(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084276
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】シール構造、減速機およびギヤードモータ
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3268 20160101AFI20240618BHJP
F16J 15/20 20060101ALI20240618BHJP
F16H 57/029 20120101ALI20240618BHJP
【FI】
F16J15/3268
F16J15/20
F16H57/029
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198453
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000237835
【氏名又は名称】富士変速機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 佑介
【テーマコード(参考)】
3J043
3J063
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA15
3J043CB07
3J043CB20
3J043DA09
3J043DA20
3J043FB20
3J063AA25
3J063AB01
3J063AC01
3J063BB01
3J063BB15
3J063CB41
3J063CD41
3J063CD67
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シール部材(オイルシール)の劣化や損傷を抑えることを可能とするシール構造を提供する
【解決手段】シール構造100は、筐体13と回転軸14との間の隙間を閉鎖するように回転軸14および筐体13の内壁面に当接して配置され、筐体13の外部への液状の異物の流出を抑制するシール部材101と、シール部材101よりも回転軸14の軸方向先端側で、筐体13と回転軸14との間の隙間を閉鎖するように回転軸14および筐体13の内壁面に当接して配置されたフィルタ部材105であって、フィルタ部材105は、液状の異物を吸収可能であり、かつ、筐体13の内外への固形の異物の通過を防止する材料からなる、フィルタ部材105と、フィルタ部材105を、回転軸14の外周面に周方向全体に亘って接触させた状態で、回転軸14と共回りしないように筐体13内に保持する保持部103bと、を備える
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、前記筐体の内部に回転可能に保持され、前記筐体の外部に軸方向先端が突出する回転軸との間をシールするシール構造であって、
前記筐体と前記回転軸との間の隙間を閉鎖するように前記回転軸および前記筐体の内壁面に当接して配置され、前記筐体の外部への液状の異物の流出を抑制するシール部材と、
前記シール部材よりも前記回転軸の軸方向先端側で、前記筐体と前記回転軸との間の隙間を閉鎖するように前記回転軸および前記筐体の内壁面に当接して配置されたフィルタ部材であって、前記フィルタ部材は、液状の異物を吸収可能であり、かつ、前記筐体の内外への固形の異物の通過を防止する材料からなる、フィルタ部材と、
前記フィルタ部材を、前記回転軸の外周面に周方向全体に亘って接触させた状態で、前記回転軸と共回りしないように前記筐体内に保持する保持部と、を備えることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記フィルタ部材よりも前記回転軸の軸方向先端側に配置され、前記回転軸の周囲を覆うように前記筐体の外壁面に固定されたカバー部材と、
前記フィルタ部材よりも前記回転軸の軸方向基端側に配置され、前記カバー部材と協働して前記フィルタ部材を軸方向に圧縮して挟持する挟持部材とを、備えることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記保持部は、前記挟持部材の軸方向先端側を向く面に形成され、前記フィルタ部材の表面に食い込む突起であることを特徴とする請求項2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記挟持部材は、金属製の環状板からなり、前記環状板に穿孔された複数の孔を備え、前記突起は、前記各孔の周縁から前記フィルタ部材側に立ち上がったバーリング加工部からなることを特徴とする請求項3に記載のシール構造。
【請求項5】
前記保持部は、前記カバー部材の軸方向基端側を向く面に形成され、前記フィルタ部材の表面に食い込む突起であることを特徴とする請求項2に記載のシール構造。
【請求項6】
前記フィルタ部材は、フェルトまたは不織布によって形成された所定厚の環状板であることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項7】
減速機の筐体と、前記減速機の出力軸を成す回転軸との間に設けられた請求項1から6のいずれか一項に記載のシール構造を備えることを特徴とする減速機。
【請求項8】
モータと、請求項7に記載の減速機と、を備えるギヤードモータであって、
前記減速機の前記回転軸の回転によって、水槽または池を撹拌するように構成された撹拌装置に装着されることを特徴とするギヤードモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造、減速機およびギヤードモータに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ギヤードモータや減速機などの産業機械は、筐体と、筐体からその外部に突出する出力軸などの駆動体とから構成される。従来、産業機械の筐体内部で発生した潤滑油などの異物を外部に漏出することを抑えたり、筐体の外部から内部へと異物が進入することを抑えるために、産業機械の筐体と駆動体との間をシールするための種々のシール構造が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1は、オイルシールの初期なじみ用の潤滑剤が漏れ出すことを防止あるいは低減するシール構造を開示する。以下、当該段落において、()内に特許文献1の符号を示す。特許文献1の第1シール構造(151)は、相対回転する入力軸(102)および第1ケーシング体(112A)を有している。第1シール構造(151)は、内部に潤滑剤が封入される減速機(100)の入力軸(102)、第1ケーシング体(112A)との間を第1オイルシール(154)によってシールする構造であり、第1吸収部材(156)を備えている。第1吸収部材(156)は、フェルトからなり、第1オイルシール(154)よりも入力軸(102)の軸方向の外側に配置されている。第1吸収部材(156)は、第1オイルシール(154)と、第1ケーシング体(112A)とによって軸方向に挟まれている。第1吸収部材(156)は、若干圧縮された状態で組み込まれ、第1ケーシング体(112A)が静止しているため、第1吸収部材(156)も静止している。第1オイルシール(154)は、主リップ部(154A)とダストリップ部(154B)とを備えた、いわゆるダブルリップ構造である。主リップ部(154A)は、第1オイルシール(154)の軸方向内側に備えられている。主リップ部(154A)は、減速機(100)内部の潤滑剤が減速機(100)から大気中へ漏れることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシール構造では、潤滑剤の漏れ出し防止のため、フェルトからなる吸収部材を若干圧縮された状態で配置している。この吸収部材は、潤滑油の吸収だけでなく、異物の通過を抑えるフィルタとしても機能し得る。しかしながら、吸収部材は、その材質的に、過酷な環境や経時によってへたり易いことを特徴とする。そのため、特許文献1のシール構造では、吸収部材のへたりにより、吸収部材をその場に静止させることができなくなって、吸収部材が入力軸の回転に従って共回りすることが避けられない。特に、異物の通過を抑えるべく、入力軸と第1ケーシング体との間のクリアランスを小さくすればするほど、吸収部材の共回りが起こり易い。そして、吸収部材が共回りすると、吸収部材の摩耗や劣化が早まって、筐体としての第1ケーシング体(またはシール構造)内部への埃や砂や泥などの異物の侵入を許し、異物がオイルシールと接触することで、オイルシール自体を劣化や損傷させてしまうおそれがあった。その結果として、外部への潤滑油の漏れ出しが起こり得ることもまた問題であった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、より確実に異物の内部への侵入を防止し、シール部材(オイルシール)の劣化や損傷を抑えることを可能とするシール構造、該シール構造を備える減速機、および、ギヤードモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態のシール構造は、筐体と、前記筐体の内部に回転可能に保持され、前記筐体の外部に軸方向先端が突出する回転軸との間をシールするシール構造であって、
前記筐体と前記回転軸との間の隙間を閉鎖するように前記回転軸および前記筐体の内壁面に当接して配置され、前記筐体の外部への液状の異物の流出を抑制するシール部材と、
前記シール部材よりも前記回転軸の軸方向先端側で、前記筐体と前記回転軸との間の隙間を閉鎖するように前記回転軸および前記筐体の内壁面に当接して配置されたフィルタ部材であって、前記フィルタ部材は、液状の異物を吸収可能であり、かつ、前記筐体の内外への固形の異物の通過を防止する材料からなる、フィルタ部材と、
前記フィルタ部材を、前記回転軸の外周面に周方向全体に亘って接触させた状態で、前記回転軸と共回りしないように前記筐体内に保持する保持部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のシール構造によれば、フィルタ部材を、回転軸の外周面に周方向全体に亘って接触させた状態で、回転軸と共回りしないように筐体内に保持する保持部が設けられている。この保持部によって、フィルタ部材の共回りがより安定的に抑えられることによって、フィルタ部材の摩耗や劣化を軽減し、異物の筐体(またはシール構造)内部への侵入をより確実に抑え、異物によるシール部材の劣化や損傷を抑えることを可能とする。
【0009】
本発明のさらなる形態のシール構造は、前記フィルタ部材よりも前記回転軸の軸方向先端側に配置され、前記回転軸の周囲を覆うように前記筐体の外壁面に固定されたカバー部材と、前記フィルタ部材よりも前記回転軸の軸方向基端側に配置され、前記カバー部材と協働して前記フィルタ部材を軸方向に圧縮して挟持する挟持部材とを、備えることを特徴とする。すなわち、カバー部材と挟持部材とによって、フィルタ部材を圧縮状態で挟持することによって、フィルタ部材を周囲の部品に圧接させ、より確実に隙間を埋めることが可能である。
【0010】
本発明のさらなる形態のシール構造は、前記保持部は、前記挟持部材の軸方向先端側を向く面に形成され、前記フィルタ部材の表面に食い込む突起であることを特徴とする。すなわち、保持部として挟持部材の面に形成された突起が、挟持部材とカバー部材とによる挟持とともに、フィルタ部材の表面に食い込んで物理的に作用することにより、フィルタ部材の共回りを効果的に防ぐことが可能である。
【0011】
本発明のさらなる形態のシール構造は、前記挟持部材は、金属製の環状板からなり、前記環状板に穿孔された複数の孔を備え、前記突起は、前記各孔の周縁から前記フィルタ部材側に立ち上がったバーリング加工部からなることを特徴とする。すなわち、環状を成すバーリング加工部が、フィルタ部材の表面に食い込むことで、フィルタ部材の位置ずれを防止するとともに、フィルタ部材の共回りを効果的に防ぐことが可能である。
【0012】
本発明のさらなる形態のシール構造は、前記保持部は、前記カバー部材の軸方向基端側を向く面に形成され、前記フィルタ部材の表面に食い込む突起であることを特徴とする。すなわち、保持部としてカバー部材の面に形成された突起が、カバー部材と挟持部材とによる挟持とともに、フィルタ部材の表面に食い込んで物理的に作用することにより、フィルタ部材の共回りを効果的に防ぐことが可能である。
【0013】
本発明のさらなる形態のシール構造は、前記フィルタ部材は、フェルトまたは不織布によって形成された所定厚の環状板であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態の減速機は、減速機の筐体と、前記減速機の出力軸を成す回転軸との間に設けられた上記記載のシール構造を備えることを特徴とする。すなわち、減速機は、上記シール構造の作用効果を減速機として発揮し得る。
【0015】
本発明の一形態のギヤードモータは、モータと、上記記載の減速機と、を備えるギヤードモータであって、前記減速機の前記出力軸の回転によって、水槽または池を撹拌するように構成された撹拌装置に装着されることを特徴とする。すなわち、水槽または池を撹拌する過酷な環境下においても、外部から異物が減速機の筐体内部に進入することを抑えるとともに、筐体内部で発生した潤滑油などの異物が外部に漏出することを抑えることが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシール構造は、より確実に異物の内部への侵入を抑えることを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のギヤードモータを示す全体概略正面図。
【
図2】
図1のギヤードモータの減速機を示す拡大概略正面図。
【
図3】
図2の減速機のシール構造を示す部分拡大断面図。
【
図5】
図4のシール構造の第1シール部材の(a)側面図および(b)その断面図。
【
図6】
図4のシール構造のフィルタ部材の(a)側面図および(b)その断面図。
【
図7】
図4のシール構造のカバー部材の(a)側面図および(b)その断面図。
【
図8】
図4のシール構造の挟持部材の(a)側面図および(b)その断面図。
【
図9】本発明の一実施形態のシール構造のシール作用を示す模式図。
【
図10】本発明の別実施形態のシール構造を示す模式図。
【
図11】本発明の別実施形態のシール構造を示す模式図。
【
図12】本発明の別実施形態のシール構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において参照する各図の形状は、好適な形状を説明する上での概念図又は概略図であり、寸法比率等は実際の寸法比率とは必ずしも一致しない。つまり、本発明は、図面における寸法比率に限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施形態のシール構造100は、ギヤードモータ10を構成する減速機12の筐体13と回転軸14との間をシールするように設けられたものである。特には、ギヤードモータ10(または減速機12)は、水槽または池を撹拌するように構成された撹拌装置に装着される用途で用いられるものである。このような用途または過酷な環境下で使用される場合、水やゴミなどの外部からの異物が減速機12の筐体13内部へと進入し易いことから、一般的に装置の寿命が短くなる。また、ギヤードモータ10(または減速機12)は、水槽または池などへの潤滑油などの異物の流出によって環境を汚染しないことが求められる。これに対し、本実施形態のシール構造100は、このような用途または環境下でのギヤードモータ10の使用に耐え得るように、減速機12に設けられたものであり、外部から埃や砂や泥などの異物が減速機12の筐体13(またはシール構造100)内部に進入することを抑えて、異物によるシール構造100の各部品(主として、シール部材101)の劣化や損傷を抑えるとともに、筐体13内部で発生した潤滑油などの異物が外部に漏出することもまた抑えるように構成されている。しかしながら、本発明のシール構造は、減速機への適用に限定されず、例えば、モータなどの筐体と回転軸とを備える装置全般に適用され得ることはいうまでもない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態のギヤードモータ10の全体側面図である。
図2は、該ギヤードモータ10の減速機12を主に示す概略断面図である。ギヤードモータ10は、モータ11と、減速機12とを備える。また、モータ11の出力軸11aが減速機12の入力部(カップリング)に連結するように、モータ11が減速機12に一体的に結合されている。減速機12は、内部機構を収納する筐体13と、該筐体13内部に回転可能に保持され、筐体13外部に軸方向先端が突出する回転軸14と、モータ11の出力軸11aから入力された回転駆動力を回転軸14に伝達する伝達部15とを備える。ここで、伝達部15は、1または複数のギヤ、シャフト、ベアリングなどの筐体13内部の駆動機構である。一般的に、伝達部15には、グリースなどの潤滑油が用いられている。すなわち、減速機12は、モータ11の出力軸11aの回転を伝達部15を介して所定の減速比に減速させて、回転軸14で出力するように構成されている。なお、減速機12の筐体13内部の構造は、
図2の構造に限定されず、任意な構成をとってもよく、その詳細な説明はここでは省略される。
【0021】
シール構造100は、筐体13と、該筐体13内部の回転軸14との間をシールするように、回転軸14の突出部分の基端側(つまり、筐体13の外面近傍)の箇所に設けられている。
図3は、シール構造100を示す減速機12の部分拡大断面図である。
図4は、シール構造100の分解図である。
【0022】
シール構造100は、
図3および
図4に示すように、減速機12の伝達部15よりも軸方向先端側(出力側)に形成されている。より具体的には、筐体13の内壁面において、伝達部15とシール構造100の間の箇所で、回転軸14に外周面に向かって張り出した張り出し部13aが形成されている。この張り出し部13a内周面と回転軸14外周面との距離は、筐体13内壁面と回転軸14外周面との間の最小距離を成している。シール構造100は、張り出し部13a内周面と回転軸14外周面との間の隙間を封止するように、張り出し部13aの軸方向先端側に隣接して設けられている。この張り出し部13aの軸方向先端側には、張り出し部13aよりも径方向外側に拡径した空間を画定する第1段部13bが形成されている。また、第1段部13bの軸方向先端側には、第1段部13bよりも径方向外側に拡径した空間を画定する第2段部13cが形成されている。そして、第2段部13cの軸方向先端側には、回転軸14の周囲で軸方向先端側を向く外壁面13dが形成されている。
【0023】
図3および
図4に示すように、シール構造100は、回転軸14の軸方向基端側から、シール部材101、挟持部材103、フィルタ部材105およびカバー部材107を備える。シール部材101、挟持部材103、フィルタ部材105およびカバー部材107は、回転軸14を中心として同軸上に配置されている。
【0024】
シール部材101は、筐体13と回転軸14との間の隙間を閉鎖するように回転軸14および筐体13の内壁面に当接して配置されている。具体的には、シール部材101は、筐体13の第1段部13bによって画定された空間に収容されている。また、シール部材101は、筐体13の外部への液状の異物(例えば、潤滑油)の流出を抑制するように構成されている。
図5に示すように、本実施形態では、シール部材101は、液体を吸収しないオイルシールであって、ゴムなどの弾性材料から形成された環状体である。シール部材101は、その軸方向先端側に肉厚部分を成す基部101aを有し、当該基部101aが回転軸14に嵌め付けられている。つまり、シール部材101は、回転軸14と共に回転動作する。一方で、シール部材101は、その軸方向基端側に、筐体13の内壁面(第1段部13bの壁面)に軸方向先端側から圧接し、隙間を閉鎖する薄肉のシール部101bを有している。シール部材101のシール部101bの外周面には、V字状の溝部101cが形成されている。また、シール部材101の外径は、第1段部13bの(径方向内側を向く)内周面の内径よりも小さい。そして、シール部材101の外周面の外側には、フィルタ部材105から発生する固形の異物を捕集可能な空間である捕集部109が設けられている。シール部101bは、捕集部109または溝部101cに溜まった固形の異物を堰止めるように延在している。
【0025】
挟持部材103は、シール部材101よりも軸方向先端側に配置されるとともに、フィルタ部材105よりも軸方向基端側に配置されている。より具体的には、挟持部材103は、筐体13の第2段部13cによって画定された空間に収容されている。挟持部材103とシール部材101とは、互いに接触しないように軸方向に僅かに離間して配置されている。挟持部材103は、その軸方向先端側に配置されるカバー部材107と協働してフィルタ部材105を軸方向に圧縮して挟持するように構成されている。また、挟持部材103は、
図6に示すように、金属製の環状板からなり、その中心開口の内径が回転軸14の外径よりも大きい。つまり、挟持部材103は、回転軸14と離間した状態で筐体13に保持されていることから、回転軸14と共回りすることはない。
【0026】
また、挟持部材103は、環状板に穿孔された複数(本実施形態では3つ)の孔103aを有する。これら孔103aは、バーリング加工によって形成されたものである。つまり、挟持部材103には、各孔103aの周縁から軸方向先端側(フィルタ部材105側)に立ち上がった(保持部または突起としての)バーリング加工部103bが設けられている。ここで、バーリング加工部103bの立ち上がりの高さ(つまり、突起の突出高さ)は、圧縮状態のフィルタ部材105の厚みよりも小さい。すなわち、バーリング加工部103bは、挟持部材103の軸方向先端側を向く面に形成され、フィルタ部材105の表面に食い込む突起である。そして、バーリング加工部103bは、フィルタ部材105を、回転軸14の外周面に周方向全体に亘って接触させた状態で、回転軸14と共回りしないように筐体13内に保持する保持部として機能し得る。
【0027】
フィルタ部材105は、挟持部材103よりも軸方向先端側で、筐体13と回転軸14との間の隙間を閉鎖するように回転軸14および筐体13の内壁面に当接して配置されている。より具体的には、フィルタ部材105は、挟持部材103と同様に筐体13の第2段部13cによって画定された空間に収容されている。フィルタ部材105の外周面が、周方向全体に亘って第2段部13cの内周面に接触または圧接しているとともに、フィルタ部材105の内周面が回転軸14の外周面に接触または圧接している。フェルト製のフィルタ部材105と、金属製の回転軸14との間の摩擦力が比較的小さいことから、回転軸14の回転駆動の際、回転軸14が回転方向の力をフィルタ部材105に対して作用し続ける。これに対し、本実施形態のシール構造100では、保持部(バーリング加工部103b)の作用によって、回転軸14の外周面がフィルタ部材105の内周面に摺接しながら回転軸14のみが安定して回転し得る。
【0028】
また、フィルタ部材105は、液状の異物を吸収可能であり、かつ、筐体13の内外への固形の異物の通過を防止する材料からなる。本実施形態において、フィルタ部材105は、
図7に示すように、フェルトから形成された所定厚の環状板であり、その中心開口の内径が回転軸14の外径と同じか、回転軸14の外周面に確実に密着するように、それよりも僅かに小さい。なお、フィルタ部材105は、フェルト以外に、不織布やスポンジなどで形成されてもよい。また、フィルタ部材105は、その軸方向において、少なくとも流体の吸収性を有する程度に、若干圧縮された状態で、挟持部材103とカバー部材107との間に挟み込まれることで、筐体13に保持されている。つまり、自然状態(非圧縮形態)におけるフィルタ部材105の厚みの方が、挟持部材103とカバー部材107との間の距離よりも小さい。すなわち、フィルタ部材105は、挟持部材103の軸方向先端側を向く面、カバー部材107の軸方向基端側を向く面、筐体13の内壁面、および回転軸14の外周面によって画定される空間を隙間無く充填している。そして、フィルタ部材105の軸方向基端側の表面に、バーリング加工部103bが食い込むことによって、フィルタ部材105が回転軸14に対して共回りしないようにその場に保持されている。
【0029】
カバー部材107は、フィルタ部材105よりも回転軸14の軸方向先端側に配置され、回転軸25の周囲を覆うように筐体13の外壁面13dに固定されている。カバー部材107は、金属製または硬質な合成樹脂製からなる環状板であり、カバー部材107および回転軸14が互いに干渉しないように、その中心開口の内径が回転軸14の外径よりも大きい。また、
図8に示すように、カバー部材107は、複数(本実施形態では4つ)のビス孔107aを有している。
図4に示すように、カバー部材107は、複数のビスによって筐体13の外壁面13dに固定される。カバー部材107は、外壁面13dに固定された状態で、挟持部材103と協働して、フィルタ部材105を軸方向に挟持している。このカバー部材107は、ビスを外すことによって簡単に取り外すことが可能である。このように、カバー部材107を取り外すことで、各部材の交換や掃除等のメンテナンスをすることが容易である。よって、本実施形態のシール構造100は、良好なメンテナンス性をも有している。
【0030】
すなわち、本実施形態のシール構造100では、フィルタ部材105が、挟持部材103とカバー部材107との間に挟持されるとともに、保持部としてのバーリング加工部103bによって物理的に係止されている。シール構造100は、フィルタ部材105を、回転軸14の外周面に周方向全体に亘って接触させた状態で、回転軸14と共回りしないように筐体13内により安定的または長期に亘って保持することが可能である。また、フィルタ部材105をカバー部材107と挟持部材103とによって、圧縮状態で挟持することによって、フィルタ部材105を周囲の部品に圧接させ、より確実に隙間を埋めることが可能である。さらに、フィルタ部材105の両面が、剛性の挟持部材103およびカバー部材107によって軸方向両側から覆われて保護されていることで、フィルタ部材105が形崩れすることが効果的に抑えられる。したがって、本実施形態のシール構造100は、フィルタ部材105の共回りがより安定的に抑えられることによって、フィルタ部材105のへたりや摩耗や劣化を軽減し、フィルタ部材105を越えて異物が内部に侵入することをより確実に抑えることを可能とする。
【0031】
続いて、本実施形態のシール構造100のシール作用について、
図9を参照してより詳細に説明する。減速機12において、張り出し部13a、挟持部材103およびカバー部材107の内周面と、(これら部材に対して相対回転する)回転軸14外周面との間には、各部材および回転軸14間の干渉を避けるべく、必然的に隙間が形成されている。ここで、張り出し部13a内周面と回転軸14外周面との間の隙間を第1の隙間S1とし、挟持部材103内周面と回転軸14外周面との間の隙間を第2の隙間S2とし、カバー部材107内周面と回転軸14外周面との間の隙間を第3の隙間S3とする。
【0032】
第1に、減速機12の伝達部15から潤滑油などの液状の異物D1が発生した場合、異物D1は、第1の隙間S1を通ってシール部材101に到達し得る。液状の異物D1は、シール部材101によってその通過が抑制されるものの、シール部材101が筐体13内壁面に対して回転することから、液状の異物D1の通過を完全に遮断することができない。それ故、液状の異物D1がシール部材101の外側に漏れ出すことがある。漏れ出した異物D1は、シール部材101の外周側の捕集部109を通って、さらに第2の隙間S2を通って外側に移動する。しかしながら、異物D1は、第2の隙間S2を軸方向先端側から閉鎖するフィルタ部材105によって吸収されることで、最終的に、減速機12の外部に漏れ出すことが抑えられる。
【0033】
第2に、フィルタ部材105および回転軸14が接触した状態で、回転軸14が回転することから、フィルタ部材105の当該接触部分が摩耗して、フェルト毛などの異物D2が発生し得る。なお、異物D2の量は、フィルタ部材105が回転軸14と共回りしたと仮定したときに発生する異物(摩耗)の量と比べると微量であることはいうまでもない。異物D2は、第2の隙間S2を通って、捕集部109に移動する。捕集部109に捕集された異物D2は、シール部材101のシール部101bによって、第1の隙間S1に入ることが防止される。なお、捕集部109に捕集された異物D2は、ビスを外してカバー部材107およびフィルタ部材105を取り外すことによって、簡単に除去することが可能である。
【0034】
第3に、ギヤードモータ10が、水槽または池を撹拌するように構成された撹拌装置に装着されるなどの過酷な環境で使用される場合、水しぶきや埃や砂や泥などの外部からの異物D3が第3の隙間S3から減速機12の内部へと進入し得る。第3の隙間S3を通過した液状の異物D3はフィルタ部材105によって吸収され、また、固形の異物D3はフィルタ部材105によって捕捉される。すなわち、液状および固形の異物D3が、フィルタ部材105に効果的に捕捉されることで、シール部材101に到達することが抑えられる。これにより、シール部材101が内部に進入した異物によって劣化や損傷することが効果的に抑えられ、シール構造100自体の長寿命化が実現する。
【0035】
[別実施形態・変形例]
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の実施形態及び変形例を取り得る。以下、本発明の別実施形態及び変形例を説明する。
【0036】
(1)上記実施形態では、挟持部材に形成された保持部としての突起は、孔をバーリング加工してなるバーリング加工部で形成されたが、本発明の保持部はこれに限定されず、種々の形態を取り得る。
図10に示すシール構造100Aでは、金属製の環状板である挟持部材103Aに、V字状またはコ字状の切り込みを形成し、切り込みに囲まれた部位をフィルタ部材側に折り曲げることによって、突起103Abを形成したものである。このシール構造100Aでも同様に、突起103Abがフィルタ部材105に食い込むことによって、フィルタ部材105を回転軸14と共回りしないように保持することができる。
【0037】
(2)上記実施形態では、挟持部材に形成された保持部としての突起は、孔をバーリング加工してなるバーリング加工部で形成されたが、本発明の保持部はこれに限定されず、種々の形態を取り得る。
図11に示すシール構造100Bでは、硬質の合成樹脂製の挟持部材103Bに、フィルタ部材105側に突出するピン状の突起103Bbを一体的に形成したものである。このシール構造100Bでも同様に、突起103Bbがフィルタ部材105に食い込むことによって、フィルタ部材105を回転軸14と共回りしないように保持することができる。
【0038】
(3)上記実施形態では、保持部はバーリング加工部として挟持部材に形成されたが、本発明の保持部はこれに限定されず、種々の形態を取り得る。
図12に示すシール構造100Cでは、保持部は、カバー部材107Cの軸方向基端側を向く面に形成され、フィルタ部材105の表面に食い込む突起である。具体的には、カバー部材107Cには、ビス孔107Caと、複数の孔107Cbと、各孔107Cbに形成されたバーリング加工部107Ccとが形成されている。このシール構造100Cでも同様に、バーリング加工部107Ccがフィルタ部材105に食い込むことによって、フィルタ部材105を回転軸14と共回りしないように保持することができる。なお、保持部は、挟持部材およびカバー部材の両方に形成されてもよい。
【0039】
(4)本発明のシール構造の各構成要素は、上記実施形態に限定されない。例えば、シール部材は、回転軸ではなく、筐体側に固定されてもよい。また、シール部材の形状や寸法は、任意に変更されてもよい。さらに、カバー部材が、筐体の壁部に一体的に形成されてもよい。あるいは、挟持部材およびカバー部材が省略され、フィルタ部材が、筐体の内壁に設置された保持部によって保持されてもよい。また、保持部は、突起状ではなく、接着剤などの他の保持手段であってもよい。
【0040】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
【符号の説明】
【0041】
10 ギヤードモータ
11 モータ
11a 出力軸
12 減速機
13 筐体
13a 張り出し部
13b 第1段部
13c 第2段部
13d 外壁面
14 回転軸
15 伝達部
100 シール構造
101 シール部材
101a 基部
101b シール部
101c 溝部
103 挟持部材
103a 孔
103b バーリング加工部(保持部、突起)
105 フィルタ部材
107 カバー部材
107a ビス孔
109 捕集部
S1~S3 隙間
D1~D3 異物