(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084518
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198832
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 美咲
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE04
4C601HH28
4C601HH38
4C601JB31
4C601JB45
4C601JB49
(57)【要約】
【課題】受信ビームデータのデータ空間における領域毎及び周波数区域毎のS/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させることが可能な超音波診断装置を提供する。
【解決手段】送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子からの、整相された複数の受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータを生成する。S/N推定部18は、領域Re毎に、検波処理前の、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータRbそれぞれに対して周波数解析を実行する。S/N推定部18は、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、各受信チャネルの信号の加算数に対するスペクトル強度の近似直線APの傾きを演算する。当該傾きがS/N指標となる。信号処理部20は、領域Re毎及び周波数区域F毎のS/N指標に基づいて、領域Re毎にバンドパスフィルタを生成し、検波処理前の受信ビームデータRbに対して適用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送受波することで得られた、複数の受信チャネルに対応する複数の受信チャネル信号であって整相処理により整相された複数の受信チャネル信号を加算して受信ビームデータを生成する加算データ生成部であって、前記受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の前記受信ビームデータを生成する加算データ生成部と、
前記受信ビームデータのデータ空間において予め定められた領域毎に、検波処理前の、前記受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の前記受信ビームデータそれぞれに対して周波数解析を実行し、前記領域毎及び周波数区域毎に、前記加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいてS/N指標を推定するS/N推定部と、
前記領域毎及び前記周波数区域毎に推定された前記S/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させるための、前記領域毎に異なる高画質化処理を実行する高画質化部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
被検体に対して超音波を送受波することで得られた、複数の受信チャネルに対応する複数の受信チャネル信号に対する整相加算処理により受信ビームデータを生成する受信ビームデータ生成部と、
同一の走査線位置に対応する複数の前記受信ビームデータを加算して、加算受信ビームデータを生成する加算データ生成部であって、前記複数の受信ビームデータの加算数が互いに異なる複数の前記加算受信ビームデータを生成する加算データ生成部と、
前記受信ビームデータのデータ空間において予め定められた領域毎に、検波処理前の複数の前記加算受信ビームデータそれぞれに対して周波数解析を実行し、前記領域毎及び周波数区域毎に、前記加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいてS/N指標を推定するS/N推定部と、
前記領域毎及び前記周波数区域毎に推定された前記S/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させるための、前記領域毎に異なる高画質化処理を実行する高画質化部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
前記高画質化部は、前記領域毎及び前記周波数区域毎に推定された前記S/N指標に基づいて、バンドパスフィルタを前記領域毎に生成し、生成した前記領域毎の前記バンドパスフィルタを検波処理前の受信ビームデータに適用する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記加算データ生成部は、送信間開口合成によって前記加算受信ビームデータを生成し、前記送信間開口合成における前記受信ビームデータの加算数が互いに異なる複数の前記加算受信ビームデータを生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記加算データ生成部は、1フレーム分の複数の前記受信ビームデータであるフレームデータを加算することによって前記加算受信ビームデータを生成し、前記フレームデータの加算数が互いに異なる複数の前記加算受信ビームデータを生成する、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記S/N推定部は、前記領域毎及び前記周波数区域毎に、前記加算数と前記スペクトル強度との2次元データ空間における、各前記加算数に対する前記スペクトル強度に対する近似直線の傾きを演算し、演算された前記傾きを前記領域毎及び前記周波数区域毎の前記S/N指標として推定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記S/N推定部は、各加算数について予め定められた補正係数に基づいて、前記スペクトル強度を補正した補正スペクトル強度を演算し、前記2次元データ空間における、各前記加算数に対する前記補正スペクトル強度に対する近似直線の傾きを前記S/N指標として推定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、超音波診断装置の改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体に向けて超音波が送受波され、それにより得られた受信信号に基づいて受信ビームデータを形成し、受信ビームデータから超音波画像を形成し、形成された超音波画像をディスプレイに表示する超音波診断装置が知られている。超音波診断装置においては、ノイズ低減などを目的として、受信信号に対して帯域通過フィルタ(バンドパスフィルタ)を施す処理が行われる。
【0003】
従来、被検体の深度毎に互いに異なるバンドパスフィルタを適用することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、深度毎の時間利得制御のゲインを調整する複数のSTCコントロールを備える超音波診断装置であって、各STCコントロールによって指定されたゲインに応じて、各深度に適用されるバンドパスフィルタを設定する超音波診断装置が開示されている。また、特許文献2には、超音波プローブから取得した受信信号に対して、深度毎に周波数解析を行うことで、深度毎の周波数特性を取得し、取得した深度毎の周波数特性に基づいて、深度毎にバンドパスフィルタを設定する超音波診断装置が開示されている。また、特許文献3には、超音波プローブから取得した受信信号を解析することで各深度に関する信号特性値(例えば周波数)を取得し、取得した深度毎の周波数に基づいて、深度毎にバンドパスフィルタを設定する超音波診断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-250833号広報
【特許文献2】特開2021-83956号広報
【特許文献3】特開2021-159511号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、受信ビームデータのデータ空間において、領域毎、且つ、(受信ビームデータの)周波数区域毎にS/N比を推定することが有益となる場合がある。推定された領域毎且つ周波数区域毎のS/N比に基づいて、領域毎且つ周波数区域毎に適応的な超音波画像の高画質化処理を実行することが可能となる。適応的な高画質化処理の一例としては、領域毎に異なるバンドパスフィルタを適用することが挙げられる。
【0007】
本明細書で開示される超音波診断装置の目的は、受信ビームデータのデータ空間における領域毎及び周波数区域毎のS/N指標を推定し、推定したS/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させることが可能な超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示される超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受波することで得られた、複数の受信チャネルに対応する複数の受信チャネル信号であって整相処理により整相された複数の受信チャネル信号を加算して受信ビームデータを生成する加算データ生成部であって、前記受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の前記受信ビームデータを生成する加算データ生成部と、前記受信ビームデータのデータ空間において予め定められた領域毎に、検波処理前の、前記受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の前記受信ビームデータそれぞれに対して周波数解析を実行し、前記領域毎及び周波数区域毎に、前記加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいてS/N指標を推定するS/N推定部と、前記領域毎及び前記周波数区域毎に推定された前記S/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させるための、前記領域毎に異なる高画質化処理を実行する高画質化部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
同一の送信ビームによって得られた、複数の受信チャネルに対応する整相処理された複数の受信チャネル信号の信号成分は、位相も振幅も概ね同じ信号となる。したがって、理想的には、受信チャネル信号をN個加算すると、各周波数区域の信号成分は、それぞれ約N倍となる。一方、各受信チャネル信号のノイズ成分は、位相も振幅もばらばらである。したがって、これらをN個加算しても、各周波数区域のノイズ成分は、N倍にはならず、それよりも小さい値にしかならない。一般に、相関のない複数のノイズが加わった場合の実効値は、各ノイズの実効値の2乗和の平方根で表され、各受信チャネルのノイズ成分をN個加算した場合、各周波数区域のノイズ成分は、近似的に√N倍となる。
【0010】
したがって、ある領域の受信ビームデータの信号成分が多い程、加算数を増やしていくにつれS/N指標がより大きくなる。すなわち、受信チャネルの信号の加算数に対するスペクトル強度の増加量が、S/N指標を表すことになる。S/N推定部が、各領域及び各周波数区域について、受信チャネルの信号の加算数に対するスペクトル強度の増加量を演算することで、領域毎及び周波数区域毎に、S/N指標を推定することができる。これにより、高画質化部が、領域毎及び周波数区域毎のS/N指標に基づいて、超音波画像の高画質化処理が可能となる。
【0011】
また、本明細書で開示される超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受波することで得られた、複数の受信チャネルに対応する複数の受信チャネル信号に対する整相加算処理により受信ビームデータを生成する受信ビームデータ生成部と、同一の走査線位置に対応する複数の前記受信ビームデータを加算して、加算受信ビームデータを生成する加算データ生成部であって、前記複数の受信ビームデータの加算数が互いに異なる複数の前記加算受信ビームデータを生成する加算データ生成部と、前記受信ビームデータのデータ空間において予め定められた領域毎に、検波処理前の複数の前記加算受信ビームデータそれぞれに対して周波数解析を実行し、前記領域毎及び周波数区域毎に、前記加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいてS/N指標を推定するS/N推定部と、前記領域毎及び前記周波数区域毎に推定された前記S/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させるための、前記領域毎に異なる高画質化処理を実行する高画質化部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
当構成においても同様に、ある領域の受信ビームデータの信号成分が多い程、同一の走査線位置に対応する受信ビームデータの加算数を増やしていくにつれS/N指標がより大きくなる。すなわち、受信ビームデータの加算数に対するスペクトル強度の増加量が、S/N指標を表すことになる。S/N推定部が、各領域及び各周波数区域について、受信ビームデータの加算数に対するスペクトル強度の増加量を演算することで、領域毎及び周波数区域毎に、S/N指標を推定することができる。これにより、高画質化部が、領域毎及び周波数区域毎のS/N指標に基づいて、超音波画像の高画質化処理が可能となる。
【0013】
前記高画質化部は、前記領域毎及び前記周波数区域毎に推定された前記S/N指標に基づいて、バンドパスフィルタを前記領域毎に生成し、生成した前記領域毎の前記バンドパスフィルタを検波処理前の受信ビームデータに適用するとよい。
【0014】
当該構成によれば、領域毎に互いに異なるバンドパスフィルタを適用することができ、領域毎に適切なノイズ低減などを行うことができる。
【0015】
前記加算データ生成部は、送信間開口合成によって前記加算受信ビームデータを生成し、前記送信間開口合成における前記受信ビームデータの加算数が互いに異なる複数の前記加算受信ビームデータを生成するとよい。
【0016】
前記加算データ生成部は、1フレーム分の複数の前記受信ビームデータであるフレームデータを加算することによって前記加算受信ビームデータを生成し、前記フレームデータの加算数が互いに異なる複数の前記加算受信ビームデータを生成するとよい。
【0017】
前記S/N推定部は、前記領域毎及び前記周波数区域毎に、前記加算数と前記スペクトル強度との2次元データ空間における、各前記加算数に対する前記スペクトル強度に対する近似直線の傾きを演算し、演算された前記傾きを前記領域毎及び前記周波数区域毎の前記S/N指標として推定するとよい。
【0018】
当該構成によれば、受信チャネル信号又は受信ビームデータの加算数に対するスペクトル強度の近似直線の傾きを求めることで、領域毎及記周波数区域毎のS/N指標を推定することができる。
【0019】
前記S/N推定部は、各加算数について予め定められた補正係数に基づいて、前記スペクトル強度を補正した補正スペクトル強度を演算し、前記2次元データ空間における、各前記加算数に対する前記補正スペクトル強度に対する近似直線の傾きを前記S/N指標として推定するとよい。
【0020】
当該構成によれば、加算対象となった受信チャネル信号が互いに同じ信号ではない場合、あるいは、加算対象となった受信ビームデータが互いに同じ信号ではない場合に、受信チャネル間、又は、受信ビームデータ間のスペクトル強度の差異を影響を低減させつつ、S/N指標を推定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で開示される超音波診断装置によれば、受信ビームデータのデータ空間における領域毎及び周波数区域毎のS/N指標に基づいて、超音波画像を高画質化させることが可能な超音波診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【
図2A】加算対象の受信チャネルを示す第1の図である。
【
図2B】加算対象の受信チャネルを示す第2の図である。
【
図2C】加算対象の受信チャネルを示す第3の図である。
【
図2D】加算対象の受信チャネルを示す第4の図である。
【
図3A】加算対象の受信チャネルを示す第5の図である。
【
図3B】加算対象の受信チャネルを示す第6の図である。
【
図3C】加算対象の受信チャネルを示す第7の図である。
【
図3D】加算対象の受信チャネルを示す第8の図である。
【
図4】ビームデータメモリに記憶される、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータを示す概念図である。
【
図5】1つの領域における、1つの加算数に対応する受信ビームデータの周波数スペクトルを示す図である。
【
図6】1つの領域及び1つの周波数区域における、受信チャネル信号加算数とスペクトル強度の関係を示す図である。
【
図7】補正係数によって補正されたスペクトル強度を示す図である。
【
図8】1つの領域における周波数区域毎のS/N指標を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【
図10】送信間開口合成における走査線位置及びビーム内位置を示す図である。
【
図11】第3実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置10の構成概略図である。超音波診断装置10は、病院などの医療機関に設置され、超音波検査時に使用される医用装置である。
【0024】
超音波診断装置10は、被検体に対して超音波ビームを走査し、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。例えば、超音波診断装置10は、受信信号に基づいて、走査面からの反射波の振幅強度が輝度に変換された断層画像(Bモード画像)を形成する。あるいは、超音波診断装置10は、送信波と受信波の周波数の差分(ドプラシフト)に基づいて、被検体内の組織の運動速度を表す超音波画像であるドプラ画像を形成することもできる。本実施形態では、超音波診断装置10がBモード画像を形成する処理について説明する。
【0025】
超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う装置である。超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う複数の振動素子からなる振動素子アレイを有する。
【0026】
送受信部14は、制御部34(後述)からの制御によって、超音波プローブ12(詳しくは振動素子アレイの各振動素子)に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から被検体に向けて超音波が送信される。一度に複数の振動素子から超音波が送信され、送受信部14は、各振動素子からの超音波の送信タイミングを制御することによって、複数の振動素子から複数の方向に超音波ビーム(送信ビーム)が送信される。また、送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子から受信信号を受信する。本明細書では、各振動素子から受信した受信信号を、各受信チャネルの受信信号と呼び、さらに、受信チャネルの受信信号を受信チャネル信号と呼ぶ。
【0027】
送受信部14は、各受信チャネルに対応した複数の遅延器を有しており、当該複数の遅延器により、複数の受信チャネル信号の位相を揃える整相処理を行う。
【0028】
また、送受信部14は、加算器を有しており、当該加算器により、同一の送信ビームによって得られ整相処理された複数の受信チャネル信号を加算して、受信ビームデータを生成する。1つの受信ビームデータは、1つの超音波の走査線(スキャンライン;換言すれば送信ビームの送信方向)に対応するデータであり、被検体の各深度からの反射波の信号強度を示す情報を含むデータである。
【0029】
送受信部14は、制御部34からの制御によって、整相された複数の受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータを生成する。
図2A~
図2D及び
図3A~
図3Dは、加算対象の受信チャネルChを示す図である。
図2A~
図2D及び
図3A~
図3Dには、模擬的な例示として、有効受信開口に含まれる12個の受信チャネルChが示されている。一点鎖線は、有効受信開口の中心Mを示している。有効受信開口の中心Mは、送信ビームの送信方向(中心)でもある。
図2A~
図2D及び
図3A~
図3Dにおいては、黒で示された受信チャネルChは、受信チャネル信号が加算対象である受信チャネルChを示し、白で示された受信チャネルChは、受信チャネル信号が加算対象ではない受信チャネルChを示している。
【0030】
図2A~
図2Dに示されるように、例えば、送受信部14は、2つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図2A)、4つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図2B)、6つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図2C)、及び、8つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図2D)の複数の受信ビームデータを生成する。なお、各受信チャネルChの受信チャネル信号は、それが受信ビームデータの生成のために加算されるか否かに関係なく、全て受信チャネルメモリ(不図示)に記憶されている。したがって、送受信部14は、受信チャネルメモリに記憶されている複数の受信チャネル信号から、受信ビームデータの生成に用いる(すなわち加算の対象となる)受信チャネルを選択すればよい。
【0031】
図2A~
図2Dでは、いずれも、有効受信開口の中心M側の受信チャネルChの受信チャネル信号を加算しているが、必ずしもそうである必要はない。例えば、
図3A~
図3Cに示されるように、有効受信開口の端から1又は複数個おきに、受信チャネル信号を加算する受信チャネルChを選択するようにしてもよい。
図3A~
図3Dに示される例では、送受信部14は、3つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図3A)、4つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図3B)、6つの受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図3C)、及び、12個の受信チャネルChの受信チャネル信号を加算した受信ビームデータ(
図3D)の複数の受信ビームデータを生成している。
【0032】
本実施形態では、送受信部14は、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる、複数の1フレーム分の受信ビームデータを生成する。本明細書においては、1フレーム分の受信ビームデータをフレームデータと呼ぶ。フレームデータは、1枚の超音波画像に対応するものである。なお、送受信部14は、1つの加算数について、必ずしも1フレーム全体分の受信ビームデータを生成する必要はなく、少なくとも超音波画像の高画質化の対象領域をカバーする受信ビームデータを生成すればよい。
【0033】
上述のように、第1実施形態では、送受信部14が加算データ生成部に相当する。
【0034】
送受信部14により生成された、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータは、ビームデータメモリ16に格納される。
図4は、ビームデータメモリ16に記憶される、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータRbを示す概念図である。
図4では、方位方向及び深度方向の2次元データ空間において、1つの加算数に対応する1フレーム分の受信ビームデータRb(つまりフレームデータ)が表されている。また、
図4では、方位方向及び深度方向に直交する加算数方向において、加算数が異なる複数のフレームデータが並んでいる。
【0035】
受信ビームデータRbのデータ空間においては、予め複数の領域Reが定義されている。本実施形態では、1フレーム分の受信ビームデータRbのデータ空間において隙間なく2次元方向に並ぶ複数の領域Reが定義されている。なお、領域Reは、必ずしも1フレーム分の受信ビームデータRbのデータ空間の全体をカバーする必要はなく、少なくとも超音波画像の高画質化の対象領域をカバーように定義されればよい。受信ビームデータRbのデータ空間における各領域Reは、超音波画像上の各領域に対応するものである。本明細書では、受信ビームデータRbのデータ空間における領域Reに対応する超音波画像上の領域も、便宜上、領域Reと記載する。
【0036】
S/N推定部18は、領域Re毎に、検波処理前の(すなわち周波数情報を有している)、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータRbそれぞれに対して周波数解析(例えばFFT(Fast Fourier Transform))を実行する。
図5は、1つの領域Reにおける、1つの加算数に対応する受信ビームデータRbの周波数スペクトルを示す図である。S/N推定部18による周波数解析処理により、領域Re毎及び受信チャネル信号の加算数毎に、周波数スペクトルが取得される。
【0037】
図5に示すように、複数の周波数区域Fが予め定義されている。周波数区域Fとは、ある一定の周波数範囲(例えば○○Hz~××Hzなど)を示すものである。そして、S/N推定部18は、取得した周波数スペクトルに基づいて、各周波数区域Fについてのスペクトル強度Siを演算する。スペクトル強度Siは、当該周波数区域Fに含まれるスペクトル強度の代表値(例えば平均値や中央値)であってよい。これにより、領域Re毎、受信チャネル信号の加算数毎、及び、周波数区域F毎にスペクトル強度Siが取得される。
【0038】
図6は、1つの領域Re及び1つの周波数区域Fにおける、加算数とスペクトル強度の関係を示す図である。S/N推定部18は、受信チャネル信号の加算数、及び、スペクトル強度の2次元データ空間において、1つの領域Re及び1つの周波数区域Fについての、各受信チャネルの信号の加算数に対するスペクトル強度をプロットする。そして、S/N推定部18は、プロットされた各受信チャネルの信号の加算数に対するスペクトル強度の近似直線APを求め、近似直線APの傾きを演算する。
【0039】
ここで、近似直線APの傾きは、当該領域Reの当該周波数区域FにおけるS/N指標を示すパラメータとなる。S/N指標とは、ノイズ成分に対する信号成分の割合を示し、S/N指標が大きい程ノイズ成分が少なく信号成分が多いことを表し、S/N指標が小さい程ノイズ成分が多く信号成分が少ないことを表す。
【0040】
図2A~
図2D又は
図3A~
図3Dを参照し、同一の送信ビームに対して有効受信開口に含まれる各受信チャネルChの整相処理された受信チャネル信号の信号成分は、位相も振幅も概ね同じ信号となる。したがって、理想的には、これらをN個加算すると、各周波数区域Fの信号成分は、それぞれ約N倍となる。一方、各受信チャネル信号のノイズ成分は、位相も振幅もばらばらである。したがって、これらをN個加算しても、各周波数区域Fのノイズ成分は、N倍にはならず、それよりも小さい値にしかならない。各受信チャネルChのノイズ成分をN個加算した場合、各周波数区域Fのノイズ成分は、近似的に√N倍となる。
【0041】
したがって、ある領域Reの受信ビームデータRbの信号成分が多い程、加算数を増やしていくにつれS/N指標がより大きくなる。すなわち、各受信チャネルの信号の加算数に対するスペクトル強度の近似直線APの傾きがS/N指標を表すことになる。例えば、理想的に、受信ビームデータRbが全て信号成分であった場合、加算数がNの場合にスペクトル強度もN倍になるから、近似直線APの傾きは、N/Nすなわち1となる。逆に、受信ビームデータRbが全てノイズ成分であった場合、加算数がNの場合にスペクトル強度は√N倍になるから、近似直線APの傾きは√N/N倍にしかならない。受信ビームデータRbの信号成分が増える(ノイズ成分が減る)につれ、近似直線APの傾きは、√N/Nから1に向かって大きくなっていく。
【0042】
上述のように、理想的には、同一の送信ビームに対して有効受信開口に含まれる各受信チャネルChの整相処理された信号の信号成分は概ね同じ信号となる。しかしながら、各受信チャネルChの整相処理された信号の信号成分が同じ信号とならない場合が考えられる。例えば、一般に、超音波プローブ12の振動素子は、素子サイズと信号の周波数とに依存する感度指向性を有するため、送信ビームの中心から近い受信チャネルCh(例えば
図2Dの受信チャネルCha)の信号成分が、送信ビームの中心から遠い受信チャネルCh(例えば
図2Dの受信チャネルChb)の信号成分よりも大きくなる場合がある。この場合、理想的に、受信ビームデータRbが全て信号成分であっても、加算数をNとした場合、スペクトル強度はN倍にならない場合がある。
【0043】
したがって、S/N推定部18は、受信チャネル信号の加算数毎に予め定義された補正係数に基づいて、各加算数に対するスペクトル強度を補正するとよい。補正係数は、受信チャネル信号の各加算数における、加算対象の受信チャネルChの送信ビーム中心に対する位置などに基づいて予め定義され、メモリ32に記憶させておけばよい。その上で、
図7に示すように、S/N推定部18は、各加算数に対する補正係数に基づいて、各加算数に対するスペクトル強度(
図7において黒丸)を補正した補正スペクトル強度(
図7において黒三角)を演算する。そして、S/N推定部18は、受信チャネル信号の加算数、及び、スペクトル強度の2次元データ空間における、各加算数に対する補正スペクトル強度の近似直線APを求め、当該近似直線APの傾きをS/N指標として推定するとよい。
【0044】
S/N推定部18は、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、上記処理を行い、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に近似直線APの傾きを演算する。つまり、S/N推定部18は、受信チャネル信号の加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいて、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、S/N指標を推定する。
【0045】
図8は、1つの領域Reにおける周波数区域F毎のS/N指標を示す図である。上述のように、S/N推定部18は、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎にS/N指標を推定するから、1つの領域Reについてみると、
図8に示すように、各周波数区域F毎にS/N指標が推定されることになる。
【0046】
信号処理部20は、送受信部14からの受信ビームデータに対して、バンドパスフィルタを適用するフィルタ処理などを含む各種信号処理を実行する。特に、信号処理部20は、S/N推定部18が推定した、領域Re毎及び周波数区域F毎のS/N指標に基づいて、領域Re毎にバンドパスフィルタを生成する。
【0047】
図8を参照して、具体的には、信号処理部20は、推定されたS/N指標が、予め定められたS/N閾値以上の周波数区域Fの信号を通過するようなバンドパスフィルタを領域Re毎に生成する。例えば、
図8に示された周波数区域F毎のS/N指標を有する領域Reに対しては、周波数f1から周波数f2までの信号を通すようなバンドパスフィルタを生成する。各領域Re間において、周波数区域F毎のS/N指標は互いに異なるものとなり得るから、各領域Reに対して生成されるバンドパスフィルタも互いに異なるものとなり得る。
【0048】
信号処理部20は、超音波画像を高画質化させるための高画質化処理として、各領域Reについて生成したバンドパスフィルタを、検波処理前の受信ビームデータRbに対して適用する。すなわち、周波数区域F毎のS/N指標が領域Re毎に異なっていたとしても、各領域Reに適したバンドパスフィルタを適用することができる。これにより、超音波画像の各領域Reを適応的に高画質化させることができるようになる。例えば、超音波画像において、位置(領域Re)毎に、過度にノイズ抑制を行って分解能を損なうことなく、適切なノイズ低減を実行できるようになる。このように、信号処理部20は高画質化部に相当する。
【0049】
信号処理部20は、ビームデータメモリ16に記憶された、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータRbと同一フレームの受信ビームデータRb(つまり同一の送信ビームによって得られたフレームデータ)に対して、上述のバンドパスフィルタを適用することができる。
【0050】
また、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータRbの生成処理、S/N推定部18によるS/N指標の推定処理などによる遅延を抑制する観点から、信号処理部20は、バンドパスフィルタの適用対象となる受信ビームデータRbを、当該バンドパスフィルタを生成するための、受信チャネル信号の加算数が互いに異なる複数の受信ビームデータRbの1又は複数後のフレームの受信ビームデータRbにしてもよい。
【0051】
さらに、超音波画像が示す被検体の断面に変更がなければ、各領域Reにおける各周波数区域FのS/N指標はそれほど大きな変化がないと考えられる。したがって、信号処理部20は、1度生成した各領域Reのバンドパスフィルタを、超音波画像が示す被検体の断面が変更されるまで使用し続けるようにしてもよい。超音波画像が示す被検体の断面が変更されたか否かは、後述の画像形成部24が形成した超音波画像をフレーム間で比較することで判定することができる。あるいは、超音波プローブ12に加速度センサを設けて置き、加速度センサからの信号に基づいて超音波プローブ12の姿勢を検出し、超音波プローブ12の姿勢が変更されたことをもって、超音波画像が示す被検体の断面が変更されたと判定するようにしてもよい。
【0052】
検波処理部22は、信号処理部20による処理後の受信ビームデータRbに対して検波処理(例えば包絡線検波処理)、対数圧縮処理、などの処理を実行する。検波処理部22による検波処理によって、受信ビームデータRbは位相情報(周波数情報)を失う。
【0053】
画像形成部24は、検波処理部22において検波処理などされたフレームデータに基づいて、超音波画像(Bモード画像)を形成する。
【0054】
表示制御部26は、画像形成部24で形成された超音波画像及びその他の種々の情報をディスプレイ28に表示させる制御を行う。ディスプレイ28は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などから構成される表示器である。
【0055】
入力インターフェース30は、例えばボタン、トラックボール、タッチパネルなどから構成される。入力インターフェース30は、ユーザの命令を超音波診断装置10に入力するために用いられる。
【0056】
メモリ32は、(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、あるいはROM(Read Only Memory)などを含んで構成される。メモリ32には、超音波診断装置10の各部を動作させるための超音波診断プログラムが記憶される。なお、超音波診断プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。超音波診断装置10は、そのような記憶媒体から超音波診断プログラムを読み取って実行することができる。
【0057】
制御部34は、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用のプロセッサ(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。制御部34としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。制御部34は、メモリ32に記憶された超音波診断プログラムに従って、超音波診断装置10の各部を制御する。
【0058】
なお、送受信部14、S/N推定部18、信号処理部20、検波処理部22、画像形成部24、及び、表示制御部26の各部は、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路などによって構成されている。これらの各部がハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。
【0059】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係る超音波診断装置10-2の構成概略図である。
図9において、第1実施形態に係る超音波診断装置10と同様の処理を実行する構成要素については、
図1と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
受信ビームデータ生成部としての送受信部40は、制御部34からの制御によって、超音波プローブ12に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から被検体に向けて超音波が送信される。一度に複数の振動素子から超音波が送信され、送受信部14は、各振動素子からの超音波の送信タイミングを制御することによって、複数の振動素子から複数の方向に超音波ビームが送信される。また、送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子から受信チャネル信号を受信する。送受信部40は、複数の受信チャネルに対応する複数の受信チャネル信号に対して整相加算処理を実行し、これにより受信ビームデータRbを生成する。
【0061】
信号処理部42は、送受信部40からの受信ビームデータRbに対して、バンドパスフィルタを適用するフィルタ処理などを含む各種信号処理を実行する。特に、信号処理部42は、後述のS/N推定部48が推定した、領域Re毎及び周波数区域F毎のS/N指標に基づいて、領域Re毎にバンドパスフィルタを生成する。バンドパスフィルタ生成処理の詳細については後述する。
【0062】
また、信号処理部42は、後述のS/N推定部48が用いる受信ビームデータRbに対しては、バンドパスフィルタ処理を行わない(スキップ)ようにしてもよい。又は、事前処理として、DC(直流)近傍成分のみをカットする広帯域な特性を持つバンドパスフィルタ処理を行ってもよい。
【0063】
信号処理部42によって信号処理された受信ビームデータRbは、LRIメモリと呼ばれるメモリ(不図示)に保持される。LRIメモリは、少なくとも、後述の開口合成処理によって1フレーム分の加算受信ビームデータを生成できる程度の受信ビームデータRbを記憶可能なメモリ容量を有している。
【0064】
開口合成処理部44は、互いに異なる送信ビームに基づいて得られた複数の受信ビームデータを加算する送信間開口合成を実行する。
図10を参照しつつ、送信間開口合成について説明する。
図10においては、横方向に走査線位置が示されており、走査線位置は、番号が端から順番に振られている。本明細書では、走査線位置を変数jで表す。
【0065】
送受信部40は、第1の送信ビーム(以後、「送信ビーム#1」というように記載する)を送信し、それに対する、複数の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRb(以後、送信ビーム#1に対応する複数の受信ビームデータRbを「受信ビーム#1」というように記載する)を生成する。
図10の例では、送受信部40は、走査線位置j=5を中心に送信ビーム#1を送信し、これにより、走査線位置j=1~9に対応する受信ビーム#1を生成している。本明細書では、1回の送信ビームに対する複数の受信ビームデータRbにおいて、ビーム内位置を示す番号が端から順番に振られている。本明細書では、ビーム内位置を変数kで表す。受信ビーム#1においては、k=jとなっている。なお、
図10の例は、開口合成処理を模擬的に示した図であり、実際には、開口合成処理部44は、1つの送信ビームに対して、8~48程度の走査線位置についての受信ビームデータRbを生成する。
【0066】
次いで、送受信部40は、送信ビーム#1に対して位置が走査方向にずれた送信ビーム#2を送信し、それに対する受信ビーム#2を受信する。
図10の例では、走査線位置j=6を中心に送信ビーム#2を送信し、これにより、走査線位置j=2~10に対応する受信ビーム#2を受信している。受信ビーム#2においては、k=j-1となっている。その後、送受信部40は、送信ビーム#2に対して、さらに位置が走査方向にずれた送信ビーム#3を送信し、それに対する受信ビーム#3を受信する。
図10の例では、走査線位置j=7を中心に送信ビーム#3を送信し、これにより、走査線位置j=3~11に対応する受信ビーム#3を受信している。受信ビーム#3においては、k=j-2となっている。
【0067】
このような処理を繰り返していくことにより、1つの走査線位置jに対して複数の受信ビームデータRbが得られることになる。1つの走査線位置jに対して得られる受信ビームデータRbの最大数は、送信ビームの送信回数と同じとなる。送信ビーム番号(受信ビーム番号)をhとし、受信ビーム#hにおけるビーム内位置kに対応する受信ビームデータRbをLRI(h,k)と表わすとすると、受信ビーム#hに含まれる受信ビームデータRbの数が9本の場合、例えば、j=12の走査線位置に対応する受信ビームデータRbは、以下の9本である。
LRI(4,9)、LRI(5,8)、LRI(6,7)、LRI(7,6)、LRI(8,5)、LRI(9,4)、LRI(10,3)、LRI(11,2)、LRI(12,1)
【0068】
開口合成処理部44は、同一の走査線位置jに対応する複数の受信ビームデータRbを加算(合成)することで、各走査線位置jに対応する加算受信ビームデータを生成する。なお、開口合成処理により、S/N比又は方位方向の分解能が向上するというような効果が得られる。
【0069】
本実施形態では、開口合成処理部44は、制御部34からの制御によって、同一の走査線位置jに対応する複数の受信ビームデータRbの加算数が互いに異なる複数の加算受信ビームデータを生成する。例えば、開口合成処理部44は、受信ビームデータRbの加算数が、3、5、7、9である複数の加算受信ビームデータを生成する。例えば、j=12の走査線位置における加算受信ビームデータをRFJ=12(N)と記載する場合(Nは加算数)、上述のように、j=12の走査線位置に対応する受信ビームデータRbが9本取得されている場合、加算数が3、5、7、9である場合の加算受信ビームデータRFJ=12(N)は、例えば以下のようになる。
RFJ=12(3)=LRI(7,6)+LRI(8,5)+LRI(9,4)
RFJ=12(5)=LRI(6,7)+LRI(7,6)+LRI(8,5)+LRI(9,4)+LRI(10,3)
RFJ=12(7)=LRI(5,8)+LRI(6,7)+LRI(7,6)+LRI(8,5)+LRI(9,4)+LRI(10,3)+LRI(11,2)
RFJ=12(9)=LRI(4,9)+LRI(5,8)+LRI(6,7)+LRI(7,6)+LRI(8,5)+LRI(9,4)+LRI(10,3)+LRI(11,2)+LRI(12,1)
もちろん、加算対象の受信ビームデータRbは上記に限られず、例えば加算数が3である場合、LRI(6,7)とLRI(8,5)とLRI(10,3)を加算するようにしてもよい。
【0070】
本実施形態では、開口合成処理部44は、受信ビームデータRbの加算数が互いに異なる、複数の1フレーム分の加算受信ビームデータ(加算フレームデータ)を生成する。なお、開口合成処理部44は、1つの加算数について、必ずしも1フレーム全体分の加算受信ビームデータを生成する必要はなく、少なくとも超音波画像の高画質化の対象領域をカバーする加算受信ビームデータを生成すればよい。
【0071】
上述のように、第2実施形態では、開口合成処理部44が加算データ生成部に相当する。
【0072】
開口合成処理部44により生成された、受信ビームデータRbの加算数が互いに異なる複数の加算受信ビームデータは、ビームデータメモリ46に格納される。
図4には、ビームデータメモリ46に記憶される、受信ビームデータRbの加算数が互いに異なる複数の加算受信ビームデータSRbが示されている。第1実施形態同様、第2実施形態においても、加算受信ビームデータSRbのデータ空間において、予め複数の領域Reが定義されている。なお、加算受信ビームデータSRbのデータ空間は、受信ビームデータRbのデータ空間同様、方位方向と深度方向によって規定されるデータ空間であるため、加算受信ビームデータSRbのデータ空間と、受信ビームデータRbのデータ空間とは、実質的に同義である。
【0073】
S/N推定部48は、領域Re毎に、検波処理前の(すなわち周波数情報を有している)、受信ビームデータRbの加算数が互いに異なる複数の加算受信ビームデータSRbそれぞれに対して周波数解析を実行する。これにより、領域Re毎及び受信ビームデータRbの加算数毎に、周波数スペクトル(
図5参照)が取得される。
【0074】
S/N推定部48は、第1実施形態同様、取得した周波数スペクトルに基づいて、各周波数区域Fについてのスペクトル強度Siを演算し、領域Re毎、受信ビームデータRbの加算数毎、及び、周波数区域F毎にスペクトル強度Siを取得する。そして、S/N推定部48は、受信ビームデータRbの加算数、及び、スペクトル強度の2次元データ空間において、1つの領域Re及び1つの周波数区域Fについての、各受信ビームデータRbの加算数に対するスペクトル強度をプロットする(
図6参照)。そして、S/N推定部48は、プロットされた各受信ビームデータRbの加算数に対するスペクトル強度の近似直線APを求め、近似直線APの傾きを演算する。
【0075】
ここでも、近似直線APの傾きは、当該領域Reの当該周波数区域FにおけるS/N指標を示すパラメータとなる。第1実施形態における受信チャネル信号と同様に、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbの信号成分は、位相も振幅も概ね同じ信号となる。したがって、理想的には、これらをN個加算すると、各周波数区域Fの信号成分は、それぞれ約N倍となる。一方、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbのノイズ成分は、位相も振幅もばらばらである。したがって、これらをN個加算しても、各周波数区域Fのノイズ成分は、N倍にはならず、それよりも小さい値(近似的に√N倍)にしかならない。
【0076】
したがって、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbの信号成分が多い程、加算数を増やしていくにつれS/N指標がより大きくなる。すなわち、各受信ビームデータRbの加算数に対するスペクトル強度の近似直線APの傾きがS/N指標を表すことになる。
【0077】
上述のように、理想的には、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbの信号成分をN個加算すると、各周波数区域Fの信号成分はN倍となる。しかしながら、そのようにならない場合が考えられる。例えば、送信ビームの中心から近い走査線位置に対応する受信ビームデータRb(例えば
図10の受信ビーム#1における走査線位置5に対応する受信ビームデータRb)の信号成分が、送信ビームの中心から遠い走査線位置に対応する受信ビームデータRb(例えば
図10の受信ビーム#1における走査線位置が1に対応する受信ビームデータRb)の信号成分よりも大きくなる場合がある。したがって、例えば、加算数が2の場合に、送信ビームの中心から近い2つの受信ビームデータRb(例えばLRI(8,5)とLRI(9,4))を加算し、加算数が4の場合に、送信ビームの中心から遠い受信ビームデータRbを含む受信ビームデータRb(例えばLRI(5,8)と、LRI(8,5)と、LRI(9,4)と、LRI(12,1))を加算すると、受信ビームデータRbが全て信号成分であっても、加算数が2の場合に比して、加算数が4の場合のスペクトル強度は2倍にならない場合がある。
【0078】
したがって、S/N推定部48は、受信ビームデータRbの加算数毎に予め定義された補正係数に基づいて、各加算数に対するスペクトル強度を補正するとよい。補正係数は、受信ビームデータRbの各加算数における加算対象の受信ビームデータRbのビーム内位置kなどに基づいて予め定義され、メモリ32に記憶させておけばよい。その上で、S/N推定部48は、各加算数に対する補正係数に基づいて、各加算数に対するスペクトル強度を補正した補正スペクトル強度を演算し、各加算数に対する補正スペクトル強度の近似直線APを求め(
図7参照)、当該近似直線APの傾きをS/N指標として推定するとよい。
【0079】
S/N推定部48は、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、上記処理を行い、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に近似直線APの傾きを演算する。つまり、S/N推定部48は、受信ビームデータRbの加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいて、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、S/N指標を推定する(
図8参照)。
【0080】
信号処理部42は、推定されたS/N指標が、予め定められたS/N閾値以上の周波数区域Fの信号を通過するようなバンドパスフィルタを領域Re毎に生成する。例えば、
図8に示された周波数区域F毎のS/N指標を有する領域Reに対しては、周波数f1から周波数f2までの信号を通すようなバンドパスフィルタを生成する。各領域Re間において、周波数区域F毎のS/N指標は互いに異なるものとなり得るから、各領域Reに対して生成されるバンドパスフィルタも互いに異なるものとなり得る。
【0081】
信号処理部42は、超音波画像を高画質化させるための高画質化処理として、各領域Reについて生成したバンドパスフィルタを、検波処理前の受信ビームデータRbに対して適用する。すなわち、周波数区域F毎のS/N指標が領域Re毎に異なっていたとしても、各領域Reに適したバンドパスフィルタを適用することができる。これにより、超音波画像の各領域Reを適応的に高画質化させることができるようになる。例えば、超音波画像において、位置(領域Re)毎に、過度にノイズ抑制を行って分解能を損なうことなく、適切なノイズ低減を実行できるようになる。このように、第2実施形態においても、信号処理部42が高画質化部に相当する。
【0082】
信号処理部42は、ビームデータメモリ46に記憶された、複数の加算受信ビームデータSRbの元となった受信ビームデータRbと同一フレームの受信ビームデータRbに対して、上述のバンドパスフィルタを適用することができる。また、受信ビームデータRbの加算数が互いに異なる複数の加算受信ビームデータSRbの生成処理、S/N推定部48によるS/N指標の推定処理などによる遅延を抑制する観点から、信号処理部42は、バンドパスフィルタの適用対象となる受信ビームデータRbを、複数の加算受信ビームデータSRbの元となった受信ビームデータRbの1つ後のフレームの受信ビームデータRbにしてもよい。さらに、超音波画像が示す被検体の断面に変更がなければ、各領域Reにおける各周波数区域FのS/N指標はそれほど大きな変化がないと考えられる。したがって、第2実施形態においても、信号処理部42は、1度生成した各領域Reのバンドパスフィルタを、超音波画像が示す被検体の断面が変更されるまで使用し続けるようにしてもよい。
【0083】
<第3実施形態>
図11は、第3実施形態に係る超音波診断装置10-3の構成概略図である。
図11において、第1実施形態に係る超音波診断装置10と同様の処理を実行する構成要素については、
図1と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0084】
受信ビームデータ生成部としての送受信部50は、制御部34からの制御によって、超音波プローブ12に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から被検体に向けて超音波が送信される。一度に複数の振動素子から超音波が送信され、送受信部14は、各振動素子からの超音波の送信タイミングを制御することによって、複数の振動素子から複数の方向に超音波ビームが送信される。また、送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子から受信チャネル信号を受信する。送受信部50は、複数の受信チャネルに対応する複数の受信チャネル信号に対して整相加算処理を実行し、これにより受信ビームデータRbを生成する。
【0085】
信号処理部52は、送受信部50からの受信ビームデータRbに対して、バンドパスフィルタを適用するフィルタ処理などを含む各種信号処理を実行する。特に、信号処理部52は、後述のS/N推定部58が推定した、領域Re毎及び周波数区域F毎のS/N指標に基づいて、領域Re毎にバンドパスフィルタを生成する。バンドパスフィルタ生成処理の詳細については後述する。
【0086】
また、信号処理部52は、後述のS/N推定部58が用いるフレームデータを構成する受信ビームデータRbに対しては、バンドパスフィル処理を行わないようにしてもよい。又は、事前処理として、DC近傍成分のみをカットする広帯域な特性を持つバンドパスフィルタ処理を行ってもよい。
【0087】
信号処理部52によって信号処理された受信ビームデータRbは、LRIメモリと呼ばれるメモリ(不図示)に保持される。LRIメモリは、少なくとも、複数フレーム分の受信ビームデータRbを記憶可能なメモリ容量を有している。
【0088】
フレーム加算部54は、1フレーム分の複数の受信ビームデータRbであるフレームデータを加算することによって、1フレーム分の加算受信ビームデータを生成する。具体的には、フレーム加算部54は、同一の走査線位置に対応する受信ビームデータRbが加算されるように、複数のフレームデータを加算して、1フレーム分の加算受信ビームデータを生成する。また、フレーム加算部54は、フレームデータの加算数が互いに異なる複数の1フレーム分の加算受信ビームデータ(以後「加算フレームデータ」と記載する)を生成する。
【0089】
フレーム加算部54によって加算される複数のフレームデータは、互いに同一の走査面に対して送信された送信ビームに基づいて得られたフレームデータである。つまり、各フレームデータは、互いに同一の走査線位置に対応する受信ビームデータRbを含んで構成されている。例えば、フレーム加算部54によって加算される複数のフレームデータは、超音波プローブ12の姿勢が維持されている間において、時系列において連続して取得されたフレームデータである。
【0090】
上述のように、第3実施形態では、フレーム加算部54が加算データ生成部に相当する。
【0091】
フレーム加算部54により生成された、フレームデータの加算数が互いに異なる複数の加算フレームデータは、フレームデータメモリ56に格納される。第1実施形態同様、第3実施形態においては、フレームデータ(すなわち受信ビームデータRb)のデータ空間において、予め複数の領域Reが定義されている。
【0092】
S/N推定部58は、領域Re毎に、検波処理前の(すなわち周波数情報を有している)、フレームデータの加算数が互いに異なる複数の加算フレームデータを構成する受信ビームデータRbそれぞれに対して周波数解析を実行する。これにより、領域Re毎及びフレームデータの加算数毎に、周波数スペクトル(
図5参照)が取得される。
【0093】
S/N推定部58は、第1実施形態同様、取得した周波数スペクトルに基づいて、各周波数区域Fについてのスペクトル強度Siを演算し、領域Re毎、フレームデータの加算数毎、及び、周波数区域F毎にスペクトル強度Siを取得する。そして、S/N推定部58は、フレームデータの加算数、及び、スペクトル強度の2次元データ空間において、1つの領域Re及び1つの周波数区域Fについての、各フレームデータの加算数に対するスペクトル強度をプロットする(
図6参照)。そして、S/N推定部58は、プロットされた各フレームデータの加算数に対するスペクトル強度の近似直線APを求め、近似直線APの傾きを演算する。
【0094】
ここでも、近似直線APの傾きは、当該領域Reの当該周波数区域FにおけるS/N指標を示すパラメータとなる。第1実施形態における受信チャネル信号と同様に、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbの信号成分は、位相も振幅も概ね同じ信号となる。したがって、理想的には、これらをN個加算すると、各周波数区域Fの信号成分は、それぞれ約N倍となる。一方、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbのノイズ成分は、位相も振幅もばらばらである。したがって、これらをN個加算しても、各周波数区域Fのノイズ成分は、N倍にはならず、それよりも小さい値(近似的に√N倍)にしかならない。
【0095】
したがって、同一の走査線位置に対応する複数の受信ビームデータRbの信号成分が多い程、加算数を増やしていくにつれS/N指標がより大きくなる。すなわち、各フレームデータの加算数に対するスペクトル強度の近似直線APの傾きがS/N指標を表すことになる。
【0096】
S/N推定部58は、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、上記処理を行い、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に近似直線APの傾きを演算する。つまり、S/N推定部58は、フレームデータの加算数の増加に伴うスペクトル強度の増加量に基づいて、領域Reと周波数区域Fとの組み合わせ毎に、S/N指標を推定する(
図8参照)。
【0097】
信号処理部52は、推定されたS/N指標が、予め定められたS/N閾値以上の周波数区域Fの信号を通過するようなバンドパスフィルタを領域Re毎に生成する。例えば、
図8に示された周波数区域F毎のS/N指標を有する領域Reに対しては、周波数f1から周波数f2までの信号を通すようなバンドパスフィルタを生成する。各領域Re間において、周波数区域F毎のS/N指標は互いに異なるものとなり得るから、各領域Reに対して生成されるバンドパスフィルタも互いに異なるものとなり得る。
【0098】
信号処理部52は、超音波画像を高画質化させるための高画質化処理として、各領域Reについて生成したバンドパスフィルタを、検波処理前の受信ビームデータRbに対して適用する。すなわち、周波数区域F毎のS/N指標が領域Re毎に異なっていたとしても、各領域Reに適したバンドパスフィルタを適用することができる。これにより、超音波画像の各領域Reを適応的に高画質化させることができるようになる。例えば、超音波画像において、位置(領域Re)毎に、過度にノイズ抑制を行って分解能を損なうことなく、適切なノイズ低減を実行できるようになる。このように、第3実施形態においても、信号処理部52が高画質化部に相当する。
【0099】
信号処理部52は、フレームデータメモリ56に記憶された、複数のフレームデータを構成する受信ビームデータRbの次のフレームの受信ビームデータRbに対して、上述のバンドパスフィルタを適用することができる。また、超音波画像が示す被検体の断面に変更がなければ、各領域Reにおける各周波数区域FのS/N指標はそれほど大きな変化がないと考えられる。したがって、第3実施形態においても、信号処理部42は、1度生成した各領域Reのバンドパスフィルタを、超音波画像が示す被検体の断面が変更されるまで使用し続けるようにしてもよい。
【0100】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0101】
10,10-2,10-3 超音波診断装置、12 超音波プローブ、12a 振動素子、14,40,50 送受信部、16,46 ビームデータメモリ、18,48,58 S/N推定部、20,42,52 信号処理部、22 検波処理部、24 画像形成部、26 表示制御部、28 ディスプレイ、30 入力インターフェース、32 メモリ、34 制御部、44 開口合成処理部、56 フレームデータメモリ、54 フレーム加算部、Ch 受信チャネル、Rb 受信ビームデータ、Re 領域、F 周波数区分、AP 近似直線。