(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084517
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20240618BHJP
A61B 8/14 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61B8/08
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198831
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】袖山 彩
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD21
4C601EE04
4C601GA18
4C601GA24
4C601JB13
4C601JB31
4C601JB48
4C601JB49
4C601JC09
4C601JC11
4C601JC16
(57)【要約】
【課題】被検体内の構造物及びスペックルの影響が低減された、好適な自動時間利得制御を実行する。
【解決手段】フレームデータFRのデータ空間において定義された各領域REFについての、評価範囲決定用フレームデータの画素の輝度値のばらつき具合、又は、代表輝度値の少なくとも一方に基づいて、各領域REFを、評価範囲に含まれる領域REFと評価範囲に含まれない領域REFとに分別する。減衰量推定部26は、受信ビームデータRBのデータ空間において予め定義された、各領域REFに対応する各領域REBであって、深度方向に並ぶ複数の領域REBのうち、評価範囲に含まれる領域REBの受信ビームデータRBの周波数スペクトルに基づいて、被検体内における超音波の減衰量を推定する。画像形成部20は、減衰量推定部26が推定した超音波の減衰量に基づいて、輝度補正処理としてのTGC処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送受波することで得られた受信信号に対する受信ビームフォーミングにより形成された受信ビームデータである評価範囲決定用ビームデータに基づいて形成された評価範囲決定用フレームデータを解析することで、フレームデータのデータ空間において、前記被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する評価範囲決定部と、
時系列において前記評価範囲決定用ビームデータに後続する受信ビームデータである対象ビームデータのうち検波処理前の対象ビームデータに基づいて、前記超音波の減衰量を推定する減衰量推定部であって、受信ビームデータのデータ空間において予め定義された前記被検体の深度方向に並ぶ複数の領域のうち、前記評価範囲に含まれない前記領域の前記対象ビームデータは用いずに、前記評価範囲に含まれる各前記領域の、前記検波処理前の前記対象ビームデータの周波数スペクトルに基づいて、前記超音波の減衰量を推定する減衰量推定部と、
前記超音波の減衰によって低下する超音波画像の画素の輝度を補償するように、推定された前記減衰量に基づいて各画素の輝度を補正する輝度補正処理を実行しつつ、前記対象ビームデータに基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記評価範囲決定部は、受信ビームデータのデータ空間における各前記領域に対応するフレームデータのデータ空間における各領域ついての、前記評価範囲決定用フレームデータの、当該領域に含まれる複数の画素の輝度値のばらつき具合、又は、当該領域に含まれる複数の画素の代表輝度値の少なくとも一方に基づいて、前記評価範囲を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域の、前記周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値、前記周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾き、前記周波数スペクトルにおける、信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数、又は、前記周波数スペクトルにおける信号成分の代表周波数、の少なくとも1つに基づいて、前記減衰量を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ領域列毎に前記減衰量を推定し、1フレーム分の複数の前記領域列について推定された複数の前記減衰量に基づいて、1つのフレーム全体に対応するフレーム減衰量を推定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記減衰量推定部は、複数フレームそれぞれについての複数の個別フレーム減衰量に基づいて、前記フレーム減衰量を推定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記減衰量推定部は、前記複数のフレームそれぞれについての複数の前記個別フレーム減衰量の統計に基づいて、複数の前記個別フレーム減衰量のうち、前記フレーム減衰量の推定に用いる前記個別フレーム減衰量を決定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記画像形成部は、ユーザからの指示があったタイミングで、前記輝度補正処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記画像形成部は、被検体に対して超音波を送受波する超音波プローブの姿勢が安定したと判定した場合に、前記輝度補正処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、超音波診断装置の改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体に向けて超音波が送受波され、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成し、形成された超音波画像をディスプレイに表示する超音波診断装置が知られている。超音波診断装置で形成可能な超音波画像としては、受信信号の信号強度(振幅)を輝度値に変換することで形成される断層画像(Bモード画像)がある。
【0003】
被検体に送信された超音波は、被検体内で減衰する。したがって、被検体の深度が深いところ(体表面からより遠いところ)から反射してくる反射波の信号強度は、深度が浅いところから反射してくる反射波の信号強度よりも小さくなってしまう。そうすると、Bモード画像において、深度が深いところの画素の輝度が、深度が浅いところの画素の輝度よりも小さくなってしまう。
【0004】
これを補正すべく、従来、被検体の深度に応じて反射波の信号強度を補正する時間利得制御(TGC(Time Gain Control))が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、超音波画像の各画素が有する輝度値毎にヒストグラムを算出し、各輝度値のヒストグラムを累積した累積ヒストグラムを得て、累積ヒストグラムが予め定められた頻度値及び輝度値を通る曲線となるように求めたゲイン補正値にて、自動的にTGCを行うことが可能な超音波画像形成装置が開示されている。
【0006】
特許文献2~4にも、TGC機能を有した超音波診断装置が開示されている。なお、特許文献2~4には、超音波画像(Bモード画像)に設定された複数の領域それぞれについての画素値(輝度値)の平均値及び分散値に基づいて、超音波画像内における被検体の構造物(例えば臓器)の位置を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-152422号広報
【特許文献2】特開2017-158917号広報
【特許文献3】特開2017-093913号広報
【特許文献4】特開2020-138017号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超音波画像であるBモード画像には、スペックルと呼ばれるノイズが生じる場合がある。スペックルとは、被検体内の不特定多数の場所で発生する散乱波が互いに干渉して生じる縞模様の像である。したがって、Bモード画像の各画素の輝度を解析することでTGCを自動的に行う場合(TGCのゲイン補正値を自動的に決定する場合)、当該スペックルの影響によって適切なTGCを実行できない場合があった。
【0009】
また、Bモード画像における被検体内の構造物(例えば臓器や血管)に対応する領域においては、当該構造物の構造に起因して、輝度値が高く(あるいは逆に低く)なり得る。また、被検体内の構造物内においては、それ以外の位置に比して超音波の減衰があまり生じない場合もある。したがって、自動TGCにおいて、被検体の構造物の影響を低減させるのが望ましい。
【0010】
本明細書で開示される超音波診断装置の目的は、被検体内の構造物及びスペックルの影響が低減された、好適な自動時間利得制御を実行することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示される超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受波することで得られた受信信号に対する受信ビームフォーミングにより形成された受信ビームデータである評価範囲決定用ビームデータに基づいて形成された評価範囲決定用フレームデータを解析することで、フレームデータのデータ空間において、前記被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する評価範囲決定部と、時系列において前記評価範囲決定用ビームデータに後続する受信ビームデータである対象ビームデータのうち検波処理前の対象ビームデータに基づいて、前記超音波の減衰量を推定する減衰量推定部であって、受信ビームデータのデータ空間において予め定義された前記被検体の深度方向に並ぶ複数の領域のうち、前記評価範囲に含まれない前記領域の前記対象ビームデータは用いずに、前記評価範囲に含まれる各前記領域の、前記検波処理前の前記対象ビームデータの周波数スペクトルに基づいて、前記超音波の減衰量を推定する減衰量推定部と、前記超音波の減衰によって低下する超音波画像の画素の輝度を補償するように、推定された前記減衰量に基づいて各画素の輝度を補正する輝度補正処理を実行しつつ、前記対象ビームデータに基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
当該構成によれば、評価範囲決定部により、被検体内の構造物を含む領域は、超音波の減衰量を推定する対象となる評価範囲から除外される。これにより、輝度補正処理における被検体内の構造物の影響が低減される。また、当該構成によれば、減衰量推定部は、ある程度の広さを有する領域毎に受信ビームデータの周波数スペクトルを演算し、深度方向に並ぶ複数の領域の周波数スペクトルに基づいて、超音波画像の減衰量を推定する。これにより、輝度補正処理におけるスペックルの影響が低減される。
【0013】
前記評価範囲決定部は、受信ビームデータのデータ空間における各前記領域に対応するフレームデータのデータ空間における各領域ついての、前記評価範囲決定用フレームデータの、当該領域に含まれる複数の画素の輝度値のばらつき具合、又は、当該領域に含まれる複数の画素の代表輝度値の少なくとも一方に基づいて、前記評価範囲を決定するとよい。
【0014】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ各前記領域の、前記周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値、前記周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾き、前記周波数スペクトルにおける、信号成分とノイズ成分との信号強度が同じとなる周波数であるクロスポイント周波数、又は、前記周波数スペクトルにおける信号成分の代表周波数、の少なくとも1つに基づいて、前記減衰量を推定するとよい。
【0015】
前記減衰量推定部は、前記深度方向に並ぶ領域列毎に前記減衰量を推定し、1フレーム分の複数の前記領域列について推定された複数の前記減衰量に基づいて、1つのフレーム全体に対応するフレーム減衰量を推定するとよい。
【0016】
当該構成によれば、深度方向に並ぶ領域列毎に演算された超音波の減衰量が互いに異なる場合に、輝度補正処理後の超音波画像において、深度方向に並ぶ領域列毎に輝度補正値が異なってしまうことを抑制することができる。
【0017】
前記減衰量推定部は、複数フレームそれぞれについての複数の個別フレーム減衰量に基づいて、前記フレーム減衰量を推定するとよい。
【0018】
当該構成によれば、各フレームについての個別フレーム減衰量間の誤差を考慮してフレーム減衰量を推定することができる。
【0019】
前記減衰量推定部は、前記複数のフレームそれぞれについての複数の前記個別フレーム減衰量の統計に基づいて、複数の前記個別フレーム減衰量のうち、前記フレーム減衰量の推定に用いる前記個別フレーム減衰量を決定するとよい。
【0020】
当該構成によれば、超音波の正しい減衰量を示すものではない可能性が高い個別フレーム減衰量を除外して、フレーム減衰量を推定することができる。
【0021】
前記画像形成部は、ユーザからの指示があったタイミングで、前記輝度補正処理を実行するとよい。
【0022】
当該構成によれば、ユーザは任意のタイミングで輝度補正処理を実行させることができ、Bモード画像のちらつき(時間的な輝度値の変化)を抑制することなどことができる。
【0023】
前記画像形成部は、被検体に対して超音波を送受波する超音波プローブの姿勢が安定したと判定した場合に、前記輝度補正処理を実行するとよい。
【0024】
当該構成によれば、ユーザが被検体の目的の位置に超音波プローブを当てて維持させたときに、自動的に輝度補正処理を実行することができる。
【発明の効果】
【0025】
本明細書で開示される超音波診断装置によれば、被検体内の構造物及びスペックルの影響が低減された、好適な自動時間利得制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【
図2】受信ビームデータ、及び、受信ビームデータのデータ空間における領域を示す概念図である。
【
図3】フレームデータのデータ空間における領域を示す概念図である。
【
図4A】
図2の領域REBaにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4B】
図2の領域REBbにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4C】
図2の領域REBcにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4D】
図2の領域REBdにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図4E】
図2の領域REBeにおける周波数スペクトルの周波数積分値を表す図である。
【
図5A】
図2の領域REBaにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5B】
図2の領域REBbにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5C】
図2の領域REBcにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5D】
図2の領域REBdにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図5E】
図2の領域REBeにおける周波数スペクトルの信号強度傾きを表す図である。
【
図6A】
図2の領域REBaにおける周波数スペクトルの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6B】
図2の領域REBbにおける周波数スペクトルの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6C】
図2の領域REBcにおける周波数スペクトルのの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6D】
図2の領域REBdにおける周波数スペクトルのの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図6E】
図2の領域REBeにおける周波数スペクトルのの信号成分、ノイズ成分、及びクロスポイントを表す図である。
【
図7A】
図2の領域REBaにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7B】
図2の領域REBbにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7C】
図2の領域REBcにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7D】
図2の領域REBdにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図7E】
図2の領域REBeにおける周波数スペクトルの平均周波数を表す図である。
【
図8】深度方向に並ぶ領域列における深度と特徴量の関係を示す第1のグラフである。
【
図9】深度方向に並ぶ領域列における深度と特徴量の関係を示す第2のグラフである。
【
図10】TGC指示ボタンの表示例を示す図である。
【
図11】本実施形態に係る超音波診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】評価範囲決定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】減衰量推定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<超音波診断装置の構成概要>
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置10の構成概略図である。超音波診断装置10は、病院などの医療機関に設置され、超音波検査時に使用される医用装置である。
【0028】
超音波診断装置10は、被検体に対して超音波ビームを走査し、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。例えば、超音波診断装置10は、受信信号に基づいて、走査面からの反射波の振幅強度が輝度に変換された断層画像(Bモード画像)を形成する。あるいは、超音波診断装置10は、送信波と受信波の周波数の差分(ドプラシフト)に基づいて、被検体内の組織の運動速度を表す超音波画像であるドプラ画像を形成することもできる。本実施形態では、超音波診断装置10がBモード画像を生成する処理について説明する。
【0029】
超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う装置である。超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う複数の振動素子からなる振動素子アレイを有する。超音波プローブ12は、加速度センサが設けられているとよい。加速度センサの検出信号は装置本体に送信され、これにより装置本体は、超音波プローブ12の姿勢を検出することができる。
【0030】
送受信部14は、制御部36(後述)からの制御によって、超音波プローブ12(詳しくは振動素子アレイの各振動素子)に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から被検体に向けて超音波が送信される。また、送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子から受信信号を受信する。送受信部14は、加算器及び各振動素子に対応した複数の遅延器を有しており、当該加算器及び複数の遅延器により、各振動素子からの受信信号の位相を揃えて加算する整相加算処理を行う。これにより、被検体からの反射波の信号強度を示す情報が被検体の深度方向に並ぶ受信ビームデータが形成される。受信ビームデータを形成する処理を受信ビームフォーミングと呼ぶ。
【0031】
送受信部14は、制御部36から順次送られてくる送信信号に基づいて、被検体に向けて順次超音波を送信する。これにより、送受信部14は、被検体からの反射波を順次取得し、受信ビームデータを形成する。このように、送受信部14は、時系列の複数の受信ビームデータを形成する。
【0032】
信号処理部16は、送受信部14からの受信ビームデータに対して、バンドパスフィルタを適用するフィルタ処理などを含む各種信号処理を実行する。
【0033】
送受信部14による受信ビームフォーミング後の受信信号(受信ビームデータ)、又は、信号処理部16におけるフィルタ処理後の受信信号は、後述の減衰量推定部26に送られる。
【0034】
検波処理部18は、信号処理部16による処理後の受信信号に対して検波処理(例えば包絡線検波処理)、対数圧縮処理、などの処理を実行する。検波処理部18による検波処理によって、受信信号は位相情報(周波数情報)を失う。つまり、検波処理後の受信信号は、検波処理前の受信信号に比して、その情報量が少なくなる。
【0035】
画像形成部20は、検波処理部18において検波処理などされた受信ビームデータに基づいて、超音波画像(Bモード画像)を形成する。特に、画像形成部20は、1フレーム分の受信ビームデータに基づいて、1枚のBモード画像を形成する。本明細書では、1フレーム分の受信ビームデータ、又は、1枚のBモード画像そのものをフレームデータと呼ぶ。また、画像形成部20は、後述の減衰量推定部26が推定した超音波の減衰量に基づいて、輝度補正処理としてのTGC処理を実行する。TGC処理とは、上述のように、超音波の減衰によって低下する超音波画像の画素の輝度を補償するように、各画素の輝度を補正する処理である。画像形成部20による超音波画像の高画質化処理については後述する。
【0036】
画像形成部20により形成されたBモード画像は、シネメモリ22及び表示制御部28に渡される。
【0037】
シネメモリ22は、1又は複数のフレームデータを一時的に格納するリングバッファである。本実施形態では、シネメモリ22には、フレームデータとしての1又は複数のBモード画像が格納されるが、シネメモリ22には、フレームデータとしての1又は複数フレーム分の受信ビームデータが記憶されてもよい。
【0038】
評価範囲決定部24は、シネメモリ22に格納されたフレームデータを解析することで、フレームデータのデータ空間において、被検体内の構造物の少なくとも一部が除外された評価範囲を決定する。本明細書における被検体内の構造物とは、被検体内の超音波の減衰量を推定するに当たり悪影響を及ぼす(推定減衰量の精度を低下させる)ものである。つまり構造物は、そこに送信された超音波の減衰の仕方が、通常(構造物以外の部分における減衰の仕方)とは異なるようになるものである。例えば、構造物とは、臓器や血管などが挙げられる。
【0039】
本明細書では、評価範囲決定部24による解析対象となるフレームデータを評価範囲決定用フレームデータと呼ぶ。上述のように、本実施形態では、評価範囲決定用フレームデータはBモード画像であるが、評価範囲決定用フレームデータは1フレーム分の受信ビームデータであってもよい。また、評価範囲決定用フレームデータを生成するための受信ビームデータを評価範囲決定用受信ビームデータと呼ぶ。評価範囲決定部24の処理の詳細については後述する。
【0040】
減衰量推定部26は、時系列において評価範囲決定用受信ビームデータに後続する受信ビームデータ(本明細書ではこれを対象ビームデータと呼ぶ)のうち、検波処理前の対象ビームデータに基づいて、被検体内における超音波の減衰量を推定する。特に、減衰量推定部26は、評価範囲決定部24が決定した評価範囲に含まれない対象受信ビームデータは用いずに、評価範囲に含まれる対象受信ビームデータを用いて、被検体内における超音波の減衰量を推定する。減衰量推定部26の処理の詳細については後述する。
【0041】
表示制御部28は、画像形成部20で形成された超音波画像及びその他の種々の情報をディスプレイ30に表示させる制御を行う。ディスプレイ30は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などから構成される表示器である。
【0042】
入力インターフェース32は、例えばボタン、トラックボール、タッチパネルなどから構成される。入力インターフェース32は、ユーザの命令を超音波診断装置10に入力するために用いられる。
【0043】
メモリ34は、(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、あるいはROM(REad Only Memory)などを含んで構成される。メモリ34には、超音波診断装置10の各部を動作させるための超音波診断プログラムが記憶される。なお、超音波診断プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。超音波診断装置10は、そのような記憶媒体から超音波診断プログラムを読み取って実行することができる。
【0044】
制御部36は、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用のプロセッサ(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。制御部36としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。制御部36は、メモリ34に記憶された超音波診断プログラムに従って、超音波診断装置10の各部を制御する。
【0045】
なお、送受信部14、信号処理部16、検波処理部18、評価範囲決定部24、減衰量推定部26、画像形成部20、及び、表示制御部28の各部は、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路などによって構成されている。これらの各部がハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0046】
超音波診断装置10の構成概略は以上の通りである。以下、評価範囲決定部24、減衰量推定部26、及び、画像形成部20による、決定された減衰量に基づくTGC処理の詳細について説明する。
【0047】
<評価範囲の決定>
図2は、送受信部14による受信ビームフォーミングにより形成される受信ビームデータRB、及び、受信ビームデータRBのデータ空間において予め定義された領域REBを示す概念図である。また、
図3は、フレームデータFRのデータ空間において予め定義された領域REFを示す概念図である。
図2に示すように、受信ビームデータRBのデータ空間には、複数の領域REBが予め定義され、
図3に示すように、フレームデータFRのデータ空間には、複数の領域REFが定義される。1つの領域REB及び1つの領域REFは、ある程度の広さ(対応する超音波画像では複数画素分の広さ)を有している。受信ビームデータRBのデータ空間における領域REBと、フレームデータFRのデータ空間における領域REFは、互いに1対1に対応している。例えば、領域REBaは領域REFaに対応し、領域REBbは領域REFbに対応している、の如くである。
【0048】
特に、受信ビームデータRBのデータ空間には、深度方向に並ぶ複数の領域REBからなる深度方向領域列RRBが複数定義される(
図2には複数の深度方向領域列RRBの一部のみが図示されている)。したがって、フレームデータFRのデータ空間にも、深度方向に並ぶ複数の領域REFからなる深度方向領域列RRFが複数定義されることになる(
図3には複数の深度方向領域列RRFの一部のみが図示されている)。複数の深度方向領域列RRB,RRFは、方位方向に並んでいる。
【0049】
評価範囲決定部24は、評価範囲決定用フレームデータにおける各領域REFについての、当該領域REFに含まれる複数の画素の輝度値のばらつき具合を演算する。本実施形態では、評価範囲決定部24は、ばらつき具合として標準偏差を演算する。しかし、ばらつき具合を示す指標としては標準偏差に限られず、例えば分散値などであってもよい。また、評価範囲決定部24は、フレームデータFRのデータ空間における各領域REFについての、当該領域REFに含まれる複数の画素の輝度値の代表輝度値を演算する。本実施形態では、評価範囲決定部24は、代表輝度値として平均輝度値としている。しかし、代表輝度値は平均輝度値に限られず、例えば中央輝度値などであってもよい。
【0050】
評価範囲決定部24は、フレームデータFRのデータ空間において定義された各領域REFについての、評価範囲決定用フレームデータの、当該領域REFに含まれる複数の画素の輝度値のばらつき具合、又は、当該領域REFに含まれる複数の画素の輝度値の代表輝度値の少なくとも一方に基づいて、各領域REFを、評価範囲に含まれる領域REFと評価範囲に含まれない領域REFとに分別する。なお、
図3において、領域REFa,REFb,REFc,及びREFeは、被検体の構造物を含まず、評価範囲に含めるべき領域REFであり、領域REFdは、被検体の構造物(ここでは血管)を含み、評価範囲からは除外すべき領域REFである。
【0051】
領域REFa,REFb,REFc,及びREFeのように、被検体の構造物を含まない領域REFについては、当該領域REFに含まれる画素の輝度値のばらつき具合は小さくなる。それに対し、領域REFdのように、被検体の構造物を含むREFについては、構造物の境界などにおいて超音波が強く反射するなどすることから、当該領域REFに含まれる画素の輝度値のばらつき具合は大きくなる。したがって、評価範囲決定部24は、輝度値のばらつき具合が所定のばらつき閾値未満の領域REFを評価範囲内の領域REFとし、輝度値のばらつき具合がばらつき閾値以上の領域REFを評価範囲外の領域REFとする。
【0052】
また、領域REFが構造物である血管の内部に収まっているときは、当該領域REFに含まれる複数の画素の代表輝度値は極端に小さくなる。したがって、評価範囲決定部24は、代表輝度値が所定の輝度閾値以上の領域RFEを評価範囲内の領域REFとし、代表輝度値が所定の輝度閾値未満の領域RFEを評価範囲外の領域REFとしてもよい。
【0053】
以上のようにして、評価範囲決定部24は、評価範囲決定用フレームデータを解析することで、各領域REFを、評価範囲に含まれる領域REFと評価範囲に含まれない領域REFとに分別する。上述のように、フレームデータFRのデータ空間における各領域REFと、受信ビームデータRBのデータ空間における各領域REBが対応していることから、評価範囲に含まれる領域REFと評価範囲に含まれない領域REFに分別することは、受信ビームデータRBのデータ空間において、各領域REBを、評価範囲に含まれる領域REBと評価範囲に含まれない領域REBとに分別することを意味する。
【0054】
<減衰量の推定>
まず、減衰量推定部26は、時系列において評価範囲決定用ビームデータに後続する受信ビームデータRBである対象ビームデータのうちの検波処理前の対象ビームデータに対して、領域REB毎に、周波数解析処理(例えばFFT(Fast Fourier Transform))を実行する。これにより、領域REB毎に、対象ビームデータの周波数スペクトルが取得される。次いで、減衰量推定部26は、受信ビームデータRBのデータ空間において定義された、被検体の深度方向に並ぶ複数の領域REB(つまり深度方向領域列RRB)のうち、評価範囲決定部24が決定した評価範囲に含まれない領域REBの対象ビームデータの周波数スペクトルは用いずに、評価範囲に含まれる領域REBの対象ビームデータの周波数スペクトルに基づいて、超音波の減衰量を推定する。以下、評価範囲に含まれる領域REBの対象ビームデータの周波数スぺクトルに基づく超音波の減衰量の推定方法の詳細を説明する。
【0055】
減衰量推定部26は、深度方向領域列RRB(つまり深度方向に並ぶ複数の領域REB)であって評価範囲に含まれる領域REBの、周波数スペクトルにおける信号強度の周波数積分値に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。
図4A~
図4Eは、
図2に示された領域REBa~REBeそれぞれについての周波数スペクトルの周波数積分値Iを示す図である。各周波数スペクトルの周波数積分値Iは、
図4A~
図4Eにおいて網掛けで示された領域の面積で表される。なお、
図2又は
図3に示すように、領域REBaから領域REBeへ向かうにつれ深度が深くなっていく。
【0056】
超音波は被検体内で減衰するから、
図4A~
図4C及び
図4Eに示すように、評価範囲に含まれる各領域REBについては、深度が深くなるにつれ、受信ビームデータRBの信号強度が徐々に小さくなり、周波数スペクトルの周波数積分値Iも徐々に小さくなる傾向となる。すなわち、周波数積分値Iは、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。なお、
図4Dに示すように、評価範囲に含まれない領域REBdにおいては、構造物の壁部からの反射波などの影響によって、領域REBdの周波数スペクトルの周波数積分値Iは、深度方向領域列RRBにおける減少傾向からはかなり外れた値となる。したがって、減衰量推定部26は、評価範囲に含まれない領域REBを除外して超音波の減衰量を推定する。
【0057】
また、減衰量推定部26は、深度方向に並ぶ各領域REBであって評価範囲に含まれる領域REBの、周波数スペクトルにおいて高周波数側へ向かうにつれ信号強度が小さくなる度合を表す信号強度傾きに基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。
図5A~
図5Eは、
図2に示された領域REBa~REBeそれぞれについての周波数スペクトルの上記信号強度傾きGを示す図である。各周波数スペクトルの信号強度傾きGは、
図5A~
図5Eにおいて一点鎖線で表される。
【0058】
超音波は被検体内で減衰するが、特に、高周波数成分が特に減衰する。したがって、
図5A~
図5C及び
図5Eに示すように、評価範囲に含まれる各領域REBについては、深度が深くなるにつれ、受信ビームデータRBの高周波成分が徐々に削られていき、その結果、信号強度傾きGの絶対値が徐々に大きくなる傾向となる。すなわち、信号強度傾きGの絶対値は、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。なお、
図5Dに示すように、評価範囲に含まれない領域REBdにおいては、構造物の壁部からの反射波などの影響によって、領域REBdの周波数スペクトルの信号強度傾きGの絶対値は、深度方向領域列RRBにおける増大傾向からはかなり外れた値となる。したがって、減衰量推定部26は、評価範囲に含まれない領域REBを除外して超音波の減衰量を推定する。
【0059】
また、減衰量推定部26は、深度方向に並ぶ各領域REBであって評価範囲に含まれる領域REBの、周波数スペクトルにおけるクロスポイント周波数に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。
図6A~
図6Eは、
図2に示された領域REBa~REBeそれぞれについての周波数スペクトルの信号成分S、ノイズ成分N、及びクロスポイントCPを示す図である。
【0060】
超音波が被検体内で減衰するに応じて、信号成分Sの高周波数成分が特に減衰する。一方、ノイズ成分N(特に超音波プローブ12又は超音波診断装置10の装置本体にて生じる電気ノイズ)の周波数成分の分布は、深度によってそれほど変化しない。したがって、
図6A~
図6C及び
図6Eに示すように、評価範囲に含まれる各領域REBについては、深度が深くなるにつれ、信号成分Sの高周波成分が徐々に削られていき、その結果、クロスポイントCPが徐々に低周波数側へ移動していく。すなわち、クロスポイント周波数は、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。なお、
図6Dに示すように、評価範囲に含まれない領域REBdにおいては、構造物の壁部からの反射波などの影響によって信号成分Sが極端に大きくなる(あるいは逆に小さくなる)ため、領域REBdの周波数スペクトルのクロスポイント周波数は、深度方向領域列RRBにおける減少傾向からはかなり外れた値となる。したがって、減衰量推定部26は、評価範囲に含まれない領域REBを除外して超音波の減衰量を推定する。
【0061】
なお、各領域REBにおけるノイズ成分Nは、超音波プローブ12の各振動素子が被検体からの反射波を受信しない環境(例えば超音波を空中に向けて送信したとき)において送受信部14が出力した受信ビームデータRBの各領域REBの信号強度とすることができる。したがって、予め、各領域REBのノイズ成分Nを取得しておき、メモリ34に記憶させておく。信号成分Sは、受信ビームデータRBの信号強度からノイズ成分Nを差し引くことで取得することができる。
【0062】
また、減衰量推定部26は、深度方向に並ぶ各領域REBであって評価範囲に含まれる領域REBの、周波数スペクトルの代表周波数に基づいて、超音波の減衰量を推定することができる。
図7A~
図7Eは、
図2に示された領域REBa~REBeそれぞれについての周波数スペクトルの代表周波数としての平均周波数AVを示す図である。各周波数スペクトルの平均周波数AVは、
図7A~
図7Eにおいて一点鎖線で表される。
【0063】
超音波は被検体内で減衰するが、特に、高周波数成分が特に減衰する。したがって、
図7A~
図7C及び
図7Eに示すように、評価範囲に含まれる各領域REBについては、深度が深くなるにつれ、周波数スペクトルが全体として低周波側へ寄っていき、その結果、平均周波数AVが徐々に小さくなる傾向となる。すなわち、平均周波数AVは、超音波の減衰の指標であると言えるため、これに基づいて超音波の減衰量を推定できる。なお、
図7Dに示すように、評価範囲に含まれない領域REBdにおいては、構造物の壁部からの反射波などの影響によって、受信ビームデータRBの信号強度が極端に大きくなる(あるいは逆に小さくなる)ため、領域REBdの周波数スペクトルの平均周波数AVは、深度方向領域列RRBにおける減少傾向からはかなり外れた値となる。したがって、減衰量推定部26は、評価範囲に含まれない領域REBを除外して超音波の減衰量を推定する。
【0064】
なお、本実施形態では、周波数スペクトルの代表周波数が平均周波数AVとなっているが、代表周波数は平均周波数AVに限られず、例えば中央周波数などであってもよい。
【0065】
減衰量推定部26は、上述のした方法のいずれか1つに基づいて、超音波の減衰量を推定する。あるいは、減衰量推定部26は、上述した複数の方法を組み合わせて超音波の減衰量を推定してもよい。
【0066】
具体的には、
図8に示すように、減衰量推定部26は、深度及び特徴量(周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AV)の2次元データ空間において、1つの深度方向領域列RRBに含まれる各領域REBの特徴量F(
図8では特徴量FA~FE)をプロットする。
【0067】
ここで、評価範囲に含まれない領域REBの特徴量F(
図8では特徴量FD)は除外されている。そして、減衰量推定部26は、残った特徴量FA,FB,FC,及びFEを近似する関数(2次関数、3次関数、あるいはそれ以上の次数の関数を含む)を演算し、演算した関数の係数を超音波の減衰量とする。本実施形態では、簡単のため、減衰量推定部26は、特徴量FA,FB,FC,及びFEの近似直線APを生成し、当該近似直線APの傾きの絶対値を超音波の減衰量とする。周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AVを組み合わせて減衰量を推定する場合は、各特徴量について演算した複数の近似直線APに基づいて(例えば複数の近似直線APの傾きの絶対値の平均値など)を超音波の減衰量とすることができる。
【0068】
減衰量推定部26は、各深度方向領域列RRBについて、超音波の減衰量(近似直線APの傾き)を演算する。各深度方向領域列RRBについての超音波の減衰量は互いに異なる場合があり、このまま当該減衰量に基づいてTGCを行うと、各深度方向領域列RRBについて輝度補正値が互いに異なってしまう場合がある。したがって、減衰量推定部26は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRBについて推定された複数の減衰量に基づいて、1つのフレーム全体に対応するフレーム減衰量を推定するとよい。フレーム減衰量は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRについて推定された複数の減衰量の代表値(例えば平均値)とすることができる。
【0069】
減衰量推定部26は、複数フレーム分の対象ビームデータに基づいて演算された、複数のフレームそれぞれについての複数の個別フレーム減衰量に基づいて、フレーム減衰量を推定するようにしてもよい。例えば、減衰量推定部26は、複数の個別フレーム減衰量の代表値(例えば平均値や中央値)をフレーム減衰量とすることができる。これにより、減衰量推定部26は、各フレームについての個別フレーム減衰量間の誤差を考慮してフレーム減衰量を推定することができる。
【0070】
また、減衰量推定部26は、複数のフレームそれぞれについての複数の個別フレーム減衰量の統計に基づいて、複数の個別フレーム減衰量のうち、フレーム減衰量の推定に用いる個別フレーム減衰量を決定するとよい。例えば、同一の被検体の同様な断面に対して超音波を送信している限りにおいては、各個別フレーム減衰量は、ほぼ同じ値を示すはずである。したがって、複数の個別フレーム減衰量において、他の個別フレーム減衰量とはかなり異なる値の個別フレーム減衰量が演算された場合、当該個別フレーム減衰量は正しい減衰量を示すものではない可能性が高い。したがって、減衰量推定部26は、そのような個別フレーム減衰量を除外して、フレーム減衰量を推定するとよい。
【0071】
例えば、減衰量推定部26は、演算された複数の個別フレーム減衰量の代表値(平均値又は中央値など)を演算する。そして、各個別フレーム減衰量と、演算した代表値との差分である偏差を演算し、偏差が所定の偏差閾値以上である個別フレーム減衰量はフレーム減衰量の演算に用いないようにする。換言すれば、減衰量推定部26は、偏差が偏差閾値未満である個別フレーム減衰量に基づいてフレーム減衰量を演算する。
【0072】
図9に示すように、1つの深度方向領域列RRBに含まれる評価範囲内と判定された各領域REBの特徴量Fが減少傾向(又は増大傾向)を示さず、ばらついてしまう場合も考えられる。このような場合でも、近似直線APを生成することはできるが、それが超音波の減衰量を正しく表している保証はない。したがって、減衰量推定部26は、深度方向領域列RRBについて演算された複数の特徴量Fが所定の除外基準を満たす場合は、当該深度方向領域列RRBを除外してフレーム減衰量を推定するとよい。
【0073】
例えば、減衰量推定部26は、生成した近似直線APと、評価範囲内の各領域REBの特徴量Fとの距離dを演算し、各領域REBについての複数の距離dを合計する。そして、距離dの合計値が所定の距離閾値以上である場合は、当該深度方向領域列RRBについての減衰量は、フレーム減衰量の推定には用いないようにする。
【0074】
<TGC処理>
画像形成部20は、減衰量推定部26により推定されたフレーム減衰量に基づいて、TGC処理を実行する。すなわち、画像形成部20は、当該フレーム減衰量が示す超音波の減衰を補償するように、深度に応じて超音波画像の各画素の輝度を変換する処理を行う。
【0075】
画像形成部20は、超音波診断装置10のユーザからの指示があったタイミングで、TGC処理を実行するとよい。例えば、
図10に示すように、表示制御部28がTGCボタン40をディスプレイ30に表示させ、TGCボタン40がユーザによって操作されたことをトリガとして、画像形成部20はTGC処理を実行するとよい。ユーザからのTGC処理の指示を入力するボタンは、入力インターフェース32に設けられていてもよい。TGC処理を常時実行していると、ディスプレイ30に表示されるBモード画像の輝度が刻々と変化してしまう(ちらついてしまう)場合があり、かえって見づらくなってしまう場合がある。画像形成部20がユーザからの指示に応じてTGC処理を実行するようにすることで、ユーザは任意のタイミングでTGC処理を実行させることができ、Bモード画像のちらつきを抑制することなどができる。
【0076】
また、超音波プローブ12に加速度センサを設けておけば、画像形成部20は、当該加速度センサからの信号に基づいて、超音波プローブ12の姿勢の変化を検出することができる。この場合、画像形成部20は、超音波プローブ12の姿勢が安定したと判定した場合に、TGC処理を実行するとよい。これにより、ユーザが被検体の目的の位置に超音波プローブ12を当てて維持させたときに、自動的にTGC処理を実行することができる。
【0077】
<本実施形態に係る超音波診断装置が奏する効果>
本実施形態に係る超音波診断装置10の概要は以上の通りである。本実施形態では、評価範囲決定部24により、被検体内の構造物を含む領域REB又は領域REFは、超音波の減衰量を推定する対象となる評価範囲から除外される。これにより、TGC処理において、被検体内の構造物の影響を低減することができる。また、本実施形態では、減衰量推定部26は、ある程度の広さを有する領域REB毎に受信ビームデータRBの周波数スペクトルを演算し、深度方向に並ぶ複数の領域REBの周波数スペクトルに基づいて、超音波画像の減衰量を推定している。これにより、TGC処理において、スペックルの影響を低減することができる。
【0078】
<超音波診断装置の処理の流れ>
以下、
図11~13に示すフローチャートに従って、超音波診断装置10の処理の流れを説明する。
図11は、超音波診断装置10の処理全体の流れを示すフローチャートである。
【0079】
ステップS10において、評価範囲決定部24は評価範囲を決定する。評価範囲の決定処理の流れは、
図12を参照しつつ後述する。
【0080】
ステップS12において、減衰量推定部26は超音波の減衰量を推定する。超音波の減衰量の推定処理の流れは、
図13を参照しつつ後述する。
【0081】
ステップS14において、検波処理部18は、信号処理部16からの受信ビームデータRB(特に対象ビームデータ)に対して検波処理を実行する。なお、ステップS10及びS12と、ステップS14の処理は並列に実行することができる。
【0082】
ステップS16において、画像形成部20は、検波処理後の受信ビームデータRB(特に対象ビームデータ)に基づいて超音波画像(Bモード画像)を形成する。また、画像形成部20は、超音波画像の形成処理において、又は、形成した超音波画像に対して、ステップS12で推定された超音波の減衰量に基づいて、TGC処理を実行する。
【0083】
ステップS18において、表示制御部28は、ステップS16で形成された超音波画像をディスプレイ30に表示させる。
【0084】
図12は、評価範囲決定処理の流れを示すフローチャートである。
【0085】
ステップS30において、送受信部14は、超音波プローブ12に対して送信信号を供給する。これにより、超音波プローブ12の複数の振動素子から被検体に対して超音波が送信される。
【0086】
ステップS32において、超音波プローブ12の複数の振動素子は、被検体からの反射波を受信して、送受信部14に対して受信信号を送信する。これにより、送受信部14は受信信号を取得する。送受信部14は、受信信号に対して受信ビームフォーミングを行い、評価範囲決定用受信ビームデータを形成する。検波処理部18による評価範囲決定用受信ビームデータに対する検波処理などによって、評価範囲決定用フレームデータが形成される。評価範囲決定用フレームデータはシネメモリ22に格納される。
【0087】
ステップS34において、評価範囲決定部24は、フレームデータFRのデータ空間において予め定義された複数の領域REFから注目領域を選択する。
【0088】
ステップS36において、評価範囲決定部24は、ステップS34で選択した注目領域に含まれる複数の画素の輝度値の代表輝度値(例えば平均輝度値)を演算する。そして、評価範囲決定部24は、演算した代表輝度値が、予め定められた輝度閾値以上であるか否かを判定する。代表輝度値が輝度閾値未満の場合、注目領域は例えば血管に含まれる領域REFである可能性が高い。そのため、この場合はステップS38に進み、評価範囲決定部24は、当該領域REFを評価範囲外の領域REFとする。代表輝度値が輝度閾値以上である場合は、ステップS40に進む。
【0089】
ステップS40において、評価範囲決定部24は、ステップS34で選択した注目領域に含まれる複数の画素の輝度値のばらつき具合(例えば標準偏差)を演算する。そして、評価範囲決定部24は、演算したばらつき具合が、予め定められたばらつき閾値未満であるか否かを判定する。ばらつき具合がばらつき閾値以上の場合、注目領域には対象物が含まれている可能性が高い。そのため、この場合はステップS38に進み、評価範囲決定部24は、当該領域REFを評価範囲外の領域REFとする。ばらつき具合がばらつき閾値未満である場合は、ステップS42に進む。
【0090】
ステップS44において、評価範囲決定部24は、当該領域REFを評価範囲内の領域REFとする。
【0091】
ステップS44において、ステップS34~S42の処理が全ての領域REFについて行われたか否かを判定する。処理を実行していない領域REFが残っている場合は、ステップS34に戻り、評価範囲決定部24は、他の領域REFを注目領域として選択する。全ての領域REFについての処理が完了している場合は、評価範囲決定処理を終了する。
【0092】
図13は、減衰量推定処理の流れを示すフローチャートである。
【0093】
ステップS50において、送受信部14は、超音波プローブ12に対して送信信号を供給する。これにより、超音波プローブ12の複数の振動素子から被検体に対して超音波が送信される。
【0094】
ステップS52において、超音波プローブ12の複数の振動素子は、被検体からの反射波を受信して、送受信部14に対して受信信号を送信する。これにより、送受信部14は受信信号を取得する。送受信部14は、受信信号に対して受信ビームフォーミングを行い、時系列において評価範囲決定用受信ビームデータに後続する対象ビームデータを形成する。
【0095】
ステップS54において、減衰量推定部26は、受信ビームデータRBのデータ空間において予め定義された複数の領域REBから注目領域を選択する。
【0096】
ステップS56において、減衰量推定部26は、ステップS54で選択した注目領域が評価範囲内であるか否かを判定する。選択した注目領域が評価範囲外である場合は、ステップS54に戻り、減衰量推定部26は他の領域REBを注目領域として選択する。選択した注目領域が評価範囲内である場合はステップS58に進む。
【0097】
ステップS58において、減衰量推定部26は、注目領域において、受信ビームデータRBに対してFFTを実行する。これにより、注目領域についての受信ビームデータRBの周波数スペクトルが取得される。次いで、減衰量推定部26は、取得した周波数スペクトルの特徴量(上述の周波数積分値I、信号強度傾きGの絶対値、クロスポイント周波数、又は、平均周波数AVなど)を取得する。
【0098】
ステップS60において、減衰量推定部26は、ステップS54~S58の処理が全ての領域REBについて行われたか否かを判定する。処理を実行していない領域REBが残っている場合は、ステップS54に戻る。全ての領域REBについての処理が完了している場合はステップS62に進む。ステップS54~S60までの処理により、評価範囲内の領域REBについての特徴量が取得される。
【0099】
ステップS62において、減衰量推定部26は、複数の深度方向領域列RRBから注目深度方向領域列を選択する。
【0100】
ステップS64において、減衰量推定部26は、深度及び特徴量の2次元データ空間において、選択された注目深度方向領域列に含まれ評価範囲に含まれる各領域REBについての特徴量をプロットする(
図8参照)。そして、プロットされた各特徴量の近似直線APを生成する。
【0101】
ステップS66において、減衰量推定部26は、選択された注目深度方向領域列に含まれ評価範囲に含まれる各領域REBについての特徴量が所定の除外基準を満たすか否かを判定する。除外基準を満たす場合は、減衰量推定部26は、注目深度方向領域列をフレーム減衰量の推定には用いないようにし、ステップS62に戻り、他の注目深度方向領域列を選択する。除外基準を満たさない場合は、ステップS64で生成された近似直線APの傾きの絶対値を注目深度方向領域列における超音波の減衰量として推定する。その後、ステップ68に進む。
【0102】
ステップS68において、ステップS62~S66の処理が、1フレーム分の全ての深度方向領域列RRBについて行われたか否かを判定する。処理を実行していない深度方向領域列RRBが残っている場合は、ステップS62に戻る。全ての深度方向領域列RRBについての処理が完了している場合はステップS70に進む。ステップS62~S66までの処理により、全ての深度方向領域列RRBについての超音波の減衰量が取得される。
【0103】
ステップS70において、減衰量推定部26は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRBについて推定された複数の減衰量に基づいて、1フレームに対応するフレーム減衰量を推定する。例えば、減衰量推定部26は、1フレーム分の複数の深度方向領域列RRBについて推定された複数の減衰量の平均値をフレーム減衰量とする。
【0104】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0105】
例えば、本実施形態では、超音波プローブ12は、一列に並ぶ振動素子を有するプローブであるが、超音波プローブ12は、2次元に並ぶ振動素子を有する2D(Dimension)アレイプローブであってもよい。そして、超音波診断装置10の各部の処理対象である受信ビームデータとは、2Dアレイプローブによって得られた、深度方向、方位方向、及び、スライス方向に延びる3次元のボリュームデータを構成するものであってもよい。
【符号の説明】
【0106】
10 超音波診断装置、12 超音波プローブ、14 送受信部、16 信号処理部、18 検波処理部、20 画像形成部、22 シネメモリ、24 評価範囲決定部、26 減衰量推定部、28 表示制御部、30 ディスプレイ、32 入力インターフェース、34 メモリ、36 制御部、40 TGCボタン、RB 受信ビームデータ、REB,REF 領域、RRB,RRF 深度方向領域列、FR フレームデータ、I 周波数積分値、G 信号強度傾き、CP クロスポイント、AV 平均周波数、F 特徴量、AP 近似直線、d 距離。