(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084516
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240618BHJP
A61B 8/14 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61B8/08
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198830
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】袖山 彩
(72)【発明者】
【氏名】田中 千鶴枝
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD21
4C601EE04
4C601JB13
4C601JB46
4C601JB49
4C601JB51
(57)【要約】
【課題】被検体内の構造物及びスペックルの影響が低減された、好適な自動時間利得制御を実行する。
【解決手段】評価範囲決定部20は、受信ビームデータRBのうち検波処理前の受信ビームデータRBを解析することで、受信ビームデータRBのデータ空間において、被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する。減衰量推定部22は、受信ビームデータRBのデータ空間において予め定義された、深度方向に並ぶ複数の領域REのうち、評価範囲に含まれる領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルに基づいて、被検体内における超音波の減衰量を推定する。画像形成部24は、減衰量推定部22が推定した超音波の減衰量に基づいて、輝度補正処理としてのTGC処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送受波することで得られた受信信号に対する受信ビームフォーミングにより形成された受信ビームデータのうち検波処理前の受信ビームデータを解析することで、前記受信ビームデータのデータ空間において、前記被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する評価範囲決定部と、
前記受信ビームデータのデータ空間において予め定義された前記被検体の深度方向に並ぶ複数の領域のうち、前記評価範囲に含まれない前記領域の前記受信ビームデータは用いずに、前記評価範囲に含まれる各前記領域の、前記検波処理前の前記受信ビームデータの周波数スペクトルに基づいて、前記超音波の減衰量を推定する減衰量推定部と、
前記超音波の減衰によって低下する超音波画像の画素の輝度を補償するように、推定された前記減衰量に基づいて各画素の輝度を補正する輝度補正処理を実行しつつ、前記検波処理された前記受信ビームデータに基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記評価範囲決定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域間の、前記検波処理前の前記受信ビームデータの周波数スペクトルの変化傾向に基づいて、前記評価範囲を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記評価範囲決定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域間の、前記周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値の変化傾向、前記周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾きの変化傾向、前記周波数スペクトルにおける信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数の変化傾向、又は、前記周波数スペクトルの代表周波数の変化傾向、の少なくとも1つに基づいて、前記評価範囲を決定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域の、前記周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値、前記周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾き、前記周波数スペクトルにおける、信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数、又は、前記周波数スペクトルにおける信号成分の代表周波数、の少なくとも1つに基づいて、前記減衰量を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ領域列毎に前記減衰量を推定し、1フレーム分の複数の前記領域列について推定された複数の前記減衰量に基づいて、1フレームに対応するフレーム減衰量を推定する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記画像形成部は、ユーザからの指示があったタイミングで、前記輝度補正処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記画像形成部は、被検体に対して超音波を送受波する超音波プローブの姿勢が安定したと判定した場合に、前記輝度補正処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、超音波診断装置の改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体に向けて超音波が送受波され、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成し、形成された超音波画像をディスプレイに表示する超音波診断装置が知られている。超音波診断装置で形成可能な超音波画像としては、受信信号の信号強度(振幅)を輝度値に変換することで形成される断層画像(Bモード画像)がある。
【0003】
被検体に送信された超音波は、被検体内で減衰する。したがって、被検体の深度が深いところ(体表面からより遠いところ)から反射してくる反射波の信号強度は、深度が浅いところから反射してくる反射波の信号強度よりも小さくなってしまう。そうすると、Bモード画像において、深度が深いところの画素の輝度が、深度が浅いところの画素の輝度よりも小さくなってしまう。
【0004】
これを補正すべく、従来、被検体の深度に応じて反射波の信号強度を補正する時間利得制御(TGC(Time Gain Control))が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、超音波画像の各画素が有する輝度値毎にヒストグラムを算出し、各輝度値のヒストグラムを累積した累積ヒストグラムを得て、累積ヒストグラムが予め定められた頻度値及び輝度値を通る曲線となるように求めたゲイン補正値にて、自動的にTGCを行うことが可能な超音波画像形成装置が開示されている。
【0006】
特許文献2~4にも、TGC機能を有した超音波診断装置が開示されている。なお、特許文献2~4には、超音波画像(Bモード画像)に設定された複数の領域それぞれについての画素値(輝度値)の平均値及び分散値に基づいて、超音波画像内における被検体の構造物(例えば臓器)の位置を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-152422号広報
【特許文献2】特開2017-158917号広報
【特許文献3】特開2017-093913号広報
【特許文献4】特開2020-138017号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超音波画像であるBモード画像には、スペックルと呼ばれるノイズが生じる場合がある。スペックルとは、被検体内の不特定多数の場所で発生する散乱波が互いに干渉して生じる縞模様の像である。したがって、Bモード画像の各画素の輝度を解析することでTGCを自動的に行う場合(TGCのゲイン補正値を自動的に決定する場合)、当該スペックルの影響によって適切なTGCを実行できない場合があった。
【0009】
また、Bモード画像における被検体内の構造物(例えば臓器や血管)に対応する領域においては、当該構造物の構造に起因して、輝度値が高く(あるいは逆に低く)なり得る。また、被検体内の構造物内においては、それ以外の位置に比して超音波の減衰があまり生じない場合もある。したがって、自動TGCにおいて、被検体の構造物の影響を低減させるのが望ましい。
【0010】
本明細書で開示される超音波診断装置の目的は、被検体内の構造物及びスペックルの影響が低減された、好適な自動時間利得制御を実行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示される超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受波することで得られた受信信号に対する受信ビームフォーミングにより形成された受信ビームデータのうち検波処理前の受信ビームデータを解析することで、前記受信ビームデータのデータ空間において、前記被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する評価範囲決定部と、前記受信ビームデータのデータ空間において予め定義された前記被検体の深度方向に並ぶ複数の領域のうち、前記評価範囲に含まれない前記領域の前記受信ビームデータは用いずに、前記評価範囲に含まれる各前記領域の、前記検波処理前の前記受信ビームデータの周波数スペクトルに基づいて、前記超音波の減衰量を推定する減衰量推定部と、前記超音波の減衰によって低下する超音波画像の画素の輝度を補償するように、推定された前記減衰量に基づいて各画素の輝度を補正する輝度補正処理を実行しつつ、前記検波処理された前記受信ビームデータに基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
当該構成によれば、評価範囲決定部により、被検体内の構造物を含む領域は、超音波の減衰量を推定する対象となる評価範囲から除外される。これにより、輝度補正処理における被検体内の構造物の影響が低減される。また、当該構成によれば、減衰量推定部は、ある程度の広さを有する領域毎に受信ビームデータの周波数スペクトルを演算し、深度方向に並ぶ複数の領域の周波数スペクトルに基づいて、超音波画像の減衰量を推定する。これにより、輝度補正処理におけるスペックルの影響が低減される。
【0013】
前記評価範囲決定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域間の、前記検波処理前の前記受信ビームデータの周波数スペクトルの変化傾向に基づいて、前記評価範囲を決定するとよい。
【0014】
前記評価範囲決定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域間の、前記周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値の変化傾向、前記周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾きの変化傾向、前記周波数スペクトルにおける信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数の変化傾向、又は、前記周波数スペクトルの代表周波数の変化傾向、の少なくとも1つに基づいて、前記評価範囲を決定するとよい。
【0015】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域の、前記周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値、前記周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾き、前記周波数スペクトルにおける、信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数、又は、前記周波数スペクトルにおける信号成分の代表周波数、の少なくとも1つに基づいて、前記減衰量を推定するとよい。
【0016】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ領域列毎に前記減衰量を推定し、1フレーム分の複数の前記領域列について推定された複数の前記減衰量に基づいて、1フレームに対応するフレーム減衰量を推定するとよい。
【0017】
当該構成によれば、深度方向に並ぶ領域列毎に演算された超音波の減衰量が互いに異なる場合に、輝度補正処理後の超音波画像において、深度方向に並ぶ領域列毎に輝度補正値が異なってしまうことを抑制することができる。
【0018】
前記画像形成部は、ユーザからの指示があったタイミングで、前記輝度補正処理を実行するとよい。
【0019】
当該構成によれば、ユーザは任意のタイミングで輝度補正処理を実行させることができ、Bモード画像のちらつき(時間的な輝度値の変化)を抑制することなどことができる。
【0020】
前記画像形成部は、被検体に対して超音波を送受波する超音波プローブの姿勢が安定したと判定した場合に、前記輝度補正処理を実行するとよい。
【0021】
当該構成によれば、ユーザが被検体の目的の位置に超音波プローブを当てて維持させたときに、自動的に輝度補正処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0022】
本明細書で開示される超音波診断装置によれば、被検体内の構造物及びスペックルの影響が低減された、好適な自動時間利得制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【
図2】受信ビームデータ、及び、受信ビームデータのデータ空間における領域を示す概念図である。
【
図3】超音波画像上における領域を示す概念図である。
【
図4A】
図2の領域REaにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4B】
図2の領域REbにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4C】
図2の領域REcにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4D】
図2の領域REdにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4E】
図2の領域REeにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図5A】
図2の領域REaにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5B】
図2の領域REbにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5C】
図2の領域REcにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5D】
図2の領域REdにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5E】
図2の領域REeにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図6A】
図2の領域REaにおける周波数スペクトルの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6B】
図2の領域REbにおける周波数スペクトルの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6C】
図2の領域REcにおける周波数スペクトルのの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6D】
図2の領域REdにおける周波数スペクトルのの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6E】
図2の領域REeにおける周波数スペクトルのの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図7A】
図2の領域REaにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7B】
図2の領域REbにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7C】
図2の領域REcにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7D】
図2の領域REdにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7E】
図2の領域REeにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図8】深度方向に並ぶ領域列における深度と特徴量の関係を示す第1のグラフである。
【
図9】深度方向に並ぶ領域列における深度と特徴量の関係を示す第2のグラフである。
【
図10】TGC指示ボタンの表示例を示す図である。
【
図11】本実施形態に係る超音波診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】評価範囲決定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】減衰量推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<超音波診断装置の構成概要>
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置10の構成概略図である。超音波診断装置10は、病院などの医療機関に設置され、超音波検査時に使用される医用装置である。
【0025】
超音波診断装置10は、被検体に対して超音波ビームを走査し、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。例えば、超音波診断装置10は、受信信号に基づいて、走査面からの反射波の振幅強度が輝度に変換された断層画像(Bモード画像)を形成する。あるいは、超音波診断装置10は、送信波と受信波の周波数の差分(ドプラシフト)に基づいて、被検体内の組織の運動速度を表す超音波画像であるドプラ画像を形成することもできる。本実施形態では、超音波診断装置10がBモード画像を生成する処理について説明する。
【0026】
超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う装置である。超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う複数の振動素子からなる振動素子アレイを有する。超音波プローブ12は、加速度センサが設けられているとよい。加速度センサの検出信号は装置本体に送信され、これにより装置本体は、超音波プローブ12の姿勢を検出することができる。
【0027】
送受信部14は、制御部34(後述)からの制御によって、超音波プローブ12(詳しくは振動素子アレイの各振動素子)に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から被検体に向けて超音波が送信される。また、送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子から受信信号を受信する。送受信部14は、加算器及び各振動素子に対応した複数の遅延器を有しており、当該加算器及び複数の遅延器により、各振動素子からの受信信号の位相を揃えて加算する整相加算処理を行う。これにより、被検体からの反射波の信号強度を示す情報が被検体の深度方向に並ぶ受信ビームデータが形成される。受信ビームデータを形成する処理を受信ビームフォーミングと呼ぶ。
【0028】
信号処理部16は、送受信部14からの受信ビームデータに対して、バンドパスフィルタを適用するフィルタ処理などを含む各種信号処理を実行する。
【0029】
送受信部14による受信ビームフォーミング後の受信信号(受信ビームデータ)、又は、信号処理部16におけるフィルタ処理後の受信信号は、後述の評価範囲決定部20に送られる。
【0030】
検波処理部18は、信号処理部16による処理後の受信信号に対して検波処理(例えば包絡線検波処理)、対数圧縮処理、などの処理を実行する。検波処理部18による検波処理によって、受信信号は位相情報(周波数情報)を失う。つまり、検波処理後の受信信号は、検波処理前の受信信号に比して、その情報量が少なくなる。
【0031】
評価範囲決定部20は、被検体に対して超音波を送受波することで得られた受信信号に対する受信ビームフォーミングにより形成された受信ビームデータのうち検波処理前の受信ビームデータを解析する。検波処理前の受信ビームデータには、送受信部14による受信ビームフォーミング直後の受信ビームデータ、及び、信号処理部16におけるフィルタ処理を含む各種信号処理後の受信ビームデータが含まれる。これにより、評価範囲決定部20は、後に形成される超音波画像の領域に対応する、受信ビームデータのデータ空間において、被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する。本明細書における被検体内の構造物とは、被検体内の超音波の減衰量を推定するに当たり悪影響を及ぼす(推定減衰量の精度を低下させる)ものである。つまり構造物は、そこに送信された超音波の減衰の仕方が、通常(構造物以外の部分における減衰の仕方)とは異なるようになるものである。例えば、構造物とは、臓器や血管などが挙げられる。評価範囲決定部20の処理の詳細については後述する。
【0032】
減衰量推定部22は、受信ビームデータのうち、評価範囲決定部20が決定した評価範囲に含まれない受信ビームデータは用いずに、評価範囲に含まれる受信ビームデータを用いて、被検体内における超音波の減衰量を推定する。減衰量推定部22の処理の詳細については後述する。
【0033】
画像形成部24は、検波処理部18において検波処理などされた受信ビームデータに基づいて、超音波画像(Bモード画像)を形成する。特に、画像形成部24は、減衰量推定部22が推定した超音波の減衰量に基づいて、輝度補正処理としてのTGC処理を実行する。TGC処理とは、上述のように、超音波の減衰によって低下する超音波画像の画素の輝度を補償するように、各画素の輝度を補正する処理である。画像形成部24による超音波画像の高画質化処理については後述する。
【0034】
表示制御部26は、画像形成部24で形成された超音波画像及びその他の種々の情報をディスプレイ28に表示させる制御を行う。ディスプレイ28は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などから構成される表示器である。
【0035】
入力インターフェース30は、例えばボタン、トラックボール、タッチパネルなどから構成される。入力インターフェース30は、ユーザの命令を超音波診断装置10に入力するために用いられる。
【0036】
メモリ32は、(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、あるいはROM(REad Only Memory)などを含んで構成される。メモリ32には、超音波診断装置10の各部を動作させるための超音波診断プログラムが記憶される。なお、超音波診断プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。超音波診断装置10は、そのような記憶媒体から超音波診断プログラムを読み取って実行することができる。
【0037】
制御部34は、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用のプロセッサ(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。制御部34としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。制御部34は、メモリ32に記憶された超音波診断プログラムに従って、超音波診断装置10の各部を制御する。
【0038】
なお、送受信部14、信号処理部16、検波処理部18、評価範囲決定部20、減衰量推定部22、画像形成部24、及び、表示制御部26の各部は、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路などによって構成されている。これらの各部がハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0039】
超音波診断装置10の構成概略は以上の通りである。以下、評価範囲決定部20、減衰量推定部22、及び、画像形成部24による、決定された減衰量に基づくTGC処理の詳細について説明する。
【0040】
<評価範囲の決定>
図2は、送受信部14による受信ビームフォーミングにより形成される受信ビームデータRB、及び、受信ビームデータRBのデータ空間において予め定義された領域REを示す概念図である。
図2に示すように、受信ビームデータRBのデータ空間には、複数の領域REが予め定義される。1つの領域REは、ある程度の広さ(対応する超音波画像では複数画素分の広さ)を有している。特に、受信ビームデータRBのデータ空間には、深度方向に並ぶ複数の領域REからなる深度方向領域列RRが複数定義される(
図2には複数の深度方向領域列RRの一部のみが図示されている)。複数の深度方向領域列RRは、方位方向に並んでいる。
図3に示すように、受信ビームデータRBのデータ空間における各領域REは、超音波画像上の各領域に対応するものである。本明細書では、受信ビームデータRBのデータ空間における領域REに対応する超音波画像上の領域も、便宜上、領域REと記載する。また、受信ビームデータRBのデータ空間における深度方向領域列RRに対応する超音波画像上の深度方向領域列も、便宜上、深度方向領域列RRと記載する。
【0041】
まず、評価範囲決定部20は、各領域REにおいて、検波処理前の受信ビームデータRBに対して周波数解析処理(例えばFFT(Fast Fourier Transform))を実行する。これにより、領域RE毎に、受信ビームデータRBの周波数スペクトルが取得される。評価範囲決定部20は、1つの深度方向領域列RRに含まれる各領域RE間(すなわち深度方向に並ぶ各領域RE間)の、検波処理前の受信ビームデータRBの周波数スぺクトルの変化傾向に基づいて、当該深度方向領域列RRにおける評価範囲を決定する。具体的には、評価範囲決定部20は、深度方向領域列RRに含まれる複数の領域REを、評価範囲に含まれる領域REと評価範囲に含まれない領域REとに分別する。
【0042】
上述の処理を、複数の深度方向領域列RRについて行うことで、受信ビームデータRBのデータ空間(換言すれば超音波画像)全体において、評価範囲が決定される。以下、周波数スぺクトルの変化傾向に基づく評価範囲を決定方法の詳細を説明する。
【0043】
評価範囲決定部20は、深度方向に並ぶ各領域RE間の、周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値の変化傾向に基づいて、評価範囲を決定することができる。
図4A~
図4Eは、
図2に示された領域REa~REeそれぞれについての周波数スペクトルの周波数積分値Iを示す図である。各周波数スペクトルの周波数積分値Iは、
図4A~
図4Eにおいて網掛けで示された領域の面積で表される。なお、
図2又は
図3に示すように、領域REaから領域REeへ向かうにつれ深度が深くなっていく。また、
図2又は
図3において、領域REa,REb,REc,及びREeは、被検体の構造物を含まず、評価範囲に含めるべき領域REであり、領域REdは、被検体の構造物(ここでは血管)を含み、評価範囲からは除外すべき領域REである。
【0044】
超音波は被検体内で減衰するから、
図4A~
図4C及び
図4Eに示すように、深度が深くなるにつれ、受信ビームデータRBの信号強度が徐々に小さくなり、周波数スペクトルの周波数積分値Iも徐々に小さくなる傾向となる。しかしながら、領域REdのように、構造物を含む領域REにおいては、当該構造物の壁部からの反射波などの影響によって受信ビームデータRBの信号強度が領域REcや領域REeに比して極端に大きくなり、周波数スペクトルの周波数積分値Iも極端に大きくなる。逆に、領域REが血管の内部に収まっているときは、受信ビームデータRBの信号強度が領域REcや領域REeに比して極端に小さくなり、周波数スペクトルの周波数積分値Iも極端に小さくなる。いずれにしろ、構造物を含む領域REの周波数スペクトルの周波数積分値Iは、当該領域REが含まれる深度方向領域列RRにおける周波数スペクトルの周波数積分値Iの減少傾向からかなり外れることになる。これにより、評価範囲決定部20は、構造物を含む領域REを特定することができる。
【0045】
また、評価範囲決定部20は、深度方向に並ぶ各領域RE間の、周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾きの変化傾向に基づいて、評価範囲を決定することができる。
図5A~
図5Eは、
図2に示された領域REa~REeそれぞれについての周波数スペクトルの上記信号強度傾きGを示す図である。各周波数スペクトルの信号強度傾きGは、
図5A~
図5Eにおいて一点鎖線で表される。
【0046】
超音波は被検体内で減衰するが、特に、高周波数成分が特に減衰する。したがって、
図5A~
図5C及び
図5Eに示すように、深度が深くなるにつれ、受信ビームデータRBの高周波成分が徐々に削られていき、その結果、信号強度傾きGの絶対値が徐々に大きくなる傾向となる。しかしながら、この場合も、構造物を含む領域REdにおいては、当該構造物の壁部からの反射波などの影響によって、領域REcや領域REeに比して信号強度傾きGの絶対値が極端に大きくなったり小さくなったりする。このように、構造物を含む領域REの周波数スペクトルの信号強度傾きGの絶対値は、当該領域REが含まれる深度方向領域列RRにおける周波数スペクトルの信号強度傾きGの絶対値の増大傾向からかなり外れることになる。これにより、評価範囲決定部20は、構造物を含む領域REを特定することができる。
【0047】
また、評価範囲決定部20は、深度方向に並ぶ各領域RE間の、周波数スペクトルにおける信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数の変化傾向に基づいて、評価範囲を決定することができる。
図6A~
図6Eは、
図2に示された領域REa~REeそれぞれについての周波数スペクトルの信号成分S、ノイズ成分N、及びクロスポイントCPを示す図である。
【0048】
超音波が被検体内で減衰するに応じて、信号成分Sの高周波数成分が特に減衰する。一方、ノイズ成分N(特に超音波プローブ12又は超音波診断装置10の装置本体にて生じる電気ノイズ)の周波数成分の分布は、深度によってそれほど変化しない。したがって、
図6A~
図6C及び
図6Eに示すように、深度が深くなるにつれ、信号成分Sの高周波成分が徐々に削られていき、その結果、クロスポイントCPが徐々に低周波数側へ移動していく。しかしながら、上述のように、構造物を含む領域REdにおいては、信号成分Sの信号強度が領域REcや領域REeに比して極端に大きくなったり小さくなったりするから、クロスポイントCPの周波数も領域REcや領域REeに比して極端に大きくなったり小さくなったりする。このように、構造物を含む領域REの周波数スペクトルのクロスポイント周波数は、当該領域REが含まれる深度方向領域列RRにおける周波数スペクトルのクロスポイント周波数の減少傾向からかなり外れることになる。これにより、評価範囲決定部20は、構造物を含む領域REを特定することができる。
【0049】
なお、各領域REにおけるノイズ成分Nは、超音波プローブ12の各振動素子が被検体からの反射波を受信しない環境(例えば超音波を空中に向けて送信したとき)において送受信部14が出力した受信ビームデータRBの各領域REの信号強度とすることができる。したがって、予め、各領域REのノイズ成分Nを取得しておき、メモリ32に記憶させておく。信号成分Sは、受信ビームデータRBの信号強度からノイズ成分Nを差し引くことで取得することができる。
【0050】
また、評価範囲決定部20は、深度方向に並ぶ各領域RE間の、周波数スペクトルの代表周波数の変化傾向に基づいて、評価範囲を決定することができる。
図7A~
図7Eは、
図2に示された領域REa~REeそれぞれについての周波数スペクトルの代表周波数としての平均周波数AVを示す図である。各周波数スペクトルの平均周波数AVは、
図7A~
図7Eにおいて一点鎖線で表される。
【0051】
超音波は被検体内で減衰するが、特に、高周波数成分が特に減衰する。したがって、
図7A~
図7C及び
図7Eに示すように、深度が深くなるにつれ、周波数スペクトルが全体として低周波側へ寄っていき、その結果、平均周波数AVが徐々に小さくなる傾向となる。しかしながら、上述のように、構造物を含む領域REdにおいては、受信ビームデータRBの信号強度が領域REcや領域REeに比して極端に大きくなったり小さくなったりする。したがって、構造物を含む領域REの周波数スペクトルの平均周波数AVは、当該領域REが含まれる深度方向領域列RRにおける周波数スペクトルの平均周波数AVの減少傾向からかなり外れることになる。これにより、評価範囲決定部20は、構造物を含む領域REを特定することができる。
【0052】
なお、本実施形態では、周波数スペクトルの代表周波数が平均周波数AVとなっているが、代表周波数は平均周波数AVに限られず、例えば中央周波数などであってもよい。
【0053】
評価範囲決定部20は、上述のした方法のいずれか1つに基づいて、評価範囲を決定する。あるいは、評価範囲決定部20は、上述した複数の方法を組み合わせて評価範囲を決定してもよい。
【0054】
ある領域REの周波数スペクトルの特徴量(周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AV)が、当該領域REが含まれる深度方向領域列RRにおける周波数スペクトルの特徴量の変化傾向から外れているか否かの判定は、種々の方法で行うことができる。例えば、評価範囲決定部20は、深度方向領域列RRに含まれる、深度方向に隣接する領域RE間の特徴量の差分をそれぞれ演算し、複数の差分の代表値(平均値又は中央値など)を演算する。そして、ある領域REについての差分と当該代表値との差分である偏差が偏差閾値以上となった場合、当該領域REを評価範囲外の領域REと判定することができる。一方、ある領域REについての差分と代表値との偏差が偏差閾値未満となった場合、当該領域REを評価範囲内の領域REと判定することができる。
【0055】
また、減衰量推定部22は、特徴量として明らかにおかしい値を有する特徴量も(極端に大きいなど)除外することができる。これは、特徴量毎に予め特徴量の基準範囲(例えば最小値閾値及び最大値閾値)を定めておき、ある領域REについての特徴量が当該基準範囲に入らない場合は、当該領域REを評価範囲から除外することができる。
【0056】
<減衰量の推定>
減衰量推定部22は、各領域REについての受信ビームデータRBの周波数スペクトルを演算する。そして、減衰量推定部22は、各深度方向領域列RRについて、当該深度方向領域列RRに含まれる複数の領域REのうち、評価範囲決定部20が決定した評価範囲に含まれない領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルは用いずに、評価範囲に含まれる領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルに基づいて、超音波の減衰量を推定する。以下、評価範囲に含まれる領域REの受信ビームデータRBの周波数スぺクトルに基づく評価範囲を決定方法の詳細を説明する。
【0057】
減衰量推定部22は、深度方向に並ぶ各領域REであって評価範囲に含まれる領域REの、周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値I(
図4A~
図4C及び
図4E参照)に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。上述の通り、深度方向に向かって超音波が減衰していくと、深度方向に並ぶ評価範囲に含まれる各領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルにおける周波数積分値Iは徐々に小さくなっていく。すなわち、周波数積分値Iは、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。
【0058】
また、減衰量推定部22は、深度方向に並ぶ各領域REであって評価範囲に含まれる領域REの、周波数スペクトルにおける信号強度傾きG(
図5A~
図5C及び
図5E参照)に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。上述の通り、深度方向に向かって超音波が減衰していくと、深度方向に並ぶ評価範囲に含まれる各領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルにおける信号強度傾きGの絶対値は徐々に大きくなっていく。すなわち、信号強度傾きGの絶対値は、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。
【0059】
また、減衰量推定部22は、深度方向に並ぶ各領域REであって評価範囲に含まれる領域REの、周波数スペクトルにおけるクロスポイント周波数(
図6A~
図6C及び
図6E参照)に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。上述の通り、深度方向に向かって超音波が減衰していくと、深度方向に並ぶ評価範囲に含まれる各領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルにおけるクロスポイント周波数は徐々に小さくなっていく。すなわち、クロスポイント周波数は、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。
【0060】
また、減衰量推定部22は、深度方向に並ぶ各領域REであって評価範囲に含まれる領域REの、周波数スペクトルの代表周波数(
図7A~
図7C及び
図7E参照)に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。ここでも、本実施形態では、周波数スペクトルの代表値は、平均周波数AVであるが、代表値としては中央周波数などであってもよい。上述の通り、深度方向に向かって超音波が減衰していくと、深度方向に並ぶ評価範囲に含まれる各領域REの受信ビームデータRBの周波数スペクトルにおける平均周波数AVは徐々に小さくなっていく。すなわち、平均周波数AVは、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。
【0061】
減衰量推定部22は、上述のした方法のいずれか1つに基づいて、超音波の減衰量を推定する。あるいは、減衰量推定部22は、上述した複数の方法を組み合わせて超音波の減衰量を推定してもよい。
【0062】
具体的には、
図8に示すように、減衰量推定部22は、深度及び特徴量(周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AV)の2次元データ空間において、1つの深度方向領域列RRに含まれる各領域REの特徴量F(
図8では特徴量FA~FE)をプロットする。
【0063】
ここで、評価範囲に含まれない領域REの特徴量F(
図8では特徴量FD)は除外されている。そして、減衰量推定部22は、残った特徴量FA,FB,FC,及びFEを近似する関数(2次関数、3次関数、あるいはそれ以上の次数の関数を含む)を演算し、演算した関数の係数を超音波の減衰量とする。本実施形態では、簡単のため、減衰量推定部22は、特徴量FA,FB,FC,及びFEの近似直線APを生成し、当該近似直線APの傾きの絶対値を超音波の減衰量とする。周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AVを組み合わせて減衰量を推定する場合は、各特徴量について演算した複数の近似直線APに基づいて(例えば複数の近似直線APの傾きの絶対値の平均値など)を超音波の減衰量とすることができる。
【0064】
減衰量推定部22は、各深度方向領域列RRについて、超音波の減衰量(近似直線APの傾き)を演算する。各深度方向領域列RRについての超音波の減衰量は互いに異なる場合があり、このまま当該減衰量に基づいてTGCを行うと、各深度方向領域列RRについて輝度補正値が互いに異なってしまう場合がある。したがって、減衰量推定部22は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRについて推定された複数の減衰量に基づいて、1フレームに対応するフレーム減衰量を推定するとよい。フレーム減衰量は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRについて推定された複数の減衰量の代表値(例えば平均値)とすることができる。
【0065】
図9に示すように、1つの深度方向領域列RRに含まれる評価範囲内と判定された各領域REの特徴量Fが減少傾向(又は増大傾向)を示さず、ばらついてしまう場合も考えられる。このような場合でも、近似直線APを生成することはできるが、それが超音波の減衰量を正しく表している保証はない。したがって、減衰量推定部22は、深度方向領域列RRについて演算された複数の特徴量Fが所定の除外基準を満たす場合は、当該深度方向領域列RRを除外してフレーム減衰量を推定するとよい。
【0066】
例えば、減衰量推定部22は、生成した近似直線APと、評価範囲内の各領域REの特徴量Fとの距離dを演算し、各領域REについての複数の距離dを合計する。そして、距離dの合計値が所定の距離閾値以上である場合は、当該深度方向領域列RRについての減衰量は、フレーム減衰量の推定には用いないようにする。
【0067】
<TGC処理>
画像形成部24は、減衰量推定部22により推定されたフレーム減衰量に基づいて、TGC処理を実行する。すなわち、画像形成部24は、当該フレーム減衰量が示す超音波の減衰を補償するように、深度に応じて超音波画像の各画素の輝度を変換する処理を行う。
【0068】
画像形成部24は、超音波診断装置10のユーザからの指示があったタイミングで、TGC処理を実行するとよい。例えば、
図10に示すように、表示制御部26がTGCボタン40をディスプレイ28に表示させ、TGCボタン40がユーザによって操作されたことをトリガとして、画像形成部24はTGC処理を実行するとよい。ユーザからのTGC処理の指示を入力するボタンは、入力インターフェース30に設けられていてもよい。TGC処理を常時実行していると、ディスプレイ28に表示されるBモード画像の輝度が刻々と変化してしまう(ちらついてしまう)場合があり、かえって見づらくなってしまう場合がある。画像形成部24がユーザからの指示に応じてTGC処理を実行するようにすることで、ユーザは任意のタイミングでTGC処理を実行させることができ、Bモード画像のちらつきを抑制することなどができる。
【0069】
また、超音波プローブ12に加速度センサを設けておけば、画像形成部24は、当該加速度センサからの信号に基づいて、超音波プローブ12の姿勢の変化を検出することができる。この場合、画像形成部24は、超音波プローブ12の姿勢が安定したと判定した場合に、TGC処理を実行するとよい。これにより、ユーザが被検体の目的の位置に超音波プローブ12を当てて維持させたときに、自動的にTGC処理を実行することができる。
【0070】
<本実施形態に係る超音波診断装置が奏する効果>
本実施形態に係る超音波診断装置10の概要は以上の通りである。本実施形態では、評価範囲決定部20により、被検体内の構造物を含む領域REは、超音波の減衰量を推定する対象となる評価範囲から除外される。これにより、TGC処理において、被検体内の構造物の影響を低減することができる。また、本実施形態では、減衰量推定部22は、ある程度の広さを有する領域RE毎に受信ビームデータRBの周波数スペクトルを演算し、深度方向に並ぶ複数の領域REの周波数スペクトルに基づいて、超音波画像の減衰量を推定している。これにより、TGC処理において、スペックルの影響を低減することができる。
【0071】
<超音波診断装置の処理の流れ>
以下、
図11~13に示すフローチャートに従って、超音波診断装置10の処理の流れを説明する。
図11は、超音波診断装置10の処理全体の流れを示すフローチャートである。
【0072】
ステップS10において、送受信部14は、超音波プローブ12に対して送信信号を供給する。これにより、超音波プローブ12の複数の振動素子から被検体に対して超音波が送信される。
【0073】
ステップS12において、超音波プローブ12の複数の振動素子は、被検体からの反射波を受信して、送受信部14に対して受信信号を送信する。これにより、送受信部14は受信信号を取得する。送受信部14は、受信信号に対して受信ビームフォーミングを行い、受信ビームデータRBを生成する。検波処理前の受信ビームデータRB(送受信部14による受信ビームフォーミング直後の受信ビームデータRB、又は、信号処理部16におけるフィルタ処理後の受信ビームデータRB)は、評価範囲決定部20に渡される。
【0074】
ステップS14において、評価範囲決定部20は評価範囲を決定する。評価範囲の決定処理の流れは、
図12を参照しつつ後述する。
【0075】
ステップS16において、減衰量推定部22は超音波の減衰量を推定する。超音波の減衰量の推定処理の流れは、
図13を参照しつつ後述する。
【0076】
ステップS18において、検波処理部18は、信号処理部16からの受信ビームデータRBに対して検波処理を実行する。なお、ステップS14及びS16と、ステップS18の処理は並列に実行することができる。
【0077】
ステップS20において、画像形成部24は、検波処理後の受信ビームデータRBに基づいて超音波画像(Bモード画像)を形成する。また、画像形成部24は、超音波画像の形成処理において、又は、形成した超音波画像に対して、ステップS16で推定された超音波の減衰量に基づいて、TGC処理を実行する。
【0078】
ステップS22において、表示制御部26は、ステップS20で形成された超音波画像をディスプレイ28に表示させる。
【0079】
図12は、評価範囲決定処理の流れを示すフローチャートである。
【0080】
ステップS30において、評価範囲決定部20は、受信ビームデータRBのデータ空間において予め定義された各領域REにおいて、受信ビームデータRBに対してFFTを実行する。これにより、各領域REについて、受信ビームデータRBの周波数スペクトルが取得される。
【0081】
ステップS32において、評価範囲決定部20は、各領域REの周波数スペクトルの特徴量を演算する。特徴量とは、例えば、上述の周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AVなどである。評価範囲決定部20は、演算した各領域REの特徴量をメモリ32に保持しておくとよい。
【0082】
ステップS34において、評価範囲決定部20は、各領域REの特徴量が、所定の基準範囲内であるか否かを判定する。特徴量が基準範囲外である場合は、ステップS36に進み、評価範囲決定部20は、当該領域REを評価範囲外の領域REとする。特徴量が基準範囲内である領域REについては、ステップS38以下の処理に進む。
【0083】
ステップS38において、評価範囲決定部20は、深度方向領域列RRに含まれる、深度方向に隣接する領域RE間の特徴量の差分をそれぞれ演算する。そして、評価範囲決定部20は、演算された複数の差分の代表値(ここでは平均値とする)を演算する。
【0084】
ステップS40において、評価範囲決定部20は、当該深度方向領域列RRに含まれる各領域REについて、当該領域REについての差分と、ステップS38で演算した複数の差分の平均値との差分である偏差が、所定の偏差閾値未満であるか否かを判定する。偏差が偏差閾値以上である場合、ステップS36に進み、評価範囲決定部20は、当該領域REを評価範囲外の領域REとする。偏差が偏差閾値未満である領域REについては、ステップS42において、評価範囲決定部20は、当該領域REを評価範囲内の領域REとする。
【0085】
図13は、減衰量推定処理の流れを示すフローチャートである。
【0086】
ステップS50において、減衰量推定部22は、予め定義された複数の領域REから注目領域を選択する。
【0087】
ステップS52において、減衰量推定部22は、ステップS50で選択した注目領域が評価範囲内であるか否かを判定する。選択した注目領域が評価範囲外である場合は、ステップS50に戻り、減衰量推定部22は他の領域REを注目領域として選択する。選択した注目領域が評価範囲内である場合はステップS54に進む。
【0088】
ステップS54において、減衰量推定部22は、注目領域についての特徴量(上述の周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AVなど)を取得する。ここで、減衰量推定部22は、改めて注目領域の受信ビームデータRBに対してFFTを行ってもよいが、ステップS32で演算しメモリ32に保持しておいた特徴量を用いてもよい。
【0089】
ステップS56において、減衰量推定部22は、ステップS50~S54の処理が全ての領域REについて行われたか否かを判定する。処理を実行していない領域REが残っている場合は、ステップS50に戻る。全ての領域REについての処理が完了している場合はステップS58に進む。ステップS50~S56までの処理により、評価範囲内の領域REについての特徴量が取得される。
【0090】
ステップS58において、減衰量推定部22は、複数の深度方向領域列RRから注目深度方向領域列を選択する。
【0091】
ステップS60において、減衰量推定部22は、深度及び特徴量の2次元データ空間において、選択された注目深度方向領域列に含まれ評価範囲に含まれる各領域REについての特徴量をプロットする(
図8参照)。そして、プロットされた各特徴量の近似直線APを生成する。
【0092】
ステップS62において、減衰量推定部22は、選択された注目深度方向領域列に含まれ評価範囲に含まれる各領域REについての特徴量が所定の除外基準を満たすか否かを判定する。除外基準を満たす場合は、減衰量推定部22は、注目深度方向領域列をフレーム減衰量の推定には用いないようにし、ステップS58に戻り、他の注目深度方向領域列を選択する。除外基準を満たさない場合は、ステップS60で生成された近似直線APの傾きの絶対値を注目深度方向領域列における超音波の減衰量として推定する。その後、ステップ64に進む。
【0093】
ステップS64において、ステップS58~S62の処理が、1フレーム分の全ての深度方向領域列RRについて行われたか否かを判定する。処理を実行していない深度方向領域列RRが残っている場合は、ステップS58に戻る。全ての深度方向領域列RRについての処理が完了している場合はステップS66に進む。ステップS58~S62までの処理により、全ての深度方向領域列RRについての超音波の減衰量が取得される。
【0094】
ステップS66において、減衰量推定部22は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRについて推定された複数の減衰量に基づいて、1フレームに対応するフレーム減衰量を推定する。例えば、減衰量推定部22は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRについて推定された複数の減衰量の平均値をフレーム減衰量とする。
【0095】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0096】
例えば、本実施形態では、超音波プローブ12は、一列に並ぶ振動素子を有するプローブであるが、超音波プローブ12は、2次元に並ぶ振動素子を有する2D(Dimension)アレイプローブであってもよい。そして、超音波診断装置10の各部の処理対象である受信ビームデータとは、2Dアレイプローブによって得られた、深度方向、方位方向、及び、スライス方向に延びる3次元のボリュームデータを構成するものであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
10 超音波診断装置、12 超音波プローブ、14 送受信部、16 信号処理部、18 検波処理部、20 評価範囲決定部、22 減衰量推定部、24 画像形成部、26 表示制御部、28 ディスプレイ、30 入力インターフェース、32 メモリ、34 制御部、40 TGCボタン、RB 受信ビームデータ、RE 領域、RR 深度方向領域列、I 周波数積分値、G 信号強度傾き、CP クロスポイント、AV 平均周波数、F 特徴量、AP 近似直線、d 距離。