(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084542
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】難溶性または不溶性物質用分散剤および分散液
(51)【国際特許分類】
C08B 37/14 20060101AFI20240618BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240618BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240618BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240618BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240618BHJP
A23L 33/15 20160101ALI20240618BHJP
C09K 23/56 20220101ALI20240618BHJP
【FI】
C08B37/14
C01B32/168
C01B32/194
A61K8/73
A23L29/00
A23L33/15
C09K23/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198866
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 志保
(72)【発明者】
【氏名】松野 研二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 海
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4C083
4C090
4D077
4G146
【Fターム(参考)】
4B018LE05
4B018MD24
4B018MD33
4B018ME14
4B035LC04
4B035LE03
4B035LG16
4B035LG20
4B035LK12
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD621
4C083AD622
4C083DD39
4C090AA08
4C090BA81
4C090BB10
4C090BB65
4C090BB92
4C090BD36
4C090CA37
4C090DA01
4C090DA26
4C090DA27
4C090DA40
4D077AA01
4D077AA02
4D077AA03
4D077AA09
4D077AB01
4D077AB03
4D077AB08
4D077AB11
4D077AC05
4D077DA02Y
4D077DD63Y
4D077DE09Y
4G146AA01
4G146AA11
4G146AA12
4G146AB07
4G146AC02B
4G146AC30B
4G146AD22
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD40
4G146CB10
4G146CB35
(57)【要約】
【課題】難溶性または不溶性物質の分散に対して、キシランをメチル化したカルボキシメチル化キシランを用いることで良好な分散性と、環境にも優しい分散剤及び分散液を提供する。
【解決手段】キシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランを用いることを特徴とする。この場合において、キシランがグルクロノキシランであってもよい。また、カルボキシメチル化キシランのCM化度が0.1以上、0.4以下であることが好ましい。グルクロノキシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランで、かつ、CM化度を0.1以上、0.4以下とした場合には、分散性に優れた分散剤とすることができる。難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、グラフェン、β-カロテンまたはフタロシアニン類であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランを用いることを特徴とする難溶性または不溶性物質用分散剤。
【請求項2】
前記キシランが、グルクロノキシランであることを特徴とする請求項1に記載の難溶性または不溶性物質用分散剤。
【請求項3】
前記カルボキシメチル化キシランのCM化度が0.1以上、0.4以下であることを特徴とする請求項1に記載の分散剤。
【請求項4】
前記難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、グラフェン、β-カロテンまたはフタロシアニン類であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、カーボンナノチューブからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、グラフェンからなる難溶性または不溶性物と、水とを含むグラフェン分散液。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、β-カロテンからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含むβ-カロテン分散液。
【請求項8】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の分散剤と、フタロシアニン類からなる難溶性または不溶性物と、水とを含むフタロシアニン類分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてカーボンナノチューブのような難溶性または不溶性物質を水に分散するための分散剤および分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とよぶ。)は、炭素のみで構成されている直径がナノメートルサイズの円筒(チューブ)状の物質であり、炭素原子が六角形に配置されたベンゼン環を平面上にすべて隣り合うように並べたシートを円筒状に丸めた構造をしている。この筒が一層のものが単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」とよぶ。)、直径の異なる複数の筒が層状に重なったものは多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」とよぶ。)とよばれている。
【0003】
カーボンナノチューブは高い導電性や大きな機械的強度を有しており、その特性を活かして導電性塗料、導電性樹脂、電磁波シールドシートあるいはヒータ部材などへの応用が検討されている。これらに応用するときに重要なことは、CNTの分散性である。CNTは固体状態では、強いπ-π相互作用やファンデルワールス力により束(バンドル)構造体を形成しているので多くの溶媒中で分散が困難である。このため、CNTを溶媒に分散可能にして、種々の応用を可能にするためには、その手助けをする優れた分散剤が必要とされている。
【0004】
例えば、特定のアニオン性界面活性剤と特定の多糖類とからなる分散剤を含む水溶液にCNTを添加して分散させた水分散液をシート基材に塗工して優れた電磁波抑制能や発熱能を有するシートを製造することが開示されている。その水分散液は、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、アルキレンマレイン酸共重合体塩からなるアニオン性界面活性剤のA群と、 水溶性キシラン、キサンタンガム類、グアーガム類、ジェランガム類、カルボキシメチルセルロースからなる多糖類のB群とからそれぞれ一種以上を分散剤として用いたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、水溶性キシランを用いることにより、難溶性または不溶性の物質の表面への溶媒の親和性を向上させることができることを見出して、水難溶性または水不溶性の物質の表面への溶媒の親和性を向上させ、その物質の溶液を得ることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また本発明者等を含む研究者によりヘミセルロースであるメチルグルクロノキシランが、疎水性物質を水へ分散する機能を有していることを発見し、CNTの分散メカニズムを研究するとともに、電磁波遮蔽シリコーンゴムへの応用研究を行ったことが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-082610号公報
【特許文献2】特開2007-215542号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】応用糖質科学、第12巻、第1号、27-32(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明は、特定のアニオン性界面活性剤のA群と、特定の多糖類のB群とからそれぞれ一種以上を分散剤として用いたカーボンナノチューブ水分散液を開示している。この発明は、例えばカルボキシメチルセルロースなどの多糖類のみの分散剤ではCNT濃度を高くするとCNT分散液の粘度が上昇するために、それを抑制することを目的としてアニオン性界面活性剤を混合して塗工処理ができるようにしている。しかし、界面活性剤を添加すると気泡が発生する可能性があり、良好な塗膜形成作業に注意を要するという課題を有する。
【0010】
特許文献2に記載の発明は、難溶性または不溶性の物質を水溶性キシランにより分散可能としているが、CNT分散液を電子材料に応用するためにはCNTの分散度を大きくすることが求められる場合も多い。しかし、水溶性キシランのみでは分散度をさらに大きくすることは難しいという課題を有する。
【0011】
非特許文献1に記載の発明では、電子材料への応用としては天然物である水溶性キシランを分散剤としてSWCNTを分散した分散液を作製して塗料として用いた例が示されている。しかし、天然物を用いるだけではさらに分散度を大きくすることは難しいという課題を有する。
【0012】
また、環境問題は現在非常に重要なテーマであり、非常に優れた特性を有する材料であっても環境への負荷が大きい場合には使用することができない。環境への影響、生体への適合性などを考慮した場合、水は最も適した溶媒である。また、水難溶性物質を溶解させるために用いる分散剤も、環境にやさしい、または生体に適合する材料であることが望まれる。そのため、難溶性または不溶性物質を分散させる分散剤も天然物または生分解性を有する化合物であることが好ましい。
【0013】
本発明は、難溶性または不溶性物質の分散に対して、キシランをメチル化したカルボキシメチル化キシランを用いることで良好な分散性と、環境にも優しい分散剤及び分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤は、キシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランを用いることを特徴とする。
【0015】
この場合において、キシランがグルクロノキシランであってもよい。また、カルボキシメチル化キシランのカルボキシメチル化度(以下、「CM化度」とよぶ。)が0.1以上、0.4以下であることが好ましい。
【0016】
キシラン、特にグルクロノキシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランで、かつ、CM化度を0.1以上、0.4以下とした場合には、分散性に優れた分散剤とすることができる。
【0017】
この場合において、難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、グラフェン、β-カロテンまたはフタロシアニン類であってもよい。これらの物質は種々の高機能特性を有するにもかかわらず、水などの溶媒に分散させることができないため、応用が制限されている。本発明の分散剤を用いることにより、幅広い分野への応用が可能となる。
【0018】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、上記記載の分散剤と、カーボンナノチューブからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含む。カーボンナノチューブを分散でき、かつ分散性が安定であるので、導電性材料や電磁波遮蔽シートなどの電子材料分野や電池分野などの幅広い分野に応用できる。
【0019】
さらに、本発明のグラフェン分散液は、上記記載の分散剤と、グラフェンからなる難溶性または不溶性物と、水とを含む。このようなグラフェン分散液を用いれば、基材表面に塗工して導電性コーティング、電磁波シールド材料あるいは電解放出材料等として使用することができる。
【0020】
さらに、本発明のβ-カロテン分散液は、上記記載の分散剤と、β-カロテンからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含む。グルクロノキシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランについても人に対する安全性や環境への影響が少ない材料であるので、この分散剤を用いたβ-カロテン分散液は、化粧品素材や食品添加物として応用することができる。
【0021】
さらに、本発明のフタロシアニン類分散液は、上記記載の分散剤と、フタロシアニン類からなる難溶性または不溶性物と、水とを含む。フタロシアニン類は顔料としてよく使われているが、分散性を高めた分散液を用いれば、種々の色素への応用が容易になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤および分散液は、CNT等のような難溶性または不溶性物質を容易に分散させることができ、特にCNTを分散した分散液は電子部品分野に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施の形態に係る実施例1において、カルボキシメチル化キシランのCM化度によるMWCNTの分散度との関係を求めた結果である。
【
図2】本実施の形態に係る実施例1において、MWCNTの添加量が小さい場合(0.1wt%)についてCM化度に対する分散度と粘度とを調べた結果である。
【
図3】本実施の形態に係る実施例1において、MWCNTの添加量が大きい場合(1wt%)についてCM化度に対する分散度と粘度とを調べた結果である。
【
図4】本実施の形態に係る実施例1において、SWCNTを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示している図である。
【
図5】本実施の形態に係る実施例1において、グラフェンを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示している図である。
【
図6】本実施の形態に係る実施例1において、銅フタロシアニンンを用いて分散した結果を、紫外可視分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定して評価した図である。
【
図7】本実施の形態に係る実施例1において、銅フタロシアニンンを用いて分散した結果を、紫外可視分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定して評価した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態)
【0025】
以下、本発明の実施の形態の難溶性または不溶性物質用分散剤について説明する。本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤は、キシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランを用いることを特徴とする。本発明者らは、グルクロノキシランが難溶性または不溶性物質用の分散剤として良好な特性を有することをすでに見出しているが、さらに分散性と分散安定性を向上させるために種々の取り組みを行った。その結果、キシランとしてグルクロノキシランを用い、これをカルボキシメチル化処理してできるカルボキシメチル化キシランは分散剤としてさらに良好な特性を有することを見出した。また、カルボキシメチル化処理する場合のCM化度0.1以上、0.4以下とすることが好ましいことを見出して本発明を完成させた。なお、本発明は、キシランとしてはグルクロノキシランに限定されることはなく、後述するアラビノグルクロノキシラン、グルクロノアラビノキシランやアラビノキシランなどでも同様の効果を得ることができる。
【0026】
上記発明において、難溶性または不溶性物質が、カーボンナノチューブ、グラフェン、β-カロテンまたはフタロシアニン類であってもよい。これらの物質は、水に対して難溶性または不溶性物質として知られており、良好な分散剤が求められている。本発明の分散剤を用いることにより、水に対して大きな分散度で分散できるようになる。また、カルボキシメチル化キシランは、グルクロノキシランをカルボキシメチル化処理したものであり、環境にやさしい材料であって、これを分散剤とした場合、カーボンナノチューブ、グラフェンやβ-カロテンあるいはフタロシアニン類などの難溶性物質に対する分散性を向上させることができるだけでなく、環境にも優しい分散液を製造することができる。
【0027】
また、本発明のカーボンナノチューブ分散液は、上記記載の分散剤と、カーボンナノチューブからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含む。このようなカーボンナノチューブ分散液を用いれば、導電性コーティング、電磁波シールド材料、電界放出材料や電池の負極材等の目的に使用することができる。
【0028】
また、本発明のグラフェン分散液は、上記記載の分散剤と、グラフェンからなる難溶性または不溶性物と、水とを含む。このようなグラフェン分散液を用いれば、基材表面に塗工して導電性コーティング、電磁波シールド材料あるいは電解放出材料等として使用することができる。
【0029】
さらに、本発明のβ-カロテン分散液は、上記記載の分散剤と、β-カロテンからなる難溶性または不溶性物質と、水とを含む。グルクロノキシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランについても人に対する安全性や環境への影響が少ない材料であるので、この分散剤を用いたβ-カロテン分散液は、化粧品素材や食品添加物として応用することができる。
【0030】
さらに、本発明のフタロシアニン類分散液は、上記記載の分散剤と、フタロシアニン類からなる難溶性または不溶性物と、水とを含む。フタロシアニン類は顔料としてよく使われているが、分散性を高めた分散液を用いれば、種々の色素への応用が容易になる。
【0031】
なお、フタロシアニンは化学的には4個のイソインドールを持つ環状化合物であり、中心に金属のない場合を化学的にフタロシアニンといい、中心に金属を持つものも多数あり、銅フタロシアニンはその代表的なものである。本発明では、銅フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、フタロシアニンマグネシウム(II)、すず(II)フタロシアニン、無金属フタロシアニン、低塩素化フタロシアニンなどを含めてフタロシアニン類とよぶことにする。
なお、カルボキシメチル化キシランのCM化度とは、キシロース単位あたり2つ存在する水酸基のうち、カルボキシメチル基に置換された数を示す。
【0032】
また、キシランとは、β-1,4結合によって連結された2以上のキシロース残基を含む分子をいう。キシロース残基のみから構成される分子(すなわち、純粋なキシロースポリマー)だけでなく、キシロースポリマーに4-O-メチルグルクロン酸残基およびアセチル基が結合したものは、一般に、グルクロノキシランと呼ばれる。広葉樹の木材に含まれるヘミセルロースの主成分はグルクロノキシランであることが公知である。広葉樹に含まれるグルクロノキシランは、キシロース残基10:4-O-メチルグルクロン酸1:アセチル基6の割合で構成されることが多い。キシロースポリマーにアラビノース残基および4-O-メチルグルクロン酸が結合したものもある。これらは、一般に、アラビノグルクロノキシランまたはグルクロノアラビノキシランとよばれる。キシロースポリマーにアラビノース残基が結合したものは、一般にアラビノキシランとよばれる。本発明においては、これらを総称してキシランとしている。
(実施例1)
【0033】
本実施例では、キシランとしてグルクロノキシランを用い、これをカルボキシメチル化したカルボキシメチル化キシランを用いて、MWCNTを分散した結果について説明する。最初に、グルクロノキシランのカルボキシメチル化処理についての手順を説明する。
【0034】
グルクロノキシラン10gに、エタノール100g、30%水酸化ナトリウム水溶液10gおよびモノクロロ酢酸ナトリウム3gを加えて45℃で撹拌した。15分、30分および60分後に、それぞれ反応液の一部を採取し、エタノールを加えて沈殿物を得た。この沈殿物を90%エタノールで洗浄した後、70℃で乾燥させて、カルボキシメチル化度の異なるカルボキシメチル化キシランを作製した。
【0035】
作製したカルボキシメチル化キシランのカルボキシメチル化度(以下、「CM化度」とよぶ場合がある。)は、以下の方法で算出した。CM化度の異なるカルボキシメチル化キシランを、それぞれ200mgを80%エタノール2mLに懸濁した。さらに、塩酸(HCl)2mLを加え、1時間撹拌した後、遠心機で6000G、10min印加して沈殿物を得た。これらの沈殿物を80%エタノールで2回洗浄した後、精製水20mLを加え撹拌した。さらに、0.1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液25mLを加えて15分加熱し、これらの溶液に0.1Mの塩酸(HCl)水溶液を加えて滴定し、加えた塩酸の量からエーテル化度を算出した。その後、カルボキシメチル化する前のサンプルのエーテル化度との差からCM化度を算出した。
【0036】
図1は、カルボキシメチル化キシランのCM化度によるMWCNTの分散度との関係を求めた結果である。MWCNTの50mgを、上記したCM化度の異なるカルボキシメチル化キシランの水溶液50mLにそれぞれ投入し、超音波ホモジナイザ(600W)を用いて分散した。その後、遠心機(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ(株)、CT18R)を用いて10,000G、1時間分離して上清を試料とした。この上清を、紫外可視分光光度計((株)島津製作所、UV-1900)を用いて波長500nmの吸光度を測定し、得られた吸光度をもとに計算した値を分散度とした。
【0037】
図からわかるように、CM化度が0、すなわちグルクロノキシランを用いた場合の分散度に比べて、CM化度が0.1以上では分散度が改善できることがわかった。さらに、図示していないが、CM化度の大きなカルボキシメチル化キシランを作製してMWCNTの分散度を求めた結果、CM化度が0.4を超すと分散度は低下することがわかった。これらの結果、CM化度は0.1以上、0.4以下とすることが好ましい範囲であることを見出した。特に、0.1以上、0.2以下がより好適である。
【0038】
なお、カルボキシメチル化キシランの分子量は1,000~100万の範囲であれば特に制約なく用いることができる。特に1,000~3万が好ましいが、5,000~2.5万がより好ましい。
【0039】
図2と
図3とは、CM化度が0.2のカルボキシメチル化キシランを用いて、水に対するカルボキシメチル化キシランの濃度およびMWCNT添加量をかえた場合の分散度と粘度とを求めた結果である。
【0040】
図2は、MWCNTの添加量が小さい場合(0.1wt%)においての、CM化度に対する分散度と粘度とを調べた結果である。具体的には、CM化度が0.2のカルボキシメチル化キシランを用いて、水に対するカルボキシメチル化キシランの濃度が0.01wt%、0.1wt%、0.2wt%、0.5wt%および1.0wt%の水溶液を調整し、これらの分散液にMWCNTを0.1wt%添加して作製した分散液の分散度と粘度を求めた結果である。
【0041】
カルボキシメチル化キシランの水に対する濃度が0.01wt%の場合には、MWCNTはほとんど分散しないが、0.1wt%以上添加すると急激に分散度が大きくなることがわかった。また、カルボキシメチル化キシランの濃度が0.1wt%~1.0wt%までの範囲では、分散度は漸増傾向となる結果が得られた。一方、粘度はカルボキシメチル化キシランの濃度が0.01wt%の場合に0.9mPa・sで、0.1wt%としても1.1mPa・s程度、1.0wt%でも1.7mPa・s程度であった。MWCNTの添加量が小さい場合には、カルボキシメチル化キシランの水に対する濃度は0.1wt%程度とすれば十分な分散度を得ることができ、導電性材料等を作製するときにカルボキシメチル化キシランを用いると、分散液の粘度上昇やゲル化を防止することができる。また、分散液の取り扱いがしやすくなる。
【0042】
図3は、MWCNTの添加量が大きい場合(1wt%)においての、CM化度に対する分散度と粘度とを調べた結果である。具体的には、CM化度が0.2のカルボキシメチル化キシランを用いて、水に対するカルボキシメチル化キシランの濃度が0.5wt%、1.0wt%、2.0wt%、の水溶液を調整し、これらの分散液にMWCNTを
図2の場合の10倍である1wt%添加して作製した分散液の分散度と粘度を求めた結果である。
【0043】
図2のカルボキシメチル化キシランの濃度が0.5wt%と1.0wt%および
図3のカルボキシメチル化キシランの濃度が0.5wt%と1.0wt%については、水に対するカルボキシメチル化キシランの濃度については全く同じである。MWCNTの添加量を1wt%とした場合、添加量の増加に伴って分散度も増加し、また0.1wt%の場合に比べて分散度は非常に大きな値となった。具体的には、カルボキシメチル化キシランの濃度が0.5wt%では370、1.0wt%では405、2.0wt%では430が得られた。また、MWCNTの分散度が大きくなったことにより、カルボキシメチル化キシランの濃度が
図2の場合と同じでも、分散液の粘度も大きくなることがわかった。具体的には、カルボキシメチル化キシランの濃度が0.5wt%の場合には4mPa・s、1.0wt%の場合には5.5mPa・sが得られた。
【0044】
以上の結果、MWCNTの添加量が小さい場合にくらべて、大量に添加すると分散度を非常に大きくしながら、かつ、粘度も低くできるので、導電性材料等への応用に有効であることが見いだされた。特に、分散液の粘度が、6mPa・s以下の時に流動性が高く、塗布時の作業効率が高くなるため取り扱いやすく、好適である。
(実施例2)
【0045】
本実施例では、CNTとしてSWCNTを用いた場合について説明する。
図4は、SWCNTを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示している。カルボキシメチル化キシランのCM化度を0.2とし、水に対する分散剤の濃度を0.2wt%とした分散液を用いた。分散液50mLに、SWCNTを50mg添加し、超音波ホモジナイザ(600W)を用いて分散した。この手順はMWCNTと同様であるので説明を省略する。
図4には、比較のためにMWCNTの分散度も表示している。
【0046】
図4からわかるように、SWCNTの分散度は28.5であり、MWCNTに比べると小さいが、実用に供することができる程度の分散度を得ることができた。なお、SWCNTについては、アスペクト比が5000~100,000の範囲のものが特に好適である。
(実施例3)
【0047】
本実施例では、グラフェンを用いた場合について説明する。
図5は、グラフェンを用いて分散した結果を、MWCNT分散結果と比較して示している。カルボキシメチル化キシランのCM化度を0.2とし、水に対する分散剤の濃度を0.2%とした分散液を用いた。分散液50mLに、グラフェンを50mg添加し、超音波ホモジナイザ(600W)を用いて分散した。この手順はMWCNTと同様であるので説明を省略する。
図5には、比較のためにMWCNTの分散度も表示している。
図5からわかるように、グラフェンの分散度は18.9であり、MWCNTに比べると小さいが、実用に供することができる程度の分散度を得ることができた。
(実施例4)
【0048】
本実施例では、フタロシアニン類として銅フタロシアニン(II)(β-型)を用いた場合について説明する。本実施例では、CM化度が0.2のカルボキシメチル化キシランを用いた分散剤を作製した。この分散剤を水に0.2%添加して0.2%水溶液を作製した。この水溶液に、銅フタロシアニン(II)(β-型)を1mg添加し、超音波ホモジナイザー(600W)を用いて分散した。本実施例では、分散度を求めるのではなく、紫外可視分光光度計((株)島津製作所、UV-1900)を用いて吸収スペクトルを測定して評価した。この結果を
図6に示す。
【0049】
図6からわかるように、分散剤を添加せず、水中に直接銅フタロシアニン(II)(β-型)を添加した場合には、銅フタロシアニン(II)(β-型)が水に溶解しないので紫外可視分光光度計の測定では吸収がほとんど生じなかった。しかし、分散剤を添加した分散液の場合には、波長500nmの吸光度は0.17程度となり、CNTに比べて小さな分散度であるが分散できることを確認できた。
(実施例5)
【0050】
本実施例では、β-カロテンを用いた場合について説明する。本実施例では、CM化度が0.2のカルボキシメチル化キシランを用いた分散剤を作製した。この分散剤を水に0.2%添加して0.2%水溶液を作製した。この水溶液に、β-カロテンを10mg添加し、超音波ホモジナイザー(600W)を用いて分散した。本実施例では、分散度を求めるのではなく、紫外可視分光光度計((株)島津製作所、UV-1900)を用いて吸収スペクトルを測定して評価した。この結果を
図7に示す。
【0051】
図7からわかるように、分散剤を添加せず、水中に直接β-カロテンを添加した場合には、β-カロテンが水に溶解しないので紫外可視分光光度計の測定では吸収がほとんど生じなかった。しかし、分散剤を添加した分散液の場合には、波長500nmの吸光度は0.275となり、良好な分散度を得ることができた。
【0052】
なお、本発明にいうキシランには、グルクロノキシランだけでなく、アラビノグルクロノキシラン、グルクロノアラビノキシランやアラビノキシランなどを含み、本実施の形態と実施例ではグルクロノキシランをカルボキシメチル化処理したカルボキシメチル化キシランを分散剤として用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。アラビノキシランやアラビノグルクロノキシランなど、グルクロノキシラン以外の他のキシランをカルボキシメチル化処理したものを分散剤としたものも、難溶性または不溶性物質の良好な分散剤として用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の難溶性または不溶性物質用分散剤及び分散液は、CNTを用いる場合には導電性を生かした電磁波遮蔽シートなどの電子部品分野、β-カロテンを用いる場合には食品分野や化粧品分野、フタロシアニン類を用いる場合には塗料分野に有用である。