(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084318
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】超伝導電磁石装置、粒子線治療システム及び超伝導電磁石装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01F 6/02 20060101AFI20240618BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20240618BHJP
H01F 6/04 20060101ALI20240618BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20240618BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240618BHJP
H05H 7/04 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01F6/02
A61N5/10 D
A61N5/10 H
H01F6/04
H01F6/00 180
H01F6/06 110
H05H7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198520
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】竹下 英里
(72)【発明者】
【氏名】金井 芳治
(72)【発明者】
【氏名】和智 良裕
【テーマコード(参考)】
2G085
4C082
【Fターム(参考)】
2G085AA03
2G085AA11
2G085AA13
2G085BA14
2G085BA16
2G085BA17
2G085BC18
2G085CA14
2G085CA20
2G085CA22
2G085CA27
2G085EA07
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG12
(57)【要約】
【課題】超伝導コイルのクエンチが他の構成部品に及ぼす影響を低減すること
【解決手段】超伝導電磁石装置は、第1の超伝導コイルと、第2の超伝導コイルと、第1の超伝導コイルに電流を供給し、第2の超伝導コイルには電流を供給しない第1の電源と、第1の超伝導コイルには電流を供給せず、第2の超伝導コイルに電流を供給する第2の電源と、第1の超伝導コイルのクエンチを検出する第1の検出器と、第1の検出器により第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、第2の電源が第2の超伝導コイルに供給する電流を調整する第1の調整処理を実行する制御部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超伝導コイルと、
第2の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイルに電流を供給し、前記第2の超伝導コイルには電流を供給しない第1の電源と、
前記第1の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第2の超伝導コイルに電流を供給する第2の電源と、
前記第1の超伝導コイルのクエンチを検出する第1の検出器と、
前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を調整する第1の調整処理を実行する制御部と、
を備える、
超伝導電磁石装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の調整処理において前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を、前記第1の調整処理の実行前の電流よりも下げる、
超伝導電磁石装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の調整処理において前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を0[A]にする、
超伝導電磁石装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の電源から前記第1の超伝導コイルへと供給される電流を遮断する第1の遮断器をさらに備え、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第1の遮断器によって前記第1の超伝導コイルに供給される電流を遮断する、
超伝導電磁石装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第2の超伝導コイルのクエンチを検出する第2の検出器と、
前記第2の電源から前記第2の超伝導コイルへと供給される電流を遮断する第2の遮断器をさらに備え、
前記制御部は、前記第1の調整処理の実行中に前記第2の検出器により前記第2の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第2の遮断器によって前記第2の超伝導コイルに供給される電流を遮断する、
超伝導電磁石装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出され、かつ、前記第2の超伝導コイルの温度が前記第2の超伝導コイルの超伝導転移温度よりも低い第1の閾値以上になったことに応じて、前記第1の調整処理を実行する、
超伝導電磁石装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出され、かつ、前記第2の超伝導コイルの温度勾配が所定値以上であることに応じて、前記第1の調整処理を実行する、
超伝導電磁石装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、クエンチした前記第1の超伝導コイルの温度が第2の閾値以下となった場合に、前記第1の調整処理を終了する、
超伝導電磁石装置。
【請求項9】
請求項1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の超伝導コイルと、前記第2の超伝導コイルと、を収容するクライオスタットをさらに備える、
超伝導電磁石装置。
【請求項10】
請求項9に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記クライオスタット内において、前記第1の超伝導コイルと、前記第2の超伝導コイルとを熱的に接続する伝熱機構をさらに備える、
超伝導電磁石装置。
【請求項11】
請求項9に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記クライオスタットに収容される第3の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第3の超伝導コイルに電流を供給する第3の電源と、
をさらに備え、
前記クライオスタット内において、前記第2の超伝導コイル、前記第1の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルがこの順に並んで設けられ、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第3の電源が前記第3の超伝導コイルに供給する電流を調整する第2の調整処理も実行する、
超伝導電磁石装置。
【請求項12】
請求項9に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記クライオスタットに収容される第3の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第3の超伝導コイルに電流を供給する第3の電源と、
をさらに備え、
前記クライオスタット内において、前記第1の超伝導コイル、前記第2の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルがこの順に並んで設けられ、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第3の電源が前記第3の超伝導コイルに供給する電流を調整する第2の調整処理も実行する、
超伝導電磁石装置。
【請求項13】
請求項9に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルが収容される前記クライオスタットとは異なるクライオスタットに収容された第3の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第3の超伝導コイルに電流を供給する第3の電源と、
をさらに備え、
前記第2の超伝導コイル、前記第1の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルは、この順に並んで設けられ、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第3の電源が前記第3の超伝導コイルに供給する電流を調整する第2の調整処理も実行する、
超伝導電磁石装置。
【請求項14】
請求項11又は13のいずれか一項に記載の超伝導磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の電源及び前記第2の電源が前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルにそれぞれ電流を供給する第1の制御パターンと、前記第1の電源及び前記第3の電源が前記第1の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルにそれぞれ電流を供給する第2の制御パターンを実行可能であり、
前記制御部は、前記第1の制御パターンの実行中に前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第1の調整処理を実行し、
前記制御部は、前記第2の制御パターンの実行中に前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第2の調整処理を実行する、
超伝導電磁石装置。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の超伝導コイルと前記第2の超伝導コイルとが隣接する、
超伝導電磁石装置。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか一項に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の検出器は、前記第1の超伝導コイルの電圧を検出することによって、前記第1の超伝導コイルのクエンチを検出する、
超伝導電磁石装置。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか一項に記載の超伝導電磁石装置と、
荷電粒子ビームを生成して出射する加速器と、
前記加速器から出射された荷電粒子ビームを前記超伝導電磁石装置へと輸送するビーム輸送系と、
を備える、
粒子線治療システム。
【請求項18】
請求項17に記載の粒子線治療システムであって、
前記加速器は、前記制御部により電流調整が行われている間は荷電粒子ビームを出射しない、
粒子線治療システム。
【請求項19】
第1の超伝導コイルと、
第2の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイルに電流を供給し、前記第2の超伝導コイルには電流を供給しない第1の電源と、
前記第1の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第2の超伝導コイルに電流を供給する第2の電源と、を備えた超伝導磁石装置の制御方法であって、
前記第1の超伝導コイルのクエンチを検出することと、
前記検出することにより前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を調整することと、
を含む、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導電磁石装置、粒子線治療システム及び超伝導電磁石装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギーに加速された荷電粒子ビームを癌などの悪性腫瘍に照射し、悪性腫瘍を治療する粒子線治療が行われている。粒子線治療に用いられる装置では、荷電粒子ビームを治療室内のアイソセンターに対して任意の角度から出射するために、強磁場を発生可能な電磁石を用いて荷電粒子ビームを偏向させることがある。そして、この電磁石に超伝導コイルを用いるものが提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-159267号公報
【特許文献2】特開2017-162896号公報
【特許文献3】特開2021-93440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超伝導コイルでは、その超伝導状態が消失して常伝導状態となるクエンチが発生することがある。クエンチすると、その超伝導コイルの磁束密度が変化し、渦電流が発生することで、他の超伝導コイルに発熱が生じたり、コイルに電流を供給する電源に誘導起電力が生じ、過電圧となったりすることがある。このように、超伝導コイルのクエンチは、他の超伝導コイルや周辺機器に影響を及ぼすことがある。その結果、装置の復旧に時間を要してしまう可能性がある。
【0005】
本発明の実施形態は、超伝導コイルのクエンチが他の構成部品に及ぼす影響を低減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明には以下の態様が含まれる。
[態様1]
第1の超伝導コイルと、
第2の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイルに電流を供給し、前記第2の超伝導コイルには電流を供給しない第1の電源と、
前記第1の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第2の超伝導コイルに電流を供給する第2の電源と、
前記第1の超伝導コイルのクエンチを検出する第1の検出器と、
前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を調整する第1の調整処理を実行する制御部と、
を備える、
超伝導電磁石装置。
[態様2]
態様1に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の調整処理において前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を、前記第1の調整処理の実行前の電流よりも下げる、
超伝導電磁石装置。
[態様3]
態様1~2のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の調整処理において前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を0[A]にする、
超伝導電磁石装置。
[態様4]
態様1~3のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の電源から前記第1の超伝導コイルへと供給される電流を遮断する第1の遮断器をさらに備え、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第1の遮断器によって前記第1の超伝導コイルに供給される電流を遮断する、
超伝導電磁石装置。
[態様5]
態様1~4のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第2の超伝導コイルのクエンチを検出する第2の検出器と、
前記第2の電源から前記第2の超伝導コイルへと供給される電流を遮断する第2の遮断器をさらに備え、
前記制御部は、前記第1の調整処理の実行中に前記第2の検出器により前記第2の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第2の遮断器によって前記第2の超伝導コイルに供給される電流を遮断する、
超伝導電磁石装置。
[態様6]
態様5に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出され、かつ、前記第2の超伝導コイルの温度が前記第2の超伝導コイルの超伝導転移温度よりも低い第1の閾値以上になったことに応じて、前記第1の調整処理を実行する、
超伝導電磁石装置。
[態様7]
態様5~6のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出され、かつ、前記第2の超伝導コイルの温度勾配が所定値以上であることに応じて、前記第1の調整処理を実行する、
超伝導電磁石装置。
[態様8]
態様1~7のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記制御部は、クエンチした前記第1の超伝導コイルの温度が第2の閾値以下となった場合に、前記第1の調整処理を終了する、
超伝導電磁石装置。
[態様9]
態様1~8のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の超伝導コイルと、前記第2の超伝導コイルと、を収容するクライオスタットをさらに備える、
超伝導電磁石装置。
[態様10]
態様9に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記クライオスタット内において、前記第1の超伝導コイルと、前記第2の超伝導コイルとを熱的に接続する伝熱機構をさらに備える、
超伝導電磁石装置。
[態様11]
態様9~10のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記クライオスタットに収容される第3の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第3の超伝導コイルに電流を供給する第3の電源と、
をさらに備え、
前記クライオスタット内において、前記第2の超伝導コイル、前記第1の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルがこの順に並んで設けられ、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第3の電源が前記第3の超伝導コイルに供給する電流を調整する第2の調整処理も実行する、
超伝導電磁石装置。
[態様12]
態様9~10のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記クライオスタットに収容される第3の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第3の超伝導コイルに電流を供給する第3の電源と、
をさらに備え、
前記クライオスタット内において、前記第1の超伝導コイル、前記第2の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルがこの順に並んで設けられ、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第3の電源が前記第3の超伝導コイルに供給する電流を調整する第2の調整処理も実行する、
超伝導電磁石装置。
[態様13]
態様9~10のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルが収容される前記クライオスタットとは異なるクライオスタットに収容された第3の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第3の超伝導コイルに電流を供給する第3の電源と、
をさらに備え、
前記第2の超伝導コイル、前記第1の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルは、この順に並んで設けられ、
前記制御部は、前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第3の電源が前記第3の超伝導コイルに供給する電流を調整する第2の調整処理も実行する、
超伝導電磁石装置。
[態様14]
態様11又は13のいずれか一態様に記載の超伝導磁石装置であって、
前記制御部は、前記第1の電源及び前記第2の電源が前記第1の超伝導コイル及び前記第2の超伝導コイルにそれぞれ電流を供給する第1の制御パターンと、前記第1の電源及び前記第3の電源が前記第1の超伝導コイル及び前記第3の超伝導コイルにそれぞれ電流を供給する第2の制御パターンを実行可能であり、
前記制御部は、前記第1の制御パターンの実行中に前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第1の調整処理を実行し、
前記制御部は、前記第2の制御パターンの実行中に前記第1の検出器により前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出された場合、前記第2の調整処理を実行する、
超伝導電磁石装置。
[態様15]
態様1~14のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の超伝導コイルと前記第2の超伝導コイルとが隣接する、
超伝導電磁石装置。
[態様16]
態様1~15のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置であって、
前記第1の検出器は、前記第1の超伝導コイルの電圧を検出することによって、前記第1の超伝導コイルのクエンチを検出する、
超伝導電磁石装置。
[態様17]
態様1~16のいずれか一態様に記載の超伝導電磁石装置と、
荷電粒子ビームを生成して出射する加速器と、
前記加速器から出射された荷電粒子ビームを前記超伝導電磁石装置へと輸送するビーム輸送系と、
を備える、
粒子線治療システム。
[態様18]
態様17に記載の粒子線治療システムであって、
前記加速器は、前記制御部により電流調整が行われている間は荷電粒子ビームを出射しない、
粒子線治療システム。
[態様19]
第1の超伝導コイルと、
第2の超伝導コイルと、
前記第1の超伝導コイルに電流を供給し、前記第2の超伝導コイルには電流を供給しない第1の電源と、
前記第1の超伝導コイルには電流を供給せず、前記第2の超伝導コイルに電流を供給する第2の電源と、を備えた超伝導磁石装置の制御方法であって、
前記第1の超伝導コイルのクエンチを検出することと、
前記検出することにより前記第1の超伝導コイルのクエンチが検出されたことに応じて、前記第2の電源が前記第2の超伝導コイルに供給する電流を調整することと、
を含む、
制御方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、超伝導コイルのクエンチが他の構成部品に及ぼす影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】超伝導コイルにクエンチが発生した際の超伝導コイルの電流及び温度の時間変化を示す図
【
図6】超伝導コイルにクエンチが発生した際の超伝導コイルの温度の時間変化を示す図
【
図9】一実施形態に係る粒子線治療システムの機器構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
<超伝導電磁石装置の構成>
図1は、一実施形態に係る超伝導電磁石装置100の概略図である。例えば、超伝導電磁石装置100は、粒子線治療において、荷電粒子ビームを治療室内のアイソセンターに対して任意の角度から出射するために、強磁場を発生可能な装置である。超伝導電磁石装置100は、回路110A、110Bと、クライオスタット120A、120Bと、制御部130とを含む。
【0010】
回路110Aは、電源111Aと、超伝導コイル112Aと、保護抵抗113Aと、遮断器114Aとを含む。電源111Aは、超伝導コイル112Aに電流を供給する。超伝導コイル112Aは、電源111Aから供給された電流に応じて磁場を発生させる。超伝導電磁石装置100は、この磁場により荷電粒子ビームを偏向させる。図示しないが、超伝導コイル112Aの内部には、コアが組み込まれてもよい。保護抵抗113Aは、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した場合に超伝導コイル112Aに流れる電流を減衰させる。保護抵抗113Aは、電源111Aに対して超伝導コイル112Aと並列に接続されている。遮断器114Aは、電源111Aから超伝導コイル112Aへと流れる電流を遮断する。遮断器114Aは、電源111Aに対して超伝導コイル112Aと直列に接続されている。
【0011】
クライオスタット120Aは、超伝導コイル112Aを極低温に維持する断熱冷却器であり、超伝導コイル112Aを収容している。クライオスタット120Aにより超伝導コイル112Aが極低温状態に保たれることによって、超伝導コイル112Aは超伝導状態を維持することができる。クライオスタット120A には、例えばヘリウム気体、液体ヘリウム、又は液体窒素などの冷媒が用いれられる。
【0012】
制御部130は、超伝導電磁石装置100の作動を制御する。制御部130は、制御統括部131と、電源制御部132A、132Bとを含む。制御統括部131は、超伝導電磁石装置100全体を統括的に制御する。電源制御部132Aは、回路110Aにおいて電源111A及び遮断器114Aを制御して、超伝導コイル112Aへと流れる電流を調整する。
【0013】
制御統括部131及び電源制御部132A、132Bはそれぞれ、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサ及びメモリを備えた制御回路であってもよい。これらの機能は、メモリに読み出し可能に記憶されたプログラム(ソフトウェア)によって、プロセッサが動作することにより実現されてもよい。プログラムは、例えば超伝導電磁石装置100の内部の記憶装置に記憶されてもよい。
【0014】
なお、制御統括部131及び電源制御部132A、132Bはそれぞれ、プロセッサ及びメモリに代えて、或いはこれらに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)に代表される集積回路等のハードウェアを含んで構成されてもよい。
【0015】
また、ここでは、制御統括部131及び電源制御部132A、132Bがそれぞれ別個の制御回路である態様を例示している。しかし、制御部130が単一の前述したような制御回路で構成され、制御統括部131及び電源制御部132A、132Bの各機能を実現してもよい。
【0016】
検出器140Aは、超伝導コイル112Aにクエンチが発生したことを検出する。本実施形態では、検出器140Aは、超伝導コイル112Aの電圧を検出する。検出器140Aの検出結果は電源制御部132Aに出力される。電源制御部132Aは、検出器140Aが検出した超伝導コイル112Aの電圧が所定値以上の場合に、超伝導コイル112Aにクエンチが発生したと判断してもよい。なお、検出器140Aによる超伝導コイル112Aのクエンチの検出方法としては、公知の技術を適宜用いることができる。例えば、検出器140Aは、超伝導コイル112Aの温度を検出してもよい。この場合、電源制御部132Aは、検出器140Aが検出した超伝導コイル112Aの温度が超伝導転移温度以上の場合に、超伝導コイル112Aにクエンチが発生したと判断してもよい。
【0017】
回路110B、電源111B、超伝導コイル112B、保護抵抗113B、遮断器114B、クライオスタット120B、電源制御部132B及び検出器140Bは、回路110A、電源111A、超伝導コイル112A、保護抵抗113A、遮断器114A、クライオスタット120A、電源制御部132A及び検出器140Aとそれぞれ同様であるため説明を省略する。
【0018】
本実施形態では、超伝導電磁石装置100は二つの回路110A、110Bを有している。そして、回路110Aに含まれる電源111Aは、同じく回路110Aに含まれる超伝導コイル112Aに電流を供給するが、回路110Bに含まれる超伝導コイル112Bには電流を供給しない。一方、回路110Bに含まれる電源111Bは、同じく回路110Bに含まれる超伝導コイル112Bに電流を供給するが、回路110Aに含まれる超伝導コイル112Aには電流を供給しない。つまり、超伝導コイル112Aと超伝導コイル112Bとは、電源111A又は電源111Bに対して、直列にも並列にも接続しない関係にある。いわば、超伝導コイル112Aと超伝導コイル112Bとは電気回路的に独立した関係にあるといえる。また、本実施形態では、超伝導コイル112Bは、超伝導コイル112Aに隣接している。
【0019】
<クエンチ発生時の作動>
次に、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際の回路110A側の作動について説明する。電源制御部132Aは、超伝導コイル112Aにクエンチが発生したと判断すると、遮断器114Aを作動させて電源111Aから超伝導コイル112Aへの電流の供給を遮断する。すると、回路110Aは超伝導コイル112Aと保護抵抗113Aの閉回路となる。これにより、超伝導コイル112Aを流れる電流が減衰する。その後、時間の経過に伴い超伝導コイル112Aの温度が低下して超伝導転移温度である温度T1(
図3参照)を下回ると、超伝導コイル112Aが超伝導状態に復帰可能となる。
【0020】
さて、本実施形態のように複数の超伝導コイル112A、112Bが設けられている場合、一方の超伝導コイルの状態の変化が他方の超伝導コイルに影響を及ぼすことがある。例えば、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した場合、超伝導コイル112Aの電流の変化により超伝導コイル112Aの磁束密度が変化し、超伝導コイル112Bのクエンチを引き起こす場合がある。また、超伝導コイル112Aの磁束密度の変化により、超伝導コイル112Bに電磁誘導による誘導起電力が発生することがある。そして、この誘導起電力により超伝導コイル112Bが過電圧となり、超伝導コイル112Bに接続する電源111Bが故障してしまう恐れがある。このように、超伝導コイルのクエンチは、装置の他の構成部品に影響を及ぼすことがある。結果として、超伝導コイルがクエンチした際に、装置が再度所定の動作(例えば粒子線治療において荷電粒子ビームを任意の角度から出射する動作)を行えるようになるまでの復旧に時間を要してしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、以下の制御を行うことによって、超伝導コイルのクエンチが他の構成部品に及ぼす影響を低減する。
【0021】
図2は、制御部130の処理例を示すフローチャートである。例えば、本フローチャートは、超伝導電磁石装置100が粒子線治療において荷電粒子ビームを任意の角度から出射するために強磁場を発生させる動作等の所定の動作が行われている間に実行される。
【0022】
S101において、制御部130は、遮断器114A、114Bを閉じ、電源111A、111Bから超伝導コイル112A、112Bに電流を供給可能な状態にする。具体的には、制御統括部131は、電源制御部132Aに対して遮断器114Aを閉じるように指示し、電源制御部132Bに対して遮断器114Bを閉じるように指示する。指示を受け付けた電源制御部132A、132Bは、それぞれ遮断器114A、114Bを閉じる。なお、既に遮断器114A、114Bが閉じられているときは、制御部130はその状態を維持する。
【0023】
S102において、制御部130は、超伝導コイル112A、112Bに設定電流を供給する。具体的には、制御統括部131から指示を受けた電源制御部132A、132Bはそれぞれ、超伝導コイル112A、112Bに設定電流が供給されるように、電源111A、111Bを制御する。なお、超伝導コイル112Aの設定電流と超伝導コイル112Bの設定電流は、同じでもよいし異なっていてもよい。
【0024】
S103において、制御部130は、超伝導コイル112Aのクエンチを検出したかどうかを確認し、検出した場合はS104に進み、そうでない場合はS108に進む。電源制御部132Aは、検出器140Aの検出結果に基づいて、超伝導コイル112Aにクエンチが発生したかどうかを確認する。また、電源制御部132Aは、検出器140Aにより超伝導コイル112Aのクエンチが検出された場合、超伝導コイル112Aのクエンチが検出された旨の情報を制御統括部131に送信する。
【0025】
S104において、制御部130は、遮断器114Aを開く。これにより、電源111Aから超伝導コイル112Aへの電流の供給が遮断され、回路110Aは超伝導コイル112Aと保護抵抗113Aの閉回路となる。よって、超伝導コイル112Aに流れる電流は減衰し、超伝導コイル112Aに蓄積されたエネルギーは保護抵抗113Aで消費される。よって、クエンチを起こした超伝導コイル112Aを損傷等から保護することができる。
【0026】
S105において、制御部130は、超伝導コイル112Bの電流調整処理を開始する。制御統括部131は、超伝導コイル112Aのクエンチが検出された旨の情報を電源制御部132Aから受け付けると、電源制御部132Bに対して超伝導コイル112Bの電流調整を行うように指示する。指示を受け付けた電源制御部132Bは、電源111Bから超伝導コイル112Bに供給される電流を調整する。本実施形態では、電源制御部132Bは、電源111Bの出力電流を制御することによって、超伝導コイル112Bに供給される電流を調整する。具体的には、電源制御部132Bは、電源111Bが超伝導コイル112Bに供給する電流を0[A]にすることによって、超伝導コイル112Bに供給される電流が0[A]となるように調整する。つまり、遮断器114Bが閉じられ、電源111Bと超伝導コイル112Bとが回路的に接続した状態で、超伝導コイル112Bに供給される電流が調整される。なお、超伝導コイル112Bの電流調整処理(S105)は、遮断器114Aの開動作(S104)と同時に、或いは遮断器114Aの開動作後に可及的速やかに行われてもよい。
【0027】
なお、本実施形態では、電源制御部132Bは、電流調整処理において電源111Bが超伝導コイル112Bに供給する電流を0[A]にするが、他の態様も採用可能である。例えば、電源制御部132Bは、電流調整処理において電源111Bが超伝導コイル112Bに供給する電流を設定電流よりも下げた所定電流(>0[A])としてもよい。このような態様でも、電流調整処理を行わない場合と比較して超伝導コイル112Bの温度上昇を抑制することができる。また、超伝導コイル112Bへの供給電流を0[A]より大きくすることで、装置の復旧に要する時間が短縮され得る。
【0028】
ここで、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際に、超伝導コイル112Bに供給される電流を維持し続けることも考えられる。しかし、そうすると、超伝導コイル112Aの電磁誘導による誘導起電力の影響で電源111B及び超伝導コイル112Bが過電圧となり、電源111Bが故障する恐れがある。これに対し、本実施形態では、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際に超伝導コイル112Bに供給される電流が調整されるので、超伝導コイル112Aのクエンチを起因とする電磁誘導による過電圧の影響を低減することができる。
【0029】
S106において、制御部130は、超伝導コイル112Bへ供給される電流が0[A]であることを確認する。そして、S107において、制御部130は、超伝導コイル112Aが温度T1[K]以下であることを確認する。ここで、温度T1は、超伝導コイル112Aを構成する材料の超伝導転移温度であってもよい。また例えば、温度T1は、超伝導転移温度よりも低い温度であってもよい。その後、制御部130は、S101に戻る。すなわち、制御部130は、超伝導コイル112Bの電流調整処理を終了して、再び超伝導コイル112A、超伝導コイル112Bに対して設定電流を供給する。
【0030】
一方、S103からS108に進んだ場合、制御部130は、所定の動作が終了したかどうかを確認し、終了している場合はS109に進み、そうでない場合はS103に戻る。所定の動作は例えば、超伝導電磁石装置100が粒子線治療において荷電粒子ビームを任意の角度から出射するために強磁場を発生させる動作である。
【0031】
S109において、制御部130は、超伝導コイル112A、112Bへの設定電流の供給を終了する。
【0032】
図3は、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際の超伝導コイル112A、112Bの電流及び温度の時間変化を示す図である。クエンチ発生前、超伝導コイル112A、112Bの温度は超伝導転移温度(温度T1)未満となっている。
【0033】
超伝導コイル112Aにクエンチが発生すると、超伝導コイル112Aの温度が上昇し始める。その後、検出器140Aが超伝導コイル112Aのクエンチを検出すると遮断器114Aが開かれる(
図2、S104)。超伝導コイル112Aの温度は、遮断器114Aが開かれた後も一時的に上昇する。これは、電流遮断に伴う磁束密度の変化により誘導電流が発生し、その結果として大きな交流損失が発生し 、超伝導コイル112Aの時間あたりの温度変化である温度勾配が大きくなるためである。しかし、その後は超伝導コイル112Aに蓄積されたエネルギーが保護抵抗113Aで消費されるのに応じて徐々に低下していく。
【0034】
一方、超伝導コイル112Bでは、超伝導コイル112Aのクエンチの発生に応じて、制御部130が行う電流調整により供給される電流が低下していく(
図2、S105)。これにより、超伝導コイル112Aの磁束密度の変化等の影響を受けて超伝導コイル112Bの温度が上昇したとしても、超伝導コイル112Bの温度勾配がなだらかになる。よって、超伝導状態を維持しつつ、超伝導コイル112Bに供給される電流を下げていくことが可能となる。これにより、超伝導コイル112Bのクエンチの発生や、過電圧による電源111B及び超伝導コイル112Bの損傷を抑制することができる。
【0035】
ここで、超伝導コイル112Aがクエンチした場合に、超伝導コイル112Bについても遮断器114Bを開いて電源111Bからの電流を遮断することも考えられる。この場合、電源111B及び超伝導コイル112Bの損傷は抑制することができるものの、保護抵抗113Bに電流が流れることによって超伝導コイル112Bの温度が上昇して超伝導コイル112Bもクエンチしてしまう可能性がある。結果として、超伝導コイル112A、超伝導コイル112Bの両方が超伝導状態へと復帰するのにより時間を要してしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、前述したように超伝導コイル112Bのクエンチの発生を抑制しつつ、過電圧による電源111B及び超伝導コイル112Bの損傷を抑制することができる。
【0036】
なお、本実施形態では超伝導コイル112Aにクエンチが発生した場合に超伝導コイル112Bの電流調整を行う処理を説明した。この処理と並行して、超伝導コイル112Bにクエンチが発生した場合に超伝導コイル112Aの電流調整を行う処理を実行してもよい。
【0037】
<第2実施形態>
図4は、一実施形態に係る超伝導電磁石装置200の概略図である。本実施形態の超伝導電磁石装置200は、主として二つの超伝導コイルが同一のクライオスタット内に収容されている点が第1実施形態の超伝導電磁石装置100と異なる。以下、第1実施形態の超伝導電磁石装置100と同様の要素については同様の符号を付して説明を適宜省略する。また、超伝導電磁石装置100の説明で挙げた変形例等についても、超伝導電磁石装置200に適宜採用可能である。
【0038】
超伝導電磁石装置200では、超伝導コイル112A、112Bが同一のクライオスタット220に収容されている。そして、超伝導コイル112A、超伝導コイル112Bは、伝熱機構250によって熱的に接続されている。伝熱機構250としては、例えば低温での熱伝導率特性が高い、アルミニウム等の板や網線が挙げられる。超伝導コイル112A、112Bが熱的に接続されることによって、これらを均一に冷却することができ、冷却効率を向上することができる。なお、超伝導コイル112A、112Bが同一のクライオスタット220に収容されている場合に、伝熱機構250が省略される構成も採用可能である。なお、伝熱機構250が省略される場合でも、同一のクライオスタット220に収容されているという点で、超伝導電磁石装置200の超伝導コイル112A、112Bは熱的に接続されている関係にあるといえる。一方で、超伝導電磁石装置100の超伝導コイル112A、112Bは、それぞれ別のクライオスタット120A、120Bに収容されているので、熱的に独立した関係にあるといえる。
【0039】
超伝導電磁石装置200において、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際の処理としては、
図2のフローチャートと同様のものを採用することができる。超伝導電磁石装置200では、超伝導コイル112A、112Bが同一のクライオスタット220に収容され、かつ熱的に接続されている。したがって、超伝導電磁石装置200は、第1実施形態の超伝導電磁石装置100よりも、超伝導コイル112Aのクエンチ発生により超伝導コイル112Bの温度が上昇しやすい。このような場合でも、超伝導コイル112Aのクエンチに起因する電磁誘導による電源111B及び超伝導コイル112Bの過電圧を抑制しつつ、超伝導コイル112Bのクエンチの発生も抑制することができる。
【0040】
<第3実施形態>
第1実施形態の超伝導電磁石装置100又は第2実施形態の超伝導電磁石装置200においては、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際の処理として、
図2のフローチャートで示す処理と異なる処理を実行可能である。以下では、超伝導電磁石装置100又は超伝導電磁石装置200において、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際の他の処理例について説明する。
【0041】
図5は、制御部130の処理例を示すフローチャートである。
図2のフローチャートでは、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した場合に超伝導コイル112Bの電流調整処理を実行する。一方で、超伝導コイル112Aと超伝導コイル112Bの位置関係や超伝導コイル112Aの温度の状況によっては、超伝導コイル112Bの電流調整中に超伝導コイル112Bにクエンチが発生してしまうことも考えられる。そこで、本フローチャートでは、超伝導コイル112Bについてもクエンチが発生した場合には遮断器114Bによる電流遮断を行う。なお、
図2のフローチャートと同様の処理については同様の符号を付して説明を適宜省略する。
【0042】
本フローチャートでは、制御部130は、S105の後にS201に進む。すなわち、
図2のフローチャートと同様、超伝導コイル112Aのクエンチが検出されると(S103:Yes)、遮断器114Aが開かれ(S104)、超伝導コイル112Bの電流調整処理が行われる(S105)。その後、S105において、制御部130は、超伝導コイル112Bのクエンチを検出したかどうかを確認し、検出した場合はS202に進み、そうでない場合はS106に進む。制御部130は、検出器140Bの検出結果に基づいて、超伝導コイル112Bにクエンチが発生したかどうかを確認する。
【0043】
超伝導コイル112Bのクエンチが検出されない場合、以降の処理は、
図2のフローチャートの処理と同様である(S106、S107)。
【0044】
一方、超伝導コイル112Bのクエンチが検出された場合、S202において、制御部130は、遮断器114Bを開く。すなわち、制御部130は、超伝導コイル112Bに流れる電流を遮断器114Bによって強制的に遮断する。その後、S203において、制御部130は、超伝導コイル112Bの温度が温度T1[K]以下であることを確認し、S107に進む。
【0045】
以上の処理によれば、制御部130は、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した場合、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行う(S105)。そして、電流調整処理によって超伝導コイル112Bの温度上昇を抑制できた場合には、超伝導コイル112Aの温度が温度T1[K]まで下がったことを確認した上で回路310A、遮断器114A を閉じる。これにより、超伝導コイル112Bにクエンチを 発生させることなく超伝導コイル112Aのクエンチ発生からの復旧を行うことができる。よって、超伝導コイル112Aのクエンチ発生から復旧までの時間を短くすることができる。
【0046】
一方で、超伝導コイル112Aのクエンチ発生時に、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行ったとしても、超伝導コイル112Bにクエンチが発生してしまう場合がある。そのような場合には、遮断器114Bを開いて超伝導コイル112Bへの供給電流を遮断することで(S202)、超伝導コイル112Bに対するクエンチによる損傷等の影響を低減することができる。
【0047】
図6は、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際の超伝導コイル112A、112Bの温度の時間変化を示す図である。クエンチ発生前、超伝導コイル112A、112Bの温度は超伝導転移温度(温度T1)未満となっている。
【0048】
超伝導コイル112Aにクエンチが発生すると、超伝導コイル112Aの温度が上昇し始める。その後、検出器140Aが超伝導コイル112Aのクエンチを検出すると遮断器114Aが開かれる(
図5、S104)。超伝導コイル112Aの温度は、遮断器114Aが開かれた後も一時的に上昇する。これは、電流遮断に伴う磁束密度の変化により誘導電流が発生し、その結果として大きな交流損失が発生し 、超伝導コイル112Aの時間あたりの温度変化である温度勾配が大きくなるためである。しかし、その後は超伝導コイル112Aに蓄積されたエネルギーが保護抵抗113Aで消費されるのに応じて徐々に低下していく。
【0049】
一方、熱的に接続した超伝導コイル112Aの温度上昇に伴い、超伝導コイル112Bでも温度が上昇する。本例では、超伝導コイル112Bの電流調整処理(図 5、S1 05)によって温度上昇時の温度勾配は抑制されているものの、超伝導コイル112Bの温度が超伝導転移温度(温度T1)を上回ってしまう。そのため、検出器140Bによって超伝導コイル112Bのクエンチが検出される(
図5 、S201)。その後、遮断器114Bが開かれて保護抵抗113Bに電流が流れるため一時的には温度上昇時の温度勾配が大きくなるが、保護抵抗での蓄積エネルギーの消費に応じて徐々に超伝導コイル112Bの温度が低下する。
【0050】
本実施形態では、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した場合に、まずは超伝導コイル112Bの電流調整処理を行い、電流調整処理を行っても超伝導コイル112Bがクエンチしてしまった場合には遮断器114Bを開く。このように、超伝導コイル112Bに対する処理を段階的に行うことによって、超伝導コイル112Aのクエンチ発生から復旧までの時間の短縮と、超伝導コイル112Bの保護の両立を図ることができる。
【0051】
<第4実施形態>
以下では、超伝導電磁石装置100又は超伝導電磁石装置200において、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際のさらなる処理例について説明する。本処理例では、超伝導コイル112Aがクエンチした場合に、すぐには超伝導コイル112Bの電流調整処理を行わず、一定の状況下では超伝導コイル112Bの設定電流を維持する。超伝導コイル112Bの設定電流を維持しておくことで、超伝導コイル112Aが比較的早期にクエンチした状態から超伝導状態に復帰した場合に、装置の復旧を早めることができる。
【0052】
図7は、制御部130の処理例を示すフローチャートである。なお、
図2又は
図5のフローチャートと同様の処理については同様の符号を付して説明を適宜省略する。
【0053】
本フローチャートでは、制御部130は、S104の後にS301に進む。S301において、制御部130は、超伝導コイル112Bの設定電流を維持する。
【0054】
S302において、制御部130は、超伝導コイル112Aの温度がT1[K]以下であるかどうかを確認し、T1[K]以下の場合はS101に戻り、そうでない場合はS303に進む。そして、S303において、制御部130は、超伝導コイル112Bの温度が温度T2[K]以下であるかどうかを確認し、温度T2[K]以上 の場合はS105に進み、そうでない場合はS302に進む。ここで、温度T2は、超伝導転移温度である温度T1よりも低い所定温度である(T2<T1)。S105以降の処理は
図5のフローチャートと同様である。
【0055】
本処理例によれば、制御部130は、超伝導コイル112Aのクエンチが発生した場合でも、超伝導コイル112Bが温度T2(<温度T1)以下の場合には超伝導コイル112Bの設定電流を維持する(S301)。これにより、超伝導コイル112Bの設定電流を維持している間に超伝導コイル112Aが常伝導状態から超伝導状態に復帰した場合に、装置の復旧を早めることができる。
【0056】
一方で、超伝導コイル112Bの設定電流を維持している状態で超伝導コイル112Bの温度が温度T2を超えた場合には、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行うことによって超伝導コイル112Bの温度上昇を抑制することができる(S105)。さらには、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行っても超伝導コイル112Bの温度が温度T1を超えて超伝導コイル112Bがクエンチしてしまった場合には、遮断器114Bを開いて超伝導コイル112Bを保護することができる。
【0057】
<第5実施形態>
以下では、超伝導電磁石装置100又は超伝導電磁石装置200において、超伝導コイル112Aにクエンチが発生した際のさらなる処理例について説明する。本処理例では、超伝導コイル112Aがクエンチした場合に、すぐには超伝導コイル112Bの電流調整処理を行わず、一定の状況下では超伝導コイル112Bの設定電流を維持する点では第4実施形態と同様である。一方で、本実施形態では、超伝導コイル112Bの温度勾配も考慮して、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行うかどうかを判断する。これにより、超伝導コイル112Bの電流調整処理をより適切に実行することができる。
【0058】
図8は、制御部130の処理例を示すフローチャートである。なお、
図2、
図5又は
図7のフローチャートと同様の処理については同様の符号を付して説明を適宜省略する。
【0059】
本フローチャートでは、制御部130は、S303で超伝導コイル112Bの温度が温度T2[K]以上の場合にS401に進む。S401において、制御部130は、超伝導コイル112Bの温度勾配(dT/dt)が所定値より大きいかどうかを確認し、所定値以上の場合はS202に進んで遮断器114Bを開き 、そうでない場合は S105に進む。以降の処理は
図7のフローチャートと同様である。
【0060】
温度勾配の所定値は適宜設定可能であるが、例えば所定値は正の値であってもよい。つまり、制御部130は、超伝導コイル112Bの温度が温度T2以上となり、かつ、温度勾配が所定値(>0)以上の場合には、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行わずに遮断器114Bを開いてもよい。これにより、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行っても超伝導コイル112Bが温度T1を超えてしまいそうな温度勾配の場合には、速やかに遮断器114Bを開くことによって超伝導コイル112Bの損傷等を抑制することができる。一方、制御部130は、超伝導コイル112Bの電流調整処理を行えば超伝導コイル112Bの温度を温度T1未満で維持できそうな温度勾配の場合には、超伝導コイル112Bの電流調整処理をおこなってもよい。これにより、超伝導コイル112Aが常伝導状態から超伝導状態に復帰した場合の装置の復旧を早めることができる。
【0061】
なお、
図8のフローチャートでは超伝導コイル112Bの温度及び温度勾配に基づき、超伝導コイル112Bに供給する電流や遮断器114Bの動作が制御されている。しかしながら、超伝導コイル112Bの温度勾配のみに基づいて超伝導コイル112Bに供給する電流や遮断器114Bの動作が制御されてもよい。例えば、
図7のフローチャートにおいて、S303の条件分岐に変えて
図8のS401の条件分岐を採用してもよい。
【0062】
<第6実施形態>
図9は、一実施形態に係る粒子線治療システム10の機器構成図である。粒子線治療システム10は、高エネルギーに加速された荷電粒子ビームを癌などの悪性腫瘍に照射し、悪性腫瘍を治療する粒子線治療を行う装置である。粒子線治療システム10は、加速器20と、ビーム輸送系30と、加速制御部40と、超伝導電磁石装置300と、を含む。
【0063】
加速器20は、荷電粒子ビームを生成して出射する装置であり、例えばシンクロトロン、サイクロトロン、又は線形加速器である。加速器20で生成された荷電粒子ビームは、ビーム輸送系30を通じて超伝導電磁石装置300に導かれる。
【0064】
ビーム輸送系30は、加速器20で生成された荷電粒子ビームを超伝導電磁石装置300へと輸送する。ビーム輸送系30は、ビーム調整部31と、真空ダクト32とを含む。
【0065】
ビーム調整部31は、荷電粒子ビームの形状、線量、進行方向等を調整する。例えば、ビーム調整部31には、ビーム形状及び/又は線量を調整するためのビームスリット、荷電粒子ビームの進行方向を調整するための電磁石、荷電粒子ビームのビーム形状を調整するための四極電磁石、並びに、荷電粒子ビームのビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石等が、仕様に応じて適宜含まれる。
【0066】
真空ダクト32は、加速器20で生成、加速された荷電粒子ビームの減衰を避ける又は低減するために、荷電粒子ビームが通過可能に構成されたダクトである。荷電粒子ビームは、ビーム調整部31による調整を受けながら真空ダクト32を通過して、所定の偏向角(例えばφ1)で超伝導電磁石装置300へと導かれる。
【0067】
荷電粒子ビームが導かれた超伝導電磁石装置300は、荷電粒子ビームが所定の照射角(例えばθ1)でアイソセンターO(患者の患部)に照射されるように、超伝導コイル(例えば超伝導コイル312A)が発生させる磁場により荷電粒子ビームをさらに偏向させる。超伝導電磁石装置300で偏向された荷電粒子ビームは、照射ノズル(不図示)からアイソセンターOに向けて出射される。照射ノズルは、患者を乗せる治療台が備わった治療室に設けられる。
【0068】
加速制御部40は、加速器20及びビーム輸送系30を制御する。例えば、加速制御部40は、荷電粒子ビームの出射許可、加速器20及びビーム輸送系30に設けられる電磁石の電流値設定等を行う。加速制御部40は、後述する超伝導電磁石装置300の制御部330と通信可能に接続されている。
【0069】
続いて、超伝導電磁石装置300について説明する。超伝導電磁石装置300は、回路310A~310Fと、クライオスタット320A、320Dと、制御部330とを含む。
【0070】
回路310Aは、電源311Aと、超伝導コイル312Aとを含む。電源311Aは、超伝導電磁石装置100の電源111Aと同様の構成を有していてもよく、超伝導コイル312Aは超伝導電磁石装置100の超伝導コイル112Aと同様の構成を有していてもよい。回路310B~310F、電源311B~311F及び超伝導コイル312B~312Fはそれぞれ、回路310A、電源311A及び超伝導コイル312Aと同様の構成を有していてもよい。
【0071】
また、回路310A~310Fは、図示しないが、超伝導電磁石装置100の保護抵抗113A、遮断器114Aに対応する保護抵抗及び遮断器を含む。また、超伝導コイル312A~312Fに対して、超伝導電磁石装置100の検出器140Aに対応する検出器(不図示)がそれぞれ設けられる。
【0072】
本実施形態では、回路310Aに含まれる電源311Aは同じく回路310Aに含まれる電源3 11Aに電流を供給するが、他の回路310B~310Fに含まれる超伝導コイル312B~312Fには電流を供給しない。電源311B~311Fも同様に、同じ回路に含まれる超伝導コイルには電流を供給する一方、他の回路に含まれる超伝導コイルには電流を供給しない。つまり、各超伝導コイル312A~312Fは、各電源311A~311Fに対して、直列にも並列にも接続しない関係にある。いわば、各超伝導コイル312A~312Fは、互いに電気回路的に独立した関係にあるといえる。
【0073】
また、本実施形態では、超伝導コイル312A~312Cは同一のクライオスタット320Aに収容される。すなわち、超伝導コイル312A~312Cは、電気回路的には互いに独立した関係にあるが、熱的には接続した関係にある。また、超伝導コイル312A~312Cは超伝導電磁石装置200の伝熱機構250のような伝熱機構で互いに接続されていてもよい。同様に、超伝導コイル312D~312Fは、同一のクライオスタット320Dに収容されるので、電気回路的には互いに独立した関係にあるが、熱的には接続した関係にある。
【0074】
制御部330は、超伝導電磁石装置300の作動を制御する。具体的には、制御部330は、回路310A~310Fの電源311A~311Fから超伝導コイル312A~312Fに供給される電流を制御する。制御部330は、CPU(Central Processing Unit)等の1以上のプロセッサ及びメモリを備えた制御回路であってもよい。これらの機能は、メモリに読み出し可能に記憶されたプログラムによって、プロセッサが動作することにより実現されてもよい。プログラムは、例えば超伝導電磁石装置100の内部の記憶装置に記憶されてもよい。
【0075】
なお、制御部330は、プロセッサ及びメモリに代えて、或いはこれらに加えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)に代表される集積回路等のハードウェアを含んで構成されてもよい。制御部330は、単一の制御回路によって実現されてもよいし、制御部330の機能が分担された複数の制御回路によって実現されてもよい。また、制御部330は、超伝導電磁石装置100の制御部130のように、各電源に対応した電源制御部と、これらを統括する制御統括部を有していてもよい。
【0076】
例えば治療時には、所望の照射角θでアイソセンターOに向けて荷電粒子ビームを照射するために、制御部330において各電源の電流を設定する。そして、制御部330側の電流設定が完了すると、制御部330から加速制御部40に治療開始の信号が送られる。この状態で、例えば操作者によって治療開始ボタン(不図示)が押下されると、その信号を加速制御部40が受け、加速制御部40が加速器20に対して荷電粒子ビームの出射許可の指令を出し、治療開始となる。治療が完了した場合は制御部330から加速制御部40に対して治療終了の信号が送られ、その信号を受けた加速制御部40は荷電粒子ビームの出射を停止する。なお、加速制御部40及び制御部330が担う機能の分担は適宜変更可能である。或いは、単一の制御部によって加速制御部40及び制御部330の機能が実現されてもよいし、一部の機能を担うさらなる制御部が設けられてもよい。また、加速制御部40は、制御部330により超伝導コイルの電流調整処理が行われている間は、荷電粒子ビームの出射許可を行わない。すなわち、電導コイルの電流調整処理が行われている間は、超伝導電磁石装置300は荷電粒子ビームを出射しない。
【0077】
ここで、超伝導コイル312A~312Fのいずれかにクエンチが発生した場合について説明する。例えば、超伝導コイル312Aにクエンチが発生した場合における、超伝導コイル312Bの電流調整については、
図2、
図5、
図7又は
図8に示されるフローチャートと同様の処理を実行し得る。その他、どの超伝導コイルがクエンチした場合にどの超伝導コイルの電流調整処理を行うかについては、クエンチした超伝導コイルから受ける影響の大きさに応じて適宜選択することができる。クエンチした超伝導コイルから受ける影響の大きさは、超伝導コイルの位置関係や熱的な接続関係等によって変わり得る。クエンチした超伝導コイルと電流調整処理を行う超伝導コイルとの関係の一例を表1に示す。
【表1】
【0078】
表1では、クエンチした超伝導コイルに隣接し、かつ熱的に接続した超伝導コイルについて、電流調整処理を行う例を示している。なお、ここでは、複数の超伝導コイルが所定の方向に並んで配置されている場合に、隣り合っている超伝導コイル同士を、互いに隣接する超伝導コイルと呼ぶものとする。複数の超伝導コイルが並ぶ方向は、例えば、超伝導コイルが発生させる磁場の方向に直交する面の方向である。なお、隣接する超伝導コイルの間に、他の構成部品(例えば支持部材やクライオスタットの壁部等)が介在しても構わない。
【0079】
例えば、超伝導コイル312Aがクエンチした場合、超伝導コイル312Aに隣接し、かつ熱的に接続した超伝導コイル312Bについては、
図2、
図5、
図7又は
図8のフローチャートにしたがい電流調整処理を実行する。一方で、超伝導コイル312Aに隣接するものの熱的には接続していない超伝導コイル312Dについては、電流調整処理を行わない。これは、超伝導コイル312Bは、超伝導コイル312Aから電磁誘導による過電圧の影響及び超伝導コイル312Aの温度上昇に伴う熱的な影響の両方を受けるため、熱的な影響を受けない超伝導コイル312Dよりもクエンチ発生の可能性が高いためである。また、両側の超伝導コイルと熱的に接続する超伝導コイル312B又は超伝導コイル312Eがクエンチした場合には、その両側の超伝導コイルに対して電流調整処理を実行する。このように、電流調整処理の対象を、クエンチした超伝導コイルに隣接し、かつ熱的に接続した超伝導コイルに限定することによって、クエンチ発生の可能性が相対的に高い超伝導コイルに対して電流調整処理を実行することができる。
【0080】
次に、クエンチした超伝導コイルと電流調整処理を行う超伝導コイルとの関係の他の例を表2に示す。
【表2】
【0081】
表2では、クエンチした超伝導コイルと熱的に接続した超伝導コイルについて、電流調整処理を行う例を示している。例えば、超伝導コイル312Aがクエンチした場合、超伝導コイル312Bに加えて、超伝導コイル312Aに隣接はしないものの熱的に接続する超伝導コイル312Cについて、
図2、
図5、
図7又は
図8のフローチャートにしたがい電流調整処理を実行する。クエンチした超伝導コイルと同一のクライオスタット内に収容されて熱的に接続している超伝導コイルは、クエンチした超伝導コイルの温度上昇の影響を受けて温度が上昇しやすい。したがって、電流調整処理の対象を、クエンチした超伝導コイルに熱的に接続した超伝導コイルとすることによって、クエンチした超伝導コイルから熱的な影響を受けやすい超伝導コイルに対して電流調整処理を実行することができる。
【0082】
次に、クエンチした超伝導コイルと電流調整処理を行う超伝導コイルとの関係の他の例を表3に示す。
【表3】
【0083】
表3では、クエンチした超伝導コイルに隣接し、又は、熱的に接続した超伝導コイルについて、電流調整処理を行う例を示している。例えば、超伝導コイル312Aがクエンチした場合、超伝導コイル312Aに隣接する超伝導コイル312B、314Dと、超伝導コイル312Aに熱的に接続した超伝導コイル312Cについて、
図2、
図5、
図7又は
図8のフローチャートにしたがい電流調整処理を実行する。超伝導コイル312Dは、超伝導コイル312Aとは熱的には接続しないが、超伝導コイル312Aに隣接しているため電磁誘導による誘導起電力の影響を受けやすい。そこで、本例では、クエンチした超伝導コイルと熱的には接続していなくとも隣接している超伝導コイルについては電流調整処理を実行する。これにより、クエンチした超伝導コイルと熱的には接続していなくともその影響を受けやすい超伝導コイルに対して電流調整処理を実行することができる。
【0084】
なお、表1~3で示した関係は例示であって、電流調整処理の対象となる超伝導コイルの選択方法は上記に限られない。例えば、熱的な接続の有無に関わらず、クエンチした超伝導コイルに隣接する超伝導コイルに対して電流調整処理を実行してもよい。
【0085】
さて、超伝導電磁石装置300では、超伝導コイル312A~312Fに対して、電源311A~311Fがそれぞれ設けられている。動作時には、超伝導コイル312A~312Fに対して各電源311A~311Fから同時に電流を供給してもよいが、必要に応じて電流供給を行う電源を選択してもよい。すなわち、アイソセンターOに対して所定の照射角θで荷電粒子ビームを照射する場合に、必ずしも全ての超伝導コイル312A~312Fに対して電流を供給する必要が無い場合もある。よって、例えば表4に示すように、アイソセンターOへの照射角θに応じて、電源供給を行う超伝導コイルを選択してもよい。
【表4】
【0086】
例えば、荷電粒子ビームが超伝導コイル312Aによって生成される磁場領域のみを通過する場合、超伝導コイル312Aのみに電流が供給される(パターンI)。また例えば、荷電粒子ビームが超伝導コイル312Aによって生成される磁場領域及び超伝導コイル312Bによって生成される磁場領域を通過する場合、超伝導コイル312A及び超伝導コイル312Bに電流が供給される(パターンII)。このように、荷電粒子ビームの通過領域(結果として照射角θ)に応じて電源供給を行う超伝導コイルを選択することによって、超伝導コイルへの不必要な電流の供給を抑制して電力消費を低減することができる。
【0087】
そして、電流供給が行われる超伝導コイルが適宜選択される場合、例えば表5に示すように、その選択状況に応じて電流調整処理を実行する超伝導コイルを選択してもよい。
【表5】
【0088】
例えば、パターンIIにおいて超伝導コイル312Bがクエンチした場合には、制御部130は
図2、
図5、
図7又は
図8のフローチャートにしたがい超伝導コイル312Aの電流調整処理を実行する。一方で、パターンIIIにおいて超伝導コイル312Bがクエンチした場合には、制御部130は
図2、
図5、
図7又は
図8のフローチャートにしたがい超伝導コイル312Cの電流調整処理を実行する。このように、制御部130は、同じ超伝導コイル312Bがクエンチした場合であっても、その際の各超伝導コイルへの電流の供給状況に応じて電流調整処理の対象を決定してもよい。
【0089】
上記で説明される寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は、本発明が適用される装置の構造又は様々な条件に応じて変更される。説明に用いた特定の用語及び実施形態に限定されることは意図しておらず、当業者であれば、他の同等の構成要素を使用することができ、上記実施形態は、本発明の趣旨又は範囲から逸脱しない限り、他の変形及び変更も可能である。また、本発明の一つの実施形態に関連して説明した特徴を、たとえ明確に前述していなくても、他の形態とともに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0090】
10 粒子線治療システム
20 加速器
30 ビーム輸送系
100 超伝導電磁石装置
111A、111B 電源
112A、112B 超伝導コイル
130 制御部
140A、140B 検出器