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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084373
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】電気炉の精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20240618BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20240618BHJP
   C21C 7/072 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C21C5/52
C21C7/00 E
C21C7/00 N
C21C7/072 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198611
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】正木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】浅原 紀史
(72)【発明者】
【氏名】鶴川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
【テーマコード(参考)】
4K013
4K014
【Fターム(参考)】
4K013BA11
4K013CA04
4K013CA15
4K014AC17
4K014BB03
4K014CC01
4K014CC05
4K014CD18
(57)【要約】
【課題】コストがかからず、かつ安定して溶鉄中の窒素濃度を低下できる電気炉の精錬方法を提供する。
【解決手段】ランスから溶鉄面へ酸素ガスを供給して脱窒処理を行う電気炉の精錬方法であって、静止状態の前記溶鉄面での前記酸素ガスの鉛直方向の流速を50m/s以上とし、かつ下記(1)前記溶鉄中の炭素濃度を0.01質量%以上、および(2)さらに炭材を供給し、前記供給する炭材中の炭素と前記酸素ガスとの供給量のモル比C/Oを0.2以上、の中の少なくとも何れかを満たす条件で脱窒処理を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランスから溶鉄面へ酸素ガスを供給して脱窒処理を行う電気炉の精錬方法であって、
静止状態の前記溶鉄面での前記酸素ガスの鉛直方向の流速を50m/s以上とし、かつ下記(1)および(2)の中の少なくとも何れかを満たす条件で脱窒処理を行うことを特徴とする電気炉の精錬方法。
(1)前記溶鉄中の炭素濃度を0.01質量%以上、
(2)さらに炭材を供給し、前記供給する炭材中の炭素と前記酸素ガスとの供給量のモル比C/Oを0.2以上。
【請求項2】
前記ランスの先端から静止状態の溶鉄面までのランス中心軸方向の直線距離(m)をx、静止状態の溶鉄面からの前記ランスの角度(°)をθ、前記ランスの先端のノズルの出口径(m)をdとした場合に、θ>20°かつx/d<50を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電気炉の精錬方法。
【請求項3】
前記ランスの先端での流速から減少する前に前記酸素ガスを静止状態の前記溶鉄面へ供給することにより脱窒処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の電気炉の精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COガスを発生させて溶鉄中の窒素を除去する電気炉の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は環境を考慮して電気炉を用いた操業が注目されているが、溶鋼を製造する際に、電気炉を用いた操業では溶鉄が大気にさらされやすいことから、高炉および転炉を用いた操業に比べて溶鉄中の窒素濃度は高くなる傾向がある。そこで、電気炉を用いて低窒素鋼を製造するために様々な技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、二重殻型電気炉を用いてシール性を高めて雰囲気からの吸窒を抑制する低窒素鋼の溶製方法が開示されている。また、特許文献2には、アーク炉操業において、送酸速度(酸素流量)、送酸時間および原料溶解終了時の溶鉄に含まれる炭素重量から炭素添加量を算出して脱窒処理を行う低窒素溶鋼の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2022-500556号公報
【特許文献2】特開平10-121123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、特殊な設備が必要であることから設備コストが多くかかってしまう。また、特許文献2に記載の方法は、酸素の吹き付けを行う際に、送酸速度(酸素流量)に着目しているが、酸素の吹き付けに関するその他の処理条件が詳細に記載されていないため、脱窒効果にばらつきが生じやすい。
【0006】
本発明は前述の問題点を鑑み、コストがかからず、かつ安定して溶鉄中の窒素濃度を低下できる電気炉の精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
ランスから溶鉄面へ酸素ガスを供給して脱窒処理を行う電気炉の精錬方法であって、
静止状態の前記溶鉄面での前記酸素ガスの鉛直方向の流速を50m/s以上とし、かつ下記(1)および(2)の中の少なくとも何れかを満たす条件で脱窒処理を行うことを特徴とする電気炉の精錬方法。
(1)前記溶鉄中の炭素濃度を0.01質量%以上、
(2)さらに炭材を供給し、前記供給する炭材中の炭素と前記酸素ガスとの供給量のモル比C/Oを0.2以上。
[2]
前記ランスの先端から静止状態の溶鉄面までのランス中心軸方向の直線距離(m)をx、静止状態の溶鉄面からの前記ランスの角度(°)をθ、前記ランスの先端のノズルの出口径(m)をdとした場合に、θ>20°かつx/d<50を満たすことを特徴とする上記[1]に記載の電気炉の精錬方法。
[3]
前記ランスの先端での流速から減少する前に前記酸素ガス静止状態の前記溶鉄面へ供給することにより脱窒処理を行うことを特徴とする上記[1]または[2]に記載の電気炉の精錬方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コストがかからず、かつ安定して溶鉄中の窒素濃度を低下できる電気炉の精錬方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、電気炉において、電極からアークによってスクラップを溶解し、その後、ランスから溶鉄に向けて酸素ガスを吹き付けて脱窒処理を行う例について説明する。なお、電気炉は交流式であってもよく直流式であってもよい。また、本実施形態で用いるランスは先端が単孔ノズルのものを用いるものとする。
【0010】
溶鉄中のNと雰囲気中のN2の反応は、下記(1)式により生じることが一般的に知られている。
2N=N2 ・・・(1)
したがって、雰囲気中のN2分圧が低ければ脱窒反応が生じ、雰囲気中のN2分圧が低いほど溶鉄中の平衡N濃度が低下する。一方、雰囲気中のN2分圧が高くなると吸窒反応が生じる。
【0011】
ここで、脱窒反応を促進させる手法の1つとしては、溶鉄の脱炭反応を利用する方法が挙げられる。ランスから溶鉄へ酸素ガスを供給すると、酸素ガスが溶鉄面に到達する位置(火点)において、溶鉄中の炭素と酸素が反応してCOガスが生成する。このCOガスが生成すると、雰囲気中のN2分圧が低下するため、脱窒反応が促進される。
【0012】
一方で、(1)式の化学反応速度は、温度が高いほど増加することが知られている。温度が上昇すると、脱窒反応、吸窒反応共に反応速度は増大するが、COガスを生成させてN2分圧を下げることによって、総合的に脱窒反応を促進させることができる。そこで、本実施形態では、溶鉄面に到達する酸素ガスの流速を高めて火点の温度を高くすることによって(1)式の反応速度を高めるようにする。具体的には、十分にCOガスが生成して脱窒反応が生じる条件において、静止状態の溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速を50m/s以上とする。なお、以下の説明では、溶鉄面到達位置もしくは溶鉄面とは、それぞれ静止状態での溶鉄面到達位置もしくは溶鉄面を指すものとする。
【0013】
ここで、溶鉄表面到達位置での流速Umax(m/s)は、次の(2)式を用いて計算することができる。
max
=329[{HC/HCP・M0P・(5.88+1.54M0P 2)・Dt}/x]
・・・(2)
ここで、HCはジェットコア長さ(m)を表し、HCPは適正膨張時のジェットコア長さ(m)を表す。M0Pはノズル吐出位置における適正マッハ数(-)を表し、Dtはランス内のスロート部におけるスロート径(m)を表す。また、xはランス先端から溶鉄面までのランス中心軸方向の直線距離(m)を表す。
【0014】
一方で、溶鉄中の炭素濃度が高ければ、十分な量のCOガスが発生し、雰囲気中のN2分圧を小さくすることによって脱窒反応が促進されるが、溶鉄中の炭素濃度が低い場合は、COガスの発生量が不足して酸素ガスに巻き込まれた窒素の影響が大きくなり、火点で吸窒反応が増加してしまう。そこで、脱窒反応を促進させるために本実施形態においては、溶鉄中の炭素濃度がある濃度未満である場合に、溶鉄に十分な量の炭材を供給するようにする。具体的には、溶鉄中炭素濃度が0.01質量%未満においては、供給する炭材中の炭素の供給量と送酸による酸素の供給量とのモル比C/Oが0.2以上となるように溶鉄に炭材を供給する。このとき、溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速は、溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%以上の場合と同様に50m/s以上とする。
【0015】
炭材の供給方法としては特に限定しないが、例えば酸素ガスを吹き付けるランスとは異なる別系統のランスを用いて、不活性ガスとともに炭粉を溶鉄面に吹き付ける方法が挙げられる。この場合、酸素ガスを吹き付けている間、炭粉の吹き付けを継続してもよく、送酸時間から酸素の供給量を算出し、モル比C/Oが0.2以上となる量の炭粉を短時間で供給してもよい。
【0016】
上述のように、溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%未満の場合に、供給する炭材中の炭素の供給量と送酸による酸素の供給量とのモル比C/Oが0.2以上となるように溶鉄に炭材を供給するが、溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%以上であっても、炭材を供給してもよい。また、溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%以上においては、炭材を供給しなくても、溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速が50m/s以上であれば、十分に脱窒を促進させることができるが、送酸中に溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%未満に低下することもあり得る。このように、送酸中に溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%未満に低下する可能性がある場合は、酸素の供給量から溶鉄中の炭素濃度が0.01質量%に到達するまでの時間を予測し、その時間に達した段階で炭材の供給を開始する。また、送酸の途中から炭材を供給するのではなく、送酸開始時から炭材を供給するようにしてよい。
【0017】
ランスから酸素ガスを吹き付ける際に、酸素ガスの流動特性として、流速が減衰しないポテンシャルコア領域が存在するランス先端近傍の初期領域と、それより下流の領域である発達領域との二つ領域に分けられる。ランスから吹き付けた酸素ガスが溶鉄面に到達するまでの間、酸素ガスはポテンシャルコア領域を経た後、噴流周囲の雰囲気を巻き込むことで徐々に流速が低下し、噴流中のN2濃度が増加して火点のN2分圧が増加する。
【0018】
前述したように、本実施形態では溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速を50m/s以上とするが、ポテンシャルコア領域で酸素ガスが溶鉄面に到達するのであれば、雰囲気の巻き込みを抑制し、噴流中のN2濃度は増加せず、火点のN2分圧は増加しない。したがって、ランス先端の酸素ガスの流速が減衰する前にポテンシャルコア領域で酸素ガスを溶鉄面に到達させ、ランス先端の酸素ガスの流速と溶鉄面到達位置の酸素ガスの流速とが一致するようにランス高さを調整することが好ましい。
【0019】
また、酸素ガスが、鉛直方向の流速が50m/s以上で溶鉄面に到達するためには、ランス先端から溶鉄面までのランス中心軸方向の直線距離(m)をx、静止状態の溶鉄面からのランスの角度(°)をθ、ランス先端のノズルの出口径(m)をdとした場合に、θ>20°かつx/d<50とすることが好ましい。溶鉄面からのランスの角度θが20°以下であると、噴流の水平成分の割合が大きくなり、火点での温度が上昇しにくくなる。また。x/dが50以上では、ランスと溶鉄間の距離が長くなり、酸素ガスの流速が減少する。
【実施例0020】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0021】
まず、電気炉にスクラップを装入し、電極からアークを生成してスクラップを溶解し、175tの溶鉄を得た。その後、アークを生成した状態でランスから溶鉄へ酸素ガスを供給し、脱窒処理を行った。なお、脱窒処理を行う前に排滓口からサンプリングして溶鉄の成分を測定したところ、処理前の溶鉄成分は、C濃度が0.08~0.42質量%、N濃度が50質量ppmであった。
【0022】
脱窒処理の条件は、ランスのノズル出口径dは0.036m、静止状態の溶鉄面からのランスの角度θは45°、酸素流量は3200Nm3/h、処理時間は5分とした。また、実験では、ランス先端の溶鉄面鉛直方向の酸素ガスの流速を350m/sとし、ランスの高さのみを調整して溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速を変えた。また、一部の試験では、酸素とは別系統のランスを用いてArガスとともに炭材を供給した。炭粉には無煙炭を用い、炭粉中のC濃度は93質量%であった。そして、脱窒処理後に排滓口からサンプリングしてC濃度およびN濃度を測定した。N濃度が40質量ppm以下であった場合に、本発明の効果が得られたものと評価した。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示す通り、試験No.6、7、11では、処理前のC濃度が0.01質量%以上で、溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速が50m/sよりも高かったため、炭材を投入しなくても、N濃度を40質量ppm以下にすることができた。また、試験No.8、9では、処理前のC濃度が0.01質量%よりも低かったが、供給する炭材中の炭素の供給量と送酸による酸素の供給量とのモル比C/Oが0.2以上となるように溶鉄に炭材を供給したため、N濃度を40質量ppm以下にすることができた。試験No.10では、ポテンシャルコア領域で酸素ガスを溶鉄面に到達させ、ランス先端の酸素ガスの流速と溶鉄面到達位置の酸素ガスの流速とが一致するようにしたため、試験No.6、7よりもN濃度を低くすることができた。
【0025】
一方、比較例である試験No.1、3、5は、いずれも溶鉄面到達位置での鉛直方向の酸素流速が50m/sよりも低かったため、火点の温度を十分に高くすることができず、脱窒反応を十分に促進させることができなかった。また、比較例である試験No.2では、処理前のC濃度が0.01質量%よりも低かったが、炭材を供給しなかったため、COガスの発生量の不足により火点での吸窒反応が増加し、N濃度が高かった。比較例である試験No.4では、炭材を供給したものの、酸素の供給量に対して炭素の供給量が不足したため、COガスの発生量が不足し、N濃度が高かった。