(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084494
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】SiCウエハ研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 1/04 20060101AFI20240618BHJP
B24D 3/18 20060101ALI20240618BHJP
B24B 7/04 20060101ALI20240618BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
B24B1/04 C
B24D3/18
B24B7/04 A
H01L21/304 622F
H01L21/304 622R
H01L21/304 622W
H01L21/304 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198794
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(71)【出願人】
【識別番号】591043721
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトグラインディングツール
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池永 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】水谷 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】武地 満博
(72)【発明者】
【氏名】小倉 良延
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 耕太
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 孝志
(72)【発明者】
【氏名】都築 大士
【テーマコード(参考)】
3C043
3C049
3C063
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA09
3C043CC04
3C043DD06
3C049AA04
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3C063BC05
3C063BC09
3C063CC13
3C063EE10
3C063EE15
3C063EE40
3C063FF30
5F057AA24
5F057AA25
5F057AA31
5F057BA12
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5F057GA01
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5F057GA27
5F057GB02
5F057GB25
5F057GB26
(57)【要約】
【課題】SiCウエハを研削加工する際に砥石部の切れ味の低下を抑制するとともに砥石部の長寿命化が図られるSiCウエハ研削装置を提供する。
【解決手段】SiCウエハの表面を研削加工するSiCウエハ研削装置1であって、ワークWとしてのSiCウエハを保持するワーク保持部2と、有気孔組織を含む砥石部32を有する砥石ホイール3と、砥石ホイール3を軸回転して砥石部32によりワークWを研削加工する砥石ホイール駆動装置34と、砥石部32に超音波を付与して軸方向に砥石部32を加振する超音波加振装置4と、超音波加振装置4の動作を制御して研削加工中に、砥石部32を加振して砥粒の自生発刃を促す自生発刃促進モードと、砥石部32の加振を停止、又は自生発刃促進モードよりも砥石部32の加振を低減することによって自生発刃促進モードよりも砥石部32の摩耗を抑制する摩耗抑制モードとを切り替える加工モード切替部522とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiCウエハの表面を研削加工するためのSiCウエハ研削装置であって、
上記SiCウエハとしてのワークを保持するワーク保持部と、
基台の端部に有気孔組織を有するボンドにより複数の砥粒を互いに結合して形成された砥石部を有する砥石ホイールと、
上記砥石ホイールを上記基台の端部に垂直な砥石主軸を中心に軸回転して、上記砥石部により上記ワーク保持部に保持された上記ワークの表面を研削加工する砥石ホイール駆動装置と、
上記砥石部に超音波を付与して上記砥石主軸の軸方向に上記砥石部を加振する超音波加振装置と、
上記超音波加振装置の動作を制御することにより、上記ワークの研削加工中に、上記砥石部を加振して上記砥粒の自生発刃を促す自生発刃促進モードと、上記砥石部の加振を停止、又は上記自生発刃促進モードよりも上記砥石部の加振を低減することによって上記自生発刃促進モードよりも上記砥石部の摩耗を抑制する摩耗抑制モードとの切り替えを行う加工モード切替部とを備えるSiCウエハ研削装置。
【請求項2】
上記摩耗抑制モードでは、上記超音波加振装置による上記砥石部への超音波の付与を停止することにより上記砥石部の加振を停止する、請求項1に記載のSiCウエハ研削装置。
【請求項3】
上記摩耗抑制モードでは、上記超音波加振装置により上記砥石部に付与される超音波の振幅を、上記自生発刃促進モードにおいて上記超音波加振装置により上記砥石部に付与される超音波の振幅よりも小さくすることにより、上記自生発刃促進モードよりも上記砥石部の加振を低減する、請求項1に記載のSiCウエハ研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCウエハ研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCウエハはSiウエハなどに比べて硬度及び脆性が高いため、SiCウエハの研削加工を行うと、砥石の表層に位置する砥粒が摩滅して平坦化することにより砥石の切れ味が低下し、研削加工に長時間を要する。そこで、特許文献1や特許文献2に開示の構成では、超音波加振装置により研削加工中の砥石に超音波を付与して砥石を加振することにより、砥石表層の平坦化した砥粒とワーク(SiCウエハ)の表面との微細な衝突により砥粒の先端に微小粉砕を生じさせるとともに、砥石表層の砥粒の間のボンドが微細に削られて後退することで当該砥粒の自生発刃を促進している。これにより、砥粒の摩滅による砥石の切れ味の低下を抑制して、研削加工時間の短縮化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-100557号公報
【特許文献2】特開2021-160068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示の構成では、研削加工中に超音波による砥石の加振を継続して行う構成となっているため、砥粒の自生発刃とともに砥石自体の摩耗が促進され、砥石の寿命が短くなるおそれがある。このことは、高硬度のSiCウエハの研削加工において特に顕著となる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、SiCウエハを研削加工する際に砥石部の切れ味の低下を抑制するとともに砥石部の長寿命化が図られるSiCウエハ研削装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、SiCウエハの表面を研削加工するためのSiCウエハ研削装置であって、
ワークとして上記SiCウエハを保持するワーク保持部と、
基台の上記ワーク保持部側の端部に、有気孔組織を形成するボンドにより複数の砥粒を互いに結合して形成された砥石部を有する砥石ホイールと、
上記砥石ホイールを上記基台の端部に垂直な砥石主軸を中心に軸回転して、上記砥石部により上記ワーク保持部に保持された上記ワークの表面を研削加工する砥石ホイール駆動装置と、
上記砥石部に超音波を付与して上記砥石主軸の軸方向に上記砥石部を加振する超音波加振装置と、
上記超音波加振装置の動作を制御することにより、上記ワークの研削加工中に、上記砥石部を加振して上記砥粒の自生発刃を促す自生発刃促進モードと、上記砥石部の加振を停止、又は上記自生発刃促進モードよりも上記砥石部の加振を低減することによって上記自生発刃促進モードよりも上記砥石部の摩耗を抑制する摩耗抑制モードとの切り替えを行う加工モード切替制御部とを備えるSiCウエハ研削装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記一態様によれば、超音波加振装置により砥石部を加振する構成において、SiCウエハのワークの研削加工中に砥石部を加振して砥粒の自生発刃を促す自生発刃促進モードと、砥石部の加振を停止、又は自生発刃促進モードよりも砥石部の加振を低減することによって自生発刃促進モードよりも砥石部の摩耗を抑制する摩耗抑制モードとの切り替えを行うように構成されている。これにより、砥粒の自生発刃を促進して砥石部の切れ味の低下を抑制するとともに、SiCウエハのワークの研削加工中に超音波による砥石部の加振を継続して行う構成に比べて砥石部の摩耗を抑制して砥石部の長寿命化を図ることができる。
【0008】
以上のごとく、上記一態様によれば、SiCウエハを研削加工する際に砥石部の切れ味の低下を抑制するとともに砥石部の長寿命化が図られるSiCウエハ研削装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1における、SiCウエハ研削装置の構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、SiCウエハ研削装置の概要構成を示す機能ブロック図。
【
図3】実施形態1における、(a)砥石ホイールの側面図、(b)砥石ホイールの底面図。
【
図4】実施形態1における、(a)初期状態、(b)摩滅発生状態、(c)自生発刃状態のそれぞれにおける砥石部表面の断面拡大概念図。
【
図6】実施形態1における、(a)自生発刃促進モード、(b)摩耗抑制モードのそれぞれにおける砥石主軸のモータ電力値の時間変化を示す図。
【
図7】実施形態1における、(a)超音波振幅A1、(b)超音波振幅A2のそれぞれの超音波を付与したときの砥石主軸のモータ電力値の時間変化を示す図。
【
図8】実施形態1の研削加工における、(a)砥石主軸のモータ電力値、(b)加工モード、(c)超音波の付与、(d)超音波の振幅のそれぞれのタイムチャートを示す図。
【
図9】実施形態1の他の研削加工における、(a)砥石主軸のモータ電力値、(b)加工モード、(c)超音波の付与、(d)超音波の振幅のそれぞれのタイムチャートを示す図。
【
図10】実施形態1における、砥石状態評価及び加工条件最適化の処理のフロー図。
【
図11】実施形態2における、SiCウエハ研削装置の概要構成を示す機能ブロック図。
【
図12】実施形態3における、SiCウエハ研削装置の構成を示す概念図。
【
図13】実施形態3における、砥石情報取得部の取得情報の例を示す図。
【
図14】実施形態3における、砥石状態評価部による解析結果として、(a)砥粒面積、(b)砥粒数の例を示す図。
【
図15】実施形態3における、砥石状態評価部による解析結果として、(a)砥粒の自生発刃状態、(b)砥粒の摩滅状態のそれぞれを示す表面性状の例を示す図。
【
図16】実施形態4における、砥粒の進入角を説明するための(a)超音波加振なし、(b)超音波加振ありのそれぞれの状態の概念図。
【
図17】実施形態4における、(a)超音波振幅A1、(b)超音波振幅A2のそれぞれの超音波を付与したときの切込深さ方向の砥粒先端位置の時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
1.SiCウエハ研削装置1の構成
本実施形態1におけるSiCウエハ研削装置1について
図1~
図10を参照して説明する。SiCウエハ研削装置1はワークWとしてのSiCウエハの平面部の表面を研削する。本実施形態1のSiCウエハ研削装置1は、
図2に示すように、チャックテーブル2、砥石ホイール3、超音波加振装置4、処理部5を備える。
【0011】
2.チャックテーブル2(ワーク保持部)
チャックテーブル2は、
図1に示すように上部にワークWが装着されるチャック手段21を有し、SiCウエハのワークWを保持するワーク保持部として機能する。チャック手段21は吸着式その他の適宜手段により構成されており、その上面にワークWを着脱自在に装着するようになっている。チャックテーブル2は、チャック手段21の上面に装着されたワークWと略同心状に、矢印A1で示す周方向又は矢印A2で示す反対の周方向に回転可能となっている。チャックテーブル2は、モータを備えるチャックテーブル駆動装置22に接続されており、チャックテーブル駆動装置22により回転駆動する。チャックテーブル駆動装置22の動作は後述する制御装置52により制御される。
【0012】
3.砥石ホイール3
砥石ホイール3は、チャックテーブル2の上側に位置しており、チャックテーブル2に保持されたワークWの上面を研削加工する工具として機能する。本実施形態1では、チャックテーブル2及び砥石ホイール3が縦軸廻りに回転する縦型の平面研削盤を例示しているが、チャックテーブル2等が傾斜軸廻りに回転する傾斜式でもよい。
【0013】
砥石ホイール3は、基台31、砥石部32、砥石主軸33を備える。基台31は砥石主軸33の下端に設けられている。基台31は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように円盤状をなしており、チャックテーブル2側の端部31aが略平坦面となっている。そして、砥石部32は、基台31の端部31aに設けられている。砥石部32は複数設けられて、
図3(b)に示すように端部31aにおいて外縁に沿って周方向に配列している。砥石主軸33は、
図3(a)に示すように端部31aに垂直に設けられているとともに、
図1に示すように、モータを備えた砥石ホイール駆動装置34に接続されて回転駆動し、砥石ホイール3の回転軸を構成する。なお、砥石主軸33は図示しない主軸台に支持されている。
【0014】
砥石ホイール駆動装置34は、砥石ホイール3を回転駆動するとともに、砥石主軸33を支持する主軸台をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能に構成されている。砥石ホイール駆動装置34の動作は、後述する制御装置52により制御される。本実施形態1では、砥石ホイール駆動装置34により、砥石ホイール3は砥石主軸33の軸線がチャックテーブル2の軸線に対して偏心した位置に位置するように駆動される。
【0015】
図4(a)に示すように、砥石部32は、有気孔組織322を形成するボンドにより複数の砥粒321が固定されて構成された有気孔砥石である。砥粒321にはダイヤモンドやCBNなどの超砥粒が採用される。ボンドには、ビトリファイド(V)、レジノイド(B)、ラバー(R)、シリケート(S)、シェラック(E)、メタル(M)、電着(P)、マグネシアセメント(Mg)などが採用される。ボンドにより形成される有気孔組織322における気孔323は、自然気孔と発泡剤からなる気孔形成剤により形成された気孔とを含んでいてよい。なお、砥石部32における気孔率は限定されないが、例えば、10~90体積%、30~90体積%、60~90体積%とすることができる。砥石部32は気孔323を有することにより、弾性変形可能となっている。なお、砥石部32における弾性率は、砥石部32におけるボンドの種類や気孔率などによって異なり、適宜設定することができる。
【0016】
なお、図示しないがSiCウエハ研削装置1には、クーラントノズルから砥石ホイール3によるワークWの研削点にクーラントを供給するクーラント装置が備えられている。クーラント装置は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。クーラント装置は、クーラントの流量や供給タイミングの調整が可能となっている。また、図示しないがSiCウエハ研削装置1は、ワークWの厚さを検出する定寸装置を備えていてもよい。定寸装置により加工中のワークWの厚さの変化を取得することができる。定寸装置の構成は限定されず、既知の構成を採用することができる。
【0017】
4.超音波加振装置4
図5に示すように、砥石部32には、砥石部32に超音波を付与して砥石部32を加振する超音波加振装置4が設けられている。超音波加振装置4の構成は限定されないが、本実施形態1では、電圧を加えると伸縮する圧電素子41を多層積層することによって形成された積層型の圧電アクチュエータからなる。超音波加振装置4は高周波電源35に接続されており、高周波電源35から高周波電圧が印加されることによって圧電素子41の積層方向に超音波振動するように形成されている。なお、本実施形態1では、各砥石部32に、
図5に示すように圧電素子41からなる圧電アクチュエータを設けて各砥石部32を個別に振動させる形態としたが、これに限らず、砥石部32に振動を加えることができる他の形態であってもよい。例えば、砥石主軸33に圧電アクチュエータを設けて基台31を介して間接的に複数の砥石部32を一括して振動させる形態であってもよい。
【0018】
超音波加振装置4は、圧電素子41の積層方向と、
図1に示す砥石主軸33の軸方向Zとが一致するように、基台31の端部31aに設けられた凹部31bに収納されている。そして、砥石部32の上端部が凹部31b内に入り込むとともに、凹部31bの壁面と砥石部32の上端部との間には弾性支持部材31cが介在している。これにより、超音波加振装置4により砥石部32に超音波が付与され、砥石部32は砥石主軸33の軸方向Zに加振されることとなる。
【0019】
超音波加振装置4の動作制御、例えば、超音波加振装置4による超音波の出力のオンオフや超音波の振幅の調整などは、後述の制御装置52により行うことができる。また、超音波加振装置4により砥石部32に付与される超音波の周波数は、砥石部32に加振力が付与されるのに適した周波数が選択される。なお、当該周波数は砥石ホイール3を含む装置全体の構成に応じて決定することができる。
【0020】
5.処理部5
処理部5は、図示しない演算装置と記憶装置とにより構成され、後述する処理を行う処理装置51と、チャックテーブル駆動装置22、砥石ホイール駆動装置34及び高周波電源35を制御する制御装置52とを備える。
【0021】
5-1.処理装置51
処理装置51は、チャックテーブル駆動装置22及び砥石ホイール駆動装置34とは独立したシミュレーション装置として機能させることもできるし、チャックテーブル駆動装置22、砥石ホイール駆動装置34及び高周波電源35と連動して動作するシミュレーション装置として機能させることもできる。前者の場合には、処理装置51は、例えば、実際のワークWの研削加工を行うことなく、最適な加工条件を決定することができる。後者の場合には、処理装置51は、チャックテーブル駆動装置22、砥石ホイール駆動装置34及び高周波電源35によるワークWの研削加工と並行して処理することにより、例えば、加工条件を調整したり、各種制御に影響を及ぼすように動作したりすることができる。
【0022】
そして、処理装置51は、
図2に示すように、砥石情報取得部511、基準値記憶部512、砥石状態評価部513、評価結果表示部514、加工条件調整部515を備える。
【0023】
砥石情報取得部511は、砥石ホイール3に関する情報を取得する。砥石ホイール3に関する情報は、SiCウエハ研削装置1において研削加工中に変化する砥石ホイール3に関係する機械的情報であって、本実施形態1では、砥石ホイール3の砥石主軸33を回転駆動する砥石ホイール駆動装置34のモータ電力値としている。砥石ホイール駆動装置34のモータ電力値は、研削加工中の砥石ホイール3におけるワークWの研削抵抗と正の線形関係を示す。
【0024】
基準値記憶部512は、予め設定された砥石ホイール3に関する情報の基準値を記憶する。当該基準値は、後述の砥石状態評価部513において、砥石部32の切れ味を評価する際に用いる。本実施形態1では、砥石部32の切れ味が良い状態から悪い状態に変化したときの砥石ホイール駆動装置34のモータ電力値を予め取得して、当該モータ電力値を基準値Paとして基準値記憶部512に記憶する。当該基準値Paは、砥石部32の構成や加工条件に応じて変更することができ、砥石部32の構成や加工条件に応じた複数基準値を記憶していてもよい。
【0025】
砥石状態評価部513は、砥石情報取得部511により取得された上記情報に基づいて砥石部32の砥石状態を評価する。砥石状態は少なくとも砥石部32の切れ味を含み、その他、砥石部32の砥粒321の自生発刃の進行状態などを含んでいてもよい。例えば、
図6(a)に示すように、砥石情報取得部511により取得された砥石主軸33のモータ電力値が、基準値Paを超えない状態では砥石部32の切れ味は良いと評価する。一方、
図6(b)に示すように、砥石情報取得部511により取得された砥石主軸33のモータ電力値が、基準値Paを超える状態では砥石部32の切れ味が悪いと評価する。
【0026】
図6(a)及び
図6(b)において、時刻T0において砥石ホイール3の回転を開始し、この時点では砥石部32はワークWの表面に接触していない。その後、砥石ホイール3がワークWに近接するように移動して、時刻T1において砥石部32がワークWの表面に接触し、ワークWの表面の研削加工が開始される。これに伴って、砥石主軸33のモータ電力値が徐々に上昇し、
図6(a)では時刻T2以降において、砥石主軸33のモータ電力値は安定し、砥石部32の切れ味が良いと評価することができる。一方、
図6(b)では、時刻T3から砥石主軸33のモータ電力値は急激に上昇したことにより、砥粒321の摩滅が発生し始めて砥石部32の研削抵抗が増している。そして、時刻T4以降においてはモータ電力値が基準値Paを超えていることから砥石部32の切れ味は悪いと評価することができる。
【0027】
評価結果表示部514は、砥石状態評価部513の評価結果を表示することができる。これにより、ユーザが砥石状態評価部513の評価結果を容易に確認することができる。
【0028】
加工条件調整部515は、砥石状態評価部513の評価結果に基づいて、ワークWの加工条件を調整する。例えば、
図6(a)に示すように、砥石部32の切れ味が良いとの評価結果である場合には、超音波加振装置4により付与される超音波の振幅や付与時間を低減して砥石部32の摩耗を抑制するように加工条件を調整することができる。
【0029】
一方、
図6(b)に示すように、砥石部32の切れ味が悪いとの評価結果である場合には、超音波加振装置4により付与される超音波の振幅や付与時間を増加して砥石部32の砥粒の自生発刃を促進して砥石部32の切れ味を回復するように加工条件を調整することができる。
【0030】
5-2.制御装置52
制御装置52は、駆動装置制御部521、加工モード切替部522を有する。駆動装置制御部521は、加工条件調整部515により作成された加工条件に基づく動作指令データに基づいてチャックテーブル駆動装置22及び砥石ホイール駆動装置34の動作を制御することにより、ワークWの研削加工を制御する。
【0031】
加工モード切替部522は、高周波電源35の動作を制御することにより、ワークWの加工モードを切り替える。加工モードは、例えば、超音波加振装置4による砥石部32への超音波の付与により砥石部32を加振して砥粒321の自生発刃を促す自生発刃促進モード、砥石部32の加振を停止し又は自生発刃促進モードよりも砥石部32の加振を低減することによって自生発刃促進モードよりも砥石部32の摩耗を抑制する摩耗抑制モードを含むことができる。なお、加工モードはさらに他の加工モードを含んでいてもよい。
【0032】
自生発刃促進モードでは、上述のように、ワークWの研削加工中に超音波加振装置4によって砥石部32へ超音波を付与する。これにより、砥石部32は、
図1及び
図3(a)に示すZ方向に加振することとなる。その結果、砥石部32の表層に位置する砥粒321とワークWの表面との間に微細な衝突が生じ、加工が進行していくと、
図4(b)に示すように、摩滅して平坦化した砥粒321に負荷がかかることで、
図4(c)に示すように、表層の砥粒321が脱落し、埋没していた砥粒321が表層に露出することで自生発刃が促進される。さらに、砥石部32の表層の砥粒321の間のボンドからなる有気孔組織322が微細に削られることによって有気孔組織322の表面が符号322aで示す位置から符号322bで示す位置に後退して砥粒321がワークWに向けて突出した状態となり突き出し高さが維持される。研削加工中はこのサイクルが繰り返し行われる。なお、砥石部32の表層に位置する砥粒321とワークWの表面との間の微細な衝突により砥粒321の先端が微小粉砕して尖鋭化することで、平坦化した砥粒321自身の自生発刃が促されることもある。
【0033】
砥石部32に付与される超音波の振幅と砥粒321の自生発刃の進行度とは正の線形関係を有する。例えば、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、超音波の振幅AをA1、A2(ただし、A1<A2)とした例では、
図7(a)に示すように、小さい振幅A1を有する超音波を付与した場合は、砥石主軸33のモータ電力値が時刻T5において基準値Paを超えており、砥粒321の摩滅が進行して自生発刃が十分に行われていないと評価できる。一方、
図7(b)に示すように、大きい振幅A2を有する超音波を付与した場合には、時刻T5においても砥石主軸33のモータ電力値は基準値Paに到達せず、以降は安定した値となっており、砥粒321の摩滅が抑制されて自生発刃が促進されていると評価できる。なお、砥石部32に付与される超音波の振幅Aの大きさが砥粒321の自生発刃の進行度に与える影響度は、砥石部32の構成(砥粒321や有気孔組織322の材質、有気孔組織322の気孔率など)によって異なる。
【0034】
また、砥石部32に付与される超音波の付与時間と砥粒321の自生発刃の進行度とは正の線形関係を有するため、超音波の付与時間が長くなると砥粒321の自生発刃の進行度も高くなる。一方、砥石部32に付与される超音波の付与時間が長くなると、砥石部32において砥粒321の脱落と有気孔組織322の後退が促進され、砥石部32自体の摩耗も進行しやすくなる。そのため、砥石部32への超音波の付与を停止することで、砥石部32の摩耗を抑制することができる。また、砥石部32への超音波の付与を停止することに替えて砥石部32への超音波の振幅Aを小さくすることでも、砥石部32の摩耗を抑制することができる。
【0035】
従って、摩耗抑制モードでは、砥石部32への超音波の付与を停止、又は自生発刃促進モードよりも砥石部32の加振を低減することによって砥石部32自体の摩耗の進行を自生発刃促進モードよりも抑制することができる。なお、摩耗抑制モードでは、自生発刃促進モードよりも砥粒321の自生発刃は抑制されることとなる。
【0036】
本実施形態1では、加工モード切替部522は、砥石状態評価部513の評価結果に基づいて加工モードの切り替えを行うことができる。例えば、
図8(a)~
図8(d)に示すように、研削加工開始時は超音波の付与を停止して摩耗抑制モードMaとし、砥石状態評価部513により研削加工中に砥石主軸33のモータ電力値が基準値Paに到達したと判断されたとき、超音波の付与を開始して自生発刃促進モードMbとすることができる。その後、自生発刃促進モードMbを所定時間維持した後、超音波の付与を停止して摩耗抑制モードMaに戻し、このサイクルを繰り返すようにすることができる。これにより、自生発刃促進モードMbにおいて砥粒321の自生発刃の促進を図ることができるとともに、摩耗抑制モードMaに切り替えることにより、自生発刃促進モードMbを維持し続ける場合に比べて砥石部32の摩耗抑制を図ることができ、砥石部32の長寿命化を図ることができる。
【0037】
なお、
図8(a)~
図8(d)に示す例では、摩耗抑制モードMaにおいて砥石部32への超音波の付与を停止し、自生発刃促進モードMbにおいて砥石部32への超音波の付与を実施してすることとしたが、これに替えて、
図9(a)~
図9(d)に示す例のように、砥石部32へ付与する超音波の振幅Aを変更することにより、摩耗抑制モードMaと自生発刃促進モードMbとを切り替えるようにしてもよい。
図9(a)~
図9(d)に示す例では、研削加工中は砥石部32への超音波の付与を常時行うものとしたうえで、摩耗抑制モードMaにおける超音波の振幅AをA1とし、自生発刃促進モードMbにおける超音波の振幅AをA1よりも大きいA2とする。
【0038】
6.砥石状態評価及び加工条件最適化の処理
次に、本実施形態1のSiCウエハ研削装置1における砥石状態評価及び加工条件最適化の処理について、
図10のフロー図を参照して説明する。まず、当該フローでは、ステップS1において準備工程として、SiCウエハからなるワークWをチャックテーブル2に装着する。そして、制御装置52において、加工モード切替部522により初期の加工条件に基づいて加工モードを超音波の付与を行わない摩耗抑制モードMaに設定し、高周波電源35の出力を停止状態とする。
【0039】
その後、ステップS2において、駆動装置制御部521により、砥石ホイール駆動装置34及びチャックテーブル駆動装置22を駆動し、チャックテーブル2に装着されたワークWの研削加工を開始する。そして、ステップS3において、砥石情報取得部511により、砥石主軸33のモータ電力値Pを取得する。
【0040】
次いで、ステップS4において、砥石状態評価部513により、砥石主軸33のモータ電力値Pと、基準値記憶部512に記憶された基準値Paとを比較し、P>Paであるか否かを判定する。ステップS4において、P>Paでないと判定された場合は、ステップS4のNoに進み、ステップS5において、砥石状態評価部513により、砥石部32の切れ味が良いと評価するとともに砥粒321の自生発刃の進行度が高いと評価し、当該評価結果を評価結果表示部514に表示する。
【0041】
その後、ステップS6において研削終了時刻が到来したか否か判定する。ステップS6において研削終了時刻が到来していないと判定された場合は、ステップS6のNoに進み、再度ステップS2以降を実施し、ステップS6において研削終了時刻が到来したと判定された場合は当該フローを終了する。
【0042】
一方、ステップS4において、P>Paであると判定された場合は、ステップS4のYesに進み、ステップS7において、砥石状態評価部513により、砥石部32の切れ味が悪いと判定するとともに砥粒321の自生発刃の進行度が低いと判定して、ステップS8に進む。ステップS8では、加工条件調整部515によって、砥石部32の切れ味を向上させ、砥粒321の自生発刃の進行を促進させるように加工条件を調整する。本実施形態1では、
図8(a)~
図8(d)に示すように、砥石部32への超音波の付与のオンオフを切り替えることにより加工モードの切り替えを行うように加工条件を調整する。
【0043】
その後、ステップS9において、加工モード切替部522により、加工条件に応じて加工モードを摩耗抑制モードMaから自生発刃促進モードMbに切り替えて、ステップS10において、高周波電源35の出力を開始して超音波加振装置4により砥石部32に超音波を付与して加振を行う。そして、ステップS6に進み、研削終了時刻が到来していないと判定された場合は、ステップS6のNoに進んで再度ステップS2以降を実施し、ステップS6において研削終了時刻が到来したと判定された場合は当該フローを終了する。
【0044】
図10に示すフローにより、砥石部32の砥石状態の評価することができるとともに、砥石部32の切れ味が良く、砥粒321の自生発刃の進行度が高い状態となる加工条件に調整することができ、加工条件の最適化を図ることができる。そして、自生発刃促進モードMbと摩耗抑制モードMaとを切り替えることにより、自生発刃促進モードMbを継続して行う場合に比べて、砥石部32の摩耗が抑制され、砥石部32の長寿命化を図ることができる。
【0045】
なお、当該フローでは、
図8(a)~
図8(d)に示すように、砥石部32への超音波の付与のオンオフを切り替えることにより加工モードの切り替えを行ったが、これに替えて、
図9(a)~
図9(d)に示すように、砥石部32へ付与する超音波の振幅Aの大きさを変更することにより加工モードの切り替えを行ってもよい。
【0046】
7.作用効果
本実施形態1におけるSiCウエハ研削装置1における作用効果について以下に説明する。本実施形態1におけるSiCウエハ研削装置1によれば、超音波加振装置4により砥石部32を加振する構成において、SiCウエハのワークWの研削加工中に砥石部32を加振して砥粒321の自生発刃を促す自生発刃促進モードMbと、砥石部32の加振を停止、又は自生発刃促進モードMbよりも砥石部32の加振を低減することによって自生発刃促進モードMbよりも砥石部32の摩耗を抑制する摩耗抑制モードMaとの切り替えを行うように構成されている。これにより、砥粒321の自生発刃を促進して砥石部32の切れ味の低下を抑制するとともに、SiCウエハのワークWの研削加工中に超音波による砥石部32の加振を継続して行う構成に比べて砥石部32の摩耗を抑制して砥石部32の長寿命化を図ることができる。
【0047】
また、本実施形態1の
図8に示す研削加工において、摩耗抑制モードMaでは、超音波加振装置4による砥石部32への超音波の付与を停止することにより砥石部32の加振を停止する。これにより、摩耗抑制モードMaにおいて、砥石部32の加振が停止されることにより、砥石部32の摩耗を一層抑制することができる。
【0048】
また、本実施形態1の
図9に示す他の研削加工において、摩耗抑制モードMaでは、超音波加振装置4により砥石部32に付与される超音波の振幅Aを、自生発刃促進モードMbにおいて超音波加振装置4により砥石部32に付与される超音波の振幅Aよりも小さくすることにより、自生発刃促進モードMbよりも砥石部32の加振を低減する。これにより、超音波加振装置4による超音波を停止することなく、超音波の振幅の変更のみで摩耗抑制モードMaと自生発刃促進モードMbとを切り替えできるため、加工モードの切替制御が容易となる。
【0049】
そして、本実施形態1では、ワークWとしてSiCウエハを用いている。SiCウエハは硬度及び脆性が高く、従来構成では砥粒の摩滅が生じて研削加工に長時間を要したり砥石が早期に摩耗したりすることから研削加工が困難であったが、本実施形態1のSiCウエハ研削装置1により上述の通り、砥粒321の自生発刃の促進と砥石部32の摩耗抑制との両立が図られることにより、SiCウエハの研削加工を良好に行うことができる。
【0050】
なお、本実施形態1では、基準値記憶部512は、砥石部32の切れ味が良い状態から悪い状態に変化したときの砥石ホイール駆動装置34における砥石主軸33のモータ電力値を基準値Paとして記憶するものとしたが、基準値記憶部512は基準値Paとともに砥石主軸33のモータ電力値の上限波形と下限波形を記憶し、加工条件調整部515は砥石主軸33のモータ電力値が当該上限波形と下限波形の範囲内に収まるように加工条件を調整してもよい。
【0051】
また、基準値記憶部512は、砥石主軸33のモータ電力値の微分値が連続して正の値(又は所定の正の値以上)となる所定時間を基準値として記憶しており、砥石状態評価部513は、砥石情報取得部511により取得された砥石主軸33のモータ電力値の微分値の時間変化と上記基準値を比較して、当該微分値が上記基準値を上回る時間連続して正の値(又は所定の正の値以上)となったときに、砥石主軸33のモータ電力値が連続して上昇する傾向があると判定して、砥石部32の切れ味が悪くなりつつあると評価してもよい。そして、加工条件調整部515は、砥石部32の切れ味が悪くなりつつあると評価された場合に、砥石主軸33のモータ電力値の微分値が上記基準値を上回る時間連続して上昇しないように加工状態を調整するようにしてもよい。
【0052】
以上のごとく、本実施形態1によれば、SiCウエハを研削加工する際に砥石部32の切れ味の低下を抑制するとともに砥石部32の長寿命化が図られるSiCウエハ研削装置1を提供することができる。
【0053】
(実施形態2)
本実施形態2のSiCウエハ研削装置1は、
図2に示す実施形態1の場合に対して、
図11に示すように、学習処理装置53を備えるとともに、実施形態1の基準値記憶部512に替えて学習済みモデル記憶部516を備える。なお、実施形態2におけるその他の構成は、実施形態1の場合と同等であってその説明を省略する。
【0054】
8.学習処理装置53の構成
図11に示す学習処理装置53は、砥石部32に関する情報を説明変数とし、砥石部32の砥石状態を目的変数とする学習済みモデルを作成する。学習処理装置53は、訓練データ取得部531、砥石状態取得部532、特徴量算出部533、モデル作成部534を備える。
【0055】
訓練データ取得部531は、学習済みモデルを作成するための訓練データとして砥石部32に関する情報を取得する。当該情報は実施形態1において上述した砥石部32に関する情報と同様であり、本実施形態2において訓練データ取得部531は砥石ホイール駆動装置34における砥石主軸33のモータ電力値を取得する。
【0056】
本実施形態2では、訓練データ取得部531は、研削加工中の砥石状態が判明している砥石ホイール3について、当該訓練データを取得する。そして、砥石状態取得部532は、当該訓練データと紐づいた砥石状態を取得する。当該砥石状態も実施形態1において上述した砥石部32の砥石状態と同等であって、本実施形態2では当該砥石状態は砥石部32の切れ味及び砥粒321の自生発刃の進行状態を含む。なお、当該学習処理装置53において、当該砥石状態は研削加工に使用された砥石ホイール3から実測して取得した値とすることができる。特徴量算出部533は、訓練データから砥石状態に関係する特徴量を算出する。これらは、図示しない所定の演算装置により構成される。
【0057】
そして、モデル作成部534において、特徴量と砥石状態に基づいて、学習済みモデルを作成する。モデル作成部534も図示しない所定の演算装置により構成される。モデル作成部534により作成された学習済みモデルは、学習済みモデル記憶部516に記憶される。学習済みモデルの態様は限定されず、訓練データに基づいて機械学習により作成するものであってよく、ニューラルネットワークを構成するものとすることができる。
【0058】
そして、砥石状態評価部513は、砥石情報取得部511により取得された砥石部32に関する情報を学習済みモデル記憶部516に記憶された学習済みモデルに入力し出力された砥石状態を評価結果とする。
【0059】
本実施形態2のSiCウエハ研削装置1によれば、学習済みモデルを用いることにより、より高精度に砥石状態の評価を行うことができる。なお、本実施形態2においても実施形態1の場合と同等の作用効果を奏する。
【0060】
(実施形態3)
上述の実施形態1では、砥石情報取得部511は砥石部32に関する情報として砥石主軸33のモータ電力値を取得したが、本実施形態3ではこれに替えて、砥石情報取得部511は砥石部32に関する情報として砥石部32の画像データを取得する。砥石情報取得部511は、
図12に示すように、画像撮影装置により構成される。砥石情報取得部511は、例えば、
図13に示すように、砥石部32の表面の画像データを取得する。
図13に示すように、当該画像データにおいて砥石部32の表面に砥粒321が露出していることが確認できる。
【0061】
そして、本実施形態3では、砥石状態評価部513は砥石情報取得部511が取得した画像データを解析して取得した解析結果に基づいて、砥石状態を評価する。本実施形態3では、画像データの解析結果として、
図14(a)に示すように画像データにおける複数の砥粒321の合計面積である砥粒面積を取得したり、
図14(b)に示すように画像データにおける砥粒321の合計数である砥粒数を取得したりすることができる。また、基準値記憶部512には、
図14(a)及び
図14(b)に示すように、上記解析結果に対応する基準値Pb、Pcが記憶されている。
【0062】
そして、砥石状態評価部513は、
図14(a)に示すように時刻T1からT4までにおいて解析結果としての砥粒面積が基準値Pbを超えていない状態では、砥石部32の切れ味は良く、砥粒321の自生発刃の進行度は高いと評価することができ、時刻T4以降において砥粒面積が基準値Pbを超えた状態では砥石部32の切れ味は悪く、砥粒321の自生発刃の進行度は低いと評価することができる。
【0063】
また、砥石状態評価部513は、
図14(b)に示すように時刻T1からT4までにおいて解析結果としての砥粒数が基準値Pcを超えていない状態では、砥石部32の切れ味は良く、砥粒321の自生発刃の進行度は高いと評価することができ、時刻T4以降において砥粒数が基準値Pcを超えた状態では砥石部32の切れ味は悪く、砥粒321の自生発刃の進行度は低いと評価することができる。
【0064】
また、画像データの解析結果として、砥粒面積や砥粒数に替えて、砥石部32の表面の面性状を取得することができる。例えば、
図15(a)及び
図15(b)に示すように、砥石部32の表面の面性状として、画像データから砥石部32の表面の各面方向位置における厚さ方向の位置(深さ)を取得する。そして、厚さ方向の位置が所定範囲D内である領域が所定範囲に渡って連続する位置を基準値Pdとして、所定範囲D内である厚さ方向の位置が当該基準値Pdを超えて面方向に連続している位置で砥粒321が摩滅して平坦化していると判断して、砥粒321の自生発刃の進行度を評価することができる。この場合は、基準値記憶部512には基準値Pdが記憶されている。
【0065】
図15(a)に示す例では、所定範囲D内である厚さ方向の位置が基準値Pdを超えて連続している領域が検出されないため砥粒321が摩滅していないと判断して、砥粒321の自生発刃の進行度が高いと評価するとともに、砥石部32の切れ味は良いと評価することができる。一方、
図15(b)に示す例では、所定範囲D内である厚さ方向の位置が基準値Pdを超えて連続している領域WAが検出されるため、当該領域WAにおいて砥粒321が摩滅していると判断して、砥粒321の自生発刃の進行度は低いと評価するとともに、砥石部32の切れ味は悪いと評価することができる。
【0066】
以上のように、実施形態3では、砥石情報取得部511は、砥石部32に関する情報として砥石部32の画像データを取得し、砥石状態評価部513は、当該画像データを解析して取得した砥粒321の数、砥粒321の面積及び砥石部32の表面の面性状の少なくとも一方に基づいて砥石状態を評価する。これによっても、実施形態1の場合と同等の作用効果を奏する。
【0067】
(実施形態4)
上述の実施形態1では、加工条件調整部515は、砥石状態評価部513の評価結果に基づいて超音波加振装置4により付与される超音波の振幅や付与時間を増減することでワークWの加工条件を調整する例を示したが、本実施形態4ではこれに替えて、砥石状態評価部513の評価結果に基づいて砥石部32における砥粒321のワークWに対する進入角θを増減することで加工条件を調整する例を示す。
【0068】
まず、砥石部32における砥粒321のワークWに対する進入角は、超音波加振装置4による砥石部32の加振をしない状態では、加工条件として設定される砥石部32の切り込み速度に基づいて算出することができる。そして、超音波加振装置4により砥石部32を加振することで、砥石部32に付与される超音波の周波数に応じて砥石部32が周期的にZ方向(
図1参照)に上下移動するため、砥粒321のワークWに対する進入角もこれに応じて周期的に増減することとなる。
【0069】
砥粒321の進入角θは、
図16(a)に示すように、超音波加振装置4による砥石部32の加振をしていない状態では、所定の基準点0に対して相対回転方向Rと加工条件に基づく切込速度における砥粒321の切込深さ方向Cの先端位置321aとのなす角として表すことができる。そして、
図17(a)において破線C0で示すように、切込深さ方向Cにおける砥粒321の先端位置321aは、研削加工が進むにつれて深くなっていく。そして、超音波加振装置4による砥石部32の加振をしていない状態での砥粒321の進入角θは、
図17(a)において、破線C0の傾きとして示される。
【0070】
また、超音波加振装置4により砥石部32を加振している状態では、砥粒321の進入角θは、
図16(b)に示すように、超音波加振装置4による超音波の周波数に応じた加振周期にてθmin~θmax間を周期的に変化することとなる。そして、切込深さ方向Cにおける砥粒321の先端位置321aは、θminに対応する先端位置321bとθmaxに対応する先端位置321cとの間で周期的に変化する。より詳細には、
図17(a)において実線Cvで示すように、切込深さ方向Cにおける砥粒321の先端位置321aは、研削加工が進むにつれて超音波加振装置4による超音波の周波数に応じた加振周期Vpにて周期的に変化しながら深くなっていく。そして、超音波加振装置4により砥石部32を加振している状態での砥粒321の進入角θは、
図17(a)において、θminに対応する先端位置321bからθmaxに対応する先端位置321cに向かう実線Cvの傾きとして示される。
【0071】
さらに、超音波加振装置4により砥石部32に付与される超音波の振幅Aにより、砥粒321におけるθminに対応する先端位置321b及びθmaxに対応する先端位置321cは変化する。例えば、
図17(a)に示すように小さい振幅A1を有する超音波を付与した場合に比べて、
図17(b)に示すように大きい振幅A2を有する超音波を付与した場合では、砥粒321の進入角θ(θminに対応する先端位置321bからθmaxに対応する先端位置321cに向かう実線Cvの傾き)は大きくなる。
【0072】
したがって、超音波加振装置4により砥石部32に付与される超音波の振幅Aと砥粒321の進入角θとは互いに正の線形関係を有する。そして、砥粒321の進入角θは、砥石ホイール3の切込速度及び超音波加振装置4による超音波の振幅Aに基づいて算出することができる。そして、本実施形態4では、実施形態1において砥石状態評価部513の評価結果に基づいて超音波加振装置4により付与される超音波の振幅を変更するように加工条件を調整したのと同様に、砥石状態評価部513の評価結果に基づいて砥粒321の進入角θを変更するように加工条件を調整する。
【0073】
すなわち、本実施形態4では、砥石状態評価部513の評価結果が砥石部32の切れ味が良いとの評価結果である場合には、砥粒321のワークWに対する進入角θが小さくなるように加工モードを摩耗抑制モードMaにすることにより加工条件を調整することができる。一方、砥石状態評価部513の評価結果が砥石部32の切れ味が悪いとの評価結果である場合には、砥粒321のワークWに対する進入角θを大きくなるように加工モードを自生発刃促進モードMbにすることにより加工条件を調整することができる。そして、加工条件調整部515により、砥粒321のワークWに対する進入角θに基づく当該加工条件の調整を行うことで加工条件の最適化を図ることができる。
【0074】
以上のように、本実施形態4では、加工条件調整部515は、ワークWの表面に対して砥粒321がワークWに進入してくる方向の角度である進入角θを変更することにより、ワークWの加工条件の最適化を行うように構成されている。これにより、容易に加工条件の最適化を図ることができる。
【0075】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、砥石状態評価部513における砥石状態の評価を、実施形態1における砥石主軸33のモータ電力値と実施形態3における画像解析結果との両方に基づいて行うようにしてもよい。また、実施形態2における学習済みモデルを実施形態3における画像解析結果を説明変数として用いることとしてもよい。また、実施形態1~3において、実施形態4のように加工条件調整部515は砥粒321がワークWに進入してくる方向の角度である進入角θを変更することで加工条件を調整するようにしてもよい。このように、実施形態1~4における構成を任意に組み合わせた構成とすることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 SiCウエハ研削装置
2 チャックテーブル(ワーク保持部)
22 チャックテーブル駆動装置
3 砥石ホイール
31 基台
31a 端部
32 砥石部
321 砥粒
321a~c 先端位置
322 有気孔組織
323 気孔
33 砥石主軸
34 砥石ホイール駆動装置
35 高周波電源
4 超音波加振装置
41 圧電素子
511 砥石情報取得部
512 基準値記憶部
513 砥石状態評価部
515 加工条件調整部
516 学習済みモデル記憶部
521 駆動装置制御部
522 加工モード切替部