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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084254
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】窒化チタン膜及び道具
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20240618BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C23C14/06 A
B23B27/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198422
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】520062801
【氏名又は名称】株式会社ユーパテンター
(71)【出願人】
【識別番号】591164071
【氏名又は名称】和興産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】福田 匠
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
(72)【発明者】
【氏名】笠井薫
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF10
3C046FF17
3C046FF20
3C046FF23
3C046FF24
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA17
4K029BA60
4K029BB02
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA06
4K029CA13
4K029DC03
4K029DC34
4K029DC39
4K029FA05
4K029JA01
(57)【要約】
【課題】低い摩擦係数を有する窒化チタン膜を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、X線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下である窒化チタン膜51である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【請求項2】
請求項1において、
前記窒化チタン膜は、ボールオンディスク試験によって測定された摩擦係数が0.25以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【請求項3】
ボールオンディスク試験によって測定された摩擦係数が0.25以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、
前記窒化チタン膜は、走査プローブ顕微鏡によって測定された表面粗さRaが4.5nm以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項において、
前記窒化チタン膜は、ナノインデンテーション試験によって測定された硬さが27GPa以上であることを特徴とする窒化チタン膜。
【請求項6】
請求項4に記載の窒化チタン膜は、基材表面に成膜されていることを特徴とする道具。
【請求項7】
請求項6において、
前記基材は金型又は工具であることを特徴とする道具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化チタン膜及び道具に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタン膜は、工具や金型等の道具の表面を被覆することで耐摩耗性向上を目的として広く利用されている。これに関連する事項が例えば特許文献1に記載されている。なお、工具には、ドリル、エンドミル、チップ、カッター等の切削工具等を含む。
【0003】
しかしながら、例えばダイヤモンドライクカーボン膜等の固体潤滑膜を工具や金型に被覆した場合と比較すると、窒化チタン膜の方が摩擦係数は高い。そのため、工具や金型に使用される窒化チタン膜には前記固体潤滑膜と比べて被加工材の耐凝着性や成型品の離型性が劣る。
【0004】
そこで、工具や金型に使用される窒化チタン膜に対しては、被加工材の耐凝着性や成型品の離型性の向上のため、更なる低摩擦係数の実現が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-202926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スパッタリング装置のスパッタリングターゲットと基板間にコイルを挿入し、当該コイルに電力を投入し、高密度な誘導結合プラズマを発生させた状態で反応性スパッタリングを行う誘導結合プラズマ支援反応スパッタリング法により窒化チタン膜を金型や工具等の道具に成膜する。これにより、その成膜された窒化チタン膜の結晶性が変化し、それによって窒化チタン膜の低摩擦化や高硬度化等を実現することを本発明者らは見出した。
【0007】
本発明の一態様は、低い摩擦係数を有する窒化チタン膜又はその窒化チタン膜を表面に成膜した道具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]X線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下(好ましくは0.6°以下、さらに好ましくは0.4°以下)であることを特徴とする窒化チタン膜。
【0009】
[2]上記[1]において、
前記窒化チタン膜は、ボールオンディスク試験によって測定された摩擦係数が0.25以下(好ましくは0.2以下)であることを特徴とする窒化チタン膜。
【0010】
[3]0.25以下(好ましくは0.2以下)の摩擦係数を有することを特徴とする窒化チタン膜。
【0011】
[4]上記[1]から[3]のいずれか一項において、
前記窒化チタン膜は、走査プローブ顕微鏡によって測定された表面粗さRaが4.5nm以下(好ましくは3.0nm以下)であることを特徴とする窒化チタン膜。
【0012】
[5]上記[1]から[4]のいずれか一項において、
前記窒化チタン膜は、ナノインデンテーション試験によって測定された硬さが27GPa以上(好ましくは30GPa以上、より好ましくは33GPa以上)であることを特徴とする窒化チタン膜。
【0013】
[6]上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の窒化チタン膜は、基材表面に成膜されていることを特徴とする道具。
【0014】
[7]上記[6]において、
前記基材は金型又は工具であることを特徴とする道具。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、低い摩擦係数を有する窒化チタン膜又はその窒化チタン膜を表面に成膜した道具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一態様に係るICP支援反応性スパッタリング装置を概略的に示す構成図である。
図2図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置を用いて基材13に窒化チタン膜51を成膜した状態を示す断面図である。
図3】Siウェハ、SUS304基板、TH10基板の各々の基板上に成膜された窒化チタン膜のX線回折プロファイルを示す図である。
図4】Siウェハ上に窒化チタン膜が成膜される際のICP電極16に印加されるRFが200W、100W、50W、25W及び0Wの各々である場合の窒化チタン膜のX線回折プロファイル、ICP電極16に投入される電力が(111)ピークの半値幅に及ぼす影響を示すグラフ、及び(111)ピークの半値幅の測定結果を示す図である。
図5】ボールオンディスク試験の条件、試験方法、及び試験結果を示す図である。
図6】(a)は、図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に印加される電力が0Wで成膜された比較例の窒化チタン膜の表面粗さRaを走査プローブ顕微鏡によって測定した結果を示す図、(b)は、図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に印加される電力が50Wで成膜された実施例3の窒化チタン膜の表面粗さRaを走査プローブ顕微鏡によって測定した結果を示す図である。
図7図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に印加される電力が0W、50W、100Wそれぞれの場合で成膜された窒化チタン膜のインデンテーション硬さを測定した結果を示す図である。
図8図1に示すスパッタリング装置の変形例を示すICP支援反応性スパッタリング装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一態様に係るICP(Inductively Coupled Plasma)支援反応性スパッタリング装置を概略的に示す構成図である。
【0019】
図1に示すように、ICP支援反応性スパッタリング装置は処理室としての真空容器10を有している。この真空容器10内の上部には、スパッタリングターゲット25を保持する保持部28が配置されている。保持部28には、ローパスフィルター(Low Pass Filter)31を介して直流電源(DC)34が接続されている。また、真空容器10内におけるスパッタリングターゲット25の下方には、高周波コイル(以下、「1ターンのコイル」又は「ICP電極」ともいう)が配設されている。高周波コイル16には、マッチングボックス17を介して高周波電源(RF)18が接続されている。この高周波電源18によって高周波電流を、高周波コイル16に印加するようになっている。
【0020】
真空容器10の周壁の一部には、真空容器10内にガスを導入するガス導入口11が設けられている。このガス導入口11は図示しないガス導入機構に接続されている。また、真空容器10の周壁には、真空容器内を一定の圧力に減圧可能な排気口15が設けられている。この排気口15は図示せぬ真空ポンプなどの真空装置に接続されている。また、真空容器10の底壁の上には、基材13を載置し且つヒーターによって加熱するためのサセプタ14が設けられている。
【0021】
サセプタ14には、マッチングボックス21を介して高周波電源(RF)22が接続されている。この高周波電源22によって高周波電流を、サセプタ14を介して基材13に印加するようになっている。高周波電源22は接地電位に接続されている。なお、基材13は基板及び道具を含む意味であり、道具は金型及び工具等を含む意味である。
【0022】
基材13とスパッタリングターゲット25との間には高周波コイル16が配置されている。高周波コイル16、マッチングボックス17及び高周波電源18は、いわゆるイオン化促進ユニットである。高周波コイル16は、金属フレキシブル・チューブや網組線のような可撓性のある部材により形成された1ターンのコイルにより構成されており、内部が中空となっている。高周波コイル16は、図1に示すサセプタ14に載置された基材表面の略中心から表面に対して垂直上に伸ばした線に対して略同心円状に1ターンのコイルが巻かれたものである。
【0023】
高周波コイル16は、真空容器10内では、処理ガスに直接晒されないようにセラミックスで形成された鞘(図示せず)で覆われている。真空容器10内には、サセプタ14に載置された基材表面の略中心からの垂線と略同軸的に鞘が配設されており、この鞘中に高周波コイル16が挿入されている。このセラミックス製の鞘は、例えば、溶融石英やアルミナのように、化学的に安定でかつイオン衝撃によるスパッタリング率の低い材料で形成されていることが好ましい。
尚、本実施の形態では、高周波コイル16をセラミックスで形成された鞘で覆っているが、高周波コイルをセラミックス膜で被覆することも可能である。
【0024】
このようなセラミックス製の鞘中に、高周波コイル16を収容するためには、例えば、上述したように、高周波コイル16を可撓性のある部材で構成し、予め形成された鞘に高周波コイル16を挿入しても良い。また、高周波コイル16の表面にセラミックス材を塗布し、これを焼結させるようにしても良い。この鞘は高周波コイル16と接触していると放電が生じて破損する恐れがあるので、鞘の内面が高周波コイル16の外面と接触しないように、鞘の内径を、高周波コイル16の外形よりも少し大きく設定することが好ましい。
【0025】
本実施の形態では、使用中に高周波コイル16が過度に加熱されるのを防止するために、上述したように高周波コイル16の内部を中空としており、高周波コイル16と鞘との間を冷媒、例えば冷却水が循環可能となっている。
【0026】
高周波コイル16に高周波電力を印加するための高周波電源18の高周波の周波数は、基材13に高周波電力を印加するための高周波電源22の高周波の周波数に1%以上20%以下(好ましくは1.5%以上10%以下、より好ましくは1.5%以上5%以下)の周波数をプラスした周波数、又は、高周波電源22の高周波の周波数に1%以上20%以下(好ましくは1.5%以上10%以下、より好ましくは1.5%以上5%以下)の周波数をマイナスした周波数である。例えば、基材13に高周波電力を印加するための高周波電源22の周波数を13.56MHzとした場合、高周波コイル16に高周波電力を印加するための高周波電源18の周波数は13.70MHz以上16.27MHz以下又は10.85MHz以上13.42MHz以下とするとよい。また、高周波電源18,22は、4MHz以上28MHz以下であることが好ましい。
【0027】
上述したような構成のスパッタリング装置においては、例えばガスとしてAr及び窒素を減圧した真空容器10内に供給し、スパッタリングターゲット25に直流電流を流しつつICP電極16に高周波電流を流すことにより、スパッタリングを行ってスパッタリングターゲットからスパッタ粒子を放出させつつ、ICP電極16からのICP放電による高密度の誘導結合プラズマを発生させてスパッタ粒子を窒化させながら、基材13に高周波電流を流して基材13にバイアスを印加することにより、基材13上に薄膜の成膜が行われる。上記スパッタリング装置を用いることにより、高周波コイル16によって反応性をより高めた反応性スパッタリングを行うことができる。この際、高周波電源18に印加する高周波の周波数を、高周波電源22に印加する高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をプラスした周波数、又は、高周波電源22に印加する高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をマイナスした周波数とすることで、ICP電極16と基材13とが共振することを防止でき、その結果、特性の良い膜を成膜できる。例えばTiのスパッタリングターゲット25からTiのスパッタ粒子を高周波コイル16によってイオン化し、例えばTiNの物質の合成が可能となり、基材13上に窒化チタン膜が成膜される。
【0028】
なお、本実施形態では、スパッタリングターゲット25を基材13の真上(基材13の表面の垂直方向)に配置しているが、これに限定されず、図8に示すように、基材13の表面の垂直方向に対し傾斜した角度の位置にスパッタリングターゲット25を配置することも可能である。この場合においても、本実施形態と同様に、ガスとしてAr及び窒素を供給し、Tiのスパッタリングターゲット25に直流電流を流しつつ高周波コイル16に高周波電流を流すことにより、スパッタリングを行ってスTiのパッタリングターゲット25からスパッタ粒子を放出させつつ、高周波コイル16からのICP放電による高密度の誘導結合プラズマ16aを発生させてスパッタ粒子を窒化させながら、基材13に高周波電流を流して基材13にバイアスを印加することにより、基材13上に窒化チタン膜を成膜することができる。なお、図8に示すICP支援反応性スパッタリング装置は、スパッタリングターゲット25の位置以外は図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置と同様の構成を有している。
【0029】
(第2の実施形態)
図2は、図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置を用いて基材13に窒化チタン膜51を成膜した状態を示す断面図である。なお、ここでいう「基材13」とは下地膜を有さない基板及び金型又は工具等の道具も含み、種々の基板、金型又は工具等の道具を含む意味であり、金属膜、有機材料膜及び無機材料膜のいずれかの膜を下地膜として有する基板、金型又は工具等の道具を用いてもよいし、アモルファス膜又は結晶膜を下地膜として用いてもよいし、単結晶膜を下地膜としてもよい。基材13としては、例えばSi基板、ステンレス基板等の金属基板、ガラス基板、単結晶基板、サファイア基板であってもよく、それらの基板上に下地膜が無くても良いし、下地膜があってもよい。
【0030】
上述したような構成のスパッタリング装置において、真空容器10内のTiのスパッタリングターゲット25と対向する位置に基材13を保持し、加熱する。加熱するためのヒーター温度は250℃である。基材13が単結晶Siウェハである場合、高精度表面粗さ形状測定機によって測定した基材13の表面粗さRaは0.513nmである。高周波電源22によってマッチングボックス21を介して基材13に例えば13.56MHzの周波数の高周波電圧を印加する。次いで、真空容器10を減圧機構(真空ポンプなどの真空装置)によって排気しつつ真空容器10内にArガス及び窒素ガスを導入することで、真空容器10内を例えば0.05Pa以上3.0Pa以下の範囲に減圧する。次いで、Tiのスパッタリングターゲット25に直流電圧を印加するとともに、ICP電極16に高周波電流を流すことにより、反応性スパッタリングを行ってスパッタリングターゲット25からTiのスパッタ粒子を放出させつつ、そのスパッタ粒子を窒化させながら、高周波電流を流している基材13上に窒化チタン膜51が成膜される。
【0031】
上記の窒化チタン膜51は、X線回折(XRD: X-ray diffraction)で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下(好ましくは0.6°以下、さらに好ましくは0.4°以下)とすることが可能である。この窒化チタン膜51は半値幅が非常に小さく、粒界が少ない単結晶に近い膜である。このため、膜質の良い窒化チタン膜51を得ることができ、低い摩擦係数を実現することが可能となる。
【0032】
また、上記の窒化チタン膜51は、0.25以下(好ましくは0.2以下)の摩擦係数を有することが可能である。これにより、この窒化チタン膜51を金型又は工具等の道具の表面に成膜することで、金型又は工具等の道具の性能を高めることができる。
【0033】
また、上記の窒化チタン膜51は、4.5nm以下(好ましくは3.0nm以下)の表面粗さRaを有するとよい。これにより、この窒化チタン膜51を金型又は工具等の道具の表面に成膜することで、金型又は工具等の道具の性能を高めることができる。
【0034】
また、上記の窒化チタン膜51は、27GPa以上(好ましくは30GPa以上、より好ましくは33GPa以上)の硬さを有するとよい。これにより、この窒化チタン膜51を金型又は工具等の道具の表面に成膜することで、金型又は工具等の道具の性能を高めることができる。
【0035】
上記の窒化チタン膜は基材51表面に成膜されており、この基材51は金型又は工具等の道具であってもよい。工具には、ドリル、エンドミル、チップ、カッター等の切削工具が含まれる。
【0036】
本実施形態によれば、高い性能を有する窒化チタン膜51を得ることができる。また、この窒化チタン膜51を表面に成膜した金型又は工具等の道具を得ることができる。
【実施例0037】
図1に示すスパッタリング装置を用いて、以下の成膜条件により窒化チタン膜を成膜し、この窒化チタン膜をX線回折装置によってX線回折パターンを測定した。
<成膜条件>
・スパッタリングターゲット:Ti
・基材:Siウェハ、SUS304基板、TH10基板(超硬基板)
・下地膜(中間層):Ti皮膜
・バックグラウンドの真空度:1.9×10-3Pa
・成膜時の真空容器10の圧力:2.7×10-1Pa
・使用ガス:Arガス及びNガス
・Arガス流量:45sccm
・Nガス:5sccm
・ヒーター温度:250℃
・基板の温度:352℃
・ターゲット出力(直流電源(DC)34):500W
・ICP電極16に印加される電力(RF):200W
・基板バイアス(RF):50W
【0038】
図3は、上記のSiウェハ、SUS304基板、TH10基板の各々の基板上に成膜された窒化チタン膜のX線回折プロファイルを示す図である。なお、図3中の「●」は基板材料起因のピークである。
図3に示すように、窒化チタン膜の(111)のピークが測定され、Siウェハ上の(111)のピークの半値幅は0.2435°であり、SUS304基板上の(111)のピークの半値幅は0.3092°であり、TH10基板上の(111)のピークの半値幅は0.3251°であった。これらの窒化チタン膜はいずれも半値幅が0.8°以下であった。
【0039】
図4は、上記の成膜条件の基材がSiウェハであってICP電極16に印加されるRFが200W、100W、50W、25W及び0Wの各々である場合の窒化チタン膜のX線回折プロファイル、ICP電極16に投入される電力が(111)ピークの半値幅に及ぼす影響を示すグラフ、及び(111)ピークの半値幅の測定結果を示す図である。
【0040】
図4によれば、ICP電極16に投入される電力が大きくなりにつれて(111)ピークの半値幅が狭くなることが確認された。
【実施例0041】
図1に示すスパッタリング装置を用いて、以下の成膜条件により窒化チタン膜を成膜し、この窒化チタン膜の摩擦係数をボールオンディスク試験によって測定した。
<成膜条件>
・スパッタリングターゲット:Ti
・基材:Siウェハ
・下地膜(中間層);無し
・バックグラウンドの真空度:1.9×10-3Pa程度
・成膜時の真空容器10の圧力:2.7×10-1Pa程度
・使用ガス:Arガス及びNガス
・Arガス流量:45sccm
・Nガス:5sccm
・ヒーター温度:250℃
・基板の温度:352℃
・ターゲット出力(直流電源(DC)34):500W
・ICP電極16に印加される電力(RF):50W
・基板バイアス(RF):100W
【0042】
図5は、ボールオンディスク試験の条件、試験方法、及び試験結果を示す図である。
上記の成膜条件で成膜した実施例2のサンプルと、比較例としてICP電極16に印加される電力を無しにしたサンプルを用意した。
【0043】
図5に示すように、試験方法は、試料ディスク上にサンプルを載置し、そのサンプルにSUS304の材質からなるボールを5N、2N又は1Nの荷重をかけながら試料ディスクを500mm/min又は2000mm/minの周速度で回転させることで摩擦係数を測定したものである。その測定結果をa)~c)の図に示している。
【0044】
図5(a)は、荷重5N、周速度500mm/minの試験条件の結果であり、図5(b)は、荷重2N、周速度2000mm/minの試験条件の結果であり、図5(c)は、荷重1N、周速度2000mm/minの試験条件の結果である。いずれの試験結果においても図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に電力が印加される実施例2のサンプルの方がICP電極16に電力が印加されない比較例のサンプルより摩擦係数が低くなることが確認された。
【実施例0045】
図1に示すスパッタリング装置を用いて、以下の成膜条件により窒化チタン膜を成膜し、この窒化チタン膜の表面粗さを走査プローブ顕微鏡によって測定した。
<成膜条件>
・スパッタリングターゲット:Ti
・基材:Siウェハ
・下地膜(中間層):Ti皮膜
・バックグラウンドの真空度:1.9×10-3Pa程度
・成膜時の真空容器10の圧力:2.7×10-1Pa程度
・使用ガス:Arガス及びNガス
・Arガス流量:45sccm
・Nガス:5sccm
・ヒーター温度:250℃
・基板の温度:352℃
・ターゲット出力(直流電源(DC)34):500W
・ICP電極16に印加される電力(RF):50W
・基板バイアス(RF):100W
【0046】
図6(a)は、図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に印加される電力が0Wで成膜された比較例の窒化チタン膜の表面粗さRaを走査プローブ顕微鏡によって測定した結果を示す図であり、図6(b)は、図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に印加される電力が50Wで成膜された実施例3の窒化チタン膜の表面粗さRaを走査プローブ顕微鏡によって測定した結果を示す図である。
【0047】
図6(a)に示すように、ICP電極16に電力を印加しない場合(0Wとした場合)は、表面粗さRaが5.486nmであったのに対し、図6(b)に示すように、ICP電極16に50Wの電力を印加した場合は、表面粗さが1.971nmであった。従って、ICP支援により窒化チタン膜の表面粗さが向上し、表面が滑らかになることが分かった。
【実施例0048】
図1に示すスパッタリング装置を用いて、以下の成膜条件により窒化チタン膜を成膜し、この窒化チタン膜のナノインデンテーション試験により硬さを測定した。ナノインデンテーション試験条件は、押し込み荷重を2mN、N数を3(5点測定し、それらの中間3点の平均)とした。
<成膜条件>
・スパッタリングターゲット:Ti
・基材:Siウェハ
・下地膜(中間層):Ti皮膜
・バックグラウンドの真空度:1.9×10-3Pa程度
・成膜時の真空容器10の圧力:2.7×10-1Pa程度
・使用ガス:Arガス及びNガス
・Arガス流量:45sccm
・Nガス:5sccm
・ヒーター温度:250℃
・基板の温度:352℃
・ターゲット出力(直流電源(DC)34):500W
・ICP電極16に印加される電力(RF):50W、100W
・基板バイアス(RF):100W
【0049】
図7は、図1に示すスパッタリング装置のICP電極16に印加される電力が0W、50W、100Wそれぞれの場合で成膜された窒化チタン膜のインデンテーション硬さを測定した結果を示す図である。
【0050】
図7に示すように、ICP電極16に電力を印加しない場合(0Wとした場合)は、インデンテーション硬さが25.2GPaであったのに対し、ICP電極16に50W、100Wの電力を印加した各々の場合は、インデンテーション硬さが33.3GPa、33.6GPaであった。従って、ICP支援により窒化チタン膜の硬さが30%以上向上させることができた。
【符号の説明】
【0051】
10…真空容器
11…ガス導入口
13…基材
14…サセプタ
15…排気口
16…高周波コイル(ICP電極)
16a…高密度プラズマ(High Density Plasma)
17,21…マッチングボックス(MB)
18,22…高周波電源(RF)
25…スパッタリングターゲット
28…保持部
31…ローパスフィルター(Low Pass Filter)
34…直流電源(DC)
51…窒化チタン膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8