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特開2024-84445放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線遮蔽防護服
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  • 特開-放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線遮蔽防護服 図1
  • 特開-放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線遮蔽防護服 図2A
  • 特開-放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線遮蔽防護服 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084445
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】放射線遮蔽樹脂組成物、放射線遮蔽部材、および放射線遮蔽防護服
(51)【国際特許分類】
   G21F 1/10 20060101AFI20240618BHJP
   G21F 3/02 20060101ALI20240618BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20240618BHJP
   G21F 1/06 20060101ALI20240618BHJP
   A61B 6/10 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
G21F1/10
G21F3/02 A
G21F1/08
G21F1/06
A61B6/10 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198723
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】阿邊 博司
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093EE18
(57)【要約】
【課題】環境への負荷が小さく、また、製造コストが小さく、リサイクルが容易であり、かつ利便性および柔軟性に優れる放射線遮蔽樹脂組成物を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂はスチレン系熱可塑性エラストマーおよび無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合は、5質量%以上50質量%以下、遮蔽材は酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとを含み、放射線遮蔽樹脂組成物中の遮蔽材の含有割合は30体積%以上60体積%未満、放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びが350%以上、破断強度が2.0MPa以上である、放射線遮蔽樹脂組成物。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と遮蔽材とを含む放射線遮蔽樹脂組成物であって、
前記バインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、
前記バインダー樹脂中の前記無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合は、5質量%以上50質量%以下であり、
前記遮蔽材は、酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとを含み、
前記放射線遮蔽樹脂組成物中の前記遮蔽材の含有割合は、30体積%以上60体積%未満であり、
前記放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びが350%以上、かつ破断強度が2.0MPa以上である、放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項2】
前記遮蔽材において、酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとは、前記放射線遮蔽樹脂組成物の比重が3.3となるように前記放射線遮蔽樹脂組成物中に前記遮蔽材を配合したとき、JIS T61331に基づいて管電圧50kVで測定される厚さ1mm当たりの遮蔽率が、鉛当量で0.226mmPbを超えるような比率で配合されている、請求項1に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項3】
前記遮蔽材は、酸化ビスマスおよび酸化セリウムであり、前記遮蔽材中の酸化ビスマスと酸化セリウムとの質量基準の配合比率が99:1~61:39(酸化ビスマス:酸化セリウム)の範囲内である、請求項2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項4】
前記遮蔽材中の酸化ビスマスと酸化セリウムとの質量基準の配合比率が92:8~66:34(酸化ビスマス:酸化セリウム)の範囲内である、請求項3に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項5】
前記遮蔽材は、酸化ビスマスおよび金属アンチモンであり、前記遮蔽材中の酸化ビスマスと金属アンチモンとの質量基準の配合比率が99:1~38:62(酸化ビスマス:金属アンチモン)の範囲内である、請求項2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項6】
前記遮蔽材中の酸化ビスマスと金属アンチモンとの質量基準の配合比率が69:31~43:57(酸化ビスマス:金属アンチモン)の範囲内である、請求項5に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項7】
前記遮蔽材は、酸化ビスマスおよび酸化スズであり、前記遮蔽材中の酸化ビスマスと酸化スズとの質量基準の配合比率が79:21~58:42(酸化ビスマス:酸化スズ)の範囲内である、請求項2に記載の放射線遮蔽樹脂組成物。
【請求項8】
さらにオレフィン系オリゴマーを含む請求項1に記載の遮蔽樹脂組成物。
【請求項9】
放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽部材であって、前記放射線遮蔽部位が、請求項1~8のいずれか1項に記載の放射線射遮蔽樹脂組成物を含む、放射線遮蔽部材。
【請求項10】
放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽防護服であって、前記放射線遮蔽部位が、請求項1~8のいずれか1項に記載の放射線射遮蔽樹脂組成物を含む、放射線遮蔽防護服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽樹脂組成物、該放射線遮蔽樹脂組成物を使用した放射線遮蔽部材、および該放射線遮蔽樹脂組成物を使用した放射線遮蔽防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レントゲンやCTなどに用いられるX線に対する放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽部材の放射線遮蔽性能(以下、単に遮蔽性能ともいう)は、規格としてJIS Z4501に記載されたX線管電圧100kVにおける鉛当量での評価がなされてきた。しかし、近年X線を用いた測定時における散乱されたX線、特にエネルギーの弱いX線が体内に吸収される危険性が注目されている。そのため、放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽部材の遮蔽性能は、規格としてJIS Z4501に代わり、JIS T61331に基づく測定における鉛当量での評価がなされるようになってきている。
【0003】
放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽部材に用いられる放射線遮蔽樹脂組成物としては、従来、X線をはじめとする放射線を遮蔽する材料として、鉛、あるいは鉛を含む材料を、バインダー樹脂に分散させたものが広く利用されてきた。具体的には、放射線遮蔽樹脂組成物として、これまでは通常、鉛粉末を配合したポリ塩化ビニル製シートが用いられている。
【0004】
バインダー樹脂として、ポリ塩化ビニルを使用すれば、加熱により再成型することができるため、加工時に発生した放射線遮蔽部材の端材や、使用後の放射線遮蔽部材を容易にリサイクルすることができる。さらに、ポリ塩化ビニルは可塑剤を添加することで優れた柔軟性を示すため、放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽カーテン等の柔軟性を必要とする放射線遮蔽部材のバインダー樹脂として優れた適性を有する。
【0005】
しかしながら、一部の可塑剤は環境上好ましくないものがあり、また、放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽部材から可塑剤が染み出す場合があった。
【0006】
特許文献1および2には、優れた柔軟性を有するバインダー樹脂として、スチレン系熱可塑性エラストマーを用いた放射線遮蔽部材が開示されている。
【0007】
一方、遮蔽材としては、近年、環境への負荷の観点から鉛に代えて、酸化ビスマスやタングステン等の比重の高い金属やその化合物が用いられるようになってきている。鉛に変えて比重の高い金属やその化合物を遮蔽材として用いることで、高い放射線遮蔽効果を得ることができる。
【0008】
放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽カーテン等の放射線遮蔽部材には、高い柔軟性だけでなく、軽量化が求められる。そこで、複数種の遮蔽材を併用して放射線遮蔽組成物の比重に対する遮蔽効果を向上させることが試みられている。
特許文献3および4には、鉛以外の互いに異なる複数種の遮蔽材を、それぞれ別の層に充填して複層の構成とした無鉛放射線防護材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2001/099119号
【特許文献2】特開2007-212304号公報
【特許文献3】特表2007-504450号公報
【特許文献4】特表2009-541720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3および4に記載されているような複層構成の放射線遮蔽樹脂組成物の場合、製造コストが大きく、また、製造した際の端材や使用済みの放射線遮蔽樹脂組成物に含まれるバインダー樹脂および遮蔽材をリサイクルすることが困難であった。さらに、複層構成の放射線遮蔽樹脂組成物をシートにした場合、放射線が照射される方向によって遮蔽能力が異なるため、使用する場合はシートの方向性に配慮する必要があった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち本発明の目的は、環境への負荷が小さく、また、製造コストが小さく、材料のリサイクルが容易であり、かつ利便性および柔軟性に優れる放射線遮蔽樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、バインダー樹脂と遮蔽材とを含む放射線遮蔽樹脂組成物であって、前記バインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、前記バインダー樹脂中の前記無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合は、5質量%以上50質量%以下であり、遮蔽材は、酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとを含み、前記放射線遮蔽樹脂組成物中の前記遮蔽材の含有割合は、30体積%以上60体積%未満であり、前記放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びが350%以上、かつ破断強度が2.0MPa以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、また、製造コストが小さく、材料のリサイクルが容易であり、かつ利便性および柔軟性に優れる放射線遮蔽樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の断面を示す模式図である。
図2A】遮蔽材中の酸化ビスマスと、遮蔽材の第二成分としての、酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンとの配合比率を変えたときの遮蔽率の変化を示すグラフである。
図2B図2Aに示すグラフの一部を拡大して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
特許文献3および4に記載の技術に対して、複数の遮蔽材を単一の層に均一に混在させた構成とすることができれば、製造コストを低減し、また、材料のリサイクルを容易なものとすることができると期待される。また、使用に際して放射線遮蔽部材が、放射線の放射方向に対する向きに依存せずに遮蔽性能を発揮するような放射線遮蔽樹脂組成物が得られる。
【0017】
そこで、本発明者は、柔軟性に優れた特性を有するバインダー樹脂としてスチレン系熱可塑性エラストマーを用い、該バインダー樹脂に複数の遮蔽材を混在させて放射線遮蔽樹脂組成物を形成することについて検討をおこなった。
【0018】
その結果、単一の層のバインダー樹脂に複数種の遮蔽材を充填した場合、1種類の遮蔽材を用いた場合と異なり、バインダー樹脂中に遮蔽材を均一に分散することが困難であった。そのため、得られた放射線遮蔽樹脂組成物の力学物性、特に柔軟性が低下することがあった。
【0019】
具体的には、バインダー樹脂としてスチレン系熱可塑性エラストマーのみを用い、複数種の遮蔽材をバインダー樹脂中に分散すると凝集が発生することがあった。そのため、放射線遮蔽樹脂組成物をシートにした際に切れやすい、または裂けやすいなど実用上の強度に課題が生じることがあった。また、凝集により遮蔽能力にばらつきを生じることがわかった。
【0020】
本発明者はさらに検討を行った結果、バインダー樹脂として、さらに無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを併用することで、バインダー樹脂中での複数種の遮蔽材の分散性を向上させることができることを見出した。
【0021】
以上の知見を基に、本発明者らは環境への負荷が小さく、材料のリサイクルが容易であり、かつ利便性および柔軟性に優れるような、以下の本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物を成すに至った。
【0022】
すなわち、本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、バインダー樹脂と遮蔽材とを含む放射線遮蔽樹脂組成物であって、前記バインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含み、前記バインダー樹脂中の前記無水マレイン酸変性スチレン系エラストマーの含有割合は、5質量%以上50質量%以下であり、前記遮蔽材は、酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとを含み、前記放射線遮蔽樹脂組成物中の前記遮蔽材の含有割合は、30体積%以上60体積%未満であり、前記放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びが350%以上、かつ破断強度が2.0MPa以上であることを特徴とする。
【0023】
以下、本発明に係る各構成の詳細について説明する。
<バインダー樹脂>
本発明において、放射線遮蔽樹脂組成物が含むバインダー樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマーおよび無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーを含む。
【0024】
図1は、本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の断面を示す模式図である。
図1に示すとおり、放射線遮蔽樹脂組成物1は、バインダー樹脂2およびバインダー樹脂2中に分散された粒子状の遮蔽材3を含む。
【0025】
本発明において、バインダー樹脂2は、スチレン系熱可塑性エラストマーを含む。従来用いられている放射線遮蔽樹脂組成物では、バインダー樹脂としてポリ塩化ビニルが広く用いられており、可塑剤の添加量を調整することで伸びや硬度等の柔軟性を幅広くコントロールすることが可能である。しかしながら放射線遮蔽樹脂組成物を放射線遮蔽防護服等で使用する場合、柔軟性を確保するために比較的多量の可塑剤を添加しなければならず、時間の経過とともに可塑剤が染み出してくる場合があった。
【0026】
その点、スチレン系熱可塑性エラストマーは可塑剤等を用いることなく柔軟性を確保することが可能である。これはスチレン系熱可塑性エラストマーが、両末端にスチレン系ブロックからなるハードセグメントと、中間部にソフトセグメントとを有する構造により弾性が優れるためである。
【0027】
本発明において用いられるスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、以下のようなものが挙げられる。スチレンとブタジエンとのブロック共重合体またはブタジエンブロックを水添したブロック共重合体、スチレンとイソプレンとのブロック共重合体またはイソプレンブロックを水添したブロック共重合体等があげられる。
【0028】
放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性をより向上させるためには、スチレン系熱可塑性エラストマーは、中間部のソフトセグメントに水素化されたジエンポリマーブロック部を有することが好ましい。水素化されたジエンポリマーブロックとしては、水添ブタジエンブロック、水添イソプレンブロック、エチレンブロック、ブチレンブロック、プロピレンブロック等が挙げられる。その中でもジエンポリマーブロックは、エチレンブロック、ブチレンブロック、プロピレンブロックの群から選ばれる1種、または2種以上からなることが好ましい。エチレンブロック、ブチレンブロック、プロピレンブロックは結晶性を持たないため、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟をより向上させることができる。
【0029】
本発明において、バインダー樹脂2は、無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーをさらに含む。
【0030】
無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマー中のソフトセグメントであるブタジエンブロックを水添する際に、ブタジエンブロックの一部を無水マレイン酸により変性して得ることができる。バインダー樹脂が無水マレイン酸変性のスチレン系熱可塑性エラストマーを含むことで、無水マレイン酸構造と遮蔽材との相互作用により、バインダー樹脂中の遮蔽材の分散性が向上し、遮蔽材の凝集の発生が抑制されると考えられる。結果として、本発明者は、柔軟性と強度が向上し、遮蔽性能のばらつきも抑制された放射線遮蔽樹脂組成物が得られることを見いだした。
【0031】
バインダー樹脂2中の無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合は、5質量%以上50質量%以下である。無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合が50質量%以下であれば、組成物の流動性を保つことができ、成型が困難となることがない。また、無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマーの含有割合が5質量%以上であれば、複数種の遮蔽材を分散させる効果を十分に得ることができる。これにより、遮蔽材の凝集による放射線遮蔽樹脂組成物の力学物性が低下や、遮蔽効果のばらつきを抑制することができる。
【0032】
<遮蔽材>
本発明において、遮蔽材は、酸化ビスマス(Bi)と、酸化セリウム(CeO)、酸化スズ(SnO)、および金属アンチモン(Sb)から選ばれる少なくともいずれか1つとを含む。
【0033】
例えば、遮蔽材として、酸化ビスマスのみを使用した場合、酸化ビスマスは密度が8.9g/cmと高く遮蔽性能も優れているが、放射線遮蔽樹脂組成物の重量が重くなる課題がある。そこで、酸化ビスマスよりも比重が低い遮蔽材の第二成分として、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つを酸化ビスマスと混合して用いることにより、放射線遮蔽樹脂組成物の重量を軽減することができる。
【0034】
また、本発明者は、酸化ビスマスと、遮蔽材の第二成分として、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとを、特定の比率で配合することで、酸化ビスマスのみを用いた場合よりも遮蔽性能が向上することを見出した。したがって遮蔽材において、酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンから選ばれる少なくともいずれか1つとは、上記の特定の比率で配合されていることが好ましい。ここで上記の特定の比率とは、放射線遮蔽樹脂組成物の比重が3.3となるように放射線遮蔽樹脂組成物中に遮蔽材を配合したとき、遮蔽率が、鉛当量で0.226mmPbを超えるような比率である。なお、遮蔽率は、JIS T61331に基づいて管電圧50kVで測定される厚さ1mm当たりの遮蔽率である。また、鉛当量で0.226mmPbの遮蔽率は、上記の測定条件において、遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた時に得られる値である。
【0035】
図2Aは、遮蔽材中の酸化ビスマスと、遮蔽材の第二成分としての、酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンとの配合比率を変えたときの遮蔽率の変化を示すグラフである。
【0036】
図2Aに示す遮蔽率は、放射線遮蔽樹脂組成物の比重が3.3となるように放射線遮蔽樹脂組成物中に遮蔽材を配合し、放射線遮蔽樹脂組成物の厚さを1mmとしてJIS T61331に基づいて管電圧50kVで測定して得た値である。遮蔽材は、酸化ビスマスと、酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンとからなり、図2Aに示す第二成分比率は、遮蔽材の全質量に対する、酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンの質量基準の含有割合(%)である。なお、図2Aに示すグラフの作成に用いた試料は、後述の実施例2~13、15~24、26~36、および比較例1~4で得た放射線遮蔽樹脂組成物である。
図2Aに示されるように、第二成分比率が0、すなわち、遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた場合は、酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンのみを用いた場合(第二成分比率100%)と比べて高い遮蔽率が得られる。すなわち、酸化セリウム、酸化スズ、および金属アンチモンと比べて密度の大きい酸化ビスマスが、優れた遮蔽性能を有することがわかる。
【0037】
また、図2Aより、遮蔽材中の第二成分比率を変化させたとき、放射線遮蔽組成物の遮蔽率は、第二成分比率に応じて変化し、特定の第二成分比率において、酸化ビスマスのみを用いた場合よりも高い遮蔽率が得られていることがわかる。
【0038】
図2Bは、図2Aに示すグラフの一部を拡大して示した図である。図2Bより、酸化ビスマスのみを用いた場合よりも高い遮蔽率を示す第二成分比率の値が、遮蔽材の第二成分の種類によって異なることがわかる。
【0039】
具体的には、遮蔽材の第二成分として酸化セリウムを用いた場合は、遮蔽材中の酸化ビスマスと酸化セリウムとの質量基準の配合比率が99:1~61:39(酸化ビスマス:酸化セリウム)の範囲内であるとき、高い遮蔽率を得ることができる。さらに、遮蔽材中の酸化ビスマスと酸化セリウムとの質量基準の配合比率が92:8~66:34(酸化ビスマス:酸化セリウム)の範囲内であれば、遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた場合と比べてより高い遮蔽率を得ることができる。
【0040】
遮蔽材の第二成分として酸化スズを用いた場合は、遮蔽材中の酸化ビスマスと酸化スズとの質量基準の配合比率が79:21~58:42(酸化ビスマス:酸化スズ)の範囲内であるとき、高い遮蔽率を得ることができる。
【0041】
遮蔽材の第二成分として金属アンチモンを用いた場合は、遮蔽材中の酸化ビスマスと金属アンチモンとの質量基準の配合比率が99:1~38:62(酸化ビスマス:金属アンチモン)の範囲内であるとき、高い遮蔽率を得ることができる。さらに、遮蔽材中の酸化ビスマスと金属アンチモンとの質量基準の配合比率が69:31~43:57(酸化ビスマス:金属アンチモン)の範囲内であれば、遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた場合と比べてより高い遮蔽率を得ることができる。
【0042】
特に、遮蔽材の第二成分として酸化セリウムを使用した場合は、酸化ビスマスと比較して安価な酸化セリウムの比率を大きくすることが可能である。そのため、遮蔽材の第二成分として酸化スズや金属アンチモンを使用する場合よりも材料コストを低減することが可能である。
【0043】
上記の通り、第二成分として用いる遮蔽材の種類に応じて、特定の配合比率で遮蔽材を配合することで、同じ比重(3.3)の放射線遮蔽組成物であっても、遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた場合よりも高い遮蔽性能を得ることができる。すなわち、言い換えると、第二成分としての遮蔽材を、特定の配合比率で酸化ビスマスと併用することで、遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた場合と同じ遮蔽性能を有する放射線遮蔽組成物をより軽量なものとすることができる。これにより、所望の遮蔽性能を確保しつつ、利便性を向上させることが可能となる。
【0044】
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物中の遮蔽材の含有割合は、30体積%以上60体積%未満である。遮蔽材の含有割合が30体積%以上であれば、十分な遮蔽性能を得ることができる。また、遮蔽材の含有割合が60体積%未満であれば、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性を高く保つことができる。また、バインダー樹脂を溶融した際に遮蔽材が沈降することを抑制でき、均一な遮蔽性能の放射線遮蔽組成物を得ることができる。さらに、遮蔽材を混合したバインダー樹脂を溶融した際に、粘度が高くなることを抑制でき、流動性を高く保つことで良好な成型性を得ることができる。
【0045】
遮蔽材はさらに、放射線の遮蔽のために用いられる公知の他の金属あるいは金属化合物等を含有してもよい。
【0046】
<添加剤>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、可塑剤を含まないことが好ましい。可塑剤は時間の経過とともに放射線遮蔽樹脂組成物から染み出す場合があり、品質上好ましくない。さらに一部の可塑剤は、環境上好ましくないものもある。
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物には、柔軟性を付与するために、可塑剤ではなくオレフィン系オリゴマーを用いることが好ましい。オレフィン系オリゴマーは環境への影響が小さい。また、オレフィン系オリゴマーは一般的な可塑剤と比較すると分子量は大きく、スチレン系熱可塑性エラストマーとの相溶性も良いため、染み出しもほぼ発生することなく柔軟性を向上させることができる。オレフィン系オリゴマーとしては、エチレンα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。
【0047】
放射線遮蔽樹脂組成物は、上記以外のその他の添加剤を必要に応じて含んでもよい。その他の添加剤の一例としては、滑剤、着色剤、レベリング剤、消泡剤、老化防止剤、および反応触媒等が挙げられる。
【0048】
<放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法としては、例えば次のような方法が挙げられる。まず、バインダー樹脂と遮蔽材およびその他添加剤とを加圧ニーダーや二軸混練押し出し機にて溶融混合したのち、ペレット形状に加工する。その後、Tダイ押し出し機やカレンダーロール成型、または熱プレスにてシート成形を行う方法が挙げられる。本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物の製造方法は上記製法に限られるものではなく、射出成型等、その他の公知の方法にて製造することができる。
【0049】
<放射線遮蔽樹脂組成物の物性>
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物は、柔軟性を損なうことなく、バインダー樹脂に複数種の遮蔽材を混在させて充填して単層の構成として使用することが可能である。放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性に関連する物性値について以下に説明する。
【0050】
〔切断時伸び〕
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物において、放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びは350%以上である。本発明で規定する切断時伸びは、JIS K 6251:2017に基づいて測定された値である。放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びが350%以上であれば、放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽カーテンのような柔軟性が求められる用途においても、十分な変形に耐えることができる。放射線遮蔽樹脂組成物の切断時伸びは、バインダー樹脂の種類および遮蔽材の含有割合によって制御することが可能である。
【0051】
〔破断強度〕
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物において、放射線遮蔽樹脂組成物の破断強度は2.0MPa以上である。本発明で規定する破断強度は、JIS K 6251:2017に基づいて測定された値である。放射線遮蔽樹脂組成物の破断強度が2.0MPa以上であれば、放射線遮蔽防護服や放射線遮蔽カーテンのような柔軟性が求められる用途においても、変形に対する耐久性を得ることができる。放射線遮蔽樹脂組成物の破断強度は、バインダー樹脂の種類と遮蔽材の含有割合によって制御することが可能である。
【0052】
〔比重〕
本発明に係る放射線遮蔽樹脂組成物において、放射線遮蔽樹脂組成物の比重は3.0以上5.0以下であることが好ましい。比重が3.0以上であれば、十分な放射線遮蔽性能を得ることができる。また比重が5.0以下であれば、放射線遮蔽防護服等に使用した場合でも、放射線遮蔽防護服の重量による動きの妨げになりにくい。
【0053】
<放射線遮蔽部材、放射線遮蔽防護服>
上記に示す物性値を有する放射線遮蔽樹脂組成物は、放射線遮蔽カーテン等の放射線遮蔽防護部材や、放射線遮蔽防護服等の柔軟性が求められる物品で好適に使用することが可能である。
【0054】
本発明に係る放射線遮蔽部材は、放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽部材であって、前記放射線遮蔽部位が、これまで述べた放射線射遮蔽樹脂組成物を含む。
【0055】
また、本発明に係る放射線遮蔽防護服は、放射線遮蔽部位を有する放射線遮蔽防護服であって、前記放射線遮蔽部位が、これまで述べた放射線射遮蔽樹脂組成物を含む。
【実施例0056】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることは無い。
【0057】
表1に各実施例および比較例で用いた材料を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(実施例1)
実施例1に係る放射線遮蔽樹脂組成物の調製のために以下の材料を準備した。
・バインダー樹脂
スチレン系熱可塑性エラストマー(商品名:タフテックH1521、旭化成(株)社製):0.990kg
無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー(商品名:タフテックM1943、旭化成(株)社製):0.110kg
・遮蔽材A
酸化ビスマス(日本化学産業(株)社製):6.880kg
・遮蔽材B
酸化セリウム1(商品名:AUERPOL FG50、TREIBACHER INDUSTRIE AG社製、平均粒子径3.5μm):1.720kg
・滑材
ステアリン酸カルシウム:0.2kg
・着色剤
カーボンブラック:0.1kg
上記材料を混合し、その後、二軸混練押し出し機を用いて、シリンダー温度210℃にて溶融混合した。続いて、ダイスからストランドを押出し、冷却層にて水冷したのち、ペレタイザーにてカットしてペレットを得た。得られたペレットを、Tダイ押し出し機を用いて、Tダイ温度210℃にてシート成形した。シートサイズは幅100mm、厚さ1.0mmにて成形し、遮蔽シートを得た。得られた遮蔽シートを長さ100mmに切断して実施例1に係る放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを得た。得られた放射線遮蔽樹脂組成物の製造に用いた各材料とそれらの配合比率(質量%)を表2に示す。また、実施例1に係る放射線遮蔽樹脂組成物の比重、放射線遮蔽樹脂組成物全体に対する遮蔽材の含有割合(体積%)、遮蔽材全体に対する酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンの配合比率(質量%)を表4に示す。
【0060】
(実施例2~41、比較例1~8)
実施例2~40および比較例1~8に係る放射線遮蔽樹脂組成物の製造に用いた各材料の配合比率(質量%)を表2および3に示す。また、実施例2~41および比較例1~8に係る放射線遮蔽樹脂組成物の比重、放射線遮蔽樹脂組成物全体に対する遮蔽材の含有割合(体積%)、遮蔽材全体に対する酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンの配合比率(質量%)を表4および5に示す。用いる材料の種類および配合割合を表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを得た。なお、比較例8については、バインダー樹脂中の遮蔽材の含有割合が高いために成型に支障が生じ、放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを得ることができなかった。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
表2~5中のバインダー樹脂および添加剤の種類についての略語の意味は、次の通りである。
TPS:スチレン系熱可塑性エラストマー
MA-TPS:無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー
CB:カーボンブラック
CS:ステアリン酸カルシウム
OO:オレフィン系オリゴマー
表4および5に記載の「遮蔽材含有割合(体積%)」は、放射線遮蔽樹脂組成物全体に対する、遮蔽材の体積基準の含有割合である。また、「遮蔽材中の第二成分比率(質量%)」は、遮蔽材全体に対する、酸化セリウム、酸化スズ、または金属アンチモンの質量基準の配合比率である。
【0066】
〔測定および評価〕
上記の各実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルについて、以下の測定および評価を行った。得られた結果をまとめて表6および7に示す。
【0067】
<遮蔽性能の評価>
(遮蔽率(鉛当量)の測定)
遮蔽性能は、各実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを用いて、JIS T61331に則り、管電圧50kVにて遮蔽率(鉛当量)を測定することで評価した。評価は、以下の基準により行った。
A:遮蔽率(鉛当量)が0.235mmPb以上である。
B:遮蔽率(鉛当量)が0.226mmPbを超え、0.235未満である。
C:遮蔽率(鉛当量)が0.190mmPb以上0.226mmPb以下である。
D:遮蔽率(鉛当量)が0.190mmPb未満である。
【0068】
<柔軟性の評価>
(切断時伸びおよび破断強度の測定)
各実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを、3号ダンベルを用いて打ち抜き、切断時伸びおよび破断強度測定用の試料とした。切断時伸びおよび破断強度の測定はJIS K 6251:2017に規定された方法に準拠して測定した。
【0069】
(折り曲げ試験)
各実施例および比較例で製造した放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを用いて、折り曲げ試験を行った。具体的には、放射線遮蔽樹脂組成物の評価用サンプルを180°折り曲げた際の、割れ、ひびの有無を確認した。
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
実施例に係る放射線遮蔽樹脂組成物はいずれも、複数種の遮蔽材を単一の層のバインダー樹脂に充填した構成を有し、かつ、十分な柔軟性を有するものであり、割れやひびが発生することはなかった。また、バインダー樹脂がスチレン系熱可塑性エラストマーを含むため、加熱することでバインダー樹脂と遮蔽材とを分離することが可能であり、環境への負荷も小さい。
【0073】
また、実施例2~9、15~22、26~35における遮蔽率は、同じ比重で遮蔽材として酸化ビスマスのみを用いた場合(比較例1)の遮蔽率(鉛当量:0.226mmPb)よりも高く、遮蔽性能が向上していた。
【0074】
一方、比較例5~8では、複数種の遮蔽材を単一の層のバインダー樹脂に充填した構成を有するものの、放射線遮蔽樹脂組成物の柔軟性の不足による「割れ」や「ひび」が発生した。
図1
図2A
図2B