(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084259
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】成膜装置及び金属窒化膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240618BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240618BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20240618BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20240618BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C23C14/34 S
C23C14/06 A
H01L21/285 S
H01L21/28 301R
H01L21/88 M
H01L21/88 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198428
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】520062801
【氏名又は名称】株式会社ユーパテンター
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】福田 匠
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
【テーマコード(参考)】
4K029
4M104
5F033
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA06
4K029AA07
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA60
4K029BD02
4K029CA06
4K029CA13
4K029CA15
4K029DC03
4K029DC34
4K029DD02
4M104AA01
4M104BB30
4M104DD37
4M104DD39
4M104DD40
4M104HH16
5F033GG04
5F033HH33
5F033PP16
5F033WW00
5F033WW03
5F033WW04
5F033XX10
(57)【要約】
【課題】高い性能を有する成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、チャンバー10と、前記チャンバー10内に配置され、基板13を保持する保持部14に接続され、前記基板13に高周波電力を印加するための第1の高周波電源22と、前記チャンバー内に配置された成膜用物質の蒸発源と、前記基板10と対向する位置に配置されたコイル16と、前記コイル16に電気的に接続された第2の高周波電源18と、を有する成膜装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基板を保持する保持部に接続され、前記基板に高周波電力を印加するための第1の高周波電源と、
前記チャンバー内に配置された成膜用物質の蒸発源と、
前記基板と対向する位置に配置されたコイルと、
前記コイルに電気的に接続された第2の高周波電源と、
を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記コイルは1ターンのコイルであることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第2の高周波電源の周波数は、1MHz以上27MHz以下であることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記第1の高周波電源の周波数は、50kHz以上20MHz以下であることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1又は2において、
成膜時に前記成膜用物質の蒸発源から発生したイオン粒子の飛来角度が前記保持部に保持された前記基板の表面に対して40°以上80°以下であることを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1又は2において、
前記成膜用物質の蒸発源は、前記基板に対向するように位置するスパッタリングターゲットと、前記スパッタリングターゲットを保持するターゲット保持部を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記ターゲット保持部に保持された前記スパッタリングターゲットに直流電圧を印加する直流電源を有することを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記スパッタリングターゲットの表面に対する垂直方向が前記保持部に保持された前記基板の表面に対して作る角度は、40°以上80°以下であることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
請求項1又は2において、
前記第2の高周波電源の高周波の周波数は、前記第1の高周波電源の高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をプラスした周波数、又は、前記第1の高周波電源の高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をマイナスした周波数であることを特徴とする成膜装置。
【請求項10】
請求項6において、
前記スパッタリングターゲットは、金属ターゲットであることを特徴とする成膜装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記チャンバー内にArガス及び窒素N2ガスを導入するガス導入機構を有し、
前記Arガスと前記窒素ガスの導入合計量に対する窒素ガスの導入量の割合は5%以上40%以下であることを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
請求項1又は2において、
前記成膜用物質の蒸発源は、加熱したボート、EBガン又はレーザースパッタであることを特徴とする成膜装置。
【請求項13】
請求項7に記載の成膜装置を用いた金属窒化膜を製造する製造方法であって、
前記チャンバー内の前記スパッタリングターゲットと対向する位置に前記基板を保持し、
前記第1の高周波電源によって前記基板に高周波電圧を印加し、
前記チャンバー内を排気しつつArガス及び窒素ガスを導入することで、チャンバー内を所定の圧力に減圧し、
前記スパッタリングターゲットに直流電圧を印加するとともに、前記第2の高周波電源によって前記コイルに高周波電流を流すことにより、反応性スパッタリングを行って前記スパッタリングターゲットから金属のスパッタ粒子を放出させつつ、そのスパッタ粒子を窒化させながら、前記高周波電流を流している前記基板上に金属窒化膜を成膜することを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記金属窒化膜を成膜する際の前記基板の温度は500℃以下であることを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【請求項15】
請求項13において、
前記金属窒化膜が窒化チタン膜であり、
前記窒化チタン膜の体積抵抗率が55μΩ・cm以下であることを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【請求項16】
請求項14において、
前記窒化チタン膜をX線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下であることを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及び金属窒化膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化チタン膜は、半導体チップ内のAl合金配線のバリア膜等に利用されており、電気的特性が優れた窒化チタン膜が求められている。これに関連する技術が特許文献1に記載されている。
上記のような金属窒化膜を作製するには成膜装置が必要であり、そのような成膜装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成膜装置の成膜用物質の蒸発源からイオン粒子を発生させ、基板に対向する位置に挿入したコイルに電力を投入し、高密度な誘導結合プラズマを発生させた状態で成膜を行う誘導結合プラズマ支援成膜法により金属窒化膜をAl合金膜上等に成膜する。これにより、その成膜された金属窒化膜の結晶性が変化し、それによって金属窒化膜の低体積抵抗率化を実現することを本発明者らは見出した。
【0005】
本発明の一態様は、上記のような高い性能を有する成膜装置及び金属窒化膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
[1]チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基板を保持する保持部に接続され、前記基板に高周波電力を印加するための第1の高周波電源と、
前記チャンバー内に配置された成膜用物質の蒸発源と、
前記基板と対向する位置に配置されたコイルと、
前記コイルに電気的に接続された第2の高周波電源と、
を有することを特徴とする成膜装置。
[2]上記[1]において、
前記コイルは1ターンのコイルであることを特徴とする成膜装置。
【0007】
[3]上記[1]又は[2]において、
前記第2の高周波電源の周波数は、1MHz以上27MHz以下であることを特徴とする成膜装置。
【0008】
[4]上記[1]又は[2]において、
前記第1の高周波電源の周波数は、50kHz以上20MHz以下であることを特徴とする成膜装置。
【0009】
[5]上記[1]又は[2]において、
成膜時に前記成膜用物質の蒸発源から発生したイオン粒子の飛来角度が前記保持部に保持された前記基板の表面に対して40°以上80°以下であることを特徴とする成膜装置。
【0010】
[6]上記[1]又は[2]において、
前記成膜用物質の蒸発源は、前記基板に対向するように位置するスパッタリングターゲットと、前記スパッタリングターゲットを保持するターゲット保持部を有することを特徴とする成膜装置。
[7]上記[6]において、
前記ターゲット保持部に保持された前記スパッタリングターゲットに直流電圧を印加する直流電源を有することを特徴とする成膜装置。
[8]上記[6]において、
前記スパッタリングターゲットの表面に対する垂直方向が前記保持部に保持された前記基板の表面に対して作る角度は、40°以上80°以下であることを特徴とする成膜装置。
[9]上記[1]又は[2]において、
前記第2の高周波電源の高周波の周波数は、前記第1の高周波電源の高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をプラスした周波数、又は、前記第1の高周波電源の高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をマイナスした周波数であることを特徴とする成膜装置。
【0011】
[10]上記[6]において、
前記スパッタリングターゲットは、金属ターゲットであることを特徴とする成膜装置。
[11]上記[10]において、
前記チャンバー内にArガス及び窒素N2ガスを導入するガス導入機構を有し、
前記Arガスと前記窒素ガスの導入合計量に対する窒素ガスの導入量の割合は5%以上40%以下であることを特徴とする成膜装置。
[12]上記[1]又は[2]において、
前記成膜用物質の蒸発源は、加熱したボート、EBガン又はレーザースパッタであることを特徴とする成膜装置。
【0012】
[13]上記[6]に記載の成膜装置を用いた金属窒化膜を製造する製造方法であって、
前記チャンバー内の前記スパッタリングターゲットと対向する位置に前記基板を保持し、
前記第1の高周波電源によって前記基板に高周波電圧を印加し、
前記チャンバー内を排気しつつArガス及び窒素ガスを導入することで、チャンバー内を所定の圧力に減圧し、
前記スパッタリングターゲットに直流電圧を印加するとともに、前記第2の高周波電源によって前記コイルに高周波電流を流すことにより、反応性スパッタリングを行って前記スパッタリングターゲットから金属のスパッタ粒子を放出させつつ、そのスパッタ粒子を窒化させながら、前記高周波電流を流している前記基板上に金属窒化膜を成膜することを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【0013】
[14]上記[13]において、
前記金属窒化膜を成膜する際の前記基板の温度は500℃以下(好ましくは400℃以下)であることを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
[15]上記[13]において、
前記金属窒化膜が窒化チタン膜であり、
前記窒化チタン膜の体積抵抗率が55μΩ・cm以下(好ましくは50μΩ・cm未満、より好ましくは48μΩ・cm以下)であることを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【0014】
[16]上記[14]において、
前記窒化チタン膜をX線回折で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下(好ましくは0.6°以下、さらに好ましくは0.4°以下)であることを特徴とする金属窒化膜の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、高い性能を有する成膜装置及び金属窒化膜の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一態様に係るICP支援反応性スパッタリング装置を概略的に示す構成図である。
【
図2】
図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置を用いて基材13に窒化チタン膜51を成膜した状態を示す断面図である。
【
図3】Siウェハ、SUS304基板、TH10基板の各々の基板上に成膜された窒化チタン膜のX線回折プロファイルを示す図である。
【
図4】Siウェハ上に窒化チタン膜が成膜される際のICP電極16に印加されるRFが200W、100W、50W、25W及び0Wの各々である場合の窒化チタン膜のX線回折プロファイル、ICP電極16に投入される電力が(111)ピークの半値幅に及ぼす影響を示すグラフ、及び(111)ピークの半値幅の測定結果を示す図である。
【
図5】Siウェハ上に窒化チタン膜が成膜される際のICP電極16に印加されるRFが0W、25W、50W、100W、200Wの場合の窒化チタン膜の体積抵抗率を測定した結果を示す図である。
【
図6】
図1に示すスパッタリング装置の変形例を示すICP支援反応性スパッタリング装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一態様に係るICP(Inductively Coupled Plasma)支援反応性スパッタリング装置を概略的に示す構成図である。
【0019】
図1に示すように、ICP支援反応性スパッタリング装置は処理室としての真空容器(チャンバー)10を有している。この真空容器10内の上部には、金属からなるスパッタリングターゲット25を保持する保持部28が配置されている。保持部28には、ローパスフィルター(Low Pass Filter)31を介して直流電源(DC)34が接続されている。また、真空容器10内におけるスパッタリングターゲット25の下方には、高周波コイル(以下、「1ターンのコイル」又は「ICP電極」ともいう)16が配設されている。高周波コイル16には、マッチングボックス17を介して高周波電源(RF)18が接続されている。この高周波電源18によって高周波電流を、高周波コイル16に印加するようになっている。
なお、本実施形態では、高周波コイル16に1ターンのコイルを用いているが、複数ターンのコイルを高周波コイルに用いることも可能である。
【0020】
真空容器10の周壁の一部には、真空容器10内にガスを導入するガス導入口11が設けられている。このガス導入口11は図示しないガス導入機構に接続されている。また、真空容器10の周壁には、真空容器内を一定の圧力に減圧可能な排気口15が設けられている。この排気口15は図示せぬ真空ポンプなどの真空装置に接続されている。また、真空容器10の底壁の上には、基材13を載置し且つヒーター等の加熱機構によって加熱するためのサセプタ14が設けられている。この加熱機構は、保持部28に保持された基板を400℃以下(好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下)に加熱するものである。基板温度を160℃以下とすることができれば、150℃から160℃まで耐え得るレジストを用いることが可能となり、基板にレジスト付きのウェハを用いることが可能となる。
【0021】
サセプタ14には、マッチングボックス21を介して高周波電源(RF)22が接続されている。この高周波電源22によって高周波電流を、サセプタ14を介して基材13に印加するようになっている。高周波電源22は接地電位に接続されている。なお、基材13は基板を含む意味である。
【0022】
基材13とスパッタリングターゲット25との間には高周波コイル16が配置されている。高周波コイル16、マッチングボックス17及び高周波電源18は、いわゆるイオン化促進ユニットである。高周波コイル16は、金属フレキシブル・チューブや網組線のような可撓性のある部材により形成された1ターンのコイルにより構成されており、内部が中空となっている。高周波コイル16は、
図1に示すサセプタ14に載置された基材表面の略中心から表面に対して垂直上に伸ばした線に対して略同心円状に1ターンのコイルが巻かれたものである。
【0023】
高周波コイル16は、真空容器10内では、処理ガスに直接晒されないようにセラミックスで形成された鞘(図示せず)で覆われている。真空容器10内には、サセプタ14に載置された基材表面の略中心からの垂線と略同軸的に鞘が配設されており、この鞘中に高周波コイル16が挿入されている。このセラミックス製の鞘は、例えば、溶融石英やアルミナのように、化学的に安定でかつイオン衝撃によるスパッタリング率の低い材料で形成されていることが好ましい。
尚、本実施の形態では、高周波コイル16をセラミックスで形成された鞘で覆っているが、高周波コイルをセラミックス膜で被覆することも可能である。
【0024】
このようなセラミックス製の鞘中に、高周波コイル16を収容するためには、例えば、上述したように、高周波コイル16を可撓性のある部材で構成し、予め形成された鞘に高周波コイル16を挿入しても良い。また、高周波コイル16の表面にセラミックス材を塗布し、これを焼結させるようにしても良い。この鞘は高周波コイル16と接触していると放電が生じて破損する恐れがあるので、鞘の内面が高周波コイル16の外面と接触しないように、鞘の内径を、高周波コイル16の外形よりも少し大きく設定することが好ましい。
【0025】
本実施の形態では、使用中に高周波コイル16が過度に加熱されるのを防止するために、上述したように高周波コイル16の内部を中空としており、高周波コイル16と鞘との間を冷媒、例えば冷却水が循環可能となっている。
【0026】
高周波コイル16に高周波電力を印加するための高周波電源18の高周波の周波数は、基材13に高周波電力を印加するための高周波電源22の高周波の周波数に1%以上20%以下(好ましくは1.5%以上10%以下、より好ましくは1.5%以上5%以下)の周波数をプラスした周波数、又は、高周波電源22の高周波の周波数に1%以上20%以下(好ましくは1.5%以上10%以下、より好ましくは1.5%以上5%以下)の周波数をマイナスした周波数である。例えば、基材13に高周波電力を印加するための高周波電源22の周波数を13.56MHzとした場合、高周波コイル16に高周波電力を印加するための高周波電源18の周波数は13.70MHz以上16.27MHz以下又は10.85MHz以上13.42MHz以下とするとよい。また、高周波電源18,22は、4MHz以上28MHz以下であることが好ましい。特に、高周波電源18の周波数は、1MHz以上27MHz以下(好ましくは4MHz以上20MHz以下)であるとよく、高周波電源22の周波数は、50kHz以上20MHz以下(好ましくは100kHz以上15MHz以下)であるとよい。
【0027】
上述したような構成のスパッタリング装置においては、例えばガスとしてAr及び窒素を減圧した真空容器10内に供給し、スパッタリングターゲット25に直流電流を流しつつICP電極16に高周波電流を流すことにより、スパッタリングを行ってスパッタリングターゲットからスパッタ粒子を放出させつつ、ICP電極16からのICP放電による高密度の誘導結合プラズマを発生させてスパッタ粒子を窒化させながら、基材13に高周波電流を流して基材13にバイアスを印加することにより、基材13上に薄膜の成膜が行われる。上記スパッタリング装置を用いることにより、高周波コイル16によって反応性をより高めた反応性スパッタリングを行うことができる。この際、高周波電源18に印加する高周波の周波数を、高周波電源22に印加する高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をプラスした周波数、又は、高周波電源22に印加する高周波の周波数に1%以上20%以下の周波数をマイナスした周波数とすることで、ICP電極16と基材13とが共振することを防止でき、その結果、特性の良い金属窒化膜を成膜できる。例えばTiのスパッタリングターゲット25からTiのスパッタ粒子を高周波コイル16によってイオン化し、例えばTiNの物質の合成が可能となり、基材13上に窒化チタン膜が成膜される。
【0028】
なお、本実施形態では、スパッタリングターゲット25を基材13の真上(基材13の表面の垂直方向)に配置しているが、これに限定されず、
図6に示すように、基材13の表面の垂直方向に対し傾斜した角度の位置にスパッタリングターゲット25を配置することも可能であり、詳細には、スパッタリングターゲットの表面に対する垂直方向が保持部28に保持された基板の表面に対して作る角度が、40°以上80°以下(好ましくは50°以上70°以下)であるとよい。この場合においても、本実施形態と同様に、ガスとしてAr及び窒素を供給し、Tiのスパッタリングターゲット25に直流電流を流しつつ高周波コイル16に高周波電流を流すことにより、スパッタリングを行ってスTiのパッタリングターゲット25からスパッタ粒子を放出させつつ、高周波コイル16からのICP放電による高密度の誘導結合プラズマ16aを発生させてスパッタ粒子を窒化させながら、基材13に高周波電流を流して基材13にバイアスを印加することにより、基材13上に窒化チタン膜を成膜することができる。なお、
図6に示すICP支援反応性スパッタリング装置は、スパッタリングターゲット25の位置以外は
図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置と同様の構成を有している。
【0029】
また、本実施形態では、ICP支援反応性スパッタリング装置について説明しているが、スパッタリングターゲット25、スパッタリングターゲット25を保持する保持部28、ローパスフィルター31、及び直流電源34を、チャンバー内に配置された成膜用物質の蒸発源に変更することで、ICP支援反応性法を種々の成膜装置に適用することが可能である。成膜用物質の蒸発源としては、例えば加熱したボート、EBガン又はレーザースパッタ(レーザーアブレーション)等を用いることが可能である。この場合、成膜時に成膜用物質の蒸発源から発生したイオン粒子の飛来角度が保持部28に保持された基板の表面に対して40°以上80°以下(好ましくは50°以上70°以下)であるとよい。
【0030】
(第2の実施形態)
図2は、
図1に示すICP支援反応性スパッタリング装置を用いて基材13に窒化チタン膜51を成膜した状態を示す断面図である。なお、ここでいう「基材13」とは下地膜を有さない基板も含み、種々の基板を含む意味であり、金属膜、有機材料膜及び無機材料膜のいずれかの膜を下地膜として有する基板を用いてもよいし、アモルファス膜又は結晶膜を下地膜として用いてもよいし、単結晶膜を下地膜としてもよい。基材13としては、例えばSi基板、ステンレス基板等の金属基板、ガラス基板、単結晶基板、サファイア基板であってもよく、それらの基板上に下地膜が無くても良いし、下地膜があってもよい。
【0031】
上述したような構成のスパッタリング装置において、真空容器10内のTiのスパッタリングターゲット25と対向する位置に基材13を保持し、加熱する。加熱するためのヒーター温度は250℃であるが、ICP支援反応性法を用いているので、基材13の温度はヒーター温度の250℃より上昇する。基材13が単結晶Siウェハである場合、高精度表面粗さ形状測定機によって測定した基材13の表面粗さRaは0.513nmである。高周波電源22によってマッチングボックス21を介して基材13に例えば13.56MHzの周波数の高周波電圧を印加する。次いで、真空容器10を減圧機構(真空ポンプなどの真空装置)によって排気しつつ真空容器10内にガス導入機構によりArガス及び窒素ガスを導入することで、真空容器10内を例えば0.05Pa以上3.0Pa以下の範囲に減圧する。また、Arガスと窒素ガスの導入合計量に対する窒素ガスの導入量の割合は5%以上40%以下であるとよい。次いで、Tiのスパッタリングターゲット25に直流電圧を印加するとともに、ICP電極16に高周波電流を流すことにより、反応性スパッタリングを行ってスパッタリングターゲット25からTiのスパッタ粒子を放出させつつ、そのスパッタ粒子を窒化させながら、高周波電流を流している基材13上に窒化チタン膜51が成膜される。この際の基材13の温度は500℃以下(好ましくは400℃以下)であるとよい。
【0032】
上記の窒化チタン膜51は、X線回折(XRD: X-ray diffraction)で評価した際の(111)の配向のピークの半値幅が0.8°以下(好ましくは0.6°以下、さらに好ましくは0.4°以下)とすることが可能である。この窒化チタン膜51は半値幅が非常に小さく、粒界が少ない単結晶に近い膜である。このため、膜質の良い窒化チタン膜51を得ることができ、低い摩擦係数を実現することが可能となる。
【0033】
上記の窒化チタン膜は基材51表面に成膜されている。
【0034】
本実施形態によれば、高い性能を有する窒化チタン膜51を得ることができる。
【0035】
なお、第1の実施形態と第2の実施形態を適宜組み合わせて実施することも可能である。
【実施例0036】
図1に示すスパッタリング装置を用いて、以下の成膜条件により窒化チタン膜を成膜し、この窒化チタン膜をX線回折装置によってX線回折パターンを測定した。
【0037】
<成膜条件>
・スパッタリングターゲット:Ti
・基材:Siウェハ、SUS304基板、TH10基板(超硬基板)
・下地膜(中間層):Ti皮膜
・バックグラウンドの真空度:1.9×10-3Pa
・成膜時の真空容器10の圧力:2.7×10-1Pa
・使用ガス:Arガス及びN2ガス
・Arガス流量:45sccm
・N2ガス:5sccm
・ヒーター温度:250℃
・基板の温度:352℃
・ターゲット出力(直流電源(DC)34):500W
・ICP電極16に印加される電力(RF):200W
・基板バイアス(RF):50W
【0038】
図3は、上記のSiウェハ、SUS304基板、TH10基板の各々の基板上に成膜された窒化チタン膜のX線回折プロファイルを示す図である。なお、
図3中の「●」は基板材料起因のピークである。
図3に示すように、窒化チタン膜の(111)のピークが測定され、Siウェハ上の(111)のピークの半値幅は0.2435°であり、SUS304基板上の(111)のピークの半値幅は0.3092°であり、TH10基板上の(111)のピークの半値幅は0.3251°であった。これらの窒化チタン膜はいずれも半値幅が0.8°以下であった。
【0039】
図4は、上記の成膜条件の基材がSiウェハであってICP電極16に印加されるRFが200W、100W、50W、25W及び0Wの各々である場合の窒化チタン膜のX線回折プロファイル、ICP電極16に投入される電力が(111)ピークの半値幅に及ぼす影響を示すグラフ、及び(111)ピークの半値幅の測定結果を示す図である。
【0040】
図4によれば、ICP電極16に投入される電力が大きくなりにつれて(111)ピークの半値幅が狭くなることが確認された。