(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084349
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】真空バルブ用接点材料、及び真空バルブ
(51)【国際特許分類】
H01H 33/664 20060101AFI20240618BHJP
H01H 1/025 20060101ALI20240618BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20240618BHJP
B22F 1/06 20220101ALI20240618BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240618BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20240618BHJP
【FI】
H01H33/664 B
H01H1/025
C22C9/00
B22F1/06
B22F1/00 P
B22F1/00 R
C22C1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198570
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】垂井 洋静
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【テーマコード(参考)】
4K018
5G026
5G050
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA09
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA31
4K018EA51
4K018FA02
4K018KA34
5G026BA01
5G026BA04
5G026BB02
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5G026BB14
5G026BB15
5G026BB16
5G026BC04
5G026BC09
5G026EA03
5G026EA04
5G026EB04
5G026EB05
5G026EB08
5G050AA12
5G050AA25
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5G050AA51
5G050BA05
5G050CA01
5G050DA03
5G050DA04
5G050EA02
(57)【要約】
【課題】 溶着引き離しが容易であり、電流遮断特性に優れた真空バルブ用接点材料を得る。
【解決手段】 実施形態に係る真空バルブ用接点材料は、銅からなる母材と、母材に分散されたクロム、モリブデン、タンタル、またはタングステンのうち少なくとも1つの耐弧成分粒子とを含む。耐弧成分粒子は、0.5~0.8の凹凸係数を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅からなる母材と、前記母材に分散されたクロム、モリブデン、タンタル、またはタングステンのうち少なくとも1つの耐弧成分粒子とを含み、
前記耐弧成分粒子は、0.5~0.8の凹凸係数を有する真空バルブ用接点材料。
【請求項2】
前記耐弧成分粒子の含有量は、真空バルブ用接点材料全重量に対し10~60重量%である請求項1に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項3】
前記耐弧成分粒子は、クロム、またはモリブデンのうち少なくとも1つである請求項1に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項4】
1000ppm以下の残留酸素を含む請求項1に記載の真空バルブ用接点材料。
【請求項5】
銅からなる母材と、前記母材に分散されたクロム、モリブデン、タンタル、またはタングステンのうち少なくとも1つの耐弧成分粒子とを含み、前記耐弧成分粒子は、0.5~0.8の凹凸係数を有する真空バルブ用接点材料からなる接点を含む電極を備えた真空バルブ。
【請求項6】
前記耐弧成分粒子の含有量は、真空バルブ用接点材料全重量に対し10~60重量%で6ある請求項5に記載の真空バルブ。
【請求項7】
前記耐弧成分粒子は、クロム、またはモリブデンのうち少なくとも1つである請求項5に記載の真空バルブ。
【請求項8】
1000ppm以下の残留酸素を含む請求項5に記載の真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブ用接点材料、及びこれを用いた真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
真空バルブ内の一対の電極表面には、接点材料を含む接触子がそれぞれ設けられている。接触子表面は、短時間通電におけるジュール熱や電流遮断時におけるアーク熱によって溶融し、これに開閉動作が加わると、電極の接触子同士が溶着し、さらに引き剥がされる。接点材料として汎用されているCu-Cr2元系合金では、溶着した接触子を引き剥がすのに大きな力が必要であるため、遮断器全体が大型化し、コスト増大を招いていた。
【0003】
そこで、溶着引き剥がし力の小さな接点材料として、Cu-CrにTeやBi等の添加元素を添加して、耐溶着特性を付与したCu-Cr-Te系材料が開発された。汎用接点材料であるCu-Cr系材料はCu相とCr相からなる2相合金であるが、Cu相にCrがわずかに固溶するため、Cu相とCr相の相境界面の密着強度は大きい。しかし、これにTeをわずかに添加すると、おもにCu相とCr相の相境界面にCuTe、CuCrTeといった種々の金属間化合物を形成し、真空バルブの製造過程における熱履歴によって粗大化する。粗大化したこれら金属間化合物は靭性が低いという特長を持っているため、結果としてCu相とCr相の相境界面の密着強度を著しく低下させる。接点が溶着したときに、Cu相とCr相の相境界面を起点して亀裂が発生し進展するメカニズムにより、接点材料全体が脆くなり、溶着引き剥がし力が低減される。
【0004】
一方で、Teは蒸気圧の高い元素として知られていることから、真空バルブの組み立て工程の熱履歴や、電流遮断時における熱履歴によって接点表面から蒸発し、真空バルブ内に蒸着してしまう。特に電流遮断後のTe蒸発の影響は顕著であり、真空バルブ内面の様々な箇所に付着して、絶縁破壊特性を劣化させたり、真空バルブ内の空間に再度放出されて電流遮断特性を劣化させたりするという不利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5116538号公報
【特許文献2】特開2011-108380号公報
【特許文献3】特開2018-055928号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】土木学会論文集 No.463/III-22, pp.95-103, 1993, 3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、溶着引き離しが容易であり、電流遮断特性に優れた真空バルブ用接点材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、銅からなる母材と、前記母材に分散されたクロム、モリブデン、タンタル、またはタングステンのうち少なくとも1つの耐弧成分粒子とを含み、
前記耐弧成分粒子は、0.5~0.8の凹凸係数を有する真空バルブ用接点材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料の断面構成を表すモデル図である。
【
図2】凹凸係数FUによる粒子形状の例を表す図である。
【
図3】凹凸係数FUによる粒子形状の他の例を表す図である。
【
図4】真空バルブ用接点材料の製造方法の一例を表すフロー図である。
【
図5】第2実施形態に係る真空バルブの構成を表す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料は、銅(Cu)からなる母材と、母材に分散された耐弧成分粒子とを含む複相合金である。耐弧成分粒子は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、またはタングステン(W)のうち少なくとも1つを含む。また、耐弧成分粒子は、0.5~0.8の凹凸係数を有する。
【0011】
耐弧成分粒子の凹凸係数(FU)は、投影断面形状であり、下記式(1)で表わすことができる。
FU=4πa/l2…(1)
上記式中、aは耐弧成分粒子の投影断面積、lは耐弧成分粒子の外周長である。
凹凸係数FUは、粒子形状の角張りの度合いを示す形状パラメータとしてよく用いられる。凹凸係数FUは、耐弧成分粒子の断面を例えば走査型電子顕微鏡を用いて観察することにより計測することが可能である。
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0013】
図1に、第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料の断面構成を表すモデル図を示す。
図示するように、真空バルブ用接点材料20は、複相合金であり、Cu母材21中に耐弧成分粒子22が存在する。図中、Cu母材21は、説明のため一様に示しているが、例えばCu粒子の焼結体、Cu粒子が部分的に溶融して固化した焼結体などを含むことができる。
【0014】
図2は、凹凸係数FUによる粒子形状の例を表す図であり、FUが0.8または0.6である場合の粒子形状の例を示す。
また、
図3は、凹凸係数FUによる粒子形状の他の例を表す図であり、FUが0.56、0.58、0.62、0.68、0.70、0.78、0.80、0.81、0.82、0.83、0.88である場合について、その粒子形状の例を表す。図中、FU値1つにつき粒子形状の例を8種類示している。
【0015】
耐弧(耐アーク)成分として使用可能なCr、Mo、Ta、及びWは、母材として使用されるCuよりも高い融点を有する金属である。耐弧(耐アーク)成分粒子を母材に添加すると、電流遮断時に発生するアーク放電に対して溶解しにくくなる。また、凹凸係数が小さい粒子は尖った形状を有し、接点を引きはがすときに引っ張り応力がかかるため、尖った形状の先端に応力が集中して亀裂が発生し、溶着力が低下するため、電流遮断時に接点を引きはがしやすくなる。実施形態に係る真空バルブ用接点材料は、耐弧成分粒子の凹凸係数が0.5~0.8であることにより、接点の溶着力が十分に低下する。耐弧成分粒子の凹凸係数が0.5未満であると、耐弧成分粒子が脆弱になり製造が困難となる。また、耐弧成分粒子の凹凸係数が0.8を超えると、耐弧成分粒子が球体により近くなり、亀裂が発生しにくくなるため溶着力が高くなる。
Cu母材は、真空バルブ用接点材料の主成分であり、Cu母材の含有量は50重量%以上にすることができる。
真空バルブ用接点材料中の耐弧成分粒子の含有量は、10~60重量%にすることができる。10重量%未満であると、絶縁耐圧不良となる傾向があり、60重量%を超えると、遮断不良、及び/または通電不良となる傾向がある。
【0016】
耐弧成分粒子は、Cr、またはMoのうち少なくとも1つを用いることができる。
また、耐弧成分粒子は、一成分あるいは二成分以上を使用することができる。
耐弧成分粒子を二成分使用する場合、耐弧成分粒子の含有量は、10~60重量%であり、任意の比率で使用することができる。
耐弧成分粒子を一成分使用する例として、例えばCrを用いるとき10~50重量%また、例えばMoを用いるとき10~60重量%することができる。
耐弧成分粒子を二成分使用する例として、第1成分として例えばCrを使用し、第2成分としてMoを使用する場合、耐孤成分の含有量の下限値は10重量%である。耐弧成分の上限値は、Cu50重量%-Cr50重量%合金あるいはCu40重量%-Mo60重量%合金の導電率と同等となるように調整することができる。例えば、重量比Cr:Mo=1:1の場合、Cu50重量%-Cr50重量%合金あるいはCu40重量%-Mo60重量%合金の導電率と同等となる耐弧成分の含有量は約55%であるため、耐弧成分の第1成分と第2成分の合計の含有量の上限値は55重量%となる。
【0017】
第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料中の残留酸素は、1000ppm以下にすることができる。真空バルブ用接点材料の残留酸素が1000ppmを超えると、電流遮断特性が低下する傾向がある。
真空バルブ用接点材料の残留酸素は、真空バルブ用接点材料の製造方法により変化し得る。
図4に、第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料の製造方法の一例を表すフロー図を示す。
図示するように、第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料として使用される複相合金は、母材材料粉末と耐弧成分材料とを加圧成形(第1加圧成形)して(ST1)圧紛体を形成し、低酸素分圧炉(カーボン炉)を使用して10
-22~10
-19Pa例えば10
-21Paの酸素分圧で超低酸素分圧還元焼結を行い、圧紛体中のCrなどの活性金属を還元しながら焼結(第1焼結)する(ST2)ことにより形成できる。
【0018】
超低酸素分圧還元焼結以外の焼結方法として、例えば真空炉(例えば真空度10-3Pa)を使用した固相焼結があるが、固相焼結により得られた焼結体はCr等の活性金属が還元されていないため残留酸素が多く、電流遮断特性が低下する傾向がある。また、真空溶解炉を用い、圧粉体を溶解してインゴットを作成した場合には、得られたインゴットは残留酸素が少なく、耐弧成分粒子の大きさが小さくなり、電流遮断特性は高いが、溶解は高温で行われるため高コストとなる傾向がある。これに対し、低酸素分圧炉を用いて超低酸素分圧還元焼結を行うと、溶解よりも低温処理が可能でなおかつ大量生産が可能な焼結により、比較的低コストで残留酸素の低い焼結体が得られる。
【0019】
加圧成形は、50~100MPa、例えば50MPaで行うことができる。50MPa程度であると、圧粉体内部の粉末まで還元されやすくなる傾向がある。低酸素分圧炉における加熱温度は、1000~1100℃、好ましくは1050~1080℃にすることができる。1000℃未満であると、炉内平衡酸素分圧がCr等の活性金属の酸素が乖離する平衡酸素分圧を上回るため、活性金属の還元が進行しなくなり、1080℃を超えると、圧粉体中のCuが溶融して緻密化が進行するため圧粉体内部の活性金属が還元されなくなる傾向がある。実施形態に使用される加熱温度は、使用される耐弧成分の融点よりも低い温度に設定することができる。
【0020】
還元しながら焼結(ST2)した後、必要に応じて、焼結体をさらに加圧成形(第2加圧成形)して、抵抗加熱炉などを用いて減圧下でさらに焼結(第2焼結)することができる。第2の加圧成形は100~500MPa例えば400MPaで行うことができる。第2焼結の加熱温度は、1000~1300℃、好ましくは1000~1150℃にすることができる。1000℃未満であると、緻密化が進行しなくなり焼結体が低密度となり、1300℃を超えると、Cuの融点を大きく上回るため焼結体が大変形してしまう傾向がある。抵抗加熱炉の真空度は10-3~10-5例えば10-3Paにすることができる。
【0021】
加熱温度が耐弧成分の融点よりも低くCuよりも低い場合には、複相合金の母材の領域は、母材粒子の焼結体となる傾向がある。加熱温度が耐弧成分の融点よりも低くCuよりも高い場合には、複相合金の母材の領域は、Cuに耐弧成分がわずかに固溶した緻密体となる傾向がある。
また、耐弧成分粒子は、Cr、Mo、Ta、またはWのうち少なくとも1つからなることができる。このとき、耐弧成分粒子はTeのような高蒸気圧元素を用いないので、高蒸気圧元素成分の真空バルブ内への付着による絶縁破壊性能及び電流遮断特性の低下を生じない。
【0022】
耐弧成分粒子の粒径は、1~100μm、好ましくは1~45μmにすることができる。1μm未満であると、粒子表面の酸素量が多すぎて還元できなくなる傾向があり、45μmを超えると、合金の絶縁破壊電圧が低下すると傾向がある。
また、Cu母材の粒径は、20~100μmにすることができる。20μm未満かつ100μmを超えると、圧粉体の充填密度が低下する傾向がある。
第2実施形態に係る真空バルブは、Cuからなる母材と、母材に分散されたCr、Mo、Ta、またはWのうち少なくとも1つの耐弧成分粒子とを含み、前記粒子は、0.5~0.8の凹凸係数を有する真空バルブ用接点材料からなる接点を含む電極を備える。
【0023】
図5は、第2実施形態に係る真空バルブの構成を表す縦断面図を示す。
図示するように、真空バルブ100は、両端に開口部を有し、例えばアルミナ磁器等よりなる筒状のセラミックス容器1と、一方の開口部に封着された固定側封着金具2と、他方の開口部に封着された可動側封着金具3とを備えている。真空バルブ100内は真空が維持されている。固定側封着金具2には中央開口部が設けられ、一方の電路となる固定側通電軸4が貫通固定されている。固定側通電軸4のセラミックス容器1内の端部に固定側電極5が固着されている。固定側電極5の端面に、固定側接触子6が固着されることにより、固定側電極5と固定側接触子6の接合構造が形成される。固定側接触子6に対向し、切離自在の一対の接点となる可動側接触子7が、可動側電極8の端面に固着されることにより、固定側接触子6と可動側接触子7の接合構造が形成される。可動側電極8は可動側封着金具3に設けられた中央開口部を移動自在に貫通する他の電路となる可動側通電軸9の端部に固着されている。ここでは、固定側接触子6及び可動側接触子7に、接点として、上記第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料を用いることができる。
【0024】
この可動側通電軸9の中央部分より可動側封着金具3側の部分がセラミックス容器1の外に導出される部分となっており、その部分に、気密封止のためのベローズカバー10が設けられ、ベローズカバー10には伸縮自在の筒状のベローズ11の一方の端部が配設されている。ベローズ11の他方の端部は可動側封着金具3の中央開口部に封着されている。これにより、絶縁容器1の真空を保って、可動側通電軸9を軸方向に移動させることができる。固定側電極5、可動側電極8、固定側接触子6,及び可動側接触子7の周りには、開閉時に発生する金属蒸気や溶融金属が、絶縁容器1の内壁に付着して絶縁抵抗が低下することを防止するため、筒状のアークシールド12が設けられている。
第2実施形態によれば、接点として、上記第1実施形態に係る真空バルブ用接点材料を用いることにより、電流遮断時に溶着引き離しが容易であり、電流遮断特性に優れた真空バルブが得られる。
【実施例0025】
比較例1
(インゴット(真空溶解材)を使用した例)
汎用接点材料として用いられているCu75重量%-Cr25重量%インゴット(溶製材)の一部を切断し、断面を鏡面研磨したのち断面を走査型電子顕微鏡で複数視野について観察した。式(1)により汎用接点材料のCuマトリクス中のCr粒子の凹凸係数FUを観察画像から算出した。
【0026】
汎用接点材料のCr粒子の凹凸係数は0.84であった。このように、真空溶解材のCr粒子の形状は丸みを持っている。
汎用接点材料Cu75重量%-Cr25重量%インゴットの一部を切断し不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ320ppmであった。インゴットは真空中で原料をすべて溶解するため脱ガス効果があり酸素量が低減されていると考えられる。
【0027】
汎用接点材料Cu75重量%-Cr25重量%インゴットを切削により円板状に加工して接触子を作成した。この接触子を無酸素銅製のロッドの先端に銀ろう付して試験用電極を作製した。同じものをもう1つ作製し、一対の試験用電極を得た。10-3Pa台の真空度に設定した試験チャンバ内に一対の試験用電極を対向して設置した。円板状の接触子を突き合わせて約100Nを印加した状態で15kAの電流を短時間通電し、人工的に溶着させた。溶着したあと試験用電極を油圧シリンダを用いて開極し、ロードセルを用いて開極するときの最大引き剥がし力を測定した。このときの引き剥がし力を1として、以降の実施例における引き剥がし力は相対値とする。
【0028】
汎用接点材料Cu75重量%-Cr25重量%インゴットを切削により円板状の接触子に加工したのち、電極、フランジ、絶縁容器等と銀ろう付し、真空バルブを作製した。この真空バルブを用いて最大遮断電流値を測定した。接点表面を電圧エージング等でクリーニングしたのち、7.2kV、50Hzで1kAずつ電流を増大させながら電流遮断できる最大値を測定した。このときの最大遮断電流値を1として、以降の実施例における最大電流値は相対値とする。
得られた結果を下記表1に示す。
【0029】
(溶着引き剥がし力測定後の破面観察)
比較例1における溶着引き剥がし部を表面から電子顕微鏡で観察したところ、溶着引き剥がし部は歪んだ円形のクレータ形状で、延性破壊を示すディンプルパターンが観察された。引き剥がし力の大きい材料は延性破壊を起こすものと考えられる。
【0030】
実施例1
(一般的なサイズのCr粉末を使用した例)
粒度45μmの電解Cu粉末および粒度75μmの電解Cr粉末を原料として用いた。 予め、Cr粉末粒子の投影断面を、走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察し、式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いた電解Cr粉末の凹凸係数FUは0.7であった。
【0031】
まず、Cu粉末およびCr粉末を重量比3:1(Cu75重量%-Cr25重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は55%であった。高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉(酸素分圧10-21Pa)内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱し、Crを還元した。加熱後の焼結体の密度は71%であった。
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。
【0032】
続いて、10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し、約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、410ppmであった。
【0033】
同様の焼結体をもう1つ作成し、各々接触子として使用して、実施例1と同様にして一対の試験用電極を作成し、最大引き剥がし力を測定したところ、0.12であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、1であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0034】
実施例2
(凹凸係数の大きいCr微粉末を使用した例)
粒度45μmの電解Cu粉末及び粒度45μmの電解Cr粉末を原料として用いた。
予め、Cr粉末粒子の投影断面を走査型電子顕微鏡で複数視野観察し、式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いた電解Cr粉末の凹凸係数FUは0.79であった。
まず、Cu粉末およびCr粉末を重量比3:1(Cu75重量%-Cr25重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は60%であった。高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は72%であった。
【0035】
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は82%であった。
続いて、10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は97%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、500ppmであった。Cr粉末の粒径が小さくなり比表面積が大きくなると、Cr粉末表面の酸化膜により、焼結体の酸素量も多くなってしまうと考えられる。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.4であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、0.95であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0036】
実施例3
(凹凸係数の小さなCr微粉末を使用した例)
粒度45μmの電解Cu粉末及び粒度45μmの電解Cr粉末を原料として用いた。
予め、Cr粉末粒子の投影断面を走査型電子顕微鏡で複数視野について観察し式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いた電解Cr粉末の凹凸係数FUは0.65であった。
【0037】
まず、Cu粉末およびCr粉末を重量比3:1(Cu75重量%-Cr25重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は58%であった。高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は70%であった。
【0038】
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。
続いて、10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、480ppmであった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.09であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、0.99であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0039】
(溶着引き剥がし力測定後の破面観察)
実施例3における溶着引き剥がし部を電子顕微鏡で観察したところ、溶着引き剥がし部は歪んだ円形のクレータ形状で、延性破壊を示すディンプルパターンと脆性破壊を示すリバーパターンの異なる破面状態が混在していることが観察された。クレータ中心を通るように溶着引き剥がし部を切断し、切断面を鏡面研磨したのち電子顕微鏡で観察したところ、Cr粒子表面の凹凸の尖った先端を起点して亀裂が開口している箇所が発見された。このことから、耐弧成分の凹凸係数FUを小さくすると、耐弧成分粒子表面の凹凸が大きくなり、溶着引き剥がしの際の引張応力によって突起先端に応力集中部が形成され、そこを起点して亀裂が伝播すると考えられる。引き剥がし力の小さい材料は脆性破壊モードが混合すると考えられる。
【0040】
実施例4
(凹凸係数の小さなCr微粉末を使用し、高温で焼結した例)
粒度45μmの電解Cu粉末及び粒度45μmの電解Cr粉末を原料として用いた。
【0041】
予め、Cr粉末粒子の投影断面を走査型電子顕微鏡で複数視野について観察し、式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いた電解Cr粉末の凹凸係数FUは0.65であった。
まず、Cu粉末およびCr粉末を重量比3:1(Cu75重量%-Cr25重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は58%であった。
続いて、高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は70%であった。
【0042】
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し、Cuのみ溶解可能な温度である約1200℃で3時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、470ppmであった。焼結体の一部を切断し、切断面を研磨後、走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察し、式(1)を用いてCr粒子の凹凸係数FUを算出したところ0.85であった。Cuのみ溶解させると固体Crの一部が溶融Cuに溶解し、Cr粒子の形状が丸みを持つようになると考えられる。なお、実施例1~3についても焼結体の一部を切断し、切断面を研磨後、走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察し、Cr粒子の凹凸係数FUを算出したが、焼結前の電解Cr粉末の凹凸係数FUと変わらなかった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.8であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、0.99であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0043】
実施例5
(凹凸係数が小さく粒径が大きいCr粉末の例)
45μmの電解Cu粉末及び粒度150μmの電解Cr粉末を原料として用いた。
予め、Cr粉末粒子の投影断面を、走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察し、式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いた電解Cr粉末の凹凸係数FUは0.6であった。
【0044】
まず、Cu粉末およびCr粉末を重量比3:1(Cu75重量%-Cr25重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は53%であった。高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は68%であった。
【0045】
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。
続いて、10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し、約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、300ppmであった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.08であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、0.87であった。粗大なCr粉末を使うことで酸素量は低減できたが、Cr粒径が大きくなった影響で最大遮断電流値が低下したと考えられる。
【0046】
実施例6
(耐弧成分量が多い例)
粒度45μmの電解Cu粉末、及び実施例3と同様の凹凸係数を有する粒度45μmの電解Cr粉末を原料として用いた。
用いた電解Cr粉末の凹凸係数FUは実施例3と同様に0.65であった。
まず、Cu粉末およびCr粉末を重量比2:1(Cu67重量%-Cr33重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は58%であった。高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は70%であった。
【0047】
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。
続いて、10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、550ppmであった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.05であった。Cr量を増やしたのでCr原料粉末由来の酸素量も増えたと考えられる。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、0.95であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0048】
実施例7
(耐弧成分粒子を二成分としたCu-Cr-Mo系の例)
45μmの電解Cu粉末、実施例1と同様の凹凸係数を有する粒度45μmの電解Cr粉末、及び粒度3μmのMo粉末を原料として用いた。Cr粉末粒子およびMo粉末の投影断面を、走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察し、式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いた電解Cr粉末とMo粉末の凹凸係数FUはそれぞれ0.79、0.55であった。
【0049】
まず、Cu粉末およびCr粉末、及びMo粉末を、重量比Cu:(Cr+Mo)=3:1(Cu75重量%-Cr5重量%-Mo20重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は53%であった。高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は68%であった。
【0050】
次に、焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。
続いて10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、300ppmであった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.1であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、1.1であった。
【0051】
実施例8
(耐弧成分をMoに変更したCu-Mo系の例)
粒度45μmの電解Cu粉末及び粒度3μmの電解Mo粉末を原料として用いた。
予め、Mo粉末の投影断面を、走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察し、式(1)を用いて凹凸係数を算出した。用いたMo粉末の凹凸係数FUは0.55であった。
Cu粉末、Cr粉末、及びMo粉末を、重量比3:1(Cu75重量%-Mo25重量%)となるように秤量し、ボールミルで10時間混合した。混合後、ダイス金型に充填し、50MPaでプレスし、圧粉体を形成した。圧粉体のかさ密度は53%であった。
【0052】
次に、高純度アルゴンガスを流通させたカーボン炉内に圧粉体を設置し、約1050℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は68%であった。焼結体をダイス金型に設置し、400MPaでプレスした。プレス後の焼結体の密度は79%であった。
続いて、10-3Pa台の真空度に設定した抵抗加熱炉内に焼結体を設置し、約1080℃で24時間加熱した。加熱後の焼結体の密度は96%であった。焼結体の一部を切断し、不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、290ppmであった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.04であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、1.2であった。
得られた結果を下記表1に示す。
【0053】
比較例2
低溶着型汎用接点材料として用いられているCu-Cr25重量%-Teインゴットの一部を切断し、断面を鏡面研磨したのち、断面を走査型電子顕微鏡で複数視野にて観察した。式(1)により汎用接点材料のCuマトリクス中のCr粒子の凹凸係数FUを観察画像から算出したところ0.85であった。
インゴットの一部を切断し不活性ガス融解-赤外線吸収法により残留酸素量を測定したところ、490ppmであった。
実施例1と同様な方法で最大引き剥がし力を測定したところ、0.08であった。
実施例1と同様な方法で最大遮断電流値を測定したところ、0.87であった。しかしながら、2回目以降の最大遮断電流値はTe蒸発の影響で大きく低下した。
【0054】
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。