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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084529
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/50 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
F16H15/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198849
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 進
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA03
3J051BA09
3J051BB04
3J051BD02
3J051BE03
3J051CA06
3J051FA10
(57)【要約】
【課題】小型かつ軽量でありながら、大きなトルク及び高回転のトルクを伝達でき、負荷に応じて変速する無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機1は、トルク伝達部4として少なくとも1つの回転部材(ベルト機構21、フレキシブルシリンダ30)を含む。回転部材の外面とアウターリング12の内周面との少なくとも一方はドライ接着性を有する。アウターリング12は、複数のカム面44を内周側に有するアウターリング本体41と、カム面44上のそれぞれに配置される転動体45と、アウターリング本体41の内側に配置される円環状のアウターリング内側部材42とを備える。アウターリング内側部材42は、転動体45を周方向について保持すると共に転動体45を径方向の外側に向けて弾発的に付勢し、転動体45がカム面44上を移動して径方向内向きに変位することにより、内径を縮小させる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機であって、
所定の中心軸線の周りに回転可能に設けられた中央シャフトと、
前記中央シャフトの径方向の外側に間隔を空けて配置されたアウターリングと、
前記中央シャフトと前記アウターリングとの間でトルクを伝達するトルク伝達部とを含み、
前記トルク伝達部は、前記中央シャフトの外周面と前記アウターリングの内周面との間に配置される少なくとも1つの回転部材を含み、
前記回転部材の外面と前記アウターリングの前記内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成され、
前記アウターリングは、
周方向に対して傾斜する複数のカム面を内周側に有するアウターリング本体と、
前記カム面上のそれぞれに配置される転動体と、
前記アウターリング本体の内側に配置されて前記アウターリングの前記内周面を形成する円環状のアウターリング内側部材であって、前記転動体を前記周方向について保持すると共に前記転動体を前記径方向の外側に向けて弾発的に付勢し、前記転動体が前記カム面上を移動して径方向内向きに変位することにより、内径を縮小させるように構成された該アウターリング内側部材とを備える、無段変速機。
【請求項2】
前記アウターリング内側部材は、それぞれが前記アウターリングの前記内周面の一部の円弧面を形成し、所定の離間距離をもって前記周方向に互いに離間する複数の円弧部と、互いに隣接する前記円弧部を、前記離間距離を延長する向きに弾発的に付勢するように連結し、前記転動体を保持する複数の連結部とを有する、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記トルク伝達部は、前記アウターリング内側部材が最も縮小したときの前記アウターリングの前記内周面の周長よりも短い周長を有する外周面を備える弾性変形可能なフレキシブルシリンダを含み、
前記フレキシブルシリンダの前記外周面と前記アウターリングの前記内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成されている、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記トルク伝達部は、前記中心軸線に沿って延在する複数のローラ、複数の前記ローラを支持するローラ支持部材、及び、複数の前記ローラに巻き掛けられ、前記アウターリングの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面に接触する外面を有する無端ベルトを備えたベルト機構を含み、
前記無端ベルトの前記外面と前記アウターリングの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成されている、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記トルク伝達部は、
前記アウターリング内側部材が最も縮小したときの前記アウターリングの前記内周面の周長よりも短い周長を有する外周面と、内周面とを備える弾性変形可能なフレキシブルシリンダと、
前記中心軸線に沿って延在する複数のローラ、複数の前記ローラを支持するローラ支持部材、及び、複数の前記ローラに巻き掛けられ、前記フレキシブルシリンダの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面に接触する外面を有する無端ベルトを備えたベルト機構を含み、
前記フレキシブルシリンダの前記外周面と前記アウターリングの前記内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有し、前記無端ベルトの前記外面と前記フレキシブルシリンダの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成されている、請求項1に記載の無段変速機。
【請求項6】
前記トルク伝達部は、前記アウターリング内側部材の内径が変化したときに前記フレキシブルシリンダの前記周方向の一部を前記アウターリングの前記内周面に向けて弾発的に付勢する付勢部材を更に備える、請求項3又は請求項5に記載の無段変速機。
【請求項7】
前記フレキシブルシリンダを全周に亘って外側から弾発的に保持する弾性保持部材を更に備える、請求項3又は請求項5に記載の無段変速機。
【請求項8】
前記ベルト機構は、前記アウターリング内側部材の内径が変化したときに前記無端ベルトを前記アウターリングの前記内周面に向けて弾発的に付勢する付勢部材を更に備える、請求項4又は請求項5に記載の無段変速機。
【請求項9】
前記ローラ支持部材は、前記無端ベルトを内側から外側に向けて付勢するように、複数の前記ローラを弾発的に支持する、請求項4又は請求項5に記載の無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無段変速機に関し、より詳細には、負荷に応じて無段階に変速を行う負荷感応型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
動力の回転を変速する変速機構として、巻き掛け式(ベルト式)、トロイダル式、リングコーン式、ボール式等、様々な形式の機構が知られている。これらの変速機構の多くは、摩擦又は油膜のトラクションを利用して入力部材から出力部材へ動力を伝達している。これらの変速機構には、両回転方向の動力を伝達できるものだけでなく、一回転方向の動力のみを伝達でき、逆回転方向の動力を伝達できないものもある。また、逆回転方向の動力を伝達可能にするために遊星歯車機構を備える変速機構も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、入力軸と、入力軸の回転中心軸線と平行に配置された出力軸と、回転半径調節機構及び揺動リンクを有し、入力軸の回転運動を揺動リンクの揺動運動に変換するてこクランク機構とを備えた四節リンク機構型の無段変速機が開示されている。回転半径調節機構は、入力軸と一体的に回転可能な回転部が設けられ回転部の回転半径を調節自在に構成される。揺動リンクは、出力軸に揺動自在に軸支され、回転部の回転半径に応じて揺動速度が変化するように構成される。この無段変速機は、回転部の回転半径を変化させることで変速比を変化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-32086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の変速機構は、寸法が大きく重量が重い、変速するための駆動源が必要になる、変速比を十分に大きくできない、トルク許容量(伝達可能なトルク)が小さい、動力伝達効率が低いといった問題のいくつかを有していた。
【0006】
例えば、これらの変速機構は、波動減速機に比べると寸法及び重量が大きくなる。その理由は、これらの変速機構は典型的には摩擦を利用するために高い押し付け荷重を要し、伝達トルクの限界が低いことや、摩耗(耐久性)や動力伝達部材のスリップ対策のために強度の高い材料を使用すること等である。また、変速機能の安定性を成立させるために、機構の各要素が複雑な構造をしていることも寸法及び重量を大きくする。また、これらの変速機構は摩擦を利用しているため、歯車の噛み合いによって動力を伝達する場合と比較して、トルクが非常に小さくなる。
【0007】
また、変速機が小型かつ軽量であることと、減速比において大きなトルク及び高回転のトルクを伝達可能であることとは、トレードオフの関係にある。そのため、これらを両立でき、負荷に応じて変速する無段変速機が望まれている。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、小型かつ軽量でありながら、大きなトルク及び高回転のトルクを伝達でき、負荷に応じて変速する無段変速機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある実施形態は、無段変速機(1、101、201)であって、所定の中心軸線(X)の周りに回転可能に設けられた中央シャフト(2)と、前記中央シャフトの径方向の外側に間隔を空けて配置されたアウターリング(12)と、前記中央シャフトと前記アウターリングとの間でトルクを伝達するトルク伝達部(4、104、204)とを含み、前記トルク伝達部は、前記中央シャフトの外周面と前記アウターリングの内周面との間に配置される少なくとも1つの回転部材(21、30)を含み、前記回転部材の外面と前記アウターリングの前記内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成され、前記アウターリングは、周方向に対して傾斜する複数のカム面(44)を内周側に有するアウターリング本体(41)と、前記カム面上のそれぞれに配置される転動体(45)と、前記アウターリング本体の内側に配置されて前記アウターリングの前記内周面を形成する円環状のアウターリング内側部材(42)であって、前記転動体を前記周方向について保持すると共に前記転動体を前記径方向の外側に向けて弾発的に付勢し、前記転動体が前記カム面上を移動して径方向内向きに変位することにより、内径を縮小させるように構成された該アウターリング内側部材とを備える。
【0010】
この態様によれば、アウターリングの内径の変化に応じて内周面の周長が変化することにより、トルク伝達部によって伝達される中央シャフトとアウターリングとの間の回転の速度比(無段変速機の変速比)が変化する。中央シャフトとアウターリングとの間で伝達されるトルク、すなわち負荷が大きいほどアウターリングの内径は縮小し、これに伴って変速比が無段階に変化する。また、トルク伝達部が回転部材を備え、回転部材の外面がドライ接着によってアウターリングの内周面に接着するため、高い押し付け力及び複雑な構造を要することなく、大きなトルクを伝達できる。したがって、無段変速機の小型化及び軽量化と大きなトルク伝達との両立が可能である。
【0011】
上記の態様において、前記アウターリング内側部材(42)は、それぞれが前記アウターリング(12)の前記内周面の一部の円弧面(46a)を形成し、所定の離間距離をもって前記周方向に互いに離間する複数の円弧部(46)と、互いに隣接する前記円弧部を、前記離間距離を延長する向きに弾発的に付勢するように連結し、前記転動体(45)を保持する複数の連結部(47)とを有するとよい。
【0012】
この態様によれば、アウターリング内側部材が円弧部の離間距離を短縮させることによってアウターリングの内周面のみかけ周長が短縮する。これにより、負荷によって内径が変化するアウターリングを簡単な構成により実現することができる。
【0013】
上記の態様において、前記トルク伝達部(204)は、前記アウターリング内側部材(42)が最も縮小したときの前記アウターリング(12)の前記内周面の周長よりも短い周長を有する外周面を備える弾性変形可能なフレキシブルシリンダ(30)を含み、前記フレキシブルシリンダの前記外周面と前記アウターリングの前記内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成されているとよい。
【0014】
この態様によれば、フレキシブルシリンダが略楕円形の長軸部分の外周面をアウターリングの内周面に当接させた状態で長軸を1回転させるように変形すると、当該外周面と当該内周面との周長差分だけ回転する。これにより、変速比が大きな無段変速機が構成される。また、負荷に応じてアウターリングの内径が縮小すると、周長差が急激に小さくなるため、変速比が大きく変化する。
【0015】
或いは、上記の態様において、前記トルク伝達部(104)は、前記中心軸線(X)に沿って延在する複数のローラ(31)、複数の前記ローラを支持するローラ支持部材(キャリア22)、及び、複数の前記ローラに巻き掛けられ、前記アウターリングの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面に接触する外面を有する無端ベルト(33)を備えたベルト機構(21)を含み、前記無端ベルトの前記外面と前記アウターリングの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成されているとよい。
【0016】
この態様によれば、中央シャフトが回転すると、中央シャフトの外周面及びアウターリングの内周面に無端ベルトを当接させたベルト機構がトルクを伝達しながら中央シャフトの周りを公転する。すなわち、ベルト機構が遊星歯車と同様に動作する。これにより、負荷に応じてアウターリングの内径が縮小したときに変速比が変化する無段変速機が構成される。
【0017】
或いは、上記の態様において、前記トルク伝達部(4)は、前記アウターリング内側部材(42)が最も縮小したときの前記アウターリング(12)の前記内周面の周長よりも短い周長を有する外周面と、内周面とを備える弾性変形可能なフレキシブルシリンダ(30)と、前記中心軸線(X)に沿って延在する複数のローラ(31)、複数の前記ローラを支持するローラ支持部材(キャリア22)、及び、複数の前記ローラに巻き掛けられ、前記フレキシブルシリンダの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面に接触する外面を有する無端ベルト(33)を備えたベルト機構(21)を含み、前記フレキシブルシリンダの前記外周面と前記アウターリングの前記内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有し、前記無端ベルトの前記外面と前記フレキシブルシリンダの前記内周面及び前記中央シャフトの前記外周面との少なくとも一方がドライ接着性を有するように構成されているとよい。
【0018】
この態様によれば、中央シャフトが回転すると、中央シャフトの外周面及びアウターリングの内周面に無端ベルトを当接させたベルト機構がトルクを伝達しながら中央シャフトの周りを公転する。すなわち、ベルト機構が遊星歯車と同様に作用する。また、ベルト機構の公転に伴い、フレキシブルシリンダが略楕円形の長軸部分の外周面をアウターリングの内周面に当接させた状態で長軸を1回転させるように変形すると、当該外周面と当該内周面との周長差分だけ回転する。これにより、変速比が大きな変速機構が構成される。また、負荷に応じてアウターリングの内径が縮小すると、周長差が急激に小さくなるため、変速比が大きく変化する。
【0019】
前記トルク伝達部(4、104)は、前記フレキシブルシリンダ(30)を備える態様において、前記アウターリング内側部材(42)の内径が変化したときに前記フレキシブルシリンダの前記周方向の一部を前記アウターリングの前記内周面に向けて弾発的に付勢する付勢部材(弾性押圧機構32、ばね部材36)を更に備えるとよい。
【0020】
この態様によれば、アウターリング内側部材の内径が変化したときに、フレキシブルシリンダの周方向の一部を、その曲率を変化させながらアウターリングの内周面に面接触させることができる。よって、アウターリング内側部材とフレキシブルシリンダとのトルク伝達可能な関係が維持される。
【0021】
前記フレキシブルシリンダ(30)を備える態様において、当該無段変速機は、前記フレキシブルシリンダを全周に亘って外側から弾発的に保持する弾性保持部材(60)を更に備えるとよい。
【0022】
この態様によれば、アウターリング内側部材に当接することで形状が安定する部分以外の部分においても、フレキシブルシリンダの形状が安定化する。また、トルクを出力させるための部材として弾性保持部材を用いることができる。
【0023】
前記ベルト機構(21)を備える態様において、前記ベルト機構は、前記アウターリング内側部材(42)の内径が変化したときに前記無端ベルト(33)を前記アウターリング(12)の前記内周面に向けて弾発的に付勢する付勢部材(ばね部材36)を更に備えるとよい。
【0024】
この態様によれば、アウターリング内側部材の内径が変化したときに、無端ベルトの周方向の一部を、その曲率を変化させながら径方向外側の部材に面接触させることができる。よって、アウターリング内側部材又はフレキシブルシリンダと無端ベルトとのトルク伝達可能な関係が維持される。
【0025】
前記ベルト機構(21)を備える態様において、前記ローラ支持部材(22)は、前記無端ベルト(33)を内側から外側に向けて付勢するように、複数の前記ローラ(31)を弾発的に支持するとよい。
【0026】
この態様によれば、アウターリング内側部材の内径が縮小したときに、複数のローラがローラ支持部材に対して移動できるため、無端ベルトに過大な張力を作用させることなく、無端ベルトを外側へ付勢し、径方向外側の部材に面接触させることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上の態様によれば、小型かつ軽量でありながら、大きなトルク及び高回転のトルクを伝達できる無段変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態に係る無段変速機の正面図
図2】無段変速機の中心軸線に沿う断面図
図3】固定ディスク11Aを取り外した状態の無段変速機を中心軸線に沿って破断して示す斜視図
図4】無段変速機のトルク伝達部の概略構成を示す断面図
図5図2のV-V線に沿う断面図
図6図5のVI部の拡大図
図7】アウターリング内側部材の動作説明図
図8】アウターリング内側部材の縮径時におけるベルト機構の動作説明図
図9】無段変速機のトルク伝達部の概略構成図
図10】フレキシブルシリンダの保持構造を示す側面図
図11】弾性保持部材の側面図
図12】第2実施形態に係る無段変速機のトルク伝達部の概略構成図
図13】第3実施形態に係る無段変速機のトルク伝達部の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明のいつくかの実施形態について詳細に説明する。
【0030】
≪第1実施形態≫
まず、図1図11を参照して本発明の第1実施形態に係る無段変速機1について説明する。本実施形態の無段変速機1は、図示しない動力源(例えば、電動機)から入力されたトルクを変速して出力する。より具体的には、後述するように、無段変速機1は遊星歯車機構と同等の変速機能及び波動歯車機構と同等の変速機能を併せて備えている。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図1の左右方向を「左右」という。また、各図においては、理解の容易化のために、軸部材や軸受部材などの断面部分のハッチングが一部、省略されている。
【0031】
図1は第1実施形態に係る無段変速機1の正面図であり、図2は無段変速機1の中心軸線Xに沿う断面図である。図1及び図2に示すように、無段変速機1の中心軸線Xは左右方向に延在している。無段変速機1は、所定の中心軸線Xの周りに回転可能に設けられた中央シャフト2、中央シャフト2を回転可能に保持するハウジング3、中央シャフト2とハウジング3との間でトルクを伝達するトルク伝達部4などを備えている。これらの中央シャフト2、ハウジング3及びトルク伝達部4は互いに同心に配置されている。
【0032】
中央シャフト2は、中実の円柱状をしており、左右方向に延びている。中央シャフト2は、無段変速機1の径方向の中心部に位置しており、ハウジング3の内部に配置されてハウジング3から突出している。中央シャフト2は、左右の軸端部6及び中央に配置された大径部7などを備えており、これらの要素は一体に形成されている。中央シャフト2は、左右の軸端部6がハウジング3から突出し、大径部7がハウジング3の内部に位置するように配置されている。中央シャフト2は、両軸端部6と大径部7との間の2つの部分において、一対の軸受8を介してトルク伝達部4の後述するキャリア22に支持され、これにより中心軸線Xの周りに回転可能に構成されている。大径部7は、左右の軸端部6よりも大径の円柱状に形成されている。大径部7の外周面には、後述するベルト機構21の無端ベルト33(図3図4参照)の外周面が当接する。
【0033】
ハウジング3は、左右方向に互いに離間して配置された円環状の一対のディスク11(11A、11B)と、両ディスク11の間に位置し、中央シャフト2の径方向の外側に間隔を空けて配置されたアウターリング12(12A、12B)とを備えている。ハウジング3は、左からこの順に配置された固定ディスク11A、固定アウターリング12A、可動アウターリング12B及び可動ディスク11Bを備えている。以下、固定ディスク11A及び可動ディスク11Bを総称する場合には単にディスク11といい、固定アウターリング12A及び可動アウターリング12Bを総称する場合には単にアウターリング12という。固定ディスク11Aは、図示しない不動のベース部に固定される。
【0034】
固定ディスク11A及び可動ディスク11Bは、ほぼ同様に構成されている。そのため、以下では固定ディスク11Aを例にとって説明する。固定ディスク11Aは、円環状の外端部13及び円筒部14を備えている。外端部13は、大径のつば状に形成されている。円筒部14は、外端部13よりも小径であり、外端部13と一体に形成されている。円筒部14は、外端部13から可動ディスク11B側に向かって突出している。また、固定ディスク11Aの中央には、左右方向に貫通する内孔15が形成されている。
【0035】
固定アウターリング12Aは、左右方向に延びる円筒状をしており、固定ディスク11Aと可動アウターリング12Bの間に配置されている。固定アウターリング12Aの内周面は断面円形に形成されている。固定アウターリング12Aの内周面には、後述するフレキシブルシリンダ30(図3図4参照)の外周面が当接する。固定アウターリング12Aの左端部は固定ディスク11Aに固定されている。これにより、固定アウターリング12Aは、無段変速機1の動作中、不動状態に保持される。固定アウターリング12Aの右端部は支持部16になっている。支持部16は、固定アウターリング12Aの外周側の部位から右側に突出しており、軸線方向から見てリング状に形成されている。
【0036】
可動アウターリング12Bは、左右方向に延びる円筒状をしており、固定アウターリング12Aと可動ディスク11Bの間に配置されている。可動アウターリング12Bの内周面は、固定アウターリング12Aの内周面よりも若干小径の断面円形に形成されている。可動アウターリング12Bの内周面には、後述するフレキシブルシリンダ30(図3図4参照)の外周面が当接する。詳細については後述するが、他の実施形態では、可動アウターリング12Bの内周面は固定アウターリング12Aの内周面に対し同径或いは大径の断面円形に形成されていてもよい。
【0037】
可動アウターリング12Bは、右端部において可動ディスク11Bに固定されている。それにより、可動アウターリング12Bは、無段変速機1の動作中、可動ディスク11Bと一体に回転するように構成されている。可動アウターリング12Bの左端部は支持部17になっている。この支持部17は、可動アウターリング12Bの内周側の部位から左側に突出しており、軸線方向から見てリング状に形成されている。
【0038】
固定アウターリング12Aの支持部16と、可動アウターリング12Bの支持部17との間には、軸受18が設けられている。この軸受18は転がり軸受タイプであってよく、本実施形態ではクロスローラベアリングにより構成されている。軸受18の外周面は固定アウターリング12Aの支持部16の内周面に嵌合している。また、可動アウターリング12Bの支持部17の外周面は軸受18の内周面に嵌合している。それにより、可動アウターリング12Bは、この軸受18を介して、固定アウターリング12Aに対して中心軸線Xの周りに回転可能に構成されている。
【0039】
トルク伝達部4は、中央シャフト2の外周面とアウターリング12の内周面との間に配置された複数のベルト機構21と、複数のベルト機構21を支持するキャリア22とを有している。本実施形態では2つのベルト機構21が設けられている。各ベルト機構21は遊星歯車機構の遊星歯車として機能し、キャリア22は遊星歯車機構の遊星キャリアとして機能する。
【0040】
キャリア22は、固定アウターリング12A及び可動アウターリング12Bの内部に配置され、その内部には、中央シャフト2が配置されている。キャリア22は、左右一対のキャリア本体23及び2つの連結バー24(図4参照)を備えている。左右のキャリア本体23は、同一に構成され、互いに面対称に配置されている。以下、右のキャリア本体23を例にとって説明する。
【0041】
右のキャリア本体23は、連結壁部25及び円筒軸部26を備えている。連結壁部25は薄板状で軸線方向から見てほぼ円形をしている。円筒軸部26は、中空の円筒状をしており、連結壁部25と一体に形成されている。円筒軸部26は、連結壁部25から中心軸線Xに沿って右側に延び、可動ディスク11Bの内孔15を通ってハウジング3の外方に突出している。円筒軸部26の先端部は六角ナット状に形成されている。円筒軸部26と可動ディスク11Bとの間には、転がり軸受タイプの軸受28が設けられている。これにより、キャリア22は、軸受28を介してハウジング3に支持され、中央シャフト2の中心軸線Xの周りに回転可能に構成されている。
【0042】
またトルク伝達部4は、ベルト機構21の外側かつアウターリング12の内側に配置されたフレキシブルシリンダ30(図3図4参照)を有している。フレキシブルシリンダ30は、波動歯車機構のフレキシブルスプライン(波動発生体の回転に応じて弾性変形する弾性外歯車)として機能する。
【0043】
図3は、固定ディスク11Aを取り外した状態の無段変速機1を中心軸線Xに沿って破断して示す斜視図である。図4は、無段変速機1のトルク伝達部4の概略構成を示す断面図であり、固定アウターリング12Aの内側部分を示している。なお、無段変速機1の可動アウターリング12Bの内側部分の概略構成は、図示省略するが図4と同様の構成をしている。図3及び図4に示すように、各ベルト機構21は、2つの連結バー24の間に設けられ、中心軸線Xに対して点対称に配置されている。各ベルト機構21は、一対のローラ31、一対のローラ31間に配置された弾性押圧機構32(図4参照)及び、これらに巻き掛けられた無端ベルト33を備えている。
【0044】
一対のローラ31は、周方向に沿って回転対称の関係で配置されており、ローラ31の各々は、一対の軸受34(図4参照)を介して軸35に取り付けられている。この軸35は、円柱状に形成され、中心軸線Xに平行に延び、その左右両端部が左右のキャリア本体23の連結壁部25(キャリア22)に支持されている。すなわち、キャリア22はローラ31を支持するローラ支持部材である。一対の軸受34は、転がり軸受タイプであってよく、その内周面を介して、軸35の外周面に嵌合していると共に、外周面を介して、ローラ31の内周面に嵌合している。以上の構成により、ローラ31は、軸35を介して、中心軸線Xに平行な軸線周りに回転可能な状態で、軸35に支持されている。
【0045】
軸35は、径方向外側に向けて広がるようにキャリア22の連結壁部25に形成された長孔に嵌合し、付勢部材としてキャリア22に設けられたばね部材36(図3参照)によって径方向外側に向けて弾発的に付勢されている。すなわちばね部材36は、ローラ31を径方向の外側に両者の間隔が広くなるように付勢する力、すなわち無端ベルト33に張力を付与するように構成されている。
【0046】
弾性押圧機構32は、左右のキャリア本体23の連結壁部25に支持された5列の軸37(図3参照)及びそれらを保持する弾性材料からなる押圧部材38を備えている。5列の軸37は、互いに周方向に等間隔で配置され、左右方向に延びている。本実施形態では、5列の軸37は左右に分断されている。他の実施形態では、5列の軸37のそれぞれが1本のシャフトによって構成されてもよい。
【0047】
5列の軸37は、配列方向に直交する方向(概ね径方向)に延びるように左右のキャリア本体23に形成された長孔(図2参照)に嵌合し、キャリア22に設けられたばね部材36によって径方向外側に向けて弾発的に付勢されている。このばね部材36は、本実施形態ではローラ31の軸35を付勢する部材と一体に構成されている。他の実施形態では両ばね部材36が別体で構成されてもよい。押圧部材38は、左右方向に所定長さで延び、円弧状の外面を有しており、外面を無端ベルト33の内面に弾発的に当接させる。すなわちばね部材36は、押圧部材38を径方向の外側に付勢することにより、アウターリング12側(詳細には、フレキシブルシリンダ30の内周面)に押し付ける力を無端ベルト33に作用させるように構成されている。
【0048】
無端ベルト33は、弾性変形可能な金属(例えば、ステンレス)で構成されている。なお、無端ベルト33がポリカーボネートなどの合成樹脂で構成されてもよい。無端ベルト33は、その外周面がフレキシブルシリンダ30の内周面及び中央シャフト2の大径部7の外周面に当接すると共に、内周面がローラ31の外周面及び押圧部材38の外面に当接する状態で、一対のローラ31に巻き掛けられている。
【0049】
無端ベルト33には、ドライ接着シート39(図9参照)が外周面全体に渡って貼り付けられている。このドライ接着シート39は、円筒状の合成樹脂(例えば、アクリル系ゴム又はシリコンゴム)で構成され、その表面がファン・デル・ワールス力を発生する特性すなわちドライ接着性を有している。本実施形態の場合、ドライ接着シート39が無端ベルト33の外周面全体に渡って貼り付けられている関係上、ドライ接着シート39の表面が無端ベルト33の外周面に相当する。それにより、無端ベルト33の外周面は、ドライ接着性を有している。
【0050】
図4に示すように、一対のベルト機構21は、フレキシブルシリンダ30の内面に当接することにより、当接部が長軸をなす略楕円形になるようにフレキシブルシリンダ30を変形させる。具体的には、一対のベルト機構21が当接するフレキシブルシリンダ30の一対の対向部分は、アウターリング12の内周面に整合する断面円弧状の円柱面部30aを形成する。一対の円柱面部30a以外のフレキシブルシリンダ30の一対の対向部分は、一対の曲面部30bになっている。フレキシブルシリンダ30は、2回回転対称(すなわち点対称)の断面形状をしている。
【0051】
フレキシブルシリンダ30は、筒状をしており、弾性変形可能な金属(例えばステンレス)で構成されている。フレキシブルシリンダ30には、ドライ接着シート39(図9参照、以下省略)が外周面全体に渡って貼り付けられている。このドライ接着シート39も、円筒状の合成樹脂(例えば、アクリル系ゴム又はシリコンゴム)で構成され、その表面がファン・デル・ワールス力を発生する特性すなわちドライ接着性を有している。このドライ接着シート39は、無端ベルト33に貼り付けられたものと同一の材料及び構成からなってもよく、異なる材料又は構成からなってもよい。
【0052】
本実施形態の場合、ドライ接着シート39がフレキシブルシリンダ30の外周面に貼り付けられている関係上、ドライ接着シート39の表面が無端ベルト33の外周面に相当する。それにより、フレキシブルシリンダ30の外周面は、ドライ接着性を有している。
【0053】
フレキシブルシリンダ30は、アウターリング12の内周面の周長よりも短い周長を有する。これにより、フレキシブルシリンダ30は、円柱面部30aにおいて外周面がアウターリング12の内周面に当接し、曲面部30bにおいて外周面がアウターリング12の内周面に当接しない。
【0054】
フレキシブルシリンダ30は、一対のベルト機構21によって内側から押圧されることにより、円柱面部30aが固定アウターリング12Aの内周面及び可動アウターリング12Bの内周面に対応する断面円弧状をなすように変形する。ドライ接着シート39は、円柱面部30aにおいて固定アウターリング12Aの内周面及び可動アウターリング12Bの内周面に面接触する。ドライ接着シート39は、曲面部30bにおいて、対応する固定アウターリング12A又は可動アウターリング12Bの内周面から離間する。
【0055】
以上のように構成された無段変速機1の動作について図4を参照して説明する。ここでは、中央シャフト2が入力軸をなし、可動アウターリング12B及び可動ディスク11Bが出力部材をなす減速機として無段変速機1が動作する例を説明する。他の例では、図示しないクラッチ機構が設けられ、入力軸が中央シャフト2とキャリア22とで切り替えられてもよい。或いは、図2に示す可動ディスク11Bが入力部材をなし、中央シャフト2が出力軸をなす増速機として無段変速機1が動作してもよく、キャリア22が切り替え可能に出力軸をなしてもよい。
【0056】
中央シャフト2が例えば図4中の時計回りに回転し始める際、中央シャフト2の回転に伴って、中央シャフト2の外周面及び2つの無端ベルト33の外周面が互いに当接する部位において、ドライ接着シート39によるファン・デル・ワールス力が発生する。ファン・デル・ワールス力により、2つの無端ベルト33の各々は、一対のローラ31及び弾性押圧機構32に案内されながら、反時計回りに回転又は走行する。その際、フレキシブルシリンダ30及び無端ベルト33が互いに当接している部位にもファン・デル・ワールス力が発生する。
【0057】
フレキシブルシリンダ30は長軸上の円柱面部30aが固定アウターリング12Aに当接し、回転を阻止された状態にある。そのため、無端ベルト33は、フレキシブルシリンダ30の内周面に沿って移動し、それに伴い、ベルト機構21は時計回りに公転し、キャリア22は時計回りに回転する。
【0058】
以上の無段変速機1における、中央シャフト2及びキャリア22のフレキシブルシリンダ30に対する動作は、遊星歯車機構と同等のものとなる。すなわち、中央シャフト2がサンギヤに、キャリア22がプラネタリキャリアに、フレキシブルシリンダ30が回転不能のリングギヤにそれぞれ相当する。キャリア22の減速比(中央シャフト2の回転速度/キャリア22の回転速度)は、中央シャフト2の外周面のサイズ及びフレキシブルシリンダ30の内周面のサイズによって決まる。
【0059】
一対のベルト機構21の公転に伴ってキャリア22が1回転することにより、フレキシブルシリンダ30は長軸を1回転させるように弾性変形する。その際、フレキシブルシリンダ30の外周面と、固定アウターリング12A及び可動アウターリング12B(図2及び図3参照、以下省略)の内周面との当接部分には、ドライ接着シート39によってファン・デル・ワールス力が発生する。ここで、固定アウターリング12Aは、回転不能状態にあるため、中央シャフト2のトルクは、フレキシブルシリンダ30に伝達される。
【0060】
フレキシブルシリンダ30は、一対の円柱面部30aにおいて外周面をアウターリング12の内周面に当接させている。フレキシブルシリンダ30の外周面の周長は、アウターリング12の内周面の周長よりも短い。したがって、フレキシブルシリンダ30が長軸を1回転させるように変形すると、長軸の回転方向(すなわち、キャリア22の回転方向)と逆方向に周長差分だけ回転する。これにより、変速比が大きな変速機構が構成される。また、後述するように負荷に応じてアウターリング12の内径が縮小すると、周長差が急激に小さくなるため、変速比が大きく変化する。
【0061】
フレキシブルシリンダ30の外周面の周長をL1とし、固定アウターリング12Aの内周面の周長をL2とした場合、L2>L1が成立する。そのため、中央シャフト2が1回転した際、フレキシブルシリンダ30は、固定アウターリング12Aに対して周長差L2-L1分(すなわち、(L2-L1)/L1回転分)、キャリア22及び中央シャフト2の回転方向と逆方向に回転する。すなわち、キャリア22の回転速度は、フレキシブルシリンダ30から減速された状態で出力され、その場合の減速比は、L1/(L2-L1)となる。
【0062】
一方、可動アウターリング12Bは、回転可能な状態にあるため、フレキシブルシリンダ30のトルクは可動アウターリング12Bに伝達される。また、可動アウターリング12Bの内周面の周長をL3(<L2)とした場合、L3>L1が成立する。そのため、キャリア22が1回転した際、可動アウターリング12Bは、フレキシブルシリンダ30に対して、周長差L3-L1分(すなわち、(L3-L1)/L1回転分)、中央シャフト2及びキャリア22と同一方向に相対的に回転する。
【0063】
その結果、可動アウターリング12Bは、キャリア22が1回転した際、中央シャフト2及びキャリア22の回転方向と同一方向に、L2-L3分(すなわち、{(L2-L1)/L1}-{(L3-L1)/L1}=(L2-L3)/L1回転分)、固定アウターリング12Aに対して回転(絶対回転)する。その際、フレキシブルシリンダ30の回転速度は、可動アウターリング12Bから減速された状態で出力される。
【0064】
以上の無段変速機1における固定アウターリング12A、一対のベルト機構21及びフレキシブルシリンダ30の動作は、波動歯車機構と同等のものとなる。また、可動アウターリング12B、一対のベルト機構21及びフレキシブルシリンダ30の動作も、波動歯車機構と同等のものとなる。フレキシブルシリンダ30の減速比(一対のベルト機構21の回転速度/フレキシブルシリンダ30の回転速度)は、固定アウターリング12Aの内周面のサイズ及びフレキシブルシリンダ30の外周面のサイズによって決まる。また、可動アウターリング12Bの減速比(フレキシブルシリンダ30の回転速度/可動アウターリング12Bの回転速度)は、固定アウターリング12Aの内周面のサイズに対する可動アウターリング12Bの内周面のサイズの差異によって決まる。
【0065】
他の実施形態では、可動アウターリング12Bの内周面が固定アウターリング12Aの内周面と同一径、又は固定アウターリング12Aの内周面よりも若干大径の断面円形に形成されてもよい。
【0066】
可動アウターリング12Bの内周面が固定アウターリング12Aの内周面よりも若干大径の断面円形とする場合、可動アウターリング12Bは、フレキシブルシリンダ30に対して、周長差L3-L1分、中央シャフト2と同一方向に相対的に回転する。その結果、可動アウターリング12Bは、キャリア22が1回転した際、中央シャフト2及びキャリア22と同方向に、L3-L2分、固定アウターリング12Aに対して回転(絶対回転)する。
【0067】
一方、可動アウターリング12Bの内周面が固定アウターリング12Aの内周面と同一径の断面円形とする場合、フレキシブルシリンダ30が周長差L2-L1分回転しても、周長差L2-L3分が0になるために可動アウターリング12Bは回転しないことになる。そこで、可動アウターリング12Bがフレキシブルシリンダ30と同じ速度で回転するように、フレキシブルシリンダ30の周方向の一部を可動アウターリング12Bに固定するとよい。これにより、可動アウターリング12Bはフレキシブルシリンダ30と一緒にキャリア22の回転方向と逆方向に回転する。
【0068】
ただし、フレキシブルシリンダ30とアウターリング12とは互いに周方向に摺動する必要があり、ドライ接着シート39は不要である。また、フレキシブルシリンダ30及びアウターリング12は周方向に互いに固定されればよく、互いに接する必要はないため、後述するアウターリング内側部材42を設けずに、固定部材(例えば、後述する弾性保持部材60やそのばね片62(図11参照))によって両部材は周方向に互いに固定されてもよい。
【0069】
例えば、無段変速機1における遊星歯車機構と同等の機構による減速比が4であり、無段変速機1における波動歯車機構と同等の機構による減速比が50である場合、無段変速機1全体での減速比は200になる。
【0070】
一方、トルクが可動アウターリング12Bに入力された場合には、中央シャフト2は、可動アウターリング12Bの回転方向と逆方向又は同一方向に回転し、その際、可動アウターリング12Bの回転速度は、増速されながら中央シャフト2から出力される。
【0071】
この変速機構は、本出願人による特願2021-163663号に詳細に記載されている。変速機構の構成及び作用の詳細については当該出願を参照されたい。特願2021-163663号の開示内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
以上のように、本実施形態の無段変速機1によれば、従来の遊星歯車機構及び波動歯車機構を組み合わせたものと同様の変速機能を備えた無段変速機1が、ギヤ同士が噛み合う構成を用いずに実現される。具体的には、トルク伝達部4は、中央シャフト2の外周面とアウターリング12の内周面との間に配置される回転部材としてフレキシブルシリンダ30及びベルト機構21を含む。フレキシブルシリンダ30の外面とアウターリング12の内周面とがドライ接着する。これらの構成により、上記機能を備えた無段変速機1が実現される。
【0073】
本実施形態の無段変速機1は、上記構成により、高い押し付け力及び複雑な構造を要することなく、大きなトルクを伝達できる。したがって、無段変速機1の小型化及び軽量化と大きなトルク伝達との両立が可能である。
【0074】
なお、ドライ接着は、回転部材の外面とアウターリング12の内周面との少なくとも一方がドライ接着性を有していることにより実現される。したがって、フレキシブルシリンダ30の外周面にドライ接着シート39が設けられる構成に代えて、或いは加えて、アウターリング12の内周面にドライ接着シート39が設けられてもよい。
【0075】
第2実施形態において例を挙げて説明するが、フレキシブルシリンダ30が設けられない構成の場合、無端ベルト33の外面とアウターリング12の内周面とがドライ接着することにより、上記機能を備えた無段変速機1が実現される。また、第3実施形態において例を挙げて説明するが、ベルト機構21が設けられない構成の場合は、本実施形態と同様にフレキシブルシリンダ30の外面とアウターリング12の内周面とがドライ接着する構成により、上記機能を備えた無段変速機1が実現される。
【0076】
本実施形態の無段変速機1は、アウターリング12の内径が負荷に応じて変更するように構成されている。アウターリング12の内径の変化に応じて内周面の周長が変化することにより、無段変速機1は、トルク伝達部4によって伝達される中央シャフト2とアウターリング12との変速比を変化させる無段変速機1として機能する。以下、詳細に説明する。
【0077】
図5図2のV-V線に沿う断面図であり、図6図5のVI部の拡大図である。なお、図5は固定アウターリング12Aの断面を示しているが、可動アウターリング12Bの断面においても同様の構成とされている。そのため、以下には固定アウターリング12Aについて、単にアウターリング12と称して説明し、可動アウターリング12Bについての説明は省略する。
【0078】
図5及び図6に示すように、アウターリング12は、外側に配置される円環状のアウターリング本体41と、アウターリング本体41の内側に配置され、アウターリング12の内周面を形成する円環状のアウターリング内側部材42とを備えている。アウターリング内側部材42は、カム機構43を介してアウターリング本体41に支持されている。カム機構43は、アウターリング本体41の内周側に周方向に対して傾斜する複数のカム面44と、カム面44上のそれぞれに配置される転動体45とを含んで構成されている。転動体45は、アウターリング内側部材42によって保持されており、アウターリング内側部材42によって径方向の外側に向けて常時弾発的に付勢されている。
【0079】
カム面44は、アウターリング本体41の内面に対してV溝状に形成されている。よって、カム面44は、溝底の最も径方向外側の基準位置から図中の時計周り方向に向けて径方向内側へ傾斜するカム面44と、基準位置から反時計周り方向に向けて径方向内側へ傾斜するカム面44とを含んでいる。基準位置は、無負荷時に径方向の外側に向けて付勢された転動体45が、無段変速機1の無負荷時に位置する位置であり、カム面44の最も径方向の外側の領域である。
【0080】
アウターリング内側部材42は、所定の離間距離をもって周方向に互いに離間する複数の円弧部46と、離間距離を変更可能に互いに隣接する円弧部46を弾発的に連結する複数の連結部47とを有している。各円弧部46はアウターリング12の内周面の一部である円弧面46aを形成する。円弧部46の径方向外側部分には軸受孔48が形成されている。各連結部47は、対応する一対の円弧部46から径方向外側に突出した湾曲形状をしており、両円弧部46を互いに離間させる方向に弾発的に付勢するように連結している。つまり、アウターリング内側部材42が円環状をなすことから、連結部47は両円弧部46を径方向外側に向けて付勢する。連結部47は径方向外側の端部の転動体45を受容する溝49を有しており、溝49に受容された転動体45をカム面44に向けて付勢する。
【0081】
次に、図7を参照して、アウターリング12の動作について説明する。図7はアウターリング内側部材42の動作説明図であり、(A)は無負荷時を示し、(B)は負荷作用時を示している。図7(A)は、中央シャフト2(図5参照)が回転しておらず、出力部材である可動アウターリング12B及び可動ディスク11Bに負荷が作用していない無負荷時を示す。このとき、アウターリング内側部材42が転動体45を径方向外側に付勢しているため、転動体45は最も径方向外側の基準位置に位置している。アウターリング内側部材42によって形成されるアウターリング12の内周面の径は最も大きい。
【0082】
図7(B)は、中央シャフト2の回転によって出力部材に負荷が作用している、或いは、中央シャフト2は回転していないが出力部材に負荷が作用している負荷作用時を示している。このとき、アウターリング内側部材42とフレキシブルシリンダ30(図6参照)との間でトルク伝達が行われることにより、アウターリング内側部材42とアウターリング本体41との間にもトルクが作用する。転動体45はアウターリング内側部材42によって保持されていることから、カム面44を周方向に転がり、負荷に応じた量だけ径方向内側に移動する。転動体45がカム面44上を移動して径方向内向きに変位することにより、アウターリング12の内周面の径(半径)がΔRだけ縮小し、アウターリング12の内周が短縮する。具体的には、互いに隣接する円弧部46の離間距離が小さくなることによって、アウターリング12の内周が短縮する。
【0083】
アウターリング12の内周が短縮すると、フレキシブルシリンダ30の外周面とアウターリング12の内周面との周長差が小さくなる。例えば、周長差が1/4になると、無段変速機1における波動歯車機構と同等の機構による減速比は4倍になる。そのため、無段変速機1の全体の減速比は、無負荷時に200であった場合、負荷作用時には800になる。
【0084】
このようにアウターリング12は、複数のカム面44を内周側に有するアウターリング本体41と、アウターリング12の内周面を形成する円環状のアウターリング内側部材42とを備える。そしてアウターリング内側部材42は、転動体45がカム面44上を移動して径方向内向きに変位することにより、内径を縮小させるように構成されている。したがって、アウターリング12の内径の変化に応じて内周面の周長が変化することにより、トルク伝達部4によって伝達される中央シャフト2とアウターリング12との間の回転の速度比(無段変速機1の変速比)が変化する。中央シャフト2とアウターリング12との間で伝達されるトルク、すなわち負荷が大きいほどアウターリング12の内径は縮小し、これに伴って変速比が無段階に変化する。
【0085】
図6に示すように、アウターリング内側部材42は、円弧面46aを形成する複数の円弧部46と、所定の離間距離をもって周方向に互いに離間する円弧部46を、離間距離を延長する向きに弾発的に付勢するように連結する複数の連結部47とを有する。図7に示すように、アウターリング内側部材42が円弧部46の離間距離を短縮させることによってアウターリング12の内周面のみかけ周長が短縮する。これにより、負荷によって内径が変化するアウターリング12が簡単な構成により実現される。
【0086】
次に、図8を参照して、アウターリング内側部材42の縮径時におけるベルト機構21の動作と、それを実現するための構成を説明する。図8は、アウターリング内側部材42の縮径時におけるベルト機構21の動作説明図である。上記のように、ベルト機構21のローラ31の軸35及び弾性押圧機構32の軸37は、左右のキャリア本体23の連結壁部25(キャリア22)に形成された長孔に嵌合し、キャリア22に対して相対移動可能になっている。この態様によれば、アウターリング内側部材42が円弧部46の離間距離を短縮させることによってアウターリング12の内周面のみかけ周長が短縮する。これにより、負荷によって内径が変化するアウターリング12を簡単な構成により実現することができる。
【0087】
押圧部材38を支持する5列の軸37及び2つのローラ31の軸35には、フック部材50が係合している。フック部材50は、これらの軸35、37から径方向外側へ延びる複数のフック51と、これらフック51を連結する円弧状のガイド部52とを有している。ガイド部52は、アウターリング内側部材42(図6参照)に軸支された複数のガイドローラ53によって径方向内側からガイドされる。フック51は、ガイド部52がガイドローラ53によってガイドされることにより、軸35、37を径方向外側へ付勢する。フック51は、弾性材料からなっていてもよい。この場合、フック51は軸35、37を径方向外側へ弾発的に付勢する。
【0088】
ガイドローラ53は、図6に示す円弧部46に形成された軸受孔48によって軸支されており、円弧面46aに対して一定の位置に配置されている。したがってガイドローラ53は、アウターリング12の内周面の径が縮小すると円弧面46aと共に径方向内側に移動し、アウターリング12の内周面の径が拡大すると円弧面46aと共に径方向外側に移動する。また、ガイドローラ53は押圧部材38の円弧状の外面に当接している。したがってガイドローラ53は、アウターリング12の内周面の径が縮小したときに円弧面46aと共に径方向内側に移動することで、押圧部材38及びローラ31の軸35を径方向内側に移動させると共に、押圧部材38の曲率半径を縮小させる。
【0089】
図9は、無段変速機1のトルク伝達部4の概略構成図である。図3図8及び図9に示すように、押圧部材38は、ばね部材36によって径方向内側から径方向外側に常時弾発的に付勢されている。これにより、押圧部材38は無端ベルト33の外周面をフレキシブルシリンダ30の内周面に接触させ、フレキシブルシリンダ30の外周面をアウターリング12の内周面に接触させる。
【0090】
アウターリング内側部材42は、それ自体がアウターリング内側部材42を径方向の外側に向けて常時弾発的に付勢する付勢部材として機能する。或いは、アウターリング内側部材42をアウターリング本体41に向けて弾発的に付勢する別部材からなる付勢ばね55が例えばアウターリング本体41に設けられてもよい。
【0091】
また、アウターリング内側部材42は、フック部材50及びガイドローラ53によって押圧部材38をアウターリング12の内周面に対して一定の位置に保持する。言い換えれば、アウターリング内側部材42は、フック部材50及びガイドローラ53の移動に伴ってそれらによって径方向外側及び径方向内側に付勢される。以上の構成により、無端ベルト33とフレキシブルシリンダ30とが互いにドライ接着し、フレキシブルシリンダ30とアウターリング12とが互いにドライ接着する状態が維持される。
【0092】
このようにトルク伝達部4は、フレキシブルシリンダ30の周方向の一部をアウターリング12の内周面に向けて弾発的に付勢する付勢部材として弾性押圧機構32及びばね部材36を備える。これにより、アウターリング内側部材42の内径が変化したときに、フレキシブルシリンダ30の周方向の一部が、その曲率を変化させながらアウターリング12の内周面に面接触する。よって、アウターリング内側部材42とフレキシブルシリンダ30とのトルク伝達可能な関係が維持される。
【0093】
図3に示すようにベルト機構21は、無端ベルト33をアウターリング12の内周面に向けて弾発的に付勢するばね部材36を備える。これにより、アウターリング内側部材42の内径が変化したときに、無端ベルト33の周方向の一部が、曲率を変化させながら径方向外側の部材、すなわちフレキシブルシリンダ30に面接触する。よって、フレキシブルシリンダ30と無端ベルト33とのトルク伝達可能な関係が維持される。
【0094】
ローラ支持部材をなすキャリア22は、無端ベルト33を内側から外側に向けて付勢するように、複数のローラ31を弾発的に支持する。これにより図8に示すように、アウターリング内側部材42の内径が縮小したときに、複数のローラ31がキャリア22に対して移動できる。そのため、無端ベルト33に過大な張力が作用せず、無端ベルト33が外側へ付勢されて、径方向外側の部材、すなわちフレキシブルシリンダ30に面接触する。
【0095】
図10は、フレキシブルシリンダ30の保持構造を示す側面図である。なお、図10では、アウターリング本体41のハッチングを省略している。図4及び図10に示すように、フレキシブルシリンダ30は一対の円柱面部30a及び一対の曲面部30bを有する略楕円形状をしている。一対の円柱面部30aは楕円形状の長軸部分を形成し、一対の曲面部30bは楕円形状の短軸部分を形成している。フレキシブルシリンダ30の円柱面部30aは、ベルト機構21とアウターリング12とによって挟持される。一方、フレキシブルシリンダ30の曲面部30bは、何らの拘束力を受けず、フリーな状態であることから、形状が安定しない。そこで、本実施形態の無段変速機1は、フレキシブルシリンダ30を全周に亘って外側から弾発的に保持する弾性保持部材60を備えている。弾性保持部材60はアウターリング12に取り付けられるとよい。
【0096】
図11は、弾性保持部材60の側面図である。図11に示すように、弾性保持部材60は、外周部に配置され、アウターリング12に取り付けられる取付部61と、取付部61の内周部から径方向内側に向けて延出する複数のばね片62とを有している。図示例では、ばね片62は、取付部61の内周部からクランク形状をなして径方向内側に延出している。この弾性保持部材60は、アウターリング内側部材42に隣接して、或いは可動アウターリング12Bにおいてアウターリング内側部材42の代わりに設けられるとよい。アウターリング内側部材42の代わりに弾性保持部材60を設ける場合、弾性保持部材60をフレキシブルシリンダ30に対して周方向に相対回転不能に固定するとよい。これにより、フレキシブルシリンダ30の回転をそのまま可動アウターリング12Bから出力させることができる。
【0097】
このように、弾性保持部材60が設けられることにより、アウターリング内側部材42に当接することで形状が安定する部分以外の部分においても、フレキシブルシリンダ30の形状が安定化する。
【0098】
≪第2実施形態≫
次に、図12を参照して本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と形態又は機能が同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0099】
図12は、第2実施形態に係る無段変速機101のトルク伝達部4の概略構成図であり、図5に対応する断面を示している。アウターリング内側部材42は、図6に示すカム機構43を介してアウターリング本体41によって支持されることにより、内径を縮小可能に構成されている。ただし、図12では、アウターリング内側部材42について、詳細な構造を示さずに、簡略化して示している。
【0100】
本実施形態の無段変速機101は、トルク伝達部104がフレキシブルシリンダ30を備えない点で第1実施形態と相違する。すなわち、無段変速機101は遊星歯車機構と同等の変速機能のみを備え、波動歯車機構と同等の変速機能を備えていない。ベルト機構21の外周面、すなわち無端ベルト33の外周面はドライ接着シート39を備えており、ドライ接着性を有している。各ベルト機構21の無端ベルト33は、固定アウターリング12Aの内周面及び中央シャフト2の外周面に当接する。他の実施形態では、アウターリング12の内周面及び中央シャフト2の外周面がドライ接着性を有してもよい。
【0101】
無段変速機101はこのように構成されている。これにより、図4を参照して説明したように、無段変速機101における、中央シャフト2及びキャリア22のアウターリング内側部材42に対する動作は、遊星歯車機構と同等のものとなる。すなわち、中央シャフト2がサンギヤに、キャリア22がプラネタリキャリアに、アウターリング内側部材42が回転不能のリングギヤにそれぞれ相当する。キャリア22の減速比(中央シャフト2の回転速度/キャリア22の回転速度)は、中央シャフト2の外周面のサイズ及びアウターリング内側部材42の内周面のサイズによって決まる。
【0102】
第1実施形態と同様に、中央シャフト2の回転によって出力部材に負荷が作用しているとき、或いは、中央シャフト2は回転していないが出力部材に負荷が作用しているときに、アウターリング12の内周面の径が縮小する。すなわち、図6に示すカム機構43の転動体45がカム面44上を移動して径方向内向きに変位することにより、アウターリング12の内径が負荷に応じて縮小し、アウターリング12の内周が短縮する。これにより、無段変速機101の変速比が負荷に応じて変化する。
【0103】
このように本実施形態では、トルク伝達部104がベルト機構21を含み、無端ベルト33の外面がドライ接着性を有するように構成されている。この構成により、中央シャフト2が回転すると、中央シャフト2の外周面及びアウターリング12の内周面に無端ベルト33を当接させたベルト機構21がトルクを伝達しながら中央シャフト2の周りを公転する。すなわち、ベルト機構21が遊星歯車と同様に動作する。これにより、負荷に応じてアウターリング12の内径が縮小したときに変速比が変化する無段変速機201が構成される。
【0104】
≪第3実施形態≫
次に、図13を参照して第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と形態又は機能が同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0105】
図13は、第3実施形態に係る無段変速機201のトルク伝達部204の概略構成図であり、図5に対応する断面を示している。アウターリング内側部材42は、図6に示すカム機構43を介してアウターリング本体41によって支持されることにより、内径を縮小可能に構成されている。ただし、図13では、アウターリング内側部材42について、詳細な構造を示さずに、簡略化して示している。
【0106】
本実施形態の無段変速機201は、トルク伝達部204がベルト機構21を備えていない点で第1実施形態と相違する。すなわち、無段変速機201は波動歯車機構と同等の変速機能のみを備え、遊星歯車機構と同等の変速機能を備えていない。以下、詳細に説明する。
【0107】
トルク伝達部204は、中央シャフト2の外面に設けられた弾性形状付与部材260と、弾性形状付与部材260の外周面に設けられたフレキシブル軸受270と、フレキシブル軸受270によって内側から支持されたフレキシブルシリンダ30とを備えている。フレキシブル軸受270は、転がり軸受タイプのものであり、弾性変形可能に構成されている。フレキシブル軸受270は、その内周面を介して、弾性形状付与部材260の外周面に嵌合している。また、フレキシブルシリンダ30は、その内周面を介して、フレキシブル軸受270の外周面に嵌合している。フレキシブルシリンダ30の外周面はドライ接着シート39を備えており、ドライ接着性を有している。フレキシブルシリンダ30の外周面は、固定アウターリング12Aの内周面に当接する。他の実施形態では、アウターリング12の内周面がドライ接着性を有してもよい。
【0108】
弾性形状付与部材260は、図11に示した弾性保持部材60と同様の複数のばね片62を外周部に有する構成とされている。弾性形状付与部材260は、中央シャフト2の外周面における互いに180°相違する一対の位置が長軸をなす略楕円形になるようにフレキシブル軸受270を変形させる。具体的には、弾性形状付与部材260は、一対の対向位置においてばね片62の径方向外向きの力が大きく、それらに対して90°異なる一対の位置においてばね片62の径方向外向きの力が小さくなるように構成されている。これにより、弾性形状付与部材260は、中央シャフト2の回転に応じてフレキシブル軸受270をその長軸位置を回転させるように変形させる。また、負荷に応じてアウターリング12の内径が縮小したときに、長軸を短縮させるフレキシブル軸受270の変形を許容する。
【0109】
無段変速機201はこのように構成されている。これにより、無段変速機201における、中央シャフト2、弾性形状付与部材260、フレキシブル軸受270及びフレキシブルシリンダ30のアウターリング内側部材42に対する動作は、波動歯車機構と同等のものとなる。すなわち、中央シャフト2、弾性形状付与部材260及びフレキシブル軸受270が波動発生体に、フレキシブルシリンダ30が波動歯車機構のフレキシブルスプラインにそれぞれ相当する。フレキシブルシリンダ30の減速比(中央シャフト2の回転速度/フレキシブルシリンダ30の回転速度)は、フレキシブルシリンダ30の外周面の周長及び、フレキシブルシリンダ30の外周面とアウターリング12の内周面との周長差によって決まる。
【0110】
第1実施形態と同様に、中央シャフト2の回転によって出力部材に負荷が作用しているとき、或いは、中央シャフト2は回転していないが出力部材に負荷が作用しているときに、アウターリング12の内周面の径が縮小する。すなわち、図6に示すカム機構43の転動体45がカム面44上を移動して径方向内向きに変位することにより、アウターリング12の内径が負荷に応じて縮小し、アウターリング12の内周が短縮する。これにより、無段変速機201の変速比が負荷に応じて変化する。
【0111】
このように本実施形態では、トルク伝達部204がフレキシブルシリンダ30を含み、フレキシブルシリンダ30の外周面がドライ接着性を有するように構成されている。この構成により、フレキシブルシリンダ30が略楕円形の長軸部分の外周面をアウターリング12の内周面に当接させた状態で長軸を1回転させるように変形すると、当該外周面と当該内周面との周長差分だけ回転する。これにより、変速比が大きな無段変速機1が構成される。また、負荷に応じてアウターリング12の内径が縮小すると、周長差が急激に小さくなるため、変速比が大きく変化する。
【0112】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、一例として無段減速機として本発明の説明を行ったが、無段増速機として利用することもできる。この他、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、角度、素材など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態は組み合わせて利用してもよい。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0113】
1、101、201 :無段変速機
2 :中央シャフト
3 :ハウジング
4、104、204 :トルク伝達部
12 :アウターリング
12A :固定アウターリング
12B :可動アウターリング
21 :ベルト機構(回転部材)
22 :キャリア(ローラ支持部材)
30 :フレキシブルシリンダ(回転部材)
31 :ローラ
32 :弾性押圧機構(付勢部材)
33 :無端ベルト
36 :ばね部材(付勢部材)
38 :押圧部材
39 :ドライ接着シート
41 :アウターリング本体
42 :アウターリング内側部材
43 :カム機構
44 :カム面
45 :転動体
46 :円弧部
46a :円弧面
47 :連結部
55 :付勢ばね
60 :弾性保持部材
X :中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13