(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008454
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】複数ライザー管の渦励振の低減方法、渦励振を低減する複数ライザー管システム、及び複数ライザー管システム用の位相変更ジョイント並びに非対称配置ブラケット
(51)【国際特許分類】
E21B 17/01 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
E21B17/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110346
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 マルシオ
(72)【発明者】
【氏名】荒木 元輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 譲司
【テーマコード(参考)】
2D129
【Fターム(参考)】
2D129AA01
2D129AB01
2D129BA19
2D129EC28
(57)【要約】
【課題】水中に設けられたライザー管に生ずる渦励振(VIV:Vortex-Induced Vibration)を低減させる。
【解決手段】水中に設けられた複数のライザー管22の水流により生じる渦励振を低減する方法であって、複数のライザー管22の配置を互いに異ならせることにより水流により複数のライザー管22に発生する渦励振を相殺して低減する、又は、水流により複数のライザー管22により発生する渦の影響を抑制して複数のライザー管22に発生する渦励振を低減する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に設けられた複数のライザー管の水流により生じる渦励振を低減する方法であって、
複数の前記ライザー管の配置を互いに異ならせることにより前記水流により複数の前記ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減する、又は、前記水流により複数の前記ライザー管により発生する渦の影響を抑制して複数の前記ライザー管に発生する渦励振を低減することを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項2】
請求項1に記載の複数ライザー管の渦励振の低減方法であって、
複数の前記ライザー管を1つの組としたライザー管セットを用い、前記ライザー管セットと隣接する他の前記ライザー管セットとが相互に捩じられた状態となるように前記配置を互いに異ならせることにより前記ライザー管セット毎に異なる位相とし、前記ライザー管に発生する前記渦励振を相殺して低減することを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項3】
請求項2に記載の複数ライザー管の渦励振の低減方法であって、
前記ライザー管セット毎の前記位相を異ならせるに当たり、同一の角度で連続して変えることを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項4】
請求項3に記載の複数ライザー管の渦励振の低減方法であって、
前記同一の角度は360°を3以上の整数で除した角度であることを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項5】
請求項1に記載の複数ライザー管の渦励振の低減方法であって、
複数の前記ライザー管の長手方向に直角な面における相互の位置を非対称に配置することにより、前記ライザー管に発生する前記渦励振の原因となる渦を抑制することを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項6】
請求項5に記載の複数ライザー管の渦励振の低減方法であって、
前記ライザー管の非対称に配置した前記相互の位置は、流れにより前記ライザー管に発生した前記渦の後流領域に他の前記ライザー管が位置するものであることを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の複数ライザー管の渦励振の低減方法であって、
複数の前記ライザー管の前記相互の位置の最適配置を予めシミュレーションで求めることを特徴とする複数ライザー管の渦励振の低減方法。
【請求項8】
水中に設けられた複数のライザー管の水流により生じる渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
複数の前記ライザー管と、
前記水流により複数の前記ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減するため、又は、前記水流により複数の前記ライザー管により発生する渦の影響を抑制するために前記ライザー管の配置を互いに異ならせる配置変更手段を備えることを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項9】
請求項8に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
前記配置変更手段は、複数の前記ライザー管を1つの組とした複数のライザー管セットが相互に捩じられた状態となるように前記配置を変えることにより前記ライザー管セット毎に異なる位相として接続する位相変更ジョイントを有することを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項10】
請求項9に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
同一の前記位相変更ジョイントを用いて、複数の前記ライザー管セットの前記位相が、同一の角度で連続して変えて接続されていることを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項11】
請求項10に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
前記位相変更ジョイントの前記同一の角度は360°を3以上の整数で除した角度であることを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項12】
請求項8に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
前記配置変更手段は、複数の前記ライザー管の長手方向に直角な面における相互の位置を非対称に配置し、複数の前記ライザー管の非対称な配置を維持する非対称配置ブラケットを有することを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項13】
請求項12に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
前記非対称配置ブラケットの複数の前記ライザー管の前記相互の位置に関わる距離は、流れにより前記ライザー管に発生した渦の後流領域に、他の前記ライザー管が位置する距離であることを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項14】
請求項13に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、
前記非対称配置ブラケットの複数の前記ライザー管の前記相互の位置に関わる前記距離が、複数の前記ライザー管の前記相互の位置の最適配置を予めシミュレーションで求め決定した距離であることを特徴とする渦励振を低減する複数ライザー管システム。
【請求項15】
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムに用いる前記位相変更ジョイントであって、
複数の前記ライザー管セットに対応した接続部と所定の位相を変える形状とを有したことを特徴とする複数ライザー管システム用の位相変更ジョイント。
【請求項16】
請求項12から請求項14のいずれか1項に記載の渦励振を低減する複数ライザー管システムに用いる前記非対称配置ブラケットであって、
対象とする複数の前記ライザー管を非対称に配置するために異なった前記距離となる寸法の前記非対称配置ブラケットを複数種類有した組から成ることを特徴とする複数ライザー管システム用の非対称配置ブラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数ライザー管の渦励振(VIV:Vortex-Induced Vibration)の低減方法、渦励振を低減する複数ライザー管システム、及び複数ライザー管システム用の位相変更ジョイント並びに非対称配置ブラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
海洋掘削や海洋生産において海底と海面上の設備の間で流体を運ぶためにライザー管が用いられている。潮流等の影響によってライザー管の下流側にはカルマン渦が発生する。カルマン渦の周波数とライザー管の固有振動数がほぼ一致すると、渦励振を誘起し、渦励振がライザー管の流れに直交する方向に発生して疲労や破損を引き起こすおそれがある。
【0003】
そこで、旗状整流装置を水中ライザー管の外周に回動及び摺動可能に嵌着した水中ライザー管の防振装置が開示されている(特許文献1)。また、海面側の作業船から海底側に向かって、鉛直方向にライザー管を連続して延設させたライザー管の周囲を囲むように潮流の変化に追従して流体抵抗を低減するストレーキやフェアリングを設けた構成が開示されている(特許文献2~4)。ストレーキは、らせん状の装置をライザー管の周りに取り付け、渦放出位置の位相を長手方向に分散させることで渦励振の発生を抑制する。フェアリングは、翼形断面形状の装置をライザー管の周りに取り付け、渦放出を抑制して渦励振の発生を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56-120842号公報
【特許文献2】特開2012-132141号公報
【特許文献3】米国特許第5,984,584号公報
【特許文献4】米国特許第6,948,884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今後、鉱物資源の開発等において複数のライザー管を組み合わせたライザーシステムの使用頻度が高まることが想定されている。一方、渦励振を抑制するためにライザー管にストレーキやフェアリングを設ける場合、ストレーキやフェアリングを1個ずつ手作業でライザー管に設置しており、ライザー管の設置に多大な時間を要するという技術的な課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る複数ライザー管の渦励振の低減方法は、水中に設けられた複数のライザー管の水流により生じる渦励振を低減する方法であって、複数の前記ライザー管の配置を互いに異ならせることにより前記水流により複数の前記ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減する、又は、前記水流により複数の前記ライザー管により発生する渦の影響を抑制して複数の前記ライザー管に発生する渦励振を低減することを特徴とする。
【0007】
ここで、複数の前記ライザー管を1つの組としたライザー管セットを用い、前記ライザー管セットと隣接する他の前記ライザー管セットとが相互に捩じられた状態となるように前記配置を互いに異ならせることにより前記ライザー管セット毎に異なる位相とし、前記ライザー管に発生する前記渦励振を相殺して低減することが好適である。
【0008】
また、前記ライザー管セット毎の前記位相を異ならせるに当たり、同一の角度で連続して変えることが好適である。
【0009】
また、前記同一の角度は360°を3以上の整数で除した角度であることが好適である。
【0010】
ここで、複数の前記ライザー管の長手方向に直角な面における相互の位置を非対称に配置することにより、前記ライザー管に発生する前記渦励振の原因となる渦を抑制することが好適である。
【0011】
また、前記ライザー管の非対称に配置した前記相互の位置は、流れにより前記ライザー管に発生した前記渦の後流領域に他の前記ライザー管が位置するものであることが好適である。
【0012】
また、複数の前記ライザー管の前記相互の位置の最適配置を予めシミュレーションで求めることが好適である。
【0013】
請求項8に係る複数ライザー管システムは、水中に設けられた複数のライザー管の水流により生じる渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、複数の前記ライザー管と、前記水流により複数の前記ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減するため、又は、前記水流により複数の前記ライザー管により発生する渦の影響を抑制するために前記ライザー管の配置を互いに異ならせる配置変更手段を備えることが好適である。
【0014】
ここで、前記配置変更手段は、複数の前記ライザー管を1つの組とした複数の前記ライザー管セットが相互に捩じられた状態となるように前記配置を変えることにより前記ライザー管セット毎に異なる位相として接続する位相変更ジョイントを有することが好適である。
【0015】
また、同一の前記位相変更ジョイントを用いて、複数の前記ライザー管セットの前記位相が、同一の角度で連続して変えて接続されていることが好適である。
【0016】
また、前記位相変更ジョイントの前記同一の角度は360°を3以上の整数で除した角度であることが好適である。
【0017】
ここで、前記配置変更手段は、複数の前記ライザー管の長手方向に直角な面における相互の位置を非対称に配置し、複数の前記ライザー管の非対称な配置を維持する非対称配置ブラケットを有することが好適である。
【0018】
また、前記非対称配置ブラケットの複数の前記ライザー管の前記相互の位置に関わる距離は、流れにより前記ライザー管に発生した渦の後流領域に、他の前記ライザー管が位置する距離であることが好適である。
【0019】
また、前記非対称配置ブラケットの複数の前記ライザー管の前記相互の位置に関わる前記距離が、複数の前記ライザー管の前記相互の位置の最適配置を予めシミュレーションで求め決定した距離であることが好適である。
【0020】
請求項15に係る複数ライザー管システム用の位相変更ジョイントは、上記の渦励振を低減する複数ライザー管システムに用いる前記位相変更ジョイントであって、複数の前記ライザー管セットに対応した接続部と所定の位相を変える形状とを有したことを特徴とする。
【0021】
請求項16に係る複数ライザー管システム用の非対称配置ブラケットは、上記の渦励振を低減する複数ライザー管システムに用いる前記非対称配置ブラケットであって、対象とする複数の前記ライザー管を非対称に配置するために異なった前記距離となる寸法の前記非対称配置ブラケットを複数種類有した組から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る複数ライザー管の渦励振の低減方法は、水中に設けられた複数のライザー管の水流により生じる渦励振を低減する方法であって、複数の前記ライザー管の配置を互いに異ならせることにより前記水流により複数の前記ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減する、又は、前記水流により複数の前記ライザー管により発生する渦の影響を抑制して複数の前記ライザー管に発生する渦励振を低減することによって、ライザー管にストレーキやフェアリングを設けることなく、渦励振(VIV)を抑制することができる。これによって、ライザー管の設置に掛かる時間を短縮し、コストを低減することができる。
【0023】
ここで、複数の前記ライザー管を1つの組としたライザー管セットを用い、前記ライザー管セットと隣接する他の前記ライザー管セットとが相互に捩じられた状態となるように前記配置を互いに異ならせることにより前記ライザー管セット毎に異なる位相とすることによって、ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減することができる。
【0024】
また、前記ライザー管セット毎の前記位相を異ならせるに当たり、同一の角度で連続して変えることによって、同一の角度にずれた渦を発生させてライザー管に発生する渦励振をより効果的に相殺して低減することができる。
【0025】
また、前記同一の角度は360°を3以上の整数で除した角度とすることによって、適切な角度にずれた渦を発生させてライザー管に発生する渦励振をより効果的に相殺して低減することができる。
【0026】
ここで、複数の前記ライザー管の長手方向に直角な面における相互の位置を非対称に配置することによって、前記ライザー管に発生する前記渦励振の原因となる渦を抑制することができる。
【0027】
また、前記ライザー管の非対称に配置した前記相互の位置は、流れにより前記ライザー管に発生した前記渦の後流領域に他の前記ライザー管が位置するものとすることによって、水流によりライザー管により発生する渦の影響を抑制して複数のライザー管に発生する渦励振を低減することができる。
【0028】
また、複数の前記ライザー管の前記相互の位置の最適配置を予めシミュレーションで求めることによって、実際に複数ライザー管システムを構成することなく、予め渦励振を抑制できる複数ライザー管システムを設計することができる。
【0029】
請求項8に係る複数ライザー管システムは、水中に設けられた複数のライザー管の水流により生じる渦励振を低減する複数ライザー管システムであって、複数の前記ライザー管と、前記水流により複数の前記ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減するため、又は、前記水流により複数の前記ライザー管により発生する渦の影響を抑制するために前記ライザー管の配置を互いに異ならせる配置変更手段を備えることによって、ライザー管にストレーキやフェアリングを設けることなく、渦励振(VIV)を抑制することができる。これによって、ライザー管の設置に掛かる時間を短縮し、コストを低減することができる。
【0030】
ここで、前記配置変更手段は、複数の前記ライザー管を1つの組とした複数の前記ライザー管セットが相互に捩じられた状態となるように前記配置を変えることにより前記ライザー管セット毎に異なる位相として接続する位相変更ジョイントを有することによって、ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減することができる。
【0031】
また、同一の前記位相変更ジョイントを用いて、複数の前記ライザー管セットの前記位相が、同一の角度で連続して変えて接続されていることによって、同一の角度にずれた渦を発生させてライザー管に発生する渦励振をより効果的に相殺して低減することができる。
【0032】
また、前記位相変更ジョイントの前記同一の角度は360°を3以上の整数で除した角度であることによって、適切な角度にずれた渦を発生させてライザー管に発生する渦励振をより効果的に相殺して低減することができる。
【0033】
ここで、前記配置変更手段は、複数の前記ライザー管の長手方向に直角な面における相互の位置を非対称に配置し、複数の前記ライザー管の非対称な配置を維持する非対称配置ブラケットを有することによって、前記ライザー管に発生する前記渦励振の原因となる渦を抑制することができる。
【0034】
また、前記非対称配置ブラケットの複数の前記ライザー管の前記相互の位置に関わる距離は、流れにより前記ライザー管に発生した渦の後流領域に、他の前記ライザー管が位置する距離であることによって、水流によりライザー管により発生する渦の影響を抑制して複数のライザー管に発生する渦励振を低減することができる。
【0035】
また、前記非対称配置ブラケットの複数の前記ライザー管の前記相互の位置に関わる前記距離が、複数の前記ライザー管の前記相互の位置の最適配置を予めシミュレーションで求め決定した距離とすることによって、実際に複数ライザー管システムを構成することなく、予め渦励振を抑制できる複数ライザー管システムを設計することができる。
【0036】
請求項15に係る複数ライザー管システム用の位相変更ジョイントは、上記の渦励振を低減する複数ライザー管システムに用いる前記位相変更ジョイントであって、複数の前記ライザー管セットに対応した接続部と所定の位相を変える形状とを有したことによって、複数のライザー管を1つの組とした複数のライザー管セットが相互に捩じられた状態となるように配置を変えることができ、ライザー管に発生する渦励振を相殺して低減することができる。
【0037】
請求項16に係る複数ライザー管システム用の非対称配置ブラケットは、上記の渦励振を低減する複数ライザー管システムに用いる前記非対称配置ブラケットであって、対象とする複数の前記ライザー管を非対称に配置するために異なった前記距離となる寸法の前記非対称配置ブラケットを複数種類有した組から成ることによって、ライザー管に発生する渦励振をより効果的に相殺して低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】第1の実施の形態における複数ライザー管システムの構成を示す図である。
【
図2】第1の実施の形態における複数ライザー管の構成を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態におけるライザー管セットの構成を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態における位相変換ジョイントの構成を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態における複数ライザー管による渦放出の様子を示す図である。
【
図6】第2の実施の形態における複数ライザー管システムの構成を示す図である。
【
図7】第2の実施の形態における複数ライザー管の構成を示す図である。
【
図8】第2の実施の形態におけるライザー管の非対称配置の例を示す図である。
【
図9】第2の実施の形態における複数ライザー管による渦放出の様子を示す図である。
【
図10】複数ライザー管による渦放出の様子を示す概念図である。
【
図11】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度0°~角度315°まで変えた場合の渦放出の概念図である。
【
図12】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度0°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図13】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度45°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図14】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度90°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図15】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度135°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図16】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度180°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図17】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度225°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図18】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度270°とした場合の渦放出の概念図である。
【
図19】第2の実施の形態における複数ライザー管における水流の角度315°とした場合の渦放出の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態における複数ライザー管システム100は、
図1に示すように、水域に設けた洋上施設10、ライザー組立装置(デリック)12、水中ポンプ14、移送管16、掘削ユニット18及び複数ライザー管20を含んで構成される。複数のライザー管は、石油、ガスの開発においては、海底(油層)に海水を圧入する管と、石油、ガスを洋上施設に揚げる管など移送物を分けて使用するために用いられる。鉱物資源開発では、鉱石と海水を洋上施設に揚げる管と海底に不要な海水を戻す管として複数の管が用いられる。このような事例のとおり、異なった移送物、用途により複数の管を使用する。
【0040】
洋上施設10は、鉱石等の資源を採取するために水面に浮かべられる構造物である。洋上施設10には、複数ライザー管20を海底付近まで吊り下げるためのライザー組立装置(デリック)12が設けられる。ライザー組立装置(デリック)12は、複数ライザー管20を組み立てると共に、水中に設置される複数ライザー管20を支持するために用いられる。
【0041】
水中ポンプ14は、水底から資源を海上へ送出するためのポンプである。水中ポンプ14は、例えば、鉱物資源の開発において、鉱石と海水等の多相流体を海底から洋上施設10へ送出するために用いられる。移送管16は、水底の鉱物資源の開発において、水中ポンプ14と掘削ユニット18の間を接続する配管である。また、移送管16は、石油等の流体の開発において、複数ライザー管20と洋上施設10との間を接続する配管である。
【0042】
掘削ユニット18は、水底にある鉱石を採取・採集するための装置である。掘削ユニット18は、移送管16、水中ポンプ14を介して複数ライザー管20へ採集した鉱石をスラリーとして送出する。なお、本実施の形態では、水底から鉱石を採取・採集するための掘削ユニット18を設けた構成としたが、水中又は水底の資源を掘削、採集等するための装置であればよく、例えば、水底を掘削する掘削機や浚渫機等でもよい。
【0043】
複数ライザー管20は、水底で採取された鉱石等の資源を水面側の洋上施設10まで輸送するためのライザー管を複数組み合わせてなる水中長大管である。なお、本実施の形態では、複数ライザー管20を用いて鉱石を採取する例を示しているが、石油、ガス、海洋深層水等の他の資源を輸送するために用いることもできる。
【0044】
図2は、複数ライザー管20の構成を示す。複数ライザー管20は、複数のライザー管を組み合わせたライザー管セット20aを含み、ライザー管セット20aと位相変換ジョイント20bとを組み合わせて構成される。本実施の形態では、3本のライザー管を組み合わせたライザー管セット20aを適用した例を示している。ただし、ライザー管セット20aを構成するライザー管の数は、3本に限定されるものではなく、2本以上であればよい。
【0045】
ライザー管セット20aは、
図3に示すように、スペーサ24によって複数のライザー管22を所定の間隔を保って組み合わせた部材である。ライザー管22の直径は、4インチ~22インチ(約101.6mm~約559mm)程度とされる。1つのライザー管22の長さは、50フィート~90フィート(約15.24m~約27.432m)程度とされる。ただし、ライザー管22のサイズは、これらに限定されるものではなく、採集対象である資源の種類、複数ライザー管システム100を設置する環境、資源を採集する水深等に応じて適宜変更してもよい。本実施の形態における複数ライザー管システム100の構成は、全てのサイズのライザー管22に適用することができる。ライザー管セット20aの端部は位相変換ジョイント20bと接続するためのコネクタ20cとされている。
【0046】
位相変換ジョイント20bは、2つのライザー管セット20aを接続する部材である。位相変換ジョイント20bの端部はライザー管セット20aと接続するためのコネクタ20cとされている。位相変換ジョイント20bは、
図4に示すように、ライザー管22が並ぶ方向の角度が両端部において互いに異なるような形状を有するライザー管セット20aの配置変更手段である。位相変換ジョイント20bは、例えば、少なくとも一部のライザー管22を捩って一方の端部(図中のD側)と他方の端部(図中のE側)において複数のライザー管22の互いの間隔が変わらないように、両端部においてライザー管22が並ぶ角度(位相)を変更するような形状を有する。
【0047】
複数ライザー管20は、位相変換ジョイント20bによってライザー管セット20aを繋ぎ合わせて形成される。したがって、
図2のA-A断面、B-B断面及びC-C断面に示すように、位相変換ジョイント20bによって繋ぎ合わされた箇所毎にライザー管セット20aを構成する複数のライザー管22が並ぶ方向の角度(位相)が変更される。
【0048】
具体的には、例えば、ライザー管セット20a毎に位相変換ジョイント20bを設けて、隣り合うライザー管セット20aの間の角度(位相)を異ならせることが好適である。このとき、ライザー管セット20a毎に同一の角度で連続して変えることが好適である。例えば、複数ライザー管20の延設方向に沿って一般的なライザー管22の長さである50フィート~90フィート(約15.24m~約27.432m)毎に角度(位相)を変更する。1つの位相変換ジョイント20bによって変更する角度(位相)は、360°を3以上の整数で除した角度であることが好適である。例えば、1つの位相変換ジョイント20bによって30°以上120°以下の範囲で角度(位相)を変更することが好適である。ただし、変化させる角度(位相)は、複数ライザー管システム100を適用する環境の条件に応じて変更してもよい。また、隣り合うライザー管セット20aの間の角度(位相)は、同一の角度でなくてもよい。例えば、水域の深度方向の水流分布が上層部と下層部で大きく異なる場合は、隣り合うライザー管セット20aの間の角度(位相)を同一の角度から変えてもよい。なお、同一の角度とすることにより、位相変換ジョイント20bとして同一のものを使用できる利点を有する。
【0049】
なお、本実施の形態の位相変換ジョイント20bの例では、D側(D断面)においてライザー管22が並ぶ方向に対してE側(E断面)においてライザー管22が並ぶ方向がなす角度を45°としている。したがって、位相変換ジョイント20bが設けられる毎にライザー管セット20aの角度(位相)が0°、45°、90°、135°・・・と変更される。ただし、当該角度は、45°に限定されるものではない。
【0050】
図5は、複数ライザー管20に対して水流を当てたときの渦の放出の様子を示す。水流に対して下流側において複数ライザー管20に渦が発生する。本実施の形態における複数ライザー管20では、ライザー管セット20aと隣接する他のライザー管セット20aとが相互に捩じられた状態となるように配置を互いに異ならせることによりライザー管セット20a毎に異なる角度(位相)としてライザー管22が並ぶ方向を変化させることによって水流により発生する渦の放出方向が変化する。これによって、複数ライザー管20に生ずる渦励振(VIV)を相殺して低減することができる。
【0051】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態における複数ライザー管システム200は、
図6に示すように、洋上施設10、ライザー組立装置(デリック)12、水中ポンプ14、移送管16、掘削ユニット18及び複数ライザー管30を含んで構成される。ここで、複数ライザー管30を除く構成は、第1の実施の形態における複数ライザー管システム100と同じであるので説明は省略する。
【0052】
複数ライザー管30は、水底で採取された鉱石等の資源を水面側の洋上施設10まで輸送するためのライザー管からなる水中長大管である。なお、本実施の形態では、複数ライザー管30を用いて鉱石を採取する例を示しているが、石油、ガス、海水等の他の資源を輸送するために用いることもできる。
【0053】
図7は、複数ライザー管30の構成を示す。複数ライザー管30は、複数のライザー管30aを組み合わせて構成されている。本実施の形態では、3本のライザー管30aを組み合わせた複数ライザー管30を例として示している。ただし、ライザー管30aの数は、3本に限定されるものではなく、3本以上であればよい。複数ライザー管30は、ライザー管30a及び非対称配置ブラケット30bを組み合わせて構成される。
【0054】
ライザー管30aの直径は、4インチ~22インチ(約101.6mm~約559mm)程度とされる。1つのライザー管30aの長さは、50フィート~90フィート(約15.24m~約27.432m)程度とされる。ただし、ライザー管30aのサイズは、これらに限定されるものではなく、採集対象である資源の種類、複数ライザー管システム200を設置する環境、資源を採集する水深等に応じて適宜変更してもよい。本実施の形態における複数ライザー管システム200の構成は、全てのサイズのライザー管30aに適用することができる。ライザー管30aの端部は他のライザー管30aと接続するためのコネクタ30cとされている。
【0055】
非対称配置ブラケット30bは、複数のライザー管30aの配置を保つための部材である。非対称配置ブラケット30bは、ライザー管30aを通す円環状の部材を互いに繋いだ構成を有する。非対称配置ブラケット30bは、当該円環状の部材にライザー管30aをそれぞれ通すことによって、ライザー管30aの長手方向に対して直角な面において複数のライザー管30aを相互の位置が非対称となるように配置する。ここで、非対称とは、ライザー管30aの長手方向に対して直角な面に含まれる任意の点に対して点対称でなく、かつ、任意の線に対して線対称ではないことを意味する。このとき、複数のライザー管30aを非対称に配置した状態における相互の位置は、複数ライザー管30を流体内に配置したときに流体の流れによってライザー管30aに発生した渦の後流領域に他のライザー管30aが位置するものとすることが好適である。
【0056】
図8は、3本のライザー管22を用いた複数ライザー管30の配置の例を示す。
図8は、ライザー管30aの長手方向に対して直角な方向(
図7に示すA-A断面方向)からみた図である。中央にあるライザー管30aを基準とすると、当該ライザー管30aの外径OD1と他のライザー管30aの外径OD2及び外径OD3とした場合、
図8に示すように、中央にあるライザー管30aから他のライザー管30aがそれぞれ距離2×(OD1+OD2)以下及び距離2×(OD1+OD3)以下の範囲にある場合に流体力学的相互作用が大きくなる。すなわち、隣り合う2つのライザー管30aの距離は、1つのライザー管30aの外径ともう1つのライザー管30aの外径の和の2倍以内とすることが好適である。
【0057】
複数ライザー管30は、非対称配置ブラケット30bによって非対称に配置されたライザー管30aを長手方向(水面から水底の方向)に繋ぎ合わせて形成される。ライザー管30aは、コネクタ30c同士を接続することによって繋ぎ合わすことができる。
【0058】
なお、対象とする複数のライザー管30aを非対称に配置するために、ライザー管30aの間の距離を変えた非対称配置ブラケット30bを複数種類用いてもよい。この場合、屈曲した接続管やフレキシブル管を用いてライザー管30aの端部のコネクタ30c同士を接続すればよい。
【0059】
図9は、複数ライザー管30に対して水流を当てたときの渦の放出の様子を示す。水流に対して下流側において複数ライザー管30に渦が発生する。
図10は、1本のライザー管30aに発生する渦励振を示す。時間t1(左図)では、第1渦がライザー管30aの下流側に発生する。渦が発生した領域(図中、薄い灰色で示す)は低圧領域となり、当該低圧領域の影響でライザー管30aに水流との合力が発生する。時間経過と共に時間t2(右図)では、第2渦がライザー管30aの下流側の異なる位置に発生する。この状態においても、渦が発生した領域が低圧領域となってライザー管30aに合力が発生する。このように、時間の経過とともに、ライザー管30aには互い異なる方向に合力が発生し、ライザー管30aは水流に対して垂直な方向に振動する。当該振動は、渦励振(VIV:Vortex Induced Vibration)と呼ばれ、ライザー管30aの疲労等耐久性に影響する。
【0060】
図11は、本実施の形態における複数ライザー管30に対して様々な角度で水流を当てたときに想定される渦の発生状態を示す概念図である。
図11では、0°(Rotation 0°)から315°(Rotation 315°)まで45°おきに渦の発生状態を示している。
【0061】
図12は、3本のライザー管30aを非対称位置に組み合わせた複数ライザー管30に対して角度0°で水流を当てたときの渦の発生状況の時間的な変化を示す。図に示すように、複数のライザー管30aを上記距離の条件を満たすように近接させて配置した場合、流体力学的な相互干渉によって1本のライザー管30aの場合とは異なる流場となる。すなわち、時間t1(左図)においてライザー管30aの各々に対して渦は反対位相で発生する。さらに、時間t2(右図)においては、1本のライザー管30aの場合に比べて小さい低圧領域が発生する。ここで、ライザー管30aの各々に発生する力を合計して合力を求めると、水流に対して垂直な方向の合力はある程度相殺され、複数ライザー管30全体に生ずる振動は小さくなる。
【0062】
図13は、複数ライザー管30に対して角度45°で水流を当てたときの渦の発生状況の時間的な変化を示す。角度0°と同様に、ライザー管30aの各々に渦が反対位相で発生し、水流に垂直な方向の合力は相殺され、1本のライザー管30aの場合に比べて小さくなる。
【0063】
図14~
図19は、複数ライザー管30に対してそれぞれ角度90°、135°、180°、225°、270°、315°で水流を当てたときの渦の発生状況の時間的な変化を示す。これらの角度においても、角度0°及び角度45°と同様に、ライザー管30aの各々に渦が反対位相で発生し、水流に垂直な方向の合力は相殺され、1本のライザー管30aの場合に比べて小さくなる。したがって、いずれの角度においても複数ライザー管30に生ずる渦励振(VIV)も小さくなる。
【0064】
なお、複数ライザー管30に対する水流に垂直な方向の合力の相殺の程度及び渦励振(VIV)の低減の程度は、上記の通り、水流の強さやライザー管30aの距離及び配置により異なるので、複数ライザー管システム200を設置する状況に対してライザー管30aの最適距離や最適配置を正確に求めるため、予めシミュレーションによって解析することが好適である。
【0065】
以上のように、本実施の形態における複数ライザー管システム200では、複数ライザー管30において3つ以上のライザー管30aを非対称に配置することによって、水流により複数ライザー管30に発生する渦の影響を抑制して渦励振(VIV)を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、流体内に配置されるライザー管を用いる複数ライザー管の渦励振の低減方法、渦励振を低減する複数ライザー管システム、及び複数ライザー管システム用の位相変更ジョイント並びに非対称配置ブラケット線を提供する。本発明の適用範囲は、海洋や湖沼等の水中のライザー管を含めた線状構造物に限定されるものではなく、空中の屋外設置用ポールや電線等の気体中の線状構造物における渦励振(VIV)を低減するために利用することができる。なお、気体中の線状構造物に適用する場合は、請求項の水中等の水に関連した用語は、気体に置き替えて解釈するものとする。
【符号の説明】
【0067】
10 洋上施設、12 ライザー組立装置(デリック)、14 水中ポンプ、16 移送管、18 掘削ユニット、20 複数ライザー管、20a ライザー管セット、20b 位相変換ジョイント、20c コネクタ、22 ライザー管、24 スペーサ、30 複数ライザー管、30a(30a-1,30a-2,30a-3) ライザー管、30b 非対称配置ブラケット、30c コネクタ、32 ライザー管、100,200 複数ライザー管システム。