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特開2024-84411ハードコートフィルムの製造方法およびハードコートフィルムを用いたディスプレイの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084411
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムの製造方法およびハードコートフィルムを用いたディスプレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20240618BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20240618BHJP
   C08G 77/14 20060101ALI20240618BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G02B1/14
C08J7/046 CEY
C08J7/046 CFG
C08G77/14
C08G59/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198673
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】田口 祐介
【テーマコード(参考)】
2K009
4F006
4J036
4J246
【Fターム(参考)】
2K009AA15
2K009BB22
2K009CC24
2K009CC26
2K009CC42
2K009DD02
2K009DD17
4F006AA22
4F006AA39
4F006AB39
4F006AB42
4F006AB77
4F006BA02
4F006CA08
4F006DA04
4F006EA03
4J036AK17
4J036GA23
4J036HA02
4J036JA01
4J246AA03
4J246BA12X
4J246BB022
4J246BB02X
4J246CA69X
4J246FA061
4J246FA131
4J246FA441
4J246FC091
4J246FC211
4J246GA13
4J246GD08
4J246HA25
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、高い耐擦傷性、硬度、光学特性、屈曲耐性に優れたハードコートフィルムの製造方法およびそのハードコートフィルムを用いたディスプレイの製造方法を提供すること。
【解決手段】透明樹脂フィルム上に、ハードコート層および耐擦傷層をこの順に備えるハードコートフィルムの製造方法であり、前記透明樹フィルム上に、シラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布硬化させてハードコート層付き透明樹脂フィルムを得る工程、ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する工程、放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程、をこの順に含むハードコートフィルムの製造方法により、上記課題を解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルム上に、ハードコート層および耐擦傷層をこの順に備えるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記透明樹フィルム上に、一般式(1)で表されるシラン化合物の縮合物であるシラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布硬化させてハードコート層付き透明樹脂フィルムを得る工程、
ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する工程、
放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程、
をこの順に含むことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。(ただし、一般式(1)において、Rは炭素数1~16の置換または無置換のアルキレン基であり;Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり;Rは、水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり;xは2または3の整数であり;Yは脂環式エポキシ基である。)
【化1】
【請求項2】
前記ホスホニウム塩のアニオンが、パーフルオロアルキル基を有するホスホニウムアニオンであることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ホスホニウム塩のカチオンが芳香族スルホニウムカチオンであることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ホスホニウム塩の含有量が、シラン化合物の縮合物100重量部に対して、0.2~5重量部であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ハードコートフィルム層がレベリング剤を含んでいることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記分子内にアルコキシシリル基およびパーフルオロアルキル基を有する化合物のパーフルオロアルキル基がパーフルオロアルキルエーテル基であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記シラン化合物の縮合物が一般式(3)で表されるT3体と、一般式(4)で表されるT2体を含み、
T3体とT2体の含有量の比T3/T2が、0.8以上5未満であり、
縮合物のSi原子の総数に対する前記一般式(1)で表される構造の比率が0.2から1.0であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【化2】
【請求項8】
前記透明樹脂フィルムがポリイミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリレート系樹脂から選ばれる1つ以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記透明樹脂フィルムがポリイミドと(メタ)アクリレート系樹脂のブレンド樹脂を含むことを特徴とする請求項8に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ハードコート層の厚みが5から100μmであることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ハードコート層の厚みと前記透明樹脂フィルムの厚みの和が40から200μmであることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記ハードコートフィルムが、直径1cmの円に相当する面積に対してスチールウール#0000を荷重1kgfで押し当てた状態で2000往復させた後の水接触角が100°以上であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法によって得られるハードコートフィルムを用いてディスプレイを製造することを特徴とするディスプレイの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムの製造方法およびハードコートフィルムを用いたディスプレイの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
曲面ディスプレイや折り畳み可能なディスプレイ(フォルダブルディスプレイ)が開発されており、ディスプレイのカバーウィンドウや基板等に用いられてきた剛直なガラス材料を、柔軟性に優れたプラスチックフィルム材料に置き換える検討がなされている。フォルダブルディスプレイをはじめとするフレキシブルディスプレイのカバーウィンドウには、耐擦傷性、透明性、硬度、屈曲耐性等の諸特性が要求される。
【0003】
中でも、耐擦傷性は、スマートフォンをはじめとするモバイルディスプレイのカバーウィンドウに求められる特性の中で特に重要である。スマートフォンなどのモバイル機器は、使用環境において衣服との擦れ、指の爪やタッチペンによる引っ掻きなど様々な外力にさらされるが、その際に傷(キズ)が生じるとディスプレイの視認性を大きく損なうため、キズがつかないことが強く求められるためである。
【0004】
特許文献1では、シロキサン系のハードコート層とパーフルオロアルキルエーテルオリゴマーからなる耐擦傷層を有するハードコートフィルムが開示されている。シロキサン系ハードコート層は、アクリル系ハードコート層に比べて硬化収縮が小さいためカールに優れているが、ガラスを代替するカバーウィンドウ向けには耐擦傷性が不十分な場合があった。そこで、特許文献1ではシロキサン系ハードコート層の表面に耐擦傷層を形成することで、シロキサン系のハードコート層だけの場合に比べて大幅に耐擦傷性を向上させている。しかし、耐擦傷性試験における荷重が1kgf以上の非常に高い耐擦傷性を求められる場合にあっては、耐擦傷性が不足する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/191329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い耐擦傷性、硬度、光学特性、屈曲耐性に優れたハードコートフィルムの製造方法およびそのハードコートフィルムを用いたディスプレイの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑み鋭意検討の結果、透明樹脂フィルム上に、ハードコート層および耐擦傷層をこの順に備えるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記透明樹フィルム上に、シラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布硬化させてハードコート層付き透明樹脂フィルムを得る工程、
ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する工程、
放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程、
をこの順に含むことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法により、上記課題を解決できる。本発明を、以下に示す。
【0008】
1).透明樹脂フィルム上に、ハードコート層および耐擦傷層をこの順に備えるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記透明樹フィルム上に、一般式(1)で表されるシラン化合物の縮合物であるシラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布硬化させてハードコート層付き透明樹脂フィルムを得る工程、
ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する工程、
放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程、
をこの順に含むことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。(ただし、一般式(1)において、Rは炭素数1~16の置換または無置換のアルキレン基であり;Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり;Rは、水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり;xは2または3の整数であり;Yは脂環式エポキシ基である。)
【0009】
【化1】
【0010】
2).前記ホスホニウム塩のアニオンが、パーフルオロアルキル基を有するホスホニウムアニオンであることを特徴とする1)に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0011】
3).前記ホスホニウム塩のカチオンが芳香族スルホニウムカチオンであることを特徴とする1)または2に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0012】
4).前記ホスホニウム塩の含有量が、シラン化合物の縮合物100重量部に対して、0.5~5重量部であることを特徴とする1)~3のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0013】
5).前記ハードコートフィルム層がレベリング剤を含んでいることを1)~4)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0014】
6).前記分子内にアルコキシシリル基およびパーフルオロアルキル基を有する化合物のパーフルオロアルキル基がパーフルオロアルキルエーテル基であることを特徴とする1)~5)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0015】
7).前記シラン化合物の縮合物が一般式(3)で表されるT3体と、一般式(4)で表されるT2体を含み、
T3体とT2体の含有量の比T3/T2が、0.8以上5未満であり、
縮合物のSi原子の総数に対する前記一般式(1)で表される構造の比率が0.2から1.0であることを特徴とする1)~6)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0016】
【化2】
【0017】
8).前記透明樹脂フィルムがポリイミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリレート系樹脂から選ばれる1つ以上を含むことを特徴とする1)~7)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0018】
9).前記透明樹脂フィルムがポリイミドと(メタ)アクリレート系樹脂のブレンド樹脂を含むことを特徴とする1)~8)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0019】
10).前記ハードコート層の厚みが5から100μmであることを特徴とする1)~9)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0020】
11).前記ハードコート層の厚みと前記透明樹脂フィルムの厚みの和が40から200μmであることを特徴とする1)~10)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0021】
12).前記ハードコートフィルムが、直径1cmの円に相当する面積に対してスチールウール#0000を荷重1kgfで押し当てた状態で2000往復させた後の水接触角が100°以上であることを特徴とする1)~11)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法。
【0022】
13).1)~12)のいずれかに記載のハードコートフィルムの製造方法によって得られるハードコートフィルムを用いてディスプレイを製造することを特徴とするディスプレイの製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本件発明により、高い耐擦傷性、硬度、光学特性、屈曲耐性に優れたハードコートフィルムの製造方法およびそのハードコートフィルムを用いたディスプレイの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本件発明のハードコートフィルムの製造方法は、
透明樹脂フィルム上に、ハードコート層および耐擦傷層をこの順に備えるハードコートフィルムの製造方法であって、
前記透明樹フィルム上に、一般式(1)で表されるシラン化合物の縮合物であるシラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布硬化させてハードコート層付き透明樹脂フィルムを得る工程(工程A)、
ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する工程(工程B)、
放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程(工程C)、
をこの順に含むことを特徴とするハードコートフィルムの製造方法である。(ただし、一般式(1)において、Rは炭素数1~16の置換または無置換のアルキレン基であり;Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり;Rは、水素原子、または炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基であり;xは2または3の整数であり;Yは脂環式エポキシ基である。)
【0025】
【化3】
【0026】
<耐擦傷性向上のメカニズム>
本発明の最大の効果である、高い耐擦傷性は、ハードコート層を硬化させる前のハードコート組成物にホスホニウム塩を含むことと、ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する放電処理によって主にもたらされる。
【0027】
はじめに、ハードコート層を硬化させる前のハードコート組成物にホスホニウム塩を含むことについて説明する。ハードコート層は一般式(1)で表される脂環式エポキシ基を含むシラン化合物の縮合物と光酸発生剤であるホスホニウム塩を少なくとも含むハードコート組成物の硬化物であり、ハードコート組成物に活性エネルギー線を照射することで、光酸発生剤から酸が発生し、シラン化合物の縮合物に含まれる脂環式エポキシ基が反応して硬化することで得られる。光酸発生剤には多種多様なものがあるが、高い耐擦傷性を発現するためには、光酸発生剤はホスホニウム塩である必要がある。本発明のホスホニウム塩から生じる酸は、他の光酸発生剤から生じる酸よりも安定性が高く、ハードコート層中で長時間活性状態を保つことができる。
【0028】
光酸発生剤は、活性エネルギー線の照射を受けると、反応し、いくつかの反応経路を瞬時に経て、最終的に酸であるプロトン(水素カチオン)と、そのカウンターイオンであるアニオン種を生じる。ここで、アニオン種の安定性が高いと、カウンターイオンであり、実質的な活性種であるプロトンの反応性は高くなる。例えば、代表的なアニオン種である、ヘキサフルオロアンチモネートアニオンは、アンチモン原子とフッ素原子の結合が比較的容易に外れやすく、フッ素原子が脱離して減ったフルオロアンチモネートアニオンになると(アニオンの分解)、活性種であるプロトンの反応性が大幅に低下してしまう。本発明のホスホニウムアニオンは、リン原子とフッ素やフルオロアルキル基等の置換基の結合が外れにくく、このようなアニオンの分解が起こりにくい特徴がある。
【0029】
ハードコート層は、その上に形成される耐擦傷層の土台となる層であり、ハードコート層の硬化状態は、耐擦傷層形成後の耐擦傷性に大きく影響する。本発明によって耐擦傷性が向上し、1kgf以上の高荷重に耐えられるメカニズムの詳細は解明されていないものの、ホスホニウム塩に起因して、活性種である酸の活性状態が長くなることで、ハードコート層の硬化(特にハードコート層の表面近傍の硬化)が進み、高度な架橋構造が形成されることが耐擦傷性の向上に寄与していると考えられる。
【0030】
続いて、ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電量22~99W・min/mで放電処理する放電処理について説明する。本発明に用いられているシロキサン系ハードコート層は脂環式エポキシ基を含むシラン化合物の縮合物を含むため、脂環式エポキシ基の反応(開環重合)に伴って生じる水酸基、シラン化合物の加水分解反応に伴って生じるシラノール基をある程度有している。一方で、本発明の耐擦傷層は分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物から形成される。高い耐擦傷性を発現するためには、耐擦傷層を形成する、分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物をハードコート層の表面に共有結合で固定化することが必要であり、先述の水酸基やシラノール基は、分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物におけるアルコキシシリル基と縮合反応できるため、一般的なハードコート層に用いられるアクリル系のハードコートに比べて、これらの官能基を有しているシロキサン系のハードコートが好ましい。ただし、シロキサン系のハードコート層でも、高い耐擦傷性を発現するためには、耐擦傷層を形成する分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を更に多く固定化する必要がある。
【0031】
シロキサン系のハードコート層の表面にコロナ処理、プラズマ処理に代表される放電処理を施すことで、ハードコート層表面に水酸基、カルボキシル基に代表される、アルコキシシリル基と反応可能な官能基が多数形成される。官能基の形成状態は、放電処理の強度によって変化する。官能基数が多いほど、分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物との反応が進むため、耐擦傷性向上に関して好ましい。
一方で、放電処理による官能基形成は、ハードコート層表面を形成する材料の分解反応も伴う。分解反応が進むと、原子間の結合が切断され、材料としての機械強度が低下する。結合が切断されて、機械強度が低下したハードコート層は、耐擦傷層の土台が弱くなっているため、耐擦傷性は低下する傾向がある。
【0032】
上記のように、放電処理には耐擦傷層を固定化させる好ましい作用と、ハードコート層の機械強度を低下させる好ましくない作用の両方を内在しており、好ましい放電処理の方法が存在する。具体的には、放電量22~99W・min/m2が好ましい。放電量が22W・min/m2未満では、ハードコート層表面の官能基が不足することで、耐擦傷層の固定化が不十分となって耐擦傷性が不足する。放電量が99W・min/mを超えると、材料の分解反応の影響が大きくなり、耐擦傷性が不足する。高い耐擦傷性を発現するためには、上記の特定の放電量での処理が必須である。放電処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ処理などの各種の放電処理を適用できる。放電状態としては特に限定されないが、コロナ放電、アーク放電、グロー放電などが例示できる。放電雰囲気は、真空や減圧下での放電、大気圧下での放電、加圧下での放電でもよく、放電雰囲気に存在する気体は大気でもよく、酸素、窒素、水、水素などの特定の気体を含んでいてもよい。これらの中でも、装置の構造が簡便であることから大気圧下でのプラズマ処理、コロナ処理が好ましく、コロナ処理がより好ましい場合がある。
【0033】
高い耐擦傷性とは、ハードコートフィルムの直径1cmの円に相当する面積に対してスチールウール#0000を荷重1kgfで押し当てた状態で2000往復させた後の水接触角が100°以上であることを意味し、特に1kgfという高荷重に耐える耐擦傷性を意味する。
【0034】
[本発明を構成する材料について]
本発明のハードコートフィルムは、透明フィルム上にハードコート層、耐擦傷層をこの順に備える。以下に、本発明を構成する、一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物、ホスホニウム塩、分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物、透明樹脂フィルムについて説明する。
【0035】
<シラン化合物の縮合物>
本発明のハードコート層を構成する硬化性樹脂組成物(ハードコート組成物)は、一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物を必須成分として含有する。シラン化合物の縮合物は下記一般式(1)で表されるシラン化合物を少なくとも含むシラン化合物の縮合物であり、一般式(1)中、Yは脂環式エポキシ基を含有する基を表す。脂環式エポキシ基を含有する基とは例えば、脂環式エポキシ基や、脂環式エポキシ基を置換基として有するアルキル基や、脂環式エポキシ基を置換基として有するエチレングリコール基などが挙げられる。耐熱性や耐屈曲性の観点から、脂環式エポキシ基を置換基として有するアルキル基が好ましい。このような脂環式エポキシ基を置換基として有するアルキル基の具体例としては例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基、4-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ブチル基、5-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ペンチル基、6-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘキシル基、7-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ヘプチル基、8-(3,4-エポキシシクロヘキシル)オクチル基、9-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ノニル基、10-(3,4-エポキシシクロヘキシル)デシル基、11-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ウンデシル基、12-(3,4-エポキシシクロヘキシル)ドデシル基等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)中、Rは水素原子または炭素数1~10のアルキル基を示す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。加水分解性シリル基を有するシラン化合物を加水分解および縮合させやすいという観点から、Rのアルキル基はメチル基、エチル基またはプロピル基が好ましく、最も好ましくはメチル基である。
【0037】
一般式(1)中、Rは水素原子または炭素数1~16のアルキル基、炭素数6~25のアリール基および炭素数7~12のアラルキル基から選択される1価の炭化水素基を示す。このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、エチルヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0038】
一般式(1)のxは、1~3の整数であり、ハードコートに要求される諸物性に応じて適宜選択される。
【0039】
シラン化合物(1)の具体例としては、例えば、(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジメチルメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)トリエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチルジエトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)ジメチルエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}トリメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}メチルジメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}ジメチルメトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}トリエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}メチルジエトキシシラン、{(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル}ジメチルエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}トリメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}メチルジメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}ジメチルメトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}トリエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}メチルジエトキシシラン、{2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル}ジメチルエトキシシラン等の脂環式エポキシ基含有シランが挙げられる。これらの中でも、縮合反応の容易性や硬化物の硬度の観点から2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましい。
【0040】
シラン化合物の縮合物は一般式(1)で表されるシラン化合物以外に、一般式(1)で表されるシラン化合物と異なる一般式(2)で表されるシラン化合物(後に詳述する)を共縮合することができる。共縮合される場合は、[一般式(1)由来の構成単位]/([一般式(1)由来の構成単位]+[一般式(2)由来の構成単位])が0.5以上1.0以下であることが好ましく、硬度、耐屈曲性の観点で、0.7以上1.0以下であることがより好ましく、0.9以上1.0以下が更に好ましい。
【0041】
【化4】
【0042】
一般式(1)由来の構成単位とは、縮合物中の一般式(1)が縮合して得られた[YSi]構造を含む構成単位であり、一般式(2)由来の構成単位とは一般式(2)が縮合して得られた[RSi]構造を含む構成単位のことを指す。
【0043】
一般式(2)中、Rは、脂環式エポキシ基を含有せず、(メタ)アクリロイル基などの置換もしくは無置換の二重結合を含有する基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基を含有する基、フェニル基などの置換もしくは無置換の芳香環を含有する基、メチル基などの置換もしくは無置換のアルキル基、グリシジル基を有する基、オキセタニル基を有する基、または水素原子であり、RおよびRは一般式(1)と同じである。これらの中でも、一般式(1)で表されるシラン化合物との反応性や、透明フィルム層との密着性、ハードコート層の硬度の観点から、グリシジル基を有する基が好ましい場合がある。Rが置換もしくは無置換の二重結合を含有する基の場合は、二重結合を有する添加剤(たとえば、(メタ)アクリロイル化合物を主成分とするアクリル系ハードコート材料)との反応性に優れる場合がある。
【0044】
一般式(2)としては、特に限定されないが、Rが(メタ)アクリロイル基置換アルキル基である化合物としては、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。添加剤などとの反応性の観点で、(メタ)アクリロイル基置換アルキル基はアクリロイル基置換アルキル基である方が好ましい場合がある。
【0045】
が無置換の芳香環を含有する基である化合物としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
が無置換のアルキル基であるものとしては、メチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
がグリシジル基であるものとしては、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルメチルジメトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルトリエトキシシラン、8-グリシジルオキシオクチルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。グリシジル基は縮合物の脂環式エポキシ基との反応性、得られる硬化物の特性の観点で好ましい場合がある。
【0048】
シラン化合物の縮合物に一般式(2)で表されるシラン化合物が共縮合される場合において、硬化物の機械強度を向上する観点から、シラン化合物の縮合物の1分子中に含まれるエポキシ基の数は多いほど好ましい場合がある。
【0049】
本発明のシラン化合物の縮合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、硬化物の硬度を高める観点から500以上が好ましい。また、シラン化合物の縮合物の揮発を抑制する観点からも、シラン化合物の縮合物の重量平均分子量は500以上であることが好ましい。一方、分子量が過度に大きいと、他の組成物との相溶性の低下等に起因して白濁が生じる場合がある。そのため、シラン化合物の縮合物の重量平均分子量は20000以下が好ましい。
【0050】
なお、本発明のシラン化合物の縮合物の重量平均分子量は、反応に用いる水の量、触媒の種類および量を適切に選択することにより、制御することができる。例えば、最初に仕込む水の量を増やすことにより、重量平均分子量を高くすることができる。
【0051】
一般式(1)で表されるシラン化合物に含まれる、SiO3/2(一般式(1)においてx=3に相当)、SiO2/2(一般式(1)においてx=2に相当)、SiO1/2構造(一般式(1)においてx=1に相当)をそれぞれ、T構造、D構造、M構造とした時に、[T構造]+[D構造]+[M構造]に対する[T構造]の比率は特に限定されないが、0.2以上1.0以下が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.6以上1.0以下が更に好ましい。[T構造]の比率が0.2より小さい場合、十分な鉛筆硬度が得られない恐れがある。シラン化合物の縮合物に一般式(2)で表されるシラン化合物が共縮合される場合においても同様であり、[T構造]の比率は特に限定されないが、0.2以上1.0以下が好ましく、0.4以上1.0以下がより好ましく、0.6以上1.0以下が更に好ましい。
【0052】
架橋点密度を高めて、硬化物の硬度を向上させるとの観点から、一般式(1)で表されるシラン化合物の加水分解および縮合により得られるシラン化合物の縮合物におけるエポキシ構造の残存率は、高い方が好ましい。シラン化合物の縮合物に一般式(2)で表されるシラン化合物が共縮合される場合においても同様に、シラン化合物の縮合物におけるエポキシ構造の残存率は、高い方が好ましい。
【0053】
本発明のシラン化合物の縮合物は、一般式(1)で表されるシラン化合物を少なくとも含むシラン化合物の加水分解および縮合反応により形成され、一般式(3)および/または一般式(4)で表される構成単位を含む。式(3)で表される構成単位(一般式(1)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランが、全て縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T3体]と記載)と、式(4)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランの内、2つが縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T2体]と記載)の割合[T3体]/[T2体]は、0.8以上5未満であることが好ましく、1以上4未満であることがより好ましく、1.5以上3未満であることがさらに好ましい。T3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]を5未満とすることにより、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物からなるハードコート層を有するハードコートフィルムは、優れた耐屈曲性を示す場合がある。縮合物中のT3体の含有量が多くなり、[T3体]/[T2体]が5以上となると、得られる縮合物は緻密な構造をとり、柔軟性が低下するため、ハードコートフィルムとしたときの耐屈曲性が低下する場合がある。
【0054】
【化5】
【0055】
一般式(3)及び一般式(4)中、Rは式(1)中のRと同じである。一般式(3)及び一般式(4)中、Zはヒドロキシル基または炭素数1~10のアルキル基を有するアルコキシ基を示す。このようなアルキル基を有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基等が挙げられる。
【0056】
本発明のシラン化合物の縮合物におけるT3体およびT2体の含有量や割合は、例えば、29Si-NMR測定により算出することができる。29Si-NMR測定において、T3体におけるケイ素原子の化学シフトと、T2体におけるケイ素原子の化学シフトは異なり、スペクトルの異なる位置にシグナルを示すため、それぞれのシグナルの積分値を算出することにより、上記割合[T3体]/[T2体]を求めることができる。
【0057】
シラン化合物の縮合物に一般式(2)で表されるシラン化合物が共縮合される場合においても同様であり、シラン化合物の縮合物は、一般式(1)及び一般式(2)で表されるシラン化合物の加水分解および縮合反応により形成され、一般式(3)または一般式(4)で表される構成単位を含む。式(3)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランが、全て縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T3体]と記載)と、式(4)で表される構成単位(一般式(1)及び(2)中、x=3であるT単位構造を有するシラン化合物の有する3つのアルコキシシランの内、2つが縮合反応しSi-O-Si構造を取っている構造。以下[T2体]と記載)の割合[T3体]/[T2体]は、0.8以上5未満であることが好ましく、1以上4未満であることがより好ましく、1.5以上3未満であることがさらに好ましい。T3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]を5未満とすることにより、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化物からなるハードコート層を有するハードコートフィルムは、優れた耐屈曲性を示す場合がある。縮合物中のT3体の含有量が多くなり、[T3体]/[T2体]が5以上となると、得られる縮合物は緻密な構造をとり、柔軟性が低下するため、ハードコートフィルムとしたときの耐屈曲性が低下する場合がある。
【0058】
一般式(3)及び一般式(4)中、Rは式(1)中のR及び式(2)中のRと同じである。
【0059】
なお、本発明のシラン化合物の縮合物におけるT3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]は、反応に用いる水の量、触媒の種類および量を適切に選択することにより、制御することができる。例えば、最初に仕込む触媒の量を増やすことにより、上記割合[T3体]/[T2体]を大きくすることができる。また、中性塩触媒を用いるとT3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]を0.8以上5未満にコントロールすることが容易にできるため好ましい。
【0060】
上記エポキシ構造の残存率、すなわち、原料であるシラン化合物(1)が有するエポキシ構造のモル数に対する、縮合により得られるシラン化合物の縮合物におけるエポキシ構造のモル数の割合(比率)は、0.1~1.0であることが好ましく、0.4~1.0であることがより好ましく、0.6~1.0であることがさらに好ましい。
ここで、エポキシ構造の残存率は、H-NMR測定によって算出することができる。
【0061】
本発明においては、加水分解および縮合反応は、公知の方法にて、塩基性触媒、酸性触媒、中性塩触媒の存在下いずれでも実施できる。なかでも、中性塩触媒を用いることが好ましい。加水分解および縮合反応を中性塩触媒の存在下で実施することにより、加水分解および縮合反応の前後および貯蔵中に、エポキシ基を失活させることなく、シラン化合物の縮合物を得ることができる。
【0062】
本発明で用いられる中性塩とは、強酸と強塩基からなる正塩のことであり、カチオンとして第一族元素イオンおよび第二族元素イオンからなる群より選ばれるいずれかと、アニオンとして塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンからなる群より選ばれるいずれかとの組合せからなる塩のことである。
【0063】
本発明における中性塩の具体例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ベリリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ベリリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。
【0064】
本発明においては、中性塩の使用量が多いほど、シラン化合物の加水分解および縮合反応は促進されるが、縮合物の透明性や精製工程などを考慮した際には、添加量は少ないほど良い。
【0065】
本発明における中性塩の使用量は、シラン化合物の加水分解性シリル基1モルに対して、0.000001モル以上0.1モル以下が好ましく、0.000005モル以上0.01モル以下が特に好ましい。シラン化合物の縮合物中に残存する中性塩の量は、1ppm~10000ppmであることが好ましく、50ppm~5000ppmがより好ましく、100ppm~1000ppmであることがさらに好ましい。
【0066】
<ホスホニウム塩>
本発明のハードコート層を構成する硬化性樹脂組成物(ハードコート組成物)は、ホスホニウム塩を必須成分として含有する。ホスホニウム塩は、活性エネルギー線などのエネルギーによって、酸を発生させ、硬化性樹脂組成物を硬化させる。ホスホニウム塩から生成した酸により、上記の硬化性組成物中のシラン化合物の縮合物のエポキシ基の開環反応および重合反応が進行し、分子間架橋が形成され材料が硬化する。活性エネルギー線によって、酸を発生させる化合物は種々存在するが、ホスホニウム塩は、先述のメカニズムによって、耐擦傷性の向上効果に優れているため好ましい。
【0067】
ホスホニウム塩は酸を発生させるものであれば特に限定されず、紫外線などの活性エネルギー線によって酸を生じる光酸発生剤、熱によって酸を生じる熱酸発生剤のいずれも適用可能であるが、ハードコートフィルムの生産性の観点から光酸発生剤が好ましい。
【0068】
ホスホニウム塩としては、エポキシ化合物を含む硬化性組成物における安定性が高いことから、芳香族スルホニウムカチオンとホスホニウムアニオンの塩または芳香族ヨードニウムカチオンとホスホニウムアニオンの塩が好ましい。なかでも、紫外線に対する開始効率の観点から、芳香族スルホニウムカチオンとホスホニウムアニオンの塩が好ましい。
【0069】
ホスホニウム塩を構成するホスホニウムアニオンとしては、PF で表されるヘキサフルオロホスフェートアニオンや、PF のFの一部またはすべてがフルオロアルキル基またはパーフルオロアルキル基で置換された構造が挙げられる。中でも、生じる酸の酸強度が高くハードコート組成物の硬化性に優れることから、PF のFの一部またはすべてがパーフルオロアルキル基に置換されたホスホニウム塩が好ましい。パーフルオロアルキル基を有するホスホニウム塩の中でも、入手性の観点から、(CFCFPF が好ましい。このような構造のホスホニウム塩としては、CPI-100P、CPI-200K(いずれもサンアプロ社)などが挙げられるが、これに限られない。
【0070】
芳香族スルホニウムカチオンとしては、紫外線に対する開始効率の観点からトリアリールスルホニウムカチオンがより好ましく、ジフェニル(4-フェニルチオ)フェニルスルホニウムカチオンが特に好ましい。このような構造のホスホニウム塩としては、CPI-100P、CPI-200K(いずれもサンアプロ社)などが挙げられるが、これに限られない。
【0071】
ハードコート組成物中のホスホニウム塩の含有量は、上記のシラン化合物の縮合物100重量部に対して、0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、0.2重量部以上が更に好ましく、0.5重量部以上が特に好ましく、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が特に好ましい。含有量が少ないと硬化性が不足する傾向があり、含有量が多いと硬化物の機械強度や光学特性が低下する傾向がある。
【0072】
(ハードコート組成物)
本発明のハードコート層を構成する硬化性組成物は、一般式(1)で表されるシラン化合物の縮合物、ホスホニウム塩に加えて、光重合開始剤やレベリング剤、表面改質剤、粒子、反応性添加剤等のその他の成分を含んでいてもよい。
【0073】
(光重合開始剤)
硬化性組成物は、ホスホニウム塩以外の硬化剤として、既知のエポキシ化合物を硬化可能な硬化剤を用いることができる。硬化剤の例として例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、熱カチオン重合開始剤(熱酸発生剤)、光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)などの光重合開始剤を例示できる。中でも、生産性高く硬化可能であることから光重合開始剤が好ましく用いられる。
【0074】
光酸発生剤としては、六フッ化アンチモン、四フッ化ホウ素、フルオロアルキルフッ化ガリウム等のアニオン(強酸)と、スルホニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ヨードニウム、セレニウム等のカチオンを組み合わせたオニウム塩類;鉄-アレン錯体類;シラノール-金属キレート錯体類;ジスルホン類、ジスルホニルジアゾメタン類、ジスルホニルメタン類、スルホニルベンゾイルメタン類、イミドスルホネート類、ベンゾインスルホネート類等のスルホン酸誘導体;有機ハロゲン化合物類等が挙げられる。
【0075】
ハードコート組成物中のホスホニウム塩を除く光カチオン重合開始剤の含有量は、上記のシラン化合物の縮合物100重量部に対して、0.05~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.2~2重量部がさらに好ましい。
【0076】
(レベリング剤)
ハードコート組成物は、さらに、レベリング剤を含んでいてもよい。レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、エーテル系レベリング剤、アクリル系レベリング剤などを例示できる。レベリング剤を含むことで、硬化性組成物の表面張力を低下させたり、表面平滑性を向上させたり、滑り性を向上させたり、防指紋性を向上させたり、耐擦傷性を向上させたりすることができる。本発明によれば、ハードコート組成物はレベリング剤を含んでいても、高い耐擦傷性を実現できる特徴がある。レベリング剤を含むことで、表面平滑性が向上するため、レベリング剤を含んでいる方が好ましい場合がある。
【0077】
本発明のハードコートフィルムのハードコート組成物におけるレベリング剤の含有量は、上記のシラン化合物の縮合物に対して、0.001~10重量部が好ましく、0.01~5重量部がより好ましく、0.05~1重量部以下が更に好ましい。
【0078】
(反応性添加剤)
硬化性組成物は、さらに、反応性添加剤として、本発明のシラン化合物の縮合物以外のカチオン硬化性化合物を含んでいてもよい。反応性添加剤のカチオン重合性官能基としては、エポキシ基、ビニルエーテル基、オキセタニル基、およびアルコキシシリル基が挙げられる。本発明のシラン化合物の縮合物との相溶性や反応性の観点からは、エポキシ基を有するものが好ましい。反応速度の速さと得られる硬化物の表面硬度の観点からは、ビニルエーテルを有するものが好ましい。最終的な反応率の高さの観点からは、オキセタニル基を有するものが好ましい。なお、本発明の硬化性組成物において、反応性添加剤としてその他のカチオン硬化性化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
エポキシ基を有する反応性添加剤としては、硬化性、硬化物の硬度、屈曲耐久性などの観点から、多官能のエポキシ化合物が好ましい。このような化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1, 12-ドデカンジオールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヘプタプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多官能グリシジル型エポキシ化合物、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ε-カプロラクトン変性3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の多官能脂環式エポキシ化合物が挙げられる。
【0080】
本発明の硬化性組成物における反応性添加剤の含有量は、上記のシラン化合物の縮合物100重量部に対して、90重量部以下が好ましく、50重量部以下がより好ましく、20重量部以下が更に好ましい。反応性添加剤の含有量が多いと硬化物の硬度が低下する場合がある。
【0081】
(粒子)
本発明の硬化性組成物は、硬化物の特性(硬度や屈曲耐性)の調整や、硬化収縮の抑制等を目的として粒子を含んでいてもよい。粒子としては、有機粒子、無機粒子、有機無機複合粒子等を適宜選択して用いればよい。有機粒子の材料としては、ポリ(メタ)アクリレート、スチレン、シリコーン、ブタジエン等が挙げられる。無機粒子の材料としては、シリカ、チタニア、アルミナ等、が挙げられる。
【0082】
粒子の平均粒子径は、例えば5nm~10μm程度である。ハードコート層の透明性を高める観点から、平均粒子径は1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。粒子径は、レーザー回折/散乱式の粒子径分布測定装置により測定でき、体積基準のメジアン径を平均粒子径とする。
【0083】
硬化性組成物は、表面修飾された粒子を含んでいてもよい。粒子が表面修飾されることにより、硬化性組成物中での粒子の分散性が向上する傾向がある。また、粒子表面がエポキシ基と反応可能な重合性官能基により修飾されている場合は、粒子表面の官能基と本発明のシラン化合物の縮合物が反応して化学架橋が形成されるため、膜強度や屈曲耐性の向上が期待できる。
【0084】
エポキシ基と反応可能な重合性官能基としては、水酸基、カルボキシ基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、オキセタン基等が挙げられる。中でも、エポキシ基が好ましい。これらの粒子は単独で使用してもよいし、複数を含んでいてもよい。
【0085】
(溶媒)
本発明のハードコート組成物は、溶媒を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。溶媒の含有量としては、本発明のシラン化合物の縮合物100重量部に対して500重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。
【0086】
(添加剤)
本発明のハードコート組成物は、光増感剤、調色剤、ラジカル重合開始剤、表面調整剤、表面改質剤、可塑剤、分散剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、硬化性組成物は、上記のシラン化合物の縮合物以外の熱可塑性または熱硬化性の樹脂材料を含んでいてもよい。
【0087】
〔透明樹脂フィルム上に、一般式(1)で表されるシラン化合物の縮合物であるシラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布硬化させてハードコート層付き透明樹脂フィルムを得る工程:工程A)〕
工程Aは、透明樹脂フィルムの両面または片面に、シラン化合物の縮合物であるシラン化合物の縮合物とホスホニウム塩を含むハードコート組成物を塗布する工程の後に、ハードコート組成物を硬化させる工程を含む。ハードコート組成物の塗布方法は特に限定されないが、バーコート、グラビアコート、コンマコート等のロールコート、スロットダイコート、ファウンテンダイコート等のダイコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなどの既存の塗布方法を使用でき、得られる塗膜の外観品位の観点から、グラビアコート、スロットダイコートが好ましい場合がある。ハードコート組成物の塗布は、透明樹脂フィルムの一方の面のみに行われてもよく、両面であってもよい。両面の場合、一方の面に塗布後、塗布したハードコート組成物を硬化させてから、他方の面に塗布してもよく、一方の面に塗布後、他方の面に塗布してもよく、同時に両面に塗布してもよい。
【0088】
塗布されたーハードコート組成物が溶剤を含む場合は、溶剤を除去する乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥工程は塗布工程と硬化工程の間であることが好ましいが、硬化工程によってハードコート層が固化する場合は、硬化工程後に乾燥工程があってもよい。
【0089】
塗布されたハードコート組成物の硬化は、熱または活性エネルギー線を印加することによる硬化工程によって行われる。生産性の観点から活性エネルギー線の印加が好ましく、中でも紫外線の照射が好ましい。活性エネルギー線の照射によって、ホスホニウム塩から生じた酸によってハードコート組成物が硬化する。硬化工程は大気下で行ってもよく、窒素雰囲気化で行ってもよい。本発明の脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物の硬化は大気中の酸素による阻害を受けないため、大気下で行うことが可能であり、設備の簡便さの観点から好ましい。硬化工程においては熱を加えて、反応を促進しても良い。
【0090】
工程Aに含まれる塗布と硬化は、それぞれを個別に行ってもよく、連続的に行ってもよい。生産性の観点からは連続的に行うことが好ましく、例えば、ロールトゥロール方式の透明樹脂フィルム搬送設備中に、各種コーティング方式に対応した塗布部と、紫外線照射装置などの硬化部を有する、コーティング装置が好ましく用いられる。
【0091】
〔ハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電処理する工程:工程B〕
工程Bは、工程Aで得られたハードコート層付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面を放電処理する。工程Bは工程Aよりも後に位置する。先述のように、放電処理により、耐擦傷層をハードコート層表面に強固に固定化できるようになる。
放電処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ処理などの各種の放電処理を適用できる。放電状態としては特に限定されないが、コロナ放電、アーク放電、グロー放電などが例示できる。放電雰囲気は、真空や減圧下での放電、大気圧下での放電、加圧下での放電でもよく、放電雰囲気に存在する気体は大気でもよく、酸素、窒素、水、水素などの特定の気体を含んでいてもよい。これらの中でも、装置の構造が簡便であることから大気圧下でのプラズマ処理、コロナ処理が好ましく、コロナ処理がより好ましい場合がある。
先述のように、高い耐擦傷性を発現するためには、好ましい放電処理の方法が存在する。具体的には、放電量22~99W・min/m2が好ましい。放電量が22W・min/m2未満では、ハードコート層表面の官能基が不足することで、耐擦傷層の固定化が不十分となって耐擦傷性が不足する。放電量が99W・min/mを超えると、材料の分解反応の影響が大きくなり、耐擦傷性が不足する。高い耐擦傷性を発現するためには、上記の特定の放電量での処理が必須である。
【0092】
〔放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程:工程C〕
工程Cは、放電処理されたハードコート層に分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む組成物を塗布して耐擦傷層を形成する工程である。
【0093】
塗布方法は特に限定されず、バーコート、グラビアコート、コンマコート等のロールコート、スロットダイコート、ファウンテンダイコート等のダイコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなどの既存の湿式塗布方法と、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの乾式塗布方法蒸着などの乾式塗布方法いずれも用いることができる。中でも真空装置を必要とせず簡便な湿式法が好ましい。工程Cは工程Bよりも後に位置する。アルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物は塗布するだけでも、ハードコート層表面の官能基と反応性を示すが、反応は加熱により促進することができる。加熱温度は30℃以上が好ましく、60℃以上が好ましく、100℃以上が好ましく、130℃以上が好ましい。ただし加熱しなくてもよい。また、反応は、水分の添加、触媒の添加によっても促進することができる。これらの方法は単独で用いても組み合わせて用いてもよい。加熱を行う場合は、ハードコート層表面にパーフルオロアルキル基含有化合物を塗工する工程の後に行うことが好ましい。
【0094】
<分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物>
分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物は、本発明の耐擦傷層に含まれる。分子内にアルコキシシリル基とパーフルオロアルキル基を有する化合物は塗布されたのちに、アルコキシシリル基の縮合反応によって硬化し、層を形成すると共に、先述のメカニズムによってハードコート層の表面に強固に固定されて耐擦傷性を発現する。
【0095】
耐擦傷層はハードコート層上に配置され、ハードコートフィルムの耐擦傷性を向上させる。ハードコート層が透明樹脂フィルムの両方の表面(両面)に形成されていている場合は、耐擦傷層はそれぞれのハードコート層の透明樹脂フィルムと反対の表面に形成されてもよく、一方のハードコート層の透明樹脂フィルムと反対の表面にのみ形成されていてもよい。耐擦傷層は耐擦傷性と同時に防汚性も向上させる傾向がある。
【0096】
特に、パーフルオロアルキル基含有化合物のパーフルオロアルキル基がオリゴマーである場合は、低分子のパーフルオロアルキル化合物に比べて長鎖であるため、耐擦傷性試験において応力緩和機能が高く、ハードコート層へのダメージを軽減して高い耐擦傷性と防汚性を発揮する。
【0097】
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物のパーフルオロアルキル基としては、CF(CF-で表されるアルキル鎖の水素原子を全てフッ素原子に置き換えたものであれば限定されないが、以下で表されるフルオロアルキルエーテル構造を有することが好ましく、フルオロアルキルエーテルの繰り返し単位を有するオリゴマーであることがさらに好ましい。フルオロアルキルエーテル構造により低温でも耐擦傷性を発揮できる傾向がある。また、オリゴマーであることで耐擦傷層の厚みが厚くなるため、耐擦傷性と防汚性が向上して好ましい。
【0098】
耐擦傷層における分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物に由来する成分の割合は、20wt%以上が好ましく、50wt%以上が好ましく、80wt%以上が好ましく、90wt%以上が好ましく、100wt%であってもよい。20wt%よりも少ない場合は耐擦傷性や防汚性が十分に得られない場合がある。
耐擦傷層の厚みは特に限定されないが、1nm以上が好ましく、5nm以上が好ましく、6nm以上が好ましく、10nm以上が好ましく、1000nm以下が好ましく、100nm以下が好ましく、50nm以下が好ましく、45nm以下が好ましく、30nm以下が好ましい。耐擦傷層が薄いと耐擦傷性が不足することがあり、厚いと塗膜が白濁することがある。
【0099】
耐擦傷層は、透明樹脂フィルムにハードコート層が形成されたハードコート付き透明樹脂フィルムのハードコート層の表面に、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物の組成物を塗布、硬化することで得られる。分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物の組成物を塗布する方法としては特に限定されず、バーコート、グラビアコート、コンマコート等のロールコート、スロットダイコート、ファウンテンダイコート等のダイコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなどの既存の湿式塗布方法、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの乾式塗布方法を使用できる。中でも真空装置を必要とせず簡便な湿式法が好ましい。
【0100】
耐擦傷層は分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物からなり、アルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物のアルコキシシリル基が縮合した状態であることが好ましい。アルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物のアルコキシシリル基が縮合した状態では、アルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物がハードコート層表面の官能基と縮合反応して共有結合を形成することでパーフルオロアルキル基含有化合物を強固にハードコート層に固定化し、耐擦傷性試験において脱離しにくくなる効果がある。アルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物の縮合は加熱により促進することができる。加熱温度は30℃以上が好ましく、60℃以上が好ましく、100℃以上が好ましく、130℃以上が好ましい。ただし加熱しなくてもよい。また、縮合は、水分の添加、触媒の添加によっても促進することができる。これらの方法は単独で用いても組み合わせて用いてもよい。加熱を行う場合は、ハードコート層表面にパーフルオロアルキル基含有化合物を塗工する工程の後に行うことが好ましい。
【0101】
アルコキシシリル基としては特に限定されないが、縮合反応性の観点からトリアルコキシシリル基が好ましい。なかでもトリエトキシシリル基とトリメトキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物のパーフルオロアルキル基の分子量は特に限定されないが、数平均分子量が1000~50000が好ましく、3000~20000が好ましく、5000~10000が特に好ましい。数平均分子量が1000より小さいと耐擦傷性が劣る場合があり、50000より大きいと塗布が困難になる場合がある。
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物としてはOPTOOL UD509、OPTOOL DSX-E(ダイキン工業社)等が挙げられる。ただし、これに限られない。
【0102】
<透明樹脂フィルム>
透明樹脂フィルムは、ハードコート層形成の土台となるフィルム基材である。透明樹脂フィルムの全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、88%以上がさらに好ましい。透明樹脂フィルムのヘイズは、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0103】
透明樹脂フィルムを構成する樹脂材料は、透明樹脂であれば特に限定されないが、透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド、環状ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、イミド変性ポリメチルメタクリレート、メタアクリレートとアクリレートの共重合樹脂、(メタ)アクリレートと2重結合性モノマーとの共重合樹脂等の(メタ)アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種類でもよく、2種類以上をブレンドしたものであってもよい。
【0104】
中でも、機械強度が高いことから、PET等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミドが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミドが特に好ましい。ハードコートフィルムがディスプレイのカバーウィンドウに用いられる場合、フィルム基材には、優れた耐熱性および機械強度が要求されることから、透明樹脂フィルムの樹脂材料として、ポリイミド単独、ポリアミドイミド単独、ポリイミドを含むブレンド樹脂、ポリアミドイミドを含むブレンド樹脂が好ましい。機械特性の観点からはポリイミド単独、ポリアミドイミド単独が特に好ましい。ハードコートフィルムに生じた凹みの復元性と、高い透過率などの光学特性に優れる観点からは、ポリイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂、ポリアミドイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂が好ましく、ブレンド樹脂の相溶性の観点からポリイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂が特に好ましい。ポリイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂、ポリアミドイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂は、ハードコートフィルムに生じた凹みの復元性が良好な点で好ましい。ここで、凹みの復元性とは、外力によって生じたハードコートフィルムの凹みが、経時で回復して凹みがなくなる性質のことである。
一般的な全芳香族ポリイミドは黄色または褐色に着色しているのに対して、脂環式構造の導入、屈曲構造の導入、フッ素置換基の導入等により、可視光透過率が高い透明なポリイミドが得られる。
【0105】
これらの透明なポリイミド樹脂は、溶剤可溶性を示す傾向があり、溶剤に溶けた樹脂溶液としてポリカーボネートや(メタ)アクリル樹脂などの溶剤可溶性樹脂とブレンドし、均一なブレンド樹脂として得ることが可能である。また、ポリイミド樹脂とポリカーボネートや(メタ)アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂を溶融混錬など熱的に混合して均一なブレンド樹脂を得ることも可能である。これらのブレンド樹脂は、ポリイミドの優れた耐熱性および機械強度と、ポリカーボネートや(メタ)アクリル樹脂などの優れた光学特性を併せ持つ樹脂となる。なかでも光学特性と機械強度に優れることからポリイミドと(メタ)アクリル樹脂とのブレンド樹脂が好ましい場合がある。ポリイミドの比率が高いと耐熱性および機械強度に優れる傾向にあり、ポリイミドの比率が低いと光学特性や成形性に優れる傾向がある。ブレンド樹脂における好ましいポリイミドの比率は100~20重量%であり、100~40重量%がより好ましく、100~50重量%が更に好ましい。ポリイミドの比率は100%であってもよい。
【0106】
(メタ)アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体等が挙げられる。アクリル系樹脂は、変性により、グルタルイミド構造単位やラクトン環構造単位を導入したものでもよい。
【0107】
透明性およびポリイミドとの相溶性、ならびにフィルム等の成形体の機械強度の観点から、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルを主たる構造単位とするものが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂におけるモノマー成分全量に対するメタクリル酸メチルの量は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上または95重量%以上であってもよい。(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルのホモポリマーであってもよい。また、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であるアクリル系ポリマーに、グルタルイミド構造やラクトン環構造を導入したものであってもよい。
【0108】
透明樹脂フィルムの耐熱性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、115℃以上または120℃以上であってもよい。
【0109】
有機溶媒への溶解性、上記のポリイミドおよび/またはポリアミドイミドとの相溶性およびフィルム強度の観点から、(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)は、5,000~500,000が好ましく、10,000~300,000がより好ましく、15,000~200,000がさらに好ましい。
【0110】
ブレンド樹脂組成物およびフィルムの熱安定性および光安定性の観点から、(メタ)アクリル系樹脂は、エチレン性不飽和基やカルボキシ基等の反応性官能基の含有量が少ないことが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のヨウ素価は、10.16g/100g(0.4mmol/g)以下が好ましく、7.62g/100g(0.3mmol/g)以下がより好ましく、5.08g/100g(0.2mmol/g)以下がさらに好ましい。アクリル系樹脂のヨウ素価は、2.54g/100g(0.1mmol/g)以下または1.27g/100g(0.05mmol/g)以下であってもよい。(メタ)アクリル系樹脂の酸価は、0.4mmol/g以下が好ましく、0.3mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以下がさらに好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の酸価は、0.1mmol/g以下、0.05mmol/g以下または0.03mmol/g以下であってもよい。酸価が小さいことにより、(メタ)アクリル系樹脂の安定性が高められるとともに、ポリイミドおよび/またはポリアミドイミドとの相溶性が向上する傾向がある。
【0111】
上記ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸二無水物(以下、単に「酸二無水物」と記載する場合がある)とジアミンとの反応により得られるポリアミド酸を脱水環化することにより得られる。すなわち、ポリイミド樹脂は、酸二無水物由来構造とジアミン由来構造とを有する。
【0112】
ポリイミド樹脂の構造は特に限定されないが、機械特性、透明性の観点から酸二無水物およびジアミンの少なくとも一方に、脂環式構造またはフッ素原子を含み、より好ましくは、酸二無水物およびジアミンの両方に、脂環式構造またはフッ素原子を含むことが好ましい場合がある。
【0113】
ポリイミド樹脂の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、10,000~300,000がより好ましく、30,000~200,000がさらに好ましい。重量平均分子量がこの範囲内である場合に、十分な機械特性および成形性が得られやすい。分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキシド(PEO)換算の値である。分子量は、ジアミンと酸二無水物のモル比や反応条件等により調整可能である。
【0114】
前記ポリイミド樹脂を構成する酸二無水物の少なくとも1つ以上、ジアミンの少なくとも1つ以上を、下記群から選択することが、機械特性および透明性と塩化メチレン等の低沸点溶剤可溶性を確保する点で好ましい。塩化メチレンなどの低沸点溶媒に溶解するポリイミド樹脂は、ポリイミドフィルムを成形する際に、ポリイミド樹脂を溶媒に溶かした溶液を塗工した後の脱溶媒工程で高温などの負荷をかけずに容易に残存溶媒を除去でき、透過率、黄色度、および機械強度に優れたポリイミドフィルムを得ることができるため好ましい。(但し、酸二無水物の群は,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CBDA)、2,2-ビス(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物(BPADA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(H-PMDA)、ジシクロヘキシル-3,4,3‘,4’-テトラカルボン酸二無水物(H-BPDA)、p-フェニレンビス(トリメリテート)二無水物(TAHQ)、式(6)で表される酸二無水物(TAHMBP)であり、またジアミンの群は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、イソホロンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパンである。)
【0115】
ポリイミド樹脂は、機械特性および透明性と塩化メチレン等の低沸点溶剤可溶性を確保する観点で、酸二無水物成分としてシクロブタン構造を有する酸二無水物を含み、ジアミン成分として、フルオロアルキル置換ベンジジンを含むことが望ましい。また、ポリイミド樹脂と(メタ)アクリル系樹脂との相溶性の観点からも好ましい。
【0116】
(シクロブタン構造を有する酸二無水物)
酸二無水物成分の合計100モル%のうちシクロブタン構造を有する酸二無水物の含有量は、15モル%以上60モル%以下であることが好ましく、20モル%以上55モル%以下であることがより好ましく、25モル%以上50モル%以下であること更に好ましい。15モル%以上60モル%以下とすることで、着色の抑制または鉛筆硬度や弾性率の低下を抑制することができる。
【0117】
(フルオロアルキル置換ベンジジン)
ジアミン成分の合計100モル%のうちフルオロアルキル置換ベンジジンの含有量は、40モル%以上100モル%以下である。中でも60モル%以上が好ましく、更に好ましくは70モル%以上である。40モル%以上とすることで、着色の抑制または鉛筆硬度や弾性率の低下を抑制することができる。
【0118】
フルオロアルキル置換ベンジジンの例としては、2-フルオロベンジジン、3-フルオロベンジジン、2,3-ジフルオロベンジジン、2,5-ジフルオロベンジジン、2、6-ジフルオロベンジジン、2,3,5-トリフルオロベンジジン、2,3,6-トリフルオロベンジジン、2,3,5,6-テトラフルオロベンジジン、2,2’-ジフルオロベンジジン、3,3’-ジフルオロベンジジン、2,3’-ジフルオロベンジジン、2,2’,3-トリフルオロベンジジン、2,3,3’-トリフルオロベンジジン、2,2’,5-トリフルオロベンジジン、2,2’,6-トリフルオロベンジジン、2,3’,5-トリフルオロベンジジン、2,3’,6,-トリフルオロベンジジン、2,2’,3,3’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,5,5’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,6,6’-テトラフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,6,6’-ヘキサフルオロベンジジン、2,2’,3,3’,5,5’、6,6’-オクタフルオロベンジジン、2-(トリフルオロメチル)ベンジジン、3-(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,5-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2、6-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,5,6-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3,3’-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,5-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,3’,6,-トリス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,3,3’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,5,5’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’,6,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジンなどが挙げられる。
【0119】
中でも、ビフェニル骨格の2位にフルオロアルキル基を有するフルオロアルキル置換ベンジジンが好ましく、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンがより好ましい。ビフェニル骨格の2位にフルオロアルキル基を有することにより、フルオロアルキル基の立体障害によりビフェニル骨格の芳香族環がねじれることとフルオロアルキル基の電子吸引性により、着色を低減することができる。
【0120】
上記の材料の組合せを用い、各々の酸二無水物成分とジアミン成分を上記範囲とすることにより、塩化メチレンなどの低沸点溶媒に溶解するため容易に残存溶媒量を低減でき、透過率、黄色度、および機械強度に優れたポリイミド樹脂を得ることができる。
【0121】
(その他のモノマー)
塩化メチレン等の低沸点溶媒への溶解性を損なわず、黄色度や機械強度、表面硬度の特性を損なわない範囲で、上記酸二水物成分及びジアミン成分以外の酸二水物成分及びジアミン成分を併用することも可能である。
【0122】
上記ポリイミド樹脂を、必要に応じて他の樹脂と共に有機溶媒に溶解させて得られるポリイミド溶液を基材に塗布し、溶媒を乾燥除去させることにより透明なポリイミド樹脂フィルム層を製造できる。ポリイミド樹脂を溶解させる有機溶媒としては、上記のポリイミド樹脂を溶解可溶なものであればよく、ポリイミド樹脂の用途に応じて適宜選択すればよいが、塩化メチレン、酢酸メチル、テトラヒドロフラン、アセトン、及び1,3-ジオキソラン等の低沸点溶媒が好ましく、沸点が低く、溶媒の乾燥除去が容易であることから塩化メチレンがより好ましい。前述のように酸二無水物成分及びジアミン成分の組成比を所定範囲とすることにより、塩化メチレン等の低沸点溶媒に対しても高い溶解性を示すポリイミドが得られる。塩化メチレンなどの低沸点溶媒はポリイミド樹脂フィルム層を製造する際に溶媒除去に必要となる温度が低いため、熱による透明ポリイミド樹脂フィルムの着色を抑制できるメリットがある。
【0123】
透明樹脂フィルムは、単層でもよく、多層の構成でもよい。例えば、透明樹脂フィルムは、複数のフィルムが貼り合わせられた積層体でもよく、フィルム基材のハードコート層形成面および/またはハードコート層非形成面に、易接着層、帯電防止層、反射防止層等の機能層が設けられたものであってもよい。また、透明樹脂フィルムは、一方の主面に、本発明のハードコート組成物の硬化物以外の材料により形成されたハードコート層を備えていてもよい。上記透明樹脂フィルムを構成する樹脂は耐候性付与を目的とした紫外線吸収剤、ラジカルトラップ剤などの安定剤、色調調整を目的としたブルーイング材などの色素や顔料を含んでいてもよい。
【0124】
上記透明樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、30μm以上が特に好ましく、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましい。透明樹脂フィルムが厚いと硬度が良好となる傾向があり、5μmより薄くなると硬度が不足する。透明樹脂フィルムが薄いと耐屈曲性が良好となる傾向があり、500μmより厚くなると耐屈曲性が不足する。
【0125】
(ハードコート層)
ハードコート層は、下記一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物を含む層であり、透明樹脂フィルムに硬度や耐擦傷性を付与する。
【0126】
ハードコート層は、上記透明樹脂フィルムの一方の表面(片面)のみに形成されていてもよいし、両方の表面(両面)に形成されていてもよい。
【0127】
ハードコート層は、透明樹脂フィルム上に硬化性組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去した後、活性エネルギー線を照射することにより、もしくは加熱により、硬化性組成物を硬化することで得られる。なかでも、透明樹脂フィルム上に一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物、ホスホニウム塩を含む組成物を塗工する工程の後に、活性エネルギー線を照射する工程を含む方法が生産性の観点から好ましい。ハードコート組成物を塗布する方法としては特に限定されず、バーコート、グラビアコート、コンマコート等のロールコート、スロットダイコート、ファウンテンダイコート等のダイコート、スピンコート、スプレーコート、ディップコートなどの既存の塗布方法を使用できる。
【0128】
活性エネルギー線を照射する工程における温度は、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。80℃よりも高い温度では、透明樹脂フィルムの片面にハードコートフィルム層を有する場合において、得られるハードコートフィルムのカールが大きくなる場合がある。
【0129】
ハードコート層を塗布する前に、基材となる透明樹脂フィルムの表面に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ処理やプラズマ処理を行うことで、透明樹脂フィルムとハードコート層の密着性が向上し、耐屈曲性が向上する効果が得られる場合がある。また、透明樹脂フィルムの表面に易接着層(プライマー層)等を設けてもよい。なお、本発明のハードコート層は、透明樹脂フィルムに対する高い密着性を示すため、易接着層等を設けなくてもよい。すなわち、本発明のハードコートフィルムは、透明樹脂フィルムとハードコート層とが接していてもよい。
【0130】
ハードコート組成物に活性エネルギー線を照射することにより、もしくは加熱することにより、カチオン重合開始剤から酸が生成し、硬化性組成物に含まれる化合物のエポキシ基が開環およびカチオン重合することにより、硬化が進行する。硬化性組成物が反応性添加剤を含んでいる場合は、一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物の重合反応に加えて、反応性添加剤との重合反応も生じる。また、硬化性組成物が表面に反応性官能基を有する粒子を含有する場合は、粒子表面の官能基と下記一般式(1)で表される分子内に脂環式エポキシ基を有するシラン化合物の縮合物が反応して化学架橋が形成される。
【0131】
光硬化の際に照射する活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、赤外線、X線、α線、β線、γ線、電子線等が挙げられる。硬化反応速度が高くエネルギー効率に優れることから、活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。活性エネルギー線の積算照射量は、例えば50~10000mJ/cm程度であり、光重合開始剤の種類および配合量、ハードコート層の厚み等に応じて設定すればよい。硬化温度は特に限定されないが、通常150℃以下である。
【0132】
前述のように、硬化の際に、光重合開始剤(光酸発生剤)から酸が生成して光硬化が進行する。そのため、硬化後のハードコート層には、光酸発生剤のカウンターアニオンが残存している。本発明のハードコート層は、前述の光酸発生剤のカウンターアニオンとして、ホスホニウム塩を含み得る。
【0133】
ハードコート層の厚みは、2~100μmである。この範囲から適宜選択することができ、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。ハードコート層が厚いと硬度、耐衝撃性が良好となる傾向があり、2μmより薄くなると硬度、耐衝撃性が不足する場合がある。ハードコート層が薄いと耐屈曲性が良好となる傾向があり、100μmより厚くなると耐屈曲性が不足する。
【0134】
ハードコートフィルムの総厚み(ハードコート層の厚みと透明樹脂フィルムの厚みの和)は、特に限定されないが10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上が更に好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下が更に好ましく、80μm以下が特に好ましい。総厚みが10μm未満では硬度が不足する場合がある。総厚みが500μmを超えると耐屈曲性が不足する場合がある。(前記ハードコートフィルムの総厚みは、耐擦傷層を含む総厚み、つまり〔ハードコート層の厚み+透明樹脂フィルムの厚み+耐擦傷層の厚み〕であるが、耐擦傷層の厚みが薄いため、便宜上ハードコート層の厚みと透明樹脂フィルムの厚みの和としている。)本発明のハードコートフィルムにおける、ハードコート層の厚みと透明樹脂フィルムの厚みとの比率(ハードコート層厚み/透明樹脂フィルム厚み)は特に限定されず、例えば、2/100~100/20の間から適宜選択すればよい。
【0135】
[ハードコートフィルムの特性]
本発明のハードコートフィルムは、1kgf以上の高荷重に耐える高い耐擦傷性、硬度、光学特性、屈曲耐性に優れるとの特徴を有しており、フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウ等に好適に用いることができる。1kgf以上の高荷重に耐える高い耐擦傷性を有するため、実使用において傷が生じにくく、画質に優れたフレキシブルディスプレイを実現できる。
【0136】
本発明で言う屈曲耐性に優れるとは、折り曲げられていないフラットなハードコートフィルムを、ハードコート層を内側にした向きで曲げ半径1.5mmで180°折り曲げた後に、元のフラットな状態に戻す操作を1回/秒の速度で20万回繰り返した後に、ハードコートフィルムのハードコート層と透明樹脂フィルムのいずれにもクラックまたは破断がないことを意味する。このような試験は、市販の繰り返し曲げ試験機で実施可能であり、試験機は特に限定されないが、例えば本発明の実施例に記載のユアサシステム機器社製の装置などで実施できる。
【0137】
繰り返し曲げ耐性(屈曲耐性)は、透明樹脂フィルムがポリイミド単独、ポリアミドイミド単独、ポリイミドを含むブレンド樹脂、ポリアミドイミドを含むブレンド樹脂のいずれかからなると優れる傾向がある。これらのポリイミドまたはポリアミドイミドを含む樹脂は、本発明のハードコート層と高い相互作用を示すため、ハードコート層と透明樹脂フィルム層の密着性が向上して、屈曲耐性が良好となる傾向がある。透明樹脂フィルムは機械特性の観点からはポリイミド単独、ポリアミドイミド単独が好ましい。高い透過率などの光学特性に優れる観点からは、ポリイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂、ポリアミドイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂が好ましく、ブレンド樹脂の相溶性の観点からポリイミドと(メタ)アクリル系樹脂を含むブレンド樹脂が特に好ましい。ブレンド樹脂における好ましいポリイミドまたはポリアミドイミドの比率は100~20重量%であり、100~40重量%がより好ましく、100~50重量%が更に好ましい。ポリイミドまたはポリアミドイミドの比率は100%であってもよい。
【0138】
本発明のハードコートフィルムはJIS-K5600に準拠した鉛筆硬度試験においてH以上の硬度を有することが好ましい。鉛筆硬度は、3H以上であることがより好ましく、4H以上であることがさらに好ましく、5H以上であることが特に好ましい。
本発明のハードコートフィルムは、ヘイズが1%以下であることが好ましい。ヘイズが低いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、省電力化させたりすることが可能となる。ヘイズは0.7%以下がより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましい。
本発明のハードコートフィルムは、全光線透過率が88%以上であることが好ましい。全光線透過率が高いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、省電力化させたりすることが可能となる。全光線透過率は88.5%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、91%以上が特に好ましい。
【0139】
本発明のハードコートフィルムは、YIが4.0以下であることが好ましい。YIが低いことで、ディスプレイの視認性を向上させたり、色調を良好にさせたりすることが可能となる。YIは3.0以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。
【0140】
本発明のハードコートフィルムは、直径1cmの円に相当する面積に対してスチールウール#0000を荷重1kgfで押し当てた状態で2000往復させた後の水接触角が100°以上であることが好ましい。耐擦傷性試験後の水接触角が高いことは耐擦傷性と防汚性が高いことを意味する。水接触角は103°以上がより好ましく、105°以上が特に好ましい。
【0141】
本発明のハードコートフィルムは、直径1cmの円に相当する面積に対してスチールウール#0000を荷重1kgfで押し当てた状態で2000往復した後に傷や白化がないことが好ましい。傷や白化がないことは耐擦傷性が高いことを意味する。
【0142】
本発明のハードコートフィルムは、直径6mmの消しゴムで500gの荷重をかけて1500往復した後に傷や白化がないことが好ましい。傷は10本以下が好ましく、5本以下がより好ましく、1本以下がさらに好ましく、0本が特に好ましい。傷や白化がないことは耐擦傷性が高いことを意味する。
【0143】
本発明のハードコートフィルムは、直径6mmの消しゴムで500gの荷重をかけて1500往復した後の水接触角が70°以上であることが好ましい。水接触角は80°以上がより好ましく、90°以上が好ましく、100°以上が好ましく、105°以上が好ましく、110°以上が特に好ましい。水接触角が高いことは防汚性が高いことを意味する。
【0144】
本発明のハードコートフィルムは、耐擦傷性試験を実施する前の水接触角が100°以上であることが好ましい。水接触角は105°以上がより好ましく、108°以上が好ましく、110°以上が特に好ましい。水接触角が高いことは防汚性が高いことを意味する。
【0145】
[ハードコートフィルムの応用]
ハードコートフィルムは、ハードコート層上または透明フィルム層のハードコート層非形成面には、各種の機能層を設けてもよい。機能層としては、反射防止層、防眩層、帯電防止層、透明電極等が挙げられる。また、ハードコートフィルムには、透明粘着剤層が付設されてもよい。
【0146】
本発明のハードコートフィルムは、1kgf以上の高荷重に耐える高い耐擦傷性、硬度、光学特性、屈曲耐性に優れるため、画像表示パネルの表面に設けられるカバーウィンドウや、ディスプレイ用透明基板、タッチパネル用透明基板、太陽電池用基板等に好適に用いることができる。特に、耐擦傷性に優れるため、曲面ディスプレイやフレキシブルディスプレイ等のカバーウィンドウや基板フィルムとして好適に使用できる。
【実施例0147】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、以下の合成例にて得られる縮合物の評価方法は、次の通りである。
【0148】
<重量平均分子量Mwの測定>
重量平均分子量は、GPCにより測定した。東ソー社製GPC装置HLC-8220GPC(カラム:TSKgel GMHXL×2本、TSKgel G3000HXL,TSKgel G2000HXL)を用い、溶媒としてTHFを用い、ポリスチレン換算で算出した。
【0149】
<T2体に対するT3体の割合[T3体]/[T2体]の算出>
アジレント社製600MHz-NMRを用いて、29Si-NMR測定を実施することにより、T3体とT2体の含有量およびその割合[T3体]/[T2体]をそれぞれ算出した。
【0150】
<エポキシ基の残存率評価>
ブルカー社製400MHz-NMRを用いて、重アセトンを溶媒としてH-NMR測定を実施することにより、反応後に得られた縮合物のエポキシ基の残存量を算出した。
【0151】
[シラン化合物の縮合物の合成]
(合成例1)
温度計、撹拌装置、還流冷却管を取り付けた200mLフラスコの反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製;SILQUEST A-186)(66.5g;270mmol)および1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)(16.5g)を仕込み、均一に撹拌した。この混合液に、水(9.7g;539mmol)およびメタノール(5.8g)の混合液に溶解した塩化マグネシウム(0.039g;0.405mmol)溶液を5分かけて滴下し、均一になるまで撹拌した。その後、80℃に昇温し、撹拌しながら6時間重縮合反応を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧脱揮および濃縮を行い、縮合物中のメタノールおよび水を除去した。
【0152】
得られた縮合物を分析したところ、重量平均分子量Mwは1700、29Si-NMR測定により算出されるT3体とT2体の割合[T3体]/[T2体]は2.3であった。また、上記仕込み重量に基づいて算出した塩化マグネシウム(中性塩触媒)の含有量は814ppmであった。
【0153】
[ポリイミド樹脂の製造]
セパラブルフラスコにジメチルホルムアミドを投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、表1に示す比率(モル%)で、ジアミンおよび酸二無水物を投入し、窒素雰囲気下にて5~10時間撹拌して反応させ、固形分濃度18重量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0154】
ポリアミド酸溶液100gに、イミド化触媒としてピリジン5.5gを添加し、完全に分散させた後、無水酢酸8gを添加し、90℃で3時間攪拌した。室温まで冷却した後、溶液を攪拌しながら、2-プロピルアルコール(以下、IPAと記載)100gを、2~3滴/秒の速度で投入し、ポリイミドを析出させた。さらにIPA150gを添加し、約30分撹拌後、桐山ロートを使用して吸引ろ過を行った。得られた固体をIPAで洗浄した後、120℃に設定した真空オーブンで12時間乾燥させて、ポリイミド樹脂であるポリイミド1とポリイミド2を得た。
【0155】
表中の略号については下記のとおりである。
<酸二無水物>
CBDA:1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物
TAHMBP:ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボン酸)-2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチルビフェニル-4,4’ジイル
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
<ジアミン>
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
3,3’-DDS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
【0156】
[透明樹脂フィルム1:透明ポリイミドフィルムの作製]
上記のポリイミド1を100重量部、紫外線吸収剤としてTinuvin477(BASFジャパン社製)を固形分として2.4重量部、ブルーイング剤としてPlast Blue8590(有本化学工業社製)を0.0065重量部、を塩化メチレンに溶解し、固形分濃度10重量%のポリイミド溶液を得た。バーコーターを用いて、ポリイミド溶液を無アルカリガラス板に塗布し、40℃で60分、80℃で30分、150℃で30分、170℃で30分間、200℃で60分間、大気雰囲気下で加熱して溶媒を除去して、厚み50μmの透明ポリイミドフィルムを得た。
【0157】
[透明樹脂フィルム2:ポリイミドとアクリル樹脂のブレンド樹脂のフィルム作製]
塩化メチレンに、上記の製造例で得られたポリイミド2とアクリル系樹脂として市販のポリメタクリル酸メチル樹脂(クラレ製「パラペットG」、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(モノマー比87/13)の共重合体、ガラス転移温度109℃、酸価0.0mmol/g)を、表2に示す比率で混合し、樹脂分11重量%の塩化メチレン溶液を調製した。この溶液を無アルカリガラス板上に塗布し、60℃で15分、90℃で15分、120℃で15分、150℃で15分、180℃で15分、200℃で15分、大気雰囲気下で加熱乾燥し、厚さ約90μmのフィルムを作製した。乾燥後のフィルムを、乾燥オーブン付きの延伸機を用いて、温度195℃、延伸倍率80%で、幅固定一軸延伸を行い、厚み50μmのブレンド樹脂からなる透明樹脂フィルムを得た。なお、延伸倍率80%は延伸前のフィルムに対して1.80倍に延伸することを意味している。
【0158】
[硬化性樹脂組成物、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物の調製及びハードコートフィルムの作製]
ハードコート組成物、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物の調製方法及びハードコートフィルムの作製方法については、以下の通りである。
【0159】
(硬化性樹脂組成物の調整)
合成例にて得られたシラン化合物の縮合物、光重合開始剤、レベリング剤を固形分相当で表3、4に示す重量部で配合して、硬化性樹脂組成物を得た。
実施例及び比較例に用いた光重合開始剤、レベリング剤、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を以下に示す。
【0160】
(光重合開始剤)
パーフルオロアルキル基を有するホスホニウムアニオンとスルホニウムカチオンからなる塩の50%溶液(サンアプロ社製:CPI-200K)
ヘキサフルオロアンチモネートアニオンとスルホニウムカチオンからなる塩の50%溶液
【0161】
(サンアプロ社製:CPI-101A)
テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオンとヨードニウムカチオンからなる塩の50%溶液(和光純薬社製:WPI-124)
【0162】
(レベリング剤)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの52%溶液(ビックケミー社:BYK-300)
分子内にトリアルコキシシリル基を有するフルオロアルキルエーテルオリゴマーのハイドロフルオロエーテル20%溶液(ダイキン工業社製;OPTOOL UD509)
また、表中透明樹脂フィルムの材質は、ポリイミド=PIの略号で表記した。
【0163】
(実施例1:ハードコートフィルム1の作製)
透明樹脂フィルムとして表1に記載の厚さ50μmの透明ポリイミドフィルムの主面に、硬化性樹脂組成物を乾燥膜厚が20μmとなるようにコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去した。その後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cmとなるように温度60℃で紫外線を照射し、硬化性樹脂組成物を硬化させて、ハードコートフィルムを得た。
コロナ処理装置(信光電気計装社製;コロナ・スキャナーASA3)にハードコートフィルムを固定し、ハードコート層の表面を放電量32W・min/m2でコロナ放電処理した。
【0164】
分子内にトリアルコキシシリル基を有するフルオロアルキルエーテルオリゴマーのハイドロフルオロエーテル20%溶液(ダイキン工業社製;OPTOOL UD509)をハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製;Novec7200)で希釈し固形分0.1%の分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物を得た。
【0165】
上記コロナ放電処理済みのハードコートフィルムのハードコート層の表面に、上記分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物の希釈溶液をコーターで塗布し、120℃で溶媒を除去し、ハードコート層上に耐擦傷層を有するハードコートフィルム1を得た。
【0166】
(実施例2~5:ハードコートフィルム2~5の作製)
光重合開始剤であるホスホニウム塩の量と、放電量を表3に記載の値に変更した以外は実施例1と同様の操作によってハードコートフィルム2~5を得た。
【0167】
(比較例1~2:ハードコートフィルム6~7の作製)
放電量を表4に記載の値に変更した以外は実施例1と同様の操作によってハードコートフィルム6~7を得た。
【0168】
(比較例3~7:ハードコートフィルム8~12の作製)
光重合開始剤の種類と量、放電量を表4に記載の値に変更した以外は実施例1と同様の操作によってハードコートフィルム8~12を得た。
【0169】
実施例および比較例で得られたハードコートフィルムに対する評価は、以下の通りである。また、各実施例、各比較例の評価結果を表3、4に示す。
【0170】
<スチールウール耐擦傷性試験>
スチールウール#0000を直径10mmの圧子にセットして、往復摩耗試験機(新東科学社製TYPE:30S)を使って50mmストロークで1サイクル/秒の条件で、ハードコートフィルムの耐擦傷層形成側の耐擦傷性試験を行った。荷重は1kgfとし、回数は2000回とした。試験前後の表面の水接触角を測定した。試験後の水接触角が大きいほど、耐擦傷性に優れていることを意味する。
【0171】
<屈曲耐性(繰り返し曲げ試験)>
ハードコートフィルムをユアサシステム機器製U字屈曲耐久性試験機DMLHBにセットし、屈曲半径1.5mmで1回/秒の速度で繰り返し曲げ試験し、所定回数でクラックや破断の有無を確認した。試験は温度23℃、湿度55%に設定された恒温恒湿環境で行った。多くの繰り返し曲げ回数後でもクラックや破断がなければ屈曲耐性に優れることを示す。20万回の繰り返し曲げ後にもクラックや破断が無かったものは○、20万回以前にクラックや破断が生じたものは×と表記した。試験はハードコート層が内側に曲がるようにセットして行った。
【0172】
<表面硬度(鉛筆硬度)>
JIS K5600に従い、750gの荷重にて耐擦傷層形成面の鉛筆硬度を測定し、表面硬度の評価を行った。硬度が高いほど優れることを示す。
【0173】
<ヘイズ>
スガ試験機製ヘイズメーターHZ-V3を用いて、JIS K7361-1:1999およびJIS K7136:2000に記載の方法により測定した。なお、測定にはD65光源を用いた。ヘイズは低いほど透明性に優れることを示す。
【0174】
<全光線透過率>
スガ試験機製ヘイズメーターHZ-V3を用いて、JIS K7361-1:1999およびJIS K7136:2000に記載の方法により測定した。なお、測定にはD65光源を用いた。全光線透過率は高いほど透明性に優れることを示す。
【0175】
<YI>
スガ試験機製測色計SC-Pを用いて透過モードで測定した。測定にはD65光源を用いた。YIが0に近いほど無色性に優れることを示す。
【0176】
【表1】
【0177】
【表2】
【0178】
【表3】
【0179】
【表4】
【0180】
実施例1~5のハードコートフィルムは1kgf以上の高荷重に耐える高い耐擦傷性、硬度、光学特性、屈曲耐性に優れていた。そのため、フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウとして好適に使用できる。特に、耐擦傷性に優れており、高荷重で1kgf荷重で2000回スチールウールを擦った後でも100°を超える高い水接触角を維持していた。全光線透過率に着目すると、ポリイミドとアクリル樹脂のブレンド樹脂を基材とした実施例5は高い全光線透過率であり良好であった。比較例1~7のハードコートフィルムは実施例1~5のハードコートフィルムに比べて耐擦傷性が劣っていた。すべての比較例で、耐擦傷性試験後の水接触角は100°を下回っていた。