(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084379
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】化成皮膜付き金属材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/34 20060101AFI20240618BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C23C22/34
C23C22/78
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198623
(22)【出願日】2022-12-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深浦 裕之
(72)【発明者】
【氏名】福士 英一
(72)【発明者】
【氏名】小崎 匠
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA01
4K026AA02
4K026AA07
4K026AA09
4K026AA22
4K026BA01
4K026BB06
4K026BB08
4K026CA13
4K026CA18
4K026CA28
4K026CA37
4K026DA02
4K026DA03
4K026DA05
4K026DA06
4K026EA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】化成後の外観及び塗装後の曝露試験やVDA621-415法等により評価される耐食性に優れ、且つ幅広い温度域で使用できる化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料を製造する方法を提供する。
【解決手段】金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料の製造方法であって、フッ素イオンの供給源と、ジルコニウムを含有するイオンの供給源Aと、アルミニウムを含有するイオンの供給源Bと、下記式(i)で表される構造単位をモル換算で90%以上有する水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩Cを0.0001g/L以上1.000g/L以下と、を配合した化成処理剤に金属材料を接触させる工程Iと、化成処理剤を接触させた金属材料をpH4.0以上12.0以下の水溶液に少なくとも1度接触させる工程IIと、を含む化成皮膜付き金属材料の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料の製造方法であって、
フッ素イオンの供給源と、
ジルコニウムを含有するイオンの供給源Aと、
アルミニウムを含有するイオンの供給源Bと、
下記式(i)で表される構造単位をモル換算で90%以上有する水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩Cを0.0001g/L以上1.000g/L以下と、
を配合した化成処理剤に金属材料を接触させる工程Iと、
【化1】
前記化成処理剤を接触させた金属材料をpH4.0以上12.0以下の水溶液に少なくとも1度接触させる工程IIと、
を含み、
下記式(1)によって得られる値から下記式(2)によって得られる値を引いた値が0.2以上である、化成皮膜付き金属材料の製造方法。
(Ac+Bc)×(pH-2.7)
8・・・式(1)
(D/0.18)
3×(t/1.5)
5・・・式(2)
ここで、前記式(1)において、Acは前記化成処理剤中の、前記供給源Aに由来するジルコニウム元素濃度であって2g/L以下であり、
Bcは前記化成処理剤中の、前記供給源Bに由来するアルミニウム元素濃度であって2g/L以下であり、
Acに対するBcの比Bc/Acが0.03以上10.0以下であり、
pHは前記化成処理剤のpHであって3.2以上6.0以下であり、
前記式(2)において、Dは工程Iから工程IIの間に前記金属材料の表面に付着している前記化成処理剤の液付着量であって0L/m
2超0.5L/m
2以下であり、
tは前記工程Iの完了から工程IIの開始までの時間であって0.01分以上3.00分以下である。
【請求項2】
前記工程Iの前に、
pH8.0以上13.0以下のアルカリ液に接触させる工程IIIと、
pH7.0以上12.0以下の水溶液に接触させる工程IVと、
を含む、請求項1に記載の化成皮膜付き金属材料の製造方法。
【請求項3】
前記金属材料は、鉄材、亜鉛又は亜鉛系メッキ材、アルミニウム材、アルミニウム合金材、アルミニウム系メッキ材、マグネシウム材、及びマグネシウム合金材のうち少なくとも1つ以上である、請求項1又は2に記載の化成皮膜付き金属材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐食性に優れ、密着性も良好な表面処理を施すことを可能とする金属表面処理用処理液が開発されている。例えば、特許文献1には、Hf(IV)、Ti(IV)及びZr(IV)から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物A、上記化合物Aに含まれる金属の合計モル濃度の少なくとも5倍モル濃度のフッ素を組成物中に存在させるに十分な量のフッ素含有化合物、アルカリ土類金属の群から選ばれる少なくとも1種の金属イオンB、Al、Zn、Mg、Mn及びCuから選ばれる少なくとも1種の金属イオンC、硝酸イオン、を含有することを特徴とするアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面処理用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面処理は、密着性、耐食性以外に仕上がり性として外観も重要視されている。仕上がり性に関しては化成処理剤の接触工程から次工程に移るまでの間に化成処理剤の液付着量が多すぎたり、付着時間が長すぎたりすると外観ムラや耐食性能に影響が生じる。十分な性能が発現されるための最適な化成処理剤の配合条件や化成処理剤の液付着量や付着時間を規定する必要がある。また、耐食性試験においては一般的な塩水噴霧試験(SST)やJASO-M609法などよりも実環境条件に近い曝露試験や腐食試験が近年重要視されている。さらに近年では環境負荷低減の観点から化成処理温度を低温化することも重要視されている。
本発明は、化成後の外観及び塗装後の曝露試験やVDA621-415法等により評価される耐食性に優れ、且つ幅広い温度域で使用できる化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、フッ素イオンの供給源と、ジルコニウムを含有するイオンの供給源Aと、アルミニウムを含有するイオンの供給源Bと、特定の水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩Cと、を配合した化成処理剤に金属材料を接触させる工程と、前記金属材料をpH4~12の水溶液に少なくとも1度接触させる工程と、を含む、化成皮膜付き金属材料の製造方法が、所定のパラメーターを満たす条件で行われることで、耐食性及び化成後の外観に優れた化成皮膜を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下のものを含む。
[1] 金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料の製造方法であって、
フッ素イオンの供給源と、
ジルコニウムを含有するイオンの供給源Aと、
アルミニウムを含有するイオンの供給源Bと、
下記式(i)で表される構造単位をモル換算で90%以上有する水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩Cを0.0001g/L以上1.000g/L以下と、
を配合した化成処理剤に金属材料を接触させる工程Iと、
【化1】
前記化成処理剤を接触させた金属材料をpH4.0以上12.0以下の水溶液に少なくとも1度接触させる工程IIと、
を含み、
下記式(1)によって得られる値から下記式(2)によって得られる値を引いた値が0.2以上である、化成皮膜付き金属材料の製造方法。
(Ac+Bc)×(pH-2.7)
8・・・式(1)
(D/0.18)
3×(t/1.5)
5・・・式(2)
ここで、前記式(1)において、Acは前記化成処理剤中の、前記供給源Aに由来するジルコニウム元素濃度であって2g/L以下であり、
Bcは前記化成処理剤中の、前記供給源Bに由来するアルミニウム元素濃度であって2g/L以下であり、
Acに対するBcの比Bc/Acが0.03以上10.0以下であり、
pHは前記化成処理剤のpHであって3.2以上6.0以下であり、
前記式(2)において、Dは工程Iから工程IIの間に前記金属材料の表面に付着している前記化成処理剤の液付着量であって0L/m
2超0.5L/m
2以下であり、
tは前記工程Iの完了から工程IIの開始までの時間であって0.01分以上3.00分以下である;
[2] 前記工程Iの前に、
pH8.0以上13.0以下のアルカリ液に接触させる工程IIIと、
pH7.0以上12.0以下の水溶液に接触させる工程IVと、
を含む、[1]に記載の化成皮膜付き金属材料の製造方法;
[3] 前記金属材料は、鉄材、亜鉛又は亜鉛系メッキ材、アルミニウム材、アルミニウム合金材、アルミニウム系メッキ材、マグネシウム材、及びマグネシウム合金材のうち少なくとも1つ以上である、[1]又は[2]に記載の化成皮膜付き金属材料の製造方法;などである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、化成後の外観及び塗装後の曝露試験やVDA621-415法等により評価される耐食性に優れ、且つ幅広い温度域で使用できる、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
以下に、本発明の一実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法について説明する。
【0009】
(化成処理剤)
本実施形態に用いられる化成処理剤は、フッ素イオンの供給源と、ジルコニウムを含有するイオンの供給源Aと、アルミニウムを含有するイオンの供給源Bと、式(i)で表される構造単位をモル換算で90%以上有する水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩Cと、を水性媒体に所定量配合してなる。この化成処理剤を用いることにより、金属材料に対して、塗装後耐食性、皮膜外観に優れた化成皮膜を形成できる。なお、本実施形態に用いられる化成処理剤は、フッ素イオンの供給源、供給源A、供給源B、及び所定の高分子又はその塩Cのみが、水性媒体に配合されたものであってもよいし、その他の成分がさらに配合されたものであってもよい。
【0010】
(フッ素イオンの供給源)
本実施形態に用いられる化成処理剤は、フッ素イオンの供給源が配合されている。フッ素イオンの供給源は、化成処理剤に配合した際に、フッ素イオンを供給できる化合物(以下、「フッ素含有化合物」と称する。)であれば特に制限されない。フッ素含有化合物としては、例えば、ヘキサフルオロジルコニウム酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロハフニウム酸、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化ゲルマニウム、フッ化カリウム、フッ化水素カリウム、フッ化鉄、ケイフッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等が挙げられるが、これらに制限されない。なお、ヘキサフルオロジルコニウム酸等の、ジルコニウムとフッ素を含有する化合物は、ジルコニウムを含有するイオンとフッ素イオンの両者を供給することができる。また、各種フッ素含有化合物は1種のみを配合してよく、2種以上を配合してもよい。フッ素含有化合物の配合量について特に制限はないが、化成皮膜の形成に影響のない程度とし、具体的には、フッ素イオンの濃度が化成処理剤に含まれるジルコニウム元素のモル濃度の4~8倍と、化成処理剤に含まれるアルミニウム元素のモル濃度の2~4倍の合計となるように配合することが好ましい。この範囲でフッ素含有化合物を配合することで、処理時の遊離フッ素イオン濃度が適正となり、金属材料と化成処理剤の反応速度が好適になる。これにより、形成される皮膜の量が好適になる。
【0011】
(供給源A)
本実施形態に用いられる化成処理剤には、供給源Aが配合されている。供給源Aは、化成処理剤に配合した際に、ジルコニウムを含有するイオン(以下、「ジルコニウム含有イオン」と称する。)を供給できる化合物であれば特に制限されない。それゆえ、本実施形態に用いられる化成処理剤は、ジルコニウム含有イオンを含む。ジルコニウム含有イオンとしては、例えば、ジルコニウムの金属イオン;ジルコニウムを含む錯体イオン;ジルコニウムの酸化物イオン;等を挙げることができる。
ジルコニウム含有イオンの供給源Aの具体例としては、ヘキサフルオロジルコニウム酸、硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が挙げられる。また、これらが塩の形態をとり得る場合には、その塩であってよい。これら供給源は1種のみを配合してもよいが、2種以上を配合してもよい。
【0012】
化成処理剤中のジルコニウム含有イオン濃度は特に限定されないが、化成処理剤中の、供給源Aに由来するジルコニウム元素濃度Acは、通常0.02g/L以上、好ましくは0.05g/L以上、また通常2g/L以下、好ましくは1.5g/L以下である。2種以上の供給源を化成処理剤に配合した場合には、それらに含まれるジルコニウム元素の合計の濃度を意味する。
ジルコニウム元素濃度Acを上記範囲内とすることで、化成皮膜におけるZrを有効な量とすることができる。
【0013】
(供給源B)
本実施形態に用いられる化成処理剤には、供給源Bが配合されている。供給源Bは、化成処理剤に配合した際に、アルミニウムを含有するイオン(以下、「アルミニウム含有イオン」と称する。)を供給できる化合物であれば特に制限されない。それゆえ、本実施形態に用いられる化成処理剤は、アルミニウム含有イオンを含む。アルミニウム含有イオンとしては、例えば、アルミニウムの金属イオン;アルミニウムを含む錯体イオン;アルミニウムの酸化物イオン;等を挙げることができる。アルミニウム含有イオンの供給源Bの具体例としては、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、酸化アルミニウム等が挙げられるが、これらに制限されない。また、これらが塩の形態をとり得る場合には、その塩であってよい。これら供給源は、1種のみを配合してもよく、2種以上を配合してもよい。
【0014】
化成処理剤中のアルミニウム含有イオン濃度は特に限定されないが、化成処理剤中の、供給源Bに由来するアルミニウム元素濃度Bcは、通常0.02g/L以上、好ましくは0.05g/L以上、また通常2g/L以下、好ましくは1.5g/L以下である。2種以上の供給源Bを化成処理剤に配合した場合には、それらに由来するアルミニウム元素の合計の濃度を意味する。
アルミニウム元素濃度Bcを上記範囲内とすることで、化成処理剤中の遊離フッ素イオン濃度を適切にすることができる。
【0015】
(供給源AとBの比)
化成処理剤中の供給源Aに由来するジルコニウム元素濃度Acに対する供給源Bに由来するアルミニウム元素濃度Bcの比(Bc/Ac)は、通常0.03以上であり、通常10.0以下である。
【0016】
(水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩C)
本実施形態に用いられる化成処理剤は、水溶性もしくは水分散性の高分子又はその塩C(以下、単に「高分子C」と称する。)を含む。高分子Cは、上式(i)で表される構造単位をモル換算で90%以上有する重合体であれば特に制限されない。高分子Cとして具体的には、ジアリルアミン重合体;ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン硫酸塩重合体、ジアリルアミン酢酸塩重合体などのジアリルアミン重合体の塩;等のポリジアリルアミン類が挙げられる。
【0017】
高分子Cの重合度は特に限定されないが、重量平均分子量が通常1000以上であり、好ましくは5000以上である。なお、重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透カラムクロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
化成処理剤における高分子Cの含有量(配合量)は、固形分質量濃度として通常0.0001g/L以上、好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.005g/L以上であり、また、通常1.000g/L以下、好ましくは、(0.16×Ac+0.23)g/L以下である。高分子Cの含有量を上記範囲内とすることで、化成皮膜の密着性や耐食性が向上する。
【0018】
(水性媒体)
本実施形態に用いられる化成処理剤は水性媒体を含んでよい。水性媒体は、水又は水と水混和性有機溶媒との混合物(水性媒体の体積を基準として50体積%以上の水を含有するもの)であれば特に限定されない。水混和性有機溶媒としては、水と混和するものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;N,N’-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノへキシルエーテル等のエーテル系溶媒;1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン等のピロリドン系溶媒等が挙げられる。これらの
水混和性有機溶媒は1種を水と混合させてもよいし、2種以上を水に混合させてもよい。
【0019】
(その他の成分)
本実施形態に用いられる化成処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤を配合してもよい。具体的には、例えば、有機酸、酸化剤、供給源A及びB以外の金属イオンの供給源、有機シラン化合物、金属アルコキシド類、高分子C以外の水溶性樹脂又は水分散性樹脂、界面活性剤、pH調整剤などが挙げられる。また、これらのその他の成分は、1種のみを配合してもよいが、2種以上を配合してよい。
【0020】
(有機酸)
本実施形態に用いられる化成処理剤が含み得る有機酸としては、例えば、有機スルホン酸、有機ホスホン酸、有機リン酸、脂肪族カルボン酸、及び芳香族カルボン酸等であり、具体的にはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸、等であるがこれらに制限されない。有機酸は、1種のみを含んでよく、2種以上を含んでもよい。
【0021】
(酸化剤)
本実施形態に用いられる化成処理剤に配合し得る酸化剤としては、例えば、過酸化水素、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、塩素酸塩、過硫酸塩、ニトロ基含有化合物、次亜塩素酸、有機過酸化物及び臭素酸塩等が挙げられ、過酸化水素、硝酸塩及び亜硝酸塩が好ましいが、これらに制限されない。酸化剤は、1種のみを配合してよく、2種以上を配合してもよい。また、硫酸イオンは含んでも含まなくてもよい。
【0022】
(供給源A及びB以外の金属イオンの供給源)
本実施形態に用いられる化成処理剤に配合し得る供給源A及びB以外の金属イオンの供給源としては、例えば、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、タングステンなどを含む化合物が挙げられるが、これらに制限されない。供給源A及びB以外の金属イオンの供給源は、1種のみを配合してもよいが、2種以上を配合してよい。
【0023】
(有機シラン化合物)
本実施形態に用いられる化成処理剤に配合し得る有機シラン化合物は、例えば、アミノシラン化合物、エポキシシラン化合物、及びアルコキシシラン化合物等である。具体的には、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルジエチルエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルエチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルジエチルエトキシシラン、3-アミノプロピルエチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに制限されない。また、化成処理剤中における各有機シラン化合物は、そのままの形態であってもよいし、有機シラン化合物が加水分解した加水分解物の形態であってもよいし、該加水分解物が縮重合した縮重合物の形態であってもよいし、それぞれの加水分解物が共重合した共重合物(交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等)の形態であってもよいし、複数の形態が混在していてもよい。
【0024】
(金属アルコキシド類)
本実施形態に用いられる化成処理剤に配合し得る金属アルコキシド類としては、例えばジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ-2-エチルヘキソキシド、トリイソプロポキシドバナジウム(V)オキシド、バナジウムブトキシド、トリエトキシバナジウム(V)オキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウム-tert-ブトキシドなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。金属アルコキシド類は1種を単独で配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。また、化成処理剤中における金属アルコキシド類は、そのままの形態であってもよいし、金属アルコキシド類が加水分解した加水分解物の形態であってもよいし、該加水分解物又は有機シラン化合物の加水分解物が縮重合した縮重合物の形態であってもよいし、それぞれの加水分解物又は有機シラン化合物の加水分解物が共重合した共重合物(交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等)の形態であってもよいし、複数の形態が混在していてもよい。
ジルコニウムを含む金属アルコキシドは、供給源Aとしても扱われ、アルミニウムを含む金属アルコキシドは、供給源Bとしても扱われる。
【0025】
(高分子C以外の水溶性樹脂又は水分散性樹脂)
本実施形態に用いられる化成処理剤に配合し得る高分子C以外の水溶性樹脂又は水分散性樹脂としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、式(i)で表される構造単位を含まないアミン樹脂などが挙げられるが、これらに限定されない。高分子C以外の水溶性樹脂又は水分散性樹脂は1種を単独で配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。
【0026】
(界面活性剤)
本実施形態に用いられる化成処理剤に配合し得る界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、カチオン性、アニオン性又は両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー等のポリエチレングリコール型ノニオン性界面活性剤;ソルビタン脂肪酸エステル等の多価アルコール型ノニオン性界面活性剤;脂肪酸アルキロールアミド等のアミド型ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、高級アルキルアミン塩、ポリオキシエチレン高級アルキルアミン等のアミン塩型カチオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレンオキサイドが付加された高級アルキルエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。なお、上記界面活性剤のHLB値(グリフィン法により算出)は、特に限定されないが、6以上18以下が好ましく、10以上14以下がより好ましい。上記界面活性剤は、本実施形態で用いられる化成処理剤に1種を単独で配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。上記界面活性剤を化成処理剤に含ませることにより、化成処理と脱脂処理を同時に一工程で行うことが可能となる。
【0027】
(化成処理剤のpH)
本実施形態に用いられる化成処理剤のpHは、通常、酸性~中性領域であり、具体的にはpHが3.2~6.0の範囲内であり、3.4~6.0の範囲内であることがより好ましく、4.1~5.1の範囲内であることが特に好ましい。ここで、本明細書におけるpH値は、pHメーターを用いて40℃で測定した値を意味する。
化成処理剤のpHは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、ホウ酸、有機酸等の酸成分;水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、アルカリ金属塩、アンモニア、アンモニウム塩、アミン類等のアルカリ成分等のpH調整剤を用いて調整することができるが、これらの成分に制限されるものではない。なお、pH調整剤は、1種又は2種以上を用いてよい。
【0028】
(化成処理剤の製造方法)
上記化成処理剤は、フッ素イオンの供給源と、供給源Aと、供給源Bと、所定の高分子又はその塩Cと、を原料として、水性媒体に所定量配合することにより製造可能である。
【0029】
(化成皮膜の形成方法)
本実施形態に係る金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成された化成皮膜付き金属材料の製造方法は、金属材料の表面又は表面上に上記化成処理剤を接触させる工程Iを含む。これにより、金属材料の表面又は表面上に化成皮膜が形成される。化成処理剤の金属材料への接触方法としては、従来からある接触方法、例えば、浸漬処理法、あるいは、スプレー処理法、流しかけ処理法等の処理法、又はこれらの組み合わせ等の方法が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
上記接触工程における接触温度は10℃以上60℃以下の範囲内であることが好ましく、20℃以上50℃以下の範囲内であることがより好ましい。なお、本実施形態において、10℃以上25℃以下の範囲を「低温」、25℃超50℃以下の範囲を「高温」とする。また、接触時間は30秒~300秒の範囲内であることが好ましく、60秒~180秒の範囲内であることがより好ましいが、これらの時間に制限されない。
【0031】
本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法において、化成処理剤に金属材料を接触させる工程Iの後に、前記化成処理剤を接触させた金属材料をpH4.0以上12.0以下の水溶液に接触させる工程IIを含む。接触工程IIに係る水溶液の接触は、例えば、浸漬処理法、スプレー処理法等により行われるが、これらに限定されない。接触工程IIに係る水溶液のpHは、4.0~12.0の範囲内であり、5.0~10.0の範囲内であることが好ましく、6.5~9.0の範囲内であることが特に好ましい。接触工程IIに係る水溶液は前記pHの範囲内であれば特段の制限はないが、例示的には、水道水、脱イオン水、水酸化ナトリウム水溶液等が挙げられる。接触工程IIに係る接触は少なくとも1度行われればよく、複数回行われてもよい。また、接触工程IIを行った後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0032】
(液付着量D)
本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法において、液付着量Dは、工程Iから工程IIの間に金属材料の表面に付着している化成処理剤の液付着量である。工程Iにおける接触方法が浸漬法である場合は、金属材料が化成処理浴から引き上げられ液面との接触がなくなった時点で金属材料表面に残存している化成処理剤の単位面積当たりの付着量を指す。また、工程Iにおける接触方法がスプレー処理や流しかけ処理である場合は、金属材料に化成処理剤の噴霧や流しかけが停止した時点で金属材料表面に残存している化成処理剤の単位面積当たりの付着量を指す。液付着量Dは0L/m2よりも大きく、0.5L/m2以下、好ましくは0.4L/m2以下の範囲内であることが好ましい。
【0033】
(工程Iから工程IIまでの時間t)
本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法において、工程Iの完了から工程IIの開始までの時間をtとする。工程Iの完了時点は、工程Iにおける接触方法が浸漬法である場合は、金属材料が化成処理浴から引き上げられ液面との接触がなくなった時点を指し、工程Iにおける接触方法がスプレー処理や流しかけ処理である場合は、金属材料に
化成処理剤の噴霧や流しかけが停止した時点を指す。工程IIの開始時点は、工程IIの水溶液に金属材料が接触した時点を指す。tは、0.01分以上、3.00分以下である
ことが好ましく、0.08分以上、2.00分以下であることがより好ましく、0.1分以上、1.5分以下であることが特に好ましい。
【0034】
(特定パラメーターの値)
本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法において、化成処理剤の性状に関連する式(1)から導かれる数値と、化成処理剤の液付着量及び滞留時間に関連する式(2)から導かれる数値は所定の関係性を有する。具体的には、式(1)から式(2)を引いた値は通常0.2以上、5000以下、好ましくは0.5以上、2000以下、さらに好ましくは2.5以上、1000以下である。式(1)から式(2)を引いた値が上記範囲であることで塗装後の耐食性だけでなく、化成後の外観に優れた化成皮膜を金属材料の表面又は表面上に形成することができる。
【0035】
また、化成処理剤に接触させる工程Iの前に、pH8.0以上13.0以下のアルカリ液に接触させる工程IIIと、pH7.0以上12.0以下の水溶液に接触させる工程IVをさらに含んでいてもよい。このように工程IIIと工程IVを行うことで、金属材料の表面に付着している油分や汚れを除去することができる。工程IIIに係るアルカリ液はpH8.0以上13.0以下のアルカリ液であれば特に制限されるものではないが、例示的には、脱脂剤を含むアルカリ液が挙げられる。また、工程IVに係る水溶液はpH7.0以上12.0以下の水溶液であれば特に制限されるものではないが、例示的には、水酸化ナトリウム水溶液が挙げられる。
【0036】
また、本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法において、化成処理剤に接触させる工程Iの前に、工程III及び工程IVに加えて、前処理工程を行ってもよい。前処理工程としては、例えば、酸洗工程;脱脂工程;アルカリ洗浄工程;クロメート化成処理工程;リン酸亜鉛、リン酸鉄等のリン酸塩を用いたリン酸塩化成処理工程;ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、バナジウム化成処理工程等が挙げられる。なお、これらの前処理工程は、1の工程を行ってもよいが、2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。2以上の工程の組み合わせとしては、例えば、リン酸塩化成処理工程と、クロメート化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程又はバナジウム化成処理工程との組み合わせを挙げることができる。前処理工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、上記化成処理剤を用いてもよいし、上記化成処理剤とは異なる化成処理剤を用いてもよい。なお、上記各種前処理工程を行う場合は、各種前処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種前処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
工程III及び工程IVと、前処理工程と、の順序は特に限定されず、工程III及び工程IVの前に前処理工程を行ってよく、工程III及び工程IVの後に前処理工程を行ってよい。また、2以上の前処理工程を行う場合は、工程III及び工程IVの前後に前処理工程を行ってよい。
【0037】
また、本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法において、接触工程II後に、例えば、アルカリ洗工程、水洗工程、クロメート化成処理、リン酸亜鉛化成処理工程、ビスマス置換めっき工程、リン鉄化成処理工程、ジルコニウム化成処理工程、チタン化成処理工程、ハフニウム化成処理工程、乾燥工程などの後処理工程を行ってもよい。これら後処理工程としては、1の工程を単独で行ってもよいし、2以上の工程を組み合わせて順次行ってもよい。後処理工程として実施されるジルコニウム化成処理工程は、上記化成処
理剤を用いてもよいし、上記化成処理剤とは異なる化成処理剤を用いてもよい。なお、上記各種後処理工程を行う場合は、各種後処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種後処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0038】
また、本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法により形成した化成皮膜上に塗膜を形成させて、化成皮膜及び塗膜を有する塗装金属材料を製造することもできる。この場合には、該化成皮膜の形成後に、塗膜を形成させるための、塗装工程及び塗装した金属材料の表面上における塗料を乾燥させる乾燥工程(焼付工程及び硬化工程等を含んでよい)などの塗膜形成処理を実施してもよい。
また、水洗処理工程IIを行った金属材料の表面上を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。さらに、上記工程II後であって、塗装工程前に、1又は2以上の上記後処理工程を行ってもよい。なお、上記各種後処理工程を行う場合は、各種後処理工程後に水洗処理工程を行ってもよい。各種後処理工程を複数行う場合には、それぞれの工程後、あるいは、一部の工程後に水洗処理工程を行ってもよい。また、水洗処理工程を行った場合には、その後に金属材料の表面を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。
【0039】
上記塗装工程は、塗料を用いて上記化成皮膜付き金属材料の表面上に対して行われる。塗装方法は特に限定されず、従来公知の方法、例えば、転がし塗り、電着塗装(例えば、カチオン電着塗装、アニオン電着塗装等)、スプレー塗装、ホットスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電(粉体)塗装、ローラーコーティング、カーテンフローコーティング、ハケ塗り、バーコーティング、流動浸漬法等の方法を適用することができる。
【0040】
上記塗料としては、例えば、油性塗料、繊維素誘導体塗料、フェノール樹脂塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、尿素樹脂塗料、不飽和樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、さび止めペイント、防汚塗料、粉体塗料、カチオン電着塗料、アニオン電着塗料、水系塗料、溶剤塗料等の、公知の塗料が挙げられる。なお、塗装工程は、同一又は異なる各種塗料を用いて、1の塗装を行っても、2以上の塗装を行ってもよい。なお、乾燥工程は、塗装した塗料を乾燥して硬化させる処理である。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア、焼付乾燥等の乾燥方法が挙げられる。なお、これらの乾燥方法は、1つを実施してもよいし、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0041】
上記カチオン電着塗装としては、公知の方法を適用できる。例えば、塗料として、アミン付加エポキシ樹脂と、硬化成分としてブロック化ポリイソシアネート硬化剤とを含有するカチオン電着塗料を用い、この塗料に化成皮膜付き金属材料を浸漬する方法等が挙げられる。カチオン電着塗装は、例えば、塗料の温度を所定の温度に保持し、塗料を攪拌した状態で、整流器を用いて化成皮膜付き金属材料を陰極として電圧を印加することにより行われる。このようにカチオン電着塗装を行った上記金属材料に対して、水洗及び焼き付けを実施することにより化成皮膜上に塗膜を形成させることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。例えば、170℃で20分間行われる態様が挙げられる。なお、カチオン電着塗料を用いたカチオン電着塗装方法を適用する場合には、ナトリウムイオンによる塗料の凝集を防止するため、塗装工程の前に、ナトリウムイオン濃度が質量基準で500ppm未満である水を用いて前記水洗処理工程を実施することが好ましい。
【0042】
粉体塗料を用いた、スプレー塗装、静電粉体塗装、流動浸漬法等の塗装方法としては、公知の方法が適用できる。粉体塗料としては、例えば、ポリエステル樹脂と、硬化剤とし
て、ブロックイソシアネート硬化剤、β-ヒドロキシアルキルアミド硬化剤(例えば、特開2011-88083号公報参照)又はトリグリシジルイソシアヌレートとを含有するものを挙げることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。例えば、130℃~250℃で20分間行われる態様が挙げられる。
【0043】
上記溶剤塗料を用いた、スプレー塗装、静電塗装、バーコーティング等の塗装方法としては、公知の方法が適用できる。溶剤塗料としては、例えば、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂と、シンナー等の有機溶剤とを含有するものを挙げることができる。焼き付けは、所定の温度範囲で一定時間行われる。例えば、130℃で20分間行われる態様が挙げられる。
【0044】
塗装した塗料を硬化させるための乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、対流型熱乾燥(例えば、自然対流型熱乾燥、強制対流型熱乾燥)、輻射型乾燥(例えば、近赤外線乾燥、遠赤外線乾燥)、紫外線硬化乾燥、電子線硬化乾燥、ベーポキュア等の乾燥方法が挙げられる。これらの乾燥方法は、1つを実施してもよいし、2以上を組み合わせて実施してもよい。
【0045】
塗装工程により得られる塗膜は、単層であっても複層であってもよい。複層である場合、各種塗膜を形成するための塗料、該塗料を用いた塗装方法、塗装した金属材料の乾燥方法等は、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
金属材料としては、例えば、鉄(例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、高張力鋼板、工具鋼、合金工具鋼、球状化黒鉛鋳鉄、ねずみ鋳鉄等);めっき材料、例えば、亜鉛及び亜鉛系メッキ材(例えば、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛-アルミニウム系メッキ、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム系メッキ、合金化溶融亜鉛めっき、電気亜鉛系メッキ、等);アルミニウム及びアルミニウム合金材(例えば、1000系アルミニウム合金材、2000系アルミニウム合金材、3000系アルミニウム合金材、4000系アルミニウム合金材、5000系アルミニウム合金材、6000系アルミニウム合金材、7000系アルミニウム合金材、8000系アルミニウム合金材、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金鋳物、ダイキャスト材等);アルミニウム系メッキ材;マグネシウム及びマグネシウム合金材(例えば、AZ91、AZ61AZ31等)が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法により形成された化成皮膜は、該化成皮膜に含有される、ジルコニウムの質量が、単位面積あたり5mg/m2以上であることが好ましく、10mg/m2以上であることがより好ましく、20mg/m2以上であることがさらに好ましい。上限値としては、特に制限はないが、800mg/m2以下であることが好ましい。なお、この化成皮膜におけるジルコニウムの質量は、例えば、蛍光X線分析装置を用いることにより測定することができる。
【0048】
本実施形態に係る化成皮膜付き金属材料の製造方法により製造した化成皮膜を有する金属材料は、本実施形態に係る化成処理剤を接触させることにより得られた化成皮膜の上あるいは下に、1又は2以上の上記各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜等)を有していてもよい。
【0049】
本実施形態に係る化成皮膜を有する金属材料の表面上に、塗料を用いて塗装することにより塗膜を形成させることで、化成皮膜及び塗膜を有する塗装金属材料を製造することができる。塗装金属材料は、本実施形態に係る化成皮膜を有する金属材料の表面上に塗膜を有するものであってもよいし、該化成皮膜上にさらに形成された、1又は2以上の上記各種皮膜(例えば、クロメート化成皮膜、リン酸塩化成皮膜、ビスマス置換めっき皮膜、バナジウム化成皮膜等)の表面上に塗膜を有するものであってもよい。なお、塗膜は1層か
らなるものであっても、2層以上からなるものであってもよい。塗膜の厚さは、特に制限されず、塗装金属材料の使用用途に応じて適宜設定される。
【実施例0050】
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されない。
<金属材料>
金属材料として、JIS G3141:2011の規格に適合する冷延圧延軟鋼板(SPCC:厚さ0.8mm)、JIS G3302:2012の規格に適合する合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA:厚さ0.8mm)、JIS H4000:2014の規格に適合するアルミニウム合金板(A6061:厚さ0.8mm)、JIS G3302:2012の規格に適合する溶融亜鉛めっき鋼板(SGCC:厚さ0.8mm)、JIS H4201:2018の規格に適合するマグネシウム合金板(MP-AZ31B:厚さ0.8mm)、及び溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム系メッキ(ZM40/40:厚さ0.8mm)を、それぞれ縦70mm×横150mmのサイズに切断し用いた。
【0051】
<化成処理剤の調製に用いた各成分>
化成処理剤の調製においては、下記原料を用いた。
(供給源A)
A1:ヘキサフルオロジルコニウム酸
A2:硝酸ジルコニウム
A3:水酸化ジルコニウム
(供給源B)
B1:硝酸アルミニウム
B2:水酸化アルミニウム
(高分子C)
C1:ジアリルアミン重合体(PAS-21;ニットーボーメディカル株式会社、式(i)含有比率100%)
C2:ジアリルアミン塩酸塩重合体(PAS-21CL;ニットーボーメディカル株式会社、式(i)含有比率100%)
C3:アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩重合体(PAA-D11-HCL;ニットーボーメディカル株式会社、式(i)含有比率50%)
なお、フッ素イオンの供給源としてフッ化水素酸を用いた。
【0052】
また、その他の添加物として下記原料を用いた。
(有機酸D)
D1:メタンスルホン酸
D2:エタンスルホン酸
D3:コハク酸
D4:クエン酸
(酸化剤E)
E1:硝酸
(供給源A及びB以外の金属F)
F1:硫酸第二鉄
F2:硝酸鉄(III)
F3:硝酸銅
(有機シラン化合物G)
G1:3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン
G2:3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン
G3:3-アミノプロピルジエチルエトキシシラン
G4:3-アミノプロピルエチルジエトキシシラン
G5:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
G6:3-アミノプロピルトリメトキシシラン
G7:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
G8:エチルトリメトキシシラン
G9:ウレイドプロピルトリエトキシシラン
G10:イソシアネートプロピルトリエトキシシラン
(金属アルコキシドH)
H1:チタンメトキシド
H2:バナジウムプロポキシド
H3:ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド
H4:アルミニウムイソプロポキシド
H5:ビニルトリメトキシシラン
(その他成分)
I1:硫酸ヒドロキシルアミン
I2:アスコルビン酸
【0053】
<化成処理剤の調製>
表1~5に示すとおり、各成分を所定量配合した後、水酸化ナトリウムで所定のpHに調整することにより、実施例1~59及び比較例1~27の化成処理剤を調製した。
【0054】
<化成皮膜を有する金属材料の製造>
表1~5に示すとおり、各種金属材料に処理を行い、化成皮膜を有する金属材料を製造した。すなわち、各種金属材料を脱脂剤(FC-E2093;日本パーカライジング株式会社;A剤13g/L、B剤11g/Lの濃度となるように水に溶解し、水酸化ナトリウムまたはCO2ガスで所定のpHに調整したアルカリ液)に43℃で120秒間浸漬させた(工程III)。アルカリ液に接触後、水酸化ナトリウムで所定のpHに調整した水溶液を25℃で30秒間スプレーした(工程IV)。なお、工程IVにおいて2種の水溶液を用いる場合、それぞれの水溶液を25℃で30秒間ずつスプレーした。スプレー後の金属材料を平面に平置きし、評価面に対して各種化成処理剤(実施例1~59及び比較例1~27の化成処理剤)を表1~5の液付着量D(L/m2)になるように120秒間スプレーした(工程I)。スプレーの際の処理液の温度は、15℃を低温、38℃を高温とした。化成処理液をスプレー後、表1~5に示す所定時間t分放置した(工程I~II)。その後、得られた化成皮膜を有する金属材料の表面上を、pH6の水道水、pH7の脱イオン水の順で洗浄した(工程II)。
水洗後、外観評価用の試験片は40℃で10分間乾燥を行った。塗装後耐食性用の試験片は乾燥せず、後述の塗装に供した。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
<塗膜を有する金属材料の製造>
各種金属材料の表面上に形成した化成皮膜上に塗装を行った後、焼き付けを行い、塗膜を有する金属材料を作製した。
以下に塗装方法の詳細及び焼付けの条件を示す。
【0061】
(カチオン電着塗装)
各種化成皮膜を有する金属材料を陰極とし、カチオン電着塗料(KG-400;関西ペイント株式会社製)を用いて電解することで塗膜を形成させた。なお、電解は、180Vの印加電圧及び30.0±0.5℃の温度で行った。また、電解は、塗膜厚が15.0±1.0μmとなるように、電気量を調整して行った。カチオン電着後、塗膜の表面を脱イオン水で洗浄し、170℃で20分間焼付けを行うことにより、塗膜を有する金属材料(各試験片)を作製した。
【0062】
<化成外観>
各実施例及び比較例により得られた化成皮膜を有する試験片の皮膜外観を目視により判定した。
<評価基準>
A:試験片を正面視した際に平面部及びエッジにムラなし、試験片を正面から20°傾けて見た際に平面部及びエッジにムラなし
B:試験片を正面視した際に平面部及びエッジにムラなし、試験片を正面から20°傾けて見た際に平面部及びエッジにムラあり
C:試験片を正面視した際に平面部にムラなく、エッジにムラあり、試験片を正面から20°傾けて見た際に平面部及びエッジにムラあり
D:試験片を正面視した際に平面部及びエッジにムラあり、試験片を正面から20°傾けて見た際に平面部及びエッジにムラあり
【0063】
<耐食性試験(曝露試験)>
カッターナイフを用いて、塗膜を有する各種試験片の塗膜面に、金属素地に達する×状の傷(クロスカット)をつけ、沖縄の海近辺に試験片を曝露し2年後、試験片の傷部(クロスカット部)からの塗膜膨れ幅(片側最大膨れ幅)を測定した。以下の評価基準に従って耐食性を評価した。
<評価基準-クロスカット部>
A:片側膨れ幅が5.0mm未満
B:片側膨れ幅が5.0mm以上10.0mm未満
C:片側膨れ幅が10.0mm以上15.0mm未満
D:片側膨れ幅が15.0mm以上
【0064】
<耐食性試験(VDA法)>
カッターナイフを用いて、塗膜を有する各種試験片の塗膜面中央に1本、金属素地に達する傷をつけ、VDA試験621-415及びDIN EN ISO 20567-1(1982 version;method C)による腐食サイクル試験を6サイクル行った。試験片の傷部(カット部)からの塗膜膨れ幅(片側最大膨れ幅)を測定した。以下の評価基準に従って耐食性を評価した。
<評価基準-カット部>
A:片側膨れ幅が5.0mm未満
B:片側膨れ幅が5.0mm以上10.0mm未満
C:片側膨れ幅が10.0mm以上15.0mm未満
D:片側膨れ幅が15.0mm以上
各評価試験の結果を表6~表8に示す。なお、全ての評価において、B以上を合格レベルとした。
【0065】
【0066】
【0067】