(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084255
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】窒化チタン膜
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240618BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20240618BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20240618BHJP
H01L 21/285 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C23C14/06 A
H01L21/28 301R
H01L21/88 M
H01L21/285 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198423
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】520062801
【氏名又は名称】株式会社ユーパテンター
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】福田 匠
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
【テーマコード(参考)】
4K029
4M104
5F033
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA24
4K029BA17
4K029BA60
4K029BB02
4K029BC03
4K029BD02
4K029CA06
4K029CA13
4K029DA04
4K029DC03
4K029DC34
4K029DC39
4K029JA01
4M104AA01
4M104BB30
4M104DD37
4M104DD39
4M104HH16
5F033GG04
5F033HH33
5F033PP16
5F033WW00
5F033XX10
(57)【要約】
【課題】低い体積抵抗率を有する窒化チタン膜を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、体積抵抗率が55μΩ・cm以下である窒化チタン膜51である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積抵抗率が55μΩ・cm以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化チタン膜をX線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化チタン膜に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタン膜は、半導体チップ内のAl合金配線のバリア膜等に利用されている。これに関連する技術が特許文献1に記載されている。
【0003】
上記の事情から、電気的特性が優れた窒化チタン膜が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、低い体積抵抗率を有する窒化チタン膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]体積抵抗率が55μΩ・cm以下(好ましくは50μΩ・cm未満、より好ましくは48μΩ・cm以下)であることを特徴とする窒化チタン膜。
【0007】
[2]上記[1]に記載の窒化チタン膜をX線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下であることを特徴とする窒化チタン膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、低い体積抵抗率を有する窒化チタン膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一態様に係るICP支援反応性スパッタリング装置を概略的に示す構成図である。
【
図2】
図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置を用いて基材13に窒化チタン膜51を成膜した状態を示す断面図である。
【
図3】Siウェハ、SUS304基板、TH10基板の各々の基板上に成膜された窒化チタン膜のX線回折プロファイルを示す図である。
【
図4】Siウェハ上に窒化チタン膜が成膜される際のICP電極16に印加されるRFが200W、100W、50W、25W及び0Wの各々である場合の窒化チタン膜のX線回折プロファイル、ICP電極16に投入される電力が(111)ピークの半値幅に及ぼす影響を示すグラフ、及び(111)ピークの半値幅の測定結果を示す図である。
【
図5】Siウェハ上に窒化チタン膜が成膜される際のICP電極16に印加されるRFが0W、25W、50W、100W、200Wの場合の窒化チタン膜の体積抵抗率を測定した結果を示す図である。
【
図6】
図1に示すスパッタリング装置の変形例を示すICP支援反応性スパッタリング装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一態様に係るICP(Inductively Coupled Plasma)支援反応性スパッタリング装置を概略的に示す構成図である。
【0012】
図1に示すように、ICP支援反応性スパッタリング装置は処理室としての真空容器10を有している。この真空容器10内の上部には、スパッタリングターゲット25を保持する保持部28が配置されている。保持部28には、ローパスフィルター(Low Pass Filter)31を介して直流電源(DC)34が接続されている。また、真空容器10内におけるスパッタリングターゲット25の下方には、高周波コイル(以下、「1ターンのコイル」又は「ICP電極」ともいう)が配設されている。高周波コイル16には、マッチングボックス17を介して高周波電源(RF)18が接続されている。この高周波電源18によって高周波電流を、高周波コイル16に印加するようになっている。
【0013】
真空容器10の周壁の一部には、真空容器10内にガスを導入するガス導入口11が設けられている。このガス導入口11は図示しないガス導入機構に接続されている。また、真空容器10の周壁には、真空容器内を一定の圧力に減圧可能な排気口15が設けられている。この排気口15は図示せぬ真空ポンプなどの真空装置に接続されている。また、真空容器10の底壁の上には、基材13を載置し且つヒーターによって加熱するためのサセプタ14が設けられている。
【0014】
サセプタ14には、マッチングボックス21を介して高周波電源(RF)22が接続されている。この高周波電源22によって高周波電流を、サセプタ14を介して基材13に印加するようになっている。高周波電源22は接地電位に接続されている。
【0015】
基材13とスパッタリングターゲット25との間には高周波コイル16が配置されている。高周波コイル16、マッチングボックス17及び高周波電源18は、いわゆるイオン化促進ユニットである。高周波コイル16は、金属フレキシブル・チューブや網組線のような可撓性のある部材により形成された1ターンのコイルにより構成されており、内部が中空となっている。高周波コイル16は、
図1に示すサセプタ14に載置された基材表面の略中心から表面に対して垂直上に伸ばした線に対して略同心円状に1ターンのコイルが巻かれたものである。
【0016】
高周波コイル16は、真空容器10内では、処理ガスに直接晒されないようにセラミックスで形成された鞘(図示せず)で覆われている。真空容器10内には、サセプタ14に載置された基材表面の略中心からの垂線と略同軸的に鞘が配設されており、この鞘中に高周波コイル16が挿入されている。このセラミックス製の鞘は、例えば、溶融石英やアルミナのように、化学的に安定でかつイオン衝撃によるスパッタリング率の低い材料で形成されていることが好ましい。
尚、本実施の形態では、高周波コイル16をセラミックスで形成された鞘で覆っているが、高周波コイルをセラミックス膜で被覆することも可能である。
【0017】
このようなセラミックス製の鞘中に、高周波コイル16を収容するためには、例えば、上述したように、高周波コイル16を可撓性のある部材で構成し、予め形成された鞘に高周波コイル16を挿入しても良い。また、高周波コイル16の表面にセラミックス材を塗布し、これを焼結させるようにしても良い。この鞘は高周波コイル16と接触していると放電が生じて破損する恐れがあるので、鞘の内面が高周波コイル16の外面と接触しないように、鞘の内径を、高周波コイル16の外形よりも少し大きく設定することが好ましい。
【0018】
本実施の形態では、使用中に高周波コイル16が過度に加熱されるのを防止するために、上述したように高周波コイル16の内部を中空としており、高周波コイル16と鞘との間を冷媒、例えば冷却水が循環可能となっている。
【0019】
高周波コイル16に高周波電力を印加するための高周波電源18の高周波の周波数は、基材13に高周波電力を印加するための高周波電源22の高周波の周波数に1%以上20%以下(好ましくは1.5%以上10%以下、より好ましくは1.5%以上5%以下)の周波数をプラスした周波数、又は、高周波電源22の高周波の周波数に1%以上20%以下(好ましくは1.5%以上10%以下、より好ましくは1.5%以上5%以下)の周波数をマイナスした周波数である。例えば、基材13に高周波電力を印加するための高周波電源22の周波数を13.56MHzとした場合、高周波コイル16に高周波電力を印加するための高周波電源18の周波数は13.70MHz以上16.27MHz以下又は10.85MHz以上13.42MHz以下とするとよい。また、高周波電源18,22は、4MHz以上28MHz以下であることが好ましい。
【0020】
上述したような構成のスパッタリング装置においては、例えばガスとしてAr及び窒素を減圧した真空容器10内に供給し、スパッタリングターゲット25に直流電流を流しつつICP電極16に高周波電流を流すことにより、スパッタリングを行ってスパッタリングターゲットからスパッタ粒子を放出させつつ、ICP電極16からのICP放電による高密度の誘導結合プラズマを発生させてスパッタ粒子を窒化させながら、基材13に高周波電流を流して基材13にバイアスを印加することにより、基材13上に薄膜の成膜が行われる。上記スパッタリング装置を用いることにより、高周波コイル16によって反応性をより高めた反応性スパッタリングを行うことができる。この際、高周波電源18に印加する高周波の周波数を、高周波電源22に印加する高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をプラスした周波数、又は、高周波電源22に印加する高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をマイナスした周波数とすることで、ICP電極16と基材13とが共振することを防止でき、その結果、特性の良い膜を成膜できる。例えばTiのスパッタリングターゲット25からTiのスパッタ粒子を高周波コイル16によってイオン化し、例えばTiNの物質の合成が可能となり、基材13上に窒化チタン膜が成膜される。
【0021】
なお、本実施形態では、スパッタリングターゲット25を基材13の真上(基材13の表面の垂直方向)に配置しているが、これに限定されず、
図6に示すように、基材13の表面の垂直方向に対し傾斜した角度の位置にスパッタリングターゲット25を配置することも可能である。この場合においても、本実施形態と同様に、ガスとしてAr及び窒素を供給し、Tiのスパッタリングターゲット25に直流電流を流しつつ高周波コイル16に高周波電流を流すことにより、スパッタリングを行ってスTiのパッタリングターゲット25からスパッタ粒子を放出させつつ、高周波コイル16からのICP放電による高密度の誘導結合プラズマ16aを発生させてスパッタ粒子を窒化させながら、基材13に高周波電流を流して基材13にバイアスを印加することにより、基材13上に窒化チタン膜を成膜することができる。なお、
図6に示すICP支援反応性スパッタリング装置は、スパッタリングターゲット25の位置以外は
図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置と同様の構成を有している。
【0022】
(第2の実施形態)
図2は、
図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置を用いて基材13に窒化チタン膜51を成膜した状態を示す断面図である。なお、ここでいう「基材13」とは、Al合金膜を有する半導体基板等を含み、また種々の基板等を含む意味であり、金属膜、有機材料膜及び無機材料膜のいずれかの膜を下地膜として有する基板を用いてもよいし、アモルファス膜又は結晶膜を下地膜として用いてもよいし、単結晶膜を下地膜としてもよい。基材13としては、例えばSi基板、ステンレス基板等の金属基板、ガラス基板、単結晶基板、サファイア基板であってもよく、それらの基板上に下地膜が無くても良いし、下地膜があってもよい。
【0023】
上述したような構成のスパッタリング装置において、真空容器10内のTiのスパッタリングターゲット25と対向する位置に基材13を保持し、加熱する。加熱するためのヒーター温度は250℃である。基材13が単結晶Siウェハである場合、高精度表面粗さ形状測定機によって測定した基材13の表面粗さRaは0.513nmである。高周波電源22によってマッチングボックス21を介して基材13に例えば13.56MHzの周波数の高周波電圧を印加する。次いで、真空容器10を減圧機構(真空ポンプなどの真空装置)によって排気しつつ真空容器10内にArガス及び窒素ガスを導入することで、真空容器10内を例えば0.05Pa以上3.0Pa以下の範囲に減圧する。次いで、Tiのスパッタリングターゲット25に直流電圧を印加するとともに、ICP電極16に高周波電流を流すことにより、反応性スパッタリングを行ってスパッタリングターゲット25からTiのスパッタ粒子を放出させつつ、そのスパッタ粒子を窒化させながら、高周波電流を流している基材13上に窒化チタン膜51が成膜される。
【0024】
上記の窒化チタン膜51は、X線回折(XRD: X-ray diffraction)で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下(好ましくは0.6°以下、さらに好ましくは0.4°以下)とすることが可能である。この窒化チタン膜51は半値幅が非常に小さく、粒界が少ない単結晶に近い膜である。このため、膜質の良い窒化チタン膜51を得ることができ、低い体積抵抗率を実現することが可能となる。
【0025】
本実施形態によれば、低い体積抵抗率を有する窒化チタン膜51を得ることができる。
【実施例0026】
図1に示すスパッタリング装置を用いて、以下の成膜条件により窒化チタン膜を成膜し、この窒化チタン膜をX線回折装置によってX線回折パターンを測定した。
<成膜条件>
・スパッタリングターゲット:Ti
・基材:Siウェハ、SUS304基板、TH10基板(超硬基板)
・下地膜(中間層):Ti皮膜
・バックグラウンドの真空度:1.9×10
-3Pa
・成膜時の真空容器10の圧力:2.7×10
-1Pa
・使用ガス:Arガス及びN
2ガス
・Arガス流量:45sccm
・N
2ガス:5sccm
・ヒーター温度:250℃
・基板の温度:352℃
・ターゲット出力(直流電源(DC)34):500W
・ICP電極16に印加される電力(RF):200W
・基板バイアス(RF):50W
【0027】
図3は、上記のSiウェハ、SUS304基板、TH10基板の各々の基板上に成膜された窒化チタン膜のX線回折プロファイルを示す図である。なお、
図3中の「●」は基板材料起因のピークである。
図3に示すように、窒化チタン膜の(111)のピークが測定され、Siウェハ上の(111)のピークの半値幅は0.2435°であり、SUS304基板上の(111)のピークの半値幅は0.3092°であり、TH10基板上の(111)のピークの半値幅は0.3251°であった。これらの窒化チタン膜はいずれも半値幅が0.8°以下であった。
【0028】
図4は、上記の成膜条件の基材がSiウェハであってICP電極16に印加されるRFが200W、100W、50W、25W及び0Wの各々である場合の窒化チタン膜のX線回折プロファイル、ICP電極16に投入される電力が(111)ピークの半値幅に及ぼす影響を示すグラフ、及び(111)ピークの半値幅の測定結果を示す図である。
【0029】
図4によれば、ICP電極16に投入される電力が大きくなりにつれて(111)ピークの半値幅が狭くなることが確認された。