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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084475
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】印刷装置および印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 207
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198761
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】戸島 一也
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EA08
2C056EB40
2C056EB58
2C056EC34
2C056EC41
2C056EC42
2C056EC70
2C056EC72
2C056EC75
2C056EC79
2C056FA10
(57)【要約】
【課題】不良ラスターラインが連続して発生する場合のドットの欠落による印刷品質の劣化を防ぐ。
【解決手段】印刷装置は、搬送部が予め定められた第1距離の移動を実行すると第1不良ノズルが吐出すべき第1ラスターラインのドットと第2不良ノズルが吐出すべき第2ラスターラインのドットとが副走査方向に隣り合う、と判定した場合に、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前の搬送部による移動の距離を第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、第2不良ノズルが第2ラスターラインを形成する直前の搬送部による移動の距離を第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御、を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体へ液体のドットを吐出するための複数のノズルが副走査方向において所定のノズルピッチで並ぶノズル列を有し、前記副走査方向と交差する主走査方向に沿う移動に伴って前記ドットを吐出可能である印刷ヘッドと、
前記副走査方向における前記媒体と前記印刷ヘッドとの相対的な移動を行う搬送部と、
前記ノズル列を形成する複数の前記ノズルのうちの不良ノズルの情報を記憶する記憶部と、
前記印刷ヘッドおよび前記搬送部を制御する制御部と、を備え、
前記不良ノズルのうちの1つである第1不良ノズルと、前記ノズルであって前記不良ノズルに該当しない通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記主走査方向に長さ成分を有するラスターラインを第1ラスターラインとし、
前記不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、前記通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記ラスターラインを第2ラスターラインとし、
前記制御部は、
前記搬送部が予め定められた第1距離の前記移動を実行すると前記第1不良ノズルが吐出すべき前記第1ラスターラインの前記ドットと前記第2不良ノズルが吐出すべき前記第2ラスターラインの前記ドットとが前記副走査方向に隣り合う、と判定した場合に、
前記第1不良ノズルが前記第1ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、前記第2不良ノズルが前記第2ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御、を行うことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1制御において、前記第1不良ノズルが前記第1ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離、又は、前記第2不良ノズルが前記第2ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を、前記第1距離と比較して前記ノズルピッチ分だけ増やす、ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記不良ノズルと前記通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に前記ラスターラインを形成する際に、前記不良ノズルよりも前記通常ノズルの使用比率を高くして前記不良ノズルが吐出すべき前記ドットの少なくとも一部を前記通常ノズルに吐出させる第2制御を実行可能であり、
設定された印刷解像度が所定の解像度以下である場合に、前記第1制御の替わりに前記第2制御を実行する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記不良ノズルと前記通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に前記ラスターラインを形成する際に、前記不良ノズルよりも前記通常ノズルの使用比率を高くして前記不良ノズルが吐出すべき前記ドットの少なくとも一部を前記通常ノズルに吐出させる第2制御を実行可能であり、
前記第1制御または前記第2制御のいずれかの選択を受け付け、受け付けた前記選択に従って前記第1制御または前記第2制御のいずれかを実行する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷装置。
【請求項5】
媒体へ液体のドットを吐出するための複数のノズルが副走査方向において所定のノズルピッチで並ぶノズル列を有し、前記副走査方向と交差する主走査方向に沿う移動に伴って前記ドットを吐出可能である印刷ヘッドと、
前記副走査方向における前記媒体と前記印刷ヘッドとの相対的な移動を行う搬送部と、を制御して印刷を行う印刷工程を有する印刷方法であって、
前記ノズル列を形成する複数の前記ノズルのうちの不良ノズルの1つである第1不良ノズルと、前記ノズルであって前記不良ノズルに該当しない通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記主走査方向に長さ成分を有するラスターラインを第1ラスターラインとし、
前記不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、前記通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記ラスターラインを第2ラスターラインとし、
前記印刷工程では、
前記搬送部が予め定められた第1距離の前記移動を実行すると前記第1不良ノズルが吐出すべき前記第1ラスターラインの前記ドットと前記第2不良ノズルが吐出すべき前記第2ラスターラインの前記ドットとが前記副走査方向に隣り合う、と判定した場合に、
前記第1不良ノズルが前記第1ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、前記第2不良ノズルが前記第2ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御、を行うことを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置および印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターでは、印刷ヘッドが有するノズル内でインクが増粘したりノズル内に気泡や塵等が混入したりすると、ノズルに目詰まりが生じ、このようなノズルはインクのドットを正常に吐出できない、いわゆる不良ノズルとなる。不良ノズルを異常ノズルとも呼ぶ。不良ノズルは、印刷結果において形成すべきドットの欠落を生む。
【0003】
関連技術として、不良ノズルにより形成すべきドットを補完する補完ドットを形成する複数の補完部と、複数の補完部の中からいずれかの補完部を選択する選択部とを備えた記録装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015‐196340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷ヘッドの主走査方向に長さ成分を有するラスターラインのうち、不良ノズルを含む複数のノズルを用いて形成される1つのラスターラインを、不良ラスターラインと呼ぶ。不良ラスターラインでは、不良ノズルに割り当てられた分のドットが印刷結果において欠落してしまう。ドットの欠落は、当該欠落の近傍位置にドットを吐出可能な他のノズルが吐出するインク量を増やす、いわゆる近傍補完により目立たなくして、実質的に解消できる場合がある。
【0006】
しかしながら、不良ラスターラインが連続して発生する場合は、近傍補完を実行しただけでは印刷結果におけるドットの欠落を適切に解消することができない場合があった。このような状況を鑑みて、不良ノズルによる印刷品質の劣化を防ぐための改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
印刷装置は、媒体へ液体のドットを吐出するための複数のノズルが副走査方向において所定のノズルピッチで並ぶノズル列を有し、前記副走査方向と交差する主走査方向に沿う移動に伴って前記ドットを吐出可能である印刷ヘッドと、前記副走査方向における前記媒体と前記印刷ヘッドとの相対的な移動を行う搬送部と、前記ノズル列を形成する複数の前記ノズルのうちの不良ノズルの情報を記憶する記憶部と、前記印刷ヘッドおよび前記搬送部を制御する制御部と、を備え、前記不良ノズルのうちの1つである第1不良ノズルと、前記ノズルであって前記不良ノズルに該当しない通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記主走査方向に長さ成分を有するラスターラインを第1ラスターラインとし、前記不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、前記通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記ラスターラインを第2ラスターラインとし、前記制御部は、前記搬送部が予め定められた第1距離の前記移動を実行すると前記第1不良ノズルが吐出すべき前記第1ラスターラインの前記ドットと前記第2不良ノズルが吐出すべき前記第2ラスターラインの前記ドットとが前記副走査方向に隣り合う、と判定した場合に、前記第1不良ノズルが前記第1ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、前記第2不良ノズルが前記第2ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御を行う。
【0008】
媒体へ液体のドットを吐出するための複数のノズルが副走査方向において所定のノズルピッチで並ぶノズル列を有し、前記副走査方向と交差する主走査方向に沿う移動に伴って前記ドットを吐出可能である印刷ヘッドと、前記副走査方向における前記媒体と前記印刷ヘッドとの相対的な移動を行う搬送部と、を制御して印刷を行う印刷工程を有する印刷方法は、前記ノズル列を形成する複数の前記ノズルのうちの不良ノズルの1つである第1不良ノズルと、前記ノズルであって前記不良ノズルに該当しない通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記主走査方向に長さ成分を有するラスターラインを第1ラスターラインとし、前記不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、前記通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上の前記ノズルを用いて前記媒体に形成される前記ラスターラインを第2ラスターラインとし、前記印刷工程では、前記搬送部が予め定められた第1距離の前記移動を実行すると前記第1不良ノズルが吐出すべき前記第1ラスターラインの前記ドットと前記第2不良ノズルが吐出すべき前記第2ラスターラインの前記ドットとが前記副走査方向に隣り合う、と判定した場合に、前記第1不良ノズルが前記第1ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、前記第2不良ノズルが前記第2ラスターラインを形成する直前の前記搬送部による前記移動の距離を前記第1距離と比較して前記ノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御を行う。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】装置構成を簡易的に示すブロック図。
図2】媒体と印刷ヘッドとの関係性を上方からの視点により示す図。
図3】本実施形態にかかる処理を示すフローチャート。
図4】印刷ルールを説明するための図。
図5】ステップS130の通常の印刷を説明するための図。
図6図6AはステップS120の“Yes”を経て実行する場合の通常の印刷を説明するための図、図6BはステップS140の第1制御を伴う印刷を説明するための図。
図7】第1変形例を説明するための図。
図8】第2変形例にかかる処理を示すフローチャート。
図9】第3変形例にかかる処理を示すフローチャート。
図10】第1制御用に一部を変更した印刷ルールを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は例示であるため、比率や形状が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0011】
1.装置構成:
図1は、本実施形態にかかる印刷装置10の構成を簡易的に示している。印刷装置10は、制御部11、表示部13、操作受付部14、通信IF15、記憶部16、搬送部17、キャリッジ18、印刷ヘッド19、不良ノズル検出部21等を備える。IFは、インターフェイスの略である。制御部11は、プロセッサーとしてのCPU11a、ROM11b、RAM11c等を有する一つ又は複数のICや、その他の不揮発性メモリー等を含んで構成される。
【0012】
制御部11では、プロセッサーつまりCPU11aが、ROM11bや、その他のメモリー等に保存された一つ以上のプログラム12に従った演算処理を、RAM11c等をワークエリアとして用いて実行することにより、印刷装置10を制御する。なお、プロセッサーは、一つのCPUに限られることなく、複数のCPUや、ASIC等のハードウェア回路により処理を行う構成であってもよいし、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成であってもよい。
【0013】
表示部13は、視覚情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部13は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路とを含む構成であってもよい。操作受付部14は、ユーザーによる操作を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、マウスや、キーボード等によって実現される。むろん、タッチパネルは、表示部13の一機能として実現されるとしてもよい。
【0014】
表示部13や操作受付部14は、印刷装置10の構成の一部であってもよいが、印刷装置10に対して外付けされた周辺機器であってもよい。通信IF15は、印刷装置10が公知の通信規格を含む所定の通信プロトコルに準拠して有線又は無線で外部装置と接続するための一つまたは複数のIFの総称である。
【0015】
記憶部16は、例えば、ハードディスクドライブや、ソリッドステートドライブといった記憶装置により構成される。記憶部16は、制御部11が有するメモリーの一部であってもよい。また、記憶部16を制御部11の一部と解してもよい。記憶部16には、印刷装置10の制御に必要な各種情報が記憶される。
【0016】
搬送部17は、所定の「搬送方向」へ媒体を搬送するための手段であり、回転するローラーや、ローラー等を回転させるモーターを含む。搬送の上流、下流を、以下では単に、上流、下流と言う。媒体は、代表的には用紙であるが、用紙の他、生地やフィルム等、液体による印刷の対象となり得る様々な素材を媒体として採用可能である。また、搬送方向を「副走査方向」とも呼ぶ。
【0017】
キャリッジ18は、不図示のキャリッジモーターによる動力を受けて所定の「主走査方向」に沿って往復移動可能な機構である。主走査方向と副走査方向とは交差している。主走査方向と副走査方向との交差は、直交あるいはほぼ直交と解してよい。キャリッジ18は印刷ヘッド19を搭載している。従って、印刷ヘッド19はキャリッジ18とともに、主走査方向に沿って往復移動する。印刷ヘッド19の移動とキャリッジ18の移動とは同義である。キャリッジ18と印刷ヘッド19とをまとめて印刷ヘッドと解してもよい。
【0018】
印刷ヘッド19は、液体のドットを吐出するための複数のノズル20を有する。ドットとは液滴である。以下では、液体はインクであるとして説明を続けるが、印刷ヘッド19は、インク以外の液体も吐出可能である。印刷ヘッド19は、制御部11によって生成された、画像を印刷するための印刷データに基づいてインク吐出を行う。知られているように、制御部11は、各ノズル20が備える不図示の駆動素子への駆動信号の印加を、印刷データに従って制御することで、各ノズル20からドットを吐出させたり吐出させなかったりして媒体へ画像を印刷する。印刷ヘッド19は、例えば、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インク、ブラック(K)インク等の各色インクを吐出可能である。むろん、印刷ヘッド19が吐出するインクはCMYKに限定されない。
【0019】
図2は、媒体30と印刷ヘッド19との関係性を上方からの視点により簡易的に示している。キャリッジ18に搭載された印刷ヘッド19は、キャリッジ18とともに主走査方向D1の一端から他端への移動である往路移動や、他端から一端への移動である復路移動をする。図2では、ノズル面23におけるノズル20の配列の一例を示している。ノズル面23は、印刷ヘッド19の下面であり、媒体30と相対する面である。ノズル面23内の個々の小さな丸が個々のノズル20を表している。
【0020】
印刷ヘッド19は、インクカートリッジやインクタンク等と呼ばれる不図示の液体保持手段から各色のインクの供給を受けてノズル20から吐出する構成において、インク色別のノズル列26を備える。図2は、CMYKインクを吐出する印刷ヘッド19の例を示している。Cインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26Cである。同様に、Mインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26M、Yインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26Y、Kインクを吐出するノズル20からなるノズル列26がノズル列26Kである。
【0021】
図2の例では、ノズル列26C,26M,26Y,26Kは、主走査方向D1に沿って並んでいる。また、これら色別の複数のノズル列26は副走査方向D2において同じ位置に配設されている。1色のインクに対応するノズル列26は、副走査方向D2におけるノズル20同士の間隔である「ノズルピッチ」が一定或いはほぼ一定とされた複数のノズル20により構成される。
【0022】
ノズル列26を構成する複数のノズル20が並ぶ方向を「ノズル並び方向D3」と呼ぶ。図2の例では、ノズル並び方向D3は副走査方向D2と平行である。従って、ノズル列26を構成する複数のノズル20は、副走査方向D2に並んでいると言える。このような構成では、ノズル並び方向D3は主走査方向D1と直交する。ただし、ノズル並び方向D3は副走査方向D2に対して平行でなく斜めであってもよい。ノズル並び方向D3が副走査方向D2と平行であってもなくても、ノズル並び方向D3は主走査方向D1と交差していると言えるし、ノズル列26を構成する複数のノズル20は副走査方向D2において所定のノズルピッチで並んでいると言える。従って、本実施形態では、ノズル並び方向D3が副走査方向D2に対して斜めであっても、ノズル列26を構成する複数のノズル20は副走査方向D2にも並んでいると解釈する。
【0023】
主走査方向D1に沿ったキャリッジ18の移動に伴い印刷データに基づいて印刷ヘッド19がインクを吐出する動作を「主走査」あるいは「パス」と呼ぶ。また、パスとパスとの間に搬送部17が媒体30を決められた距離だけ搬送する動作を「紙送り」と呼ぶ。搬送部17は、副走査方向D2における媒体30と印刷ヘッド19との相対的な移動を行う、と言える。制御部11は、このように印刷ヘッド19、キャリッジ18、搬送部17を制御することで、パスと紙送りとを交互に繰り返して、媒体30に2次元の画像を印刷する。
【0024】
図1に示す印刷装置10の構成は、一台のプリンターによって実現されてもよいし、互いに通信可能に接続した複数の装置により実現されてもよい。つまり、印刷装置10は、実態として印刷システム10であってもよい。印刷システム10は、例えば、制御部11や記憶部16として機能する印刷制御装置と、搬送部17、キャリッジ18、印刷ヘッド19等を有するプリンターと、を含む。このような印刷装置10または印刷システム10により、本実施形態の印刷方法が実現される。
【0025】
不良ノズル検出部21は、印刷ヘッド19が有する複数のノズル20から「不良ノズル」を検出する手段である。不良ノズルとは、印刷データに従ったインク吐出の動作を行ったにもかかわらず目詰まり等によりインクを吐出不能なノズル20である。インクを吐出不能とは、インクを全く吐出できない状態に加え、吐出する液量が過少である場合、吐出されたインクが大きく曲がってしまい意図した場所に着弾しない場合等を含む。不良ノズルに該当しないノズル20を「通常ノズル」と呼ぶ。
【0026】
不良ノズル検出部21による不良ノズルの検出は、公知の方法を含め、ノズル20毎に不良ノズルであるか否かを判定、検出できるものであれば何でもよい。不良ノズル検出部21は、例えば、発光器から射出したレーザー光と検査対象のノズル20のインク飛翔経路とが交差するように発光器と印刷ヘッド19を位置合わせし、ノズル20から吐出されたドットによるレーザー光の遮光を受光器で検出できなかった場合に検査対象を不良ノズルと判定するレーザー方式を採用する。また、不良ノズル検出部21は、特開2013‐126776号公報に開示されている手法を利用して不良ノズルを検出してもよい。具体的には、印刷データに応じた駆動信号の印加による駆動素子(圧電素子)の変形に伴って撓むいわゆる振動板等の、印刷ヘッド19の一部構成の残留振動の波形を計測することにより、各ノズル20からインクの吐出が正常に行われたか否かを検出する。
【0027】
不良ノズル検出部21は、不良ノズルの検出処理を行うことにより、ノズル20毎に不良ノズルであるか否かを記述した「不良ノズル情報」を生成する。不良ノズル情報は、記憶部16に記憶される。不良ノズル検出部21が不良ノズルの検出処理を実行するタイミングは特に問わない。不良ノズル検出部21は、記憶部16の不良ノズル情報を随時、最新の不良ノズル情報で上書き可能である。
【0028】
2.第1制御を伴う印刷:
図3は、制御部11がプログラム12に従って実行する本実施形態にかかる処理を、フローチャートにより示している。フローチャートの少なくとも一部は「印刷工程」を表している。
ステップS100では、制御部11は印刷データを生成する。制御部11は、ユーザーの操作に応じて、印刷対象の画像を表現する画像データを、記憶部16や外部装置等の所定の取得先から取得する。そして、画像データに対して、解像度変換処理、色変換処理、ハーフトーン処理といった各種画像処理を適宜施して、印刷データを生成する。ここでは、印刷データは、画素毎かつCMYKのインク色毎にドットの吐出または非吐出を規定したデータであるとする。ドットの吐出をドットオン、ドットの非吐出をドットオフとも言う。
【0029】
知られているように、印刷ヘッド19はノズル20から複数のサイズのドットを吐出可能である。ドットのサイズとは、例えば、ドット一滴あたりの体積である。ノズル20は、例えば、大ドット、中ドット、小ドットと呼ばれる3種類の異なるサイズのドットを吐出可能である。大小関係は、当然、大ドット>中ドット>小ドットである。従って、印刷データにおけるドットオンの情報は、さらに大ドットオン、中ドットオン、小ドットオンのいずれかを示す情報である。むろん、ノズル20が吐出可能なドットのサイズを3種類に限定しなくてもよい。
【0030】
ステップS110では、制御部11は、記憶部16に記憶された不良ノズル情報を取得する。なお、ステップS100とステップS110との実行順は逆であってもよいし、これらは同時に実行されるとしてもよい。
【0031】
ステップS120では、制御部11は、ステップS110で取得した不良ノズル情報と、予め設定された「印刷ルール」とに基づいて、不良ノズルが吐出すべきドット同士が副走査方向D2に隣り合うか否かを判定し、判定結果に応じて処理をステップS130またはステップS140に分岐させる。不良ノズルが吐出すべきドット、つまり不良ノズルが印刷データに基づいて形成しようとドットは、印刷結果において欠落する。従って、不良ノズルが吐出すべきドットを、結果的に欠落するドットと言う意味で「欠落ドット」とも呼ぶ。制御部11は、欠落ドットが副走査方向D2において隣り合わないと判定した場合、ステップS120の“Nо”からステップS130へ進み「通常の印刷」を実行して図3のフローチャートを終える。一方、欠落ドットが副走査方向D2において隣り合うと判定した場合、制御部11は、ステップS120の“Yes”からステップS140へ進み、「第1制御を伴う印刷」を実行して図3のフローチャートを終える。
ステップS120,S130,S140について、以下に詳述する。
【0032】
図4は、印刷ルールの具体例を説明するための図である。印刷ルールとは、概略、紙送り量や、ラスターラインとノズル20との対応関係や、パスと画素位置との対応関係を規定したルールである。制御部11は、ステップS130,S140のいずれにおいても基本的には印刷ルールに従って、搬送部17、キャリッジ18および印刷ヘッド19を制御して、紙送りを実行させ、印刷データの各画素のデータを各パスの各ノズル20に割り当てて印刷を実行する。図4では、個々の矩形は印刷データを構成する各画素を示し、画素が集合する印刷データの一部と方向D1,D2との対応関係も示している。主走査方向D1に沿って画素が複数並ぶライン、つまり主走査方向に長さ成分を有するラインがラスターラインである。図4では、ラスターライン毎に分かり易くラスター番号を順に付している。具体的には、ラスター番号は下流側のラスターラインほど若い番号としており、図4にはラスター番号♯30~♯65の計36本のラスターラインを示している。
【0033】
パス番号は、各回のパスに付した番号であり、図4ではパス番号として1~8を示している。つまり、パス番号1~8は、印刷データに基づいて画像を印刷する際の1回目から8回目までのパスを意味する。仮に、印刷ヘッド19が往路移動のパスと復路移動のパスとを交互に実行する場合は、奇数のパス番号=1,3,5,7…の各パスが往路移動のパスに該当し、偶数のパス番号=2,4,6,8…の各パスが復路移動のパスに該当することになる。
【0034】
画素内に記載された数字は、当該画素が属するラスターラインの印刷に用いるノズル20のノズル番号である。ノズル番号とは、1色のインクに対応するノズル列26を構成する各ノズル20に対して1つずつ順に付した番号であり、ラスター番号と同様に、下流側のノズル20ほど若い番号が付されている。本実施形態の説明はCMYKの各インクに関して共通であるため、以下では、ある1色、例えばCインクの印刷を想定して説明を続ける。図4によれば、例えば、ラスター番号=♯30のラスターラインは、3回目のパスにおけるノズル番号=26のノズル20と、8回目のパスにおけるノズル番号=13のノズル20とを用いて形成されることが解る。同様に、例えば、ラスター番号=♯31のラスターラインは、2回目のパスにおけるノズル番号=29のノズル20と、5回目のパスにおけるノズル番号=21のノズル20とを用いて形成される。このように1つのラスターラインを複数のノズル20を用いて形成する印刷は、オーバーラップ印刷と呼ばれる。
【0035】
図4の例では、印刷データを副走査方向D2に沿って見ると、4画素に1画素の間隔でノズル番号が記載されている。これは、副走査方向D2における印刷データの画素の形成間隔がノズル列26におけるノズルピッチの1/4であることを意味する。図4に示す紙送り量は、対応するパス番号のパスの直前の紙送りにおける送り量を意味する。紙送り量の単位は画素である。このような印刷ルールによる紙送り量が、予め定められた「第1距離」に該当する。
【0036】
1回目のパスの直前の紙送り量は、いわゆる頭出しのため603画素分という大きな送り量となっているが、2回目以降の各パスの直前の紙送り量は10画素、11画素の繰り返しとなっている。例えば、1回目のパスが終わってから2回目のパスが始まる前に実行する紙送りの送り量は10画素分である。そのため、1回目のパスにおけるノズル番号=32のノズル20の位置に比べて、2回目のパスにおける同じノズル番号=32のノズル20の位置は10画素だけ上流にずれている。むろん、印刷時にはパスとパスとの間にノズル列26が上流へ移動するのではなく、媒体30が下流へ紙送りされることで、図示するような副走査方向D2における各ノズル20と各ラスターラインとの対応関係がパス毎に実現される。
【0037】
図4に示す画素位置は、対応するパスにおいて印刷すべき画素位置を意味する。ここで、画素位置=1は、ラスターライン内における奇数番目の画素位置を指し、画素位置=2は、ラスターライン内における偶数番目の画素位置を指す。パス毎の画素位置は、1,2,2,1,1,2,2,1,1…という決まったパターンで繰り返される。従って図4によれば、ラスター番号=♯30のラスターラインは、3回目のパスにおけるノズル番号=26のノズル20により、その画素位置=2の各画素のドットが形成され、かつ、8回目のパスにおけるノズル番号=13のノズル20により、その画素位置=1の各画素のドットが形成される。同様に、ラスター番号=♯31のラスターラインは、2回目のパスにおけるノズル番号=29のノズル20により、その画素位置=2の各画素のドットが形成され、かつ、5回目のパスにおけるノズル番号=21のノズル20により、その画素位置=1の各画素のドットが形成される。以上が、印刷ルールの具体例の説明である。
【0038】
図4においてグレー色で示すノズル番号=33のノズル20は、不良ノズルであると仮定する。つまり、不良ノズル情報によれば、ノズル番号=33のノズル20が不良ノズルである旨が記述されている。この場合、ラスター番号=♯37,♯47,♯58の各ラスターラインが、不良ノズルを含む複数のノズル20を用いて形成される「不良ラスターライン」に該当する。これら各不良ラスターラインは連続していない。つまり、不良ラスターライン同士が副走査方向D2において隣接していない。従って、図4の例のようにノズル番号=33のノズル20が不良ノズルであるとき、欠落ドットが副走査方向D2において隣り合うことは無いため、制御部11は、ステップS120では“Nо”と判定し、ステップS130へ進む。なお、不良ラスターラインに該当しないラスターライン、つまり不良ノズルを含まない複数のノズル20を用いて形成されるラスターラインを「通常ラスターライン」と呼ぶ。
【0039】
一方、図4においてノズル番号=33に加え、太線で囲ったノズル番号=25のノズル20も不良ノズルであると仮定する。この場合、ラスター番号=♯36,♯37,♯47,♯57,♯58の各ラスターラインが不良ラスターラインに該当し、ラスター番号=♯36,♯37の各不良ラスターラインが隣接し合い、ラスター番号=♯57,♯58の各不良ラスターラインも隣接し合っている。さらに、ラスター番号=♯36の不良ラスターラインを形成するためのノズル番号=25のノズル20の画素位置と、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインを形成するためのノズル番号=33のノズル20の画素位置とはいずれも1、つまり奇数番目の画素位置であり、これにより欠落ドットが副走査方向D2において隣り合う。また、ラスター番号=♯57の不良ラスターラインを形成するためのノズル番号=25のノズル20の画素位置と、ラスター番号=♯58の不良ラスターラインを形成するためのノズル番号=33のノズル20の画素位置とはいずれも2、つまり偶数番目の画素位置であり、これにより欠落ドットが副走査方向D2において隣り合う。従って、このようなノズル番号=25,33のノズル20が不良ノズルであるとき、制御部11は、ステップS120では“Yes”と判定し、ステップS140へ進む。
【0040】
このようにノズル番号=25,33の2つのノズル20が不良ノズルであるとき、例えば、ノズル番号=25のノズル20を「第1不良ノズル」、ノズル番号=33のノズル20を「第2不良ノズル」と捉えることができる。また、第1不良ノズルと共に1つのラスターラインの形成を担う通常ノズル、例えばノズル番号=17のノズル20を「第1通常ノズル」と呼び、第2不良ノズルと共に1つのラスターラインの形成を担う通常ノズル、例えばノズル番号=20のノズル20を「第2通常ノズル」と呼ぶことができる。そして、ラスター番号=♯36の不良ラスターラインを、不良ノズルのうちの1つである第1不良ノズルと、通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成される「第1ラスターライン」の一例、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインを、不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成される「第2ラスターライン」の一例、とそれぞれ捉えることができる。
【0041】
ステップS130の通常の印刷について説明する。
通常の印刷は、ステップS100で生成した印刷データおよび上述の印刷ルールに従った印刷である。なお、本実施形態では、ステップS130の通常の印刷や、ステップS140の第1制御を伴う印刷のいずれにおいても、制御部11は、不良ノズルの存在に応じて近傍補完を実行する。近傍補完は、欠落ドットと隣接する位置のドットのサイズをより大きいサイズに変換して吐出する処理である。より大きいサイズへの変換とは、例えば、ドットオフから小ドットオンへの変換、小ドットオンから中ドットオンへの変換、中ドットオンから大ドットオンへの変換である。また、より大きいサイズへの変換とは、変換前がドットオフであってもどのようなサイズのドットであっても、一律に最も大きな大ドットに変換する処理であってもよい。
【0042】
図5は、通常の印刷を説明するための図であり、印刷データの一部を抜き出して表している。具体的には、図5内の上段および下段には、ラスター番号=♯36,♯37,♯38の3本のラスターラインを表しており、上段は近傍補完前の印刷データ、下段は近傍補完後の印刷データである。ラスター番号=♯37のラスターラインは、不良ラスターラインである。図5では、個々の矩形は各画素であり、画素内の丸は、当該画素に中ドットオンが規定されていることを意味する。また、画素内の二重丸は、当該画素に大ドットオンが規定されたことを意味する。
【0043】
図5や、後述の図6A,6B,図7に関しては、説明を分かり易くするために、ステップS100で生成された印刷データの時点では、全画素に中ドットオンが規定されているものとする。ただし、欠落ドットに該当する画素内には×印を記している。
【0044】
図5内の上段を参照する。図4の説明から解るように、印刷ルールに従い、ラスター番号=♯36の通常ラスターラインは、4回目のパスにおけるノズル番号=25のノズル20により奇数番目の各画素のドットが形成され、かつ、7回目のパスにおけるノズル番号=17のノズル20により偶数番目の各画素の各ドットが形成される。また、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインは、1回目のパスにおけるノズル番号=33の不良ノズルにより、奇数番目の各画素の各ドットが欠落ドットとなり、かつ、6回目のパスにおけるノズル番号=20のノズル20により偶数番目の各画素の各ドットが形成される。また、ラスター番号=♯38の通常ラスターラインは、3回目のパスにおけるノズル番号=28のノズル20により、偶数番目の各画素の各ドットが形成され、かつ、8回目のパスにおけるノズル番号=15のノズル20により奇数番目の各画素の各ドットが形成される。
【0045】
このような状況に対して、制御部11は近傍補完を行う。具体的には、ラスター番号=♯36の通常ラスターラインのうち奇数番目の各画素のドットおよび、ラスター番号=♯38の通常ラスターラインのうち奇数番目の各画素のドットは、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインのうち奇数番目の各画素のドットである欠落ドットに副走査方向D2において隣接する。そのため、制御部11は、図5内の下段に示すように、ラスター番号=♯36の通常ラスターラインのうち奇数番目の各画素のドットおよび、ラスター番号=♯38の通常ラスターラインのうち奇数番目の各画素のドットについて、現在の中ドットを大ドットに変換する処理を、印刷データに施す。このような近傍補完を施した印刷データに基づいて印刷を実行することで、媒体30における画像の印刷結果では、欠落ドットが殆ど目立たず、印刷品質が保たれる。
【0046】
次に、ステップ140の第1制御を伴う印刷について説明する。
制御部11は、搬送部17が印刷ルールに従って第1距離の紙送りをすると、第1不良ノズルが吐出すべき第1ラスターラインのドットである欠落ドットと、第2不良ノズルが吐出すべき第2ラスターラインのドットである欠落ドットとが副走査方向D2に隣り合う、と判定したのであれば(ステップS120において“Yes”)、第1制御を実行する。第1制御は、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前の搬送部17による移動、つまり紙送りの距離を、第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、第2不良ノズルが第2ラスターラインを形成する直前の搬送部17による紙送りの距離を、第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する処理である。
【0047】
図6Aは、ステップS120で“Yes”と判定して第1制御を実行せずに通常の印刷を行う場合を説明する図であり、本実施形態が想定する課題を具体的に表している。一方、図6Bは、第1制御を伴う印刷を説明するための図である。図6A,6Bはいずれも印刷データの一部を抜き出して表している。具体的には、図6Aはラスター番号=♯35,♯36,♯37,♯38の4本のラスターラインを抜き出して表している。図6Bはラスター番号=♯35,♯36,♯37,♯38,♯39,♯40,♯41,♯42の8本のラスターラインを抜き出して表している。図6A,6Bそれぞれの見方は図5の見方と同じである。図6Aにおいては当然に、ラスター番号=♯36,♯37の2本のラスターラインは不良ラスターラインであり、第1ラスターラインおよび第2ラスターラインに該当する。
【0048】
図6A内の上段を参照する。図4の説明から解るように、印刷ルールに従えば、ラスター番号=♯35の通常ラスターラインは、2回目のパスにおけるノズル番号=30のノズル20により偶数番目の各画素のドットが形成され、かつ、5回目のパスにおけるノズル番号=22のノズル20により奇数番目の各画素の各ドットが形成される。また、ラスター番号=♯36の不良ラスターラインは、4回目のパスにおけるノズル番号=25の不良ノズルにより、奇数番目の各画素の各ドットが欠落ドットとなり、かつ、7回目のパスにおけるノズル番号=17のノズル20により偶数番目の各画素の各ドットが形成される。また、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインは、1回目のパスにおけるノズル番号=33の不良ノズルにより、奇数番目の各画素の各ドットが欠落ドットとなり、かつ、6回目のパスにおけるノズル番号=20のノズル20により偶数番目の各画素の各ドットが形成される。また、ラスター番号=♯38の通常ラスターラインは、3回目のパスにおけるノズル番号=28のノズル20により、偶数番目の各画素の各ドットが形成され、かつ、8回目のパスにおけるノズル番号=15のノズル20により奇数番目の各画素の各ドットが形成される。
【0049】
すなわち、印刷ルールによる第1距離である紙送り量に従った紙送りを実行すると、図6A内の上段に示すように、第1ラスターラインおよび第2ラスターラインが隣接することで、第1ラスターライン内の欠落ドットと第2ラスターライン内の欠落ドットとが主走査方向D1において位置が揃ってしまい、2つの欠落ドットが副走査方向D2に結合した大きな欠落ドットエリアが生じる。このような欠落ドットエリアは、図6A内の下段に示すように、欠落ドットに対して副走査方向D2において隣接するドットを大きいサイズに変換する近傍補完をしたとしても、十分にインクで埋めることが難しく印刷品質の低下を招く。
【0050】
このような課題に対して、制御部11は、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前の紙送りの距離を、第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる。簡単に言うと、印刷ルールに従ったときに第1不良ノズルによる欠落ドットと第2不良ノズルによる欠落ドットとが副走査方向D2において隣り合うのであれば、これら欠落ドットが隣り合わないように紙送り量を一部変更する。
【0051】
図10は、第1制御用に一部を変更した印刷ルールの具体例を説明する図である。図10の見方は、図4の見方と同じである。図10では、図4と比べてラスター番号=♯45以降に関する記載を省略している。図10は、ステップS120で“Yes”と判定したことを前提としているため、上述の例のようにノズル番号=25,33の2つのノズル20を不良ノズルとしており、これら2つのノズル20をグレー色で示している。図10図4と比較すると、4回目のパスの直前の紙送り量だけが、それまで規定されていた第1距離としての10画素から14画素へ、つまり1つのノズルピッチ分増えている。ステップS140では、制御部11は、このように印刷ルールを一部変更し、変更後の印刷ルールに従って印刷を行う。
【0052】
すなわち、第1不良ノズルであるノズル番号=25のノズル20がラスターラインを形成する直前の紙送り量である、4回目のパスの直前の紙送り量を、ノズルピッチ分増やす。これにより、4回目以降の各パスではラスター番号に対応するノズル番号が、変更前の印刷ルールに比べて全て1だけずれる。そのため、変更前の印刷ルールに従えば不良ラスターラインであったラスター番号=♯36のラスターラインは、ノズル番号=24,16の2つの通常ノズルにより形成されることになり、通常ラスターラインとなる。また、4回目のパスでは、ノズル番号=25のノズル20がラスター番号=♯40のラスターラインに対応付けられる。そのため、変更前の印刷ルールに従えば通常ラスターラインであったラスター番号=♯40のラスターラインは、ノズル番号=25,17の不良ノズルおよび通常ノズルにより形成されることになり、不良ラスターラインとなる。
【0053】
図6Bでは、このような図10に示す変更後の印刷ルールに従う印刷を表している。図6B内の上段に示すように、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインは、1回目のパスにおけるノズル番号=33の不良ノズルにより、奇数番目の各画素の各ドットが欠落ドットとなり、かつ、6回目のパスにおけるノズル番号=19のノズル20により偶数番目の各画素の各ドットが形成される。また、ラスター番号=♯40の不良ラスターラインは、4回目のパスにおけるノズル番号=25の不良ノズルにより、奇数番目の各画素の各ドットが欠落ドットとなり、かつ、7回目のパスにおけるノズル番号=17のノズル20により偶数番目の各画素の各ドットが形成される。その他、ラスター番号=♯35,♯36,♯38,♯39,♯41,♯42の各ラスターラインは、それぞれ2つの通常ノズルを用いて通常ラスターラインとして形成される。
【0054】
このような紙送り量の一部変更により、不良ラスターラインが副走査方向D2において隣接しなくなり、図6Aに示すような大きな欠落ドットエリアが生じない。制御部11は、第1制御では、第1不良ノズルがラスターラインを形成する直前の紙送り量をノズルピッチの整数倍だけ異ならせる代わりに、第2不良ノズルがラスターラインを形成する直前の紙送り量をノズルピッチの整数倍だけ異ならせることで結果的に複数の不良ラスターラインが隣接しないようにしてもよい。むろん、第1不良ノズル、第2不良ノズルの具体例は、ノズル番号=25,33の2つのノズル20に限られない。
【0055】
制御部11は、このように印刷ルールを一部変更した上で、近傍補完を行う。具体的には、図6B内の下段に示すように、ラスター番号=♯37の不良ラスターラインにおける欠落ドットまたはラスター番号=♯40の不良ラスターラインにおける欠落ドットのいずれかに対して副走査方向D2において隣接する各画素のドットについて、現在の中ドットを大ドットに変換する処理を、印刷データに施す。このような、近傍補完を施した印刷データに基づいて変更後の印刷ルールに従って印刷を実行することで、媒体30における画像の印刷結果では、欠落ドットが殆ど目立たず、印刷品質が保たれる。
【0056】
3.第1変形例:
図7は、第1制御を伴う印刷を説明するための図であって、図6Bに対する変形例である。図7図7に関する説明を第1変形例とも呼ぶ。第1変形例では、制御部11は、第1制御において、不良ノズルと通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成されるラスターラインに隣接して媒体30に形成されるラスターラインであって、不良ノズルを含まない2つ以上の通常ノズルを用いて形成される通常ラスターラインを形成する際に、当該通常ラスターラインにおける、大きいサイズへの変換の対象としないドットのサイズを、より小さいサイズに変換する。より小さいサイズへの変換とは、例えば、小ドットオンからドットオフへの変換、中ドットオンから小ドットオンへの変換、大ドットオンから中ドットオンへの変換である。また、より小さいサイズへの変換とは、変換前がどのようなサイズのドットであっても、一律に最も小さな小ドットまたはドットオフに変換する処理であってもよい。
【0057】
図7については、図6Bと異なる点を説明する。図7内の上段と図6B内の上段とは全く同じである。図7内の下段に示す画素内の三角形は、当該画素に小ドットオンが規定されたことを意味する。図7に示す各ラスターラインのうち、ラスター番号=♯35,♯36,♯38,♯39,♯41,♯42は通常ラスターラインである。既に説明したように、これらのうちラスター番号=♯36,♯38,♯39,♯41の通常ラスターラインでは、ラスター番号=♯37,♯40の不良ラスターラインにおける欠落ドットに隣接する位置の画素で、より大きいサイズのドットへの変換を行う。さらに、制御部11は、これらラスター番号=♯36,♯38,♯39,♯41の通常ラスターラインの画素のうち、大きいサイズのドットへの変換をしないドット、つまり副走査方向D2において欠落ドットに隣接しない位置の画素では、現在の中ドットを小ドットに変換する処理を、印刷データに施す。このように、通常ラスターラインにおける、大きいサイズへの変換の対象としないドットのサイズを、より小さいサイズに変換することで、当該通常ラスターライン全体でのインク量の変動を抑制することができる。
【0058】
4.第2変形例:
これまでの実施形態や第1変形例では、通常ラスターラインか不良ラスターラインかに関係無く、2つのノズル20で1つのラスターラインを形成するオーバーラップ印刷では、2つのノズル20のそれぞれに、1つのラスターラインを構成する画素の半数ずつを割り当てており、2つのノズル20の使用比率は50%対50%である。ノズル20の使用比率とは、データとして割り当てる画素数の比率であり、実際に媒体30へ吐出したドット数の比率ではない。これに対して、第2変形例では、制御部11は、不良ノズルと通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30にラスターラインを形成する際に、不良ノズルよりも通常ノズルの使用比率を高くして不良ノズルが吐出すべきドットの少なくとも一部を通常ノズルに吐出させる「第2制御」を実行可能である。
【0059】
つまり、第2制御では、不良ラスターラインの形成に関して不良ノズルと通常ノズルとの使用比率のバランスを崩し、不良ノズルと通常ノズルとの使用比率を、例えば、0%対100%としたり、20%対80%としたり、40%対60%としたりする。これにより、50%対50%の使用比率であれば不良ノズルが吐出すべきであったドットの全部あるいは一部を、通常ノズルに吐出させることができる。不良ノズルは画素が割り当てられても実際にはドットを吐出できないため、第2制御を実行することで、不良ラスターライン内の欠落ドットを減らすことができる。
【0060】
ただし、印刷ヘッド19の能力次第では、1つのラスターライン内の半数を超える画素を1つのノズル20に割り当てて印刷することができない場合がある。例えば、印刷データの生成に際して設定された主走査方向D1における印刷解像度が1200dpiであり、1回のパスにおける1つのノズル20により実現可能な最大の印刷解像度が600dpiであるとする。この場合、印刷データは設定された1200dpiに対応して生成されているため、1つのラスターライン内の半数を超える画素を1つのノズル20に割り当てることができない。一方で、印刷データの生成に際して設定された主走査方向D1における印刷解像度が600dpi以下であれば、1つのラスターライン内の全画素を1つのノズル20に割り当てることができる。そこで、制御部11は、設定された印刷解像度が所定の解像度以下である場合に、第1制御の替わりに第2制御を実行する。
【0061】
図8は、本実施形態の第2変形例にかかる処理をフローチャートにより示している。図8図3のフローチャートと比較すると、ステップS122,S150を有する点で異なる。ステップS120の“Yes”の判定後、制御部11は、ステップS122において、設定された印刷解像度が所定の解像度以下であるか否かを判定し、所定の解像度以下であれば“Yes”の判定からステップS150へ進み、所定の解像度以下でなければ“Nо”の判定からステップS140へ進む。ここでは、主走査方向D1の印刷解像度に注目する。
【0062】
印刷解像度は、ステップS100で印刷データを生成する前に、ユーザーによる操作受付部14の操作等を通じて設定されており、この設定に応じた解像度を有する印刷データがステップS100で生成されている。つまり、ユーザーは、表示部13および操作受付部14によって提供されるユーザーインターフェイス(以下、UI)を通じて印刷解像度を設定することができる。上述の具体例を参考にすると、制御部11は、印刷解像度が600dpi以下であればステップS122において“Yes”と判定し、ステップS150に進む。ステップS150では、制御部11は、第2制御を伴う印刷を実行する。ステップS150においても、制御部11は、印刷データおよび印刷ルールに従って搬送部17やキャリッジ18、印刷ヘッド19を制御して印刷を行う。ここで言う印刷ルールは、変更前の印刷ルールである。ただし、不良ラスターラインについては、例外的に第2制御の対象とし、例えば、ラスターラインを構成する全ての画素を、通常ノズルに割り当てる。
【0063】
この結果、第1ラスターラインや第2ラスターラインといった不良ラスターラインは、印刷ルールに従えば不良ノズルに割り当てられるべきドットも含めて、ラスターライン内の全てのドットが通常ノズルによって吐出され、欠落ドットが発生しなくなる。あるいは、第2制御において、制御部11は不良ラスターラインについて、ラスターラインを構成する例えば20%の画素を不良ノズルに割り当て、80%の画素を通常ノズルに割り当てるとしてもよい。この場合であっても、不良ラスターラインは、印刷ルールに従えば不良ノズルに割り当てられるべきドットの一部が通常ノズルによって吐出され、発生する欠落ドットの数が減る。
【0064】
むろん、ステップS150においても、制御部11は近傍補完を実行可能である。つまり、あるラスターラインにおいて不良ノズルに起因して欠落ドットが発生するのであれば、欠落ドットに対して副走査方向D2において隣接する位置のドットのサイズをより大きいサイズに変換する処理を印刷データに施した上で、印刷を実行すればよい。
【0065】
5.第3変形例:
第3変形例においても、第2変形例と同様に、制御部11は、不良ラスターラインを形成する際に第2制御を実行可能である。ただし、第3変形例では、設定された印刷解像度を、第1制御または第2制御の選択に際して考慮しない。例えば、キャリッジ18の通常の移動速度では、1回のパスにおける1つのノズル20により実現可能な最大の印刷解像度が600dpiであったとしても、キャリッジ18の移動速度を前記通常の移動速度の1/2にすれば、1回のパスにおける1つのノズル20により実現可能な最大の印刷解像度を2倍の1200dpiに上げることができる。
【0066】
そのため第3変形例では、印刷ヘッド19は、ユーザーがUIを通じて設定可能な印刷解像度のいずれにも対応して、1回のパスの1つのノズル20によりラスターラインの全画素を印刷可能な能力を有することを前提とする。そして、制御部11は、第1制御または第2制御のいずれかの選択を受け付け、受け付けた前記選択に従って第1制御または第2制御のいずれかを実行する。
【0067】
図9は、本実施形態の第3変形例にかかる処理をフローチャートにより示している。図9図3のフローチャートと比較すると、ステップS124,S150を有する点で異なる。また、図9は、図8のステップS122の替わりに、ステップS124を実行する。ステップS120の“Yes”の判定後、制御部11は、ステップS124において、第1制御が選択されているか否かを判定し、第1制御が選択されていれば“Yes”の判定からステップS140へ進み、第2制御が選択されていれば“Nо”の判定からステップS150へ進む。
【0068】
ユーザーは、UIを通じて、不良ラスターラインへの対処として第1制御と第2制御とのいずれを実行すべきかを予め選択する。この選択結果は、制御部11によって認識されている。そのため、制御部11は、このようなユーザーによる第1制御または第2制御の選択に従って、ステップS124の判定を行う。
【0069】
6.まとめ:
このように本実施形態によれば、印刷装置10は、媒体30へ液体のドットを吐出するための複数のノズル20が副走査方向D2において所定のノズルピッチで並ぶノズル列26を有し、副走査方向D2と交差する主走査方向D1に沿う移動に伴ってドットを吐出可能である印刷ヘッド19と、副走査方向D2における媒体30と印刷ヘッド19との相対的な移動を行う搬送部17と、ノズル列26を形成する複数のノズル20のうちの不良ノズルの情報を記憶する記憶部16と、印刷ヘッド19および搬送部17を制御する制御部11と、を備える。そして、不良ノズルのうちの1つである第1不良ノズルと、ノズル20であって不良ノズルに該当しない通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成される主走査方向D1に長さ成分を有するラスターラインを第1ラスターラインとし、不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成されるラスターラインを第2ラスターラインとし、制御部11は、搬送部17が予め定められた第1距離の前記移動を実行すると第1不良ノズルが吐出すべき第1ラスターラインのドットと第2不良ノズルが吐出すべき第2ラスターラインのドットとが副走査方向D2に隣り合う、と判定した場合に、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前の搬送部17による前記移動の距離を第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、第2不良ノズルが第2ラスターラインを形成する直前の搬送部17による前記移動の距離を第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御を行う。
【0070】
前記構成によれば、印刷装置10は、第1不良ノズルが吐出すべきドットと第2不良ノズルが吐出すべきドットとが副走査方向D2に隣り合うと判定した場合に、第1制御を実行する。これにより、ドットの欠落が副走査方向D2において隣り合うことを防ぐことができる。そのため、ドットの欠落を印刷結果において目立たなくして適切に解消することができ、不良ノズルによる印刷品質の劣化を防ぐことができる。また、搬送部17による前記移動の距離、つまり紙送り量を、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前等に限って第1距離と異ならせる場合に、ノズルピッチの整数倍だけ異ならせることで、その後の印刷において、各ラスターラインと各ノズルとの対応関係を複雑化させず、引き続き各ラスターラインを適切に形成することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、制御部11は、第1制御において、搬送部17による前記移動の距離をノズルピッチの整数倍だけ異ならせると共に、第1不良ノズルが吐出すべきドットまたは第2不良ノズルが吐出すべきドットと副走査方向D2において隣接するドットのサイズをより大きいサイズに変換する。
前記構成によれば、近傍補完によりドットの欠落を印刷結果において目立たなくすることができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、制御部11は、第1制御において、不良ノズルと通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成されるラスターラインに隣接して媒体30に形成されるラスターラインであって、不良ノズルを含まない2つ以上の通常ノズルを用いて形成される通常ラスターラインを形成する際に、通常ラスターラインにおける前記大きいサイズへの変換の対象としないドットのサイズをより小さいサイズに変換するとしてもよい。
前記構成によれば、近傍補完のためにより大きいサイズへ変換するドットに該当しないドットについては、サイズを小さくすることで、通常ラスターラインにおける全体の液体量の増減を抑制し、印刷結果の画質変動を抑えることができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、制御部11は、第1制御において、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前の搬送部17による前記移動の距離、又は、第2不良ノズルが第2ラスターラインを形成する直前の搬送部17による前記移動の距離を、第1距離と比較してノズルピッチ分だけ増やす、としてもよい。
前記構成によれば、前記“整数倍”の意味を1倍とする。つまり、紙送り量を第1距離と異ならせる場合の差をできるだけ少なくすることで、搬送誤差を抑制し、時間も節約することができる。
ただし、前記“整数倍”は、2倍や3倍等といった、1倍より大きい数値であってもよい。整数倍に0倍は含まない。また、第1不良ノズルが吐出すべき第1ラスターラインのドットである欠落ドットと、第2不良ノズルが吐出すべき第2ラスターラインのドットである欠落ドットとが副走査方向D2に隣り合うことを回避できるのであれば、第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異なる紙送り量は、第1距離より短い距離であってもよい。
【0074】
また、本実施形態によれば、制御部11は、不良ノズルと通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30にラスターラインを形成する際に、不良ノズルよりも通常ノズルの使用比率を高くして不良ノズルが吐出すべきドットの少なくとも一部を通常ノズルに吐出させる第2制御を実行可能であり、設定された印刷解像度が所定の解像度以下である場合に、第1制御の替わりに第2制御を実行する、としてもよい。
前記構成によれば、不良ラスターラインの形成に際して、第1制御の替わりに第2制御を行うことで、第1制御のような一部の紙送り量の変更を伴うことなく、欠落ドットの数を減らして画質をより向上させることができる。また、設定された印刷解像度が所定の解像度以下であるという条件付きであるため、通常ノズルの使用比率を上げるために印刷ヘッド19の移動速度を落とす必要がなく、印刷のスループット低下を招かない。
【0075】
また、本実施形態によれば、制御部11は、不良ノズルと通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30にラスターラインを形成する際に、不良ノズルよりも通常ノズルの使用比率を高くして不良ノズルが吐出すべきドットの少なくとも一部を通常ノズルに吐出させる第2制御を実行可能であり、第1制御または第2制御のいずれかの選択を受け付け、受け付けた前記選択に従って第1制御または第2制御のいずれかを実行する、としてもよい。
前記構成によれば、第1制御と第2制御とのいずれを実行すべきかをユーザーに選択させて、選択に応じて第1制御または第2制御を実行することができる。
【0076】
本実施形態は、印刷装置10以外にも、印刷方法や、当該方法をプロセッサーと協働して実現するためのプログラム12を開示する。
例えば、媒体30へ液体のドットを吐出するための複数のノズル20が副走査方向D2において所定のノズルピッチで並ぶノズル列26を有し、副走査方向D2と交差する主走査方向D1に沿う移動に伴ってドットを吐出可能である印刷ヘッド19と、副走査方向D2における媒体30と印刷ヘッド19との相対的な移動を行う搬送部17と、を制御して印刷を行う印刷工程を有する印刷方法は、ノズル列26を形成する複数のノズル20のうちの不良ノズルの1つである第1不良ノズルと、ノズル20であって不良ノズルに該当しない通常ノズルのうちの1つである第1通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成される主走査方向D1に長さ成分を有するラスターラインを第1ラスターラインとし、不良ノズルのうちの1つである第2不良ノズルと、通常ノズルのうちの1つである第2通常ノズルとを含む2つ以上のノズル20を用いて媒体30に形成されるラスターラインを第2ラスターラインとし、印刷工程では、搬送部17が予め定められた第1距離の前記移動を実行すると第1不良ノズルが吐出すべき第1ラスターラインのドットと第2不良ノズルが吐出すべき第2ラスターラインのドットとが副走査方向D2に隣り合う、と判定した場合に、第1不良ノズルが第1ラスターラインを形成する直前の搬送部17による前記移動の距離を第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、又は、第2不良ノズルが第2ラスターラインを形成する直前の搬送部17による前記移動の距離を第1距離と比較してノズルピッチの整数倍だけ異ならせる制御、のいずれか一方を実行する第1制御を行う。
【0077】
1つのラスターラインの形成に用いるノズル20は3つ以上であってもよい。例えば、1つのラスターラインを異なる3つのノズル20で形成する印刷ルールを採用する。そして、ある1つのラスターラインを形成するための3つのノズル20のうち1つのノズルが不良ノズルであり、残りの2つのノズル20が通常ノズルであれば、当該1つのラスターラインは不良ラスターラインに該当する。また、不良ラスターラインに該当する第1ラスターラインを形成するための第1通常ノズルや、不良ラスターラインに該当する第2ラスターラインを形成するための第2通常ノズルは、それぞれ複数存在し得る。
【0078】
搬送部17による、副走査方向D2における媒体30と印刷ヘッド19との相対的な移動は、キャリッジ18を含む印刷ヘッド19の、副走査方向D2の上流側への移動であってもよい。つまり、キャリッジ18を含む印刷ヘッド19を副走査方向D2の上流側へ移動させるための機構を含めて、搬送部17と解釈してもよい。
【符号の説明】
【0079】
10…印刷装置、11…制御部、12…プログラム、16…記憶部、17…搬送部、18…キャリッジ、19…印刷ヘッド、20…ノズル、21…不良ノズル検出部、26,26C,26M,26Y,26K…ノズル列、30…媒体
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