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特開2024-84313麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法
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  • 特開-麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084313
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 1/027 20060101AFI20240618BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20240618BHJP
   C12C 1/00 20060101ALI20240618BHJP
   C12C 1/125 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C12C1/027
A01H6/46 ZNA
C12C1/00
C12C1/125
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198514
(22)【出願日】2022-12-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月16日 https://141st.jsb-orsam-portals.jp/ 令和4年3月16日 日本育種学会第141回講演会 令和4年9月14日 https://142nd.jsb-orsam-portals.jp/ 令和4年9月14日 日本育種学会第142回講演会
(71)【出願人】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 誠
(72)【発明者】
【氏名】柴村 明宏
(72)【発明者】
【氏名】廣田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】時園 佳朗
(72)【発明者】
【氏名】牧本 梨奈
(72)【発明者】
【氏名】保木 健宏
(72)【発明者】
【氏名】周 天甦
【テーマコード(参考)】
2B030
4B128
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD08
2B030CA08
4B128CP03
(57)【要約】
【課題】麦芽の製造効率を効果的に向上させる麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法を提供する。
【解決手段】麦芽の製造方法は、下記の特性(I)及び/又は(II):(I)配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する;、(II)発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる試験麦芽が、下記の特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する:(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;、を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、前記浸麦工程で得られた前記オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程と、を含む。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性(I)及び/又は(II):
(I)配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する;、
(II)発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる試験麦芽が、下記の特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する:
(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;
(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;
(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;、
を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、
前記浸麦工程で得られた前記オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程と、
を含む麦芽の製造方法。
【請求項2】
前記発芽工程において、β-グルカン含有量が550mg/L以下の前記麦芽を得る、
請求項1に記載の麦芽の製造方法。
【請求項3】
前記発芽工程において、前記麦芽を収率93.5%以上で得る、
請求項1又は2に記載の麦芽の製造方法。
【請求項4】
前記浸麦工程において、前記特性(I)を有する前記オオムギに前記浸麦処理を施す、
請求項1に記載の麦芽の製造方法。
【請求項5】
前記浸麦工程において、前記特性(II)を有する前記オオムギに前記浸麦処理を施す、
請求項1に記載の麦芽の製造方法。
【請求項6】
前記オオムギの前記試験麦芽は、前記特性(1)を有する、
請求項5に記載の麦芽の製造方法。
【請求項7】
前記オオムギの前記試験麦芽は、前記特性(2)を有する、
請求項5に記載の麦芽の製造方法。
【請求項8】
前記オオムギの前記試験麦芽は、前記特性(3)を有する、
請求項5に記載の麦芽の製造方法。
【請求項9】
麦芽の製造において、
下記の特性(I)及び/又は(II):
(I)配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する;、
(II)発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる麦芽が、下記の特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する:
(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;
(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;
(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;、
を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、
前記浸麦工程で得られた前記オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程とを実施することにより、麦芽の製造効率を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、麦芽アルコール飲料に使用する麦芽の製造方法において、緑麦芽を乾燥させる焙燥工程における吹込み温風の絶対湿度を0.010kg/kg以下とし、又は当該吹込み温風の風量を麦芽1トンあたり4500立方メートル/時間以上とすることや、当該焙燥初期工程の少なくとも、その1/3以上の工程期間にて、吹込み温風の温度を40℃以下とすることを特徴とする麦芽の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-102690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、本発明の発明者らは、麦芽を効率よく製造するための技術的手段について検討を行ってきた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、麦芽の製造効率を効果的に向上させる麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る麦芽の製造方法は、下記の特性(I)及び/又は(II):(I)配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する;、(II)発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる試験麦芽が、下記の特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する:(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;、を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、前記浸麦工程で得られた前記オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程と、を含む。本発明によれば、麦芽の製造効率が効果的に向上した麦芽の製造方法が提供される。
【0007】
[2]前記[1]の方法の前記発芽工程において、β-グルカン含有量が550mg/L以下の前記麦芽を得ることとしてもよい。[3]前記[1]又は[2]の方法の前記発芽工程において、前記麦芽を収率93.5%以上で得ることとしてもよい。
【0008】
[4]前記[1]乃至[3]のいずれかの方法の前記浸麦工程において、前記特性(I)を有する前記オオムギに前記浸麦処理を施すこととしてもよい。[5]前記[1]乃至[4]のいずれかの方法の前記浸麦工程において、前記特性(II)を有する前記オオムギに前記浸麦処理を施すこととしてもよい。
【0009】
[6]前記[5]の方法において、前記オオムギの前記試験麦芽は、前記特性(1)を有することとしてもよい。[7]前記[5]又は[6]の方法において、前記オオムギの前記試験麦芽は、前記特性(2)を有することとしてもよい。[8]前記[5]乃至[7]のいずれかの方法において、前記オオムギの前記試験麦芽は、前記特性(3)を有することとしてもよい。
【0010】
[9]上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る麦芽の製造効率を向上させる方法は、麦芽の製造において、下記の特性(I)及び/又は(II):(I)配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する;、(II)発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる麦芽が、下記の特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する:(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;、を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、前記浸麦工程で得られた前記オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程とを実施することにより、麦芽の製造効率を向上させる方法。本発明によれば、麦芽の製造効率を効果的に向上させる方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、麦芽の製造効率を効果的に向上させる麦芽の製造方法及び麦芽の製造効率を向上させる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の一実施形態に係るオオムギのDNAに含まれる塩基配列を示す説明図である。
図1B図1Aに示す塩基配列に対応する、オオムギ品種Morexに含まれる塩基配列の一部を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る実施例1においてDNAマーカーの解析を行った結果を示す説明図である。
図3】本発明の一実施形態に係る実施例1において試験麦芽の特性を評価した結果を示す説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る実施例2において麦芽の特性を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られる
ものではない。
【0014】
本実施形態に係る方法(以下、「本方法」という。)は、その一側面として、下記の特性(I)及び/又は(II):(I)配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する;、(II)発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる試験麦芽が、下記の特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する:(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;、を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、当該浸麦工程で得られた当該オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程と、を含む麦芽の製造方法を包含する。
【0015】
すなわち、本発明の発明者らは、麦芽の製造効率を効果的に向上させるための技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、特有の特性を有するオオムギを採用し、且つ当該オオムギに浸麦処理を施して得た、浸麦度が小さいオオムギを発芽させることにより、麦芽を効率よく製造できることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
したがって、本方法は、他の側面として、麦芽の製造において、上記の特性(I)及び/又は(II)を有するオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下のオオムギを得る浸麦工程と、当該浸麦工程で得られた当該オオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程とを実施することにより、麦芽の製造効率を向上させる方法をも包含する。
【0017】
本方法で使用する、上記特性(I)及び/又は(II)を有するオオムギ(以下、「特定オオムギ」という。)は、未だ発芽していないオオムギである。ここで、本方法において特徴的なことの一つは、発芽させるオオムギとして、この特定オオムギを用いる点にある。
【0018】
特定オオムギは、例えば、特性(I)として、配列番号1で特定される塩基配列を含むDNAを有する。配列番号1で特定される塩基配列(以下、「特定塩基配列1」という。)は、特定オオムギに特有のDNAマーカーである。すなわち、特定オオムギのDNAは、DNAマーカーとして、特定塩基配列1を含む。
【0019】
図1Aには、特定塩基配列1を示す。この特定塩基配列1は、特定オオムギのゲノムDNAを鋳型として、配列番号3で特定される塩基配列(図1Aにおいて下線を付して示す塩基配列部分に対応する“5´-CACGGTGCTTTTATTGTGGACATTACGAGC-3´”)を有するプライマーと、配列番号4で特定される塩基配列(図1Aにおいて下線を付して示す塩基配列部分の逆相補配列“5´-ATGACCTTGAACGGCCACAGTTTCGTGTCG-3´”)を有するプライマーとを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行うことによって増幅されるポリヌクレオチド断片を構成する塩基配列である。
【0020】
また、特定塩基配列1は、配列番号2で特定される塩基配列(以下、「特定塩基配列2」という。)の305番目から824番目までの520塩基からなる塩基配列部分において、578番目の塩基CがTに置換された塩基配列部分である。
【0021】
ここで、特定塩基配列2は、オオムギ品種Morexの第3染色体の塩基番号379025542から379031409に位置する5868塩基からなる塩基配列であり、「morex_conting_137831」という名称で知られている。
【0022】
図1Bには、特定塩基配列2の1番目から2640番目までの2640塩基からなる塩基配列部分を示す。図1Bにおいても、配列番号3で特定される塩基配列に相当する部分、及び配列番号4で特定される塩基配列に相当する部分には、それぞれ下線を付している。また、図1Bにおいて、特定塩基配列2の578番目の塩基Cを四角で囲んで示している。これに対し、図1Aにおいては、図1Bに示す578番目の塩基Cを置換した塩基Tを四角で囲んで示している。
【0023】
すなわち、特定オオムギのDNAは、特定塩基配列2の578番目の塩基CがTに置換された変異を含んでいる。したがって、特定オオムギのDNAは、DNAマーカーとして、特定塩基配列2における578番目の塩基CがTに置換された塩基配列(5868塩基)を含むこととしてもよい。
【0024】
オオムギのDNAが特定塩基配列1を含むかどうかの確認は、公知の方法を適宜採用して行うことができるが、例えば、当該オオムギから抽出されたゲノムDNAを鋳型として、配列番号3で特定される塩基配列を有するフォワードプライマー(例えば、配列番号3で特定される塩基配列に相当する塩基配列5´-CACGGTGCTTTTATTGTGGACATTACGAGC-3´から構成されるプライマー)と、配列番号4で特定される塩基配列を有するリバースプライマー(例えば、配列番号4で特定される塩基配列に相当する塩基配列5´-ATGACCTTGAACGGCCACAGTTTCGTGTCG-3´から構成されるプライマー)とを用いたPCRを行い、当該PCRにより増幅されたDNA断片をシークエンス解析する方法を用いることができる。
【0025】
特定オオムギは、例えば、特性(II)として、発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内の条件で発芽して得られる試験麦芽(オオムギが特性(II)を有するか否かを確認する試験において当該オオムギから調製される麦芽)が、次の特性(1)~(3):(1)0.70重量%以上の可溶性窒素含有量;(2)43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス;(3)440mg/L以下のβ-グルカン含有量;の少なくとも1つを有することとしてもよい。
【0026】
すなわち、特定オオムギは、発芽開始時の浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内、発芽温度が15℃、及び発芽時間が40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内という特定の条件(以下、「特定発芽条件」という。)でオオムギを発芽させる試験において、上記特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する試験麦芽になるオオムギである。
【0027】
ここで、オオムギから麦芽を製造する方法(製麦方法)は一般に、発芽していないオオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が所望の範囲内になったオオムギを得る浸麦工程と、当該所望の範囲内の浸麦度を有するオオムギを発芽させて麦芽を得る発芽工程とを含む。
【0028】
すなわち、まず浸麦工程において、その後の発芽に適した浸麦度を有するオオムギを調製する。なお、浸麦度は、オオムギの水分含有量であり、次の式で算出される:浸麦度(重量%)=(浸麦処理後の重量-浸麦処理前の重量+浸麦処理前の水分重量)÷浸麦処理後の重量×100。
【0029】
具体的に、例えば、オオムギを12℃以上、18℃以下の範囲内の温度の水中に5時間以上、8時間以下の時間浸漬し、その後、水を排出し、大気中で5時間以上、8時間以下の時間保持するという操作(水の張り/切り)を、目的の浸麦度が達成されるまで繰り返す。
【0030】
次いで、発芽工程においては、目的の浸麦度を有するオオムギを発芽に適した環境に置いて発芽させる。具体的に、例えば、浸麦工程で得られたオオムギを網の上に置き、14℃以上、18℃以下の範囲内の温度の湿った空気(好ましくは湿度100%の空気)を送りながら保持することにより、当該オオムギを発芽させる。
【0031】
発芽工程では、オオムギに含まれる貯蔵物質(主にタンパク質及び多糖類)が、当該オオムギに含まれる消化酵素(主にタンパク質分解酵素及び多糖類分解酵素)の作用によって分解され低分子化される「溶け」と呼ばれる変化が進行する。
【0032】
この点、特定オオムギは、上述のとおり、40.5時間以上、45.0時間以下の範囲内という短い発芽時間によっても、上記特性(1)~(3)で示されるように「溶け」が進行した麦芽を得ることができるという、従来のオオムギにはない特性を有する。
【0033】
なお、本実施形態において、試験麦芽を得るための試験における発芽時間は、浸麦処理後のオオムギを、発芽に適した温度で保持する時間である。すなわち、特定発芽条件の発芽時間は、浸麦処理によって浸麦度が43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内に到達したオオムギを発芽のために15℃で保持する時間である。なお、43.5重量%以上、44.5重量%以下の範囲内という浸麦度は、特定発芽条件による発芽開始時の水分含有率であり、その後の発芽過程における水分含有率は変動し得る。
【0034】
特定オオムギを上記特定発芽条件で発芽させて得られる試験麦芽は、例えば、上記特性(1)として、0.70重量%以上の可溶性窒素(Soluble Nitrogen:SN)含有量を有する。
【0035】
特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(1)としてのSN含有量は、0.75重量%以上であることが好ましく、0.80重量%以上であることがより好ましく、0.85重量%以上であることがより好ましく、0.90重量%以上であることがより好ましく、0.95重量%以上であることがより好ましく、1.00重量%以上であることがより好ましく、1.10重量%以上であることが特に好ましい。
【0036】
また、特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(1)としてのSN含有量は、2.00重量%以下であってもよく、1.80重量%以下であってもよく、1.60重量%以下であってもよい。特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(1)としてのSN含有量は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0037】
麦芽のSN含有量は、製麦中にタンパク質がアミノ酸に分解され、可溶化した量を窒素換算して表したものであり、文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「4.3 コングレス麦汁」の「4.3.5 可溶性全窒素(IM)」に記載の方法により測定される。
【0038】
特定オオムギの試験麦芽は、例えば、上記特性(2)として、43.0重量%以上のコールバッハ・インデックス(Kolbach Index:KI)を有する。特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(2)としてのKIは、43.5重量%以上であることが好ましく、44.0重量%以上であることがより好ましく、45.0重量%以上であることがより好ましく、46.0重量%以上であることがより好ましく、47.0重量%以上であることがより好ましく、48.0重量%以上であることがより好ましく、49.0重量%以上であることがより好ましく、50.0重量%以上であることがより好ましく、51.0重量%以上であることが特に好ましい。
【0039】
また、特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(2)としてのKIは、例えば、80重量%以下であってもよく、75重量%以下であってもよく、70重量%以下であってもよい。特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(2)としてのKIは、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0040】
麦芽のKIは、麦芽の全窒素含有量に対するSN含有量の割合であり、文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「4.3 コングレス麦汁」の「4.3.5 可溶性全窒素(IM)」に記載の方法により測定される。
【0041】
特定オオムギの試験麦芽は、例えば、上記特性(3)として、440mg/L以下のβ-グルカン含有量を有する。特定オオムギの試験麦芽が有する上記特性(3)としてのβ-グルカン含有量は、420mg/L以下であることが好ましく、400mg/L以下であることがより好ましく、380mg/L以下であることがより好ましく、360mg/L以下であることがより好ましく、340mg/L以下であることがより好ましく、320mg/L以下であることがより好ましく、300mg/L以下であることがより好ましく、280mg/L以下であることが特に好ましい。麦芽のβ-グルカン含有量は、文献「Analytica-EBC Section 8 Wort Method 8.13.2 (October 2004)、出版:EBC Analysis Committee」に記載の方法により測定される。
【0042】
特定オオムギの試験麦芽は、上記特性(1)~(3)の少なくとも1つを有する。すなわち、特定オオムギの試験麦芽は、例えば、上記特性(1)を有してもよい。この場合、特定オオムギの試験麦芽は、上記特性(2)及び/又は(3)をさらに有してもよいし、上記特性(2)及び/又は(3)を有しないこととしてもよい。
【0043】
同様に、特定オオムギの試験麦芽が上記特性(2)を有する場合、当該試験麦芽は、上記特性(1)及び/又は(3)をさらに有してもよいし、上記特性(1)及び/又は(3)を有しないこととしてもよい。同様に、特定オオムギの試験麦芽が上記特性(3)を有する場合、当該試験麦芽は、上記特性(1)及び/又は(2)をさらに有してもよいし、上記特性(1)及び/又は(2)を有しないこととしてもよい。また、特定オオムギの試験麦芽は、上記特性(1)~(3)の全てを有してもよい。
【0044】
特定オオムギの試験麦芽が上記特性(1)及び/又は(3)を有する場合、当該試験麦芽は、上記特性(2)に代えて、30.0重量%以上のKIを有することとしてもよい。この場合、特定オオムギの試験麦芽のKIは、例えば、32.0重量%以上であることが好ましく、34.0重量%以上であることがより好ましく、36.0重量%以上であることがより好ましく、38.0重量%以上であることがより好ましく、39.0重量%以上であることがより好ましく、40.0重量%以上であることがより好ましく、41.0重量%以上であることがより好ましく、42.0重量%以上であることが特に好ましい。
【0045】
特定オオムギの試験麦芽が上記特性(1)及び/又は(2)を有する場合、当該試験麦芽は、上記特性(3)に代えて、1000mg/L以下のβ-グルカン含有量を有することとしてもよい。この場合、特定オオムギの試験麦芽のβグルカン含有量は、例えば、900mg/L以下であることが好ましく、800mg/L以下であることがより好ましく、700mg/L以下であることがより好ましく、600mg/L以下であることがより好ましく、550mg/L以下であることがより好ましく、500mg/L以下であることがより好ましく、450mg/L以下であることが特に好ましい。
【0046】
特定オオムギは、二条大麦であってもよいし、六条大麦であってもよい。また、特定オオムギは、皮麦であってもよいし、裸麦であってもよい。特定オオムギは、上述した特性(I)及び/又は(II)を有するオオムギと、当該特性を有しない他のオオムギとを交配して得られたもののうち、当該特性を有するものを選抜することにより得られる交配後代系統であってもよい
【0047】
本方法の浸麦工程においては、上述した特定オオムギに浸麦処理を施す。ここで、本方法において特徴的なことの他の一つは、浸麦工程において、特定オオムギに浸麦処理を施して、浸麦度が比較的小さい特定オオムギを得る点にある。すなわち、本方法の浸麦工程においては、特定オオムギに浸麦処理を施して、例えば、浸麦度が32.0重量%以上、40.0重量%以下の特定オオムギを得る。
【0048】
特定オオムギに施す浸麦処理は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、一般的な方法を用いてもよい。具体的に、例えば、まず特定オオムギを水中で保持し、次いで当該特定オオムギを大気中で保持するという操作(水の張り/切り)を繰り返す方法が好ましく用いられる。より具体的に、浸麦処理は、例えば、特定オオムギに給水して当該特定オオムギを水中に浸漬し、その後、排水して当該特定オオムギを大気中で保持するという操作を、所望の浸麦度が達成されるまで繰り返すことにより実施する。
【0049】
浸麦処理で用いる水の温度は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、5℃以上であってもよく、6℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがより好ましく、8℃以上であることが特に好ましい。また、浸麦処理に用いる水の温度は、例えば、30℃以下であってもよく、29℃以下であることが好ましく、28℃以下であることがより好ましく、27℃以下であることが特に好ましい。浸麦処理に用いる水の温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0050】
浸麦工程において得られる特定オオムギの浸麦度は、例えば、32.5重量%以上であってもよく、33.0重量%以上であってもよく、33.5重量%以上であってもよく、34.0重量%以上であってもよく、34.5重量%以上であってもよく、35.0重量%以上であってもよく、35.5重量%以上であってもよく、36.0重量%以上であってもよく、36.5重量%以上であってもよく、37.0重量%以上であってもよく、37.5重量%以上であってもよく、38.0重量%以上であってもよく、38.5重量%以上であってもよい。
【0051】
また、浸麦工程において得られる特定オオムギの浸麦度は、例えば、39.5重量%以下であってもよく、39.0重量%以下であってもよく、38.5重量%以下であってもよく、38.0重量%以下であってもよく、37.5重量%以下であってもよく、37.0重量%以下であってもよく、36.5重量%以下であってもよく、36.0重量%以下であってもよく、35.5重量%以下であってもよく、35.0重量%以下であってもよく、34.5重量%以下であってもよい。浸麦工程において得られる特定オオムギの浸麦度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0052】
本方法の発芽工程においては、浸麦工程で得られた特定オオムギ(上述した範囲内の浸麦度を有する特定オオムギ)を発芽させて、麦芽を得る。ここで、本方法において特徴的なことのさらに他の一つは、発芽工程において、上記特定範囲内の小さい浸麦度を有する特定オオムギを発芽させる点にある。
【0053】
すなわち、本方法の発芽工程においては、例えば、32.0重量%以上、40.0重量%以下の浸麦度を有する特定オオムギを発芽させて、麦芽を得る。また、発芽工程において発芽させる特定オオムギの浸麦度(すなわち、発芽工程に供される、浸麦処理後の特定オオムギの浸麦度)は、浸麦工程において得られる特定オオムギの浸麦度として上述した下限値のいずれか、及び/又は、上述した上限値のいずれかにより特定されてもよい。
【0054】
特定オオムギを発芽させる方法は、本発明の効果が得られれば特に限られず、例えば、一般的な方法を用いてもよい。具体的に、発芽工程においては、例えば、浸麦処理後の特定オオムギを、発芽に適した環境に置くことにより、その発芽を進行させ、最終的に麦芽を得る。
【0055】
発芽工程において発芽を進行させるために特定オオムギを保持する雰囲気(大気)の温度(発芽温度)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、5℃以上であってもよく、6℃以上であることが好ましく、7℃以上であることがより好ましく、8℃以上であることが特に好ましい。また、発芽温度は、例えば、30℃以下であってもよく、29℃以下であることが好ましく、28℃以下であることがより好ましく、27℃以下であることが特に好ましい。発芽温度は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0056】
発芽工程において発芽を進行させるために特定オオムギを保持する時間(発芽時間)は、本発明の効果が得られれば特に限られないが、例えば、40時間以上であってもよく、60時間以上であってもよく、80時間以上であってもよく、90時間以上であってもよく、100時間以上であってもよく、110時間以上であってもよく、120時間以上であってもよく、130時間以上であってもよく、140時間以上であってもよい。
【0057】
また、発芽時間は、例えば、240時間以下であってもよく、210時間以下であってもよく、170時間以下であってもよく、160時間以下であってもよく、150時間以下であってもよく、140時間以下であってもよく、130時間以下であってもよく、120時間以下であってもよく、110時間以下であってもよく、100時間以下であってもよい。発芽時間は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0058】
なお、本実施形態において発芽時間とは、浸麦工程の終了後、浸麦処理後の特定オオムギを発芽に適した環境に置いて発芽の進行を開始した時点から、得られた麦芽を当該環境から回収し始める時点までに要する時間である。
【0059】
本方法の発芽工程においては、β-グルカン含有量が小さい麦芽を得ることができる。すなわち、発芽工程において、例えば、β-グルカン含有量が550mg/L以下の麦芽を得る。
【0060】
発芽工程で得られる麦芽のβ-グルカン含有量は、例えば、530mg/L以下であることが好ましく、500mg/L以下であることがより好ましく、450mg/L以下であることがさらに好ましく、400mg/L以下であることがさらに好ましく、350mg/L以下であることがさらに好ましく、300mg/L以下であることがさらに好ましく、250mg/L以下であることがさらに好ましく、200mg/L以下であることがさらに好ましく、180mg/L以下であることがさらに好ましく、170mg/L以下であることがさらに好ましく、160mg/L以下であることがさらに好ましく、150mg/L以下であることがさらに好ましく、140mg/L以下であることがさらに好ましく、130mg/L以下であることがさらに好ましく、120mg/L以下であることがさらに好ましく、110mg/L以下であることがさらに好ましく、100mg/L以下であることがさらに好ましく、90mg/L以下であることがさらに好ましく、80mg/L以下であることがさらに好ましく、70mg/L以下であることがさらに好ましく、60mg/L以下であることがさらに好ましく、50mg/L以下であることがさらに好ましい。
【0061】
また、発芽工程で得られる麦芽のβ-グルカン含有量は、例えば、1mg/L以上であってもよく、3mg/L以上であってもよく、5mg/L以上であってもよく、6mg/L以上であってもよく、7mg/L以上であってもよく、8mg/L以上であってもよく、9mg/L以上であってもよく、10mg/L以上であってもよい。発芽工程で得られる麦芽のβ-グルカン含有量は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0062】
また、本方法の発芽工程においては、高い収率で麦芽を得ることができる。すなわち、発芽工程においては、例えば、収率93.5%以上で麦芽を得る。
【0063】
発芽工程における麦芽収率は、例えば、94.0%以上であることが好ましく、94.5%以上であることがより好ましく、95.0%以上であることがさらに好ましく、95.5%以上であることがさらに好ましく、96.0%以上であることがさらに好ましく、96.5%以上であることがさらに好ましく、97.0%以上であることがさらに好ましく、97.5%以上であることが特に好ましい。
【0064】
また、発芽工程における麦芽収率は、例えば、100.0%未満であってもよく、99.5%以下であってもよく、99.0%以下であってもよい。発芽工程における麦芽収率は、上述した下限値のいずれかと、上述した上限値のいずれかとを任意に組み合わせて特定されてもよい。
【0065】
なお、麦芽収率は、オオムギの浸麦工程前の重量(浸麦工程に供したオオムギの、当該浸麦工程に供する前の重量)に対する、当該オオムギから得られた麦芽の重量の割合(%)として算出される。なお、オオムギと麦芽とでは水分含量が異なるため、オオムギ及び麦芽ともに無水換算した重量を用いて麦芽収率を算出する。
【0066】
また、本方法の発芽工程においては、β-グルカン含有量が小さい麦芽を、高い収率で得ることが好ましい。すなわち、発芽工程においては、β-グルカン含有量が上述した特定範囲内である麦芽を、上述した特定範囲内の収率で得ることが好ましい。この場合、得られる麦芽のβ-グルカン含有量と収率との組み合わせは、当該β-グルカン含有量の上述した範囲のいずれかと、当該収率の上述した範囲のいずれかとを任意に組み合わせてもよい。
【0067】
本方法によれば、上述のとおり、小さい浸麦度を有する特定オオムギを発芽させることにより、当該特定オオムギに代えて他のオオムギを用いたこと以外は同一の条件で麦芽を得る場合に比べて、麦芽の製造効率を効果的に向上させることができる。また、本方法によれば、麦芽の製造に要する時間及びコストを効果的に低減することもできる。
【0068】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例0069】
[オオムギの準備]
オオムギとして二条皮ムギである9種を準備した。まず市販のオオムギである「Planet」、「Copeland」及び「Xena」を入手した。また、サッポロビール株式会社から入手可能なオオムギ「A」を準備した。
【0070】
一方、5種のオオムギ(以下、それぞれオオムギ「B」、オオムギ「C」、オオムギ「D」、オオムギ「E」及びオオムギ「F」という。)を作出した。具体的に、まずオオムギ「B」を次のようにして作出した。
【0071】
すなわち、公知の二条ビールオオムギ「交A」と、縞萎縮病抵抗性遺伝子(rym1及びrmy5)を有する公知の六条オオムギ「木港石3」との交配後代系統から、rym1のみを有する系統を選抜し、公知の二条ビールオオムギ「はるな二条」を5回戻し交配することにより、遺伝的背景は「はるな二条」でありながら、縞萎縮病抵抗性遺伝子(rym1)を有する二条オオムギ「新田系68(N68)」を育成した。
【0072】
次いで、このオオムギ「N68」に突然変異を誘発する処理を施した。変異の誘発には、公知文献(例えば、文献1:Molina-Cano et al. (1989) Theor. Appl. Genet. 78:748-754、文献2:Olsen et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci, USA 90:8043-8047)に記載されている一般的な方法を用いた。
【0073】
具体的に、オオムギ「N68」の種子を、アジ化ナトリウム液(リン酸バッファー、pH3.0)に浸漬し、スターラーで攪拌しながら3時間、変異原処理を行った。次いで、水洗を6回繰り返した後、よく水を切り、ドラフト内で送風しながら乾燥させた。その後、自殖により世代を進め、複数の変異系統を作出した。さらに、複数の変異系統のうちから、親系統「N68」と比較して種子中のβ-グルカン含有量が小さいオオムギ「B」を選抜した。
【0074】
オオムギ「N68」及びオオムギ「B」について、麦芽の分析を行った。製麦は、浸麦度が43.5重量%となるように浸漬処理を行い、発芽時間は120時間~144時間とした。麦芽分析の結果、β-グルカン含有量は、いずれの浸麦度でもオオムギ「B」が低い傾向にあった。またエキス、SN含有量及び色度は、他系統と比較してオオムギ「B」が明らかに高い傾向がみられた。
【0075】
その後、オオムギ「B」を用いて、オオムギ「C」、オオムギ「D」、オオムギ「E」及びオオムギ「F」を次のようにして作出した。オオムギ「A」又は「Xena」の頴花を除雄し、オオムギ「B」の花粉を交配した。得られたF1種子より、SSD(Single Seed Descent)法により世代を進め、固定系統を作出した。固定系統の種子を上述のようにして製麦し、麦芽分析することにより、オオムギ「B」と同様の特性を有すると考えられる系統として、オオムギ「C」、オオムギ「D」、オオムギ「E」及びオオムギ「F」を選抜した。
【0076】
[DNAマーカーの確認]
9種のオオムギについて、これらのSN含有量と関連性のあるDNAマーカーの解析を行った。その結果、図2に示すように、t検定により、特定塩基配列1を含むDNAを有する5種のオオムギ(図2において黒塗りで示す「+」型:オオムギ「E」及びオオムギ「F」を含む)のSN含有量は、当該特定塩基配列1を含まない4種のオオムギ(図2において白抜きで示す「-」型)のそれに比べて統計的に有意に高いことが確認された。すなわち、特定塩基配列1のDNAマーカーとしての有用性が確認された。
【0077】
[試験麦芽の製造]
上述のようにして準備した9種のオオムギのそれぞれについて、市販のマイクロ製麦装置(フェニックス社(豪州)製)を用いて、試験麦芽を製造した。すなわち、まずオオムギに浸麦処理を施した。具体的に、オオムギを15℃の水中に5~7時間浸漬し、その後、当該オオムギを15℃の大気中で5~7時間保持するという操作を複数回繰り返すことにより、浸麦度が43.5重量%~44.3重量%のオオムギを得た。
【0078】
次いで、浸麦処理後のオオムギに発芽処理を施した。具体的に、発芽室の温度を15℃に設定し、オオムギを40.9時間~44.6時間発芽させた。焙燥開始の1時間前までは加湿し、焙燥直前の1時間は加湿なしとした。その後、得られた試験麦芽に焙燥処理を施した。具体的に、試験麦芽を55℃で13.5時間、65℃で8時間、75℃で3.5時間、及び83.5℃で4時間、温度を段階的に上げながら加熱することにより、焙燥を行った。こうして9種の試験麦芽を製造した。そして、各試験麦芽について、SN含有量、KI、及びβ-グルカン含有量を測定した。
【0079】
[結果]
図3には、9種のオオムギについて、その試験麦芽のSN含有量(重量%)、KI(重量%)及びβ-グルカン含有量(mg/L)を測定した結果を示す。なお、図3の「DNAマーカー」欄には、オオムギのDNAが特定塩基配列1(配列番号1で特定される塩基配列)を含む場合(例1-5~例1-9)には「+」、含まない場合(例1-1~例1-4)には「-」を示す。
【0080】
図3に示すように、例1-5~例1-9の5種、オオムギ「B」、オオムギ「C」、オオムギ「D」、オオムギ「E」及びオオムギ「F」の試験麦芽のSN含有量は0.76~1.17重量%であり、例1-1~例1-4の4品種「Planet」、「Copeland」、「Xena」及びオオムギ「A」の試験麦芽のそれ(0.53~0.68重量%)に比べて顕著に大きかった。
【0081】
すなわち、例1-5~例1-9に示す5種のオオムギは、40.9時間~44.6時間という極めて短時間の発芽処理を施すだけで、大きなSN含有量を有する試験麦芽が得られるという従来にない特性を有することが確認された。
【0082】
また、例1-5~例1-9の5種、オオムギ「B」、オオムギ「C」、オオムギ「D」、オオムギ「E」及びオオムギ「F」の麦芽のKIは、39.9~53.8重量%であった。特に、例1-5,1-6,1-9の3種、種、オオムギ「B」、オオムギ「C」及びオオムギ「F」のKIは、43.5~53.8重量%であり、例1-1~例1-4の4種のそれに比べて顕著に大きかった。
【0083】
また、例1-5~例1-9の5種、オオムギ「B」、オオムギ「C」、オオムギ「D」、オオムギ「E」及びオオムギ「F」の麦芽のβ-グルカン含有量は、251~567mg/Lであった。特に、例1-5,1-6の2種、オオムギ「B」及びオオムギ「C」のβ-グルカン含有量は、251~274mg/Lであり、例1-1~例1-4の4品種のそれに比べて顕著に小さかった。
【実施例0084】
[麦芽の製造]
オオムギとして、上述の実施例1で使用したオオムギ「B」及び「Copeland」、さらに、サッポロビール株式会社から入手可能なオオムギ「札育2号」及び「彩の星」の4種を用いて、麦芽を製造した。
【0085】
すなわち、まずオオムギに浸麦処理を施した。具体的に、オオムギを15℃に設定した水中に5~7時間浸漬し、その後、当該オオムギを15℃に設定した大気中で5~7時間保持するという操作(水の張り/切り)を複数回繰り返すことにより、浸麦度が30.0重量%~41.5重量%のオオムギを得た。
【0086】
次いで、浸麦処理で得られた浸麦度が30.0重量%~41.5重量%のオオムギを発芽させた。具体的に、発芽室の温度を15℃に設定し、オオムギを4日~6日発芽させた。その後、得られた麦芽に焙燥処理を施した。こうして製造された各麦芽について、麦芽収率、β-グルカン含有量、及び粘度を評価した。なお、粘度はコングレス麦汁の粘度を粘度計を用いて測定することにより測定した。コングレス麦汁は、文献「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「4.3 コングレス麦汁」の「4.3.1 コングレス麦汁の調製」に記載の方法により調製される。
【0087】
[結果]
図4には、各例について、発芽させたオオムギの「品種」、浸麦処理後の「浸麦度(重量%)」、「発芽日数(日)」、麦芽の「β-グルカン含有量(mg/L)」、「粘度(mPa・s)」、及び「麦芽収率(%)」を示す。
【0088】
図4に示すように、浸麦度が30.0重量%のオオムギを発芽させた場合(例2-C1、2-C6)には、β-グルカン含有量が顕著に大きい麦芽しか得られず(1192mg/L以上)、浸麦度が41.5重量%のオオムギを発芽させた場合(例2-C2、2-C3、2-C9)には、麦芽収率が低かった(92.8%以下)。
【0089】
また、浸麦度が34.0重量%~39.0重量%のオオムギを発芽させた場合であっても、品種「B」以外のオオムギを発芽させた場合(例2-C4、2-C5、2-C7、2-C8)には、β-グルカン含有量が大きい(580mg/L以上)麦芽しか得られなかった。
【0090】
これらに対し、浸麦度が34.0重量%~39.0重量%である品種「B」のオオムギを発芽させた場合(例2-1~2-4)には、β-グルカン含有量が小さい(524mg/L以下)麦芽が高い収率(94.5%以上)で得られた。
図1A
図1B
図2
図3
図4
【配列表】
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