(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008437
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ガスセンサのセンサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110317
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】宮西 啓太
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
(57)【要約】
【課題】ポンプセル電極における反応抵抗が低減されたセンサ素子を提供する。
【解決手段】センサ素子が、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる基体部と、それぞれが貴金属領域と酸素イオン伝導性の固体電解質領域とを含む多孔質サーメットからなるポンプセル電極である一方電極および他方電極と、両電極の間に位置する基体部の一部とを備え、両電極との間に所定の電圧が印加されることにより、一方電極において周囲の雰囲気中の酸素がイオン化されて一方電極と他方電極との間に酸素ポンプ電流が流れる、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、を備え、一方電極の断面SEM像における貴金属領域と固体電解質領域と空隙との三相界面の個数が0.4個/μm
2以上であり、断面SEM像に基づいて特定される貴金属パスの合計長さが0.45μm/μm
2以上であり、固体電解質パスの合計長さが0.6μm/μm
2以上である、ようにした。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサのセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる基体部と、
それぞれが貴金属領域と酸素イオン伝導性の固体電解質領域とを含む多孔質サーメットからなるポンプセル電極である一方電極および他方電極と、前記一方電極と前記他方電極との間に位置する前記基体部の一部とを備え、前記一方電極と前記他方電極との間に所定の電圧が印加されることにより、前記一方電極において周囲の雰囲気中の酸素がイオン化されて前記一方電極と前記他方電極との間に酸素ポンプ電流が流れる、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、
を備え、
前記一方電極の断面SEM像における前記貴金属領域と前記固体電解質領域と空隙との三相界面の個数が0.4個/μm2以上であり、
前記断面SEM像に基づいて特定される、前記一方電極における電子の伝導経路である貴金属パスの合計長さが0.45μm/μm2以上であり、
前記断面SEM像に基づいて特定される、前記一方電極における酸素イオンの伝導経路である固体電解質パスの合計長さが0.6μm/μm2以上である、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
前記貴金属パスの合計長さは、前記断面SEM像に設定された評価対象領域に含まれる貴金属領域を前記断面SEM像から抽出したうえで細線化処理することにより得られるパスの長さの合計を、前記評価対象領域の面積で除した値であり、
前記固体電解質パスの合計長さは、前記断面SEM像に設定された評価対象領域に含まれる固体電解質領域を前記断面SEM像から抽出したうえで細線化処理することにより得られるパスの長さの合計を、前記評価対象領域の面積で除した値である、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
外部から被測定ガスが導入されるガス導入口と、
前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通し、前記被測定ガスが導入される少なくとも1つの内部空所と、
前記少なくとも1つの内部空所に面して設けられてなる内側電極と、
前記少なくとも1つの内部空所以外に設けられてなる空所外電極と、
を備え、
少なくとも前記内側電極が前記一方電極に該当するとともに前記空所外電極が前記他方電極に該当することにより、前記少なくとも1つの電気化学的ポンプセルが構成されてなり、前記内側電極と前記空所外電極との間に所定の電圧が印加されることにより前記内側電極の周囲の雰囲気中の酸素が外部に排出される、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項4】
請求項3に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
前記少なくとも一つの内部空所が複数の内部空所であり、
前記複数の内部空所のそれぞれに面して前記内側電極が設けられてなり、
前記少なくとも1つの電気化学的ポンプセルが複数の電気化学的ポンプセルであり、
前記複数の内部空所のうち前記ガス導入口に最も近い第1内部空所に備わる前記内側電極である主ポンプ電極と、前記空所外電極と、前記主ポンプ電極と前記空所外電極との間に位置する前記基体部の一部とによって前記複数の電気化学的ポンプセルの1つである主ポンプセルが構成されてなり、
前記主ポンプセルにおいては、少なくとも前記主ポンプ電極が前記一方電極に該当するとともに前記空所外電極が前記他方電極に該当する、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【請求項5】
請求項4に記載のガスセンサのセンサ素子であって、
前記主ポンプセルにおいては、前記主ポンプ電極と前記空所外電極との間に印加する電圧の向きが、前記主ポンプ電極が前記一方電極に該当するとともに前記空所外電極が前記他方電極に該当する場合と反転させられた場合に、前記空所外電極が前記一方電極に該当するとともに前記主ポンプ電極が前記他方電極に該当する、
ことを特徴とするガスセンサのセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサのセンサ素子に関し、特に、センサ素子に備わる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等の内燃機関における燃焼ガスや排ガス等の被測定ガス中の酸素やNOxの濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスを基体に用いてセンサ素子を形成したガスセンサが公知である(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
係るガスセンサのセンサ素子は、被測定ガスと接触する種々の電極を備える。被測定ガスは通常、酸素を含んでおり、特許文献1および特許文献2に開示されるようなセンサ素子においては、上記電極を構成する貴金属と固体電解質に被測定ガスが接触する三相界面において、被測定ガス中の酸素やNOxから還元反応により酸素イオンが生じる。係る酸素イオンは固体電解質を伝導する。一方、貴金属においては酸素をイオン化するための電子が伝導する。
【0004】
より詳細には、特許文献1および特許文献2は、センサ素子の電極が、貴金属からなる貴金属領域と、固体電解質からなる固体電解質領域と、貴金属と固体電解質とが混在してなる混在領域とを有していることを開示する。特許文献1には、センサ素子の酸素分解活性を高めるためには三相界面を増やす必要がある、との開示もある。また、特許文献2には、混在領域においては三相界面が生じやすいこと、三相界面は被測定ガス中の分子に対する還元反応が生じる反応点となること、および、混在領域の幅を大きくすることで上記還元反応に対する反応抵抗や還元後に生じるイオンの拡散に係る拡散抵抗を小さくでき、被測定ガスの電極に対する反応性を向上することができることも、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6543583号公報
【特許文献2】特許第6693405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した還元反応により酸素イオンが生成される際の抵抗は、反応抵抗と称される。反応抵抗は、センサ素子の全体に生じる抵抗のうち、電極に由来する抵抗のほとんどを占めるものと考えられている。このような事情から、従来は、被測定ガスが接触する電極における三相界面が多いほど、当該電極における反応抵抗が低減されるものと考えられてきた。しかしながら、本発明の発明者が鋭意検討したところ、三相界面の多少のみで反応抵抗の大小を議論することは必ずしも妥当ではなく、反応抵抗の大小には、三相界面の多少以外の因子が影響しているとの知見を得るに至った。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ポンプセル電極における反応抵抗が従来よりも低減されたセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガス中の所定ガス成分を検知するガスセンサのセンサ素子であって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる基体部と、それぞれが貴金属領域と酸素イオン伝導性の固体電解質領域とを含む多孔質サーメットからなるポンプセル電極である一方電極および他方電極と、前記一方電極と前記他方電極との間に位置する前記基体部の一部とを備え、前記一方電極と前記他方電極との間に所定の電圧が印加されることにより、前記一方電極において周囲の雰囲気中の酸素がイオン化されて前記一方電極と前記他方電極との間に酸素ポンプ電流が流れる、少なくとも1つの電気化学的ポンプセルと、を備え、前記一方電極の断面SEM像における前記貴金属領域と前記固体電解質領域と空隙との三相界面の個数が0.4個/μm2以上であり、前記断面SEM像に基づいて特定される、前記一方電極における電子の伝導経路である貴金属パスの合計長さが0.45μm/μm2以上であり、前記断面SEM像に基づいて特定される、前記一方電極における酸素イオンの伝導経路である固体電解質パスの合計長さが0.6μm/μm2以上である、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、前記貴金属パスの合計長さは、前記断面SEM像に設定された評価対象領域に含まれる貴金属領域を前記断面SEM像から抽出したうえで細線化処理することにより得られるパスの長さの合計を、前記評価対象領域の面積で除した値であり、前記固体電解質パスの合計長さは、前記断面SEM像に設定された評価対象領域に含まれる固体電解質領域を前記断面SEM像から抽出したうえで細線化処理することにより得られるパスの長さの合計を、前記評価対象領域の面積で除した値である、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、外部から被測定ガスが導入されるガス導入口と、前記ガス導入口と所定の拡散抵抗の下で連通し、前記被測定ガスが導入される少なくとも1つの内部空所と、前記少なくとも1つの内部空所に面して設けられてなる内側電極と、前記少なくとも1つの内部空所以外に設けられてなる空所外電極と、を備え、少なくとも前記内側電極が前記一方電極に該当するとともに前記空所外電極が前記他方電極に該当することにより、前記少なくとも1つの電気化学的ポンプセルが構成されてなり、前記内側電極と前記空所外電極との間に所定の電圧が印加されることにより前記内側電極の周囲の雰囲気中の酸素が外部に排出される、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の態様は、第3の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、前記少なくとも一つの内部空所が複数の内部空所であり、前記複数の内部空所のそれぞれに面して前記内側電極が設けられてなり、前記少なくとも1つの電気化学的ポンプセルが複数の電気化学的ポンプセルであり、前記複数の内部空所のうち前記ガス導入口に最も近い第1内部空所に備わる前記内側電極である主ポンプ電極と、前記空所外電極と、前記主ポンプ電極と前記空所外電極との間に位置する前記基体部の一部とによって前記複数の電気化学的ポンプセルの1つである主ポンプセルが構成されてなり、前記主ポンプセルにおいては、少なくとも前記主ポンプ電極が前記一方電極に該当するとともに前記空所外電極が前記他方電極に該当する、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の態様は、第4の態様に係るガスセンサのセンサ素子であって、前記主ポンプセルにおいては、前記主ポンプ電極と前記空所外電極との間に印加する電圧の向きが、前記主ポンプ電極が前記一方電極に該当するとともに前記空所外電極が前記他方電極に該当する場合と反転させられた場合に、前記空所外電極が前記一方電極に該当するとともに前記主ポンプ電極が前記他方電極に該当する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1ないし第5の態様によれば、センサ素子に備わるポンプセル電極における酸素をイオン化するための反応抵抗が、従来よりも低減される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】ポンプセル電極における酸素イオンの生成の様子を模式的に示す図である。
【
図3】ポンプセル電極の断面SEM像における貴金属パスについて例示する図である。
【
図4】ポンプセル電極の断面SEM像における評価対象範囲の例と貴金属パスおよび固体電解質パスの合計長さの算出例を示す図である。
【
図5】センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
【
図6】ポンプセル電極形成用ペーストに用いる貴金属原料粉末の粒径を一定とし、固体電解質原料粉末の粒径を違えたときに、最終的に得られるポンプセル電極に現れる構造の違いを、模式的に示す図である。
【
図7】インピーダンス測定のための構成を模式的に示す図である。
【
図8】実施例の作用極EL1の断面SEM像である。
【
図9】比較例1の作用極EL1の断面SEM像である。
【
図10】比較例2の作用極EL1の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ガスセンサの概略構成>
図1は、本実施の形態に係るガスセンサ100の構成の一例を概略的に示す図である。ガスセンサ100は、センサ素子101によって例えばNOxなどの所定のガス成分を検知し、その濃度を測定する、限界電流型のガスセンサである。また、ガスセンサ100は、各部の動作を制御するとともに、センサ素子101を流れる検知電流に基づいて検知対象ガス成分の濃度を特定するコントローラ110をさらに備える。
図1は、センサ素子101の長手方向に沿った垂直断面図を含んでいる。以下においては、検知対象ガス成分がNOxである場合を例に説明する。
【0016】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO
2)からなる(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、
図1におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0017】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0018】
センサ素子101の一先端部であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10を兼ねる第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0019】
緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間(領域)である。なお、ガス導入口10についても同様に、第1拡散律速部11とは別に、センサ素子101の先端面(図面視左端)においてスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられてなる態様であってもよい。係る場合、第1拡散律速部11がガス導入口10よりも内部に隣接形成されることになる。
【0020】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30と、第4拡散律速部60とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位をガス流通部とも称する。
【0021】
また、ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0022】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0023】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0024】
ガス流通部において、ガス導入口10(第1拡散律速部11)は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0025】
第1拡散律速部11は、取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0026】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0027】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0028】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0029】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0030】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ(主ポンプ)電極22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側(空所外)ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0031】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0032】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0033】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、例えばPtあるいはPtとAuなどとの合金である貴金属と、固体電解質(ジルコニア)との多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrO2とのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。貴金属と固体電解質との重量比率は、貴金属:固体電解質=8.5:1.5~5.0:5.0程度であればよい。
【0034】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrO2とのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0035】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向に主ポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0036】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセルである主センサセル80が構成されている。
【0037】
主センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0038】
さらに、コントローラ110が、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0039】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0040】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をさらに調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40においては、被測定ガスの酸素濃度がさらに高精度に調整される。
【0041】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。
【0042】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0043】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所40の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0044】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0045】
補助ポンプセル50においては、コントローラ110による制御のもと、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧(補助ポンプ電圧)Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0046】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセルである補助センサセル81が構成されている。
【0047】
この補助センサセル81にて検出される、第2内部空所40内の酸素分圧に応じた起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0048】
また、これとともに、その補助ポンプ電流Ip1が、主センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、補助ポンプ電流Ip1は、制御信号として主センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0049】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0050】
第3内部空所61は、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間(測定用内部空所)として設けられている。NOx濃度の測定は、第3内部空所61において、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。第3内部空所61には、第2内部空所40において酸素濃度が高精度に調整された被測定ガスが導入されるため、ガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0051】
測定ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0052】
測定電極44は、貴金属と固体電解質との多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはPtとRhなどの他の貴金属との合金と、センサ素子101の構成材料たるZrO2とのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0053】
測定ポンプセル41においては、コントローラ110による制御のもと、測定電極44の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0054】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセルである測定センサセル82が構成されている。測定センサセル82にて検出される、測定電極44の周囲の酸素分圧に応じた起電力V2に基づいて、可変電源46が制御される。
【0055】
第3内部空所61内に導かれた被測定ガス中のNOxは測定電極44により還元され(2NO→N2+O2)、酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧(測定ポンプ電圧)Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中のNOxの濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中のNOx濃度が算出されることとなる。以降、係るポンプ電流Ip2のことを、NOx電流Ip2とも称する。
【0056】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0057】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0058】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0059】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、
図1においては図示を省略するヒータ抵抗検出リードとを、主として備えている。また、ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0060】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0061】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、
図1においては図示を省略する、センサ素子101の外部に備わる図示しないヒータ電源から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより、発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~20μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0062】
センサ素子101においては、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が700℃~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、センサ素子駆動温度と称する。
【0063】
ヒータエレメント72による発熱の程度(ヒータ温度)は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。
【0064】
なお、
図1においては図示を省略しているが、センサ素子101の一先端部側(図面視左端側)の所定範囲の外周に、センサ素子101を覆う単層または多層の多孔質層である耐熱衝撃保護層がさらに備わる態様であってもよい。係る耐熱衝撃保護層は、ガスセンサ100の使用時に被測定ガスに含まれる水分がセンサ素子101に付着して凝縮することに伴い生じる熱衝撃により、センサ素子101にクラックが発生することを防ぐ目的や、被測定ガス中に混在する被毒物質がセンサ素子101の内部に入り込むことを防ぐ目的で、設けられる。なお、センサ素子101と耐熱衝撃保護層との間に層状の空隙(空隙層)が形成される態様であってもよい。
【0065】
<ポンプセル電極における反応>
上述のように、ガスセンサ100におけるNOxの測定に際しては、いずれもが電気化学的ポンプセルである主ポンプセル21および補助ポンプセル50において被測定ガス中の酸素が汲み出される。また、測定ポンプセル41においては、測定電極44の触媒作用によるNOxの還元により生じた酸素が汲み出される。
【0066】
一方、主ポンプセル21においては、汲み出し時と電圧の印加の向きを反転させることで、外側ポンプ電極23から酸素を汲み入れる動作が行われる場合もある。
【0067】
これらの酸素の汲み出しあるいは汲み入れは、内側ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、測定電極44、あるいは外側ポンプ電極23(以下、これらの電極をポンプセル電極と総称する)にて周囲の雰囲気中の酸素が還元され、それぞれのポンプセル電極の属するポンプセルにおいて酸素ポンプ電流(主ポンプ電流Ip0、補助ポンプ電流Ip1、あるいはNOx電流Ip2)が流れることにより、実現される。より詳細には、それぞれのポンプセルにおいて、上述の還元反応により生成された酸素イオンがポンプセル電極と対になっているもう一方の電極(他方電極)へと移動し、係る他方電極にて酸化されて再び酸素(分子)となることにより、実現される。
【0068】
図2は、ポンプセル電極における酸素イオンの生成の様子を模式的に示す図である。ポンプセル電極における酸素の還元は、ポンプセル電極に含まれる貴金属の存在する領域である貴金属領域NMと、センサ素子101の基体部を構成するとともにポンプセル電極にも含まれる固体電解質(ジルコニア)からなる固体電解質領域SEと、係るポンプセル電極に存在する気孔(空隙)VSとの三相界面IFにおいて起こる。
【0069】
より具体的には、それぞれのポンプセル電極においては、それぞれに貴金属領域NMあるいは固体電解質領域SEに属する粒子であって互いに隣接する、個々の貴金属粒子NM1および固体電解質粒子SE1と、両者の界面に隣接して存在する気孔VSとによって、多数の三相界面IFが形成されてなる。当該三相界面IF近傍においては、気孔VSに入り込んだ周囲の雰囲気中の酸素が、貴金属粒子NM1に吸着する。
【0070】
一方で、貴金属粒子NM1を含むポンプセル電極は、
図1においては模式的にのみ示す接続配線を介してセンサ素子101外部の可変電源24、52、あるいは46と電気的に接続されてなる。そのため、貴金属粒子NM1に酸素が吸着した状態で、それら可変電源によって各ポンプセルのポンプセル電極と他方電極との間に電圧が印加されると、貴金属粒子NM1に吸着した酸素原子が三相界面IFにて貴金属領域NM内を伝導してきた電子を受け取ることによって、酸素イオンが生成される。生成された酸素イオンは、同じく三相界面IFを構成する固体電解質粒子SE1を含む固体電解質領域SE内を伝導し、他方電極に到達する。他方電極において電子を奪われることで生じる酸素分子が、他方電極から放出される。これが、それぞれのポンプセルにおいて酸素ポンプ電流が流れるプロセスである。
【0071】
<反応抵抗と三相界面、貴金属パス、および固体電解質パスとの関係>
以上のようなプロセスにおける酸素イオン生成時の抵抗(還元反応の抵抗)は、反応抵抗と称される。反応抵抗は、センサ素子101の全体に生じる抵抗のうち、ポンプセル電極に由来する抵抗のほとんどを占めている。それゆえ、反応抵抗の低減は、センサ素子101の駆動電力(例えば、可変電源にて消費される電力)の低減に繋がる。また、ポンプセル電極の反応抵抗が低いということは、単位面積あたりのポンプセル電流が大きいということであるので、センサ素子101において従来と同程度のポンプセル電流を流したい場合に、よりもポンプセル電極の面積を小さくすることも可能である。
【0072】
なお、本実施の形態においては反応抵抗を、ポンプセル電極を対象としたインピーダンス測定を行い、その結果についてCole-Coleプロットを行い、得られたプロットにおいて数百Hzの周波数領域に現れる円弧の大きさに基づいて反応抵抗の値を特定するという、公知の手法にて、求めるものとする。ただし、センサ素子101に実際に形成したポンプセル電極を対象とする測定に代えて、当該ポンプセル電極と略同一の条件にて作製したテストピースを用いて、反応抵抗を測定する態様であってもよい。
【0073】
また、本実施の形態においては、ポンプセル電極の反応抵抗の値が1.5Ω以下である場合に、当該ポンプセル電極は、反応抵抗が低いものとする。これは、反応抵抗が1.5Ωを超えると、センサ素子101の駆動電力が増大する傾向が顕著となり、好ましくないためである。
【0074】
上述した還元反応のプロセスを踏まえると、反応抵抗の低減には、三相界面IFを十分に確保することが重要であるが、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、これに加え、ポンプセル電極における電子の伝導(移動)経路である貴金属パスと、ポンプセル電極における酸素イオンの伝導(移動)経路である固体電解質パスとを好適に確保することによって、反応抵抗のさらなる低減を図るようにしている。より詳細には、貴金属パスは、貴金属領域NMにおけるポンプセル電極とリード線との接続箇所から三相界面IFまでの電子の伝導(移動)経路であり、ポンプセル電極を構成する貴金属粒子が連接し合うことによって形成されてなる。また、固体電解質パスは、固体電解質領域SEにおける三相界面IFから基体部とポンプセル電極の接合箇所までの酸素イオンの伝導(移動)経路であり、ポンプセル電極を構成する固体電解質粒子が連接し合うことによって形成されてなる。
【0075】
従来は、三相界面IFが十分に存在することが反応抵抗を低減させ、電極における反応性を向上させるうえにおいて重要であると考えられていたが、本実施の形態においては、係る三相界面IFの個数を十分に確保することに加えて、リード線と三相界面IFとを繋ぐ貴金属パスと、基体部と三相界面IFとを繋ぐ固体電解質パスとを十分に確保することで、反応抵抗をより低減させるようにする。
【0076】
ただし、ポンプセル電極を構成する貴金属粒子および固体電解質粒子は、そのサイズは最大でもせいぜい数μm程度に過ぎず、また、ランダムな3次元網目状に連接する。そのため、ポンプセル電極に存在する三相界面の全てを直接的に把握することは容易ではない。また、貴金属パスおよび固体電解質パスの多少やつながりの程度を直接的に評価することも、容易ではない。
【0077】
そこで、本実施の形態においては、ポンプセル電極の任意の断面をSEM(走査電子顕微鏡)にて撮像し、得られた断面SEM像(具体的にはBED像:反射電子像)における三相界面の個数、貴金属パスの合計長さ、および、固体電解質パスの合計長さをそれぞれに特定し、得られた値をそれぞれ、ポンプセル電極の評価指標として用いるようにする。なお、本実施の形態においては、特に断らなくとも、三相界面の個数、貴金属パスの合計長さ、および、固体電解質パスの合計長さを、ポンプセル電極の断面の単位面積あたり(具体的には1μm2あたり)の値として評価する。
【0078】
図3は、ポンプセル電極の断面SEM像における貴金属パスについて例示する図である。具体的には、
図3は、固体電解質領域SEを構成する基体部BS(より詳細には第1固体電解質層4)の上に形成された内側ポンプ電極22の(より詳細には底部電極部22bの)部分断面拡大SEM像である。なお断面SEM像(BED像)においては通常、貴金属領域NMは白色に視認され、気孔VSは黒色に視認され、固体電解質領域SEは両者の中間の明度を有する灰色に視認される。
【0079】
多孔質のサーメット電極である内側ポンプ電極22においては、それぞれに複数の粒子が連接してなる貴金属領域NMおよび固体電解質領域SEと、気孔(空隙)VSとがランダムな形状にて混在している。また、一部の固体電解質領域SEは、基体部BSをなしている。
【0080】
そして、図内中央の貴金属領域NM(NMa)に着目すると、係る貴金属領域NMaの断面は、複数の粒子がランダムに連接し、複数の突起Qを有する不定形をなしている。概略的あるいは定性的にいえば、
図3に示すような、それぞれの突起Q同士を結ぶ経路が、貴金属領域NMaの断面における貴金属パスPTである。ポンプセル電極の断面の、あらかじめ定めた十分な範囲をSEMにて撮像し、得られたSEM像に含まれる全ての貴金属領域NMについて、上述のような貴金属パスPTを特定し、さらにはその長さを求めるようにすれば、その総和が当該SEM像における貴金属パスの合計長さ(全長)となる。
【0081】
固体電解質領域SEについても、同じSEM像から同様に、固体電解質パスの特定ひいては固体電解質パスの合計長さ(全長)の算出を、行うことが可能である。
【0082】
また、三相界面の個数については、断面SEM像において直接に計数することが出来る。
【0083】
なお、
図3に示す貴金属領域NMaのように、断面SEM像では孤立していると判断される貴金属領域および固体電解質領域であっても、他の箇所においてリード線あるいは基体部にまで連続している可能性はあり、しかも、断面SEM像におけるそれぞれの長さが大きいほど、係る可能性は高いと考えられる。また、ポンプセル電極には通常、非常に多数の貴金属パスおよび固体電解質パスが形成されるので、断面SEM像において確認される三相界面の個数が多いほど、当該ポンプセルの全体に実際に存在している三相界面の個数も多いことが、推認される。同様に、断面SEM像において確認される貴金属パスの長さおよび固体電解質パスの長さが大きいほど、当該ポンプセルの全体に実際に存在している貴金属パスおよび固体電解質パスの数が多いことも、推認される。よって、断面SEM像に基づき把握される三相界面の個数の多少や貴金属パスおよび固体電解質パスの合計長さの多少は、実際のポンプセル電極全体における三相界面の個数の多少や貴金属パスおよび固体電解質パスの全長の多少を反映しているものと判断される。
【0084】
本実施の形態においては、以上の点を踏まえ、断面SEM像に基づき特定される三相界面の個数、貴金属パスの合計長さ、および、固体電解質パスの合計長さのそれぞれの範囲を好適に定めることで、ポンプセル電極における反応抵抗が低減されるようにする。
【0085】
具体的には、ポンプセル電極の断面SEM像における三相界面の個数を0.4個/μm2以上とし、貴金属パスの合計長さを0.45μm/μm2以上とし、固体電解質パスの合計長さを0.6μm/μm2以上とする。以下においては、これら3つを、ポンプセル電極についての低抵抗要件と称する。係る低抵抗要件がみたされるポンプセル電極においては、反応抵抗が1.5Ω以下に低減される。
【0086】
ポンプセル電極においてこのような低抵抗要件がみたされるようにするには、例えば、センサ素子101の製造プロセスにおいて用いる、ポンプセル電極形成用ペーストの原料粉末を、所定の条件をみたすように調製・混合するようにすればよい。
【0087】
<具体的な評価手法>
次に、上述した断面SEM像を用いた、三相界面数と、貴金属パスおよび固体電解質パスの合計長さの評価の具体的手法の一例について説明する。
図4は、ポンプセル電極の断面SEM像における評価対象範囲の例と貴金属パスおよび固体電解質パスの合計長さの算出例を示す図である。
【0088】
(評価対象領域の設定)
まず、あらかじめ用意した、評価対象たるポンプセル電極の断面を、SEMにて例えば倍率3000倍にて撮像する。そして、得られた断面SEM像(評価対象画像)におけるポンプセル電極の存在範囲が出来るだけ多く含まれるように、評価対象領域を設定する。
図4には、評価対象画像の一例(
図4においては「元画像」と称している)を示すとともに、矩形状の領域Aを評価対象領域の一例として示している。また、以降においては、係る評価対象領域の面積を、電極面積と称する。
【0089】
(三相界面の個数)
三相界面の個数は、評価対象画像において特定した評価対象領域に存在する三相界面を目視にて特定し、それらをカウントすることにより得る。得られた計数値を、電極面積にて除することにより、単位面積当たりの三相界面数を算出する。
【0090】
(貴金属パスの長さ)
評価対象画像を所定の画像解析ソフト(例えば伯東株式会社製ImagePro)に取り込み、貴金属領域NMのみを抽出する。そして、抽出された領域を公知の手法にて細線化処理することにより、貴金属パスを得る。
図4には、領域Aから抽出された貴金属パスを示している。そして、得られた貴金属パスの長さを合計し、係る合計値を電極面積にて除することにより、単位面積あたりの貴金属パスの長さを算出する。
【0091】
(固体電解質パスの長さ)
上述のように画像解析ソフトに取り込んだ処理対象画像から、固体電解質領域SEのみを抽出する。そして、抽出された領域を公知の手法にて細線化処理することにより、固体電解質パスを得る。
図4には、領域Aから抽出された固体電解質パスを示している。そして、得られた固体電解質パスの長さを合計し、係る合計値を電極面積にて除することにより、単位面積あたりの固体電解質パスの長さを算出する。
【0092】
<センサ素子の製造プロセス>
次に、上述のような構成および特徴を有するセンサ素子101を製造するプロセスについて説明する。本実施の形態においては、ジルコニアをセラミックス成分として含むグリーンシート(基材テープとも称する)からなる積層体を形成し、該積層体を切断・焼成することによってセンサ素子101を作製する。
【0093】
以下においては、
図1に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。係る場合、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6とに対応する6枚のグリーンシートが用意されることになる。
図5は、センサ素子101を作製する際の処理の流れを示す図である。
【0094】
センサ素子101を作製する場合、まず、パターンが形成されていないグリーンシートであるブランクシート(図示省略)を用意する(ステップS1)。6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合であれば、各層に対応させて6枚のブランクシートが用意される。
【0095】
ブランクシートは、印刷時や積層時の位置決めに用いる複数のシート穴が設けられている。係るシート穴は、パターン形成に先立つブランクシートの段階で、パンチング装置による打ち抜き処理などで、あらかじめ形成されている。なお、対応する層が内部空間を構成するグリーンシートの場合、該内部空間に対応する貫通部も、同様の打ち抜き処理などによってあらかじめ設けられる。また、センサ素子101の各層に対応するそれぞれのブランクシートの厚みは、全て同じである必要はない。
【0096】
各層に対応したブランクシートが用意できると、それぞれのブランクシートに対してパターン印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。具体的には、各種電極のパターンや、ヒータエレメント72やヒータ絶縁層74などのパターンや、図示を省略している内部配線のパターンなどが、形成される。
【0097】
また、係るパターン印刷のタイミングで、第1拡散律速部11、第2拡散律速部13、および第3拡散律速部30を形成するための昇華性材料の塗布あるいは配置も併せてなされる。
【0098】
各々のパターンの印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してブランクシートに塗布することにより行う。印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0099】
これらのパターンの形成に使用するパターン形成用ペーストのうち、最終的に低抵抗要件をみたすポンプセル電極を形成可能なポンプセル電極形成用ペーストについては、詳細を後述する。
【0100】
各ブランクシートに対するパターン印刷が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う(ステップS3)。接着用ペーストの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を利用可能であり、印刷後の乾燥処理についても、公知の乾燥手段を利用可能である。
【0101】
続いて、接着剤が塗布されたグリーンシートを所定の順序に積み重ねて、所定の温度・圧力条件を与えることで圧着させ、一の積層体とする圧着処理を行う(ステップS4)。具体的には、図示しない所定の積層治具に積層対象となるグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ積み重ねて保持し、公知の油圧プレス機などの積層機によって積層治具ごと加熱・加圧することによって行う。加熱・加圧を行う圧力・温度・時間については、用いる積層機にも依存するものであるが、良好な積層が実現できるよう、適宜の条件が定められればよい。
【0102】
上述のようにして積層体が得られると、続いて、係る積層体の複数個所を切断してセンサ素子101個々の単位(素子体と称する)に切り出す(ステップS5)。
【0103】
そして、切り出された素子体を焼成する(ステップS6)。これにより、センサ素子101が作製される。すなわち、センサ素子101は、固体電解質層と電極との一体焼成によって生成されるものである。その際の焼成温度は、1200℃以上1500℃以下(例えば1400℃)が好適である。なお、係る態様にて一体焼成がなされることで、センサ素子101においては、各電極が十分な密着強度を有するものとなっている。
【0104】
このようにして得られたセンサ素子101は、所定のハウジングに収容され、ガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込まれる。
【0105】
<ポンプセル電極形成用ペースト>
次に、低抵抗要件をみたすポンプセル電極をセンサ素子101に形成可能なポンプセル電極形成用ペーストについて説明する。ポンプセル電極形成用ペーストは概略、固体電解質原料粉末と貴金属原料粉末との混合粉末を、バインダーと攪拌・混合したものである。なお、一部の貴金属については、そのレジネートを混合する態様であってもよい。係るポンプセル電極形成用ペーストからなる電極パターンが所定位置に形成されてなる素子体の一体焼成の過程で、バインダーが蒸発することで、多孔質サーメット電極たるポンプセル電極が形成される。
【0106】
上述した、低抵抗要件をみたすポンプセル電極を得るためには、貴金属原料粉末の粒径の最頻値が0.3μm~3μmの範囲に入るものを用い、固体電解質原料粉末として、粒径の最頻値が0.5μm~1.0μmの範囲に入るものを用いるのが好ましい。また、貴金属原料粉末と固体電解質原料粉末との重量比率は、8.5:1.5~5.0:5.0程度とするのが好ましい。
【0107】
図6は、ポンプセル電極形成用ペーストに用いる貴金属原料粉末の粒径を一定とし、固体電解質原料粉末の粒径を違えたときに、最終的に得られるポンプセル電極に現れる構造の違いを、模式的に示す図である。
【0108】
図内中央に示すのが、固体電解質原料粉末と貴金属原料粉末の粒径の最頻値がいずれも、上述した好適な範囲をみたす場合であるとする。係る場合、固体電解質原料粉末の粒子が、適度に隙間を空けつつ貴金属原料粉末の粒子同士の間に適度に入り込むことで、最終的に得られるポンプセル電極においては、貴金属原料粉末の凝集が抑制されるとともに、気孔も相応に形成される。結果として、三相界面が十分に形成されるととともに、固体電解質パスおよび貴金属パスも好適につながるようになる。
【0109】
これに対し、固体電解質原料粉末の粒径の最頻値が過大である場合、貴金属原料粉末の粒子同士の間に入り込みにくくなるために、ポンプセル電極の形成過程で貴金属原料粉末の凝集が顕著となり、ポンプセル電極において個々の貴金属領域が粗大化する。係る場合、貴金属パスが十分に形成されず、反応抵抗が増大してしまうため、好ましくない。
【0110】
なお、図示は省略するが、貴金属原料粉末の粒径の最頻値が過大である場合もやはり、貴金属原料粉末の凝集が顕著となり、結果的に反応抵抗が増大してしまうため、好ましくない。
【0111】
一方、固体電解質原料粉末の粒径の最頻値が過小である場合、固体電解質原料粉末の粒子が貴金属原料粉末の粒子同士の間に入り込みやすくなるために、最終的に得られるポンプセル電極においては、貴金属原料粉末の凝集が抑制されるものの、緻密化が進んで気孔が形成され難くなる。係る場合、三相界面が十分に形成されず、反応抵抗が増大してしまうため、好ましくない。
【0112】
また、図示は省略するが、貴金属原料粉末の粒径の最頻値が過小である場合もやはり、貴貴金属原料粉末の凝集が抑制されるものの、緻密化が進んで気孔が形成され難くなり、結果的に反応抵抗が増大してしまうため、好ましくない。
【0113】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、センサ素子に設けられる貴金属と固体電解質との多孔質サーメット電極であるポンプセル電極において、貴金属領域と固体電解質領域と被測定ガス等の周囲の雰囲気ガスが入り込む空隙との三相界面の個数と、貴金属粒子が連接し合うことによって形成されてなる貴金属パスの合計長さと、固体電解質粒子が連接し合うことによって形成されてなる固体電解質パスの合計長さとが、所定の低抵抗要件をみたすようにすることで、当該ポンプセル電極の反応抵抗を良好に低減させることができる。
【0114】
具体的には、ポンプセル電極の任意の断面における三相界面の個数を0.4個/μm2以上とし、貴金属パスの合計長さを0.45μm/μm2以上とし、固体電解質パスの合計長さを0.6μm/μm2以上とすることで、ポンプセル電極の反応抵抗を1.5Ω以下にまで低減することができる。係る場合、センサ素子の駆動電力が低減されたガスセンサが、実現される。また、ポンプセル電極の面積を低減することも可能となる。
【実施例0115】
実施例として、センサ素子101の内側ポンプ電極22の作製条件に準じて、低抵抗要件をみたすポンプセル電極のテストピースを作製し、係るテストピースのインピーダンス測定を行って、反応抵抗を求めた。また、断面SEM像に基づく三相界面の計数と貴金属パスおよび固体電解質パスのそれぞれの合計長さの算出も行った。なお、センサ素子101そのものではなくテストピースを評価対象とするのは、複数のポンプセルが共存しかつそれらが外側ポンプ電極23を共用しているセンサ素子101の場合に起こり得る他の要素の影響を排除し、一のポンプセル電極における反応抵抗をより容易にかつ直接的に評価するためである。
【0116】
加えて、ポンプセル電極形成用ペーストの作製に用いる固体電解質原料粉末の粒径の最頻値を、実施例よりも大きくしたテストピースと、実施例よりも小さくしたテストピースとをともに作製し、それぞれ比較例1、比較例2とした。これら比較例1および比較例2のテストピースについても、実施例と同様に、インピーダンス測定と、断面SEM像に基づく三相界面の計数と貴金属パスおよび固体電解質パスのそれぞれの合計長さの算出とを行った。
【0117】
まず、固体電解質原料粉末としてはYSZ(イットリア安定化ジルコニア)を用意し、分散剤(POAアルキルエーテルリン酸エステル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート混合物質)を添加したIPA溶液中で粉砕し、N2雰囲気中で乾燥することにより、粒径の最頻値を調製した。具体的には、実施例については、0.5μm~1.0μmなる範囲内の値となるようにし、比較例1については1μm~10μmなる範囲内の値となるようにし、比較例2については0.08μm~0.20μmなる範囲内の値となるようにした。
【0118】
なお、粉末の粒径分布は、水:粉末の体積比が約1:20程度になるようにスラリーを作成し約30秒超音波分散したのち、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA-950V2)を用いて測定した。溶媒は水とし、データ取り込み回数は5000回とし、固体電解質の屈折率を2.1として散乱光データを粒度分布に換算した。
【0119】
得られた固体電解質原料粉末を、別途用意した、貴金属原料粉末としての白金粉末と混合した。白金粉末としては、実施例1、比較例1に関しては粒径の最頻値が0.3μm~3μmの範囲にあるものを用い、比較例2に関しては粒径の最頻値が0.1μm~0.5μmの範囲にあるものを用いた。混合比は、体積比にて固体電解質:貴金属=40:60とした。
【0120】
得られた混合粉末を、5mmΦのジルコニアボールと、Au粉末と、バインダー溶液とともにプラスチック容器中に入れ、攪拌することにより、ポンプセル電極形成用ペーストを得た。
【0121】
次いで、得られたポンプセル電極形成用ペーストを用いて、実施例、比較例1、および比較例2のそれぞれのテストピースを作製した。続けて、係るテストピースに対し、反応抵抗を行うための構成要素を付加した。
図7は、それぞれのテストピースを対象とするインピーダンス測定のための構成を模式的に示す図である。
【0122】
まず、ポンプセル電極形成用ペーストをジルコニアシートの両面の所定位置に印刷したものを、1365℃にて3時間焼成した。これにより、ジルコニアからなる基体部BSの両面に3つの電極を備えるテストピースを得た。より具体的には、一方主面に作用極EL1と参照極EL3とを設け、他方主面の作用極EL1と対向する位置に、対極EL2を設けるようにした。係る場合においては、作用極EL1が、ポンプセル電極の代わりとなる反応抵抗の測定対象とされる。
【0123】
作用極EL1および対極EL2は直径が10mmの円形とした。参照極EL3は、作用極EL1から9mm離隔させた位置に、係る離隔方向における沿ったサイズが5mmであり、当該離隔方向と直交する方向におけるサイズが10mmである矩形とした。いずれの電極も、狙いの厚みは15~20μmとした。
【0124】
次いで、各電極の上に、それぞれの電極よりも一回り小さいサイズにて印刷した白金ペースト膜の上に白金メッシュMの一方端部を接触させた状態で800℃にて1時間焼成することにより、白金メッシュMを白金ペースト膜PFともども各電極に焼き付けた。またそれぞれの白金メッシュMの他方端部には、インピーダンス測定装置(Bio-Logic Science Instruments製VMP-300)との接続配線とするために、直径0.1mmのリード線(白金線)Lを巻き付けた。
【0125】
そして、インピーダンス測定装置の第1の電流端子(
図7においては[電流1])および第1の電圧端子(
図7においては[電圧1])と作用極EL1とをリード線Lにて接続し、インピーダンス測定装置の第2の電流端子(
図7においては[電流2])および第2の電圧端子(
図7においては[電圧2])とをつなげて1つにしたものと対極EL2とをリード線Lにて接続し、インピーダンス測定装置の第3の電圧端子(
図7においては[電圧3])と参照極EL3とをリード線Lにて接続した。
【0126】
インピーダンス測定に際しては、作用極EL1の抵抗のみを測定するべく、作用極EL1と対極EL2の間に電圧をかけ、電流を流しながら、作用極EL1と参照極EL3の間の電圧を測定した。測定条件は、以下の通りとした。
【0127】
サンプル温度:700℃;
測定雰囲気:大気;
周波数範囲:0.1Hz~7MHz;
振幅:40mV、DC Bias:-200mV。
【0128】
実施例1、比較例1、および比較例2のそれぞれについて、インピーダンス測定結果に基づく公知のCole-Coleプロットを行うことにより、反応抵抗を求めた。反応抵抗は、Cole-Coleプロットにて数百Hz程度の周波数領域で現れる円弧(あるいは係る円弧を実数軸にまで外挿した円弧)と実数軸との2つの交点の、実数軸上の距離として、算出される。
【0129】
さらに、インピーダンス測定後のテストピースについて、作用極EL1の断面を露出させ、SEMによる3000倍での撮像を行った。得られた断面SEM像において評価対象領域を設定し、係る評価対象領域を対象に、上述した手法に、三相界面の計数と貴金属パスおよび固体電解質パスのそれぞれの合計長さの算出を行った。
【0130】
図8、
図9、および
図10は、それぞれ、実施例、比較例1、および比較例2の作用極EL1の断面SEM像である。
【0131】
また、表1に、実施例、比較例1、および比較例2の三相界面数と、貴金属パスの合計長さ(全長)と、固体電解質パスの合計長さ(全長)と、インピーダンス測定結果より求めた反応抵抗とを、一覧にして示す。
【0132】
【0133】
(実施例と比較例1との対比)
表1に示すように、実施例では、三相界面の個数が0.4個/μm2以上であり、貴金属パスの合計長さが0.45μm/μm2以上であり、固体電解質パスの合計長さが0.6μm/μm2以上であるという、3つの低抵抗要件を全て充足していたのに対し、比較例1は、3つの低抵抗要件のいずれも充足しなかった。
【0134】
そして、反応抵抗についてみれば、3つの低抵抗要件を全て充足した実施例では1.4Ωという、上述の実施の形態における低抵抗の基準値である1.5Ωよりも小さい値が得られたのに対し、いずれも充足しない比較例1では、基準値を大きく超える4.1Ωという値となった。
【0135】
図8と
図9とを比較すると、実施例の方が、比較例1よりも、貴金属領域NM、固体電解質領域SE、および気孔VSのいずれについても、サイズが小さい傾向、あるいは、幅が細い傾向があることが確認される。さらにいえば、
図8に示す実施例の方が、
図9に示す比較例1よりも、連続する貴金属領域NMと連続する固体電解質領域SEとが互いに微細に入り込んでおり、かつ、微細な気孔VSが分散している傾向がある。表1における実施例と比較例1の相違は、両者のSEM像における相違に対応したものであるといえる。
【0136】
(実施例および比較例1と比較例2との対比)
表1に示すように、実施例は上述のように3つの低抵抗要件を全て充足していたが、比較例2は、貴金属パスの合計長さと固体電解質の合計長さについては充足していたものの、三相界面数については、0.4個/μm2以上という低抵抗要件として規定された範囲に比して著しく小さく、かつ比較例1よりも著しく小さい0.093個/μm2なる値に留まった。
【0137】
そして、反応抵抗についてみれば、3つの低抵抗要件を全て充足した実施例では上述のように基準値より小さい1.4Ωという値が得られたのに対し、三相界面数について充足しない比較例2では、基準値よりもやや大きいが比較例1よりも小さい2.0Ωという値となった。
【0138】
図8と
図10とを比較すると、実施例よりも比較例2の方がさらに、貴金属領域NMと固体電解質領域SEの双方ともに幅細であり、互いの入り込みも顕著である一方で、気孔VSが少ないことが確認される。表1における実施例と比較例2の相違も、両者のSEM像における相違に対応したものであるといえる。
【0139】
(まとめ)
以上のような実施例、比較例1、および比較例2は、三相界面の個数が0.4個/μm2以上であり、貴金属パスの合計長さが0.45μm/μm2以上であり、固体電解質パスの合計長さが0.6μm/μm2以上であるという、3つの低抵抗要件を全て充足することにより、ポンプセル電極の低抵抗化が実現されることを示している。特に、比較例1と比較例2との対比からは、三相界面数が多くとも、貴金属パスおよび固体電解質パスが十分に確保されない限りは、ポンプセル電極は低抵抗化されないことが、示唆される。また、実施例と比較例2との対比からは、たとえ貴金属パスおよび固体電解質パスが十分に確保されていたとしても、三相界面数が少ない場合は、十分な低抵抗化は実現されないことが、示唆される。