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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084539
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】発振回路
(51)【国際特許分類】
   H03K 3/354 20060101AFI20240618BHJP
   H03K 3/03 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H03K3/354 C
H03K3/03
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198863
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】320012037
【氏名又は名称】ラピステクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 征一郎
【テーマコード(参考)】
5J300
【Fターム(参考)】
5J300AA01
5J300LL02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】発振回路の発振周波数の温度特性を簡便な手段で調整可能とする。
【解決手段】発振回路10は、閾値電圧の温度特性が調整可能に構成されている第1のインバータ11と、第1のインバータ11の出力信号が入力される第2のインバータ12と、第2のインバータ12の出力信号が入力される第3のインバータ13と、抵抗素子Rrefと、キャパシタCref_1と、を含む。抵抗素子Rrefは、一端が第3のインバータ13の出力端に接続され、他端が第1のインバータ11の入力端に接続される。キャパシタCref_1は、一端が第2のインバータ12の出力端接続され、他端が第1のインバータ11の入力端に接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
閾値電圧の温度特性が調整可能に構成されている第1のインバータと、
前記第1のインバータの入力端及び出力端にそれぞれ電気的に接続された抵抗素子及びキャパシタと、
を含む発振回路。
【請求項2】
前記第1のインバータの出力信号が入力される第2のインバータと、
前記第2のインバータの出力信号が入力される第3のインバータと、
を更に含み、
前記抵抗素子は、一端が前記第3のインバータの出力端に接続され、他端が前記第1のインバータの入力端に接続され、
前記キャパシタは、一端が前記第2のインバータの出力端に接続され、他端が前記第1のインバータの入力端に接続されている
請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記第1のインバータの閾値電圧の温度特性を調整するための制御信号が入力される制御端子を有する
請求項1に記載の発振回路。
【請求項4】
前記第1のインバータの閾値電圧の温度特性を調整するための少なくとも1つの可変抵抗素子を含み、
前記可変抵抗素子の抵抗値は、制御信号によって設定可能である
請求項1に記載の発振回路。
【請求項5】
前記第1のインバータは、Pチャネル型のトランジスタ及びNチャネル型のトランジスタを含むCMOS回路を含み、
前記可変抵抗素子は、前記Pチャネル型のトランジスタのソース及び前記Nチャネル型のトランジスタのドレインの少なくとも一方に接続されている
請求項4に記載の発振回路。
【請求項6】
前記第1のインバータのバイアス電流を供給する少なくとも1つの電流源を含み、
前記バイアス電流の温度特性は、制御信号によって調整可能である
請求項1に記載の発振回路。
【請求項7】
前記第1のインバータは、Pチャネル型のトランジスタ及びNチャネル型のトランジスタを含むCMOS回路を含み、
Pチャネル型のトランジスタ及びNチャネル型のトランジスの少なくとも一方の駆動能力は、制御信号によって設定可能である
請求項1に記載の発振回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
発振回路に関する技術として、以下の技術が知られている。例えば、特許文献1には、温度変化に対して互いに相反した特性を有する電流源と負荷を利用して温度変化に対して安定した電圧レベルの基準信号を得て、この基準信号の電流ファンアウト能力を増大させて駆動電源を生成する駆動電源回路手段と、各々が駆動電源回路手段から駆動電源の供給を受けて駆動される直列連結された多数個のインバータ回路と、出力端に連結された最先頭インバータの出力端と最後方インバータの入力端との間に挿入されて閉ループを形成する可変抵抗および、最後方インバータの入力端と可変抵抗の接続ノードと最先頭インバータの入力端との間に挿入されるキャパシタを有するRC回路とを含んで、可変抵抗は外部から供給される抵抗値データに応じてその大きさが可変的に設定され、温度変化に対して互いに相反した特性を有する抵抗要素を所定の比率で組合せて構成され、出力端にはRC回路の時定数によって定まる周波数により発振する発振信号が表れるRC発振回路手段とを具備することを特徴とするマイクロパワーRC発振器が記載されている。
【0003】
特許文献2には、温度依存性が低減された電圧を出力するバンドギャップ回路と、発振周波数を一定にする必要がある場合には抵抗値が第1の設定値に変更されると共に、発振周波数を一定にする必要が無い場合には抵抗値が第1の設定値より高い第2の設定値に変更される第1の可変抵抗を備え、バンドギャップ回路から出力された電圧を、当該電圧を第1の可変抵抗の抵抗値で割って得られる電流に変換し、変換された電流と同じ電流量のバイアス電流を出力する電圧-電流変換回路と、抵抗値を変更可能な第2の可変抵抗、容量、及び入力電圧と予め定めた基準電圧を比較し比較結果に応じて出力電圧を切り替える比較部を備え、比較部の応答速度が電圧-電流変換回路から入力されたバイアス電流の電流量に応じて制御されて、第2の可変抵抗の抵抗値と容量の容量値とバイアス電流の電流量とで定まる発振周波数で発振するCR発振回路と、を備える発振回路。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-33644号公報
【特許文献2】特許第5882606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直列接続された複数のインバータ、抵抗素子及びキャパシタを含んで構成される発振回路の発振周波数の温度特性は抵抗素子及びキャパシタの温度特性に依存する。一般的なキャパシタの温度特性はフラットであるのに対して、抵抗素子の温度特性は使用温度範囲内(例えば-40~120℃)で数%程度変動する。抵抗素子の温度特性が、発振周波数の温度特性にそのまま反映されると、発振周波数は、使用温度範囲内で数%程度変動することになる。したがって、この種の発振回路は、発振周波数の温度特性に対する要求が厳しい用途(例えば通信用途)での使用には適さないものとなっていた。
【0006】
開示の技術は、上記の点に鑑みてなされたものであり、発振回路の発振周波数の温度特性を簡便な手段で調整可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術に係る発振回路は、閾値電圧の温度特性が調整可能に構成されている第1のインバータと、前記第1のインバータの入力端及び出力端にそれぞれ電気的に接続された抵抗素子及びキャパシタと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、発振回路の発振周波数の温度特性を簡便な手段で調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】開示の技術の実施形態に係る発振回路の構成の一例を示す回路図である。
図2】開示の技術の実施形態に係るインバータ周辺の詳細な構成の一例を示す図である。
図3】開示の技術の実施形態に係る発振回路の動作時における各部の信号波形の一例を示すタイムチャートである。
図4】シート抵抗値500Ω/□のP+ポリシリコンの温度特性の一例を示すグラフである。
図5】インバータの閾値電圧比率と、発振周波数変動率との関係の一例を示すグラフである。
図6】発振回路10のノードn1における信号の波形の一例を示す図である。
図7】抵抗素子Rvddと抵抗素子Rvssの抵抗比(Rvdd:Rvss)を10:1にした場合のインバータの閾値電圧の温度特性の一例を示すグラフである。
図8】発振周波数の温度特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
図9】開示の技術の実施形態に係るインバータの閾値電圧の温度特性を調整する手段のバリエーションを示す図である。
図10】開示の技術の実施形態に係るN-MOSの駆動能力が調整可能とされたインバータの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。
【0011】
図1は、開示の技術の実施形態に係る発振回路10の構成の一例を示す回路図である。発振回路10は、半導体チップ上に設けられた集積回路であり、複数のインバータ11、12、13、17、複数のバッファ回路14、15、分周回路16、Pチャネル型のMOSFET(以下、P-MOSと表記する)18、Nチャネル型のMOSFET(以下、N-MOSと表記する)19、抵抗素子Rvdd、Rvss、Rref及びキャパシタCref_1、Cref_2を含んで構成されている。
【0012】
インバータ11、バッファ回路14、インバータ12及びインバータ13は、この順で直列接続されている。すなわち、インバータ11の出力端はバッファ回路14の入力端に接続され、バッファ回路14の出力端はインバータ12の入力端に接続されている。インバータ12の出力端はインバータ13の入力端に接続されている。すなわち、インバータ11の出力信号がバッファ回路14を介してインバータ12に入力され、インバータ12の出力信号がインバータ13に入力される。なお、インバータ11は、開示の技術における「第1のインバータ」の一例である。インバータ12は、開示の技術における「第2のインバータ」の一例である。インバータ13は、開示の技術における「第3のインバータ」の一例である。
【0013】
インバータ12の出力端はキャパシタCref_1の一端に接続され、キャパシタCref_1の他端はインバータ11の入力端に接続されている。インバータ13の出力端は抵抗素子Rrefの一端に接続され、抵抗素子Rrefの他端はインバータ11の入力端に接続されている。抵抗素子Rrefは、可変抵抗素子であり、制御端子23に供給されるトリミング信号f_trimによって抵抗値を設定することが可能である。抵抗素子Rrefの抵抗値を調整することで、発振回路10の発振周波数を調整することができる。
【0014】
キャパシタCref_2は、一端がインバータ11の入力端のノードn1に接続され、他端がグランドラインに接続されている。キャパシタCref_2は、キャパシタCref_1と共に時定数を定めるとともに、ノードn1の電位を電源ラインの電位VDDとグランドラインの電位VSSの中間の電位に維持する役割を担う。
【0015】
抵抗素子Rvddの一端は電源ラインに接続され、他端はインバータ11に接続されている。抵抗素子Rvssは一端がインバータ11に接続され、他端がN-MOS19のドレインに接続されている。抵抗素子Rvssは、可変抵抗素子であり、制御端子22を介して供給されるトリミング信号tc_trimによって抵抗値を設定することが可能である。トリミング信号tc_trimは、開示の技術における「制御信号」の一例である。N-MOS19はソースがグランドラインに接続され、ゲートがイネーブル端子21に接続されている。N-MOS19は、イネーブル端子21にハイレベルのイネーブル信号enが供給されることでオン状態となり、発振回路10が有効化される。
【0016】
P-MOS18は、ソースが電源ラインに接続され、ドレインがインバータ11の出力端に接続され、ゲートがイネーブル端子21に接続されている。P-MOS18は、イネーブル端子21を介してハイレベルのイネーブル信号enが供給されることでオフ状態となり、発振回路10が有効化される。トリミング信号tc_trim、f_trim及びイネーブル信号enは、それぞれ、発振回路10が形成された半導体チップの外部から供給される。なおトリミング信号tc_trim、f_trim及びイネーブル信号enは、半導体チップ内に形成された回路において生成されてもよい。
【0017】
バッファ回路14の出力端は、バッファ回路15の入力端にも接続されている。バッファ回路15の出力端は分周回路16の入力端に接続され、分周回路16の出力端はインバータ17の入力端に接続されている。インバータ17の出力端は、出力端子24に接続されている。インバータ11の出力信号は、バッファ回路14、15を介して分周回路16に入力され、周波数が1/2にされた後、インバータ17によって反転される。インバータ17の出力信号は、発振出力信号ckoとして出力端子24から出力される。
【0018】
図2は、インバータ11周辺の詳細な構成の一例を示す図である。インバータ11は、P-MOS31及びN-MOS32を含むCMOS回路によって構成されている。抵抗素子Rvddは、一端が電源ラインに接続され、他端がP-MOS31のソースに接続されている。可変抵抗素子である抵抗素子Rvssは、一端がそれぞれN-MOS32のソースに接続された複数の抵抗素子33A、33B、33C及び33Dを含んで構成されている。抵抗素子33A~33Dの他端は、それぞれN-MOS34A、34B、34C及び34Dのドレインに接続されている。N-MOS34A~34Dは、ゲートがデコーダ36に接続され、ソースがN-MOS35のドレインに接続されている。N-MOS34A~34Dは、デコーダ36から供給されるデコード信号によって選択的にオン状態とされる。N-MOS34A~34Dがオン状態となることで、対応する抵抗素子33A~33Dが有効化される。N-MOS34A~34Dを選択的にオン状態とすることで、抵抗素子Rvddの抵抗値を設定することが可能である。
【0019】
レジスタ37には、制御端子22を介して供給されるトリミング信号tc_trimによって示される抵抗設定値が格納される。デコーダ36はレジスタ37に格納された抵抗設定値に応じたデコード信号をN-MOS34A~34Dに供給する。
【0020】
図3は、発振回路10の動作時における各部の信号波形の一例を示すタイムチャートである。図3には、イネーブル信号en、発振出力信号cko、インバータ11の入力端のノードn1における信号in、インバータ12の出力端のノードn2における信号c_drive、インバータ13の出力端のノードn3における信号r_driveが示されている。発振回路10の出力端子24からは、一定の周波数の発振出力信号ckoが出力される。信号c_drive及びr_driveは、論理レベルが互いに逆であり、これらの信号の周波数は、発振出力信号ckoの周波数の2倍である。
【0021】
発振回路10の発振周波数は、キャパシタCref_1のキャパシタンス及び抵抗素子Rrefの抵抗値に依存する。したがって、発振周波数の温度特性は、抵抗素子Rref及びキャパシタCref_1の温度特性に依存する。キャパシタCref_1の温度特性は、概ねフラットであるのに対して、抵抗素子Rrefの温度特性は、使用温度範囲内(例えば-40℃~120℃)で数%程度変動する。なおキャパシタCref_1の温度特性はフラットではなく、多少の傾きを有していても構わない。
【0022】
図4は、抵抗素子Rrefを構成する、シート抵抗値500Ω/□のP+ポリシリコンの温度特性の一例を示すグラフである。図4において実線は抵抗素子Rrefの抵抗値Rの温度特性であり、点線は抵抗値の逆数1/Rの温度特性である。図4に示すグラフにおいて、抵抗変化率は、25℃のときの値を基準としている。抵抗素子Rrefの温度特性が、発振回路10の発振周波数の温度特性にそのまま反映されると、発振周波数は、使用温度範囲内(例えば-40℃~120℃)で数%程度変動することになる。したがって、この種の発振回路は、発振周波数の温度特性に対する要求が厳しい用途(例えば通信用途)での使用には適さないものとなっていた。
【0023】
本実施形態に係る発振回路10によれば、可変抵抗素子である抵抗素子Rvssの抵抗値の調整によりインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性は調整可能である。したがって発振回路10の発振周波数の温度特性を決定付ける抵抗素子Rrefの温度特性を、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性によってキャンセルすることにより、発振回路10の発振周波数の温度特性をフラットに近づけることができる。以下において、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性の調整について詳細に説明する。
【0024】
発振回路10の発振周波数は、インバータ11の閾値電圧Vthに応じて変化する。図5は、インバータの閾値電圧比率と、発振周波数変動率との関係の一例を示すグラフである。閾値電圧比率とは、インバータ11の閾値電圧Vthを電源ラインの電位VDDに対する割合で表したものである。例えば。閾値電圧比率50%とは、インバータ11の閾値電圧Vthが0.5VDDであることを意味する。発振周波数変動率とは、閾値電圧比率50%における発振周波数を基準とした発振周波数の変動率である。発振回路10の発振周波数は、閾値電圧比率が50%のときに最も高くなり、閾値電圧比率50%からの乖離が大きくなる程低くなる。例えば、Vth=0.67VDDである場合、発振回路10の発振周波数は、Vth=0.5VDDの場合と比較して7%程度低くなる。
【0025】
図6は、発振回路10のノードn1における信号inの波形の一例を示す図である。図6において、点線はVth=0.5VDDの場合であり、実線はVth=0.67VDDの場合である。Vth=0.67VDDの場合、Vth=0.5VDDの場合と比較して、ノードn1の電位が変曲点V0rから変曲点V1rに上昇するまでの上昇時間Triseは増加し、変曲点V0fから変曲点V1fに降下するまでの降下時間Tfallは減少する。
【0026】
th=0.67VDDの場合の発振周波数変動率の計算結果を以下に示す。ここで、Tは、Vth=0.75Vの場合の発振周期であり、Tは、Vth=1.00Vの場合の発振周期である。
【数1】
【0027】
抵抗素子Rvddと抵抗素子Rvssの抵抗値がインバータ11の駆動能力に対して十分に大きい場合、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性は、抵抗素子Rvddと抵抗素子Rvssの比率に依存する。例えば、抵抗素子Rvssの抵抗値を抵抗素子Rvddよりも小さくすることで、インバータ11のグランド側の駆動能力に対するN-MOS32(図2参照)の寄与度が大きくなるため、インバータ11の閾値電圧Vthは、負の温度特性を持つ。図7は、抵抗素子Rvddと抵抗素子Rvssの抵抗比(Rvdd:Rvss)を10:1にした場合のインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性の一例を示すグラフである。
【0028】
インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性は、可変抵抗素子である抵抗素子Rvssの抵抗値を変化させ、抵抗素子Rvddと抵抗素子Rvssの抵抗比を変化させることによって調整可能である。発振回路10の発振周波数の温度特性を決定付ける抵抗素子Rrefの温度特性をキャンセルするように、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を調整することで、発振回路10の発振周波数の温度特性をフラットに近づけることができる。
【0029】
図8上段は、抵抗素子Rvssに対する抵抗素子Rvddの抵抗値の比率を変化させた場合の発振回路10の発振周波数の温度特性のシミュレーション結果を示すグラフである。図8において、例えば「Rvdd×0.1」は、Rvdd:Rvss=1:10を意味し、「Rvdd×1」は、Rvdd:Rvss=1:1を意味する。図8下段は、抵抗素子Rvddに対する抵抗素子Rvssの抵抗値の比率を変化させた場合の発振回路10の発振周波数の温度特性のシミュレーション結果を示すグラフである。図8において、例えば「Rvss×0.1」は、Rvdd:Rvss=10:1を意味し、「Rvss×1」は、Rvdd:Rvss=1:1を意味する。抵抗素子Rvssに対する抵抗素子Rvddの抵抗値の比率を小さくするにつれて、また、抵抗素子Rvddに対する抵抗素子Rvssの抵抗値の比率を小さくするにつれて、発振周波数の温度特性がフラットに近づいていく傾向がある。
【0030】
例えば、抵抗素子Rvssの抵抗値を調整してRvdd:Rvss=10:1とすることで、インバータ11のグランド側のドライブ能力に対するN-MOSの寄与度が大きくなるため、インバータ11の閾値電圧Vthが負の温特を持つ。この場合、図7によれば、-40℃における閾値電圧Vth(0.75V)は、VDD(1.5V)の約50%であり、120℃における閾値電圧Vth(0.63V)はVDD(1.5V)の約42%である。この温度変化による閾値電圧Vthの変化を図5に示すグラフを用いて発振周波数変化に換算すると、約-2%である。すなわち、抵抗素子Rvssの抵抗値を調整してRvdd:Rvss=10:1とすることで、発振回路10の発振周波数に約-2%の温度特性を持たせることができる
【0031】
一方、抵抗素子Rrefの抵抗値は、-40℃から120℃までの温度変化に対して約+2%変化する。Rvdd:Rvss=10:1とすることで、抵抗素子Rrefの温度特性が、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性によってキャンセルされ、発振回路10の発振周波数の温度特性がフラットになる。このように、本実施形態に係る発振回路10によれば、抵抗素子Rvssの抵抗値の調整によって、発振周波数の温度特性をフラットに近づけることができる。
【0032】
発振回路10を構成する回路素子の製造ばらつきに起因して、発振回路10の発振周波数の温度特性がフラットになる抵抗比(Rvdd:Rvss)は、発振回路10の個体毎に異なる。したがって、発振回路10の発振周波数の温度特性をフラットにするための抵抗素子Rvssの抵抗値の調整は、発振回路10の個体毎に行うことが好ましい。抵抗素子Rvssの抵抗値の調整を、例えば以下のように行ってもよい。
【0033】
発振回路10の使用温度範囲内において、発振周波数の測定点を複数定める。例えば、使用温度範囲が-40℃~120℃である場合、測定点は、例えば-40℃、25℃、85℃の3点であってもよい。各測定点において、トリミング信号tc_trimによって抵抗素子Rvssの抵抗値を変化させながら発振回路10の発振周波数を測定する。複数の測定点における発振周波数の差分が最も小さくなる(すなわち、発振周波数の温度特性が最もフラットとなる)抵抗素子Rvssの抵抗値を抵抗設定値として定め、その抵抗設定値をレジスタ37に格納する。以降、当該発振回路10において、抵抗素子Rvssの抵抗値はレジスタ37に格納された抵抗設定値に設定される。
【0034】
以上のように、開示の技術に係る発振回路10は、インバータ11と、インバータ11の出力信号が入力されるインバータ12と、インバータ12の出力信号が入力されるインバータ13と、を有する。発振回路10は、一端がインバータ13の出力端に接続され、他端がインバータ11の入力端に接続された抵抗素子Rrefと、一端がインバータ12の出力端に接続され、他端がインバータ11の入力端に接続されたキャパシタCref_1を有する。発振回路10において、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性は、調整可能に構成されている。本実施形態に係る発振回路10によれば、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性によって、発振回路10における発振周波数の温度特性を調整することが可能である。インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性の調整は、抵抗素子Rvssの抵抗値の調整によって行うことが可能である。すなわち、本実施形態に係る発振回路10によれば、発振回路10の発振周波数の温度特性を簡便な手段で調整することが可能となる。
【0035】
以上の説明では、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を、抵抗素子Rvssの抵抗値によって調整する場合を例示したが、開示の技術はこの態様に限定されない。図9は、インバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を調整する手段のバリエーションを示す図である。図9(a)~(c)に示すように、抵抗素子Rvdd及びRvssの少なくとも一方の抵抗値によってインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を調整してもよい。図9(d)及び(e)に示すように、発振回路10は、抵抗値が可変である抵抗素子Rvdd及びRvssのうちの一方のみを有していてもよい。
【0036】
また、図9(f)~(h)に示すように、インバータ11に流れる電流を制御する電流源40によってインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を調整してもよい。インバータ11の閾値電圧Vthは、電流源40から供給されるバイアス電流の電流値に依存する。したがって、このバイアス電流の電流値の温度特性を変えることによってインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を変えることが可能である。電流源40は、電源ライン側及びグランドライン側の少なくとも一方に設けられる。
【0037】
電流源40は、例えば、温度依存性が調整された出力電圧を出力するバンドギャップ回路(図示せず)と、可変抵抗素子(図示せず)を備え、バンドギャップ回路から出力された電圧を可変抵抗素子の抵抗値に応じた電流に変換し、変換された電流をバイアス電流として出力するものであってもよい。電流源40は、例えば特許第5882606号に記載の電圧-電流変換回路に相当するものであってもよい。バイアス電流の温度特性は、可変抵抗素子の抵抗値によって調整することが可能である。したがって、外部から供給される制御信号によって可変抵抗素子の抵抗値を調整することで、バイアス電流の温度特性を調整することが可能である。
【0038】
また、図9(i)~(k)に示すように、インバータ11を構成するP-MOS31及びN-MOS32の駆動能力によってインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を調整してもよい。P-MOS31及びN-MOS32の駆動能力のバランスを変えることによってインバータ11の閾値電圧Vthの温度特性を変えることが可能である。図10は、N-MOS32の駆動能力が調整可能とされたインバータ11Aの構成の一例を示す図である。インバータ11Aにおいて、N-MOS32は、複数のN-MOS32A、32B、32C及び32Dを含んで構成されている。N-MOS32A~32Dには、それぞれN-MOS38A、38B、38C及び38Dが直列接続されている。N-MOS38A~38Dは、デコーダ36から供給されるデコード信号によって選択的にオン状態とされる。N-MOS38A~38Dがオン状態となることで、対応するN-MOS32A~32Dが有効化される。N-MOS32A~32Dのうち有効化されたものは互いに並列に接続される。N-MOS32A~32Dのうち、有効化されるものの数が多くなる程、N-MOS32の駆動能力が高くなる。発振回路10の発振周波数の温度特性をフラットになるように、N-MOS32A~32Dのうち、有効化されるものが定められる。
上記の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0039】
(付記1)
閾値電圧の温度特性が調整可能に構成されている第1のインバータと、
前記第1のインバータの入力端及び出力端にそれぞれ電気的に接続された抵抗素子及びキャパシタと、
を含む発振回路。
【0040】
(付記2)
前記第1のインバータの出力信号が入力される第2のインバータと、
前記第2のインバータの出力信号が入力される第3のインバータと、
を更に含み、
前記抵抗素子は、一端が前記第3のインバータの出力端に接続され、他端が前記第1のインバータの入力端に接続され、
前記キャパシタは、一端が前記第2のインバータの出力端に接続され、他端が前記第1のインバータの入力端に接続されている、
付記1に記載の発振回路。
【0041】
(付記3)
前記第1のインバータの閾値電圧の温度特性を調整するための制御信号が入力される制御端子を有する
請求項1又は付記2に記載の発振回路。
【0042】
(付記4)
前記第1のインバータの閾値電圧の温度特性を調整するための少なくとも1つの可変抵抗素子を含み、
前記可変抵抗素子の抵抗値は、制御信号によって設定可能である
付記1から付記3のいずれか1つに記載の発振回路。
【0043】
(付記5)
前記第1のインバータは、Pチャネル型のトランジスタ及びNチャネル型のトランジスタを含むCMOS回路を含み、
前記可変抵抗素子は、前記Pチャネル型のトランジスタのソース及び前記Nチャネル型のトランジスタのドレインの少なくとも一方に接続されている
付記4に記載の発振回路。
【0044】
(付記6)
前記第1のインバータのバイアス電流を供給する少なくとも1つの電流源を含み、
前記バイアス電流の温度特性は、制御信号によって調整可能である
付記1から付記3のいずれか1つに記載の発振回路。
【0045】
(付記7)
前記第1のインバータは、Pチャネル型のトランジスタ及びNチャネル型のトランジスタを含むCMOS回路を含み、
Pチャネル型のトランジスタ及びNチャネル型のトランジスの少なくとも一方の駆動能力は、外部から供給される制御信号によって設定可能である
付記1から付記3のいずれか1つに記載の発振回路。
【符号の説明】
【0046】
10 発振回路
11、11A、12、13 インバータ
14、15 バッファ回路
16 分周回路
17 インバータ
22、23 制御端子
24 出力端子
33A、33B、33C、33D 抵抗素子
36 デコーダ
37 レジスタ
40 電流源
ref_1 キャパシタ
ref 抵抗素子
vdd 抵抗素子
vss 抵抗素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10