(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084291
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】セメント組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240618BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240618BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/06 Z
B28C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198475
(22)【出願日】2022-12-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年度土木学会全国大会 国立大学法人京都大学吉田キャンパス 令和4年9月15日開催
(71)【出願人】
【識別番号】000198307
【氏名又は名称】株式会社IHI建材工業
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】山本 光彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広也
(72)【発明者】
【氏名】井川 舜也
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB31
4G112MA00
4G112PB03
(57)【要約】
【課題】材料の配合比率を変えることなくブリーディングを効果的に低減することのできるセメント組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】セメント及び水を含む材料に水酸化カルシウムを添加して練り混ぜることによりセメント組成物を生成するようにしたので、水酸化カルシウムの添加によってゼータ電位が大きくなることにより、セメント組成物中に水が拘束され、これによりブリーディングが低減することから、減水剤を使用した場合のように流動性(スランプ)を変化させることがなく、材料の配合比率(水セメント比)を変えずにブリーディングを効果的に低減することができる。即ち、ブリーディングを低減させるための水酸化カルシウムの使用が材料の配合比率に影響を与えることがないので、水酸化カルシウムを添加するだけでブリーディングの少ないセメント組成物を生成することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び水を含む材料に水酸化カルシウムを添加して練り混ぜることにより生成される
ことを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
前記水酸化カルシウムの添加率は単位水量の0.4%以上4.0%以下である
ことを特徴とする請求項1記載のセメント組成物。
【請求項3】
セメント及び水を含む材料に水酸化カルシウムを添加して練り混ぜる
ことを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記水酸化カルシウムの添加率を単位水量の0.4%以上4.0%以下とする
ことを特徴とする請求項3記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば土木、建築等における構造体に用いられるセメント組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば土木、建築等における構造体には、コンクリートやモルタル、或いはセメントペーストが用いられるが、セメントや骨材等の材料と水とを練り混ぜると、セメントや骨材の方が水よりも密度が大きいため、比重が小さい水が表面に上昇する、いわゆるブリーディング(浮き水)が発生する場合がある。ブリーディングは、ひび割れ等の発生を助長するなど、コンクリートの耐久性に悪影響を及ぼす原因となる。例えば、コンクリート材料は各地で産出される細粗骨材等を用いるのが一般であるが、地方によっては良質な細粗骨材が枯渇したことにより、規格で許容される限界に近い材料を使用せざるを得ないことがある。このようなコンクリートの場合、必要とされる流動性(スランプ)を得るための単位水量が大きくなり、ブリーディングの増大や材料分離抵抗性及び充填性の低下、硬化後ひび割れの増大をもたらすことが多い。また、必然的に単位セメント量も大きくなるので、コンクリートの材料コストも増大する。
【0003】
一方、コンクリートの流動性(スランプ)を高めるために、混和剤として減水剤を用いる場合がある(例えば、特許文献1参照。)。減水剤は、セメント粒子表面に負の電荷を与えることによりセメント粒子同士を分散(反発)させ、これによりコンクリートの流動性を高めるものであるが、流動性が高まる分、単位水量を少なくすることができ、結果的にブリーディングの発生量を低減する作用がある。
【0004】
また、コンクリート中に微細な空気を生じさせることにより流動性を高める混和剤としてAE剤(Air Entraining剤)が知られており、このAE剤と減水剤の両方の作用をもつ混和剤としてブリーディング低減型AE減水剤も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ブリーディングを低減するために減水剤を使用した場合(または使用率を大きくした場合)には、規定値と等しい流動性(スランプ)を得るために単位水量を小さくする必要がある。この場合、強度を同じにするために水セメント比を変えずにいると、単位セメント量が小さくなってしまうため、結果的に配合比率を変えざるを得なくなるという問題点があった。
【0007】
また、前記ブリーディング低減型AE減水剤は、特殊で高価な混和剤であることから、ほとんど普及していないのが現状である。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、材料の配合比率を変えることなくブリーディングを効果的に低減することのできるセメント組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のセメント組成物は、セメント及び水を含む材料に水酸化カルシウムを添加して練り混ぜることにより生成されることを特徴とする。
【0010】
また、前記目的を達成するために、本発明のセメント組成物の製造方法は、セメント及び水を含む材料に水酸化カルシウムを添加して練り混ぜるようにしている。
【0011】
本発明では、水酸化カルシウムの添加によってゼータ電位が大きくなることにより、セメント組成物中に水が拘束され、これによりブリーディングが低減することから、減水剤を使用した場合のように流動性(スランプ)を変化させることがなく、材料の配合比率(水セメント比)を変えずにブリーディングを効果的に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水酸化カルシウムを添加するだけで材料の配合比率を変えずにブリーディングを効果的に低減することができるので、安価な薬剤である水酸化カルシウムを用いてブリーディングの低減を容易に実現することができ、実用化に際して極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るゼータ電位と練混ぜ時間との関係を示す図
【
図2】最大ブリーディング率と練混ぜ時間との関係を示す図
【
図3】水酸化カルシウムをセメント組成物に添加した場合の粒子結合モデルの概念図
【
図4】水酸化カルシウムをセメント組成物に添加していない場合の粒子結合モデルの概念図
【
図5】ブリーディング率と水酸化カルシウム添加率との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図5は本発明の一実施形態を示すもので、例えば土木、建築等における構造体に用いられるセメント組成物を示すものである。
【0015】
本発明者は、コンクリートのフレッシュ性状がセメントのゼータ電位で変化することに着目し、コンクリートに薬剤を簡単に混ぜることで品質を改善できると考えた。薬剤としては硬化後のコンクリートに悪影響を与えず、且つ安価である必要がある。種々の薬剤をコンクリートに添加してフレッシュ性状が改善可能か否かを試験した結果、水酸化カルシウムをコンクリートに添加することでブリーディングが低減可能であることの知見を得て本発明を完成するに至った。
[ゼータ電位とブリーディングとの関係]
ゼータ電位は、溶液中の微粒子の周りに形成される電気二重層中の液体流動が起こり始める「すべり面」の電位であり、これがゼロに近づくと微粒子の相互の反発力は弱まりやがて凝集する。以下、セメントペーストを試験体としてゼータ電位とブリーディング率を測定した。
【0016】
セメントペーストには、普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm3)、水(水道水)、混和剤(食品添加物用水酸化カルシウム)を用い、水セメント比を55%として練り混ぜたものを使用した。
【0017】
ゼータ電位の測定には、電場におけるコロイド粒子の移動速度を測定することによりその粒子のゼータ電位を算出する装置を用いた。この装置は二個の電極室と泳動室から構成され、二つの電極間に電圧をかけることにより泳動室内に電場を発生させ、一方または他方の電極に向かって移動する荷電粒子の移動速度からゼータ電位を算出するように構成されたものである。本測定では、以下の手順でゼータ電位を測定した。
【0018】
まず、前記試験体のセメントペースト2mlを300mlの蒸留水に加え、ビーカー内でかき混ぜる。シリンジを使用し、希釈したセメントペーストをセルに注入する。セルを前記測定装置に取り付け、セメント粒子が観察できるように顕微鏡の焦点を合わせる。電圧を100mVに設定し、セルに電圧をかける。電位を調整してセメント粒子が静止するように調節し、その時の値を記録した。セルはセメントペーストの練上り後2分で設置し、ゼータ電位の測定は3分間で行った。
【0019】
前記セメントペーストに添加する水酸化カルシウムの添加率を単位水量の1.33%、2.22%、2.64%とした試験体に対してそれぞれゼータ電位を測定したところ、
図1に示す測定結果が得られた。同図はゼータ電位と各試験体の練混ぜ時間との関係を示すもので、水酸化カルシウムを添加したものは無添加のものよりもゼータ電位が高くなるという結果が得られた。
【0020】
次に、各試験体について、ブリーディング試験を行ったところ、
図2に示す試験結果が得られた。同図は最大ブリーディング率と各試験体の練混ぜ時間との関係を示すもので、水酸化カルシウムを添加したものは無添加のものよりもブリーディング率が低いという結果が得られた。尚、ブリーディング試験は、土木学会基準(コンクリート標準示方書)のポリエチレン袋方法(JSCE-F522)に準拠して行った。
【0021】
以上より、水酸化カルシウムをセメント組成物に添加することによりブリーディングが低減することが確認された。
【0022】
また、水酸化カルシウムの添加によりブリーディングが低減する作用について、
図3及び
図4に示す粒子結合モデルの概念図に基づいて説明する。ここで、
図3は水酸化カルシウムをセメント組成物に添加した場合の粒子結合モデルを示し、
図4は水酸化カルシウムをセメント組成物に添加していない場合の粒子結合モデルを示す。
【0023】
図3に示す水酸化カルシウム添加の場合は、ゼータ電位が大きいため、セメントの凝集体1及び大きい単粒2の間に、微小粒子3が中小粒子4を引き付けて結合することにより立体的な連結帯5を形成するため、この部分が拘束水6を多く保持し、上部からの荷重をある程度支持することにより、ブリーディング水の上昇が抑制されるものと考えられる。
【0024】
一方、
図4に示す水酸化カルシウム無添加の場合は、セメントの凝集体1の間に存在する微小粒子3は分散、浮遊して結合せず分散しているため、上部からの荷重を支持する作用が小さく、ブリーディング水の上昇する量が多くなると考えられる。
【0025】
このように、本実施形態によれば、セメント及び水を含む材料に水酸化カルシウムを添加して練り混ぜることによりセメント組成物を生成するようにしたので、水酸化カルシウムの添加によってブリーディングを大幅に低減することができ、ブリーディングを原因とするひび割れの発生など、コンクリートの耐久性低下を抑制することができる。
【0026】
この場合、水酸化カルシウムは、硬化後のコンクリートに悪影響を与えず、且つ安価な薬剤であることから、実用化に際して極めて有利である。
【0027】
また、水酸化カルシウムの添加によってゼータ電位が大きくなることにより、セメント組成物中に水が拘束され、これによりブリーディングが低減することから、減水剤を使用した場合のように流動性(スランプ)を変化させることがなく、材料の配合比率(水セメント比)を変えずにブリーディングを効果的に低減することができる。即ち、ブリーディングを低減させるための水酸化カルシウムの使用が材料の配合比率に影響を与えることがないので、水酸化カルシウムを添加するだけでブリーディングの少ないセメント組成物を生成することができ、ブリーディングの低減を容易に実現することができる。
【0028】
この場合、後述する実施例に示すように、水酸化カルシウムの添加率が単位水量の0.4%以上で十分なブリーディング低減効果が得られ、添加率が単位水量の4.0%を超えるとグリーディング低減効果に対して水酸化カルシウムの使用量が過剰になり不経済であることから、水酸化カルシウムの添加率は単位水量の0.4%以上4.0%以下が好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例1~3及び比較例1を示す。尚、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[使用材料]
実施例1~3及び比較例1には、普通ポルトランドセメント(密度3.16g/cm
3)、水(水道水)、細骨材、混和剤(食品添加物用水酸化カルシウム)を用い、表1に示すように水セメント比を55%、細骨材比率46%、単位水量179m
3として試験室用2軸強制ミキサで90秒一括練混ぜしたものを使用した。尚、一般的に用いられる減水剤または高性能減水剤や高性能AE減水剤を用いるようにしてもよい。
[水酸化カルシウム添加率]
水酸化カルシウムの添加率は、実施例1は単位水量の0.44%、実施例2は単位水量の1.33%、実施例3は単位水量の2.22%、比較例1は無添加とした。
[ブリーディング試験]
実施例1~3及び比較例1について、土木学会基準(コンクリート標準示方書)のポリエチレン袋方法(JSCE-F522)に準拠したブリーディング試験を行った。その結果、
図5及び表2に示すように水酸化カルシウムの添加率が大きいほどブリーディング率が低減し、水酸化カルシウム無添加の比較例1に対するブリーディング比率は、実施例1は67%、実施例2は64%、実施例3は59%まで低減することが確認された。
【0030】
尚、本発明のセメント組成物には、セメントペースト、モルタル、コンクリートが含まれるものとし、セメント、水、水酸化カルシウム以外の材料を含むものであってもよい。
【0031】
【0032】