)とするアレニウスプロットから線形近似を取り、その傾き[-Ea/R]からEaを算出し、長手方向、幅方向の両方向の平均値を活性化エネルギーEaとする。
T:tanδピーク温度[K]
k:測定周波数[Hz]
Ln:自然対数
R:気体定数 8.314[J・K-1・mol-1]
(2)ネットワーク延伸比λnetが1.4以上である(1)に記載のポリエステルフィルム。
(3)フーリエ変換赤外分光法による1386cm-1のピーク強度が0.6以上0.75以下である(1)または(2)に記載のポリエステルフィルム。
(4)絡み合い点間密度Nが4×1026(m-3)以上12×1026(m-3)以下である(1)~(3)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(5)保護用フィルムとして使用される(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
(6)有機エレクトロルミネッセンス表示装置用保護フィルムとして用いられる(1)~(4)のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、活性化エネルギーEaと面配向係数を特定範囲に制御することにより、動的耐屈曲性と静的耐屈曲性を両立できるポリエステルフィルムを提供できる。かかるポリエステルフィルムは、例えば有機エレクトロルミネッセンス表示装置等のフレキシブルディスプレイ用フィルムとして特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ネットワーク延伸比λnetを求めるための、未延伸シートおよび測定サンプルである延伸シートの伸度-応力曲線を表すグラフである。
図2】活性化エネルギーEaを求めるための、横軸を1/T、縦軸をLn(k)とする、各測定周波数kで得られたtanδピーク温度Tのアレニウスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係るポリエステルフィルムについて、実施の形態とともに詳細に説明する。
【0011】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステルを主たる構成成分とする。ポリエステルを与える、グリコールあるいはその誘導体としては例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、それらの誘導体が挙げられる。
【0012】
また、本発明に用いるポリエステルを与えるジカルボン酸あるいはその誘導体としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、並びに、それらの誘導体を挙げることができる。ジカルボン酸の誘導体としては例えば、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2-ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどのエステル化物を挙げることができる。
【0013】
本発明におけるポリエステルの組成としては、グリコール単位の80mol%以上がエチレングリコール由来の構造単位であることが好ましく、より好ましくは85mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上である。また、ジカルボン酸単位の80mol%以上がテレフタル酸由来の構造単位であることが好ましく、より好ましくは85mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上である。剛性を低下することなく動的耐屈曲性を維持しつつ、静的耐屈曲性をさらに向上させる観点からイソフタル酸を2mol%以上6mol%以下の範囲で共重合された組成を用いることが好ましい。より好ましくは2.5mol%以上4mol%以下の範囲である。尚、6mol%を超える範囲でイソフタル酸を共重合すると静的屈曲性に優れる一方、剛性が低下して動的耐屈曲性を損なうことがある。また、単一樹脂ではなく、他のポリエステル樹脂を混合してもよい。例えば、ポリブチレンテレフタレートを混合するとヤング率を低下させることができ、ポリエチレンナフタレートを添加するとヤング率は上昇する傾向となる。適宜、必要な特性に応じて混合することができる。なお、本発明のポリエステルフィルムは二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0014】
ポリエステルフィルムにおいて動的耐屈曲性と静的耐屈曲性を両立する考え方について示す。動的耐屈曲性は繰り返し歪みに対する耐性が必要となり、フィルムの機械的強度や剛性が高いほど有利である。通常、ポリエステルフィルムの考え方では、高い剛性とするためにフィルムを高倍率延伸することによって高配向化することが一般的である。一方、静的耐屈曲性は、フィルムを折り曲げた状態で一定時間維持することから、フィルムの剛性が高い場合、剛性の高さ故に一定時間保持した後に折り目が付きやすくなってしまい、静的耐屈曲性に劣ってしまう。本発明では動的耐屈曲性と静的耐屈曲性を両立するために、フィルム配向を一定以下に保ち、静的耐屈曲性を担保した上で、高配向化以外でのフィルム高剛性化によって到達したものである。また、静的耐屈曲性を得る上で、低配向ながらも緻密な分子構造をとることも重要である。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムは、活性化エネルギーEaが450kJ/mol以上800kJ/mol以下とするものである。ここで、活性化エネルギーEaの算出方法は実施例における測定方法(13)活性化エネルギーEaに記載の通りである。本発明における活性化エネルギーEaは、ポリエステルフィルムにおける非晶部の活性化状態を現すパラメーターである。活性化エネルギーEaが大きいことによって非晶部がより拘束状態になっていることを示すものであり、所謂、アモルファスの分子運動性が高い非晶状態とは異なり、非晶鎖が緊張状態にあって非晶状態においても高い剛直性を示すものである。すなわち、フィルムの配向が低い状態であっても活性化エネルギーEaを450kJ/mol以上に制御することによって動的耐屈曲性を発現することができるものである。従って、活性化エネルギーEaが450kJ/mol未満であると動的耐屈曲性に劣る。一方、活性化エネルギーEaが800kJ/molを超えてしまうと、非晶部の拘束状態が非常に高くなってしまい、熱による寸法安定性が著しく低下してしまうため、その後のハードコート層などを設けるなどの熱加工で収縮や変形、カールなど不具合が生じて実用性に劣ってしまう。このため、活性化エネルギーEaは450kJ/mol以上800kJ/mol以下とする必要がある。好ましくは480kJ/mol以上750kJ/mol以下、500kJ/mol以上700kJ/mol以下、最も好ましくは550kJ/mol以上650kJ/mol以下である。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは面配向係数が0.120以上0.164未満である。前記のとおり、フィルムが高配向であると動的耐屈曲性には優れるものの、静的耐屈曲性に劣る。このためフィルムの配向状態を示す面配向係数は0.164未満とする必要がある。面配向係数は実施例における測定方法(5)ポリエステルフィルムの面配向係数fnに記載の方法にて求めることができる。動的耐屈曲性の観点から面配向係数は0.140以上であることが好ましく、0.155以上であることが好ましく、0.160以上であることが最も好ましい。面配向係数は例えばフィルムの面積延伸倍率にて調整可能であり、面積延伸倍率が高いほど、面配向係数が大きくなる。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムを活性化エネルギーEaが450kJ/mol以上800kJ/mol以下であり、かつ面配向係数が0.12以上0.164未満とするためには、フィルムの非晶部の緊張状態を緻密に制御することが重要であり、フィルムの製膜条件((1)段階延伸、(2)フィルム二軸延伸後の50℃以下までの冷却、(3)最終的な熱処理温度)、フィルムの固有粘度、二軸延伸後の熱処理温度により制御することができる。以下に詳細に説明する。
【0018】
まず、フィルムの二軸延伸条件としては、緻密な分子構造を形成する上で各軸の延伸方向に段階延伸(例えば3段階以上に分けて延伸)することが好ましい。例えば、一軸目に長手方向の延伸を3段階にて実施する場合において、3段階の延伸倍率を順にMD1、MD2、MD3としたとき、以下のように延伸倍率を設定することが緻密なバルク構造を取るうえで好ましい。なお、本発明では便宜上、機械の流れ方向(MD方向)を長手方向、長手方向との直交方向を幅方向(TD方向)とする。ただし、フィルムの長手方向と幅方向が不明である場合、フィルムの任意の一方向(0°)、該方向から15°、30°、45°、60°、75°、90°、105°、120°、135°、150°、165°の方向の破断強度を測定し、最も破断強度の高かった方向を幅方向とみなし、幅方向と直交する方向を長手方向とみなす。
【0019】
(一軸目の延伸倍率の振り分けの例)
MD1:1.03倍以上、1.08倍以下である。
MD2:1.05倍以上、1.12倍以下である。
MD3:2.0倍以上3.3倍以下であり、かつ、一軸目のトータル延伸倍率(MD1×MD2×MD3)に占めるMD3が80%以上である。
【0020】
また、二軸目に幅方向の延伸を3段階にて実施する場合において、3段階の延伸倍率を順にTD1、TD2、TD3としたとき、以下のように延伸倍率を設定することが緻密なバルク構造を取るうえで好ましい。
【0021】
(二軸目の延伸倍率の振り分けの例)
TD1:1.3倍以上、2.0倍以下である。
TD2:1.3倍以上、1.8倍以下である。
TD3:1.3倍以上、1.8倍以下である。
二軸目のトータル延伸倍率(TD1×TD2×TD3):3.5倍以下である。
TD1、TD2、TD3の延伸倍率差が0.3倍以下である。
【0022】
本発明では、フィルムを二軸延伸した後に50℃以下まで冷却する工程を経た後、熱処理工程を有することが好ましい。従来のポリエステルフィルムの製造方法では、生産性や熱効率的に逐次二軸延伸、および同時二軸延伸した後に、50℃以下まで冷却することなく、そのまま熱処理工程で熱処理を施すが、フィルムバルク構造を緻密に形成し、分子鎖絡み合いを増長させるためには、二軸延伸した後に一度50℃以下まで冷却することが好ましい。二軸延伸によって形成した結晶構造を50℃以下で安定させた後に熱処理を行うことでフィルムバルク構造が緻密になり、これにより活性化エネルギーEaを本発明の範囲に制御しやすくなっているものと推定される。二軸延伸した後に35℃以下まで冷却する工程を経た後、熱処理工程を有することがより好ましい。
【0023】
本発明における二軸延伸後の熱処理工程では活性化エネルギーEaを本発明の範囲に制御する観点から210℃未満とすることが好ましい。一方、後加工などの実用性の観点から寸法安定性を踏まえると、160℃以上とすることが好ましい。好ましくは180℃以上200℃未満である。
【0024】
上記観点から、フィルムの熱履歴を示すDSC(示差走査熱量測定)から得られる微小吸熱ピーク温度Tmetaは150℃~200℃に存在することが好ましい。尚、熱処理温度の設定とフィルムのTmetaは製膜条件によって若干のギャップが見られ、熱処理温度に対してTmetaは少なくとも同温度以下となる傾向がある。
【0025】
本発明では、フィルムの固有粘度を高くすると絡み合い点間密度Nは大きくなる傾向にある。他の要件とあわせて制御することで後述する耐屈曲破断回数を好適な範囲にすることができる。フィルムの固有粘度は好ましくは0.66dl/g以上1.15dl/g以下である。なお、固有粘度を高くするとフィルムを製膜する押出過程において濾圧が高くなる傾向にあり量産性が低下することがある。フィルムの固有粘度は使用する樹脂の固有粘度で調整可能である。上限は特に無いが、フィルムを製膜する押出過程において濾圧が高くなり吐出量を下げる必要が生じるため、量産性が低下することがある。フィルムの固有粘度は使用する樹脂の固有粘度で調整可能である。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、ネットワーク延伸比λnetが1.4以上であることが好ましい。ここで、ネットワーク延伸比λnetは実施例における測定方法(8)ネットワーク延伸比λnetに記載の方法にて測定可能である。ネットワーク延伸比λnetとは、例えば、繊維学会誌(Vol.65,No4(2009))溶融紡糸ポリエチレンテレフタレート繊維の力学特性に対するノズル径の影響(増田正人著)に記載されているとおり、高分子材料が示す粘弾性的な特性が分子鎖の絡み合い点を擬似的な架橋点として構成される絡み合い(ネットワーク)構造を想定し、このネットワーク構造の絶対的な延伸倍率に相当するものである。本発明においては、この値が大きいことによって、より、剛直なネットワーク構造を形成しているものと着想し、耐屈曲破断回数を大きくすることに到達し得たものである。ネットワーク延伸比λnetは好ましくは1.5以上である。ネットワーク延伸比λnetを1.4以上とする手段の一例としては、重量平均分子量が20000以上の樹脂を用い、面積延伸倍率を11倍以上、12.25倍未満、かつ熱処理温度を200℃未満であることを同時に全て満たすことが挙げられる。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、絡み合い点間密度Nが4×1026(m-3)以上12×1026(m-3)以下であることが好ましい。ここで絡み合い点間密度Nとは、実施例における測定方法(9)絡み合い点間密度Nに記載のとおり算出することが可能である。絡み合い点間密度Nとは、ゴム弾性の理論式に基づいた分子鎖の絡み合い密度を示すものであり、緻密な分子構造となるものである。絡み合い点間密度Nを上記の範囲とすることによって、活性化エネルギーEaを本発明の好ましい範囲に制御しやすくなるだけでなく、耐屈曲破断回数を大きくすることができる。絡み合い点間密度Nを大きくするためには重量平均分子量が20000以上の樹脂を用い、面積延伸倍率を11倍以上、12.25倍未満、かつ熱処理温度を200℃未満とすることが好ましい。
【0028】
本発明のポリエステルフィルムは、重量平均分子量Mwが20000以上50000以下であることが好ましく、より好ましくは、20000以上35000以下であり、20000以上27500以下であることが最も好ましい。重量平均分子量が当該範囲内であることによって、前述の通り、分子鎖の絡み合い増加によって、同じ製膜条件で得られフィルムに比べてネットワーク延伸比λnetおよび絡み合い点間密度Nを本願範囲に制御しやすくなる。重量平均分子量Mwを20000以上50000以下とする方法は特に限られるものではない。例えば、原料として用いるポリエステルの固有粘度が高いほど重量平均分子量Mwは高くなる傾向にあり、溶融押出温度を樹脂の融点よりも高くすると重量平均分子量Mwは低くなる傾向にあり、押出機に投入されて口金からブリードされるまでの滞留時間を長くすると重量平均分子量Mwは低くなる傾向にあるので、各条件を制御することで好ましい重量平均分子量Mwとすることができる。なお、ポリエステルには固有粘度が0.70以上の樹脂を使用した上で、押出温度を樹脂の融点+40℃以下に制御し、押出機に投入されて口金からブリードされるまでの滞留時間を10分以下とする方法が好適な方法として挙げられる。重量平均分子量Mwを高くする観点から固有粘度が0.80以上の樹脂を使用することがより好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルフィルムは、フーリエ変換赤外分光法による1386cm-1のピーク強度が0.6以上0.75以下であることが好ましい。ポリエステルフィルムにおいて1386cm-1のピーク強度は分子鎖のfolding構造に由来する結晶トランス量を相対的に現したパラメーターであり、本ピーク強度が大きいほど、結晶化が進行していることを示すものである。本発明においては、結晶化によって寸法安定性に優れるものであり、フーリエ変換赤外分光法による1386cm-1のピーク強度が0.6以上であることが好ましい。一方、結晶性が進行しすぎるとフィルムの剛直性が増加してしまい動的耐屈曲性が悪化してしまう。このため、本発明においては寸法安定性および剛直性の観点から1386cm-1のピーク強度が0.75以下であることが好ましい。測定方法は実施例に記載の通りである。フーリエ変換赤外分光法による1386cm-1のピーク強度が0.6以上0.75以下とするためには、面配向係数を0.155以上とした上で、二軸延伸後の熱処理温度を160℃以上200℃未満とすることが好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムの厚みとしては、5μm以上100μm以下が好ましい。フィルム厚みを5μm以上、より好ましくは9μm以上、さらに好ましくは11μm以上とすることで、ハンドリング性、耐傷性、硬化性樹脂を塗布した際の平面性に優れる。また、フィルム厚みを100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは38μm以下とすることで、静的耐屈曲性に優れる。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムの好ましい使用態様としては、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に硬化性樹脂を含有する層を有する積層シートが挙げられる。かかる積層シートとすることで、該硬化性樹脂層側からの衝撃に対する傷付き抑制効果を高めることが可能となるため、有機エレクトロルミネッセンス表示装置用途に好適に用いることができる。
【0032】
ここで、硬化性樹脂とは、熱や光を照射することで架橋構造を形成し、硬化する樹脂を指す。前記硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂であることが好ましく、具体的には例えば、有機シリコーン系、ポリオール系、メラミン系、エポキシ系、多官能アクリレート系、ウレタン系、イソシアネート系、有機材料と無機材料の複合材料である有機無機ハイブリット系および硬化性のある官能基を有するシルセスキオキサン系などの樹脂が挙げられる。より好ましくは、エポキシ系、多官能アクリレート系、有機無機ハイブリット系、シルセスキオキサン系の樹脂である。更に好ましくは、多官能アクリレート系、有機無機ハイブリット系、シルセスキオキサン系の樹脂である。
【0033】
前記硬化性樹脂として用いる多官能アクリレート系、シルセスキオキサン系樹脂については、多官能アクリレートモノマー、オリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、アルコキシシラン、アルコキシシラン加水分解物、アルコキシシランオリゴマー、などが好ましい。
【0034】
前記多官能アクリレートモノマーの例としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能アクリレート及びその変性ポリマー、具体的な例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリアクリレートヘキサンメチレンジイソシアネートウレタンモノマーなどを用いることができる。これらの単量体は1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
【0035】
また、本発明において、硬化性樹脂を含有する層には、1種類以上の粒子を含むことが好ましい。前記粒子としては無機粒子と有機粒子のどちらでもよいが、表面硬度向上には無機粒子が好ましい。
【0036】
無機粒子としては例えば、金属や半金属の酸化物、珪素化物、窒化物、ホウ素化物、塩化物、炭酸塩などが挙げられる。具体的には、シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化アンチモン(Sb)及びインジウムスズ酸化物(In+SnO)からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
また、表面硬度を向上させる目的で粒子を導入する場合、その粒子径は1nm以上300nm以下であることが好ましい。表面硬度と耐折り曲げ性をより高いレベルで両立する点で、粒子径は、より好ましくは50nm以上200nm以下であり、更に好ましくは100nm以上150nm以下である。
【0038】
ここでいう粒子径とは数平均粒径のことを示し、フィルムの断面内において観察される粒子径を意味する。形状が真円でない場合には同面積の真円に変換した値を粒子径とする。ここで、数平均粒径Dnは次の(1)~(4)の手順により求めることができる。
(1)まず、ミクロトームを用いて、フィルム断面を厚み方向に潰すことなく切断する。このとき、切断はフィルム長手方向と平行方向になるよう行なう。
(2)切断した試料の断面について、走査型電子顕微鏡を用いて、拡大観察画像を得る。観察点1箇所に付き、2500μm以上の領域を撮影する。
(3)次いで、該画像中の断面内に観察される各粒子について、その断面積Sを求め、次式にて粒径dを求める。
d=2×(S/π)1/2
(4)得られた粒子径dと、樹脂粒子の個数nを用いて、次式によりDnを求める。
Dn=Σd/n
但し、Σdは観察面内における粒子の粒径の総和、nは観察面内の粒子の総数。
(5)上記(1)~(4)を、5箇所場所を変えて実施し、その平均値を粒子の数平均粒径とする。
【0039】
前記硬化性樹脂と前記粒子との含有比(粒子/樹脂)は、質量比で20/80~80/20であることが好ましい。当該含有比を20/80以上、より好ましくは30/70以上、さらに好ましくは40/60以上とすることで、表面硬度を効果的に得ることができる。また当該含有比を80/20以下、より好ましくは70/30以下、さらに好ましくは60/40以下とすることで、耐屈曲性の低下を抑えることができる。
【0040】
次に本発明のポリエステルフィルムの具体的な製造方法の例について記載する。ここではフィルムを構成するポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いて例示するが、本発明はかかる例のみに限定して解釈されるものではない。
【0041】
まず、フィルムに用いられる樹脂として、固有粘度が0.85gl/dであるポリエチレンテレフタレート樹脂を乾燥、予備結晶化させた後、単軸押出機に供給し、溶融押出する。この際、樹脂温度は265~290℃に制御することが好ましい。次いで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を各々行い、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気で冷却ドラムと樹脂を密着させる静電印加法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステル樹脂のガラス転移点~(ガラス転移点-20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。
【0042】
キャスト工程で得られた未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。かかるフィルムの二軸延伸方法としては、例えば、各軸の延伸方向に多段階に分けて延伸することが緻密な分子構造を形成する上で重要である。例えば、一軸目に長手方向の延伸を3段階にて実施する場合において、3段階の延伸倍率を順にMD1、MD2、MD3としたとき、以下のように倍率を設定することが、緻密なバルク構造を取るうえで好ましい。
【0043】
(一軸目の延伸倍率の振り分けの例)
MD1:1.03倍以上、1.08倍以下である。
MD2:1.05倍以上、1.12倍以下である。
MD3:2.0倍以上3.3倍以下であり、かつ、一軸目のトータル延伸倍率(MD1×MD2×MD3)に占めるMD3が80%以上である。
【0044】
また、二軸目に幅方向の延伸を3段階にて実施する場合において、3段階の延伸倍率を順にTD1、TD2、TD3としたとき、以下のように延伸倍率を設定することが緻密なバルク構造を取るために好ましい。
【0045】
(二軸目の延伸倍率の振り分けの例)
TD1:1.3倍以上、2.0倍以下である。
TD2:1.3倍以上、1.8倍以下である。
TD3:1.3倍以上、1.8倍以下である。
二軸目のトータル延伸倍率(TD1×TD2×TD3):3.5倍以下である。
TD1、TD2、TD3の延伸倍率差が0.3倍以下である。
【0046】
本発明では活性化エネルギーEaおよび面配向係数を本発明の範囲に制御する観点および、厚みムラを抑える観点から、それぞれの方向に2.4倍以上に延伸することが好ましい。また、面配向係数を0.120以上0.164以下とするには面積延伸倍率を8.0倍以上12.25倍未満とすることが好ましい。
【0047】
また、延伸温度は、延伸ムラが生じない程度とすることが好ましく、例えば、長手方向に延伸した後に、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方法を採用する場合は、長手方向の予熱温度は樹脂のガラス転移温度-20℃以上ガラス転移温度+0℃以下、延伸温度は樹脂のガラス転移温度以上ガラス転移温度+30℃以下とすることが好ましく、幅方向の予熱温度は樹脂のガラス転移温度-10℃以上ガラス転移温度+20℃以下、延伸温度は樹脂のガラス転移温度以上ガラス転移温度+60℃以下とすることが好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムを製造するにあたっては、フィルムの内部構造におけるバルク構造を緻密に形成し、分子鎖絡み合いを増長させる上で、二軸延伸の後、熱処理をする前に一旦50℃以下まで冷却することが好ましい。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムを製造するにあたっては、二軸延伸後または上記の冷却後に、フィルムの熱処理を行うことが好ましい。前記熱処理により寸法安定性を向上させることができる。前記熱処理はオーブン中、加熱したロール上など、従来公知の任意の方法により行うことができる。前記熱処理は、前述の通り、微小吸熱温度ピークTmetaを200℃未満とすることを前提に施すとよい。微小吸熱温度ピークTmetaを200℃未満とするには熱処理温度を210℃以下とすることが好ましい。尚、熱処理は複数のゾーンに分けて段階的に昇温・降温する方法や、熱処理工程で幅方向に1.01倍~1.2倍程度に微延伸する方法も用いることができる。また、熱処理はフィルムを長手方向および/または幅方向に弛緩させて行ってもよい。また、熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは10~60秒間、より好ましくは15~30秒間である。
【0050】
また、本発明のポリエステルフィルムに硬化性樹脂を含有する層を積層させる場合には、当該層との密着性の観点から、表面にコロナ処理をする、または少なくとも片面に、厚みが10nm以上500nm以下、表面自由エネルギーが38mN/m以上である易接着樹脂層を積層することが好ましい。当該易接着樹脂層の形成方法としては、易接着樹脂をフィルム表面に被覆させる方法、例えば複合溶融押出法、ホットメルトコート法、水以外の溶媒、水溶性および/または水分散性樹脂からのインライン、オフラインコート法などが挙げられる。なかでも、配向結晶化が完了する前のフィルムの一方の面に被膜塗剤を塗布し、少なくとも一方向に延伸し、熱処理して、配向結晶化を完了させるインラインコーティング法が均一な被膜形成の観点や工業上の観点からも好ましい。
【0051】
また、コーティングにより前記易接着樹脂層を設ける場合、易接着樹脂層を付与する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、各種グラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などを使用することができ、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。密着性の観点からポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、またはウレタン系樹脂を用いるのが好ましい。ポリエステル樹脂を水系塗液として用いる場合には、水溶性あるいは水分散性のポリエステル樹脂が用いられるが、このような水溶性化あるいは水分散化のためには、スルホン酸塩基を含む化合物や、カルボン酸塩基を含む化合物を共重合させることが好ましい。またアクリル樹脂を水性塗液として用いる場合には、水に溶解あるいは分散された状態にする必要があり、乳化剤として界面活性剤(例えば、ポリエーテル系化合物などが挙げられるが、限定されるものではない。)を使用する場合がある。
【0052】
また、本発明に用いられる易接着樹脂層には、さらに接着性を向上させるために、樹脂に各種の架橋剤を併用することができる。架橋剤樹脂としては、メラミン系、エポキシ系、オキサゾリン系樹脂が一般に用いられる。本発明に用いられる易接着樹脂層に含有される粒子としては、無機系粒子や有機系粒子を挙げることができるが、易滑性や耐ブロッキング性が向上するので、無機粒子がより好ましい。この無機粒子としては、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタンなどを用いることができる。
【0053】
本発明のポリエステルフィルムは、動的耐屈曲性と静的耐屈曲性に優れるため、例えばハンドリング性が求められる保護フィルムとして好適に使用することができる。更に、本発明の効果を鑑みれば有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)用保護フィルムとして特に好適に使用することができる。OLED用保護フィルムとして適用することで、表示装置のフレキシブル性を損なうことなく、表示装置表面或いはOLED内部に搭載したサポートフィルムとして耐屈曲性に優れる。また、光学フィルムのみならず、本発明の特性を利用した各種保護フィルム、包装用途といった工業材料用の保護フィルムとして用いることも好ましい態様として挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0055】
[測定方法]
(1)フィルム厚み
フィルムの全体厚みを測定する際は、ダイヤルゲージ(株式会社ミツトヨ社製)を用いて、フィルムから5cm正方形に切り出した試料から無作為に抽出した5ヶ所の厚みを測定し、平均値を求めた。
【0056】
(2)フィルムを構成する樹脂の組成
フィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量した。
【0057】
(3)ポリエステルフィルムを構成する樹脂のガラス転移温度および融点Tm、Tmeta
JIS K7121(1987年)に準拠して、示差走査熱量測定装置(セイコーインスツル(株)製ロボットDSC-RDC6220)を用い、データ解析には熱分析レオロジーシステムソフトフェア(エスアイアイナノテクノロジー(株)社製“Muse”)を用いて、ガラス転移温度 [℃]、融点Tm[℃]、微小吸熱ピーク温度Tmeta[℃]の測定および解析を行った。
【0058】
具体的にはサンプル5mgを25℃から20℃/分で300℃まで昇温した。その際のDSC曲線より得られた発熱ピークの頂点の温度をTcc、DSC曲線より得られた吸熱ピーク頂点の温度を融点Tm、TmとTccとの間に見られる微小吸熱ピークの温度をTmetaとした。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から求めた。
【0059】
(4)固有粘度
サンプル0.100gを0.001g以内の精度で秤量し、10mLのo-クロロフェノールを用いて100℃×30分間加熱して溶解した。溶液を室温まで冷却し、25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計に該溶液を8mL仕込み、標線を通過する秒数を計測した(A秒)。また、o-クロロフェノールのみ8mL用いて前記と同様に25℃の水槽中に設置したオストワルド粘度計で標線を通過する秒数を計測した(B秒)。固有粘度は次の計算式で計算した。
IV=-1+[1+4×K×{(A/B)-1}]0.5/(2×K×C)
ここでKは0.343、Cは試料溶液の濃度(g/100mL)である。
【0060】
(5)面配向係数fn
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計(アタゴ(株)製NAR-4T)を用いてフィルムの長手方向、幅方向および厚み方向の屈折率(各々、nMD、nTD、nZD)をJIS K7142(2014)A法に準拠して測定した。テストピースとしては屈折率が1.74のものを用いた。求めた屈折率から下記の式により、フィルムの面配向係数(fn)を算出した。
fn=(nMD+nTD)/2-nZD ・・・(式)。
【0061】
(6)重量平均分子量Mw
試料溶液調整として、サンプル3mgにトリフルオロ酢酸ナトリウム添加ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として5mLを加え、40℃で3時間緩やかに攪拌した。その後0.5μmフィルターを用いて濾過を行った。次に、トリフルオロ酢酸ナトリウム添加ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として、示差屈折率(RI)検出器(東ソー製RI-8020)を用いてゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、以下の条件にて重量平均分子量を測定した。
カラム:shodexHFIP-LG1本(φ8.0mm×5cm、昭和電工製)
shodexHFIP-806M2本(φ8.0mm×30cm、昭和電工製)
流速:0.5mL/min
カラム温度:40℃
注入量:0.2mL
分子量校正:単分散ポリメチルメタクリレート(PMMA)(昭和電工製)を標準試料とした。
【0062】
(7)硬化性樹脂層および易接着樹脂層の厚み
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察することにより、フィルム上の硬化性樹脂層の厚みを測定した。硬化性樹脂層の厚みは、TEMにより10万倍の倍率で撮影した画像から読み取った。合計で10点の硬化性樹脂層および易接着樹脂層の厚みを測定し、平均値を用いた。尚、観察倍率は厚みが測定可能であれば10万倍以外でもよい。
【0063】
(8)ネットワーク延伸比λnet
初めに基準試料を準備する。基準試料は、フィルムを未延伸状態とする必要があるため、まずは測定するサンプルの固有粘度を測定し、同等の固有粘度(±0.3以内とする)となる同組成の樹脂を基準試料用の樹脂とする。本発明の実施例・比較例においては、それぞれの原料構成で指定する主原料、(用いていれば)副原料、および粒子マスターを、それぞれの原料構成で指定の混合比で混合させたものを基準試料用の樹脂とした。
【0064】
基準試料用の樹脂について溶融押出にて厚みが400μmとなるように未延伸シートを得て、これを基準試料とした。尚、基準試料として用いる未延伸シートは上記(1)の測定による5ヶ所の測定において、厚みバラツキが±5%以下のものとした。例えば、400μmのフィルムであった場合、380~420μm以内に収まっているものとした。
【0065】
次に、基準試料について万能試験機にて伸度および加重を測定した。測定方法は下記(10)伸度-応力曲線に記載のとおりである。次いで、得られた伸度および加重から各伸度における公称ひずみ、真ひずみ、公称応力、真応力を以下の通りに算出した。
【0066】
公称ひずみ=伸び(mm)/初期長(mm)
※伸度(%)=伸び(mm)/初期長(mm)×100
真ひずみ=Ln(1+公称ひずみ)
公称応力(MPa)=加重(N)/初期断面積(mm
真応力=公称応力×(1+公称ひずみ)
算出された真ひずみをX軸、真応力をY軸として真ひずみ-真応力曲線を作成した。
【0067】
次いで、測定サンプルについても上記同様に伸度-応力曲線を得て真ひずみ-真応力曲線を算出した。得られた真ひずみ-真応力曲線を図1に示すとおり、基準試料の破断点と重なるようにシフトし、0を基準として、伸長開始時の真ひずみ値のシフト量をネットワーク延伸比λnetとした。
【0068】
例えば、基準試料の破断時の公称ひずみを5.0、公称応力を40MPaとすると真ひずみがLn(1+5.0)=1.791759、真応力は40×(1+5)=240であり、測定サンプルにおいて、基準試料の破断点の真応力と同じ値となるように真応力を重ね合わせた際の伸長開始時の真ひずみ値が1.3であるとき、シフト量は1.3と算出される。
【0069】
(9)絡み合い点間密度
サンプルの熱収縮応力ピーク値σを下記(11)記載の方法にて測定した。得られた各種データより下記式により算出した。
N=σ/kT(λnet-λnet-1)・・・式
ここに、
N:絡み合い点間密度(m-3
σ:熱収縮応力のピーク値(N/m
k:ボルツマン定数(1.380649×10-23[J/K])
T:温度(298.16(K))。
【0070】
(10)伸度-応力曲線
長さ150mm、幅10mmの短冊状のサンプルをJIS Z1702(1994年)に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロン”(登録商標)AMF/RTA-100)を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、試料数20にて測定をした。
【0071】
得られた測定結果の中から伸度が低い順に5点、伸度が高い順に上から5点の計10点をデータから除去した。残った10点をもとに、伸度および応力の平均値を求めた。破断点の伸度については、上記10点の値の平均値とした。一方、破断点の応力は、10点のうち、破断点の伸度が平均以上となった試料の応力のみを用い、平均化した値を応力として用いた。これは、破断点の伸度が平均伸度に到達していない試料の、10点の平均伸度における応力は0であり、これらを含むと破断点の応力の平均値は実態から乖離してしまうためである。
試料サイズ:幅10mm×試長間50mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH。
【0072】
(11)熱収縮応力ピーク値σ
フィルムを長手方向および幅方向に長さ50mm×幅4mmの矩形に切り出しサンプルとし、熱機械分析装置(セイコ-インスツルメンツ製、TMA EXSTAR6000)を使用して、下記条件下で昇温した際の熱収縮応力ピーク値σ(N/m)を測定した。
チャック間距離:15mm
荷重:19.6mN
昇温速度:5℃/分
測定温度範囲:25~220℃。
【0073】
(12)1386cm-1ピーク強度
表面に対して、フーリエ変換赤外分光分析装置(PerkinElmer社製Spectrum100)を用い、FT-IRスペクトルを測定した。
光源:特殊セラミックス
検出器素子:DTGS
分解能:4cm-1
積算回数:256回
測定波数範囲:4,000~680cm-1
測定モード:減衰全反射(ATR)法
付属装置:1回反射型ATRクリスタル(材質:ダイヤモンド/ZnSe)。
【0074】
縦軸をアブソーバンス[A]として、得られたスペクトルをベースライン補正、ATR補正を行った。補正されたスペクトルから1408cm-1ピーク強度が3になるよう規格化し、1386cm-1ピーク強度を読み取った。
【0075】
(13)活性化エネルギーEa
動的粘弾性測定(DMA)から得られた各測定周波数kにおけるtanδピーク温度TからEaを算出した。まず、DMAを用いて各測定周波数kにおけるtanδピーク温度Tを測定した。サンプルをフィルム幅方向中央部から7cm×1cmで切り出し、測定長2cm×フィルム幅1cmのサンプルとなるようにサンプルホルダーに設置した。粘弾性測定装置(セイコーインスルメンツ(株)製DMS6100)を用い、引っ張りモードで室温20℃から200℃の温度範囲、変位10μm、振動周波数0.1Hz、0.5Hz、1.0Hz、2.0Hz、5.0Hz、10Hz、昇温速度2℃/minの条件で貯蔵弾性率E’及び損失係数E”を測定した。次いで、tanδを、損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比から求めた。フィルムの長手方向および幅方向の両方向を測定方向とした。得られたtanδの温度変化スペクトルのうち、tanδが極大値を取る温度をtanδピーク温度とした。
【0076】
次に、横軸を1/T、縦軸をLn(k)として、各測定周波数kで得られたtanδピーク温度Tをアレニウスプロットした(図2参照)。得られたプロットから線形近似を取り、その傾き[-Ea/R]からEaを算出し、長手方向、幅方向の両方向の平均値を活性化エネルギーEaとした。
T:tanδピーク温度[K]
Ln:自然対数
R:気体定数 8.314[J・K-1・mol-1]。
【0077】
(14)屈曲破断回数
MIT耐折度試験機(マイズ社製試験機No.702)を用い、JIS P8115(2001年)に準じて、長さ(測定方向)110mm、幅15mmサイズに切り出したサンプルを荷重1000g、屈曲角度左右135°(R:+135°、L:-135°)、屈曲速度175回/分、チャック先端R:0.38mmで屈曲試験を行い、フィルムが破断されたときの屈曲回数を屈曲破断回数とした。なお、試験は3回実施し、その平均値を採用した。
【0078】
(15)動的耐屈曲性
幅108mm、長さ112mmに切り出したサンプルを、U字伸縮試験器(ユアサシステム機器製 DLDMLH-FS)において、チルトクランプが水平状態、ストローク方向がサンプル長さ方向になるようにチルトクランプ端部に貼り付け、試験速度60r/min、試験ストローク60mm、面間距離3mmにて10000回屈曲し、試験後のサンプルについて蛍光灯の反射光と、外観より動的耐屈曲性について以下の判定を行った。AおよびBを合格とした。
A:外観変化がなく、反射光の歪みも観察されず、動的耐屈曲性に優れる。
B:外観上の変化はなかったが、反射光の歪みが観察された。実用上、問題はない。
C:外観に折り曲げラインが鮮明に観察され、動的耐屈曲性に劣る。
【0079】
(16)静的耐屈曲性
長さ60mm×幅25mmに切り出したフィルムサンプルを、U字伸縮試験器(ユアサシステム機器製DLDMLH-FS)において、屈曲方向を長さ方向として、チルトクランプが水平状態、ストローク方向がサンプル長さ方向になるようにチルトクランプ端部に貼り付け、面間距離1.5mmにてフィルムの中央が屈曲する状態で、最も屈曲した状態で24時間静置する。24時間経過後、屈曲状態を開放して装置から取り出し、屈曲した外側が下にくるように静置し、フィルムサンプルの屈曲角度を測定した。本測定をMD方向、TD方向共に5回ずつ行い、その平均値を算出し静的屈曲試験浮き上がり角度とした。完全に折りたたまれた状態を0°、フィルムが折りたたむ前の元の折れの無い状態まで回復する状態を180°として角度を読み取った。得られた回復角から以下のように静的耐屈曲性を判定した。◎が最も優れ、◎~△を合格とした。
◎:静置状態における屈曲角度が160°を超えた。
〇:静置状態における屈曲角度が150°以上160°未満であった。
△:静置状態における屈曲角度が140°以上150°未満であった。
×:静置状態における屈曲角度が130°未満であった。
【0080】
(17)寸法安定性
フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。サンプルに100mmの間隔(中央部から両端に50mmの位置)で標線を描き、3gの錘を吊して150℃に加熱した熱風オーブン内に30分間設置し加熱処理を行った。熱処理後の標線間距離を測定し、加熱前後の標線間距離の変化から下記式により熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)={(加熱処理前の標線間距離)-(加熱処理後の標線間距離)}/(加熱処理前の標線間距離)×100
得られた熱収縮率より、寸法安定性を以下の基準により評価した。◎が最も優れ、◎~△を合格とした。
◎:MDとTDの平均値が3%未満である。
○:MDとTDの平均値が3%以上5%未満である。
△:MDとTDの平均値が5%以上7%未満である。
×:MDとTDの平均値が7%以上である。
【0081】
[ポリエステルおよび粒子マスター]
製膜に供したポリエステル樹脂および粒子マスターは以下のものを準備した。
【0082】
(ポリエステルA)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100mol%である、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0083】
(ポリエステルB)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100mol%である、固有粘度0.75のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0084】
(ポリエステルC)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100mol%である、固有粘度0.88のポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0085】
(ポリエステルD)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100mol%、グリコール成分として1,4-ブタンジオール成分が100mol%である、固有粘度1.2のポリブチレンテレフタレート樹脂。
【0086】
(ポリエステルE)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が97mol%、イソフタル酸成分が3mol%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100mol%である、固有粘度0.80のイソフタル酸3mol%共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂。
【0087】
(粒子マスターA)
ポリエステルA中に平均粒子径1.2μmの炭酸カルシウム粒子を粒子濃度1質量%で含有する、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレート粒子マスター。
【0088】
[実施例1~19、比較例1~4]
樹脂および粒子マスターを、表1に記載の種類および含有量にて混合して押出機に投入した。
【0089】
次いで、表1に記載の押出機温度で溶融させて、Tダイより25℃に制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。
【0090】
次いで、20℃に温度制御した冷却ロールで急冷し、続いて、表2に記載の延伸温度、延伸倍率にてMD方向に各ロールで延伸し、その後一旦冷却した(中間冷却)。
【0091】
次いで、この一軸延伸フィルムの両面にコロナ放電処理を施してフィルムの濡れ張力を55mN/mとし、そのフィルムの両面に易接着樹脂Pを塗布した。
【0092】
次いで、第1オーブンテンターにて表2に記載の延伸温度、延伸倍率にてTD方向に延伸し、中間冷却として表2に記載の温度まで冷却した。次いで、第2オーブンのテンター内にて表2に記載の熱処理温度で熱処理および幅方向に弛緩し、表1に記載のフィルム厚みのフィルムを得た。
【0093】
得られたフィルムの物性は表3、4に示したとおりであった。実施例1~14については、耐屈曲性および硬化性樹脂塗布後の平面性に優れていた。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のポリエステルフィルムは、動的耐屈曲性と静的耐屈曲性に優れるため、例えばハンドリング性が求められる保護フィルムとして好適に使用することができる。特に有機エレクトロルミネッセンス表示装置用保護フィルムとして好適に用いることができる。
図1
図2