(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084470
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
E01D 19/02 20060101AFI20240618BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
E01D19/02
E01D22/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198756
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】富山 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】村尾 光則
(72)【発明者】
【氏名】樋口 正典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亘
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059DD15
2D059GG01
2D059GG40
(57)【要約】
【課題】周方向に閉じた少なくとも一つの壁体を有し、壁体の両側端面が開放されたコンクリート構造物において、壁体の収縮を抑制する。
【解決手段】コンクリート構造物10A,10Bは、周方向Dに閉じた少なくとも一つの壁体18を有し、周方向Dに閉じた壁体18の両側端面が開放され、壁体18は膨張材と収縮低減剤とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に閉じた少なくとも一つの壁体を有し、前記周方向に閉じた壁体の両側端面が開放され、前記壁体は膨張材と収縮低減剤とを含むコンクリート構造物。
【請求項2】
前記少なくとも一つの壁体は少なくとも一つのプレキャストコンクリート型枠であり、前記プレキャスト型枠に囲まれた内部空間にコンクリートが充填される、請求項1に記載のコンクリート構造物。
【請求項3】
前記少なくとも一つのプレキャストコンクリート型枠は複数のプレキャスト型枠であり、前記複数のプレキャスト型枠は内側に空洞が形成されるように周方向に連結される、請求項2に記載のコンクリート構造物。
【請求項4】
前記複数のプレキャスト型枠は前記空洞を挟んで互いに対向する一対のプレキャスト型枠を有し、
前記一対のプレキャスト型枠を接続し前記一対のプレキャスト型枠に面外方向の外力を及ぼす鉄筋を有する、請求項3に記載のコンクリート構造物。
【請求項5】
前記複数のプレキャスト型枠は橋脚の一部として用いられる、請求項3または4に記載のコンクリート構造物。
【請求項6】
前記膨張材は20~40kg/m3、前記収縮低減剤は2~10kg/m3の添加量で添加される、請求項1に記載のコンクリート構造物。
【請求項7】
前記少なくとも一つの壁体は、既設コンクリート構造物に巻き付ける補強部材である、請求項1に記載のコンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
プレキャストコンクリートを型枠として用いる技術が知られている。特許文献1には、周方向と高さ方向とに分割された複数のプレキャストコンクリート型枠という場合がある)で橋脚の型枠を構成し、その内部空間にコンクリートを充填する橋脚の構築方法が開示されている。PCa型枠は橋脚の一部として使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCa型枠は内部空間に鉄筋が内蔵される場合と内蔵されない場合とがあるが、いずれにしてもコンクリートが主体の構造物であることから、製造後にコンクリートの収縮によるひび割れを生じる場合がある。PCa型枠は構造物の外面を構成する部材であるため、PCa型枠のひび割れはできる限り抑制することが望ましい。PCa型枠と類似した構成を有するコンクリート構造物においても同様の課題がある。
【0005】
本発明は、周方向に閉じた少なくとも一つの壁体を有し、壁体の両側端面が開放されたコンクリート構造物において、壁体の収縮を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコンクリート構造物は、周方向に閉じた少なくとも一つの壁体を有し、周方向に閉じた壁体の両側端面が開放され、壁体は膨張材と収縮低減剤とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、周方向に閉じた少なくとも一つの壁体を有し、壁体の両側端面が開放されたコンクリート構造物において、壁体の収縮を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用される橋脚の部分正面図である。
【
図4】実施例と比較例におけるコンクリートの収縮による変形を示す計算例である。
【
図5】本発明が適用される他のコンクリート構造物の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態を説明する。
図1は、本発明が適用される橋梁1の部分正面図を示している。橋脚2は橋梁1の下部工構造であり、地盤Sに埋設された基礎3の上に構築されている。橋脚2は概ね等断面の主要部4と、主要部4の頂部に形成された断面拡大部5とを有し、断面拡大部5に橋桁6と、ケーブルなどの吊構造7とが支持されている。主要部4は以下に説明するようにPCa型枠10を用いて施工され、断面拡大部5は一般的な型枠を用いて施工される。橋脚2の主要部4は本発明のコンクリート構造物の一例である。主要部4は鉄筋コンクリート造であるが、鉄骨鉄筋コンクリート造であってもよい。
【0010】
図2は複数のPCa型枠10からなる型枠組立体11の斜視図を示している。
図3(a)は型枠組立体11の平面図を、
図3(b)は
図3(a)のA部拡大図を示している。PCa型枠10はコンクリートの型枠としての機能を有するとともに、橋脚2の主要部4の一部を構成する。PCa型枠10は工場で予め製作され、建設現場に搬送される。
図2に示すように、PCa型枠10は高さ方向Hに複数個配置されて1列RのPCa型枠10を構成し、10個の列Rが周方向Cに連結されている。このように多数のPCa型枠10を組み合わせて型枠組立体11を構成することで、個々のPCa型枠10を小型化し、PCa型枠10の搬送性を高めることができる。同一列R内のPCa型枠10同士は樹脂の接着剤で接合される。PCa型枠10の列R間の空間には現場施工のコンクリートが充填され、PCa型枠10の列R同士は鉄筋コンクリートからなる接続部12で接続される。
【0011】
PCa型枠10の形状は主要部4の形状と概ね合致している。従って、
図2,3は概ね主要部4の形状を示している。
図3(a)に示すように、主要部4は上方からみて、長方形部4Aの両側に半円部4Bを付けた形状であり、内部が空洞13となっている。主要部4は水平方向の長軸Xに関し、概ね鏡対称の形状を有している。ただし、
図3に示すように、空洞13には長方形部4Aの対向する2辺をつなぐ3つの直線状の連結部14が設けられている。連結部14は地震荷重に対する強度を確保するために設けられているが、その数は適宜決定され、主要部4の寸法によっては省略可能である。
【0012】
PCa型枠10の10個の列Rは、長方形部4Aの2辺を構成する6つの列Rと、両側の半円部4Bを構成する4つの列Rとからなる。
図3(b)には、長方形部4Aを構成する第1のPCa型枠10Aと、半円部4Bを構成する第2のPCa型枠10Bとを拡大して示している。第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bは、外周壁15と、内周壁16と、外周壁15と内周壁16とを連結する連結壁17と、を有する壁体18からなる。換言すれば、第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bは、周方向Dに閉じた少なくとも一つの壁体18を有し、壁体18の上下方向両側の端面19(
図1に上端面19を示す)が開放されている。両側の端面19は、周方向Dを規定する面(本実施形態では水平面)と直交する方向における両側の端面である。壁体18の内部には内部空間26が形成され、内部空間26にコンクリートが充填される。外周壁15と内周壁16の壁厚は120~150mm程度であり、連結壁17の壁厚は外周壁15と内周壁16よりは小さく、80~120mm程度である。
【0013】
第1のPCa型枠10Aの連結壁17は4つ設けられている。両外側に位置する2つの外側連結壁171は第1のPCa型枠10Aの外壁を構成し、内側に位置する2つの内側連結壁172は第1のPCa型枠10Aの強度を確保するために設けられている。内側連結壁172は第1のPCa型枠10Aの内部空間26を周方向Cに分割する。2つの内側連結壁172の間には、空洞13に面するハンチ20が設けられている。ハンチ20は第1のPCa型枠10Aの強度を確保するために設けられている。互いに対向するハンチ20は、主要部4の長軸Xに関し鏡対称の位置に設けられている。隣接するPCa型枠10間の外周壁15同士は現場施工の外側型枠21で連結され、内周壁16同士は現場施工の内側型枠22で連結されている。外側型枠21、内側型枠22、隣接するPCa型枠10で画定された内部空間23にコンクリートが充填され、前述の接続部12が構成される。その後外側型枠21と内側型枠22は撤去される。
【0014】
第1のPCa型枠10Aの外周壁15に沿って、水平方向に延びる第1の帯鉄筋31が配置され、第1の帯鉄筋31の内側に、鉛直方向に延びる複数列の第1の主鉄筋35が配置されている。
図3(b)には2列の第1の主鉄筋35を示しているが、列の数は限定されない。第1の主鉄筋35の内側に、水平方向に延びる第2の帯鉄筋32が配置されている。第1のPCa型枠10Aの内周壁16に沿って、水平方向に延びる第4の帯鉄筋34が配置され、第4の帯鉄筋34の外側に、鉛直方向に延びる第2の主鉄筋36が配置され、第2の主鉄筋36の外側に水平方向に延びる第3の帯鉄筋33が配置されている。図示は省略するが、第1のPCa型枠10Aには中間帯鉄筋が内蔵されている。第2のPCa型枠10Bにも第1~第4の帯鉄筋31~34、第1~第2の主鉄筋35,36、中間帯鉄筋が同様に配置されている。接続部12に配置された第1の帯鉄筋31同士はコンクリートを打設する前にカプラー38で接続され、全体として主要部4を周回する一つの帯鉄筋を構成している。第2~第4の帯鉄筋32~34も同様である。
【0015】
連結部14は互いに対向する第1のPCa型枠10Aと接続される。2つの中間型枠24が現場施工され、2つの中間型枠24と互いに対向する一対の第1のPCa型枠10Aとで画定された内部空間25にコンクリートが充填され、連結部14が構成される。その後中間型枠24は撤去される。互いに対向する一対のPCa型枠10と連結空間25とを水平に延びる連結鉄筋37が設けられている。連結鉄筋37は第1のPCa型枠10Aの第1の帯鉄筋31から、これと対向する第1のPCa型枠10Aの第1の帯鉄筋31まで延びており、内部空間25においてカプラー39で連結されている。連結鉄筋37は連結部14の両側側部と中央部に合計3列設けられるが、列の数は限定されない。また、連結空間25には鉛直方向に延びる主鉄筋(図示せず)が設けられている。
【0016】
以上のように、PCa型枠10は、主要部4であるコンクリート構造物の一部を構成する壁体18で形成されている。壁体18はPCa型枠10として使用され、複数のPCa型枠10は内側に空洞13が形成されるように周方向Cに連結される。
【0017】
主要部4は概ね以下の手順で施工される。まず、第1及び第2の主鉄筋35,36(以下、主鉄筋という)を取り付け、主鉄筋の上から主鉄筋を取り囲むように、第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bを吊り下ろし、複数段の第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bを順次取り付ける。第1~第4の帯鉄筋31~34と中間帯鉄筋は予め第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bに内蔵され、または取り付けられている。連結鉄筋37は、第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bの内部にある部分が、第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bに取り付けられている。中間型枠24を施工し連結鉄筋37の残りの部分を取り付ける。また、外側型枠21と内側型枠22を施工する。その後、内部空間23,26と連結空間25にコンクリートを充填(打設)する。次に主鉄筋を上方に継ぎ足す。以上の工程を繰り返し、主要部4が完成する。
【0018】
第1のPCa型枠10Aと第2のPCa型枠10Bに用いられるコンクリートは、収縮低減剤と膨張材とを含んでいる。収縮低減剤を膨張材と併用することで、コンクリートの収縮をより一層抑制することができる。この点について、実施例を用いて詳細に説明する。
【0019】
(実施例)まず、第1のPCa型枠10Aのコンクリートの収縮による変形を計算で求めた。
図4(a)は表1に示す比較例の組成を用いたときの変形を示し、
図4(b)は表1に示す実施例の組成を用いたときの変形を示している。実施例のコンクリートは膨張材と収縮低減剤とを含んでいる。膨張材と収縮低減剤は共にコンクリートの収縮を抑制する効果を持つ。比較例は膨張材を含んでいるが収縮低減剤を含んでいない。計算は第1のPCa型枠10Aが設置され、第1~第4の帯鉄筋31~34、中間帯鉄筋、連結鉄筋37がすべて設置され、第1のPCa型枠10Aの内部空間26と連結空間25にコンクリートが打設される前の状態を模擬している。
図4の変形は誇張して示されている。
【0020】
【0021】
図4(a)の比較例を参照すると、第1のPCa型枠10Aはコンクリートの収縮により変形するが、連結鉄筋37はほとんど変形しない。連結鉄筋37は第1のPCa型枠10Aのコンクリートの収縮による変形を拘束し、B部付近で第1のPCa型枠10Aのコンクリートに面外方向の外力を及ぼす。この結果、B部付近でコンクリートに引張応力が生じる。図示は省略するが、応力コンター図によれば、B部付近で他の部位よりも数倍大きい応力が得られた。この引張応力によってB部付近にひび割れが発生する可能性が高まる。これに対し、
図4(b)の実施例では第1のPCa型枠10Aのコンクリートの収縮が抑制されるため、比較例にみられた変形がほとんど発生していない。応力コンター図におけるB部付近の応力も比較例より小さかった。
【0022】
次に、表1に示す組成のコンクリートを用いて第1のPCa型枠10Aを作成し、B部付近の残留応力を測定した。膨張材としてはデンカ株式会社製パワーCSAタイプSを用いた。膨張材はエトリンガイト・石灰複合系膨張材である。収縮低減剤としてはポゾリスソリューション株式会社製マスターライフ(登録商標)SRA900を用いた。収縮低減剤はアレキレングリコール系誘導体を主成分として含んでいる。実施例の残留応力は、ひび割れが懸念されるレベルより低く抑えられた。残留応力の最大値は比較例が3.71(N/mm2)であったのに対し、実施例では1.36(N/mm2)であり、約63%減少した。
【0023】
また、
図4AのC部に示すように、第1のPCa型枠10Aが変形することで、外周壁15と内周壁16がめくれるように変形し、これに伴い第1~第4の帯鉄筋31~34の端部の向きが変わる。PCa型枠10間の帯鉄筋31~34はカプラー38で連結するため、端部の位置だけでなく端部の向きについても高い精度が要求される。比較例のように第1のPCa型枠10Aの端部が変形すると、施工性に大きな影響を与える可能性がある。実施例では第1~第4の帯鉄筋31~34の端部の向きが大きく変わることがないため、施工性の悪化が抑制される。
【0024】
実施例では、膨張材を20kg/m3、収縮低減剤を6kg/m3添加したが、添加量はこれに限定されず、膨張材は20~40kg/m3、収縮低減剤は2~10kg/m3の範囲の添加量で添加すれば同様の効果が得られると考えられる。なお、収縮低減剤を10kg/m3添加し、それ以外を実施例と同一とした組成で実施例、比較例と同様の実験を行ったところ、残留応力は実施例と同程度まで低減した。第2のPCa型枠10Bについては、連結鉄筋37は無いものの、コンクリートの収縮によってひび割れが発生する可能性があるため、実施例の組成を用いることで同様の効果が得られると考えられる。
【0025】
図5は本発明の他の実施形態を示している。
図5(a)は、鉄筋を使用しない薄肉(厚さ5cm程度)のコンクリート型枠41を示している。鉄筋を使用しない場合でも、特に薄肉である場合はコンクリートの反りが生じやすく、部分的に引張応力が生じることがある。
図5(b)は、既設コンクリート構造物42(図は柱の例を示している)の表面に設置する鉄筋コンクリート製の補強部材43を示している。補強部材は例えば既設コンクリート構造物42の耐震補強(巻き立て工法とも呼ばれる)として用いられる。補強部材43は、既設コンクリート構造物42の外側に鉄筋と型枠を配置し、コンクリートを打設することによって施工される。このような補強部材43では、既設コンクリート構造物42が補強部材43のコンクリートの収縮に抵抗するため、補強部材43に面内方向の引張応力が生じることがある。これらの用途でも上述の実施形態で説明したコンクリートを用いることで、ひび割れを抑制することができる。
【符号の説明】
【0026】
2 橋脚
10A,10B 第1、第2のPCa型枠(コンクリート構造物)
13 空洞
18 壁体
37 連結鉄筋
43 補強部材