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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084352
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】木質材補強部材と木質材補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/07 20060101AFI20240618BHJP
   E04C 3/12 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
E04C5/07
E04C3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198574
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田原 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】桂 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高森 直樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 有章
【テーマコード(参考)】
2E163
2E164
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FA12
2E163FC02
2E164EA03
(57)【要約】
【課題】木質材に設けられている開口の補強に際して、木質材の外観意匠性への影響が少なく、高い開口補強効果を奏することのできる、木質材補強部材と木質材補強構造を提供すること。
【解決手段】木質材20の側面21にある開口23から開口23に連通する貫通孔25に亘って補強する、木質材補強部材10であり、開口23周りの側面21に係止されて開口23周りを補強する枠状の開口補強片15と、開口補強片15に連続して貫通孔25の内部に挿入され、貫通孔25を補強する筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片16とを有し、開口補強片15と貫通孔補強片16が複数の長繊維材11,12を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強する、木質材補強部材であって、
前記開口周りの前記側面に係止されて前記開口周りを補強する、枠状の開口補強片と、
前記開口補強片に連続して前記貫通孔の内部に挿入され、前記貫通孔を補強する、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、
前記開口補強片と前記貫通孔補強片が、複数の長繊維材を含んでいることを特徴とする、木質材補強部材。
【請求項2】
前記複数の長繊維材が編み込まれていることを特徴とする、請求項1に記載の木質材補強部材。
【請求項3】
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強する、木質材補強部材であって、
前記開口周りの前記側面に係止されて前記開口周りを補強する、枠状の開口補強片と、
前記開口補強片に連続して前記貫通孔の内部に挿入され、前記貫通孔を補強する、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、
前記開口補強片と前記貫通孔補強片が、硬化した樹脂の内部に複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいることを特徴とする、木質材補強部材。
【請求項4】
前記長繊維材もしくは前記短繊維材が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリアミド繊維のいずれか一種もしくは複数種により形成されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の木質材補強部材。
【請求項5】
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強されている、木質材補強構造であって、
枠状の開口補強片と、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいる木質材補強部材のうち、前記貫通孔補強片が前記貫通孔の内部に挿入され、前記開口補強片が前記開口周りの前記側面に係止され、前記貫通孔補強片と前記開口補強片が接着剤を介して前記木質材に固定されていることを特徴とする、木質材補強構造。
【請求項6】
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強されている、木質材補強構造であって、
枠状の開口補強片と、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、硬化した樹脂の内部に複数の長繊維材もしくは短繊維材含んでいる木質材補強部材のうち、前記貫通孔補強片が前記貫通孔の内部に挿入され、前記開口補強片が前記開口周りの前記側面に係止され、前記貫通孔補強片と前記開口補強片が接着剤を介して前記木質材に固定されていることを特徴とする、木質材補強構造。
【請求項7】
前記木質材は、対向する一対の前記開口と、これらに連通する前記貫通孔を備えており、
2つの前記木質材補強部材が、2つの前記開口周りに係止された状態で前記木質材に固定されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の木質材補強構造。
【請求項8】
2つの前記木質材補強部材の備えるそれぞれの前記貫通孔補強片が、前記貫通孔の内部において、相互にラップしている、もしくは、相互に離れている、もしくは、双方の端面同士が相互に当接していることを特徴とする、請求項7に記載の木質材補強構造。
【請求項9】
前記開口と前記貫通孔の正面視形状が、円形、もしくは、角部が湾曲したトラック形のいずれか一種であり、
前記開口補強片と前記貫通孔補強片がそれぞれ、前記開口と前記貫通孔に相補的な形状を備えていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の木質材補強構造。
【請求項10】
前記長繊維材もしくは前記短繊維材が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリアミド繊維のいずれか一種もしくは複数種により形成されていることを特徴とする、請求項5又は6に記載の木質材補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材補強部材と木質材補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境影響への負荷低減に対する高まりや、環境配慮への盛んな取り組みの中で、建築分野においては木質材を有効に活用した技術開発が盛んに行われており、木造の建物や木と鋼のハイブリット建物等においては、梁や柱、壁といった様々な構成部材が木質材により形成されている。木質材は、鉄骨やコンクリート等に比べて軽量であり、比強度が高く、加工性に優れており、その他、断熱性が高く、調湿作用があり、さらには、自然素材の醸し出す外観意匠性を有しており、自然素材故に二酸化炭素排出量が少なく、環境影響負荷への低減効果が高いといった様々な効果を奏する材料である。
【0003】
木質材からなる梁等においても、鉄骨梁等と同様に配管等を通すための開口(もしくはスリーブ)が設けられる場合があり、開口によって木質材の強度が低下し得ることから、開口の大きさを制限する方法や、開口によって低減した断面が必要となる強度を備えるように木質材の厚みを厚くする方法、さらには、開口周りの強度低下を補強部材によって補強する方法等が適用されることになる。その中でも、必要寸法の開口を低減することは難しく、使用される木質材の厚みや平面寸法等を大きくすることは納まりの関係から難しい場合が多いことに鑑みると、現実的には、開口の周囲を補強する方法が合理的な方法となる。
【0004】
この補強部材による開口補強に際して、剛性の高い金属製やコンクリート製の補強部材を適用することにより高い開口補強効果が得られるものの、これらの材料からなる補強部材は木質材とは異質の外観意匠性(剛質な意匠性)を有することから、開口補強効果の背反として木質材の外観意匠性を損なう方向に影響することが懸念される。
【0005】
従って、木質材に設けられている開口の補強に際して、木質材の外観意匠性への影響が少なく、高い開口補強効果を奏することのできる木質材補強部材と、この木質材補強部材を備えた木質材補強構造が望まれる。
【0006】
ここで、特許文献1には、CLTパネル補強構造物(CLT:Cross Laminated Timber、直交集成板)が提案されている。このCLTパネル補強構造物は、貫通孔を有するCLTパネルと、第1開口を有する第1プレート、及び第1管を備えた第1補強材と、第2開口を有する第2プレート、及び第2管を備えた第2補強材とを備えている。第1管は、第1プレートの最大面と交差する方向へ、第1プレートの第1開口を含む第1領域から延出しており、第2管は、第2プレートの最大面と交差する方向へ、第2プレートの第2開口を含む第2領域から延出しており、第1補強材は、第1管の外周面が貫通孔の内周面に当接した状態で第1管が貫通孔に挿入され、かつ第1プレートの最大面がCLTパネルの第1面に当接し、第2補強材は、第2管の外周面が第1管の内周面に当接した状態で第2管が貫通孔に挿入され、かつ第2プレートの最大面がCLTパネルの第1面と反対に位置する第2面に当接している。第1プレートと第2プレートは金属製の平板であり、第1管と第2管は金属製の円管である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-42589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるCLTパネル補強構造物は、第1補強材と第2補強材の構成部材がいずれも金属製であることから、高い開口補強効果は得られるものの、木質材の一例であるCLTパネルの外観意匠性への影響が大きい。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木質材に設けられている開口の補強に際して、木質材の外観意匠性への影響が少なく、高い開口補強効果を奏することのできる、木質材補強部材と木質材補強構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明による木質材補強部材の一態様は、
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強する、木質材補強部材であって、
前記開口周りの前記側面に係止されて前記開口周りを補強する、枠状の開口補強片と、
前記開口補強片に連続して前記貫通孔の内部に挿入され、前記貫通孔を補強する、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、
前記開口補強片と前記貫通孔補強片が、複数の長繊維材を含んでいることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、木質材に設けられている開口周りの側面に係止されて開口周りを補強する枠状の開口補強片と、開口補強片に連続して貫通孔の内部に挿入され、貫通孔を補強する筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、開口補強片と貫通孔補強片が複数の長繊維材を含んでいることにより、長繊維材(繊維材)の醸し出す柔軟な外観意匠性が木質材と親和性を有することから木質材の外観意匠性への影響が少なくなり、さらには、複数の長繊維材による応力分散性によって局所的な応力集中に起因する木質材の開口周辺の破損を抑制できることから、木質材の開口周りと貫通孔周りの補強効果の高い木質材補強部材となる。
【0012】
さらに、開口補強片と貫通孔補強片が変形自在な長繊維材によって形成されていることから、木質材の開口と開口補強片の寸法や、貫通孔と貫通孔補強片の寸法が相互に多少異なっている場合であっても、貫通孔補強片等を所望に変形させて木質材の開口や貫通孔に対して木質材補強部材を密着させた状態で取り付けることができる。そのため、木質材における開口の加工誤差等を木質材補強部材の変形性能が吸収しながら、開口及び貫通孔を包囲するようにして木質材補強部材を取り付けることができる。
【0013】
本態様の木質材補強部材が適用される木質材は、梁、柱、壁等の様々な用途に適用される。また、木質材の側面に設けられている開口の正面視形状には、円形、楕円形、正方形や長方形を含む矩形、矩形以外の多角形等の他、例えば矩形の隅角部が湾曲状に面取りされた形状(トラック状)等が含まれる。枠状の開口補強片の開口の正面視形状は、木質材の開口の正面視形状と相補的な形状となり、貫通孔補強片の正面視形状(断面形状)も同様の形状となる。例えば、木質材の開口の正面視形状が円形や楕円形、トラック状の場合は、貫通孔補強片は筒状(楕円筒状、トラック筒状を含む)を呈し、矩形を含む多角形の場合は、貫通孔補強片は角筒状を呈する。
【0014】
ここで、本明細書において「長繊維材」とは、例えば長さが100mm程度かそれ以上の繊維材のことであり、この長繊維材に対して、長さが5mm乃至100mm程度の繊維材が短繊維材である。長繊維材は、その配置方向を規則的な所望の方向に制御し易い。尚、長繊維材からなる不織布は、平面的には繊維材がランダムに配置されているものの、厚み方向では複数の長繊維材が積層され、従って配置方向が制御されていることから、これも配向方向の制御が容易であると言える。これに対して、短繊維材の場合は、繊維材がランダムに分散され易い。
【0015】
また、本発明による木質材補強部材の他の態様は、
前記複数の長繊維材が編み込まれていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、複数の長繊維材が編み込まれていることにより、より一層強度の高い木質材補強部材となる。ここで、編み込み形態には、例えば円周方向に延びる複数の長繊維材と放射方向に延びる複数の長繊維材による編み込み形態、斜め方向に延びる長繊維材同士のバイアス編み込み形態、複数のフェルト状の長繊維材によるランダム編み込み形態などを挙げることができる。
【0017】
また、本発明による木質材補強部材の他の態様は、
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強する、木質材補強部材であって、
前記開口周りの前記側面に係止されて前記開口周りを補強する、枠状の開口補強片と、
前記開口補強片に連続して前記貫通孔の内部に挿入され、前記貫通孔を補強する、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、
前記開口補強片と前記貫通孔補強片が、硬化した樹脂の内部に複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、開口補強片と貫通孔補強片が、硬化した樹脂の内部に複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいることにより、木質材補強部材の形状を初期の形状に維持しながら、長繊維材や短繊維材にて補強された高強度の木質材補強部材を形成できる。さらに、硬化した樹脂の内部に繊維材が含まれていることから、より一層剛性の高い木質材補強部材となる。
【0019】
ここで、「硬化した樹脂」としては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等の樹脂を挙げることができる。
【0020】
また、本発明による木質材補強部材の他の態様は、
前記長繊維材もしくは前記短繊維材が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリアミド繊維のいずれか一種もしくは複数種により形成されていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、上記する各種素材からなる繊維材が一種もしくは複数種適用されていることにより、木質材の開口周りと貫通孔周りの補強効果の高い木質材補強部材を形成できる。ここで、ガラス繊維等は無色透明であることから、木質材の開口周りに取り付けられた際の木質材の外観意匠性への影響をより一層少なくできる。
【0022】
また、本発明による木質材補強構造の一態様は、
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強されている、木質材補強構造であって、
枠状の開口補強片と、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいる木質材補強部材のうち、前記貫通孔補強片が前記貫通孔の内部に挿入され、前記開口補強片が前記開口周りの前記側面に係止され、前記貫通孔補強片と前記開口補強片が接着剤を介して前記木質材に固定されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいる木質材補強部材の貫通孔補強片が貫通孔の内部に挿入され、開口補強片が開口周りの側面に係止され、それらが接着剤を介して木質材に固定されていることにより、木質材の外観意匠性への影響が少なく、複数の繊維材によって応力分散性に優れ、開口周りと貫通孔周りが効果的に補強されている木質材補強構造を形成できる。また、木質材に対して接着剤を介して木質材補強部材が固定されることから、木質材補強部材の木質材への取り付け性が良好となり、可及的に短時間で木質材補強構造を形成できる。
【0024】
また、開口補強片と貫通孔補強片が変形自在な長繊維材等の繊維材によって形成されていることから、木質材の開口の寸法と貫通孔補強片等の寸法が多少異なっている場合であっても、貫通孔補強片等を所望に変形させて木質材の開口や貫通孔に取り付けることが可能になる。
【0025】
また、本発明による木質材補強構造の他の態様は、
木質材の側面にある開口から前記開口に連通する貫通孔に亘って補強されている、木質材補強構造であって、
枠状の開口補強片と、筒状もしくは角筒状の貫通孔補強片とを有し、硬化した樹脂の内部に複数の長繊維材もしくは短繊維材含んでいる木質材補強部材のうち、前記貫通孔補強片が前記貫通孔の内部に挿入され、前記開口補強片が前記開口周りの前記側面に係止され、前記貫通孔補強片と前記開口補強片が接着剤を介して前記木質材に固定されていることを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、硬化した樹脂の内部に複数の長繊維材もしくは短繊維材を含んでいる木質材補強部材が貫通孔に挿入され、かつ開口周りの側面に係止されて接着剤を介して固定されていることにより、硬化した樹脂によって初期の形状が維持されている木質材補強部材と木質材との取り付け性がより一層良好になる。さらに、硬化した樹脂の内部に繊維材が含まれていることから、より一層補強効果の高い木質材補強構造を形成できる。
【0027】
また、本発明による木質材補強構造の他の態様において、
前記木質材は、対向する一対の前記開口と、これらに連通する前記貫通孔を備えており、
2つの前記木質材補強部材が、2つの前記開口周りに係止された状態で前記木質材に固定されていることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、1つの貫通孔の両端にある2つの開口のそれぞれに対して、貫通孔補強片と開口補強片が一体とされた2つの木質材補強部材の開口補強片が係止され、貫通孔に対して2つの貫通孔補強片が嵌め込まれた状態で、木質材と2つの木質材補強部材が相互に接着剤を介して固定されていることにより、良好な取り付け性の下で、貫通孔とその両端にある2つの開口周りを補強することができる。
【0029】
また、本発明による木質材補強構造の他の態様において、
2つの前記木質材補強部材の備えるそれぞれの前記貫通孔補強片が、前記貫通孔の内部において、相互にラップしている、もしくは、相互に離れている、もしくは、双方の端面同士が相互に当接していることを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、2つの木質材補強部材によって貫通孔とその両端にある2つの開口が補強される形態において、貫通孔の内部で2つの貫通孔補強片が相互にラップしている形態では、外部から視認されず、従って外観意匠性に影響を与えない貫通孔の内部をより厚みのある貫通孔補強片にて補強することができる。一方、貫通孔の内部で2つの貫通孔補強片が相互に離れている、もしくは双方の端面同士が相互に当接している形態では、2つの木質材補強部材の貫通孔補強片が相互に重ならないことから、後で取り付けられる木質材補強部材の木質材への取り付けの際に、先に取り付けられている木質材補強部材の貫通孔補強片と干渉することがなく、取り付け性が良好になる。
【0031】
また、本発明による木質材補強構造の他の態様において、
前記開口と前記貫通孔の正面視形状が、円形、もしくは、角部が湾曲したトラック形のいずれか一種であり、
前記開口補強片と前記貫通孔補強片がそれぞれ、前記開口と前記貫通孔に相補的な形状を備えていることを特徴とする。
【0032】
本態様によれば、開口補強片と前記貫通孔補強片がそれぞれ、前記開口と前記貫通孔に相補的な形状を備えていることにより、木質材に対して木質材補強部材が隙間無く接着されることから、木質材補強部材による補強効果の高い木質材補強構造が形成される。
【0033】
また、本発明による木質材補強構造の他の態様において、
前記長繊維材もしくは前記短繊維材が、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリアミド繊維のいずれか一種もしくは複数種により形成されていることを特徴とする。
【0034】
本態様によれば、上記する各種素材からなる繊維材が一種もしくは複数種適用されていることにより、木質材の開口周りと貫通孔周りの補強効果の高い木質材補強部材を形成できる。ここで、繊維材にガラス繊維を適用し、接着剤にエポキシ樹脂を適用することにより、これらはいずれも無色透明であることから、木質材の開口周りに取り付けられた際の木質材の外観意匠性への影響をより一層少なくできる。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から理解できるように、本発明の木質材補強部材と木質材補強構造によれば、木質材に設けられている開口の補強に際して、木質材の外観意匠性への影響を少なくでき、高い開口補強効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】第1実施形態に係る木質材補強部材の一例の斜視図である。
図2】第1実施形態に係る木質材補強部材の他の例の斜視図である。
図3】木質材の一対の側面にある一対の開口と、一対の開口に跨がる貫通孔に対して、2つの木質材補強部材を取り付ける前の状態を示す斜視図である。
図4】第1実施形態に係る木質材補強構造の一例の斜視図である。
図5】(a)、(b)、(c)はいずれも、図4のV-V矢視図である。
図6】第2実施形態に係る木質材補強部材の一例の斜視図である。
図7】第2実施形態に係る木質材補強構造の一例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、各実施形態に係る木質材補強部材と木質材補強構造について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0038】
[第1実施形態に係る木質材補強部材と木質材補強構造]
はじめに、図1乃至図5を参照して、第1実施形態に係る木質材補強部材と木質材補強構造について説明する。ここで、図1図2は、第1実施形態に係る木質材補強部材の一例の斜視図である。また、図3は、木質材の一対の側面にある一対の開口と、一対の開口に跨がる貫通孔に対して、2つの木質材補強部材を取り付ける前の状態を示す斜視図であり、図4は、第1実施形態に係る木質材補強構造の一例の斜視図である。さらに、図5(a)、(b)、(c)はいずれも、図4のV-V矢視図である。
【0039】
補強対象の木質材20は、図3に示すように、例えば板状の梁であり、木質材20の一対の側面21における対応する位置には、正面視形状が円形の開口23が開設されており、一対の開口23に跨がる貫通孔25が木質材20の厚み方向に延設している。この貫通孔25には、不図示の配管や電気線等が挿通されるようになっている。
【0040】
ここで、木質材20は、梁以外にも、柱や壁、床、天井、屋根等であってもよい。また、木質材20に開設されている開口23の正面視形状は、円形以外にも、楕円形、矩形を含む多角形、矩形の隅角部が湾曲状であるトラック形等であってよく、貫通孔の断面形状は開口の正面視形状に応じた形状となる。また、木質材20は、無垢材や集成材、CLT、LVL(Laminated Veneer Lumber、単板積層材)等、様々な木質材料により形成される。
【0041】
木質材20においては、貫通孔25と開口23の境界領域において、側方へ凸の湾曲状の面取り部24が設けられている。貫通孔25から開口23に亘り、以下で説明する木質材補強部材10等が取り付けられることになるが、貫通孔25と開口23の境界領域が角部でなく、図示例のように湾曲状の面取り部24や、その他、45度のテーパー状の面取り部(図示せず)であることによって、角部に木質材補強部材10の一部が接触し、さらに押圧された際の破損を抑制できる。ここで、貫通孔と開口の境界に面取り部24が設けられず、貫通孔と開口の境界が角部である形態であってもよい。
【0042】
木質材20に設けられている貫通孔25と開口23を補強する木質材補強部材として、図1に示す木質材補強部材10は、開口23周りの側面21に係止されて開口23周りを補強する、枠状(環状)の開口補強片15と、開口補強片15に連続して貫通孔25の内部に挿入され、貫通孔25を補強する、筒状の貫通孔補強片16とを有する。
【0043】
開口補強片15と貫通孔補強片16は、複数の長繊維材11,12により形成されている。ここで、長繊維材11,12は、長さが100mm程度かそれ以上の繊維材である。
【0044】
一方の長繊維材11は、貫通孔25の軸方向に沿う方向に延び、その途中で湾曲状に90度に曲がり、側面21に沿う方向に延びる繊維材であり、軸方向から見た際に複数の長繊維材11が放射方向に延びるように配設されている。それに対して、他方の長繊維材12は、軸方向から見た際に円周方向に延びており、複数の長繊維材12が、複数の長繊維材11と編み込まれることにより、木質材補強部材10が形成される。ここで、複数の長繊維材12と長繊維材11が相互に平行に配設され、相互に編み込まれることなく開口補強片と貫通孔補強片を形成する形態であってもよいが、相互に編み込まれることにより、木質材補強部材10の全体の一体性が高まり、全体の引張強度等を向上させることができて好ましい。
【0045】
長繊維材11,12は、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維、金属繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、及びポリアミド繊維のいずれか一種もしくは複数種により形成される。
【0046】
例えば、木質材20の貫通孔25の直径が20cm程度で、貫通孔25の軸方向の長さ(木質材20の厚み)が18cm程度の場合に、木質材補強部材10の軸方向と放射方向を含めた全長を30cm程度に設定できる。
【0047】
一方、図2に示す木質材補強部材10Aは、複数の斜め方向に延びる長繊維材13同士が所謂バイアス編みにて編み込まれることにより形成される、開口補強片17と、開口補強片17に連続する筒状の貫通孔補強片18とを有している。
【0048】
図示を省略するが、その他、複数のフェルト状の長繊維材がランダムに編み込まれて形成される、開口補強片と貫通孔補強片とを有する補強部材であってもよい。
【0049】
図3図4には、図1に示す木質材補強部材10を用いて、木質材20に設けられている2つの開口23周りと貫通孔25周りを補強する構造をその形成方法とともに示している。
【0050】
2つの木質材補強部材10は、それぞれ対応する開口23に対して正対され、貫通孔補強片16を貫通孔25に対してそれぞれX1方向とX2方向へ順に挿入することにより、開口23と貫通孔25に取り付けられる。
【0051】
この取り付けに当たり、開口補強片15における木質材20の側面21に当接する側の面や、貫通孔補強片16における外周面(貫通孔25の壁面に当接する側の面)には、予め接着剤を塗布しておく。
【0052】
ここで、接着剤には、エポキシ樹脂やフェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、水性高分子イソシアネート系樹脂、ポリウレタン樹脂、及びメラミンユリア共縮合樹脂等が適用できる。
【0053】
2つの木質材補強部材10のそれぞれの開口補強片15が開口23周りの側面21に接着剤を介して固定されつつ係止され、それぞれの貫通孔補強片16が貫通孔25の壁面に対して接着剤を介して固定されることにより、図4に示すように、2つの木質材補強部材10にて一対の開口23とこれらに跨がる貫通孔25が補強されている、木質材補強構造50が形成される。
【0054】
ここで、2つの木質材補強部材10のそれぞれの貫通孔補強片16の端部は、図5(a)乃至図5(c)のように様々な態様で固定されてよい。
【0055】
まず、図5(a)に示す例は、一方の貫通孔補強片16の端部に対して他方の貫通孔補強片16の端部がラップして重ね部27を形成し、相互に接着剤を介して固定されている。
【0056】
一方、図5(b)に示す例は、双方の貫通孔補強片16の端部が相互に離れ、隙間28を備えた状態で貫通孔25の壁面に固定されている。
【0057】
さらに、図5(c)に示す例は、双方の貫通孔補強片16の端部同士が相互に当接し、当接部29を形成した状態で貫通孔25の壁面に固定されている。
【0058】
木質材補強部材10,10Aによれば、複数の長繊維材11,12、13が編み込まれて形成される、開口補強片15とこれに連続する貫通孔補強片16を有することにより、その応力分散性によって局所的な応力集中に起因する木質材20の開口23周辺や貫通孔25周辺の破損を抑制することができ、木質材20の開口23周りと貫通孔25周りが効果的に補強された木質材補強構造50を形成できる。
【0059】
また、開口補強片15と貫通孔補強片16が複数の長繊維材11,12,13を含んでいることにより、長繊維材(繊維材)によって形成される開口補強片15の厚みは薄いことから、側面21からの突出厚も僅かとなり、さらには、繊維材の醸し出す柔軟な外観意匠性が木質材20と親和性を有することから、木質材20の外観意匠性への影響を少なくしながら、開口23周りと貫通孔25周りを補強することができる。
【0060】
ここで、例えば、長繊維材11,12,13としてガラス繊維を適用し、接着剤としてエポキシ樹脂を適用することにより、双方はともに無色透明の材料であることから、木質材20の開口23周りに開口補強片15が取り付けられた際の木質材20の外観意匠性への影響をより一層少なくできて好ましい。
【0061】
さらに、開口補強片15と貫通孔補強片16が変形自在な長繊維材11,12,13によって形成されていることから、木質材20の開口23と開口補強片15の寸法や、貫通孔25と貫通孔補強片16の寸法が相互に多少異なっている場合であっても、貫通孔補強片16等を所望に変形させて木質材20の開口23や貫通孔25に対して木質材補強部材10を密着させた状態で、接着剤を介して取り付けることができる。そのため、木質材20における開口23や貫通孔25の加工誤差等を木質材補強部材10の変形性能が吸収しながら、開口23及び貫通孔25を包囲するようにして木質材補強部材10を取り付けることができる。
【0062】
[第2実施形態に係る木質材補強部材と木質材補強構造]
次に、図6図7を参照して、第2実施形態に係る木質材補強部材と木質材補強構造について説明する。ここで、図6は、第2実施形態に係る木質材補強部材の一例の斜視図であり、図7は、第2実施形態に係る木質材補強構造の一例の斜視図である。
【0063】
図6に示す木質材補強部材10Bは、開口補強片15Aと貫通孔補強片16Aがいずれも、硬化した樹脂31,32の内部に複数の長繊維材11,12を含んでいる補強部材である。長繊維材11,12は、図1に示す木質材補強部材10と同様に相互に編み込まれており、編み込まれた複数の長繊維材11,12が図示例の形状のキャビティーを有する型内に載置され、キャビティーに樹脂が充填されて硬化することにより、硬化した樹脂31,32の内部に複数の長繊維材11,12が埋設されている木質材補強部材10Bが製作される。
【0064】
ここで、図示例の他にも、図2に示す木質材補強部材10Aと同様に、複数の斜め方向に延びる長繊維材13同士がバイアス編みにて編み込まれた補強部材が適用されてもよいし、複数のフェルト状の長繊維材がランダムに編み込まれた補強部材が適用されてもよい。さらに、長繊維材に代わり、短繊維材が適用されてもよい。ここで、短繊維材とは、長さが5mm乃至100mm程度の繊維材であり、配置方向が規則的な方向に制御され易い長繊維材に対して、短繊維材はランダムに分散され易く、従って、硬化した樹脂の内部において複数の短繊維材が分散した態様で木質材補強部材が形成される。
【0065】
木質材補強部材10Bを形成する硬化した樹脂31,32には、ポリエチレン(PE)や高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PUR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を適用できる。
【0066】
2つの木質材補強部材10Bのそれぞれの開口補強片15Aが開口23周りの側面21に接着剤を介して固定されつつ係止され、それぞれの貫通孔補強片16Aが貫通孔25の壁面に対して接着剤を介して固定されることにより、図7に示すように、2つの木質材補強部材10Bにて一対の開口23とこれらに跨がる貫通孔25が補強されている、木質材補強構造50Aが形成される。
【0067】
木質材補強構造50Aによれば、硬化した樹脂31,32の内部に複数の長繊維材11,12もしくは短繊維材を含んでいる木質材補強部材10Bが貫通孔25に挿入され、かつ開口23周りの側面21に係止されて接着剤を介して固定されていることにより、硬化した樹脂31,32によって初期の形状が維持されている木質材補強部材10Bと木質材20との取り付け性がより一層良好になる。さらに、硬化した樹脂31,32の内部に繊維材11,12が含まれていることから、より一層補強効果の高い木質材補強構造50Bを形成できる。
【0068】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【0069】
例えば、木質材の開口周りや貫通孔周りに対して、繊維材のシート(不織布を含む)をモザイク状に配置し、常温の樹脂を塗り固める、所謂ハンドレイアップ成形を用いて、木質材補強構造を形成してもよい。この形態では、繊維材のシートが木質材補強部材となる。一体ものの木質材補強部材では、開口や貫通孔の径に応じて1サイズずつ繊維のパーツを製作する必要があるが、複数の繊維材のシートをモザイク状に配置する本形態では、隣接するシートの端同士を重ねて貼れることにより、様々な径の開口や貫通孔に対して対応可能になる。
【符号の説明】
【0070】
10,10A,10B:木質材補強部材
11,12,13:長繊維材(繊維材)
15,17:開口補強片
16,18:貫通孔補強片
20:木質材(梁)
21:側面
23:開口
24:面取り部
25:貫通孔
27:重ね部
28:隙間
29:当接部
31,32:硬化した樹脂
50,50A:木質材補強構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7