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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084533
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】音評価値演算装置及び音可視化装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
G01H17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198853
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390029023
【氏名又は名称】日本音響エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 友己
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 泰
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】丸山 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】端山 寛文
(72)【発明者】
【氏名】田中 菜津
(72)【発明者】
【氏名】森尾 謙一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔馬
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】所定エリア及び所定エリアを分割した複数の小エリアのそれぞれにおける音環境を音の評価値として演算する。また、所定エリア及び各小エリアの音分布を可視化する。
【解決手段】
音環境の評価値を演算する音評価値演算装置1は、所定エリア29の音を検出する音検出装置2及び演算装置(4)を有する。演算装置は、音検出装置により検出された音に基づいて、所定エリアについて音分布を求め、所定エリアにおける音の評価値と、所定エリアに含まれ且つ互いに重ならない複数の小エリア30のそれぞれにおける音の評価値とを演算する。音可視化装置5は、音評価値演算装置1と、所定エリアに対応する大エリア表示枠44及び複数の小エリアに対応する複数の小エリア表示枠45を表示する表示装置6とを備える。表示装置は、音評価値演算装置によって演算された音の評価値を、対応する大エリア表示枠及び複数の小エリア表示枠に関連付けて表示する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音環境の評価値を演算する音評価値演算装置であって、
所定エリアの音を検出する音検出装置と、
前記音検出装置により検出された前記音に基づいて、前記所定エリアについて音分布を求め、前記所定エリアの前記音分布に基づいて、前記所定エリアにおける前記音の評価値と、前記所定エリアに含まれ且つ互いに重ならない複数の小エリアのそれぞれの前記音分布に基づいて、各小エリアにおける前記音の評価値とを演算する演算装置と、を有する音評価値演算装置。
【請求項2】
前記演算装置は、前記所定エリアの前記音分布から前記所定エリアを代表する代表値を演算し、各小エリアの前記音分布から各小エリアを代表する代表値を演算する請求項1に記載の音評価値演算装置。
【請求項3】
前記演算装置は、各小エリアを代表する前記代表値に、前記音検出装置と各小エリアとの距離に基づいた補正係数を乗じることによって前記音の評価値を演算する請求項2に記載の音評価値演算装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の音評価値演算装置と、
前記所定エリアに対応する大エリア表示枠及び複数の前記小エリアに対応する複数の小エリア表示枠を表示する表示装置と、を備え音可視化装置であって、
前記表示装置は、前記演算装置によって演算された前記音の評価値を、対応する前記大エリア表示枠及び複数の前記小エリア表示枠に関連付けて表示する、音可視化装置。
【請求項5】
前記表示装置は、前記大エリア表示枠の中に隙間が生じるように、複数の前記小エリアの少なくともいくつかについて、対応する前記小エリアよりも小さな前記小エリア表示枠を表示し、前記所定エリアの前記音の評価値を前記隙間に表示する請求項4に記載の音可視化装置。
【請求項6】
前記表示装置は、前記大エリア表示枠と複数の前記小エリア表示枠とを個別に表示する、請求項4に記載の音可視化装置。
【請求項7】
前記演算装置は、前記音の評価値を対応する色に変換し、
前記表示装置は、前記大エリア表示枠及び前記小エリア表示枠に、前記演算装置によって変換された前記色を表示する請求項5に記載の音可視化装置。
【請求項8】
前記音検出装置は、前記所定エリアの中央部の上方に配置され、
複数の前記小エリアは、前記音検出装置の直下に位置する中央エリアと、前記中央エリアの周囲に配置された複数の周辺エリアとを含む、請求項5に記載の音可視化装置。
【請求項9】
複数の前記小エリアは、複数の前記周辺エリアの周囲に配置された複数の外周エリアを更に含む、請求項8に記載の音可視化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音環境の評価値を評価するための音評価値演算装置及び音可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外部騒音が室内に及ぼす影響を評価する際に、音圧レベル差に関する遮音等級の基準周波数特性を用いた専門研究員による騒音評価によらず、直接室内の騒音レベルをチェックするといった住環境を評価するシステムが公知である。従来の環境音評価システムでは、住居や執務に使う居室内の音環境の評価は静かなほど良いという観点で行われており、音の大きさ(騒音/音圧レベル)が評価要素として用いられている。
【0003】
特許文献1では、音圧分布を視覚的に表した音源可視化装置が開示されている。音源可視化装置は、音響計測可視化装置と、複数のマイクロホンを有するマイクロホンアレイとを有する。マイクロホンアレイは測定対象物の発する音を計測し、各マイクロホンで計測された音を表した測定データを音響計測可視化装置に出力する。音響計測可視化装置は、マイクロホンアレイから出力された測定データに基づいて音圧分布を演算し、音圧分布を色の濃淡によって表示する。これにより、音圧分布が可視化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-135276号公報
【特許文献2】特開2021-61129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、人は、環境音に心地よさや好ましさを感じることがある。例えば、特許文献2に記載の環境制御システムでは、オフィスにおけるワーク効率を高めるために、小川のせせらぎの音や、ジャズやボサノバの音楽といったサウンドコンテンツがスピーカから再生される。また、人は例えば喫茶店に居るときに、騒がしいが集中できる・落ち着くと感じる、即ち、音がより小さい場合よりも好ましい音環境であると評価することがある。つまり、音環境について人が感じる好ましさは、上記の音圧のみからでは説明できない、より多くの情報に基づいて導き出されていると考えられる。特許文献1に記載の音響計測可視化装置は音圧分布を可視化しているが、その音圧を心地よい又は騒がしいと評価するものではない。したがって現状では音環境を可視化して、その音環境を各個人が活動する内容に適しているかどうかの判断要素に用いることは困難である。
【0006】
ある所定のエリアの内のどのエリア(小エリア)の音環境を把握し、活動する内容に適した場所を選択するニーズが高まることが予想される。各小エリアの音環境だけでなく、所定エリア全体の音環境が好ましいか否かをも把握したいというニーズが高まることも予想される。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、所定エリア及び所定エリアを分割した複数の小エリアのそれぞれにおける音環境を音の評価値として演算することを第1の課題とする。また、また本発明は、所定エリア及び各小エリアの音分布を可視化することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記第1の課題を解決するために、本発明のある実施形態は、音環境の評価値を演算する音評価値演算装置(1)であって、所定エリア(29)の音を検出する音検出装置(2)と、前記音検出装置により検出された前記音に基づいて、前記所定エリアについて音分布を求め、前記所定エリアの前記音分布に基づいて、前記所定エリアにおける前記音の評価値と、前記所定エリアに含まれ且つ互いに重ならない複数の小エリア(30)のそれぞれの前記音分布に基づいて、各小エリアにおける前記音の評価値とを演算する演算装置(4)とを有する。
【0009】
この態様によれば、所定エリア及び所定エリアを分割した複数の小エリアのそれぞれにおける音環境を音の評価値として演算できる。
【0010】
上記の態様において、前記演算装置は、前記所定エリアの前記音分布から前記所定エリアを代表する代表値を演算し、各小エリアの前記音分布から各小エリアを代表する代表値を演算するとよい。
【0011】
この態様によれば、所定エリア及び各小エリアの評価値を、それぞれのエリアの音に適合する適切な値として演算することができる。
【0012】
上記の態様において、前記演算装置は、各小エリアを代表する前記代表値に、前記音検出装置と各前記エリアとの距離に応じた補正係数を乗じることによって前記音の前記評価値を補正するとよい。
【0013】
この態様によれば、音検出装置と各小エリアとの距離の差によって生じる音の減衰を補償して各小エリアにおける実際の評価値を演算することができる。
【0014】
上記第2の課題を解決するために、本発明のある実施形態は、上記態様の音評価値演算装置と、前記所定エリアに対応する大エリア表示枠(44)及び複数の前記小エリアに対応する複数の小エリア表示枠(45)を表示する表示装置(6)と、を備える音可視化装置(5)であって、前記表示装置は、前記演算装置によって演算された前記音の評価値を、対応する前記大エリア表示枠及び複数の前記小エリア表示枠に関連付けて表示する。
【0015】
この態様によれば、所定エリア及び各小エリアの音分布を可視化することができる。
【0016】
上記の態様の音可視化装置において、前記表示装置は、前記大エリア表示枠の中に隙間が生じるように、複数の前記小エリアの少なくともいくつかについて、対応する前記小エリアよりも小さな前記小エリア表示枠を表示し、前記所定エリアの前記音の評価値を前記隙間に表示するとよい。
【0017】
この態様によれば、所定エリアの音の評価値と小エリアにおける音の評価値との比較又は小エリア同士における音の評価値の比較をユーザが容易にすることができる。
【0018】
上記の態様の音可視化装置において、前記表示装置は、前記大エリア表示枠と複数の前記小エリア表示枠とを個別に表示するとよい。
【0019】
この態様によれば、所定エリアの音の評価値と小エリアにおける音の評価値との比較又は小エリア同士における音の評価値の比較をユーザが容易にすることができる。
【0020】
上記の態様の音可視化装置において、前記演算装置は、前記音の評価値を対応する色(42)に変換し、前記表示装置は、前記大エリア表示枠及び前記小エリア表示枠に、前記演算装置によって変換された前記色を表示するとよい。
【0021】
この態様によれば、所定エリアの音の評価値及び複数の小エリアのそれぞれにおける音の評価値を直感的に把握することができる。
【0022】
上記の態様の音可視化装置において、前記音検出装置は、前記所定エリアの中央部の上方に配置され、複数の前記小エリアは、前記音検出装置の直下に位置する中央エリア(38)と、前記中央エリアの周囲に配置された複数の周辺エリア(39)とを含むとよい。
【0023】
この態様によれば、中央エリアと複数の周辺エリアとは同一平面上に配置される。よって、小エリア同士における音の評価値の比較をユーザが容易に行うことができる。
【0024】
上記の態様において、複数の前記小エリアは、複数の前記周辺エリアの周囲に配置された複数の外周エリア(50)を更に含むとよい。
【0025】
この態様によれば、所定エリアの音の評価値と小エリアにおける音の評価値との比較又は小エリア同士における音の評価値の比較をユーザがより詳細にすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、所定エリア及び所定エリアを分割した複数の小エリアのそれぞれにおける音環境を音の評価値として演算することができる。また本発明は、所定エリア及び各小エリアの音分布を可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態に係る音可視化装置の概略構成図
図2】第1実施形態に係るアレイマイクと所定エリア及び小エリアとの関係を示す平面図
図3】アレイマイクと所定エリア及び小エリアとの関係を示す断面図(図3のIII―III断面図)
図4】第1実施形態に係る大エリア表示枠及び各小エリア表示枠を示す表示装置の表示画面
図5】大エリア表示枠及び小エリア表示枠に関連付けて表示された音の評価の一例を示す表示画面
図6】大エリア表示枠及び小エリア表示枠に関連付けて表示された音の評価の他の例を示す表示画面
図7】第2実施形態に係るアレイマイクと所定エリア及び小エリアとの関係を示す平面図
図8】第2実施形態に係る大エリア表示枠及び各小エリア表示枠を示す表示装置の表示画面
図9】第3実施形態に係る大エリア表示枠及び各小エリア表示枠を示す表示装置の表示画面
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るいくつかの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
≪第1実施形態≫
図1は第1実施形態に係る音評価値演算装置1及び音可視化装置5の概略構成図である。図1に示すように、音評価値演算装置1は、建築物の所定エリア29(図3参照)における音の評価値を演算するための装置であり、音可視化装置5は、建築物の所定エリア29(図3参照)における音環境を、評価値を用いて表示するための装置である。
【0030】
音評価値演算装置1は、音を検出するための音検出装置としてアレイマイク2を備えている。
【0031】
アレイマイク2は、複数のマイク3(マイクロホン)とベース部材としての略球面を有する球形フレームを備えている。各マイク3は、マイク3の外部を向く方向を異にするよう所定の配列(アレイ)を以て略等間隔に球形フレームの球面上に配置されており、それぞれ配置された位置における球面上の音圧を検出する。複数のマイク3で検出した球面上の音圧信号を統合して信号処理することにより、アレイマイク2は、アレイマイク2周りの全方位に亘って音を検出できる。なお、他の実施形態では、アレイマイク2の形状は限定されず、例えば半球形状或いは矩形状のフレームに各マイク3が配置されてもよい。各マイク3の配置は上記に限定されず、例えば指向性をもつマイクロホンを配置したアレイマイク2を使用し、直接方向別に音を検出してもよい。
【0032】
また音評価値演算装置1は、アレイマイク2により検出された音に基づいて、音環境を評価して表示するためのコンピュータ4を更に備えている。音可視化装置5は、アレイマイク2及びコンピュータ4に加え、表示装置6を備えている。コンピュータ4は、演算処理装置(CPU、MPU等のプロセッサ)、記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)を備え、音環境の評価に必要な各種処理を実行するように構成されている。各種処理を実行するように構成されているとは、演算処理装置(プロセッサ)が、記憶装置(メモリ)から必要なデータ及びアプリケーションソフトウェアを読み取り、当該ソフトウェアにしたがって当該所定の演算処理を実行するようにプログラムされていることを意味する。コンピュータ4は1つのハードウェアとして構成されていてもよく、複数のハードウェアからなるユニットとして構成されていてもよい。
【0033】
コンピュータ4は、アレイマイク2により検出された音に基づいて、音分布を演算する。この機能部として、コンピュータ4は音分布取得部11、音圧算出部12、音質算出部13及び、音圧変化算出部14を有する。
【0034】
音分布取得部11は、アレイマイク2により検出された音に基づいて音分布を取得する。具体的には、音分布取得部11は、複数の測定角度θのそれぞれに、各マイク3が検出した音に所定の演算処理やフィルタ処理を行って対応する測定角度θの音を算出した後に、各音を対応する測定角度θに関連付けて音分布を取得する。測定角度θは、音がアレイマイク2に向かって伝搬する方向を示し、例えば水平面からアレイマイク2までの角度によって示されてもよい。或いはXYZ3次元直交座標系のXY平面の角度と、YZ平面の角度とによって示されてもよい。音分布取得部11は、測定角度θに対応する指向性をもつマイク3によって検出してもよい。
【0035】
音圧算出部12は、検出された音に基づいて音の大小を算出する。音圧算出部12は、例えば、各マイク3が検出したそれぞれの音圧を加算することによって、音圧を算出する。音圧算出部12は、各音について、所定時間に亘って検出された音圧の平均値を用いて音圧を算出するとよい。
【0036】
音質算出部13は、検出された音に基づいて音質を算出する。音質は、検出された音の周波数特性(周波数の高低)を表すパラメータである。音質算出部13は、例えば、マイク3が検出した領域別の音を重畳させた音を用いて、音質(より正確には、アレイマイク2の配置位置における音質)を算出する。音質算出部13は、所定時間に亘って検出された音質の平均値を音質として算出するとよい。
【0037】
音圧変化算出部14は、検出された音の変化に基づいて、音圧変化を算出する。具体的には、音圧変化算出部14は、音圧算出部12が算出した音圧の時間あたり変化量を所定時間に亘って算出し、それらの変化量から音圧変化を算出する。例えば、音圧変化算出部14は、音圧の時間あたり変化量の積分値を音圧変化として算出する。
【0038】
なお他の実施形態では、コンピュータ4は音分布を演算する機能部として卓越性算出部を更に有してもよい。卓越性算出部は、各マイク3に関連付けられた複数の音圧(音圧レベル)に基づいて、音の卓越性を算出する。卓越性算出部は、各音について、所定時間に亘って検出された音圧の平均値を、対応するマイク3に有する音として算出、これらの音を用いて音の卓越性を算出するとよい。音の卓越性は、音の散らばり具合を尺度化したパラメータであって、その数値が大きいほど音の散らばり具合が低く(音の卓越性が高く)、その数値が小さいほど音の散らばり具合が高い(音の卓越性が低い)ことを示す。
【0039】
またコンピュータ4は、所定エリア29の音分布に基づいて、所定エリア29における音の評価値を演算する。更にコンピュータ4は、所定エリア29に含まれ且つ互いに重ならない複数の小エリア30のそれぞれの音分布に基づいて、各小エリア30における音の評価値を演算する。これらの機能部として、コンピュータ4は、音分布抽出部15、代表値演算部16、距離補正部17及び、評価値算出部18を有する。
【0040】
図2に示すように、室内31には4つの机32と、机32のそれぞれの近傍に配置されたオフィスチェア33と、六角形の1つのテーブル34と、棚35とが配置されている。テーブル34は部屋の右側の中心近傍位置に配置され、テーブル34の周りには3つの椅子36が一辺おきに等間隔に配置されている。これらの机32及びテーブル34の各間にはパーティション37が配置されている。図3に併せて示すように、本実施形態では、音可視化装置5はテーブル34の周りの音環境を可視化する。そのため、アレイマイク2はテーブル34の上方の天井に配置されている。図中、アレイマイク2は「AR」で表示されている。
【0041】
所定エリア29及び複数の小エリア30は、音源48の配置高さに応じた所定の水平面上にあらかじめ設定される。所定の水平面は、室内31における音の発生源がユーザの活動に起因するものと仮定するため、所定の水平面は、床面から上方へ0.5m~2mの位置、より限定すると同1m~1.5mの位置に配置されると仮定する。本実施形態では所定の水平面は机32の天板の上面の位置に配置されている。
【0042】
所定エリア29は、アレイマイク2の中央部の下方に配置される。本実施形態では、所定エリア29は、その中心がアレイマイク2の中心と平面視において重なるよう設けられた平面円状の領域に設定されている。所定エリア29には、テーブル34及び3つの椅子36が含まれている。また、所定エリア29には複数の測定角度θが含まれている。
【0043】
小エリア30は、中央エリア38と複数の周辺エリア39とを有する。中央エリア38は、その中心がアレイマイク2の中心と平面視において重なり且つ、所定エリア29よりも小さい平面円状の領域に設定されている。複数の周辺エリア39は、中央エリア38の外方の所定エリア29(本実施形態ではドーナツ形状)を周方向に均等に8つに分割された領域に設定されている。これらにより、中央エリア38及び各周辺エリア39は、互いに重ならず且つ、同一平面上に配置される。中央エリア38及び周辺エリア39にも、複数の測定角度θが含まれている。中央エリア38及び周辺エリア39は、ユーザ1人分の活動できる範囲に設定されるとよい。本実施形態では、中央エリア38はテーブル34を含むように設定され、周辺エリア39は椅子36の1つ分を含むように設定されている。
【0044】
図1に戻り、音分布抽出部15は、所定エリア29の音分布及び所定エリア29に含まれ且つ互いに重ならない複数の小エリア30の音分布を抽出する。具体的には、音分布抽出部15は、所定エリア29内に含まれる複数の測定角度θのそれぞれに対応する音の一群を所定エリア29の音分布として抽出する。また音分布抽出部15は、各小エリア30内に含まれる複数の測定角度θのそれぞれに対応する音の一群を各小エリア30の音分布として抽出する。
【0045】
代表値演算部16は、所定エリア29の音分布から所定エリア29を代表する代表値を演算し、各小エリア30の音分布から各小エリア30を代表する代表値を演算する。本実施形態では、代表値として平均値が用いられている。具体的には、代表値演算部16は所定エリア29内に含まれる複数の測定角度θのそれぞれに対応する音、すなわち以上のように算出された音圧、音質、音圧変化をそれぞれ平均する。また代表値演算部16は、各小エリア30内に含まれる複数の測定角度θのそれぞれに対応する音、すなわち以上のように算出された音圧、音質、音圧変化をそれぞれ平均する。これにより、所定エリア29及び各小エリア30の評価値を、それぞれのエリアの音に適合する適切な値として演算することができる。
【0046】
距離補正部17は、各周辺エリア39を代表する平均値に、音検出装置と中央エリア38との距離に基づいた補正係数を乗じる。具体的には、距離補正部17は音圧算出部12によって算出された音圧に下式(1)を用いて補正するとよい。
Lb=La+20log10(rb/ra) ・・・(1)
ただし、La:音圧算出部12によって算出された音圧、Lb:各周辺エリア39の音圧、rb:アレイマイク2から各周辺エリア39までの距離、ra:アレイマイク2から中央エリア38までの距離、である。これにより距離補正部17は、アレイマイク2から中央エリア38までの距離とアレイマイク2から中央エリア38までの距離との差によって生じる音の減衰を補償して各小エリア30における実際の評価値を演算することができる。
【0047】
評価値算出部18は、以上のように算出された音圧、音質、音圧変化に基づいて、音に関する評価値を算出する。例えば、評価値算出部18は、これらの値を乗算又は除算することによって評価値を算出する。評価値は、典型的には、数値が小さいほど所定エリア29の音環境が良好であると評価されるパラメータであってよい。或いは、対象とする人やスペースに応じて最適値が設定され、評価値は最適値に近いほど良好であると評価されてもよい。評価値算出部18は、評価値の算出に用いる値に重み付けをしてもよく、所定の条件式を組み込んで評価値を算出してもよい。
【0048】
更にコンピュータ4は、表示装置6に評価値を表示するための機能部として、評価値変換部19及び表示制御部20を有する。表示装置6は例えば液晶ディスプレイであってよい。
【0049】
評価値変換部19は、上記によって演算された音の評価値を視覚によって把握しやすい形式に変換する。本実施形態では評価値変換部19は、音の評価値を対応する色に変換する。具体的には評価値変換部19には、音の評価値のとりうる範囲をいくつかに分けることによって設定された区分と、各区分に対応する色の色相42とがあらかじめ設定されている。評価値変換部19は、評価値算出部18によって算出された評価値を、その評価値を含む区分に対応する色相42に変換する。各区間に対応させる色には、色相42の代わりに色の明度又は色の彩度が用いられてもよく、色相42、明度及び彩度が組み合わせて用いられてもよい。
【0050】
表示制御部20は表示装置6の表示を制御する。具体的には、表示制御部20は所定エリア29に対応する大エリア表示枠44及び、小エリア30に対応する複数の小エリア表示枠45を記憶装置から読み込み、これらを表示装置6に表示させる。大エリア表示枠44及び複数の小エリア表示枠45は作業者によってあらかじめ記憶装置に設定された表示領域である。大エリア表示枠44は、所定エリア29と略同等の大きさ及び形状に設定されている。各小エリア表示枠45は、所定の水平面上の中央エリア38よりも小さい円形状に設定されている。つまり、各小エリア表示枠45は対応する小エリア30よりも小さくなるように変換される。また表示制御部20は、評価値変換部19によって変換された色の色相42を大エリア表示枠44及び小エリア表示枠45に関連付けて表示装置6に表示する。具体的には、表示制御部20は、あらかじめ取り込まれた室内31を表すマップ46に、大エリア表示枠44及び各小エリア表示枠45が重なるように、且つ大エリア表示枠44及び小エリア表示枠45の各領域に対応する色相42が表示されるように、表示装置6を制御する。室内31を表すマップ46は例えばカメラ等によって撮影された画像を用いてよい。この場合、カメラ等は所定エリア29を画角に含むように天井に配置されるとよく、アレイマイク2に備えられてもよい。
【0051】
図4に示すように表示装置6は、室内31を表すマップ46に、大エリア表示枠44及び各小エリア表示枠45を関連付けて表示させるため、大エリア表示枠44の中に全ての小エリア表示枠45が配置される。具体的には所定エリア29に対応する大エリア表示枠44及び複数の小エリア30に対応する複数の小エリア表示枠45を重ねて表示する。各小エリア表示枠45は対応する小エリア30よりも小さくなるように設定されるため、互いに隣接する小エリア30の間には隙間が生じる。大エリア表示枠44における小エリア表示枠45以外の部分には、所定エリア29の音の評価値に関連付けられた色の色相42が表示される。各小エリア表示枠45の内部は、対応する小エリア30の音の評価値に関連付けられた色の色相42によって表示される。大エリア表示枠44及び小エリア表示枠45は、図5に示す例では、輪郭を示す枠線を有し、枠線の内側に表示された色相42によって表示されているが、枠線を有さずに対応する色相42のみによって表示されてもよい。
【0052】
音可視化装置5は、例えば図5に示すように音源48を有する室内31の音の評価を、表示装置6に表示することによって可視化する。具体的には所定エリア29はテーブル34の周りの音の評価を可視化するべく、テーブル34を含む位置に配置されている。表示装置6は、室内31を示すマップ46に大エリア表示枠44及び各小エリア表示枠45を重ねて表示している。大エリア表示枠44及び各小エリア表示枠45は、対応する音の評価を示す色相42によって表示されている。マップ46の右側には、各音の評価値の区分に対応する色相42が段階的に表示されている。本実施形態では評価値の区分は5つに分けられており、評価値が小さい下側の区分から評価値が大きい上側の区分に向かうにつれて音環境が悪くなる、即ち低評価になり、低評価なほど色相42が赤寄りになるように表示されている。
【0053】
音源48はテーブル34の周りに配置された椅子36の1つに配置され、テーブル34に向かって音を発している。音源48は所定エリア29内に配置されているため、所定エリア29の音環境は悪い。そのため所定エリア29に対応する大エリア表示枠44は、最も低い音の評価を示す赤寄りの色相42によって表示される。テーブル34の音環境を可視化する中央エリア38は音源48の近傍にあって且つ音の発する方向に重なる。そのため、中央エリア38に対応する小エリア表示枠45は、所定エリア29の音の評価と同等の低い音の評価を示す色相42によって表示される。音源48を有さない2つの椅子36のそれぞれの近傍における音環境を可視化する2つの周辺エリア39は、音源48から離れているが、音の発する方向に配置されている。そのため上記2つの周辺エリア39に対応する小エリア表示枠45は、所定エリア29の音の評価及び中央エリア38の音の評価よりも1段階改善された音の評価を示す色相42によって表示される。その他の6つの周辺エリア39は、音源48から離れているエリア又は、音の発する方向にないエリアの音環境を可視化するように配置されている。その他の6つの周辺エリア39に対応する小エリア表示枠45は、上記2つの周辺エリア39の音の評価よりも更に改善された音の評価を示す色相42によって表示される。
【0054】
図6に示す例では、音源48はテーブル34から離れたオフィスチェア33の位置に配置されている。すなわち上記に比べて音源48は、所定エリア29の外側に配置されている。そのため所定エリア29に対応する大エリア表示枠44は、中程度の音の評価を示す色相42によって表示される。8つの周辺エリア39のうちの2つの周辺エリア39は、他の6つの周辺エリア39に比べて音源48に近い位置に配置されている。そのため、上記2つの周辺エリア39に対応する小エリア表示枠45は、所定エリア29の音の評価よりも低い音の評価を示す色相42によって表示される。上記6つの周辺エリア39のうちの3つの周辺エリア39は、上記2つの周辺エリア39よりも音源48から離れた位置に配置されている。そのため、上記3つの周辺エリア39に対応する小エリア表示枠45は、所定エリア29の音の評価と同様の音の評価を示す色相42によって表示される。残り3つの周辺エリア39及び中央エリア38は、上記3つの周辺エリア39よりも音源48から更に離れた位置に配置されている。そのため、残りの3つの周辺エリア39に対応する小エリア表示枠45及び中央エリア38に対応する小エリア表示枠45は、所定エリア29の音の評価よりも1段階改善された高い評価を示す色相42によって表示される。
【0055】
このように音評価値演算装置1のコンピュータ4は、アレイマイク2により検出された音を、音圧、音質、音圧変化又は、卓越性に基づいて、音環境に関する評価値として演算する。コンピュータ4は、所定エリア29の音分布に基づいて、所定エリア29における音の評価値を演算し、各小エリア30のそれぞれの音分布に基づいて、各小エリア30における音の評価値を演算する。したがって音評価値演算装置1は、所定エリア29及び所定エリア29を分割した複数の小エリア30のそれぞれにおける音環境を音の評価値として演算することができる。
【0056】
音可視化装置5は、所定エリア29の音の分布及び各小エリア30の音の分布を、音の評価値として可視化できる。また音可視化装置5は、所定エリア29における音の評価値及び複数の小エリア30における音の評価値を併せて表示することができる。これらによりユーザは、所定エリア29の音の評価値と各小エリア30における音の評価値との比較又は小エリア30同士における音の評価値の比較を容易にすることができる。また、大エリア表示枠44の内部及び各小エリア表示枠45は色相42によって表示されるため、ユーザは、所定エリア29の音の評価値及び複数の小エリア30のそれぞれにおける音の評価値を直感的に把握することができる。
【0057】
≪第2実施形態≫
次に、図7及び図8を参照して本発明の第2実施形態を説明する。なお、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0058】
第2実施形態では、複数の小エリア30は、複数の周辺エリア39の周囲に配置された複数の外周エリア50を更に含む。第2実施形態における所定エリア29は、第1実施形態における所定エリア29よりも大きく設定され、テーブル34側に配置されている2つのオフィスチェア33を含む。第2実施形態における中央エリア38は、第1実施形態における中央エリア38と略同等の大きさに設定され、テーブル34を含む。中央エリア38の外方の所定エリア29(本実施形態ではドーナツ形状)において、所定エリア29には径方向に略均等に2つに分割する境界円51が設けられている。周辺エリア39は、境界円51の内方且つ中央エリア38の外方の所定エリア29(本実施形態ではドーナツ形状)を周方向に均等に6つに分割された領域に設定されている。外周エリア50は、境界円51の外方の所定エリア29(本実施形態ではドーナツ形状)を周方向に均等に12に分割された領域に設定されている。
【0059】
第2実施形態に係る音可視化装置5では、所定エリア29の音の評価値と小エリア30における音の評価値との比較又は小エリア30同士における音の評価値の比較をユーザがより詳細にすることができる。すなわち第1実施形態よりも大きい大エリア表示枠44の中に、第1実施形態よりも多くの小エリア表示枠45が配置される。これにより、テーブル34の左隣の机32周りの音環境もが可視化され、ユーザはより広い範囲の音の評価値を容易に比較することができる。
【0060】
≪第3実施形態≫
次に、図9を参照して本発明の第3実施形態を説明する。なお、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0061】
第3実施形態では、第1実施形態と比較して、表示装置6における大エリア表示枠44及び小エリア表示枠45の表示方式が異なる。具体的には表示装置6は、大エリア表示枠44と複数の小エリア表示枠45とを個別に表示する。大エリア表示枠44の表示と複数の小エリア表示枠45の表示とは、時間変化に応じて切り替わる。或いは、大エリア表示枠44の表示と複数の小エリア表示枠45の表示とを切り替えるための操作を受け付ける切替ボタンを設け、ユーザの意思に応じて、大エリア表示枠44の表示と複数の小エリア表示枠45の表示とが切り替わるとよい。これによって所定エリア29の音の評価値と各小エリア30における音の評価値とをユーザは容易に判別できる。
【0062】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。各実施形態では音評価値演算装置1による演算結果は、表示装置6に視覚的に表示されているが、空調又は照明などの別装置を制御するためのパラメータに使用されてもよい。所定エリア29及び複数の小エリア30は、室内31のエリアに限定されない。例えば、飲食店又はホテルなどのオープンテラス席の音環境を含むように所定エリア29及び複数の小エリア30が設定されてもよい。所定エリア29、各小エリア30、大エリア表示枠44及び各小エリア表示枠45の形状及び数は限定されない。例えば、所定エリア29、各小エリア30、大エリア表示枠44及び各小エリア表示枠45は四角形や六角形に設定されてもよい。また、複数のアレイマイク2を配置して、複数のアレイマイク2から得られた音を音評価値演算装置1が演算してもよい。このとき所定エリア29も複数設けられるとよい。これによりユーザは、所定エリア29同士を比較することができる。第3実施形態では、大エリア表示枠44と複数の小エリア表示枠45とは、時間変化に応じて切り替わるように表示されているが、大エリア表示枠44を表示したマップ46と複数の小エリア表示枠45を表示したマップ46とが並列して表示されていてもよい。各部材や部位の具体的構成や配置、数量等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 :音評価値演算装置
2 :アレイマイク(音検出装置)
4 :コンピュータ(演算装置)
5 :音可視化装置
6 :表示装置
29 :所定エリア
30 :小エリア
38 :中央エリア
39 :周辺エリア
42 :色相(色)
44 :大エリア表示枠
45 :小エリア表示枠
50 :外周エリア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9