(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084483
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】表面処理剤、及びエッチングされたシリコン基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20240618BHJP
H01L 21/306 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01L21/308 G
H01L21/306 D
H01L21/308 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198777
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】望田 憲嗣
(72)【発明者】
【氏名】三木 翼
【テーマコード(参考)】
5F043
【Fターム(参考)】
5F043AA31
5F043BB22
5F043BB27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与する表面処理剤及びエッチングされたシリコン基板の製造方法を提供する。
【解決手段】表面処理剤は、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与する表面処理剤であって、下記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体又はその塩を含む。
下記式(c)中、3つのRは同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基を示す。前記炭化水素基はヒドロキシル基若しくはカルボキシル基を有していてもよい。尚、3つのRのうち、少なくとも1つは炭化水素基又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与する表面処理剤であって、下記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体又はその塩を含む表面処理剤。
【化1】
(式中、3つのRは同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基を示す。前記炭化水素基はヒドロキシル基若しくはカルボキシル基を有していてもよい。尚、3つのRのうち、少なくとも1つは炭化水素基又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基である)
【請求項2】
前記式(c)中の3つのRのうち、少なくとも1つはヒドロキシアルキル基である、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を、下記工程に付して、前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を得る、エッチングされたシリコン基板の製造方法。
工程1:酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に、請求項1又は2に記載の表面処理剤を塗布して、保護膜付きシリコン基板を得る
工程2:保護膜付きシリコン基板を、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いてエッチング処理する
【請求項4】
下記工程を有する、請求項3に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
工程3:エッチング処理後のシリコン基板を、洗浄剤を用いて洗浄し、保護膜を除去する
【請求項5】
前記洗浄剤は、シリコン基板の表面を酸化する作用を有する酸化剤を含む、請求項4に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄剤は、過酸化物を含む、請求項4に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄剤は、アンモニア過水、硫酸過水、及び塩酸過水から選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与するための表面処理剤、及び前記表面処理剤を用いて、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板の前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の製造方法としては、半導体ウェハ表面に酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を成膜し、所望の形状にパターニングし、エッチングする方法が採用されている。そして、前記エッチング方法としては、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸などのエッチング液で酸化ケイ素膜又は窒化ケイ素膜を腐食させて除去するウェットエッチング法が知られている。
【0003】
特許文献1には、酸化ケイ素膜に選択的に化学吸着する熱リン酸耐性材料を用いて酸化ケイ素膜を保護しつつ、熱リン酸溶液を使用したエッチング処理を施すことで、窒化ケイ素膜を選択的にエッチングできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングすることはできなかった。また、エッチング処理後に残存する熱リン酸耐性材料は除去することが困難であることが問題であった。
【0006】
従って、本開示の目的は、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与する表面処理剤を提供することにある。
本開示の他の目的は、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与し、エッチング処理が終われば容易に除去することができる表面処理剤を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記表面処理剤を用いて、酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、下記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体(以後、「セルロース誘導体(c)」と称する場合がある)又はその塩は、窒化ケイ素膜には付着しやすく、一方、酸化ケイ素膜には付着し難く、一旦付着しても容易に剥がれる性質を有することを見出した。
そして、セルロース誘導体(c)又はその塩を、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に適用したあとに、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液で処理すると、酸化ケイ素膜を極めて選択的にエッチングすることができること、窒化ケイ素膜に付着したセルロース誘導体(c)又はその塩は、水洗等の方法で容易に除去することができること、を見いだした。
本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本開示は、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与する表面処理剤であって、下記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体又はその塩を含む表面処理剤を提供する。
【化1】
(式中、3つのRは同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基を示す。前記炭化水素基はヒドロキシル基若しくはカルボキシル基を有していてもよい。尚、3つのRのうち、少なくとも1つは炭化水素基又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基である)
【0009】
前記式(c)中の3つのRのうち、少なくとも1つはヒドロキシアルキル基であることが好ましい。
【0010】
本開示は、また、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を、下記工程に付して、前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を得る、エッチングされたシリコン基板の製造方法を提供する。
工程1:酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に、前記表面処理剤を塗布して、保護膜付きシリコン基板を得る
工程2:保護膜付きシリコン基板を、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いてエッチング処理する
【0011】
前記製造方法は、下記工程を有することが好ましい。
工程3:エッチング処理後のシリコン基板を、洗浄剤を用いて洗浄し、保護膜を除去する
【0012】
前記洗浄剤は、シリコン基板の表面を酸化する作用を有する酸化剤を含むことが好ましい。
【0013】
前記洗浄剤は、過酸化物を含むことが好ましい。
【0014】
前記洗浄剤は、アンモニア過水、硫酸過水、及び塩酸過水から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本開示の表面処理剤は、酸化ケイ素膜に対して窒化ケイ素膜に選択的に付着する性質を有する。すなわち、[窒化ケイ素膜/酸化ケイ素膜]選択付着性に優れる。そのため、前記表面処理剤で、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を処理すれば、酸化ケイ素膜に対して窒化ケイ素膜を選択的に被覆して、窒化ケイ素膜に耐エッチング性を付与することができ、結果として、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与することができる。
また、窒化ケイ素膜に付着した表面処理剤は、水洗等により容易に除去できるが、前記表面処理剤の性質を利用して、窒化ケイ素膜を酸化剤で処理すれば、窒化ケイ素膜に付着していた表面処理剤は、付着性が著しく低下して、極めて容易に除去できるようになる。
そして、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を前記表面処理剤で処理した後に、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を適用し、更にその後、酸化剤で処理すれば、優れた選択性で酸化ケイ素膜がエッチングされ、且つ表面処理剤の残渣を有さないシリコン基板を製造することができる。
また、前記方法で得られたシリコン基板を使用すれば、高精度の配線パターンを有する半導体素子を形成することができ、高性能の半導体デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】保護膜調製を行った窒化ケイ素膜(Coat)と、保護膜調製を行わなかった窒化ケイ素膜(Non coat)について、これらをエッチング処理に付した際の、エッチング処理時間と窒化ケイ素膜エッチング量の関係を示す図である。
【
図2】保護膜調製を行った酸化ケイ素膜(Coat)と、保護膜調製を行わなかった酸化ケイ素膜(Non coat)について、これらをエッチング処理に付した際の、エッチング処理時間と酸化ケイ素膜エッチング量の関係を示す図である。
【
図3】保護膜調製後、エッチング処理前のSi
3N
4/シリコン基板(Before)と、エッチング処理後のSi
3N
4/シリコン基板(After)について、各窒化ケイ素膜表面をXPS測定した結果を示す図である。
【
図4】保護膜調製を行ったSi
3N
4/シリコン基板(Coat)と、保護膜調製を行わなかったSi
3N
4/シリコン基板(Non coat)について、これらをエッチング処理に付し、その後、各窒化ケイ素膜表面をXPS測定した結果を示す図である。
【
図5】保護膜調製及びエッチング処理後であって、洗浄処理前のSi
3N
4/シリコン基板(Before)と、洗浄処理後のSi
3N
4/シリコン基板(After)について、各窒化ケイ素膜表面をXPS測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[表面処理剤]
本開示の表面処理剤は、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に塗布等の方法で適用することで、簡便に、窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与することができる組成物である。
【0018】
前記表面処理剤は、下記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体又はその塩を含む。
【化2】
(式中、3つのRは同一又は異なって、水素原子、炭化水素基、又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基を示す。前記炭化水素基はヒドロキシル基若しくはカルボキシル基を有していてもよい。尚、3つのRのうち、少なくとも1つは炭化水素基又は2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基である)
【0019】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩は、窒化ケイ素膜には付着しやすく、一方、酸化ケイ素膜には付着し難く、一旦付着しても容易に剥がれる性質を有する、水溶性高分子化合物である。
【0020】
前記炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基、特に好ましくは飽和脂肪族炭化水素基、最も好ましくはアルキル基である。前記炭化水素基の炭素数は、例えば1~5、好ましくは1~3、特に好ましくは1~2である。
【0021】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基等の炭素数1~5のアルキル基が挙げられる。前記アルキル基としては、なかでも炭素数1~3のアルキル基が好ましく、特に炭素数1~2のアルキル基が好ましい。
【0022】
前記連結基は、好ましくはエーテル結合(-O-)である。
【0023】
前記2個以上の炭化水素基が連結基を介して結合した基としては、下記式(r)で表される基が好ましい。式(r)中の左端から延びる結合手が酸素原子に結合する。
-R1-(O-R2)n-X (r)
【0024】
前記式中のR1、R2は同一又は異なって炭化水素基を示す。前記炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基、特に好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(=アルキレン基)である。前記炭化水素基の炭素数は、例えば1~5、好ましくは1~3、特に好ましくは1~2である。
【0025】
前記アルキレン基としては、メチレン基、ジメチレン基、メチルメチレン基、1-メチルエチレン基、1,1-ジメチルメチレン基、トリメチレン基などの炭素数1~3のアルキレン基が好ましく、特に炭素数1~2のアルキレン基が好ましい。
【0026】
前記式中のXはヒドロキシル基又はカルボキシル基を示す。
【0027】
前記式中のnは(O-R2)基の平均付加モル数を示し、例えば0超である。nの上限値は、例えば10、好ましくは5、特に好ましくは3である。nの下限値は、好ましくは1、特に好ましくは1.5である。
【0028】
前記セルロース誘導体(c)は、塩を形成していてもよい。すなわち、前記セルロース誘導体(c)に備わるヒドロキシル基又はカルボキシル基は塩を形成していてもよい。
【0029】
前記塩としては、例えば、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩など)などの一価金属塩;アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)などの二価金属塩;第四級アンモニウム塩、アミン塩、置換アミン塩又はこれらの複塩などが挙げられる。前記塩としては、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、第四級アンモニウム塩が好ましい。
【0030】
例えば、前記セルロース誘導体(c)に備わるヒドロキシル基又はカルボキシル基がナトリウム塩を形成している場合、ヒドロキシル基(-OH)は-ONaとなり、カルボキシル基(-COOH)は-COONaとなる。
【0031】
前記セルロース誘導体(c)のエーテル化度は、例えば0.1~3.0の範囲から選択することができる。前記セルロース誘導体(c)の[窒化ケイ素膜/酸化ケイ素膜]選択付着性を向上させることができ、これにより、エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]がより一層高められる観点から、前記エーテル化度は0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上である。エーテル化度の上限値は、好ましくは2.5、より好ましくは2.0、特に好ましくは1.6である。なお、前記セルロース誘導体(c)のエーテル化度とは、式(c)で表される構成単位の2位、3位、及び6位のヒドロキシル基のエーテル化度(置換度)の平均値である。
【0032】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩としては、具体的には、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、及びこれらの塩が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0033】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩としては、[窒化ケイ素膜/酸化ケイ素膜]選択付着性に特に優れる点において、前記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体又はその塩であって、前記式中の3つのRのうち、少なくとも1つがヒドロキシル基を有する炭化水素基(例えばヒドロキシアルキル基、好ましくはヒドロキシC1-5アルキル基)であるセルロース誘導体が好ましい。
【0034】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等、又はこれらの塩が好ましく、ヒドロキシエチルセルロース又はその塩が特に好ましい。
【0035】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩の、上記式(c)で表される構成単位の重合度は、例えば5~500である。エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]を向上させる観点から、前記重合度の下限値は、好ましくは10、特に好ましくは15である。前記重合度の上限値は、好ましくは200、より好ましくは150、より好ましくは100、更に好ましくは50、特に好ましくは40である。
【0036】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩の重量平均分子量(Mw)は、例えば0.1×104~200×104である。エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]を向上させる観点から、Mwの上限値は、100×104が好ましく、80×104が更に好ましく、50×104が更に好ましく、30×104が更に好ましく、20×104が更に好ましく、15×104が特に好ましい。また、Mwの下限値は、0.1×104が好ましく、0.5×104が更に好ましく、1×104が特に好ましい。
【0037】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩の、20℃における水への溶解度は、5重量%以上が好ましい。
【0038】
前記表面処理剤中の前記セルロース誘導体(c)又はその塩の濃度は、例えば0.001~3重量%である。前記濃度の下限値は、エッチング選択性を更に向上させる効果が得られる点で、好ましくは0.01重量%、更に好ましくは0.05重量%、特に好ましくは0.1重量%、最も好ましくは0.25重量%、とりわけ好ましくは0.3重量%である。前記濃度の上限値は、表面処理剤由来の物質による汚染で、シリコン基板の歩留まりが低下するのを抑制する観点から、好ましくは2重量%、特に好ましくは1.5重量%、最も好ましくは1.0重量%、とりわけ好ましくは0.8重量%である。
【0039】
前記表面処理剤は、前記セルロース誘導体(c)又はその塩以外にも他の水溶性高分子化合物(例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリグリセリンなど)を1種又は2種以上含有していても良いが、前記表面処理剤に含まれる水溶性高分子化合物全量(100重量%)において前記セルロース誘導体(c)又はその塩の占める割合は、例えば50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。
【0040】
前記表面処理剤の不揮発分全量(100重量%)において、セルロース誘導体(c)又はその塩の占める割合は、例えば50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。
【0041】
また、前記表面処理剤は、不揮発分として、セルロース誘導体(c)又はその塩以外にも他の成分を1種又は2種以上含有していても良い。他の成分としては、例えば、前記他の水溶性高分子化合物、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。他の成分の含有量(2種以上含有する場合はその総量)は、例えば50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下、特に好ましくは5重量%以下、最も好ましくは1重量%以下である。
【0042】
尚、前記表面処理剤の不揮発分とは、水や有機溶媒等の分散媒以外の成分であり、例えば、前記表面処理剤を常圧下において100℃で1時間加熱した後に残る成分である。
【0043】
前記表面処理剤中の前記セルロース誘導体(c)又はその塩の濃度は、水や有機溶媒等の分散媒を添加して調整することができる。
【0044】
前記表面処理剤は、例えば、前記セルロース誘導体(c)又はその塩と分散媒(例えば、水)と必要に応じて他の成分を混合することにより調製することができる。
【0045】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩は、酸化ケイ素膜に対して窒化ケイ素膜を選択的に被覆する性質を有する。そのため、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む表面処理剤を用いて窒化ケイ素膜を処理すれば、処理しなかった場合に比べて、窒化ケイ素膜のエッチングレートを低下させる効果が得られる。前記表面処理剤による窒化ケイ素膜のエッチングレート低下率は、エッチング処理条件にもよるが、例えば実施例に記載の方法で行った場合、例えば50%以上、好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。エッチングレート低下率の上限値は、例えば90%である。
【0046】
一方、前記セルロース誘導体(c)又はその塩は、酸化ケイ素膜に対しては付着し難く、一旦付着しても容易に剥がれるので、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む表面処理剤を用いて酸化ケイ素膜を処理した場合と処理しなかった場合では、酸化ケイ素膜のエッチングレートにはほとんど変化が見られず、前記表面処理剤による酸化ケイ素膜のエッチングレート低下率は、エッチング処理条件にもよるが、例えば実施例に記載の方法で行った場合、例えば2%以下である。エッチングレート低下率の下限値は0%である。
【0047】
前記表面処理剤は、上記窒化ケイ素膜選択付着性を有するため、前記表面処理剤を、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に塗布してから、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いてエッチング処理すれば、前記表面処理剤が窒化ケイ素膜の表面を被覆して、エッチング液による窒化ケイ素膜の腐食を抑制するので、エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]を向上することができ、高精度の配線パターンを有する半導体素子を製造することができる。
【0048】
[エッチングされたシリコン基板の製造方法]
本開示の製造方法は、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を、下記工程1,2に付して、前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を得る方法である。
工程1:酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に、上述の表面処理剤を塗布して、保護膜付きシリコン基板を得る
工程2:保護膜付きシリコン基板を、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いてエッチング処理する
【0049】
本開示の製造方法は、前記工程以外にも他の工程を有していても良く、例えば工程1,2に続き下記工程3を有していても良い。
工程3:エッチング処理後のシリコン基板を、洗浄剤を用いて洗浄して、保護膜を除去する
【0050】
(工程1)
工程1は、酸化ケイ素(SiO2)膜と窒化ケイ素(Si3N4)膜を含む表面層を有するシリコン基板に、上述の表面処理剤を塗布して、保護膜付きシリコン基板を得る工程である。
【0051】
酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板は、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜が表面に露出して存在する。そして、酸化ケイ素膜が存在する領域と窒化ケイ素膜が存在する領域は、隣接していても良く、隔離されていても良い。
【0052】
前記シリコン基板は、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層が、シリコン基板に直接積層されていてもよいし、絶縁膜や配線を形成するための導電膜等を介して積層されていてもよい。
【0053】
酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有する半導体ウェハは、半導体ウェハを、熱酸化、CVD(化学気相成長)、PVD(物理気相成長)等の成膜処理に付すことで製造することができる。
【0054】
前記保護膜は上述の表面処理剤の塗膜であり、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む。前記保護膜の厚みは、例えば1~200nmである。前記保護膜の厚みは、なかでも、窒化ケイ素膜のエッチングを高度に抑制して、エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]を向上する観点から、5~100nmが好ましく、特に5~30nmが好ましい。
【0055】
酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板の前記表面層に、上述の表面処理剤を塗布して、保護膜を形成する方法には、以下の方法が含まれる。
[1]酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を前記表面処理剤に浸漬する方法(すなわち、ディップ法)
[2]酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板の前記表面層上に前記表面処理剤を塗布する方法(すなわち、コーティング法)
【0056】
前記コーティング法[2]において、シリコン基板の表面層上に、前記表面処理剤を塗布する方法としては、例えば、回転塗布法(スピンコート)、スタンピング、ディスペンス、スキージ法、噴霧、刷毛塗り等が挙げられる。中でも、均一な保護膜が得られやすい点から、回転塗布法により塗布することが好ましい。
【0057】
前記ディップ法[1]又はコーティング法[2]により得られた塗膜は、そのまま保護膜として使用しても良いし、水洗処理を施しても良い。窒化ケイ素膜に付着した前記セルロース誘導体(c)又はその塩は水洗では除去されないが、酸化ケイ素膜に付着した前記セルロース誘導体(c)又はその塩は水洗により容易に除去されるため、水洗処理を施すことにより、[窒化ケイ素膜/酸化ケイ素膜]選択付着性を一層向上させることができる。
【0058】
更に、前記ディップ法[1]又はコーティング法[2]により得られた塗膜(=水分を含む塗膜)は、乾燥処理に付しても良い。乾燥処理により保護膜から水分を除去すると、窒化ケイ素膜と保護膜の密着性が向上して、エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]を更に向上することができる。
【0059】
前記乾燥処理方法としては、例えば、加熱乾燥法、通風乾燥法、減圧乾燥法、乾燥気体(例えば、窒素ガス等)を吹き付ける方法などが挙げられる。前記乾燥処理は、保護膜に含まれる水分が、保護膜全量の30重量%以下になるまで行うことが好ましく、15重量%以下となるまで行うことがより好ましく、5重量%以下になるまで行うのが特に好ましい。
【0060】
すなわち、前記工程1は、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板の前記表面層に、前記表面処理剤の塗膜を形成し、得られた塗膜に水洗処理を施し、更に乾燥処理を施して、前記表面層に前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む保護膜であって乾燥させたものを積層する工程であっても良い。
【0061】
前記セルロース誘導体(c)又はその塩は、[窒化ケイ素膜/酸化ケイ素膜]選択付着性に優れるため、本工程を経て、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板の窒化ケイ素膜が選択的に保護膜で被覆されてなる、保護膜付きのシリコン基板が得られる。
【0062】
(工程2)
工程2は、工程1を経て得られた保護膜付きシリコン基板を、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いたエッチング処理(=ウェットエッチング処理)に付す工程である。
【0063】
前記エッチング液としては、フッ酸(HF)、フッ化アンモニウム(NH4F)、フッ化水素アンモニウム、BHF(HFとNH4Fの混合物;バッファードフッ酸)、DHF(HFとH2Oの混合物)等から選択される少なくとも1種の酸性物質を含有する組成物を使用することが好ましい。
【0064】
前記エッチング液は、溶媒として水を含有することが好ましい。また、水と共に水溶性有機溶媒(例えば、ラクトン、多価アルコール等)を含有しても良い。
【0065】
前記エッチング液中の酸性物質の濃度は、例えば0.05~99重量%、好ましくは0.05~30重量%である。
【0066】
保護膜付きのシリコン基板のエッチング処理方法としては、特に制限がなく、例えば以下の方法が挙げられる。
[3]前記保護膜付きのシリコン基板を、前記エッチング液に浸漬する方法(すなわち、ディップ法)
[4]前記保護膜付きのシリコン基板の表面層上に、前記エッチング液を塗布する方法(すなわち、コーティング法)
【0067】
前記ディップ法[3]において、浸漬時間は例えば0.1~5分、好ましくは0.5~3分である。浸漬温度(例えば、浸漬時の前記エッチング液温度)は、例えば20~30℃である。
【0068】
前記ディップ法[3]によれば、前記エッチング液の使用量を抑制することができ、経済的である。また、スピーディーにエッチング処理を施すことができるので生産性が高い。
【0069】
前記コーティング法[4]において、前記保護膜付きのシリコン基板の表面層上に、前記エッチング液を塗布する方法としては、例えば、回転塗布法(スピンコート)、スタンピング、ディスペンス、スキージ法、噴霧、刷毛塗り等が挙げられる。
【0070】
前記コーティング法[4]によれば、前記エッチング液による不要な腐食が生じるのを抑制することができる。
【0071】
エッチングレートは、使用するエッチング液の酸性物質の種類や濃度に依存し、例えばエッチング液としてバッファードフッ酸(商品名「BHF110」、ダイキン工業(株)製)を使用する場合、本開示の方法による酸化ケイ素膜のエッチングレート、及び窒化ケイ素膜のエッチングレートは例えば下記の通りである。
前記酸化ケイ素膜エッチングレートは、例えば50nm/min以上であり、好ましくは60nm/min以上、特に好ましくは70nm/min以上である。前記エッチングレートの上限値は、例えば100nm/minである。
前記窒化ケイ素膜のエッチングレートは、例えば5nm/min以下、好ましくは3nm/min以下、特に好ましくは1nm/min以下、最も好ましくは0.1nm/min以下である。
【0072】
本開示の方法におけるエッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]は、例えば15以上、好ましくは200以上、特に好ましくは250以上、最も好ましくは300以上、とりわけ好ましくは400以上である。尚、前記エッチング選択比は、酸化ケイ素膜のエッチングレートと窒化ケイ素膜のエッチングレートの比[酸化ケイ素膜のエッチングレート/窒化ケイ素膜のエッチングレート]から算出される。
【0073】
本開示の方法によれば、保護膜で被覆することで窒化ケイ素膜のエッチングレートを顕著に低下させることができる。前記窒化ケイ素膜のエッチングレートは、保護膜を設けない以外は同じ条件でのエッチングレートの例えば25%以下、好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下である。すなわち、保護膜による窒化ケイ素膜のエッチングレート低下率は、例えば75%以上、好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
【0074】
また、本開示の方法によれば、保護膜を形成する工程を設けても、酸化ケイ素膜には保護膜が付着しないので、酸化ケイ素膜のエッチングレートは低下が抑制される。前記酸化ケイ素膜のエッチングレートは、保護膜を設けない以外は同じ条件でのエッチングレートの例えば80%以上、好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。すなわち、保護膜による酸化ケイ素膜のエッチングレートの低下率は、例えば20%以下、好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。
【0075】
本開示の方法によれば、保護膜を設けない以外は同様の方法でエッチング処理した場合に比べてエッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]が顕著に上昇し、その上昇割合は、例えば2倍以上、好ましくは3倍以上、更に好ましくは4倍以上、特に好ましくは5倍以上である。
【0076】
(工程3)
工程3は、エッチング処理後のシリコン基板を、洗浄剤を用いて洗浄して、保護膜を除去する工程である。
【0077】
窒化ケイ素膜を被覆する保護膜は、エッチング処理後も残存している場合が多く、このような場合には、残存している保護膜を、洗浄剤を用いて洗浄して除去することが好ましい。
【0078】
前記洗浄剤としては、少なくとも水(例えば、脱イオン水等)を含有することが好ましい。
【0079】
前記洗浄剤は、水以外にも他の成分を含有していても良く、例えば、塩基や酸を含有しても良い。塩基や酸は、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を溶解する作用を有するためである。
【0080】
前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基;テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、コリンなどの有機塩基;アンモニアなどが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0081】
前記酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、炭酸、酢酸、リン酸、王水、希フッ酸、硫酸過水、塩酸過水等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0082】
前記洗浄剤は、また、水以外に、シリコン基板の表面を酸化する作用を有する酸化剤を含有していても良い。前記洗浄剤が酸化剤を含有すれば、残存する保護膜が付着している窒化ケイ素膜は前記酸化剤によって酸化されて、その表面部分の少なくとも一部が酸化ケイ素膜化する。そして、前記セルロース誘導体(c)又はその塩は、酸化ケイ素膜には付着し難く、一旦付着しても容易に剥がれる性質を有するので、容易に除去できるようになる。
【0083】
前記酸化剤としては、例えば、過酸化物が挙げられる。前記過酸化物には、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、m-クロロ過安息香酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸等の有機過酸;過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸ナトリウム等の無機過酸化物が含まれる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
前記洗浄剤としては、水と、塩基又は酸と、前記酸化剤と、を含有するものであっても良く、例えば、アンモニア過水、硫酸過水、又は塩酸過水を含む水溶液であっても良い。
【0085】
前記洗浄剤における前記酸化剤の濃度は、例えば0.5~15重量%、好ましくは2~10重量%、特に好ましくは2~5重量%である。
【0086】
前記洗浄剤における前記塩基又は酸の濃度は、例えば0.5~15重量%、好ましくは2~10重量%、特に好ましくは2~5重量%である。
【0087】
前記洗浄剤が酸化剤と共に塩基又は酸を含有する場合、その含有割合[酸化剤/(塩基又は酸)](重量比)は、例えば90/10~10/90、好ましくは80/20~20/80、特に好ましくは30/70~70/30、最も好ましくは40/60~60/40である。
【0088】
前記洗浄剤のpHは、例えば4以下(例えば0~4)若しくは8以上(例えば8~14)であり、好ましくは3以下(例えば0~3)若しくは9以上(例えば9~14)、特に好ましくは2以下(例えば0~2)若しくは10以上(例えば10~14)、最も好ましくは1.5以下(例えば0~1.5)若しくは10以上(例えば10~14、好ましくは10~13)である。
【0089】
前記洗浄剤を、洗浄に用いる際の温度は特に制限がなく、例えば1~85℃である。前記洗浄剤は、加温により洗浄効果が向上する傾向がある。そのため、例えば20℃以上(好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上、最も好ましくは50℃以上)に加温して使用することが好ましい。尚、前記温度の上限値は、例えば85℃、好ましくは75℃である。
【0090】
前記洗浄剤を使用すれば、残存する保護膜を容易に除去することができ、保護膜を除去する際にエッチング処理された表面層が破損するのを防止できる。
【0091】
[半導体デバイスの製造方法]
本開示の半導体デバイスの製造方法は、上記エッチングされたシリコン基板の製造方法により、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層の、前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を得る工程を含む。
【0092】
前記工程で得られた、前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を、電極形成工程、ダイシング工程等に付すことで、半導体素子が得られ、得られた半導体素子を、更に、ワイヤボンディング工程、モールディング工程等の従来公知の半導体デバイスの製造工程に付すことで、半導体デバイスを製造することができる。
【0093】
本開示の方法で得られる半導体デバイスは、前記酸化ケイ素膜が極めて選択的にエッチング処理されることによって形成された高精度の配線パターンを有する半導体素子(例えば、半導体チップ)を備えるため、信頼性に優れる。
【0094】
半導体デバイスには、例えば、IC、LSI等の集積回路;レーザー、LED等の発光デバイス;太陽電池、光センサー、CMOSイメージセンサー等の受光デバイス;MEMS等の半導体センサー;メモリ、アナログIC、トランジスタ等が含まれる。
【0095】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0096】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0097】
実施例及び比較例で使用した水溶性高分子化合物、シリコン基板、及び洗浄剤は以下の通りである。
(水溶性高分子化合物)
・HEC25:ヒドロキシエチルセルロース(エーテル化度1.2~1.4、重量平均分子量25×104)
・HEC10:ヒドロキシエチルセルロース(エーテル化度1.2~1.4、重量平均分子量10×104)
・HEC4:ヒドロキシエチルセルロース(エーテル化度1.2~1.4、重量平均分子量4×104)
・PGL:ポリグリセリン(商品名「PGL XPW」、重量平均分子量3000、(株)ダイセル製)
・PEG1000:ポリエチレングリコール(商品名「PEG#1000」、重量平均分子量1000、日油(株)製)
・PEG4000:ポリエチレングリコール(商品名「PEG#4000」、重量平均分子量4000、日油(株)製)
・PVA:ポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノール KL-05」、日本合成化学工業(株)製)
・PVP:ポリビニルピロリドン(商品名「ポリビニルピロリドン K-30」、重量平均分子量40000、(株)日本触媒製)
(シリコン基板)
・SiO2/シリコン基板:熱酸化により成膜された、厚さ1.5μmのSiO2膜付きシリコン基板、商品名「Th-SiO2」、アドバンテック社製
・Si3N4/シリコン基板:PE-CVDにより成膜された、厚さ300nmのSi3N4膜付きシリコン基板、商品名「PE-SiN」、アドバンテック社製
(洗浄剤)
・SC-1:アンモニア過水の水溶液[NH4OH/H2O2/脱イオン水=1/1/5(重量比)]、pH10.6
・SC-2:塩酸過水の水溶液[HCl/H2O2/脱イオン水=1/1/6(重量比)]、pH1
・2.38%TMAH:2.38重量%テトラヒドロアンモニウムヒドロキシド水溶液、pH13.3
・15%TMAH:15重量%テトラヒドロアンモニウムヒドロキシド水溶液、pH13.6
・25%TMAH:25重量%テトラヒドロアンモニウムヒドロキシド水溶液、pH14
・3%HCl:3重量%塩酸水溶液、pH1.8
・DIW:脱イオン水、pH7.0
【0098】
調製例1
超純水100gに対し、0.2gのHEC25を配合し、ボールミルで終夜攪拌することによって、表面処理剤1を調製した。
【0099】
調製例2
HEC25の配合量を0.2gから0.5gに変更した以外は調製例1と同様にして、表面処理剤2を調製した。
【0100】
調製例3~4
HEC25に代えて、HEC10又はHEC4を使用した以外は調製例1と同様にして表面処理剤3~4を得た。
【0101】
比較調製例1~5
HEC25に代えて、PGL、PEG1000、PEG4000、PVA、又はPVPを使用した以外は調製例1と同様にして表面処理剤5~9を得た。
【0102】
実施例1A
(保護膜調製)
Si3N4/シリコン基板に、スピンコーター(ミカサ(株)製)を用いて、500rpm×5秒、1000rpm×5秒、1500rpm×30秒の条件で、表面処理剤1(1mL)をスピンコートし、その後、ホットプレートにて150℃で90秒間加熱処理を行った。
【0103】
(エッチング処理)
保護膜調製後の前記Si3N4/シリコン基板を、バッファードフッ酸(商品名「BHF110」、ダイキン工業(株)製)50mLに浸漬し、5分間静置した。
エッチング前後の膜厚を分光エリプソメータ(J.A woolom製、M-2000)を使用して測定し、窒化ケイ素膜のエッチングレート(nm/min)を算出した。
【0104】
実施例2A~4A、比較例1A~5A
表面処理剤1に代えて表面処理剤2~9に変更した以外は実施例1Aと同様に(保護膜調製)及び(エッチング処理)を行った。
【0105】
比較例6A
保護膜調製を行わなかった以外は実施例1Aと同様に行った。
【0106】
実施例1B~4B、比較例1B~6B
Si3N4/シリコン基板に代えて、SiO2/シリコン基板を使用した以外は、実施例1A~4A、比較例1A~6Aと同様に(保護膜調製)及び(エッチング処理)を行って、酸化ケイ素膜のエッチングレート(nm/min)を算出した。
【0107】
実施例1A,1B~4A,4B、比較例1A,1B~6A,6Bの結果から、エッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]、酸化ケイ素膜及び窒化ケイ素膜の、保護膜調製によるエッチングレート低下率を算出した。結果を下記表にまとめて示す。
【0108】
【0109】
上記表1から、酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む表面処理剤を塗布して、保護膜を設けてから、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いてエッチング処理すれば、酸化ケイ素膜のエッチング量を抑制することなく、窒化ケイ素膜のエッチング量を大幅に低下させることができ、これによりエッチング選択比[酸化ケイ素膜/窒化ケイ素膜]が顕著に向上することが分かる。
【0110】
また、上記表1から、前記セルロース誘導体(c)又はその塩の中でも、低分子量のものを選択して使用すると、エッチング選択比をより一層高める効果が得られることが分かる。
【0111】
実施例5A
(保護膜調製)
表面処理剤1に代えて、調製例4で得られた表面処理剤4を使用した以外は実施例1Aと同様に行った。
【0112】
(エッチング処理)
保護膜調製後の前記Si
3N
4/シリコン基板を、バッファードフッ酸(商品名「BHF110」、ダイキン工業(株)製)50mLに浸漬し、所定時間(1,3,5,又は10分間)静置した。
所定時間静置した後の窒化ケイ素膜の膜厚を測定して、窒化ケイ素膜のエッチング量(nm)を求めた。結果を
図1に示す。
【0113】
比較例7A
保護膜調製を行わなかった以外は実施例5Aと同様に行って、窒化ケイ素膜のエッチング量(nm)を求めた。結果を
図1に示す。
【0114】
実施例5B、比較例7B
保護膜調製においてSi
3N
4/シリコン基板に代えて、SiO
2/シリコン基板を使用し、エッチング処理において、静置時間を0.5分又は1分とした以外は、実施例5A、比較例7Aと同様に行って、酸化ケイ素膜のエッチング量(nm)を測定した。結果を
図2に示す。
【0115】
図1より、表面に保護膜が付着したSi
3N
4/シリコン基板は、表面に保護膜が付着していないSi
3N
4/シリコン基板に比べて、エッチング量が顕著に低下していること、経時でも、エッチングレートが一定に保持されていることから、保護膜が窒化ケイ素膜のエッチング量を抑制する効果を発揮していること、窒化ケイ素膜の表面には保護膜が存在しており、エッチング処理では失われないことが分かる。一方、酸化ケイ素膜の場合は、
図2より、保護処理していない基板とエッチング速度に変わりがないことから、酸化ケイ素膜上には保護膜は存在せず、保護膜調製により設けられた塗膜はエッチング処理工程で溶解し、喪失していることが示唆される。
【0116】
実施例6
(保護膜調製)
実施例5Aと同様の方法で保護膜を調製し、保護膜調製後のSi
3N
4/シリコン基板の窒化ケイ素膜をXPS(ULVAC PHI製、ESCA-5800)にて分析した。前記XPS測定結果を
図3に示す。
【0117】
(エッチング処理)
保護膜調製後の前記Si
3N
4/シリコン基板を、バッファードフッ酸(商品名「BHF110」、ダイキン工業(株)製)50mLに浸漬し、1分間静置した。そして、エッチング処理後の前記Si
3N
4/シリコン基板の窒化ケイ素膜をXPS(ULVAC PHI製、ESCA-5800)にて分析した。前記XPS測定結果を
図3、
図4、
図5に示す。
【0118】
(洗浄処理)
エッチング処理後の前記Si
3N
4/シリコン基板を、70℃に加温したSC-1(50mL)中に1分間浸漬し、次いで、脱イオン水50mL中に0.5分間浸漬した。その後、前記Si
3N
4/シリコン基板の窒化ケイ素膜をXPS(ULVAC PHI製、ESCA-5800)にて分析した。前記XPS測定結果を
図5に示す。
【0119】
比較例8
(エッチング処理)
Si
3N
4/シリコン基板を、保護膜調製を行うことなく、エッチング処理に付した以外は実施例6と同様にして、エッチング処理前後のXPS測定を行った。XPS測定結果を
図4にまとめて示す。
【0120】
図3、
図4より、エッチング処理前のSi
3N
4/シリコン基板では、286eVに一峰性のC1sピークが観測された。一方、エッチング処理後のSi
3N
4/シリコン基板では、286eV、及び284eVに、二峰性のC1sピークが観測された。
そして、284eVにピークをもつ吸収は、保護膜調製を行わなかったSi
3N
4/シリコン基板をエッチング処理に付した後にも観測されていることから、環境由来のコンタミネーションと推察される。また、286eVにピークを持つ吸収は保護膜に由来し、保護膜は、エッチング処理を経ても窒化膜表面に付着した状態が維持されていることが分かる。
【0121】
図5より、Si
3N
4/シリコン基板の洗浄処理前後で286eVのC1sピークに大きな変動が見られ、洗浄処理後の前記ピークは洗浄処理前に比べて顕著に低下している。このことから、洗浄処理により保護膜が除去されたことが分かる。
【0122】
実施例7
(保護膜調製)、(エッチング処理)
バッファードフッ酸への浸漬時間を1分から3分に変更した以外は実施例6と同様に行った。
【0123】
(洗浄処理)
エッチング処理後のSi3N4/シリコン基板を、70℃に加温したSC-1(50mL)中に1分間浸漬し、次いで、脱イオン水50mL中に0.5分間浸漬した。
【0124】
(保護膜除去性評価)
洗浄処理後のSi3N4/シリコン基板を、バッファードフッ酸(商品名「BHF110」、ダイキン工業(株)製)50mLに浸漬し、2分間静置した。静置後の窒化ケイ素膜の膜厚を測定して、窒化ケイ素膜のエッチング量(nm)を求め、エッチングレート(nm/min)を算出した。
【0125】
実施例8~16
洗浄処理において使用する洗浄剤及び洗浄温度を下記表2に記載の通り変更した以外は実施例7と同様に保護膜調製、エッチング処理、洗浄処理、及び保護膜除去性評価を行って、窒化ケイ素膜のエッチングレート(nm/min)を算出した。結果を下記表2に示す。
【0126】
参考例1
バッファードフッ酸への浸漬時間を1分から5分に変更した以外は実施例6と同様に保護膜調製、及びエッチング処理を行った。そして、エッチング処理後、窒化ケイ素膜の膜厚を測定して、窒化ケイ素膜のエッチング量(nm)を求め、エッチングレート(nm/min)を算出した。結果を下記表2に示す。
【0127】
【0128】
上記表2から、参考例1に比べて実施例のエッチングレートが上昇していることから、洗浄処理により保護膜を除去できることが分かる。
そして、洗浄剤として、酸又は塩基を単独で、若しくは酸又は塩基と、酸化剤とを組み合わせて使用すると、洗浄効率が向上することが分かる。そして、前記洗浄剤を加温して使用するとより一層洗浄効果が向上することが分かる。
【0129】
上記表1、表2から、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む表面処理剤で処理された窒化ケイ素膜は、バッファードフッ酸による腐食が顕著に抑制されるのに対し、前記表面処理剤で処理された酸化ケイ素膜は、バッファードフッ酸による酸化ケイ素膜の腐食がほとんど抑制されないこと、前記セルロース誘導体(c)又はその塩を含む表面処理剤で処理された窒化ケイ素膜であっても、洗浄後にはバッファードフッ酸による腐食速度が急激に上昇することから、前記セルロース誘導体(c)又はその塩は、窒化ケイ素膜に強固に付着して、バッファードフッ酸による腐食を抑制する効果を示す保護膜を形成すること、一方、酸化ケイ素膜には付着し難く、付着しても容易に除去されることが分かる。
【0130】
以上のまとめとして、本開示の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] 窒化ケイ素膜に対して酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング選択性を付与する表面処理剤であって、下記式(c)で表される構成単位を有するセルロース誘導体又はその塩を含む表面処理剤。
[2] 前記式(c)中の3つのRのうち、少なくとも1つはヒドロキシアルキル基である、[1]に記載の表面処理剤。
[3] 酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板を、下記工程に付して、前記酸化ケイ素膜が選択的にエッチングされたシリコン基板を得る、エッチングされたシリコン基板の製造方法。
工程1:酸化ケイ素膜と窒化ケイ素膜を含む表面層を有するシリコン基板に、請求項1又は2に記載の表面処理剤を塗布して、保護膜付きシリコン基板を得る
工程2:保護膜付きシリコン基板を、酸化ケイ素膜を選択的にエッチングするエッチング液を用いてエッチング処理する
[4] 下記工程を有する、[3]に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
工程3:エッチング処理後のシリコン基板を、洗浄剤を用いて洗浄し、保護膜を除去する
[5] 前記洗浄剤は、シリコン基板の表面を酸化する作用を有する酸化剤を含む、[4]に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
[6] 前記洗浄剤は過酸化物を含む、[4]に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。
[7] 前記洗浄剤は、アンモニア過水、硫酸過水、及び塩酸過水から選択される少なくとも1種を含む、[4]に記載のエッチングされたシリコン基板の製造方法。