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特開2024-84571液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084571
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240618BHJP
【FI】
B41J2/14 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198900
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 憲右
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG12
2C057AG45
2C057AK07
2C057AR14
2C057BA05
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】消費電力を抑制することが可能な液体噴射ヘッド等を提供する。
【解決手段】本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射する噴射部と、複数の差動伝送デバイスと、上記液体噴射ヘッドの外部から差動伝送デバイスへ向けて差動伝送信号を伝送するための外部差動伝送路と、複数の差動伝送デバイスの間で差動伝送信号を伝送するための内部差動伝送路と、この内部差動伝送路における消費電流が外部差動伝送路における消費電流よりも小さくなるように、外部差動伝送路および内部差動伝送路における特性パラメータの設定が行われる特性設定部と、を備えている。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する液体噴射ヘッドであって、
前記液体を噴射する噴射部と、
複数の差動伝送デバイスと、
前記液体噴射ヘッドの外部から前記差動伝送デバイスへ向けて差動伝送信号を伝送するための外部差動伝送路と、
前記複数の差動伝送デバイスの間で前記差動伝送信号を伝送するための内部差動伝送路と、
前記内部差動伝送路における消費電流が、前記外部差動伝送路における消費電流よりも小さくなるように、前記外部差動伝送路および前記内部差動伝送路における特性パラメータの設定が行われる特性設定部と
を備えた液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記特性設定部では、前記外部差動伝送路および前記内部差動伝送路における差動伝送路の線路長の大きさに応じて、前記特性パラメータが設定される
請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記特性設定部では、
前記線路長が相対的に短い前記差動伝送路においては、前記特性パラメータとしての前記差動伝送信号の振幅が、相対的に小さくなるように設定されると共に、
前記線路長が相対的に長い前記差動伝送路においては、前記差動伝送信号の振幅が、相対的に大きくなるように設定される
請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記特性設定部では、
前記線路長が相対的に短い前記差動伝送路においては、前記特性パラメータとしての、前記外部差動伝送路または前記内部差動伝送路に流れる定常電流が、相対的に小さくなるように設定されると共に、
前記線路長が相対的に長い前記差動伝送路においては、前記定常電流が、相対的に大きくなるように設定される
請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記特性設定部では、
前記線路長が相対的に短い前記差動伝送路においては、前記特性パラメータとしての、前記差動伝送デバイスにおける入力インピーダンスが、相対的に大きくなるように設定されると共に、
前記線路長が相対的に長い前記差動伝送路においては、前記差動伝送デバイスにおける入力インピーダンスが、相対的に小さくなるように設定される
請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記特性パラメータを変更するための特性変更信号を前記特性設定部に対して出力する、特性変更部を更に備えた
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記特性パラメータを格納するパラメータ格納部を、更に備え、
前記特性変更部は、前記パラメータ格納部に格納されている前記特性パラメータを用いて、前記特性変更信号を生成する
請求項6に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記特性設定部が、前記差動伝送デバイス内に設けられた、設定端子を用いて構成されている
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記複数の差動伝送デバイスが、前記噴射部から前記液体を噴射させるための駆動信号を生成する、複数の駆動デバイスである
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記複数の駆動デバイスが、基板面上において、前記駆動デバイスの長手方向に沿って並んで配置されている
請求項9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記複数の駆動デバイス同士が、前記内部差動伝送路を介して、互いにカスケード接続されている
請求項9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記外部差動伝送路および前記内部差動伝送路がそれぞれ、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)を用いて構成されている
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを備えた
液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置が様々な分野に利用されており、液体噴射ヘッドとしては、各種方式のものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-107341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような液体噴射ヘッドでは一般に、消費電力を抑制することが求められている。消費電力を抑制することが可能な、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射する噴射部と、複数の差動伝送デバイスと、上記液体噴射ヘッドの外部から差動伝送デバイスへ向けて差動伝送信号を伝送するための外部差動伝送路と、複数の差動伝送デバイスの間で差動伝送信号を伝送するための内部差動伝送路と、この内部差動伝送路における消費電流が外部差動伝送路における消費電流よりも小さくなるように、外部差動伝送路および内部差動伝送路における特性パラメータの設定が行われる特性設定部と、を備えたものである。
【0006】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置は、上記本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置によれば、消費電力を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施の形態に係る液体噴射装置の概略構成例を表すブロック図である。
図2図1に示した液体噴射ヘッドの概略構成例を模式的に表す斜視図である。
図3図2に示した液体噴射ヘッドの構成例を模式的に表す断面図である。
図4A図2図3に示したフレキシブル基板の詳細構成例を模式的に表す平面図である。
図4B図2図3に示した他のフレキシブル基板の詳細構成例を模式的に表す平面図である。
図5図4Aに示したフレキシブル基板内での各部材の配置構成例を表す模式図である。
図6】送信端および受信端の構成例を表す回路図である。
図7】送信端および受信端の他の構成例を表す回路図である。
図8】実施の形態に係る線路長と各種の特性パラメータとの間の対応関係例を表す図である。
図9】実施の形態に係る特性設定部における特性パラメータの設定例を模式的に表す回路図である。
図10】実施の形態に係る特性設定部における特性パラメータの他の設定例を模式的に表す回路図である。
図11】実施の形態に係る特性設定部における特性パラメータの他の設定例を模式的に表す回路図である。
図12】変形例1に係る液体噴射ヘッドにおけるフレキシブル基板内での各部材の配置構成例を表す模式図である。
図13】変形例1に係る特性設定部における特性パラメータの設定例を模式的に表す回路図である。
図14】変形例2に係る液体噴射ヘッドにおけるフレキシブル基板内での各部材の配置構成例を表す模式図である。
図15】変形例3に係る液体噴射ヘッドにおけるフレキシブル基板内での各部材の配置構成例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(特性設定部が設定端子を用いて構成されている場合の例)
2.変形例
変形例1(複数の駆動基板を設けた場合の例)
変形例2(特性変更信号を出力する特性変更部を更に設けた場合の例)
変形例3(特性パラメータを格納するパラメータ格納部を更に設けた場合の例)
3.その他の変形例
【0010】
<1.実施の形態>
[プリンタ5の概略構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置としてのプリンタ5の概略構成例を、ブロック図で表したものである。図2は、図1に示した液体噴射ヘッドとしてのインクジェットヘッド1の概略構成例を、模式的に斜視図で表したものである。図3は、図2に示したインクジェットヘッド1の構成例を、模式的に断面図(Y-Z断面図)で表したものである。なお、本明細書の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0011】
プリンタ5は、後述するインク9を利用して、被記録媒体(例えば、図1中に示した記録紙P)に対し、画像や文字等の記録(印刷)を行うインクジェットプリンタである。このプリンタ5は、図1に示したように、インクジェットヘッド1、印刷制御部2およびインクタンク3を備えている。
【0012】
なお、インクジェットヘッド1は、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応し、プリンタ5は、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例に対応している。また、インク9は、本開示における「液体」の一具体例に対応している。
【0013】
(A.印刷制御部2)
印刷制御部2は、インクジェットヘッド1に対して、各種の情報(データ)を供給するものである。具体的には図1に示したように、印刷制御部2は、インクジェットヘッド1内(後述する駆動デバイス41等)に対してそれぞれ、印刷制御信号Scを供給するようになっている。なお、この印刷制御信号Scには、例えば、画像データ、吐出タイミング信号、および、インクジェットヘッド1を動作させるための電源電圧等が、含まれるようになっている。
【0014】
(B.インクタンク3)
インクタンク3は、インク9を内部に収容するタンクである。このインクタンク3内のインク9は、図1に示したように、インク供給管30を介して、インクジェットヘッド1内(後述する噴射部11)へと供給されるようになっている。なお、このようなインク供給管30は、例えば、可撓性を有するフレキシブルホースにより構成されている。
【0015】
(C.インクジェットヘッド1)
インクジェットヘッド1は、図1中の破線の矢印で示したように、後述する複数のノズル孔Hnから記録紙Pに対して液滴状のインク9を噴射(吐出)して、画像や文字等の記録を行うヘッドである。このインクジェットヘッド1は、例えば図2図3に示したように、1つの噴射部11と、1つのI/F(インターフェース)基板12と、4つのフレキシブル基板13a,13b,13c,13dと、2つの冷却ユニット141,142とを、備えている。
【0016】
(C-1.I/F基板12)
I/F基板12は、図2図3に示したように、2つのコネクタ10と、4つのコネクタ120a,120b,120c,120dと、回路配置領域121とを、備えている。
【0017】
コネクタ10は、図2に示したように、印刷制御部2からインクジェットヘッド1(後述する各フレキシブル基板13a,13b,13c,13d)へ向けて供給される、前述した印刷制御信号Scを入力する部分(コネクタ部分)である。コネクタ120a,120b,120c,120dはそれぞれ、I/F基板12と、フレキシブル基板13a,13b,13c,13dとの間をそれぞれ、電気的に接続する部分(コネクタ部分)である。
【0018】
回路配置領域121は、I/F基板12上において各種の回路が配置されている領域である。なお、I/F基板12上の他の領域にも、このような回路配置領域が設けられているようにしてもよい。
【0019】
(C-2.噴射部11)
噴射部11は、図1に示したように、複数のノズル孔Hnを有しており、これらのノズル孔Hnからインク9を噴射する部分である。このようなインク9の噴射は、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13d上の後述する駆動デバイス41から供給される駆動信号Sd(駆動電圧Vd)に従って、行われるようになっている(図1参照)。
【0020】
このような噴射部11は、図1に示したように、アクチュエータプレート111およびノズルプレート112を含んで構成されている。
【0021】
(ノズルプレート112)
ノズルプレート112は、ポリイミド等のフィルム材または金属材料により構成されたプレートであり、図1に示したように、上記した複数のノズル孔Hnを有している。これらのノズル孔Hnは、所定の間隔をおいて並んで形成されており、例えば円形状となっている。
【0022】
具体的には、図2に示した噴射部11の例では、ノズルプレート112内における複数のノズル孔Hnが、列方向(X軸方向)に沿ってそれぞれ配置された、複数のノズル列(4つのノズル列)により構成されている。また、これらの4つのノズル列同士は、列方向と直交する方向(Y軸方向)に沿って、並んで配置されている。
【0023】
(アクチュエータプレート111)
アクチュエータプレート111は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料により構成されたプレートである。このアクチュエータプレート111には、複数のチャネル(圧力室)が設けられている。これらのチャネルは、インク9に対して圧力を印加するための部分であり、所定の間隔をおいて互いに平行となるよう、並んで配置されている。各チャネルは、圧電体からなる駆動壁(不図示)によってそれぞれ画成されており、断面視にて凹状の溝部となっている。
【0024】
このようなチャネルには、インク9を吐出させるための吐出チャネルと、インク9を吐出させないダミーチャネル(非吐出チャネル)とが、存在している。言い換えると、吐出チャネルにはインク9が充填される一方、ダミーチャネルにはインク9が充填されないようになっている。なお、各吐出チャネルに対するインク9の充填は、例えば、そのような各吐出チャネルに共通して連通する流路(共通流路)を介して、行われるようになっている。また、各吐出チャネルは、ノズルプレート112におけるノズル孔Hnと個別に連通している一方、各ダミーチャネルは、ノズル孔Hnには連通しないようになっている。これらの吐出チャネルとダミーチャネルとは、前述した列方向(X軸方向)に沿って、交互に並んで配置されている。
【0025】
また、上記した駆動壁における対向する内側面にはそれぞれ、駆動電極が設けられている。この駆動電極には、吐出チャネルに面する内側面に設けられたコモン電極(共通電極)と、ダミーチャネルに面する内側面に設けられたアクティブ電極(個別電極)とが、存在している。これらの駆動電極と、後述する駆動デバイス41との間は、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13dを介して、電気的に接続されている。これにより、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13dを介して、駆動デバイス41から各駆動電極に対し、前述した駆動電圧Vd(駆動信号Sd)が印加されるようになっている(図1参照)。
【0026】
(C-3.フレキシブル基板13a,13b,13c,13d)
フレキシブル基板13a,13b,13c,13dはそれぞれ、図2図3に示したように、I/F基板12と噴射部11との間を電気的に接続する基板である。これらのフレキシブル基板13a,13b,13c,13dはそれぞれ、前述したノズルプレート112における4列のノズル列ごとのインク9の噴射動作を、個別に制御するようになっている。また、例えば図3中の符号P1a,P1b,P1c,P1dにて示したように、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13dが噴射部11と接続する箇所付近(圧着電極433付近)では、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13dが、折り曲げられるようになっている。なお、圧着電極433と噴射部11との間は、例えばACF(Anisotropic Conductive Film:異方性導電フィルム)を用いた熱圧着によって、互いに電気的接続がなされるようになっている。
【0027】
このようなフレキシブル基板13a,13b,13c,13d上にはそれぞれ、駆動デバイス41が個別に実装されている(図3参照)。これらの駆動デバイス41はそれぞれ、噴射部11における対応するノズル列内のノズル孔Hnからインク9を噴射させるための、駆動信号Sd(駆動電圧Vd)を出力するデバイスである。したがって、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13dからは、このような駆動信号Sdが、噴射部11に対して出力されるようになっている。なお、このような各駆動デバイス41は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等により構成されている。
【0028】
また、これらの各駆動デバイス41は、前述した冷却ユニット141,142によって冷却されるようになっている。具体的には図3に示したように、フレキシブル基板13a,13b上の駆動デバイス41同士の間に、冷却ユニット141が固定配置されており、この冷却ユニット141がこれらの駆動デバイス41に対してそれぞれ押し当てられることで、各駆動デバイス41が冷却されている。同様に、フレキシブル基板13c,13d上の駆動デバイス41同士の間に、冷却ユニット142が固定配置されており、この冷却ユニット142がこれらの駆動デバイス41に対してそれぞれ押し当てられることで、各駆動デバイス41が冷却されている。なお、このような冷却ユニット141,142はそれぞれ、各種方式の冷却機構を用いて構成することが可能である。
【0029】
[フレキシブル基板13a,13b,13c,13dの詳細構成]
続いて、図1図3に加えて、図4A図4B図5を参照して、前述したフレキシブル基板13a,13b,13c,13dの詳細構成例について、説明する。
【0030】
図4A図4Bは、図2図3に示したフレキシブル基板13a~13dの詳細構成例を、模式的に平面図(Z-X平面図)で表したものである。具体的には、図4Aは、フレキシブル基板13a,13cの平面構成例(Z-X平面構成例)を、図4Bは、フレキシブル基板13b,13dの平面構成例(Z-X平面構成例)を、それぞれ示している。また、図5は、図4Aに示したフレキシブル基板13a,13c内での各部材の配置構成例を、模式的に表したものである。
【0031】
なお、図5では、フレキシブル基板13a,13cの場合の構成例について示しているが、上記したフレキシブル基板13b,13dの場合についても、基本的には同様の構成となっている。したがって、以降ではフレキシブル基板13a~13dの総称として、適宜、フレキシブル基板13として説明する。また、後述する差動伝送路Lt0,Lt1,Lt2,Lt31~Lt34の総称としても、適宜、差動伝送路Ltとして説明する。
【0032】
まず、これらのフレキシブル基板13a~13dにはそれぞれ、以下のような各部材が、設けられている。すなわち、接続端子部130、第1入力端子Tin1、第2入力端子Tin2、差動伝送路Lt1,Lt2,Lt31~Lt34、複数(この例では5つ)の駆動デバイス41、および、前述した圧着電極433が、設けられている。
【0033】
接続端子部130は、図4A図4B図5に示したように、各フレキシブル基板13a~13dにおけるI/F基板12側の端部領域に配置されている。この接続端子部130は、各フレキシブル基板13a~13dとI/F基板12との間を、電気的に接続するための金属配線端子を含んでいる。具体的には、この接続端子部130では、図4A図4B図5に示したように、差動伝送路Lt1,Lt2がそれぞれ、個別に接続されている。また、接続端子部130は、図5に示したように、第1入力端子Tin1および第2入力端子Tin2を含む接続端子領域Acを有している。接続端子領域Acの一方の端部側に、第1入力端子Tin1が配置され、接続端子領域Acの他方の端部側に、第2入力端子Tin2が配置されている。
【0034】
第1入力端子Tin1および第2入力端子Tin2にはそれぞれ、インクジェットヘッド1の外部(前述した印刷制御部2)から後述する差動伝送路Lt0を介して伝送される伝送データDt(前述した印刷制御信号Sc)が、入力されるようになっている(図1図2図4A図4B図5参照)。また、このような伝送データDtは、第1入力端子Tin1および第2入力端子Tin2のうちの一方入力端子を介して、各フレキシブル基板13a~13d内に伝送されるようになっている。具体的には、例えば図4A図5に示したように、フレキシブル基板13a,13cではそれぞれ、第1入力端子Tin1を介して、伝送データDtが各フレキシブル基板13a,13c内に、伝送されるようになっている。一方、例えば図4Bに示したように、フレキシブル基板13b,13dではそれぞれ、第2入力端子Tin2を介して、伝送データDtが各フレキシブル基板13b,13d内に、伝送されるようになっている。
【0035】
(駆動デバイス41)
上記した5つの駆動デバイス41はそれぞれ、図4A図4B図5に示した例では、各フレキシブル基板13a~13d上(表面S1および裏面S2のうちの、表面S1側)に実装されている。このような5つの駆動デバイス41として、図4A図4B図5に示した例では、駆動デバイス411~415が、それぞれ設けられている。具体的には、図4A図4Bに示した例では、これら5つの駆動デバイス411~415が、フレキシブル基板13a~13dにおける基板面(表面S1)上において、各駆動デバイス411~415の長手方向(X軸方向)に沿って、並んで配置されている。また、これらの駆動デバイス411~415は、第1入力端子Tin1と第2入力端子Tin2との間において、後述する複数の差動伝送路Lt31~Lt34を介して、上記した表面S1上で、互いに直列配置(カスケード接続)されている。
【0036】
具体的には、図4A図4B図5に示したように、各フレキシブル基板13a~13dのいずれにおいても、第1入力端子Tin1側から第2入力端子Tin2側へ向けて、駆動デバイス411~415の順で、直列配置されている。換言すると、このような駆動デバイス41の直列配置のうちの一端に、駆動デバイス411が位置すると共に、この直列配置の他端に、駆動デバイス415が位置している。そして、これらの駆動デバイス411,415の間に、複数(この例では3つ)の駆動デバイス412~414が位置している。
【0037】
また、これらの駆動デバイス411~415にはそれぞれ、後述する差動伝送路Ltが接続される、データ入力端子Tinおよびデータ出力端子Toutが設けられている。具体的には、データ入力端子Tinには差動伝送路Ltを介して伝送データDtが入力され、データ出力端子Toutから差動伝送路Ltを介して、伝送データDtが出力されるようになっている。
【0038】
このような駆動デバイス411~415はそれぞれ、上記したように、第1入力端子Tin1および第2入力端子Tin2のうちの一方の入力端子を介して入力された伝送データDtに基づいて、前述した駆動信号Sdを生成するようになっている。なお、このようにして生成された駆動信号Sdはそれぞれ、各フレキシブル基板13a~13d上の前述した圧着電極433を介して、噴射部11側へと供給されるようになっている。
【0039】
なお、これら複数の駆動デバイス41(411~415)は、本開示における「複数の差動伝送デバイス」の一具体例に対応している。また、上記した伝送データDt(印刷制御信号Sc)は、本開示における「差動伝送信号」の一具体例に対応している。
【0040】
(差動伝送路Lt)
第1入力端子Tin1と第2入力端子Tin2との間には、上記した5つの駆動デバイス411~415を介して、伝送データDtを伝送するための複数の差動伝送路Lt(差動線路)が配置されている。換言すると、この差動伝送路Ltは、各駆動デバイス411~415へ向けて、上記した差動伝送信号としての伝送データDtを伝送するための線路である。
【0041】
具体的には、図4A図4B図5に示したように、第1入力端子Tin1と駆動デバイス411との間には、差動伝送路Lt1が配置され、第2入力端子Tin2と駆動デバイス415との間には、差動伝送路Lt2が配置されている。また、駆動デバイス411,412の間には差動伝送路Lt31が配置され、駆動デバイス412,413の間には差動伝送路Lt32が配置されている。駆動デバイス413,414の間には差動伝送路Lt33が配置され、駆動デバイス414,415の間には差動伝送路Lt34が配置されている。また、図5に示した例では、プリンタ5の外部の印刷制御部2と第1入力端子Tin1との間に、差動伝送路Lt0が配置されている。
【0042】
ここで、図5に示した例では、上記した差動伝送路Lt(Lt0,Lt1,Lt2,Lt31~Lt34)として、外部差動伝送路Lteと内部差動伝送路Ltiとが、設けられている。外部差動伝送路Lteは、インクジェットヘッド1の外部(印刷制御部2)から駆動デバイス41へ向けて、差動伝送信号(伝送データDt)を伝送するための差動伝送路Ltである。図5の例では、差動伝送路Lt0,Lt1がそれぞれ、外部差動伝送路Lteに対応している。一方、内部差動伝送路Ltiは、複数の駆動デバイス41の間で差動伝送信号(伝送データDt)を伝送するための差動伝送路Ltである。図5の例では、差動伝送路Lt31~Lt34がそれぞれ、内部差動伝送路Ltiに対応している。つまり、この図5の例では、この内部差動伝送路Lti(差動伝送路Lt31~34)を介して、上記したように、複数の駆動デバイス411~415同士が、互いにカスケード接続されている。
【0043】
なお、これらの差動伝送路Lt(上記した外部差動伝送路Lteおよび内部差動伝送路Ltiを含む)はそれぞれ、詳細は後述するが(図6図7)、例えば、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)またはCML(Current Mode Logic)を用いて構成されている。ただし、これらの差動伝送路Ltが、例えば、ECL(Emitter Coupled Logic)等を用いて構成されていてもよい。また、これらの差動伝送路Ltは、例えば、いわゆるマイクロストリップ線路やコプレーナ線路を用いて構成されている。
【0044】
ここで、上記したように、フレキシブル基板13a,13cとフレキシブル基板13b,13dとではそれぞれ、伝送データDtが入力される入力端子(第1入力端子Tin1または第2入力端子Tin2)が、互いに異なっている(図4A図4B図5参照)。また、それに伴い、フレキシブル基板13a,13cとフレキシブル基板13b,13dとではそれぞれ、入力された伝送データDtにおける基板内での伝送方向が、互いに異なっている。すなわち、フレキシブル基板13a,13cではそれぞれ、第1入力端子Tin1から入力された伝送データDtが、駆動デバイス411~415の順に、伝送されるようになっている(図4A図5参照)。一方、フレキシブル基板13b,13dではそれぞれ、第2入力端子Tin2から入力された伝送データDtが、駆動デバイス415~411の順に、伝送されるようになっている(図4B参照)。
【0045】
このようにして、フレキシブル基板13a,13cとフレキシブル基板13b,13dとではそれぞれ、伝送データDtが入力される入力端子および伝送データDtが出力される出力端子が、互いに異なっている。ただし、これらのフレキシブル基板13a,13cとフレキシブル基板13b,13dとではそれぞれ、基板の構造自体は互いに同一となっており、各フレキシブル基板13a~13dの構成が、共通化(共用)されている(図4A図4B図5参照)。つまり、伝送データDtの伝送方向等に応じて複数種類のフレキシブル基板(駆動基板)を用意する必要がなく、インクジェットヘッド1内において、1種類のフレキシブル基板13(駆動基板)のみが、設けられていることになる。
【0046】
[特性設定部15等の構成]
続いて、図6図11を参照して、本実施の形態のインクジェットヘッド1内に設けられている、特性設定部15等の構成例について、詳細に説明する。
【0047】
図6図7はそれぞれ、差動伝送路Ltに適用される送信端6および受信端7の構成例(一般的な構成例)を、回路図で表したものである。具体的には、図6は、上記したLVDSの場合における構成例を示し、図7は、上記したCMLの場合における構成例を、示している。また、図8は、本実施の形態に係る、差動伝送路Ltの線路長Lと各種の特性パラメータ(後述する特性パラメータPf)との間の対応関係例を、表したものである。また、図9図11はそれぞれ、本実施の形態の特性設定部15(後述する特性設定部151~154)における特性パラメータPfの設定例を、模式的に回路図で表したものである。
【0048】
まず、図6に示したLVDSの場合の例では、P側の線路LtpとN側の線路Ltnとを含む差動伝送路Ltに対して、以下のような構成の送信端6(送信端6A)と受信端7(受信端7A)とが、それぞれ設けられている。
【0049】
送信端6Aは、1つの定電流回路61と、例えばMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタを用いて構成された4つのスイッチSW1~SW4とを含む、回路構成を有している。具体的には、定電流回路61の一端が電源VDに接続され、定電流回路61の他端が接続点P61にて、スイッチSW1,SW2の一端(ソース)にそれぞれ接続されている。また、スイッチSW3,SW4の一端(ソース)はそれぞれ、接続点P62にてグランドGNDに接続されており、スイッチSW1,SW3の他端(ドレイン)はそれぞれ、接続点P63にて、N側の線路Ltnの一端に接続され、スイッチSW2,SW4の他端(ドレイン)はそれぞれ、接続点P64にて、P側の線路Ltpの一端に接続されている。
【0050】
このような構成の送信端6Aでは、外部から供給される入力信号Sinにおける「H(High)」状態または「L(Low)」状態に従って、スイッチSW1,SW4が同時にオン(ON)状態に設定されると共に、スイッチSW2,SW3が同時にオン状態に設定される。具体的には、例えば、入力信号Sinが「H」状態である場合、スイッチSW2,SW3がそれぞれ、オン状態に設定される一方、スイッチSW1,SW4がそれぞれ、オフ(OFF)状態に設定される。したがってこの場合には、差動伝送路LtにおけるP側の線路Ltpは、電源VDに接続され、差動伝送路LtにおけるN側の線路Ltnは、グランドGNDに接続されることになる。また、例えば、入力信号Sinが「L」状態である場合、スイッチSW1,SW4がそれぞれ、オン状態に設定される一方、スイッチSW2,SW3がそれぞれ、オフ状態に設定される。したがってこの場合には、差動伝送路LtにおけるN側の線路Ltnが、電源VDに接続され、差動伝送路LtにおけるP側の線路Ltpが、グランドGNDに接続されることになる。
【0051】
受信端7Aは、送信端6Aにて生成されて差動伝送路Lt上に伝送されるLVDS信号を受信する受信部71と、1つの終端抵抗Rt0(例えば、Rt0=100Ω)とを含む、回路構成を有している。具体的には、受信部71の正(+)側の入力端子は、P側の線路Ltpの他端に接続され、受信部71の負(-)側の入力端子は、N側の線路Ltnの他端に接続されている。また、受信部71の正側および負側の入力端子の間(P側の線路Ltp上の接続点P71と、N側の線路Ltn上の接続点P72との間)に、終端抵抗Rt0が配置されている。このような構成により、受信端7Aにおける受信部71は、受信したLVDS信号(差動伝送信号)におけるP側の論理とN側の論理との差分を、出力信号Soutとして出力するようになっている。なお、終端抵抗Rt0は、差動伝送デバイスの外部または内部のどちらに配置されていてもよいが、伝送特性や回路規模の観点からは、差動伝送デバイスの内部に実装するほうが望ましい。
【0052】
ここで、LVDS信号の場合における、差動伝送路Lt上の振幅(電圧振幅)は、通常、350mVである。具体的には、送信端6A内の定電流回路61には、定常電流Is=3.5mAが流れており、送信端6A内のスイッチSW1またはスイッチSW2がオン状態である場合、上記した終端抵抗Rt0(=100Ω)にも、3.5mAの電流が流れることになる。したがって、終端抵抗Rt0の両端には、(100Ω×3.5mA)=350mVの電位差が発生し、この電位差(=350mV)が上記したように、LVDS信号の場合における電圧振幅となる。
【0053】
一方、図7に示したCMLの場合の例では、P側の線路LtpとN側の線路Ltnとを含む差動伝送路Ltに対して、以下のような構成の送信端6(送信端6B)と受信端7(受信端7B)とが、それぞれ設けられている。また、このCMLの場合、差動伝送路LtにおけるP側の線路Ltp上およびN側の線路Ltn上にはそれぞれ、ACカップリング容量Ccが、直列配置されている。なお、図7の例では、このようなACカップリング容量Ccが設けられている。このACカップリング容量Ccは、受信端7Bと送信端6BとのDC(直流)電圧仕様が異なる場合に、必要なものである。
【0054】
送信端6Bは、1つの定電流回路62と、2つの抵抗R5,R6と、例えばMOSトランジスタを用いて構成された2つのスイッチSW5,SW6とを含む、回路構成を有している。具体的には、抵抗R5,R6の一端がそれぞれ、接続点P65にて電源に接続されており、定電流回路62の一端がグランドGNDに接続され、定電流回路62の他端が接続点P66にて、スイッチSW5,SW6の一端(ソース)にそれぞれ接続されている。また、スイッチSW5の他端(ドレイン)および抵抗R5の他端はそれぞれ、接続点P67にて、N側の線路Ltnの一端に接続され、スイッチSW6の他端(ドレイン)および抵抗R6の他端はそれぞれ、接続点P68にて、P側の線路Ltpの一端に接続されている。
【0055】
このような構成の送信端6Bにおいても、上記した送信端6Aの場合と同様に、外部から供給される入力信号Sinにおける「H」状態または「L」状態に従って、スイッチSW5,SW6がそれぞれ、オン状態またはオフ状態に設定される。これにより、送信端6Bにて差動伝送信号(CML信号)が生成され、差動伝送路Lt上に伝送されるようになっている。
【0056】
受信端7Bは、上記したCML信号を受信する受信部71と、2つの終端抵抗Rt1,Rt2(例えば、Rt1,Rt2=50Ω)とを含む、回路構成を有している。具体的には、上記した受信端7Aの場合と同様に、受信部71の正側の入力端子は、P側の線路Ltpの他端に接続され、受信部71の負側の入力端子は、N側の線路Ltnの他端に接続されている。一方、受信端7Aの場合とは異なり、P側の線路Ltp上の接続点P71と、電源VDとの間に、終端抵抗Rt1が配置されており、N側の線路Ltn上の接続点P72と、電源VDとの間に、終端抵抗Rt2が配置されている。このような構成により、受信端7Bにおける受信部71は、受信したCML信号(差動伝送信号)におけるP側の論理とN側の論理との差分を、出力信号Soutとして出力するようになっている。
【0057】
なお、CML信号の場合における差動伝送路Lt上の振幅(電圧振幅)は、上記したLVDS信号の場合と同様に、定電流回路62に流れる定常電流Isを用いて、設定されるようになっている。ただし、LVDS信号の場合の電圧振幅は、通常、350mVとなるように設定されるのに対し、CML信号の場合の電圧振幅は、通常、800mVとなるように設定される。
【0058】
このようにして、高速な伝送速度を実現するための差動伝送では、定電流回路と終端抵抗とが必要となるケースが多い。これらの定電流回路および終端抵抗はそれぞれ、上記したように、差動伝送路上の電圧振幅を決定するものである。また、終端抵抗の値は、差動伝送路の特性インピーダンスを差動100Ωに設定するため、通常は変更しない。しかしながら、この特性インピーダンスを差動100Ωに設定しなかった場合でも、短距離の差動伝送路の場合は、必ずしも特性インピーダンスを差動100Ωに設定しなくても、信号の正しい伝送は可能である。また、定電流回路における定常電流の値は、上記したように、LVDSの場合には規格上、3.5mAに設定されるが、この定常電流の値を変更した場合においても、直ちに、信号の伝送が正しくできなくなる訳ではない。
【0059】
その理由は、受信端側で要求する振幅が、関係している。つまり、まず、差動伝送デバイスにおける受信端では、通常、P側の線路とN側の線路との電位差が100mV程度もあれば、十分に信号を正しく受信可能である。したがって、LVDSやCMLの場合においても、例えば、受信端において電位差が100mV程度となるように、送信端における定電流回路の定常電流値を調節してもよい。具体的には、例えばLVDSの場合では、例えば、定常電流値を3.5mAから1mAへと下げた場合や、終端抵抗が100Ωの場合において電位差を350mVから100mVに下げた場合であっても、上記したように短距離の差動伝送路であれば、信号の劣化がほとんど起こらないため、正しい伝送は可能である。
【0060】
また、LVDSの場合の上記した状態において、例えば、終端抵抗を100Ωではなく150Ωに設定した場合、受信端での電位差は150mVとなるため、同じ定常電流の値にて、電圧振幅を増加させることができる。ただし、終端抵抗を100Ωからずらしていくと、インピーダンスのミスマッチによる反射の影響が、大きくなる。このため、終端抵抗の値を変更する場合には、差動伝送路があまりにも長いと、信号の波形品位が劣化して伝送が正常にできなくなるため、注意が必要である。
【0061】
これらのことから、例えば図8図11に示したように、本実施の形態のインクジェットヘッド1では、後述する特性設定部15において、以下のようにして、各種の特性パラメータPfの設定が行われるようになっている。すなわち、この特性設定部15では、前述した内部差動伝送路Ltiにおける消費電流が、前述した外部差動伝送路Lteにおける消費電流よりも小さくなるように、外部差動伝送路Lteおよび内部差動伝送路Ltiにおける特性パラメータPfの設定が行われる。また、特に本実施の形態では、この特性設定部15が、駆動デバイス41(駆動デバイス411~415)内に設けられた、所定の設定端子を用いて構成されている。具体的には、この設定端子に入力される電圧(図8中に示した例では、設定制御信号Scc,Stcにて設定される電圧:例えば、電源電圧またはグランド電圧)によって、上記した特性パラメータPfの設定が行われるようになっている。
【0062】
なお、詳細は後述するが、図8中に示した、伝送データDtの振幅Am、定常電流Isおよび駆動デバイス41の入力インピーダンスZinはそれぞれ、本開示における「特性パラメータ」の一具体例に対応している。
【0063】
ここで、外部差動伝送路Lteにおける伝送特性は、インクジェットヘッド1(フレキシブル基板13)内における、最初の駆動デバイス41(駆動デバイス411)のデータ入力端子Tin側にて、差動伝送信号(伝送データDt)の品位を確保する必要がある。一方、駆動デバイス41(駆動デバイス411~415)間を接続する内部差動伝送路Ltiでは、伝送線路による信号品位の劣化がほぼ生じないため、信号品位の確保よりも伝送時の消費電力を削減することが、望ましいと言える。なお、このような内部差動伝送路Ltiの線路長Lとしては、例えば、伝送周波数fから求まる信号波長λ(=1/f)の1/8未満である(L<(1/8)×λ)ことが望ましい。一例として、伝送周波数f=1GHzにおいて波長短縮率=33%である場合、信号波長λ=100mm程度となるため、この場合における内部差動伝送路Ltiの線路長Lは、12.5mm未満である(L<12.5mm)ことが望ましい。
【0064】
そこで、例えば図8に示したように、本実施の形態では、上記した特性設定部15において、差動伝送路Lt(外部差動伝送路Lteおよび内部差動伝送路Lti)における線路長Lの大きさに応じて、各種の特性パラメータPfが設定されるようになっている。
【0065】
ここで、図8中に示した「線路長L:短」とは、例えば内部差動伝送路Ltiにおける線路長Lのように、線路長Lが相対的に短い場合(例えば上記したように、L<(1/8)×λの場合)を、意味している。一方、「線路長L:長」とは、例えば外部差動伝送路Lteにおける線路長Lのように、線路長Lが相対的に長い場合(例えば、L≧(2×λ)の場合)を、意味している。また、「線路長L:中1」とは、線路長Lが、「線路長L:短」の場合と「線路長L:長」の場合との、中間の長さである場合のうち、相対的に短い場合(例えば、(1/8)×λ≦L<(1×λ)の場合)を、意味している。同様に、「線路長L:中2」とは、線路長Lが、「線路長L:短」の場合と「線路長L:長」の場合との、中間の長さである場合のうち、相対的に長い場合(例えば、(1×λ)≦L<(2×λ)の場合)を、意味している。
【0066】
なお、線路長Lにおける「短い」や「長い」という概念は、上記した信号波長λと差動伝送信号の減衰量とに対して本来考慮されるものであるため、具体的な線路長Lの長さだけでは、完全には決定できない。具体的には、例えば、受信端7における信号を測定してから決定するのが、望ましい。ただし、ある程度の目安は示すことができため、図8中に示した「線路長L:短」,「線路長L:中1」,「線路長L:中2」,「線路長L:長」については、上記したように、信号波長λを用いた相対的な長さの例にて、線路長Lの長さを示している。
【0067】
ここで、図8の例について具体的に説明すると、まず、特性設定部15では、上記した線路長Lと、特性パラメータPfとしての差動伝送信号(伝送データDt)の振幅Amとの対応関係について、例えば以下のように設定される。すなわち、特性設定部15では、線路長Lが長くなるのに応じて(図8中の破線の矢印P21参照)、この振幅Amが大きくなるように(図8中の破線の矢印P22参照)、設定される。つまり、線路長Lが相対的に短い差動伝送路Ltにおいては、この振幅Amが相対的に小さくなるように設定されると共に、線路長Lが相対的に長い差動伝送路Ltにおいては、この振幅Amが相対的に大きくなるように設定される。したがって、例えば、内部差動伝送路Ltiの線路長Lは、前述したように、外部差動伝送路Lteの線路長Lよりも短いことから、内部差動伝送路Lti上の伝送データDtの振幅Amは、外部差動伝送路Lte上の伝送データDtの振幅Amよりも小さくなるように、特性設定部15にて設定されることになる。
【0068】
また、この図8の例では、特性設定部15では、上記した線路長Lと、特性パラメータPfとしての前述した定常電流Is(差動伝送路Ltを流れる定常電流Is)との対応関係について、前述した設定制御信号Sccを用いて、例えば以下のように設定される。すなわち、特性設定部15では、線路長Lが長くなるのに応じて(図8中の破線の矢印P21参照)、この定常電流Isが大きくなるように(図8中の破線の矢印P23参照)、設定される。つまり、線路長Lが相対的に短い差動伝送路Ltにおいては、この定常電流Isが相対的に小さくなるように設定されると共に、線路長Lが相対的に長い差動伝送路Ltにおいては、この定常電流Isが相対的に大きくなるように設定される。したがって、例えば、内部差動伝送路Ltiの線路長Lは、上記したように、外部差動伝送路Lteの線路長Lよりも短いことから、内部差動伝送路Ltiに流れる定常電流Isは、外部差動伝送路Lteに流れる定常電流Isよりも小さくなるように、特性設定部15にて設定されることになる。
【0069】
具体的には、この図8の例では、線路長Lにおける前述した「線路長L:短」,「線路長L:中1」,「線路長L:中2」,「線路長L:長」の各場合において、上記した設定制御信号Sccの設定値(定常電流Isの設定値)は、以下のようになっている。
・線路長L:短 …… Scc=「00b」(Is=1mA)
・線路長L:中1 …… Scc=「01b」(Is=2mA)
・線路長L:中2 …… Scc=「10b」(Is=3mA)
・線路長L:長 …… Scc=「11b」(Is=3.5mA)
【0070】
更に、この図8の例では、特性設定部15では、上記した線路長Lと、特性パラメータPfとしての駆動デバイス41の入力インピーダンスZinとの対応関係について、前述した設定制御信号Stcを用いて、例えば以下のように設定される。すなわち、特性設定部15では、線路長Lが長くなるのに応じて(図8中の破線の矢印P21参照)、この入力インピーダンスZinが小さくなるように(図8中の破線の矢印P24参照)、設定される。つまり、線路長Lが相対的に短い差動伝送路Ltにおいては、この入力インピーダンスZinが相対的に大きくなるように設定されると共に、線路長Lが相対的に長い差動伝送路Ltにおいては、この入力インピーダンスZinが相対的に大きくなるように設定される。したがって、例えば、内部差動伝送路Ltiの線路長Lは、上記したように、外部差動伝送路Lteの線路長Lよりも短いことから、内部差動伝送路Ltiに適用される入力インピーダンスZinは、外部差動伝送路Lteに適用される入力インピーダンスZinよりも大きくなるように、特性設定部15にて設定されることになる。
【0071】
具体的には、この図8の例では、線路長Lにおける前述した「線路長L:短」,「線路長L:中1」,「線路長L:中2」,「線路長L:長」の各場合において、上記した設定制御信号Stcの設定値(入力インピーダンスZinの設定値)は、以下のようになっている。なお、Stc=「11b」(Zin=100Ω)は、例えば初期設定値として用いられるようになっている。
・線路長L:短 …… Stc=「01b」 or 「10b」(Zin=200Ω)
・線路長L:中1 …… Stc=「11b」(Zin=100Ω)
・線路長L:中2 …… Stc=「11b」(Zin=100Ω)
・線路長L:長 …… Stc=「11b」(Zin=100Ω)
【0072】
なお、本実施の形態では、詳細は後述するが、インクジェットヘッド1全体での消費電力を抑制するという観点からは、線路長Lに応じた定常電流Isの調整のほうが、線路長Lに応じた入力インピーダンスZinの調整よりも、望ましいと言える。
【0073】
このような図8に示した設定例に基づき、本実施の形態では、例えば図9図11に示したようにして、各特性設定例15(特性設定部151~154)にて、上記した各種の特性パラメータPfの設定が行われるようになっている。なお、以下の図9図11では、前述したLVDSの場合の例について、説明する。
【0074】
まず、図9に示した例では、外部差動伝送路Lteに接続された送信端6を含む特性設定部15(特性設定部151)と、この外部差動伝送路Lteに接続された受信端7および送信端6を含む特性設定部15(特性設定部152)と、における設定例について、示している。この特性設定部152では、外部差動伝送路Lteの線路間に、2つの終端抵抗Rta,Rtb(Rta,Rtb=200Ω)がそれぞれ、並列配置されている。また、これらの終端抵抗Rta,Rtbにはそれぞれ、設定制御信号Stc(Stc2)に応じてオン状態またはオフ状態が設定されるスイッチSWa,SWbが、個別に直列接続されている。なお、特性設定部151は、前述した図5の例では、インクジェットヘッド1の外部(印刷制御部2)に設けられ、特性設定部152は、インクジェットヘッド1内の駆動デバイス411に設けられることになる。
【0075】
この図9の例では、まず、外部差動伝送路Lteの送信端6側の特性設定部151において、定電流回路61における定常電流Is=3.5mA(LVDSに使用される電流値)となるように、設定される。これは、この外部差動伝送路Lteでは線路長Lが相対的に長いことから、定常電流Isを相対的に大きく設定して(図8参照)、外部差動伝送路Lteにおける差動伝送信号(伝送データDt)の品位を、確保するためである。また、この外部差動伝送路Lteの受信端7側の特性設定部152では、終端抵抗Rta,Rtbの合成抵抗値が100Ω(LVDSの場合の既定値)となるように、設定制御信号Stc(Stc2)を用いて、スイッチSWa,SWbのオン・オフ状態がそれぞれ設定される。具体的には、図9に示したように、設定制御信号Stc2=「11b」に設定されて、スイッチSWa,SWbがそれぞれオン状態に設定されることで、終端抵抗Rta,Rtbがそれぞれ外部差動伝送路Lteに接続されるため、終端抵抗Rt(上記した合成抵抗値)=100Ωに設定される。これにより、外部差動伝送路Lteの受信端7には、3.5mA×100Ω=350mVという、十分に大きな電圧振幅(伝送データDtの振幅Am)が印加されることから、線路長Lが相対的に長い外部差動伝送路Lteにおいても、信号品位の劣化が抑制されることになる。つまり、例えば、この外部差動伝送路Lteにおいて、50mV程度の振幅Amの低下が生じたとしても、十分な振幅Amが確保されていることになる。
【0076】
また、図10に示した例では、内部差動伝送路Ltiに接続された送信端6および受信端を含む特性設定部15(特性設定部153)と、この内部差動伝送路Ltiに接続された受信端7および送信端6を含む特性設定部15(特性設定部154)と、における設定例について、示している。これらの特性設定部153,154ではそれぞれ、内部差動伝送路Ltiの線路間に、2つの終端抵抗Rta,Rtb(Rta,Rtb=200Ω)がそれぞれ、並列配置されている。また、これらの終端抵抗Rta,Rtbにはそれぞれ、設定制御信号Stc(Stc3,Stc4)に応じてオン状態またはオフ状態が設定されるスイッチSWa,SWbが、個別に直列接続されている。なお、特性設定部153は、前述した図5の例では、インクジェットヘッド1内の駆動デバイス41(駆動デバイス411~414のいずれか)に設けられ、特性設定部154は、インクジェットヘッド1内の駆動デバイス41(駆動デバイス412~415のいずれか)に設けられることになる。
【0077】
この図10の例では、まず、上記した特性設定部153,154の各々において、定常電流Is=1mAとなるように、設定制御信号Scc(Scc3,Scc4)を用いて設定される。これは、この内部差動伝送路Ltiでは上記した外部差動伝送路Lteの場合と比べ、線路長Lが短いことから、定常電流Isを相対的に小さく設定し、伝送データDtの振幅Amを小さくしても(図8参照)、内部差動伝送路Ltiにおける信号品位の劣化が、ほぼ生じないためである。また、受信端7側の特性設定部154では、図9の場合と同様に、設定制御信号Stc(Stc4)を用いて、終端抵抗Rt(終端抵抗Rta,Rtbの合成抵抗値)=100Ωに設定される。これにより、内部差動伝送路Ltiの受信端7には、1mA×100Ω=100mVという、図9の場合と比べて小さな電圧振幅(伝送データDtの振幅Am)が、印加されることになる。なお、送信端6側の特性設定部153では、設定制御信号Stc(Stc3)を用いて、スイッチSWa,SWbがそれぞれオフ状態に設定されることで、(終端抵抗Rt:無し)となるように設定されている。
【0078】
また、図11に示した例は、図10に示した例において、受信端7側の特性設定部154に適用される設定制御信号Stc4の値を、「11b」から「01b」(または「10b」)へと変更した設定例となっている。これにより図11の例では、スイッチSWaがオン状態に設定される一方、スイッチSWbがオフ状態に設定され、終端抵抗Rtaのみが内部差動伝送路Ltiに接続されることから、終端抵抗Rt(終端抵抗Rta,Rtbの合成抵抗値)=200Ωに設定されることになる。したがってこの図11の例では、内部差動伝送路Ltiの受信端7には、1mA×200Ω=200mVという、図10の場合と比べて大きな電圧振幅(伝送データDtの振幅Am)が、印加されることになる。これは、図10の例のように、電圧振幅(Am)=100mVとした場合、受信端7へ入力される電圧振幅と、受信端7にて要求する電圧振幅とが、近いためである。ただし、この図11に示した例の場合、終端抵抗Rtの値が、理想的な値(100Ω)に対してずらして設定されているため、内部差動伝送路Ltiは上記したように、短距離であることが望ましい。
【0079】
[動作および作用・効果]
(A.プリンタ5の基本動作)
このプリンタ5では、以下のようなインクジェットヘッド1によるインク9の噴射動作を用いて、被記録媒体(記録紙P等)に対する画像や文字等の記録動作(印刷動作)が行われる。具体的には、本実施の形態のインクジェットヘッド1では、以下のようにして、せん断(シェア)モードを用いたインク9の噴射動作が行われる。
【0080】
まず、各フレキシブル基板13a,13b,13c,13d上の駆動デバイス41はそれぞれ、噴射部11におけるアクチュエータプレート111内の前述した駆動電極(コモン電極およびアクティブ電極)に対し、駆動電圧Vd(駆動信号Sd)を印加する。具体的には、各駆動デバイス41は、前述した吐出チャネルを画成する一対の駆動壁に配置された各駆動電極に対し、駆動電圧Vdを印加する。これにより、これら一対の駆動壁がそれぞれ、その吐出チャネルに隣接するダミーチャネル側へ、突出するように変形する。
【0081】
このとき、駆動壁における深さ方向の中間位置を中心として、駆動壁がV字状に屈曲変形することになる。そして、このような駆動壁の屈曲変形により、吐出チャネルがあたかも膨らむように変形する。このように、一対の駆動壁での圧電厚み滑り効果による屈曲変形によって、吐出チャネルの容積が増大する。そして、吐出チャネルの容積が増大することにより、インク9が吐出チャネル内へ誘導されることになる。
【0082】
次いで、このようにして吐出チャネル内へ誘導されたインク9は、圧力波となって吐出チャネルの内部に伝播する。そして、ノズルプレート112のノズル孔Hnにこの圧力波が到達したタイミング(またはその近傍のタイミング)で、駆動電極に印加される駆動電圧Vdが、0(ゼロ)Vとなる。これにより、上記した屈曲変形の状態から駆動壁が復元する結果、一旦増大した吐出チャネルの容積が、再び元に戻ることになる。
【0083】
このようにして、吐出チャネルの容積が元に戻る過程で、吐出チャネル内部の圧力が増加し、吐出チャネル内のインク9が加圧される。その結果、液滴状のインク9が、ノズル孔Hnを通って外部へと(記録紙Pへ向けて)吐出される(図1参照)。このようにしてインクジェットヘッド1におけるインク9の噴射動作(吐出動作)がなされ、その結果、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作が行われる。
【0084】
(B.インクジェットヘッド1における作用・効果)
続いて、本実施の形態のインクジェットヘッド1における作用および効果について、詳細に説明する。
【0085】
(B-1.従来のインクジェットヘッド)
まず、従来の一般的なインクジェットヘッドの内部では、例えばLVDSのような高速差動伝送が多く使われるようになり、狭いインクジェットヘッド内にて、どのようにして効率的に高速差動線路を引き回すかという課題がある。その課題の解決手段の1つとして、インクジェットヘッドを駆動させる駆動デバイスのカスケード接続がある。
【0086】
近年では、インクジェットヘッドの外部からの伝送信号が入力されると共に、後段に信号を出力することが可能な、デバイスが存在する。このような信号の入出力が可能なデバイスは、インクジェットヘッド用途のように小型化が求められる回路では、基板上の部品や配線密度を上げるのに適しており、非常に貴重なものである。従来のインクジェットヘッドでは、このようなデバイスとして駆動デバイスを使用し、駆動デバイス間のカスケード接続を簡略化して、回路集積度の向上を行ってきた。ところが、近年のインクジェットヘッドでは、印刷における生産効率向上を図るため、印刷データの伝送の高速化が求められており、それに伴い、上記したような高速差動伝送の使用が進んでいる。
【0087】
この高速作動伝送には、前述したLVDSやCML、ECL等の、様々な規格による伝送方法が知られているが、これらの高速差動伝送では、従来のCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)伝送などと比べると、伝送の際に多くの消費電流を伴う。これは、従来のCMOS伝送では、信号が入力されるデバイスの入力部(受信部)が、基本的に高い入力インピーダンスで保たれていることに対して、高速差動伝送では以下のようになっているためである。すなわち、高速差動伝送では、グランドに対して50Ω程度の入力インピーダンスで接続されていることが多いことから、線路に電圧振幅を発生させるために、CMOS伝送よりも多くの電流を必要とするからである。
【0088】
そのため、インクジェットヘッドの駆動に高速差動伝送を用いた場合、従来のCMOS伝送を使用したインクジェットヘッドの場合と比べ、いわゆるデジタル部での消費電流が、大幅に増加することになる。一例として、LVDSを使用した場合では、1つの信号ラインに、約3.5mAの消費電流が発生することになる。1つの信号ラインだけであれば、この消費電流は僅かなものであるが、実際には1つの信号ラインにて信号伝送を行うケースは少ない。つまり、少なくともクロック用の信号ラインとデータライン用の信号ラインとが用いられることや、多数のノズル孔を駆動するために大量のデータを高速に伝送するのであれば、このような信号ラインの数は、膨大となる。
【0089】
また、インクジェットヘッド内に例えば4列の駆動ノズル列が設けられており、各列に3つのLVDSを用いた入力もしくは出力が存在する場合、以下のようになる。すなわち、入力と出力との合計は3グループとなり、それが4列必要であるため、インクジェットヘッド全体の駆動には、計12グループのLVDSによる信号ラインが必要となる。そして、上記したように、クロック用の信号ラインとデータライン用の信号ラインとが、各グループに存在するのであれば、信号ラインは24系統になる。したがって、LVDS伝送による消費電流は、トータルで、3.5mA×24=84mAとなる。この消費電力の値は、LVDSによる信号ラインの数が増えるのに応じて増加するため、高精細なインクジェットヘッドの場合、この消費電流の値は、更に増加することになる。また、このようにして計算した消費電流の値は、比較的、低消費電流なタイプのLVDSの場合の例であることから、より大きな消費電流を伴うCMLの場合、更に消費電流が増大することになる。
【0090】
ここで、伝送線路に必要な消費電流を抑えるためには、例えば、より高速な差動伝送を使用して伝送路の数自体を減らすことや、伝送路を複数のデバイスにて共用するなどの、手法が挙げられる。しかしながら、前者の手法では、インクジェットヘッドの安定動作を損なうおそれがあり、後者の手法では、インクジェットヘッドの小型化を図る際に問題となる、基板上での配線配置の複雑化を引き起こすおそれがある。そのため、伝送線路の数を減らすことも重要であるものの、他の手法を用いて、インクジェットヘッド内部での伝送線路による消費電流を削減することが、必要である。
【0091】
以上のことから、従来のインクジェットヘッドでは、差動伝送を行う場合に消費電力が増大してしまうおそれがあり、改善の余地があると言える。
【0092】
(B-2.作用・効果)
これに対して、本実施の形態のインクジェットヘッド1では、以下のような構成となっていることで、例えば、以下のような作用および効果が得られる。
【0093】
すなわち、まず、このインクジェットヘッド1では、内部差動伝送路Ltiでの消費電流が外部差動伝送路Lteでの消費電流よりも小さくなるように、特性設定部15において、外部差動伝送路Lteおよび内部差動伝送路Ltiにおける特性パラメータPfの設定が行われる。このようにして、内部差動伝送路Ltiでの消費電力が抑制されるように、上記した特性パラメータPfを調整できるため、差動伝送を行う場合において、インクジェットヘッド1全体での消費電力を抑制することが可能となる。
【0094】
また、本実施の形態では、外部差動伝送路Lteおよび内部差動伝送路Ltiにおける差動伝送路Ltの線路長Lの大きさに応じて、特性設定部15において特性パラメータPfが設定される(図8参照)。これにより、線路長Lという簡易なパラメータを用いて、特性パラメータPfを設定できるため、利便性を向上させることが可能となる。
【0095】
更に、本実施の形態では、線路長Lが相対的に短い差動伝送路Ltにおいては、差動伝送信号(伝送データDt)の振幅Amが相対的に小さくなるように設定されるため、以下のようになる。すなわち、そのような相対的に短い差動伝送路Ltにおいて、伝送動作の安定性を確保したまま(差動伝送信号の劣化がほぼない状態で)、差動伝送の際の消費電力が抑えられる。一方、線路長Lが相対的に長い差動伝送路においては、差動伝送信号の振幅Amが相対的に大きくなるように設定されるため、そのような相対的に長い差動伝送路Ltにおいても、伝送動作の安定性が確保される。これらのことから、信頼性を確保しつつ、消費電力を抑制することが可能となる。また、消費電力が抑制されると、インクジェットヘッド1の発熱も抑制されるため、例えば、インクジェットヘッド1内部の冷却部材(前述した冷却ユニット141,142等)を削減することができ、インクジェットヘッド1の小型化や軽量化にもつながる。更に、追加の回路等をほぼ必要とせずに、インクジェットヘッド1での消費電力を削減できることから、消費電力を簡便に抑制することも可能となる。
【0096】
加えて、本実施の形態では、線路長Lが相対的に短い差動伝送路Ltにおいては、前述した定常電流Isが相対的に小さくなるように設定されるため、以下のようになる。すなわち、そのような相対的に短い差動伝送路Ltにおいて、差動伝送の際の消費電力が抑えられつつ、伝送動作の安定性を確保するための差動伝送信号の振幅Amの調整が、簡易に実現できるようになる。一方、線路長Lが相対的に長い差動伝送路Ltにおいては、定常電流Isが相対的に大きくなるように設定されるため、そのような相対的に長い差動伝送路Ltにおいても、差動伝送信号の振幅Amの調整により、伝送動作の安定性が確保される。これらのことから、インクジェットヘッド1全体での消費電力を簡易に抑制しつつ、信頼性を向上させることも可能となる。
【0097】
また、本実施の形態では、線路長Lが相対的に短い差動伝送路Ltにおいては、前述した入力インピーダンスZinが相対的に大きくなるように設定されるため、以下のようになる。すなわち、そのような相対的に短い差動伝送路Ltにおいて、差動伝送の際の消費電力が抑えられつつ、伝送動作の安定性を確保するための差動伝送信号の振幅Amの増加が、簡易に実現できるようになる。一方、線路長Lが相対的に長い差動伝送路においては、入力インピーダンスZinが相対的に小さくなるように設定されるため、以下のようになる。すなわち、そのような相対的に長い差動伝送路Ltにおいても、差動伝送路Ltのインピーダンスマッチングを理想的にして(例えば、入力インピーダンスZinを、差動伝送路Ltの特性インピーダンス(例えば100Ω)に一致させて)、差動伝送信号の伝送性能を確保することにより、伝送動作の安定性が確保される。これらのことから、インクジェットヘッド1全体での消費電力を簡易に抑制しつつ、信頼性を向上させることも可能となる。また、この場合において、例えば、上記した定常電流Isを低下させた場合には、上記した手法によって差動伝送信号の振幅Amを増加させることにより、伝送動作の信頼性を確保するという観点からは、特に好ましいと言える。
【0098】
更に、本実施の形態では、駆動デバイス41内の設定端子を用いて、特性設定部15が構成されていることから、以下のようになる。すなわち、例えば後述する変形例2,3の場合のように、駆動デバイス41の外部回路(印刷制御部2や、後述する特性変更部16,16Cおよびパラメータ格納部17等)を用いて、特性パラメータPfの設定や変更等を行う必要が無くなるため、特性パラメータPfを容易に設定できるようになる。その結果、本実施の形態では、利便性を向上させることが可能となる。
【0099】
加えて、本実施の形態では、本開示における「複数の差動伝送デバイス」の一具体例として、駆動信号Sdを生成する複数の駆動デバイス41を用いていることから、このような駆動デバイス41への差動伝送信号の伝送の際に、消費電力が抑制されることになる。これにより、多数の差動伝送を用いる駆動デバイス41が実装されているインクジェットヘッド1において、差動伝送の際の消費電力の抑制効果が、より大きなものとなる結果、インクジェットヘッド1全体での消費電力を、更に抑制することが可能となる。
【0100】
また、本実施の形態では、複数の駆動デバイス41が、フレキシブル基板13の基板面上において、駆動デバイス41の長手方向(X軸方向)に沿って並んで配置されていることから、以下のようになる。すなわち、基板面上の配線パターン(例えば、定電位配線(電源配線やグランド配線)等の配線パターン)の経路が、短くなったり、簡易なものとなったりする。その結果、インクジェットヘッド1の内部の駆動基板(フレキシブル基板13)の小型化を図ることができ、インクジェットヘッド1全体の小型化を図ることも可能となる。
【0101】
更に、本実施の形態では、複数の駆動デバイス41同士が、内部差動伝送路Ltiを介して互いにカスケード接続されていることから、以下のようになる。すなわち、駆動デバイス41間での内部差動伝送路Ltiの長さ(線路長L)を、短くすることができるため、フレキシブル基板13上での配線配置が容易となり、伝送動作の安定性を確保しつつ、伝送動作の際の消費電流を削減することができる。その結果、インクジェットヘッド1全体での消費電力を抑制しつつ、信頼性を向上させることも可能となる。
【0102】
加えて、本実施の形態では、外部差動伝送路Lteおよび内部差動伝送路Ltiをそれぞれ、LVDSを用いて構成するようにした場合には、以下のようになる。すなわち、これらの差動伝送路Lt上において、前述したCMLの場合(図7)のようなACカップリング容量Ccが不要となるため、インクジェットヘッド1の内外での信号接続が容易となる結果、利便性を向上させることが可能となる。
【0103】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例(変形例1~3)について説明する。なお、以下では、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0104】
[変形例1]
(構成)
図12は、変形例1に係るインクジェットヘッド1Aにおけるフレキシブル基板(後述する2つのフレキシブル基板13A1,13A2)内での各部材の配置構成例を、模式的に表したものである。また、図13は、変形例1に係る特性設定部15(後述する特性設定部155,156)における特性パラメータPfの設定例を、模式的に回路図で表したものである。
【0105】
なお、この変形例1のインクジェットヘッド1Aは、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。
【0106】
図12に示したように、変形例1のインクジェットヘッド1Aは、実施の形態のインクジェットヘッド1(図5参照)において、以下のようにしたものとなっている。すなわち、このインクジェットヘッド1Aはインクジェットヘッド1において、1つのフレキシブル基板13(13a,13c)の代わりに2つのフレキシブル基板13A1,13A2を設けると共に、これらのフレキシブル基板13A1,13A2同士の間に接続端子部130を更に設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的に同様となっている。
【0107】
フレキシブル基板13A1には、2つの駆動デバイス411,412が設けられていると共に、フレキシブル基板13A2には、2つの駆動デバイス413,414が設けられている。また、インクジェットヘッド1Aの外部(印刷制御部2)と駆動デバイス411との間には、接続端子部130を経由する、外部差動伝送路Lte(差動伝送路Lt0,Lt1)が接続されている。一方、駆動デバイス411~414の間には、接続端子部130を経由する、内部差動伝送路Lti(差動伝送路Lt31~Lt33)が接続されている。具体的には、駆動デバイス411,412間には差動伝送路Lt31が接続され、駆動デバイス412,413間には、接続端子部130を経由する差動伝送路Lt32が接続され、駆動デバイス413,414の間には差動伝送路Lt33が接続されている。
【0108】
なお、この図12の例では、フレキシブル基板13A1とフレキシブル基板13A2との間が、差動伝送路Lt32によって直接接続されているが、例えば以下のような構成としてもよい。すなわち、例えば、駆動デバイス412のデータ出力端子Toutから、I/F基板12とフレキシブル基板13A1との間の接続端子部130へ向けて、差動伝送路Ltを一旦接続させた後、I/F基板12とフレキシブル基板13A2との間に設けた接続端子部130を経由して、駆動デバイス413のデータ入力端子Tinへ向けて、差動伝送路Ltを接続させるようにしてもよい。
【0109】
このような構成の変形例1では、内部差動伝送路Ltiのうちの差動伝送路Lt32においては、フレキシブル基板13A1,13A2間を跨いで配置されていることから、その線路長Lが以下のようになっている。すなわち、差動伝送路Lt32の線路長Lは、内部差動伝送路Ltiのうちの他の差動伝送路Lt31,Lt33における各線路長Lと比べ、長くなっている一方、外部差動伝送路Lteの線路長Lと比べては短くなっている。
つまり、この場合における差動伝送路Lt32の線路長Lは、中程度の長さに設定されていることになる。
【0110】
したがって、このようなフレキシブル基板13A1,13A2間の内部差動伝送路Lti(駆動デバイス412,413間の差動伝送路Lt32)の特性パラメータPfについて、特性設定部15(特性設定部155,156)では、例えば、以下の図13に示したようにして、設定される。
【0111】
この図13に示した例は、前述した図10の例において、内部差動伝送路Lti(差動伝送路Lt32)の送信端6側の特性設定部155に適用される設定制御信号Scc(設定制御信号Scc5)の値を、「00b」から「01b」へと変更した設定例となっている。これにより図13の例では、定常電流Isの値が、1mAから2mAへと変更されることになる。なお、この図13の例では、内部差動伝送路Lti(差動伝送路Lt32)の受信端7側の特性設定部156での設定例(設定制御信号Scc6,Stc6の設定値)は、前述した図10における特性設定部154での設定例(設定制御信号Scc4,Stc4の設定値)と、同一となっている。したがってこの図13の例では、内部差動伝送路Lti(差動伝送路Lt32)の受信端7には、2mA×100Ω=200mVという、図10の場合と比べて大きな電圧振幅(伝送データDtの振幅Am)が、印加されることになる。これは、この差動伝送路Lt32の線路長Lは、上記したように、他の差動伝送路Lt31,Lt33における各線路長Lと比べ、長くなっている(中程度の長さに設定されている)ためである。このような設定により、比較的長距離な内部差動伝送路Ltiにおいても、終端抵抗Rtを理想的な値に設定しつつ、送信端6での消費電流を低減することが可能となる。
【0112】
(作用・効果)
このような構成の変形例1においても、基本的には実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。
【0113】
[変形例2]
(構成)
図14は、変形例2に係るインクジェットヘッド1Bにおけるフレキシブル基板13B内での各部材の配置構成例を、模式的に表したものである。
【0114】
なお、この変形例2のインクジェットヘッド1Bは、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。
【0115】
図14に示したように、変形例2のインクジェットヘッド1Bは、実施の形態のインクジェットヘッド1(図5参照)において、フレキシブル基板13(13a,13c)の代わりにフレキシブル基板13Bを設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的に同様となっている。また、このフレキシブル基板13Bは、フレキシブル基板13において、以下説明する特性変更部16を更に設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的に同様となっている。
【0116】
特性変更部16は、インクジェットヘッド1Bの外部(印刷制御部2)から供給される所定の制御信号Sf0に基づいて、特性パラメータPfを変更するための特性変更信号Sfcを、特性設定部15に対して出力するものである。具体的には、図14の例では、特性変更部16は、前述した設定制御信号Scc,Stcを含む特性変更信号Sfcを、各駆動デバイス411~415内の特性設定部15に対して、出力するようになっている。なお、このような制御信号Sf0や特性変更信号Sfcは、例えば、I2C(Inter-Integrated Circuit)のような低速の信号を用いて構成されるようになっている。
【0117】
(作用・効果)
このような構成の変形例2においても、基本的には実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。
【0118】
また、特にこの変形例2では、特性パラメータPfを変更するための特性変更信号Sfcを特性設定部15に対して出力する、特性変更部16が設けられていることから、以下のようになる。すなわち、各種の状況変化等に応じて(例えば、インクジェットヘッド1Bと外部機器との間を接続するケーブルの特性が変化したり、インクジェットヘッド1Bの動作時のノイズ環境が変化したりしたような場合など)、特性パラメータPfを任意のタイミングで変更できるようになる。その結果、この変形例2では、伝送動作の安定性を向上させて信頼性を更に向上させつつ、利便性を向上させることも可能となる。
【0119】
[変形例3]
(構成)
図15は、変形例3に係るインクジェットヘッド1Cにおけるフレキシブル基板13C内での各部材の配置構成例を、模式的に表したものである。
【0120】
なお、この変形例3のインクジェットヘッド1Cは、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。
【0121】
図15に示したように、変形例3のインクジェットヘッド1Cは、変形例1のインクジェットヘッド1B(図14参照)において、以下のようにしたものとなっている。すなわち、このインクジェットヘッド1Cはインクジェットヘッド1Bにおいて、フレキシブル基板13Bの代わりにフレキシブル基板13Cを設けると共に、I/F基板12の代わりにI/F基板12Cを設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的に同様となっている。
【0122】
フレキシブル基板13Cは、フレキシブル基板13Bにおいて、特性変更部16の代わりに特性変更部16Cを設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的に同様となっている。また、I/F基板12Cは、フレキシブル基板13において、パラメータ格納部17を更に設けるようにしたものに対応しており、他の構成は基本的には同様となっている。
【0123】
パラメータ格納部17は、前述した各種の特性パラメータPfを、内部の記憶部(メモリ)へと予め格納するものである。また、特性変更部16Cは、図15に示したように、このパラメータ格納部17に格納されている特性パラメータPfを用いて、前述した特性変更信号Sfcを生成するようになっている。なお、この図15の例では、特性変更部16Cは、例えば、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いて構成されるようになっている。
【0124】
(作用・効果)
このような構成の変形例3においても、基本的には実施の形態と同様の作用により、同様の効果を得ることが可能である。
【0125】
また、特にこの変形例3では、パラメータ格納部17に格納されている特性パラメータPfを用いて、特性変更部16Cにおいて特性変更信号Sfcが生成されることから、以下のようになる。すなわち、例えば所定の場合(インクジェットヘッド1Cの起動時など)に、パラメータ格納部17に格納されている特性パラメータPfを用いて特性変更信号Sfcを自動生成できることから、インクジェットヘッド1Cの外部(ユーザ側)において、特性パラメータPfの設定をその都度行う必要が無くなる。その結果、この変形例3では、利便性を更に向上させることが可能となる。
【0126】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例をいくつか挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0127】
例えば、上記実施の形態等では、プリンタおよびインクジェットヘッドにおける各部材の構成例(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。
【0128】
具体的には、例えば、上記実施の形態等では、フレキシブル基板(駆動基板)、駆動デバイスおよび差動伝送路等の構成例(形状、配置、個数等)について、具体的に挙げて説明したが、これらの構成例は、上記実施の形態等で説明したものには限られない。例えば、上記実施の形態等では、駆動基板がフレキシブル基板である場合を例に挙げて説明したが、例えば、駆動基板が非フレキシブル基板であってもよい。また、上記実施の形態等では、複数の駆動基板がインクジェットヘッド内に設けられている場合の例について説明したが、この例には限られず、例えば、インクジェットヘッド内に1つの駆動基板のみが設けられているようにしてもよい。更に、上記実施の形態等では、本開示における「差動伝送デバイス」の一例として、駆動デバイスを挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、バッファ回路やクロスポイントスイッチ等を含む他のデバイスを、本開示における「差動伝送デバイス」として適用するようにしてもよい。また、上記実施の形態等では、特性設定部の構成例について具体的に挙げて説明したが、例えば、送信端にプリエンファシス機能を設けたり、受信端にイコライザ機能を設けたりすることによって、特性設定部の機能を実現するようにしてもよい。
【0129】
また、上記実施の形態等では、特性設定部における各種の特性パラメータの設定例について、具体的に説明したが、上記実施の形態等で説明した例には限られず、他の設定例としてもよい。更に、上記実施の形態等では、本開示における「特性パラメータ」について具体例を挙げて説明したが、上記実施の形態等で挙げた各種のパラメータには限られず、他のパラメータを、本開示における「特性パラメータ」として用いるようにしてもよい。加えて、上記実施の形態等で説明した各種のパラメータの数値例については、実施の形態等で説明した数値例には限られず、他の数値であってもよい。
【0130】
更に、インクジェットヘッドの構造としては、各タイプのものを適用することが可能である。すなわち、例えば、アクチュエータプレート111における各吐出チャネルの延在方向の中央部からインク9を吐出する、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドであってもよい。あるいは、例えば、各吐出チャネルの延在方向に沿ってインク9を吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのインクジェットヘッドであってもよい。更には、プリンタの方式としても、上記実施の形態等で説明した方式には限られず、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)方式など、各種の方式を適用することが可能である。
【0131】
加えて、例えば、インクタンクとインクジェットヘッドとの間でインク9を循環させて利用する、循環式のインクジェットヘッド、あるいは、インク9を循環させずに利用する、非循環式のインクジェットヘッドのいずれであっても、本開示を適用することが可能である。
【0132】
また、上記実施の形態等で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【0133】
更に、上記実施の形態等では、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ5(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、この例には限られず、インクジェットプリンタ以外の他の装置にも、本開示を適用することが可能である。換言すると、本開示の「液体噴射ヘッド」(インクジェットヘッド)を、インクジェットプリンタ以外の他の装置に適用するようにしてもよい。具体的には、例えば、ファクシミリやオンデマンド印刷機などの装置に、本開示の「液体噴射ヘッド」を適用するようにしてもよい。
【0134】
加えて、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0135】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0136】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
液体を噴射する液体噴射ヘッドであって、
前記液体を噴射する噴射部と、
複数の差動伝送デバイスと、
前記液体噴射ヘッドの外部から前記差動伝送デバイスへ向けて差動伝送信号を伝送するための外部差動伝送路と、
前記複数の差動伝送デバイスの間で前記差動伝送信号を伝送するための内部差動伝送路と、
前記内部差動伝送路における消費電流が、前記外部差動伝送路における消費電流よりも小さくなるように、前記外部差動伝送路および前記内部差動伝送路における特性パラメータの設定が行われる特性設定部と
を備えた液体噴射ヘッド。
(2)
前記特性設定部では、前記外部差動伝送路および前記内部差動伝送路における差動伝送路の線路長の大きさに応じて、前記特性パラメータが設定される
上記(1)に記載の液体噴射ヘッド。
(3)
前記特性設定部では、
前記線路長が相対的に短い前記差動伝送路においては、前記特性パラメータとしての前記差動伝送信号の振幅が、相対的に小さくなるように設定されると共に、
前記線路長が相対的に長い前記差動伝送路においては、前記差動伝送信号の振幅が、相対的に大きくなるように設定される
上記(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(4)
前記特性設定部では、
前記線路長が相対的に短い前記差動伝送路においては、前記特性パラメータとしての、前記外部差動伝送路または前記内部差動伝送路に流れる定常電流が、相対的に小さくなるように設定されると共に、
前記線路長が相対的に長い前記差動伝送路においては、前記定常電流が、相対的に大きくなるように設定される
上記(2)または(3)に記載の液体噴射ヘッド。
(5)
前記特性設定部では、
前記線路長が相対的に短い前記差動伝送路においては、前記特性パラメータとしての、前記差動伝送デバイスにおける入力インピーダンスが、相対的に大きくなるように設定されると共に、
前記線路長が相対的に長い前記差動伝送路においては、前記差動伝送デバイスにおける入力インピーダンスが、相対的に小さくなるように設定される
上記(2)ないし(4)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(6)
前記特性パラメータを変更するための特性変更信号を前記特性設定部に対して出力する、特性変更部を更に備えた
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(7)
前記特性パラメータを格納するパラメータ格納部を、更に備え、
前記特性変更部は、前記パラメータ格納部に格納されている前記特性パラメータを用いて、前記特性変更信号を生成する
上記(6)に記載の液体噴射ヘッド。
(8)
前記特性設定部が、前記差動伝送デバイス内に設けられた、設定端子を用いて構成されている
上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(9)
前記複数の差動伝送デバイスが、前記噴射部から前記液体を噴射させるための駆動信号を生成する、複数の駆動デバイスである
上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(10)
前記複数の駆動デバイスが、基板面上において、前記駆動デバイスの長手方向に沿って並んで配置されている
上記(9)に記載の液体噴射ヘッド。
(11)
前記複数の駆動デバイス同士が、前記内部差動伝送路を介して、互いにカスケード接続されている
上記(9)または(10)に記載の液体噴射ヘッド。
(12)
前記外部差動伝送路および前記内部差動伝送路がそれぞれ、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)を用いて構成されている
上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(13)
上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備えた
液体噴射記録装置。
【符号の説明】
【0137】
1,1A~1C…インクジェットヘッド、10…コネクタ、11…噴射部、111…アクチュエータプレート、112…ノズルプレート、12…I/F基板、120a,120b,120c,120d…コネクタ、121…回路配置領域、13,13a,13b,13c,13d,13A1,13A2,13B,13C…フレキシブル基板、130…接続端子部、141,142…冷却ユニット、15,151~156…特性設定部、16,16C…特性変更部、17…パラメータ格納部、2…印刷制御部、3…インクタンク、30…インク供給管、41,411~415…駆動デバイス、433…圧着電極、5…プリンタ、6,6A,6B…送信端、61,62…定電流回路、7,7A,7B…受信端、71…受信部、9…インク、P…記録紙、Hn…ノズル孔、Dt…伝送データ、Sc…印刷制御信号、Sd…駆動信号、Sin…入力信号、Sout…出力信号、Scc,Scc3~Scc6,Stc,Stc2~Stc6…設定制御信号、Sf0…制御信号、Sfc…特性変更信号、Vd…駆動電圧、S1…表面、S2…裏面、Tin1…第1入力端子、Tin2…第2入力端子、Tin…データ入力端子、Tout…データ出力端子、Lt0,Lt1,Lt2,Lt31~Lt34…差動伝送路(差動線路)、Lte…外部差動伝送路、Lti…内部差動伝送路、Ltp,Ltn…線路、Ac…接続端子領域、SW1~SW6,SWa,SWb…スイッチ、R5,R6…抵抗、Rt,Rt0,Rt1,Rt2,Rta,Rtb…終端抵抗、Cc…ACカップリング容量、VD…電源、GND…グランド、P61~P68,P71,P72…接続点、L…線路長、Is…定常電流、Zin…入力インピーダンス、Am…振幅、Pf…特性パラメータ。
図1
図2
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図4A
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