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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084431
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/62 20060101AFI20240618BHJP
   A47C 7/46 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A47C7/62 Z
A47C7/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198703
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】管 智士
(72)【発明者】
【氏名】中山 絵梨
(72)【発明者】
【氏名】西上 真凪
(72)【発明者】
【氏名】古賀 貴秀
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084JA02
3B084JC15
(57)【要約】
【課題】姿勢矯正機能を確実化できる椅子を開示する。
【解決手段】椅子は、座2と背もたれ3とを備えており、背もたれ3は、腰支持部8と矯正支持部9とを有する。矯正支持部9は細幅になっており、着座者の背骨を中心にした部位が矯正支持部9で支持される。人が矯正支持部9に凭れると、人は胸を張って背筋を伸ばした適正な姿勢に促される。従って、巻肩や猫背を防止して健康障害を防止できる。そして、背もたれ3に、着座者が前倒れしたり前屈みしたりすることを抑制する肩ベルト11及び腹部ベルト12を設けているため、姿勢矯正機能を全うできる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座と背もたれとを有し、
前記背もたれは、少なくとも上部を着座者の背骨を中心にした部位が当たるよう前記座の左右幅よりも小さい左右幅の細幅部に形成した矯正支持部と、着座者の上半身の前倒れを抑制する姿勢保持部材とを備えている、
椅子。
【請求項2】
前記背もたれは、前記矯正支持部の少なくとも上部よりも左右幅が大きい腰支持部を有しており、前記腰支持部の上方に前記矯正支持部が一体に連続している、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記背もたれにおける前記矯正支持部の左右両側に、前記矯正支持部から後ろに後退したサイド部を設けている、
請求項1又は2に記載した椅子。
【請求項4】
前記姿勢保持部材は、着座者が着座した状態で着脱操作できるベルトである、
請求項1又は2に記載した椅子。
【請求項5】
前記ベルトは、着座者の両肩に掛けられる正面視ハ字形又は正面視X字状の形態であるか、又は、着座者の一方の肩のみに掛けられるタスキ掛け状の形態である、
請求項4に記載した椅子。
【請求項6】
前記姿勢保持部材は、前記背もたれに上下回動自在又は水平回動自在に取り付けられたアームである、
請求項1又は2に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、姿勢矯正機能を備えた椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子はデスクワークの必需品として使用されており、上半身を起こした姿勢で腰部を支持するランバーサポートを設けるなど、使用者が疲れにくく適切な姿勢を維持できるように様々な工夫が成されている。
【0003】
しかし、椅子を使用するに当たってどのような姿勢を採るかは使用者の自由であることから、例えばパソコンを使用した作業・執務において、人によっては上半身を前屈みさせて顔をモニターに近づけることがあり、いわゆる猫背や巻肩の現象が生じやすい。そして、猫背・巻肩の姿勢を長時間採り続けると、血行が悪くなったり肩や首の凝りを誘発したりして健康障害を起こしやすい。
【0004】
そこで、健康障害防止機能を備えた椅子が提案されており、その一例として特許文献1には、椅子を前傾姿勢に保持できるようにして、身体を机に近づけつつ上半身を背もたれで支えることができるようした椅子が開示されている。他方、特許文献2には、背もたれを干字状等に形成して、運動具として使用できる椅子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平6-31550号のCD-ROM
【特許文献2】特開2002-90225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、椅子を適切に使用したら猫背や巻肩を防止できるが、椅子をどのように使用するかは使用者に委ねられているため、使用者の姿勢矯正機能に乏しいと云える。特許文献2も同様であり、運動具として使用すれば所期の目的は達成できるが、そもそも、使用者に疲れにくい姿勢を採らせる機能は備えていないと云える。
【0007】
本願発明はこのような現状を背景になされたものであり、姿勢矯正機能に優れた椅子を開示せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その例を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、上位概念を成すもので、
「座と背もたれとを有し、
前記背もたれは、少なくとも上部を着座者の背骨を中心にした部位が当たるよう前記座の左右幅よりも小さい左右幅の細幅部に形成した矯正支持部と、着座者の上半身の前倒れを抑制する姿勢保持部材とを備えている」
という構成になっている。
【0009】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「前記背もたれは、前記矯正支持部の少なくとも上部よりも左右幅が大きい腰支持部を有しており、前記腰支持部の上方に前記矯正支持部が一体に連続している」
という構成になっている。
【0010】
請求項3の発明は請求項1又は2の展開例であり、
「前記背もたれにおける前記矯正支持部の左右両側に、前記矯正支持部から後ろに後退したサイド部を設けている」
という構成になっている。
【0011】
姿勢保持部材は、撓み変形自在な可撓性素材と基本的に剛体の素材とのいずれも採用できる。可撓性素材としては、着座者の腹や胸を広い範囲で抱持する布状のものも使用できるが、請求項4では、請求項1又は2において、
「前記姿勢保持部材は、着座者が着座した状態で着脱操作できるベルトである」
という構成になっている。ベルトに伸縮性を持たせることも可能である。また、身体に当てる側にパッドを設けると好適である。
【0012】
請求項5の発明は請求項4の展開例であり、
「前記ベルトは、着座者の両肩に掛けられる正面視ハ字形又は正面視X字状の形態であるか、又は、着座者の一方の肩のみに掛けられるタスキ掛け状の形態である」
という構成になっている。
【0013】
請求項6の発明も姿勢保持部材の具体例であり、請求項1又は2において、
「前記姿勢保持部材は、前記背もたれに上下回動自在又は水平回動自在に取り付けられたアームである」
という構成になっている。アームには、身体への当たりを柔らかくするためのクッション材を設けるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、姿勢保持部材は少なくとも上部が座よりも細幅に形成されているため、着座者が矯正支持部に背中を当てると自然に胸を張った姿勢に促されて、巻き肩や猫背が矯正される。そして、姿勢保持部材により、使用者は胸を張った適正な姿勢に保持される。従って姿勢矯正機能を全うして、使用者の姿勢悪化に起因した種々の障害を抑制できる。
【0015】
矯正支持部は、全高に亙って左右幅が略一定の正面視帯状の形態でもよいが、矯正支持部を台形状に形成すると、身体の安定性を保持しつつ姿勢矯正機能を発揮できて好適である。
【0016】
また、請求項2のように背もたれに腰支持部を設けると、身体の安定性を向上できて好適である。また、実施形態のように腰支持部にランバーサポート機能を設けると、上半身を直立した姿勢に保持できるため、特に好適である。更に、腰支持部を設けつつ、矯正支持部を左右幅が上に向けて小さくなる台形状に形成すると、身体の安定性を更に高くできて好適である。
【0017】
背もたれに腰支持部を設けた場合、上半身を直立させた執務姿勢・作業姿勢で腰支持部のみが着座者の腰に当たる状態と、矯正支持部を着座者の背中に当たっている状態との2つの使用態様を採用できる。すなわち、矯正支持部が鉛直線に対して後傾している形態と、矯正支持部が鉛直姿勢になっている形態とを採用可能であり、前者では、上半身を後傾させると背中が矯正支持部で支持される。
【0018】
そして、適正な執務姿勢・作業姿勢で背中が矯正支持部に当たるように設定されている場合は、姿勢保持部材によって上半身を矯正支持部に当てた状態に保持したらよい。他方、適正な執務姿勢・作業姿勢で背中が矯正支持部に当たらないように設定されている場合は、着座者が背中を矯正支持部に当てると、姿勢保持部材は弛むなどして姿勢保持状態が解除される。圧迫感を防止する点では、後者が好適であるかもしれない。
【0019】
請求項3のように背もたれにサイド部を設けると、まず、背もたれの強度を向上できる。また、背もたれは通常見られる角形とほぼ同じ正面視形状になるため、違和感を無くして抵抗なく使用できる利点もある。また、着座者が胸を張ると左右の肩甲骨は後ろに反り気味になるが、後ろに反った肩甲骨をサイド部で支持し得るため、胸を張った姿勢を安定的に維持できる利点もある。すなわち、矯正支持部による姿勢矯正機能をサイド部によってサポートできる。
【0020】
更に、腕を後ろに回したときに当該腕をサイド部で支持できるため、使用価値が高い。特に、サイド部を矯正支持部に対して傾斜させて、矯正支持部とサイド部とを屈曲した状態に形成すると、サイド部による腕の支持面積を増大できるため、腕に対する当たりの柔らかさを確保できて好適である。
【0021】
姿勢保持部材は様々なものを使用できるが、請求項4のようにベルトを使用すると、簡単な構造で的確に姿勢保持できる利点がある。市販のベルトを利用することも可能であるため、コスト面でも有利である。また、嵩張らないため、扱いやすい利点もある。
【0022】
ベルトは、請求項5に記載したようにハ字方式やタスキ掛け方式、X字方式(クロス方式)などが有り得るが、タスキ掛け方式を採用すると、簡易で着脱の手間を軽減できると共にコスト的にも有利な利点がある。他方、ハ字方式又はX字方式を採用すると、身体の保持機能が高くなるため、姿勢矯正効果を向上できる。姿勢保持部材として広幅の布状材を使用して、胸を広い範囲で抱持した場合も同様である。
【0023】
姿勢保持部材として請求項6のように回動式のアームを採用すると、装着の手間を軽減できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に関して姿勢保持部材を取り付けていない状態を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
図2】姿勢保持部材を取り付けた状態の第1実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は斜視図である。
図3】姿勢保持部材を取り付けた状態の第1実施形態を示す図で、(A)は平面図、(B)は側面図である。
図4】第2実施形態に関して姿勢保持部材を取り付けていない状態を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
図5】第2実施形態に関して姿勢保持部材を取り付けていない状態を示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図6】姿勢保持部材を取り付けた状態での第2実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は平面図である。
図7】第3実施形態を示す図で、(A)は平面図、(B)は側面図である。
図8】第4実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図9】第5実施形態を示す図で、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図10】第6実施形態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では方向を特定するために前後・左右の文言を使用するが、この方向は、椅子に普通に着座した人から見た方向として定義している。正面図は着座者と対向した方向から見た図である。
【0026】
(1).第1実施形態の基本構成
まず、図1,2に示す第1実施形態を説明する。本実施形態は、オフィス用のリクライニング式回転椅子に適用している。椅子は、基本要素として脚装置1と座2と背もたれ3とを備えている。脚装置1は、5本の脚羽根を備えた基部4と、これに立設した脚支柱5とで構成されており、脚羽根の先端にキャスタを設けている。
【0027】
脚支柱5の上端にはベース6が固定されており、ベース6に左右の背フレーム7が後傾動可能に連結されて、左右の背フレーム7の起立部7aに、背もたれ3が取り付けられている。なお、背もたれ3が後傾すると、座2も後傾しつつ後退する。
【0028】
背もたれ3は、背面を構成する樹脂製のアウターシェルとその前面に張ったクッション材とを有しており、クッション材は布等の表皮材(張地)で覆われている。なお、表皮材はアウターシェルの背面まで覆うことも可能である。アウターシェルの左右側部が背フレーム7の起立部7aに固定されている。背もたれ3の下端は座面よりも少し上に位置しているが、背もたれ3の下端を座面と略同じ高さに設定することも可能である。
【0029】
背もたれ3は、着座者Mの腰を支持する腰支持部8と、その上に位置して着座者Mの背中を支持する矯正支持部9と、矯正支持部9の左右両側に位置したサイド部10とから成っている。腰支持部8は、図2(A)に示すように、平面視では前向きに凹むように湾曲して、図2(B)に示すように、縦断側面視では前向きに膨れるように湾曲している。従って、腰支持部8は、着座者の腰を抱持しつつランバーサポート機能を有している。
【0030】
矯正支持部9の下端は腰支持部8の下端と同じ左右幅になっており、左右幅が上に向けて小さくなる正面視台形状に形成されている。従って、矯正支持部9は、その下端を除いて座2の左右幅よりも小さい左右幅になっており、上端の左右幅は、例えば10cm前後に設定されている。矯正支持部9の側縁は正面視で少し湾曲しているが、正面視で直線になっていてもよい。矯正支持部9の下端は、腰支持部8と同様に平面視で前向きに凹むように湾曲しており、上端部の前面はフラット状になっている。
【0031】
矯正支持部9は上窄まりであるため、着座者が矯正支持部9に背中を当てた状態では、実施形態を真っ直ぐに伸ばした状態でないと身体が安定しない。このため、着座者は背筋を伸ばした姿勢を採るように誘導されて、姿勢矯正機能を発揮する。
【0032】
サイド部10は、矯正支持部9から後ろに向けて倒れた状態になっている。従って、矯正支持部9とサイド部10とは屈曲した状態になっている。そして、本実施形態では、背もたれ3は、全体としては概ね四角形に近い形態を成しており、従って、通常の椅子の背もたれと同様の正面視形状になっている。
【0033】
(2).姿勢保持部材
図2,3に示すように、本実施形態では、姿勢保持部材として、左右2本の肩ベルト11と1本の腹部ベルト12とを使用している。肩ベルト11の上端は、サイド部10の上端に接続は固定されており、肩ベルト11の下端は、サイド部10の下端部又は腰支持部8の上端部の左右側部に接続されている。肩ベルト11にはパッド13を設けている。腹部ベルト12も、サイド部10の下端部又は腰支持部8の上端部の左右側部に接続されている。
【0034】
肩ベルト11及び腹部ベルト12の端部は、背もたれ3に固定してもよいし、ジョイントを使用して背もたれ3に係脱させてもよい。係脱式の場合、ベルト11,12の端に板状等の差し込み具を取り付けて、背もたれ3に設けた受け部材に差し込んで接続することもできるし、ベルト11,12の端にフックを設けて、これを背もたれ3に設けた係止部に係脱させることも可能である。
【0035】
腹部ベルト12は左右の単位ベルト12a,12bに分離しており、両者はバックル14によって接続されている。この場合、バックル14に長さ調節機能を持たせて、一方の単位ベルト12aの長さを調節できるようにしている。但し、単位ベルト12a,12bのうちいずれか一方を、背もたれ3に内蔵又は外装した巻き取り装置に接続して、引出し量を任意に調節できるように構成することも可能である。この場合は、外観がすっきりする。
【0036】
肩ベルト11も長さを調節できるのが好ましい。肩ベルト11の長さ調節手段としては、肩ベルト11の一部をループ形状にして、調節具によってループの周長を変えることができる。或いは、腹部ベルト12と同様に、2本の単位ベルトで構成して、バックルによって長さを調節できるようにしたり、肩ベルト11の一端を、背もたれ3に内蔵又は外装した巻き取り装置に接続して、引出し量を調節できるようにすることも可能である。
【0037】
本願発明では腹部ベルト12を使用しているが、腹部ベルト12は必ずしも必要ではない。腹部ベルト12を使用した場合、左右の単位ベルト12a,12bに肩ベルト11の下端を接続しておくことも可能である(図6(A)の二点鎖線参照)。この場合は、左右の肩ベルト11は略平行な姿勢になる。いずれにしても、肩ベルト11は、着座者Mの胸に掛からないのが好ましい。
【0038】
(3).まとめ
既述のとおり、矯正支持部9が上窄まりになっていることにより、着座者は上半身を真っ直ぐにした姿勢(背筋を伸ばした姿勢)でないと安定した状態で背もたれ3に凭れ掛かれないため、身体が安定するように背筋を伸ばした姿勢を採る。そして、着座者の背骨を中心にした部位が幅狭の矯正支持部9に当たるため、着座者は、胸を張った姿勢に促される。従って、身体に負担が掛からない適正な姿勢を採るように誘導される。
【0039】
そして、例えば、パソコンを使用したデスクワークにおいて、上半身を前屈みさせてモニターを視認することがあり、このため猫背や巻き肩になって健康障害を誘発することがあるが、本実施形態では、着座者Mはベルト11,12(特に肩ベルト11)によって適切な姿勢に保持されているため、着座者が上半身を背もたれ3から大きく離して前屈みすることはできず、背中を矯正支持部9に当てた状態を維持できる。従って、猫背や巻き肩を防止して、肩や首の凝りのような健康障害の発生を防止又は著しく抑制できる。
【0040】
本実施形態では、背もたれ3は負荷が掛かっていない基準状態(ニュートラル状態)でやや後傾している。そして、着座者Mは、パソコン操作等の作業を適正に行うに際して、図3(B)に点線で示すように、背中を背もたれ3の矯正支持部9に当ててやや後傾させた姿勢と、腰を腰支持部8の前面に当てて直立した姿勢とを採ることが可能であり、後者の場合は、背中が矯正支持部9から少し離れた状態になる。
【0041】
そして、着座者にベルト11,12を掛けるに当たっては、背中が矯正支持部9の全体で支持された状態に保持されるように肩ベルト11でしっかりと保持することも可能であるし、直立姿勢から前傾しないように保持することも可能である。後者の場合は、上半身を矯正支持部9で支持した状態では、肩ベルト11は弛んだ状態になっている。
【0042】
本実施形態のように左右の肩ベルト11をハ字状に配置すると、肩ベルト11は胸に当たらないため、女性にも好適である。肩ベルト11による肩の支持を確実化するために、図2(A)に一点鎖線で示すように、左右の肩ベルト11の上端部を連結する左右横長のジョイントベルト15を設けることも可能である。
【0043】
実施形態のように腹部ベルト12を設けると、着座者が前屈みになろうとすると、腹部ベルト12によって腹部が圧迫されるため、着座者は背中を矯正支持部9に当てた状態を維持しようとする。従って、腹部ベルト12は、肩ベルト11を補佐して姿勢矯正機能を助長する。また、実施形態のように傾斜姿勢のサイド部10を設けると、着座者が矯正支持部9に背中の中心部を当てて胸を張った状態で、後ろに反り気味になった肩甲骨をサイド部10によって支持できるため、胸を張って背筋を伸ばした姿勢を安定的に維持できる。
【0044】
姿勢保持部材としてベルトを使用する場合、1本のベルトをタスキ掛けにして使用することも可能である。この場合は、上半身の前倒れは防止しつつ身体を捩じることは許容されるため、身体の融通性に優れている。着座者が上半身を急激に前倒れさせると、身体に衝撃が掛かることがある。この点、ベルト11,12に伸縮性を持たせたり、弾性体を介して背もたれ3に取り付けたりすると(緩衝手段を設けると)、身体への衝撃を緩和できる。
【0045】
本願発明では、姿勢保持部材に、姿勢保持とは異なる機能を持たせることができる。例えば、血圧の測定のようなバイタルセンシング機能を持たせることができる。ベルト11,12に、着座者の身体に当たるセンサを設けて、血圧や心拍数などを検出することも可能である。
【0046】
(4).第2実施形態
次に、図4以下の他の実施形態を説明する。図4~6では第2実施形態を示している。この実施形態において、背もたれ3の形態は第1実施形態と同様であり、腰支持部8と矯正支持部9とサイド部10とを有している。この実施形態では、背もたれ3はその左右端部が背フレーム7の左右起立部7aに固定されている。また、この実施形態の椅子は肘掛け装置17を備えており、肘掛け装置17は、背フレーム7の左右起立部7aに高さ調節可能に装着された肱当て18を有している。
【0047】
この実施形態では、姿勢保持部材として、図6に示すように、左右2本の肩ベルト11と左右の傾斜状下部ベルト19を有しており、4本のベルト11,19を使用している。肩ベルト11の上端は、サイド部10の左右外端部の後面にピン止め等の手段で連結又は固定されており、傾斜状下部ベルト19の基端は、矯正支持部9の下端部(又は腰支持部8の上端部)の左右端部にピン止め等の手段で連結又は固定されている。
【0048】
各ベルト11,19の先端は、継手(バックル)20に接続されている。継手20は、着脱自在な左右2つの部材で構成されており、左の部材に左の肩ベルト11及び傾斜状下部ベルト19が長さ調節可能に接続されて、右の部材に右の肩ベルト11及び傾斜状下部ベルト19が長さ調節可能に接続されている。
【0049】
この実施形態では、4本のベルト11,19がX字状にクロスしているが、図6(A)に一点鎖線で示すように、正面視で一文字状の腹部ベルト12を使用して、左右分離方式の継手20に腹部ベルト12と肩ベルト11とを接続してもよい。既に触れたが、図6(A)に二点鎖線で示すように、肩ベルト11の下端を腹部ベルト12に接続することも可能である。この場合、腹部ベルト12の箇所のみで肩ベルト11も連動して長さ調節できるようにすると、身体の大きさに合わせる調節を簡単に行えて好適である。
【0050】
この実施形態でも、ベルト11,19(12)によって前倒れを阻止する着座者Mの姿勢として、図5(B)に点線で示すもたれ掛かり姿勢と、図5(B)に一点鎖線で示す直立姿勢とを選択できる。両者の姿勢の変更は、ベルト11,19の長さを変えることで対応できる。
【0051】
(5).第3~6実施形態
図7に示す第3実施形態では、姿勢保持部材として水平回動式のアーム22を使用している。椅子の基本構造は第2実施形態と同じである。アーム22は平面視略L形に形成されて左右に配置されており、基端はサイド部10の後面にブラケット23を介してピン24で連結されている。アーム22のうち着座者の前面に当たる部位にはパッド(クッション材)25を設けている。アーム22は、着座者の肩甲骨に当てるのが好ましい。また、アーム22は、前後寸法を調節できるように構成しておくのが好ましい。
【0052】
図8に示す第4実施形態では、姿勢保持部材として上下回動式のアーム26を採用している。椅子の基本構造は第2実施形態と同じである。アーム26は側面視で略U形に形成されており、基端がサイド部10の後面にブラケット27を介してピン28で連結されている。この実施形態でも、アーム26にパッド25を設けている。
【0053】
図7,8の実施形態でも、アーム22,26にバイタルセンシング機能を持たせて、血圧や心拍数、体温などの健康数値を検出することができる。更に、図8の第3実施形態では、アーム26の水平部にスピーカを取り付けることが可能である。この場合は、イヤホンやヘッドホンを使用することなくスピーカから耳元に音声情報を提供できるため、耳の負担を軽減できる利点もある。
【0054】
図9に示す第5実施形態及び図10に示す第6実施形態では、背もたれ3は樹脂製の背板を露出させたタイプになっており、左右中間部の後ろに配置した背支柱30に固定されている。これらの実施形態でも、背もたれ3は腰支持部8を備えており、腰支持部8は、着座者の腰を包むように平面視で前向きに凹んでいると共に、ランバーサポート部を有する。矯正支持部9は、腰支持部8に連続した横長部9aと、横長部9aから立ち上がった縦長部9bとを有しており、縦長部9bの下部は下広がりしている。
【0055】
これらの実施形態でも左右のサイド部10を有しているが、サイド部10は矯正支持部9に対して後ろに段落ちした状態になっている。従って、サイド部10は、矯正支持部9から段違いの状態で後ろに後退している。背もたれ3の全体としては、正面視で縦長六角形になっている。
【0056】
矯正支持部9の縦長部9bは後ろ向きに開口した樋状になっている。そこで、補強のために、縦長部9bの上端に天板31を一体に形成すると共に、内部に縦長リブ32を形成している。
【0057】
図9の実施形態では、姿勢保持部材としてクロス方式のベルト11,19を設けており、図10の実施形態では、姿勢保持部材としてタスキ掛け式の1本のベルト33を設けている。図9の場合、第2実施形態で使用したのと同じ継手20を使用できるし、第2実施形態で説明したのと同様のバリエーションを採用できる。
【0058】
図10のように、タスキ掛け方式のベルト33を採用した場合、ベルト33の下端にジョイントを設けて、これを腰支持部8に設けた受け具に着脱する構成を採用できる。ベルト33は長さ調節できる。図7~10に示すように、サイド部10は、姿勢保持部材の取り付けに利用することができる。
【0059】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、適用対象の椅子は回転椅子に限らず、パイプ椅子のような高さ固定式の椅子にも具体化できる。また、姿勢保持部材としては、例えば、布や皮革等の可撓性シート材を使用して、着座者の肩から脇を抱き込む形状のものを形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0061】
2 座
3 背もたれ
8 腰支持部
9 矯正支持部
10 サイド部
11 姿勢保持部材の一例としての肩ベルト
12 姿勢保持部材の一例としての腹部ベルト
19 姿勢保持部材の一例としての傾斜状下部ベルト
14 バックル
20 継手(バックル)
22,26 姿勢保持部材の一例としてのアーム
33 姿勢保持部材の一例としてのタスキ掛け式ベルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10